特許第6076102号(P6076102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6076102-スクラップ磁石の再生方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076102
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】スクラップ磁石の再生方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/00 20060101AFI20170130BHJP
   H01F 41/00 20060101ALI20170130BHJP
   C22B 9/04 20060101ALI20170130BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20170130BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20170130BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20170130BHJP
   C22B 59/00 20060101ALN20170130BHJP
【FI】
   C22B1/00 601
   H01F41/00 ZZAB
   C22B9/04
   C22B7/00 F
   B09B5/00 Z
   B09B3/00 303A
   !C22B59/00
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-8950(P2013-8950)
(22)【出願日】2013年1月22日
(65)【公開番号】特開2014-141693(P2014-141693A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2015年6月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】595181210
【氏名又は名称】株式会社ダイドー電子
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】梅沢 建雄
(72)【発明者】
【氏名】村椿 真紀
【審査官】 藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−040425(JP,A)
【文献】 特開昭56−038438(JP,A)
【文献】 特開昭58−073731(JP,A)
【文献】 特開2005−302745(JP,A)
【文献】 特開昭58−181836(JP,A)
【文献】 特開昭61−087801(JP,A)
【文献】 特開2013−236982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
B09B 1/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間塑性加工を経て製造された磁石体の、製造過程で生じた磁石スクラップの表面を機械的研磨するステップと、機械的研磨された磁石スクラップを真空溶解するステップとを具備し、かつ前記機械的研磨は、前記磁石スクラップと界面活性剤を容器内に装入し回転させて前記磁石スクラップ同士を衝突させるものであるスクラップ磁石の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスクラップ磁石の再生方法に関し、特に熱間塑性加工を経て製造される磁石体の、製造工程で生じる磁石スクラップから再生磁石材料を製造するスクラップ磁石の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間塑性加工によって小型で磁気特性の優れた異方性磁石を得ることができ、特に希土類磁石の製造法として注目されている。この場合、有底状に成形される塑性加工成形体の端部を切断してリング状の磁石としており、希土類金属の高騰化を背景に、切断された端部である磁石スクラップの再生による希土類金属の有効利用が望まれている。
【0003】
ところで、熱間塑性加工では潤滑剤を使用するため、潤滑剤由来の炭化物が磁石スクラップの表面に焼き付いている。また磁石スクラップの切断面は酸化され易いためこの部分に希土類金属の酸化物が生じる。このような磁石スクラップ中における過剰な炭素や酸素の存在は磁石特性を低下させ、また特に酸化物はメルトスピニング法(ジェットキャスト法)で磁粉を製造する際にレードルノズルの詰りの原因にもなるため、磁石スクラップから再生磁石材料を製造する場合には可及的に炭素や酸素を除去しておく必要がある。
【0004】
その方法としては従来、特許文献1や特許文献2に示されているように、磁石スクラップに含有される炭素や酸素を酸化カルシウムや炭化カルシウムの形にして水洗除去するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−38438
【特許文献2】特開昭58−73731
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の方法では、酸化カルシウムや炭化カルシウムは発火し易く取り扱いに細心の注意を要するため作業効率が低下するという問題があり、また水洗時に希土類金属が再酸化されるおそれもあった。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するもので、炭素や酸素の含有量を充分に低下させた再生磁石材料を効率良く得ることができるスクラップ磁石の再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、熱間塑性加工を経て製造された磁石体の、製造過程で生じた磁石スクラップの表面を機械的研磨するステップと、機械的研磨された磁石スクラップを真空溶解するステップとを具備し、かつ前記機械的研磨は、磁石スクラップと界面活性剤を容器内に装入し回転させて磁石スクラップ同士を衝突させるものである。これはすなわち湿式バレル研磨であり、発火を防止するために湿式で行う必要がある。
【0009】
