(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水分含有量が5〜30重量%、糖類全体中のショ糖含有量が80重量%以下、且つ酸度が2%以下である乾燥カット柑橘系果実を得るための製法であって、下記工程を順次備えてなる乾燥カット柑橘系果実の製法。
(1)生果の酸度が3%以上の柑橘系果実を、果皮と果肉が一体となった状態でカットする工程。
(2)上記柑橘系果実を、穿孔する、穿孔した後ブランチングする、のいずれかの酸度調整をする工程。
(3)上記酸度調整した柑橘系果実を糖浸漬する工程。
(4)上記柑橘系果実を乾燥する工程。
【背景技術】
【0002】
従来、乾燥果実としては、生果を丸ごとか剥皮切断するなどした後乾燥するものが知られている。例えば、干プルーン、レーズン、干しリンゴ、ドライマンゴー、干し杏等である。これに対し、レモン、オレンジ、ミカン、グレープフルーツ等の柑橘類の乾燥果実は、スライスした果皮付き生果肉を、高濃度のショ糖溶液に浸漬するか或いはショ糖コーティングした砂糖漬け菓子や、果皮のみを用いたピールが一般的であった。これは、ショ糖の使用量が少ないと、果肉部分が残っていても果肉部分のやせた、食感の硬い乾燥果実しか得られないためである。しかし、柑橘類は、元来そのカットした形状自体の外観が美しく、また果皮と果肉が一体になってこそ本来の美しさが得られるものである。 従って、果皮と果肉が一体となったままで、更に、甘すぎることなく生果の風味特徴を維持している、果皮と果肉を丸ごと食べることができる柑橘類の乾燥果実が要望されていた。
【0003】
柑橘類による、果皮と果肉が一体となったまま丸ごと食べることができる乾燥果実としては、例えば、スライスした柑橘系果実をトレハロース溶液に浸漬させた後、減圧処理を行い、常圧に戻して浸漬液を排出し、フリーズドライする乾燥柑橘系果実スライスの製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、上記乾燥柑橘系果実スライスは水分が5%以下で、さのう崩れ防止のために高温に加熱していないので、そのまま食べると、噛み切るには困難なほど果皮が硬く、咀嚼するうちにしがんだ果皮のみがいつまでも口中に残るという問題点があった。また、苦味を除去する工程がなく、トレハロースの浸透量が不十分なので、果皮が苦く風味の点でも問題があった。更にまた、上記方法によって製造されたレモンスライスは、酸味が強く、紅茶等の飲料に浮かべるには良いが、食べるには風味面でも問題があり、更に長期保存すると褐変する傾向があった。
【0004】
他に、輪切りする前に熱湯中に浸漬してテルピン油の除去処理を行い、その後輪切りレモンを蔗糖等の1〜10%糖類水溶液中に浸漬した後、凍結乾燥する凍結乾燥レモンの製造方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
しかしながら、上記のテルピン油除去処理方法では果皮の外果皮(フラベド)の苦味のみが除去されるだけで、中果皮(アルベド)の苦味は依然と残ったままなので、苦味を完全に除去できなかった。また、上述のような低濃度の糖類水溶液による短時間浸漬では、浸漬が不十分で、果皮が硬いという問題点もあった。更に、果肉の酸味が強すぎて紅茶等飲料に浮かべるには良いが、直接食べるには風味面でも問題があり、また長期保存すると褐変する傾向があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、果皮(外果皮及び中果皮)と果肉(じょうのう及び砂じょう)が一体となったまま食べることができ、長期間高品質が維持できる乾燥カット柑橘系果実に関し、更に詳しくは、果肉の脱落がなく、果皮と果肉が一体となっているため、美しい外観形状を保ち且つ丸ごと食べることができ、果皮が適度に軟化されているため食感に優れ、苦味がなく更に甘すぎることもない風味良好な、長期保存しても褐変することのない乾燥カット柑橘系果実及びその製法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水分含有量が5〜30重量%、且つ、糖類全体中のショ糖含有量が80重量%以下であることを特徴とする乾燥カット柑橘系果実によって上記目的を達成する。
