(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
外側軌道輪(11)と内側軌道輪(12)との間に転動体(13)を組み込み、前記外側軌道輪(11)と前記内側軌道輪(12)との間に形成された軸受空間の少なくとも一端の開口を樹脂製のシールリング(20)で覆い、そのシールリング(20)に形成された通油孔(22)に樹脂製のフィルタ(23)が着脱可能に設けられて、そのフィルタ(23)により潤滑オイルに含まれる異物を捕捉するようになっており、前記シールリング(20)は前記外側軌道輪(11)又は前記内側軌道輪(12)の一方に係止され、前記シールリング(20)にはそのシールリング(20)よりも柔らかい素材からなる円環部材(40)が固定されて、その円環部材(40)により、前記外側軌道輪(11)又は前記内側軌道輪(12)の他方に隙間をもって対向又は当接するリップ部(41)が構成されており、
前記フィルタ(23)は、その外縁が樹脂製の枠部材(42)に一体にインサート成型されており、前記枠部材(42)が前記シールリング(20)の通油孔(22)に着脱自在であり、前記フィルタ(23)の樹脂の素材は、前記シールリング(20)の樹脂の素材及び前記枠部材(42)の樹脂の素材の線膨張係数以上の線膨張係数を有する素材であり、前記フィルタ(23)が前記シールリング(20)及び前記枠部材(42)の膨張量よりも大きく熱膨張するものであり、前記通油孔(22)の長さ方向に対する前記枠部材(42)の厚さは前記通油孔(22)の長さよりも薄く、インサート成型により前記フィルタ(23)が前記枠部材(42)に埋め込まれた部分の内縁は、前記通油孔(22)の内面(22a)よりも内側に位置していることを特徴とする転がり軸受。
前記円環部材(40)と前記シールリング(20)の内側端面(27a)との間に寸法調整用部材(28)を介在させ、その寸法調整用部材(28)により、前記リップ部(41)と前記他方との間の締代を調整可能としたことを特徴とする請求項4に記載の転がり軸受。
前記円環部材(40)と前記シールリング(20)との間に、前記円環部材(40)と前記シールリング(20)との軸方向への抜け止め機能を発揮する抜け止め手段(43)が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の転がり軸受。
前記円環部材(40)と前記シールリング(20)との間に、前記円環部材(40)と前記シールリング(20)との周方向への回り止め機能を発揮する回り止め手段(44)が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の転がり軸受。
前記シールリング(20)に断面コの字状のリップ取付部(27)を設け、そのリップ取付部(27)に前記円環部材(40)を装入し、前記円環部材(40)の内径面(41b)又は外径面(41e)、及び、その軸方向一方の側面(41a)を前記リップ取付部(27)の内面に直接又は間接に当接させることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の転がり軸受。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1,2に記載されたフィルタ付き転がり軸受では、エラストマー材からなるシールリング(以下、エラストマー材からなるシールリングを、特に「弾性シール部材」と称する)に通油孔を設け、その通油孔をフィルタで覆う構造としている。
【0007】
しかし、このような転がり軸受では、弾性シール部材が芯金のない状態で軸受開口部、すなわち、シール装着部に剥き出しになっている。このため、軸受組立時、搬送時、及び機械装置組込み時等に何らかの外力が弾性シール部材に作用した場合、その弾性シール部材が変形したり、正規の組込み状態からずれることでシール性が損なわれる可能性がある。
【0008】
また、シール性が損なわれないようにし、シールリングの長寿命化を図るためには、弾性シール部材と軸受間の締代を精度良く管理する必要がある。
【0009】
しかし、弾性シール部材は直接軸受に取付けられているため、締代のさらなる精度向上には、弾性シール部材及び軸受の各々の寸法の精度をさらに高めなければならない。このようなさらなる精度の向上は、製造コストの高騰を招くことになる。また、成形品である弾性シール部材の寸法管理には限界がある。
一方、シール性確保のために締代を増大すると、軸受のトルク増大を招くことになる。さらには、軸受サイズ(特に弾性シール部材が装着される内外輪間の径方向寸法)が異なる軸受に適用する場合、弾性シール部材を別に用意する必要があり、製造コストの面で不利である。
【0010】
また、上記特許文献1,2に記載されたフィルタ付き転がり軸受では、弾性シール部材に設けた通油孔に対して、フィルタを弾性シール部材に対して接着剤や嵌め込み等により固定していると考えられる。
【0011】
このため、弾性シール部材が熱膨張等で変形することにより、フィルタの固定部分の一部が弾性シール部材から外れたり、あるいは、フィルタが弾性シール部材から完全に外れてしまう等、フィルタの脱落を生じさせることがある。
【0012】
フィルタが脱落すると、そのままでは異物が転がり軸受の内部に侵入しやすくなるので、シールリングの交換が必要となる。シールリングの交換は、少なくとも動力伝達機構の分解を伴う作業となるので、いつでも容易にできるものではない。このため、フィルタは脱落しにくい構造であることが望ましい。
【0013】
そこで、この発明は、転がり軸受に備えられるフィルタ付きのシールリングに関し、そのフィルタがシールリングから脱落しにくいようにし、且つ、シール性が損なわれないようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、この発明は、外側軌道輪と内側軌道輪との間に転動体を組み込み、前記外側軌道輪と前記内側軌道輪との間に形成された軸受空間の少なくとも一端の開口を樹脂又は金属製のシールリングで覆い、そのシールリングに形成された通油孔にフィルタが着脱可能に設けられて、そのフィルタにより潤滑オイルに含まれる異物を捕捉するようになっており、前記シールリングは前記外側軌道輪又は前記内側軌道輪の一方に係止され、前記シールリングにはそのシールリングよりも柔らかい素材からなる円環部材が固定されて、その円環部材により、前記外側軌道輪又は前記内側軌道輪の他方に隙間をもって対向又は当接するリップ部が構成されていることを特徴とする転がり軸受を採用した。
【0015】
この構成によれば、軌道輪に固定されるシールリングは、リップ部を構成する円環部材に比べて相対的に硬い素材であるので、外力に対する変形に強く、すなわち、外力に対して変形しにくい。このため、フィルタは、その変形しにくい素材であるシールリングの本体にしっかりと固定され、また、柔らかくて相対的に損傷しやすいリップ部を構成する円環部材のみを、そのシールリングの本体に対して交換可能とすることができる。
したがって、フィルタがシールリングから脱落しにくいようにでき、且つ、シール性が損なわれにくいようにできる。また、シールリングを用いたシール部材及び軸受を長寿命化することができる。
【0016】
さらに、リップ部を構成する円環部材と軌道輪に固定されるシールリングとを別体としたことにより、その円環部材のシールリングに対する軸受幅方向の位置を調整可能とすることもできる。このようにすれば、シールリングのリップ締代を容易に調整することができる。これにより、リップ部が摩耗した場合のリップ締代の再調整ができることに加え、幅寸法が異なる別の型番の軸受にも、シールリングや円環部材を兼用することができる。
【0017】
