(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の抗菌防臭濾材、抗菌防臭濾材の製造方法、抗菌防臭フィルタについて詳細に説明する。
(抗菌防臭濾材)
図1に、本発明の一実施形態による抗菌防臭濾材1の厚み方向断面を示す。
抗菌防臭濾材1は、濾材2と、図示しない抗菌剤および界面活性剤と、を備える。
【0012】
濾材2は、捕集層3を含む。捕集層3は、エレクトレット処理が施された不織布からなる。
捕集層3に用いられる不織布には、例えば、メルトブロー不織布が用いられる。メルトブロー不織布は、例えば、溶融樹脂組成物を押し出して微細な樹脂流とし、この樹脂流を高速度の加熱気体と接触させて微細な繊維径の不連続ファイバーとし、このファイバーを多孔性支持体上に集積させることで形成される。メルトブロー不織布の目付は、5〜100g/m
2、好ましくは10〜80g/m
2である。ファイバーの径は、0.1〜10μm、好ましくは1〜6μmであり、平均繊維長は、50〜200mm、好ましくは80〜150mmである。
【0013】
メルトブロー不織布の材質には、例えば、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブチレン共重合体、エチレン−オクテン共重合体等のエチレン系共重合体、ポリプロピレンあるいはプロピレン共重合体、ポリブチレン等のポリオレフィン、6−ナイロン、66−ナイロン、6・66共重合ポリアミド、610−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン等のポリアミドあるいは共重合ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、エチレンテレフタレート共重合体、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、脂肪族系ポリカーボネート、ポリウレタンエラストマー、ポリ塩化ビニルあるいは共重合体、全芳香族ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド等から選ばれた少なくとも1種の重合体である。中でも、メルトブロー成形性に優れ、低コストであり、かつ、メルトブロー不織布の製造中にショットと呼ばれる繊維状にならないポリマー玉の混入が生じる可能性が極めて低い理由から、ポリプロピレンが好ましい。
エレクトレット処理は、例えば、後述する抗菌防臭濾材の製造方法で説明するようにして行われる。
【0014】
濾材2は、さらに、捕集層3に積層された補強層5を含む。補強層5は、捕集層3よりも剛性の高い、通気性を有するシートであり、変形しやすく、厚みが薄く、軽いものが好ましく用いられる。補強層5には、紙、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の合成樹脂からなる織布又は不織布、ネット等を用いることができる。不織布には、例えば、スパンボンド不織布を用いることができる。捕集層3の不織布がメルトブロー不織布である場合は、補強層5の不織布はスパンボンド不織布であることが好ましい。スパンボンド不織布は、公知のものを特に制限されることなく用いることができ、例えば、紡糸され、延伸されたフィラメントを、多孔性支持体上にランダムに集積したものが用いられる。このようなスパンボンド不織布は、連続したフィラメントからなり、延伸により分子配向が付与されているため、強度的に優れている点で好ましい。スパンボンド不織布の材質は、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド等が挙げられる。本実施形態では、ポリエステルが用いられる。スパンボンド不織布は、さらに、ニードルパンチング、エアーサクション、ウォータージェット等の手段によって繊維相互の絡み合いが生じているものであってもよい。スパンボンド不織布の目付は、補強性と通気抵抗性の観点から、10〜100g/m
2、好ましくは15〜50g/m
2である。フィラメントの繊度は、1〜3デニールであることが好ましい。
補強層5は、捕集層3の片側又は両側に積層されてよい。捕集層3と補強層5の積層は、例えば、後述する抗菌防臭濾材の製造方法で説明するようにして行われる。
【0015】
抗菌剤および界面活性剤は、濾材2に担持されている。
抗菌剤は、抗菌性を有し、さらに防臭性を有するものが好ましく用いられる。抗菌性および防臭性を有する抗菌剤として、例えば、質量比で、鉄0.0001〜0.02、アルミニウム0.0002〜0.02、チタン0.0000008〜0.000004、およびカリウム0.000002〜0.002を含む金属組成物が挙げられる。
