特許第6075987号(P6075987)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6075987高性能ドライタイヤのトレッド用ゴム組成物及び高性能ドライタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6075987
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】高性能ドライタイヤのトレッド用ゴム組成物及び高性能ドライタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20170130BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20170130BHJP
   C08K 5/40 20060101ALI20170130BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20170130BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C08K3/04
   C08K5/40
   C08L9/00
   B60C1/00 A
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-164011(P2012-164011)
(22)【出願日】2012年7月24日
(65)【公開番号】特開2014-24891(P2014-24891A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年6月9日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 隆行
【審査官】 今井 督
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−213860(JP,A)
【文献】 特開2010−065163(JP,A)
【文献】 特開2007−161818(JP,A)
【文献】 特開2001−348461(JP,A)
【文献】 特開平09−235416(JP,A)
【文献】 特開平11−021383(JP,A)
【文献】 特開2007−070617(JP,A)
【文献】 特開2007−238933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100質量部に対して、結晶化された結晶化カーボンブラックを1〜25質量部含み、更に、液状ジエン系重合体を含む高性能ドライタイヤのトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
クマロンインデン樹脂を含む請求項1記載の高性能ドライタイヤのトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
チウラム系加硫促進剤を含む請求項1又は2記載の高性能ドライタイヤのトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
結晶化カーボンブラックは、窒素吸着比表面積(NSA)が80〜120m/g、オイル吸収量(OAN)が50〜115cm/100gである請求項1〜3のいずれかに記載の高性能ドライタイヤのトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
結晶化カーボンブラックは、pHが6.0〜12.0である請求項1〜4のいずれかに記載の高性能ドライタイヤのトレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
結晶化カーボンブラック及び非結晶化カーボンブラックの合計含有量がゴム成分100質量部に対して、50〜200質量部である請求項1〜5のいずれかに記載の高性能ドライタイヤのトレッド用ゴム組成物。
【請求項7】
結晶化カーボンブラック及び非結晶化カーボンブラックの合計含有量と、可塑剤成分の含有量が以下の式を満たす請求項1〜6のいずれかに記載の高性能ドライタイヤのトレッド用ゴム組成物。
0.6<結晶化カーボンブラック及び非結晶化カーボンブラックの合計含有量/可塑剤成分の含有量<1.4
【請求項8】
チアゾール系加硫促進剤を含む請求項1〜7のいずれかに記載の高性能ドライタイヤのトレッド用ゴム組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のゴム組成物を用いた高性能ドライタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能ドライタイヤのトレッド用ゴム組成物、及びそれを用いた高性能ドライタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
高性能タイヤ(特に、高性能ドライタイヤ)のトレッド用ゴム組成物には、グリップ性能、耐摩耗性のバランス向上が、強く要求されており、これらの性能を確保するため、従来から様々な工夫がなされている(例えば、特許文献1)。
【0003】
その中でも、フィラーによる性能改善は広く行われており、特に、グリップ性能の向上を目的として、カーボンブラックが好んで使用されている。そして、カーボンブラックの配合により、より良好なグリップ性能を発現させるために、一般的には、微粒子のカーボンブラックが使用されている。しかし、微粒子のカーボンブラックは、高いヒステリシスロスを発生させることができ、良好なグリップ性能が得られるものの、耐摩耗性の低下が生じるというデメリットがあった。
【0004】
