特許第6076050号(P6076050)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076050
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】排泄物の臭いを低減するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A01K 1/015 20060101AFI20170130BHJP
【FI】
   A01K1/015 B
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-251120(P2012-251120)
(22)【出願日】2012年11月15日
(65)【公開番号】特開2014-97030(P2014-97030A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】505000848
【氏名又は名称】株式会社ジェイシーエヌ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大木 高志
(72)【発明者】
【氏名】神原 丈敏
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 則▲隆▼
【審査官】 門 良成
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−285348(JP,A)
【文献】 特開平11−225688(JP,A)
【文献】 特開平07−241169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 1/015
A23K 10/00−50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリプトコッカス属の微生物の破砕物若しくはエキス、及び、吸着材を含む、排泄物の臭いを低減するための組成物。
【請求項2】
前記吸着材が、酸性白土である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
動物に、請求項1又は2に記載の組成物を投与する工程を含む、排泄物に由来する臭いの低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に新規な排泄物の臭いを低減するための組成物及び該組成物を用いた排泄物に由来する臭いの低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動物は、生活に伴い必ず糞尿の排泄を行う。従って、愛玩動物、家畜動物等を飼育する際には、排泄物の処理を行う必要がある。また、ヒトにおいても、要介助者等の排泄物を処理する必要性がある場合もある。しかしながら、排泄物は悪臭を伴い、不快感の原因となる。
【0003】
通常は消臭剤を用いるなどにより悪臭の低減を図るが、消臭剤は消臭効果が及ぶ範囲が限定的であるなどの理由から、対策としては不十分である(特許文献1)。根本的な解決手段として、排泄物の臭いそのものを低減することが望まれるが、そのための有効な手段はあまり知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−268754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規な排泄物の臭いを低減するための組成物及び該組成物を用いた排泄物に由来する臭いの低減方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、クリプトコッカス属の微生物の破砕物若しくはエキス、及び、吸着材を含む組成物を動物に投与することで、排泄物の臭いを顕著に低減できることを見出した。本発明は、斯かる知見に基づき完成したものである。
【0007】
本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1、クリプトコッカス属の微生物の破砕物若しくはエキス、及び、吸着材を含む、排泄物の臭いを低減するための組成物。
【0009】
項2、前記吸着材が、酸性白土である、項1に記載の組成物。
【0010】
項3、動物に、項1又は2に記載の組成物を投与する工程を含む、排泄物に由来する臭いの低減方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、簡便に排泄物の臭いを低減することが可能となる。従って、愛玩動物や家畜動物の飼育に伴う不快感を、大幅に低減できる。また、本発明の組成物は安全性が確保された成分を用いているため、ヒトへの適用も可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)組成物
本発明の組成物は、排泄物の臭いを低減するための組成物である。
【0013】
排泄物とは、主に糞、尿を指すが、糞と同様に消化器から発せられる口臭、げっぷ;尿と同様に循環器と密接に関連するエクリン汗腺、アポクリン汗腺、皮脂腺等からの分泌物(例えば、汗。)なども含まれる。
【0014】
