特許第6076004号(P6076004)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6076004摩擦攪拌点接合用回転工具及びそれを用いた摩擦攪拌点接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076004
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】摩擦攪拌点接合用回転工具及びそれを用いた摩擦攪拌点接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20170130BHJP
【FI】
   B23K20/12 344
   B23K20/12 360
   B23K20/12 364
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-196479(P2012-196479)
(22)【出願日】2012年9月6日
(65)【公開番号】特開2014-50859(P2014-50859A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】福田 敏彦
【審査官】 青木 正博
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/119343(WO,A1)
【文献】 特開2010−227964(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/023760(WO,A1)
【文献】 特開2008−132505(JP,A)
【文献】 特開2007−054885(JP,A)
【文献】 特開2012−149319(JP,A)
【文献】 特開2011−026657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00−20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのアルミニウム材の重ね合わせ部位に対して、軸心回りに回転せしめられる円柱状の工具本体の先端中心部に同軸的に突出するように設けたプローブを差し込んで、それら2つのアルミニウム材の重ね合わせ物を摩擦攪拌点接合せしめる回転工具にして、
前記プローブを、前記工具本体の先端部から同軸的に突出する、該工具本体よりも外径の小さな円柱状の中間プローブと、該中間プローブから同軸的に更に突出する、該中間プローブよりも外径の小さな円柱状の中心プローブとからなり、且つ該中心プローブの先端面と該中間プローブの先端外周縁とが、前記工具本体から同一の突出高さとされている、段付き構造にて構成すると共に、該工具本体の先端面を、径方向内方に向かって漸次凹陥して、該工具本体の先端外周縁よりも該工具本体内に入り込んだ位置において前記中間プローブの基部に連結する形状の第一のショルダ面として形成し、更に該中間プローブの先端面を、径方向内方に向かって漸次凹陥して、該中間プローブの先端外周縁よりも該中間プローブ内に入り込んだ位置において前記中心プローブの基部に連結する形状の第二のショルダ面として形成したことを特徴とする摩擦攪拌点接合用回転工具。
【請求項2】
前記第一のショルダ面及び/又は前記第二のショルダ面が、外周縁から前記工具本体又は前記中間プローブの軸心に向かって一定角度で傾斜して凹陥形状を与える傾斜面にて構成されている請求項1に記載の摩擦攪拌点接合用回転工具。
【請求項3】
前記中心プローブの外周部を、ネジ部にて構成した請求項1又は請求項2に記載の摩擦攪拌点接合用回転工具。
【請求項4】
前記2つのアルミニウム材のうちの少なくとも一方が、Mgを3質量%以上含有するアルミニウム合金材である請求項1乃至請求項の何れか1項に記載の摩擦攪拌点接合用回転工具。
【請求項5】
2つのアルミニウム材の重ね合わせ部位に対して、回転工具における、軸心回りに回転せしめられる円柱状の工具本体の先端中心部に同軸的に突出するように設けられたプローブを差し込んで、それら2つのアルミニウム材の重ね合わせ物を摩擦攪拌点接合せしめる方法にして、