【0008】
好ましくは、更に、酸度が2%以下である。更に好ましくは、表面を下記(A)成分で被覆される。
(A)フマル酸、アジピン酸、グルタミン酸、ビタミンC及びコーンスターチのうち1種又は2種以上。
【0009】
更に好適には、下記工程により得られる。
(1)生の柑橘系果実をカットする工程。
(2)上記カットされた柑橘系果実を乾燥する工程。
また更に、工程(1)の次に酸度を調整する工程を含むことが望ましい。
【0010】
更にまた本発明は、水分含有量が5〜30重量%、且つ、糖類全体中のショ糖含有量が80重量%以下である乾燥カット柑橘系果実を得るための製法であって、下記工程を順次備えてなる乾燥カット柑橘系果実の製法によって上記目的を達成する。
(1)生の柑橘系果実をカットする工程。
(2)上記カットされた柑橘系果実を乾燥する工程。
【0011】
好ましくは、更に、工程(1)の次に、酸度を調整する工程を含み、また更に好ましくは、工程(1)の次に、もしくは工程(1)の次に酸度調整後、糖浸漬する工程を含む。また、表面を下記(A)成分で被覆する工程を含むことが、更に好ましい。
(A)フマル酸、アジピン酸、グルタミン酸、ビタミンC及びコーンスターチのうち1種又は2種以上。
【0012】
すなわち、本発明者らは、果皮と果肉が一体となったまま食しても風味や食感に支障のない乾燥カット柑橘系果実について検討を行った。その目標品質は、果肉の脱落がなく、果皮と果肉が一体となっているため、美しい外観形状を保ち且つ丸ごと食べることができ、果皮が適度に軟化されているため食感に優れ、苦味がなく更に甘すぎることもなく風味良好で、その良好な状態が6ヶ月以上の常温長期保存でも継続されることとした。
【0013】
ここで、柑橘系果実の構造を図面を用いて説明する。
図1は、柑橘系果実が木に実る方向に対し、水平に切断した断面図であり、
図2は垂直に切断した断面図である。
図1において、1は果皮、1aは外果皮、1bは中果皮である。本発明に係る果皮1とは、外果皮1aと中果皮1bの両方を指す。すなわち、本明細書において特に外果皮、中果皮と記載しない限り「果皮」は両者を示す。
図1、2に示す通り、外果皮1aは、表皮2と油胞3を含む細胞層からなり、中果皮1bは外果皮1aの内側にある白い海綿状組織である。果肉4とは、果汁を溜める砂じょう4b、及び砂じょう4bを収めるじょうのう4aを指す。本発明において、果皮1と果肉4が一体となるとは、外果皮1a、中果皮1b、じょうのう4a、砂じょう4bの全てが揃っている状態を示す。
【0014】
目標品質再現の検討の結果、カット柑橘系果実中の、水分含有量や糖類全体中のショ糖含有量を調整すること、更に好ましくは生果をカットする前に丸ごと加熱後、冷却することで、果皮が適度に軟化されしっとりとした柔らかな食感になり、苦味がなく更に甘すぎることもない風味良好な、果皮と果肉が一体となったまま丸ごと食べることができることを見出した。
【0015】
更にまた、従来の乾燥果実は長期保存できることがメリットであるにもかかわらず、柑橘系果実の種類によっては6ヶ月以上長期保存すると、褐変し品質が低下する。本発明者らは、柑橘系果実の酸度が、長期保存時の褐変状態を左右するためであることを解明し、柑橘系果実の種類に関わらず、乾燥カット柑橘系果実の酸度を2%以下に調整すると、褐変することなく製造直後の色調を常温で6ヶ月以上長期保存しても維持できることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水分含有量を5〜30重量%、糖類全体中のショ糖含有量を80重量%以下の乾燥カット柑橘系果実とするため、果皮が適度に軟化して咀嚼が容易となり、しっとりとした柔らかな食感になり、果皮と果肉の食感差に違和感がなく、果皮と果肉が一体となったまま丸ごと食べることができる。また、常温での長期保存が可能である。
