特許第6076005号(P6076005)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076005
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】中性子線遮蔽構造体
(51)【国際特許分類】
   G21F 1/04 20060101AFI20170130BHJP
   G21F 1/10 20060101ALI20170130BHJP
   G21F 3/00 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   G21F1/04
   G21F1/10
   G21F3/00 N
   G21F3/00 S
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-196502(P2012-196502)
(22)【出願日】2012年9月6日
(65)【公開番号】特開2014-52266(P2014-52266A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100080296
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】大平 茂
(72)【発明者】
【氏名】久保 隆司
(72)【発明者】
【氏名】吉松 賢二
(72)【発明者】
【氏名】前川 利雄
(72)【発明者】
【氏名】梅津 朋岳
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−058922(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/072279(WO,A1)
【文献】 特開2009−133639(JP,A)
【文献】 特開2008−232845(JP,A)
【文献】 特表2008−525809(JP,A)
【文献】 特開平02−077697(JP,A)
【文献】 特開昭63−308899(JP,A)
【文献】 特開平04−328497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 1/04
G21F 1/10
G21F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源から放射される荷電粒子を衝突させるターゲットを備えた荷電粒子衝突装置が設置される部屋の前記荷電粒子衝突装置の前記放射線源側とは反対側の壁に設けられた開口部に取付けられる中性子線遮蔽構造体であって、
前記開口部の室内側に取付けられる、低放射化コンクリートより形成されたプレキャストコンクリート板と、このプレキャストコンクリート板の一方の板面に設けられたボロン含有シートとから成る複合プレキャストコンクリート板と、
前記開口部の室外側に取付けられる、複数の板状のコンクリート部材を、室内側から室外側に向かう方向に積層して形成され室外側コンクリート部とを備え、
前記複合プレキャストコンクリート板は、
前記ボロン含有シートが前記開口部の室外側に位置するように前記壁に取り外し可能に固定され、
前記室外側コンクリート部を構成する板状のコンクリート部材は、
幅方向の寸法と高さ方向の寸法とが、ともに、室内側から室外側に行くに従って階段状に増加し、かつ、前記複合プレキャストコンクリート板もしくは隣接する室内側の板状のコンクリート部材に取り外し可能に固定されていることを特徴とする中性子線遮蔽構造体。
【請求項2】
前記板状のコンクリート部材が、幅方向に並べられた複数のプレキャストコンクリート板から成ることを特徴とする請求項1に記載の中性子線遮蔽構造体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビームダンプ装置などの荷電粒子衝突装置が設置される部屋の壁に設けられた開口部に取付けられる中性子線遮蔽構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、陽子や電子などの荷電粒子を加速する加速器を備えた施設においては、不要となった荷電粒子をカーボンなどのターゲット(ダンプターゲット)に衝突させて消滅させるための荷電粒子衝突装置としてのビームダンプ装置が設けられている(例えば、特許文献1参照)。
