特許第6075976号(P6075976)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075976
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】溶解クラフトパルプの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21C 3/02 20060101AFI20170130BHJP
   D21C 3/26 20060101ALI20170130BHJP
   D21C 9/10 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   D21C3/02
   D21C3/26
   D21C9/10 Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-136211(P2012-136211)
(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公開番号】特開2014-1470(P2014-1470A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年4月21日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】高山 雅人
(72)【発明者】
【氏名】陶山 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 加奈
(72)【発明者】
【氏名】小野 敦
(72)【発明者】
【氏名】黒須 一博
【審査官】 阿川 寛樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−533602(JP,A)
【文献】 特開2004−169205(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0000621(US,A1)
【文献】 特開2009−052187(JP,A)
【文献】 特表平09−507697(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102493257(CN,A)
【文献】 特開2013−227705(JP,A)
【文献】 Herbert Sixta,Handbook of Pulp,2008年 1月30日,Volume 1,PP. 351-355
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00− 1/38
D21C 1/00− 11/14
D21D 1/00− 99/00
D21F 1/00− 13/12
D21G 1/00− 9/00
D21H 11/00− 27/42
D21J 1/00− 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カラマツ属(Larix)および/またはマツ属(Pinus)の針葉樹チップを含む木材チップに水を添加し、下式:
Pファクター=∫exp(40.48−15106/T)dt
[式中、Tは、木材チップに水を添加した時点から前加水分解の終了時点までの絶対温度である]
で表される前加水分解のPファクターが350〜800となるように温度150〜180℃で30〜400分間、耐圧性容器において木材チップ1kgあたりの水の液比を1.5〜5.0L/kgとして前加水分解処理し、木材チップに含まれるヘミセルロース分の分解または溶出を行う前加水分解工程と、
(b)処理後の木材チップを洗浄し、木材チップを回収する工程と、
(c)回収した木材チップを、150〜220℃にて60〜240分間、耐圧性容器において木材チップ1kgあたりのクラフト蒸解液の液比を1.0〜4.5L/kgとしてクラフト蒸解する工程と、
を含む、カッパー価が10〜20である溶解クラフトパルプを針葉樹材から製造する方法。
【請求項2】
溶解クラフトパルプのセルロース含有量が90%以上である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
クラフト蒸解した溶解クラフトパルプを漂白する工程をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】
【0001】