前記回転工具として、前記プローブが、前記工具本体の先端部から同軸的に突出する、該工具本体よりも外径の小さな円柱状の中間プローブと、該中間プローブから同軸的に更に突出する、該中間プローブよりも外径の小さな円柱状の中心プローブとからなり、且つ該中心プローブの先端面と該中間プローブの先端外周縁とが、前記工具本体から同一の突出高さとされている、段付き構造にて構成されると共に、該工具本体の先端面を、径方向内方に向かって漸次凹陥して、該工具本体の先端外周縁よりも該工具本体内に入り込んだ位置において前記中間プローブの基部に連結する形状の第一のショルダ面として形成し、更に該中間プローブの先端面を、径方向内方に向かって漸次凹陥して、該中間プローブの先端外周縁よりも該中間プローブ内に入り込んだ位置において前記中心プローブの基部に連結する形状の第二のショルダ面として形成したものを用い、かかる回転工具の前記中心プローブの先端が該中心プローブの差し込み方向前方側のアルミニウム材内に差し込まれるようにして、前記摩擦攪拌点接合が行なわれることを特徴とする摩擦攪拌点接合方法。
【請求項6】
前記2つのアルミニウム材のうちの少なくとも一方が、Mgを3質量%以上含有するアルミニウム合金材である請求項に記載の摩擦攪拌点接合方法。
【請求項7】
前記重ね合わされる2つのアルミニウム材のうち、前記回転工具のプローブの差し込まれる側のものが、Mgを3質量%以上含有するアルミニウム合金材である請求項又は請求項に記載の摩擦攪拌点接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌点接合用回転工具及びそれを用いた摩擦攪拌点接合方法に係り、特に、少なくとも一方がMg含有量の高いアルミニウム合金からなる2つのアルミニウム材の重ね合わせ物を、高い接合強度をもって、有利に摩擦攪拌点接合することの出来る回転工具と、それを用いて、そのような2つのアルミニウム材の重ね合わせ物を有利に摩擦攪拌点接合せしめる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、接合時の入熱が少なく、軟化や歪みの程度が少ない接合手法として提案されている、摩擦熱を利用してアルミニウム材の如き金属部材を接合せしめる摩擦攪拌接合法を採用して、複数の金属部材の重ね合わせ部位を点接合せしめる技術が検討され、それによって、従来の抵抗スポット溶接やリベットによる接合よりも継手品質が良く、良好な接合状態が安定して得られることが、明らかにされている。
【0003】
また、そのような摩擦攪拌点接合方法は、基本的には、ロッド形状の工具本体の先端にピン形状の硬質プローブを設けてなる構造のピン型工具(回転工具)を用い、それを高速回転させながら所定の金属部材の重ね合わせ部位に差し込み、そして、かかるピン型工具の工具本体の先端部にて構成されるショルダ部を重ね合わせ部位に押圧することにより、それらショルダ部やプローブと重ね合わせ部位との間に摩擦熱を発生させて材料を塑性流動せしめ、かかるプローブの周りに攪拌領域を形成することにより、そのようなプローブの差し込み部位において金属部材の重ね合わせ部位の点接合が実現されるようにしたものであるが、そのような点接合部位の接合強度(継手強度)を充分に確保するには、その重ね合わせ部位における接合界面の攪拌が充分に行なわれるようにする必要がある。
【0004】
一方、摩擦攪拌接合において回転工具による攪拌力を向上させるために、かかる工具の形状に工夫を加えた提案が、従来から数多くなされてきており、例えば、特開2003−326372号公報等においては、プローブをネジ形状としてなる構造の工具が提案されており、また特開2003−326371号公報には、ショルダ端面やプローブに種々の模様を配してなる構造の工具が提案され、更に特開2004−58084号公報においては、ショルダ端面の全周に亘って、三角形の断面形状を有する溝が形成されてなる構造の工具が、提案されている。そして、特開2002−336977号公報等においては、ショルダ端面をその外周縁よりもプローブ基部側において凹陥させてなる構造の工具が提案され、更にまた特開2004−106037号公報においては、ショルダ端面を円弧状に凹陥させてなる構造の工具が提案されている。
【0005】