本第1発明において、磁石体を構成する希土類金属等の炭化物や酸化物は磁石スクラップの表面に存在しているから、機械的研磨を行うことによって炭化物や酸化物を従来のように発火等の危険を生じることなく効率的に除去することができる。そして続く真空溶解によって磁石スクラップは新たな炭化物や酸化物を生じることなく溶解され、これよりメルトスピンニング法等で再生磁粉を製造することによって希土類金属等の有効利用を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明のスクラップ磁石の再生方法によれば、炭素や酸素の含有量を充分に低下させた再生磁石材料を効率良く得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】熱間塑性加工磁石の製造過程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0015】
本実施形態においてはNdFeB系の熱間塑性加工磁石を製造する過程で生じた磁石スクラップに本発明方法を適用してその再生を行った。熱間塑性加工磁石の製造は、NdFeB系合金インゴットを溶融させた溶湯1(図1(1))を、冷却されて回転しているロール2上に注いで急冷する公知のメルトスピニング法で薄帯3を得(図1(1))、これを粉砕して微細な原料磁粉とする。この原料磁粉4を室温で冷間プレスし(図1(2))、その後800℃程度で熱間プレス(図1(3))することにより等方性磁石を得、これをさらに熱間塑性加工することによって有底の異方性磁石体5を成形する(図1(4))。この異方性磁石体5の端部52を切断して最終製品としてのリング状磁石51を得る。切断された端部52が磁石スクラップとなる。
【0016】
何も処理しない状態での磁石スクラップにおける、炭素濃度、酸素濃度の一例はそれぞれ4200ppm、200ppmであった(表1の比較例3)。なお、これら濃度の測定は、磁石スクラップを真空溶解(VIF)した後に、炭素濃度は燃焼赤外線吸収法により、酸素濃度は不活性ガス中加熱融解赤外線吸収法により行った。
【0017】
無処理の磁石スクラップからメルトスピニング法で磁粉を製造して当該磁粉をバージン磁粉に15質量%混入して熱間塑性加工磁石を製造しても、製造された磁石は所望の磁気特性が得られない。この場合の所望の磁気特性とは、バージン磁粉対比VSM(試料振動型磁力計)評価において室温磁束密度(Br)値が98%より大きいことである。また、無処理の磁石スクラップでは、再生磁粉を得るための上記メルトスピニングを行う際にレードルノズルの詰りを生じてしまう。これは酸素が充分に低減されていないため、ノズル内周に希土類金属の酸化物が堆積するからである。発明者の実験によれば、炭素濃度が2000ppmを超えると熱間塑性加工で製造された磁石の磁気特性が低下する。この場合、酸素濃度が100ppmを超えると、5回以上リサイクルするうちに炭素濃度が次第に増大して上記磁石の磁気特性が低下する。炭素濃度を低下させると真空溶解した際の酸素濃度も低下させることができ、かつ元素の歩留まりも良くなる。したがって、炭素を除去してその濃度を低下させることが重要である。
【0018】
[実施例]
そこで、上記磁石スクラップ対して本発明方法を適用して、磁石スクラップから機械的研磨と真空溶解によって再生磁石材料を得、当該再生磁石材料からメルトスピニング法で再生磁粉を製造して、これをバージン磁粉に15質量%混入して上記工程で熱間塑性加工磁石を成形すると、当該磁石は充分な磁気特性を有するものとなる。本発明方法の機械的研磨として、具体的には湿式バレルと乾式サンドブラストを使用した。
【0019】
(表1の実施例1、実施例2)
湿式バレルは200Lのバレル容器内に磁石スクラップを100Kg投入し、これに洗浄液を加える。洗浄液は、アルキベンゼンスルホン酸塩等の界面活性剤500gに、有機カルボン酸誘導体等の金属表面処理剤を2L、カルボン酸塩等の錆防止剤を2L、市水を50L混合した混合液である。10rpmの回転速度で上記容器を回転させて2時間研磨した後、15分で2回のすすぎを行い、遠心分離機に10分間かけて水分を除去した。
【0020】
以上の処理を行った磁石スクラップを真空溶解(VIF)して再生磁石材料を得ると、炭素含有量は53ppm(実施例1)ないし95ppm(実施例2)、酸素含有量は70ppm(実施例1)ないし85ppm(実施例2)と充分小さくなる。その結果、当該再生磁石材料からメルトスピニング法で再生磁粉を製造して、これをバージン磁粉に既述の割合で混入して上記工程で熱間塑性加工磁石を成形すると、当該磁石は良好な磁気特性を示すとともに、メルトスピニングを行う際のレードルノズルの詰りも生じない。また、この方法で製造した再生磁粉を5回以上リサイクルしても炭素含有量は増大せず、熱間塑性加工磁石における所望の磁気特性が維持される。
【0021】
(表1の参考例1、参考例2
乾式サンドブラストは、100Lの容器に磁石スクラップを入れ、これにセラミックメディアとしてアルミナ研磨粉を加え、10rpmの回転速度で15分間容器を回転させて上記メディアを磁石スクラップに投射した。
【0022】
以上の処理を行った磁石スクラップを真空溶解(VIF)して再生磁石材料を得ると、炭素含有量は78ppm(参考例1)ないし98ppm(参考例2)、酸素含有量は80ppm(参考例1)ないし87ppm(参考例2)と充分小さくなる。その結果、当該再生磁石材料からメルトスピニング法で再生磁粉を製造して、これをバージン磁粉に既述の割合で混入して上記工程で熱間塑性加工磁石を成形すると、当該磁石は良好な磁気特性を示すとともに、メルトスピニングを行う際のレードルノズルの詰りも生じない。また、この方法で製造した再生磁粉を5回以上リサイクルしても炭素含有量は増大せず、熱間塑性加工磁石における所望の磁気特性が維持される。
【0023】
[比較例]
(表1の比較例1)
上記実施例1,2で説明した湿式バレルで処理した磁石スクラップを真空溶解ではなく大気溶解して再生磁石材料を得たものでは、炭素含有量が2000ppm、酸素含有量が180ppmで、その値は充分小さくはならない。その結果、当該再生磁石材料からメルトスピニング法で再生磁粉を製造して、これをバージン磁粉に既述の割合で混入して上記工程で熱間塑性加工磁石を成形しても、当該磁石は所望の磁気特性が得られない。また、再生磁粉を得るためのメルトスピニング時にレードルノズルの詰りを生じる。
【0024】
(表1の比較例2)
上記参考例1,2で説明した乾式サンドブラストで処理した磁石スクラップを真空溶解ではなく大気溶解して再生磁石材料を得たものでは、炭素含有量が130ppm、酸素含有量が100ppmと低くなり、当該再生磁石材料からメルトスピニング法で再生磁粉を製造して、これをバージン磁粉に既述の割合で混入して上記工程で熱間塑性加工磁石を成形すると、当該磁石は所望の磁気特性が得らるとともに、再生磁粉を得るためのメルトスピニング時にもレードルノズルの詰りを生じることはない。しかしこの方法で製造した再生磁粉を5回以上リサイクルすると、炭素含有量が次第に増大して熱間塑性加工磁石における所望の磁気特性が得られなくなる。
【0025】
【表1】
図1