(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
マルチパスに起因して受信波に付帯する遅延波の電力が前記受信波のノイズフロア未満もしくは以下であるときに、再帰的なアルゴリズムによって施されるビームフォーミングに基づく補償の対象として、前記受信波を適用する同一チャネル干渉優先手段と、
前記遅延波の電力が前記ノイズフロアを上回るときに、前記マルチパスの等化の対象として前記受信波を適用するマルチパス優先手段と
を備えたことを特徴とする干渉除去支援装置。
受信波のノイズフロアが前記受信波にマルチパスに起因して付帯する遅延波の電力を上回り、かつ前記受信波に同一チャネル干渉の成分がフェージングの成分よりも多く含まれるときに、再帰的なアルゴリズムによって施されるビームフォーミングに基づく補償の対象として、前記受信波を適用する同一チャネル干渉優先手段と、
前記遅延波の電力が前記ノイズフロアを上回り、かつ前記受信波にフェージングの成分が同一チャネル干渉の成分よりも多く含まれるときに、前記マルチパスの等化の対象として前記受信波を適用するマルチパス優先手段と
を備えたことを特徴とする干渉除去支援装置。
【背景技術】
【0002】
地上デジタル放送の中継局には、伝搬路で生じたマルチパスや同一周波数の混信等に起因して中継されるべき放送波に生じる伝送品質の劣化の軽減を目的として、補償器が備えられる。
このような伝送品質の劣化の軽減を実現する補償器としては、例えば、該当する放送の方式に整合した以下の4通りがある。
【0003】
(1) ガードインターバル(以下、「GI」という。)を超えない範囲で生じたマルチパスの等化を行うマルチパス等化装置(A)
(2) GIを超えた範囲で生じたマルチパスの等化も可能であるマルチパス等化装置(C)
【0004】
(3) 周波数軸上において共通の帯域(チャネル)に分布する干渉波を複数のアンテナ素子によるビームフォーミングの下で等化する同一チャネル干渉除去装置
(4) スペースダイバーシチ方式の下で最大比合成方式が行われることにより、受信波に付帯するフェージングを軽減するSD償装置
【0005】
以下では、上記4種類の装置の呼称を以下の通りとする。
(1) マルチパス等化装置(A)、(C)については、「マルチパス等化器」という。
(2) 同一チャネル干渉除去装置については、「同一チャネル干渉補償器」という。
(3) SD装置については、「ダイバーシチ補償器」という。
【0006】
また、これらの「マルチパス等化器」、「同一チャネル干渉補償器」、「ダイバーシチ補償器」では、例えば、受信された放送波に以下の処理を施す。
【0007】
(a) マルチパス等化器
受信された放送波の遅延プロファイルの時間軸上における分布に基づいて遅延波を検出し、その遅延波について、抑圧、あるいは本波との所定の条件下で合成を行うことによって、マルチパス(GI超えマルチパスが含まれてもよい。)の軽減を図る。
【0008】
(b) 同一チャネル干渉補償器
複数のアンテナ素子によるスペースダイバーシチまたはビーム(ヌル)フォーミング(伝送品質の劣化を抑圧する再帰的なアルゴリズムに基づく給電制御および合成処理)の下で、無相関な干渉波の軽減を図る。
【0009】
(c) ダイバーシチ補償器
複数のアンテナ素子によるスペースダイバーシチまたはビーム(ヌル)フォーミング(伝送品質の劣化を抑圧する非再帰的なアルゴリズムに基づく給電制御および合成処理)の下で、フェージングに起因する伝送品質の低下の軽減を図る。
【0010】
図6は、従来の中継局の構成例を示す図である。
図において、アンテナ41-1、41-2の給電点は、後述する3通りのユニットの何れもが着脱可能なスロット42のコネクタが有する第一の端子および第二の端子にそれぞれ接続される。このようなコネクタの第三の端子は送信部43の入力に接続され、その送信部43の出力はアンテナ44の給電点に接続される。
【0011】
一方、上記スロット42に装着され、かつコネクタを介してアンテナ41-1、41-2および送信部43に接続され得るパッケージとしては、既述の(a)〜(c)に該当するマルチパス等化器45、同一チャネル干渉補償器46およびダイバーシチ補償器47がある。