ところで、JISA5154、A5056、A5182等といった、Mgを3%(質量基準、以下同じ)以上含むような、高Mg含量のアルミニウム合金材を接合する場合において、その接合操作にて生じた酸化皮膜中には、強固なMg酸化物が高い割合で存在するようになるために、酸化皮膜自体が強固になるのであるが、接合における界面に、そのような酸化皮膜が存在すると、この酸化皮膜が破壊され難いために、摩擦攪拌部位にヒゲ状の未接合部やフック状の未接合部が生じて、健全な接合が行なわれずに、接合強度不足となり易い問題を惹起することとなる。特に、前記した摩擦攪拌点接合を適用した場合にあっては、メタルの攪拌による攪拌力で、かかる強固な酸化皮膜を破壊して、被接合材のメタル同士を直接攪拌することにより、接合強度を確保する必要があるが、上記提案の攪拌力向上対策を講じた回転工具を用いても、少なくとも1つが高Mg含量のアルミニウム合金材である2つのアルミニウム材の重ね合わせ部の接合において、充分な接合強度を得ることは困難なことであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−326372号公報
【特許文献2】特開2003−326371号公報
【特許文献3】特開2004−58084号公報
【特許文献4】特開2002−336977号公報
【特許文献5】特開2004−106037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、2つのアルミニウム材を重ね合わせて摩擦攪拌点接合するに際して、かかるアルミニウム材の一方又は両方がMg含有量が3%以上である、所謂高Mg含有アルミニウム合金材であっても、高い接合強度を実現し得る摩擦攪拌点接合用回転工具と、それを用いて摩擦攪拌点接合を有利に行ない得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明にあっては、上記した課題の解決のために、2つのアルミニウム材の重ね合わせ部位に対して、軸心回りに回転せしめられる円柱状の工具本体の先端中心部に同軸的に突出するように設けたプローブを差し込んで、それら2つのアルミニウム材の重ね合わせ物を摩擦攪拌点接合せしめる回転工具にして、前記プローブを、前記工具本体の先端部から同軸的に突出する、該工具本体よりも外径の小さな円柱状の中間プローブと、該中間プローブから同軸的に更に突出する、該中間プローブよりも外径の小さな円柱状の中心プローブとからなり、且つ該中心プローブの先端面と該中間プローブの先端外周縁とが、前記工具本体から同一の突出高さとされている、段付き構造にて構成すると共に、該工具本体の先端面を、径方向内方に向かって漸次凹陥して、該工具本体の先端外周縁よりも該工具本体内に入り込んだ位置において前記中間プローブの基部に連結する形状の第一のショルダ面として形成し、更に該中間プローブの先端面を、径方向内方に向かって漸次凹陥して、該中間プローブの先端外周縁よりも該中間プローブ内に入り込んだ位置において前記中心プローブの基部に連結する形状の第二のショルダ面として形成したことを特徴とする摩擦攪拌点接合用回転工具を、その要旨とするものである。
【0009】
なお、このような本発明に従う摩擦攪拌点接合用回転工具の望ましい態様の一つによれば、前記第一のショルダ面及び/又は前記第二のショルダ面が、外周縁から前記工具本体又は前記中間プローブの軸心に向かって一定角度で傾斜して凹陥形状を与える傾斜面にて形成されている。
【0010】
また、本発明に従う摩擦攪拌点接合用回転工具の望ましい態様の他の一つによれば、前記中心プローブの外周部は、ネジ部にて構成されている。
【0011】
そして、かくの如き本発明に従う摩擦攪拌点接合用回転工具は、少なくとも一方がMgを3質量%以上含有するアルミニウム合金材である2つのアルミニウム材の重ね合わせ部位の点接合に有利に用いられることとなるのである。
【0012】
また、かくの如き摩擦攪拌点接合用回転工具を用いた本発明に従う摩擦攪拌点接合方法にあっては、2つのアルミニウム材の重ね合わせ部位に対して、回転工具における、軸心回りに回転せしめられる円柱状の工具本体の先端中心部に同軸的に突出するように設けられたプローブを差し込んで、それら2つのアルミニウム材の重ね合わせ物を摩擦攪拌点接合せしめる方法において、前記回転工具として、前記プローブが、前記工具本体の先端部から同軸的に突出する、該工具本体よりも外径の小さな円柱状の中間プローブと、該中間プローブから同軸的に更に突出する、該中間プローブよりも外径の小さな円柱状の中心プローブとからなり、且つ該中心プローブの先端面と該中間プローブの先端外周縁とが、前記工具本体から