特許第6075930号(P6075930)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6075930タンパク質架橋剤、架橋方法及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075930
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】タンパク質架橋剤、架橋方法及びその用途
(51)【国際特許分類】
   A61L 24/04 20060101AFI20170130BHJP
   C07K 14/75 20060101ALI20170130BHJP
   C07K 14/76 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   A61L24/04 200
   C07K14/75
   C07K14/76
【請求項の数】3
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2009-507759(P2009-507759)
(86)(22)【出願日】2007年4月24日
(65)【公表番号】特表2009-542264(P2009-542264A)
(43)【公表日】2009年12月3日
(86)【国際出願番号】US2007009934
(87)【国際公開番号】WO2007127198
(87)【国際公開日】20071108
【審査請求日】2010年4月21日
【審判番号】不服2014-7427(P2014-7427/J1)
【審判請求日】2014年4月22日
(31)【優先権主張番号】60/794,384
(32)【優先日】2006年4月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509221607
【氏名又は名称】インセプト エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】チャンドラスヘクハル ピー.パトハク
(72)【発明者】
【氏名】アマルプレエト エス.サウフネイ
(72)【発明者】
【氏名】ジャメス エイチ.ドレヘル
【合議体】
【審判長】 大熊 幸治
【審判官】 冨永 保
【審判官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 特表平10−503102(JP,A)
【文献】 特表2002−531217(JP,A)
【文献】 特表2000−502380(JP,A)
【文献】 特表2002−535046(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/118011(WO,A1)
【文献】 特開2000−288079(JP,A)
【文献】 特表2001−513368(JP,A)
【文献】 特表2002−525137(JP,A)
【文献】 特開2004−358073(JP,A)
【文献】 特開平8−24325(JP,A)
【文献】 特表2001−525225(JP,A)
【文献】 特開昭60−236725(JP,A)
【文献】 特表2003−508564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然の生物学的流体の架橋方法であって、インビトロで、天然の生物学的流体を、水を含まない架橋剤の非希釈融解物と合わせ、前記天然の生物学的流体の内因性タンパク質を共有結合的に架橋させて、架橋ゲルを形成することを含み、該架橋剤が、水溶性であり、かつ1000以下の分子量及び少なくとも3つの強求電子性官能基を有するポリエチレングリコールであり、前記架橋剤が、50℃未満で融解物を形成し、
該強求電子性官能基が、N-ヒドロキシコハク酸イミド、コハク酸イミド、コハク酸イミジルエステル、N-ヒドロキシコハク酸イミド-エステル、及びマレイミドからなる群から選択される、前記方法。
【請求項2】
前記天然の生物学的流体が、血液流体、アルブミン、血漿、血清、プール血漿、腹腔液、脳脊髄液、粘液及び精液からなる群のうちのいずれかである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
血管壁の治療用医薬の製造のための、架橋剤の使用であって、該架橋剤は、水を含まない非希釈融解物であり、該架橋剤は水溶性であり、かつ1000以下の分子量及び複数の強求電子性官能基を有するポリエチレングリコールであり、前記架橋剤が、50℃未満で融解物を形成し、かつ該架橋剤は、天然の生物学的流体を、水を含まない前記架橋剤の非希釈融解物と合わせ、前記天然の生物学的流体の内因性タンパク質を共有結合的に架橋させて、架橋ゲルを形成するためのものであり、
該強求電子性官能基が、N-ヒドロキシコハク酸イミド、コハク酸イミド、コハク酸イミジルエステル、N-ヒドロキシコハク酸イミド-エステル、及びマレイミドからなる群から選択される、前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、参照によりここに本明細書に組み込まれている2006年4月24日出願の仮特許出願第60/794,384号への優先権を主張するものである。
(技術分野)
本技術分野には、一般に、生物学的流体から作った医用材料、並びにその流体中で生体分子を架橋させる新たなタンパク質架橋剤及び架橋方法が含まれる。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
外科用接着剤は、いくつかの生物医学的用途を有することができる。例えば外科用接着剤は、縫合の代わりとして、空気及び流体の漏洩を防ぐ外科用密封材として、或いは生体活性化合物を送達する医薬送達貯溜場所(reservoir)として使用することができる。外科用接着剤の主な機能は、強い接着剤結合により2つの組織塊を結合させることであり、これは治癒過程全体にわたって継続するであろう。治癒過程の後で、この接着剤は理想的には分解されて無毒性の生成物となり、次いで体から排泄されるであろう。外科用接着剤は理想的には、湿った環境で十分な結合力により速やかに固化する、良好な取扱い性状を有するべきである。さらに外科用接着剤は、無毒性、生体適合性且つ生分解性であるべきである。
【0003】
多くの異なるタイプの組織接着剤が、医学及び材料文献中に報告されている。シノアクリレート(cynoacrylates)及びフィブリン(線維素)系接着剤システムが有用とされている。シノアクリレート系接着剤は、優れた組織接着剤であるが、シノアクリレートモノマーの毒性及びその有毒な分解生成物に関する懸念が、規制認可を得ることからそれを事実上遠ざけている。
【0004】
フィブリングルー(fibrin glue)は、ヒト又は動物の血液から由来する生物学的接着剤である。フィブリン系接着剤は、商標名Tissucol(登録商標)及びTissel(登録商標)のもとにヨーロッパで市販され、最近、米国における使用が認可されている。典型的な商業用フィブリングルーキットは、凍結乾燥し濃縮されたプール(pooled)血液によるヒトフィブリノーゲン(線維素原)のバイアルからなり、フィブロネクチン、因子XIII及び少量のプラスミノーゲンをも含有する。この濃縮物は再構成溶液によって再構成され、37℃まで加温される。この接着剤システムの第2の成分は、凍結乾燥したウシトロンビン溶液であり、これも塩化カルシウム溶液により再構成される。この製剤は、フィブリン溶解(fibrinolysis)抑制剤などのさらなる成分をも含有できる。これらの再構成溶液を混合し、外科用接着剤システムとして使用する。フィブリン接着剤は、無毒性、生体適合性且つ生分解性であることが実証されている。
【0005】
フィブリングルーの機序は、最終段階の凝固カスケードを含み、この段階でトロンビン、因子XIII、フィブロネクチン及びイオン化カルシウム(Ca+2)の存在下でフィブリノーゲンがフィブリンに変換される。この凝固過程の速度は、使用されるトロンビン濃度によって決まり、必要性により変えることができる。得られたフィブリン凝血塊(clot)又はゲルは、主として静電及び水素結合によって保持されており、プラスミンなどのタンパク質分解酵素により速やかに溶解する傾向がある。因子XIIIは、アミノ基転移により共有結合性の架橋をもたらし、そのためフィブリン凝血塊がタンパク質分解酵素による分解への抵抗性を持つようになる。因子XIIIは、フィブリングルーの機械的性質をも向上させる。
【0006】
フィブリノーゲンは、血漿の3番目に豊富なタンパク質成分であり、おそらくフィブリン接着剤製剤の最重要成分である。フィブリノーゲンは、血漿の3番目に豊富なタンパク質成分であり、おそらくフィブリン接着剤製剤の最重要成分である。第2に重要なタンパク質は、因子XIIIであり、その濃度は0.015mg/mlであり、分子量320KDを有する。良好な接着性状及び急速なゲル化時間を有するために、凝固性タンパク質濃縮物中でのフィブリノーゲンの、より高濃度が所望される。形成される接着剤結合の強度は、製剤中のフィブリノーゲン濃度及びその製造方法に正比例する。寒冷沈降反応が、凝固性タンパク質濃縮物を調製するのに使用される最も一般的な方法である。この方法は、a)肝炎及びAIDSについて検査した血漿を-80℃で少なくとも6時間、好ましくは少なくとも12時間凍結させること、b)フィブリノーゲン及び因子XIIIを含有する上澄み液及び寒冷沈降懸濁液を生成させるように、凍結血漿の温度を0〜4℃前後まで上昇させること、並びにc)この上澄み液を傾瀉することにより、寒冷沈降懸濁液を回収することを包含する。特許及び医学文献に記載されている他の方法は、エタノール、ポリエチレングリコール、ポリ(ビニルアルコール)、1,6-ヘキサン酸、硫酸アンモニウム及びグリセロールなどの一般的な低毒性有機/無機化合物の使用である。
【0007】
文献中に報告される大抵の方法は1つの共通の特徴を有しており、それは相分離又は沈澱ステップによる単離である。全ての沈澱による取組みは、この目的向けのフィブリノーゲン含有部分の調製に時間が掛り過ぎ、手術の経過の間に達成するように短時間で仕上げるには複雑過ぎることが示唆される。又寒冷沈降反応などのいくつかの取組みでは、冷凍遠心機などの特殊な設備も必要とされる。異なる沈澱方法は、異なる接着特性を有する部分を生成する。又異なる沈澱方法により、種々の粒度の沈澱が生成される。いくつかのより微細な粒度は、上澄み液から分離するのが困難であり、最終タンパク質濃縮物の収率の低下を招く恐れがある。所望の濃度を達成するには、多数回の多重沈澱及び再溶解ステップを必要とする。多くの方法は、開放試験管系における調製に依存している。これらの開放試験管生成物は、血液製品の開放系貯蔵についての米国血液銀行協会(American Association of Blood Bank)の要求条件に合致しない恐れがある冷蔵庫での延長された時間的期間及び方法でしばしば貯蔵される。沈澱による相分離は、タンパク質を変性させ、その天然のコンホメーション(立体配座)を変化させる恐れがある。多くの酵素反応はタンパク質のコンホメーションに敏感である。沈澱による単離は、最終生成物の収率に影響を及ぼす可能性がある。このような方法では、多くの場合10〜20%以上の凝固性タンパク質が失われる。
【0008】
商業用及び自己由来(autologus)フィブリン接着剤製剤に使用されるウシトロンビンは、ウシ海綿状脳炎(bovine spongioform encephalitis)(BSE、狂牛病の原因である)及び他のヒトへのウイルス病原体を持つ恐れがある。又ウシトロンビンは有効な抗原であり、ヒトにおける免疫反応を引き起こす可能性もある。したがって、ウシトロンビンの使用は、患者へのリスクの可能性を伴う。
商業用フィブリングルー製剤を使用して形成されるフィブリン凝血塊は、ヒトの体の内部に見出されるタンパク質分解酵素によって分解される。現在の製剤は、その分解に関する制御を何らもたらすものではない。
【発明の開示】
【0009】
(発明の要旨)
いくつかの実施態様は、天然の生物学的流体を使用して接着性架橋ゲルを作る改良された密封材(シーラント)である。したがって本発明のいくつかの態様は、生物学的流体を架橋剤と合わせて、その生物学的流体の内因性タンパク質を共有結合的に架橋させ架橋ゲルを作ることによる生物学的流体の架橋方法に関する。いくつかの実施態様では、約2000以下の分子量を有する液体架橋剤を用いる。この架橋剤は、生物学的流体と合わせる前には本質的に水を含まないものとすることができ、例えば、加水分解的に分解可能な基であるポリエチレングリコール誘導体を有して、室温で固体である、又はこの架橋剤をこの流体と合わせる前に融解させることを要するものとすることができる。
【0010】
いくつかの実施態様は、強求電子体である官能基を少なくとも約3、5又は8個含み、約2000又は4000以下の分子量を有する液体架橋剤を含む低分子量前駆体に関する。このような架橋剤は、いくつかの実施態様において約10℃〜約50℃で融解物として調製できる。この架橋剤は、例えばポリエチレングリコール誘導体、又は、少なくとも3つの末端基のそれぞれがこれらの官能基の1つで置き換えられているポリエチレングリコールから本質的になるものとすることができる。官能基の例は、エポキシド、N-ヒドロキシコハク酸イミド、アクリレート、メタクリレート、マレイミド又はN-ヒドロキシスルホコハク酸イミドである。
【0011】
いくつかの実施態様は、その場(in situ)における医用材料の形成方法であって、前駆体を有機溶媒中の架橋剤の溶液と合わせ、その前駆体を共有結合的に架橋させて架橋ゲルを形成させることを含む方法に関する。例えば、この前駆体は、有機溶媒中に分散(可溶化)又は溶解でき、この有機溶媒は水と混和可能である。この有機溶媒は、小分子例えばジメチルホルムアミド又はジメチルスルホキシド、或いはポリマー例えばメトキシPEG又はプロピレングリコールとすることができる。
【0012】
いくつかの実施態様は、本質的に水を含まない精製製剤を含む水溶性架橋剤であって、R-(A)nの式(式中、Aは、強求電子性官能基であり、nは少なくとも2であり、Rは分子量約40〜約4000を有し、アミド、第二級アミン又は第三級アミン官能基を含む)を有する分子を含む架橋剤に関する。
【0013】
いくつかの実施態様は、その血管の壁により画定される管腔を有する血管内における生物学的材料の形成方法であって、生物学的流体を架橋剤と合わせて、その生物学的流体の内因性タンパク質を共有結合的に架橋させて、その血管の壁上にその場で架橋ゲルを形成させることを含む前記方法に関する。このようなゲルは、マーカー、放射線不透過性マーカー、ヒトの目により認識される光スペクトルで視覚化される色素、薬剤又は核酸などの治療剤を含有できる。核酸は、例えばアンチセンス、RNAi、RNA、DNA、遺伝子、配列コード化ポリペプチド又はメッセンジャーRNAを含むことができる。
【0014】
いくつかの実施態様は、薬剤送達のための医用材料であって、合成架橋剤により共有結合的に架橋されたタンパク質を含むゲルを含み、それが血管の壁に適合される医用材料に関する。このタンパク質の例は、血液流体タンパク質、フィブリン、フィブリノーゲン又はアルブミンである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(発明の詳細な説明)
ヨーロッパ及び世界の他の国で商業的に使用されているにも拘らず、フィブリングルーは、AIDS及びB型肝炎などの血液由来ウイルスからなるウイルス性汚染のため、広範には使用されていない。この状況が、単独供血者及び患者による自己由来フィブリン接着性製剤の進展につながっている。この方法は、血液由来ウイルス性疾患汚染のリスクを軽減し又は無くしている;しかし、自己由来接着剤の調製に使用される方法は、時間が掛り、取扱い難く且つ予測困難である。このことが、安全であり、市販可能であり且つ効力のある有効な外科用接着剤への臨床的必要性をもたらしている。
