(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記耐圧容器の内部に銅もしくは銅合金からなるライナーを、前記耐圧容器上部及び内壁面に接触しないように設けたことを特徴とする請求項1記載の燃焼・爆発試験装置。
【背景技術】
【0002】
可燃性もしくは支燃性の低温液化ガスは、これらを安全に取り扱うために、爆発範囲、表面の触媒効果、最小着火エネルギー、爆発の威力の測定など、燃焼や爆発を起こす条件を測定する必要がある。
燃焼・爆発を伴う試験には、解放系で実施する方法と密閉系で実施する方法がある。
【0003】
解放系とは、燃焼・爆発させる試料を大気に解放して着火させるか、試料を内容器に密閉して着火するが、着火後の爆発によって内容器の少なくとも一部を破損させることで内容器内の圧力を大気に解放するものである。
このような解放系の試験装置の例としては、例えば特許文献1の「爆発限界領域測定装置」や特許文献2の「可燃性ガス・蒸気の爆発試験装置」のような簡易的な設備の例がある。
【0004】
一方、密閉系とは、爆発させる混合ガス等の試料を入れた内容器を耐圧性がある外容器に入れ、爆発の圧力を大気に解放しないものである。このような密閉系の例として、例えば特許文献3に開示された「耐圧容器、及びそれを備える爆破処理施設」がある。この特許文献3には、燃焼排ガスと衝撃波を容器内で受け止めたうえで、排ガスを排出する機構を設ける構造であり、予想される爆発の威力に耐えられる耐圧容器とガスや衝撃波を排出する機構から構成される装置が開示されている。
【0005】
特許文献1,2,3はいずれも常温の可燃性ガスの爆発限界を測定する設備に関するものであり、低温液化ガスに関するものではない。低温液化ガスの爆発実験に関する先行技術としては、液体酸素と液体メタンの混合液を入れたステンレス容器の上方に着火源を設置し、着火爆発させて燃焼形態を検討した例が非特許文献1に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
可燃性の低温液化ガスが含まれる系は、可燃性物質及び支燃性物質の密度が高く、常温のガス燃焼・爆発に比べて非常に大きなエネルギーが放出される。従ってこのような系に対する燃焼・爆発試験はできる限り小規模で実施することが望ましい。
また、低温液化ガスの燃焼・爆発実験は、密閉系での実施が好ましい。なぜなら、小規模で再現精度よく低温液化ガスまたは低温液化ガスが共存する燃焼・爆発を伴う試験を実施するためには、外気からの侵入熱や空気成分の溶解、液化などを防ぐ必要があり、解放系での試験は困難だからである。
さらに、常温または常圧付近での低温液化ガスの着火試験は、低温液化ガスの多くは常温、常圧で気体であるため、周囲の侵入熱により試料とする低温液化ガスが蒸発し、気相、液相とも組成が連続的に変化し、またその変化を数値的に捉えることが難しい。
したがって、低温液化ガスが液体になる極低温での実験が必要となる。
ここで、低温液化ガスまたは低温液化ガスが共存する系として、液体酸素+液体メタン、液体酸素+液体プロパンなど支燃性液化ガスと可燃性液化ガスとの混合系と、液体酸素+固体金属粉、固体樹脂、活性表面をもつ固体混合物を含むこととし、これらを総称して「低温液化ガスまたは低温液化ガスが共存する系」と呼ぶこととする。
【0008】
以上のように、可燃性の低温液化ガスが含まれる系の燃焼・爆発試験は、小規模で、密閉系で、極低温で行うのが好ましい。
【0009】
この点、低温液化ガスの爆発実験に関し、非特許文献1に記載の方法は、大規模で、開放系で、常温で行うというものである。
そのため、非特許文献1の方法では、外気の侵入熱により被検体である低温液化ガスが非常に早い速度で蒸発してしまい、気相液相別の組成を推定できないばかりでなく、多くの試料を必要とするため、試験時の防護壁など安全面の環境整備や安全対策に非常に多くのコストが必要であった。
また、非特許文献1のような方法の場合、蒸発拡散、侵入熱の影響を少なくするためには大量の試料を使用する必要があり、大きなエネルギーの放出することから、試験時の安全確保に莫大なコストを必要とする。
【0010】