この金属組成物によれば、鉄、チタンなどの遷移元素成分が空気中の水分子に働きかけることで、分解反応の主役を担うヒドロキシルラジカルと過酸化水素が生成し、過酸化水素からも反応過程を経てヒドロキシルラジカルが生成する。また、過酸化水素水からは、ヒドロペルオキシルラジカルを経てスーパーオキシドイオンも生成され、これも分解反応に寄与する。本発明において抗菌性の効果は、これらのラジカルやイオンによる酸化力等が細菌に対して有効であり、黄色ブドウ球菌、肺炎菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、緑膿菌、枯草菌、レジオネラ、大腸菌等の雑菌の増殖を抑制することによって得られる、と考えられる。
さらに、本発明において防臭性の効果は、上記の金属組成物が、人体から発生する皮膚細胞粕(垢)や汗、油などを栄養源にする黄色ブドウ球菌の生育を阻止する静菌作用にも優れているため、黄色ブドウ球菌がヒトの角質老廃物に含まれるロイシンを分解することによる悪臭の発生を防止することによって得られる、と考えられる。
【0016】
抗菌剤は、濾材2に対し0.8×10
−5〜1.6×10
−5g/m
2担持されている。抗菌剤は、十分な抗菌防臭性能が得られる観点から、0.8×10
−5g/m
2以上担持されているのが好ましく、濾材の帯電性能を確保するために界面活性剤の使用量を抑える観点から、1.6×10
−5g/m
2以下担持されているのが好ましい。本実施形態では、例えば、1.28×10
−5g/m
2担持されている。
【0017】
界面活性剤は、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、あるいは、これらの混合物が用いられる。混合物としては、例えば、陽イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤の混合物が挙げられる。混合物に含まれる陽イオン界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等の特殊高分子第4級アンモニウム塩等が挙げられる。混合物に含まれる陰イオン界面活性剤としては、例えば、高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、高級アルコールのアルキルアミンのアルキレンオキサイド付加物、スチレン化フェノールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。この混合物において、陽イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤は、質量比で、4:6〜6:4の割合で含まれることが好ましい。
【0018】
界面活性剤は、濾材2に対し、0.004〜0.16g/m
2担持されている。界面活性剤は、抗菌剤を濾材に付着させるための薬液において抗菌剤を均一に分散させる観点から、0.004g/m
2以上担持されているのが好ましく、濾材の帯電性能の低下を回避するために、0.16g/m
2以下担持されているのが好ましい。本実施形態では、例えば、0.128g/m
2担持される。
【0019】
抗菌剤および界面活性剤は、抗菌剤の溶液への分散性の観点から、後述するTioTio(登録商標)の原液(固形分0.004質量%)と、後述するニッカノンNS−30の原液(固形分40質量%)とを質量比で1:20〜1:1の割合で混合した薬液を濾材2に付着し、乾燥させることで、濾材2に担持されることが好ましい。
抗菌剤および界面活性剤は、濾材2全体に均一に担持されてもよく、一部(例えば、捕集層)にのみ担持されてもよい。
【0020】
濾材2は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに、防カビ剤を担持してもよい。防カビ剤は、ビグアナイド系、アルコール系、フェノール系、アニリド系、ヨウ素系、イミダゾール系、チアゾール系、イソチアゾロン系、トリアジン系、フッ素系、糖質系、トロポロン系、有機金属系、無機系等の化合物を含むものを用いることができる。中でも、食品添加物としても使用が認められていることから、イミダゾール系化合物を含むものが好ましく、その中でも、チアベンダゾールを含むものがより好ましく用いられる。
【0021】
抗菌防臭濾材1は、JIS L1902「繊維製品の抗菌性試験方法」に規定される定量試験において測定される殺菌活性値が0以上であることが望ましく、同じ定量試験において測定される静菌活性値が2.2以上であることが望ましい。静菌活性値が2.2以上であることにより、繊維評価技術協議会が認定するSEKマーク取得の要件を満たすことができる。