【0016】
したがって、ウイルス性汚染又は他の副作用の危険なしに開存部(patent)に送達することができるフィブリン密封材への必要性が存在する。又、フィブリングルーの調製に必要な取扱い量、並びに凝固因子及びカルシウムイオン濃度への依存性を無くし若しくは低減する単純な架橋機序への必要性も存在する。多くの外科的用途において、特に多くの制御された医薬送達用途において、フィブリン凝血塊の分解の制御が高度に望ましいが、フィブリングルー分解速度の制御はほとんど行われていない。したがって、架橋フィブリノーゲンゲルの分解を制御する必要性も存在する。
【0017】
本明細書において示しているものは、水溶性架橋剤を使用して、血液又は血液由来タンパク質を凝固させる新たな方法である。天然の凝固方法は、極めて複雑であり、完了するのに数時間を要するいくつかのステップ及び成分/薬品を必要とする。しかし、これらの架橋剤を使用すると、天然の凝固方法が避けられ、血液中に存在するタンパク質を架橋させることにより凝血塊が形成される。さらに、哺乳動物供給源に由来する生物学的流体を、最小の操作で化学的に架橋網目構造に変換することができる。ヒトの血液又は血液由来流体を、無菌的な形で容易に単離でき、且つ生物学的流体の構成成分上に得ることができる官能基と反応することが可能な架橋剤と混合できる。得られた架橋網目構造又は凝血塊は、様々な外科用及び医学的用途に役立つものである。
【0018】
(架橋剤と反応させる生物学的流体組成物)
血液に由来する生物学的流体又は血液流体を、架橋剤との反応に使用できる。この血液は、例えば哺乳動物供給源に由来でき、その場合適切な供給源には、ウシ、ヒツジ、ブタ、シカ、ヒト又は他の哺乳動物が含まれる。血液は、血漿として知られる液体媒質中に懸濁したいくつかのタイプの細胞からなる高度に専門化した循環性組織である。これらの細胞成分は: 呼吸用ガスを運び、ヘモグロビン(肺で酸素と結合し、それを体内の組織に輸送する鉄含有タンパク質)を含有するため赤色が与えられる赤血球、疾患と戦う白血球、並びに血液の凝固において重要な役割を果たす細胞断片である血小板である。全血は、抗凝固剤を添加することを除いて、変性されていない血液である。血漿は、いくつかの凝固因子及び他のタンパク質、例えばアルブミン及び抗体を含有する。赤血球から血漿を分離して直ぐに、血漿を凍結させ、且つそれが必要とされるまで1年まで保持することができる。一度解凍されると、それは新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma)と呼ばれる。血漿がフィブリン及び他の可溶性凝固要素を含有する点で、血漿は血清と異なる。
【0019】
血清を含む生物学的流体を、架橋剤との反応に使用できる。用語血清とは、全血を凝固させた後、それを固体及び液体成分に分離すると得られる流体を指す。血清は、細胞活性を高める多数の因子を有利に有し、その理由のため細胞培養技術において一般に使用される。血清は、プール供給源から、又はヒト若しくは動物供給源から自己由来的に調製できる。血清は、医学的処置の準備において、その処置の直前若しくはその最中に作製し、架橋剤と共に使用できる。用語架橋するとは、ポリマー、例えば線状ポリマー、分岐状ポリマー、デンドリマー又は高分子状分子間で共有結合又は架橋を形成することを指す。用語架橋剤とは、このような状況において架橋を形成することが可能な化合物を指す。
【0020】
血液流体は、全血から沈澱若しくは単離されることなく液体中に残留する内因性の血液タンパク質を有する全血、又は全血に由来するタンパク質性流体を指す用語である。前以て単離したタンパク質の使用を避ける一利点は、単離を省くことにより時間を節約し、手順を単純化することである。タンパク質の単離/再構成ステップを避けることによって、変性又は不純物の導入を最小限に留めることによりタンパク質構造が保持されるのを助けることもできる。内因性とは、その系に生来のものである材料を指し、その材料が通常その系の中に見出されることを意味する。したがって血液は、血液中に存在する内因性タンパク質を有する。外因性物質は、後で添加されるものである。したがって血液に添加されるヒアルロン酸は外因性であろう。血液への余分なフィブリノーゲンの添加は、したがって外因性の生来タンパク質の添加であろう。
【0021】
したがって血清及び血漿(新鮮凍結血漿を含む)は、血液流体である。血液流体は、例えば濾過、凝固若しくは免疫分離(immuno-isolation)により、又は赤血球除去により、いくつかの成分を選択的に除去する処理を行っている全血とすることもできる。血液流体は、従来添加されている成分、例えばタンパク質、薬剤、抗凝固剤又は抗体を含むこともできる。従来のタンパク質溶液からゲルを作り出す方法を、血液流体をゲル化するのに適用した場合、作用しない恐れがあることは注目に値する。多くの血液流体は、複数のタンパク質タイプ、例えば2、3、4又はそれ以上のタイプを含有する。用語タイプとは、互いに本質的に誘導体ではない化学的に別個の化学種を指す;したがってアルブミン及び免疫グロブリンは、タンパク質の2つのタイプである。血液由来製品は、使用前に1種以上の病原体、例えばAIDS、B型肝炎又は他の感染症の存在について検査できる。自己由来供給源又はプール供給源を使用してよい。架橋剤との反応についての実施態様には、自己由来若しくは単独供血者血漿などの血液由来材料、又は商業用フィブリングルー接着剤系のフィブリノーゲン成分が含まれる。
【0022】
さらに、組成物に、架橋剤と反応して例えば共有結合を形成することが可能な追加的材料を補足できる。例えばタンパク質、例えばヒトタンパク質アルブミン、フィブリノーゲン;ポリリシン;ポリアミノ酸、それらの誘導体(例えば、フィブリンモノマー又は酵素的に加水分解されたフィブリノーゲン)或いは合成ポリマー、例えば親水性ポリマー、ポリアルキレンオキシド(例えばポリエチレンオキシド若しくはポリプロピレンオキシド又はそれらのコポリマー)又はアミン末端ポリエチレングリコールを添加できる。この組成物に添加できる追加的薬剤には、凝固に関連したタンパク質、例えば因子II、フィブロネクチン;コラーゲン、ヒアルロン酸ナトリウム、多糖などの粘性調節剤;酸化防止剤、例えばヒドロキノン、ビタミンE、ビタミンC;緩衝剤、例えばHEPES、ホウ酸ナトリウム、リン酸塩;及びその他、例えば加工助剤、フィブリン溶解防止剤、血小板活性化剤又は創傷治癒剤が含まれる。又、視覚化剤も含まれ得る。視覚化剤(すなわち外科医が裸眼で、フィブリングルー又は他の密封材又は接着剤を適用している組織を見るのを助け得る薬剤)には血液適合性の発色性染料が含まれ、その場合対象となる特定の視覚化剤は、背景組織との色コントラストを提供するものであり、青色及び緑色が好ましい色であり、この場合特定の薬剤には、インドシアニングリーン、メチレンブルー、FD&C no.1、FD&C no.6、エオシン、フルオレセインなどが含まれる。蛍光化合物は裸眼で見える濃度で、例えば無毒性蛍光化合物、フルオレセインが使用できる。さらに、適切な光源又は画像技術を使用して、蛍光を視覚化するため蛍光性視覚化剤が使用できる。
【0023】
他の生物学的流体又は組成物が、本明細書に記載している架橋剤と反応できる。生物学的流体は天然又は合成由来のものとすることができる。用語生来の生物学的流体とは、生体内に見出される又は生体により生成される流体を指す。生物学的由来流体又は他の組成物は、対象とされる1種以上のタンパク質を含む任意の水性組成物とすることができる。このような組成物は、天然産生組成物、例えば生理学的に由来する流体、血液、血漿、血清、尿、脳脊髄液、涙、唾液、乳汁、粘液、腹腔液とすることができる。このような組成物は、合成的に調製される組成物、例えば組織培養液、組換えタンパク質を含有する組織培養液、合成ポリマー、アミン、スルフヒドリル、カルボキシル若しくはヒドロキシルなどのタンパク質上に見出される官能基を有するポリマー、アミン末端ポリエチレングリコール、アミン末端ポリエーテル、Jeffamine(商標)又はこれらの混合物とすることができる。タンパク質の例は、例えばアルブミン、フィブリノーゲン、フィブリン、コラーゲン、フィブロネクチン及びラミニンである。生物学的流体は、様々な宿主、例えばウシ、ヒツジ、ブタ、シカ又はヒトから得ることができる。例えば、主題の方法を用いて牛乳又は羊乳からの富化タンパク質組成物を生産することができ、この場合ウシ又はヒツジは、対象とされる組換えタンパク質を含有する乳を出すように操作した形質転換動物とすることができる。
【0024】
生物学的流体組成物は、収集して直ぐに使用でき、又は後で使用するため貯蔵できる。任意の適切な貯蔵手段が使用できる。貯蔵手段は、ある生理学的設定において組成物を究極的に使用しようとする場所で、例えば医薬送達担体として又は外科用接着剤として組成物を使用しようとする場所で、無菌とすることができる。組成物を貯蔵する1つの技術は、組成物を凍結乾燥し、凍結乾燥産物を、その後使用する無菌包装中に、例えば注射器内に包装することである。別法として、組成物は低温で、例えば約4〜-20℃以下で貯蔵できる。
【0025】
生物学的流体の調製は、実験室規模又はスケールアップいずれでも実施できる。例えば、大量のフィブリノーゲンに富む組成物を、例えばプール血漿から調製できる。又は例えば全血を哺乳動物の宿主から、抗凝固剤を含有する無菌注射器に取ることができる。赤血球などの細胞物質は、従来のプロトコルにより分離でき、組成物の無菌性を維持する方法が適用可能である。小規模の方法は、自己由来組織接着剤を調製するのに、例えば手術前又は手術中に患者自身の血液から接着剤を調製する場合に便利である。大量の初期血液組成物からスケールアップして調製する場合、B型肝炎及びAIDSなどのウイルスの検査を行うことができるプール血漿を、無菌の形で輸送及び包装できる。いくつかの実施態様において、生物学的流体は、ゲルを形成させる約12時間又は24時間以内に、患者から採取する。別法として、この流体は予め採取し、必要とされるまで例えば凍結又は冷蔵によって貯蔵できる。
【0026】
(架橋剤)
多官能性架橋剤は、生物学的流体と反応してゲルを形成できる。用語多官能性とは、共有結合を形成する少なくとも2つの反応性官能基を有する架橋剤を指す。架橋剤は、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12個又はそれ以上の官能基を含むことができる。架橋剤には、温度約10〜約50℃で液体であるものが含まれる;当業者は、全ての範囲及び明示された範囲内にある全ての値が企図されているものであることを直ちに理解するであろう。したがって、室温(約20℃)において又は生理学的温度(約35〜約40℃)において液体である架橋剤が含まれる。架橋剤には、生物学的組成物中の材料と反応して共有結合を形成できる官能基を有する低分子量水溶性架橋剤も含まれ得る。
【0027】
これらの官能基は、例えば求核体と反応可能な求電子体、特定の求核体例えば第一級アミンと反応可能な基、生物学的流体中の物質とアミド結合を形成する基、カルボキシルとアミド結合を形成する基、活性化酸官能基又はこれらの組合せとすることができる。官能基は、例えば強求電子性官能基とすることができ、これは、pH9.0の水溶液中で第一級アミンと効果的に共有結合を形成する求電子性官能基、及び/又はマイケル型反応により反応する求電子性官能基を意味する。強求電子体は、マイケル型反応に参加しないタイプのもの、又はマイケル型反応に参加するタイプのものとすることができる。
【0028】
マイケル型反応とは、共役不飽和系上の求核体の1,4付加反応を指す。この付加機序は、純粋に極性であり、又はラジカル様中間状態で進行し得る;ルイス酸又は適正に設計された水素結合化学種を触媒として作用することができる。用語共役は、炭素-炭素、炭素-ヘテロ原子若しくはヘテロ原子-ヘテロ原子の多重結合が単結合と交替していること、又は合成ポリマー若しくはタンパク質などの高分子に官能基が結合していることの両方を指すことができる。マイケル型反応は、全ての目的のため本明細書において明確に開示しているものと矛盾しない範囲で、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第6958212号中で詳細に考察されている。
【0029】
マイケル型反応に参加しない強求電子体の例は、コハク酸イミド、コハク酸イミジルエステル、NHS-エステル、マレイミドである。マイケル型求電子体の例は、アクリレート、メタクリレート、メチルメタクリレート及び他の不飽和重合性基である。
【0030】
いくつかの従来の取組みでは、PEGに依存して、水溶性架橋剤を作り出している(例えば米国特許第5,874,500号中におけるように)。このような材料は有用であることができ、本明細書において適正なものとして使用できるが、非PEGであるものを使用すると、異なった物理的性状を有する架橋組成物が生じ得る。非ポリエチレングリコール(PEG、(CH2-CH2-O)反復単位を有するポリマー、この部分(mer)はPEG基とも呼ばれる)系化合物である架橋剤が含まれる。いくつかの架橋剤はPEG基(CH2-CH2-O)を含まない。いくつかは2つ以上のPEG基を含まない。又いくつかは全てのエーテルを含まない。他の架橋剤は、互いに隣接する2つ以上のPEG基を有するが、互いに隣接する3つ以上のPEG基は有しない。いくつかの架橋剤は、分子量500、400、300、200、100又は50未満のPEG基を有するが、他のものは分子量40〜500の間のPEG基を有する;当業者は、全ての範囲及び明示された範囲内にある全ての値が企図されているものであることを直ちに理解するであろう。
【0031】
架橋剤は、高濃度すなわち約75重量/重量%を超える濃度の架橋剤を有する精製製剤として調製できる。このような製剤は、より高い純度、例えば約90重量/重量%、約95重量/重量%又は約99重量/重量%を超える純度で調製できる。2つ以上のタイプの架橋剤を一緒に混合して、適正な精製製剤を形成できる。このような製剤を使用する1つの利点は、例えば他の前駆体を架橋させる場合、希釈せずに直接使用できることである。
いくつかの架橋剤製剤は、本質的に水を含まないものとして調製できる。例えば、乾燥試薬を使用でき、又は架橋剤は、沈澱若しくは凍結乾燥方法により精製できる。
【0032】
(液体架橋剤)
いくつかの架橋剤は、温度範囲約10℃〜約50℃において液体又は半固体とすることができる。液体架橋剤は、融解物を形成することができ、これは他の液体を添加せずにそれらが液体であることを意味する。液体又は融解物は、架橋剤水溶液と比較していくつかの利点を有する。融解物は、希釈せずに使用することができる。液体は、希釈せずに物質と、例えば生物学的流体、タンパク質、又はフィブリノーゲン富化溶液と直接反応することができる。液体は、低侵襲外科用ツールにより手術部位に容易に輸送することができる。液体は、しばしば比較的急速且つ容易に水に溶解する。通常、結晶性固体に関連している結晶化エネルギーを克服する必要がないからである。水溶液では、いくつかの官能基、例えばn-ヒドロキシコハク酸イミドエステルは、特に約7.5を超える高pHで予期しない加水分解を受ける。融解物などの有機媒質は水を含まず、このような副反応がなく、貯蔵及び使用においてより安定となることができる。
【0033】