更に好ましくは、乾燥カット柑橘系果実の酸度を2%以下に調整すると、常温で6ヶ月以上長期保存しても褐変することなく、製造直後の色調を保つことができ、更に表面のべたつきを抑制し得る。
また更に好ましくは、フマル酸、アジピン酸、グルタミン酸、ビタミンC及びコーンスターチのうち1種又は2種以上の成分で被覆されるので、乾燥カット柑橘系果実の表面のべたつきを抑制し、容易に手でつまみ食べができる。
本発明の乾燥カット柑橘系果実は、果肉の脱落がなく、果肉に透明感のある良好な外観形状を持ち、果皮の苦味がなく、柑橘系果実らしいすっきりとした甘さや生果のもつジューシー感を再現した、良好な風味である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を詳しく説明する。
まず、本発明に用いる柑橘系果実は、一般的に柑橘類と称される中の、食用に供されるカンキツ属(Citrus)、キンカン属(Fortunella)を指す。具体的には、カンキツ属は、香酸柑橘類(レモン、ライム、ユズ、カボス、ダイダイ、スダチ、シークァーサー、シトロン、ブッシュカン等)、オレンジ類(バレンシアオレンジ、ネーブルオレンジ、ブラッドオレンジ等)、グレープフルーツ類(マーシュ、ルビー等)、雑柑類(ナツミカン、ハッサク、ヒュウガナツ、スウィーティー、デコポン等)、タンゴール類(イヨカン、タンカン、キヨミ等)、タンゼロ類(セミノール、ミネオラ等)、ブンタン類(ブンタン、バンペイユ等)、ミカン類(マンダリンオレンジ、キシュウミカン、ウンシュウミカン、ポンカン、タチバナ等)が挙げられる。また、キンカン属は、ニンポウキンカン、マルミキンカン、ナガミキンカン等が挙げられる。
【0019】
本発明に係る乾燥カット柑橘系果実とは、生の柑橘系果実に対して、カット及び乾燥処理が施されたものを意味する。
カット処理は、例えば、輪切り、半月切り、いちょう切り、斜め切り、くし形切り等の切り方が挙げられ、この中でも、輪切りが、外観形状、風味、加工適性の点で好ましい。
【0020】
乾燥処理は、カット処理された柑橘系果実を後述する適宜の方法で乾燥し、乾燥カット柑橘系果実全体重量中、水分含有量を5〜30重量%に調整することが、果皮を咀嚼しやすい硬さに調整する及び常温での長期保存性の点で重要である。
水分含有量が5重量%より少ないと、皮はパリパリとし、果肉はアメが固まったような硬い食感になる傾向があり、30重量%を超えると、常温での長期保存性が劣り、殺菌処理や冷蔵保管が必要となる。
好ましくは、水分含有量が10〜20重量%であることが、しっとりとした良好な食感を得る、生果のもつジューシー感を再現する、長期保存性の点で望ましい。
なお、水分含有量の測定は以下のようにして行えばよい。
(水分含有量の測定)
マッシャー、スライサー、包丁等にて粉砕した乾燥カット柑橘系果実約3gを正確に計量し、減圧乾燥法にて恒量に達せしめ、乾燥前後の重量差により算出する。例えば、真空乾燥機VOS−300D(東京理化器械社製)にて、1mmHg以下108℃3.5時間で測定する。
【0021】
また、本発明の乾燥カット柑橘系果実は、糖類全体中のショ糖含有量を、80重量%以下に調整することが、良好な食感、風味、外観の点で重要である。
糖類全体中のショ糖含有量とは、乾燥カット柑橘系果実が含有するショ糖、ブドウ糖及び果糖の合計重量を糖類全体重量とし、該糖類全体重量に対するショ糖含有量の割合を示す。
