(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
本発明のPVA系樹脂架橋高分子は、AA化PVA系樹脂をグリオキシル酸塩で架橋させ、
波長300〜400nmの紫外線を10〜1000mJ/cm
2照射して得られるものである。
【0010】
まずは、本発明で用いられるAA化PVA系樹脂について説明する。
〔AA化PVA系樹脂〕
本発明に用いるAA化PVA系樹脂とは、側鎖にアセト酢酸エステル基を有するPVA系樹脂であり、その他の部分は一般のPVA系樹脂と同様、ビニルアルコール系構造単位を主体とし、ケン化度に応じた酢酸ビニル構造単位を有するものである。
【0011】
本発明で用いられるAA化PVA系樹脂は、アセトアセチル基を含有する構造単位を有するもので、特に限定されるものではないが、例えば下記の一般式(1)で表すことができる。
【化1】
【0012】
本発明のAA化PVA系樹脂の平均重合度は、その用途によって適宜選択すればよいが、通常、300〜4000であり、特に400〜3500、さらに500〜3000のものが好適に用いられる。かかる平均重合度が小さすぎると、十分な耐水性が得られなかったり、十分な架橋速度が得られなくなる傾向があり、逆に大きすぎると、水溶液として使用した場合に、その粘度が高くなりすぎ、基材への塗工が困難になるなど、各種工程への適用が難しくなる傾向がある。
【0013】
また、本発明に用いられるAA化PVA系樹脂のケン化度は、通常、80モル%以上であり、さらには85モル%以上、特には90モル%以上のものが好適に用いられる。かかるケン化度が低い場合には、水溶液とすることが困難になったり、水溶液の安定性が低下したり、得られる架橋高分子の耐水性が不十分となる傾向がある。なお、平均重合度およびケン化度はJIS K6726に準じて測定される。
【0014】
また、AA化PVA系樹脂中のアセトアセチル基含有量(以下、AA化度という。)は、通常、0.1〜20モル%であり、さらには0.2〜15モル%、特には0.3〜10モル%であるものが一般的に広く用いられる。かかる含有量が少なすぎると、耐水性が不十分となったり、十分な架橋速度が得られなくなる傾向があり、逆に多すぎると、水溶性が低下したり、水溶液の安定性が低下する傾向がある。
【0015】
かかるAA化PVA系樹脂の製造法としては、特に限定されるものではないが、例えば、PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法、PVA系樹脂とアセト酢酸エステルを反応させてエステル交換する方法、酢酸ビニルとアセト酢酸ビニルの共重合体をケン化する方法等を挙げることができるが、製造工程が簡略で、品質の良いAA化PVA系樹脂が得られることから、PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法で製造するのが好ましい。以下、かかる方法について説明する。
【0016】
原料となるPVA系樹脂としては、一般的にはビニルエステル系モノマーの重合体のケン化物又はその誘導体が用いられ、かかるビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済性の点から酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0017】
また、ビニルエステル系モノマーと該ビニルエステル系モノマーと共重合性を有するモノマーとの共重合体のケン化物等を用いることもでき、かかる共重合モノマーとしては、例えばエチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩;アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、等のビニル化合物;酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類;塩化ビニリデン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、ビニレンカーボネート等が挙げられる。
なお、かかる共重合モノマーの導入量はモノマーの種類によって異なるため一概には言えないが、通常は全構造単位の10モル%以下、特には5モル%以下であり、多すぎると水溶性が損なわれたり、架橋剤との相溶性が低下したりする場合があるため好ましくない。
【0018】
又、ビニルエステル系モノマーおよびその他のモノマーを重合、共重合する際の重合温度を高温にすることにより、主として生成する1,3−結合に対する異種結合の生成量を増やし、PVA主鎖中の1,2−ジオール結合を1.6〜3.5モル%程度としたものを使用することが可能である。