架橋剤の一実施態様は、エポキシド、n-ヒドロキシコハク酸イミド又はn-ヒドロキシスルホコハク酸イミド基などの末端のタンパク質反応性基を有する低分子量ポリエチレングリコール誘導体である。用語タンパク質-反応性とは、アミン、スルフヒドリル若しくはヒドロキシルである求核体と、又はカルボキシル若しくはヒドロキシと反応する求核体である求核体と共有結合を形成する求電子性基を指す。したがって、タンパク質反応性官能基は、求電子-求核反応スキーム(これらの技術で慣用されている用語である)の一部である。タンパク質反応性基は、強求電子体とすることができる。低分子量ポリエチレングリコール誘導体の分子量範囲は、約100〜約2000(数平均又は重量平均のいずれか)である; 当業者は、全ての範囲、及び明示した範囲内にある全ての値が企図されるものであることを直ちに理解するであろう。ポリエチレングリコール誘導体は、少なくとも3つの隣接するPEG反復単位を有する。生理学的条件下において、他の官能基の中で、N-ヒドロキシコハク酸イミドエステルを使用して、アミン基とアミド結合を形成できる。PEG末端基は、分子鎖における最終基を指す、すなわちPEGが変性されていなければヒドロキシルである;したがって、線状PEGは2つの末端基を有し、四量体PEGは4つの末端基を有する。
【0034】
合成液体架橋剤の一実施態様は、複数のPEG基を有し、室温で液体であり、複数のタンパク質-反応性官能基を有する。例えば、ポリエチレングリコール600二酸(Fluka社、カタログ81324)は、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミドが存在する状態でn-ヒドロキシコハク酸イミドと反応して、ポリエチレングリコール600二酸のN-ヒドロキシコハク酸イミドエステル(N-hydroxysuccinimide ester of polyethylene glycol 600 diacid)(PEGNHS)が得られる。この液体架橋剤は、タンパク質を架橋させることが可能であり、2つのN-ヒドロキシコハク酸イミドエステルを有し、且つおよそ室温において液体である。
【0035】
合成液体架橋剤の他の実施態様は、分岐構造及び分解性基を有する。例えば、3アームポリエチレングリコールは、最初ピリジンが存在する状態で無水グルタル酸と反応させる。このポリエチレングリコールエステルの末端カルボキシル基を、次いでn-ヒドロキシコハク酸イミドと反応させて、末端n-ヒドロキシコハク酸イミド(n-hydroxysuccinimide)(NHS)エステルを生成する。グルタレートエステルは、液体架橋剤において分解可能な結合の役割を果たす。他の実施態様において、ポリ(ビニルピロリドン-共-アクリル酸)コポリマー、平均分子量20000ダルトン(Aldrich社、カタログ番号41,852-8)は、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミドが存在する状態でn-ヒドロキシコハク酸イミドと反応して、ポリ(ビニルピロリドン-共-アクリル酸)コポリマーのN-ヒドロキシコハク酸イミドエステルが得られる。得られた生成物は半粘性液体である。他の実施態様において、1,2,3,4-ブタンジカルボン酸(1,2,3,4-butanedicarboxylic acid)(BTANHS)のN-ヒドロキシコハク酸イミドエステルを合成した。簡潔には、触媒としてDCCを使用して1,2,3,4-ブタンジカルボン酸とn-ヒドロキシコハク酸イミドとを反応させた。この架橋剤は、4つのタンパク質反応性n-ヒドロキシコハク酸イミド基を有する。この液体架橋剤は、分解可能な結合を含有できる。
【0036】
いくつかの実施態様において、架橋剤タイプの混合物を有する組成物、例えばブレンドを作製している。例えば、その1つが約10〜約50℃で液体である2種以上の架橋剤をブレンド/混合することにより架橋剤の組成物を作製している。例えば、PEG 600二酸で作製した液体架橋剤を、ポリエチレングリコールカルボキシメチレン-酪酸の4アーム-n-ヒドロキシコハク酸イミドエステル、平均分子量10000ダルトン(Nektar Therapeutics社(以前はShearwater社)4 arm CM-HBA-NS-10K)と混合している。
【0037】
いくつかの実施態様において、液体架橋剤は、水、溶媒及び/又は他の前駆体などの他の媒質中で、再構成せずに使用している。したがって、液体架橋剤は、本質的に水を含まないものとしてよい。又は架橋剤は、全ての水性及び有機溶媒を含まないものとしてよい。或いは架橋剤は、水を含まないが、生体適合性溶媒又は有機溶媒と混合してよい。1つ以上のこれらの特徴を有する、いくつかのその場で材料を形成する方法、例えば患者内で密封材又は包帯材を重合又は架橋させることが特に有利であろう。
【0038】
液体架橋剤に関連した1つの範疇は、分散性架橋剤である。いくつかの架橋剤は分散性であり、このことはそれらが真の液体ではない若しくは使用時に溶媒中に溶媒和しないが、それにも拘らず溶媒中に効果的に混和可能であることを意味する。分散性とは、例えば、本明細書において明確に開示しているものと矛盾しない範囲で、それぞれが参照により本明細書に組み込まれている米国特許第6,326,419号及び第6,846,851号中で使用されている、当技術分野の用語である。
【0039】
(架橋剤溶媒)
これらの架橋剤は従来の溶媒と一緒に使用できる。又非従来型溶媒、具体的には非水性水溶性生体適合性の無反応性溶媒も使用できる。これらは、約10〜約50℃で液体又は固体である架橋剤を含む、種々のタイプの架橋剤向けに使用できる。その場重合(in situ polymerization)への従来の取組みでは、患者内の使用部位において互いに重合する水性前駆体の使用に焦点を合わせている。従来、水性前駆体及び水性溶媒を高度に生体適合性と見なしている。しかし、従来理解されていない点は、いくつかの有機溶媒も生体適合性であることである。水分を減少させ若しくは無くすることにより、架橋剤又は他の前駆体の貯蔵寿命及び安定性を向上させることができる。さらに、水分を排除することにより、架橋剤又は他の前駆体を水に溶解するステップを有利に無くすることができる。例えば、架橋剤は非水性溶媒に溶解でき、且つそのままで直ぐに使用できる液体となり、溶媒若しくは反応助剤の添加を要しない。
【0040】
一群の非従来型溶媒は、強求電子体又は求核体が存在する状態で、官能基が安定な基であるポリマーである。理解し易くするため、用語安定な基とは、(a)pH4〜11の水中で又はジメチルスルホキシド中で実質的に分解を受けない、(b)1時間では実質的に水中で又はpH9.0のジメチルホルムアミド中でn-ヒドロキシコハク酸イミドエステルと反応して共有結合を形成しない、(c)1時間では実質的にpH4.0〜11.0で第一級アミンと反応して共有結合を形成しない官能基をいう。表現「実質的に反応しない」とは、利用できる安定な官能基が3%未満反応することをいう。分解とは、溶媒中に溶解した際、基が自発的に化学的再配列を行うことをいう。官能基(「基」又は部分(moieties)と呼ぶことがある)は、分子内の特定の原子の集合であり、これらの分子の特性的化学反応の原因である。それが一部となっている分子の大きさに拘らず同一の官能基が、実質的に同一の若しくは同様の化学反応を受ける。次の基は、安定な官能基ではない:第一級アミン、第一級スルフヒドリル、ヒドロキシル、カルボキシル、アルデヒド、シアネート、イソシアネート、ハロアルカン及び過酸化物。
【0041】
このような溶媒-ポリマーの一組は、そのヒドロキシル官能基を安定な基で置き換えるように処理しているポリエチレングリコール誘導体である。いくつかの実施態様において、これらはポリエチレングリコール系架橋剤の溶媒として使用される。いくつかの実施態様において、ポリエチレングリコールのヒドロキシルがメチルエーテル基に変換される。ポリエチレングリコールのヒドロキシル官能基は、種々の他の官能基によって封鎖されることもでき、例えばヒドロキシル基が無水酢酸と反応してアセテートブロックポリエチレングリコールを形成する。ポリエチレングリコール系溶媒は、有利に水溶性且つ無毒性である。安定基を有するポリエチレングリコール溶媒の例は、ポリエチレングリコールメチルエーテル及びポリエチレングリコールモノメチルエーテルである。例示的分子量は200〜2000である;当業者は、全ての範囲及び明示された範囲内にある全ての値が企図されているものであることを直ちに理解するであろう。
【0042】
例として、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、分子量400(Sigma/Aldrich社製品番号:81311)を真空下で120において24時間乾燥して、架橋剤と反応する恐れのある微量の水分を除去する。ポリエチレングリコールカルボキシメチレン-酪酸の4アーム-n-ヒドロキシコハク酸イミドエステル、平均分子量10000ダルトン(Shearwater社4 arm CM-HBA-NS-10K)を、乾燥ポリエチレングリコールジメチルエーテル、分子量400、に溶解して、例えば1〜40%溶液を生成させる。この溶液を濾過滅菌し、架橋反応に使用する。ポリエチレングリコールジメチルエーテルは、例えばNHSエステル官能基向けのポリマー質無反応無毒性水溶性溶媒として役立つものである。
【0043】
適切に生体適合性である有機水溶性溶媒も、架橋剤又は他の前駆体と共に適正に使用できる。ジメチルスルホキシド(dimethylsulfoxide)(DMSO)は、1つのこのような溶媒である。ジメチルホルムアミド(dimethyleformamide)(DMF)及びn-メチルピロリジノン(n-methyl pyrrolidinone)(NMP)も、適切な量において、メトキシPEG、プロピレングリコール及びエタノール同様に、生体適合性である。オレイン酸などの脂肪酸は、他の部類の有機溶媒である。ビタミンE又はその誘導体は、他の部類の使用できる液体である。溶媒の選択は、架橋に使用される官能基、及び溶媒中の溶解度によって決まると理解される。
【0044】
例として、ポリエチレングリコールカルボキシメチレン-酪酸の4アーム-n-ヒドロキシコハク酸イミドエステル、平均分子量10000ダルトン(Nektar Therapeutics社4 arm CM-HBA-NS-10K)を溶解して、例えば1〜40%溶液を生成させるのに、乾燥NMPが使用できる。0.2ミクロンのテフロンフィルターを使用してこの溶液を濾過滅菌し、アミン末端ポリエチレングリコール又はトリリシンなどの多官能性アミンと一緒に架橋反応に使用する。アミン及びNHSエステルは、能率的な重合及び架橋のためのモル当量濃度を有する。反応は、低侵襲外科技術を使用して「その場(in situ)」で行うことができる。それらの立証された安全性及び水溶性並びに高い溶媒和力のためn-メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性溶媒が好ましい。使用できる他の溶媒は、エタノール、イソプロパノール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール又は乳酸エチルである。
【0045】
(水溶性架橋剤)
新たな水溶性低分子量系架橋剤も、本明細書において開示されている。従来、低分子量架橋剤を水溶性にするにはスルホン化が用いられている。例えば、多くのn-ヒドロキシコハク酸イミド誘導体は水に不溶である。例えば市販の、グルタル酸若しくはスベリン酸のn-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)は水に不溶である。このことが、水性環境において多くのNHSエステル化合物を使用する制約になっている。例えば、通常スルホNHSと呼ばれるn-ヒドロキシコハク酸イミドのスルホン化誘導体が報告されている。スルホネート基が、NHS官能基のアミン基への反応性を維持し、NHS誘導体を水溶性にしている。しかし、スルホNHS誘導体は高価であり、それらの合成を達成するには多様なステップを用いる必要がある。しかし、製造するのが簡単で、且つ水溶性を達成するのにスルホNHS基を使用しないNHS系架橋剤が本明細書において記述されている。
【0046】
水溶性架橋剤のいくつかの実施態様は、式R-(A)n(式I)又はA-R-A(式II)によって表される。Aは、活性化可能な官能基、例えばn-ヒドロキシコハク酸イミドを表す。nはA官能基の数を表し、少なくとも2である。Rは分子量約40〜約4000を有する分子を表す。Rは少なくとも2つの基Wを含有する。Wは、水と水素結合を形成することが可能であるが、通常の貯蔵条件下では活性化酸と反応することが不可能な水溶性基、例えばアミド、第二級アミン又は第三級アミン官能基を表す。Rはポリマー又は非ポリマー、例えばアルキル又はアルコキシとすることができる。いくつかの実施態様において、Aは、pH9.0の水溶液中で第一級アミンと共有結合を効果的に形成する求電子性官能基及び/又はマイケル型反応により反応する求電子性基を意味する、強求電子性官能基を表す。別法として、Aはマイケル型反応を排除する強求電子体、又はマイケル型反応に参加する求電子体とすることができる。
【0047】
例示的な組成物及び合成スキームを図1〜5に示している。例えば、エチレンジアミンなどの脂肪族ジアミンは、無水コハク酸と反応できる。それにより形成される酸基は、n-ヒドロキシコハク酸イミド基を使用して活性化できる。エチレンジアミンの代わりに多くのジアミンが使用でき、これらには1,3-プロピルジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、ポリプロピレンイミンテトラアミンデンドリマー又は多分岐デンドリマーが含まれるが、それらに限定されない。以下のスキームはジアミン反応を例示する;しかし同一の方法を使用して多重アミンが反応できる。したがって少なくとも3つの官能基を有する分子が反応して、架橋剤又は他の前駆体、例えば官能基3〜16個又はそれ以上(例えばデンドリマーについてのように)を作ることができる;当業者は、全ての範囲、及び明示されている値の間にある全ての値、例えば3、4、6、8、10、12が企図されているものであることを直ちに理解するであろう。
【0048】
図1は、L-リシンから調製した水溶性アミノ酸系架橋剤についての合成スキームIである。リシン100は、最初過剰の無水コハク酸102と反応して、酸を末端とするアミド誘導体104を形成する。酸アミドの酸基は、1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド(1,3-dicyclohexyl carbodiimide)(108、DCC)を触媒としてn-ヒドロキシコハク酸イミドエステル106を形成することにより活性化されて、生成物110を形成し、これは一般式A-R-A(但しアミド基が、RのW官能基である)の水溶性低分子量架橋剤である。この三官能性NHS誘導体は、分子内に2つのアミド基が存在するため水に可溶である。NHS基内の窒素分子が第四級化合物を形成することにより、溶解性をさらに高めることができるであろう。これは、架橋剤を溶解するのに希薄酸溶液などの酸性溶液を使用することにより、達成される。必要な場合、水系溶液中のエタノール、DMSO、NMPなどの生体適合性溶媒を添加することにより溶解性を高めることもできるであろう。他の実施態様において、リシンと反応させるのに無水コハク酸の代わりに無水グルタル酸を使用できる。使用できる他の酸無水物又は酸塩化物は、例えば無水マレイン酸、無水コハク酸又は塩化フマリルである。
【0049】