ショ糖含有量が80重量%を超えると、乾燥カット柑橘系果実が含有するショ糖が結晶化し果皮、果肉とも硬くなり、ぱさつく傾向があり、また、外観が白っぽくなるため果肉の透明感が劣り、更にショ糖の甘さが際立つため風味の点で柑橘系果実らしさが劣る傾向となる。
好ましくは、糖類全体中のショ糖含有量が70重量%以下であることが、しっとりとした良好な食感を得る、柑橘系果実らしいすっきりとした甘さの風味となる点で望ましい。
なお、糖類全体中のショ糖含有量の測定は以下のようにして行えばよい。
(糖類全体中のショ糖含有量の測定)
乾燥カット柑橘系果実約10gを正確に計量し、10倍量に加水したものをホモゲナイザー等にて粉砕、均一化後、更に100倍希釈した溶液を、JKインターナショナル社製Fキットにて、ショ糖、ブドウ糖、果糖含有量を測定する。該ショ糖、ブドウ糖及び果糖の合計重量に対するショ糖含有量の割合を算出する。
【0022】
また、本発明の乾燥カット柑橘系果実は、酸度を2%以下に調整すると、常温で6ヶ月以上長期保存しても褐変することなく、製造直後の色調を保ち、良好な食感及び風味とする、表面のべたつきを抑制する点で好ましい。酸度の調整方法は、例えば、後述の
[0027]に記載の、穿孔する、もしくはブランチングする、もしくは穿孔した後ブランチングする等の方法が挙げられる。上記酸度とは、乾燥カット柑橘系果実中に含有する酸味料や有機酸の全てをクエン酸濃度に換算したもので、コーティング処理等で表面に付着した酸味料や有機酸等を除去したものを指す。
なお、乾燥カット柑橘系果実が含有する酸度は以下のように測定すればよい。
(酸度の測定)
まず乾燥カット柑橘系果実の表面付着物を除く。すなわち、表面を刷毛等で払い、更に30秒間流水中にさらしながら再度刷毛等で払う。次に表面の水気をペーパー、ふきん等でふき取る。次に、表面付着物を除いた乾燥カット柑橘系果実約10gを、10倍量に加水し、ホモゲナイザー等にて粉砕、均一化した希釈液を、クエン酸酸度計AT−500N−1(京都電子工業社製)にて測定する。
【0023】
また好ましくは、表面をフマル酸、アジピン酸、グルタミン酸、ビタミンC及びコーンスターチのうち1種又は2種以上の成分で被覆すると、乾燥カット柑橘系果実の表面のべたつきを抑制し、容易に手でつまみ食べができる、生果のもつジューシー感を再現できる点で望ましい。また、上記成分にビタミンCを用いると栄養強化の点で好適である。更に、上記成分には、澱粉、化工澱粉、デキストリン、食物繊維、ビタミン類、ミネラル類、糖質甘味料(ショ糖、ブドウ糖、果糖等)、高甘味度甘味料(スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムK等)、有機酸(クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等)、アミノ酸、蛋白質、調味料(食塩等)、粉末香料等の乾燥粉末化された形態の副原料を含有してもよい。
【0024】
次に、本発明の乾燥カット柑橘系果実は、例えば、次のようにして製造されるが、下記製法に限定されるものではない。
まず、原料となる生の柑橘系果実を水洗し、不良品や異物を除く。その後好ましくは、柑橘系果実を皮つきのまま水性媒体中で加熱すると、柑橘系果実の果皮を軟化し、しっとりとした柔らかな食感にする、外果皮の苦味を除去し風味を良好にする点で好適である。更に、水性媒体中で加熱後冷却すると、加熱の余熱による果肉の膨張や軟化がなく果肉の損傷を最小限にする点で好適である。例えば、沸騰水又は約100℃の0.2〜10%アルカリ溶液中で30秒〜5分、又は約80℃の0.2〜10%アルカリ溶液中で1〜6分加熱した後に、常温(20〜25℃)の流水中にさらして冷却し、品温30℃以下にする等が挙げられる。また、アルカリ成分としては、水酸化ナトリウム、重合リン酸塩類(ポリリン酸塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩等)が挙げられる。