【0019】
かかる後反応によるアセトアセチル基の導入は、PVA系樹脂にジケテンを反応させることによって水酸基をアセト酢酸エステル化することによって行われる。
かかるアセトアセチル化反応は、例えばDMSO等の溶媒にPVA系樹脂を均一に溶解して行う均一反応や、固体状のPVA系樹脂に液状、あるいは気体状のジケテンを反応させる不均一反応によって行うことができるが、工業的には反応後の生成物の分離、洗浄等が容易である点から、後者の不均一系の反応が好ましく用いられる。
【0020】
なお、かかる不均一反応に用いるPVA系樹はジケテンが均一に吸着・吸収され、均一に反応し、反応率が向上するために、粉末状、なかんずく粒径分布が狭いものが好ましい。粒度としてはJIS標準篩にて、7メッシュパス〜450メッシュオン、さらには、10メッシュパス〜450メッシュオン、特には10メッシュパス〜320メッシュオンのものが好ましい。
【0021】
また、該PVA系樹には製造工程中のアルコール類、エステル類及び水分を数%含んでいる場合があり、これらの成分中にはジケテンと反応して、ジケテンを消費し、ジケテンの反応率を低下させるものがあるので、反応に供する際には、加熱、減圧操作を行うなどして可及的に減少させてから使用することが望ましい。
【0022】
PVA系樹粉末とジケテンを反応させる方法としては、該PVA系樹脂とガス状あるいは液状のジケテンを直接反応させても良いし、有機酸を該PVA系樹脂粉末に予め吸着吸蔵せしめた後、不活性ガス雰囲気下で液状又はガス状のジケテンを噴霧、反応するか、またはPVA系樹粉末に有機酸と液状ジケテンの混合物を噴霧、反応するなどの方法が用いられる。
中でも、PVA系樹脂に有機酸を吸着吸蔵させる方法を用いることにより、ジケテンがPVA系樹脂の内部に速やかに浸透することから、かかる方法が好ましく用いられる。
【0023】
かかる有機酸としては酢酸が最も好ましいが、これのみに限られるものではなく、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸等も任意に使用される。
有機酸の量は反応系内のPVA系樹粉末が吸着及び吸蔵しうる限度内の量、換言すれば反応系の該樹脂と分離した有機酸が存在しない程度の量が好ましく、変性量あるいはPVA系樹脂の結晶化度を考慮して添加量を決める必要があるが、具体的には、該PVA系樹脂100重量部に対して0.1〜80重量部、好ましくは、0.5〜50重量部、特に好ましくは5〜20重量部の有機酸を共存させるのが適当である。有機酸の量が少なすぎると有機酸を共存させる効果が得難く、一方有機酸が過剰に存在すると反応後の有機酸の除去に多量の洗浄溶剤が必要となり、経済的ではない。
【0024】
有機酸をPVA系樹に均一吸着、吸蔵するには、有機酸を単独で該PVA系樹脂に噴霧する方法、適当な溶剤に有機酸を溶解しそれを噴霧する方法等、任意の手段が実施可能である。
【0025】
PVA系樹脂とジケテンとの反応条件としては、該PVA系樹脂粉末に液状ジケテンを噴霧等の手段によって均一に吸着、吸収せしめる場合は、不活性ガス雰囲気下、温度10〜120℃に加温し、所定の時間撹拌あるいは流動状態を継続することが好ましい。
【0026】
またジケテンガスを反応させる場合、接触温度は20〜250℃、好ましくは、40〜200℃であり、ガス状のジケテンがPVA系樹脂との接触時に液化しない温度とジケテン分圧条件下に接触させることが好ましいが、一部のガスが液滴となることは、なんら支障はない。
接触時間は接触温度に応じて、即ち温度が低い場合は時間が長く、温度が高い場合は、時間が短くてよいのであって、1分〜6時間の範囲から適宜選択する。
【0027】
ジケテンガスを供給する場合には、ジケテンガスそのままか、ジケテンガスと不活性ガスとの混合ガスでも良く、PVA系樹脂に該ガスを吸収させてから昇温しても良いが、該樹脂を加熱しながら、あるいは加熱した後に該ガスを接触させるのが好ましい。
【0028】
かかる反応の触媒としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、第一アミン、第二アミン、第三アミンなどの塩基性化合物が有効であり、PVA系樹脂に対し0.1〜10重量%である。なお、PVA系樹脂は、通常製造時の副生成物として酢酸ナトリウムを含んでおり、それを利用することも可能である。また、触媒量が多すぎるとジケテンの副反応が起こりやすく好ましくない。
【0029】
また、反応装置としては、加温可能で撹拌機の付いた装置であれば用いることができる。例えば、ニーダー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、その他各種ブレンダー、撹拌乾燥装置である。
【0030】
〔グリオキシル酸塩〕