本発明は針葉樹から溶解パルプを製造する方法に関する。特に本発明は、難蒸解性かつ難漂白性のカラマツ属の材などから高品質の溶解クラフトパルプを製造する方法に関するものである。
【従来の技術】
【0002】
針葉樹は、溶解クラフトパルプの主要原料の一つである。針葉樹は、種類が多く、樹種、樹齢、産地などの違いにより、その蒸解性や漂白性が様々である。針葉樹材には樹脂が多く含有されていることは良く知られており、蒸解性や漂白性に影響している。また、パルプの蒸解性および漂白性に影響するリグニンや樹脂以外の物質として、植物色素および前駆物質である多種多様な低分子フェノール類がある。この植物色素はフラボノイド系、キサントン系、キノン系に大別される。このフラボノイド系色素に属し、更にポリフェノールに属するプロアントシアニジン様物質および低分子フェノール類は、針葉樹であるカラマツ属、トガサワラ属、スギ属の樹木中、特に心材に多く含有されていることが知られている。特に老齢木ではその含有量が多くなる。従って、これらの難蒸解性かつ難漂白性の材をパルプ材として有効に活用するためには、樹脂やプロアントシアニジンなどの影響の軽減策が必要である。
【0003】
針葉樹材中の樹脂は、狭義の樹脂や油脂などを主成分としている。この狭義の樹脂の組成分は、樹脂酸(アビエチン酸、ピマール酸など)、樹脂アルコール、レゼンであり、樹脂酸が主成分である。油脂はグリセリンと脂肪酸が結合したものであり、脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレン酸などが知られている。
【0004】
針葉樹に含まれる樹脂は、クラフト蒸解法において、アルカリ性の蒸解液との中和反応や鹸化反応によりアルカリ性の蒸解液を消費してしまうため、本来の蒸解の目的であるリグニンの溶解反応が阻害される。その結果、蒸解後パルプのカッパー価が増大し、後続の漂白工程において漂白薬品を多く添加する必要が生じたり、漂白終了後のパルプの白色度が低下するなどの問題を引き起こす。
【0005】
プロアントシアニジンは、樹木中に存在する縮合型タンニン、即ちフラバン−3−オールまたはフラバン−3,4−ジオールを単位として縮合もしくは重合により結合した化合物であり、これらは酸処理によりジアニリン、デルフィニジン、ベラルゴニジンなどのアントシアニジンを生成することから、この名称が与えられているものである。従って、プロアントシアニジンは、前記構成単位の2量体、3量体、4量体、更には30量体までの高分子のプロシアニジン、プロデルフィニジン、プロペラルゴニジンなどのプロアントシアニジンおよびこれらの立体異性体を包含する総称である。一つの態様においてプロアントシアニジンは、下式で表されるフラバン−3−オールまたはフラバン−3,4−オールを構成単位とした2〜30量体などである(式中、R1は水素、ガロイル基またはグリコピラノシル基、R2は水素または水酸基、R3、R4は水素、水酸基、またはメトキシ基を意味する)。
【0006】
【化1】
【0007】
プロアントシアニジンの分子構造中にはフェノール性水酸基が多数ある。このことから解るように、プロアントシアニジンは酸性の物質である。従って、プロアントシアニジン様物質および低分子フェノール類が多く含まれる針葉樹、例えば、カラマツ属、トガサワラ属、スギ属などの樹木のチップをクラフト蒸解する場合、プロアントシアニジンなどのフェノール性物質がアルカリ性の蒸解液を消費し、本来の蒸解の目的であるリグニンの溶解反応が阻害される。更にプロアントシアニジンは、蒸解中にリグニンと反応し、難漂白性の強い着色物質を生成する。その結果、蒸解後パルプのカッパー価が増大し、後続の漂白工程において漂白薬品を多く添加する必要が生じたり、漂白終了後のパルプの白色度が低下するなどの問題を引き起こす。また、プロアントシアニジンは、酸性領域で反応を進める漂白段において酸分解され、着色物質であるアントシアニジンを生ずる。アントシアニジンは酸性でもアルカリ性でも発色し、酸性領域では赤色、アルカリ性領域では青色を呈する。従って、プロアントシアニジンが蒸解終了までに十分に除去されず、漂白工程に多くの量のプロアントシアニジンが持ち込まれると、漂白パルプが着色し、色相が変化したり、白色度が低下する問題を引き起こす。
【0008】