他のアミンが使用できる。図2はスキームIIを示し、この場合図1のスキームIのリシンの代わりにエチレンジアミンを使用している。エチレンジアミン202は最初過剰の無水コハク酸102と反応して、酸を末端とするアミド204を形成する。酸アミド204の酸基は、n-ヒドロキシコハク酸イミドエステル106を形成することにより活性化されて、生成物206を形成する。図IIIはスキームIIIを示し、この場合アルギニンなどのジアミンを使用している(図3)。アルギニン302は最初過剰の無水コハク酸102と反応して、酸末端アミド誘導体304を形成する。酸アミド304の酸基は、DCC 108を触媒としてn-ヒドロキシコハク酸イミドエステル106を形成することにより活性化される。得られた生成物306は、-NH官能基4個と共に窒素原子7個を有して、水中への溶解性が改善される。
【0050】
アミン以外の他の官能基、例えばチオール又はカルボキシルが反応できる。例えば、図4はカルボキシルを用いるスキームIVを示し、この場合アスパラギン酸系架橋剤を合成する。アスパラギン酸402のアミン基は、最初塩化スクシニル404と反応して、四酸アミド誘導体406を生成させる。次いで、触媒としてDCC 108を使用しこれらの酸基がn-ヒドロキシコハク酸イミド106と反応して、NHSエステル(NHS活性化酸基)を有する生成物410を生成させる。同様のスキームを使用し、アミノ酸の種々の組合せを選択することにより多くの他の架橋剤を合成することができ、又は二酸塩化物/無水物を使用して、多官能性アミノ酸誘導体を形成することができる。次いで、n-ヒドロキシコハク酸イミド基を使用し、アミノ酸誘導体の酸基が活性化される。したがって多くのアミノ酸を使用することができるであろう。これらには、天然アミノ酸並びに、自然界には見出されない合成アミノ酸が含まれる。アスパラギン酸は2つの酸基を有し、単独部分又はポリマー、例えばアスパラギン酸の二、三、四量体並びにより大きいポリマーとして使用できる。塩化スクシニルの代わりに、多くの二酸塩化物/無水物、例えば塩化グルタリル、無水グルタル酸、無水マレイン酸、塩化マレオイル、塩化フマリル、無水セバシン酸、塩化セバコイルが使用できる。したがって一実施態様において、アスパラギン酸は塩化セバコイルと縮合して四酸誘導体を生成する。次いでNHSエステルを使用して酸基が活性化される。
【0051】
(生分解性架橋剤及び溶媒)
本明細書において記述される材料は、生分解性とすることもできる。したがって架橋剤、前駆体、モノマー又はある種の溶媒を生分解性用とすることができる。いくつかの実施態様において生分解性は、例えばエステル又は酸無水物の分解におけるように水溶液中で自発的に生じる加水分解の結果である。したがっていくつかの実施態様の材料は、室温で大過剰の水(又は緩衝水)に曝露されると、水溶液においてインビトロで分解する。例えば、室温で約50mlの水又はリン酸緩衝溶液(pH7〜7.4)中に入れた約1グラムの、架橋若しくは未架橋状態にある加水分解的に分解可能な架橋剤は、裸眼で検出し得ないように分解することができる。この分解は、酵素的に分解させられることを要する天然材料に対して著しく対照的である。実施態様には、インビボ条件下で加水分解的に分解することができる少なくとも1つの分解性結合を含む非ポリマー性の分解性架橋剤が含まれる。
【0052】
本材料の他の実施態様には、酵素作用によって分解可能なリンク(結合)、例えばタンパク質分解酵素例えばメタロプロテイナーゼにより分解されるペプチド配列が含まれる。したがって式I又は式IIのRは、生理学的条件(PBS、pH7.2)下で加水分解若しくは生分解を受けることができる生分解性リンク又は結合を有し得る。いくつかの組成物において、アミド基と活性化されたアミド基との間に生分解性リンクが存在し得る。又は例えば、末端官能基とアミド基の間に生分解性リンクを置くことができる。特定のタンパク質分解酵素により分解される合成ペプチド配列を含有するゲルの分解は、特定の酵素及びその濃度によって決まるであろう。いくつかの場合に、分解過程を促進するため架橋反応の間に特定の酵素を添加できる。ポリ(ラクチド)又はポリグリコレートが、配合できる生分解性材料の例である。ポリ乳酸若しくはポリ(乳酸)若しくはポリ(ラクチド)又はPLAは、ラクチド又は乳酸から製造されるポリマーに用いられる用語である。同様にPGAはポリグリコール酸又はポリグリコレートに用いられる用語である。このようなポリマーは一般にポリラクトン又はポリヒドロキシ酸と呼ばれる。
例えば、図5はスキームVを示し、この場合ヒドロキシルアミン502は無水コハク酸102と反応して、末端カルボン酸基を持つアミド-エステルを有する504を形成する。
【0053】
次いで、末端酸基は、n-ヒドロキシコハク酸イミド106を使用して活性化される。これは、触媒としてDCC 108を使用し酸基をn-ヒドロキシコハク酸イミドと反応させることにより達成される。架橋剤におけるコハク酸エステルは、加水分解性結合を有する生成物510を構成する。このエステル結合の加水分解は、エステル結合周辺の局所的化学環境を変化させることにより制御することができ、それにより水溶液中のその結合の半減期を変化させ得る。例えば、一実施態様において無水コハク酸の代わりに無水グルタル酸が使用される。グルタル酸エステルは、コハク酸エステルと比較してより遅い速度で加水分解し、これは明らかにグルタル酸エステルのより高級なアルキル鎖のためである。種々のアミンアルコール及び酸塩化物/酸無水物の組合せを選択することにより、多くのより加水分解性の架橋剤を合成することができる。アミノアルコールの例には、ヒドロキシアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン又はヘキサノールアミンが含まれるが、それらに限定されない。酸塩化物/酸無水物の例は、塩化グルタリル、無水グルタル酸、無水マレイン酸、塩化マレオイル、塩化フマリル、無水セバシン酸又は塩化セバコイルである。末端酸基は多くの異なる反応性基を使用して活性化できる。このような基の例は、n-ヒドロキシコハク酸イミド又はn-ヒドロキシスルホコハク酸イミドである。
【0054】
したがって架橋剤、前駆体、モノマー又はある種の溶媒は生分解性とすることができ、又は生分解性結合を有し得る。これらのいくつかは、強求電子性基を有することができる。このような分子は、広い範囲の有用性を有する。例えば、有機生物学系、組織の架橋、生物義装具組織系デバイスの滅菌向けの架橋剤を製造する試薬、マーカー、化学的及び生物学的アッセイ試薬、ビオチン化試薬、油井掘削剤、可溶化剤、下水処理、皮革加工又は安定化剤である。
【0055】
(水溶性の反応性モノマー)
やはり本明細書において開示されているものは、多くの分野で、例えばコーティングとして、又は表面改質若しくは細胞カプセル化向けに有用である水溶性の、求核性-反応性モノマーである。水と反応し得る多くの従来のモノマー、例えばメタクリル酸グリシジルは水に不溶である。この制約が、このようなモノマーの使用を著しく限定している。したがって、新規な水溶性の反応性モノマーを開示している。これらには、アミン官能基と反応性であって共有結合を形成するモノマーが含まれる。したがっていくつかの実施態様は、不飽和結合、強求核性官能基及び、水溶液中で加水分解的に分解可能なエステルを含む水溶性モノマー(例えば、1リットル当たり少なくとも1グラムの水溶解度)である。求核性基は、例えばコハク酸イミド又はコハク酸イミジルエステルとすることができる。
【0056】
これらのモノマーは、例えば、触媒としてg N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミドを使用し、n-ヒドロキシスルホコハク酸イミドの、アクリル酸又はメタクリル酸などの不飽和酸との反応によって調製できる。得られたエステルは、水に可溶であり、ラジカル重合を受け、且つ約7を超えるpHを含むアミン基に対し反応性である。n-ヒドロキシスルホコハク酸イミドと反応することができる不飽和酸の例は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸又はマレイン酸である。n-ヒドロキシスルホコハク酸イミドのナトリウム、カリウム、リチウム又は他の1価、2価若しくは3価塩が、不飽和酸との反応に使用できる。n-ヒドロキシスルホコハク酸イミドのナトリウム塩が使用できる。コハク酸イミド環上のスルホン酸又はその塩は、アミン基へのその反応性に影響を及ぼさない。これらのモノマーは、例えばアルブミン、コラーゲン又は同様なタンパク質などの水溶性高分子中に重合性基を導入するのに使用することができる。次いでこのようなマクロマーを重合させることができよう。
【0057】
一実施態様では、タンパク質(例えばアルブミン、フィブリノーゲン又は免疫タンパク質)又は多糖などの生物学的流体の成分を改質して、この生体分子構成成分に、モノマー又は他の重合性基を導入している。改質された生物学的流体の不飽和基は、次いでラジカル重合により、好ましくは光重合反応によりその場で架橋させる。例えば、1mlのウシ胎児血清を、20mgのアクリル酸のn-ヒドロキシコハク酸イミドエステル(n-hydroxysuccinimide ester of acrylic acid)(ANHS)で処理できる。このANHSは、アルブミン上のリシン残基などのタンパク質上の遊離アミン基と反応して、不飽和末端基を有するアミド結合を形成する。次いでこの不飽和改質血清をIrgacure 2959(商標)又はエオシン-トリエタノールアミンなどの光重合開始剤と混合し、長UV光(Irgacure 2959(商標))又は可視光(514nm、エオシン/トリエタノールアミン)で光重合させる。
【0058】
生物学的流体を架橋ゲル組成物に変換することは、架橋剤との化学反応により達成できる。反応の細部は、使用する生物学的流体中に存在する反応性官能基によって、架橋剤、反応物中に存在する反応性基の数、それぞれの成分の濃度、pH、温度及び圧力によって決まるであろう。架橋の反応条件は、それらの官能基の特性によって決まるであろう。いくつかの反応は、pH5〜12の緩衝水溶液中で行われる。緩衝液の例は、ホウ酸ナトリウム緩衝液(pH10)及びトリエタノールアミン緩衝液(pH7)である。いくつかの実施態様において、エタノール又はイソプロパノールなどの有機溶媒を添加して、反応速度を改善でき、又は所与の製剤の粘性を調節できる。n-メチルピロリジノンなどの無反応性有機溶媒も安定性を提供する。
【0059】
架橋剤及び官能性ポリマーが合成物である場合(例えば、それらがポリアルキレンオキシド系である場合)、いくつかの実施態様においてモル当量の反応物量を使用するのが有用である。いくつかの場合、官能基の加水分解による反応などの副反応を補償するため、モル過剰量の架橋剤を添加できる。
【0060】
求電子-求核反応による反応のため生物学的流体中の架橋剤及び架橋可能なポリマーを選択する場合、両ポリマーは1分子当たり3つ以上の官能基を有しなければならない。例えば、二官能性架橋剤は、他の二官能性成分と架橋網目を構成することはできない。架橋を生じるには、架橋剤及び生物学的流体上の基の合計が5を超えなければならない。したがって、単官能性架橋剤を使用してもゲル化を生じないであろう。大抵の場合、リシン残基などのタンパク質上の第一級アミン側基が、架橋部位として役立つであろう。一般に、それぞれの生分解性架橋ポリマー前駆体は、3つ以上、より好ましくは4つの官能基を有することが好ましい。しかし、不飽和官能基の場合、架橋剤は実際に2つの不飽和基しか有しない恐れがある。それぞれの基が、別々の分子鎖の成長に寄与する可能性があるからである。
【0061】
架橋剤基に関する反応性官能基の例は、n-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)又はn-ヒドロキシスルホコハク酸イミドである。生物学的流体に関する官能基の例は第一級アミンである。NHS-アミン反応の利点は、反応動力学により、通常10分以内、より通常には1分以内、最も通常には10秒以内の急速なゲル化につながる点である。この急速なゲル化は、生体組織上のその場反応のため好ましい。NHS-アミン架橋反応は、副産物としてN-ヒドロキシコハク酸イミドの生成を招く。スルホン化若しくはエトキシル化形態のN-ヒドロキシコハク酸イミドが、それらの水中溶解度が増加し、したがって体からそれらが迅速にクリアランスされるため、好ましいものである。コハク酸イミド環上のスルホン酸塩により、第一級アミンとのNHS基の反応性は変化しない。
【0062】
NHS-アミン架橋反応は、水溶液中で且つ緩衝液が存在する状態で行われ得る。例は、リン酸塩緩衝液(pH5.0〜7.5)、トリエタノールアミン緩衝液(pH7.5〜9.0)及びホウ酸塩緩衝液(pH9.0〜12)並びに重炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.0〜10.0)である。NHS基が水と反応するため、NHS系架橋剤及び官能性ポリマーの水溶液は、好ましくは架橋反応の直前に作るべきである。より長い「ポットライフ(可使時間)」を、これらの溶液をより低いpH(pH4〜5)に保持することにより得ることができる。
【0063】
得られた生体適合性架橋ポリマーの架橋密度は、架橋剤及び官能性ポリマーの全体分子量と1分子当たり利用可能な官能基の数とにより制御される。600ダルトンなどの架橋間のより低い分子量は、10,000ダルトンなどの、より高い分子量と比較してより高い架橋密度をもたらすであろう。弾性のあるゲルを得るように、好ましくは3000ダルトンを超える、より高分子量の官能性ポリマーが好ましい。架橋密度は、架橋剤及び官能性ポリマー溶液の全体固形分パーセントによって制御することもできる。固形分パーセントが増加するにつれて、加水分解によって不活性化する前にアミン基がNHS基と結合するであろう確率が高くなる。架橋密度を制御するさらに他の方法は、アミン対NHS基の化学量論量を調節することによる。1対1の比率が、最高の架橋密度を導く。
【0064】
上述のように、架橋剤又はそのモノマーとの反応向けに生物学的流体(例えば、血液、血清又はフィブリノーゲンに富む部分)を使用して、架橋したゲル材料が得られる。このゲル材料は、医学的処置のための準備として、架橋剤又はそのモノマーにより、例えば医学的処置の直前又はその処置の間に作り且つ使用できる。例として、無菌のヒト血液の血清又は血漿を、ポリ(ビニルピロリジノン-共-アクリル酸)コポリマーのコハク酸イミドエステル溶液(pH7.2)と混合できる。この溶液のpHを上げることにより、架橋反応が促進される。これは、このような組成物を適切なアルカリ性緩衝液と接触させることにより達成することができる。適切なアルカリ性緩衝液の非限定的例には、HEPES、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、重炭酸塩/NaOH pH10、ホウ酸ナトリウムpH10、1.5Mグリシン/NaOH pH10、0.5〜0.75M炭酸ナトリウム/重炭酸塩pH10、1Mヒドロキシエチルピペラジンプロパンスルホン酸(hydroxyethylepiperazine propane sulfonic acid)(EPPS)pH8.5、トリスヒドロキシメチルアミノエタンスルホン酸pH8及びトリエタノールアミンpH7が含まれる。使用されるアルカリ性緩衝液の量は、架橋を誘発するのに十分なものとすべきである。いくつかの場合、架橋剤はアルカリ性緩衝液と混合してpHを上げ、次いで生物学流体と混合して架橋又はゲル化を誘発する。より高いpHではn-ヒドロキシコハク酸イミドエステルが加水分解するため、この方法が最低限好ましい。生物学的流体成分上に存在する反応性官能基の数、各成分の濃度、pH、温度及び圧力などのアミン-コハク酸イミドエステル反応のパラメーターを、ゲル化が60分以内に、より好ましくは60秒以内に、最も好ましくは1〜10秒で起こるように調製する。例示的なゲル化のための組成及び反応条件を表1に示している。
【表1】
【0065】
