(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075920
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】内燃機関のためのスタート装置を操作する方法、制御装置、および内燃機関のためのスタート装置
(51)【国際特許分類】
F02N 11/08 20060101AFI20170130BHJP
【FI】
F02N11/08 W
F02N11/08 V
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-517647(P2015-517647)
(86)(22)【出願日】2013年5月15日
(65)【公表番号】特表2015-520326(P2015-520326A)
(43)【公表日】2015年7月16日
(86)【国際出願番号】EP2013060023
(87)【国際公開番号】WO2013189666
(87)【国際公開日】20131227
【審査請求日】2014年12月17日
(31)【優先権主張番号】102012210520.4
(32)【優先日】2012年6月21日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】キットナー,ビルジット
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,カール・オットー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイヒト,ヨゼフ
(72)【発明者】
【氏名】トゥンバック,シュテファン
【審査官】
小笠原 恵理
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/008045(WO,A1)
【文献】
特開2011−220144(JP,A)
【文献】
特開2011−214535(JP,A)
【文献】
特開2011−144797(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/008048(WO,A1)
【文献】
特開2010−236533(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/011167(WO,A1)
【文献】
特開2012−031819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02N 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のためのスタート装置を操作する方法において、
前記スタート装置は、
往復接極子(8)および前記往復接極子(8)を位置調整するための通電可能な引込巻線(7)と、切換接極子(23)および前記切換接極子(23)を位置調整するための通電可能な切換巻線(15)と、を備えるスタータリレー(6)と、
前記切換巻線(15)への通電によって前記切換接極子(23)が前記引込巻線(7)から遠ざかるように位置調整されることで、電気式のスタータモータ(11)をスイッチオンするスイッチオン装置(16)と、
を有しており、
前記切換巻線(15)は、前記引込巻線(7)と独立して通電可能であり、
前記往復接極子(8)の位置調整によって内燃機関(4)のリングギヤ(3)に噛合係合されるスタータピニオン(2)を、前記スタータモータ(11)によって回転駆動して前記内燃機関(4)をスタートさせるスタートプロセスにおいて、
前記リングギヤ(3)の回転数が限界値(nL)を下回っているケースについては、まず前記往復接極子(8)だけが位置調節され、噛合係合の後で初めて前記スタータモータ(11)の前記スイッチオン装置(16)がスイッチオンされ、
前記リングギヤ(3)の回転数が限界値(nL)を上回っているケースについては、前記スタータピニオン(2)が前記内燃機関(4)の前記リングギヤ(3)と接触する前にすでに前記スイッチオン装置(16)が前記スタータピニオン(2)の回転数を引き上げるためにスイッチオンされ、
前記スタートプロセスの中断のケースでは、前記引込巻線(7)および前記切換巻線(15)が通電されていない状態になり、引き続いて、前記切換接極子(23)を初期位置に戻すために前記引込巻線(7)が通電される、
方法。
