(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076169
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】鍵盤楽器の鍵
(51)【国際特許分類】
G10B 3/12 20060101AFI20170130BHJP
G10H 1/34 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
G10B3/12 130
G10B3/12 100
G10H1/34
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-68127(P2013-68127)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2014-191254(P2014-191254A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年9月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001410
【氏名又は名称】株式会社河合楽器製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100105119
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 孝治
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 勝彦
【審査官】
上田 雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−162279(JP,A)
【文献】
特開2002−162960(JP,A)
【文献】
特開平07−219517(JP,A)
【文献】
特開2005−121746(JP,A)
【文献】
特開2001−042872(JP,A)
【文献】
特開2002−169562(JP,A)
【文献】
特開2001−166769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10B 1/00−3/22
G10H 1/00−7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に延び、左右の側面にそれぞれ凹部が形成されかつこれらの凹部を連通する連通孔が形成された木質部を有する回動自在の鍵本体と、
各々が前記凹部の深さよりも薄い厚さを有する板状に形成されるとともに、左右の前記凹部にそれぞれ収容され、前記連通孔に合致しかつ当該連通孔と同様の径を有する取付孔が形成された2つの重りと、
前記2つの重りの前記取付孔及び前記木質部の前記連通孔を貫通した状態で、当該2つの重りを当該木質部に固定する固定手段と、
を備えていることを特徴とする鍵盤楽器の鍵。
【請求項2】
前記固定手段は、前記2つの重りの取付孔及び前記木質部の連通孔を貫通するリベットを有しており、
前記2つの重りが、前記リベットによるかしめによって、前記木質部に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピアノなどの鍵盤楽器の鍵に関し、特に押鍵時における所望のタッチ重さを得るために重りを設けた鍵盤楽器の鍵に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の鍵盤楽器の鍵として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。この鍵盤楽器の鍵は、前後方向に延びる木製の鍵本体と、この鍵本体に取り付けられ、鉄や銅などから成る金属製の重りとを備えている。鍵本体には、左右方向に貫通し、重りを取り付けるための取付孔が形成されている。この取付孔は、鍵本体の左右方向の全体にわたり、横断面が一定の円形に形成されている。また、重りは、鍵本体の取付孔とほぼ同じサイズの円柱状に形成され、両端面にそれぞれ、径方向の全体にわたって延びる突部が形成されている。
【0003】
上記の重りを鍵本体に取り付ける際には、重りを鍵本体の取付孔に挿入し、重りの両端面をハンマーなどで加圧することにより、両突部を押し潰す。これにより、各突部は圧縮変形し、その長さ方向の両端部が重りの径方向に突出する。その結果、その突出した部分が、鍵本体の取付孔の内周面に食い込み、これにより、重りが鍵本体の取付孔に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−266035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、上記の鍵では、重りの取付けの際に、その両端面の各突部の端部を鍵本体に食い込ませているため、その食い込む位置によっては、それを起点として鍵本体の取付孔の周囲に亀裂が生じるおそれがある。鍵本体にこのような亀裂が生じると、鍵の見栄えが悪くなり、鍵盤楽器の商品性も低下してしまう。また、重りの各突部に対する押し潰しが不十分な場合には、重りが鍵本体から脱落したり、重りが取付孔からはみ出して、隣接する鍵に接触したりするおそれもある。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、押鍵時における所望のタッチ重さを確保しながら、重りの取付けの際に鍵本体の木質部に亀裂を生じさせることなく、重りを鍵本体に容易に取り付けることができ、また、見栄えの良い鍵を得ることができる鍵盤楽器の鍵を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、前後方向に延び、左右の側面にそれぞれ凹部が形成されかつこれらの凹部を連通する連通孔が形成された木質部を有する回動自在の鍵本体と、