これらの構成において、前記シールリングと前記円環部材の素材は、前記円環部材が前記シールリングよりも柔らかい素材である限りにおいて自由であるが、例えば、前記シールリングは樹脂又は金属製であり、前記円環部材は、シールリングを構成する樹脂や金属よりも柔らかい素材であるエラストマー材からなる構成、すなわち、ゴム製である構成を採用することができる。
また、このシールリングの素材としては、例えば、ガラス繊維強化樹脂を採用することができる。ガラス繊維強化樹脂は、エラストマー単体に比べて剛性が高く、外力に対して変形しにくい素材である。このため、このような素材を採用すれば、シール性の確保に有効である。
【0018】
これらの各構成において、前記フィルタは、その外縁が枠部材に一体にインサート成型されており、前記枠部材が前記シールリングの通油孔に着脱自在である構成を採用することができる。フィルタが枠部材とともにシールリングに着脱自在であれば、フィルタが目詰まりした場合等において、シールリングからフィルタを取り外して別のフィルタを簡単に装着することができる。このため、フィルタ及び枠部材のみの交換によって、シールリングは継続して利用できる。
【0019】
なお、この枠部材の素材としては、例えば、樹脂、ゴム等を採用することができる。また、これらの各構成におけるフィルタの素材は自由であるが、そのフィルタの素材に、例えば、樹脂又は金属からなる網目状部材である構成を採用することができる。
【0020】
また、前記円環部材は、シールリングの外径面で案内されている構成を採用することができる。特に、前記シールリングの外径面に締代をもって嵌合されている構成を採用することができる。
【0021】
さらに、前記円環部材は、前記シールリングの内側端面によって、軸受の軸方向への位置決めが成されている構成を採用することができる。
【0022】
この構成において、前記円環部材と前記シールリングの内側端面との間に寸法調整用部材を介在させ、その寸法調整用部材により、前記リップ部と前記他方との間の締代を調整可能とした構成を採用することができる。
すなわち、円環部材のシールリングに対する軸方向への相対位置を調整可能とし、シール部材のリップ締代を容易に調整可能とすることができる。これにより、リップ部が摩耗した場合のリップ締代の再調整ができることに加え、幅寸法が異なる別の型番の軸受にも、シールリングや円環部材を兼用することができる。
【0023】
これらの各構成において、前記円環部材と前記シールリングとの間に、前記円環部材と前記シールリングとの軸方向への抜け止め機能を発揮する抜け止め手段が設けられている構成を採用することができる。
また、これらの各構成において、前記円環部材と前記シールリングとの間に、前記円環部材と前記シールリングとの周方向への回り止め機能を発揮する回り止め手段が設けられている構成を採用することができる。
別体で造られたシールリングと円環部材との間に、抜け止め手段や回り止め手段を備えることで、そのシールリングと円環部材間の相対滑りによる摩耗によって、シール性が低下することを防止することができる。
【0024】
この抜け止め手段や回り止め手段としては、例えば、前記円環部材と前記シールリングとの径方向当接面、又は、軸方向当接面間に形成され、互いに噛み合う凹部と凸部との組合わせとできるほか、その円環部材とシールリングとを連結するピンやボルト等の連結部材であってもよい。あるいは、その抜け止め手段や回り止め手段として、円環部材とシールリングとを接着する接着剤を採用することができる。また、前記円環部材が当接するシールリングの当接面を粗面化することにより、抜け止め手段や回り止め手段とすることができる。粗面化の手法としては、例えば、梨地加工、シボ加工、平目ローレット加工等が挙げられる。
これらの抜け止め手段や回り止め手段を構成する各手法は、それぞれ単独で用いてもよいし、複数の手法を併用してもよい。また、上記のいずれかの手法を備えることによって、その手法が、抜け止め手段と回り止め手段の両方の機能を発揮するようにしてもよい。
【0025】
これらの各構成において、前記シールリングに断面コの字状のリップ取付部を設け、そのリップ取付部に前記円環部材を装入し、前記円環部材の内径面又は外径面、及び、その軸方向一方の側面を前記リップ取付部の内面に直接又は間接に当接させる構成を採用することができる。
シールリングのリップ取付部の断面形状をコの字状にしたので、シールリングに対する外周側からの外力に対して、円環部材の保護効果がある。また、リップ取付部が断面コの字状であるので、円環部材の固定に接着剤や充填材を用いる場合は、その接着剤や充填材の漏洩防止効果も期待できる。
【0026】
なお、シールリングと円環部材の最大外径が、軸受外輪外径よりも小さく設定されている構成とすることが望ましい。外輪を保持するハウジング等に支障しにくい設計とできるからである。
【0027】
これらの各構成において、前記フィルタを構成する網目状部材は、そのメッシュサイズを0.3mm〜0.7mmとすることが望ましい。また、特に、そのメッシュサイズを0.5mmとすることが望ましい。
【0028】
すなわち、シールリングに設けたフィルタのメッシュが大きすぎると、大きな異物が軸受内へ侵入し、軸受の寿命に影響を与える大きな圧痕が、軸受の軌道面や転動面に形成されてしまうことになる。また、逆に、メッシュを小さくしすぎると、異物でメッシュが目詰まりし、潤滑油が軸受に供給されなくなることがある。
そこで、寿命試験を行うことにより、軸受の軌道面や転動面に生じた圧痕の大きさと、その圧痕に伴う軸受の寿命の低下率を調べ、ある大きさ以下の圧痕は、寿命に影響を与えないことを確認した。また、実験により、メッシュサイズと、そのメッシュを通過した異物によって形成される圧痕の大きさの関係を確認した。
【0029】
メッシュサイズ、すなわち、メッシュの大きさとは、メッシュの目開き(オープニング)のことを言う。実験では、軸受の軌道面や転動面に形成される圧痕の大きさが1mmを超えると、軸受の寿命は急激に低下することが確認できた。また、大きさ1mmを超える圧痕を生じさせるような異物の侵入を阻止できるメッシュサイズは、0.5mm以下であることが確認できた。このため、メッシュサイズが0.5mm以下であれば、軸受の寿命は特に良好である。
なお、メッシュサイズを0.7mm以下とすることにより、生じ得る圧痕は1.3mm以下となる。圧痕が1.3mm以下であれば、転がり軸受の寿命の低下をある程度のレベル(圧痕の無いものに対して寿命比0.6)に抑えることが可能である。なお、目詰まり防止のため、メッシュサイズは0.3mm以上とすることが望ましい。
【0030】
これらの各構成において、シールリングの内径面の少なくとも一部と、軸受の内側軌道輪とは、締代をもった嵌合とすることができる。
【0031】
また、転がり軸受内のシールリングの使用環境下において、オイル等の温度上昇とともに、そのシールリングは主に外径側に向かって熱膨張する。そして、使用環境下で想定される最高の温度、すなわち、最大の熱膨張量となった状態のシールリングが、その膨張状態でもなお、内側軌道輪との間に有害な異物が入り込む隙間が生じていないことが求められる。
【0032】
その隙間を生じさせない具体的な構成としては、前記シールリングは、少なくとも前記内側軌道輪に係止される係止部と、その係止部から外径側に向かって立ち上がる壁部とを備え、前記シールリングは、その内径側に設けた係止部が、前記内側軌道輪に設けた凹部に入り込むことによって、その熱膨張の際に、前記内側軌道輪に対して熱膨張時に径方向へ移動可能となるように係止されている構成とすることができる。
【0033】
この構成によれば、シールリングの内径側に設けた係止部が、内側軌道輪の凹部に入り込んで係止されており、その係止部と凹部とが係止されている限度内において、シールリングの熱膨張が生じ得るように設定される。すなわち、シールリングに想定される温度環境下では、常に、係止部が凹部に入り込んだ状態が維持されるので、熱膨張後もなお、内側軌道輪との間に有害な異物が入り込む隙間が生じない。