【請求項2】
前記リングギヤ(3)の回転数が限界値(nL)を上回っているケースについては、前記スタータピニオン(2)の回転数は前記リングギヤ(3)の回転数よりも低いか、またはこれに等しい値まで引き上げられることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リングギヤ(3)の回転数が限界値(nL)を上回っているケースについては、前記スイッチオン装置(16)がスイッチオフされた状態で、前記引込巻線(7)が通電された後に、前記スイッチオン装置(16)が再びスイッチオンされることを特徴とする、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記リングギヤ(3)が反対方向へ回転しているケースについては、まず前記往復接極子(8)だけが位置調節され、噛合係合の後で初めて前記スタータモータ(11)の前記スイッチオン装置(16)がスイッチオンされることを特徴とする、
請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記スタータモータ(11)の前記スイッチオン装置(16)は、前記リングギヤ(3)の回転数が限界値(nL)を下回っているがゼロより大きいケースよりも、大きい時間遅延をもってスイッチオンされることを特徴とする、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記リングギヤ(3)の回転数がゼロであるケースについては、噛合係合の前であって且つ前記スタータピニオン(2)と前記リングギヤ(3)が歯と歯の向き合う位置にあるときに、前記スタータモータ(11)の前記スイッチオン装置(16)がスイッチオンされることを特徴とする、
請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記切換巻線(15)は定義されたタイムスパンの経過後にスイッチオフされ、それに対して前記引込巻線(7)は引き続き通電されたまま保たれることを特徴とする、
請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記引込巻線(7)は定義されたタイムスパンの経過後にスイッチオフされ、それに対して前記切換巻線(15)は通電されたまま保たれることを特徴とする、
請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記スタートプロセスの終了に際して、前記引込巻線(7)および前記切換巻線(15)への通電がスイッチオフされ、前記切換巻線(15)のスイッチオフの時点は前記引込巻線(7)のスイッチオフ時点に等しいか、または少なくともこれに隣接していることを特徴とする、
請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の方法を実施する、
制御装置。
【請求項11】
前記スタータリレー(6)と、前記スイッチオン装置(16)と、請求項10に記載の制御装置(10)と、を有している、
内燃機関のためのスタート装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のためのスタート装置を操作する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1より、軸方向で相前後して配置された2つの別々のリレー巻線をハウジングの中に有する、電磁式のスタータリレーを備えたスタート装置が公知である。第1のリレー巻線は引込巻線の役目を有しており、押込レバーを介してスタート装置のスタータピニオンと連結された往復接極子を位置調節する。引込巻線に通電されると、引き込まれた不機能位置と、スタータピニオンが内燃機関のリングギヤに係合する軸方向で前に押された係合位置との間でスタータピニオンが位置調節される。第2のリレー巻線は切換巻線として機能し、切換装置に付属しており、この切換装置を介して、スタータピニオンを駆動するための電気式のスタータモータの電気回路がオンないしオフに切り換えられる。切換巻線には、スイッチオン巻線が通電されたときにスタータモータの電気回路を閉じるために2つの対応接触部に向かって接触プレートを押圧する切換接極子が付属している。
【0003】
