特許第6075891号(P6075891)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075891
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】皮膚及び毛髪色制御因子
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20170130BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C12Q1/02
   C12Q1/68 A
【請求項の数】6
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-512718(P2014-512718)
(86)(22)【出願日】2013年4月26日
(86)【国際出願番号】JP2013062439
(87)【国際公開番号】WO2013162012
(87)【国際公開日】20131031
【審査請求日】2016年3月15日
(31)【優先権主張番号】61/639,489
(32)【優先日】2012年4月27日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/858,374
(32)【優先日】2013年4月8日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 大樹
(72)【発明者】
【氏名】八谷 輝
【審査官】 千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5937515(JP,B2)
【文献】 国際公開第2012/060323(WO,A1)
【文献】 松永耕一 他,疾患に対抗するオートファジー オートファジーの駆動・制御機構の進化と疾患とのかかわり,実験医学,2009年,Vol.27 No.18,pages 2930-2936,全文
【文献】 板倉英祐 他,疾患に対抗するオートファジー 哺乳類オートファジーの制御と生理機能,実験医学,2009年,Vol.27 No.18,pages 2937-2942,全文
【文献】 SCHIAFFINO, M.V.,Signaling pathways in melanosome biogenesis and pathology.,Int. J. Biochem. Cell. Biol.,2010年,Vol.42 No.7,pages 1094-1104,Abstract
【文献】 セティ株式会社,オートファジーによる細胞のデトックス「セルデトックス」(CELLDETOX),Fregr. J.,2010年,Vol. 38 No.8,pages 121-122,全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/02
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケラチノサイトにおけるメラニン量調節剤の評価又は選択方法であって、
下記工程:
ケラチノサイトに被験物質を投与する工程;
該ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性の変化を測定する工程;及び
該測定の結果に基づいて、該被験物質のメラニン量調節作用を評価する工程、
を含み、
該ケラチノサイトが、培養ケラチノサイト、又は表皮若しくは毛包組織の培養物に含まれるケラチノサイトであり、
以下の場合に、該被験物質がケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させる作用があると評価され、
(i) オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が抑制された場合;又は
(ii) オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が増強された場合、
以下の場合に、該被験物質がケラチノサイトにおけるメラニン量を低下させる作用があると評価され、
(i') オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が増強された場合;又は
(ii') オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が抑制された場合、
該オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子、及び該オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子が、以下:
オートファジー経路における、ファゴフォアの発生、ファゴフォアの伸長又は成長、オートファゴソームの形成、オートファゴソームとリソソームとの融合、オートリソソームの形成、及びオートリソソーム内部における物質の分解のいずれかのステップに関与する遺伝子又はそれにコードされる分子であり;かつ
ATG7、RAB11A、CLIP−170、Rubicon及びRAB7Bからなる群から選択される遺伝子ならびにそれらにコードされる分子を含まない、
方法。
【請求項2】
メラニンに起因する皮膚色の制御剤の評価又は選択方法であって、
下記工程:
ケラチノサイトに被験物質を投与する工程;
該ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性を測定する工程;及び
該測定の結果に基づいて、該被験物質の皮膚色制御作用を評価する工程、
を含み、
該ケラチノサイトが、培養ケラチノサイト、又は表皮若しくは毛包組織の培養物に含まれるケラチノサイトであり、
以下の場合に、該被験物質が皮膚色を暗色化する作用があると評価され、
(i) オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が抑制された場合;又は
(ii) オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が増強された場合、
以下の場合に、該被験物質が皮膚色を明色化する作用があると評価され、
(i') オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が増強された場合;又は
(ii') オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が抑制された場合、
該オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子、及び該オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子が、以下:
オートファジー経路における、ファゴフォアの発生、ファゴフォアの伸長又は成長、オートファゴソームの形成、オートファゴソームとリソソームとの融合、オートリソソームの形成、及びオートリソソーム内部における物質の分解のいずれかのステップに関与する遺伝子又はそれにコードされる分子であり;かつ
ATG7、RAB11A、CLIP−170、Rubicon及びRAB7Bからなる群から選択される遺伝子ならびにそれらにコードされる分子を含まない、
方法。
【請求項3】
前記投与工程が、ケラチノサイトに被験物質及びメラノソームを投与する工程である、
請求項2記載の方法。
【請求項4】
毛髪色制御剤の評価又は選択方法であって、
下記工程:
ケラチノサイトに被験物質を投与する工程;
該ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性を測定する工程;及び
該測定の結果に基づいて、該被験物質の毛髪色制御作用を評価する工程、
を含み、
該ケラチノサイトが、培養ケラチノサイト、又は表皮若しくは毛包組織の培養物に含まれるケラチノサイトであり、
以下の場合に、該被験物質が毛髪色を暗色化する作用があると評価され、
(i) オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が抑制された場合;又は
(ii) オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が増強された場合、
以下の場合に、該被験物質が毛髪色を明色化する作用があると評価され、
(i') オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が増強された場合;又は
(ii') オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が抑制された場合、
該オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子、及び該オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子が、以下:
オートファジー経路における、ファゴフォアの発生、ファゴフォアの伸長又は成長、オートファゴソームの形成、オートファゴソームとリソソームとの融合、オートリソソームの形成、及びオートリソソーム内部における物質の分解のいずれかのステップに関与する遺伝子又はそれにコードされる分子であり;かつ
ATG7、RAB11A、CLIP−170、Rubicon及びRAB7Bからなる群から選択される遺伝子ならびにそれらにコードされる分子を含まない、
方法。
【請求項5】
ケラチノサイトにおけるメラニン量の調節方法であって、
メラニン量調節が所望されるケラチノサイトにおけるオートファジーの活性を調節する工程、及びオートファジーの活性を調節したケラチノサイトにおけるメラニン量を評価する工程を含み、
該ケラチノサイトが、培養ケラチノサイト、又は表皮若しくは毛包組織の培養物に含まれるケラチノサイトであり、
該オートファジーの活性を調節する工程が、以下の工程によりケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させる工程であるか、
(i) オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を抑制する工程;又は
(ii) オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を増強する工程、
あるいは
該オートファジーの活性を調節する工程が、以下の工程によりケラチノサイトにおけるメラニン量を減少させる工程であ
(i') オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を増強する工程;又は
(ii') オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を抑制する工程、
該オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子、及び該オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子が、以下:
オートファジー経路における、ファゴフォアの発生、ファゴフォアの伸長又は成長、オートファゴソームの形成、オートファゴソームとリソソームとの融合、オートリソソームの形成、及びオートリソソーム内部における物質の分解のいずれかのステップに関与する遺伝子又はそれにコードされる分子であり;かつ
