(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この特許文献1の電動ブレーキ装置は、摩擦パッドが移動してブレーキディスクに荷重を負荷するときに、摩擦パッドの位置と荷重センサで検出される荷重との関係の非線形性に起因して、摩擦パッドとブレーキディスクのクリアランスがゼロとなった直後の過度のオーバーシュートが発生する問題があった。
【0007】
すなわち、この電動ブレーキ装置は、摩擦パッドがブレーキディスクから所定のクリアランスをもって離れて待機する待機位置から、摩擦パッドがブレーキディスクに接触して荷重を負荷する荷重負荷位置に摩擦パッドを移動させて、所定の目標荷重をブレーキディスクに負荷しようとする場合、摩擦パッドとブレーキディスクのクリアランスがゼロとなる前は、荷重センサで検出される荷重の大きさがほぼゼロのまま推移するので、荷重センサで検出される荷重と荷重指令値の差が縮小せず、電動モータが比較的高速で回転した状態(すなわち電動モータが大きな慣性エネルギーを持った状態)のまま摩擦パッドがブレーキディスクに接触する。そして、この直後に、電動モータがもつ慣性エネルギーによって、荷重センサで検出される荷重が急激に上昇し、荷重指令値を過度にオーバーシュートするおそれがある。このオーバーシュートは、特に目標荷重が小さいときに発生しやすく、ブレーキ時のショックとなってブレーキフィーリングに悪影響を与える。
【0008】
一方、摩擦パッドとブレーキディスクのクリアランスがゼロとなった直後のオーバーシュートを生じにくい電動ブレーキ装置として、特許文献2に記載のものが知られている。この電動ブレーキ装置は、電動モータへの供給電流の大きさに基づいて、直動部材の先端の摩擦パッドからブレーキディスクに負荷される荷重の大きさを検出し、その荷重センサで検出される荷重と荷重指令値との偏差に基づいて、摩擦パッドからブレーキディスクに負荷される荷重が荷重指令値となるように電動モータをフィードバック制御する。
【0009】
そして、この特許文献2の電動ブレーキ装置は、摩擦パッドとブレーキディスクのクリアランスがゼロとなるまでの間は、クリアランスがゼロとなった直後のオーバーシュートを抑制するため、フィードバック制御の制御ゲインを小さい値に設定して電動モータの駆動力を抑制する。摩擦パッドとブレーキディスクのクリアランスがゼロとなった後は、フィードバック制御の制御ゲインを大きい値に切り替えて、電動モータの駆動力を増加させ、摩擦パッドからブレーキディスクに負荷される荷重を目標荷重まで上昇させる。
【0010】
しかしながら、この特許文献2の電動ブレーキ装置は、摩擦パッドが移動を開始してから摩擦パッドとブレーキディスクのクリアランスがゼロとなるまでの全区間において、フィードバック制御の制御ゲインを小さい値に設定したまま電動モータを駆動するので、ブレーキの応答性に劣る。特に、小さい制動力を得ようとするとき(すなわち荷重指令値の大きさが小さいとき)、ブレーキの応答速度が低下しやすいという問題があった。
【0011】
この発明が解決しようとする課題は、オーバーシュートが生じにくく、かつ、応答性に優れた電動式直動アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本願の発明者は、次の構成を電動式直動アクチュエータに採用した。
電動モータと、
対象物から所定のクリアランスをもって離れて待機する待機位置と、前記対象物に接触して荷重を負荷する荷重負荷位置との間で直線移動可能に設けられた直動部材と、
前記電動モータの回転を前記直動部材の直線移動に変換する運動変換機構と、
前記直動部材から対象物に負荷される荷重の大きさを検出する荷重センサと、
その荷重センサで検出される荷重と荷重指令値との偏差に基づいて、前記直動部材から対象物に負荷される荷重が荷重指令値となるように前記電動モータをフィードバック制御する制御装置とを有する電動式直動アクチュエータにおいて、
前記制御装置は、前記直動部材が前記待機位置から荷重負荷位置に移動して対象物に荷重を負荷するときに、前記直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間で前記電動モータの回転数を下げる制御を行なうオーバーシュート抑制制御手段を有する。
【0013】