【0012】
このような構成の中継局では、その中継局の置局に際して、補償や等化が行われるべき干渉の形態が予め調査され、上記パッケージであるマルチパス等化器45、同一チャネル干渉補償器46およびダイバーシチ補償器47の内、その調査の結果に基づいて選択されたものが実装される。
【0013】
すなわち、中継局では、その中継局に到来する放送波は、上記調査の結果に基づいて選択され、かつ該当する放送波に付帯し得る干渉の主要な形態であるマルチパス、干渉波、フェージングの軽減が図られた後に、送信部43およびアンテナ44を介して再送信される。
【0014】
このような中継局では、中継の対象となる放送波は、その中継局に敷設された専用回線を介しては引き渡されず、放送局から到来し、かつ上記マルチパス、干渉波、フェージングの軽減が何らかの形態で施される。
【0015】
なお、本発明に関連性がある先行技術としては、以下に列記する特許文献1および特許文献2があった。
(1) 「片偏波伝送システムから両偏波伝送システムに変更して運営する際に互いに他の偏波からの干渉を補償する交差偏波干渉補償器と、この補償信号を主信号に結合する結合器とを有する偏波伝送システムにおいて、前記片偏波伝送システムの場合に前記結合器に固定レベルの信号を供給し、前記両偏波伝送システムの場合に前記補償信号を前記結合器に供給するように外部から制御信号により自動切り替えを行う切替器と、前記交差偏波干渉補償器内に前記切替器を制御する制御信号を発生する制御信号発生部とを有する」ことにより、「片偏波伝送システムを両偏波伝送システムに変更する際に、交差偏波干渉補償器の有無を自動的に検出して、両偏波伝送の場合の交差偏波干渉信号と片偏波伝送の場合の固定レベルとを切り替える切替器を自動制御し作業工程を減らす」点に特徴がある偏波伝送システム…特許文献1
【0016】
(2) 「現用回線の回線品質が劣化した際に予備回線に切り替えて、データ伝送を行うための回線切替装置において、判定帰還型等化器を備え、受信信号からデータを復調すると共に、タップ係数に重み付けを施し、かつ、一定時間加算したフェージング量がしきい値を越える場合にタップ係数警報信号を出力する2系統の復調装置と、前記データ復調装置の判定帰還型等化器から出力される判定信号からデータ及び誤り率警報信号を生成して出力する2系統の信号処理装置と、前記2系統の復調装置からのタップ係数警報信号及び2系統の信号処理装置が出力する誤り率警報信号に基づいて、復調データが断となる前に回線切替制御信号を出力する切替制御器と、前記回線切替制御信号に基づいて2系統の信号処理装置からのデータの一方を無瞬断で切り替えて選択する無瞬断切替器とを備える」ことにより、「周波数非選択性及び周波数選択性フェージングが発生したとき、データが断となる前に回線を切り替えて、回線品質を一定の誤り率以下にする」点に特徴がある回線切替装置…特許文献2
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第一および第二の実施形態を示す図である。
図において、機能および構成が
図6に示すものと同じであるものについては、同じ符号を付与し、ここでは、その説明を省略する。
【0039】
本発明の第一および第二の実施形態と
図6に示す従来例との間におけるハードウェアの構成の相違点は、以下の点にある。
(1) スロット42が備えられない。
(2)
図6に示すマルチパス等化器45に代えて備えられ、かつ機能および構成がそのマルチパス等化器45と同じである2つのマルチパス等化器11-1、11-2が組み込まれる。
【0040】
(3) これらのマルチパス等化器11-1、11-2に併せて、
図6に示す同一チャネル干渉補償器46およびダイバーシチ補償器47が組み込まれる。
(4) アンテナ41-1の給電点は、マルチパス等化器11-1の入力と、同一チャネル干渉補償器46およびダイバーシチ補償器47の第一の入力とに接続される。
【0041】