ATG7、RAB11A、CLIP−170、Rubicon及びRAB7Bからなる群から選択される遺伝子ならびにそれらにコードされる分子を含まない、
方法。
【請求項6】
前記オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子、及びオートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子が、以下:
ATG1、ULK1又はULK2;ATG13;ATG17;ATG29;ATG31;ATG101;FIP200;VPS34;VPS15又はp150;ATG6、VPS30又はBeclin1;ATG14;Ambra1;ATG2;ATG9;ATG18又はWIPI1−4;DFVP1;DFCP1;VMP1;mTOR;ATG5;ATG10;ATG12;ATG16又はATG16L1;ATG3;ATG4又はATG4A−D;ATG8、LC3、GATE−16又はGABARAP;p62;および、UVRAG又はVPS38、
からなる群より選択される遺伝子又はそれにコードされる分子である、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケラチノサイトにおけるメラニン量の調節、及び皮膚又は毛髪の色の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚や毛髪の色を決定する因子として様々なものが報告されているが、その中でも、表皮に存在するメラニンの量や質が皮膚や毛髪の色に大きく寄与すると考えられている。すなわち、皮膚や毛髪の色の形成は色素細胞(メラノサイト)中のメラノソームと呼ばれる細胞小器官中でつくられたメラニンが、表皮や毛包のケラチノサイトへと転送されて表皮や毛髪全体へと広がることに大きく影響を受けるとされる。そのメラノサイトにより産生されるメラニンは、個体の皮膚や毛髪の色に関連する因子として古くから知られている。
【0003】
メラニン生合成に関わる細胞であるメラノサイトは、エンドソームに由来する特有のリソソーム関連オルガネラであるメラノソームを含んでいる。このメラノソームにおいては、チロシンを前駆体とする触媒経路を介してメラニンが合成される。メラノソームは、主にトランスゴルジネットワークから選別された様々な遺伝子産物を受け取り、その結果としてリソソームと共通の性質(例えば、内部の低pH)を有する。にもかかわらず、一連のメラニン合成酵素及びそれに関連するチロシナーゼ、ドーパクロムトートメラーゼ、Pmel−17(GP100)を含む構造タンパク質はメラノソームのみに受け渡され、結果として、メラノソームはメラニンを合成する特異な性質を有する。皮膚色発生の過程においては、Rabファミリーメンバー等の種々の膜輸送因子に制御されて色素性メラノソームが成熟し、続いて、成熟したメラノソームは樹状突起に移され、隣接するケラチノサイトに転送される。
【0004】
従来の皮膚美白剤は主に、メラノサイトにおけるメラニン産生を標的として開発されてきた。例えば、非特許文献1では、メラニン前駆体であるチロシンからメラニンへの変換に関わる酵素であるチロシナーゼの酵素活性を阻害し、メラニン産生を抑制する作用を有する皮膚美白剤として、アスコルビン酸、アルブチン、コウジ酸等が報告されている。
【0005】
一方、皮膚色の違いによって、ケラチノサイトにおけるメラニンの存在様式や成熟状態に差異が認められることも報告されている(非特許文献2)。つまり、ケラチノサイト内でのメラニン動態が、皮膚色の決定に何らかの役割を担っている可能性が考えられる。これまでの報告では、ケラチノサイトにおけるメラニンの取り込み(貪食)に、レセプター分子であるPAR−2が関与すること、及びその活性調節による皮膚色制御の可能性が示唆されている(非特許文献3〜8)。また、ケラチノサイトに転送された後のメラニンのケラチノサイト内での局在に、タンパク質分子であるDyneinやDynactinが関与すること(非特許文献9及び10)、さらには、糸状仮足(Filopodia)と呼ばれる細胞構造の形成に関わるタンパク質分子であるMyoXが、メラノサイトからケラチノサイト、及びケラチノサイトからケラチノサイトへの両メラニン転送に関与していることも示唆されている(非特許文献11)。しかしながら、メラノサイトで産生されたメラニン(メラノソーム)のケラチノサイトによる取り込み、輸送及び代謝の機序については、未だ充分明らかにされておらず、その皮膚色に対する役割も検証されていない。
また最近では、異なる民族に由来するケラチノサイトを用いた検討から、取り込まれたメラニンの代謝能に民族差があることも示唆されている(非特許文献12)。非特許文献12では、蛍光物質で標識したメラニンを表皮細胞に取り込ませた後に、表皮細胞内の蛍光の消退を解析する評価系を用いて、メラニンが白人由来の表皮細胞で分解されやすいことを報告している。しかしながら、分解に寄与するメカニズムや特定の因子については何ら言及されてはいない。
【0006】
オートファジー(自食作用)とは、一般的に、オルガネラ等の細胞内物質をリソソームに移送し、分解するプロセスをいう(非特許文献13〜15)。オートファジーにはいくつかのタイプが知られている。そのうち最も研究されている主な経路はマクロオートファジーであり、通常はオートファジーというと、マクロオートファジーを指す。オートファジーは、飢餓、低酸素、エネルギー枯渇、小胞体ストレス、高温等の各種生理的ストレス、ホルモン刺激、薬物(ラパマイシン、フルスピリレン、トリフルオペラジン、ピモジド、ニカルジピン、ニグルジピン、ロペラミド、アミオダロン、ベラパミル、ミノキシジル、クロニジン等)、免疫シグナル、細菌、ウイルス及び寄生虫による感染、ならびに、急性膵炎、心疾患などの疾患によって惹起される。オートファジーに関連する現象は、酵母、哺乳類などの幅広い種で観察されていることから、生物にとって非常に重要な役割を担っていると考えられる。実際、現在までに、オートファジーが、癌、神経変性疾患、炎症、免疫、老化などに関与していることが報告されている(非特許文献16)。
【0007】
オートファジーは、オートファゴソームと呼ばれる特別なオルガネラを介して起こる一連のプロセスからなる。オートファジー経路においては、最初に、細胞質に隔離膜又はファゴフォアと呼ばれる小さな胞が発生する。ファゴフォアは徐々に伸長して細胞質の一部を包み込み、二重膜を有する袋状構造であるオートファゴソームを形成する。次いで、オートファゴソーム外膜はリソソームと融合してオートリソソームを形成し、その中で、内部の物質はオートファゴソーム内膜とともに分解される。オートファジーによって生じた分解産物は、細胞内で再利用される。オートファジー経路には、ファゴフォアの発生と伸長、オートファゴソームの形成、オートファゴソームとリソソームとの融合、及びオートリソソームの形成と内部物質の分解など複数のステップが介在し、しかも各ステップにおいて、多くの因子が関与している。主な因子は、ATG(Autophagy−related proteins)と総称される、ファゴフォア及びオートファゴソームの形成に関与しているタンパク質である。30種以上のATGがこれまでに報告されている(非特許文献11)。
【0008】
しかし、ケラチノサイト内におけるメラニン動態、例えば、メラニン取り込み、蓄積、分解等にオートファジーが関与することはこれまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】美白戦略(南江堂)IV.,美白剤の薬理と臨床,p95−116
【非特許文献2】Thong et al(2003)Br J Dermatol 149:498−505
【非特許文献3】Lin et al(2008)Pigment Cell Melanoma Res 21:172−183
【非特許文献4】Babiarz−Magee et al(2004)Pigment Cell Res 17:241−251
【非特許文献5】Seiberg et al(2000)J Invest Dermatol 115:162−167
【非特許文献6】Seiberg et al(2000)Exp Cell Res 25:25−32
【非特許文献7】Seiberg(2001)Pigment Cell Res 14:236−242
【非特許文献8】Paine et al(2001)J Invest Dermatol 116:587−595
【非特許文献9】Byers et al(2003)J Invest Dermatol 121:813−820
【非特許文献10】Byers et al(2007)J Invest Dermatol 127:1736−1744
【非特許文献11】Singh et al(2010)FASEB J 24:3756−3769
【非特許文献12】Ebanks et al(2011)J Invest Dermatol 131:1226−1233
【非特許文献13】Levine and Kroemer(2008)Cell 132:27−42
【非特許文献14】Mizushima et al(2008)Nature 451:1069−1075
【非特許文献15】Rubinsztein(2006)Nature 443:780−786
【非特許文献16】Mizushima et al(2010)Cell 140:313−326
【非特許文献17】Mizushima et al(2007)Autophagy 3:542−545
【非特許文献18】Kirkin et al(2009)Mol Cell:505−516
【発明の概要】
【0010】
一態様において、本発明は、以下、
下記工程を含むケラチノサイトにおけるメラニン量調節剤の評価又は選択方法:
細胞に被験物質を投与する工程;
該細胞におけるオートファジーの活性を測定する工程;及び
該測定の結果に基づいて、該被験物質のメラニン量調節作用を評価する工程、
を提供する。
別の態様において、本発明は、以下、
下記工程を含む皮膚又は毛髪色制御剤の評価又は選択方法:
細胞に被験物質を投与する工程;
該細胞におけるオートファジーの活性を測定する工程;及び
該測定の結果に基づいて、該被験物質の皮膚又は毛髪色制御作用を評価する工程、
を提供する。
【0011】
さらに別の態様において、本発明は、メラニン量調節が所望されるケラチノサイトにおけるオートファジーの活性を調節する工程を含む、ケラチノサイトにおけるメラニン量の調節方法を提供する。
さらに別の態様において、本発明は、皮膚又は毛髪色制御を所望する被験体のケラチノサイトにおけるオートファジーの活性を調節する工程を含む、被験体における皮膚又は毛髪色制御方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】リソソーム阻害によるメラニン蓄積。A:ウエスタンブロッティング解析。B:ウエスタンブロッティング結果に基づく定量解析;データは平均±SD(各N=3)、*,p<0.05(ANOVA,Holm test)。
図2】皮膚色の異なる人種間でのオートファジー関連因子の発現の違い。
図3】皮膚色の異なる人種間でのオートファジー活性の違い。A:ウエスタンブロッティング解析。B:ウエスタンブロッティングの結果に基づくp62とLC3の定量発現解析;データは平均±SD、**,p<0.01;*,p<0.05(ANOVA,Holm test)。