このようにすると、直動部材が対象物から所定のクリアランスをもって離れて待機する待機位置から、直動部材が対象物に接触して荷重を負荷する荷重負荷位置に直動部材を移動させて、所定の目標荷重を対象物に負荷しようとする場合に、直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間で電動モータの回転数が下がるので、直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなった直後のオーバーシュートが生じにくい。また、電動モータの回転数が下がる区間は、直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間だけなので、直動部材が所定区間に入るまでの間は電動モータが比較的高い回転数で回転する。そのため、直動部材が移動を開始してから直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなるまでの全区間で電動モータの回転数を下げる場合と比べて、直動部材の移動に要する時間が短く、アクチュエータの応答性に優れる。
【0014】
前記電動モータの回転角を検出する回転角センサを更に設け、
前記オーバーシュート抑制制御手段は、前記回転角センサで検出された電動モータの回転角に基づいて、前記直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に入ったか否かを判定するように構成すると好ましい。
【0015】
このようにすると、回転角センサで検出された電動モータの回転角に基づいて、直動部材の位置を高い分解能で取得することができるので、直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に入ったか否かを高い精度で判定することが可能となる。
【0016】
前記オーバーシュート抑制制御手段は、前記直動部材から対象物に荷重が負荷されているときに前記荷重センサで検出される荷重の大きさに基づき、そのときに前記回転角センサで検出される電動モータの回転角を基準として前記直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に対応する前記電動モータの回転角の範囲を算出し、その算出された回転角の範囲内に、前記回転角センサで検出された電動モータの回転角が入ったときに前記直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に入ったと判定するように構成すると好ましい。
【0017】
このようにすると、例えば、摩擦パッドの摩耗等が原因で、直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなるときの電動モータの回転角が変化したときにも、その変化後の電動モータの回転角を基準として、直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に対応する電動モータの回転角の範囲を算出することができるので、直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に入ったか否かを長期にわたり安定した精度で判定することが可能となる。
【0018】
前記オーバーシュート抑制制御手段としては、前記直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に入ったときに、前記電動モータの回転数が下がるように電動モータに対する印加電圧を変化させる制御を行なうものを採用することができる。
【0019】
また、前記オーバーシュート抑制制御手段としては、前記直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に入ったときに、前記電動モータに対する印加電圧を所定の電圧に低下させるものを採用することができる。
【0020】
また、前記オーバーシュート抑制制御手段としては、前記直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に入ったときに、電動モータの回転数と所定の低速回転数との偏差に基づいて、電動モータの回転数が前記低速回転数となるように前記電動モータをフィードバック制御するものを採用することができる。
【0021】
また、前記電動モータを、一定電圧のONとOFFを繰り返すパルス電圧で駆動する場合、前記オーバーシュート抑制制御手段としては、前記直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に入ったときに、前記電動モータに対する印加電圧のON時間とOFF時間を合わせた総時間に占めるON時間の比率を低下させるものを採用することができる。
【0022】
