特許第6076138号(P6076138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076138
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】カーボンブラックと金属との複合体
(51)【国際特許分類】
   C25D 15/02 20060101AFI20170130BHJP
【FI】
   C25D15/02 J
   C25D15/02 F
【請求項の数】11
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-40946(P2013-40946)
(22)【出願日】2013年3月1日
(65)【公開番号】特開2013-216971(P2013-216971A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年12月15日
(31)【優先権主張番号】61/606,170
(32)【優先日】2012年3月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591016862
【氏名又は名称】ローム アンド ハース エレクトロニック マテリアルズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Rohm and Haas Electronic Materials LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン・チャン−ベグリンガー
(72)【発明者】
【氏名】リンダ・スタッパース
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・フランセル
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・ピー.トーベン
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/104268(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/104267(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/056885(WO,A1)
【文献】 特開2006−351434(JP,A)
【文献】 特開2006−348362(JP,A)
【文献】 特開2006−169609(JP,A)
【文献】 特開2010−159372(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/040257(WO,A1)
【文献】 特開2012−049107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D1/00−3/66
C25D5/00−7/12
C25D9/00−9/12
C25D13/00−21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)1種以上のイオン源、アルコールホスファートエステルから選択される1種以上の界面活性剤およびサイズが10nm〜250nmの範囲であるカーボンブラックナノ粒子を含む組成物を提供し、
b)基体を前記組成物と接触させ、並びに
c)前記基体上金属サイズが10nm〜250nmの範囲である前記カーボンブラックナノ粒子との複合体を電気めっきする
ことを含む方法。
【請求項2】
前記複合体の厚さが少なくとも0.1μmである請求項1の方法。
【請求項3】
前記組成物中の前記カーボンブラックナノ粒子の濃度が少なくとも10g/Lである請求項1の方法。
【請求項4】
前記アルコールホスファートエステルが下記式を有する請求項1の方法:
【化1】
(式中、R’は水素、C−C20アルキル、フェニルもしくはC−C20アルキルフェニルであり、R”はC−Cアルキルであり、mは0〜20の整数であり、並びにnは1〜3の整数である。)。
【請求項5】
nが1〜2の整数である、請求項4の方法。
【請求項6】
電気メッキ中の電流密度が0.1ASD以上の範囲である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
電気メッキ中の電流密度が0.1ASD〜100ASDの範囲である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
電気メッキ中の電流密度が0.1ASD〜10ASDの範囲である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