(5) アンテナ41-2の給電点は、同一チャネル干渉補償器46およびダイバーシチ補償器47の第二の入力と、マルチパス等化器11-2の入力とに接続される。
(6) マルチパス等化器11-1、11-2、同一チャネル干渉補償器46およびダイバーシチ補償器47の出力にそれぞれ接続された4つのポートを有し、かつ出力が送信部43の入力に接続された選択部12が備えられる。
【0042】
(7) マルチパス等化器11-1、11-2、同一チャネル干渉補償器46およびダイバーシチ補償器47の出力にそれぞれ接続された4つの入力ポートと、これらのマルチパス等化器11-1、11-2、同一チャネル干渉補償器46、ダイバーシチ補償器47および選択部12の制御入力にそれぞれ接続された出力ポートとを有する制御部13が備えられる。
【0043】
本発明の第一および第二の実施形態では、何れにおいても、マルチパス等化器11-1、11-2、同一チャネル干渉補償器46、ダイバーシチ補償器47および選択部12は、制御部13の配下で個別に稼働することによって、アンテナ41-1、41-2に到来した放送波に対して、既述の通りの「マルチパス(GI超えマルチパスが含まれてもよい。)の軽減」、「無相関な干渉波の軽減」および「フェージングに起因する伝送品質の低下の抑圧」を施す。
【0044】
[第一の実施形態]
図2は、本発明の第一の実施形態において制御部が行う処理のフローチャート(1/2)である。
図3は、本発明の第一の実施形態において制御部が行う処理のフローチャート(2/2)である。
図4は、本発明の第一の実施形態の動作を補足する図である。
以下、
図1ないし
図4を参照して本実施形態の動作を説明する。
本発明の特徴は、本実施形態では、制御部13によって行われる下記の処理の手順にある。
制御部13は、以下の処理を行う。
【0045】
(1) マルチパス等化器11-1、11-2、同一チャネル干渉補償器46およびダイバーシチ補償器47の稼働が正常であるか否かの判別を所定の周期(頻度)で行う(
図2ステップS1)。
【0046】
(2) これらのマルチパス等化器11-1、11-2、同一チャネル干渉補償器46およびダイバーシチ補償器47の内、正常に稼働しているものにアンテナ41-1、41-2によって与えられた放送波のレベルL1,L2を計測する(
図2ステップS2)。
(3) 上記レベルL1,L2の双方が正常であるか否かを判別する(
図2ステップS3)。
【0047】
(4) これらのレベルL1,L2の何れかが不正常である場合(以下、「ブランチ障害時」という。)には、マルチパス等化器11-1、11-2の内、その不正常なレベルが識別された一方の等化器に併せて、同一チャネル干渉補償器46およびダイバーシチ補償器47の稼働を規制する(
図2ステップS4)。
【0048】
(5) 反対に、上記レベルL1,L2の双方が正常である場合(以下、「ブランチ正常時」という。)には、以下の処理(5-1),(5-2)を行う。
【0049】
(5-1) マルチパス等化器11-1、11-2の内、入力されている放送波のレベルが低い一方のマルチパス等化器(以下では、「マルチパス等化器11-2」であると仮定する。)の稼働を規制し、かつ他方のマルチパス等化器(マルチパス等化器11-1)に併せて、同一チャネル干渉補償器46およびダイバーシチ補償器47の稼働を許容する(
図2ステップS5)。
【0050】
(5-2) マルチパス等化器11-1によって「マルチパスの軽減」の結果として得られた信号(以下、「マルチパス軽減波」という。)と、同一チャネル干渉補償器46によって「無相関な干渉波の軽減」の結果として得られた信号(以下、「干渉軽減波」という。)と、ダイバーシチ補償器47によって「フェージングに起因する伝送品質の低下の抑圧」の結果として得られた信号(以下、「フェージング抑圧波」という。)との内、後述する処理の下で選択された1つを選択部12に選択させる(
図2ステップS6)。
【0051】
制御部13は、このようにして選択されている信号が上述したそれぞれ「干渉軽減波」、「フェージング抑圧波」、「マルチパス軽減波」である3通りである場合に、以下の処理を行う。
【0052】