図4】皮膚色の異なる人種間でのメラノソーム取り込み後のオートファジー活性の違い。A:ウエスタンブロッティング解析。B:ウエスタンブロッティングの結果に基づく定量発現解析;データは平均±SD、**,p<0.01;*,p<0.05(ANOVA,Holm test)。
図5】オートファジー関連因子の発現抑制によるメラノソーム蓄積の増加。A及びB:ウエスタンブロッティング解析。C:ATG7発現抑制細胞におけるメラニン蓄積。
図6】オートファジー関連因子の発現抑制によるメラノソーム蓄積の増加。
図7】オートファジー関連因子の発現抑制によるメラノソーム蓄積の増加。
図8】オートファジー抑制因子mTORの発現抑制がオートファジー及びメラノソーム蓄積に与える影響。A:ウエスタンブロッティング解析。B:ウエスタンブロッティングの結果に基づく定量解析;データは平均±SD(各N=3)、**,p<0.01;*,p<0.05(ANOVA,Holm test)。
図9】ケラチノサイトのメラニン含量に対するオートファジー調節の影響。オートファジー誘導剤存在下での培養後における培養物の写真(A)およびウエスタンブロッティング解析(B)。オートファジー阻害剤存在下での培養後における培養物の写真(C)およびウエスタンブロッティング解析(D)。
図10】オートファジー調節剤とともに培養された皮膚の明度(L*値);データは平均±SD(各N=3)**,p<0.01;*,p<0.05(ANOVA,Holm test)。
図11】本発明の選択方法により選択されたメラニン量調節剤による皮膚色制御。A:メラニン量、B:細胞呼吸活性。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ケラチノサイトにおけるメラニン量調節、及び皮膚又は毛髪色制御に関わる因子に関する。また本発明は、当該因子を用いてケラチノサイトにおけるメラニン量を調節する方法、皮膚又は毛髪色を制御する方法、及び当該因子を用いてケラチノサイトにおけるメラニンの量調節剤、又は皮膚若しくは毛髪色制御剤を評価又は選択する方法に関する。
【0014】
本発明者らは、ケラチノサイト内のメラニン量調節に関わる因子を探索したところ、オートファジーの活性がケラチノサイトにおけるメラニン量に関係すること、及びオートファジーの活性と皮膚色との間に高い相関性があることを確認した。これらの結果から、本発明者らは、オートファジーの活性を利用すれば、ケラチノサイトのメラニン量や、皮膚又は毛髪色を制御可能であることを見出した。
【0015】
本発明によれば、ケラチノサイト内のメラニンの量を調節して、皮膚又は毛髪色を制御することができる。また本発明によれば、オートファジーの活性を指標として、皮膚又は毛髪色を制御することができる素材を評価又は選択することができるため、皮膚又は毛髪色制御剤、例えば、美白剤、タンニング剤、毛髪カラーリング又はブリーチング剤、白髪染め等を開発することができる。
【0016】
本明細書において、「オートファジーの活性」とは、オートファジー経路の各ステップ、例えば、ファゴフォアの発生、ファゴフォアの伸長又は成長、オートファゴソームの形成、オートファゴソームとリソソームとの融合、オートリソソームの形成、オートリソソーム内部における物質の分解、等の活動をいう。
オートファジー活性は、例えば、オートファジー関連遺伝子又は当該遺伝子にコードされる分子の発現若しくは活性に反映されており、これらの発現若しくは活性を検出又は決定することによって測定することができる。オートファジー関連遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性は、当該分野で通常使用される任意の解析方法によって測定することができる。遺伝子発現解析方法としては、例えば、ドットブロット法、ノーザンブロット法、RNaseプロテクションアッセイ法、ルシフェラーゼ等によるリポーターアッセイ、RT−PCR法、DNAマイクロアレイ等が挙げられる。遺伝子にコードされるタンパク質の発現若しくは活性の解析方法又は定量の方法としては、ウエスタンブロッティング法、免疫染色法、蛍光染色法、ELISA、バインディングアッセイ等が挙げられる。
【0017】
本明細書において、「オートファジー関連遺伝子」とは、オートファジー経路の各ステップ、例えば、ファゴフォアの発生、ファゴフォアの伸長又は成長、オートファゴソームの形成、オートファゴソームとリソソームとの融合、オートリソソームの形成、オートリソソーム内部における物質の分解、等に関与するタンパク質をコードする遺伝子であり得る。また、本明細書において、「オートファジー関連遺伝子にコードされる分子」としては、上記オートファジー経路の各ステップに関与する遺伝子にコードされるタンパク質及びmRNAが挙げられ得る。
【0018】
例えば、哺乳類のオートファジーにおいて、ファゴフォアの発生に関与する分子としては、ATG1(又はULK1若しくはULK2)、ATG13、ATG17、ATG29、ATG31、ATG101、FIP200、VPS34、VPS15(又はp150)、ATG6(又はVPS30若しくはBeclin1)、ATG14、Ambra1、ATG2、ATG9、ATG18(又はWIPI1−4)、DFVP1、VMP1等が挙げられる。このうち、ATG1(又はULK1若しくはULK2)、ATG13、ATG17、ATG29、ATG31、ATG101、FIP200は、ULK/Atg1 complexとして、ファゴフォア初期形成に関与していると考えられている(非特許文献16)。一方、VPS34、VPS15、ATG6、ATG14、Ambra1は、Class III PI3−kinase complexとして、主に小胞体上でPI(3)P(ホスファチジルイノシトール3−リン酸)を生成する(非特許文献16)。
【0019】
ファゴフォアの成長とオートファゴソームの形成に関与する分子としては、ATG5、ATG7、ATG10、ATG12、ATG16(又はATG16L1)、ATG3、ATG4(又はATG4A−D)、ATG8(又はLC3、GATE−16若しくはGABARAP)、p62等が挙げられる。このうち、ATG5、ATG7、ATG10、ATG12、ATG16は、Atg12−conjugation systemを形成している。この系は、ファゴフォアの外側に存在しており、ファゴフォア伸長に重要であると考えられている(非特許文献16)。LC3、ATG3、ATG4、ATG7は、LC3/Atg8−conjugation systemを形成している。この系は、ファゴフォアの伸長と膜の閉鎖に関与していると考えられている(非特許文献16)。LC−3は酵母Atg8の哺乳類ホモログで、LC3−IとLC3−IIの形態が存在する。そのうちLC3−IIは、細胞質局在型のLC3−Iにホスファチジルエタノールアミンが共有結合したもので、それによってオートファゴソーム膜上に局在する。LC3−II量はオートファゴソーム数に比例することから、オートファジーの指標として知られている(非特許文献17)。例えば、ヒドロキシクロロキンなどのオートファジー阻害剤や、E−64−D又はペプスタチンAなどのタンパク質分解阻害剤を添加し、LC3−IIタンパク質の蓄積量を測定することで、オートファジー活性を定量的に評価することが可能である。あるいは、LC3−IIのタンパク質量をサンプル毎に検出し、p62など他に知られているオートファジーのマーカーと組み合わせることで、オートファジー活性を評価することができる(非特許文献17)。p62はオートファゴソーム形成部位に局在し、LC3と相互作用するタンパク質であり、オートファジーの標的タンパク質をオートファゴソームへとリクルートする機能を有している。またp62は、Nbr1とともにオートファジー選択的な基質として知られている(非特許文献18)。
【0020】
オートファゴソームとリソソームとの融合に関与する分子としては、UVRAG(又はVPS38)やRAB7等が挙げられる。UVRAGは、オートファゴソームとリソソームとの融合過程を促進する分子として知られている。
【0021】
本明細書において、「オートファジー関連遺伝子又は当該遺伝子にコードされる分子」は、好ましくは、ATG7、RAB11A、CLIP−170、Rubicon及びRAB7Bからなる群から選択される遺伝子及び当該遺伝子にコードされる分子を含まない。
【0022】
「オートファジー関連遺伝子又は当該遺伝子にコードされる分子」の例を下記表1に示す。これらは、公知のデータベースに登録されている遺伝子及びタンパク質である。しかしこれらの遺伝子及び分子の、ケラチノサイト内でのメラニン動態における関与は従来知られていなかった。
【0023】
【表1】
【0024】
本明細書において、オートファジー関連遺伝子又は当該遺伝子にコードされる分子は、それらのホモログを含み得る。例えば、本発明においては、表1の遺伝子又はタンパク質の代わりに、それらのホモログが使用され得る。本明細書において、ある遺伝子又はタンパク質と配列同一性が高く且つ同等の機能を有し、好ましくは進化的な起源が共通する遺伝子又はタンパク質を、当該遺伝子又はタンパク質の「ホモログ」という。例えば、あるオートファジー関連遺伝子と塩基配列において60%以上、好ましくは80%以上同一であり、且つオートファジー経路の各ステップ、例えば、ファゴフォアの発生、ファゴフォアの伸長又は成長、オートファゴソームの形成、オートファゴソームとリソソームとの融合、オートリソソームの形成、オートリソソーム内部における物質の分解、等に関与するタンパク質をコードする遺伝子であって、好ましくは進化的に同一の起源に由来する遺伝子は、当該オートファジー関連遺伝子のホモログである。また例えば、上記オートファジー関連遺伝子のホモログ遺伝子にコードされ、且つ当該オートファジー関連遺伝子がコードするタンパク質が関与するオートファジー経路のステップに関与するタンパク質は、当該オートファジー関連遺伝子にコードされるタンパク質のホモログである。
【0025】
本明細書において、アミノ酸配列又は塩基配列に関する「同一性」とは、2つのアミノ酸配列又は塩基配列を整列(アラインメント)したときに両方の配列において同一のアミノ酸残基又は塩基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基又は塩基数に対する割合(%)をいう。具体的には、リップマン−パーソン(Lipman−Pearson)法(Science,227,1435,1985)によって計算され、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx−Win(Ver.5.1.1;ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行なうことにより算出される値をいう。
【0026】