【0034】
なお、シールリングには、その外径側に固定した円環部材によって、外側軌道輪に当接するか、又は、微小間隙をおいて対向するリップ部が設けられている。
例えば、リップ部が外側軌道輪に微小間隙をおいて対向している場合、その微小間隔を通じたオイルの流通は許容される。シールリングの先端がラビリンスシール部を構成する場合等である。しかし、その間隙は微小であるから、転がり軸受側への有害な異物の侵入は阻止されている。また、シールリングの熱膨張によって、その微小間隙が狭くなったり、あるいは閉じたりすることは差し支えない。
また、例えば、リップ部が外側軌道輪に当接している場合、そのリップ部は、シールリングよりも柔らかい素材であるから、シールリングが熱膨張しても、その素材の弾性によって、リップ部の当接は維持される。
【0035】
これらの各構成において、係止部は、内側軌道輪の凹部に入り込んで係止されることで、そのシールリングと内側軌道輪との間から有害な異物が入り込まないようになっていればよく、その凹部は、例えば、内側軌道輪の端面であっても外径面であってもよい。
【0036】
また、内側軌道輪の凹部を、周方向に沿って形成されたシール溝とした構成を採用することができる。
その構成は、前記係止部は、前記壁部の内径側端部に設けられた突出部を備え、前記凹部は、前記内側軌道輪に形成された周方向のシール溝であり、その突出部が前記シール溝に入り込むことにより、前記シールリングは前記内側軌道輪に対して熱膨張時に径方向へ移動可能に係止されている構成である。
【0037】
なお、互いに係止する係止部と凹部とは、周方向に沿って断続的に配置されていてもよいし、全周に亘って連続的であってもよい。
【0038】
また、これらの各構成において、シールリングを取付ける転がり軸受の種別は自由であり、例えば、転動体として円すいころを用いた円すいころ軸受であってもよいし、その他、転動体としてボールを用いた深溝玉軸受やアンギュラ玉軸受、円筒ころを用いた円筒ころ軸受、あるいは、球面ころを用いた自動調心ころ軸受等であってもよい。
【0039】
転がり軸受が円すいころ軸受である場合には、前記シール溝は、前記内側軌道輪の大つば外径面に開口して形成されている構成とすることができる。また、転がり軸受が深溝玉軸受やアンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、又は、自動調心ころ軸受である場合には、前記シール溝は、その転がり軸受の前記内側軌道輪の端部外径面に開口して形成されている構成とすることができる。
【0040】
また、前記係止部として突出部を備えた構成において、前記突出部は、前記転動体に近い側の内側突出部と遠い側の外側突出部とを備え、前記シール溝は、前記内側突出部が入り込む内側シール溝と、前記外側突出部が入り込む外側シール溝とを備えた構成を採用することができる。
この構成によれば、シールリングの係止部は、軸方向に沿って二つの突出部を備えるので、その軸方向位置の異なる二つの突出部によって、シールリングをより確実に内側軌道輪に係止できる。
【0041】
また、その内側突出部が前記内側シール溝に入り込む深さは、前記外側突出部が前記外側シール溝に入り込む深さよりも浅く設定されている構成を採用することができる。
この構成によれば、シールリングを軸受空間の開口に押し込んで固定する際に、より奥側に位置する内側突出部を弾性変形又は加熱変形させ、容易にシール溝に嵌め込みできる。また、手前側に位置する外側突出部のシール溝に対する入り込み深さは深いので、大きな外径方向への熱膨張に対しても、シールリングと内側軌道輪との係止を維持できる。
【0042】
なお、前記内側突出部と前記外側突出部とは、それぞれ周方向全周に亘って連続的に設けてもよいし、それぞれ、周方向に沿って断続的に設けてもよい。すなわち、前記内側突出部を周方向に沿って断続的に、前記外側突出部を周方向に沿って連続的としてもよい。あるいは、前記内側突出部を周方向に沿って連続的に、前記外側突出部を周方向に沿って断続的としてもよい。また、その両方を連続的又は断続的とすることもできる。
また、前記内側突出部と前記外側突出部とを周方向に沿って交互配置とすることもできる。内側突出部と外側突出部とが周方向に交互配置であれば、シールリングを軸受空間の開口に押し込んで固定する際に、内側突出部が外側突出部の死角に入りにくい。このため、奥側の内側突出部がシール溝に嵌まっていることを目視で確認しやすい。
【0043】
この内側突出部と外側突出部とを備えた構成において、少なくとも前記外側突出部は、前記外側シール溝内において軸方向へ移動可能である構成を採用することができる。外側突出部が外側シール溝内で軸方向へ移動可能であれば、シールリングが熱膨張する際に、外側突出部がそのシール溝内で円滑に径方向へ移動できる。このため、外側突出部がシール溝内で拘束されず、そのシールリングに熱膨張に伴う外径方向への引っ張り力が作用することを防止し、フィルタの損傷を回避し得る。
【0044】
これらの構成において、前記外側シール溝は、前記内側軌道輪の端面に開口して形成されている構成を採用することができる。シール溝への入り込み深さが深い外側突出部は、そのシール溝への嵌め込みが容易でない場合(外側突出部がシール溝内で折れ曲がってしまうような状態)も想定されるが、この構成のように、外側シール溝を内側軌道輪の端面に開口させれば、その嵌め込みは容易である。
【0045】
このとき、前記内側軌道輪の端面に、その内側軌道輪の内径に嵌め合いで固定される軸肩が当接するようにし、前記外側シール溝の前記端面の開口は、前記軸肩によって塞がれる構成を採用することができる。この構成によれば、外側突出部は外側シール溝内に確実に保持されるようになる。すなわち、外側突出部を外側シール溝へ嵌め込んだ後、軸肩で外側シール溝の端面の開口を塞ぐことができる。
【0046】
なお、これらの各構成からなる転がり軸受を機械装置に組込んだ場合、その転がり軸受のフィルタ付きシールリングの取付側が、機械装置の外側になるように配置することが望ましい。
【発明の効果】
【0047】
この発明は、軌道輪に固定されるシールリングが、リップ部を構成する円環部材に比べて相対的に硬い素材であるので、外力に対する変形に強く、すなわち、外力に対して変形しにくい。このため、フィルタは、その変形しにくい素材であるシールリングの本体にしっかりと固定され、また、柔らかくて相対的に損傷しやすいリップ部を構成する円環部材のみを、そのシールリングの本体に対して交換可能とすることができる。
したがって、フィルタがシールリングから脱落しにくいようにでき、且つ、シール性が損なわれにくいようにできる。また、シールリングを用いたシール部材及び軸受を長寿命化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明に係る転がり軸受10の要部拡大断面図を示す。
【0050】
この転がり軸受10は、
図20に示す鉱山用ダンプトラック(建設用機械)1の走行装置4に、動力伝達機構Tとともに組み込まれるものである。鉱山用ダンプトラック1は、荷台と運転台を支えるシャーシ2が、複数の駆動輪(タイヤ)3によって支持されている。走行装置4は、この駆動輪3に動力を伝達する。
【0051】
走行装置4の構成は、
図19に示すように、駆動源である走行モータ5と、この走行モータ5の回転軸に接続されるシャフト6を備える。そのシャフト6の先端部の外側には、動力伝達機構Tとして減速機が配置されている。
また、シャフト6の外側には、固定の車軸を形成するスピンドル7が配置されている。このスピンドル7の外側には、その転がり軸受10を介してホイール9が配置されている。ホイール9の回転は、リム8を介して駆動輪3に伝達される。
【0052】