同一の突出高さとされている、段付き構造にて構成されると共に、該工具本体の先端面を、径方向内方に向かって漸次凹陥して、該工具本体の先端外周縁よりも該工具本体内に入り込んだ位置において前記中間プローブの基部に連結する形状の第一のショルダ面として形成し、更に該中間プローブの先端面を、径方向内方に向かって漸次凹陥して、該中間プローブの先端外周縁よりも該中間プローブ内に入り込んだ位置において前記中心プローブの基部に連結する形状の第二のショルダ面として形成したものを用い、かかる回転工具の前記中心プローブの先端が該中心プローブの差し込み方向前方側のアルミニウム材内に差し込まれるようにして、前記摩擦攪拌点接合が行なわれることを特徴とする摩擦攪拌点接合方法を、その要旨とするものである。
【0013】
なお、かかる本発明に従う摩擦攪拌点接合方法の望ましい態様の一つによれば、前記2つのアルミニウム材のうちの少なくとも一方が、Mgを3質量%以上含有するアルミニウム合金材であり、また、前記重ね合わされる2つのアルミニウム材のうち、前記回転工具の各プローブの差し込まれる側のものが、Mgを3質量%以上含有するアルミニウム合金材とされている。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明に従う摩擦攪拌点接合用回転工具にあっては、軸心回りに回転せしめられる工具本体の先端中心部に同軸的に設けられるプローブを、大径の中間プローブと小径の中心プローブとからなる二段の段付き構造において、構成すると共に、かかる工具本体の先端面にて与えられる第一のショルダ面と、中間プローブの先端面にて与えられる第二のショルダ面とが、それぞれ工具本体側に向かって凹陥した、二段傘形状において形成されているところから、そのような二段構造のプローブが差し込まれて高速回転せしめられると、そのようなプローブの周りに形成される摩擦攪拌領域は、段付き構造のプローブ、特に、傘形状の第二のショルダ面を有する中間プローブの存在によって、格段の攪拌作用を受けることとなり、以てより有効な接合特性を備えた摩擦攪拌接合部が実現され得るのであり、また、そのような効果的な攪拌力によって、高Mg含有アルミニウム合金材の接合に際して形成される強固な酸化皮膜も有利に破壊され得ることとなるのであって、これにより、そのような高Mg含有アルミニウム合金材を少なくとも一方のアルミニウム材とする、2つのアルミニウム材の重ね合わせ物の摩擦攪拌点接合において、摩擦攪拌部位における未接合部の発生を抑制乃至は阻止して、高い接合強度を有する接合物を有利に提供することが出来るのである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1擦攪拌点接合用回転工具の一例を示す半截断面要部説明図である。
図2図1に示される回転工具を用いて摩擦攪拌点接合する形態を示す断面説明図である。
図3】本発明に従う摩擦攪拌点接合用回転工具の一例を示す半截断面要部説明図である。
図4】後述の実験例において用いられる回転工具の各部位の寸法を示す断面説明図であって、(a)は、二段傘形状のものを対象とし、(b)は、一段傘形状のものを対象としている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0017】
先ず、図1には、摩擦攪拌点接合用回転工具の一例に係る要部が、半截断面図の形態において示されている。そこにおいて、回転工具10は、円柱状の工具本体12と、その先端中心部において同軸的に突出するように設けられた中間プローブ14と、更にその中間プローブ14の先端中心部において同軸的に突出するように設けられた中心プローブ16とを、一体的に有している。
【0018】
具体的には、かかる回転工具10の工具本体12は、その軸心回りに高速回転せしめられ得るようになっており、その先端(図において下端)の中心部に、工具本体12の外径よりも小さな外径を有する円柱状の中間プローブ14が、同軸的に所定長さ突出して設けられており、更に、かかる中間プローブ14の先端部に、そのような中間プローブ14の外径よりも小さな外径を有する円柱状の中心プローブ16が、同軸的に所定長さ突出して設けられている。即ち、それら中間プローブ14と中心プローブ16とは、工具本体12の先端中心部に一体に設けられており、二段の段付き構造の外観を呈する形態とされているのである。なお、ここでは、中心プローブ16の外周面に、従来と同様な形態のネジ部18が形成されて、攪拌効果が高められ得るようになっている。