二官能性若しくは多官能性酸のn-ヒドロキシコハク酸イミドエステルなどの多くの低分子量架橋剤は、一般に水に不溶である。例えば、グルタル、スベリン、セバシン、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸などのC4〜C18二酸のn-ヒドロキシコハク酸イミドエステルは、非常に低い水中溶解度を有する。これらは、水溶液中に分散させて分散液を形成することができ、次いでこれを、既述のように架橋及びゲル形成のため生物学的流体と混合することができる。ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドブロックコポリマーPluronic F127などの生体適合性界面活性剤を使用して、使用前に架橋剤を乳化できる。界面活性剤の非限定的例には、ポリソルベート(Polysorbate)40、ポリソルベート80、ツイーン(Tween)40、Pluronics及びTetronicsが含まれる。乳化した架橋剤溶液は、架橋反応の間均一に分配し易い。別法として、生体適合性有機溶媒を使用して架橋剤を溶解することもできる。有機溶媒の非限定的例には、エタノール、1,2-プロピレングリコール、グリセロール及びイソプロパノールなどのC1〜C3アルコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、n-メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド、乳酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、ポリエチレングリコール及びその誘導体が含まれる。水溶性有機溶媒が好ましく、n-メチルピロリジノン、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール及びポリエチレングリコール400、メトキシ末端ポリエチレングリコールが、ヒト使用におけるそれらの証明された安全性のため特に好ましい。別法として本発明中に開示される液体架橋剤を、低分子量架橋剤を溶解するのに使用することもできる。
【0066】
得られたゲルの望ましい架橋密度を達成するため、架橋剤の混合物を使用できることがある。これは、急速なゲル化を達成するため、又は架橋したゲルの適切な分解プロフィルを得るため行うことができる。一実施態様において、高分子量架橋剤(PVPPANHS)と低分子量界面活性剤(BTANHS)との混合物を使用して、アルブミンを架橋させた。他の実施態様において、PEGNHSとBTANHSとの混合物を使用した。
【0067】
これらの架橋剤及び生物学的流体を使用して、いくつかの生体適合性架橋ポリマーを生成させることができる。これらの架橋ゲル組成物は、フィルム、綱、棒、栓、薄手若しくは厚手シート、成形物及び積層物などの様々な形状及び大きさで生成できる。これらの架橋物は、組織又は器官上にその場で生成させることができ、或いは当技術分野で知られている方法又はこれから開発される方法を使用して製造装置内で生成できる。
【0068】
このような生体適合性架橋ポリマーを生成させるのに使用できるであろうこのようなポリマーのある種の組合せを表2に記載し、この場合、後者(架橋ポリマー)において架橋剤の官能基はN-ヒドロキシコハク酸イミドエステルであり、官能性ポリマーの官能基は第一級アミンである。
【0069】
【表2】
【0070】
(用途)
これらの架橋剤は、一般に、天然の又は合成の前駆体と反応する架橋剤を用い、架橋した材料例えば外科用接着剤、糊、包帯材、止血剤、創傷治癒剤、医薬送達用貯溜場所又は密封材を形成するのに有用である。例えば架橋剤は、ヒト又はウシのアルブミン溶液(例えば水若しくは緩衝水溶液中の約10〜約50%溶液)又は反応性官能基を有する合成ポリマー(生分解性基を有する若しくは有しないもの)と反応して、架橋した材料を形成する。架橋した材料を形成する重合反応において、モノマーを使用することもできる。溶媒を架橋剤、モノマー又はマクロマーと合わせることができる。溶媒の全くない又は水を含まない組成物も、その場で材料を作るように製剤することができる。便利な場合、架橋したゲル材料は視覚化剤を含むことができる(例えば腹腔鏡検査方法において密封材を使用する場合)。
【0071】
架橋ゲルは、例えばSchlag & Redlの論文「手術外科におけるフィブリン密封材(Fibrin Sealant in Operative Surgery)」((1986)Vol.1〜7)におけるように様々な臨床用途に使用でき、例えば心臓血管手術、整形外科、脳神経外科、眼科手術、一般外科及び外傷学、プラスチック再建及び顎顔面外科、耳鼻咽喉科などを含む。
【0072】
いくつかの実施態様は、材料をその場で形成することを対象としており、それは、その意図する使用部位で材料を形成することを指す。したがって患者内の、例えば密封材、傷包帯材又は制御放出用医薬貯溜場所としてヒドロゲルを使用しようと意図する部位で、その場でヒドロゲルを形成できる。この材料が外科用密封材として使用するゲルである場合、この架橋ゲルはヒトに、又は他の哺乳動物例えばイヌ、ネコ、ウシ、ブタ又はバッファローに利用することができる。密封材の医学的用途には、例えば組織又は器官を接続すること、出血を止めること、傷を癒すこと、外科的創傷を密封することが含まれる。或いは架橋した材料は、細胞成長のマトリックス又は人工血管のコーティングを提供するなどの組織を設計する用途に使用できる。架橋組成物の投与量は、その意図する用途によって決まるであろう。大抵の外科的用途では、合計体積1〜500mlの生物学的流体(又は他の前駆体流体)及び架橋剤の適用量をその場に導入すれば十分であるが、必要な場合他の体積を用いてもよい;当業者は、全ての範囲及び明示された範囲内にある全ての値が企図されているものであることを直ちに理解するであろう。
【0073】
いくつかの実施態様は、トロンビン及び/又は因子XIII及び/又はカルシウムの代わりに架橋剤を使用しているフィブリングルーである。フィブリングルーは、第1のフィブリノーゲン含有成分を有し、それが、通常過剰のカルシウムイオンが存在する状態でフィブリノーゲンを架橋させるトロンビン及び/又は因子XIIIを有する第2の成分に結合している。フィブリングルーのフィブリノーゲン部分は、トロンビン/カルシウムイオン設定組成物と同時に又は順次に、そのいずれかで組織修復部位に適用する。したがって、フィブリングルーのフィブリノーゲン部分又は他のフィブリノーゲンに富む組成物を、架橋剤又はモノマーと共に適用して架橋したフィブリン材料を作ることができる。いくつかの実施態様において、フィブリノーゲン成分、架橋剤成分又は全体系は、貯蔵、送達又は反応し易くするため、本質的に水を含まない;必要な場合生体適合性溶媒を使用して、これらの成分を可溶化できる。
【0074】
いくつかの実施態様は、低侵襲外科(minimally invasive surgery)(MIS)を対象としている。MISは、腹腔鏡検査、胸腔鏡検査、関節鏡検査、腔内内視鏡検査、血管内技術;カテーテルに基づく心臓技術(バルーン血管形成など)及び治療X線造影法などの外科技術を指している。
【0075】
生物学的流体、天然前駆体又は合成前駆体成分、及び架橋剤成分を、針若しくは注射器若しくは他の適用系を介して組織修復部位に単に順次に又は同時に適用して、それらの前駆体から架橋した材料を形成できる。ある実施態様において、組織をプライミングするように、これらの成分を順次適用するのが好ましい。組織をプライミングした場所で、第1の成分例えば架橋剤をその組織修復部位に適用する。次に、他方の前駆体、例えば生物学的流体によるものを適用する。
【0076】
したがって、フィブリングルーを送達するのに用いられるデバイスを、特定の用途に適するように、前駆体(例えば架橋剤、モノマー又は生物学的流体)の送達用に修正してもよい。組織修復部位に生物学的流体-架橋剤を手動で塗布する代わりに、フィブリングルーを適用するのに開発されたものなどの2成分系適用のための専用デバイスを使用できる。このような使用に適応できるこれら及び他の代表的なデバイスは、米国特許第6,165,201号、第6,152,943号、第4,874,368号;米国特許第4,631,055号;米国特許第4,735,616号;米国特許第4,359,049号;米国特許第4,978,336号;米国特許第5,116,315号;米国特許第4,902,281号;米国特許第4,932,942号;PCT出願WO91/09641号及びTange, R.A.の論文「手術用医薬におけるフィブリン密封材(Fibrin Sealant in Operative Medicine)」(Otolaryngology-Vol.1(1986))に記載されているものが含まれ、これらの開示はここに、参照により本明細書に組み込まれている。
【0077】
主題の発明による主題の架橋組成物は、生物学的生理活性剤の送達、例えば薬剤送達に使用することもできる。上述の組成物により送達できる対象となる生理活性剤には、例えばタンパク質、炭水化物、核酸並びに無機及び有機生物学的活性分子が含まれ、この場合特定の生理活性剤には、例えば酵素、抗生物質、抗悪性腫瘍薬、局所麻酔薬、ホルモン、抗血管形成剤、抗体、神経伝達物質、向精神薬、成長因子、生殖器官に影響を及ぼす薬剤及びオリゴヌクレオチド例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれる。含まれ得る種々の治療薬は、米国特許第6,566,406号又は第6,632,457号中にも示されている。薬剤送達用途のため架橋ゲルを調製するには、単に活性剤を一方又は両方の前駆体と合わせるだけで、それらを架橋させてゲルを形成することができる。投与は、注射器、カニューレ、套管針などの任意の好都合な手段によることができる。このような薬剤送達方法は、活性剤の全身的及び局所的投与のいずれにも用途を見出している。
【0078】
一実施態様において、活性剤は、架橋ゲルと別個の相中に存在する。別個の相は、ゲルが形成されている間、架橋ゲルを活性剤の副作用から保護し、且つ/又はゲルからの活性剤の放出動態学を調節する。この場合「別個の相」は、油(水中油エマルジョン)、生分解性担体などとすることができる。例えば、全ての目的のため本明細書において明確に開示しているものと矛盾しない範囲で、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第6,632,457号は、本明細書における使用に適応できる動機を開示している。その中に活性剤が存在できる生分解性担体は、マイクロ粒子、マイクロスフェア、マイクロビーズ、マイクロペレットなどのカプセル化担体を含む。その場合活性剤は、生浸食性又は生分解性の、ポリ無水物、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリオルトカーボネート、ポリカプロラクトン、ポリトリメチレンカーボネート又はそれらのコポリマーなどのポリマー;シクロデキストリンなどのケージング(caging)若しくは包括性(entrapping)分子の中に封入される。生分解性担体で保護される活性剤が好ましく、この場合活性剤は例えばゲンタマイシン、テトラサイクリンなどの抗生物質である。架橋ゲルはその場で形成されて、薬剤送達貯溜場所として役立つ。
【0079】
本組成物の種々の例示的用途が上述されているが、上記において説明したように主題の方法は、生物学的流体から作った架橋ゲルの調製に限定されず、同様に他のゲルを生成させるのに使用することができる。例えば、アミン末端ポリエチレンオキシド、ポリリシン、フィブリノーゲン、フィブリノーゲンモノマー又はアルブミン溶液などの適正なアミン基含有ポリマーを選択することによって、種々のタイプの架橋した組成物を調製することができる。ヒトの血液は、知られている若しくはこれまで発見されている種々の成長因子(血小板成長因子)、酵素(tPA、トロンビン)などの様々な生物学的活性成分を含有するので、ヒトの血液、血漿及び血清を使用して作った架橋組成物が、いくつかの用途において有利である。本架橋方法では、架橋したポリマーマトリックス内にこのような生物学的活性成分を捕捉し、制御された形でそれらを放出することが可能になる。主題の方法及び組成物は、細胞、細菌、ウイルス及び同様な生物学的材料の固定化に使用することもできる。一実施態様において、ヒトの血液を使用して、赤血球及び血小板が封入されている架橋ゲルを形成している。
【0080】
主題の発明はキット、例えば凝血又は密封材キットをも提供する。キットは、第1の成分として、ヒトの血液又はその誘導体などの生物学的流体に架橋することが可能な架橋剤を有し得る。第1の成分は場合によってアルカリ性緩衝液を含有することができ、カルシウムイオンの供給源を提供することもできる。第2の成分は、トロンビン、フィブリノーゲン、フィブリノーゲンモノマー、アミノ末端ポリエチレングリコール又はアルブミンを場合によって含有することができるアルカリ性緩衝液である。場合によって、このキットには、第1又は第2成分に添加することができる無菌生理食塩水などの液体、及びこのような希釈液を調製する指示書を納めることもできる。
【0081】
いくつかの実施態様において、官能基を有する前駆体は、水を含まない本質的に乾燥した状態で貯蔵される。n-ヒドロキシコハク酸イミドエステルは、例えば湿気と反応性であるため、このようなエステル及びそれらの反応物は、不活性ガス雰囲気下で包装することができる。不活性雰囲気は、窒素雰囲気又は二酸化炭素雰囲気とすることができる。このような包装により、貯蔵時間が改善される可能性がある。この包装は、このような組成物の周囲温度貯蔵を可能にすることもできる。
【0082】
いくつかの実施態様において、使用前に前駆体又は溶媒は融解される。融解は体外で使用直前に行うこと、又はヒト若しくは動物の体内で行い且つ使用することができる。ポリエチレングリコールカルボキシメチレン-酪酸の4アーム-n-ヒドロキシコハク酸イミドエステル、平均分子量10000ダルトン(Shearwaters社4 arm CM-HBA-NS-10K)などいくつかの架橋剤は、70℃未満の低融点を有し、外科的環境における「その場」で、生物学的流体と反応させる前に融解することができる。固体を融解する任意の方法が使用でき、これらには電気的加熱、輻射熱加熱、超音波により誘発される加熱、赤外加熱器及びレーザーが含まれるが、それらに限定されない。無毒性充填剤又は可塑剤などのある種の添加剤を添加して、架橋剤の粘性又は融点を制御できる。
【0083】
いくつかの実施態様は、材料を形成するために架橋させることができる前駆体を有する組成物として生物学的流体の使用を対象としている。この生物学的流体は、外科的処置の間に、ヒトの体に導入することができる。このような生物学的流体組成物は、対象となる1種以上のタンパク質を含む水性組成物とすることができ、この場合このような組成物には、生理学的由来流体、例えば血液、血漿、血清、尿、脳脊髄液、涙、唾液、乳汁、粘液、腹腔液などの天然産生組成物;並びに合成的に調製される組成物、例えば組織培養液、組換えタンパク質を含有する組織培養液、アミン末端ポリエチレングリコール、アミン末端ポリエーテル、Jeffamine(商標)などのタンパク質様官能基を含有する合成ポリマー又はこれらの混合物の両方が含まれる。対象となる生理学的流体は、ウシ、ヒツジ、ブタ、シカ、ヒトなどを含めた様々な宿主から得ることができる。例えば、主題の方法を用いて牛乳又は羊乳からの富化タンパク質組成物を生産することができ、この場合ウシ又はヒツジは、対象となる組換えタンパク質を含有する乳を出すように操作した形質転換動物とすることができる。対象となる組換えタンパク質又はタンパク質混合物には、アルブミン、フィブリノーゲンなど及びこれらの混合物が含まれるが、それらに限定されない。
【0084】
(血管閉塞又は血管表面及び組織処理の用途)