抗菌防臭濾材1は、例えば、後述する抗菌防臭濾材の製造方法によって製造することができる。
【0022】
以上の抗菌防臭濾材1は、エレクトレット処理された不織布からなる捕集層3を含むことにより、不織布の繊維自体の捕集性能に加え、帯電性能も有するとともに、抗菌剤を備えることで、抗菌性能と防臭性能も有する(すなわち、抗菌防臭性能を有する)。また、抗菌剤の量が多くなると、これを濾材2に均一に付着させるための界面活性剤の量も多くなって帯電性能が低下することから、この抗菌防臭濾材1では、抗菌剤の量を所定の上限値より少なくすることで、界面活性剤の量も少なくして帯電性能が低下するのを回避している。
【0023】
捕集層は、ポリプロピレン以外の樹脂製の不織布が用いられてもよく、メルトブロー不織布以外の不織布が用いられてもよい。また、捕集層は、合成繊維からなる不織布に代えて、天然繊維、ガラス繊維等の他の材質からなる不織布が用いられてもよい。補強層は、ポリエステル以外の樹脂製の不織布が用いられてもよく、スパンボンド不織布以外の不織布が用いられてもよい。
また、他の実施形態において、濾材は、補強層を備えていなくてもよい。また、捕集層および補強層は、単層又は複層であってよい。
【0024】
(抗菌防臭濾材の製造方法)
次に、抗菌防臭濾材の製造方法について説明する。
図2に、本発明の一実施形態による抗菌防臭濾材の製造方法を説明するフローチャートを示す。この抗菌防臭濾材の製造方法は、エレクトレット処理工程(ステップS10)と、積層工程(ステップS20)と、薬液付着工程(ステップS30)と、乾燥工程(ステップS40)と、を備える。
【0025】
エレクトレット処理工程S10では、不織布にエレクトレット処理を施して捕集層を得る。不織布は、例えば、上述のものが用いられる。
エレクトレット処理は、不織布に対して直流電圧を印加することにより行われる。印加される直流電圧の値は、電極の形状、電極間距離等に応じて、エレクトレット不織布に要求される帯電電荷量、エレクトレット処理の速度等も勘案して、適宜定められる。例えば、電極間距離が8mmである場合、5kV以上の、好ましくは6〜20kVの直流電圧を不織布に印加することにより行われる。また、直流電圧の印加は、いずれの方法によって行われてもよく、特に制限されない。例えば、直流電圧を印加した電極間に不織布を通して行ってもよく、不織布の表面にコロナ放電やパルス状高電圧をかけることによって行なってもよい。また、不織布の表裏両面を他の誘電体で保持し、両面に直流高電圧を加える方法や、不織布に光照射しながら電圧を加える方法等が用いられてもよい。
【0026】
積層工程S20では、エレクトレット処理工程の後、捕集層に補強層が積層される。
捕集層と補強層の積層方法は、特に限定されず、例えば、接着剤を用いて2つの層を貼り合わせる方法や、メルトブロー法以外の製法で製造した不織布シート(補強層)の上にメルトブロー法により捕集層を積層することが挙げられる。また、2種類の不織布を貼り合わせる方法としては、熱可塑性で低融点のホットメルト樹脂粉末を散布する方法や、湿気硬化型ウレタン樹脂をスプレー法で散布する方法や、熱可塑性樹脂、熱融着繊維を散布し熱路を通す方法等が挙げられる。特に、不織布同士の接着面積を減らして通気性を良くする理由で、熱可塑性で低融点のホットメルト樹脂粉末を散布する方法が好ましい。なお、ホットメルト樹脂としては、熱可塑性で低融点のポリエステル系、ポリアミド系、ウレタン系、ポリオレフィン系、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)系のものを使用できる。さらに、メルトブロー不織布とスパンボンド不織布とを貼り合わせる方法として、濾材2の柔軟性が高くなり、機械的強度および耐久性が顕著に向上する理由から、ヒートエンボス加工法が用いられてもよい。これにより、フィルタパックを一方向に長く形成した場合でも、硬質の補強材を用いることなく濾材を軽量化でき、濾材が薄くても、捻れ等に対する引張強度を十分に付与することができ、取り扱い時の破損を防止できる。
【0027】
積層工程は、他の実施形態では、エレクトレット処理工程に先立って行われてもよい。すなわち、補強層が捕集層に積層された後、この積層体に対してエレクトレット処理が施されてもよい。
【0028】
薬液付着工程S30は、抗菌剤と、0.1〜2.0質量%の界面活性剤とを含む薬液を、捕集層を含む濾材に対し、10〜20g/m
2付着させる。
【0029】
抗菌剤は、乾燥工程S40後の濾材において、0.8×10
−5〜1.6×10
−5g/m
