(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a) 有効量の(E)−1−(ピリジン−4−イル)−3−(7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル)−プロプ−2−エン−1−オン、またはその薬学的に許容される塩、および
(b)少なくとも1種類の薬学的に許容される担体、
を含む、癌または腫瘍の治療用医薬組成物。
前記第2の抗癌剤が、パクリタキセル、ドセタキセル、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、5−FU、イリノテカン、メトトレキサート、ロイコボリン、ベバシズマブ、セツキシマブ、スニチニブ、イマチニブ、テモゾロミド、およびゲムシタビンからなる群より選択される、請求項3から5いずれか1項記載の医薬組成物。
前記癌が、多形性膠芽腫、皮膚癌、結合組織癌、脂肪癌、乳癌、肺癌、胃癌、膵臓癌、卵巣癌と生殖器癌、子宮頸がん、子宮癌、肛門性器癌、腎臓癌、膀胱癌、肝臓癌、結腸直腸癌または結腸癌と消化(GI)管癌、前立腺癌と生殖器癌、中枢神経系(CNS)癌、網膜癌、血液癌、リンパ球癌、および頭部癌と頚部癌からなる群より選択される、請求項2記載の医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0017】
現在開示されている主題の1つ以上の実施の形態の詳細が、この文書に述べられている。この文書に記載された実施の形態に対する改変、および他の実施の形態は、この文書に与えられた情報の研究後に、当業者には明白となるであろう。
【0018】
以下の用語は、当業者によりよく理解されると考えられるが、現在開示されている主題の説明を容易にするために、定義を述べておく。
【0019】
別に定義されない限り、ここに使用される全ての技術用語および科学的用語は、この現在開示されている主題が属する技術の当業者により一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0020】
ずっと昔からの特許法の慣例にしたがって、単数形は、特許請求の範囲を含む本明細書に使用される場合、「1つ以上」を称する。それゆえ、例えば、「細胞」への言及は、そのような細胞の複数を含み、その他も同様である。
【0021】
別記しない限り、明細書および特許請求の範囲に使用される、成分、反応条件などの性質、その他の量を表す全ての数は、全ての場合において「約」という用語により修飾されていると理解すべきである。したがって、そうではないと示されていない限り、本明細書および特許請求の範囲に述べられた数値パラメータは、現在開示されている主題により得ることが求められている所望の特性に応じて変動し得る近似である。
【0022】
ここに用いた「癌」という用語は、未制御の細胞分裂により生じる疾患および細胞の転移する能力、または余計な部位における新たな増殖を確立する能力を称する。「悪性の」、「悪性」、「新生物」、「腫瘍」という用語およびそのバリエーションは、癌性細胞または癌性細胞の群を称する。
【0023】
ここに用いた、「抗癌剤」、「抗癌化合物」、「抗新生物化合物」、「抗腫瘍薬」、「抗癌療法」という用語およびそのバリエーションは、癌細胞および腫瘍の増殖を防ぐことができる、または癌細胞を殺すことができる化合物を称する。
【0024】
特別なタイプの癌としては、以下に限られないが、多形性膠芽腫、皮膚癌、結合組織癌、脂肪癌、乳癌、肺癌、胃癌、膵臓癌、卵巣癌と生殖器癌、子宮頸がん、子宮癌、肛門性器癌、腎臓癌、膀胱癌、肝臓癌、結腸直腸癌または結腸癌と消化(GI)管癌、前立腺癌と生殖器癌、中枢神経系(CNS)癌、網膜癌、血液癌、リンパ球癌、および頭部癌と頚部癌が挙げられる。
【0025】
6−ホスホフルクト−2−キナーゼ/フルクトース−2,6−ビホスファターゼ3、すなわちPFKFB3は、抗癌治療法の開発のための分子標的である。現在、FPKFB3阻害剤の(E)−1−(ピリジン−4−イル)−3−(7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル)−プロプ−2−エン−1−オンが、先に記載されたキノリル−プロペノンと比べて、予期せぬほど優れた特性を有することが分かった。
【0027】
ここでは交換可能にPFK−158とも称される、(E)−1−(ピリジン−4−イル)−3−(7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル)−プロプ−2−エン−1−オンは、標的タンパク質のPFKFB3および癌細胞に対するインビトロの予期せぬ優れた有効性、並びに優れた薬物力学、安全性、および腫瘍阻害におけるインビボの有効性を示す。
【0028】
Chesney等に2012年1月3日に発行された米国特許第8088385号明細書に、1−ピリジン−3−イル−3−キノリン−3−イル−プロペノンが開示された。PFK−015とも称されるこの化合物は、腫瘍治療のマウス研究において立証された有効性を示す。
【0030】
PFK−158は、キノリン環の7位のトリフルオロメチル置換基の付加がPFK−015とは異なる。しかしながら、癌患者への非経口投与について安全であると一般に認識されている薬剤溶媒中の溶解度および安定性などのPFK−015の薬剤学的性質のために、その化合物は、癌患者の治療に使用するのに不適切となってしまう。
【0031】
PFK−015との構造的類似性にもかかわらず、直ぐに開示される化合物は、意外なほど優れたインビトロ特性、インビボ薬物速度論的特性、インビボ耐容性と安全性特性、および腫瘍増殖のインビボ阻害を示すことが研究により示唆される。全体として、これらの予期せぬ優れた特徴は、PFK−158が、癌および自己免疫疾患の比較的安全かつ効果的な治療法であることを示している。
【0032】
PFK−158をPFK−015と比較するインビトロデータは、PFK−158が、PFKFB3酵素活性の阻害、2デオキシグルコース取込みの阻害、およびインビトロでの癌細胞の死滅において優れた効能を示す。下記の表1参照のこと。
【0034】
表1は、意外なことに、本発明の化合物は、構造的に類似するPFK−015と比べると、2倍またはほぼ2倍の優れた有効性を示す。
【0035】
さらに、PFK−158は、予期せぬ優れた薬物速度論的特性も示す。表2に示されるように、T
1/2(半減期)、C
max(最高濃度)、AUC(曲線下の面積)、またはCl(清掃値)などの本発明の化合物のBalbcマウスにおいて得られた主要な薬物速度論的パラメータは、PFK−158が、同じ濃度(IV投薬)で投与されたPFK−015と比べて、予期せぬ優れた薬物動態学を示すことを示している。PFK−158は、PFK−015と比べて、より高いC