この走行装置4では、減速機として遊星歯車機構50を採用している。遊星歯車機構50は、第一遊星歯車機構50aと第二遊星歯車機構50bとを備え、この2つの遊星歯車機構50a,50bを介して、シャフト6の回転を減速してホイール9に伝達する。ただし、減速機の構成はこの例に限定されず、他の構成からなる遊星歯車機構を用いた減速機構や、あるいは、遊星歯車機構以外の周知の減速機構を採用することができる。
【0053】
この走行装置4では、スピンドル7とホイール9との間の転がり軸受10として、並列する2つの円すいころ軸受を採用している。この並列する円すいころ軸受を介して駆動輪3を車軸に支持している。この種の建設用機械では、大きなラジアル荷重に耐え得る構造とするため、転がり軸受10として円すいころ軸受が用いられることが多い。
【0054】
転がり軸受10の構成は、
図19に示すように、外側軌道輪11と内側軌道輪12の各軌道面11a,12aの間に、転動体13として円すいころが組み込まれている。転動体13は、保持器14によって周方向に保持されている。
【0055】
並列する転がり軸受10は、円すいころの小径側端面同士が背面合わせになるように配置されている。すなわち、内側軌道輪12の軌道面12aと外側軌道輪11の軌道面11aとは、2列の転がり軸受10,10の軸方向外側から、その2列の転がり軸受10,10間の中央部へ向かう側に向かって互いの距離が狭まるように設けられている。
【0056】
また、その距離が狭まる方向へ向かって外側軌道輪11に対して内側軌道輪12を押圧することにより、各転動体13に予圧が付与されている。この予圧は、
図19に示す軸受押え部品17を、スピンドル7に対してボルト17aで締め付けることにより、両内側軌道輪12,12に対して、対側の軸受押え部品18との間で軸方向に圧縮力を作用させることで付与することができる。
【0057】
この動力伝達機構Tと転がり軸受10とは、共通の潤滑用のオイルで潤滑されるようになっている。すなわち、走行装置4のケーシング内には一定のレベルまでオイルが貯留されているので、動力伝達機構Tや転がり軸受10の少なくとも下部は、そのオイルに浸かった状態である。これにより、動力伝達機構Tや転がり軸受10の構成部品が、潤滑されるようになっている。
【0058】
なお、内側軌道輪12は、非回転軸である車軸(前記スピンドル7)に装着され回転不能である。また、外側軌道輪11は、回転ハウジングHと一体に回転するように装着される。回転ハウジングHは、駆動輪3の前記ホイール9と一体の部材として形成されるか、あるいは、前記ホイール9と一体に回転可能に結合される。
【0059】
また、ケーシング内において、転がり軸受10の動力伝達機構Tに近い側に、その動力伝達機構T側から転がり軸受10側へのオイルの流通路を備える。すなわち、動力伝達機構Tと転がり軸受10とは共通のオイルで潤滑されるから、その動力伝達機構Tと転がり軸受10との間が、相互間のオイルの流通路となっている。
この実施形態では、転がり軸受10は軸方向に並列して2つ設けられているので、オイルの流通路は、動力伝達機構Tに近い側の転がり軸受10の動力伝達機構T側の開口、すなわち、外側軌道輪11と内側軌道輪12との間に形成された軸受空間の動力伝達機構T側の開口である。
図1及び
図2は、この動力伝達機構Tに近い側の転がり軸受10の要部を示し、いずれも、図中左側がその動力伝達機構T側の開口である。
【0060】
この動力伝達機構T側の転がり軸受10に、シール部材Sが取付けられる。シール部材Sは、
図19に示すように、動力伝達機構T側の転がり軸受10の軸受空間における動力伝達機構T側の開口を覆うように取付けられる。
なお、必要であれば、動力伝達機構Tから遠い側の転がり軸受10においても、その動力伝達機構Tの反対側の開口に、同様なシール部材Sを取付けてもよい。
【0061】
シール部材Sの構成は、
図1に示すように、転がり軸受10の内側軌道輪12に係止される係止部21と、その係止部21から外径側に向かって立ち上がる壁部25と、その壁部の外径側端部に設けたリップ取付部27とを一体に有するシールリング20(シールリングの本体)を備える。
【0062】
シールリング20は樹脂で構成され、そのシールリング20の壁部25に形成された通油孔22を覆うように、フィルタ23が固定されている。
【0063】
フィルタ23は、
図1及び
図2に示すように、樹脂製の枠部材42に一体にインサート成型されている。フィルタ23は、その周縁部が、枠部材42の樹脂に埋め込まれて固定されている。
このため、枠部材42が、通油孔22の内面22aに嵌め込まれて固定されることで、フィルタ23はシールリング20に着脱自在である。すなわち、フィルタ23は、この枠部材42を介してシールリング20に固定される。なお、枠部材42はゴム製であってもよい。
【0064】
フィルタ23が、枠部材42とともにシールリング20に着脱自在であれば、フィルタ23に異物が詰まったり、メッシュが壊れた場合等において、シールリング20からフィルタ23及び枠部材42を取り外して、別のフィルタ23及び枠部材42を簡単に装着することができる。すなわち、フィルタ23及び枠部材42のみの交換によって、シールリング20は継続して利用できる。このため、コスト低減、環境負荷低減に寄与し得る。
【0065】
フィルタ23及び枠部材42のシールリング20への着脱は、例えば、
図1及び
図2に示すように、枠部材42の外縁42aを、通油孔22の内面22aに沿ってその通油孔22の周方向に設けた凹部22bに嵌合させ、枠部材42とシールリング20とを隙間無く固定する構成とすることができる。このとき、凹部22bは通油孔22の周方向全周に設けられ、枠部材42の外縁42a全周が、その凹部22bにぴったりと嵌ることが望ましい。この嵌め合いの際、枠部材42やフィルタ23等を弾性変形させてもよい。
【0066】
また、例えば、
図9(a)(b)に示すように、枠部材42の外縁42aに断面円弧状を成すR形状部42bを設け、そのR形状部42bの外側(軸受に対して外側)に、外側に向かって徐々に縮径するテーパ部42cを設けた構成を採用することができる。R形状部42bとテーパ部42cとの組合せにより、通油孔22の内面22aと枠部材42の外縁42aとの間に作用する押圧力は、通油孔22の内面22aとR形状部42bとの接触部に集中する。
このため、枠部材42の外縁42aと通油孔22の内面22aとが適度に変形しやすくなり、その枠部材42をシールリング20に対して弾性的に係合することができる。
【0067】
また、例えば、
図10(a)(b)に示すように、枠部材42の外縁42aに断面円弧状を成す抜け止め凸部42eを設け、その抜け止め凸部42eの内側(軸受に対して内側)に、内側に向かって徐々に縮径するテーパ部42fを設けた構成を採用することができる。抜け止め凸部42eとテーパ部42fとの組合せにより、フィルタ23及び枠部材42のシールリング20への取付けの際には、通油孔22の内面22aに沿って、枠部材42の外縁42aのテーパ部42fが摺動するので、その挿入がスムーズである。また、完全に挿入した後は、通油孔22の内面22aに沿ってその通油孔22の周方向へ伸びるように設けた凹部22bに、抜け止め凸部42eが嵌ることで、抜け止めが成される。
また、この構成では、枠部材42の外縁42aと通油孔22の内面22aとが適度に変形しやすくなり、その枠部材42をシールリング20に対して弾性的に係合することができるようになっている点も同様である。
【0068】
さらに、枠部材42とシールリング20との着脱可能な固定構造として、例えば、
図11(a)(b)に示すように、通油孔22の内面22aの一部に設けた凹部22cと、枠部材42の外面に設けた球状突起部42dとが嵌合することにより、枠部材42をシールリング20に対して弾性的に係合するようにしてもよい。この球状突起部42dと凹部22cとは、互いに球面同士が面接触しており、その面接触により弾性的な係合が可能となっている。