電気めっきが、電流密度が10ASD以上でのジェットめっきによって行われる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
電気めっきが、20ASD〜100ASDでのジェットめっきによって行われる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記複合体が基体上の銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、スズおよびスズ合金の隣に電気めっきされる、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンブラック粒子と金属との複合体に関する。より具体的には、本発明はカーボンブラック粒子がナノメートル範囲にあるカーボンブラック粒子と金属との複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
複合体めっきは、電解および無電解めっきの双方で充分に文書化されかつ広く実践されている技術である。複合体めっきとは金属めっき層内での粒子状物質の含有をいう。複合体めっきの開発および採用は、金属めっき層内での粒子の含有は金属めっき層の様々な特性を増大させることができ、かつ多くの状況においては実際に金属層に全く新たな特性をもたらすことができるという発見に端を発する。様々な金属の粒子は耐摩耗性、潤滑性、耐腐食性、リン光、摩擦が変えられた外観および他の特性をはじめとする特性を金属層に与えることができる。
【0003】
しばらくの間、物品の耐久性を増大させるために使用されるのに最も一般的な複合体はダイヤモンドおよびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の粒子を含んでいた、無電解銀めっき浴から堆積されたものである。長年にわたって、様々な金属および微粒子が、広範囲の様々な複合体を生じさせるのを増大させてきた。特開平9−7445号は、銀金属マトリックス中に分散されたグラファイト粒子の電気めっきされたコーティングフィルムを有する摺動接触子電機部品を開示する。グラファイトに加えて、SiC、WC、ZrB、Al、ZrOおよびCrの粒子がこの複合体中に組み込まれてもよい。また、堆積されたコーティングの硬度を増大させるために、TiO、ThO、MoO、WC、TiC、BCおよびCrBの粒子が含まれてもよい。
【0004】
米国特許第6,635,166号は電解複合体めっき方法を開示する。ダイヤモンドおよびPTFEの微細粒子に加えて、この特許はSiC、ガラス、カオリン、コランダム、Si、様々な金属酸化物、グラファイト、フッ化グラファイト、様々な着色剤および他の金属化合物、例えば、W、MoおよびTiの化合物の粒子を開示する。これら粒子と共に電気めっきされうる金属には、例えば、銀、金、ニッケル、銅、亜鉛、スズ、鉛、クロムおよびこれらの合金が挙げられる。上述の所望の特性を達成するために、アゾ界面活性剤がこの複合体めっき配合物中に含まれて、電気めっき浴中の粒子の含量を増大させることを可能にする。
【0005】
米国特許第7,514,022号は、スイッチおよびコネクタにコーティングを電気めっきするために使用される銀およびグラファイト粒子の複合体を開示する。このグラファイト粒子はサイズが0.1μm〜1.0μmの範囲である。分散剤のような添加剤はこの配合物から除かれる。複合体めっき浴中に分散剤または界面活性剤を含むことは、ある程度まで微細粒子の含有量を増大させることができるが、分散剤の効力が制限されることが知られている。分散剤または界面活性剤は、吸着された状態で電気めっきすることにより堆積された微細粒子上にそのまま留まると考えられる。これは他の微細粒子が堆積させられるのを妨げると考えられる。その代わりに、グラファイト粒子が酸化されて銀電気めっき浴中での粒子の所望の分散物を達成する。この酸化剤には、硝酸、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムおよび過塩素酸ナトリウムが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−7445号公報
【特許文献2】米国特許第6,635,166号明細書