maxとAUC、より長い半減期、およびより低い清掃値を示す。
【0037】
さらに、時間の関数としてのヒトの肝臓ミクロソーム中の上記化合物のインビトロ安定性は、本発明の化合物が、予期せぬほど、著しくより安定している(ほぼ2倍の安定性の改善)ことを示している。下記の表3を参照のこと。
【0039】
いくつかの最大耐性用量研究および毒性研究が行われ、その結果は、PFK−158がPFK−015よりも安全であることを示した。C57/B16マウスおよびSDラットにおいて研究が行われた。最大耐性用量(MTD)は、3日オン/3日オフのスケジュールを使用した研究中に、10%を超える体重減少または動物の死のいずれかにより決定された。PFK−158については、MTDには到達せず、それゆえ、>45mg/kgと定義されたのに対し、PFK−015のMTDは、30mg/kgと著しく低かった。下記の表4を参照のこと。
【0041】
反復投薬スケジュールを使用して、PFK−158とPFK−015を比較する毒性研究をSDラットに行った。この研究は、5から30mg/kgに及ぶ服用レベルで行い、体重減少、挙動、臨床的兆候、および臨床化学について、動物をモニタした。研究の終わりに、肉眼的病理学および組織病理学を行った。実施したいずれの試験についても、PFK−158には有害な観察はなく、PFK−158は非常によく耐容性が示され、MTDは30mg/kgよりも高いであろうことを示した。2つの服用レベル(12および25mg/kg)でPFK−015について同じ研究を行い、両方の服用レベルでの有害な観察には、体重減少、消費飼料の減少、臨床的昏睡、赤血球数とリンパ球数と好中球数の増加、肉眼的所見と顕微鏡的所見、臨床病理学的所見、および死亡があった。これらの結果に基づいて、ラットにおけるPFK−015のMTDは、12mg/kgであると決定された。2つの化合物間のMTD値の差は、予期されておらず、薬物動態プロファイルからは予測されなかった。毒性研究は、PFK−158が、構造的に類似するPFK−015よりも著しく安全であることを示している。
【0042】
マウス癌モデルにおける腫瘍増殖の阻害でのPFK−158の有効性を決定する研究を行った。これらの研究は、PFK−158単独、および癌患者の治療に現在使用されている化合物との組合せで行った。肺癌モデル、膵臓癌モデル、および結腸癌モデルにおいて、研究を行った。各場合において、本発明の化合物は、顕著な体重減少も、死亡もなく、それらの研究に使用した対照(パクリタキセル、ゲムシタビン、およびイリノテカンなどのこれらの腫瘍タイプを治療するために臨床的に使用されている化学療法薬)と匹敵する、抗腫瘍活性である50%から70%に及ぶ腫瘍増殖阻害の著しい活性を示した(実施例4および
図6〜8を参照のこと)。PFK−015で治療した動物は同様の活性を示したが、有害な副作用を示す他の臨床的観察と共に、15%を超える体重減少が観察されたので、治療は同様には耐容性が示されなかった。PFK−158は、構造的に類似するPFK−015よりも良好に耐容性が示され、より安全である。異なる抗腫瘍化合物の組合せの恩恵を最小にする致死的副作用を増加させずに、その組合せで腫瘍増殖の阻害を増大させることができるので、この耐容性の恩恵は著しい。
【0043】
さらに、PFK−158の可溶性特徴は、要求される場合、その化合物は、リン脂質水性エマルション、または乳化剤を含まず溶媒を含まない水溶液のいずれかを使用して投与できるようなものである。意外なことに、本発明による化合物は、上述した製剤において、これらの溶液中で急激な光異性化を経ない。それゆえ、予期せずに加わった恩恵により、癌または自己免疫疾患を患う患者への投与が簡単になり、UV曝露を低減させるために、琥珀色の配管またはオーバーポーチ(over-pouches)を必ずしも必要としない。
【0044】
I.化合物
1つの実施の形態において、以下の構造式:
【0046】
を有する化合物(E)−1−(ピリジン−4−イル)−3−(7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル)−プロプ−2−エン−1−オンが提供され、これは、任意の薬学的に許容される塩、異性体、プロドラッグ、またはその代謝産物を含む。
【0047】
II.化学合成
(E)−1−(ピリジン−4−イル)−3−(7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル)−プロプ−2−エン−1−オン、すなわち、PFK−158は、有機合成の技術分野の当業者に公知の合成方法およびそのバリエーションと共に、下記のスキームIまたはIIに記載された一般方法を使用して調製される。
【0048】
下記のスキームに手短に記載されるように、本発明の化合物は、適切な塩基の存在下での対応するキノリンアルデヒドの対応する未置換のアセチル誘導体との反応によって調製することができる。あるいは、このアルデヒドをホスホリリデン誘導体と反応させて、所望の生成物を得てもよい。
【0049】
本発明の化合物を調製するための2つの詳細な合成スキームが下記に記載されている。
【0050】
1−ピリジン−4−イル−3−[7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル]プロプ−2−エン−1−オン(3−5)の調製:
イソプロピルアルコール(75mL)中の7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−カルバルデヒド(1−7)(3g、13.32ミリモル)および4−アセチルピリジン(4−1)(1.93g、15.98ミリモル、1.2当量)の混合物にトリエチルアミン(0.96mL、6.6ミリモル、0.5当量)を室温で加えた。この反応混合物を室温で4時間に亘り撹拌し、次いで、16時間に亘り加熱して還流させた。この反応混合物を35mLに濃縮し、0℃に冷却した。沈殿した生成物を濾過により収集し、冷えたイソプロピルアルコールでよく洗浄し(5×2mL)、真空下で乾燥させて、化合物3−5(1.47g、33%)を得た。
1H NMR (300 MHz, DMSO-d
6): δ 8.90 (d, J = 5.40 Hz, 2H), 8.66 (d, J = 8.70 Hz, 1H), 8.42-8.36 (m, 2H), 8.33-8.26 (m, 2H), 8.02 (d, J = 5.40 Hz, 2H),7.95-7.87 (m, 2H). HPLC 純度 (面積 %): DMSO中1000 ppmで100 %。
【0051】