上記のように燃焼・爆発に関する試験設備については各種の先行技術が存在するものの、可燃性の低温液化ガスが含まれる系において、燃焼・爆発を伴う試験をより安全に精度よく繰り返し実施できる装置は提案されておらず、かかる装置の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る燃焼・爆発試験装置は、低温液化ガスの燃焼・爆発試験を実施するための装置であって、
外部から冷却されると共に内部が真空引きされる耐圧容器と、
該耐圧容器の内部に配置され、被検体である低温液化ガスを入れる低温液化ガス容器と、
該低温液化ガス容器を前記耐圧容器内に保持する容器保持機構と、
前記耐圧容器の上部に設けられて前記低温液化ガスを燃焼・爆発させた際に発生する燃焼ガスを系外に排出するための圧力解放機構とを有し、
前記圧力解放機構は、前記耐圧容器上部に設けられた開口を閉止すると共に上方に移動可能に設けられた弁体と、該弁体が前記低温液化ガスの燃焼・爆発によって上動したときに変形して弁体の移動エネルギーを吸収する緩衝材とを備えてなることを特徴とするものである。
【0012】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記耐圧容器の内部に銅もしくは銅合金からなるライナーを、前記耐圧容器上部及び内壁面に接触しないように設けたことを特徴とするものである。
【0013】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記緩衝材は、複数の部材からなり、該部材は前記弁体の外周部に対応する位置に配置されたものの高さが高く、内方に配置されたものの高さが低くなっていることを特徴とするものである。
【0014】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記緩衝材は、アルミニウム、鉛、銅またはこれらの合金からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、外部から冷却されると共に内部が真空引きされる耐圧容器と、該耐圧容器の内部に配置され、被検体である低温液化ガスを入れる低温液化ガス容器と、該低温液化ガス容器を前記耐圧容器内に保持する容器保持機構と、前記耐圧容器の上部に設けられて前記低温液化ガスを燃焼・爆発させた際に発生する燃焼ガスを系外に排出するための圧力解放機構とを有し、前記圧力解放機構は、前記耐圧容器上部に設けられた開口を閉止すると共に上方に移動可能に設けられた弁体と、該弁体が上動したときに該弁体に衝突して変形する緩衝材とを備えたことにより、低温液化ガス容器内の低温液化ガスを燃焼・爆発させた際に弁体が上動して緩衝材に変形を与えることによって燃焼・爆発によるエネルギーが吸収され、爆発によって発生する圧力及び衝撃による装置の破損を防止するとともに、耐圧容器及び付帯設備への延焼を防止することが可能となる。これによって、小規模で密閉系での低温液化ガス及び低温液化ガス共存下における着火・燃焼・爆発試験を可能とし、繰り返しの試験を可能としている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施の形態に係る燃焼・爆発試験装置1は、
図1に示すように、外容器3と、外容器3内に設置されて、外部から冷却されると共に内部が真空引きされる耐圧容器5と、耐圧容器5の内部に配置され、被検体である低温液化ガスを入れる低温液化ガス容器7(
図4参照)と、低温液化ガス容器7を耐圧容器5内に保持する容器保持機構9(
図5参照)と、耐圧容器5の上部に設けられて低温液化ガスを燃焼・爆発させた際に発生する燃焼ガスを系外に排出するための圧力解放機構11と、容器保持機構9を介して低温液化ガス容器7を冷却するための液化冷却部13と、耐圧容器5を冷却するための耐圧容器冷却部15と、液化冷却部13と耐圧容器冷却部15を冷却する冷凍機16と、低温液化ガス容器7にガスを供給するガス容器17とを有している。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0018】
<外容器>
