(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076158
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】非鉄金属の電解採取方法およびそれに用いるアノードの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 7/02 20060101AFI20170130BHJP
C25C 1/16 20060101ALI20170130BHJP
C25C 1/12 20060101ALI20170130BHJP
C25B 11/04 20060101ALI20170130BHJP
C25B 1/02 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
C25C7/02 306
C25C1/16 A
C25C1/12
C25B11/04 Z
C25B1/02
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-56645(P2013-56645)
(22)【出願日】2013年3月19日
(65)【公開番号】特開2014-181380(P2014-181380A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2016年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】田口 正美
【審査官】
祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−066173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00 − 7/00
C25B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pbを含むアノードを使用して、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、Pbと金属酸化物の混合粉末を圧延して得られた粉末圧延板をアノードとして使用することを特徴とする、非鉄金属の電解採取方法。
【請求項2】
前記Pbと金属酸化物の混合粉末が0.1〜3質量%の金属酸化物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の非鉄金属の電解採取方法。
【請求項3】
前記金属酸化物が、RuO2、IrO2、AgO、MoO2、MnO2、PtO2、Co3O4、TiO2、WO3およびペロブスカイト型酸化物からなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の非鉄金属の電解採取方法。
【請求項4】
前記非鉄金属が亜鉛であり、前記非鉄金属の硫酸塩が硫酸亜鉛であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の非鉄金属の電解採取方法。
【請求項5】
Pbと0.1〜3質量%の金属酸化物の混合粉末を圧延することにより、粉末圧延板からなるアノードを製造することを特徴とする、非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法。
【請求項6】
RuO2、IrO2、AgO、MoO2、MnO2、PtO2、Co3O4、TiO2、WO3およびペロブスカイト型酸化物からなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物とPbの混合粉末を圧延することにより、粉末圧延板からなるアノードを製造することを特徴とする、非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法。
【請求項7】
前記金属酸化物が、RuO2、IrO2、AgO、MoO2、MnO2、PtO2、Co3O4、TiO2、WO3およびペロブスカイト型酸化物からなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物であることを特徴とする、請求項5に記載の非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法。
【請求項8】
前記非鉄金属が亜鉛であることを特徴とする、請求項5乃至7のいずれかに記載の非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法。
【請求項9】
Pbと0.1〜3質量%の金属酸化物の粉末圧延板からなることを特徴とする、非鉄金属の電解採取用アノード。
【請求項10】
RuO2、IrO2、AgO、MoO2、MnO2、PtO2、Co3O4、TiO2、WO3およびペロブスカイト型酸化物からなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物とPbの粉末圧延板からなることを特徴とする、非鉄金属の電解採取用アノード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非鉄金属の電解採取方法およびそれに用いるアノードの製造方法に関し、特に、鉛を含むアノードを使用して硫酸亜鉛や硫酸銅などの非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から亜鉛や銅などの非鉄金属を電解採取する方法およびそのアノードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アノードとして硫酸に不溶なPb板またはPb−Ag合金板を使用して、硫酸亜鉛や硫酸銅などの非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から亜鉛をカソード上に析出または付着させて、亜鉛や銅などの非鉄金属を電解採取する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような非鉄金属の電解採取方法では、アノードとして、PbまたはPb−Ag合金を鋳造した後に圧延して得られる鋳造圧延板が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−20989号公報(段落番号0002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非鉄金属の電解採取において電力コストを低減させるためには、電解採取に要する電力を低減させる必要がある。この所要電力P(Ws)は、槽電圧V