2つの別々のリレー巻線を有する実施形態は、電気式のスタータモータのスイッチオンからの、スタータピニオンの噛合前進運動の切り離しを可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開第102009027117A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、さまざまに異なる動作条件のもとで、内燃機関の騒音の少ない確実なスタートをスタート装置によって可能にすることである。このことは、内燃機関の惰性回転をするリングギヤに噛合係合されるべき動作状態も対象とすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は本発明によると請求項1の構成要件によって解決される。従属請求項は好都合な発展例を記載している。
【0007】
本方法は、電磁式のスタータリレーを有し、該スタータリレーを介して、スタート装置のスタータピニオンを、引き込まれた不機能位置と前に押された内燃機関のリングギヤとの係合位置との間で位置調節可能である、内燃機関のためのスタート装置を対象とする。スタータピニオンの位置調節運動は軸方向の調節運動であるのが好ましいが、旋回運動も原則として考慮の対象となる。スタータリレーは、引込巻線が通電されたときに位置調節される往復接極子に付属する、通電可能な引込巻線を有している。往復接極子の調節運動は、たとえば二股レバーのような伝達コンポーネントによってスタータピニオンへと伝達され、それを受けてスタータピニオンが不機能位置から係合位置へと位置調節される。
【0008】
さらにスタート装置は、スタータピニオンを回転駆動運動させる電気式のスタータモータを有している。スタータモータは、スタータリレーに組み込まれるのが好ましいスイッチオン装置を介してスイッチオンないしスイッチオフされる。スイッチオン装置がスイッチオンされることで、電気式のスタータモータの電気回路が閉じられて、スタータモータが回転する。このときスイッチオン装置は、往復接極子ないし引込巻線の通電に関わりなく操作することができる。
【0009】
本発明による方法では、内燃機関ないし内燃機関のリングギヤのさまざまな動作状態が区別される。この区別は、内燃機関をスタートさせるべきスタート装置がスイッチオンされた時点における、リングギヤの最新の回転数を通じて行われる。最新のリングギヤ回転数が限界値を下回っているとき、まず往復接極子だけが位置調節され、内燃機関のリングギヤに接するようにスタータピニオンが噛合前進した後で初めてスイッチオン装置がスイッチオンされ、それによってスタータモータならびにスタータピニオンが回転する。
【0010】
それに対してリングギヤが比較的高い回転速度を有しており、リングギヤの回転数が限界値を上回っているとき、スイッチオン装置は、スタータピニオンがリングギヤと接触する前からすでにスイッチオンされ、それによってスタータピニオンの回転数が引き上げられる。
【0011】
このようにして、内燃機関がスタート装置によってスタートされるべきである、基本的に発生する一切の動作条件をカバーすることができ、内燃機関のスタートは、少ないコンポーネント負荷ならびに低減された騒音発生と結びついている。特に長い動作期間を通じて、たとえば内燃機関が頻繁に停止、作動されるスタート・ストップ・システムで発生する可能性がある、まだ回転している内燃機関のリングギヤにスタータピニオンが噛合係合されてスタートされなければならないスタートプロセスを、繰り返して実行することができる。リングギヤの回転数を通じての差別化により、相応に別様に取り扱われる2通りの異なる基本状況を区別することができる。
【0012】
リングギヤ回転数が限界値を下回っているとき、まず噛合前進ないし噛合係合が行われ、すなわち、不機能位置から係合位置へのスタータピニオンの位置調節運動が行われ、次いで、電気式のスタータモータを通じて回転開始が行われる。これには、内燃機関とリングギヤが停止している、すなわちリングギヤの回転数がゼロに等しくなっている、通常ないし正常のスタートプロセスが対象となり、また、リングギヤ回転数が比較的低い動作状況も対象となる。リングギヤが停止しているとき、スタータピニオンが噛合前進のときにリングギヤとの間で歯と歯が向き合う位置になることがあるが、これは、スタータモータのスイッチオンによるスタータピニオンの回転開始によって解消される。それに対して、リングギヤが限界回転数を下回る回転数を有しているとき、スタータピニオンとリングギヤとの間の歯と歯が向き合う位置は、リングギヤ回転数のみに基づいても解消される。このケースでは、スタータモータのスイッチオンによる回転開始プロセスを、リングギヤが止まっている状況に比べてわずかに遅れて実行するのが好都合な場合がある。
