特許第6075950号(P6075950)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6075950-口腔内細菌の共凝集阻害剤 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075950
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】口腔内細菌の共凝集阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20170130BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20170130BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20170130BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   A61K37/14
   A61K8/64
   A61Q11/00
   A61P1/02
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-283664(P2011-283664)
(22)【出願日】2011年12月26日
(65)【公開番号】特開2013-133288(P2013-133288A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年12月24日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】307013857
【氏名又は名称】株式会社ロッテ
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100102808
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 憲通
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】児玉 悠史
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 敦
【審査官】 吉田 佳代子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/041400(WO,A1)
【文献】 特開2008−100935(JP,A)
【文献】 特開2005−306890(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0318834(US,A1)
【文献】 日本歯科東洋医学会誌,2011年 8月31日,VOL.30, NO.1-2,P.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/16
A61K 8/64
A61P 1/02
A61P 43/00
A61Q 11/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリンを含有する、フゾバクテリウム ヌクレアータム(Fusobacterium nucleatum)とプレボテラ インターメディア(Prevotella intermedia)との共凝集阻害であって、
該ラクトフェリンの含有量が0.06重量%以上であり、
該ラクトフェリンは変性しておらず、
該ラクトフェリンを酸性領域で用いることを特徴とする共凝集阻害
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内細菌の共凝集阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
舌苔は口臭の主要な発生部位である。近年、ヒトにおいて、口臭レベルが高い被験者では舌苔中の総菌数が増加しており、増加した菌の種類として、舌苔局在菌だけでなく、歯周病原菌に属する菌種が検出されている(非特許文献1、2)。また、歯周病に感染していない被験者の舌苔においても、口腔清掃の停止により、歯周病原菌の割合が増加する報告が確認されている(非特許文献3)。Fusobacterium nucleatum (以後F. nucleatum)とPrevotella intermedia (以後P. intermedia)とは、共に歯周病原菌であり、口臭の原因物質となる揮発性硫黄化合物の産生菌種でもある(非特許文献4、5)。両菌種は、共凝集することが報告されており(非特許文献6)、舌苔における菌数と口気中の揮発性硫黄化合物濃度との間で有意な相関性が確認されている(非特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−215500号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tyrrell, K.L., Citron, D.M., Warren, Y.A., Nachnani, S. and Goldstein, E.J., Anaerobic bacteria cultured from the tongue dorsum of subjects with oral malodor, Anaerobe, 5, 243-246 (2003).
【非特許文献2】Riggio, M.P., Lennon, A., Rolph, H.J., Hodge, P.J., Donaldson, A., Maxwell, A.J. and Bagg, J., Molecular identification of bacteria on the tongue dorsum of subjects with and without halitosis, Oral diseases, 3, 251-258 (2008).
【非特許文献3】Faveri, M., Feres, M., Shibli, J.A., Hayacibara, R.F., Hayacibara, M.M. and de Figueiredo, L.C., Microbiota of the dorsum of the tongue after plaque accumulation: an experimental study in humans, Journal of periodontology, 9, 1539-1546 (2006).
【非特許文献4】Krespi, Y.P., Shrime, M.G. and Kacker, A., The relationship between oral malodor and volatile sulfur compound-producing bacteria, Otolaryngology-Head and Neck Surgery, 135, 671-676 (2006).
【非特許文献5】Persson, S., Edlund, M.B., Claesson, R. and Carlsson, J., The formation of hydrogen sulfide and methyl mercaptan by oral bacteria, Oral microbiology and immunology, 5, 195-201 (1990).
【非特許文献6】Shen, S., Samaranayake, L.P. and Yip, H.K., Coaggregation profiles of the microflora from root surface caries lesions, Archives of oral biology, 1, 23-32 (2005).
【非特許文献7】藤城由希子, 品田佳世子, 竹内晋, 大城暁子, 財津崇, 大貫茉莉, 植野正之, 平山知子, 数野恵子, 森嶋清二, 山本高司, 川口陽子, 口呼中の硫化水素およびメチルメルカプタン濃度と口腔内細菌との関連について, 口腔衛生学会雑誌, 59, 387 (2009).