【0025】
次に、上記冷却した柑橘系果実をカットする。カットは上述の通りで、大きさは、略一口サイズ(50mm×25mm×5mm程度)が好ましい。輪切りの場合は、厚みが2〜10mmが好ましく、更に好適には、3〜6mmが、果皮がしっとりとした柔らかな食感となる、果肉の欠落を抑制できる点で望ましい。
【0026】
次の乾燥工程を行う前に、上記カットされた柑橘系果実の酸度を調整することで、常温で6ヶ月以上長期保存しても褐変することなく製造直後の色調を保ち、果皮のうち特に中果皮の軟化によりしっとりとした柔らかな食感となり、果皮のうち特に苦味の残り易い中果皮の苦味を除去できる点で好適である。酸度の調整は、特にレモン等の香酸柑橘類のように酸味が強く、生果の酸度が3%以上の果実は、長期保存による褐変を防止できる点で好ましい。
【0027】
酸度の調整方法は、乾燥カット柑橘系果実の酸度が2%以下となる処理方法であればよい。例えば、カットされた柑橘系果実を穿孔する、もしくはブランチングする、もしくは穿孔した後ブランチングする方法等が挙げられる。特にレモン等の香酸柑橘類のように酸味が強く、生果の酸度が3%以上の果実の場合は、穿孔した後ブランチングする方法を用いることが、長期保存による褐変を防止する点で好適である。穿孔方法は、例えば、針、剣山、釘、きり等の先の尖った器具で、果皮や果肉を突き刺す方法が挙げられる。穿孔穴の大きさは、直径0.3〜3mm程度であることが、穿孔穴の割合は、カット面1cm
2当たり4〜20個であることが、褐変抑制、良好な外観形状、乾燥ばらつきの抑制、乾燥時間短縮の点で好ましい。ブランチング方法は、褐変関連酵素の失活、褐変抑制、果皮組織を軟化させる点で、60〜100℃の水性媒体中で30秒〜20分加熱が好適である。
【0028】
更に、上記カットされた柑橘系果実は、乾燥工程を行う前に、糖浸漬すると、食感、風味の点で好適である。また、酸度調整を行う場合は、酸度調整後に糖浸漬することが、糖浸漬の効果を更に高める点で好適である。糖浸漬の糖類としては、例えば、ショ糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、異性化糖、タガトース、トレハロース、異性化乳糖、オリゴ糖、糖アルコール、還元澱粉糖化物等の糖質甘味料の他、スクラロース、ステビア、アセスルファムK、アスパルテーム等の非糖質甘味料等が挙げられ、これらの中から適宜選択し単独もしくは複数組合せて用いればよい。この中でも、特にしっとりとした柔らかな食感、柑橘系果実のもつ自然な甘味及びすっきりとした後味のある風味にする点で、ショ糖、ブドウ糖、果糖は好適に用いられる。
また、上記糖液の副原料としては、酸味料、乳酸品、果汁、酒類、安定剤、乳化剤、香料、着色料、食塩、各種栄養成分(ビタミン類、ミネラル類、食物繊維等)等が挙げられ、これらの中から適宜選択して用いればよい。
【0029】
糖浸漬は、一回浸漬又は複数回浸漬のどちらでもよい。また浸漬方法は糖液に浸漬した状態で、一定時間放置する、加熱する、冷解凍する、減圧処理する等が挙げられ、単独もしくは複数組合せを適宜選択して採用すればよい。
例えば、一次浸漬で冷解凍し、二次浸漬で減圧処理する浸漬方法を組合せると、果皮の組織(特に細胞壁)を破壊することで果皮が軟化する点、果皮の糖浸漬率が向上する点、果皮の苦味が除去され良好な風味となる点で好適である。具体的な条件としては、Brix20〜30%の糖液(ショ糖、ブドウ糖、果糖混合)に浸漬したまま1〜72時間かけて−20〜−5℃まで緩慢冷凍後、12〜72時間かけて4℃まで緩慢解凍する一次浸漬の後に、Brix40〜60%の糖液(ショ糖、ブドウ糖、果糖混合)に浸漬したまま常温(20〜25℃)で10分〜3時間、1〜30cmHgの減圧処理を行った後に4℃、常圧(76cmHg)で12〜72時間放置する二次浸漬を組合せると、柑橘系果実の果皮のうち特に外果皮が軟化することで、しっとりとした柔らかな食感となり、果肉が肉厚で食べ応えのある食感になり、果皮のうち特に苦味の残り易い中果皮の苦味が除去され風味が良好となる点で好適である。