〔「干渉軽減波」が選択(同一チャネル干渉補償器46が適用)されている場合〕
(1) アンテナ41-1、41-2に到来している放送波のレベルL1,L2の格差|ΔL|と、これらの放送波に重畳されている雑音のレベルを示すノイズフロアLnfとを計測する(
図3ステップS7)。
【0053】
(2) 上記格差|ΔL|が既定の閾値thL を上回り、かつノイズフロアLnfが既定の閾値thLnf 以下であるとの条件(フェージングが発生していることを間接的に示す)が成立するか否かを判別する(
図3ステップS8)。
【0054】
(3) このような条件が成立する場合には、選択部12に、上記「フェージング抑圧波」を選択させる(
図3ステップS9、
図4(1))。
【0055】
(4) アンテナ41-1に到来した放送波についてマルチパス等化器11-1との連係の下で求められた遅延プロファイルを参照することにより、その放送波に付帯する全ての遅延波の電力の和ΣLnを求める(
図3ステップS10)。
【0056】
(5) その和ΣLnが上記ノイズフロアLnfを上回るとの条件が成立するか否かを判別する(
図3ステップS11)。
【0057】
(6) このような条件が成立する場合には、選択部12に、上記「マルチパス軽減波」を選択させる(
図3ステップS12、
図4(2))。
【0058】
〔「フェージング抑圧波」(ダイバーシチ補償器47が適用)が選択されている場合〕
(1) 上記放送波のレベルL1,L2の格差|ΔL|を計測し、アンテナ41-1に到来した放送波についてマルチパス等化器11-1との連係の下で求められた遅延プロファイルを参照することにより、その遅延プロファイルに放送波の本波と遅延波とのレベルの差(比)としてDU比を求める(
図3ステップS13)。
【0059】
(2) 上記格差|ΔL|が閾値thL 以下であり、かつDU比が所定の閾値thDUを下回ったとの条件が成立するか否かを判定する(
図3ステップS14)。なお、このような条件は、「格差|ΔL|の如何にかかわらず、DU比が所定の閾値thDUを下回ったとの条件」で代替されてもよい。
【0060】
(3) このような条件が成立する場合には、選択部12に、上記「干渉軽減波」を選択させる(
図3ステップS15、
図4(3))。
【0061】
(4) 上記遅延プロファイルに基づいて放送波に付帯する全ての遅延波の電力の和ΣLnを求める(
図3ステップS16)。
【0062】
(5) 上記和ΣLnがノイズフロアLnfを上回るとの条件が成立するか否かを判別する(
図3ステップS17)。
【0063】
(6) このような条件が成立する場合には、選択部12に、上記「マルチパス軽減波」を選択させる(
図3ステップS18)。
【0064】
〔「マルチパス軽減波」(マルチパス等化器11-1が適用)が選択されている場合〕
(1) 放送波に付帯する全ての遅延波の電力の和ΣLnを求める(
図3ステップS19)。
【0065】
(2) 上記ノイズフロアLnfがその和ΣLnを上回り、かつフェージングの成分より同一チャネル干渉の成分が多い(例えば、既述の格差|ΔL|が閾値thL 以下であり、かつDU比が所定の閾値thDUを下回っている)との条件が成立するか否かを判別する(
図3ステップS20)。
【0066】
(3) このような条件が成立する場合には、選択部12に、上記「干渉軽減波」を選択させる(
図3ステップS21、
図4(5))。
【0067】
(4) 上記ノイズフロアLnfが既述の和ΣLnを上回り、かつ同一チャネル干渉よりフェージングの成分が多い(例えば、格差|ΔL|が閾値thL 以下であり、かつDU比が所定の閾値thDUを下回っている)との条件が成立するか否かを判別する(
図3ステップS22)。
【0068】
(5) このような条件が成立する場合には、選択部12に、上記「フェージング抑圧波」を選択させる(
図3ステップS23、
図4(6))。
【0069】
すなわち、アンテナ41-1、41-2に到来した放送波は、その放送波に伴うマルチパス、同一チャネル干渉、フェージング等の干渉や歪みの実体的な形態に適した処理を行う等化器や補償器が適用されることによって、伝送品質の劣化が精度よく安定に軽減される。