本発明において、オートファジー関連遺伝子又は当該遺伝子にコードされる分子は少なくとも1つが使用されればよい。言い換えれば、当該遺伝子又は分子は、各々単独で使用されてもよいが、任意の2種以上の組み合わせで使用されてもよい。例えば、本発明において使用されるオートファジー関連遺伝子又は当該遺伝子は、表1に列挙した遺伝子又はそれにコードされるmRNAやタンパク質からなる群より選択されるオートファジー関連遺伝子又は当該遺伝子にコードされる分子のうちの少なくとも1つであればよい。より詳細には、本発明においては、表1に列挙した遺伝子又はそれにコードされるmRNAやタンパク質が各々単独で使用されてもよく、又は任意の2種以上の当該遺伝子の組み合わせが使用されてもよく、任意の2種以上の当該遺伝子にコードされるmRNAの組み合わせが使用されてもよく、任意の2種以上の当該遺伝子にコードされるタンパク質の組み合わせが使用されてもよく、あるいは、それらの遺伝子、mRNA及びタンパク質からの任意の2種以上の組み合わせが使用されてもよい。
【0027】
後記実施例に例示するように、明色の皮膚を有する人種の皮膚由来のケラチノサイトにおけるオートファジー活性は、暗色の皮膚を有する人種の皮膚由来のケラチノサイトに比べて高かった(図2〜4)。また後記実施例に例示するように、オートファジー関連タンパク質ATG7、ATG13、ATG5、RAB11A及びUVRAGの発現阻害により、ケラチノサイトに取り込まれた後のメラノソームの分解が抑制され(図5〜8)、一方、オートファジー誘導剤および阻害剤により、培養皮膚モデルが明色化及び暗色化した(図9〜10)。すなわち、オートファジーの活性は、ケラチノサイト内のメラニン量の調節や皮膚及び毛髪色の制御に寄与していることが示された。
【0028】
メラニンのケラチノサイト内での動態、例えば、メラノサイトから転送されるメラニンの取り込み、輸送、局在、蓄積、排出、分解等は、主にケラチノサイトにより構成される皮膚表皮層や、毛包の毛母細胞若しくはシャフトを構成する毛皮質細胞でのメラニンの量及び分布に深く関与し、ひいては、皮膚及び毛髪の色に影響を及ぼす。
ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性を変化させることによって、ケラチノサイトにおけるメラニン量を調節することができ、それによって皮膚表皮層や毛包の毛母細胞やさらにはシャフトを構成する毛皮質細胞におけるメラニン量及び分布を調節し、結果として皮膚及び毛髪の色を制御することができる。
【0029】
例えば、ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性低下は、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させ、細胞の色を暗色化させる。逆にケラチノサイトにおけるオートファジーの活性増強により、当該ケラチノサイトのメラニン量は低下し、細胞の色は明色化する。したがって、ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性を増強することにより、皮膚及び毛髪の色は明るくなる。逆に、ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性を減少させることにより、皮膚及び毛髪の色は暗くなる。
【0030】
細胞のオートファジーの活性を変化させる手段の一つの例としては、当該細胞において上述のオートファジー関連遺伝子又は当該遺伝子にコードされる分子の発現若しくは活性を変化させる方法が挙げられる。
【0031】
例えば、ケラチノサイトにおける、上記オートファジー関連遺伝子及びそれにコードされる分子のうち、オートファジーの活性化に関与する遺伝子及び分子の発現低下は、オートファジーの活性を低下させるので、ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させ、細胞の色を暗色化させる。逆にこれらの遺伝子及び分子の発現増加により、オートファジーの活性は増強するので、ケラチノサイトのメラニン量は低下し、細胞の色は明色化する。
したがって、ケラチノサイトにおいてオートファジーの活性化に関与する遺伝子又は分子の発現若しくは活性を増加させることにより、皮膚及び毛髪の色は明るくなる。逆に、当該遺伝子又は分子の発現若しくは活性を減少させることにより、皮膚及び毛髪の色は暗くなる。
【0032】
また例えば、ケラチノサイトにおける、上記オートファジー関連遺伝子及びそれにコードされる分子のうち、オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子及び分子の発現増加は、オートファジーの活性を低下させるので、ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させ、細胞の色を暗色化させる。逆にこれらの遺伝子及び分子の発現低下により、オートファジーの活性は増強するので、ケラチノサイトのメラニン量は低下し、細胞の色は明色化する。
したがって、ケラチノサイトにおいてオートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又は分子の発現若しくは活性を低下させることにより、皮膚及び毛髪の色は明るくなる。逆に、当該遺伝子又は分子の発現若しくは活性を増加させることにより、皮膚及び毛髪の色は暗くなる。
【0033】
オートファジーの活性化に関与する遺伝子、オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子、及びそれらの遺伝子にコードされる分子は、遺伝子又は分子の発現がオートファジーの活性に及ぼす影響を通常の手段で調べることによって、同定することができる。
例えば、作用機序未知のオートファジー誘導剤又はオートファジー阻害剤を投与して、オートファジー活性を亢進又は低下させたときに発現が変化する遺伝子又は分子を決定し、それらの遺伝子又は分子を過剰発現又は発現抑制したときのオートファジーの活性の変化を調べることによって、オートファジーの活性化又は活性抑制に関与する遺伝子又は分子を同定することができる。あるいは、オートファジーとの関連が既知の遺伝子又は分子の場合、それらの遺伝子又は分子を過剰発現又は発現抑制したときのオートファジーの活性の変化を調べるだけでよい。
【0034】
例えば、後述の実施例で用いられているLC3(例えば、LC3−I及びLC3−II)、p62、COX−IV、ならびにATG5、ATG13、RAB11A、UVRAG遺伝子及びそれらにコードされるmRNAやタンパク質は、オートファジーの活性化又は活性抑制に関与する遺伝子及び分子の例である。また上述した表1に列挙した遺伝子若しくはタンパク質、又はそれらのホモログも、オートファジーの活性化又は活性抑制に関与する遺伝子及び分子の例である。
【0035】
上記オートファジー関連遺伝子又は当該遺伝子にコードされる分子の発現又は活性を変化させることによって、ケラチノサイトにおけるメラニン量を調節し、皮膚又は毛髪の色を制御することができる。言い換えれば、上記オートファジー関連遺伝子又は当該遺伝子にコードされる分子は、ケラチノサイトにおけるメラニン量調節のため、又は皮膚又は毛髪色制御のために使用することができる。あるいは、上記オートファジー関連遺伝子又は当該遺伝子にコードされる分子は、ケラチノサイトにおけるメラニン量調節のため、又は皮膚若しくは毛髪色制御のための剤の製造において使用することができる。
【0036】
オートファジー関連遺伝子又は当該遺伝子にコードされる分子の発現若しくは活性は、当該分野で通常使用される任意の手段で変化させるとよい。当該遺伝子の発現、又は当該分子の発現若しくは活性を変化させる手段として、例えば、遺伝子発現を変化させる手段としては、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はsiRNA等による遺伝子ノックダウン、特異的プロモーターによる標的遺伝子の転写活性化、ベクターを用いた外部からの遺伝子の導入、その他遺伝子の発現を変化させる作用を有する任意の物質の添加等が挙げられる。このうち、当該遺伝子の発現を変化させる作用を有する任意の物質の添加が好ましい。
【0037】
遺伝子を導入するためのベクターの例としては、培養細胞用のベクターとしてCMVプロモーター又はEF1αプロモーターを組み込んだ各種遺伝子発現ベクターが挙げられ、培養細胞及び組織用のベクターとしてアデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどが挙げられる。これらのベクターを用いた遺伝子導入の手順は当業者によく知られている。例えば、レンチウイルスベクターを用いた皮膚への遺伝子導入手順は、Gene Ther.2007 Apr,14(8):648−56に記載されている。また、これらのベクターを利用した遺伝子導入用キットが市販されている。オートファジー関連遺伝子を組み込んだ上記ベクターを細胞に導入することにより、当該細胞内でオートファジー関連遺伝子が過剰発現され、オートファジー活性が変化する。
【0038】
siRNAによる遺伝子ノックダウンは、RNA干渉(RNAi)の機序に基づいて、配列特異的にmRNA分解を導くことにより標的遺伝子の発現を特異的に阻害する手法である。siRNAは、哺乳類を含む種々の生物のインビボ遺伝子ノックダウンにも利用されている(例えば、Song et al.,Nature Medicine,2003,9:347−351;McCaffery et al.,Nature,2002,418:38−39;Lewis et al.,Nature Genetics,2002,32:107−108;Xia et al.,Nature Biotech.,2002,20:1006−1010などを参照)。標的特異的に合成されたsiRNAは購入することができ、またsiRNAトランスフェクション用のキットは、QUIAGEN、タカラバイオ株式会社などの多くの業者により販売されている。
【0039】
上記オートファジー関連遺伝子にコードされる分子としては、当該遺伝子にコードされるmRNA及びポリペプチドが挙げられる。ここで、「分子の発現若しくは活性の変化」とは、分子全体での発現若しくは活性を変化させる任意の状態、例えば、分子の発現量の変化、分子の分解速度の変化、分子の活性化率の変化、分子の不活性化率の変化等を含み得るが、好ましくは分子の発現量の変化を意味する。分子の発現若しくは活性を変化させる手段としては、上述の遺伝子発現を変化させる手段、タンパク質発現を変化させる手段、分子の酵素活性等を変化させる手段、分子とその標的因子との相互作用を変化させる手段、分子が作用を及ぼすシグナル経路を変化させる手段などが挙げられる。このうち、遺伝子発現を変化させる手段、タンパク質発現を変化させる手段などが好ましい。
【0040】
オートファジーの活性を変化させる手段の別の例としては、オートファジー誘導剤又はオートファジー阻害剤の投与等が挙げられる。公知のオートファジー誘導剤としては、ラパマイシンに代表されるmTORシグナル阻害剤、フルスピリレン、トリフルオペラジン、ピモジド、ニカルジピン、ニグルジピン、ロペラミド、アミオダロン、ベラパミル、ミノキシジル、クロニジン、PP242、又はMG−132等のプロテアソーム阻害剤等が挙げられる。公知のオートファジー阻害剤としては、ヒドロキシクロロキン、クロロキン、バフィロマイシンA1、PI3キナーゼ阻害剤である3−メチルアデニンやワルトマニン等が挙げられる。
【0041】