ビームダンプ装置は、通常、放射線源である加速器が設置される部屋に隣接する部屋か、もしくは、加速器が設置される部屋をコンクリート製の壁により仕切られた部屋に設置される。加速器で加速され不要となった荷電粒子は、粒子導入管によりビームダンプ装置が設置された部屋に導入され、粒子導入管の端部からダンプターゲットに照射される。
加速器とビームダンプ装置とは、コンクリート製の遮蔽壁により囲まれた部屋を構築した後、遮蔽壁に設けられた開口部から室内に搬入され所定の位置に設置される。
なお、加速器と、加速器で加速された荷電粒子を衝突させて中性子線やX線などを発生させる荷電粒子衝突装置(ビーム発生装置)を設置する場合も、同様に、コンクリート製の遮蔽壁により囲まれた部屋を構築した後、遮蔽壁に設けられた開口部から加速器とビーム発生装置とを室内に搬入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−242468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、加速器とビームダンプ装置などの荷電粒子衝突装置の設置後には、開口部にコンクリートを充填して開口部を閉鎖するが、加速器実験の終了後には、前記コンクリートを解体して荷電粒子衝突装置を開口部から搬出する必要がある。
しかしながら、開口部を枠状として枠内にコンクリートを充填して開口部を閉鎖した場合には、解体時に粉塵が出るなどの問題がある。また、荷電粒子衝突装置が設置された部屋は放射線管理区域なので、コンクリートの撤去作業を複数回に分けてそれぞれ短時間で行う必要があることから、解体作業の効率が悪いといった問題点があった。
【0005】
そこで、予め開口部内に収納されるコンクリート製の遮蔽扉を作製し、この遮蔽扉をレールに乗せてジャッキ等で電動開閉させる方法も考えられるが、そのためには、遮蔽扉の収納スペースやレールの敷設箇所を確保する必要があるので、建物の一部を大幅に変更しなければならいといった問題点が生じる。
また、開口部を枠状とした場合には、充填したコンクリートと遮蔽壁との隙間から室外に放射線が漏れ出す虞れがあった。
【0006】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、ビームダンプ装置などの荷電粒子衝突装置が設置される部屋の壁に設けられ開口部に取付けられる、取付けや解体が容易で、放射線の室外への漏れ出しを効果的に低減できる中性子線遮蔽構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、放射線源から放射される荷電粒子を衝突させるターゲットを備えた荷電粒子衝突装置が設置される部屋の前記荷電粒子衝突装置の前記放射線源側とは反対側の壁に設けられた開口部に取付けられる中性子線遮蔽構造体であって、前記開口部の室内側に取付けられる、低放射化コンクリートより形成されたプレキャストコンクリート板と、このプレキャストコンクリート板の一方の板面に設けられたボロン含有シートとから成る複合プレキャストコンクリート板と、前記開口部の室外側に取付けられる、複数の板状のコンクリート部材を、室内側から室外側に向かう方向に積層して形成される室外側コンクリート部とを備え、前記複合プレキャストコンクリート板は、前記ボロン含有シートが前記開口部の室外側に位置するように前記壁に取り外し可能に固定され、前記室外側コンクリート部を構成する板状のコンクリート部材は、幅方向の寸法と高さ方向の寸法とが、ともに、室内側から室外側に行くに従って階段状に増加し、かつ、前記複合プレキャストコンクリート板もしくは隣接する室内側の板状のコンクリート部材に取り外し可能に固定されていることを特徴とする。
荷電粒子衝突装置とは、不要になった荷電粒子をカーボンなどのターゲット(ダンプターゲット)に衝突させて減衰させるビームダンプ装置や、加速器で加速された陽子や電子などをターゲット(ビームターゲット)衝突させて中性子線やX線などを発生させるビーム発生装置などを指す。
このような構成を採ることにより、中性子線遮蔽構造体の取付時には、板状のコンクリート部材を室内側から室外側に順に積層し、解体時には、板状のコンクリート部材を室外側から室内側に順に取外せばよいので、中性子線遮蔽構造体の取付作業と解体作業とを容易に行うことができる。
また、中性子線遮蔽構造体と遮蔽壁との間から室外へ漏れる放射線を効果的に低減することができるとともに、ビームダンプ装置の搬入・搬出を行う開口部のコンクリートが放射化されることを抑制できるので、ビームダンプ装置の搬出に伴う開口部の撤去作業への悪影響を避けることができる。
【0008】