各々が凹部の深さよりも薄い厚さを有する板状に形成されるとともに、左右の凹部にそれぞれ収容され、連通孔に合致
しかつ連通孔と同様の径を有する取付孔が形成され
た2つの重りと、2つの重りの取付孔及び木質部の連通孔を貫通した状態で、2つの重りを木質部に固定する固定手段と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、回動自在の鍵本体の木質部には、左右の側面にそれぞれ凹部が形成され、これらの凹部を連通する連通孔が形成されている。また、鍵本体に取り付けられる2つの重りの各々は、
凹部の深さよりも薄い厚さを有する板状に形成され、木質部の凹部
に収容された状態で連通孔に合致
しかつこれと同様の径を有する取付孔が形成されている。これらの重りは、固定手段により、両重りの取付孔及び木質部の連通孔を貫通した状態で、木質部の左右の凹部にそれぞれ収容された状態で固定される。固定手段として、例えばリベットや、ボルト及びナットなどを採用することにより、重りの取付けの際に、重りの一部を鍵本体に食い込ませる従来と異なり、鍵本体の木質部に亀裂を生じさせることなく、押鍵時における所望のタッチ重さを確保しながら、重りを鍵本体に容易に取り付けることができ、また、見栄えの良い鍵を得ることができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵において、固定手段は、2つの重りの取付孔及び木質部の連通孔を貫通するリベットを有しており、2つの重りが、リベットによるかしめによって、木質部に固定されていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、固定手段としてリベットを採用し、そのリベットを、2つの重りの取付孔及び木質部の連通孔に貫通させてかしめることにより、両重りを鍵本体の木質部の左右両側にしっかりと固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態による鍵盤楽器の鍵を示す図であり、(a)は鍵の外観を示す斜視図、(b)は重りの取付け前の状態を拡大して示す斜視図、(c)は重りを取り付けた状態を拡大して示す断面図である。
【
図2】本発明の第2実施形態による鍵盤楽器の鍵を示す図であり、(a)は鍵の外観を示す斜視図、(b)は重りの取付け前の状態を拡大して示す斜視図である。
【
図3】第2実施形態による鍵の変形例を説明するための図であり、(a)は重り用の凹部が木質部の前方に開放した状態、(b)は重り用の凹部が木質部の上方及び前方に開放した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態による鍵盤楽器の鍵を示している。この鍵1は、電子ピアノなどの鍵盤に適用される白鍵であり、図示しない黒鍵とともに、左右方向に多数(例えば88鍵)並設されることにより、鍵盤を構成する。
図1に示すように、この鍵1は、前後方向に延びる鍵本体2と、この鍵本体2に取り付けられた左右2つの重り3、3と、これらの重り3、3を鍵本体2に固定するためのリベット4(固定手段)などを備えている。
【0017】
鍵本体2は、所定種類の木質材から成り、前後方向に所定長さ延びるとともに横断面が矩形の木質部11と、この木質部11の前部に取り付けられた合成樹脂製の鍵カバー12とを有している。木質部11は、前後方向の中央よりも後ろ側の所定位置に、上下方向に貫通するバランスピン孔13が形成されており、このバランスピン孔13を介して、立設するバランスピン(図示せず)に係合することにより、鍵1が回動自在に支持されている。
【0018】
また、
図1(b)及び(c)に示すように、木質部11の左右側面には、それらの前部の所定位置に、外方に開放する凹部14、14が形成されている。これらの凹部14、14は、互いに同一で、所定の形状(本実施形態では丸形)及び深さを有している。また、木質部11には、両凹部14、14を連通し、所定の径を有する連通孔15が形成されている。
【0019】
鍵カバー12は、前後方向に所定長さ延びる上カバー部12aと、この上カバー部12aの前端部から直角に屈曲して下方に延びる前カバー部12bとで構成され、側面形状がL字状に形成されている。そして、この鍵カバー12は、上カバー部12aが木質部11の上面前部を、前カバー部12bが木質部11の前面全体を覆った状態で、これらに接着されている。
【0020】
重り3は、所定種類の金属板(例えば鉄板)から成り、所定の形状及び所定の厚さを有している。具体的には、重り3は、木質部11の凹部14の形状と同様、丸形に形成され、凹部14の深さよりも薄く形成されている。これにより、重り3は、全体が木質部11の凹部14に収容されるようになっている。また、重り3は、貫通した取付孔3aを有しており、この取付孔3aは、木質部11の連通孔15と同様の径を有するとともに、重り3が凹部14に収容された状態において、木質部11の前記連通孔15に合致する位置に形成されている。
【0021】
リベット4は、木質部11の連通孔15及び各重り3の取付孔3aに挿通可能な径を有するとともに所定の長さを有する軸部4aと、この軸部4aの一端部に設けられた頭部4bとを有している。そして、このリベット4により、木質部11の左右の凹部14、14に収容された2つの重り3、3が固定されている。すなわち、両重り3、3の取付孔3a及び木質部11の連通孔15にリベット4の軸部4aを貫通させた状態で、軸部4aの頭部4bと反対側の端部(