次に、本発明で用いられるグリオキシル酸塩について説明する。
かかるグリオキシル酸塩としては、グリオキシル酸の金属塩やアミン塩などが挙げられ、金属塩としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅などの遷移金属、その他の亜鉛、アルミニウムなどの金属とグリオキシル酸の金属塩、また、アミン塩としては、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミンなどのアミン類とグリオキシル酸の塩が挙げられる。
特に、耐水性に優れる架橋高分子が得られる点から金属塩、特にアルカリ金属、およびアルカリ土類金属の塩が好ましく用いられる。
【0031】
また、架橋構造に導入されるカルボン酸塩基の親水性がカルボン酸基と比較して小さいことが架橋高分子の耐水性の向上に寄与しているものと考えており、グリオキシル酸塩としても、より水への溶解度が小さいグリオキシル酸塩が好ましく、具体的には、23℃における水への溶解度が0.01〜100%、特に0.1〜50%、さらに0.5〜20%のものが好ましく用いられる。例えば、グリオキシル酸ナトリウムの溶解度は約17%であり、グリオキシル酸カルシウムの溶解度は約0.7%である。
【0032】
グリオキシル酸塩の製造法は、公知の方法を用いることができるが、例えば、(1)グリオキシル酸の中和反応による方法、(2)グリオキシル酸と酸解離定数がグリオキシル酸より大きい酸の塩との塩交換反応による方法、(3)グリオキシル酸エステルのアルカリ加水分解による方法(例えば、特開2003−300926号公報参照。)などを挙げることができる。特に、グリオキシル酸との中和反応に用いるアルカリ性化合物の水溶性が高い場合は(1)の方法が、また得られるグリオキシル酸塩の水溶性が低く、酸解離定数がグリオキシル酸より大きい酸の塩の水溶性が高い場合は(2)の方法が好ましく用いられる。
【0033】
なお、(1)の方法は通常、水を媒体として行われ、グリオキシル酸とアルカリ性化合物、例えば、各種金属の水酸化物やアミン化合物を水中で反応させ、析出したグリオキシル酸塩を濾別し、乾燥して製造することができる。
また、(2)の方法も一般的に水中で行われ、(1)の方法と同様にしてグリオキシル酸塩を得ることができる。なお、(2)の方法において用いられるグリオキシル酸より解離定数が大きい酸の塩としては、例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム等の脂肪族カルボン酸のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属塩を挙げることができる。
【0034】
また、グリオキシル酸塩を合成したのち、これを単離せずに、系中で上述の(1)あるいは(2)の反応を行い、生成したグリオキシル酸塩をそのまま用いることも可能である。
【0035】
なお、本発明のグリオキシル酸塩には、グリオキシル酸塩の製造に用いられる原料や原料に含まれる不純物、製造時の副生成物等が含まれる可能性があり、例えば、グリオキシル酸、金属水酸化物、アミン化合物、脂肪族カルボン酸塩、グリオキザール、シュウ酸、またはシュウ酸塩、グリコール酸またはグリコール酸塩などが含有される場合がある。
【0036】
特に、原料としてグリオキシル酸を用いる場合には、その製造時の副生成物であるグリオキザールが架橋剤中に含有される可能性があり、かかるグリオキザールの含有量は0重量%であることが最も望ましいが、5重量%以下、特に2重量%以下、さらに1重量%以下であることが好ましい。グリオキザールの含有量が多いと、AA化PVA系樹脂と混合した水溶液の安定性が低下し、ポットライフが短くなったり、得られるAA化PVA系樹脂の架橋物がその保存条件によっては経時で変色する場合がある。
【0037】
また、本発明におけるグリオキシル酸塩は、そのアルデヒド基が、メタノール、エタノールなどの炭素数が3以下のアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの炭素数が3以下のジオール等によってアセタール化、およびヘミアセタール化された化合物を包含するものである。かかるアセタール基、およびヘミアセタール基は、水中、あるいは高温下では容易にアルコールが脱離し、アルデヒド基と平衡状態をとるため、アルデヒド基と同様に各種単量体や官能基と反応し、架橋剤として機能するものである。
【0038】
〔架橋高分子(1)〕
本発明の架橋高分子(1)は、上述のAA化PVA系樹脂をグリオキシル酸塩で架橋してなるものである。
以下、AA化PVA系樹脂のグリオキシル酸塩による架橋高分子(1)について説明する。