針葉樹の樹脂の問題は古くから認識され、その対策が検討されてきた。しかし、アルカリ性の蒸解液を添加するクラフト蒸解法(KP法)の場合、樹脂は鹸化されて分散するため、サルファイト蒸解法(SP法)に比べて樹脂障害が少なく、その対策の検討は、主に漂白パルプ中に残存する樹脂の量を低減することにあった。例えば、特許文献1には、リグノセルロース材料を処理して得たパルプ懸濁液を、まず濃度調整し、次いで特定濃度のアルカリを含む酸化漂白剤(過酸化漂白剤、次亜塩素酸塩)の存在下に機械的処理を施すことにより、樹脂含量を減少させて、パルプ白色度を向上させる技術が記載されている。また、特許文献2には、晒クラフトパルプ(BKP)漂白シーケンスに過酸化水素漂白段を組み込み、その初段に特定の酸処理を設け、安定剤を用いることなく漂白前段の過酸化水素漂白を行い、粘度、白色度、PC価、脱樹脂などの点で高品質のパルプを得る技術が開示されている。
【0009】
また、針葉樹の樹脂やプロアントシアニジンに関する言及は無いが、特許文献3には、針葉樹の難蒸解性材から高白色度の晒パルプを製造する技術が提案されている。具体的には、過酸化水素のアルカリ溶液に助剤としてアントラキノン系安定剤およびキレート剤を添加したものを蒸解薬液とし、針葉樹の難蒸解性材を175〜200℃で処理し、カッパー価40以下の未晒パルプを得て、これを過酸化水素のアルカリ溶液で2段処理し、カッパー価を15以下、ハンター白色度60%以上のパルプとして、更に塩素系漂白剤で高白色度になるまで処理する技術が示されている。また特許文献4には、リグノセルロース材料を前加水分解して、続いて140〜160℃でアルカリ中和処理を行い、中和された前加水分解されたリグノセルロース材料をクラフト蒸解して、溶解パルプをバッチ様式で製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第1540750号公報
【特許文献2】特開昭61−83389号公報
【特許文献3】特公昭63−35758号公報
【特許文献4】特許第2984798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、木材に含まれるプロアントシアニジンなどのフェノール性物質は、難蒸解性や難漂白性の原因物質の一つと考えられる。このようなフェノール性物質の存在は、アルカリ性の蒸解液を用いるクラフト蒸解において着色物質が生成する原因となるし、蒸解後の漂白においても着色物質が生成する原因となる。本発明者らは、カラマツ属、トガサワラ属、スギ属の針葉樹材からパルプを製造する際に、フェノール性化合物を積極的に除去することによって蒸解性や漂白性の改善を図った先行技術を調査したが、そのような技術は見いだせなかった。特に、針葉樹の中でもカラマツなどは、アラビノガラクタンを多く含むため、蒸解効率が低下しやすく、高品質の溶解パルプを製造する技術が求められている。
【0012】
一方、紙パルプの技術分野ではないものの、食品や化粧品などの分野において、プロアントシアニジンを抽出する技術が報告されている。プロアントシアニジンは、食品、化粧品の酸化防止剤や脱臭剤、医薬品などの製造原料として有用であることが知られており、例えば、特開2000−229834号公報には、プロアントシアニジンを主成分とする松樹脂由来成分を含有する化粧品に関して、フランス海岸松などの松樹皮からプロアントシアニジンを抽出することが記載されており、抽出溶媒としては水、エタノール、エタノール水溶液、ベンゼン、アセトンなどが例示されている。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、針葉樹材を原料として、高品質の溶解パルプをクラフト蒸解法により製造する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これに限定されるものではないが、本発明は、以下の発明を包含する。
(1) (a)針葉樹のチップを含む木材チップに水を添加し、温度150〜180℃で30〜400分間処理し、木材チップに含まれるヘミセルロース分の分解または溶出を行う工程、(b)処理後の木材チップを洗浄し、木材チップを回収する工程、(c)回収した木材チップをクラフト蒸解してパルプを製造する工程、を含む、針葉樹材から溶解パルプを製造する方法。
(2) 前記a工程において、下式:
Pファクター=∫exp(40.48−15106/T)dt
[式中、Tは絶対温度であり、木材チップに水を添加した時点から蒸解終了時点まで時間積分される]
で表されるPファクターが350〜800となるように処理を行う、(1)に記載の方法。
(3) 前記木材チップがカラマツ属(Larix)の木材チップを含む、(1)または(2)に記載の方法。