T(V)と電気量i(A)×t(s)との積、すなわち、P(Ws)=V
T(V)×i(A)×t(s)であるから、所要電力Pを低減させるためには、槽電圧V
Tを低減させる必要がある。この槽電圧V
Tは、理論分解電圧E
D(=1.229V)とオーム損E
Dとアノード過電圧η
Aとカソード過電圧η
Cの和(V
T=E
D+E
IR+η
A+η
C)であるから、槽電圧V
Tを低減させるためには、アノード過電圧η
Aを低減させるのが好ましい。このアノード過電圧η
Aの大部分が酸素過電圧であるから、アノード過電圧η
Aを低減させるためには、酸素過電圧を低減させるのが好ましい。
【0005】
しかし、従来の非鉄金属の電解採取方法のように、アノードとしてPbまたはPb−Ag合金の鋳造圧延板を使用する方法では、アノード過電圧の大部分を占める酸素過電圧が比較的高く、槽電圧が比較的高いため、所要電力が高く、電力コストが高くなるという問題があった。
【0006】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、Pbを含むアノードを使用して、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、アノード過電圧の大部分を占める酸素過電圧を低減させて槽電圧を低減させることによって所要電力を低減させることができる、非鉄金属の電解採取方法およびそれに用いるアノードの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、Pbを含むアノードを使用して、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、Pbと金属酸化物の粉末を圧延して得られた粉末圧延板をアノードとして使用することにより、アノード過電圧の大部分を占める酸素過電圧を低減させて槽電圧を低減させることによって所要電力を低減させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明による非鉄金属の電解採取方法は、Pbを含むアノードを使用して、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、Pbと金属酸化物の粉末を圧延して得られた粉末圧延板をアノードとして使用することを特徴とする。
【0009】
この非鉄金属の電解採取方法において、Pbと金属酸化物の粉末が0.1〜3質量%の金属酸化物を含むのが好ましい。また、金属酸化物が、RuO
2、IrO
2、AgO、MoO
2、MnO
2、PtO
2、Co
3O
4、TiO
2、WO
3およびペロブスカイト型酸化物からなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物であるのが好ましい。さらに、非鉄金属が亜鉛であり、非鉄金属の硫酸塩が硫酸亜鉛であるのが好ましい。
【0010】
また、本発明による非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法は、Pbと金属酸化物の粉末を圧延することにより、粉末圧延板からなるアノードを製造することを特徴とする。この非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法において、Pbと金属酸化物の粉末が0.1〜3質量%の金属酸化物を含むのが好ましい。また、金属酸化物が、RuO
2、IrO
2、AgO、MoO
2、MnO
2、PtO
2、Co
3O
4、TiO
2、WO
3およびペロブスカイト型酸化物からなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物であるのが好ましい。さらに、非鉄金属が亜鉛であるのが好ましい。
【0011】
また、本発明による非鉄金属の電解採取用アノードは、Pbと金属酸化物の粉末圧延板からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Pbを含むアノードを使用して、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、Pbと金属酸化物の粉末を圧延して得られた粉末圧延板をアノードとして使用することにより、アノード過電圧の大部分を占める酸素過電圧を低減させて槽電圧を低減させることによって所要電力を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1〜7および比較例で使用した定電流電解システムの概略図である。
【
図2】実施例1〜5および比較例の定電流電解試験におけるアノード電位の経時変化を示す図である。
【
図3】実施例6〜7および比較例の定電流電解試験におけるアノード電位の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による非鉄金属の電解採取方法の実施の形態では、Pbを含むアノードを使用して、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、Pbと金属酸化物の粉末を圧延して得られた粉末圧延板をアノードとして使用する。
【0015】
このようにPbと金属酸化物の粉末を圧延して粉末圧延板を作製すると、従来の鋳造圧延板では内部に混入させるのが困難な金属酸化物が内部に分散した圧延板を作製することができ、この粉末圧延板をアノードとして使用することにより、アノード電位を大幅に低下させることができる。
【0016】
この非鉄金属の電解採取方法において、Pbと金属酸化物の粉末が0.1〜3質量%の金属酸化物を含むのが好ましく、0.2〜2質量%の金属酸化物を含むのがさらに好ましい。また、金属酸化物として、RuO
2、IrO
2、AgO、MoO
2、MnO
2、PtO
2、Co
3O
4、TiO
2、WO
3およびペロブスカイト型酸化物からなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物を使用することができ、RuO