2担持されるよう、濾材に付着される。そのために、抗菌剤は、水溶液(薬液)の状態で濾材に付着される。このような薬液は、例えば、抗菌剤を含む水溶液を純水でさらに希釈した抗菌剤希釈液と、界面活性剤を含む水溶液とを混合して、界面活性剤の濃度を調節することにより調製される。薬液には、必要に応じて、浸透剤、増粘剤が含まれる。抗菌剤には、例えば、上述の金属組成物が用いられる。抗菌剤を含む水溶液としては、例えば、鉄16μg/ml、アルミニウム23μg/ml、チタン0.08μg/ml、カリウム0.22g/mlの濃度組成の水溶液が用いられる。ここで、鉄、アルミニウム、チタンの濃度はICP発光分光分析法により求められた値であり、カリウムの濃度は原子吸光法により求められた値である。このような組成の抗菌剤を含む水溶液は、市販のもの、例えば、サンワード商会社製のTioTio(登録商標)を用いることができる。界面活性剤を含む水溶液としては、例えば、上述した陽イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤とを質量比で1:1の割合で混合した混合物を含む水溶液、例えば、日華化学社製のニッカノンNS−30が用いられる。抗菌剤を含む水溶液と、界面活性剤を含む水溶液を混合後、薬液において界面活性剤の濃度が0.1〜2.0質量%となるよう、純水で希釈される。薬液での界面活性剤の濃度は、抗菌剤を濾材に均一に付着させる観点から、0.1質量%以上であるのが好ましく、濾材の帯電性能の低下を抑える観点から、2.0質量%以下であるのが好ましい。この結果、薬液における抗菌剤の濃度は、例えば2.0質量%に調製される。
【0030】
なお、薬液が防カビ剤をさらに含む場合の薬液の調製は、例えば、予め粘度を調整しておいた純水に、抗菌剤、界面活性剤と防カビ剤を添加して十分に撹拌することで行われる。
薬液付着工程で薬液を濾材に付着させる方法は、特に制限されず、スプレー塗布、ロールコートによる転写、含浸等の公知の方法によって行われるが、後の乾燥工程で除去すべき水分の量を抑え、乾燥中の熱によって加熱された水分によって帯電性能が損なわれるのを防止できる点で、スプレー塗布によって行われるのが好ましい。スプレー塗布は、公知の方法によって行うことができる。薬剤の付着は、濾材面積に対する薬液の付着量を制御して行われる。薬液の付着量は、濾材に十分な量の抗菌剤を担持させる観点から、10g/m
2以上、好ましくは13g/m
2以上であり、濾材に付着する界面活性剤の量を最小限に抑える理由から、20g/m
2以下、好ましくは19g/m
2以下である。本実施形態では、例えば、16g/m
2塗布される。
【0031】
濾材が、上述のメルトブロー不織布とスパンボンド不織布の2層濾材である場合は、いずれの側からスプレー塗布を行なってもよいが、薬液を濾材全体により均一に付着させられる観点から、スパンボンド不織布側から噴霧することが好ましい。この場合、薬液は、スパンボンド不織布を通過してメルトブロー不織布に達する。
【0032】
乾燥工程S40は、薬液付着工程S30の後、薬液中の水分を蒸発させる。乾燥は、例えば、130〜180度に加熱したオーブンで5〜15秒間行われる。乾燥工程は、他の実施形態では、加熱乾燥に代えて、自然乾燥によって行われてもよい。
【0033】
乾燥工程の後において、濾材は、抗菌剤を0.8×10
−5〜1.6×10
−5g/m
2担持する。乾燥の後、濾材は、例えば、ロール状に巻き取られる。ロール状に巻き取られた濾材は、プリーツ加工が施され、必要に応じて間隙保持材が形成されあるいは上述のホットメルト樹脂粉末の散布による貼り合わせが施され、フィルタパックが製造される。フィルタパックは、枠体に収納され、後述する抗菌防臭フィルタが完成する。
【0034】
以上の抗菌防臭濾材の製造方法によれば、薬液に含まれる界面活性剤が所定の濃度範囲に抑えられているため、乾燥後に濾材に担持される界面活性剤の量は抑えられている。これにより、濾材の帯電性能の低下が抑えられ、静電気による捕集性能が維持される。また、この製造方法によれば、薬液の濾材への付着量が所定の範囲に抑えられているため、薬液付着工程の後の乾燥工程で、加熱された水分によって濾材の帯電性能に影響を与える程度が最小限に抑えられる。
薬液は、他の実施形態では、水以外の溶媒を含む溶液であってもよい。
【0035】
(抗菌防臭フィルタ)
次に、本発明の抗菌防臭フィルタについて説明する。
図3および
図4に、本発明の一実施形態による抗菌防臭フィルタ10の外観を示す。
図3は、本発明の一実施形態の抗菌防臭フィルタの外観を示す図である。
図4は、本発明の一実施形態の抗菌防臭フィルタが取付枠に取り付けられた取付状態を示す図である。
【0036】
抗菌防臭フィルタ10は、例えば、一般の空調システムに用いられる。
抗菌防臭フィルタ10は、開口部31を有する取付枠30に取り付けられる。取付枠30は、ビル等の建物の中の壁、天井等の複数箇所に埋め込まれている。