また、前記電動モータを、ONとOFFを繰り返すパルス電圧で駆動する場合、前記オーバーシュート抑制制御手段としては、前記直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に入ったときに、前記電動モータに対する印加電圧のパルス振幅を減少させるものを採用することができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明の電動式直動アクチュエータは、直動部材が対象物から所定のクリアランスをもって離れて待機する待機位置から、直動部材が対象物に接触して荷重を負荷する荷重負荷位置に直動部材を移動させて、所定の目標荷重を対象物に負荷しようとする場合に、直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間で電動モータの回転数が下がるので、直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなった直後のオーバーシュートが生じにくい。また、電動モータの回転数が下がるのは、直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間だけなので、直動部材が移動を開始してから直動部材と対象物のクリアランスがゼロとなるまでの全区間で電動モータの回転数を下げる場合と比べて、直動部材の移動に要する時間が短く、アクチュエータの応答性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に、この発明の実施形態の電動式直動アクチュエータ1を用いた車両用の電動ブレーキ装置を示す。この電動ブレーキ装置は、車輪と一体に回転するブレーキディスク2を間に挟んで対向する対向片3,4をブリッジ5で連結した形状のキャリパボディ6と、左右一対の摩擦パッド7,8とを有する。そして、対向片3のブレーキディスク2に対する対向面に開口する収容孔9に電動式直動アクチュエータ1が組み込まれている。
【0026】
摩擦パッド7,8は、それぞれ対向片3,4とブレーキディスク2の間に設けられており、車輪を支持するナックル(図示せず)に固定されたマウント(図示せず)に対してブレーキディスク2の軸方向に移動可能に支持されている。また、キャリパボディ6も、ブレーキディスク2の軸方向にスライド可能にマウントに支持されている。
【0027】
図2に示すように、電動式直動アクチュエータ1は、回転軸10と、回転軸10の外周の円筒面に転がり接触する複数の遊星ローラ11と、これらの遊星ローラ11を囲むように配置された外輪部材12と、遊星ローラ11を自転可能かつ公転可能に保持するキャリヤ13と、外輪部材12の軸方向後方に配置された荷重センサ14とを有する。
【0028】
回転軸10は、
図1に示す電動モータ15の回転が歯車16を介して入力されることにより回転駆動される。回転軸10は、対向片3を軸方向に貫通して形成された収容孔9の軸方向後側の開口から一端が突出した状態で収容孔9に挿入され、収容孔9からの突出部分に歯車16がスプライン嵌合して回り止めされている。歯車16は、収容孔9の軸方向後側の開口を塞ぐようにボルト17で固定した蓋18で覆われている。蓋18には回転軸10を回転可能に支持する軸受19が組み込まれている。
【0029】
図3に示すように、遊星ローラ11は、回転軸10の外周の円筒面に転がり接触しており、回転軸10が回転したときに遊星ローラ11と回転軸10の間の摩擦によって遊星ローラ11も回転するようになっている。遊星ローラ11は、周方向に一定の間隔をおいて複数設けられている。
【0030】
図2に示すように、外輪部材12は、キャリパボディ6の対向片3に設けられた収容孔9内に収容され、その収容孔9の内周で軸方向にスライド可能に支持されている。外輪部材12の軸方向前端には、摩擦パッド7の背面に形成された係合凸部20に係合する係合凹部21が形成され、この係合凸部20と係合凹部21の係合によって、外輪部材12がキャリパボディ6に対して回り止めされている。
【0031】
外輪部材12の内周には螺旋凸条22が設けられ、遊星ローラ11の外周には、螺旋凸条22に係合する円周溝23が設けられており、遊星ローラ11が回転したときに、外輪部材12の螺旋凸条22が円周溝23に案内されて、外輪部材12が軸方向に移動するようになっている。この実施形態では遊星ローラ11の外周にリード角が0度の円周溝23を設けているが、円周溝23のかわりに螺旋凸条22と異なるリード角をもつ螺旋溝を設けてもよい。
【0032】
キャリヤ13は、遊星ローラ11を回転可能に支持するキャリヤピン13Aと、その各キャリヤピン13Aの軸方向前端の周方向間隔を一定に保持する環状のキャリヤプレート13Cと、各キャリヤピン13Aの軸方向後端の周方向間隔を一定に保持する環状のキャリヤ本体13Bとからなる。キャリヤプレート13Cとキャリヤ本体13Bは遊星ローラ11を間に軸方向に対向しており、周方向に隣り合う遊星ローラ11の間に配置された連結棒24を介して連結されている。
【0033】
キャリヤ本体13Bは、滑り軸受25を介して回転軸10に支持され、回転軸10に対して相対回転可能となっている。遊星ローラ11とキャリヤ本体13Bの間には、遊星ローラ11の自転がキャリヤ本体13Bに伝達するのを遮断するスラスト軸受26が組み込まれている。スラスト軸受26は、遊星ローラ11を自転可能に支持している。
【0034】