【0030】
次に、カットされた柑橘系果実を乾燥する。乾燥方法は、流体加熱による乾燥や真空凍結乾燥等から適宜選択すればよい。このうち流体加熱による乾燥は、工程が簡便で、短時間で処理できる点で好ましい。流体加熱による乾燥とは、熱風を循環させる一般の熱風乾燥機の他、熱風を対象物に対して上下から直接吹きつけて乾燥する装置(例えば、荒川製作所製のジェットゾーンシステム(連続式)、ジェットロースト式(バッチ式)等)、コーヒーの焙煎などに用いられる熱風が対流する装置、扇風機、乾燥機エアーコンディショナー等を用い、対象物に流体を直接吹きつけて乾燥する方法である。乾燥条件は、乾燥カット柑橘系果実全体重量中、水分含有量を5〜30重量%に調整することが、硬すぎず且つ柔らかすぎず良好な噛み心地の食感、常温での長期保存性の点で重要である。具体的には、熱風乾燥機の場合、50〜70℃、1.5〜15時間とすればよい。
【0031】
次に必要に応じて、乾燥カット柑橘系果実の表面をフマル酸、アジピン酸、グルタミン酸、ビタミンC及びコーンスターチのうち1種又は2種以上の成分で被覆すると、表面のべたつきを抑制し容易に手でつまみ食べができる、長期保存中のべたつきを抑制する、生果のもつジューシー感を再現できる点で好ましい。上記成分には上述の通り副原料を適宜添加してもよい。上記成分の被覆方法は、レボリングパン、直接振りかけて攪拌混合する等が挙げられ、乾燥カット柑橘系果実の表面に均一分散できればよい。
【0032】
このようにして得られた乾燥カット柑橘系果実は、水分含有量が5〜30重量%、糖類全体中のショ糖含有量が80重量%以下に調整されている。また、この場合、水分活性(Aw)は、0.8以下に調整されていることが、皮の適度な軟化によるしっとりとした柔らかで噛み心地良好な食感、常温での長期保存性の点で好適である。水分活性が0.8を超えると、常温での長期保存性が劣り、殺菌処理や冷蔵保管が必要となる。なお、水分活性の測定は以下のようにして行えばよい。
(水分活性の測定)
密封容器内に、マッシャー、スライサー、包丁等にて粉砕した乾燥カット柑橘系果実を専用カップに収容してセンサー内に入れ、その密封容器内の平衡蒸気圧を水分活性計Lab Master an Standard(シーベルへグナー社製)にて、数値が安定するまで放置し、安定した値を水分活性(Aw)とする。
【0033】
なお、本発明の乾燥カット柑橘系果実を製品化する際には、適宜包装体で包装すればよい。好ましくは、包装体の材質が、アルミ、アルミ蒸着、ガラス蒸着等の吸湿防止性、遮光性、ガスバリア性のある密封可能な材質であることが、包装後、乾燥カット柑橘系果実の品質劣化(風味劣化、べたつき等)をより抑制できる点で好適である。また、適宜必要に応じて、包装体収容時に脱酸素剤の添付や、不活性ガスによる酸素置換等を行ってもよい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
<実施例1>
(1)生のレモン(酸度6.2%)を水洗し、不良品や異物を除いた後、レモンを皮つきのまま沸騰水中で2分間加熱後、常温(20℃)の流水中にさらし、品温30℃になるまで冷却した。
(2)上記冷却したレモンを厚み約4mmの輪切りにカットし、種を除去した。
(3)カットしたレモンの酸度を調整した。すなわち、針を用いて、9個/cm
2の割合でカットしたレモンの果皮や果肉を穿孔した後、80℃で3分間ブランチングした。