【0070】
また、これらの等化器や補償器は、何れも、以下に列記するように、アンテナ41-1、41-2に到来した放送波に伴う干渉や歪みの形態に最も適する場合に適用される。
【0071】
(1) 同一チャネル干渉補償器46は、例えば、ダイバーシチ補償器47やマルチパス等化器11-1(11-2)の機能を有する場合であっても、上記放送波に付帯する主要な干渉や歪みの成分が「再帰的なアルゴリズムに基づく適応制御の下で確度高く安定に補償可能な同一チャネル干渉」に該当する場合に適用される。
【0072】
(2) マルチパス等化器11-1(11-2)は、例えば、マルチパスによって生じた遅延波の遅れがGIを超えない場合にも適用可能であるが、このような遅延波の最大の遅れに適応可能に構成されることによって、上記放送波に伴い得るマルチパスに広範に適用される。
【0073】
(3) ダイバーシチ補償器47は、例えば、マルチパスによって生じた遅延波の遅れがGIを超えない場合にも適用可能なマルチパス等化器11-1(11-2)としての機能を有する場合であっても、そのマルチパス等化器11-1(11-2)に組み込まれた「再帰的なアルゴリズムに基づく適応制御」に比べて、構成が単純であって応答性が高い「非再帰的なアルゴリズムに基づく処理」によりダイバーシチ受信を実現できるため、上記放送波に付帯する主要な干渉や歪みの成分がフェージングである場合に適用される。
【0074】
このように本実施形態によれば、放送波に付帯し得る干渉や歪みの形態に応じて、これらの形態にそれぞれ適した補償器や等化器が自動的に選択されて適用されることにより、このような干渉や歪みの形態の変化に柔軟に適応することによって伝送品質が高められ、かつ安定に維持される。
【0075】
したがって、本発明が適用された中継局では、置局条件の確認に必要な調査大幅な省力化が可能となり、このような置局条件の広範な変動に柔軟に適応可能となって価格性能比および付加価値に併せて信頼性が総合的に高められる。
【0076】
さらに、本発明が適用された中継局では、中継のホップ数が大きくなっても、中継された放送波の伝送品質が急激にあるいは加速的に劣化することが回避され、かつ中継局の設置にかかわるランニングコストを含む価格性能比が総合的に高められて安定に維持されると共に、放送に供される周波数資源の有効な活用が図られる。
【0077】
[第二の実施形態]
図5は、本発明の第二の実施形態において制御部が行う処理のフローチャートである。
図において、
図2に示す処理と同じ処理については、同じステップ番号を付与する。
以下、
図1および
図5を参照して本実施形態の動作を説明する。
【0078】
本発明の特徴は、本実施形態では、制御部13によって行われる下記の処理の手順にある。
制御部13は、以下の処理を行う。
【0079】
(1) マルチパス等化器11-1、11-2、同一チャネル干渉補償器46およびダイバーシチ補償器47の稼働が正常であるか否かの判別を所定の周期(頻度)で行う(
図5ステップS1)。
【0080】
(2) これらのマルチパス等化器11-1、11-2、同一チャネル干渉補償器46およびダイバーシチ補償器47の内、正常に稼働しているものにアンテナ41-1、41-2によって与えられた放送波のレベルL1,L2を計測する(
図5ステップS2)。
(3) 上記レベルL1,L2の双方が正常であるか否かを判別する(
図5ステップS3)。
【0081】
(4) これらのレベルL1,L2の何れかが不正常である場合(「ブランチ障害時」)には、マルチパス等化器11-1、11-2の内、その不正常なレベルが識別された一方の等化器に併せて、同一チャネル干渉補償器46およびダイバーシチ補償器47の稼働を規制する(
図5ステップS4)。
【0082】
(5) 反対に、上記レベルL1,L2の双方が正常である場合(「ブランチ正常時」)には、以下の処理(5-1),(5-2)を行う。
【0083】