各キャリヤピン13Aは、周方向に間隔をおいて配置された複数のキャリヤピン13Aに外接するように装着された縮径リングばね27で径方向内方に付勢されている。この縮径リングばね27の付勢力によって、遊星ローラ11の外周は回転軸10の外周に押さえ付けられ、回転軸10と遊星ローラ11の間の滑りが防止されている。縮径リングばね27の付勢力を遊星ローラ11の軸方向全長にわたって作用させるため、キャリヤピン13Aの両端に縮径リングばね27,27が設けられている。
【0035】
ここで、
図1および
図2に示される外輪部材12および摩擦パッド7は、ブレーキディスク2から所定のクリアランス(例えばブレーキディスク2の両側で合わせて0.1mmのクリアランス)をもって離れて待機する待機位置と、ブレーキディスク2に接触して荷重を負荷する荷重負荷位置(すなわちブレーキディスク2の両側でクリアランスがゼロとなる位置)との間で直線移動する直動部材Aを構成する。
【0036】
また、電動モータ15の回転が入力される回転軸10と、回転軸10の外周の円筒面に転がり接触する複数の遊星ローラ11と、その複数の遊星ローラ11を自転可能かつ公転可能に保持し、軸方向移動を規制されたキャリヤ13と、複数の遊星ローラ11を囲むように配置された外輪部材12と、その外輪部材12の内周に設けられた螺旋凸条22と、その螺旋凸条22と係合するように各遊星ローラ11の外周に設けられた円周溝23とは、電動モータ15の回転を直動部材A(外輪部材12と摩擦パッド7)の直線運動に変換する運動変換機構Bとして機能する。
【0037】
荷重センサ14は、軸方向に間隔をおいて対向する円環板状のフランジ部材30および支持部材31と、磁界を発生する磁気ターゲット32と、磁界の強さを検出する磁気センサ33とを有し、支持部材31がフランジ部材30の軸方向後方に位置するよう収容孔9内に嵌め込まれている。
【0038】
図4、
図5に示すように、フランジ部材30は、支持部材31に向けて突出する筒部34を有する。筒部34の外径面は、支持部材31の内径面と径方向に対向しており、筒部34の外径面に形成された面取り部35に磁気ターゲット32が固定され、支持部材31の内径面に形成された軸方向溝36に磁気センサ33が固定されている。フランジ部材30および支持部材31は、磁性体で形成されている。
【0039】
支持部材31は、フランジ部材30との対向面の外径側部分に環状突起38を有し、その環状突起38でフランジ部材30の外径側部分を支持し、フランジ部材30と支持部材31の間隔を保持している。
【0040】
磁気ターゲット32は、径方向内端と径方向外端に磁極を有するように半径方向に磁化された2個の永久磁石39からなる。2個の永久磁石39は、反対の極性を有する磁極(すなわちN極とS極)が軸方向に並ぶように隣接して配置されている。
【0041】
永久磁石39としては、ネオジム磁石を使用すると、省スペースで強力な磁界が発生するので、荷重センサ14の分解性能を高くすることができるが、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石、フェライト磁石などを使用してもよい。サマリウムコバルト磁石またはアルニコ磁石を使用すると、永久磁石39の温度上昇に伴う磁界の減少を抑えることができる。また、プラセオジム磁石、サマリウム窒化鉄磁石を使用することもできる。
【0042】
磁気センサ33は、2個の永久磁石39の隣り合う磁極の境目の近傍で磁気ターゲット32と軸直交方向(図では半径方向)に対向するように配置されている。磁気センサ33としては、磁気抵抗素子(いわゆるMRセンサ)や、磁気インピーダンス素子(いわゆるMIセンサ)を使用することも可能であるが、ホールICを使用するとコスト面で有利であり、また耐熱性の高いホールICが市販されているので、高い摩擦熱が生じる電動ブレーキの用途に好適である。
【0043】
図2に示すように、フランジ部材30の外周と支持部材31の外周には軸方向に延びる位置決め溝40,41が形成され、この位置決め溝40,41に共通のキー部材42を嵌め込むことで、磁気ターゲット32の周方向位置と磁気センサ33の周方向位置が合致するようにフランジ部材30と支持部材31が周方向に位置決めされている。
【0044】
キャリヤ13とフランジ部材30の間には、キャリヤ13と一体に公転する間座43と、間座43とフランジ部材30の間で軸方向荷重を伝達するスラスト軸受44とが組み込まれている。フランジ部材30の内周には、回転軸10を回転可能に支持する転がり軸受45が組み込まれている。
【0045】
荷重センサ14は、支持部材31およびフランジ部材30の外周縁を、収容孔9の内周に装着した止め輪46,48で係止することによって軸方向の前方および後方への移動が規制されている。そして、この荷重センサ14は、間座43とスラスト軸受44とを介してキャリヤ本体13Bを軸方向に支持することで、キャリヤ13の軸方向後方への移動を規制している。また、キャリヤ13は、回転軸10の軸方向前端に装着された止め輪47で軸方向前方への移動も規制されている。したがって、キャリヤ13は、軸方向前方と軸方向後方の移動がいずれも規制され、キャリヤ13に保持された遊星ローラ11も軸方向移動が規制された状態となっている。