2−ブロモ−1−ピリジン−4−イル−エタノンヒドロブロミド(3−2)の調製:
【0053】
CCl
4(2.5L)中の3−1(100g、825.491ミリモル)の撹拌溶液に臭素(131.92g、825.49ミリモル)を室温でゆっくりと加えた。次いで、この反応混合物をゆっくりと加熱して、1時間に亘り還流させた[反応は、発熱性であり、一度72℃に到達したら、激しくなるであろう]。その生成物は、薄黄色の固体として沈殿した。次いで、この反応混合物を室温に冷却し、生成物を濾過により収集し、ジエチルエーテル(合計で1.5L)で3回洗浄し、乾燥させて、化合物3−2(234.6g)を得た。
【0054】
臭化(2−オキソ−2−ピリジン−4−イル−エチル)−トリフェニル−ホスホニウム(3−3)の調製
【0056】
窒素雰囲気において、THF(2L)中の3−2(234g、835.05ミリモル)の微細懸濁液に、脱酸素THF(5L)中のトリフェニルホスフィン(219.46g、836.72ミリモル)を6等分して室温で加えた。次いで、トリエチルアミン(84.49g、835.05ミリモル)を室温で加え、得られた混合物を室温で15分間に亘り撹拌し、次いで、激しく撹拌しながら一晩、加熱して還流させた。次いで、その反応混合物を室温に冷却した。沈殿した薄茶色の固体を濾過により収集し、ジエチルエーテル(合計で1.5L)で3回洗浄し、乾燥させて、化合物3−3(385.85g)を得た。
【0057】
1−ピリジン−4−イル−2−(トリフェニル−λ
5−ホスファニリデン)エタノン(3−4)の調製
【0059】
メタノール(0.762L)と蒸留水(1.43L)の混合溶媒系中の3−3(385.85g、834.59ミリモル)の溶液に、3Nの水酸化ナトリウム水溶液(2.85L)を室温でゆっくりと加え、その反応混合物を室温で一晩撹拌した。減圧下でメタノールを蒸発させ、水性残留物中に得られた生成物を濾過により収集し、蒸留水(2L)およびジエチルエーテル(1.5L)で洗浄し、乾燥させて、茶色の固体として生成物3−4(115g、36%)を得た。
【0060】
1−ピリジン−4−イル−3−[7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル]プロプ−2−エン−1−オン(3−5)の調製:
【0062】
トルエン(1L)中の3−4(84.6g、0.222モル)の溶液に、7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−カルバルデヒド1−7(50g、222ミリモル)を室温で加えた。この反応混合物をゆっくりと加熱して還流させ、17時間に亘り還流の状態に維持した(反応の進行は、TLCおよび質量分光法によりモニタした)。減圧下でトルエンを蒸留して除去し、残留物を暖かいエタノールから結晶化させて、純粋な3−5(46.14g、63.3%)を得た。C
18H
14N
2O
2(M+H
+)329.3について計算したMSが329.3であることが分かった。
1H NMR (300 MHz, DMSO-d
6): δ 8.90 (d, J = 5.40 Hz, 2H), 8.66 (d, J = 8.70 Hz, 1H), 8.42-8.36 (m, 2H), 8.33-8.26 (m, 2H), 8.02 (d, J = 5.40 Hz, 2H),7.95-7.87 (m, 2H). HPLC 純度 99.74% (面積 %)。
【0063】
III.医薬組成物
その薬学的に許容される塩を含む、(E)−1−(ピリジン−4−イル)−3−(7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル)−プロプ−2−エン−1−オン(PFK−158)は、単独で、または医薬組成物の一部としてのいずれかで、対象に投与することができる。
【0064】
PFK−158を含む医薬組成物もここに提供される。これらの医薬組成物は、薬学的に許容される担体中にPFK−158を含む。以下により詳しく論じられるように、静脈内投与または非経口投与のための医薬製剤を調製することができる。また、投与のための薬学的に許容される組成物(ヒトにおいて薬学的に許容される組成物を含む)を形成するために、PFK−158を溶解させても差し支えない。
【0065】
ここに用いた「担体」という用語は、使用される投薬量および濃度でそれに曝露されている細胞または哺乳類にとって非毒性である、薬学的に許容される担体、賦形剤、または安定剤を含む。
【0066】
その使用がここに記載された実施の形態の範囲内である、PFK−158の治療効果のある投薬量は、対象によっていくぶん異なり、対象の状態および送達経路に依存する。一般的な計画として、約0.1から約500mg/kgの投薬量に治療効果があり、全質量は、塩が利用される場合を含む、活性化合物の質量に基づいて計算される。
【0067】
ここに開示されている方法によれば、PFK−158は、溶液、懸濁液、またはエマルションとして、筋肉内、皮下、動脈内、または静脈内に投与することができる。あるいは、前記化合物またはその塩は、リポソーム懸濁液として、静脈内、動脈内、または筋肉内に投与しても差し支えない。
【0068】
静脈または筋肉注射に適した医薬組成物が、ここに提供されるさらに別の実施の形態である。溶液が望ましい場合、水が最適な担体である。水溶液に関して、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、またはそれらの混合物などの乳化剤および/または薬学的に許容される有機ビヒクルが適していることがある。溶液またはエマルションを安定に維持するために乳化剤が必要な場合、以下に限られないが、ポリエトキシル化ヒマシ油由来の、Cremophor(登録商標)、RH 40 Cremophor(登録商標)として知られているものとそれらの全ての誘導体、ポリエトキシル化ソルビタンとオレイン酸由来の、Tween 60または80(登録商標)、Polysorbate 60または80(登録商標)として知られているものとそれらの全ての誘導体、アルファ−トコフェロールとその誘導体由来のものなどの乳化剤が適する可能性がある。Captisol(登録商標)またはKleptose(登録商標)などのシクロデキストリンのような包接錯体を形成する分子を使用することにより、溶媒や乳化剤を用いずに、水性製剤を得ることができる。いずれの場合においても、次いで、調製された溶液は、当業者に公知の適切な様式で、典型的に、0.22マイクロメートルのフィルタに通す濾過により、殺菌することができる。殺菌後、その溶液は、発熱性物質除去処理を施したガラス製バイアルなどの適切な容器中に分配することができる。分配は無菌方法によって行うことが好ましい。次いで、そのバイアルに、殺菌済み蓋を配置し、所望であれば、バイアルの内容物を凍結乾燥しても差し支えない。