図1(c)の上端部)が加圧変形されている。このように、両重り3、3は、リベット4によるかしめにより、木質部11にしっかりと固定されている。
【0022】
以上のように、本実施形態の鍵1によれば、板状の2つの重り3、3を、リベット4によるかしめによって、鍵本体2の木質部11の左右両側に固定するので、重りの取付けの際に、その一部を鍵本体に食い込ませる従来と異なり、鍵本体2の木質部11に亀裂を生じさせることがない。したがって、押鍵時における所望のタッチ重さを確保しながら、両重り3、3を鍵本体2に容易に取り付けることができ、また、亀裂がなく、見栄えの良い鍵1を得ることができる。
【0023】
図2は、本発明の第2実施形態による鍵盤楽器の鍵を示している。なお、以下の説明では、上述した第1実施形態と同一の構成部分については、同一の符号を付すものとする。
【0024】
図2(a)に示すように、この鍵21では、木質部11の前端部に重り22が埋設されている。具体的には、同図(b)に示すように、木質部11の前端部には、上方に開放しかつ横断面が円形の所定サイズの凹部23が形成されている。一方、重り22は、木質部11の凹部23と同一のサイズを有する所定種類の金属(例えば鉄製の丸棒)で構成されており、木質部11の凹部23に嵌入されている。なお、この凹部23に嵌入された重り22は、その上面が木質部11の上面と面一になっている。
【0025】
また、木質部11の前部には、前記第1実施形態の鍵1と同様、鍵カバー12(カバー部)が接着されている。すなわち、鍵カバー12は、上カバー部12aが木質部11の上面前部及び重り22の上面全体を、前カバー部12bが木質部11の前面を覆った状態で、これらに接着されている。
【0026】
なお、木質部11に対する重りの埋設は、例えば
図3(a)及び(b)にそれぞれ示すような凹部33及び43に重り32及び42を嵌入するようにしてもよい。すなわち、同図(a)では、木質部11の前端部に形成された凹部33は、前方に開放しかつ横断面が円形に形成されている。この凹部33に嵌入された重り32は、その前面が木質部11の前面と面一になり、鍵カバー12の前カバー部12bによって覆われる。一方、同図(b)では、木質部11の前端部に形成された凹部43は、上方及び前方に開放し、側面形状が扇状に形成されている。この凹部43に嵌入された重り42は、その上面及び前面がそれぞれ、木質部11のそれらと面一になり、鍵カバー12の上カバー部12a及び前カバー部12bによって覆われる。
【0027】
以上のように、本実施形態の鍵21によれば、木質部11の凹部23(以下、凹部33及び43を含む)に嵌入された重り22(以下、重り32及び42を含む)は、その上面及び/又は前面が木質部11の表面から露出するものの、それらの露出した部分が、鍵カバー12の上カバー部12a及び/又は前カバー部12bによってそれぞれ覆われる。これにより、木質部11に埋設された重り22は、外部から見えることがない。したがって、押鍵時における所望のタッチ重さを確保しながら、見栄えの良い鍵21を得ることができる。
【0028】
また、上記の鍵21は、例えば次のように作製することができる。まず、木質部11の前後方向の長さ及び上下方向の高さとそれぞれ同じ前後方向の長さ寸法及び厚さを有するとともに、左右方向に複数の木質部11分の所定の長さ寸法を有する板状の木質材を準備する。次いで、この木質材の前端部に、左右方向に沿って所定間隔ごとに複数の凹部23を形成し、これらの凹部23に重り22をそれぞれ嵌入する。次いで、複数の鍵カバー12を、複数の重り22を覆うようにしながら、左右方向に並設した状態で木質材の前端部に接着する。なお、複数の鍵カバー12は、互いに左右方向に連なる単一の成形品であってもよい。その後、木質材を、前後方向に沿って、互いに隣接する鍵カバー12、12間で切断する。これにより、木質材から複数の木質部11が切り出され、重り22及び鍵カバー12を有する複数の鍵21を、効率よく作製することができる。
【0029】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。実施形態では、鍵1、21の大部分が木質部11で構成されたいわゆる木製鍵盤の鍵に本発明を適用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、鍵の大部分が合成樹脂で構成されたいわゆるプラスチック鍵盤であっても、その鍵の内部に木質部を有するものにも適用することができる。
【0030】
また、第1実施形態では、本発明の固定手段としてリベット4を採用し、このリベット4のかしめによって、左右2つの重り3、3を鍵本体2の木質部11に取り付けたが、固定手段として、例えばボルト及びナットを採用することも可能である。
【0031】
また、各実施形態で示した鍵本体2及び重り3、22の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。例えば、重り3、22の形状については、丸形や扇形以外に矩形や多角形にすることも可能であり、重り3、22の数については、取り付けられる鍵1に要求されるタッチ重さなどに応じて適宜、増減することが可能である。加えて、重り3、22の材質についても、鉄以外の金属や、比較的比重の大きい種々の材料(金属と合成樹脂との複合材など)を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 鍵
2 鍵本体
3 重り
3a 取付孔
4 リベット(固定手段)
11 木質部
12 鍵カバー(カバー部)
14 凹部
15 連通孔
21 鍵
22 重り
23 凹部
32 重り
33 凹部
42 重り
43 凹部