(5-1) マルチパス等化器11-1、11-2の内、入力されている放送波のレベルが低い一方のマルチパス等化器(以下では、「マルチパス等化器11-2」であると仮定する。)の稼働を規制し、かつ他方のマルチパス等化器(マルチパス等化器11-1)に併せて、同一チャネル干渉補償器46およびダイバーシチ補償器47の稼働を許容する(
図5ステップS5)。
【0084】
(5-2) マルチパス等化器11-1によって得られた「マルチパス軽減波」と、同一チャネル干渉補償器46によって得られた「干渉軽減波」と、ダイバーシチ補償器47によって得られた「フェージング抑圧波」との内、正常であって以下の要件(5-2-1)〜(5-2-4)の全てまたは一部を満たす1つを選択部12に選択させる(
図5ステップS30)。
【0085】
(5-2-1) SN比(MER(変調誤差比))、CN比、ビット誤り率(BER)、受信電界強度、伝送路復号化の過程で評価されたシンドローム等の何れかとして与えられる伝送品質が最良である。なお、以下では、「マルチパス軽減波」、「干渉軽減波」、「フェージング抑圧波」について個別に得られた伝送品質については、それぞれ伝送品質TQm,TQir、TQfrと称する。
【0086】
(5-2-2) 上記伝送品質TQm,TQir、TQfrに個別に対応し、かつ時間(帯)、季節(72候や24節気であってもよい。)、気象(温度、湿度、風速、風向の何れかが含まれてもよい。)等の実体的あるいは統計的な要因に基づいて与えられる重みWm,Wir、Wfrと、これらの伝送品質TQm,TQir、TQfrとに対して下式で示される積Pm,Pir、Pfrが最大である。
【0087】
Pm=Wm・TQm
Pir=Wir・TQir
Pfr=Wfr・TQfr
【0088】
なお、上記季節や気象にかかわる事項については、例えば、気象レーダによって与えられ、あるいはウェブサービスやRSSフィードとして提供されてもよい。
【0089】
また、上記重みWm,Wir、Wfrについては、具体的には、例えば、以下に列記される方針事項の全てまたは一部に基づいて与えられてもよい。
(5-2-2-1) 夏期は、一般に冬に比べてフェージングが発生しやすいため、有効である可能性が高いダイバーシチ受信に対応する重みWfrが大きめに設定される。
【0090】
(5-2-2-2) 各種の実績や履歴の内、新しいものの優先度を高く見積もられる値とする。
(5-2-2-3) 温度条件(温度、湿度、降雨、潮位、風速等)によりダクトが形成されている可能性が高い場合には、遠方からの干渉が到来する確率が高いため、干渉軽減波に対応する重みWirが大きめに設定される。
【0091】
(5-2-2-4) 潮位の値やその変動の幅によっては、フェージングが発生しやすいため、有効である可能性が高いダイバーシチ受信に対応する重みWfrが大きめに設定される。
【0092】
(5-2-2-5) スポラディックE層が形成されている可能性が高い場合には、遠方から干渉波が到来している可能性が高いため、同一チャネル干渉補償器46(干渉軽減波)に対応する重みWirが大きめに設定される。
【0093】
(5-2-2-6) 該当する中継局の標高が高いために、近隣に干渉源となる無線局が存在し、あるいは存在する可能性が高い場合には、その干渉源である(となる可能性が高い)無線局を含む地形のプロフィールに基づいて同一チャネル干渉補償器46が有効である可能性を評価し、その可能性が反映された値に重みWirが設定される。
【0094】
(5-2-2-7) 港に停泊した船舶の反射によってGIを越えるマルチパスが発生する可能性が高い地域(例えば、中京地域)においては、該当する局やサイトの位置に応じて重みWirが大きめの値に設定される。
【0095】
(5-2-3) 上記伝送品質TQm,TQir、TQfrにそれぞれについて、時系列の順に個別に求められた実績の下で予測される伝送品質TQm′,TQir′、TQfr′が最大である。
【0096】
(5-2-4) 上記積Pm,Pir、Pfrにそれぞれについて、時系列の順に個別に求められた実績の下で予測される伝送品質Pm′,Pir′、Pfr′が最大である。
【0097】