【0013】
それに対してリングギヤ回転数が限界値を上回っているときには、リングギヤの比較的高い回転速度が生じており、スタータモータのスイッチオンを通じてスタータピニオン回転数が引き上げられ、スタータピニオンとリングギヤとの間で同期性が実現される。その際にはスタータピニオン回転数が、最大で、噛合係合の瞬間におけるリングギヤ回転数のレベルまで引き上げられれば原則として十分であるが、場合によっては、スタータピニオンのこれよりもわずかに低い回転数レベルでも十分であり、たとえば、リングギヤ回転数よりも5%または10%だけ低いスタータピニオン回転数で十分である。リングギヤ回転数を超えないレベルまでスタータピニオンの回転数が引き上げられることによって、電気式のスタータモータと、場合により設けられるプラネタリギヤと、場合により存在するフリーホイールと、スタータピニオンとの間のスタート装置の駆動系統における望ましくない負荷衝撃が回避される。
【0014】
内燃機関の慣性に基づき、リングギヤが停止後に反対方向へオーバーシュートする可能性がある。このような状況で内燃機関を再びスタートさせようとする場合、まず、スタータリレーでの往復接極子の位置調節によってスタータピニオンが噛合前進し、噛合係合の後で初めてスタータモータのスイッチオン装置がスイッチオンされる。しかしながら、内燃機関が停止しているときのスイッチオンプロセスに比べて、ないしはわずかな正のリングギヤ回転数のときに比べて、長い時間的遅延をもってスタータモータをスイッチオンすることが好ましい場合もあり、それは、スタータモータの回転開始の瞬間に付け加わる追加のトルクを回避することによって、駆動系統での負荷衝撃を低減するためである。
【0015】
通常のスタート時には、歯と歯が向き合う位置では停止しているリングギヤへピニオンが噛合係合することができないので、ピニオンがリングギヤへ噛合係合する前に、スタータをスイッチオンさせなければならない。逆向きに回転しているリングギヤ(逆揺動)への噛合係合では、スタータモータは噛合係合の後で初めてスイッチオンされる。
【0016】
あるいは原則的には、リングギヤが停止しているときのスタート時だけでなく、リングギヤ回転数が限界値を下回っているときにもスイッチオン装置を操作し、それによってスタータモータをスタートさせることも可能であり、それは、スタータピニオンの噛合前進によってリングギヤとの間で歯と歯が向き合う位置が生じる場合である。すでに歯と歯が向き合っている位置でスタータピニオンを回転させれば、スタータピニオンとリングギヤの歯が相互に係合する噛合係合プロセスをサポートすることができる。
【0017】
スイッチオン装置は、1つの好ましい実施形態では、通電可能な切換巻線の機能を担う追加の巻線をスタータリレーに含むことができ、切換巻線には軸方向へ位置調節可能な切換接極子が付属している。切換接極子は、切換巻線に通電されたときに接触位置へと位置調節され、それによってスタータモータの電気回路が閉じられる。切換巻線への通電は、基本的に、不機能位置と係合位置の間でスタータピニオンを位置調節する役目をする引込巻線への通電とは無関係に行われる。
【0018】
特にエンジン回転数が高いときのスタートプロセスについては、噛合係合プロセスの予想される時点でのリングギヤの回転数を事前に算定しておき、それに基づいて、プロセス全体の進行についての決定を行うのが好都合であり得る。
【0019】
その他の利点や好都合な実施形態は、その他の請求項、図面の説明、および図面から明らかとなる。図面は次のものを示している:
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】スタータリレーを介して軸方向へ位置調節可能であるとともに電気式のスタータモータを介して回転駆動されるスタータピニオンを有する内燃機関のためのスタート装置であり、電気式のスタータモータはスイッチオン装置を介してスタータリレーでスイッチオンされる。
【
図2】スイッチオン装置が組み込まれたスタータリレーを示す断面図である。
【