(4)酸度を調整したレモンに糖浸漬を2回行った。糖浸漬方法は、一次浸漬として、Brix30%の糖液に浸漬したまま、24時間かけて−16℃まで緩慢冷凍後、24時間かけて4℃まで緩慢解凍した。次に二次浸漬として、Brix50%の糖液に移し浸漬したまま、常温(25℃)で10分間、6cmHgの減圧処理を行った後に、4℃、常圧(76cmHg)にて24時間放置した。なお、Brix30%の糖液は、15%ショ糖と20%果糖ブドウ糖液糖(固形分75%)の混合液を、Brix50%の糖液は、25%ショ糖と33%果糖ブドウ糖液糖(固形分75%)の混合液を用いた。
(5)糖浸漬後のレモンを、熱風乾燥機にて60℃で5時間乾燥した。
【0035】
<実施例2〜5、比較例1〜3>
実施例1と同様の製法で、表1に示す各含有量となるよう、実施例2〜5、比較例1〜3を調整した。なお、(4)の工程の糖浸漬には、同Brixで、表2に示した糖液組成比の糖液を用いた。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
<実施例6>
実施例1の(3)の工程の果皮や果肉を穿孔する割合を2個/cm
2とする以外は、実施例1と同様に行った。
【0039】
<実施例7>
実施例1の(3)の果皮や果肉を穿孔する工程を省略する以外は、実施例1と同様に行った。
【0040】
<実施例8〜14>
実施例1の(5)の工程の後に、以下の(6)の工程を追加する以外は、実施例1と同様に行った。
(6)乾燥カットレモンの表面を、表3に示す粉末成分を直接振りかけて攪拌混合することにより被覆した。なお、実施例8〜12は単独粉末を、実施例13は70重量%フマル酸・30重量%クエン酸の混合粉末を、実施例14は、70重量%フマル酸・30重量%酒石酸の混合粉末を用いた。
【0041】
【表3】
【0042】
<実施例15>
実施例1の(1)の工程を以下のように変更し(6)の工程を追加する以外は、実施例1と同様に行った。
(1)生のカボス(酸度6.9%)を水洗し、不良品や異物を除いた後、カボスを皮つきのまま沸騰水中で3分間加熱後、常温(20℃)の流水中にさらし、品温30℃になるまで冷却した。
(6)乾燥カットカボスの表面を、フマル酸粉末成分を直接振りかけて攪拌混合することにより被覆した。
【0043】
<実施例16>
実施例1の(1)の工程を以下のように変更し(6)の工程を追加する以外は、実施例1と同様に行った。
(1)生のライム(酸度6.9%)を水洗し、不良品や異物を除いた後、ライムを皮つきのまま10%水酸化ナトリウム溶液中で100℃1分間加熱後、常温(20℃)の流水中にさらし、品温30℃になるまで冷却した。
(6)乾燥カットライムの表面を、フマル酸粉末成分を直接振りかけて攪拌混合することにより被覆した。
【0044】
<実施例17〜19>
実施例1の(1)の工程で用いる生果の種類を変更し、実施例1の(3)の果皮や果肉を穿孔する工程を省略する以外は、実施例1と同様に行った。なお、実施例17はネーブルオレンジ(酸度0.5%)、実施例18はグレープフルーツのホワイト(酸度1.4%)、実施例19はウンシュウミカン(酸度0.6%)を用いた。
【0045】
<実施例20>
実施例1の(1)の工程で用いる生果をウンシュウミカン(酸度0.6%)に変更し、(3)の工程と(4)の工程を省略する以外は、実施例1と同様に行った。
【0046】
<実施例21>
実施例1の(1)の工程で用いる生果をウンシュウミカン(酸度0.6%)に変更し、(3)のブランチング工程と(4)の工程を省略する以外は、実施例1と同様に行った。
【0047】
<実施例22>
実施例1の(1)の工程で用いる生果をウンシュウミカン(酸度0.6%)に変更し、(3)の工程のうち果皮や果肉を穿孔する工程を省略し、(4)の工程を省略する以外は、実施例1と同様に行った。
【0048】
<実施例23>
実施例1の(1)の工程で用いる生果をウンシュウミカン(酸度0.6%)に変更し、(3)の工程を省略し、(4)の工程を以下のようにする以外は、実施例1と同様に行った。