外容器3は、円形の底板部3aと、円筒状の側壁部3bと、耐圧容器5が設置される開口部3dが設けられた天板部3cを有している。外容器3内は、真空断熱されている。
【0019】
<耐圧容器>
耐圧容器5は、
図1〜
図3に示すように、有底の筒体からなる耐圧容器本体31と、耐圧容器本体31の開口を覆う蓋体33(
図1参照)と、耐圧容器本体31の内壁面を覆うライナー35(
図3参照)と、耐圧容器本体31の内底に設けられる固体熱伝導部37(
図3参照)とを有している。
耐圧容器5の各構成について詳細に説明する。
【0020】
≪耐圧容器本体≫
耐圧容器本体31は有底の筒体からなり、上端部にフランジ部31aを有している。耐圧容器本体31は、ステンレスなど、強度が高く加工が容易であり、熱伝導がしにくい材質からなる。
なお、耐圧容器本体31は図示しない真空ポンプによって真空引きされて真空になるように構成されている。具体的には、真空ポンプとして例えば油回転ポンプ等を使用し、蓋体33を貫通する配管を介して耐圧容器本体31内部が1×10
-1Pa程度になるよう排気する。
【0021】
被検体が燃焼・爆発した場合は、低温液化ガス容器7は内部に数GPaの爆圧を受け破損するが、耐圧容器本体31にかかる圧力及び衝撃は、低温液化ガス容器7との間に空間を設けることで数MPa程度に減少する。よって、耐圧容器本体31の耐圧強度は、その程度で十分である。
耐圧容器は試料が燃焼・爆発したときに予想される爆発圧力の推算から必要耐圧を決定する。
液体や固体が爆発した場合の、発生ガスと衝撃波を含めた推算方法はすでに多く報告されている。これらは一般の液化酸素及び可燃性液化ガス混合物にも適用可能であり、推算が可能である。この推算値から、密閉系で液化支燃性ガスと液化可燃性ガス混合物が着火・爆発したときに破損の可能性がない容器の耐圧を計算することができる。参考文献として、A.G.STRENG他、Journal of Chemical and Engineering Data,Vol.4,No.2,p.127-April(1959)などがある。
【0022】
爆轟が発生すると圧力解放機構11の動作(詳細は後述する)が間に合わない場合も考えられるので、耐圧容器本体31の耐圧は、爆轟時の衝撃波も含めた耐圧とすることで相互に安全をより確実に担保することができる。
【0023】
≪蓋体≫
蓋体33は、
図1に示すように、板状からなり耐圧容器本体31の開口を覆うようにして設置されている。
蓋体33には厚さ方向に貫通して耐圧容器本体31の内部に連通する開口部33aが設けられており、この開口部33aが本発明の耐圧容器5上部に設けられた開口に相当する。開口部33aには弁体19が挿入されて、開口部33aを閉止できるようになっている。
開口部33aの周囲には、開口部33aの縁に沿って溝部33b(
図8参照)が設けられており、この溝部33bに弁体19と蓋体33間の密閉性を高めるためのO−リングシール等が設置可能になっている。
【0024】
≪ライナー≫
ライナー35は、熱伝導性に優れ酸素ガスの曝轟にも燃焼性の低い材料、例えば銅もしくは真鍮などの銅合金等で形成されている。この理由について以下に説明する。
低温液化ガス及び低温液化ガスが共存する系の試験では、試験条件によっては、可燃物より支燃性液化ガスが大量に存在する系の試験の実施も行われる。そのとき、可燃性液化ガスと反応しない支燃性ガスは、周囲の材料等との燃焼反応を起こす場合がある。特にステンレスや鉄などは、低温下でも酸素ガス雰囲気で爆発的な燃焼反応をおこすため、燃焼ガスと直接接触する耐圧容器5がこれら材料であった場合、耐圧容器5への延焼の可能性がある。この対策として、耐圧容器5内部に銅または銅合金(真鍮)のライナー35を設置する。銅または真鍮は、非常に熱伝導がよく、爆発による熱を局部的に蓄積させることがないため、銅、真鍮への延焼がなく、耐圧容器5への延焼可能性もない。
【0025】
ライナー35は、パンチングメタルでもよく、耐圧容器本体31内壁及び蓋体33に直接触れず、かつコールドベース37a(
図3参照)またはベース板61(