いくつかの実施態様は、血管内に前駆体を放出して血液流体又は血管内の他の生物学的流体を架橋させることに関する。一般に、架橋剤、モノマー又はマクロマーを血管内に放出し、血管内のタンパク質又は他の生体分子と共にゲルを形成させる。強求電子性架橋剤は自発的に生体分子と反応してゲルを形成するであろう。重合可能な不飽和部分を有するモノマー又はマクロマーは、例えば、本明細書において明確に開示しているものと矛盾しない範囲で、それぞれ参照により本明細書に組み込まれている米国特許第6,152,943号におけるようにレドックス重合系を使用することにより、又は米国特許第5,410,016号におけるように光重合により、ゲルの形成を開始できる。種々の実施態様の既に記述した前駆体、例えば液体架橋剤、小さい架橋剤又は水性若しくは有機溶媒を有する架橋剤が使用できる。
【0085】
いくつかの用途は、血管を閉塞させることに関する。図6に示すようにカテーテル602を、全血606をその中に有する血管604内に配置している。前駆体例えば架橋剤をカテーテル602にポンプで送下し、A又はBの矢印で示すようにカテーテル端部608から血管604内に放出する。この前駆体が、血管内でゲル材料を形成する(図示せず)。
【0086】
いくつかの用途は、生物学的血管の壁上に材料を形成することに関する。図7Aは、矢印Aで示すように前駆体の流れを導く可逆膨張性閉塞デバイス702を取り付けたカテーテル700を図示し、前駆体が開口部706を通って血管704内に放出されることを示している。この前駆体は矢印Bで示すように閉塞デバイス702を膨張させるのに使用でき、この前駆体が開口部708を通って閉塞デバイス内に流入する。図7Bは、矢印Cにより図7aのデバイスが移動し、その間前駆体が血管内に入っていることを図示している。前駆体が反応するにつれ、閉塞デバイス702の動きによって、架橋した材料710の形成が終わった場所で前駆体を血管の管腔に押し付ける形になり、血液と血管壁上の材料とが一緒に架橋される。したがって、材料の形成速度を閉塞デバイスの運動速度と合致させると、この材料の形成を制御することができる。閉塞デバイスの動きに対して反応が非常に迅速であると、血管の壁に対して緩く結合された材料が形成され易いであろう。より遅い反応により、ゲル化材料が血管の管腔に押し付けられ易くなり、バルーンがこの材料を壁に押し付け且つ前駆体を捕捉し、それにより材料との反応が継続されて架橋を形成させるであろう。図7A及び7Bは、血管の壁上に材料を形成するための、広く適用可能な原理を実証している。
【0087】
これらの原理は、例えば図8A及び8Bのように適用できる。図8Aは、前駆体の流れを導く、可逆膨張性閉塞デバイス802を取り付けたカテーテル800を図示する。前駆体はカテーテル800を通ってポンプ送りされ、矢印Aで示す開口部804を通って閉塞部材802に流入し、閉塞部材802は開口部806を有し、それにより矢印Bで示すように前駆体を血管810に流入させる。この前駆体が血管810内の血液を架橋させて、カテーテル800が矢印Cで示す方向に動くにつれて材料812を形成する。
【0088】
いくつかの実施態様において、この膨張性デバイスに架橋剤をコーティングする。血管内にガイドワイヤを入れ、ガイドワイヤでカテーテルを通す。インフレーションガイドワイヤに取り付けた膨張性デバイスは、カテーテルを通って対象となる部位まで行く。デバイスは血管中に入り、膨張して血管壁に接触し、そこで架橋剤が血液と反応して架橋した材料を形成する。このコーティングは、液体架橋剤を直接適切な閉塞デバイス上に配置することにより、又は溶媒若しくは賦形剤、例えば、全ての目的のため本明細書において明確に開示しているものと矛盾しない範囲で、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第6,632,457号におけるように、ワックス、脂肪族化合物又は放出速度調節剤を使用することにより行うことができる。いくつかの実施態様において、架橋剤は室温で糊又は固体となっており、生理学的温度ではより流動性若しくはより低粘性となって、コーティング又はデバイスからの架橋剤の放出が促進される。
【0089】
前駆体は、局所的に送達しようとする薬剤と合わせて送達できる。このような薬剤の例は、クロピドグレル、タキソール、ラパマイシン又はスタチンである。薬剤は、処置前、処置中若しくは処置後に前駆体に混合し、又はコーティングし、又はカテーテルを通して送達できる。
【0090】
架橋材料の1つの用途は、局所薬剤送達用貯溜場所として役立てることである。それとして、架橋剤は必要時に患者内の、例えば血管、管路(tract)、心臓領域又は他の組織に配置できる。いくつかの実施態様において、これらの材料は、辺縁切除組織若しくは傷付いた組織を上面コーティングするため使用する。例えばバルーン血管形成技術は血管を破損する恐れがあり、その場合これらの材料が使用される。或いは例えば、辺縁切除術又は組織除去技術では、望ましくない組織又は傷を有用なように縮小するが、傷付いた組織が残る可能性があり、不規則な形の領域が残り得る。これらの表面上にこの材料を形成すると、例えば血液適合性表面を提供することによるなど、有利な生理学的効果を有することができる。その上、このような組織上への薬剤の放出が有用である。例えば、消炎剤を送達でき、或いは他の薬剤例えば抗生物質、有糸分裂阻害剤、サイトカイン又は細胞間マトリクス分子を送達できる。
【0091】
いくつかの実施態様において、この膨張性デバイスは冠状動脈ステントであり、前駆体をこのステント上に配置し、又はこのステントの周囲にコーティングを形成する。例えば、ガイドワイヤ系デバイスのいくつかの例が、例えば本明細書において明確に開示しているものと矛盾しない範囲で、ここに参照により本明細書に組み込まれている米国特許第5,540,707号;第5,935,139号;第6,050,972号;第6,371,970号;第6,875,193号;第6,800,080号において提供されているように種々のデバイスを適正にコーティングできる。このコーティング上の架橋剤は、ステントの周囲に予防用材料を形成し、それが強化された生体適合性をもたらす。これらはそれぞれ本明細書において明確に開示しているものと矛盾しない範囲で、ここに参照により組み込まれている。
【実施例】
【0092】
(材料及び設備)
ポリエチレングリコールは、Shearwater Polymers、Union Carbide、Fluka及びPolysciences社などの種々の提供先から購入することができる。多官能性ヒドロキシル及びアミン末端ポリエチレングリコールは、Shearwater Polymers、Dow Chemicals及びTexaco社から購入される。Pluronic(登録商標)及びTetronic(登録商標)シリーズ多価アルコールはBASF Corporationから購入することができる。DL-ラクチド、グリコリド、カプロラクトン及びトリメチルカーボネートは、商業的提供先、例えばPurac、DuPont、Polysciences、Aldrich、Fluka、Medisorb、Wako及びBoehringer Ingelheimから入手することができる。N-ヒドロキシスルホコハク酸イミドはPierce社、米国から購入することができる。他の試薬及び溶媒は、試薬等級であり、Polysciences、Fluka、Aldrich及びSigma社などの商業的提供先から購入することができる。試薬/溶媒は典型的にはPerrinらに記述されているものなどの標準的実験室手順を用い精製/乾燥している。小型実験室設備及び医用補給品は、例えばFisher又はCole-Parmer社から購入することができる。
【0093】
(一般分析)
合成されたポリマーの化学分析には、核磁気共鳴(プロトン及び炭素-13)、赤外分光法、高圧液体クロマトグラフィー及びゲル浸透クロマトグラフィー(分子量測定のため)を使用する構造決定が含まれる。融点及びガラス転移温度などの熱的特性決定は、示差走査熱量分析により行うことができる。ミセル形成、ゲル形成などの水溶液性状は、蛍光分光法、UV-可視分光法及びレーザー光分散装置により測定することができる。
【0094】
ポリマーのインビトロ分解は、リン酸塩緩衝食塩水(pH7.2)などの水性緩衝媒質中において、37℃で重量的に追跡する。インビボ生体適合性及び分解寿命(life time)は、ゲル化製剤をラット又はウサギの腹腔内に直接注入又は形成し、期間2日〜12カ月にわたってその分解を観察することにより評価できる。別法として、架橋剤-生物学的流体組成物をモールド内に注型するなどの方法によって作った前作製の無菌植込錠(インプラント)により分解性を評価できる。次いでこの植込錠を、動物の体内に外科的に埋没させる。植込錠の経時分解性は重量的に又は化学分析によりモニターする。植込錠の生体適合性は、標準の組織学的技術により評価することができる。
【0095】
(実施例1 ポリビニルピロリジノン系架橋剤の合成)
ポリ(ビニルピロリジノン-共-アクリル酸)コポリマーのN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)エステル(N-hydroxysuccinimide ester of poly(vinyl pyrrolidinone-co-acrylic acid)copolymer)(PVPPANHS)の合成
1gのポリ(ビニルピロリジノン-共-アクリル酸)コポリマー(Aldrich、カタログ番号41,852-8)1gと、0.4gのN-ヒドロキシコハク酸イミドとを100ml丸底フラスコに移した。この混合物を、乾燥ジメチルホルムアミド(DMF)10mlに溶解した。次いでこの溶液を、氷浴を使用して0℃まで冷却した。乾燥DMF 5mlに溶解した0.72gのN,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を、1滴ずつ反応混合物に添加した。反応混合物を0℃で2時間保持し、次いで室温で12〜24時間保持した。全体を処理する間、湿気から反応混合物を保護した。反応の終わりに、沈澱したジシクロヘキシル尿素を濾過により除去した。次いで濾液に、ジエチルエーテル200〜500mlを添加した。沈澱したポリマーを傾瀉又は濾過により回収した。濃い粘稠な液体である生成物をさらに、ジエチルエーテル10〜20mlで洗浄することにより精製した。IRスペクトルは1780cm-1にイミドカルボニルを、1380cm-1に環状C-Nを示した。NHSエステルは、使用するまで-20℃で貯蔵した。
【0096】
(実施例2 低分子量四官能性架橋剤(水に不溶)の合成)
1,2,3,4-ブタンジカルボン酸のN-ヒドロキシコハク酸イミドエステル(BTANHS)の合成
100ml丸底フラスコ中に、1,2,3,4-ブタンジカルボン酸1.0グラム、N-ヒドロキシコハク酸イミド2.0g及びテトラヒドロフラン(THF)10mlを添加し、このフラスコを、氷浴を使用して0℃まで冷却した。撹拌しながら、THF 5ml中に溶解したN,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド3.5gを添加した。反応混合物を0℃で2〜4時間撹拌し、次いで室温で1晩撹拌した。沈澱したジシクロヘキシル尿素を濾過により除去し、溶媒を除去することによりこの溶液を濃縮した。不純な淡黄色固体生成物を、再結晶により精製した。IRスペクトルは1780cm-1にイミドカルボニルを、1380cm-1に環状C-Nを示した。
【0097】
(実施例3 液体架橋剤の合成)
ポリ(エチレングリコール)N-ヒドロキシコハク酸イミドエステル(PEGNHS)の合成
100ml丸底フラスコ中に、ポリエチレングリコール600二酸(Fluka、カタログ81324)2グラム、N-ヒドロキシコハク酸イミド0.8g及び塩化メチレン10mlを添加し、このフラスコを、氷浴を使用して0℃まで冷却した。撹拌しながら、塩化メチレン5ml中に溶解したN,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド1.4gを添加した。反応混合物を0℃で2〜4時間撹拌し、次いで室温で1晩撹拌した。沈澱したジシクロヘキシル尿素を濾過により除去し、溶媒を除去することによりこの溶液を濃縮した。不純な淡黄色液体生成物を、ジエチルエーテル10mlで洗浄することにより精製した。IRスペクトルは1780cm-1にイミドカルボニルを、1380cm-1に環状C-Nを示した。
【0098】
(実施例4 水溶性ポリ(ビニルピロリジノン)系架橋剤を使用したタンパク質溶液の架橋)
PVPPANHSを使用したリン酸塩緩衝食塩水(PBS)溶液中における30%アルブミンの架橋
100gのPVPPANHSを、PBS 1ml中に溶解した。ウシ血清アルブミン333mgをPBS 0.667ml中に溶解した。PBS中のPVPPANHS溶液20マイクロリットルと、アルブミン溶液20マイクロリットルとをガラスプレート上で混合して、均一な溶液を形成した。3M水酸化ナトリウム20マイクロリットルを、PVPPANHS-アルブミン混合物に添加すると、20秒でこの溶液は軟ヒドロゲルに変換された。得られたヒドロゲルは水に不溶であり、架橋網目構造が形成されたことを示した。
【0099】
(実施例5 架橋したPVP-ポリアルキレンオキシドコポリマー)
PVPPANHSを使用したアミン末端ポリエチレングリコールの架橋
100gのPVPPANHSを、PBS 0.9ml中に溶解する。300mgのアミン末端4アームポリエチレングリコール4000(amine terminated 4 arm polyethylene glycol 4000)(APEG、Shearwater Polymers社、米国から)をPBS 0.700ml中に溶解する。PBS中のPVPPANHS溶液20マイクロリットルと、APEG溶液20マイクロリットルとをガラスプレート上で混合して、均一な溶液を形成する。3M水酸化ナトリウム20マイクロリットルを、PVPPANHS-アルブミン混合物に添加すると、この溶液は架橋ヒドロゲルに変換される。
【0100】
(実施例6 合成水溶性架橋剤を使用したタンパク質混合物及び酵素の架橋)
PVPPANHSを使用したヒト血漿の架橋
100gのPVPPANHSを、PBS 0.9ml中に溶解した。20マイクロリットルのPBS中のPVPPANHS溶液と、20マイクロリットルのヒトの血漿とをガラスプレート上で混合して、均一な溶液を形成した。3M水酸化ナトリウム20マイクロリットルを、PVPPANHS-血漿混合物に添加すると、7分でこの溶液は軟ヒドロゲルに変換された。得られた半合成凝血塊はPBSに不溶であり、血漿が架橋されたことを示している。いくつかの場合、より急速にゲル化させ、架橋密度を増加させるため、ヒトの血漿を、ヒト血清アルブミン又はアミン末端ポリエチレングリコールなどの他のポリマーと混合できる。
【0101】
(実施例7 ポリビニルピロリジノン系架橋剤を使用した哺乳動物細胞及び酵素のカプセル化)
PVPPANHS溶液を使用したヒト血液のゲル化
100gのPVPPANHSを、PBS 0.9ml中に溶解した。20マイクロリットルのPBS中のPVPPANHS溶液と、20マイクロリットルの新鮮なヒトの血液とをガラスプレート上で混合して、均一な分散液を形成した。3M水酸化ナトリウム20マイクロリットルを、PVPPANHS-血液分散液に添加すると、10分でこの溶液は軟ヒドロゲルに変換された。暗赤色に着色された架橋固体はPBSに不溶であった。血液中の細胞はゲル内部に捕捉されており、したがってゲル内にカプセル化されている。
【0102】
(実施例8 水溶性ポリ(ビニルピロリジノン)系架橋剤を使用したタンパク質溶液の架橋)
PVPPANHSを使用した20%ウシフィブリノーゲン溶液の架橋