また、前記コンクリート部材を、幅方向に並べられた複数のプレキャストコンクリート板から構成したので、中性子線遮蔽構造体の取付と解体とを更に容易に行うことができる
【0009】
なお、前記発明の概要は、本発明の必要な全ての特徴を列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に係る中性子線遮蔽構造体の構成を示す図である。
図2】中性子線遮蔽構造体が取付けられた加速器室遮蔽壁の概要を示す図である。
図3】中性子線遮蔽構造体のプレキャストコンクリート板を示す図である。
図4】中性子線遮蔽構造体の詳細構成を示す図である。
図5】中性子線遮蔽構造体の取付方法を示す図である。
図6】中性子線遮蔽構造体の解体方法を示す図である。
図7】本発明による中性子線遮蔽構造体の他の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また、実施の形態の中で説明される特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
図1(a)は中性子線遮蔽構造体10の構成を示す平面図で、図1(b)は(a)図のA−A矢視図、(c)図はB−B矢視図である。図2に示すように、中性子線遮蔽構造体10は、加速器の試験を行う試験棟内に設置される加速器装置2と荷電粒子衝突装置としてのビームダンプ装置3とを取り囲むように構築された加速器室遮蔽壁1に設けられた開口部4に取付けられる。
なお、同図の符合5は、加速器装置2とビームダンプ装置3との間に設けられた仕切り壁である。
加速器室遮蔽壁1と仕切り壁5とは、普通コンクリートと図外の鉄筋とによる鉄筋コンクリート構造により形成される。普通コンクリートは、川砂,海砂,山砂,砕石,砕砂などから得られる骨材と、セメントと、水とを混練して形成される。
加速器室遮蔽壁1の厚さは、普通コンクリートの必要遮蔽性能である1.5mよりも厚い1.52mで、仕切り壁5の厚さは約50cmである。
開口部4は、試験棟の外壁7に設けられた出入口8に対向する位置に設けられる。
【0013】
加速器装置2は、荷電粒子を発生させる発生部2aと、荷電粒子を加速する加速器本体2bと、加速された荷電粒子の特性を計測する計測部2cとを備える。
ビームダンプ装置3は、計測部2cから粒子導入管6により誘導された荷電粒子を衝突させて消滅させるダンプターゲット3aと、ダンプターゲット3aを取り囲むように設けられる放射線遮蔽体3bとを備える。放射線遮蔽体3b内には、ダンプターゲット3aを冷却する機構(図示せず)が設けられている。
ビームダンプ装置3は、加速器室遮蔽壁1と仕切り壁5の構築後に、開口部4から加速器室遮蔽壁1と仕切り壁5とに囲まれた室内に搬入される。装置の搬入後には、開口部4に中性子線遮蔽構造体10を取付けて開口部4を閉鎖する。
開口部4は、加速器室遮蔽壁1の延長方向である幅方向の寸法と、上下方向である高さ方向の寸法とが、ともに、室内側から室外側に行くに従って階段状に増加するように形成される。
【0014】
中性子線遮蔽構造体10は、開口部4の室内側に取付けられる室内側コンクリート部11と、開口部4の室外側に取付けられる室外側コンクリート部12と、室内側コンクリート部11と室外側コンクリート部12との間に挟まれるように設けられたボロン含有シート13とを備える。
室内側コンクリート部11は、図3(a)に示すような低放射化コンクリートから成るプレキャストコンクリート板11kを複数枚幅方向に並べて形成され、ダンプターゲット3aに衝突した荷電粒子の消滅に伴って発生する中性子線の速度を減速して中性子線がボロン含有シート13に吸収され易くするための減速層として機能する。本例では、プレキャストコンクリート板11kの厚さ寸法を165mmとした。低放射化コンクリートは、骨材として放射化しにくい高純度の骨材(例えば、Na、Co、Euなどの不純物の少ない石灰石など)を用いて形成されたコンクリートで、中性子線などの放射線によるコンクリートの放射化を抑制できる。
室外側コンクリート部12は、図3(c)に示すような、普通コンクリートから成るプレキャストコンクリート板12kを複数枚幅方向に並べて形成される板状のコンクリート部材121〜128を、室内側から室外側に向かう方向に積層して形成されて、中性子線以外の放射線、例えば、γ線などの遮蔽や、当該中性子線遮蔽構造体10の強度を担う構造部として機能する。本例では、プレキャストコンクリート板12kの厚さ寸法を170mmとし、板状のコンクリート部材を8層としたので、室外側コンクリート部12の厚さとしては1360mmとなる。