かかる架橋高分子(1)において、AA化PVA系樹脂とグリオキシル酸塩の配合割合は特に制限されるものではないが、通常、AA化PVA系樹脂100重量部に対してグリオキシル酸塩を0.01〜30重量部、さらには0.05〜20重量部、特には0.1〜10重量部の範囲が好適に用いられる。AA化PVA系樹脂の配合割合が大きいと、ポリマー間での架橋が十分に行われず、架橋効果が得られない傾向があり、小さすぎると、架橋高分子(1)の架橋密度が低下し、十分な架橋効果が得られない傾向がある。
【0039】
AA化PVA中のアセトアセチル基とグリオキシル酸塩との反応は、アセトアセチル基の二つのカルボニル基にはさまれた活性メチレンがグリオキシル酸塩中のアルデヒド炭素に求核攻撃することによって起こり、その架橋構造部分は下記構造式に示すものであると推測される。
なお、式中のXは金属元素を表わし、グリオキシル酸塩がアルカリ金属のような一価金属の塩である場合を代表的に例示しているが、アルカリ土類金属のような多価金属の場合、他の架橋構造、あるいはフリーのグリオキシル酸と金属を共有している場合がある。
【0041】
かかる架橋高分子(1)は、通常、AA化PVA系樹脂とグリオキシル酸塩とを含有する樹脂組成物水溶液とした後、フィルムやシートを形成、あるいは基材等にコーティングされ、乾燥・熱処理によって架橋し、得られる。
かかる樹脂組成物水溶液は、(i)AA化PVA系樹脂とグリオキシル酸塩の混合物を水に投入して溶解する方法、(ii)予めAA化PVA系樹脂とグリオキシル酸塩を別々に溶解したものを混合する方法、(iii)AA化PVA系樹脂の水溶液にグリオキシル酸塩を添加して混合する方法、などによって調製できる。また、前述のようにグリオキシル酸塩を系中で製造し、単離せずに用いる場合には、かかる反応をAA化PVA系樹脂の存在下で行うことも可能であり、例えば、グリオキシル酸をアルカリ性化合物によって中和してグリオキシル酸塩を得る場合には、AA化PVA系樹脂とグリオキシル酸の混合水溶液にアルカリ性化合物を添加する方法を用いることもできる。
【0042】
なお、上述の水溶液には、本発明の特性を阻害しない範囲内で消泡剤、防黴剤、防腐剤、レベリング剤等の添加剤、各種エマルジョン、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂(例えば、大日本インキ化学工業社製「ハイドランAP−20」、「ハイドランAPX−101H"」など)、ポリウレタン系ディスパージョンやポリエステル系ディスパージョンに代表される各種のポリマーディスパージョン、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリアクリル酸などの水溶性樹脂、グリシジルオキシ基を有する化合物、アルミニウムなどの金属コロイド(例えば、川研ファインケミカル社製「アルミナゾル−10A」)などを配合しても良い。
【0043】
かかる樹脂組成物水溶液の調整方法における水溶液の濃度は1〜30重量%、さらには2〜20重量%、特には3〜15重量%であることが好ましい。かかる樹脂組成物水溶液の濃度が大きすぎると水溶液の粘度が高くなり、各種作業性が低下したり、塗工時等において均一な膜厚が得られにくくなる場合があるため好ましくない。また、濃度が小さすぎると水溶液を塗工する際に、一回の塗布で得られる膜厚が小さくなり、所望の膜圧を得るために複数回の塗工が必要となる場合があるため好ましくない。
【0044】
このようにして調整された樹脂組成物の水溶液は、塗工、注型、浸漬等の公知の方法によって各種用途に適用され、その後、乾燥・熱処理によって架橋反応が行われる。
【0045】
かかる架橋反応の温度は、通常10〜180℃であり、更には15〜150℃、特には20〜120℃であることが好ましい。かかる温度が高すぎるとポリビニルアルコール系樹脂が分解してしまい、着色が起こる場合があるため好ましくない。また、温度が低すぎると架橋反応に時間がかかり、生産性が良くないため好ましくない。
架橋反応時間は、通常0.01〜1000分、更には2〜100分、特には3〜10分であることが好ましい。かかる時間が長すぎると生産性が良くなく、短すぎると十分に架橋した反応物が得られず、架橋が不十分になるため好ましくない。
【0046】
本発明のPVA系樹脂架橋高分子は、コーティング剤、フィルム、シート、接着層、バインダーの各種の用途に適用できるが、フィルムとして用いる場合の厚さは、通常0.01〜100μm、更には0.1〜50μm、特には0.5〜10μmであるのことが好ましい。かかる皮膜が厚すぎると乾燥時間が長くなる傾向があり、また薄すぎると皮膜強度が低下し、架橋皮膜が破れやすくなる傾向がある。
【0047】
〔架橋高分子(2)〕
かくして得られたAA化PVA系樹脂のグリオキシル酸塩による架橋高分子(1)は、次いで紫外線照射されることによって本発明の架橋高分子(2)とされる。