図5参照)に直接接触していることが望ましい。ライナー35が耐圧容器本体31内壁や蓋体33に接触していると、これら耐圧容器本体31内壁面や蓋体33からコールドベース37aやベース板61への伝熱ルートをつくり冷却効果を低下させる。また、コールドベース37aまたはベース板61と接触することで、ライナー35がコールドベース37aまたはベース板61とほぼ同じ温度にできるので、低温液化ガス容器7及び容器保持機構9への輻射熱を低減させる効果が期待できる。
【0026】
≪固体熱伝導部≫
固体熱伝導部37は、低温液化ガス容器7と液化冷却部13の間に設けられ(
図6参照)、冷凍機16によって冷却される液化冷却部13の冷熱を低温液化ガス容器7に伝導するためのものである。
固体熱伝導部37は、
図3に示す通り、耐圧容器本体31の底部を覆うコールドベース37aと、耐圧容器本体31の底部から下方に突出する棒状のコールドロッド37bを有している。固体熱伝導部37は、ライナー35と同素材であることが好ましい。
コールドロッド37bには
図1に示す通り、液化冷却部13が接続されており、冷熱を伝導可能なっている。
固体熱伝導部37はロウ付けやメタルCリングなど、低温下でも異種金属が強固に固着する方法で耐圧容器本体31に固着させる。こうすることで、熱収縮時にもガス漏洩や材料の割れなどが生じることを抑制できる。
【0027】
<低温液化ガス容器>
低温液化ガス容器7は、
図4に示すように、有底の筒状からなり、被検体の低温液化ガスを密封して保持するものである。
低温液化ガス容器7の開口端側にはブロック部53が設けられており、ブロック部53にはガス容器17からガスを供給するためのガス導入管55が接続されている。ブロック部53の側面には、被検体に着火する一対の放電電極57が挿入されている。
低温液化ガス容器7は、
図5に示すように容器保持機構9により保持され、
図6に示すように耐圧容器5中心に設置されることが望ましい。
放電電極57等を用いて被検体に着火すると、低温液化ガス容器7は、被検体の燃焼・爆発により破損する。
【0028】
<容器保持機構>
容器保持機構9は、
図5に示すように、固体熱伝導部37のコールドベース37aに接触することで冷却されるベース板61と、ベース板61から立設する一対の逆L字型からなり、先端部63aが対向するように配置された保持アーム63とを有している。
各保持アーム63は、
図5に示す通り、先端部63a同士をボルト65で連結し、ボルト65によって先端部63a同士の隙間を調整できるようになっている。このため、先端部63aの間にブロック部53を配置してボルト65を締めれば、ブロック部53を挟持して保持することができる。(
図6参照)。
低温液化ガス容器7は、
図6に示すように、容器保持機構9が耐圧容器本体31内のコールドベース37a上に設置されることによって、低温液化ガス容器7が耐圧容器本体31内に配置される。低温液化ガス容器7は、固体熱伝導部37のコールドロッド37bからコールドベース37a、ベース板61、保持アーム63を介して冷却されるようになっている。
【0029】
<圧力解放機構>
圧力解放機構11について、
図1、
図7および
図8に基づいて詳細に説明する。
図7は、圧力解放機構11の一部を図示したものであり、下方から見上げた状態を図示したものである。
図8は、
図7の弁体19が上方に移動した状態の縦断面を図示したものである。
【0030】
圧力解放機構11は、
図1、
図7および
図8に示すように、蓋体33の開口部33aを閉止して耐圧容器5内を真空に保つと共に上方に移動可能に設けられた弁体19と、有底の筒状からなり蓋体33の上方を覆って弁体19が上動可能な空間を形成する飛散防止部材41(
図1参照)、飛散防止部材41に設置されて弁体19が上動したときに弁体19に衝突して変形する緩衝材(緩衝材(高)21と緩衝材(低)23)と、弁体19の移動をガイドする弁体ガイド43とを備えている。
【0031】
≪弁体≫
弁体19は、
図1に示すように、筒部19aと、筒部19aの上端に設けられて筒部19aの外方に張り出す円板部19bを有している。筒部19aの径は耐圧容器5の蓋体33の開口部33aに挿入可能な径に設定されている。
弁体19はアルミニウムなど比較的軽量な金属で形成されることが望ましい。