【特許文献3】米国特許第7,514,022号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電気めっき浴中でできるだけ高濃度の微細粒子を達成することに加えて、充分な導電性およびできるだけ小さい直径を有する粒子を使用することも望ましい。これは、電子コネクタのめっきされた嵌合面間の電気的連続性を確実にするのに重要である。しかし、この粒子がより小さくなればなるほど、めっき浴中での他の粒子との凝集がより容易になり、これら粒子はめっき容器の底に素早く沈降し、よってそれらを共堆積(codeposition)できなくする。よって、金属めっき浴において、ナノメートル範囲の直径を有する全ての粒子を共堆積させることが試みられてきた。よって、ナノ粒子が充分な導電性を有し同時に金属めっき浴中で容易に凝集しない、ナノ粒子と金属との複合体についての必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一形態においては、組成物は1種以上の金属イオン源およびカーボンブラックナノ粒子を含む。
【0009】
別の形態においては、方法は1種以上の金属イオン源およびカーボンブラックナノ粒子を含む組成物を提供し、基体を前記組成物と接触させ、並びに前記基体上に1種以上の金属とカーボンブラックナノ粒子との複合体を電気めっきすることを含む。
【0010】
さらなる形態においては、物品は1種以上の金属と前記1種以上の金属内に分散したカーボンブラックナノ粒子とを含む複合体を含む。
【発明の効果】
【0011】
この組成物は、金属または金属合金マトリックス全体にわたるカーボンブラックナノ粒子の実質的に均一な分散物を有する金属または金属合金の複合体のコーティングを形成するための、様々な基体上に電気めっきされうるカーボンブラックナノ粒子と金属イオンとの実質的に安定な分散物である。この複合体は導電性でありかつ多くの従来の金属および金属合金コーティングと比較して向上した耐久性を有する良好な耐摩耗性を提供する。この複合体コーティングは、厳しい摩耗サイクルに曝露されるかまたはスライディングプロセスにおける熱のせいで酸化を受けやすいコート物品(例えば、典型的にはスイッチおよびコネクタにおけるような)に多くの場合使用される金/コバルトおよび金/ニッケルの硬質金コーティングを置き換えるために使用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、銀とグラファイト粒子との複合体の断面の3500倍でのSEMである。
図2図2は、銀とカーボンブラックナノ粒子との複合体の断面の5000倍でのSEMである。
図3図3は、銀、並びに銀とカーボンブラックナノ粒子との接触抵抗(mオーム単位)対接触力(cN単位)のグラフである。
図4図4は、銀とカーボンブラックナノ粒子との複合体の断面の10,000倍でのSEMである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書全体にわたって使用される場合、用語「堆積」、「めっき」および「電気めっき」は交換可能に使用され、用語「組成物」および「浴」は交換可能に使用される。
【0014】
文脈が他のことを明確に示さない限りは、以下の略語は以下の意味を有する:℃=摂氏度;g=グラム;ml=ミリリットル;L=リットル;cm=センチメートル;A=アンペア;dm=デシメートル;ASD=A/dm;μm=ミクロン;nm=ナノメートル;mmol=ミリモル;mオーム=ミリオーム;cN=センチニュートン;SEM=走査型電子顕微鏡写真;およびEO/PO=エチレンオキシド/プロピレンオキシド。全ての範囲は包括的であり、かつこのような数値範囲が合計で100%となることに制約されるのが論理的である場合を除いて任意に組み合わせ可能である。
【0015】
組成物はカーボンブラックナノ粒子と1種以上の金属イオン源との水性分散物である。カーボンブラックは容積に対して高比率の表面積を有する非晶質形態の炭素であって、かつ導電性である。カーボンブラックとは異なり、ダイヤモンドおよびグラファイトは結晶構造である。ダイヤモンドは四面体形状を有する。グラファイトは、各炭素原子が3つの他の炭素に結合されて六角形構造を形成している層状の平坦な結晶構造を有する。グラファイトはダイヤモンドよりかなり柔らかく、この層状の平坦なタイプの構造は面に沿った容易な劈開を促進し、このことがそれを固体潤滑剤として望ましくするが、厳しい摩耗サイクルに曝されるコーティングにおいては全く耐久性ではない。一般に、それは比較的低い摩擦係数を有する。
【0016】