【0046】
この荷重センサ14は、摩擦パッド7がブレーキディスク2に接触して荷重を負荷しているときにその実荷重の大きさを検出する。すなわち、摩擦パッド7でブレーキディスク2を押圧するとき、外輪部材12はブレーキディスク2を押圧する荷重の反力を受け、その反力は、遊星ローラ11、キャリヤ13、間座43、スラスト軸受44を介してフランジ部材30に伝達する。そして、その反力によってフランジ部材30が軸方向後方にたわみ、磁気ターゲット32と磁気センサ33の相対位置が変化する。このとき、その相対位置の変化に応じて磁気センサ33の出力信号が変化するので、磁気センサ33の出力信号に基づいてブレーキディスク2を押圧する荷重の大きさを検出することができる。
【0047】
ここで、摩擦パッド7でブレーキディスク2を押圧するときの磁気ターゲット32と磁気センサ33の相対位置の変化量は極めて小さい。例えば、ブレーキディスク2を押圧する荷重の大きさが30kNのとき、磁気ターゲット32と磁気センサ33の相対位置の変化量は軸方向に0.1mm程度と極めて微小であるが、上記荷重センサ14は、複数の永久磁石39を反対の磁極が磁気ターゲット32と磁気センサ33の相対変位方向に並ぶように配置し、その隣り合う磁極の境目の近傍に磁気センサ33を配置しているので、磁気センサ33の出力信号が、磁気ターゲット32と磁気センサ33の相対位置の変化に対して急峻に変化し、磁気ターゲット32と磁気センサ33の相対位置の変化量を高精度に検出することができる。しかも、この荷重センサ14は、互いに非接触に配置された磁気ターゲット32と磁気センサ33の相対位置の変化を利用して荷重の大きさを検出するので、衝撃荷重やせん断荷重が荷重センサに入力されてもセンサが故障しにくく、高い耐久性を確保することができる。
【0048】
電動モータ15は、
図6に示す制御装置50で制御される。制御装置50には、ブレーキECU51から荷重指令値が入力され、荷重センサ14から検出荷重が入力され、電動モータ15の回転角を検出する回転角センサ52から電動モータ15の回転角が入力される。回転角センサ52としては、電動モータ15に組み込まれたレゾルバやホール素子を採用することができ、電動モータ15に電力を供給する線間電圧に基づいて回転角を推定する電源装置を採用することも可能である。制御装置50は、荷重センサ14から入力される荷重センサ14の検出荷重とブレーキECU51から入力される荷重指令値との偏差に基づいて、摩擦パッド7からブレーキディスク2に負荷される荷重(以下「アクチュエータ荷重」という)が荷重指令値となるように電動モータ15をフィードバック制御する。
【0049】
上述した電動式直動アクチュエータ1の動作例を説明する。
【0050】
電動モータ15を作動させると、回転軸10が回転し、遊星ローラ11がキャリヤピン13Aを中心に自転しながら回転軸10を中心に公転する。このとき螺旋凸条22と円周溝23の係合によって外輪部材12と遊星ローラ11が軸方向に相対移動するが、遊星ローラ11はキャリヤ13と共に軸方向の移動が規制されているので、遊星ローラ11は軸方向に移動せず、外輪部材12が軸方向に移動する。このようにして、電動式直動アクチュエータ1は、電動モータ15で駆動される回転軸10の回転を外輪部材12の直線運動に変換し、その外輪部材12と一体の摩擦パッド7をブレーキディスク2に押さえ付けて、摩擦パッド7からブレーキディスク2に荷重を負荷する。
【0051】
ところで、上記電動ブレーキ装置は、摩擦パッド7が移動してブレーキディスク2に荷重を負荷するときに、摩擦パッド7の位置と荷重センサ14で検出される荷重との関係の非線形性に起因して、
図9(a)に示すように、摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなった直後の過度のオーバーシュートが発生するおそれがある。
【0052】
すなわち、摩擦パッド7がブレーキディスク2から所定のクリアランスをもって離れて待機する待機位置から、摩擦パッド7がブレーキディスク2に接触して荷重を負荷する荷重負荷位置に摩擦パッド7を移動させて、所定の目標荷重をブレーキディスク2に負荷しようとする場合を考える。この場合、摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなる前は、
図9(a)の時刻t
0〜t
1に示すように、荷重センサ14で検出される荷重の大きさがほぼゼロのまま推移するので、荷重センサ14で検出される荷重と荷重指令値の差が縮小しない。そのため、フィードバック制御の制御ゲインの大きさにかかわらず、電動モータ15が比較的高速で回転した状態(すなわち電動モータ15が大きな慣性エネルギーを持った状態)のまま摩擦パッド7がブレーキディスク2に接触する(