上述したとおり、蓋体33には溝部33bが設けられており、O−リングシールなどを設置することで、弁体19の自重により弁体19と蓋体33との間を密閉して耐圧容器5内の真空を保つようになっている。
なお、弁体19上部と飛散防止部材41との間にコイルバネ45を設置して、弁体19を蓋体33側へより押圧するようにしてもよい。コイルバネ45の配置としては、例えば
図9に示すように、圧力解放機構円板部19b中央と飛散防止部材41の間であって、コイルバネ45の外側に緩衝材(高)21が配置され、コイルバネ45の内側に緩衝材(低)23が配置されるようにすればよい。
【0032】
≪緩衝材(高)と緩衝材(低)≫
緩衝材(高)21と緩衝材(低)23は、飛散防止部材41における弁体19に対向する面に複数設置され、燃焼・爆発時に弁体19が飛散防止部材41に衝突するエネルギーを、自らが圧縮変形することで吸収して弁体19の破損を防止する。そのため、アルミニウムや鉛、銅またはこれらの合金など比較的柔らかい材料が適しており、また形状としては円錐形、角錐形等の先細の形状のものが好ましい。
【0033】
緩衝材(高)21は緩衝材(低)23よりも高さが高く設定されており、緩衝材(高)21は外周部に、緩衝材(低)23は内方に配置されている。このように配置する理由について以下に説明する。
圧力解放機構11の弁体19は、燃焼・爆発時の爆風及び衝撃波を受けて上方に移動するが、常に閉止時の姿勢(水平姿勢)を維持したまま上昇するわけではなく、
図10(a)に示すように傾くことがほとんどである。この場合、弁体19の円板部19bはまず、外周部に配置されている緩衝材(高)21に衝突する。衝突により圧縮強度の弱い緩衝材頂部が徐々に圧縮破壊されるが、変形するにつれて強度が増すので、
図10(b)に示すように、弁体19が水平になるように姿勢が修正される。仮に、緩衝材の高さが均等な場合、
図10(a)に示すように、円板部19bが外周部にある緩衝材に衝突した後すぐにその内側にある緩衝材に衝突することになるため、弁体19の姿勢矯正効果が小さくなる。つまり、内方に配置する緩衝材の高さを低く設定したのは、弁体19の姿勢矯正を緩衝材が邪魔しないようにするためである。
【0034】
但し、弁体19の衝突エネルギーは非常に大きいので、できるだけ多くの緩衝材によって、弁体19を受け止めることが望ましい。
そのため、飛散防止部材41の内方に緩衝材(低)23を配置して弁体19の衝突により破壊が進むにつれ圧縮に抗する力を増すようになっている。
つまり、緩衝材(高)21は、衝突エネルギーを吸収する役割の他に、弁体19の姿勢を修正する役割も有しており、緩衝材(低)23は弁体19の衝突を受け止めて衝突エネルギーを吸収する役割を有している。
【0035】
なお、外周部と内方とで圧縮強度が異なる材質の緩衝材を設置するようにしてもよい。この場合、外周に設置されるものが、中心側に設置されるものよりも圧縮強度が低い材料を用いる。
なお、上記の説明では、緩衝材(高)21及び緩衝材(低)23を飛散防止部材41に設けた例を説明したが、緩衝材(高)21及び緩衝材(低)23は弁体19と飛散防止部材41の間にあればよく、例えば弁体19の円板部19bの上面に立設するようにしてもよい。
【0036】
≪弁体ガイド≫
弁体ガイド43は、飛散防止部材41の弁体19側の面に設けられる筒状からなり、内側に弁体19の円板部19bが挿入可能になっている。
弁体ガイド43は、弁体19が上昇する際のガイドとして機能すると共に、破壊した緩衝材の飛散を防止する。
【0037】
以上のように構成された本実施の形態に係る燃焼・爆発試験装置1を用いて燃焼・爆発試験する方法の一例を、圧力解放機構11の動作と共に説明する。
まず、外容器3と耐圧容器5との間の真空断熱層を真空にするとともに、低温液化ガス容器7外表面の温度を低温にする。この状態で、ガス(例えばメタンガスや酸素等)を定量導入し、低温液化ガス容器7内の温度及び圧力が平衡になるまで保持する。
【0038】
次に、放電電極57に電流を印加して被検体を爆発させる。すると、燃焼ガス及び衝撃波により弁体19は瞬時に上方に移動して飛散防止部材41の緩衝材(高)21及び緩衝材(低)23に衝突して、エネルギーが吸収される。このとき仮に弁体19が傾いて上昇しても(