【0069】
なお、その他、枠部材42とシールリング20との着脱可能な固定構造として、枠部材42とシールリング20とをねじ締結する構成も考えられる。
【0070】
また、フィルタ23の素材は自由であるが、そのフィルタ23の素材に、例えば、樹脂又は金属からなる網目状部材である構成を採用することができる。
【0071】
特に、この実施形態では、フィルタ23の網目状部材に加え、枠部材42、及び、シールリング20の素材として、いずれもポリアミド樹脂等を採用している。ただし、これらの素材に他の樹脂を採用してもよい。他の樹脂としては、例えば、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)などがある。また、それらの樹脂を用いたガラス繊維強化樹脂としてもよい。ガラス繊維強化樹脂としては、例えば、PA(ポリアミド)46+GF、あるいは、PA(ポリアミド)66+GFといったものを採用できる。
【0072】
ガラス繊維の配合割合は、樹脂の収縮率と必要強度から最適化され、例えば、15〜35%、より好ましくは25〜30%とすることが望ましい。一般に、ガラス繊維配合割合が多いと、収縮率は小さくなり、成形後の寸法管理が容易になる。逆に、ガラス繊維配合割合が小さいと、樹脂の強度が低下し、変形しやすくなるため、収縮率と強度のバランスが最適な配合割合は25〜30%である。
また、これらのフィルタ23やシールリング20の素材として、ガラス繊維強化樹脂の他、炭素繊維強化樹脂やポリエチレン繊維強化樹脂、又は、アラミド繊維強化樹脂等でも適用できる。
【0073】
なお、フィルタ23、枠部材42とシールリング20とを同一の素材とすることができるが、フィルタ23の素材には、枠部材42やシールリング20の素材とほぼ同じ線膨張係数の素材や、枠部材42やシールリング20の線膨張係数以上の線膨張係数を有する素材としてもよい。
このような構成とすれば、フィルタ23は、枠部材42やシールリング20の熱膨張に追随して同程度膨張するか、あるいは、フィルタ23が、枠部材42やシールリング20の膨張量よりも大きく膨張するので、フィルタ23が過度に引張られることがなく、その損傷を防止できる。
【0074】
また、枠部材42やシールリング20の熱膨張時におけるフィルタ23の損傷を危惧する必要がない場合には、線膨張係数の数値に関係なく、フィルタ23、枠部材42及びシールリング20に任意の素材を採用することができる。
【0075】
シールリング20のリップ取付部27には、
図1に示すように、円環部材40が固定されている。円環部材40はゴム製であり、シールリング20の素材よりも柔らかい素材となっている。円環部材40は、リップ取付部27の外周に嵌め込んで固定され、その弾性によってリップ取付部27に密着している。この円環部材40の素材としては、例えば、合成ゴムでは、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム等を採用することができる。
【0076】
リップ取付部27に固定された円環部材40は、外側軌道輪11に当接するリップ部41を構成する。内側軌道輪12に固定されるシールリング20は、リップ部41を構成する円環部材40に比べて相対的に硬い素材であるので、外力に対する変形に強く、すなわち、外力に対して変形しにくい。このため、フィルタ23及び枠部材42は、その変形しにくい素材であるシールリング20の本体にしっかりと固定される。また、柔らかくて相対的に損傷しやすいリップ部41を構成する円環部材40を、そのシールリング20に対して交換可能とすることができる。したがって、シール部材S及びそのシール部材Sを用いた軸受を長寿命化することができる。
【0077】
また、リップ部41を構成する円環部材40と、内側軌道輪12に固定されるシールリング20とを別体としたことにより、その円環部材40のシールリング20に対する軸受幅方向の位置を調整可能とすることもできる。
この調整は、例えば、
図3に示すように、円環部材40の軸方向外側端面41aとリップ取付部27の内側端面27aとの間に、寸法調整用部材28を挿入することで可能である。この寸法調整用部材28を板状の部材(シム)とすれば、板厚の異なる様々な部材を用意しておくことで、調整寸法の設定が容易である。
【0078】
このように、円環部材40のシールリング20に対する位置を調整可能とすれば、シール部材Sのリップ締代を容易に調整することができる。これにより、リップ部41が摩耗した場合のリップ締代の再調整ができることに加え、幅寸法が異なる別の型番の軸受にも、シールリング20や円環部材40を兼用することができる。
【0079】
さらに、別体に成型されたシールリング20と円環部材40とを、例えば、
図12〜
図15に示す抜け止め手段43や回り止め手段44により、軸方向への抜け止め、あるいは、周方向への回り止めを施すことで、そのシールリング20と円環部材40間の相対滑りによる摩耗によって、シール性が低下することを防止することもできる。
【0080】
この抜け止め手段43や回り止め手段44として、シールリング20と円環部材40とを接着固定構造とする場合は、その接着には、例えば、一般的な接着剤が使用できる他、加硫接着による手法を採用することもできる。接着面は、円環部材40の軸方向外側端面とリップ取付部27の内側端面27aとの間、及び、円環部材40の内周面41bとリップ取付部27の外周面27bとの間とすることが望ましい。
また、円環部材40は、径方向へは接着のみならず締代を持った嵌合いとし、回転方向の滑りをより確実に防止できる構造とすることが望ましい。ただし、接着固定以外の抜け止め手段43、回り止め手段44を採用すれば、円環部材40の交換が容易である。
【0081】
なお、通油孔22は、例えば、
図7及び
図8に示すように、側面視長方形状の長孔を成す構成とできる。この通油孔22が、シールリング20の周方向に沿って間隔をおいて複数設けられている。通油孔22の形状や数、配置間隔は適宜設定することができる。なお、通油孔22の形状は、側面視長方形状の長孔以外の形状であってもよく、例えば、側面視円弧状の長孔等であってもよい。
【0082】
フィルタ23の構成としては、メッシュサイズが0.1〜1mm程度の網目状の樹脂を採用し得る。ここでは、メッシュサイズが0.5mmの網目状の樹脂を採用しているが、フィルタ23のメッシュサイズは、捕捉しようとする異物の径に応じて適宜設定することができる。なお、軸受寿命を長く確保し得る最適なメッシュサイズについては後述する。
【0083】
シールリング20は、その内径側に設けた係止部21が、内側軌道輪12に設けた周方向のシール溝(凹部)30に入り込むことによって、その熱膨張の際に、内側軌道輪12に対して径方向へ移動可能となるように係止されている。
【0084】
係止部21とシール溝30の構成について詳しく説明すると、
図2に示すように、シールリング20の係止部21は、壁部25の内径側端部に設けられた内径側に向く突出部24を備えている。
【0085】
突出部24は、転動体13に近い側の内側突出部24aと遠い側の外側突出部24bとを備える。また、シール溝30は、内側突出部24aが入り込む内側シール溝30aと、外側突出部24bが入り込む外側シール溝30bとを備える。
【0086】
この突出部24がシール溝30に入り込むことにより、シールリング20は、内側軌道輪12に対して熱膨張時に径方向へ移動可能に係止されている。
また、突出部24が、軸方向に沿って二つの突出部24a,24bで構成されているので、その軸方向位置の異なる二つの突出部24a,24bによって、シールリング20をより確実に内側軌道輪12に係止できるようになっている。