図3】内燃機関のスイッチオフ後のリングギヤ回転数の時間依存的な推移を示すグラフであり、さまざまなスイッチオン時点で追加的に記入されたスタータピニオン回転数の推移を含んでいる。
【
図4】引込巻線の通電(実線)および切換巻線(一点鎖線)についての時間依存的な電流推移である。
【
図5】さまざまな動作状況でスタート装置を介して内燃機関をスタートさせるために適用される引込巻線と切換巻線の電流推移を含む別の切換図である。
【
図6】さまざまな動作状況でスタート装置を介して内燃機関をスタートさせるために適用される引込巻線と切換巻線の電流推移を含むさらに別の切換図である。
【
図7】さまざまな動作状況でスタート装置を介して内燃機関をスタートさせるために適用される引込巻線と切換巻線の電流推移を含むさらに別の切換図である。
【
図8】さまざまな動作状況でスタート装置を介して内燃機関をスタートさせるために適用される引込巻線と切換巻線の電流推移を含むさらに別の切換図である。
【
図9】さまざまな動作状況でスタート装置を介して内燃機関をスタートさせるために適用される引込巻線と切換巻線の電流推移を含むさらに別の切換図である。
【
図10】さまざまな動作状況でスタート装置を介して内燃機関をスタートさせるために適用される引込巻線と切換巻線の電流推移を含むさらに別の切換図である。
【
図11】さまざまな動作状況でスタート装置を介して内燃機関をスタートさせるために適用される引込巻線と切換巻線の電流推移を含むさらに別の切換図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
各図面では、同じコンポーネントには同じ符号が付されている。
【0022】
図1に示す内燃機関のためのスタート装置1は、内燃機関4をスタートさせるために内燃機関のリングギヤ3と係合するスタータピニオン2を有している。スタータピニオン2は、二重矢印で図示するように、軸方向へスライド可能なようにシャフト5に支承されており、スタータピニオン2はシャフト5と回転不能に結合されている。スタータピニオン2は、引き込まれた不機能位置と前に押された内燃機関4のリングギヤ3との係合位置との間で、スタータリレー6を通じて位置調節され、このスタータリレーは電磁式に構成されており、通電可能な2つのリレー巻線7,15と往復接極子8とを含んでおり、この往復接極子は、引込巻線の機能を担う第1のリレー巻線7が通電されたときに、その中へ軸方向に引き込まれる。往復接極子8は、ローラフリーホイールの連行体14に支持された噛合係合ばね13を付勢する押込レバー9を操作する。スタータピニオン2は従動側で連行体14と結合されており、それにより、連行体14の軸方向の送り運動が、不機能位置と係合位置との間での希望されるスタータピニオン2の軸方向の調節運動に変換される。
【0023】
シャフト5ないしスタータピニオン2への回転駆動運動は、たとえばプラネタリギヤのような伝動装置12を介してシャフト5と結合された、電気式のスタータモータ11によって生成される。電気式のスタータモータ11が操作されると、シャフト5およびこれに伴ってスタータピニオン2も回転する。
【0024】
スタータモータ11のスイッチオンは、スタータリレー6に組み込まれたスイッチオン装置16を介して行われる。切換接極子として製作され、切換巻線の機能を担う第2のリレー巻線15が通電されたときに位置調節される切換部材によって、スイッチオン装置16で電気回路が閉じられる。電気回路が閉じられるとスタータモータ11が運動し、シャフト5ならびにスタータピニオン2が回転駆動される。
【0025】
スタート装置1にはコントロール装置ないし制御装置10が付属しており、これを通じてスタータリレー6ならびにスタータモータ11の機能が制御される。特に、引込巻線7と切換巻線15への通電を互いに独立して実行することが可能である。
【0026】
図2にはスタータリレー6が縦断面図として示されている。スタータリレー6は、スタータリレーのハウジング18の中で軸方向に相前後して位置するように配置された2つのリレー巻線7,15を有しており、それぞれのリレー巻線7,15の間にはエアギャップ30がある。第1のリレー巻線7は、スタータピニオンの調節運動を惹起する往復接極子8を軸方向に位置調節させるための引込巻線としての役目を果たす。第2のリレー巻線15は、電気式のスタータモータをスタートさせるためのスイッチオン装置16に付属しており、通電されたときに、切換接極子復帰ばねにより初期位置へと力で付勢されるのが好ましい切換接極子23を位置調節する。切換巻線15が通電されると、切換接極子23が切換接極子復帰ばねの力に抗して動き、それによって電気回路が閉じられる。