抗菌防臭フィルタ10は、中性能フィルタ(主として粒径が5μmより小さい粒子に対して中程度の粒子捕集率をもつエアフィルタで、光散乱光量積算方式(比色法)で50〜95%の捕集効率あるいは計数法(粒径0.3μm)で5〜90%の捕集効率をもつエアフィルタ)あるいはHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタ(定格風量で粒径0.3μmの粒子に対して99.97%以上の捕集効率を有し、かつ初期の圧力損失が245Pa以下であるフィルタ)の性能を有する。
抗菌防臭フィルタ10は、フィルタパック11と、枠体21と、を備えるミニプリーツ型のエアフィルタである。
【0037】
フィルタパック11は、例えば、上述の抗菌防臭濾材1にプリーツ加工を施し、抗菌防臭濾材1に形成された隣接する2つのプリーツの間隙を保持してなる。プリーツ加工は、例えば、ロータリー方式、レシプロ方式等の方法によって行うことができる。プリーツの間隙の保持は、例えば、抗菌防臭濾材1の表面に間隙保持材13を設けることによって行なってもよく、抗菌防臭濾材1に上述のホットメルト樹脂粉末の散布による貼り合わせを行うことによって行われてもよい。間隙保持材13は、隣接する2つのプリーツの頂点の間隔を安定して保つために、抗菌防臭濾材1の表面に形成された、スペーサとなる樹脂製のホットメルトリボンである。ホットメルトリボンは、抗菌防臭濾材1の両表面において、例えば、プリーツの山折りの部分の折り目と直交する方向に延びるよう形成されている。ホットメルトリボンは、プリーツの折り目方向に複数設けられ、互いに平行に延びている。なお、
図3において、ホットメルトリボン13は、プリーツの折り目方向両端部の近傍に形成されたものを除いて、図示を省略している。ホットメルトリボン13は、ポリオレフィン、ホットメルト系のポリアミド樹脂やポリエステル樹脂などをホットメルトアプリケータで塗布することにより設けられる。
【0038】
他の実施形態では、このような間隙保持材13に代えて、上述のヒートエンボス加工によって表面に多数のエンボスが形成された濾材によって、プリーツの間隔が保持されてもよい。また、抗菌防臭フィルタが、ミニプリーツ型ではなく、セパレータ型のエアフィルタである場合は、ジグザグ形状に折り返された濾材の折り返された部分に挿入される波型のセパレータによって、抗菌防臭濾材の折り返された部分同士の間隔が保たれてもよい。
フィルタパック11は、シール性を高めるために、プリーツの折り目方向のフィルタパック11の両端が、ポリウレタン等の樹脂等を用いて枠体21に隙間なく固定されている。また、プリーツの折り目が並ぶ方向のフィルタパック11の両端部は、本実施形態では、フィルタパック11のプリーツ形状によって枠体21に作用する力によってシール性が確保されているが、他の実施形態では、さらにシール性を高めるために、ポリオレフィン等のホットメルト接着剤からなる帯状の接着剤が貼り付けられてもよい。
【0039】
枠体21は、フィルタパック11を収納し、取付枠30の開口部31に配される。枠体21は、金属又はプラスチック製の板材を組み合わせて作られる。金属製の板材としては、防錆性の観点から、好ましくは亜鉛メッキ鋼板、ステンレス等が用いられる。枠体21の外周部には、取付枠30の開口部31に係止可能なフランジ23が形成されている。フランジ23は、枠体21の気流の流入側の端部から外周側に突出してかつ枠体21の外周部の全体にわたって形成され、フランジ23の外周側端部は、開口部31の内周側端部よりも外周側に位置する。また、フランジ23から気流の流出側に延びる本体部24は、開口部31を通過する大きさである。このような構成によって、本体部24を開口部31に通しつつ、フランジ23を開口部31に係止させることによって、抗菌防臭フィルタ10を取付枠30に取り付けることができる。
なお、枠体21の底部には、リークをより確実に抑えるために、ウレタンフォーム製の図示しない床材が配されてもよい。床材は、本体部24の底部を覆うよう平面方向に延在するシート状部材である。この場合、フィルタパック11は、床材の上に裁置される。
【0040】
枠体21は、収納されたフィルタパック11を固定する固定機構25を有している。ここで、
図5〜
図7に基づいて、固定機構25について詳細に説明する。
図5は、
図3に示す抗菌防臭フィルタの固定機構25を分解して示す図である。
図6は、
図5に示す固定機構25を正面から見て示す図である。
図7は、
図3に示す抗菌防臭フィルタの固定機構25の係止状態を示す図である。
固定機構25は、本実施形態では、8本の係止突起41と、4つの係止部材51と、を含む。
【0041】