カーボンブラックナノ粒子は5nm〜500nm、好ましくは10nm〜250nm、より好ましくは15nm〜100nm、および最も好ましくは15nm〜30nmの平均直径範囲を有する。カーボンブラックナノ粒子は球状、または楕円形状であるが、繊維またはナノチューブではない。カーボンブラックは様々な商業的ソースから得られることができ、または当該技術分野において知られている1以上の従来の方法によって製造されうる。カーボンブラックは、例えば、コールタールおよびエチレンクラッキングタールのような重質石油製品の不完全燃焼によって、工業的に製造されることができる。商業的に入手可能なカーボンブラックの一つのソースはデグサ(Degussa(登録商標))カーボンブラック(ドイツ国のオリオンエンジニアードカーボンズから入手可能)である。典型的には市販のカーボンブラックは凝集しており、かつ所望の粒子サイズ範囲内にはない。よって、所望の粒子サイズ範囲を達成するために、凝集したカーボンブラック粒子が、当該技術分野において周知の超音波方法および装置を用いて脱凝集されうる。
【0017】
カーボンブラックナノ粒子は1種以上の水溶性金属塩の水溶液に添加されることができ、この水溶液は金属めっき浴において認められる1種以上の界面活性剤および従来の添加剤を含むことができる。一般的には、界面活性剤が最初に水に添加され、次いでカーボンブラックナノ粒子が添加され、そしてこの混合物がめっき浴に入れられる。カーボンブラックナノ粒子は商業的に入手可能な金属電気めっき浴中で混合されてもよい。浴の成分は典型的には、カーボンブラックナノ粒子およびめっき浴成分の実質的に均一な分散物を達成するために、高出力超音波実験室混合装置を用いて混合される。カーボンブラックナノ粒子は少なくとも1g/L、好ましくは少なくとも10g/L、より好ましくは20g/l〜200g/l、最も好ましくは50g/L〜150g/Lの量で金属電気めっき浴中に含まれる。
【0018】
カーボンブラックナノ粒子と共に共堆積されうる金属は1種以上の水溶性金属塩源によって提供される。銀が、カーボンブラックナノ粒子との複合体を形成するのに最も好ましい金属であるが、他の金属および金属合金が複合体を形成するために使用されうることが意図される。金属の堆積のための金属イオンを提供する水溶性金属塩には、これに限定されないが、銀、金、パラジウム、スズ、インジウム、銅およびニッケルが挙げられる。これら水溶性金属塩は様々な供給者から一般的に商業的に入手可能であり、または当該技術分野において周知の方法によって製造されうる。これら金属の合金がカーボンブラックナノ粒子と共堆積されてもよいことが意図される。これら合金には、これに限定されないが、スズ/銀、スズ/銅、パラジウム/ニッケル、およびスズ/銀/銅が挙げられうる。好ましくは、カーボンブラックナノ粒子と共堆積される金属は銀、金、パラジウム、スズ、またはパラジウム/ニッケル合金である。より好ましくは、カーボンブラックナノ粒子と共堆積される金属は銀またはスズである。最も好ましくは、カーボンブラックナノ粒子と共堆積される金属は銀である。一般に、1種以上の金属イオン源が0.1g/L〜200g/Lの量で電気めっき浴中に含まれる。
【0019】
銀イオン源には、これに限定されないが、酸化銀、硝酸銀、銀チオ硫酸ナトリウム、シアン化銀、グルコン酸銀;銀アミノ酸複合体、例えば、銀システイン複合体;アルキルスルホン酸銀、例えば、メタンスルホン酸銀;並びに、銀ヒダントインおよび銀スクシンイミド化合物複合体が挙げられる。シアン化銀は銀イオン源であり得るが、好ましくは銀および銀合金電気めっき浴はシアン化物を含まない。銀イオン源は1g/L〜150g/Lの量で水性浴中に含まれる。
【0020】
金イオン源には、これに限定されないが、金(I)イオンを提供する金塩が挙げられる。この金(I)イオン源には、これに限定されないが、アルカリシアン化金化合物、例えば、シアン化金カリウム、シアン化金ナトリウム、およびシアン化金アンモニウム、アルカリチオ硫酸金化合物、例えば、チオ硫酸金三ナトリウム、およびチオ硫酸金三カリウム、アルカリ亜硫酸金化合物、例えば、亜硫酸金ナトリウム、および亜硫酸金カリウム、亜硫酸金アンモニウム、並びにハロゲン化金(I)および金(III)、例えば、塩化金(I)および三塩化金(III)が挙げられる。典型的には、シアン化金カリウムのようなアルカリシアン化金化合物が使用される。金塩の量は1g/L〜50g/Lの範囲である。
【0021】
様々なパラジウム化合物がパラジウムイオン源として使用されうる。このようなパラジウム化合物には、これに限定されないが、錯化剤としてのアンモニアとのパラジウム錯イオン化合物が挙げられる。このような化合物には、これに限定されないが、ジクロロジアンミンパラジウム(II)、ジニトロジアンミンパラジウム(II)、テトラアンミンパラジウム(II)クロリド、テトラアンミンパラジウム(II)スルファート、テトラアンミンパラジウムテトラクロロパラダート、炭酸テトラミンパラジウムおよび炭酸水素テトラミンパラジウムが挙げられる。さらなるパラジウム源には、これに限定されないが、二塩化パラジウム、二臭化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、パラジウムモノオキシド−水和物、酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、シュウ酸パラジウム、およびギ酸パラジウムが挙げられる。パラジウム化合物はめっき組成物中に10g/L〜50g/Lの量で含まれる。