本例では、プレキャストコンクリート板11k,12kを、ともに、鉄筋コンクリート構造とした。
【0015】
ボロン含有シート13は、ボロンを含有した合成樹脂で、遮水性、可撓性を有する。ボロン含有シート13は、例えば、メタクリル酸メチル樹脂(MMA樹脂)などの樹脂に炭化ボロン(B4C)粉末を添加することで形成できる。
本例では、プレキャストコンクリート板11kの板面上にそれぞれボロン含有シート13を予め設けるようにしている。具体的には、低放射化コンクリートによりプレキャストコンクリート板11kを製作した後、プレキャストコンクリート板11kの板表面上にボロン含有樹脂を流し込んで硬化させることにより、図3(b)に示すような、板表面にボロン含有シート13が設けられた複合プレキャストコンクリート板14を得る。したがって、複合プレキャストコンクリート板14のボロン含有シート13が設けられた側を室外側とし、複合プレキャストコンクリート板14の室外側に室外側コンクリート部12のプレキャストコンクリート板12kを配置すれば、ボロン含有シート13を、室内側コンクリート部11と室外側コンクリート部12との間に挟まれるように配置することができる。本例では、ボロン含有シート13の厚さ寸法を5mmとした。
【0016】
本例では、幅方向の寸法が600mm、高さ方向の寸法が3000mmの複合プレキャストコンクリート板14を幅方向に6枚積層することで、幅方向の寸法が3600mm、高さ方向の寸法が3000mmの室内側コンクリート部11を形成した。複合プレキャストコンクリート板14は、室内側コンクリート部11の室内側の面が低放射化コンクリートの面で、室外側の面がボロン含有シート13の面になるように、開口部4に取付けられる。
図4に示すように、複合プレキャストコンクリート板14は、加速器室遮蔽壁1の室内側から加速器室遮蔽壁1の開口部4の上側と下側とにボルト21により固定される。
具体的には、加速器室遮蔽壁1の開口部4の上側と下側、及び、複合プレキャストコンクリート板14の上側と下側とにナット22を埋め込んでおき、平板状の取付板23に設けられたボルト孔からボルト21をナット22に螺入することで、複合プレキャストコンクリート板14を加速器室遮蔽壁1に固定する。
【0017】
室外側コンクリート部12の最室内側に位置するコンクリート部材121,122の幅方向の寸法と高さ方向の寸法は、室内側コンクリート部11の幅方向の寸法と高さ方向の寸法と同じである。
最室内側に位置するコンクリート部材121は、複合プレキャストコンクリート板14と同じ幅方向の寸法と高さ方向の寸法のプレキャストコンクリート板12kを幅方向に5枚積層し、更に、幅方向の寸法がプレキャストコンクリート板12kの半分のプレキャストコンクリート板12kを幅方向両端に配置して形成される。また、コンクリート部材121に隣接するコンクリート部材122は、複合プレキャストコンクリート板14と同じ幅方向の寸法と高さ方向の寸法のプレキャストコンクリート板12kを幅方向に6枚積層して形成される。
このように、プレキャストコンクリート板11k,12kの継ぎ目の位置をずらすように、プレキャストコンクリート板11k,12kを配置すれば、中性子線遮蔽構造体10の強度を高めることができる。
複合プレキャストコンクリート板14とコンクリート部材121のプレキャストコンクリート板12kとの接続は、加速器室遮蔽壁1の室外側から行う。具体的には、複合プレキャストコンクリート板14に予めナット22を埋め込んでおくとともに、プレキャストコンクリート板12kにナット22に連通するボルト孔24を設け、室外側からボルト孔24を介してボルト21をナット22に螺入することで、複合プレキャストコンクリート板14にコンクリート部材121のプレキャストコンクリート板12kを固定する。
コンクリート部材121のプレキャストコンクリート板12kとコンクリート部材122のプレキャストコンクリート板12kとの接続も同様である。
【0018】
また、コンクリート部材122の厚さ方向外側に配置されるコンクリート部材123〜125の幅方向の寸法と高さ方向の寸法とは、室内側コンクリート部11及びコンクリート部材121,122の幅方向の寸法と高さ方向の寸法よりも大きく、コンクリート部材125の厚さ方向外側に配置されるコンクリート部材126〜128の幅方向の寸法と高さ方向の寸法とは、コンクリート部材123〜125の幅方向の寸法と高さ方向の寸法よりも大きく形成されている。