そして、このデメリットを補うために、カーボンブラックのストラクチャーを大きくし、高いモジュラスを確保することによる改善が行なわれてきた。すなわち、微粒子かつ高ストラクチャーのカーボンブラックを使用することで、グリップ性能と耐摩耗性のバランスを向上させる取り組みがなされてきた。
【0005】
しかし、微粒子かつ高ストラクチャーのカーボンブラックを配合すると、著しくゴムが硬くなる傾向がある。そのため、微粒子かつ高ストラクチャーのカーボンブラックを使用する際には、走行に最適なゴムの硬さに調整する為に、可塑剤を増量する必要があった。
【0006】
しかし、可塑剤を増量することにより、走行中に、可塑剤のブルーミング量が増えることでタイヤカスがトレッド表面に付着しやすくなり、それによりグリップ性能が低下するという問題や、さらには耐ブローアウト性が低下し、走行中にブローアウトすることで走行が困難になるおそれがあった。
【0007】
このように、グリップ性能と耐摩耗性を両立することができたとしても、走行時のグリップ性能低下問題や、ブローアウト発生問題を解決することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−307103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記課題を解決し、グリップ性能、耐摩耗性、グリップ性能の持続性、耐ブローアウト性をバランスよく改善できる高性能ドライタイヤのトレッド用ゴム組成物、及びこれを用いた高性能ドライタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ゴム成分100質量部に対して、結晶化された結晶化カーボンブラックを1〜25質量部含む高性能ドライタイヤのトレッド用ゴム組成物に関する。
【0011】
上記高性能ドライタイヤのトレッド用ゴム組成物は、液状ジエン系重合体を含むことが好ましい。
【0012】
上記高性能ドライタイヤのトレッド用ゴム組成物は、チウラム系加硫促進剤を含むことが好ましい。
【0013】
上記結晶化カーボンブラックは、窒素吸着比表面積(NSA)が80〜120m/g、オイル吸収量(OAN)が50〜115cm/100gであることが好ましい。
【0014】
上記結晶化カーボンブラックは、pHが6.0〜12.0であることが好ましい。
【0015】
結晶化カーボンブラック及び非結晶化カーボンブラックの合計含有量がゴム成分100質量部に対して、50〜200質量部であることが好ましい。
【0016】
結晶化カーボンブラック及び非結晶化カーボンブラックの合計含有量と、可塑剤成分の含有量が以下の式を満たすことが好ましい。
0.6<結晶化カーボンブラック及び非結晶化カーボンブラックの合計含有量/可塑剤成分の含有量<1.4
【0017】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いた高性能ドライタイヤに関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ゴム成分100質量部に対して、結晶化された結晶化カーボンブラックを1〜25質量部含む高性能ドライタイヤのトレッド用ゴム組成物であるので、該ゴム組成物をトレッドに使用することにより、グリップ性能、耐摩耗性、グリップ性能の持続性、耐ブローアウト性がバランスよく優れた高性能ドライタイヤを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の高性能ドライタイヤのトレッド用ゴム組成物(本発明のゴム組成物ともいう)は、ゴム成分100質量部に対して、結晶化された結晶化カーボンブラックを1〜25質量部含む。
【0020】
本発明のゴム組成物は、結晶化カーボンブラックを特定量含む。結晶化カーボンブラックは、黒鉛化処理により、表面が高度に結晶化(グラファイト化)されており、ストラクチャーが発達している。そのため、特定量の(少量の)結晶化カーボンブラックを配合することにより、ゴム組成物のゴム硬度を著しく高くすることなく、ヒステリシスロスを増大でき、グリップ性能を好適に向上できる。そして、ゴム硬度を著しく高くすることがないため、可塑剤を増量する必要がなく、タイヤカスがトレッド表面に付着する量も増えず、良好なグリップ性能の持続性が得られると共に耐摩耗性、耐ブローアウト性も向上できる。
【0021】
本発明で使用できるゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)等のジエン系ゴムが挙げられる。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、グリップ性能及び耐摩耗性がバランスよく得られるという理由からNR、BR、SBRが好ましく、SBRがより好ましい。
【0022】
SBRとしては、特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)等を使用できる。
【0023】
SBRのスチレン含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上である。20質量%未満であると、充分なグリップ性能が得られない傾向がある。また、上記スチレン含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。60質量%を超えると、耐摩耗性が低下するだけでなく、温度依存性が増大し、温度変化に対する性能変化が大きくなってしまう傾向がある。なお、本発明において、SBRのスチレン含有量は、H−NMR測定により算出される。
【0024】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。10質量%未満であると、充分なグリップ性能、耐ブローアウト性、グリップ性能の持続性が得られない傾向がある。また、SBRの含有量の上限は特に限定されず、100質量%でもよい。
【0025】