【0069】
その薬学的に許容される塩を含む、本発明の化合物に加え、医薬組成物は、pH調整添加剤などの他の添加剤を含有しても差し支えない。特に、有用なpH調整剤として、塩化水素酸などの酸類、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、またはグルコン酸ナトリウムなどの塩基類または緩衝剤が挙げられる。さらに、その組成物は、抗菌性保存剤を含有しても差し支えない。有用な抗菌性保存剤としては、メチルパラベン、プロピルパラベン、およびベンジルアルコールが挙げられる。その抗菌性保存剤は、典型的に、多数回投与のために設計されたバイアルに製剤が入れられる場合に、利用される。ここに記載された医薬組成物は、当該技術分野によく知られた技法を使用して凍結乾燥しても差し支えない。
【0070】
さらに別の実施の形態において、密封容器内に単位投薬形態で、PFK−158またはその薬学的に許容される塩を含む、注射用の安定な滅菌製剤が提供される。その化合物は、凍結乾燥物の形態で提供され、これは、対象へのその注射に適した液体製剤を形成するために、適切な薬学的に許容される担体で戻すことができる。その単位投薬形態は、典型的に、約10mgから約10グラムの化合物塩を含む。
【0071】
ここに提供される追加の実施の形態は、ここに開示された活性化合物のリポソーム製剤を含む。リポソーム懸濁液を形成するための技術は当該技術分野によく知られている。
【0072】
IV.細胞増殖を阻害し、癌を治療する方法
(E)−1−(ピリジン−4−イル)−3−(7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル)−プロプ−2−エン−1−オン(PFK−158)およびその化合物を含む組成物が、細胞増殖を阻害するおよび/または癌を治療する方法に有用である。
【0073】
いくつかの実施の形態において、細胞増殖を阻害するまたは癌を治療する方法は、それを必要とする対象に、ここに記載された抗腫瘍化合物PFK−158を投与する工程を含む。先に記載された活性化合物は、化合物およびその薬学的に許容される塩を含む。いくつかの実施の形態において、その活性化合物は、先に記載されたような医薬製剤中に存在する。
【0074】
現在開示されている化合物は、多形性膠芽腫、皮膚癌、結合組織癌、脂肪癌、乳癌、肺癌、胃癌、膵臓癌、卵巣癌と生殖器癌、子宮頸がん、子宮癌、肛門性器癌、腎臓癌、膀胱癌、肝臓癌、結腸直腸癌または結腸癌と消化(GI)管癌、前立腺癌と生殖器癌、中枢神経系(CNS)癌、網膜癌、血液癌、リンパ球癌、および頭部癌と頚部癌を含む、幅広い腫瘍と癌の治療法を提供できる。
【0075】
癌の治療に関してここに定義された「有効量」は、癌細胞または腫瘍の増殖を減少させる、低減する、阻害する、または他の様式で抑止する量である。いくつかの実施の形態において、ここに記載された化合物は、対象の体の特定の病変部位に局部的に送達できる。そのような治療がより適していると考えられるいくつかの実施の形態において、その化合物は全身投与しても差し支えない。例えば、その化合物を静脈内投与しても差し支えない。
【0076】
その上、癌の治療のための治療的有用性は、その治療を1つ以上の追加の抗癌剤または治療と組み合わせることによって、実現することができると認識されるであろう。そのような組合せの選択は、以下に限られないが、疾患のタイプ、対象の年齢と全体的な健康、疾患の進行の悪性度、およびその組合せを含む作用物質に耐容性を示す対象の能力を含む様々な容易に依存する。
【0077】
このように、「抗癌剤」または「化学療法薬」とも記載される、多種多様な化合物をPFK−158との組合せで使用できる。そのような化合物としては、以下に限られないが、アルキル化剤、DNA挿入剤、タンパク質合成阻害剤、DNAまたはRNA合成の阻害剤、DNA塩基類似体、トポイソメラーゼ阻害剤、血管新生阻害剤、およびテロメラーゼ阻害剤またはテロメアDNA結合化合物が挙げられる。例えば、適切なアルキル化剤としては、ブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファンなどのアルキルホスホネート;ベンゾジゼパ、カルボコン、メツレデパ、およびウレデパなどのアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、およびトリメチロールメラミンなどのエチレンイミンおよびメチルメラミン;クロラムブシル、クロルナファジン、シクロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベンビチン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、およびウラシル・マスタードなどのナイトロジェン・マスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムスチンなどのニトロソウレアが挙げられる。
【0078】
癌の治療に使用される抗生物質としては、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、硫酸ブレオマイシン、マイトマイシン、プリカマイシン、およびストレプトゾシンが挙げられる。化学療法代謝拮抗物質としては、メルカプトプリン、チオグアニン、クラドリビン、リン酸フルダラビン、フルオロウラシル(5−FU)、フロクスウリジン、シタラビン、ペントスタチン、メトトレキサート、およびアザチオプリン、アシクロビル、アデニンβ−1−D−アラビノシド、アメソプテリン、アミノプテリン、2−アミノプリン、アフィジコリン、8−アザグアニン、アザセリン、6−アザウラシル、2’−アジド−2’−デオキシヌクレオシド、5−ブロモデオキシシチジン、シトシンβ−1−D−アラビノシド、ジアゾオキシノルロイシン、ジデオキシヌクレオシド、5−フルオロデオキシシチジン、5−フルオロデオキシウリジン、およびヒドロキシウレアが挙げられる。
【0079】