なお、コンクリート部材123〜128を構成するプレキャストコンクリート板も、プレキャストコンクリート板12kと同じ幅方向の寸法と高さ方向の寸法を有するプレキャストコンクリート板と、プレキャストコンクリート板12kよりも幅方向の寸法が大きいかもしくは小さなプレキャストコンクリート板を幅方向に積層して形成すれば、厚さ方向に隣接するプレキャストコンクリート板の継ぎ目の位置をずらして配置できる。
【0019】
隣接するコンクリート部材12n(n=2〜7)のプレキャストコンクリート板12kとコンクリート部材12(n+1)のプレキャストコンクリート板12kの接続は、前述した複合プレキャストコンクリート板14とコンクリート部材121のプレキャストコンクリート板12kとの接続と同様である。
最室外のコンクリート部材128のプレキャストコンクリート板12kは、図4に示す
ように、加速器室遮蔽壁1の室外側から加速器室遮蔽壁1の開口部4の上側と床面9とにボルト21により固定される。
具体的には、加速器室遮蔽壁1の開口部4の上側と床面と、及び、プレキャストコンクリート板12kの上側と床面9とにナット22を埋め込んでおき、平板状の取付板25と断面がL字状の取付板26とにそれぞれ設けられたボルト孔24からボルト21をナット22に螺入することで、コンクリート部材128のプレキャストコンクリート板12kを加速器室遮蔽壁1と床面9とに固定する。
【0020】
このように、室内側コンクリート部11とコンクリート部材121,122の室外側に配置されるコンクリート部材123〜125の幅方向の寸法と高さ方向の寸法とを、室内側コンクリート部11とコンクリート部材121,122の幅方向の寸法と高さ方向の寸法よりも大きくし、コンクリート部材123〜125の室外側に配置されるコンクリート部材126〜128の幅方向の寸法と高さ方向の寸法とをコンクリート部材123〜125の幅方向の寸法と高さ方向の寸法よりも大きくすれば、室内側から室外側に行くに従って階段状に増加した中性子線遮蔽構造体10を得ることができる。
【0021】
次に、本発明の中性子線遮蔽構造体10の取付方法と撤去方法について説明する。
まず、図5(a)に示すように、小型クレーン31にて、図外の資材置き場に積み上げられた複合プレキャストコンクリート板14を建て込み位置に平置きする。
次に、図5(b)に示すように、複合プレキャストコンクリート板14の室外側の端部(以下、頭部という)に固定したワイヤー32を加速器室遮蔽壁1の開口部4の上方奥側の壁に取付けたアイボルト33のリングを通して室外側に引き出し、このワイヤー32の引出端をチルホール等の小型ウインチ34に接続するとともに、作業員Mが小型ウインチ34にてワイヤー32を巻上げることで、複合プレキャストコンクリート板14の頭部を人力により起こす。このとき、予め加速器室遮蔽壁1の開口部4の室外側上部に設置したホイストクレーン35により、複合プレキャストコンクリート板14の室外側の端部側に取付けたワイヤー36を同時に引き上げれば、複合プレキャストコンクリート板14を容易に起こすことができる。
【0022】
次に、図5(c)に示すように、ワイヤー32,36とアイボルト33とを取外し、起こした複合プレキャストコンクリート板14を、室内側から、加速器室遮蔽壁1の開口部4に固定する。同様の方法で、残り5枚の複合プレキャストコンクリート板14を順次加速器室遮蔽壁1の開口部4に固定して、室内側コンクリート部11を形成する。
室外側コンクリート部12のコンクリート部材121〜128のプレキャストコンクリート板12kの取付けは、固定側が複合プレキャストコンクリート板14もしくは先に取り付けたプレキャストコンクリート板12kとなるだけで、複合プレキャストコンクリート板14と同様の方法で、加速器室遮蔽壁1の開口部4に固定することができる。
なお、最室外のコンクリート部材128のプレキャストコンクリート板12kは、複合プレキャストコンクリート板14と同様の方法で起こされた後、前述したように、加速器室遮蔽壁1の室外側から加速器室遮蔽壁1の開口部4の上側と床面とに固定される。
なお、各層毎に三方の隙間に伸縮目地として鉛フィーラープレートを挿入し、更に、最室外のコンクリート部材128のプレキャストコンクリート板12kと加速器室遮蔽壁1及び床面との間、及び、プレキャストコンクリート板12kの継ぎ目をシールすれば、遮水性や気密性を向上させることができる。
【0023】
撤去作業は取付け手順と逆の手順で行う。
まず、プレキャストコンクリート板12kを加速器室遮蔽壁1と床面とに固定しているボルト外した後、図6(a)に示すように、最室外のコンクリート部材128のプレキャストコンクリート板12kの上端側と下端側とにワイヤー37,38の一端側をそれぞれ取り付けるとともに、ワイヤー37,38の他端側をホイストクレーン35と小型クレーン31とに取付ける。