2、IrO
2およびAgOのいずれかを使用するのが好ましい。さらに、非鉄金属が亜鉛であり、非鉄金属の硫酸塩が硫酸亜鉛であるのが好ましい。
【0017】
また、本発明による非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法の実施の形態では、Pbと金属酸化物の粉末を圧延することにより、粉末圧延板からなるアノードを製造する。この非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法において、Pbと金属酸化物の粉末が0.1〜3質量%の金属酸化物を含むのが好ましく、0.2〜2.0質量%の金属酸化物を含むのがさらに好ましい。また、金属酸化物として、RuO
2、IrO
2、AgO、MoO
2、MnO
2、PtO
2、Co
3O
4、TiO
2、WO
3およびペロブスカイト型酸化物からなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物を使用することができ、RuO
2、IrO
2およびAgOのいずれかを使用するのが好ましい。なお、Pbと金属酸化物の粉末として、平均粒径1〜500μmのPbおよび金属酸化物の粉末を使用することができる。さらに、非鉄金属が亜鉛あるのが好ましい。
【実施例】
【0018】
以下、本発明による非鉄金属の電解採取方法およびそれに用いるアノードの製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0019】
[実施例1〜5]
金属酸化物としてそれぞれ0.2質量%(実施例1)、0.4質量%(実施例2)、0.6質量%(実施例3)、0.7質量%(実施例4)、1.0質量%(実施例5)のRuO
2を含む(Pbと金属酸化物の)混合粉末を圧延ローラで圧延して、厚さ0.7mmのPbと金属酸化物の粉末圧延板を得た。
【0020】
[実施例6〜7]
金属酸化物としてそれぞれ0.4質量%のIrO
2(実施例6)、0.4質量%のAgO(実施例7)を含む(Pbと金属酸化物の)混合粉末を圧延ローラで圧延して、厚さ0.7mmのPbと金属酸化物の粉末圧延板を得た。
【0021】
[比較例]
Pbを鋳造して得られた鋳片の表層約2mmを平面研削盤で切削除去した後、圧延装置(日本精機社製のK−2−324)を用いて圧延して、厚さ1mmのPb−Ag合金の鋳造圧延板を得た。
【0022】
実施例1〜7および比較例の粉末圧延板の各々から切り出したアノード板を使用して定電流電解試験を行うために、
図1に示す定電流電解システム10を作製した。なお、
図1において、参照符号12はアノード板、14はカソード板、16は恒温水槽、18は参照電極、20は電解液、22は熱電対、24は析出したZn、26および28はエレクトロメータ、30はポテンショガルバノスタットを示している。
【0023】
この定電流電解システム10において、アノード板12として実施例1〜8および比較例の粉末圧延板から切り出したアノード板をそれぞれ使用するとともに、カソード板14としてAlからなるカソード板を使用し、極間距離を50mmとし、参照電極18としてAg/AgCl電極を使用し、70g/Lの亜鉛と150g/Lの硫酸を含む電解液(電解液20)から、40℃において電流密度60mA/cm
2で定電流電解を5時間行った。これらの定電流電解試験において、エレクトロメータ26から得られた槽電圧(=理論分解電圧+オーム損+アノード過電圧+カソード過電圧)の経時変化、ポテンショガルバノスタット30から得られたアノード電位の経時変化、エレクトロメータ28から得られたカソード電位の経時変化を求めた。これらの定電流電解試験により得られた実施例1〜5および実施例6〜7の標準水素電極(NHE)電位に対する平均アノード電位の経時変化をそれぞれ比較例とともに
図2および
図3に示す。
【0024】
また、平均槽電圧、Ag/AgClに対する平均アノード電位、標準水素電極(NHE)電位に対する平均アノード電位、平均酸素過電圧を算出した。その結果、平均槽電圧は、それぞれ2.45V(実施例1)、2.39V(実施例2)、2.32V(実施例3)、2.16V(実施例4)、2.13V(実施例5)、2.45V(実施例6)、2.36V(実施例7)、2.66V(比較例)であり、実施例1〜7のいずれも比較例より大幅に低くなっていた。また、Ag/AgClに対する平均アノード電位は、それぞれ1.8206V(実施例1)、1.8228V(実施例2)、1.6973V(実施例3)、1.5561V(実施例4)、1.5325V(実施例5)、1.8273V(実施例6)、1.7751V(実施例7)、1.8578V(比較例)であり、実施例1〜7のいずれも比較例より大幅に低くなっていた。また、標準水素電極(NHE)電位に対する平均アノード電位は、それぞれ2.0327V(実施例1)、2.0349V(実施例2)、1.9094V(実施例3)、1.7682V(実施例4)、1.7446V(実施例5)、2.0394V(実施例6)、1.9872V(実施例7)、2.0619V(比較例)であり、実施例1〜7のいずれも比較例より大幅に低くなっていた。さらに、平均酸素過電圧は、それぞれ0.8037V(実施例1)、0.8059V(実施例2)、0.6804V(実施例3)、0.5392(実施例4)、0.5156V(実施例5)、0.8104V(実施例6)、0.7582V(実施例7)、0.8409V(比較例)であり、実施例1〜7のいずれも比較例より大幅に低くなっていた。
【0025】
これらの結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
上述した実施例および比較例の結果から、Pbを含むアノードを使用して、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、Pbと金属酸化物の粉末を圧延して得られた粉末圧延板をアノードとして使用することにより、アノード過電圧の大部分を占める酸素過電圧を低減させて槽電圧を低減させることによって所要電力を低減させることができることがわかる。
【符号の説明】
【0028】
10 定電流電解システム
12 アノード板
14 カソード板
16 恒温水槽
18 参照電極
20 電解液
22 熱電対
24 析出したZn
26、28 エレクトロメータ
30 ポテンショガルバノスタット