オートファジーの活性を変化させる手段のさらに別の例としては、上述したオートファジー誘導又は阻害剤の標的因子を活性化又は抑制すること、及び上記表1記載のオートファジー関連遺伝子又は当該遺伝子にコードされる分子の発現に影響を与える因子を活性化又は抑制することが挙げられる。例えば、上述したオートファジー誘導剤ラパマイシンは、細胞タンパク質mTORの活性を抑制する。mTOR(mammalian target of rapamycin)は、ラパマイシンの標的として発見されたタンパク質で、細胞内シグナル伝達に関与するタンパク質キナーゼ(セリン−スレオニンキナーゼ)の一種である。mTORはまたオートファジー誘導を抑制する作用を有することが知られている(Nat Genet. 2004 Jun;36(6):585-95)。後述する実施例8に示すとおり、mTORを抑制することにより、細胞のオートファジー活性が上昇し、メラニン量は減少した。
【0042】
本発明において、オートファジーの活性を変化させる被験体としては、天然の又は遺伝子工学的に改変された、上記遺伝子のうちの少なくとも1を発現する能力を有し、メラニン量調節が所望されるケラチノサイト、ならびにそれを含む培養物、組織、器官及び動物が挙げられる。上記ケラチノサイトとしては、皮膚や毛包に存在するケラチノサイトが好ましく、表皮ケラチノサイト、毛母細胞及び毛皮質細胞がより好ましい。上記ケラチノサイトを含む培養物、組織、器官としては、培養ケラチノサイト、ならびに表皮組織、毛包組織、皮膚及びそれらの培養物が好ましい。上記動物としては、ヒト又は非ヒト哺乳動物が好ましく、非ヒト哺乳動物としては、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ブタ、ウマなどが挙げられる。
【0043】
一態様において、上記本発明によるメラニン量調節、又は皮膚若しくは毛髪色制御は、上記ケラチノサイト、又はそれを含む培養物、組織若しくは器官を被験体として行われ得る。好ましくは、被験体は、培養ケラチノサイト、培養皮膚組織、培養表皮、又は培養毛包である。別の一態様において、上記本発明によるメラニン量調節、又は皮膚若しくは毛髪色制御においては、ケラチノサイトのメラニン量の調節、又は皮膚若しくは毛髪色の制御を所望する動物が被験体であり得る。
【0044】
また別の一態様において、当該メラニン量調節又は皮膚若しくは毛髪色制御は、美容目的又は審美的な目的で、例えば、皮膚の美白若しくはタンニング、毛髪のカラーリング(ライトニング若しくは暗色化)又はブリーチング、ブリーチング後の色戻し、白髪染め等の目的により、好ましくはエステティシャン、美容師、理容師、トリマー等の非医療従事者によって、非治療的に行われ得る。本明細書において、「非治療的」とは、医療行為、すなわち治療による人体への処置行為を含まない概念である。
【0045】
本発明の例示的実施態様は、メラニン量増加が所望されるケラチノサイトにおけるオートファジーの活性を抑制することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させる工程を含む、ケラチノサイトにおけるメラニン量の増加方法である。
本発明の別の例示的実施態様は、メラニン量低減が所望されるケラチノサイトにおけるオートファジーの活性を増強することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を減少させる工程を含む、ケラチノサイトにおけるメラニン量の低減方法である。
【0046】
当該態様の一実施形態は、メラニン量増加が所望されるケラチノサイトにおけるオートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を抑制することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させる工程を含む、ケラチノサイトにおけるメラニン量の増加方法である。
別の実施形態は、メラニン量低減が所望されるケラチノサイトにおけるオートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を増強することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を減少させる工程を含む、ケラチノサイトにおけるメラニン量の低減方法である。
また別の実施形態は、メラニン量増加が所望されるケラチノサイトにおけるオートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を増強することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させる工程を含む、ケラチノサイトにおけるメラニン量の増加方法である。
また別の実施形態は、メラニン量低減が所望されるケラチノサイトにおけるオートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を抑制することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を減少させる工程を含む、ケラチノサイトにおけるメラニン量の低減方法である。
【0047】
本発明の別の例示的実施態様は、皮膚色褐色化又は暗色化を所望する被験体の皮膚ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性を抑制することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させる工程を含む、被験体の皮膚色を褐色化又は暗色化する方法である。この方法によれば、例えば、皮膚タンニングが可能になる。
本発明の別の例示的実施態様は、皮膚色明色化を所望する被験体の皮膚ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性を増強することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を減少させる工程を含む、被験体の皮膚色を明色化する方法である。この方法によれば、例えば、皮膚美白が可能になる。
【0048】
当該態様の一実施形態は、皮膚色褐色化又は暗色化を所望する被験体の皮膚ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を抑制することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させる工程を含む、被験体の皮膚色を褐色化又は暗色化する方法である。この方法によれば、例えば、皮膚タンニングが可能になる。
別の実施形態は、皮膚色明色化を所望する被験体の皮膚ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を増強することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を減少させる工程を含む、被験体の皮膚色を明色化する方法である。この方法によれば、例えば、皮膚美白が可能になる。
また別の実施態様は、皮膚色褐色化又は暗色化を所望する被験体の皮膚ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を増強することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させる工程を含む、被験体の皮膚色を褐色化又は暗色化する方法である。この方法によれば、例えば、皮膚タンニングが可能になる。
また別の実施形態は、皮膚色明色化を所望する被験体の皮膚ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を抑制することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を減少させる工程を含む、被験体の皮膚色を明色化する方法である。この方法によれば、例えば、皮膚美白が可能になる。
【0049】
本発明のさらに別の例示的実施態様は、毛髪色褐色化又は暗色化を所望する被験体の毛包ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性を抑制することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させる工程を含む、被験体の毛髪色を褐色化又は暗色化する方法である。この方法によれば、例えば、ブリーチ後の髪の色戻し又は白髪染めが可能になる。
本発明の別の例示的実施態様は、毛髪色明色化を所望する被験体の毛包ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性を増強することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を減少させる工程を含む、被験体の毛髪色を明色化する方法である。この方法によれば、例えば、髪のライトニング又はブリーチングが可能になる。
【0050】
当該態様の一実施形態は、毛髪色褐色化又は暗色化を所望する被験体の毛包ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を抑制することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させる工程を含む、被験体の毛髪色を褐色化又は暗色化する方法である。この方法によれば、例えば、ブリーチ後の髪の色戻し又は白髪染めが可能になる。
別の実施形態は、毛髪色明色化を所望する被験体の毛包ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を増強することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を減少させる工程を含む、被験体の毛髪色を明色化する方法である。この方法によれば、例えば、髪のライトニング又はブリーチングが可能になる。
また別の実施形態は、毛髪色褐色化又は暗色化を所望する被験体の毛包ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を増強することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させる工程を含む、被験体の毛髪色を褐色化又は暗色化する方法である。この方法によれば、例えば、ブリーチ後の髪の色戻し又は白髪染めが可能になる。
また別の実施形態は、毛髪色明色化を所望する被験体の毛包ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を抑制することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を減少させる工程を含む、被験体の毛髪色を明色化する方法である。この方法によれば、例えば、髪のライトニング又はブリーチングが可能になる。
【0051】
オートファジーの活性を変化させる物質は、ケラチノサイトにおけるメラニン量を調節し、皮膚又は毛髪の色を制御することができる物質である。したがって、本発明はまた、オートファジーの活性を利用した、物質のケラチノサイトのメラニン量調節作用又は皮膚若しくは毛髪色制御作用の評価方法、ならびにケラチノサイトのメラニン量調節剤、又は皮膚若しくは毛髪色制御剤の評価又は選択方法を提供する。
【0052】
本発明による、ケラチノサイトにおけるメラニン量調節剤の評価又は選択方法は、細胞に被験物質を投与する工程;当該細胞におけるオートファジーの活性の変化を測定する工程;及び、当該測定の結果に基づいて、当該被験物質のメラニン量調節作用を評価する工程、を含む。