(4) 前記木材チップがマツ属(Pinus)の木材チップを含む、(1)または(2)に記載の方法。
(5) クラフト蒸解したパルプを漂白する工程をさらに含む、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、針葉樹材を原料として、クラフト蒸解法により溶解パルプを効率よく製造することができる。
【発明の実施するための形態】
【0016】
本発明は、クラフト蒸解法によって溶解パルプを製造する方法に関する。本発明において溶解クラフトパルプ(DKP)とは、クラフト蒸解法(KP法)によって製造される溶解パルプである。溶解パルプとは、化学的に精製されたセルロース純度の高いパルプを意味し、好ましい態様においてセルロース含有量が90%以上である。一般に木材はセルロース、リグニン、ヘミセルロースの三大成分と少量の樹脂分、灰分などを含んでいるが、溶解パルプはセルロース純度が高く、化学繊維、セロハン、プラスチック、合成糊料、その他いろいろなセルロース系誘導体の原料として広く利用されている。
【0017】
本発明の原料は、針葉樹のチップを含む木材チップである。本発明の木材チップは、針葉樹材のチップを含んでいれば、そのサイズや樹種は特に制限されず、単一種類の木材のチップでも2種以上の木材が混合されたチップでもよい。本発明においては、針葉樹などの比較的、蒸解や漂白が難しいとされる樹種であっても、高品質な溶解パルプを効率良く製造することができる。本発明において針葉樹材のチップとしては、例えば、カラマツ属やマツ属の木材チップを好適に使用することができる。カラマツ属に関しては、例えば、Larix(以下、L.と略す)leptolepis(カラマツ)、L.laricina(タマラック)、L.occidentalis(セイブカラマツ)、L.decidua(ヨーロッパカラマツ)、L.gmelinii(グイマツ)などが挙げられる。また、カラマツ属以外の針葉樹としては、例えば、マツ属に関しては、Pinus radiata(ラジアータマツ)など、トガサワラ属に関しては、Pseudotsuga(以下、P.と略す)menziesii(ダクラスファー)、P.japonica(トガサワラ)など、スギ属に関しては、Cryptomeria japonicaなどを挙げることができる。
【0018】
前加水分解工程
本発明ではクラフト蒸解を行う前の前処理として、チップに対して加水分解処理を行って、木材チップ中のヘミセルロース分を水溶性の糖に分解して、除去する。前処理としての加水分解処理(前加水分解)は、木材チップを高温の水で処理することによって実施される。添加する水は、熱水でも水蒸気の状態でもよい。加水分解の進行によって有機酸等が生成するので、処理液のpHは2〜5となるのが一般的である。
【0019】
前加水分解処理は、150〜180℃の温度範囲で行うことが好ましい。温度が150℃未満であれば、ヘミセルロースの除去が不十分となり、180℃を超えると加水分解が過剰となりα−セルロース分も低下してしまう。処理時間は特に制限されないが、30〜400分が好ましく、35〜250分がより好ましく、40〜150分がさらに好ましい。処理時間が短すぎると、ヘミセルロースの除去が不十分となり、ヘミセルロースを除去したことによる脱リグニン性の向上効果も少なくなる。一方、処理時間が長すぎると、加水分解が過剰となりα−セルロース分が減少してパルプ収率の低下を招くとともに、リグニンの縮合により、後に続くクラフト蒸解工程における蒸解性の悪化を招いてしまう。
【0020】
また、本発明における前加水分解処理は、P−ファクター(PF)を指標として、処理温度及び処理時間を設定することができる。P−ファクターとは、前加水分解処理で反応系に与えられた熱の総量を表す目安であり、本発明では下記式によって表わされ、チップと水が混ざった時点から蒸解終了時点まで時間積分することで算出する。
【0021】
PF=∫ln−1(40.48−15106/T)dt
[式中、Tはある時点の絶対温度を表す]
本発明における前加水分解処理は、Pファクター(Pf)が350〜800となる範囲で行うことが好ましい。Pf350未満であれば、ヘミセルロースの除去が不十分となり、ヘミセルロースを除去したことによる脱リグニン性の向上効果も少なくなる。また、Pf800を超えると、加水分解が過剰となりα−セルロース分が減少してパルプ収率の低下を招くとともに、リグニンの縮合により、後に続くクラフト蒸解工程における蒸解性の悪化を招いてしまう。