図9(a)の時刻t
1)。そして、この直後に、電動モータ15がもつ慣性エネルギーによって、荷重センサ14で検出される荷重が急激に上昇し、荷重指令値を過度にオーバーシュートするおそれがある(
図9(a)の時刻t
1以降)。このオーバーシュートは、特に目標荷重が小さいときに発生しやすく、ブレーキ時のショックとなってブレーキフィーリングに悪影響を与える。
【0053】
そこで、制御装置50は、摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなった直後のオーバーシュートを抑制するため、
図8(c)に示すように、摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなる直前(すなわち摩擦パッド7からブレーキディスク2に荷重が負荷される直前)の所定区間で電動モータ15の回転数を下げる制御を行なうオーバーシュート抑制制御を行なう。以下具体的に説明する。
【0054】
まず、摩擦パッド7がブレーキディスク2から所定のクリアランスをもって離れて待機する待機位置からブレーキディスク2に向けて摩擦パッド7を移動させる(
図8(c)の時刻t
0)。このとき、制御装置50は、荷重センサ14で検出される荷重と荷重指令値との偏差に基づいて、アクチュエータ荷重が荷重指令値となるように電動モータ15をフィードバック制御する。このフィードバック制御を行なう間、
図8(a)の時刻t
0〜t
1に示すように、荷重センサ14で検出される荷重の大きさがほぼゼロのまま推移するので、荷重センサ14で検出される荷重と荷重指令値の差が縮小しない。そのため、電動モータ15は比較的高速で回転した状態となる。
【0055】
次に、摩擦パッド7がブレーキディスク2に荷重を負荷する直前の所定区間に入ったときに、電動モータ15の回転数を下げる制御を行なう(
図8(c)の時刻t
1−Δt)。ここで、制御装置50は、摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に対応する電動モータ15の回転角の範囲(
図7のΔθの範囲)を予め算出しておき、回転角センサ52で検出された電動モータ15の回転角が、その算出された回転角の範囲内に入ったときに、クリアランスがゼロとなる直前の所定区間に入ったと判定する。この判定が行なわれたとき、制御装置50は、電動モータ15に対する制御を、荷重センサ14で検出される荷重と荷重指令値との偏差に基づくフィードバック制御から、電動モータ15の印加電圧を所定の電圧に低下させる制御に切り替える(
図8(b)の時刻t
1−Δt)。これにより、電動モータ15の回転数が下がり、摩擦パッド7が減速する。
【0056】
その後、摩擦パッド7がブレーキディスク2に接触するが、このときの電動モータ15の回転数は比較的低速となっているので、アクチュエータ荷重のオーバーシュートが生じにくい(
図8(a)の時刻t
1以降)。すなわち、ブレーキ時のショックが発生しにくく、良好なブレーキフィーリングを得ることができる。摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなった後は、荷重センサ14で検出される荷重と荷重指令値との偏差に基づくフィードバック制御に切り替え、目標荷重までアクチュエータ荷重を増加させる。
【0057】
ところで、制御装置50により、摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に対応する電動モータ15の回転角の範囲を算出するにあたっては、摩擦パッド7からブレーキディスク2に荷重が負荷されているとき(例えば前回制動時)に荷重センサ14で検出される荷重の大きさに基づき、そのときに回転角センサ52で検出される電動モータ15の回転角を基準として、摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に対応する電動モータ15の回転角の範囲を算出することができる。
【0058】
例えば、
図7に示すように、荷重センサ14で検出された荷重の大きさが予め設定されたしきい値Thに一致したときに、そのときに回転角センサ52で検出される電動モータ15の回転角θ
Thを基準として、アクチュエータ荷重が減少する方向に所定の回転角を減算することにより、摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなる時点に対応する電動モータ15の回転角θ
1を算出することができる。さらに所定の大きさのΔθを減算することにより、摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間の始点(
図7のθ