かかる紫外線照射の方法としては、300〜400nm波長域の光を発するキセノンランプ、エキシマランプ、メタルハライドランプ、水素放電管、希ガス放電管等を用いて、照射すればよい。照射する紫外線の量は、波長300〜400nmの積算値として、10mJ/cm
2以上であることが必要で、更には50〜1000mJ/cm
2、特には80〜800mJ/cm
2であることが好ましい。かかる紫外線の量が多すぎると、架橋高分子(1)の分解が生じる場合があり、少なすぎると紫外線照射の効果が十分に得られない場合があり好ましくない。
【0048】
また、紫外線の強度は、通常60〜320W/cm
2、好ましくは80〜240W/cm
2である。かかる強度が強すぎるとフィルムが歪む傾向があり、弱すぎると耐水性が低下する傾向がある。また、紫外線の照射時間は、通常0.01〜100秒、好ましくは1〜60秒、特に好ましくは1〜30秒である。かかる時間が短すぎると耐水性が低下する傾向があり、長すぎるとフィルムが歪む傾向がある。
【0049】
また、かかる紫外線照射する場合の照射距離は、通常1〜3000mm、更には10〜1000mm、特には100〜500mmであることが好ましい。かかる照射距離が遠すぎると、十分に紫外線照射の効果が得られない場合があり、近すぎると皮膜に凹凸がある場合に紫外線照射が困難である場合があるため好ましくない。
【0050】
かかる紫外線照射する雰囲気の温度は、通常0〜120℃、更には10〜100℃、特には20〜80℃であることが好ましく、湿度は通常80%RH以下、更には70%RH以下、特には60%RH以下であることが好ましい。かかる温度が高すぎると架橋高分子(2)の変色が促進される場合があり、低すぎると紫外線照射の効果が十分に得られない場合があるため好ましくない。また、かかる湿度が高すぎると架橋高分子(2)が着色しやすい場合があるため好ましくない。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0052】
実施例1
<架橋高分子(1)の作製>
PVA系樹脂(ケン化度99モル%、平均重合度500)を、ニーダーに100部仕込み、これに酢酸10部を入れ、膨潤させ、回転数20rpmで撹拌しながら、60℃に昇温後、ジケテン18部を2時間かけて滴下し、更に30分間反応させた。反応終了後、メタノールで洗浄した後、70℃で、揮発分が5%以下になるまで乾燥させ、AA化度5.0モル%のAA化PVA系樹脂を得た。
かかるAA化PVA系樹脂の10%水溶液100重量部に、架橋剤としてグリオキシル酸カルシウムを0.57重量部(AA化PVA系樹脂に対して5.7重量%、AA化PVA系樹脂中のAA基に対して1.0当量)添加して混合撹拌し、樹脂組成物水溶液とした。かかる水溶液をコロナ処理PETフィルム上にバーコーターで、コートを行い、120℃で5分乾燥を行い、架橋高分子(1)として、厚さ1μmの皮膜(1−H)を得た。
<紫外線照射>
前記で得られた皮膜(1−H)に、100mJ/cm
2の紫外線を照射して、架橋高分子(2)として皮膜(2−H)を得た。
【0053】
〔耐水性〕
得られた皮膜(2−H)に、23℃の水を、流量2リットル/minのシャワーにて30秒流水に接触させて、表面が溶解した面積を測定し、全皮膜面積に対する割合を計算した。結果を表1に示す。
【0054】
比較例1
実施例1において、紫外線を照射する前の皮膜(1−H)について、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0055】
比較例2
実施例1において、グリオキシル酸カルシウムをグリオキザールに変更した以外は、実施例1と同様にして皮膜を得て、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0056】
比較例3
比較例1において、グリオキシル酸カルシウムをグリオキザールに変更した以外は、比較例1と同様にして皮膜を得て、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0057】
比較例4
実施例1において、グリオキシル酸カルシウムを炭酸ジルコニウムアンモニウムに変更した以外は、実施例1と同様にして皮膜を得て、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
かかる結果から、AA化PVAをグリオキシル酸カルシウムで架橋した架橋高分子(1)に紫外線を照射すると、他の架橋剤で架橋した架橋高分子に紫外線を照射するよりも、耐水性が格段に向上し、塗膜を保持できた。炭酸ジルコニウムアンモニウムを用いた場合には、塗膜が薄すぎたため、塗膜が完全に溶解した。