【0087】
転がり軸受10の潤滑用のオイルが温度上昇する前の状態(定常状態)において、
図2(a)に示すように、内側突出部24aが内側シール溝30aに入り込む深さh1は、外側突出部24bが外側シール溝30bに入り込む深さh2よりも相対的に浅く設定されている。
このため、シールリング20を軸受空間の開口に押し込んで固定する際に、奥側の内側突出部24aは、その押し込み時の弾性変形又は加熱変形により、容易に内側シール溝30aに嵌め込みできる。
【0088】
また、外側突出部24bの外側シール溝30bに対する入り込み深さh2は相対的に深いので、
図2(b)に示す温度上昇後の状態(膨張状態)のように、シールリング20により大きな外径方向への熱膨張量に対しても、外側突出部24bと外側シール溝30bとは係止を維持できる。すなわち、シールリング20と内側軌道輪12との係止を維持でき、この膨張状態においても、転がり軸受10内に有害な異物が入り込む隙間を生じさせない。
【0089】
このとき、その転がり軸受10において想定される最高の温度、すなわち、最大の熱膨張量となった状態のシールリング20が、その膨張状態でもなお、内側軌道輪12との間に有害な異物が入り込む隙間が生じていないように、外側突出部24bの外側シール溝30bへの入り込み深さh2が設定されている(
図2(b)参照)。
このため、シールリング20に想定される温度環境下では、常に、外側突出部24bが外側シール溝30bに入り込んだ状態が維持され、内側軌道輪12との間に有害な異物が入り込む隙間を生じさせない。
【0090】
また、この実施形態では、
図7及び
図8に示すように、内側突出部24aと外側突出部24bとを周方向に沿って交互配置としている。
このように、内側突出部24aと外側突出部24bとが周方向に交互配置であれば、シールリング20を軸受空間の開口に押し込んで固定する際に、内側突出部24aが外側突出部24bの死角に入りにくい。このため、奥側の内側突出部24aが内側シール溝30aに嵌まっていることを目視で確認しやすい。なお、
図1及び
図2では、
図7(b)に示すシールリング20のII−II断面に対応する断面図を記載し、内側突出部24aと外側突出部24bとの位置関係及び突出高さを比較できるようにしている。
【0091】
また、この実施形態では、内側突出部24aと外側突出部24bとは、周方向に重複部分が生じないような配置となっている。すなわち、各内側突出部24aの周方向両端の位置する軸周り方位が、周方向に隣り合う外側突出部24bの周方向端の位置する軸周り方位に一致している。
ただし、内側突出部24aと外側突出部24bの配置は、この実施形態には限定されず、内側突出部24aと外側突出部24bとを、互いに周方向に重複部分が生じるように配置してもよい。
【0092】
また、この実施形態では、
図2(a)に示すように、外側突出部24bは、外側シール溝30b内においてその端壁との間に軸方向隙間w1を有している。すなわち、外側シール溝30bの軸方向幅は、外側突出部24bの幅よりも前記軸方向隙間w1だけ広くなっている。このため、この軸方向隙間w1の範囲内において、外側突出部24bは外側シール溝30b内で軸方向へ移動可能である。
【0093】
このように、外側突出部24bが外側シール溝30b内で軸方向へ移動可能であれば、シールリング20が熱膨張する際に、外側シール溝30b内で外側突出部24bが拘束されることなく、その熱膨張に伴って円滑に径方向へ移動できる。このため、シールリング20に、その熱膨張に伴う外径方向への引っ張り力が作用することを防止し、フィルタ23の損傷を回避し得る。
【0094】
なお、外側シール溝30bは、
図2(a)に示すように、内側軌道輪12の端面に開口して形成されている。また、内側軌道輪12の端面には、その内側軌道輪12の内径に嵌め合いで固定される軸肩(車軸の肩部)Aが当接するようになっている。このため、外側突出部24bを外側シール溝30bへ嵌め込んだ後、軸肩Aで外側シール溝30bの端面の開口を塞ぐことができる。
このように、外側シール溝30bを内側軌道輪12の端面に開口させれば、その嵌め込みは容易である。また、その端面の開口は軸肩Aで塞ぐことができるので、外側シール溝30bからの外側突出部24bの離脱が防止されている。
【0095】
このシールリング20の作用について説明すると、走行装置4の使用中、動力伝達機構Tや転がり軸受10の回転に伴って、オイルの一部は、動力伝達機構T側から転がり軸受10の側面に向けて飛散する。
【0096】
このとき、転がり軸受10の軸受空間における動力伝達機構T側の開口にはシールリング20が装着されているので、そのオイルはシールリング20に向かって飛散する。そして、シールリング20に当たったオイルのうち、その一部は、通油孔22のフィルタ23に衝突する。
【0097】
フィルタ23に衝突したオイルは、そのフィルタ23のメッシュを透過する際、オイルに含まれる異物のうち、フィルタ23のメッシュサイズより大きい異物がそのメッシュで捕捉される。フィルタ23を透過したオイルは、軸受空間内に流入して転がり軸受10を潤滑する。
このため、動力伝達機構Tから排出される有害な異物が、転がり軸受10の内部に侵入することを防止できる。
【0098】
また、フィルタ23が異物によって目詰まりした場合には、そのフィルタ23及び枠部材42を新しいものに交換することで対応することができる。
【0099】
この発明の第二の実施形態を、
図4に示す。この実施形態は、シールリング20の係止部21と内側軌道輪12のシール溝30に、そのシールリング20の径方向への動きを規制する係止手段29を設けた構成である。それ以外の主たる構成は、前述の実施形態と同様であるので、以下、その差異点を中心に説明する。
【0100】
係止手段29は、
図4に示すように、シールリング20の係止部21に設けられる係止凸部29aと、シール溝30内に設けられる係止凹部29bとで構成される。
係止凸部29aは、係止部21を構成する内側突出部24aと外側突出部24bのうち、外側突出部24bの突出方向中ほどに軸方向へ突出して設けられる。また、係止凹部29bは、その係止凸部29aが入り込むことができるように、外側シール溝30bの内面に軸方向へ凹むように設けられる。
【0101】
軸受の半径方向に対する係止凹部29bの長さは、軸受の半径方向に対する係止凸部29aの長さよりも、寸法w2だけ長くなっている。このため、係止凸部29aが係止凹部29bに入り込んだ状態で、その係止凸部29aは、係止凹部29b内を軸受の半径方向に沿って移動可能である。
なお、この実施形態では、軸受の周方向に対する係止凹部29bの長さは、軸受の半径方向に対する係止凸部29aの長さと同一としているが、その周方向への係止凹部29bの長さを係止凸部29aの長さよりもやや長くすることもできる。これにより、係止凸部29aは、係止凹部29b内を軸受の周方向に沿って移動可能となる。
【0102】
シールリング20の係止部21を、内側軌道輪12のシール溝30内に収容した状態で、シールリング20の係止凸部29aが、シール溝30内の係止凹部29bに入り込むことで、シールリング20は、その軸受の半径方向への所定量以上の動きが規制され、また、軸受の周方向への動きが規制される。
このため、シールリング20が熱膨張した際、その熱膨張したシールリング20の径方向への所定量以上の移動(特に、冷間状態から外径方向への膨張による移動)を規制しつつ、同時に、シールリング20が内側軌道輪12に対して周方向に回転することを防止することができる。
【0103】
また、軸受の半径方向に対する係止凹部29bの長さが、軸受の半径方向に対する係止凸部29aの長さよりもやや長くなっているので、シールリング20を軸受に取付ける際に、そのシールリング20が加熱された状態であっても、係止凸部29aを係止凹部29bにスムーズに入り込ませることができる。