このように本実施形態によれば、放送波に付帯し得る干渉や歪みの形態に適応して好適な伝送品質の確保が可能な方式の等化器や補償器が自動的に選択されて適用される。
【0098】
したがって、本発明が適用された中継局では、伝送品質が高められて安定に維持されると共に、置局条件の確認に必要な調査の大幅な省力化が可能となり、このような置局条件の広範な変動に柔軟に適応可能となって価格性能比および付加価値に併せて信頼性が総合的に高められる。
【0099】
さらに、本発明が適用された中継局では、中継のホップ数が大きくなっても、中継された放送波の伝送品質が急激にあるいは加速的に劣化することが回避され、かつ中継局の設置にかかわるランニングコストを含む価格性能比が総合的に高められて安定に維持されると共に、放送に供される周波数資源の有効な活用が図られる。
【0100】
なお、本実施形態において制御部13によって行われる処理は、第一の実施形態において行われる処理(
図2ステップS1〜S6、
図3ステップS7〜S24)の代替処理(
図4ステップS1〜S5,S30)として行われている。
【0101】
しかし、本発明はこのような構成に限定されず、例えば、「マルチパス軽減波」、「干渉軽減波」、「フェージング抑圧波」に付帯する干渉や歪みが許容される程度に少ない状況が識別されると共に、このような状況において選択部12によって選択されるべき信号の選択のために既述の処理が行われてもよい。
【0102】
また、上述した各実施形態では、
図1に示す各構成要素は、必ずしも、同一のサイトや局舎に設置されなくてもよく、例えば、所定の通信路や伝送路を介して連係することによって、如何なる形態で機能分散や負荷分散が図られてもよい。
【0103】
さらに、上述した各実施形態では、マルチパス等化器11-1(11-2)は、GI超えのマルチパスが発生する可能性がない場合には、安価であって小型かつ軽量である「GI超えのマルチパスに非対応のマルチパス等化器」であってもよい。
【0104】
また、上述した各実施形態では、マルチパス等化器11-1(11-2)、同一チャネル干渉補償器46およびダイバーシチ補償器47がそれぞれ別体のユニット(パッケージ)として構成されている。
【0105】
しかし、本発明はこのような構成に限定されず、例えば、これらのマルチパス等化器11-1(11-2)、同一チャネル干渉補償器46、ダイバーシチ補償器47の内、少なくとも2つが一体化されてもよい。
【0106】
さらに、上述した各実施形態では、
図1に点線で示すように、アンテナ41-1、41-2の給電路に個別に配置された前置等化器によって、これらのアンテナ41-1、41-2に到来した放送波に付帯する干渉や歪みの等化あるいは補償が粗く図られ、補償処理や等化処理の精度の総合的な向上が図られてもよい。
【0107】
また、上述した各実施形態では、アンテナ41-1、41-2の数が「2」に設定されているが、本発明は、例えば、以下の通りに構成される場合には、遅延波や干渉波の数が「3」以上である場合であっても、これらの遅延波や干渉波の等化や補償に適用可能である。
【0108】
(1) アンテナ41-1、41-2に代えて、3つ以上のアンテナ素子が備えられる。
(2) 制御部13またはこれに代わる給電制御装置の配下で、これらのアンテナ素子から構成されるアンテナのビームフォーミングやヌルステアリングが上記等化や補償に適合した形態で行われる。
【0109】
(3) 同一チャネル干渉補償器46は、上記3つ以上のアンテナ素子の給電点に個別に接続されたポートを有する同一チャネル干渉補償器、あるいは2つのみのポートを有して縦属接続された複数の同一チャネル干渉補償器で代替される。
【0110】
(4) ダイバーシチ補償器47は、上記3つ以上のアンテナ素子の給電点に個別に接続されたポートを有するダイバーシチ補償器、あるいは2つのみのポートを有して縦属接続された複数のダイバーシチ補償器で代替される。
【0111】
さらに、本発明は、上述した放送波の中継局に限定されず、変調方式、多元接続方式、チャネル構成、周波数配置、ゾーン構成の内、既述の等化や補償の処理を施すことが可能な無線信号が既述の放送波に代えて入力されるならば、如何なる方式の通信系や伝送系にも適用可能である。