化学療法タンパク質合成阻害剤としては、アブリン、アウリントリカルボン酸、クロラムフェニコール、コリシンE3、シクロヘキシミド、ジフテリア毒素、エデインA、エメチン、エリスロマイシン、エチオニン、フッ化物、5−フルオロトリプトファン、フシジン酸、グアニリルメチレンジホスホン酸およびグアニリルイミドジホスホン酸、カナマイシン、カスガマイシン、キロマイシン、およびO−メチルトレオニンが挙げられる。追加のタンパク質合成阻害剤としては、モデシン、ネオマイシン、ノルバリン、パクタマイシン、パロモマイシン、プロマイシン、リシン、志賀毒素、ショウドマイシン、スパルソマイシン、スペクチノマイシン、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、チオストレプトン、およびトリメトプリムが挙げられる。硫酸ジメチル、マイトマイシンC、ナイトロジェン・マスタードおよび硫黄マスタードなどのアルキル化剤;アクリジン色素、アクチノマイシン、アドリアマイシン、アントラセン、ベンゾピレン、臭化エチジウム、二ヨウ化プロピジウム(propidium diiodide-intertwining)などの挿入剤;およびジスタマイシンおよびネトロプシンなどの作用物質を含む、DNA合成阻害剤も、医薬組成物においてPFK−158と組み合わせることもできる。クーママイシン、ナリジクス酸、ノボビオシン、オキソリン酸などのトポイソメラーゼ阻害剤;コルセミド、コルヒチン、ビンブラスチン、およびビンクリスチンを含む細胞分裂阻害剤;およびアクチノマイシンD、α−アマニチンおよび他の菌性アマトキシン、コルジセピン(3’−デオキシアデノシン)、ジクロロリボフラノシルベンズイミダゾール、リファンピシン、ストレプトバリシン、およびストレプトリジギンを含むRNA合成阻害剤も、適切な癌治療を提供するために、PFK−158と組み合わせることもできる。
【0080】
このように、PFK−158との併用療法に使用できる現在の抗癌剤としては、以下に限られないが、アドリアマイシン、5−フルオロウラシル(5FU)、エトポシド、カンプトテシン、アクチノマイシン−D、マイトマイシン、シスプラチン、過酸化水素、カルボプラチン、オキサリプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、イフォスファミド、メルファラン、クロランブシル、ブスルファン、ニトロソウレア、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリカマイシン、タモキシフェン、パクリタキセル、ドセタキセル、トランスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、メトトレキサート、イリノテカン、ロイコボリン、ベバシズマブ、セツキシマブ、スニチニブ、イマチニブ、テモゾロミド、ゲムシタビンなどが挙げられる。
【0081】
本発明の化合物および別の化学療法薬などの別の治療薬を含む併用療法は、実質的に同時に両方の薬剤を使用することによって、行っても差し支えない。あるいは、本発明の化合物による治療は、数分から数週間までに及ぶ間隔だけ、他の作用物質による治療の先になっても、後になっても差し支えない。
【0082】
化学療法薬の投与の1つの様式は非経口投与によるものであり、これには、非経口投与に適した溶媒中の薬剤の溶解度が必要である。適切な溶媒または溶媒混合液の非限定的例としては、生理食塩水(注射のための水中0.9%の塩化ナトリウム)、D5WまたはD10W(注射のために水中、それぞれ、5%または10%のグルコースまたはデキストロース)、および乳酸リンゲル液などの非経口溶液との組合せのCremophor、Tween、ポリエチレングリコール、および/またはポリプロピレングリコールが挙げられる。
【0083】
したがって、1つの実施の形態において、(E)−1−(ピリジン−4−イル)−3−(7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル)−プロプ−2−エン−1−オン、またはその薬学的に許容されるその塩からなる、癌の治療のための化合物であって、式:
【0086】
別の実施の形態において、(a)有効量の(E)−1−(ピリジン−4−イル)−3−(7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル)−プロプ−2−エン−1−オン、またはその薬学的に許容されるその塩;および(b)少なくとも1種類の薬学的に許容される担体を含む、癌の治療のための医薬組成物が提供される。さらに別の実施の形態において、その組成物は、第2の抗癌剤を追加に含む。ある実施の形態において、その第2の抗癌剤は、パクリタキセル、ドセタキセル、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、5−FU、イリノテカン、メトトレキサート、ロイコボリン、ベバシズマブ、セツキシマブ、スニチニブ、イマチニブ、テモゾロミド、およびゲムシタビンからなる群より選択される。そのような医薬組成物は、多形性膠芽腫、皮膚癌、結合組織癌、脂肪癌、乳癌、肺癌、胃癌、膵臓癌、卵巣癌と生殖器癌、子宮頸がん、子宮癌、肛門性器癌、腎臓癌、膀胱癌、肝臓癌、結腸直腸癌または結腸癌と消化(GI)管癌、前立腺癌と生殖器癌、中枢神経系(CNS)癌、網膜癌、血液癌、リンパ球癌、および頭部癌と頚部癌を含む、PFKFB3の阻害により治療可能な様々な癌の治療において有用である。
【0087】
別の実施の形態において、癌を治療する方法であって、それを必要とする対象に、有効量の(E)−1−(ピリジン−4−イル)−3−(7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル)−プロプ−2−エン−1−オンまたはその薬学的に許容される塩を投与する工程を含む方法が提供される。この方法は、多形性膠芽腫、皮膚癌、結合組織癌、脂肪癌、乳癌、肺癌、胃癌、膵臓癌、卵巣癌と生殖器癌、子宮頸がん、子宮癌、肛門性器癌、腎臓癌、膀胱癌、肝臓癌、結腸直腸癌または結腸癌と消化(GI)管癌、前立腺癌と生殖器癌、中枢神経系(CNS)癌、網膜癌、血液癌、リンパ球癌、および頭部癌と頚部癌を含む、PFKFB3の阻害により治療可能な様々な癌の治療において有用である。さらに別の実施の形態において、前記方法は、第2の抗癌剤を投与する工程をさらに含む。特別な実施の形態において、その第2の抗癌剤は、パクリタキセル、ドセタキセル、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、5−FU、イリノテカン、メトトレキサート、ロイコボリン、ベバシズマブ、セツキシマブ、スニチニブ、イマチニブ、テモゾロミド、およびゲムシタビンからなる群より選択される。その第2の抗癌剤は、(E)−1−(ピリジン−4−イル)−3−(7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル)−プロプ−2−エン−1−オンと同時投与しても、または(E)−1−(ピリジン−4−イル)−3−(7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル)−プロプ−2−エン−1−オンの前または後に投与しても差し支えない。