【0022】
前加水分解工程は、木材チップと水を耐圧性容器に入れて行うことができるが、容器の形状や大きさは特に制限されない。木材チップと水の液比は、例えば、1.0〜5.0L/kgとすることができ、1.5〜4.5L/kgが好ましく、2.0〜4.0L/kgがさらに好ましい。液比が1.0L/kg未満であると、木材チップに対して水が少なすぎるために加水分解が不十分となり、液比が5.0L/kgを超えると容器の大きさが過大となるので好ましくない。また、必要に応じて、少量の鉱酸を添加してもよい。
【0023】
チップの洗浄・回収工程
次いで、前加水分解処理後の木材チップは、前加水分解液を除去し、チップを十分に水で洗浄して回収する。不十分な洗浄では、後続の蒸解工程において悪影響が生じる場合がある。
【0024】
加水分解液の洗浄、除去は、一般的な固液分離装置などを用いることによって行うことができる。例えば、前加水分解に用いる容器に抽出スクリーンを設け、容器下部から洗浄水を導入してスクリーンから抽出して向流洗浄することができる。
【0025】
クラフト蒸解工程
洗浄後のチップは、蒸解液と共に蒸解釜へ投入され、一般的な条件(活性アルカリ添加量、硫化度、液比、最高温度、保持時間、Hファクターなど)でクラフト蒸解に供する。また、MCC、EMCC、ITC、Lo−solidなどの修正クラフト法の蒸解に供しても良い。また、1ベッセル液相型、1ベッセル気相/液相型、2ベッセル液相/気相型、2ベッセル液相型などの蒸解型式なども特に限定はない。すなわち、本願のアルカリ性水溶液を含浸し、これを保持する工程は、従来の蒸解液の浸透処理を目的とした装置や部位とは別個に設置してもよい。好ましくは、蒸解を終えた未晒パルプは蒸解液を抽出後、ディフュージョンウォッシャーなどの洗浄装置で洗浄する。洗浄後の未晒パルプのカッパー価は10〜22にすることが好ましく、12〜20としてもよい。
【0026】
クラフト蒸解工程は、前加水分解処理した木材チップをクラフト蒸解液とともに耐圧性容器に入れて行うことができるが、容器の形状や大きさは特に制限されない。木材チップと水の液比は、例えば、1.0〜5.0L/kgとすることができ、1.5〜4.5L/kgが好ましく、2.0〜4.0L/kgがさらに好ましい。
【0027】
クラフト蒸解は、120〜220℃の温度範囲で行うことが好ましく、150〜180℃がより好ましい。温度が低すぎると脱リグニン(カッパー価の低下)が不十分である一方、温度が高すぎるとセルロースの重合度(粘度)が低下する。また、本発明における蒸解時間とは、蒸解温度が最高温度に達してから温度が下降し始めるまでの時間であるが、蒸解時間は、120分以上10時間が好ましく、60分以上240分以下が好ましい。蒸解時間が60分未満ではパルプ化が進行せず、240分を超えるとパルプ生産効率が悪化するために好ましくない。
【0028】
また、本発明におけるクラフト蒸解は、H−ファクター(HF)を指標として、処理温度及び処理時間を設定することができる。H−ファクターとは、蒸解過程で反応系に与えられた熱の総量を表す目安であり、下記の式によって表わされる。H−ファクターは、チップと水が混ざった時点から蒸解終了時点まで時間積分することで算出する。
【0029】
HF=∫exp(43.20−16113/T)dt
[式中、Tはある時点の絶対温度を表す]
本発明においては、蒸解後得られた未漂白パルプは、必要に応じて、種々の処理に供することができる。
【0030】
一つの態様において、クラフト蒸解で得られたパルプに酸素脱リグニン処理を行うことができる。本発明に使用される酸素脱リグニンは、公知の中濃度法あるいは高濃度法がそのまま適用できる。中濃度法の場合はパルプ濃度が8〜15質量%、高濃度法の場合は20〜35質量%で行われることが好ましい。酸素脱リグニンにおけるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することができ、酸素ガスとしては、深冷分離法からの酸素、PSA(Pressure Swing Adsorption)からの酸素、VSA(Vacuum Swing Adsorption)からの酸素等が使用できる。
【0031】
酸素脱リグニン処理の反応条件は、特に限定はないが、酸素圧は3〜9kg/cm、より好ましくは4〜7kg/cm、アルカリ添加率は0.5〜4質量%、温度は80〜140℃、処理時間は20〜180分、この他の条件は公知のものが適用できる。なお、本発明において、酸素脱リグニン処理は、複数回行ってもよい。