【0104】
この発明の第三の実施形態を、
図5に示す。この実施形態は、リップ部41を構成する円環部材40の内径部に、位置決め用の段部41cを設けたものである。この段部41cは、シールリング20のリップ取付部27に設けた端縁又は段部27cに噛み合って、シールリング20に対して円環部材40を軸方向へ位置決めをする。
【0105】
また、この実施形態では、係止部21の内側突出部24aと外側突出部24bの間のシールリング嵌合部31と、内側シール溝30aと外側シール溝30bの間の内側軌道輪嵌合部32とが、締代をもって圧入嵌合されている。これはいずれの実施形態でも同様である。この圧入は、前述のように、樹脂製のシールリング20を加熱して膨張させ、その状態で内側軌道輪12に嵌め込むことで、所定の締代に設定される。締代があることで、シールリング20のシール性が向上する。
【0106】
この発明の第四の実施形態を、
図6に示す。この実施形態は、シールリング20のリップ取付部27の断面形状をコの字状にしたものである。
【0107】
リップ取付部27が断面コの字状であるので、シールリング20に対する外周側からの外力に対して、円環部材40の保護効果がある。また、リップ取付部27が断面コの字状であるので、円環部材40の固定に接着剤や充填材を用いる場合は、その接着剤や充填材の漏洩防止効果も期待できる。
【0108】
なお、円環部材40とシールリング20との軸方向への抜け止め機能を発揮する抜け止め手段43、周方向への回り止め機能を発揮する回り止め手段44としては、種々の構成を採用することができる。
【0109】
その抜け止め手段43や回り止め手段44に関して、
図12(a)に、この発明の第五の実施形態を示す。また、
図12(b)(c)に、その第五の実施形態の変形例をそれぞれ示す。これらの実施形態は、別体に成型されたシールリング20と円環部材40との径方向当接面に、円環部材40とシールリング20との軸方向への抜け止め機能を発揮する抜け止め手段43、周方向への回り止め機能を発揮する回り止め手段44とを設けたものである。
【0110】
図12(a)では、抜け止め手段43又は回り止め手段44が、円環部材40とシールリング20との径方向当接面に形成され、互いに噛み合う凹部aと凸部bとの組合わせとしている。凹部aは、シールリング20のリップ取付部27の外周面27bに設けられ、凸部bは、円環部材40の内周面41bに設けられている。この凹部aと凸部bとは、周方向に沿って全周に亘って連続的に設けられていてもよいし、断続的に何カ所かに設けられていてもよい。
この凹部aと凸部bとの噛み合わせにより、円環部材40とシールリング20との軸方向への抜け止め機能が発揮され(抜け止め手段43)、また、凹部aと凸部bとが周方向断続配置であれば、周方向への回り止め機能も発揮される(回り止め手段44)。
【0111】
また、
図12(b)では、凸部bは、シールリング20のリップ取付部27の外周面27bに設けられ、凹部aは、円環部材40の内周面41bに設けられている。この凹部aと凸部bについても、周方向に沿って全周に亘って連続的に設けられていてもよいし、断続的に何カ所かに設けられていてもよい。
この凹部aと凸部bとの噛み合わせにより、円環部材40とシールリング20との軸方向への抜け止め機能が発揮され(抜け止め手段43)、また、凹部aと凸部bとが周方向断続配置であれば、周方向への回り止め機能が発揮される(回り止め手段44)。
【0112】
なお、この例では、凸部bは、軸受の軸心を通る断面において、軸受の半径方向外側に向かって細くなる形状となっており、その先端は鋭角状に尖った形状となっている。
また、凹部aは、その凸部bがぴったりと嵌る形状である。すなわち、凹部aは、軸受の軸心を通る断面において、軸受の半径方向外側に向かって細くなる形状となっており、その底は鋭角状に尖った形状となっている。このため、円環部材40とシールリング20との噛み合わせの際、両者の密着度合いを高めることができる。
【0113】
なお、凹部aと凸部bとの当接面は、凸部bの内側の面(軸受の内側に向く面)をテーパ面、凸部bの外側の面(軸受の外側に向く面)を軸に直交する面方向を有するものとすることで、円環部材40の軸方向への抜け止め機能が高められている。
【0114】
また、
図12(a)(b)の例では、凹部aと凸部bとが、それぞれ軸方向へ等間隔で複数形成されているため、噛み合わせる凹部aと凸部bとを軸方向へずらすことにより、円環部材40とシールリング20との軸方向相対位置を調整することができる。
このため、シールリップのリップ部41が摩耗した時の締代調整や、あるいは、そのリップ部41を構成する円環部材40を、別型番の軸受やシールリング20に兼用することも容易に可能となる。なお、軸方向へ等間隔で複数形成された凹部aと凸部bとは、少なくとも1組(1箇所)が噛み合っていれば、軸方向への抜け止め機能を発揮できる。
【0115】
また、この抜け止め手段43や回り止め手段44として、
図12(c)に示すように、円環部材40とシールリング20とを連結するピンやボルト等の連結部材cを用いてもよい。この例では、連結部材cとしてボルトを用い、そのボルトを、円環部材40に設けられた孔41gとシールリング20に設けられたネジ孔27dにねじ込んで、円環部材40を固定している。
【0116】
この例において、シールリップのリップ部41が摩耗した時の締代調整や、あるいは、別型番の軸受やシールリング20への兼用を行う場合は、シールリング20のネジ孔27dが開けられていない箇所へ新たにねじ切りをすることで、その締代調整や部品の兼用が可能となる。予めネジ孔27dを、軸方向に沿って複数設けておいてもよい。
【0117】
この発明の第六の実施形態を、
図13に示す。この実施形態は、シールリング20の外周面(リップ取付部27の外周面27b)に、周方向に沿って少なくとも1箇所の凸部bを、円環部材40の内周面41bに、前記凸部bが嵌る凹部aを、周方向に沿って少なくとも1箇所形成したものである。
この凹部aと凸部bとの噛み合わせにより、円環部材40とシールリング20との周方向への回り止め機能が発揮される(回り止め手段44)。
また、凹部aと凸部bとが、互いに当接する円環部材40の内周面とシールリング20の外周面の軸方向全長のうち一部にのみ設けられている構成であれば、この凹部aと凸部bとの噛み合わせにより、軸方向への抜け止め機能も発揮される(抜け止め手段43)。
【0118】
なお、この凹部aと凸部bとは、内外逆に配置してもよい。すなわち、円環部材40の内周面に、周方向に沿って少なくとも1箇所の凸部bを、シールリング20の外周面に、前記凸部bが嵌る凹部aを少なくとも1箇所形成したものである。
【0119】
この発明の第七の実施形態を、
図14(a)(b)に示す。この実施形態は、
図6に示す第四の実施形態と同様、シールリング20のリップ取付部27の断面形状をコの字状にしたものである。
【0120】
図14(a)の例では、リップ部41を構成する円環部材40の外周面41eがテーパ面41fとなっている。すなわち、円環部材40の外周面41eは、外側軌道輪11の端面から遠ざかるにつれて徐々に縮径している。このため、円環部材40を、リップ取付部27内に挿入しやすい。
また、
図14(a)に示す状態において、リップ部41とシールリング20とは、図中の左側寄りの部分で締代を持った接触状態となる。なお、シールリングの外径は、ストレート(円筒面)であってもよい。
【0121】
また、
図14(b)では、円環部材40の軸方向への抜け止め手段43を、その円環部材の外径側に設けたものである。円環部材40の外周面41eには、周方向に伸びる溝状の凹部aが複数条設けられている。この凹部aにより、シールリング20との単位面積当たりの接触面圧を高め、円環部材40とシールリング20との軸方向への抜け止め機能が発揮される(抜け止め手段43)。また、接触面圧が高まることで、この凹部aは、円環部材40とシールリング20との回り止め機能を発揮することもできる(回り止め手段44)。