(4)カットしたウンシュウミカンに糖浸漬を1回行った。糖浸漬方法は、Brix40%の糖液に4℃で24時間放置した。なお、Brix40%の糖液は、20%ショ糖と26.7%果糖ブドウ糖液糖(固形分75%)の混合液を使用した。
【0049】
<実施例24>
実施例1の(2)の工程を以下のように変更し(6)の工程を追加する以外は、実施例1と同様に行った。
(2)上記冷却したレモンを、略一口サイズのくし形切りにカット(50mm×25mm×5mm程度)し、種を除去した。
(6)乾燥カットレモンの表面を、フマル酸粉末成分を直接振りかけて攪拌混合することにより被覆した。
【0050】
<実施例25>
実施例1の(1)の工程を以下のように変更し(6)の工程を追加する以外は、実施例1と同様に行った。
(1)生のレモン(酸度6.2%)を水洗し、不良品や異物を除いた後、レモンを皮つきのまま10%水酸化ナトリウム溶液中で100℃1分間加熱後、常温(20℃)の流水中にさらし、品温30℃になるまで冷却した。
(6)乾燥カットレモンの表面を、フマル酸粉末成分を直接振りかけて攪拌混合することにより被覆した。
【0051】
<実施例26>
実施例1の(1)の工程を以下のように変更する以外は、実施例1と同様に行った。
(1)生のレモン(酸度6.2%)を水洗し、不良品や異物を除いた。
【0052】
上記のようにして得られた各実施例、比較例の乾燥カット柑橘系果実について、水分含有量、糖類全体中のショ糖含有量、酸度、水分活性の測定と、食感、風味、外観形状、べたつき、長期保存による褐変、長期保存性を評価した。以上の結果を合わせて表1、3〜5に示す。また、表1、3〜5の評価の詳細を表6に示す。なお、各測定方法は上述の方法に従い、評価は専門パネラー20名による官能評価を行った。また、長期保存による褐変と長期保存性は、乾燥カット柑橘系果実をアルミパウチに窒素充填してから収容し、常温保管1年間に相当する55℃5日間保管品について評価した。
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
【表6】
【0056】
評価の結果、実施例は食感、風味、外観、べたつき、長期保存による褐変、長期保存性の全てに関し良好であった。特に実施例1、5、8、9、11、12、17、18、19、25は、全体的な評価が高く最良の結果を得ることが出来、果皮は適度に軟化されてしっとりとし、果肉は肉厚で食べ応えがあり、苦味がなく酸味とすっきりした甘さのバランスがよく、生果のジューシー感が再現された風味で、外観や長期保存性も良好であった。特に輪切りにカットした実施例の柑橘系果実は、その形状自体が美しく、食欲をそそるものであった。
また他に、実施例8と13は、生果のジューシー感がほとばしるようで、風味が実施例1よりも更に良好であった。
【0057】
また、実施例7の長期保存による褐変の評価が悪いのは、加工後の酸度が4.7%と高くなってしまったためと推察される。
他に、実施例23は、一定時間放置する方法を用いて糖浸漬を行ったために、実施例1に比べやや食感が劣る結果となった。また比較的生果の果皮の苦味の少ないウンシュウミカンを用いたために風味は良好であったと推察される。
また実施例26は、レモンを皮付きのまま水中加熱していないので、果肉の熱履歴がなく、その後の工程を経ても果肉のつぶれが少なく歩留まりが高くなり、その上、品質的に実施例1とほぼ同等のものが得られた。
従って酸度を2%以下とすることが、風味、食感、外観を良好とするために有効であることがわかる。
【0058】
これに対し、比較例1は、特に食感、べたつき、長期保存性の評価が悪く、常温流通の製品化は不可能であった。また、比較例2は、果皮、果肉共に硬いため食感が悪かった。比較例3は、果皮、果肉共に硬いため食感が悪く、風味では甘さが際立ち、白濁しており、柑橘系果実らしくなかった。