【0027】
往復接極子8を初期位置へと力で付勢する往復接極子復帰ばね20は、往復接極子8と反対を向いている側で、切換接極子23の端面に支持されている。往復接極子8は、切換接極子23およびハウジング18の一部分とともに、電磁回路を形成する。
【0028】
電気式のスタータモータをスイッチオンないしスイッチオフするためのスイッチオン装置16は、スタータリレー6に組み込まれており、ないしはスタータリレー6に配置されており、ハウジング18と固定的に結合されている。スイッチオン装置16は、付属の切換巻線15が通電されたときに初期位置から軸方向に接触位置へと位置調節される切換接極子23を有しており、この接触位置では、切換接極子23と結合された切換タペット24にある接触ブリッジが、電気式のスタータモータの電気回路にある2つの対応接触部と電気接触し、それによって電気回路が閉じられて、電気式のスタータモータがスタートする。
【0029】
引込巻線7および切換巻線15への通電は、基本的に互いに独立して行われる。このことは、最新の動作状態に応じて実行されるさまざまな方法態様を可能にする。特に、たとえば内燃機関のスイッチオフ直後に新規スタートするとき、惰行しているリングギヤへスタータピニオンが噛合係合しなければならないときに、内燃機関のまだ回転しているリングギヤへの噛合係合プロセスが可能である。
【0030】
図3には、内燃機関のスイッチオフ後におけるリングギヤ回転数(実線)の時間依存的な推移が示されている。リングギヤ回転数は鋸歯状に減少していき、内燃機関の慣性に基づいてゼロレベルを下回り、そのためにリングギヤ回転数が反対方向へオーバーシュートし、引き続いてゼロレベルを再び上回り、その後に減衰していく。リングギヤ回転数について限界値n
Lを定義することができ、最新のリングギヤ回転数がこれを上回っているケースと下回っているケースとで、異なったスタート手順をスタート装置を通じて行うことができる。
【0031】
一例として、
図3に示す図表のスタートプロセスが段階I,II,IIIおよびIVの4段階に区分される。段階I,IIIVではリングギヤは正の回転数を有しており、それに対して、段階IIIではリングギヤは反対方向へオーバーシュートしており、したがって負の回転数を有している。第1の段階Iでは、スタータ回転数は限界値n
Lを上回っている。段階Iのときに内燃機関をスタートさせようとするときは、切換巻線15への通電によって電気式のスタータモータが回転し、それによってスタータピニオン回転数が、破線で示すように、噛合係合の瞬間におけるリングギヤ回転数と近似的に等しい程度に高いのが好都合であるレベルまで引き上げられる。スタータピニオン回転数は、噛合係合の瞬間におけるリングギヤ回転数を上回るのではなく、最大で等しいレベルにあり、場合によりこれよりもわずかに低いレベル、たとえば5%または10%だけ低いレベルにあるのが好ましく、それは、スタート装置の駆動系統での負荷衝撃を回避するためである。段階Iでは、まず切換巻線15が電気式のスタータモータをスタートさせるために通電され、次いで、スタータピニオンをリングギヤに噛合係合させるために、引込巻線7が通電される。
【0032】
段階IIでは、リングギヤ回転数が限界値n
Lを下回っているが、ゼロよりは大きくなっている。惰行段階IVでも、スタータピニオン回転数はゼロと限界値n
Lとの間のレベルで変動している。これら両方の段階IIおよびIVでは、まず引込巻線7だけが通電され、それにより往復接極子8がスタータピニオンを噛合係合させるために位置調節されることによって、スタータプロセスが行われる。噛合係合の後、切換巻線15が通電されて電気式のスタータモータの電気回路が閉じられることによって、スイッチオン装置16がオンになる。
【0033】
段階IIIでは、リングギヤは内燃機関の慣性に基づいて反対方向へオーバーシュートする。この段階でも、まずリングギヤにスタータピニオンが噛合係合するまで引込巻線7が通電され、次いで、スイッチオン装置16をスイッチオンするために切換巻線15が通電される。ただし、引込巻線7の通電のスイッチオン時点と切換巻線15の通電との間の時間的な遅延は、段階IIおよびIVのときよりも大きい。大きな時間的遅延により、駆動系統での負荷衝撃を弱めることが意図される。