100gのPVPPANHSを、PBS 0.9ml中に溶解した。0.200mgのウシフィブリノーゲンをPBS 0.800ml中に溶解した。20マイクロリットルのPBS中のPVPPANHS溶液と、20マイクロリットルのフィブリノーゲン溶液とをガラスプレート上で混合して、均一な溶液を形成した。3M水酸化ナトリウム20マイクロリットルを、PVPPANHS-フィブリノーゲン混合物に添加すると、この溶液はヒドロゲルに変換された。
【0103】
(実施例9 水不溶性架橋剤を使用したタンパク質溶液の架橋)
PBS中のBTANHS分散液を使用した30%アルブミン溶液の架橋
100gのBTANHSを、PBS 0.9ml中に溶解した。333mgのウシ血清アルブミンをPBS 0.667ml中に溶解した。PBS中のBTANHS分散液20マイクロリットルと、20マイクロリットルのアルブミン溶液とをガラスプレート上で混合して、均一な分散液を形成した。3M水酸化ナトリウム20マイクロリットルを、BTANHS-アルブミン混合物に添加すると、5分でこの溶液は軟ヒドロゲルに変換された。得られたヒドロゲルは水に不溶であり、架橋網目構造が形成されたことを示した。
【0104】
(実施例10 水不溶性架橋剤乳濁液を使用したタンパク質溶液の架橋)
PBS中のBTANHS乳濁液を使用したアルブミン溶液の架橋
200gのBTANHSを、界面活性剤としてPluronic F127(BASF Corporation米国から) を2%含有するPBS 0.8ml中に溶解した。超音波処理又は高速撹拌により乳濁液の形成を助ける。333mgのウシ血清アルブミンをPBS 0.667ml中に溶解した。PBS中のBTANHS乳濁液20マイクロリットルと、20マイクロリットルのアルブミン溶液とを1mlプラスチック製遠心管中で混合して、均一な溶液を形成した。トリエタノールアミン20マイクロリットルを、アルブミン-BTANHS混合物に添加すると、3分でこの溶液は軟ヒドロゲルに変換された。
【0105】
(実施例11 生体適合性有機溶媒中に溶解した架橋剤を使用したタンパク質溶液の架橋)
ポリエチレングリコール600中のBTANHS溶液を使用したアルブミン溶液の架橋
100gのPEGNHSを、ポリエチレングリコール600 0.8ml中に溶解した。ポリエチレングリコールは有機溶媒として役立つ。ウシ血清アルブミン200mgをPBS 0.800ml中に溶解した。ポリエチレン600溶液中の20マイクロリットルのPEGNHS溶液と、20マイクロリットルのアルブミン溶液とをガラスプレート上で混合した。3M水酸化ナトリウム溶液20マイクロリットルを、アルブミン-PEGNHS混合物に添加すると、5分でこの溶液は軟質ゴム状ヒドロゲルに変換された。
【0106】
(実施例12)
液体架橋剤を使用したタンパク質溶液の架橋
333mgのウシ血清アルブミンをPBS 0.667ml中に溶解した。20マイクロリットルの生の液体としてのPEGNHSと、20マイクロリットルのアルブミン溶液とをガラスプレート上で混合して均一な溶液を形成した。3M水酸化ナトリウム20マイクロリットルを、PEGNHS-アルブミン混合物に添加すると、60秒でこの溶液は軟ヒドロゲルに変換された。得られたヒドロゲルは水に不溶であり、架橋網目構造が形成されたことを示した。
【0107】
(実施例13)
架橋剤の混合物を使用したタンパク質溶液の架橋
PVPPANHS及びBTANHS混合物を使用したアルブミンの架橋
333mgのウシ血清アルブミンをPBS 0.667ml中に溶解した。PEGNHS 100mgとBTANHS 100mgとを、PBS 0.800ml中に溶解した。アルブミン溶液20マイクロリットルと、架橋剤溶液20マイクロリットルとをガラスプレート上で混合して均一な溶液を形成した。3M水酸化ナトリウム20マイクロリットルを、架橋剤-アルブミン混合物に添加すると、60秒でこの溶液は軟ヒドロゲルに変換された。
【0108】
(実施例14)
組織用架橋剤を使用した組織のプライミング
PEGNHS液体架橋剤を使用した組織のプライミング
本方法がどのように実施できるか実証するこの実施例では、0.5mlのPEGNHS架橋剤溶液をウシの心膜(pericardium)組織2cm2に塗布する(PEGNHSをプライマーとして使用する)。次いで、プライマー塗布した領域上にPBS(pH7)中の30%アルブミン溶液とPBS中の10%PVPPANHS溶液との調製したての1:1混合物を塗布する。次いで、このアルブミン溶液上にトリエタノールアミンを塗布することにより、混合物のpHを上げる。同様な実験において、プライマー塗布しない組織上でアルブミン溶液を架橋させる。プライマーと一緒に使用した場合、架橋したアルブミンは改良された組織への結合性を示す。
【0109】
(実施例15)
低分子量分解性架橋剤の合成
N-ヒドロキシスルホコハク酸イミドにより活性化されるコハク酸エステル化ポリヒドロキシ化合物
本方法がどのように実施できるか実証するこの実施例では、10gのエリトリトールを乾燥トルエン200mlに溶解する。約50mlのトルエンを蒸留して、エリトリトールから微量の水分を除去する。この溶液を50〜60℃まで冷却し、この溶液にピリジン20mlと無水コハク酸8.58gを添加する。次いで反応混合物を3時間還流し、減圧下で未反応ピリジン及びトルエンを蒸発乾固させる。この残渣を、活性化反応に用いる。
【0110】
パート2: SNHSによるESの活性化
エリトリトール-コハク酸エステル(erythritol-succinate)(ES、2.0g)を、10mlの無水ジメチルホルムアミド(「DMF」)に溶解し、0℃まで冷却する。この混合物にN,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド3.30を添加した。続いて3.47gのN-ヒドロキシスルホコハク酸イミドを1滴ずつ添加する。この混合物を1晩撹拌した後、沈澱したジシクロヘキシル尿素を濾過により除去し、溶媒を除去することによりこの溶液を濃縮する。これをさらにカラムクロマトグラフィーにより精製する。
【0111】
(実施例16)
水溶性アミン反応性の重合性モノマーの合成
メタクリル酸n-スルホコハク酸イミジルの合成
本方法がどのように実施できるか実証するこの実施例では、メタクリル酸3gと、14.4gのN,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ナトリウム塩と、ジメチルホルムアミド(DMF)50mlとを250ml丸底フラスコに移す。この溶液を、氷浴を使用して0℃まで冷却する。乾燥DMF 50mlに溶解したN-ヒドロキシスルホコハク酸イミド15.2gを反応混合物に添加する。反応混合物を室温で12〜24時間保持する。全体的処理の間、水分から反応混合物を保護する。反応の終わりに、沈澱したジシクロヘキシル尿素を濾過により除去する。濾液からのDMFを、真空蒸留により除去する。粗生成物をさらに、カラムクロマトグラフィーにより精製する。生成物は、抑制剤としての0.010gのヒドロキノンと一緒に貯蔵する。生成物は水に可溶である。
【0112】
(実施例17)
水溶性アミン反応性モノマーのポリマー及びコポリマー
メタクリル酸n-スルホコハク酸イミジルの重合
本方法がどのように実施できるか実証するこの実施例では、過酸化ベンゾイル10mgと、メタクリル酸n-スルホコハク酸イミジル1グラムと、DMF 3mlとを20ml重合管に移す。次いでこの管を窒素雰囲気下で、油浴内において70℃で5時間〜24時間加熱する。大過剰のジエチルエーテルにDMF溶液を添加することにより、重合生成物を回収する。同様な方法で、開始剤として過酸化ベンゾイル10mgを使用してメタクリル酸n-スルホコハク酸イミジル(0.2グラム)を、メタクリル酸メチル(0.8グラム、疎水性モノマー)又はn-ビニルピロリジノン(0.8グラム、親水性モノマー)と共重合させることができる。
【0113】
(実施例18)
液体架橋剤の合成(生体安定性)
ポリエチレングリコール600二酸5gを、ジクロロメタン50ml及びテトラヒドロフラン50ml中に溶解した。この溶液を、4℃まで冷却する。1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)4.9gとn-ヒドロキシコハク酸イミド4.0gを反応混合物に添加した。この混合物を、窒素雰囲気下において4℃で6時間、及び室温で1晩撹拌した。ジシクロヘキシル尿素を濾過により除去し、溶媒を除去することによりPEGエステルを単離した。それをさらに、基質としてアルミナ及び移動相としてトルエンを使用しカラムクロマトグラフィーにより精製した。生成物は、-20℃において窒素雰囲気下で貯蔵した。NHSエステル生成物は25℃で液体であった。
【0114】
(実施例19)
分岐型液体架橋剤(反応性基3個を有する分岐ポリマー)の合成(生分解性)
パート1: PEGヒドロキシル基のカルボキシル基への変換
本方法がどのように実施できるか実証するこの実施例では、5gのポリエチレングリコールトリオール、分子量1000(PEG-1000T)又はトリメチロールプロパンエトキシレート(Sigma-Aldrich社製品番号:41,617-7)を、使用前に真空下において1晩60℃で乾燥する。PEG-1000Tコポリマー10gを、乾燥ピリジン70ml中に溶解する。これに3.8gの無水グルタル酸を添加し、この溶液を窒素雰囲気下において2時間還流させる。大部分のピリジンを蒸留除去し、この冷ピリジン溶液をヘキサン4000mlに注入することにより、ポリマーを単離し且つ60℃において真空下で乾燥し、その後のカルボキシル基活性化反応に直ちに使用する。
【0115】
パート2: n-ヒドロキシコハク酸イミドを使用した酸基の活性化
乾燥塩化メチレン100ml中の10gのPEG-1000Tグルタレート溶液にn-ヒドロキシコハク酸イミド2.8gとDCC 6.6gを添加する。この反応混合物を、窒素雰囲気下で氷浴を使用して0℃まで冷却し、1晩撹拌する。ジシクロヘキシル尿素を濾過により除去する。濾液を蒸発させ、得られた残渣をトルエン10ml中に再溶解する。このトルエン溶液から、冷ヘキサン2000ml中で沈澱を得る。
【0116】
(実施例20)
液体架橋剤-2つの架橋剤の混合物
本方法がどのように実施できるか実証するこの実施例では、PEG 600液体架橋剤(実施例11)1gを、ポリエチレングリコールカルボキシメチレン-酪酸の4アーム-n-ヒドロキシコハク酸イミドエステル、平均分子量10000ダルトン(Shearwaters社4 arm CM-HBA-NS-10K)100mgと混合する。この液体混合物を、多官能性アミン及びタンパク質との架橋反応に使用する。
【0117】
(実施例21)
非水性架橋性組成物-ポリエチレングリコール系
本方法がどのように実施できるか実証するこの実施例では、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、分子量400(Sigma-Aldrich社製品番号:81311)5gを、真空下において120℃で24時間乾燥する。ポリエチレングリコールカルボキシメチレン-酪酸の4アーム-n-ヒドロキシコハク酸イミドエステル、平均分子量10000ダルトン(Shearwaters社4 arm CM-HBA-NS-10K)100mgを、乾燥した900mgのポリエチレングリコールジメチルエーテル、分子量400、中に溶解する。この溶液を濾過滅菌し、アミン末端ポリエチレングリコール又はトリリシン又は血液、血漿若しくは血清などの生物学的流体などの多官能性アミンとの架橋反応に使用する。この反応はその場で実施することができる。ポリエチレングリコールジメチルエーテルは、NHSエステル向けのポリマー性の無反応性無毒性水溶性溶媒として役立つ。
【0118】
(実施例22)
非水性液体架橋性組成物、有機溶媒系(n-メチルピロリジノン系)
本方法がどのように実施できるか実証するこの実施例では、ポリエチレングリコールカルボキシメチレン-酪酸の4アーム-n-ヒドロキシコハク酸イミドエステル、平均分子量10000ダルトン(Shearwaters社4 arm CM-HBA-NS-10K)100mgを、乾燥した900mgのn-メチルピロリジノン中に溶解する。この溶液は0.2ミクロンテフロンフィルターを使用して濾過滅菌し、アミン末端ポリエチレングリコール又はトリリシンと、或いは血液又は血清などの生物学的流体などの多官能性アミンとの架橋反応に使用する。アミン及びNHSエステルは、効率的な重合及び架橋のためには同様のモル当量濃度を有するべきである。この反応は低侵襲性外科技術を使用して「その場」で実施することができる。n-メチルピロリジノンは、NHSエステル向けの無反応性無毒性溶媒として役立つ。
【0119】
(実施例23)
液体架橋剤を使用した血液若しくは血清又は他のタンパク質含有流体のゲル化
本方法がどのように実施できるか実証するこの実施例では、0.1gの4アームNHS活性化ポリエチレングリコール(ポリエチレングリコールカルボキシメチレン-酪酸の4アーム-n-ヒドロキシコハク酸イミドエステル、平均分子量10000ダルトン(Shearwaters社4 arm CM-HBA-NS-10K))を、PEG600 NHS活性化架橋剤(実施例11により合成される)2gに溶解する。100mgのこの溶液を、200マイクロリットルのml新鮮なヒト血液と反応させる。血液中のタンパク質がNHSエステルと反応し架橋ヒドロゲルを形成する。ゲル形成は、2分未満で起こる。MIS外科若しくは開放外科処置の間に同じ架橋反応を「その場」で起すことができる。このゲル形成又は凝固は、天然の血液凝固過程を代替する方法を意味している。
【0120】
(実施例24)
液体架橋剤を使用して作られる合成架橋ゲル
本方法がどのように実施できるか実証するこの実施例では、2.0g(0.8mM)の8アーム分岐ポリエチレングリコール-アミン、平均分子量20000ダルトン(Shearwaters社8 ARM-NH2-20K)を10mlの0.1Mホウ酸ナトリウム、緩衝pH9.5中に溶解させる。0.318gのPEG 600 NHS液体エステル(実施例11)をアミン溶液に混合して架橋ゲルを生成させる。この2つの溶液を混合した後2分以内にゲル化が起こるのが見られる。
【0121】
(実施例25)
非水性架橋剤溶液を使用した血液又は血清又は他のタンパク質含有ヒト体液のゲル化
本方法がどのように実施できるか実証するこの実施例では、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、分子量400を、真空下において120℃で16時間乾燥して、このエーテルから微量の水分を除去する。この乾燥液体ポリマー性エーテルを、PGG系4アーム架橋剤の溶媒として使用する。簡潔には、PEG 10000 4アームNHSエステル(ポリエチレングリコールカルボキシメチレン-酪酸の4アーム-n-ヒドロキシコハク酸イミドエステル、平均分子量10000ダルトン(Shearwaters社4 arm CM-HBA-NS-10K))2gを、8mlの乾燥ポリエチレングリコールジメチルエーテル400中に溶解する。この溶液は0.2ミクロンフィルターにより濾過滅菌する。100マイクロリットルのこの溶液を、200マイクロリットルのml新鮮なクエン酸塩無添加のヒト血液と反応させる。血液中のタンパク質がNHSエステルと反応し架橋ヒドロゲルを形成する。ゲル形成は、2分未満で起こる。MIS外科若しくは開放外科処置の間に同じ架橋反応を「その場」で起すことができる。このゲル形成又は凝固は、天然のトロンビンに基づく血液凝固過程を代替する方法を意味している。この非水性溶液は良好な貯蔵安定性を有し、手術室における溶液調製を要しない。
【0122】
(実施例26)
リシン系タンパク質架橋剤の合成
パート1: リシンコハク酸イミドの合成