【0022】
水溶性ニッケル塩には、これに限定されないが、ハロゲン化物、硫酸塩、亜硫酸塩、およびリン酸塩が挙げられる。典型的には、ニッケルハロゲン化物および硫酸塩が使用される。水溶性ニッケル塩は0.1g/L〜150g/Lの量で含まれる。
【0023】
水溶性スズ化合物には、これに限定されないが、ハロゲン化スズ、硫酸スズ、アルカンスルホン酸スズおよびアルカノールスルホン酸スズのような塩が挙げられる。ハロゲン化スズが使用される場合には、このハロゲン化物は塩化物であるのが典型的である。スズ化合物は典型的には硫酸スズ、塩化スズまたはアルカンスルホン酸スズであり、より典型的には硫酸スズまたはメタンスルホン酸スズである。スズ塩は5〜100g/Lの量で組成物中に含まれる。
【0024】
水溶性銅塩には、限定されないが、硫酸銅;ハロゲン化銅、例えば、塩化銅;酢酸銅;硝酸銅;フルオロホウ酸銅;アルキルスルホン酸銅;アリールスルホン酸銅;スルファミン酸銅;並びにグルコン酸銅が挙げられる。典型的なアルキルスルホン酸銅には、(C−C)アルキルスルホン酸銅が挙げられ、より典型的には(C−C)アルキルスルホン酸銅が挙げられる。典型的には、この銅塩はめっき組成物中に10g/L〜180g/Lの量で含まれる。
【0025】
インジウムイオン源には、これに限定されないが、アルカンスルホン酸および芳香族スルホン酸、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびトルエンスルホン酸のインジウム塩、インジウムのスルファミン酸塩、硫酸塩、塩化物塩および臭化物塩、硝酸塩、水酸化物塩、インジウム酸化物、フルオロホウ酸塩、カルボン酸、例えば、クエン酸、アセト酢酸、グリオキシル酸、ピルビン酸、グリコール酸、マロン酸、ヒドロキサム酸、イミノジ酢酸、サリチル酸、グリセリン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酪酸のインジウム塩、アミノ酸、例えば、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グリシン、グルタミン、ロイシン、リシン、スレオニン、イソロイシンおよびバリンのインジウム塩が挙げられる。水溶性インジウム塩は5g/L〜70g/Lの量で組成物中に含まれる。
【0026】
金属イオン源に加えて、電気めっき浴は場合によっては、金属電気めっき浴に典型的に含まれる1種以上の従来の添加剤を含む。この添加剤はめっきされる金属の種類に応じて変化しうる。この添加剤は当該技術分野および文献において既知である。一般に、この従来の添加剤には、これに限定されないが、金属イオンのための錯化剤およびキレート化剤、抑制剤、平滑化剤、安定化剤、酸化防止剤、結晶粒微細化剤(grain refiner)、電気めっき浴のpHを維持するための緩衝剤、電解質、酸、塩基、酸および塩基の塩、界面活性剤並びに分散剤が挙げられる。浴へのカーボンブラックナノ粒子の添加の観点から電気めっき性能を向上させるために、具体的な配合物を調節するために添加剤の適切な量を決定するにはわずかな実験が必要とされるだけでよい。
【0027】
一般的には、電気めっき浴のpHは1未満〜14の範囲であることができ、典型的にはこのpHは1〜12、より典型的には3〜10の範囲である。このpHはカーボンブラックナノ粒子と共堆積される具体的な金属または金属合金、並びに他の浴成分に応じて決まる。このpHを調節するために、従来の無機および有機酸および塩基が使用されうる。
【0028】
従来の界面活性剤および分散剤に加えて、カーボンブラックナノ粒子および金属電気めっき浴は、カーボンブラックナノ粒子の均一な分散物を提供するのを助けるために、1種以上の界面活性剤を含むことができる。一般に、界面活性剤は1g/L〜100g/L、好ましくは1g/L〜60g/Lの量で浴中に含まれうる。この界面活性剤には、これに限定されないが、第二級アルコールエトキシラート、EO/POコポリマー、ベータ−ナフトールエトキシラート、アルキルエーテルホスファート(アルコールホスファートエステルとしても知られている)、およびアルキルジフェニルオキシドジスルホナート、並びに界面活性剤、例えば、セチルトリメチルアンモニウムヒドロゲンスルファート、および第四級ポリビニルイミダゾールが挙げられる。複合体のための金属としてスズが使用される場合には、フルオロカーボンポリマー、例えば、テトラフルオロエチレンフルオロカーボンポリマーがめっき浴中に含まれる。市販の界面活性剤の例はテルジトール(TERGITOL(商標))XD EO/POコポリマー、ポリマックス(POLYMAX(商標))PA−31エトキシ化ベータナフトール、バソトロニック(BASOTRONIC(商標))PVI第四級ポリビニルイミダゾール、およびテフロン(登録商標)テトラフルオロエチレンフルオロカーボンポリマーである。