係止突起41は、枠体21の内周壁面21aから突出して延びる棒状部分である。内周壁面21aは、フィルタパック11が枠体21に収納された場合に、プリーツの折り目が並ぶ方向のフィルタパック11の両端部と対向する壁面である。係止突起41は、内周壁面21aの、内周壁面21aに隣接する他の内周壁面21bの近傍に2本水平方向(取付状態での水平方向。
図4において紙面奥行き及び左右方向)に並べて配され、1つの内周壁面21aにおいて計4本設けられている。
【0042】
係止部材51は、2本の係止突起41ごとに1つ設けられている。係止部材51は、係止突起41に挿通される2つの開口部53を有する。係止部材51の開口部53は、係止突起41が挿通して上下方向(前記取付状態での上下方向)及び水平方向にスライド可能な屈曲した形状であり、
図6に示すように、開口部53の水平方向に延びる部分の端部に、係止突起41が係止する係止位置53aを有する。なお、
図6において開口部53内に示す破線の矢印は、開口部53に挿通された係止部材51が開口部53内でスライドする向きを示す。
図6においてAで示す矢印は、開口部53に挿通した係止突起41が係止位置53aに移動するまでに、係止部材51が係止突起41に対して動く向きを示す。また、
図3において、便宜のため、開口部53は図示を省略する。
【0043】
係止部材51は、さらに、収納されたフィルタパック11を通気方向に押圧する当接面55を有している。通気方向は、
図3〜5、
図7において紙面上下方向である。係止部材51は、係止突起41が開口部53内で係止位置53aにある場合に、フィルタパック11が当接面55に押圧される押圧状態を採りうる。当接面55は、前記取付状態で水平方向に延びる板状部分の下面であり、押圧状態では、枠体21に収納されたフィルタパック11のプリーツの頂部に対して上方から下方に力を作用させる。これにより、フィルタパック11が交換可能であることを保持しつつ、上記の床材を枠体21内に配した場合はフィルタパック1と枠体21の間のリークを防止でき、さらに使用時に高風量の気流を受けた場合でもフィルタパック1が枠体21から外れてしまうのを防止できる。なお、抗菌防臭フィルタ10は、フィルタパック11が交換可能であることによって、枠体21を交換せずに利用し続けることができる。フィルタパック11の交換は、例えば、抗菌防臭フィルタ10を取付枠30から外し、固定機構25の係止部材51を係止突起41から外した後、フィルタパック11を取り出し、新たなフィルタパックを収納することにより行うことができる。
【0044】
抗菌防臭フィルタ10は、フィルタパック11を枠体21に収納した後、固定機構25によってフィルタパック11を枠体21に対し固定することにより作成される。固定機構25を用いたフィルタパック11の固定は、まず、係止突起41を、
図7において破線
で示すように係止部材51の開口部53に挿通させ、次いで、係止部材51を
図6の矢印Aの向きに動かし係止位置53aまでスライドさせることにより行われる。
【0045】
以上の抗菌防臭フィルタ10は、枠体21のフランジ23が取付枠30の開口部31に係止することで、取付枠30に取り付け可能である。このような構成によって、ボックスタイプのエアフィルタ装置をビル、住宅、工場等の天井、壁、室内等に設置することができる。また、抗菌防臭フィルタ10は、抗菌防臭濾材1を用いて作製されたフィルタパック11を備えているため、エレクトレット不織布による捕集性能を維持しつつ、抗菌防臭性能を有する。
【0046】
抗菌防臭フィルタ10は、フィルタパック11に目詰りが生じた場合等に、新しいフィルタパックと交換できる一方、固定機構25によって、使用時のフィルタパック11の枠体21からの抜けを防止できるため、フィルタパック11を交換可能であることを保持しつつ使用時に枠体21から外れてしまうのを防ぐことができる。高風量が常時通過するエアフィルタでは、例えば、エキスパンドメタル等の補強手段を枠体に設けてフィルタパックが枠体から外れないようにすることが行われるが、高風量が常時通過する訳ではない抗菌防臭フィルタ1では、空気の流通を妨げないために補強手段は設けられないが、意図せず高風量が通過した場合であっても、固定機構25によってフィルタパック11が固定されていることで、フィルタパック11が枠体21から外れないようになっている。
【0047】
また、固定機構25の係止部材51は、当接面55によってフィルタパック11に対して押し付け力を作用させることができ、枠体21内に床材を配した場合は、棒状のパック押さえ71(
図9(c)参照)によってフィルタパック11を床材を介して枠体21に固定する場合と比べて、フィルタパック11と枠体21との間のガタつきをより確実に抑え、リークを低減することができる。
【0048】