本発明のゴム組成物は、結晶化された結晶化カーボンブラック(黒鉛化カーボンブラック)を含む。
【0026】
結晶化カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは80m/g以上、より好ましくは90m/g以上である。80m/g未満では、充分なグリップ性能、耐摩耗性が得られないおそれがある。また、該NSAは、好ましくは120m/g以下、より好ましくは110m/g以下である。120m/gを超えると、ゴムの硬度が上昇し、可塑剤量を増量する必要が生じ、耐ブローアウト性、グリップ性能の持続性、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
なお、本明細書において、カーボンブラック(結晶化カーボンブラック、後述の非結晶化カーボンブラック)のNSAは、ASTM D6556の測定方法によって求められる。
【0027】
結晶化カーボンブラックのオイル吸収量(DBP吸油量(OAN))は、好ましくは50cm/100g以上、より好ましくは60cm/100g以上、更に好ましくは70cm/100g以上である。50cm/100g未満であると、耐摩耗性が低下する傾向がある。該DBP吸油量は、好ましくは115cm/100g以下、より好ましくは110cm/100g以下、更に好ましくは105cm/100g以下である。115cm/100gを超えると、ゴムの硬度が上昇し、可塑剤量を増量する必要が生じ、耐ブローアウト性、グリップ性能の持続性、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
なお、本明細書において、カーボンブラック(結晶化カーボンブラック、後述の非結晶化カーボンブラック)のオイル吸収量(DBP吸油量(OAN))は、ASTM D2414の測定方法によって求められる。
【0028】
結晶化カーボンブラックのpHは、好ましくは6.0以上、より好ましくは7.0以上、更に好ましくは9.0以上である。6.0未満であると、充分なグリップ性能が得られないおそれがある。
結晶化カーボンブラックのpHは、好ましくは12.0以下、より好ましくは11.0以下である。12.0を超えると、ゴムの加硫反応に悪影響を与える可能性がある。
結晶化カーボンブラックのpHは、JIS K6221(1982)に記載の方法で測定される値である。
【0029】
結晶化カーボンブラックの製造方法(カーボンブラックの黒鉛化処理方法)としては特に限定されず、たとえば還元雰囲気下あるいは酸素非存在下において、800〜3000℃条件で0.5〜24時間熱処理することで容易に得ることができる。
【0030】
結晶化カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上、好ましくは3質量部以上である。1質量部未満では、充分なグリップ性能、耐摩耗性、グリップ性能の持続性、耐ブローアウト性が得られない傾向がある。また、結晶化カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、25質量部以下、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。25質量部を超えると、分散が難しくなり、破壊強度が低下するおそれがある。
【0031】
本発明では、結晶化カーボンブラックと共に、結晶化されていない(黒鉛化処理されていない)カーボンブラック(非結晶化カーボンブラック)を配合することが好ましい。結晶化カーボンブラックと共に、非結晶化カーボンブラックを配合することにより、非結晶化カーボンブラックの配合により、ゴム硬度が著しく高くなることを防止でき、グリップ性能、耐摩耗性、グリップ性能の持続性、耐ブローアウト性をバランスよく向上できる。
【0032】
非結晶化カーボンブラックとしては、特に限定されることはなく、例えば広く世間で使用されている、オイルファーネス法により製造されたカーボンブラック(GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなど)を使用できる。なお、非結晶化カーボンブラックは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
非結晶化カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは100m/g以上、より好ましくは105m/g以上、更に好ましくは110m/g以上である。100m/g未満では、充分なグリップ性能、耐摩耗性が得られないおそれがある。また、該NSAは、好ましくは600m/g以下、より好ましくは200m/g以下、更に好ましくは160m/g以下である。600m/gを超えると、耐ブローアウト性、グリップ性能の持続性、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0034】
非結晶化カーボンブラックのオイル吸収量(DBP吸油量(OAN))は、好ましくは50cm/100g以上、より好ましくは60cm/100g以上、更に好ましくは70cm/100g以上である。50cm/100g未満であると、耐摩耗性が低下する傾向がある。該DBP吸油量は、好ましくは160cm/100g以下、より好ましくは140cm/100g以下、更に好ましくは125cm/100g以下である。160cm/100gを超えると、耐ブローアウト性、グリップ性能の持続性、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0035】