【0029】
典型的なアルコールホスファートエステルは一般式:
【化1】
を有し、式中、R’は水素、C−C20アルキル、フェニルもしくはC−C20アルキルフェニルであり、R”はC−Cアルキルであり、mは0〜20の整数であり、並びにnは1〜3の整数であり、好ましくはnは1〜2の整数である。銀が複合体のための金属として使用される場合には、銀電気めっき浴は好ましくは、このようなアルコールホスファートエステルを含む。
【0030】
従来の電気めっき方法を用いて、カーボンブラックナノ粒子と1種以上の金属イオンとの複合体が基体上に電気めっきされうる。一般に、電流密度は0.1ASD以上の範囲であり得る。典型的には、電流密度は0.1ASD〜100ASDの範囲である。好ましくは、電流密度は0.1ASD〜10ASDの範囲である。組成物がジェットめっきによって電気めっきされる場合には、電流密度は10ASD以上であることができ、より典型的には20ASD〜100ASDでありうる。電気めっき中の組成物温度は室温〜90℃の範囲であり得る。
【0031】
基体は垂直電気めっきにおけるような電気めっき浴中に浸漬されることができ、または基体がコンベア上に配置されそして浴がこの基体上に噴霧される水平めっきによって浸漬されうる。通常は、タンク内のめっき液をポンプ移送することによって、またはリールツーリール(reel−to−reel)めっきの場合にはサンプタンクからめっきセルにこの溶液をポンプ移送することによって、典型的には電気めっき浴はめっきの際に攪拌される。リールツーリールめっきは金属の選択めっきを可能にする。様々なリールツーリール装置が当業者に知られている。この方法は製造された製品のストリップをめっきすることができ、または原材料のリールが刻まれて部品となる前に原材料のリールをめっきすることができる。電気めっき浴は従来の超音波装置で超音波を用いて攪拌されてもよい。
【0032】
電気めっき時間は、カーボンブラックナノ粒子と共堆積される金属または金属合金の種類に応じて変化する。堆積される複合体は、金属または金属合金のマトリックス全体にわたって実質的に均一に分散したカーボンブラックナノ粒子を伴う金属または金属合金のマトリックスである。好ましくは、この複合体は銀、金、パラジウム、スズ、またはパラジウム/ニッケル合金のマトリックスを有する。より好ましくは、複合体は銀またはスズのマトリックスを有する。最も好ましくは銀のマトリックスを有する。複合体の厚さは金属または金属合金、並びにめっきされる基体の機能に応じて変化しうる。一般的には、複合体の厚さは少なくとも0.1μm、典型的には1μm〜1000μmである。好ましくは、複合体は0.5μm〜100μm、より好ましくは1μm〜50μmの厚さを有する。
【0033】
この複合体は様々な種類の基体の導電性表面の隣に電気めっきされうる。この導電性表面には、これに限定されないが、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、スズおよびスズ合金が挙げられる。この複合体は導電性であり、かつ多くの従来の金属および金属合金コーティングと比べて向上した耐久性を有する耐摩耗性堆積物を提供する。この複合体コーティングは、厳しい摩耗サイクルに曝露されるかまたはスライディングプロセスにおける熱のせいで酸化を受けやすいコート物品(例えば、典型的にはスイッチおよびコネクタにおけるような)に多くの場合使用される金/コバルトおよび金/ニッケルの硬質金コーティングを置き換えるために使用されうる。
【0034】
以下の実施例は本発明を説明するために含まれるが、本発明の範囲を限定することを意図していない。
【実施例】
【0035】
実施例1(比較)
水性銀電気めっき液が以下の表に示されるように調製された。
【表1】
【0036】