【0088】
別の実施の形態において、腫瘍を治療する方法であって、それを必要とする対象に、有効量の(E)−1−(ピリジン−4−イル)−3−(7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル)−プロプ−2−エン−1−オンまたはその薬学的に許容される塩を投与する工程を含む方法が提供される。さらに別の実施の形態において、前記方法は、第2の抗癌剤を投与する工程をさらに含む。特別な実施の形態において、その第2の抗癌剤は、パクリタキセル、ドセタキセル、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、5−FU、イリノテカン、メトトレキサート、ロイコボリン、ベバシズマブ、セツキシマブ、スニチニブ、イマチニブ、テモゾロミド、およびゲムシタビンからなる群より選択される。その第2の抗癌剤は、(E)−1−(ピリジン−4−イル)−3−(7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル)−プロプ−2−エン−1−オンと同時投与しても、または(E)−1−(ピリジン−4−イル)−3−(7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル)−プロプ−2−エン−1−オンの前または後に投与しても差し支えない。
【0089】
さらにまた別の実施の形態において、細胞中の解糖流量を抑制する方法であって、細胞を、有効量の(E)−1−(ピリジン−4−イル)−3−(7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル)−プロプ−2−エン−1−オンまたはその薬学的に許容される塩と接触させる工程を含む方法が提供される。
【0090】
別の実施の形態において、細胞中のPFKFB3の酵素活性を抑制する方法であって、細胞を、有効量の(E)−1−(ピリジン−4−イル)−3−(7−(トリフルオロメチル)キノリン−2−イル)−プロプ−2−エン−1−オンまたはその薬学的に許容される塩と接触させる工程を含む方法が提供される。
【0091】
これらと他の実施の形態は、以下の実施例を踏まえると、さらに理解されるであろう。
【実施例】
【0092】
以下の実施例は、説明のためだけに与えられ、本発明の範囲を制限することを目的としていない。
【0093】
実施例1
癌細胞増殖の阻害
PFK−158の癌細胞を死滅させるまたはその増殖を阻害する能力を、48または72時間の曝露を使用した、MTTアッセイ、AlamarBlue(登録商標)アッセイ(ニューヨーク州、グランドアイランド所在のInvitrogen社)、またはCellTiter Glo(商標)アッセイ(ウィスコンシン州、マディソン所在のPromega社)のいずれかを使用して測定した。様々な癌細胞株に関するMTTアッセイ結果が、下記の表5に示されており、PFK−158が、いくつかのタイプの癌細胞株に亘り低いナノモル濃度で癌細胞の増殖を阻害することを示している。
【0094】
所望の腫瘍細胞株の細胞を、96ウェルプレート中に2×10
5細胞/mlで平板培養した。本発明の化合物の指示濃度の2倍を、翌日に等容積の媒質中で細胞に加えた。72時間後、細胞を溶解させ、CellTiter−Glo(商標)Luminescent Cell Ciability Assayキットを使用してATP測定を行った。実験は三重に行った。MTTアッセイまたはalamarBlue(登録商標)アッセイを使用した場合、実験条件は実質的に同様である;インキュベーション期間の終わりに、ウェル当たりで20マイクロリットルのMTT溶液を加え、サンプルをさらに4時間に亘りインキュベーションし、濯ぎ、570nmでの吸光度を測定した。細胞増殖の阻害に関する結果が、IC50(細胞集団の増殖の50%の阻害をもたらす濃度)として報告されており、下記の表5に列挙されている。細胞株は、肺、結腸、前立腺、乳、卵巣、および膵臓の癌細胞株を含む。
【0095】
【表5】
【0096】
実施例2
細胞中の組換えPFKFB3、PFKFB3、および細胞中のグルコース取込みの阻害
PFK−158が酵素活性を阻害するか否かを判定するために、誘導型二官能性6−ホスホフルクト−2−キナーゼ/フルクトース−2,6−ビホスファターゼ酵素(PFKFB3)を発現し、精製した。PFKFB3は、大腸菌内の発現により調製し、GSTカラムおよびカラムクロマトグラフィーにより精製した。SDS Pageクマシー染色ゲルは、純度が高い(>95%)ことを示した。組換えタンパク質は、市販のキナーゼ活性アッセイ(ウィスコンシン州、マディソン所在のPromega社、ADP−Glo(商標))の結果により、純粋かつ活性であると判定された。同じアッセイを使用して、そのタンパク質の阻害を判定し、その結果が、137±15nMのIC
50をもたらすPFK−158の阻害曲線を表す
図1に示されている。
【0097】
Van Schaftingenの方法(
Eur.J. of Biochem, 129: 191(1982))にしたがって、フルクトース−2,6−ビホスフェートレベルを測定することによって、細胞中のPFKFB3の阻害も測定できる。この方法により、純粋な組換えタンパク質よりも関連性のあるモデルである、細胞環境中の阻害の測定が可能になる。手短に言えば、ジャーカット細胞を1×10
5細胞/mlで平板培養し、3時間に亘り様々な濃度のPFK−158と共にインキュベーションした。サンプルを収集し、細胞を溶解した。抽出物は、先の報告に記載されたように特徴付け、タンパク質濃度に正規化した。結果により、PFK−158が1.6±0.8μMのIC
50を有することが示されている。
図3を参照のこと。
【0098】
PFKFB3の阻害により、解糖が阻害される。いくつかのフィードバックまたはフィードフォワード活性化および阻害機構が、フィードバック機構により、PFKFB3の活性を阻害すると、細胞によるグルコース取込みが阻害されるかもしれないように存在する。PFK−158への曝露後のグルコース取込みの阻害があるか否かを判定するためのアッセイを開発した。手短に言えば、ジャーカット細胞を、10%のウシ胎児血清および50μg/mLの硫酸ゲンタマイシンが補給されたRPMI 1640中に10
5細胞/mLで平板培養した。細胞を直ぐに、3時間に亘り、ビヒクルまたは0.5μモル/LのPFK−158で処理し、その後、30分間に亘りグルコースを含まないRPMI 1640中に置いた。