【0112】
また、上述した各実施形態には、マルチパス等化器11-1(11-2)、同一チャネル干渉補償器46およびダイバーシチ補償器47が備えられている。
【0113】
しかし、本発明は、このような構成に限定されず、これらのルチパス等化器11-1(11-2)、同一チャネル干渉補償器46、ダイバーシチ補償器47の少なくとも2つが備えられるならば、適用可能である。
【0114】
さらに、上述した各実施形態では、マルチパス等化器11-1(11-2)は、既述の遅延プロファイルに基づいて遅延波の遅延時間およびレベルを参照することによって、(GI超え)マルチパスに起因して生じた遅延波の等化を行っている。
【0115】
しかし、本発明は、このような構成に限定されず、例えば、同じ方式の放送波がオーパリーチや不正常な伝搬路の形成に起因して到来し得る場合には、その放送波に含まれる「放送局識別子」その他の情報に基づく相関処理、あるいは時間軸(遅延プロファイル)上における濾波処理により、このような放送波の除去が図られてもよい。
【0116】
また、上述した各実施形態では、既述の放送波のレベルL1,L2の格差|ΔL|、これらの放送波に重畳されている雑音のノイズフロアLnf、放送波の遅延プロファイルに含まれ、かつ放送波に付帯する遅延波の電力の和ΣLn、これらの本波と遅延波とのレベルの差(比)として与えられるDU比は、何れも、実測された値として与えられている。
【0117】
しかし、これらの値の全てまたは一部については、例えば、放送波に干渉や歪みが付帯する量や形態を実体的に精度よく示す以下の要因の全てまたは一部が加味されてもよい。
【0118】
(1) 時間もしくは時間帯(データ放送チャネルを介して受信される放送スケジュール等に基づいて識別や特定が図られてもよい。)、季節(例えば、72候や24節気)、気象(温度、湿度、風速、風向、…)等の実体、実績、統計等の要因に基づいて与えられる重みによる重み付け
【0119】
(2) 干渉源となり得る送信源によって送信(保守等のために行われる送信が含まれてもよい。)が行われるスケジュールの実体、実績、統計等の要因に基づいて与えられる重みによる重み付け
【0120】
(3) 時系列の順に個別に求められた実績の下で得られる予測値による代替
さらに、上記(1)〜(3)は、既述の閾値thL 、thLnf 、thDU の全てまたは一部に同様に適用されてもよい。
また、上述した各実施形態では、既述の伝送品質は、「冗長に構成され、かつ受信波(放送波)の送信端」と、「冗長に構成され、かつ受信波(放送波)を受信する受信系」との双方もしくは何れか一方で代替されてもよい。
【0121】
さらに、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲において多様な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。
【0122】
以下、本願に開示された発明の内、「特許請求の範囲」に記載しなかった発明の構成、作用および効果を「特許請求の範囲」、「課題を解決するための手段」、「発明の効果」の各欄の記載に準じた様式により列記する。
【0123】
[請求項6] 請求項4または請求項5に記載の干渉除去支援装置において、
前記マルチパス優先手段は、
前記遅延波の遅延時間の値域に適した形態による前記マルチパスの等化の対象として、前記受信波を適用する
ことを特徴とする干渉除去支援装置。
【0124】
このような構成の干渉除去支援装置では、請求項4または請求項5に記載の干渉除去支援装置において、前記マルチパス優先手段は、前記遅延波の遅延時間の値域に適した形態による前記マルチパスの等化の対象として前記受信波を適用する。
【0125】
すなわち、マルチパスに起因して受信波に付帯する遅延波の等化は、その遅延波の遅延時間がとり得る範囲における処理として実現される。
【0126】
したがって、このような遅延波の等化が上記範囲の外でも行われることに起因する無用な応答性の低下およびコストの増加が回避される。