排泄物は、脊椎動物由来の排泄物を主に指す。脊椎動物をより具体的に詳説すれば、ヒトを含めた哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類を指す。さらに具体的には、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、ハツカネズミ等の齧歯類、インコ、ブンチョウ等の小型鳥類などの愛玩動物(ペット);ウシ、ブタ、ヒツジ、ニワトリ等の家畜動物が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0015】
排泄物の臭いは、特に限定されるものではないが、硫化水素、スカトール(3-メチルインドール)、インドール、メチルメルカプタン(メタンチオール)、アンモニア、揮発性アミン類等が原因となりうる。従って、これらの成分の含有量を公知の手法(例えば、ガスクロマトグラフィー。)により測定することにより、臭いの程度(悪臭の程度)を評価することができる。悪臭の程度を、官能試験により評価することも当然できる。悪臭の程度の総合的な判断手法としては、官能試験が好ましい。
【0016】
本発明の組成物は、クリプトコッカス属の微生物の破砕物若しくはエキス、及び、吸着材を含む。
【0017】
クリプトコッカス属の微生物は、本発明の効果を損なわない範囲で特に限定されるものではない。ただし、感染症であるクリプトコッカス症の原因となるCryptococcus neoformans などの病原性のクリプトコッカス属の微生物は含まれないものと理解される。なお、クリプトコッカス属の微生物は、当該微生物の酵母様の無性世代(Anamorph)を指す。糸状菌様の有性世代(Telemorph)のときはFilobasidiella属と呼ばれる。従って、「クリプトコッカス属の微生物」は、「クリプトコッカス属の酵母」と換言することもできる。
【0018】
クリプトコッカス属の微生物の破砕物若しくはエキスは、クリプトコッカス属の微生物を常法に従って培養し、培養液から回収した菌体を破砕したものを用いることができる。培養を行う際の培地、培養温度などの培養条件は、クリプトコッカス属の酵母に適した諸条件を、当業者が適宜選択することができる。培養液からの菌体の回収は、遠心分離や濾過(例えば、自然濾過、吸引濾過など。)等の常法に従った手段により行うことができる。
【0019】
菌体の破砕は、すり鉢、超音波、フレンチプレス、硝子ビーズなどによる物理的破砕等の公知の手法で行うことができる。破砕物若しくはエキスには、破砕後に得られる可溶画分及び/又は不溶画分(すなわち、可溶画分及び不溶画分、可溶画分のみ、又は、不溶画分のみ。)を包含するものと理解される。
【0020】
吸着材は、生理学的に許容される吸着剤であれば、特に限定されるものではない。吸着剤の具体例としては、アルミナ、シリカ、活性炭、ゼオライト、活性白土、酸性白土などが挙げられる。吸着材は、1種を用いてもよく、又は2種以上を混合して用いてもよい。なかでも、排泄物の臭いを低減する効果が高いとの観点から、酸性白土が好ましい。酸性白土は、微粒子状であることが好ましい。微粒子状の酸性白土の好ましい例として、粒子径が約500μm程度以下のもの、好ましくは約200μm程度以下のもの、特に好ましくは約100μm程度以下のものが挙げられる。
【0021】
本発明の組成物におけるクリプトコッカス属の微生物の破砕物若しくはエキスと、吸着剤とを混合することで作成することができる。混合比率は、本発明の効果を損なわない範囲で当業者が適宜設定することができる。好ましい配合比率として、クリプトコッカス属の微生物の破砕物若しくはエキスの固形分100重量部に対して、吸着剤約1〜10000重量部程度、好ましくは10〜1000重量部程度が挙げられる。
【0022】
本発明の組成物は、取り扱いが簡便である乾燥形態であることが好ましい。乾燥形態の組成物は、クリプトコッカス属の微生物の破砕物を単独で乾燥した後に吸着剤と混合することで、又は、クリプトコッカス属の微生物の破砕物と吸着剤との混合物を乾燥して得ることができる。乾燥処理の具体例としては、真空凍結乾燥(フリーズドライ)法、噴霧乾燥(スプレードライ)法、加熱乾燥法などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0023】
本発明の組成物は、上記必須成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲において、適宜その他の成分を含んでもよい。その他成分の具体例としては、色素、香料、保存剤、溶剤、賦形剤などが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、本発明の組成物は、上記必須成分を含む飲食物(固形状若しくは液体状のいずれであってもよい。例えば、愛玩動物(ペット)用、家畜動物用などの飼料が例示される。)であってもよい。
【0024】
本発明の組成物は、適宜公知の手法により、必要に応じて溶剤、賦形剤等をさらに配合して、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤などの剤形に製剤化してもよい。好ましい形態の1つは、例えば上記クリプトコッカス属の酵母の破砕物及び吸着剤を無処理のまま得られる、散剤(粉末状)である。