14C−2−デオキシグルコース(0.25μCi/mL;Perkin Elmer社)をさらに60分間で加え、次いで、細胞を、グルコースを含まない氷冷RPMI 1640で3回洗浄した。細胞溶解物を、500μLの0.1%のSDS中に収集し、400μLの溶解物についてシンチレーション計数(カウント/分)を測定した。カウントは、タンパク質濃度に正規化した。その結果により、PFK−158が847±150nMのIC
50を有することが示されている。
図2を参照のこと。
【0099】
これらの結果により、本発明の化合物は、PFKFB3の潜在的な阻害剤であり、下記の表6に纏められているように、低いナノモル濃度のIC
50を有することが確認された。
【0100】
【表6】
【0101】
実施例3
薬物動態学
マウスとラットにおけるIV(静脈内)投与後に、マウスにおいてPFK−158に関する薬物速度論的(PK)パラメータを決定した。典型的な研究設計は、週齢7から8週の6匹の動物(雄または雌)を含む。
【0102】
10%のDMSO、10%のPEG−200、10%のSolutol:エタノール(1:1)および70%のD5W溶液または任意の他の薬学的に許容される非経口製剤を使用したIV投与後に、5mg/kgの用量を使用して、マウスの薬物速度論的特性を決定した。様々な間隔で血液サンプルを採血した。血漿サンプルを抽出し、LC−MS/MS法を使用して分析した。ラットPK研究(Sprague Dawleyラット;30mg/kg)について、類似のプロトコルを使用したが、ラットPK研究のための製剤は異なった(30%のCaptisol、pH3.0の溶液)。時間対血漿濃度のプロットを、それぞれ、
図4(BalbCマウス)および
図5(SDラット)に示されたように作成した。薬物速度論的パラメータを計算し、それらが下記の表7に与えられている。
【0103】
【表7】
【0104】
結果は、本発明の化合物が、長期間に亘る曝露を支援する適度に長い半減期、高い最高濃度、および高いAUCを有し、これらが高い薬物濃度および曝露を支援することを示している。
【0105】
実施例4
有効性研究
PFK−158の有効性を腫瘍モデルにおいてインビボで研究した。これらの研究において、いくつかの腫瘍モデルを使用した(Lewis肺癌、すなわちLLCモデル、CT−26結腸癌腫瘍モデル、またはBXPC3膵臓癌モデル)。LLC研究に関する実験プロトコルが下記に記載されている。腫瘍細胞の皮下移植後に、腫瘍が成長し始め、腫瘍が平均で100〜125mm
3の所望の容積に一旦到達したら、治療を開始した。腫瘍容積を両方の群においてモニタし、対照群と治療群の両方に関するその平均を、体重と共に、週に3回測定した。
【0106】
手短に言えば、週齢7〜8週の正常な雌のC57BL/6マウスをこの研究に使用した。マウスは、飼料と水を不断に与えつつ、マイクロアイソレータ・ハウジング内に収容し、研究の開始前に4日間に亘り隔離した。LLC細胞は、空気中5%のCO
2の雰囲気において、37℃で、10%の熱不活化ウシ胎児血清、100U/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシン、並びにL−グルタミン(2mM)が補給されたDMEM培地内の単層培養に維持した。腫瘍細胞を、週2回、定期的に継代培養した。指数増殖期で増殖している細胞を収穫し、腫瘍接種のために計数した。腫瘍成長のために、各マウスに、0.1mlのPBS中のLLC腫瘍細胞(3×10
5)を右側腹部に皮下移植した。BxPC3モデルに関するように、無胸腺マウスを使用した場合、マウスの株はわずかに異なる。さらに、Matrigelの使用は腫瘍成長を支持し、これは、細胞が、培地/Matrigel(1:1)の混合物100μl中に懸濁され、次いで、右側腹部領域に皮下移植されることを意味する。細胞移植後、腫瘍成長について、動物を毎日モニタした。腫瘍容積が約100〜125mm
3に到達したときに、平均値に最も近い腫瘍容積を有するマウスのみを使用して、マウスを無作為に各8匹のマウスの群に分けた。式V=L×W×H×π/6を使用して腫瘍容積を測定した。式中、LおよびWは、腫瘍の最長直径と最短直径を表し、Hは腫瘍の高さを表す。治療は、ランダム化後に始めた。PFK−158は、1、3、5、7、9、11、および13日目に、60mg/kgの用量でIP投与した。薬物治療からの可能性のある毒作用について、動物を観察した。体重を記録し、それにより、この化合物に非常に十分な耐容性が示され、著しい体重減少はなかったことを示された。その結果が、
図6に示されている。
【0107】
異なるモデルを使用した他の研究について、類似のプロトコルを使用した;その差異は、Balbc/ヌードマウスの使用;より多い数の癌細胞の投与;およびMatrigelの使用を含んだ。いくつかの研究の結果が、
図6〜8に示されており、本発明の化合物は、異なる腫瘍タイプにおいて腫瘍成長をインビボで阻害する一方で、非常に十分に耐容性が示され、体重減少も、動物の死亡も観察されなかったことを示している。さらに、PFK−158が他の化学療法薬と組み合わされた場合、追加の効果または相乗効果が観察された。
【0108】
実施例5
PFK−158のキノリル−プロペノン化合物との比較
先の表1に詳述されたのと同じ方法を使用して、PFK−158を、PFK−015足場:1−ピリジン−4−イル−3−(キノリン−2−イル)−プロペノンに官能基を担持する5つの構造的に類似するキノリル−プロペノン化合物と比較した:3−(6−メトキシ−キノリン−2−イル)−1−ピリジン−4−イル−プロペノン(PFK−138)、1−(2−メトキシ−ピリジン−4−イル)−3−(6−メトキシ−キノリン−2−イル)−プロペノン(PFK−144)、3−(6−(2−ピペリジン−1−イル−エトキシ)−キノリン−2−イル)−1−ピリジン−4−イル−プロペノン(PFK−150)、1−ピリジン−4−イル−3−(8−トリフルオロメチル−キノリン−2−イル)−プロペノン(PFK−153)、および3−(7−メチル−キノリン−2−イル)−1−ピリジン−4−イル−プロペノン(PFK−154)。
【0109】
その結果は、PFK−015が、PFK−015の列挙されたキノリル−プロペノン変種の各々と比べた場合、PFKFB3および2デオキシグルコースの優れたインビトロ阻害、並びにジャーカット細胞に対する優れた有効性を示すことを示している。多くの場合、PFK−158は、試験化合物と比べて、2倍から6倍改善された性能を示した。下記の表8を参照のこと。
【0110】
【表8】
【0111】
さらに、PFK−158は、試験化合物と比較した場合、予期せぬ優れた薬物速度論的特性も示す。表9に示されるように、T
1/2(半減期)、C