固定機構の係止部材は、他の実施形態では、
図8に示すように、枠体の内周壁面の全幅の長さに対応して延在して、4本の係止突起41が係止可能に形成されてもよい。
図8は、本発明の他の実施形態の抗菌防臭フィルタの固定機構の係止部材を示す外観図である。また、係止突起は、他の実施形態において、枠体の内周壁面の一方の端部に、2本並べて設けられるのに代えて、3本以上が設けられてもよい。この場合、係止部材の開口部は、係止突起の数及び位置に応じて設けられる。係止部材の開口部は、2つの直線状部分が90°屈曲していてもよく、例えば、90°より小さく又は大きく屈曲していてもよい。
【0049】
抗菌防臭フィルタは、他の実施形態では、ミニプリーツ型に代えて、セパレータ型、Vバンク型等の他のタイプのエアフィルタであってもよい。
抗菌防臭フィルタは、他の実施形態では、固定機構を備えなくてもよい。
【0050】
次に、
図9に基づいて、枠体の固定機構の変形例について説明する。
図9は、(a)は、本発明の他の実施形態の抗菌防臭フィルタのフィルタパックを示す外観図である。(b)は、(a)に示すフィルタパックが収納される枠体を示す外観図である。(c)は、(a)に示すフィルタパックを(b)に示す枠体に収納し、さらに固定機構により固定された抗菌防臭フィルタを示す外観図である。
この抗菌防臭フィルタ10は、固定機構として、上述の係止突起41及び係止部材51に代えて、棒状部材71が用いられてもよい。この抗菌防臭フィルタ10は、フィルタパック11を枠体21に収納した後、2本の棒状部材71の両端を、枠体21の内周壁面の対応する部分に設けた孔(図示せず)に差し込むことにより、フィルタパック11を枠体21に固定することができる。
【実施例】
【0051】
次に、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
厚さ0.1mm、目付23g/m
2のポリプロピレン製メルトブロー不織布に対し、エレクトレット処理を行った。エレクトレット処理は、電極間距離を8mmとして、6〜20kVの直流電圧をメルトブロー不織布に印加することにより行った。次いで、エレクトレット処理を行ったメルトブロー不織布と、厚さ0.53mm、目付110g/m
2のポリエステル製スパンボンド不織布との間に、ポリエステル系樹脂からなるホットメルトパウダーを散布し、160度で加熱することで積層し、厚さ0.63mm、目付133g/m
2、長さ603mm×幅116mmの濾材を得た。なお、得られた濾材は、TAPPI(The Technical Association of the Pulp and Paper Industry)規格:T−494に準拠するMD方向の引張強度は200N/50mmであった。
次いで、抗菌剤を含む水溶液(サンワード商会社製、TioTio(登録商標)、固形分0.004質量%、鉄16μg/ml、アルミニウム23μg/ml、チタン0.08μg/ml、カリウム0.22μg/ml)をさらに純水で8倍に希釈したものと、界面活性剤を含む水溶液(日華化学社製、ニッカノンNS−30)とを混合し、TioTio(登録商標)とニッカノンNS−30とを質量比で1:1の割合で含む薬液を得た。ここでは、TioTio(登録商標)2gと、ニッカノンNS−30 2gとを含む薬液100gを調合し、抗菌剤2.0質量%(固形分0.004質量%)、界面活性剤2.0質量%(固形分40質量%))の薬液を得た。得られた薬液を、スプレーを用いて上記の濾材に対し16g/m
2の塗布量でスプレー塗布を行った。薬液塗布後、140度に加熱したオーブンにて12秒間、濾材を乾燥させ、抗菌防臭濾材を得た。
得られた抗菌防臭濾材に対し、ロータリー式織り機でプリーツ加工を施し、さらに、表面にポリオレフィンからなるホットメルトリボンを形成して、フィルタパックを得た。そして、溶融亜鉛メッキ鋼版製のフランジを有する板材を組み合わせて枠体を作成し、得られたフィルタパックを収納し、上記実施形態の固定機構25を用いてフィルタパックを枠体に固定した。
【0052】
(従来例)
メルトブロー不織布に対しエレクトレット処理をしなかった点を除き、実施例1と同様にして、抗菌防臭フィルタを作製した。
【0053】
(実施例2〜4、比較例1〜3、従来例)
薬液を、それぞれ、表1に示す薬液付着量および態様で付着させた点を除き、実施例1と同様にして抗菌防臭フィルタを作成した。なお、表1において、「噴霧」はスプレー噴霧により薬液を付着させたことを意味し、実施例1と同様であり、「含浸」は含浸により薬液を付着させたことを意味する。
以上の実施例1〜4、従来例、比較例1〜3の抗菌防臭フィルタの抗菌剤担持量、界面活性剤担持量、捕集効率、圧力損失、抗菌性及び防臭性を下記要領で測定、評価した。結果を下記表1に示す。