そして、図6(b)に示すように、プレキャストコンクリート板12kの下端側を小型クレーン31にて吊り上げながら室外側にずらしてプレキャストコンクリート板12kの向きを横向きにする。
次に、図6(c)に示すように、ホイストクレーン35及び小型クレーン31を用いてプレキャストコンクリート板12kを床に降ろしてから、ワイヤー37,38を取外す。そして、小型クレーン31にてプレキャストコンクリート板12kを試験棟の外部へ搬出する。
同様の方法で、コンクリート部材128の残りプレキャストコンクリート板12k、コンクリート部材121〜127のプレキャストコンクリート板12k、及び、複合プレキャストコンクリート板14を撤去すれば、コンクリートを破砕することなく、中性子線遮蔽構造体10を撤去することができる。
【0024】
なお、前記実施の形態では、中性子線遮蔽構造体10の幅方向の寸法と高さ方向の寸法とを3段階としたが、これに限るものではなく、開口部4の長さ(室内側から室外側までの距離)により適宜決定すればよい。
また、複合プレキャストコンクリート板14及びプレキャストコンクリート板12kの幅方向の枚数も、開口部4の長さにより適宜決定される。
また、前記実施の形態では、室内側コンクリート部11を1層とし室外側コンクリート部12を8層としたが、室内側コンクリート部11及び室外側コンクリート部12の層数も開口部4の長さにより適宜決定すればよい。
なお、ボロン含有シート13の厚さについては、低放射化コンクリートから成る室内側コンクリート部11の厚さ及びビームダンプ装置3の発生する中性子線の予想量などにより設定することが好ましい。
【0025】
また、前記実施の形態では、室内側コンクリート部11を複数のプレキャストコンクリート板14で構成するとともに、室外側コンクリート部12のコンクリート部材121〜128を、複数のプレキャストコンクリート板12kで構成したが、図7に示すように、室内側コンクリート部11及びコンクリート部材121〜128を一枚のコンクリート板で構成してもよい。
この場合には、プレキャストコンクリート板11k,12kを積層する作業がなくなるので作業工程自体は少なくなるが、本実施の形態のように、重量及び体積が小さいプレキャストコンクリート板11k,12kを用いる方が、コンクリート板の取付け及び撤去作業が容易であるので好ましい。
【0026】
また、前記実施の形態では、プレキャストコンクリート板11kの板面上にボロン含有シート13を予め設けた複合プレキャストコンクリート板14を用いたが、ボロン含有シート13を別途形成してプレキャストコンクリート板11kの板表面上に接着することで、複合プレキャストコンクリート板14を形成してもよい。
また、取付現場にて、プレキャストコンクリート板11kの板面上にボロン含有シート13を貼付けることも可能だが、本例のように、予め複合プレキャストコンクリート板14を製作する方が作業効率の点で有利である。
【0027】
また、前記実施の形態では、荷電粒子衝突装置として、計測部2cから誘導された不要になった荷電粒子を衝突させて消滅させるダンプターゲット3aを備えたビームダンプ装置3について説明したが、本発明の中性子線遮蔽構造体を、加速器本体2bで加速された陽子や電子などを衝突させて中性子線やX線などを発生させるビームターゲットを備えたビーム発生装置が設置される部屋の壁に設けられた開口部に取付けても、同様の効果を得ることができる。
【0028】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、加速器室遮蔽壁の開口部に取付けられる、取付けや解体が容易で、放射線の室外への漏れ出しを効果的に低減できる中性子線遮蔽構造体を得ることができるので、ビームダンプ装置の搬入・搬出作業を安全にかつ迅速に行うことができる。
【符号の説明】
【0030】
1 加速器室遮蔽壁、2 加速器装置、2a 発生部、2b 加速器本体、
2c 計測部、3 ビームダンプ装置、3a ダンプターゲット、3b 冷却部、
4 開口部、5 仕切り壁、6 粒子導入管、7 外壁、8 出入口、9 床面、
10 中性子線遮蔽構造体、11 室内側コンクリート部、
11k、12k プレキャストコンクリート板、12 室外側コンクリート、
121〜128 コンクリート部材、13 ボロン含有シート、
14 複合プレキャストコンクリート板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7