【0025】
本発明の組成物は、排泄物の臭いの低減を図る動物が摂取することで効果を発揮する。摂取量及び摂取頻度は、本発明の効果を損なわない範囲で当業者が適宜設定することができる。1回あたりの摂取量は、例えば、組成物の有効成分であるクリプトコッカス属の微生物の破砕物若しくはエキス、及び、吸着剤を、動物の体重1kgあたり固形分で合計約1mg〜1g程度、好ましくは約5〜200mg程度、特に好ましくは約10〜100mg程度とすることができる。摂取頻度は、例えば、1日あたり1回又は複数回(例えば、1〜3回程度、特に2回程度)とすることができる。
【0026】
本発明の組成物が排泄物の臭いを低減する効果を奏する機構は必ずしも明らかではない。クリプトコッカス属の微生物の破砕物若しくはエキスが、腸内細菌の増殖や活性化を促すことなどに基づきより腸内環境を整えることや、吸着剤が老廃物などのにおいの原因となる成分を吸着することが、本発明が効果を奏する機構の少なくとも一端であると考えられるが、本発明はこれに拘束されるものではない。
【0027】
(2)排泄物に由来する臭いの低減方法
本発明の排泄物に由来する臭いの低減方法は、動物に、上記(1)欄に記載の組成物を投与する工程を含む。
【0028】
動物は、上記(1)欄に記載の愛玩動物(ペット)、家畜動物などの脊椎動物が挙げられるが、これに限定されない。
【0029】
投与は、経口投与であることが好ましい。上記組成物を単独で投与しても、他の固形状又は液状の飲食品とともに投与することができる。動物が愛玩動物(ペット)や家畜動物である場合、他の固形状又は液体状の飲食品(例えば、飼料、飲用水など。)に配合して投与することが簡便であるため、好ましい。
【0030】
上記組成物を投与する量及び頻度は、本発明の効果を損なわない範囲で当業者が適宜設定することができる。1回あたりの投与量は、例えば、組成物の有効成分であるクリプトコッカス属の酵母の破砕物及び吸着剤を、動物の体重1kgあたり合計約1mg〜1g程度、好ましくは約5〜200mg程度、特に好ましくは約10〜100mg程度とすることができる。投与頻度は、例えば、1日あたり1回又は複数回(例えば、1〜3回程度、特に2回程度)とすることができる。
【0031】
投与開始から1〜数日後には、排泄物に由来する臭いの低減が達成される。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は該実施例により
何ら限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]投与試験
(1)試験組成物の製造
(i)クリプトコッカス属の微生物の破砕物の製造
YM寒天培地上で培養したクリプトコッカス属の微生物の単一コロニーをYM培地200mlに接種し、三角フラスコ中で、30℃程度、200rpmで10日間振とう培養した。
【0034】
YM培地の組成は、以下の通りである:
YM培地(培地1Lあたり)
ペプトン 5.0g
乾燥酵母エキス 3.0g
乾燥麦芽エキス 3.0g
ブドウ糖 10.0g
(寒天 20.0g)。
【0035】
次いで、得られた培養液を5000xgで遠心し、菌体を沈殿させた。上清を除去した後に、菌体を20mlの蒸留水中に懸濁した。蒸気滅菌器を用いて、懸濁液を121℃で20分間処理した。懸濁液を室温まで冷却し、クエン酸溶液を用いてpH3に調整した。
【0036】
懸濁液を-80℃に冷却した乳鉢に加え、鉢棒で30分程度混ぜながら菌体を破砕した。顕微鏡下でクリプトコッカス属の微生物の破砕が確認できたら、室温で解凍した。
【0037】
(ii)組成物の製造
上記で得たクリプトコッカス属の微生物の破砕物及び酸性白土(平均粒径90μm以下)を以下の組成で混合した。
【0038】
クリプトコッカス属の微生物の破砕物 10重量部
酸性白土(平均粒径90μm以下) 50重量部。
【0039】
得られた混合物を、乾燥器を用いて45℃で16時間加熱乾燥し、試験組成物を得た。
【0040】
(2)投与
被験動物(イヌ(犬種:ポメラニアン)、平均体重:6.5kg、n=2)に、上記組成物0.71gを飼料に配合して、1日2回投与した。上記組成物を配合しない飼料を与えた動物(イヌ(犬種:ポメラニアン)、平均体重:6.0kg、n=2)を、対照被験動物とした。
【0041】
(3)官能試験
投与前及び投与開始2日後及び5日後に、被験動物及び対照被験動物が排泄した糞の臭いを、官能試験により評価した。官能試験は、下記の評価基準に基づき行った。
【0042】
評価基準:
+++++:投与前と比較して、臭いは大幅に増大しており、著しく不快感がある臭いがする、
++++:投与前と比較して、臭いは増大しており、不快感がある臭いがする、
+++:投与前と同程度の不快感がある臭いがする、
++ :投与前と比較して臭いは低減されているが、不快感がある臭いがする、
+ :投与前と比較して臭いは大幅に低減されており、臭いはするものの不快感はほとんどない、
0 :臭いは感じられない。
【0043】
【表1】
【0044】
表1のとおり、被験動物においては組成物の投与により、排泄物の臭いが低減されることが示された。