【0122】
なお、この断面コの字型のリップ取付部27を備えたシールリング20の構成において、
図14に示す構成以外の前述、後述の各実施形態における抜け止め手段43、回り止め手段44を採用してもよい。
【0123】
この発明の第八の実施形態を、
図15に示す。この実施形態は、円環部材40が当接するシールリング20の外周面(リップ取付部27の外周面27b)に、細かな凹凸を形成する、すなわち、粗面化の表面処理を施したものである。この表面処理を施した部分により、円環部材40とシールリング20との摩擦を高め、円環部材40とシールリング20との軸方向への抜け止め機能が発揮される(抜け止め手段43)。また、摩擦が高まることで、この表面処理を施した部分は、円環部材40とシールリング20との回り止め機能を発揮することもできる(回り止め手段44)。なお、この粗面化の表面処理は、円環部材40が当接するシールリング20の軸方向端面(リップ取付部27の内側端面27a)としてもよい。
【0124】
粗面化の手法としては、例えば、梨地加工、シボ加工、平目ローレット加工等が挙げられる。粗面化は、シールリング20を成型する際の金型に、そのような形状を設けておくことで対応可能である。このようにすれば、成型後のシールリング20への加工は不要である。
【0125】
また、抜け止め手段43や回り止め手段44として、円環部材40とシールリング20とを接着固定構造とする構成を採用することができる。このように、シールリング20と円環部材40とを接着固定する場合は、前述の粗面化の表面処理を行っておけば、その接着性が向上する。
【0126】
シールリング20に円環部材40を接着固定する場合は、前述のように、一般的な接着剤が使用できる他、加硫接着による手法を採用することもできる。接着面は、円環部材40の軸方向外側端面とリップ取付部27の内側端面27aとの間、及び、円環部材40の内周面41bとリップ取付部27の外周面27bとの間とすることが望ましい。
また、円環部材40は、径方向へは接着のみならず締代を持った嵌合いとし、回転方向の滑りをより確実に防止できる構造とすることが望ましい。
【0127】
これらの抜け止め手段43や回り止め手段44を構成する各手法、各構成は、それぞれ単独で用いてもよいし、複数の手法を併用してもよい。また、上記のいずれかの手法を備えることによって、その手法が、抜け止め手段43と回り止め手段44の両方の機能を発揮するようにしてもよい。
【0128】
この発明の第九の実施形態を、
図16に示す。この実施形態は、円環部材40の周方向1箇所に接着部41hを設けたものである。すなわち、円環部材40を成型する際、切れ目のない環状に成型してもよいが、これを1本の長尺状の部材として成型して、その長尺状の部材の両端同士を接着し、前記接着部41hとしたものである。この接着により、長尺状の部材は、切れ目のない環状の円環部材40に形成される。
【0129】
特に、径の大きい軸受に使用するシールリング20の場合等、その径が大きいために、円環部材40を環状に一体成型できない場合、あるいは、一体成型とすると金型費用が高価となる場合は、このような手法を採用することが有効である。接着部41hの接着には、接着剤の他、加硫接着等の方法を採用できる。
【0130】
これらの各実施形態において、フィルタ23の素材としては、例えば、前述のように、ポリアミド等の合成樹脂を採用できる他、ステンレス等の金属を採用することもできる。フィルタ23の素材を合成樹脂とした場合、錆防止及び軽量化に対して有効である。また、フィルタ23の素材を金属とした場合、金属等の硬い異物に対する強度、耐久性の向上を図ることができる。
【0131】
また、これらの各実施形態では、フィルタ23と枠部材42とをシールリング20に着脱できるようにしたが、枠部材42を用いることなく、フィルタ23のみをシールリング20の通油孔22に着脱できるようにしてもよい。フィルタ23のみを、通油孔22の内側に嵌め込み固定とする場合は、そのフィルタ23には、比較的剛性の高い素材を採用することが望ましい。
【0132】
また、これらの各実施形態において、フィルタ23を構成する網目状部材は、そのメッシュサイズを0.3mm〜0.7mmとすることが望ましい。また、特に、そのメッシュサイズを0.5mmとすることが望ましい。
ここで、メッシュサイズとは、
図17(a)(b)に寸法w3に示すように、網目構造のメッシュの目開き(オープニング)のことを言う。
【0133】
すなわち、シールリング20に設けたフィルタ23のメッシュが大きすぎると、大きな異物が軸受内へ侵入し、軸受の寿命に影響を与える大きな圧痕が、軸受の軌道面や転動面に形成されてしまうことになる。また、逆に、メッシュを小さくしすぎると、異物でメッシュが目詰まりし、潤滑油が軸受に供給されなくなることがある。
そこで、寿命試験を行うことにより、軸受の軌道面や転動面に生じた圧痕の大きさと、その圧痕に伴う軸受の寿命の低下率を調べ、ある大きさ以下の圧痕は、寿命に影響を与えないことを確認した。また、実験により、メッシュサイズと、そのメッシュを通過した異物によって形成される圧痕の大きさの関係を確認した。
【0134】
図18(a)(b)にその実験結果を示す。
図18(a)は、軸受の軌道面や転動面に生じた圧痕の大きさと、その圧痕に伴う軸受の寿命の低下率との関係を、
図18(b)は、メッシュサイズと、そのメッシュを通過した異物によって形成される圧痕の大きさの関係を示す。
【0135】
試験条件は、転がり軸受として、主要寸法(内径、外径、幅)が、φ30mm×φ62mm×17.25mmの円錐ころ軸受を用い、ラジアル荷重17.65kN、アキシアル荷重1.47kN、軸回転速度2000min
−1としている。
【0136】
実験では、軸受の軌道面や転動面に形成される圧痕の大きさが1mmを超えると、軸受の寿命は急激に低下することが確認できた。また、大きさ1mmを超える圧痕を生じさせるような異物の侵入を阻止できるメッシュサイズは、0.5mm以下であることが確認できた。このため、メッシュサイズが0.5mm以下であれば、軸受の寿命は特に良好である。なお、メッシュサイズを0.7mm以下とすることにより、生じ得る圧痕は1.3mm以下となる。圧痕が1.3mm以下であれば、転がり軸受の寿命の低下をある程度のレベル(圧痕の無いものに対して寿命比0.6)に抑えることが可能である。なお、目詰まり防止のため、メッシュサイズは0.3mm以上とすることが望ましい。
【0137】
これらの実施形態は、大型の建設用機械に用いられる走行装置4内の転がり軸受10であり、外側軌道輪11は回転側、内側軌道輪12は静止側である。また、シールリング20は静止側である内側軌道輪12に係止されている。このため、フィルタ23は軸周り方向へは動かず、そのフィルタ23に捕捉された異物が飛散しにくい構成となっている。
【0138】
このシールリング20を取付ける転がり軸受10の種別は自由であり、例えば、転動体13として円すいころを用いた円すいころ軸受であってもよいし、その他、転動体13としてボールを用いた深溝玉軸受やアンギュラ玉軸受、円筒ころを用いた円筒ころ軸受や、球面ころを用いた自動調心ころ軸受等であってもよい。特に、円すいころ軸受は、外側軌道輪11が容易に分離可能な構造となっているため、円環部材40の交換も容易に可能となる。
【0139】
また、大型の建設用機械の他、各種機械装置において、このフィルタ23を備えたシールリング20(シール部材S)を用いる場合、そのシール部材Sは、機械装置の外側になるように配置することが望ましい。異物侵入は主に機械装置の外側からなので、効率的に異物侵入を防ぐことができる。