ナノストラクチャードアンドアモルファスマテリアルズインコーポレーテッドによって供給された、400nmの平均直径を有するグラファイトナノ粒子が20g/Lの濃度で銀電気めっき浴と混合された。清浄な銅回転ディスクカソードがこの溶液に浸漬され、そして整流器に接続された。対電極は銀アノードであった。この銀電気めっき浴の温度は銀複合体電気めっき中は60℃に維持された。電流密度は1ASDであった。25μmの厚さの銀層が銅回転ディスク上に堆積されるまで電気めっきが行われた。銀めっきされたディスクは電気めっき浴から取り出され、そして脱イオン水で室温ですすがれた。めっき液中にグラファイト粒子が充分に分散されていたことを確実にし、かつグラファイト粒子の組み込みを容易にするために、ドイツ国Hielscher Ultrasonicsによって供給されたUP400S400ワットフル振幅超音波プローブが、電気めっきの前および電気めっき中に、60%振幅かつ0.5デューティーサイクルでカソードの近傍に挿入された。
【0037】
ナノ粒子組み込みは、フィリップスSEM XL−30顕微鏡を用いて、堆積物の断面上がSEMによって検査された。図1は、二次電子を用いて得られた3500倍でのこの銅基体上の複合体層の断面のSEM像である。暗い領域またはバンドは、そこでグラファイトナノ粒子が銀金属マトリックスに組み込まれていたことを示す。SEMによって立証されるように、このナノ粒子組み込みはまばらであってかつ均一ではなかった。グラファイトのナノ粒子は複合体中で凝集していた。
【0038】
実施例2
5g/Lの、平均直径25nmを有するカーボンブラックナノ粒子(オリオンエンジニアードカーボンズから入手可能)が、表2における銀電気めっき浴と混合されたこと以外は、実施例1の方法が繰り返された。めっきパラメータは上述のと同じであった。
【0039】
【表2】
【0040】
銀とカーボンブラックナノ粒子との25μ厚さの複合体を銅基体上にめっきした後で、この基体は切断され、そしてSEMを用いて銀マトリックス中へのナノ粒子組み込みを検討した。図2はこの複合体の5000倍SEM断面(後方散乱電子)である。暗い領域は、カーボンブラックのナノ粒子が銀マトリックスに組み込まれていた領域を示す。図2におけるSEMから明らかなように、実質的な量のナノ粒子が銀マトリックス中に組み込まれていた。この組み込みは実施例1のグラファイト組み込みと比較して均一であった。
【0041】
銀とカーボンブラックナノ粒子との複合体の接触抵抗が決定され、そしてカーボンブラックナノ粒子のない銀堆積物と比較された。それぞれの浴は同じ条件下で準備された。銀およびカーボンブラックナノ粒子めっき浴は上記表2におけるのと同じであった。銀めっき浴はカーボンブラックナノ粒子が配合から除かれた以外は、上記表2におけるのと同じであった。清浄な銅回転ディスクカソードがそれぞれの浴に浸漬され、そして整流器に接続された。対電極は銀アノードであった。これら浴の温度は電気めっき中は60℃に維持された。電流密度は1ASDであった。めっき液中にカーボンブラック粒子が充分に分散されていたことを確実にし、かつカーボンブラック粒子の組み込みを容易にするために、超音波プローブUP400Sが、電気めっきの前および電気めっき中に、60%振幅かつ0.5デューティーサイクルでカソードの近傍に挿入された。25μm厚さの銀または銀複合体の層が銅回転ディスク上に堆積されるまで、電気めっきが行われた。これらめっきされたディスクは電気めっき浴から取り出され、そして脱イオン水で室温ですすがれた。
【0042】
接触抵抗測定は、ドイツ国のWSK Mess−und Datentechnik GmbHによって製造されたKOWI3000接触抵抗試験器を用いて行われた。図3は、様々な接触力(センチニュートン単位)の下での、銀とカーボンブラックナノ粒子との複合体(AgCB)および銀(Ag)の双方のmオーム単位の接触抵抗を示す。この結果は、銀とカーボンブラックナノ粒子との複合体の接触抵抗は加えられた様々な力の範囲にわたって銀堆積物と実質的に同じままであったことを示した。
【0043】
実施例3
50g/Lのカーボンブラックナノ粒子を用いて実施例2の方法が繰り返された。超音波分散を使用する代わりに、粒子分散を容易にするためにめっき液に界面活性剤が添加された。浴配合は表3に開示された。めっきパラメータは実施例2において上述したのと同じであった。
【0044】
【表3】
【0045】
アルコールホスファート界面活性剤を浴に添加することが、カーボンブラックナノ粒子分散物を安定化し、かつ複合体への粒子組み込みを助けた。図4はこの複合体の10,000倍SEM断面である。暗い領域はカーボンブラックのナノ粒子が銀マトリックス中に組み込まれていた領域を示す。図4におけるSEMから明らかなように、実質的な量のナノ粒子が銀マトリックス中に組み込まれていた。この組み込みは実施例1のグラファイト組み込みと比較して均一であった。
図1
図2
図3
図4