max(最高濃度)、AUC(曲線下の面積)、またはCl(清掃値)などの、BalbCマウスに得られた主要な薬物速度論的パラメータは、PFK−158が、同じ濃度で投与された(IV投薬)構造的に類似するキノリル−プロペノンと比べて、予期せぬ優れた薬物動態学を示すことを示している。PFK−158は、試験化合物と比べて、より高いC
maxとAUC、より長い半減期、およびより低い清掃値を示す。
【0112】
【表9】
【0113】
このインビトロデータおよびインビボ薬物速度論的データは、共に解釈すると、PFK−158が試験類似体と比べて驚くほど優れていることを示す。PFK−158は、インビトロ細胞活性およびインビボ薬物速度論的特性の優れた組合せを有する;PFK−158に近い類似体は、PFK−158に観察された並外れた薬物速度論的特性との組合せで、PFKFB3および癌細胞に対して同じレベルの活性を持たない。
【0114】
実施例6
IV投与のための製剤
PFK−158およびその塩は、Cremophor(登録商標)系製剤において調製できる。1つの実施の形態において、10mgのPFK−158を、1mlの1:1 v:vのCremophor(登録商標):エチルアルコールの溶液中に、激しい撹拌を使用して溶解させる。一旦、この化合物が効果的に溶解されたら、その溶液を濾過し、次いで、1:9の比率で、生理食塩水、注射用蒸留水、乳酸菌リンゲル液、またはD5Wに加え、PFK−158の濃度が約1mg/mlの、粒子を含まない透明な溶液を得る。この組成物は、少なくとも6時間に亘り化学的に安定であり、ヒトを含む哺乳類に投与できる。
【0115】
別の実施の形態において、塩化物塩PFK−158、HClなどの、PFK−158の塩により、溶液を調製することができる。Tween 80(登録商標)などの乳化剤により、類似の製剤を調製できる。
【0116】
他の実施の形態において、追加の賦形剤を加えて、PFK−158またはPFK−158、HClの濃度を増加させる。適切な賦形剤としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリ塩化ビニリデンなどが挙げられる。
【0117】
別の実施の形態において、PFK−158のエマルションを、w/w基準で:1%のPFK−158、15%のE80(脂質系賦形剤)、5%の大豆油、2%のPolysorbate 80、10%のスクロース、67%の水で調製する。pHを5.5に調整し、次いで、その組成物を、任意の利用できる高速ミキサを使用してよく混合する。結果として得られたエマルションは、安定しており、ヒトを含む哺乳類に安全に静脈内投与できる。別の実施の形態において、前記エマルションは、0.5%のPFK−158、10%の大豆油、5.5%のMiglyol 812、5%のPL90G、10%のスクロース、および69%の脱イオン水を含む。これらの成分をよく混合し、次いで、高速ミキサを使用して乳化させる。要求されるサイズ、安定性、および活性濃度が達成できる限り、エマルションの調製に使用するのに、多くの異なる賦形剤が適している。
【0118】
別の実施の形態において、PFK−158およびその塩を癌患者に投与するために、シクロデキストリンを含有する溶液も使用できる。1つの実施の形態において、注射用蒸留水中30%w/vのCaptisol(登録商標)の溶液を調製し;次いで、5mg/mlのPFK−158、HCl溶液を生成するのに必要な量を加え、完全に溶解するまでその溶液を撹拌し、pHを3.5に調整する。この溶液は、ヒトを含む哺乳類に安全に投与できる。必要に応じて、この溶液を凍結乾燥しても差し支えない。注射用蒸留水を加えることにより、凍結乾燥物の再溶解が完了し、その時点で、この溶液は哺乳類へのIV投与に適している。
【0119】
実施例7
40mg/kgでのラットおよびイヌにおけるIV薬物速度論的パラメータ
別の実施の形態において、シクロデキストリン系溶液を使用して、ラットとイヌの両方においてより高い濃度でのPFK−158、HClのPKプロファイルを調査した。
【0120】
この溶液は、注射用蒸留水中40%w/vのCaptisol(登録商標)、5%のマンニトール、8mg/mlの濃度のPFK−158、2HClをもたらすpH2.3のクエン酸緩衝液により調製した。この溶液を、40mg/kgの用量でラットと犬に安全に投与した。血液サンプルを、24時間の期間に亘り採血し、分析した。それぞれ、雄および雌のラットについて、37,600±2800hr.ng/mLおよび27,700±5800hr.ng/mLの血漿AUC
0→t値、並びに51,400±6300ng/mLおよび39,500±10,000ng/mLの血漿C
max値が計算された。イヌにおいても同じ様式で薬物速度論的パラメータを計算した:それぞれ、雄および雌のイヌについて、16,100±700および15,900±2600hr.ng/mLの血漿AUC
0→24値、並びに6960±1180および6900±900ng/mLの血漿C
5min値が計算された。その結果は、両方の種における高い曝露を示した。
【0121】
実施例8
40mg/kgでのイヌにおける毒性研究
別の実施の形態において、合計で3週間の投薬計画について、週3日を使用して、雄と雌のビーグル犬における40mg/kgでのPFK−158(そのジカチオンの形態)の潜在毒性を調査した。PFK−158の潜在毒性は、生存期間中の全ての臨床的兆候をモニタし、完全な臨床化学パネルと尿検査のために血液サンプルと尿酸プルを採取し、体重と食物摂取をモニタすることによって、調査した。終了時に、全体の解剖および完全な組織病理学を行った。
【0122】
結果は、3週間に亘る週3回で投与された40mg/kgの用量で、PFK−158は、非常にうまく耐容性が示され、毒性の兆候がなかったこと示した。この用量は、NOAEL(観察できる有害事象レベルがない(No Observable Adverse Events Level))と特定され、800mg/m
2のヒト等価用量(HED)に相当する。先に実施例4に示されるように、PFK−158は、30mg/kgのIV用量および90mg/m
2のHEDで、いくつかの癌モデルにおいて良好な活性を示す。したがって、PFK−158は、開発をさらに支援する広い治療濃度域を有する。
【0123】
挙げられた全ての文献は、ここに引用される;任意の文献の引用は、本発明に関して従来技術であることを承認するものとして考えるべきではない。
【0124】
本発明の特別な実施の形態を説明し、記載してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱せずに、様々な他の変更および改変を行えることが、当業者には明白であろう。したがって、付随の特許請求の範囲において、本発明の範囲内であるそのような変更および改変の全てを網羅することが意図されている。