図10(a)参照中の太矢印)、緩衝材(高)21に衝突することで次第に垂直に上昇する方向に軌道修正されて(
図10(b)参照中の太矢印)、より多くの緩衝材(高)21および緩衝材(低)23に衝突可能になる。そのため、弁体19の衝突を均等にしっかり受け止めて効果的にエネルギー吸収され、弁体19や耐圧容器5の破損が防止される。
【0039】
以上のように、本実施の形態においては、圧力解放機構11を設け、低温液化ガス容器7内の低温液化ガスを燃焼・爆発させた際に弁体19が上動して緩衝材21、23に変形を与えることによって燃焼・爆発によるエネルギーを吸収するようにしたので、爆発によって発生する圧力及び衝撃による装置の破損を防止するとともに、耐圧容器及び付帯設備への延焼を防止することができる。これによって、小規模で密閉系での低温液化ガス及び低温液化ガス共存下における着火・燃焼・爆発試験を可能とし、繰り返しの試験を可能としている。
【0040】
耐圧容器5の強度を低温液化ガスを燃焼・爆発させた際の圧力や衝撃波に十分に耐え得るものにするとすれば、容器の肉厚が厚くなり、熱容量が大きくなるため耐圧容器5を低温に維持するための冷凍機の能力が大きくなるが、本発明においては、圧力開放機構11を設けているので、これがない場合に比較すると、容器の肉厚を薄くすることが可能になっている。これによって、冷凍機として小型のものを使用でき、この点でも小規模なものにすることができる。
【実施例】
【0041】
本発明の燃焼・爆発試験装置1による燃焼・爆発試験における圧力解放機構11の効果について、具体的な実施例に基づいて説明する。
本実施例においては、耐圧容器5は、その内容積を約5リットルとし、容器内で約3gのCH
4+O
2混合溶液が爆発することを想定し、そのときの爆発時最大圧を2.5MPaGと推定し容器耐圧を作成した。
低温液化ガス容器7は爆発時に容易に破損するよう容器壁をできるだけ薄肉とし、かつ伝熱抵抗をできる限り少なくするため、銅製とした。更に耐圧容器5底部の伝熱プレートに容器保持機構9を設け、低温液化ガス容器7が耐圧容器5の中心にできる限り近くに設置できる構造とした。
また、外容器3と耐圧容器5の間に真空断熱層を設けるとともに、耐圧容器5内部も真空状態を保った。
【0042】
また、飛散防止部材41にアルミニウム製で円錐状の円錐高さ18mmの緩衝材(高)21を27個、同円錐高さ8mmの緩衝材(低)23を11個用意し、これらを接着剤で簡易的に取り付けた。
弁体19はアルミニウム製とし、O−リングにより自重及び真空である耐圧容器5によりシールした。
耐圧容器5のライナー35は厚さ2mmの純銅製とし、開口率20%、口径2mmのパンチングとし、耐圧容器5内壁との隙間を1〜2mmとなるよう耐圧容器5内のコールドベース37a上にガイドをつけて設置した。
【0043】
各部品を組み上げたうえで、外容器3と耐圧容器5との間の真空断熱層を1×10
-3Pa以下の真空状態にし、低温液化ガス容器7外表面の温度が85K以下になるように制御した。この状態で、真空である低温液化ガス容器7内に酸素ガスを定量導入し、低温液化ガス容器7内の温度及び圧力が平衡になるまで保持した。更にメタンガスを導入し、酸素導入と同様十分に平衡になる状態まで保持した。
このときメタンと酸素の導入量はCH
4:O
2=0.03mol:0.07molであった。十分平衡になったときの液化容器内の圧力は90kPa(abs)であった。
【0044】
この状態で、液化容器に装着した放電電極57に電流を印加したところ、低温液化ガス容器7内で爆発がおこり、低温液化ガス容器7が破損した。このときの放電エネルギーは最大で3mJであった。
その結果、低温液化ガス容器7、緩衝材(高)21、緩衝材(低)23、ライナー35、保持アーム63の一部に損傷を観測したが、耐圧容器5などにはダメージは観測されず、破損品を交換することで繰り返し試験に供されるに十分な強度を維持していることが確認された。
上記のことにより、燃焼・爆発試験装置1を用いれば、可燃性の低温液化ガスを含む系での燃焼・爆発試験に関し、精度良く繰り返し実施できることが確認された。