【0053】
被験物質を投与する細胞は、オートファジー活性を有する限り、天然の細胞でも又は遺伝子工学的に改変された細胞でもよく、培養細胞、又は動物の組織若しくは器官培養物に由来する細胞が好ましく、培養ヒト細胞がより好ましい。また好ましくは、細胞は皮膚細胞であり、より好ましくは表皮細胞又は毛包細胞であり、さらに好ましくはケラチノサイトである。好ましい細胞の具体的な例としては、ヒト由来培養表皮細胞(例えば、ヒト正常表皮細胞(Normal Human Epidermal Keratinocyte;NHEK)、又はヒト組織培養毛包細胞である。
【0054】
被験物質の種類は天然物でも合成物でもよく、また単一物質であっても組成物若しくは混合物であってもよい。投与の形態は、被験物質に依存して、任意の形態であり得る。
【0055】
オートファジーの活性は、例えば、オートファジー関連遺伝子又は当該遺伝子にコードされる分子の発現若しくは活性、あるいは当該分子の細胞内での量を調べることによって、測定することができる。当該遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性、あるいは当該分子の細胞内での量は、当該分野で通常使用される任意の解析方法によって測定することができる。遺伝子発現解析方法としては、例えば、ドットブロット法、ノーザンブロット法、RNaseプロテクションアッセイ法、ルシフェラーゼ等によるリポーターアッセイ、RT−PCR法、DNAマイクロアレイ等が挙げられる。遺伝子にコードされるタンパク質の発現若しくは活性の解析方法、又は定量の方法としては、ウエスタンブロッティング法、免疫染色法、蛍光染色法、ELISA、バインディングアッセイ等が挙げられる。
【0056】
測定したオートファジー活性に基づいて、被験物質の投与によるオートファジーの活性の変化を評価することができる。例えば、被験物質の投与前後にオートファジーの活性を測定し、必要に応じて測定値を定量化した後、投与前後の結果を比較することができる。また例えば、被験物質の投与群と、非投与群若しくは対照物質投与群のオートファジー活性を測定し、必要に応じて測定値を定量化した後、結果を投与群と非投与群、又は投与群と対照物質投与群との間で比較することができる。さらに、異なる濃度の被験物質を投与してオートファジー活性を測定し、被験物質の濃度による測定結果の差を調べることもできる。
【0057】
上記オートファジー活性の測定結果に基づいて、被験物質のケラチノサイトにおけるメラニン量の調節作用を評価することができる。オートファジーの活性に影響を及ぼすと評価された被験物質は、ケラチノサイトにおけるメラニン量の調節作用を有する物質であると判断され、あるいはケラチノサイトにおけるメラニン量の調節のために使用できるケラチノサイトにおけるメラニン量調節剤として選択され得る。したがって、本発明におけるメラニン量調節剤の評価又は選択方法は、被験物質の評価結果に基づいて、当該被験物質をケラチノサイトにおけるメラニン量調節剤として選択する工程をさらに含み得る。
【0058】
例えば、オートファジーの活性を抑制する物質は、ケラチノサイトにおけるメラニン量増加剤として選択される。このような物質としては、オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を抑制する物質、及びオートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を増強する物質が挙げられる。当該剤は、ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させて皮膚又は毛髪色を褐色化又は暗色化する、皮膚又は毛髪色の褐色化又は暗色化剤(例えば、皮膚タンニング剤、毛髪暗色化剤、ブリーチ後の髪の色戻し剤、白髪染め剤等)として使用することができる。
一方、オートファジーの活性を増強する物質は、ケラチノサイトにおけるメラニン量低下剤として選択される。このような物質としては、オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を増強する物質、及びオートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を抑制する物質が挙げられる。当該剤は、ケラチノサイトにおけるメラニン量を減少させて皮膚又は毛髪色を明色化する、皮膚又は毛髪色の明色化剤(例えば、皮膚美白剤、髪のライトニング又はブリーチング剤等)として使用することができる。
【0059】
本発明はまた、皮膚又は毛髪色制御剤の選択方法を提供する。当該方法は、細胞に被験物質を投与する工程;当該細胞におけるオートファジーの活性の変化を測定する工程;及び、当該測定の結果に基づいて、当該被験物質の皮膚又は毛髪色制御作用を評価する工程、を含む。当該方法で使用される細胞、被験物質、遺伝子又は分子の発現又は活性の測定方法、及び該測定結果の評価方法は、上述と同様である。
【0060】
上記オートファジー活性の測定結果に基づいて、被験物質の皮膚又は毛髪色制御作用を評価することができる。オートファジーの活性に影響を及ぼすと評価された被験物質は、皮膚又は毛髪色制御作用を有する物質であると判断され、あるいは皮膚又は毛髪色の制御に使用できる皮膚又は毛髪色制御剤として選択され得る。したがって、本発明における皮膚又は毛髪色制御剤の評価又は選択方法は、被験物質の評価結果に基づいて、当該被験物質を皮膚又は毛髪色制御剤として選択する工程をさらに含み得る。
【0061】
例えば、オートファジーの活性を抑制する物質は、ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させて皮膚又は毛髪色を褐色化又は暗色化する、皮膚又は毛髪色の褐色化又は暗色化剤(例えば、皮膚タンニング剤、毛髪暗色化剤、ブリーチ後の髪の色戻し剤、白髪染め剤等)として選択される。このような物質としては、オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を抑制する物質、及びオートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を増強する物質が挙げられる。
一方、オートファジーの活性を増強する物質は、ケラチノサイトにおけるメラニン量を減少させて、皮膚又は毛髪色を明色化する、皮膚又は毛髪色の明色化剤(例えば、皮膚美白剤、髪のライトニング又はブリーチング剤等)として選択される。このような物質としては、オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を増強する物質、及びオートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を抑制する物質が挙げられる。
【0062】
本発明の例示的実施形態として、さらに以下の組成物、方法、あるいは用途を本明細書に開示する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0063】
<1>下記工程を含むケラチノサイトにおけるメラニン量調節剤の評価又は選択方法:
細胞に被験物質を投与する工程;
該細胞におけるオートファジーの活性の変化を測定する工程;及び
該測定の結果に基づいて、該被験物質のメラニン量調節作用を評価する工程。
【0064】
<2>下記工程を含む被験物質のケラチノサイトにおけるメラニン量調節作用を評価する方法:
細胞に被験物質を投与する工程;
該細胞におけるオートファジーの活性の変化を測定する工程;及び
該測定の結果に基づいて、該被験物質のケラチノサイトにおけるメラニン量調節作用を評価する工程。
【0065】
<3>前記評価の結果に基づいて、前記被験物質をケラチノサイトにおけるメラニン量調節剤として選択する工程をさらに含む、<1>又は<2>記載の方法。
【0066】
<4>以下の場合に、上記被験物質がケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させる作用があると評価される、<1>〜<3>のいずれか1に記載の方法:
(i) オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が抑制された場合;又は
(ii) オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が増強された場合。
【0067】
<5>以下の場合に、上記被験物質がケラチノサイトにおけるメラニン量を低下させる作用があると評価される、<1>〜<3>のいずれか1に記載の方法:
(i) オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が増強された場合;又は
(ii) オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が抑制された場合。
【0068】
<6>下記工程を含む皮膚又は毛髪色制御剤の評価又は選択方法:
細胞に被験物質を投与する工程;
該細胞におけるオートファジーの活性の変化を測定する工程;及び
該測定の結果に基づいて、該被験物質の皮膚又は毛髪色制御作用を評価する工程。
【0069】
<7>下記工程を含む被験物質の皮膚又は毛髪色制御作用を評価する方法:
細胞に被験物質を投与する工程;
該細胞におけるオートファジーの活性の変化を測定する工程;及び
該測定の結果に基づいて、該被験物質の皮膚又は毛髪色制御作用を評価する工程。
【0070】
<8>前記評価の結果に基づいて、前記被験物質を皮膚又は毛髪色制御剤として選択する工程をさらに含む、<6>又は<7>記載の方法。
【0071】
<9>以下の場合に、上記被験物質が皮膚又は毛髪色を暗色化する作用があると評価される、<6>〜<8>のいずれか1に記載の方法:
(i) オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が抑制された場合;又は
(ii) オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が増強された場合。
【0072】
<10>以下の場合に、上記被験物質が皮膚又は毛髪色を明色化する作用があると評価される、<6>〜<8>のいずれか1に記載の方法:
(i) オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が増強された場合;又は
(ii) オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性が抑制された場合。
【0073】
<11>メラニン量調節が所望されるケラチノサイトにおけるオートファジーの活性を調節する工程を含む、ケラチノサイトにおけるメラニン量の調節方法。
【0074】
<12>上記オートファジーの活性を調節する工程が、以下の工程によりケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させる工程である、<11>記載の方法:
(i) オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を抑制する工程;又は