本方法がどのように実施できるか実証するこの実施例では、500ml丸底フラスコ内で2gのL-リシンを乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)200ml中に溶解する。窒素雰囲気下で無水コハク酸10.7gとトリエチルアミン20mlとを添加する。この混合物を60℃に6時間加熱する。6時間が終わると、溶液を冷却し、真空蒸留により溶媒を除去する。不純な生成物をフラッシュクロマトグラフィーにより精製する。次いでこれを次の反応に直ちに使用する。
【0123】
パート2: N-ヒドロキシコハク酸イミド基によるカルボキシル基の活性化
磁気撹拌機と窒素入口とを取り付けた3つ口フラスコに、リシンコハク酸イミド5g、5.5gのN-ヒドロキシコハク酸イミド及びDMF 70mlを装入する。この溶液を4℃に冷却し、窒素雰囲気下でDMF 30ml中に溶解した12.7gの1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミドを添加する。この混合物を、窒素雰囲気下において4℃で6時間及び室温で1晩撹拌する。ジシクロヘキシル尿素を濾過により除去し、真空下でDMFを除去することにより、NHS誘導体を単離する。このNHSエステルをカラムクロマトグラフィーにより精製する。
【0124】
(実施例27)
リシングルタルアミドNHSエステルの合成
パート1: リシングルタルアミドの合成
本方法がどのように実施できるか実証するこの実施例では、凝縮器と窒素入口とを取り付けた100mlフラスコ内に、リシン5g、無水グルタル酸8.7g及び4-ジメチルアミノピリジン(4-dimethylaminopyridine)(DMAP)2.0gを計り入れる。DMF 100mlを添加し、この混合物を窒素雰囲気下で5分間撹拌し、HPLCアッセイにより反応の終結が示されるまで90℃に予熱した油浴に1.5時間浸漬する。真空下でDMFを蒸発させ(40℃未満で蒸留する)、残渣を直接その後の反応に使用する。残渣は、シリカゲル上のクロマトグラフィーにより精製することができる。
【0125】
パート2: NHSエステルを使用したリシングルタルアミド酸基の活性化
塩化メチレン100ml中にリシングルタルアミド5g及びn-ヒドロキシコハク酸イミド5.1gを溶解させる。この混合物を、窒素雰囲気下で5分間撹拌し、次いでDCC 11.7gを一度に添加する。HPLC分析により反応の終結が示されるまで、窒素下での撹拌を16時間継続する。反応混合物を濾過して、ジシクロヘキシル尿素を除去する。不溶のジシクロヘキシル尿素を、ジクロロメタン35mlで洗浄する。合わせた濾液を反応容器に集める。反応混合物を真空中で蒸発にかける。生成物を、シリカゲル上のカラムクロマトグラフィーにより精製する。
【0126】
(実施例28)
エチレンジアミンコハク酸イミドNHSエステルの合成
エチレンジアミンコハク酸イミドの合成
この実施例は、本方法がどのように実施できるか実証するものである。パート1: 250ml丸底フラスコ中で、2gのエチレンジアミンを乾燥ピリジン50ml及びベンゼン50mlに溶解する。窒素雰囲気下で無水コハク酸7.3gを添加する。この混合物を窒素雰囲気下で6時間還流させ、真空蒸留により溶媒を除去する。不純な生成物を、フラッシュクロマトグラフィー又は再結晶により精製する。次いでこれを直ちに次の反応に用いる。
【0127】
パート2: N-ヒドロキシコハク酸イミド基によるカルボキシル基の活性化
磁気撹拌機と窒素入口とを取り付けた3つ口フラスコに、エチレンジアミンコハク酸イミド5gと、ジクロロメタン(dichloromethane)(DCM)100mlとを装入する。この溶液を4℃に冷却し、窒素雰囲気下で4.9gのN-ヒドロキシコハク酸イミドと、11.2gの1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を添加する。この混合物を、窒素雰囲気下において4℃で6時間及び室温で1晩撹拌する。ジシクロヘキシル尿素を濾過により除去し、真空下でDCMを除去することにより、NHSエステルを単離する。NHSエステルをカラムクロマトグラフィー又は再結晶により精製する。
【0128】
(実施例29)
ヒドロキシルアミンコハク酸塩NHSエステル
ヒドロキシルアミンコハク酸塩
この実施例は、本方法がどのように実施できるか実証するものである。パート1: 乾燥ベンゼン100ml及びピリジン100ml中のヒドロキシルアミン2gの溶液に、無水コハク酸9.4gを添加し、この反応混合物を室温で2時間撹拌し、2時間還流させる。真空下で溶媒を蒸発させ、残渣を、シリカゲルを用いたフラッシュクロマトグラフィーにより精製する。
【0129】
パート2: ヒドロキシルアミンコハク酸塩NHSエステル
パート2: DMF 120ml中のヒドロキシルアミンコハク酸塩5g及びn-ヒドロキシコハク酸イミド5.1gの冷(4℃)溶液に、窒素雰囲気下で30mlのDMF中の1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド11.8gを添加する。室温で8時間反応を継続し、尿素沈澱物を濾過する。濾液を蒸発させ、不純な化合物を回収する。この化合物を、フラッシュクロマトグラフィーによりさらに精製する。
【0130】
(実施例30)
アスパラギン酸コハク酸イミドNHSエステルの合成
パート1: アスパラギン酸コハク酸イミドの合成
この実施例は、本方法がどのように実施できるか実証するものである。凝縮器と窒素入口とを取り付けた100mlフラスコ内に、アスパラギン酸9.4g、トリエチルアミン10ml及びテトラヒドロフラン100mlを移す。この混合物を0℃まで冷却し、塩化スクシニル5gを添加し、この混合物を窒素雰囲気下で5分間撹拌し、6時間還流させる。トリエチルアミン塩酸塩を濾過し、真空下で溶媒を除去することにより濾液を濃縮する。残渣を直接その後の反応に使用する。残渣は、シリカゲル上のクロマトグラフィーにより精製することができる。
【0131】
パート2: NHSエステルを使用したアスパラギン酸コハク酸イミド酸基の活性化
塩化メチレン100ml中にアスパラギン酸コハク酸イミド2g及びn-ヒドロキシコハク酸イミド2.9gを溶解させる。この混合物を、窒素雰囲気下で5分間撹拌し、次いで1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド6.7gを一度に添加する。HPLC分析により反応の終結が示されるまで、窒素下での撹拌を16時間継続する。反応混合物を濾過して、ジシクロヘキシル尿素を除去する。不溶のジシクロヘキシル尿素を、ジクロロメタン35mlで洗浄する。合わせた濾液を反応容器に集める。反応混合物を真空中で蒸発にかける。その生成物を、シリカゲル上のカラムクロマトグラフィーにより精製する。
15mgの架橋剤が、水又はPBS溶液1mlを完全に溶解した。
【0132】
(実施例31)
アスパラギン酸系タンパク質架橋剤の合成
パート1: アスパラギン酸セバシンアミドの合成
この実施例は、本方法がどのように実施できるか実証するものである。500ml丸底フラスコ内でアスパラギン酸5g及びトリエチルアミン10mlを乾燥テトラヒドロフラン100ml中に溶解する。この溶液を、氷浴を使用して0℃まで冷却し、窒素雰囲気下で塩化スクシニル10.7gを1滴ずつ添加する。この混合物を窒素雰囲気下で6時間60℃まで加熱する。6時間が終わると、溶液を冷却し、真空蒸留により溶媒を除去する。不純な生成物をフラッシュクロマトグラフィーにより精製する。次いでこれを次の反応に直ちに使用する。
【0133】
パート2: N-ヒドロキシコハク酸イミドによるカルボキシル基の活性化
磁気撹拌機と窒素入口とを取り付けた3つ口フラスコに、アスパラギン酸セバシンアミド5g、5.5gのN-ヒドロキシコハク酸イミド及びジクロロメタン70mlを装入する。この溶液を4℃に冷却し、窒素雰囲気下でジクロロメタン30ml中に溶解した12.7gの1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミドを添加する。この混合物を、窒素雰囲気下において4℃で6時間及び室温で1晩撹拌する。ジシクロヘキシル尿素を濾過により除去し、ジクロロメタンを除去することにより、NHS誘導体を単離する。このNHSエステルをカラムクロマトグラフィーにより精製する。
【0134】
(実施例32)
ヒドロキシルアミングルタル酸塩NHSエステル
ヒドロキシルアミングルタル酸塩
この実施例は、本方法がどのように実施できるか実証するものである。パート1: 乾燥ベンゼン100ml及びトリエチルアミン20ml中のヒドロキシルアミン2gの溶液に、無水グルタル酸9.4gを添加し、この反応混合物を室温で2時間撹拌し、2時間還流させる。真空下で溶媒を蒸発させ、残渣を、シリカゲルを用いたフラッシュクロマトグラフィーにより精製する。
【0135】
パート2: ヒドロキシルアミングルタル酸塩NHSエステル
パート2: ジクロロメタン120ml中のヒドロキシルアミンコハク酸塩5g及びn-ヒドロキシコハク酸イミド5.1gの冷(4℃)溶液に、窒素雰囲気下で30mlのジクロロメタン中の1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド11.8gを添加する。室温で8時間反応を継続し、尿素沈澱物を濾過する。濾液を蒸発させ、不純な化合物を回収する。この化合物を、フラッシュクロマトグラフィーによりさらに精製する。
【0136】
(実施例33)
架橋剤を使用したタンパク質の架橋
方法1: 生理学的条件(20mMリン酸塩緩衝溶液、pH7.2)でタンパク質を架橋させる
この実施例は、本方法がどのように実施できるか実証するものである。1gのウシアルブミンを、リン酸塩緩衝溶液(20mM PBS、pH7.4)1ml中に溶解させる。アスパラギン酸コハク酸イミドNHSエステル(実施例30)100mgを、PBS溶液(20mM PBS、pH7.4)1ml中に溶解させる。両溶液を、50mlポリプロピレン管内で混合する。30分未満で架橋ゲルの形成が認められる。
【0137】
方法2: 非生理学的pHでのタンパク質の架橋
この実施例は、本方法がどのように実施できるか実証するものである。1gのウシアルブミンを、ホウ酸塩緩衝液(10mM、pH9.5)2ml中に溶解させる。リシンコハク酸イミドNHSエステル(実施例1)100mgを、10mMリン酸塩緩衝液、pH4.0、1ml中に溶解させる。1mlの各溶液を、50mlポリプロピレン遠心管内で混合する。30分未満でゲル形成が認められる。
アルブミン及び他のタンパク質の架橋は、体腔内側又は組織表面の「その場」で行われ得る。
【0138】
方法34
コラーゲン(ウシ心膜組織)の架橋
この実施例は、本方法がどのように実施できるか実証するものである。ウシ囲心嚢は地域のアボテア(abbotair)から入手し、清浄にして表面から血液及び脂肪組織を除去している。次いで心膜から1cm×1cm片を切り取り、20mMリン酸塩緩衝溶液(PBS、pH7.2)10mlに移す。
【0139】
この組織/PBS混合物にアスパラギン酸コハク酸イミドNHSエステル(実施例5)100mgを添加する。この溶液を5分間ボルテックスし、組織を室温で12時間インキュベートする。組織を架橋剤混合物から分離し、PBS溶液20mlで3回洗浄して、未反応架橋剤を除去する。架橋したコラーゲン又は組織は高い収縮温度を示し、組織が架橋していることを示す。
【0140】
(実施例35)
合成ポリマーの架橋
架橋した生体安定性ゲルの形成
この実施例は、本方法がどのように実施できるか実証するものである。1.3gの8アーム分岐ポリエチレングリコール-アミン、平均分子量20000ダルトン(Shearwaters社8ARM-NH2-20K)を、5mlの0.1Mホウ酸ナトリウム、緩衝pH9.5中に溶解させる。アスパラギン酸コハク酸イミドNHSエステル(実施例5)0.09gを、リン酸塩緩衝食塩水5ml中に溶解する。それぞれ1mlのこれら2種の溶液を混合して架橋ゲルを生成させる。この方法の他の変形態様では、アスパラギン酸コハク酸イミドNHSエステル(実施例5)0.09gをアミン末端ポリマー溶液に直接添加して、架橋ポリマーを生成させる。
【0141】
(実施例36)
合成ポリマーの架橋(架橋生分解性ゲルの形成)
コハク酸エステル結合に基づくゲル
この実施例は、本方法がどのように実施できるか実証するものである。1.3gの8アーム分岐ポリエチレングリコール-アミン、平均分子量20000ダルトン(Shearwaters社8ARM-NH2-20K)を、5mlの0.1Mホウ酸ナトリウム、緩衝pH9.5中に溶解させる。ヒドロキシルアミンコハク酸塩NHSエステル(実施例4)0.12gを、リン酸塩緩衝食塩水5ml中に溶解する。それぞれ1mlのこれら2種の溶液を混合して架橋ゲルを生成させる。この架橋ゲルは、ヒドロキシルアミンコハク酸塩NHSエステル中のコハク酸エステル結合の加水分解のため分解される。
【0142】
グルタル酸系結合に基づくゲル
1.3gの8アーム分岐ポリエチレングリコール-アミン、平均分子量20000ダルトン(Shearwaters社8ARM-NH2-20K)を、5mlの0.1Mホウ酸ナトリウム、緩衝pH9.5中に溶解させる。ヒドロキシルアミングルタル酸塩NHSエステル(実施例7)0.12gを、リン酸塩緩衝食塩水5ml中に溶解する。それぞれ1mlのこれら2種の溶液を混合して架橋ゲルを生成させる。この架橋ゲルは、ヒドロキシルアミングルタル酸塩NHSエステル中のグルタル酸エステル結合の加水分解のため分解される。
【0143】
(実施例37)
架橋ゲルからの薬剤の放出制御
架橋ゲルからのヘパリンの放出制御
この実施例は、本方法がどのように実施できるか実証するものである。1.3g(0.7mM)の8アーム分岐ポリエチレングリコール-アミン、平均分子量20000ダルトン(Shearwaters社8ARM-NH2-20K)及びヘパリン0.3gを、5mlの0.1Mホウ酸ナトリウム、緩衝pH9.5中に溶解させる。ヒドロキシルアミンコハク酸塩NHSエステル(実施例4)0.12gを、リン酸塩緩衝食塩水5ml中に溶解する。それぞれ1mlのこれら2種の溶液を混合して架橋ゲルを生成させる。この架橋ゲルからのヘパリンの放出を、PBSにおいて37℃でモニターする。
【0144】
本発明を、本明細書において種々の特徴を有する特定の実施態様について記述してきた。これらの実施態様の特徴を結び付け且つ調和させて、実施可能なデバイスとする必要性に導かれた他の組合せを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0145】
(図面の簡単な説明)
図1】L-リシンから調製する水溶性アミノ酸系架橋剤のための合成スキームを示す図である。
図2】エチレンジアミンから調製する水溶性架橋剤のための合成スキームを示す図である。
図3】アルギニンから調製する水溶性アミノ酸系架橋剤のための合成スキームを示す図である。
図4】アスパラギン酸から調製する水溶性アミノ酸系架橋剤のための合成スキームを示す図である。
図5】ヒドロキシアミンから調製する水溶性生分解性架橋剤のための合成スキームを示す図である。
図6】前駆体が患者内の生物学的流体中に放出されて、その流体中の医用材料を架橋させていることを示す図である。
図7A】血管中に放出される前駆体流を導く可逆膨張性閉塞デバイスを示す図である。
図7B】血管の管腔上に材料を形成するために使用する図7aのデバイスを示す図である。
図8A】血管中に放出される前駆体流を導く代替的デバイスを示す図である。
図8B】血管の管腔上に材料を形成するために使用する図8Aのデバイスを示す図である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B