【0019】
しかも、そのような回転工具10において、その工具本体12の先端面(図において下面)にて与えられる第一のショルダ面20は、径方向内方に向かって漸次凹陥して、工具本体12の先端外周縁よりも工具本体内に入り込んだ位置において、中間プローブ14の基部に連結してなる形状において形成されており、また、中間プローブ14の先端面(図において下面)にて与えられる第二のショルダ面22にあっても、第一のショルダ面20と同様に、径方向内方に向かって漸次凹陥して、中間プローブ14の先端外周縁よりも中間プローブ内に入り込んだ位置において、中心プローブ16の基部に連結されてなる形状において形成されているのである。そして、ここでは、それら第一及び第二のショルダ面20、22は、それぞれ、工具本体12の先端外周縁又は中間プローブ14の先端外周縁から、それぞれの軸心に向かって一定角度(θ1 、θ2 )で傾斜して延びて、円錐台状の凹陥形状を与える傾斜面にて構成されており、これによって、工具本体12の先端部位の縦断面において、第一のショルダ面20と中間プローブ14、及び第二のショルダ面22と中心プローブ16によって、それぞれ傘形状が与えられる、二段傘形状を呈するように構成されている。
【0020】
そして、このような構成の回転工具10を用いて摩擦攪拌点接合せしめるに際しては、その工具本体12の先端部に設けた中間プローブ14及び中心プローブ16からなるプローブを、重ね合わされた2つの板状のアルミニウム材24、26の重ね合わせ部位に差し込んで、従来と同様に、高速回転させて、摩擦攪拌せしめることにより、それら2つのアルミニウム材24、26の重ね合わせ物が点接合されるのであるが、本発明にあっては、有利には、そのような2つのアルミニウム材24、26のうちの少なくとも一方が、高Mg含有アルミニウム合金材とされることとなるのである。
【0021】
ここにおいて、それらアルミニウム材24、26のうちの少なくとも一方に用いられる高Mg含有アルミニウム合金材は、質量基準で、Mgを3%以上含むアルミニウム合金からなる材料であって、例えばJISA称呼で、5154合金、5056合金、5182合金、5254合金、5082合金、5083合金、5086合金、5N02合金等からなる材料を対象とすることが出来る。また、このような高Mg含有アルミニウム合金材に組み合わされる他のアルミニウム材としては、公知の各種のアルミニウム材が対象とされ、特定のものに限定されるものではない。勿論、それらアルミニウム材24、26の両方を高Mg含有アルミニウム合金材とすることも可能であることは言うまでもないところであるが、本発明にあっては、プローブ(14、16)の差し込み方向後方側(図において上方側)のアルミニウム材24を、高Mg含有アルミニウム材とすることが望ましい。
【0022】
そして、かかる回転工具10が高速回転せしめられつつ、2つのアルミニウム材24、26の重ね合わせ部位の上側から差し込まれて、その中心プローブ16が下側のアルミニウム材26内に到達するようにして、摩擦攪拌せしめられることによって、図2に示される如く、工具本体12の先端部及び中間プローブ14、中心プローブ16の周りに攪拌領域30が形成されることとなるのであるが、そのような攪拌領域30においては、中間プローブ14の存在と、第二のショルダ面22の凹陥形状、加えて第一のショルダ面20の凹陥形状により、可塑化、流動せしめられる攪拌力が効果的に高められるのである。従って、高Mg含有アルミニウム合金材を接合対象とすることによって、酸化皮膜中に強固な酸化Mgが高い割合で存在して強固となった酸化皮膜が生じても、そのような酸化皮膜自体を有利に破壊し得ることとなり、以て、接合界面のメタルの塑性流動性を格段に向上せしめ得ることとなるのであって、これにより、摩擦攪拌接合部位におけるヒゲ状の未接合部やフック状の未接合部の発生を効果的に抑制乃至は阻止し得て、2つのアルミニウム材24、26の接合強度の向上を有利に図り得ることとなるのである。
【0023】