【非特許文献8】Ford, J.E., Law, B.A., Marshall, V.M. and Reiter, B., Influence of the heat treatment of human milk on some of its protective constituents, The Journal of pediatrics, 1, 29-35 (1977).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歯周病の予防、並びに口臭の予防及び低減を図る上で、F. nucleatumとP. intermediaの増殖を抑制することは大きな意味を持つ。また、これらの菌種は共凝集することが知られているため、この共凝集を阻害することにより、これらの菌種に由来する歯周病及び口臭を効率的に予防及び低減することが期待できる。ただし、これらの菌種は口腔内に存在するため、人体に対し害のない方法による共凝集の抑制が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明者らは鋭意研究の結果、ラクトフェリンにF. nucleatumと P. intermediaとの共凝集を阻害する作用があることを見出し、もって本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、ラクトフェリンを含有することを特徴とする F. nucleatumと P. intermediaとの共凝集阻害剤に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、F. nucleatumとP. intermediaの共凝集が阻害されることにより、口腔内でのこれらの菌種の増殖を抑制することが可能となり、歯周病及び口臭を効率的に予防及び低減することが可能となる。また、ラクトフェリンは従来より体内に摂取されている物質であるため、口腔内に摂取しても人体に対して害を及ぼすことはないと予想される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ラクトフェリン構造の安定性による共凝集塊形成の有無を示す実験結果。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るF. nucleatumと P. intermediaとの共凝集阻害剤は、有効成分としてラクトフェリンを含有することを特徴とする。
【0010】
共凝集阻害剤が含有するラクトフェリンの含有量は、0.06重量%以上であることが好ましく、さらには0.09重量%以上であることが好ましく、0.6重量%以上であることが最も好ましい。また、ラクトフェリンは熱等による変性をしていないことが好ましい。
【0011】
本発明の共凝集阻害剤は、歯磨剤、洗口剤、吸入剤及びトローチ剤等の口腔組成物、チューインガム、キャンディ、錠菓、グミゼリー、チョコレート、ビスケット及びスナック等の菓子、アイスクリーム、シャーベット及び氷菓等の冷菓、飲料、パン、ホットケーキ、乳製品、ハム及びソーセージ等の畜肉製品類、又はカマボコ及びチクワ等の魚肉製品、惣菜類、プリン、スープ若しくはジャム等の飲食品に配合して利用することが可能である。
【0012】
口腔組成物の場合、薬理学的に許容される一種または二種以上の担体、さらに必要に応じて他の有効成分を含有していてもよい。そのほか、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、分散剤、界面活性剤、可塑剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、細菌抑制剤等を含有していてもよい。
また、飲食品には、食品製造上許容される基材、担体、賦形剤、添加剤、増量剤、着色剤、香料等を含有していてもよい。
【0013】
なお、ラクトフェリン以外の成分に関しても、上記に限定されることはなく、本発明は公知のいかなる成分をも任意に含有していてもよい。
【0014】
本発明のラクトフェリンを含有する口腔用組成物は、それぞれの技術分野において公知の任意の方法により製造することができる。その製造過程において、ラクトフェリンを公知のいかなる方法で添加してもよい。
【0015】
なお、本発明のラクトフェリンを含有する共凝集阻害剤は、ヒトだけでなく、ヒト以外の動物(以下、非ヒト動物と略す)に対しても使用することができる。非ヒト動物としては、ほ乳類、は虫類、両生類、魚類等、ヒト以外の動物をあげることができる。
【0016】
また、本発明は従来より食品添加物として利用されていたラクトフェリンを使用しているため、口腔内を含む体内に摂取してもその安全性については問題ないと予想される。
【実施例】
【0017】
以下に本発明の実施例を記載するが、以下の実施例の記載は本発明を何ら限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0018】
試料
ラクトフェリンは、DMV社製のラクトフェリン60%製剤、または森永乳業株式会社製のラクトフェリン90%製剤を用いた。
試験菌株
歯周病原菌としてF. nucleatum JCM12990株、P. intermedia ATCC25611株を用いた。
培地
Yeast extract (Becton, Dickinson and Company:以下BD) 3.0g/l、Hemin (Sigma) 5.0mg/l、Menadione (Sigma) 0.5mg/lを添加したTrypticase soy broth (BD) 培地(以後TSB培地)を用いて、37℃の嫌気条件下(10%CO2、10%H2、80%N2)で培養した。
【0019】
菌の回収
TSB培地50mlが入ったネジ付試験管(IWAKI 25×200mm、61ml容量)内において、F. nucleatum、P. intermediaを対数増殖期後期までそれぞれ培養した。各菌株について、培養液を遠沈管(IWAKI 29×115mm、50ml容量)に入れ、遠心分離(7,000rpm、10min、4℃)にて集菌後、上清を捨て、表1の組成のバッファーを加え、懸濁・洗浄を行った。その後、遠心分離(7,000rpm、10min、4℃)、懸濁・洗浄を1回行い、さらに遠心分離(7,000rpm、10min、4℃)を行った。遠心後、上清を捨て、バッファーに懸濁した際のOD660値が0.5となるようバッファーで調製した。吸光度測定はスペクトロフォトメーター(HITACHI U-3900H)を用いた。調製後、冷蔵保存し、1週間以内に測定に用いた。