【0034】
図4から
図11には、引込巻線7(実線)と切換巻線15(一点鎖線)の通電の時間依存的な推移がそれぞれ示されている。
【0035】
図4は、
図3に示す段階IIおよびIVについての通電の推移を特徴づけている。まず引込巻線7が通電され、時間的な遅延をもって切換巻線15が通電される。
【0036】
図5には、リングギヤ回転数が反対方向へオーバーシュートしたときのスタートプロセスを特徴づける、段階IIIについての電流推移が示されている。このケースでも、まず引込巻線7、次いで切換巻線15がそれぞれ通電されるが、それぞれのスイッチオン時点の間の時間的遅延は段階II,IV(
図4に示す)のときよりも大きい。
【0037】
図6には、リングギヤ回転数が限界値n
Lを上回っている段階Iについての電流推移が示されている。まず切換巻線15が通電され、それによってスタータモータがスタートし、それにより、噛合係合の瞬間におけるリングギヤ回転数を上回らないのが好ましいレベルにまで、スタータピニオン回転数が引き上げられる。切換巻線15が再びスイッチオフされ、その直後に引込巻線7の通電が行われて、不機能位置と係合位置との間でスタータピニオンを噛合前進させる。時間的なずれをもって切換巻線15があらためて通電されて、噛合係合されたスタータピニオンを回転駆動する;引込巻線7は通電されたまま保たれる。
図6に示す方式の利点は、スタータピニオンがリングギヤへ噛合係合する瞬間に、消滅する加速度に基づいて衝撃負荷が小さくなるという点にある。さらに、スタータピニオンの噛合前進プロセスのために完全なバッテリ電圧を利用することができる。
【0038】
図7には、段階Iでの通電の推移についての別案が示されている。
図6とは異なり、切換巻線15の通電がスタートプロセス中に中断されるのではなく、維持される。このことは、スタートプロセスをいっそう迅速に実行できるという利点がある。スタータのスイッチオフによる時間損失が生じないからである。さらに、切換接極子23の切換精度に関わる要求事項が低くなる。さらに往復接極子8は、歯と歯が向き合う位置にあるとき、噛合係合ばね13の力を克服するだけでよい。
【0039】
図8と
図9には、すでに開始されているスタートの継続についての通電態様が示されている。
図8では、切換巻線15は定義されたタイムスパンの経過後にスイッチオフされ、それに対して引込巻線7は引き続き通電されたまま保たれる。
図9では、引込巻線7は定義されたタイムスパンの経過後にスイッチオフされ、それに対して切換巻線15は通電されたまま保たれる。
【0040】
図10は、スタートプロセスの終了時における電流推移を示している。引込巻線7と切換巻線15への通電がスイッチオフされ、切換巻線15のスイッチオフの時点は、二重矢印で図示するように、引込巻線7のスイッチオフ時点の近傍に位置しているのが好ましいが、原則としてわずかに変更することができ、すなわち、引込巻線7の通電のスイッチオフ時点の前または後に位置することができる。スタータリレーの復帰ばねに基づき、往復接極子8と切換接極子23はいずれも初期位置ないし静止位置へ戻るように位置調節される。
【0041】
図11には、リングギヤがブロックされたときのスタート中断のケースの通電推移が示されている。スタータピニオンをスイッチオフして噛合解除するために、引込巻線7と切換巻線15が同じ時点でスイッチオフされる。そのようにして、往復接極子が往復接極子復帰ばね20の力によって元の位置に戻る。
【0042】
切換接極子23も確実に静止位置ないし初期位置へと位置調節するために、ないしは切換装置を分断するためのいっそう高い力を印加するために、引込巻線7が短いあいだ再度通電される。それぞれの接極子の間の磁力が切換接極子を静止位置へと確実に引き戻し、それにより、切換接極子23に対して作用する復帰ばねの力に追加して、電気接触が断絶される。このような機能は、たとえばスタータリレーの切換接極子が往復接極子のコアプレートを形成するスタータリレーによって具体化することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 スタート装置
2 スタータピニオン
3 リングギヤ
4 内燃機関
6 スタータリレー
7 引込巻線
8 往復接極子
11 スタータモータ
15 切換巻線
16 スイッチオン装置
23 切換接極子