なお、かくの如き回転工具10における工具本体12、中間プローブ14、中心プローブ16のサイズや、第一及び第二のショルダ面20、22の形成形態等は、摩擦攪拌点接合せしめられる2つのアルミニウム材24、26の重ね合わせ部位の厚さ等によって、適宜に設定されるところであるが、一般に、中間プローブ14の直径(d1 )は、工具本体12の直径(d0 )の40〜80%程度の割合となるように構成され、更に中心プローブ16の直径(d2 )は、中間プローブ14の直径(d1 )の50〜90%程度の割合となるように構成されることが望ましく、また、第一のショルダ面20の軸直角方向の面(工具本体12の先端外周縁の位置する軸直角方向の面)に対する傾斜角(θ1 )や、第二のショルダ面22の軸直角方向の面(中間プローブ14の先端外周縁の位置する軸直角方向の面)に対する傾斜角(θ2 )は、それぞれ、一般に、10〜30°程度の範囲内とされることとなる。
【0024】
より具体的には、例えば、接合されるべき2つのアルミニウム材24、26の重ね合わせ部位におけるそれぞれの厚さが、1〜3mm程度である場合において、前記工具本体12の直径(d0 )は、6〜20mm程度とされ、また中間プローブ14の直径(d1 )及び中心プローブ16の直径(d2 )は、それぞれ、4〜10mm程度及び2〜6mm程度とされるのである。更に、図1に示されるように、工具本体12の軸方向における、工具本体12自身の先端と中間プローブ14の先端との間の距離(h1 )、換言すれば中間プローブ14の突出長さは、1〜2mm程度とされ、また中間プローブ14の先端と中心プローブ16の先端との間の距離(h2 )、換言すれば中心プローブ16の突出長さは、0〜2mm程度とされるのである。
【0025】
また、図3には、本発明に従う摩擦攪拌点接合用回転工具の一例が、図1と同様な形態において示されているが、そこに開示の回転工具10’は、図1に示される回転工具10において、中心プローブ16の突出長さ(h2 )が0である形態のものである。即ち、そこでは、中間プローブ14の第二のショルダ面22によって構成される凹陥部内に、中心プローブ16’が突出形成されており、そしてその先端面が、中間プローブ14の先端外周縁と同位置に位置するように構成されているのである。このような中間プローブ14及び中心プローブ16’からなるプローブ形態において、摩擦攪拌点接合操作を実施しても、攪拌力は効果的に高められ得て、強固な酸化皮膜が存在しても容易に破壊され得ることとなるのであり、以て高い接合強度を実現することが出来るのである。
【0026】
ところで、このような本発明に従う摩擦攪拌点接合用回転工具の優れた特徴は、以下の実験例において、図4(a)及び(b)に示される各部位の寸法を種々変化させてなる各種の回転工具を用いて、それぞれ摩擦攪拌点接合を実施して得られた実験結果からも、容易に理解され得るところである。
【0027】
先ず、実験に際して、図4の(a)及び(b)に示される部位の寸法を下記表1及び表2に示される如くした、各種の回転工具A〜Kを準備した。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
ここで、本実験においては、板厚が2.3mmのアルミニウム板(5182−O材)を上板とし、板厚が2.0mmのアルミニウム板(6016−T4材)を下板として重ね合わせ、その重ね合わせ部位に対して、上方から、上記表1及び表2に示される寸法の回転工具A、B及びHを用いて、それぞれ、摩擦攪拌点接合を実施した。なお、各回転工具の工具本体の軸心回りの回転数を1500rpm又は2000rpmとすると共に、各回転工具のプローブ先端部の下板への挿入深さ(中心プローブの先端面から下板下面までの距離となる下板残厚)を種々異ならしめた形態において、それぞれの摩擦攪拌点接合操作を行なった。そして、その得られた各種の接合板材における上板と下板の接合界面の剪断強度を調べて、その結果を、下記表3に示した。
【0031】
【表3】
【0032】
かかる表3の結果から明らかな如く、二段傘形状の先端部とされた回転工具A及びBを用いることにより、単なる一段傘形状の先端部を有する回転工具Hに比べて、剪断強度が効果的に高められた接合板材を得ることが出来ることが確認された。
【0033】
また、先の表1及び表2に示される寸法の回転工具A〜G及びH〜Kを用いて、厚さが2.3mmのアルミニウム板材(5182−O材)からなる上板と、厚さが1.5mmのアルミニウム板材(6063−T1材)からなる下板との重ね合わせ部位に対して、上方から、摩擦攪拌点接合操作を実施した。そして、それぞれの回転工具を用いて得られた各種の接合板材について、その接合界面における剪断強度を調べ、その結果を、下記表4及び表5に示した。