【表1】
蒸留水に上記試薬を溶解後、pH8.0に調整。酸性条件ではpH4.8に調整。
【0020】
観察条件
共凝集を起こす組み合わせで菌株を混ぜると、共凝集反応により、目視でも確認可能な共凝集塊が形成される。下記に従い、懸濁後10分経過時の共凝集塊形成の有無を確認した。
冷蔵保存した各菌株の調製液について、調製液を懸濁し、5.0mlを遠沈管(IWAKI 17×120mm、15ml容量)に入れ、遠心分離(7,000rpm、10min、4℃)を行った。遠心後、上清を捨て、5.0mlのバッファーを加え、再度懸濁した。その際、ラクトフェリン添加条件で試験を行うものについては、バッファー中で所定の濃度となるようラクトフェリンを溶解したバッファーを5.0ml加えた。また、加熱処理条件については、ラクトフェリンが溶解したバッファーを作製する際、ラクトフェリン添加後、100℃、5分で加熱処理した。なお、コントロールには、ラクトフェリン加えない通常のバッファーを添加したものを設定した。バッファーで懸濁した試験液5.0mlから1.0mlを、下記の添加条件に従い、F. nucleatum、P. intermediaの順に12穴プレート(IWAKI:平底)に添加し、15秒間の懸濁、15秒間の静置を5分間繰り返した。5分経過後、さらに5分間静置させ、10分が経過した時点で、共凝集塊の沈殿の有無を観察した。
【0021】
添加条件
F. nucleatumを含む試験液1.0mlを12穴プレートに添加して2分静置後、P. intermediaを含む試験液1.0mlを12穴プレートに添加して、直ちに懸濁、静置を繰り返した。
【0022】
結果1
ラクトフェリンの濃度を変えて、上記試験方法に従い試験を行った結果を表2に示す。ラクトフェリンの有効濃度を確認する目的で、バッファー中のラクトフェリン濃度(重量比)が0.0006%、0.006%、0.009%、0.06%、0.09%、0.6%となるラクトフェリン溶解バッファーをそれぞれ作製し、懸濁液として用いた。その結果、ラクトフェリン濃度0.06%、0.09%、0.6%のバッファーにそれぞれ懸濁させたF. nucleatumとP. intermediaは、P. intermediaの添加・懸濁開始から10分が経過しても共凝集塊の形成が認められなかった。一方、コントロール、0.0006%、0.006%、0.009%については、10分経過時に共凝集塊の形成が認められた。以上より、F. nucleatumとP. intemediaの共凝集について、ラクトフェリンは少なくとも0.06%以上の濃度で阻害効果を有することが確認された。
【0023】
【表2】
+:有り、−:なし
【0024】
結果2
上記試験方法に従い試験を行い、ラクトフェリン構造の安定性による影響を検証した結果を図1に示す。ラクトフェリンは、熱処理の際、62.5℃、30分の加熱により熱変性を起こす(非特許文献8)が、溶解液のpHが酸性領域(pH1.0〜6.5)であれば、60℃以上に加熱しても安定性が保たれること(特許文献1)が報告されている。結果1で確認された共凝集阻害作用が、ラクトフェリン構造の安定性に関わるか確認を行う目的で、ラクトフェリンを含むバッファーを100℃、5分間加熱し、F. nucleatumとP. intemediaの混和・懸濁条件における影響を確認した。ラクトフェリン濃度は結果1で阻害効果が確認された0.06%に設定した。バッファーのpHについては、通常用いるpH8.0と、酸性条件として、pH4.8に調整したものを用いた。その結果、100℃、5分間の加熱により、通常のpH8.0のバッファーで溶解したラクトフェリンは、溶液が変性により白濁し、両菌株の混和・懸濁開始から10分経過時に、共凝集塊の形成が確認された。一方、pH4.8に調整したバッファー中で溶解させたラクトフェリンは、変性による白濁が認められなかった。加えて、混和・懸濁開始から10分が経過しても共凝集塊の形成が確認されず、共凝集阻害作用が保持されていた。また、pH4.8に調整したバッファーを用いても、コントロールでは、共凝集塊の形成が確認された。これは、pHの影響のみで共凝集塊の形成が阻害されないことを示している。以上より、ラクトフェリンの共凝集阻害作用は、ラクトフェリン構造の安定性に依存することが確認された。
【実施例2】
【0025】
ラクトフェリンを用いて、以下の処方により、チューインガム、キャンディ、グミゼリー、トローチ、歯磨剤、洗口剤を製造した。
【0026】
(実施例2−1)
チューインガムの処方
キシリトール 20.0重量%
マルチトール 40.0
ガムベース 20.0
香料 2.0
ラクトフェリン 0.6
その他 残
100.0
【0027】
(実施例2−2)
キャンディの処方
砂糖 50.0重量%
水あめ 34.0
クエン酸 2.0
香料 0.2
ラクトフェリン 0.6
その他 残
100.0
【0028】
(実施例2−3)
グミゼリーの処方
ゼラチン 50.0重量%
還元水あめ 24.2
砂糖 8.5
植物油脂 4.5
香料 0.2
ラクトフェリン 0.6
その他 残
100.0
【0029】
(実施例2−4)
トローチの処方
砂糖 15.0重量%
グルコース 72.3
ショ糖脂肪酸エステル 0.5
香料 1.0
ラクトフェリン 0.6
水 残
100.0
【0030】
(実施例2−5)
歯磨剤の処方
炭酸カルシウム 50.0重量%
グリセリン 20.0
カルボキシメチルセルロース 2.0
ラウリル硫酸ナトリウム 2.0
香料 1.0
ラクトフェリン 0.6
サッカリン 0.1
クロルヘキシジン 0.01
水 残
100.0
【0031】
(実施例2−6)
洗口剤の処方
グリセリン 10.0重量%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.4
香料 1.0
ラクトフェリン 0.6
サッカリンナトリウム 0.02
水 残
100.0
図1