非結晶化カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは70質量部以上、更に好ましくは85質量部以上である。50質量部未満では、充分な耐摩耗性、グリップ性能が得られない傾向がある。また、非結晶化カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは120質量部以下である。200質量部を超えると、耐ブローアウト性、グリップ性能の持続性、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0036】
結晶化カーボンブラック及び非結晶化カーボンブラックの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは70質量部以上、更に好ましくは80質量部以上である。50質量部未満では、充分なグリップ性能、耐摩耗性、グリップ性能の持続性、耐ブローアウト性が得られない傾向がある。また、該合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは130質量部以下である。200質量部を超えると、耐ブローアウト性、グリップ性能の持続性、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0037】
本発明のゴム組成物には、適度な量の可塑剤成分を配合することが好ましい。可塑剤成分としては、軟化剤や樹脂が挙げられる。本発明の効果が好適に得られるという理由から、可塑剤成分の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは50〜180質量部、より好ましくは80〜150質量部である。
【0038】
本発明で使用できる軟化剤としては、特に限定するものではないが、例えば、オイルであればアロマチックオイル、プロセスオイル、パラフィンオイル等の鉱物油が挙げられる。また、軟化剤としては、耐ブローアウト性、グリップ性能の持続性、グリップ性能のバランスに優れるという点から、液状ジエン系重合体を軟化剤として使用することがより好ましい。これら軟化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。軟化剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは50〜180質量部、より好ましくは80〜150質量部である。なお、本明細書において、軟化剤の含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0039】
液状ジエン系重合体は、液体状態のジエン系重合体であれば特に限定されず、例えば、液状のスチレンブタジエン共重合体(ゴム)、ブタジエン重合体(ゴム)、イソプレン重合体(ゴム)、アクリロニトリルブタジエン共重合体(ゴム)等が挙げられる。なかでも、耐ブローアウト性、グリップ性能の持続性、グリップ性能がバランスよく得られるという理由から、液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)が好ましい。
【0040】
液状ジエン系重合体の重量平均分子量(Mw)は好ましくは2000以上、より好ましくは3000以上である。Mwが2000未満では、耐摩耗性が低下する傾向がある。また、液状ジエン系重合体のMwは好ましくは50000以下、より好ましくは40000以下、更に好ましくは15000以下である。Mwが50000を超えると、ゴム成分との分子量の差が小さくなり、可塑剤としての効果が発揮されにくい傾向がある。
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めた値である。
【0041】
液状ジエン系重合体の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは40質量部以上である。20質量部未満では、充分なグリップ性能が得られない傾向がある。また、液状ジエン系重合体の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは120質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。120質量部を超えると、耐摩耗性、耐ブローアウト性が悪化するおそれがある。
【0042】
本発明では、本発明の効果が好適に得られるという理由から、オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは90質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下である。同様に、該含有量は、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上である。なお、本明細書において、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0043】
本発明では、上記樹脂として、本発明の効果が好適に得られるという理由から、芳香族系石油樹脂を配合することが好ましい。芳香族系石油樹脂としては、フェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン樹脂、ロジン樹脂、DCPD樹脂などがあげられる。なかでも、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、クマロンインデン樹脂が好ましい。
【0044】
クマロンインデン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成するモノマー成分として、クマロン及びインデンを含む樹脂であり、クマロン、インデン以外に骨格に含まれるモノマー成分としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルインデン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