(ii) オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を増強する工程。
【0075】
<13>上記オートファジーの活性を調節する工程が、以下の工程によりケラチノサイトにおけるメラニン量を減少させる工程である、<11>記載の方法:
(i) オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を増強する工程;又は
(ii) オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を抑制する工程。
【0076】
<14>皮膚又は毛髪色制御を所望する被験体のケラチノサイトにおけるオートファジーの活性を調節する工程を含む、被験体における皮膚又は毛髪色制御方法。
【0077】
<15>上記オートファジーの活性を調節する工程が、以下の工程により皮膚色を暗色化させる工程である、<14>記載の方法:
(i) オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を抑制する工程;又は
(ii) オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を増強する工程。
【0078】
<16>上記オートファジーの活性を調節する工程が、以下の工程により皮膚色を明色化させる工程である、<14>記載の方法:
(i) オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を増強する工程;又は
(ii) オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を抑制する工程。
【0079】
<17>ケラチノサイトが皮膚ケラチノサイトである、<15>又は<16>記載の方法。
【0080】
<18>上記オートファジーの活性を調節する工程が、以下の工程により毛髪色を暗色化させる工程である、<14>記載の方法:
(i) オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を抑制する工程;又は
(ii) オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を増強する工程。
【0081】
<19>上記オートファジーの活性を調節する工程が、以下の工程により毛髪色を明色化させる工程である、<14>記載の方法:
(i) オートファジーの活性化に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を増強する工程;又は
(ii) オートファジーの活性抑制に関与する遺伝子又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を抑制する工程。
【0082】
<20>ケラチノサイトが毛包ケラチノサイトである、<18>又は<19>記載の方法。
【0083】
<21>非治療的方法である、<11>〜<20>のいずれか1項記載の方法。
【0084】
<22>ケラチノサイトにおけるメラニン量を調節するための、オートファジー関連遺伝子又は当該遺伝子にコードされる分子の使用。
【0085】
<23>メラニン量を増加又は減少させるための、<22>記載の使用。
【0086】
<24>皮膚又は毛髪色を制御するための、オートファジー関連遺伝子又は当該遺伝子にコードされる分子の使用。
【0087】
<25>皮膚又は毛髪色を暗色化又は明色化するための、<24>記載の使用。
【0088】
<26>非治療的使用である、<22>〜<25>のいずれか1項記載の使用。
【0089】
<27>ケラチノサイトにおけるメラニン量を調節において使用されるための、オートファジー関連遺伝子又は当該遺伝子にコードされる分子。
【0090】
<28>メラニン量の増加又は減少において使用されるための<27>記載の遺伝子又は分子。
【0091】
<29>皮膚又は毛髪色の制御において使用されるための、オートファジー関連遺伝子又は当該遺伝子にコードされる分子。
【0092】
<30>皮膚又は毛髪色の暗色化又は明色化において使用されるための<29>記載の遺伝子又は分子。
【0093】
<31>オートファジーの活性が、ファゴフォアの発生、ファゴフォアの成長、オートファゴソームの形成、オートファゴソームとリソソームとの融合、オートリソソームの形成、及びオートリソソーム内部における物質の分解からなる群より選択される、<1>〜<21>のいずれか1項記載の方法。
【0094】
<32>オートファジーの活性が、ファゴフォアの発生、ファゴフォアの成長、オートファゴソームの形成、オートファゴソームとリソソームとの融合、オートリソソームの形成、及びオートリソソーム内部における物質の分解からなる群より選択される、<22>〜<26>のいずれか1項記載の使用。
【0095】
<33>オートファジー関連遺伝子が、オートファジーにおけるファゴフォアの発生、ファゴフォアの成長、オートファゴソームの形成、オートファゴソームとリソソームとの融合、オートリソソームの形成、及びオートリソソーム内部における物質の分解からなる群より選択されるステップに関与する遺伝子である、<27>〜<30>のいずれか1項記載の遺伝子又は分子。
【実施例】
【0096】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0097】
試料
(正常ヒト新生児包皮由来ケラチノサイト;NHEKs)
正常ヒト新生児包皮由来ケラチノサイト(NHEKs)はKURABOより購入した。細胞を、6ウェルプレートに1×10細胞/ウェルの密度で播種し、37℃、5%(v/v)CO下で24時間培養した。培地は、EpiLife培地(KURABO)[10μg/mlインスリン、0.1μg/ml hEGF、0.5μg/mlハイドロコルチゾン、50μg/mlゲンタマイシン、50ng/mlアンフォテリシンB、及び0.4%(v/v)ウシ脳下垂体抽出物(bovine pituitary extract;BPE)添加]を用いた。培養後、BPEとhEGFを除いた培地でさらに24時間培養して、以下の実験に用いた。
(メラノソーム)
メラノーマMNT−1細胞は、Dr. PiedGiorgio Natali (Regina Elena Institute, Rome, Italy)の好意により提供された。MNT−1細胞をRPMI−1640培地[10%(v/v)FBS及び10%(v/v)AIM−V medium添加]で培養し、その後該細胞からメラノソームを単離した。
(新生児包皮由来ケラチノサイト;NHEKs)
コーカシアン系アメリカ人及びアフリカ系アメリカ人ドナーの新生児包皮は、National Disease Research Interchange(フィラデルフィア)から入手し、Yoshida et al (FASEB J 21:2829−2839, 2007)に記載の方法に従ってNHEKsを調製した。すなわち、包皮をディスパーゼ処理することで表皮と真皮を分離し、表皮シートを0.25%トリプシン/EDTA溶液中37℃で10分間処理することで細胞を単離し、専用培地を用いて;NHEKsを初代培養した。
(三次元培養ヒト皮膚モデル)
三次元(3D)培養ヒト皮膚モデル(3D−human skin substitutes;3D−HSSs)は、MatTek Co.から購入し(MEL−300A又はB)、製品マニュアルに従って、EPI−100NMM−113 medium(MatTek Co.)中で37℃、5%CO下で維持した。
【0098】
参考例1 メラニン分解におけるリソソーム機構の関与
培養NHEKsは、MNT−1細胞由来単離メラノソームとともに、リソソーム阻害剤であるE−64−D及びペプスタチンA(各20μg/ml)の存在下又は非存在下で培養した。24時間後、細胞をPBSで洗浄し、さらにE−64−D及びペプスタチンA(各20μg/ml)の存在下又は非存在下で24時間培養した。細胞をPBSで洗浄し、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)を含むRIPAバッファー(Sigma−Aldrich)で溶解し、超音波でホモジェナイズして、上清を回収し、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動で分離した。分離したサンプルをSequi−Blot(登録商標)PVDF膜(Bio−Rad)に転写し、メラノソームタンパク質Pmel−17に特異的抗体(clone HMB−45、DAKO Inc.)によるウエスタンブロッティング解析を行った。
ウエスタンブロッティングでは、上記PVDF膜をPmel−17特異的抗体(2000倍希釈)とともにインキュベートし、洗浄して、2次抗体とインキュベートした。2次抗体は、ペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG又はペルオキシダーゼ結合抗ウサギIgG(5000倍希釈、GE Healthcare UK Ltd.)を用いた。バンドは、ECL western blotting detection reagents(GE Healthcare UK Ltd.)で可視化した。次いで、内部標準としてロードしたβ−アクチンに特異的な抗体(Sigma−Aldrich)で膜を再ブロットし、ロードしたタンパク質量を標準化した。
一部のデータについては、ウエスタンブロッティング解析で得られたPmel−17の各バンドのβ−アクチンのバンドに対する相対強度を求め、メラニン蓄積量を定量化した。
結果を図1に示す。リソソーム阻害剤の添加により、NHEKsにメラノソームが蓄積した。この結果より、NHEKsにおけるメラノソーム分解にリソソームの活性が関与していることが示唆された。
【0099】
実施例1 皮膚色の異なる人種間でのオートファジー関連因子の発現の違い
コーカシアン系アメリカ人及びアフリカ系アメリカ人の新生児包皮由来ケラチノサイト(NHEKs)における、オートファジー関連因子ATG7又はATG13の発現量を調べた。
NHEKsは、2日間培養した後、参考例1と同様の手順で、ATG7特異的抗体(Epitomics Inc.)又はATG13特異的抗体(MBL International)によるウエスタンブロッティング解析を行った。
結果を図2に示す。明色の皮膚を有するコーカシアン系アメリカ人由来のNHEKsは、暗色の皮膚を有するアフリカ系アメリカ人由来のNHEKsと比べて、オートファジー関連因子の発現が高かった。
【0100】
実施例2 皮膚色の異なる人種間でのオートファジー活性の違い
コーカシアン系アメリカ人及びアフリカ系アメリカ人の新生児包皮由来ケラチノサイト(NHEKs)における、オートファジーの活性を調べた。
NHEKsは、オートファジー阻害剤であるヒドロキシクロロキン(HCQ、10μM)の存在下又は非存在下で48時間培養し、参考例1と同様の手順で、オートファジーの基質であるp62特異的抗体(2000倍希釈、MBL International)、又はLC3特異的抗体(2000倍希釈、MBL International,又はCosmo Bio Co. Ltd.)によるウエスタンブロッティング解析を行った。なお、LC3タンパク質としては、LC3-I及びLC3−Iにホスファチジルエタノールアミンが付加されオートファゴソームに局在するLC3−IIを検出した。ウエスタンブロッティングの各バンドのβ−アクチンのバンドに対する相対強度を求め、オートファジー活性を定量化した。