【0032】
酸素脱リグニン処理が施されたパルプは、例えば、次いで洗浄工程へ送られ、洗浄後、多段漂白工程へ送られ、多段漂白処理を行うことができる。本発明の多段漂白処理は、特に限定されるものではないが、酸(A)、二酸化塩素(D)、アルカリ(E)、酸素(O)、過酸化水素(P)、オゾン(Z)、過酸等の公知の漂白剤と漂白助剤を組み合わせるのが好適である。例えば、多段漂白処理の初段は二酸化塩素漂白段(D)やオゾン漂白段(Z)を用い、二段目にはアルカリ抽出段(E)や過酸化水素段(P)、三段目以降には、二酸化塩素や過酸化水素を用いた漂白シーケンスが好適に用いられる。三段目以降の段数も特に限定されるわけではないが、エネルギー効率、生産性等を考慮すると、合計で三段あるいは四段で終了するのが好適である。また、多段漂白処理中にエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等によるキレート剤処理段を挿入してもよい。
【0033】
本発明によって製造された溶解クラフトパルプ(DKP)は、ヘミセルロースや各種フェノール類が除去されているため、通常の酸素脱リグニン処理や漂白処理により高品質の溶解クラフトパルプを容易に製造できる。広葉樹を原料とする場合に比較して、ヘミセルロース分の低い高品質の溶解パルプが得られる。
【実施例】
【0034】
次に実施例に基づき、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に記載しない限り、本発明において、%などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとする。
【0035】
実施例1
カラマツを原料とする木材チップを、篩い分け器(ジャイロシフター)を使用して篩い分けし、サイズが9.5〜25.4mmの木材チップを得た。
【0036】
回転型オートクレーブを用い、この木材チップに液比3.2(L/kg)となるように水を加え、前加水分解温度170℃にて約50分間(Pファクター:約500)、前加水分解を行った。
【0037】
前加水分解終了後、チップと前加水分解液とを300メッシュ濾布で分離し、チップの15倍量の60℃温水で30秒間手もみ洗浄を行った。
続いて、再び回転型オートクレーブを用い、150℃、85分間、クラフト蒸解薬液の浸透を行った後、蒸解温度158℃で230分間、H−ファクター(HF)=1300で蒸解を行った。薬液は、活性アルカリ添加率(AA)18〜24%で変化させ、活性アルカリ105g/L(NaO換算値)、NaOH75.6g/L(NaO換算値)、NaS29.4g/L(NaO換算値)、硫化度28%の組成で、木材チップと蒸解薬液との液比は3.2(L/kg)とした。
【0038】
蒸解終了後、得られた未漂白パルプのカッパー価(KN)、総収率、ヘミセルロース量を以下の方法にて測定し、結果を表1に示した。
・未漂白パルプのカッパー価:JIS P 8221に従って、測定した。
・総収率:蒸解前の木材チップの絶乾重量と蒸解後に得られた未漂白パルプの絶乾重量より算出した。
・ヘミセルロース量(ヘミセル量): NREL/TP510−42618に従い、測定した。
【0039】
実施例2
原料をラジアータパインとした以外は実施例1と同様に蒸解を行い、得られた未漂白パルプのカッパー価、総収率、ヘミセルロース量を以下の方法にて測定し、結果を表1に示した。
【0040】
比較例1
前加水分解を約30分行った(Pf:約300)以外は、実施例1と同様にしてクラフト蒸解を行い、溶解パルプを得た。得られた未漂白パルプのカッパー価、総収率、ヘミセルロース量を測定し、結果を表1に示した。
【0041】
比較例2
前加水分解を約90分行った(Pf:約900)以外は、実施例1と同様にしてクラフト蒸解を行い、溶解パルプを得た。得られた未漂白パルプのカッパー価、総収率、ヘミセルロース量を測定し、結果を表1に示した。
【0042】
比較例3
前加水分解を約30分行った(Pf:約300)以外は、実施例2と同様にしてクラフト蒸解を行い、溶解パルプを得た。得られた未漂白パルプのカッパー価、総収率、ヘミセルロース量を測定し、結果を表1に示した。
【0043】
比較例4
前加水分解を約90分行った(Pf:約900)以外は、実施例2と同様にしてクラフト蒸解を行い、溶解パルプを得た。得られた未漂白パルプのカッパー価、総収率、ヘミセルロース量を測定し、結果を表1に示した。
【0044】
【表1】