【0034】
【表4】
【0035】
【表5】
【0036】
かかる表4及び表5の対比から明らかな如く、二段傘形状の先端部を有する回転工具A〜Fを用いて得られた接合板材にあっては、単なる段付き構造のプローブである回転工具Gや、単なる一段傘形状の先端部である回転工具H、I、J、更には、単なるピン突出形態の先端部とされた回転工具Kを用いて得られた接合板材よりも、高い引張強度が得られ、何れも、接合強度において優れていることが確認された。
【0037】
さらに、先の表1及び表2に示される寸法の回転工具C〜F、H及びJを用いて、厚さが1.5mmのアルミニウム板材(6063−T1材)からなる上板と、厚さが2.3mmのアルミニウム板材(5182−O材)からなる下板との重ね合わせ部位に対して、上方から、摩擦攪拌点接合操作を実施した。そして、それぞれの回転工具を用いて得られた各種の接合板材について、その接合界面における剪断強度を調べ、その結果を、下記表6に示した。
【0038】
【表6】
【0039】
かかる表6の結果から明らかな如く、二段傘形状の先端部を有する回転工具C〜Fを用いて得られた接合板材にあっては、単なる一段傘形状の先端部である回転工具H及びJを用いて得られた接合板材よりも、高い引張強度が得られ、何れも、接合強度において優れていることが確認された。
【0040】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも、例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0041】
例えば、本発明に従う回転工具による摩擦攪拌点接合の対象とされて、重ね合わされる被接合部材たる2つのアルミニウム材は、一般に、板材が対象となるものではあるが、それらは全体が平坦な板材である必要はなく、少なくともその重ね合わせ部位が摩擦攪拌点接合可能な範囲において平坦な板状を呈しておれば充分であり、それ故に、それぞれの板材に対してプレス成形等の各種の成形操作が施されて、種々なる形状に成形されてなる成形品を、本発明における被接合部材として用いることも可能であり、更には、重ね合わせ部位以外の部分が板状ではなく、ブロック状、柱状、筒状、箱状等の各種の形状を有する部材を用いることも可能である。加えて、回転工具の差し込み方向前方側に位置するアルミニウム材を、板状ではなく、ブロック状とすることも可能である。
【0042】
また、図1に示される回転工具10においては、中心プローブ16の外周面が、ネジ部18とされて、そのような中心プローブ16の周りのメタルの攪拌を効果的に行ない得るようになっているが、そのようなネジ部18に代えて、公知の各種の溝形状乃至は突起形状の手段を設けることも可能であるが、勿論、そのようなネジ部18を設けない平滑な円柱面として、構成することも可能である。
【0043】
さらに、2つのアルミニウム材24、26の重ね合わせ部位に対して、回転工具10の中心プローブ16の先端が、その差し込み方向前方側(図において下側)のアルミニウム材26内に充分に差し込まれて、図2に示される如く、中間プローブ14の先端外周縁をも、かかるアルミニウム材26内に差し込まれるようにすることによって、より大きな攪拌領域30が形成され、また強固な酸化皮膜も効果的に破壊され得ることとなるところから、より接合強度の高い接合物を得ることが出来る利点を有しているが、また、そのような中間プローブ14の先端外周縁が、中間プローブ14の差し込み方向後方側のアルミニウム材24内に留まるようにして、摩擦攪拌点接合を行なうことも可能である。特に、そのような中心プローブ16のみが差し込み方向前方側のアルミニウム材26内に位置するようにして、摩擦攪拌点接合する場合において、本発明に従う二段傘形態の先端部を有する回転工具の特徴がよりよく発揮され得ることが確認されている。
【0044】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【符号の説明】
【0045】
10 回転工具 12 工具本体
14 中間プローブ 16 中心プローブ
18 ネジ部 20 第一のショルダ面
22 第二のショルダ面 24、26 アルミニウム材
30 攪拌領域
図1
図2
図3
図4