【0045】
芳香族系石油樹脂の軟化点は、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上である。70℃未満であると、充分な耐摩耗性が得られないおそれがある。また、該軟化点は、好ましくは170℃以下、より好ましくは140℃以下、更に好ましくは110℃以下である。170℃を超えると、グリップ性能が悪化する傾向がある。
なお、芳香族系石油樹脂の軟化点は、JIS K 6220−1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0046】
芳香族系石油樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。2質量部未満では、グリップ性能の改善効果が充分に得られないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは25質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。25質量部を超えると、充分なグリップ性能が得られないおそれがある。また、温度依存性が増大し、温度変化に対する性能変化が大きくなる傾向がある。
【0047】
本発明では、結晶化カーボンブラック及び非結晶化カーボンブラックの合計含有量と、可塑剤成分の含有量(好ましくは軟化剤及び樹脂の合計含有量、より好ましくは液状ジエン系重合体、オイル、及び樹脂の合計含有量)が以下の式を満たすことが好ましい。下限は、0.7が好ましく、0.75がより好ましい。一方、上限は、1.2が好ましく、1.1がより好ましく、1.0が更に好ましい。0.6以下では、充分な耐摩耗性が確保できない可能性があり、1.4以上では、充分なグリップ性能が発揮できない可能性がある。
0.6<結晶化カーボンブラック及び非結晶化カーボンブラックの合計含有量/可塑剤成分の含有量<1.4
【0048】
本発明では、チウラム系加硫促進剤を配合することが好ましい。これにより、本発明の効果(特に、耐熱劣化特性(耐ブローアウト性)の改善効果)がより好適に得られる。
【0049】
チウラム系加硫促進剤としては、特に限定されず、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィドなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィドが好ましい。
【0050】
チウラム系加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは3質量部以上である。0.1質量部未満では、チウラム系加硫促進剤を配合したことにより得られる効果が充分に得られないおそれがある。また、チウラム系加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは8質量部以下である。20質量部を超えると、加硫速度が速くなりすぎるおそれがある。
【0051】
本発明では、チウラム系加硫促進剤と共に他の加硫促進剤を配合してもよい。他の加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系若しくはアルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、又はキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、チアゾール系加硫促進剤が好ましく、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィドがより好ましい。
【0052】
他の加硫促進剤(好ましくはチアゾール系加硫促進剤)の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1〜10質量部が好ましく、2〜6質量部がより好ましい。
【0053】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等の補強用充填剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、粘着付与剤、ワックス、硫黄等の加硫剤などを適宜配合することができる。
【0054】
本発明のゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどで前記各成分を混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。該ゴム組成物は、高性能ドライタイヤのトレッドに使用される。
【0055】
本発明の高性能ドライタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。
すなわち、前記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドなどの各タイヤ部材の形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。
なお、本明細書における高性能ドライタイヤとは、ドライ路面でのグリップ性能に特に優れたタイヤであり、競技車両に使用する競技用タイヤをも含む概念である。
【実施例】
【0056】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0057】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
SBR:日本ゼオン(株)製のNipol9548(E−SBR、スチレン含有量:35質量%、ゴム固形分100質量部に対してオイル分37.5質量部含有)
カーボンブラック1:東海カーボン(株)製のシースト9SAF(非結晶化カーボンブラック、NSA:142m/g、OAN:116cm/100g)