結果を図3に示す。オートファジー阻害剤であるヒドロキシクロロキン存在下において、コーカシアン系アメリカ人由来のNHEKsは、アフリカ系アメリカ人由来のNHEKsと比べて、p62及びLC3−IIの蓄積量が多く、高いオートファジー活性を有することが示された。
【0101】
実施例3 皮膚色の異なる人種間でのメラノソーム取り込み後のオートファジー活性の違い。
コーカシアン系アメリカ人及びアフリカ系アメリカ人の新生児包皮由来ケラチノサイト(NHEKs)を、MNT−1細胞由来単離メラノソームとともに0、4、8、24又は48時間培養した。細胞をPBSで洗浄し、参考例1と同様の手順で、LC3特異的抗体、又はCOX−IV特異的抗体(Abcam Inc.)によるウエスタンブロッティング解析を行った。ウエスタンブロッティングの各バンドをβ−アクチンに対して標準化し、相対強度を求めた。
結果を図4に示す。コーカシアン系アメリカ人由来のNHEKsは、メラノソームによりLC3−II量が増加し、また、オートファジー活性により分解されるマーカーの一つとして知られるCOX−IV量は減少したことから、オートファジー活性が高く、メラニンを積極的に分解するようになっていることが示唆される。一方、アフリカ系アメリカ人由来のNHEKsは、メラノームによりLC3-II量が減少しており、オートファジー活性が抑制されていることから、メラニンを積極的に蓄積するようになっていることが示唆される。以上のことから、ケラチノサイトにおけるオートファジーの活性が皮膚のメラニン量、および皮膚色と関係していることが考えられる。
【0102】
実施例4 オートファジー関連因子の発現抑制によるケラチノサイトにおけるメラノソーム蓄積の増加
NHEKsに、HiPerfect Transfection Reagent(QUIAGEN)を用いて、製品マニュアルに従い、10nMのATG7特異的siRNA、ATG13特異的siRNA、UVRAG特異的siRNA、又は非特異的siRNA(対照)をトランスフェクトした。48時間後、MNT−1細胞由来単離メラノソームを添加し、24時間培養した。培養物をPBSで洗浄して細胞に取り込まれなかったメラノソームを洗浄し、さらに24時間培養した後、参考例1と同様の手順で、ATG7特異的抗体(Epitomics Inc.)、LC3特異的抗体(Cosmo Bio Co.Ltd.又はMBL International)、p62特異的抗体(MBL International)又はメラノソームタンパク質であるPmel17に特異的な抗体(clone HMB−45、DAKO Inc.)によるウエスタンブロッティング解析を行った。結果を図5A及びBに示す。ATG7、ATG13及びUVRAGの特異的な発現阻害により、ケラチノサイトにおいてオートファジーの基質であるp62が蓄積し、Pmel17の量が顕著に増加した。
NHEKsに10nMのATG7特異的siRNA又は非特異的siRNA(対照)をトランスフェクトし、NHEMsと共に7日間培養した。細胞をPBSで洗浄後に乾燥し、SolvableTM(PerkinElmer)で溶解させ、吸光度計(Microplate Reader Model 550; Bio−Rad Laboratories)によりメラニン量を測定した。結果を図5Cに示す。ATG7発現阻害によりケラチノサイトとメラノサイトとの共培養におけるメラニン量が増加した。
これらの結果は、オートファジーがケラチノサイトにおけるメラノソーム分解に寄与していることを示唆する。
【0103】
実施例5 オートファジー関連因子の発現抑制によるケラチノサイトにおけるメラノソーム蓄積の増加
NHEKsに、HiPerfect Transfection Reagent(QUIAGEN)を用いて、製品マニュアルに従い、100pM、1nM、又は10nMのRAB11A特異的siRNA又はATG7特異的siRNA、あるいは10nMの非特異的siRNA(対照)をトランスフェクトした。48時間後、MNT−1細胞由来単離メラノソームを添加し、24時間培養した。培養物をPBSで洗浄して細胞に取り込まれなかったメラノソームを洗浄し、さらに24時間培養した後、参考例1と同様の手順で、RAB11A特異的抗体(Life Technologies, Corp.)、ATG7特異的抗体(Epitomics Inc.)、又はPmel17特異的な抗体(clone HMB−45、DAKO Inc.)によるウエスタンブロッティング解析を行った。
結果を図6に示す。Pmel17量は、RAB11A及びATG7のsiRNA濃度に依存して増加した。この結果は、ケラチノサイトのオートファジー活性レベルとメラニン蓄積との間に負の相関があることを示唆する。
【0104】
実施例6 オートファジー関連因子の発現抑制によるケラチノサイトにおけるメラノソーム蓄積の増加
培養NHEKsに、HiPerfect Transfection Reagent(QUIAGEN)を用いて、製品マニュアルに従い、10nMのATG5特異的siRNA、UVRAG特異的siRNA、又は非特異的siRNA(対照)をトランスフェクトした。48時間後、MNT−1細胞由来単離メラノソームを添加し、24時間培養した。培養物をPBSで洗浄して細胞に取り込まれなかったメラノソームを洗浄し、さらに24時間培養した後、参考例1と同様の手順で、Pmel17特異的抗体(clone HMB−45、DAKO Inc.)によるウエスタンブロッティング解析を行った。
結果を図7に示す。ATG5又はUVRAGの特異的阻害により、Pmel17(clone;HMB45)の量が顕著に増加した。この結果は、NHEKsにおけるメラノソーム分解にオートファジー関連因子が寄与していることを示唆する。
【0105】
実施例7 オートファジー活性化によるケラチノサイトにおけるメラノソーム蓄積の増加
オートファジー抑制因子であるmTORの抑制がメラニン蓄積に与える影響を調べた。培養NHEKsに、HiPerfect Transfection Reagent(QUIAGEN)を用いて、製品マニュアルに従い、10nMのmTOR特異的siRNA又は非特異的siRNA(対照)をトランスフェクトした。24時間後、MNT−1細胞由来単離メラノソームを添加し、24時間培養した。培養物をPBSで洗浄して細胞に取り込まれなかったメラノソームを洗浄し、さらに24時間培養した後、参考例1と同様の手順で、LC3特異的抗体(Cosmo Bio Co.Ltd.又はMBL International)及びPmel17特異的な抗体(clone HMB−45、DAKO Inc.)によるウエスタンブロッティング解析を行った。ウエスタンブロッティングの各バンドをβ−アクチンに対して標準化し、相対強度を求めた。
結果を図8に示す。オートファジー抑制因子であるmTORの特異的阻害でオートファジー活性が亢進したため、LC3−II量が増加し、Pmel17は顕著に低下した。この結果から、mTORは、オートファジー機構を介してメラニン蓄積量に影響していることが示唆された。
【0106】
実施例8 三次元培養ヒト皮膚モデル(3D−HSSs)のメラニン含量に対するオートファジー調節の影響
3D−HSSs(three-dimensional human skin substitutes、NHEK及びNHEMを含む再構成表皮モデル)は、オートファジー誘導剤であるベラパミル(10μM)又はラパマイシン(1μM)とともに14日間培養した。培地は1日おきに交換した。培養後、参考例1と同様の手順で、p62特異的抗体(MBL International)及びLC3特異的抗体(Cosmo Bio Co.Ltd.又はMBL International)によるウエスタンブロッティング解析を行った。
また、3D−HSSsをエンドセリン−1及びSCF存在下でオートファジー阻害剤であるヒドロキシクロロキン(HCQ、10μM)とともに14日間培養し、ウエスタンブロッティング解析を行った。
結果を図9に示す。オートファジー誘導剤により、3D−HSSsの暗色化が抑えられた(図9A、培養14日後)。またオートファジー活性の指標因子であるLC3−IIの量が増加し、オートファジーにより分解を受ける基質タンパク質p62の量が減少した(図9B、培養6日後)。一方、オートファジー阻害剤であるHCQにより、3D−HSSsは暗色化し、またp62の量が増加した(図9C、D)。
【0107】
実施例9 ヒト皮膚色に対するオートファジー調節の影響
アフリカ系アメリカ人から皮膚組織を採取し、オートファジー誘導剤ベラパミル(10μM)若しくはラパマイシン(1μM)、又はオートファジー阻害剤ヒドロキシクロロキン(HCQ、10μM)の存在下又は非存在下で培養した。8日培養後に、培養皮膚の明度(L*値)を色差計(Colorimeter;cyberDERM社)により測定した。結果を図10に示す。オートファジー誘導剤とともに培養された皮膚のL*値は上昇した(すなわち、皮膚色が明るくなった)一方で、オートファジー阻害剤とともに培養された皮膚のL*値は低下した(すなわち、皮膚色が暗くなった)。
【0108】
実施例10 メラニン量調節剤の評価又は選択 培養NHEKsに、試験物質を添加して72時間培養した。培養後、細胞をPBSで洗浄し、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)を含むRIPAバッファー(Sigma−Aldrich)で溶解し、超音波でホモジェナイズして上清を回収した。回収した上清中のRAB11A又はATG7量についてウエスタンブロッティング解析を行った。同様の手順にて試験物質非添加で培養した細胞(対照)についてRAB11A又はATG7量を測定した。対照に比べてRAB11A又はATG7の量を30%以上抑制した試験物質を、メラニン量増強剤の候補物質として選択した。その結果、15種類の試験物質が候補物質として選択された。
選択した候補物質のメラニン量調節活性を調べた。NHEK及びNHEMを含む3D−HSSsの上部(角層側)のみに上記で選択した候補物質を添加して14日間培養した。培養後、組織を水酸化ナトリウム(2N)水溶液で可溶化することにより、組織中のメラニン量を測定した。同様に候補物質を添加して培養した3D−HSSsの細胞呼吸活性を、アラマーブルー法によって測定することにより、候補物質の細胞毒性を調べた。2種類の候補物質サンプルA及びBについての結果を図11に示す。候補物質がメラニン量増強活性を有することが確認された。また細胞呼吸活性の結果より、これらの候補物質に細胞毒性がないことが確認された。
【0109】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これが、本発明を、説明した特定の実施形態に限定することを意図するものではないことを理解すべきである。本発明の範囲内にある様々な他の変更及び修正は当業者には明白である。 本明細書に引用されている文献及び特許出願は、あたかもそれが本明細書に完全に記載されているかのように参考として援用される。
図10
図1
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図3
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図11