1−Δθ)を算出することができる。電動モータ15の回転角とアクチュエータ荷重の対応関係は、実験などにより予め把握することができる。この対応関係は、電動モータ15と回転軸10の間の減速比、回転軸10の直径、遊星ローラ11の外径、外輪部材12の内径、螺旋凸条22のリード角、ブレーキディスク2や摩擦パッド7の剛性等に基づいて決定される。
【0059】
上記のようにして摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に対応する電動モータ15の回転角の範囲を算出すると、例えば、摩擦パッド7,8の摩耗等が原因で、摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなるときの電動モータ15の回転角が変化したときにも、その変化後の電動モータ15の回転角を基準として、摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に対応する電動モータ15の回転角の範囲を算出することができるので、摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に入ったか否かを長期にわたり安定した精度で判定することが可能となる。
【0060】
同様に、電動モータ15の回転角θ
Thを基準として、摩擦パッド7がブレーキディスク2から所定のクリアランスをもって離れて待機する待機位置にあるときの電動モータ15の回転角θ
0も算出することができる。このようにすると、待機状態での摩擦パッド7,8とブレーキディスク2のクリアランスを長期にわたり一定させることが可能となる。
【0061】
上記電動ブレーキ装置は、摩擦パッド7がブレーキディスク2から所定のクリアランスをもって離れて待機する待機位置から、摩擦パッド7がブレーキディスク2に接触して荷重を負荷する荷重負荷位置に摩擦パッド7を移動させて、所定の目標荷重をブレーキディスク2に負荷しようとする場合に、摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間(
図7のΔθの範囲)で電動モータ15の回転数が下がるので、摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなった直後のオーバーシュートが生じにくい。そのため、ブレーキ時のショックが発生しにくく、良好なブレーキフィーリングを得ることができる。
【0062】
また、電動モータ15の回転数が下がる区間は、摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間だけなので、摩擦パッド7が所定区間に入るまでの間は電動モータ15が比較的高い回転数で回転する。そのため、摩擦パッド7が移動を開始してから摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなるまでの全区間で電動モータ15の回転数を下げる場合と比べて、摩擦パッド7の移動に要する時間が短く、アクチュエータの応答性に優れる。
【0063】
摩擦パッド7の位置は、リニア変位センサ等で検出することも可能であるが、上記実施形態のように、電動モータ15の回転角センサ52で摩擦パッド7の位置を検出するようにすると好ましい。このようにすると、回転角センサ52で検出された電動モータ15の回転角に基づいて、摩擦パッド7の位置を高い分解能で取得することができるので、摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に入ったか否かを高い精度で判定することが可能である。
【0064】
上記実施形態では、摩擦パッド7とブレーキディスク2のクリアランスがゼロとなる直前の所定区間に入ったときに、電動モータ15の回転数が下がるように電動モータ15に対する印加電圧を変化させる制御として、電動モータ15に対する印加電圧を所定の電圧に低下させる制御を例に挙げて説明したが、他の方式の制御を採用することも可能である。
【0065】
例えば、電動モータ15の回転数と所定の低速回転数との偏差に基づいて、電動モータ15の回転数が低速回転数となるように電動モータ15をフィードバック制御する制御を採用することができる。電動モータ15の回転数は、回転角センサ52で検出される電動モータ15の回転角を時間微分することで取得することができる。
【0066】
また、電動モータ15を、一定電圧のONとOFFを繰り返す矩形のパルス電圧で駆動する場合、電動モータ15に対する印加電圧のON時間とOFF時間を合わせた総時間に占めるON時間の比率(デューティー比)をあらかじめ所定値以下に低下させる制御(PWM制御)を採用することができる。また、電動モータ15を、ONとOFFを繰り返す矩形のパルス電圧で駆動する場合、電動モータ15に対する印加電圧のパルス振幅を所定値以下に減少させる制御(PAM制御)を採用してもよい。