カーボンブラック2:東海カーボン(株)製のシースト6ISAF(非結晶化カーボンブラック、NSA:114m/g、OAN:114cm/100g)
結晶化カーボンブラック:三菱化学(株)製の#4000(NSA:100m/g、OAN:102cm/100g、pH:10.0)
液状SBR:サートマー社製のRICON100(Mw:5000)
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスAH−24
樹脂:日塗化学(株)製のエスクロンG90(クマロンインデン樹脂、軟化点:90℃)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤TOT−N:大内新興化学工業(株)製のノクセラーTOT−N(テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド)
加硫促進剤DM:大内新興化学工業(株)製のノクセラーDM(ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド)
【0058】
実施例及び比較例
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lのバンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外のものを150℃で5分間混練りした。次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄および加硫促進剤を添加して80℃で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を150℃の条件下で30分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、150℃の条件下で30分間プレス加硫し、試験用タイヤ(タイヤサイズ:215/45R17)を得た。
【0059】
得られた加硫ゴム組成物、試験用タイヤを使用して、下記の評価を行った。それぞれの試験結果を表1に示す。なお、表1に示すCB量/可塑剤量は、結晶化カーボンブラック及び非結晶化カーボンブラックの合計含有量(カーボンブラック1、カーボンブラック2、及び結晶化カーボンブラックの合計含有量)/可塑剤成分の含有量(液状SBR、オイル(油展ゴムに含まれるオイルも含む)、及び樹脂の合計含有量)を意味する。
【0060】
(グリップ性能)
上記試験用タイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、ドライアスファルト路面のテストコースにて10周の実車走行を行なった。その際における、操舵時のコントロールの安定性をテストドライバーが評価し、比較例1を100として指数表示をした。数値が大きいほどドライ路面におけるグリップ性能に優れることを示す。
【0061】
(耐摩耗性)
上記試験用タイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、ドライアスファルト路面のテストコースにて実車走行を行なった。その際におけるタイヤトレッドゴムの残溝量を計測し(新品時15mm)、耐摩耗性として評価した。残溝量が多いほど、耐摩耗性に優れる。比較例1の残溝量を100として指数表示した。数値が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
【0062】
(グリップ性能の持続性)
上記試験用タイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、ドライアスファルト路面のテストコースにて10周の実車走行を行なった。その際における、ベストラップと最終ラップの操舵時のコントロールの安定性をテストドライバーが比較評価し、比較例1を100として指数表示をした。数値が大きいほどドライ路面におけるグリップ性能の持続性に優れることを示す。
【0063】
(タイヤゴムカス量)
上記試験用タイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、ドライアスファルト路面のテストコースにて実車走行を行なった。その際におけるタイヤトレッドゴムの表面に付着したゴムをスクレイパーで剥ぎ取り、その重量を測定した。比較例1の付着ゴム量を100として指数表示した。数値が小さいほど、ゴムカス量(トレッド表面に付着したタイヤカス量)が少ないことを示す。
【0064】
(耐ブローアウト性)
得られた加硫ゴム組成物を用いて、フレクソメーター(レオ・ラボ(株)製)にて、繰り返し圧縮変形を与えて、ゴムを自己発熱させることによってブローアウトするまでの時間を測定した。試験条件は以下のとおりである。結果は、比較例1のゴム組成物のブローアウトタイムを100として指数化した。指数が大きいほど、ブローアウト時間が向上されており、耐ブローアウト性に優れることを示す。
試験条件:繰り返し圧縮歪 20% 周波数 10Hz
【0065】
【表1】
【0066】
比較例1〜4の比較により、グリップ性能の向上のために、結晶化カーボンブラックを配合せずに、非結晶化カーボンブラック(カーボンブラック1、2)を増量すると、ゴムの硬度を適度な硬さに保つために可塑剤成分である液状SBRの増量が必要となり、結果として、グリップ性能は向上できるものの、トレッド表面に付着するタイヤカス量が増大し、グリップ性能の持続性が低下し、更に、耐摩耗性、耐ブローアウト性も低下した。
【0067】
一方、特定量の結晶化カーボンブラックを含む実施例では、対応する比較例(実施例1は比較例1に、実施例2、3は比較例5に対応)より、グリップ性能、耐摩耗性、グリップ性能の持続性、耐ブローアウト性をバランスよく向上できた。