【0054】
(抗菌剤担持量)
抗菌防臭濾材の100mm角の試料を、硫酸又は硝酸にて完全に湿式分解後、水にて希釈し、カリウムは原子吸光分析の定量分析を行い、鉄、アルミニウム、チタンはICP発光分光法の定量分析を行い、その値(μg/ml)により抗菌剤付着量(g/m
2)を換算した。
(界面活性剤担持量)
抗菌防臭濾材の100mm角の試料を、アルコールにより界面活性剤を抽出し、試料を水で調整して、陽イオン界面活性剤、例えば第4級アンモニウム化合物は、固相抽出−HPLC(High Performance Liquid Chromatography、高性能液体クロマトグラフィ)で定量分析を行い、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤は、固相抽出−吸光光度法で定量分析を行い、その値(mg/l)により抗菌剤付着量(g/m
2)を換算した。
【0055】
(目付)
試料から100×100mmの試験片を採取し、重さを測定し、1m
2当たりに換算して求めた。
(厚み)
試料から100×100mmの試験片を採取し、ダイヤルシックネスゲージで測定した。
(捕集効率)
0.3μmの大気粒子の空気をろ過速度5.3cm/秒で通過させ、JIS Z8813に準じた光散乱光量積算方式により、通過前および通過後の粉塵濃度を同時に連続的に測定し、次式により、捕集効率を求めた。
捕集効率(%)=(通過後の粉塵濃度(個数/L)−通過前の粉塵濃度(個数/L))/(通過前の粉塵濃度(個数/L))×100
この結果、捕集効率が80%以上のものをA、70%以上80%未満のものをB、70%未満のものをC、と評価した。
【0056】
(圧力損失)
捕集効率の試験と並行して、風速5.3cm/秒の気流を通風した時の濾材の上下流での静圧差を測定し、これを圧力損失とした。この結果、圧力損失が18Pa未満のものをA、18Pa以上25Pa未満のものをB、25Pa以上のものをC、と評価した。
【0057】
(抗菌性及び防臭性)
JIS L0217法に規定される洗濯を10回行った後に、JIS L1902(繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果)の定量試験法(菌液吸収法)に準拠して、殺菌活性値及び静菌活性値を測定し、抗菌性、防臭性を評価した。測定はいずれもn(=3)回行い、各回の数値の平均を用いた。試験菌には、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:ATCC 6538P)を使用した。生菌数の測定方法は、混釈平板培養法によった。
抗菌性は、下記式(1)による殺菌活性値を用いて判断し、殺菌活性値が、2.8以上である場合をA、1.0以上2.8未満である場合をB、1.0未満である場合をC、と評価し、また、1.0を超える場合は抗菌性あり、1.0以下である場合は抗菌性なし、と評価した。防臭性は、下記式(2)による静菌活性値を用いて判断し、静菌活性値が、5.0以上である場合をA、2.5以上5.0未満である場合をB、と評価し、また、2.5を超える場合は防臭性あり、2.5以下である場合は防臭性なし、と評価した。
殺菌活性値=log a - log c (1)
静菌活性値=(log b - log a) - (log c - log 0) (2)
a:植菌数(無加工布(抗菌剤を担持しない濾材)の接種直後に回収した菌数)の平均値
b:無加工布の18時間培養後回収した菌数の平均値
c:加工布(抗菌剤を担持する濾材)の18時間培養後回収した菌数の平均値
試験成立条件は、log b - log aで算出される増殖値が1.0以上であることとした。
【0058】
【表1】
【0059】
表1から明らかなように、界面活性剤を担持しない抗菌防臭濾材は(比較例1)、抗菌性及び防臭性ともに十分でなかった。
これに対し、界面活性剤とともに抗菌剤を所定量担持する抗菌防臭濾材によれば(実施例1〜4)、抗菌性及び防臭性に優れていた。また、これらの抗菌防臭濾材は、界面活性剤を担持するにも関わらず、捕集効率を維持していた。
また、抗菌防臭濾材が担持する抗菌剤が1.28×10
−5g/m
2である場合は(実施例1,2)、それより少ない場合(実施例3、比較例2)と比べて、抗菌性及び防臭性により優れていた。また、抗菌防臭濾材が担持する界面活性剤が0.128g/m
2である場合は(実施例1,3,4)、そうでない場合(比較例3)と比べて、捕集効率がより優れていた。
【0060】
以上、本発明の抗菌防臭濾材、抗菌防臭濾材の製造方法、抗菌防臭フィルタについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。