【0067】
上記実施形態では、電動モータ15の回転を直動部材A(外輪部材12と摩擦パッド7)の直線運動に変換する運動変換機構Bとして、電動モータ15の回転が入力される回転軸10と、回転軸10の外周の円筒面に転がり接触する複数の遊星ローラ11と、その複数の遊星ローラ11を自転可能かつ公転可能に保持し、軸方向移動を規制されたキャリヤ13と、複数の遊星ローラ11を囲むように配置された外輪部材12と、その外輪部材12の内周に設けられた螺旋凸条22と、その螺旋凸条22と係合するように各遊星ローラ11の外周に設けられた円周溝23とを有する遊星ローラ式の運動変換機構Bを例に挙げて説明したが、この発明は、他の構成の運動変換機構Bを採用した電動式直動アクチュエータにも同様に適用することができる。
【0068】
例えば、運動変換機構Bとしてボールねじ式の運動変換機構Bを採用した電動式直動アクチュエータの例を
図10に示す。以下、上記実施形態に対応する部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0069】
図10において、直動アクチュエータは、電動モータ15の回転が入力される回転軸10と、回転軸10と一体に設けられたねじ軸60と、ねじ軸60を囲むように設けられたナット61と、ねじ軸60の外周に形成されたねじ溝62とナット61の内周に形成されたねじ溝63の間に組み込まれた複数のボール64と、ナット61のねじ溝63の終点から始点にボール64を戻す図示しないリターンチューブと、ナット61の軸方向後方に配置された荷重センサ14とを有する。
【0070】
ナット61は、キャリパボディ6の対向片3に設けられた収容孔9内に、キャリパボディ6に対して回り止めされた状態で軸方向にスライド可能に収容されている。ねじ軸60の軸方向後端にはねじ軸60と一体に回転する間座43が設けられ、その間座43がスラスト軸受44を介して荷重センサ14で支持されている。ここで、荷重センサ14は、間座43とスラスト軸受44とねじ軸60とを介してナット61を軸方向に支持することで、ナット61の軸方向後方への移動を規制している。
【0071】
この電動式直動アクチュエータは、回転軸10を回転させることによって、ねじ軸60とナット61を相対回転させて、ナット61を軸方向前方に移動させ、そのナット61とキャリパボディ6に設けた対向片4によって摩擦パッド7,8をブレーキディスク2に押圧することで、制動力を発生させる。このとき、ねじ軸60は、軸方向後方への反力を受け、その反力は、間座43、スラスト軸受44を介して荷重センサ14に伝達する。
【0072】
また、運動変換機構Bとしてボールランプ式の運動変換機構Bを採用した電動式直動アクチュエータを適用した例を
図11に示す。
【0073】
図11において、直動アクチュエータは、回転軸10と、回転軸10の外周に回り止めされた回転ディスク70と、回転ディスク70の軸方向前方に対向して配置された直動ディスク71と、回転ディスク70と直動ディスク71の間に挟まれた複数のボール72と、直動ディスク71の軸方向後方に配置された荷重センサ14とを有する。
【0074】
直動ディスク71は、キャリパボディ6の対向片3に設けられた収容孔9内に、キャリパボディ6に対して回り止めされた状態で軸方向にスライド可能に収容されている。回転ディスク70の軸方向後端には回転ディスク70と一体に回転する間座43が設けられ、その間座43がスラスト軸受44を介して荷重センサ14で支持されている。ここで、荷重センサ14は、間座43とスラスト軸受44とを介して回転ディスク70を軸方向に支持することで回転ディスク70の軸方向後方への移動を規制している。
【0075】
図12、
図13に示すように、回転ディスク70の直動ディスク71に対する対向面70aには、周方向の一方向に沿って深さが次第に浅くなる傾斜溝73が形成され、直動ディスク71の回転ディスク70に対する対向面71aには、周方向の他方向に沿って深さが次第に浅くなる傾斜溝74が形成されている。
図13(a)に示すように、ボール72は、回転ディスク70の傾斜溝73と直動ディスク71の傾斜溝74の間に組み込まれており、
図13(b)に示すように、直動ディスク71に対して回転ディスク70が相対回転すると、傾斜溝73,74内をボール72が転動して、回転ディスク70と直動ディスク71の間隔が拡大するようになっている。
【0076】
この電動式直動アクチュエータは、回転軸10を回転させることによって、直動ディスク71と回転ディスク70を相対回転させて、直動ディスク71を軸方向前方に移動させ、その直動ディスク71とキャリパボディ6に設けた対向片4によって摩擦パッド7,8をブレーキディスク2に押圧することで、制動力を発生させる。このとき、直動ディスク71は、軸方向後方への反力を受け、その反力は、間座43、スラスト軸受44を介して荷重センサ14に伝達する。