【実施例1】
【0017】
実施例に係る板ばねの製造方法について説明する。本実施例に係る板ばねWは、自動車等に装備されるリーフ式サスペンションに用いられる。
図2に示すように、板ばねWは板状のばねであり、その長手方向に断面積が変化している。すなわち、板ばねWの幅は一定であるが(
図2(b)参照)、その厚みが長手方向に変化している(
図2(a)参照)。具体的には、板ばねWは、板厚が厚い中央部W1と、板厚が中央部W1よりも薄い端部W2を有している。中央部W1は、板ばねWの中央に設けられており、その板厚は一定となっている。端部W2は中央部W1の両側に設けられており、その板厚は端部に向かって徐々に薄くなっている。なお、
図2に示す板ばねWは湾曲していないが、後述するように、板ばねWは
図1の加熱装置で加熱された後に湾曲状に成形される。すなわち、
図1に示す板ばねWは半製品形状の状態である。また、リーフ式サスペンションには、通常、複数の板ばねを重ね合わせて用いられる(ただし、1枚の板ばねのみが用いられるものもある。)。複数の板ばねを重ね合わせた重ね板ばねをリーフ式サスペンションに用いる場合、一部の板ばね(1枚又は2枚の板ばね(いわゆる、親ばね))の両端には目玉が形成され、それ以外の板ばね(すなわち、
図1に示すような板ばね)には目玉が形成されない。また、これら複数の板ばねを重ね合わせるため、自動車に装備される前に、これら複数の板ばねを組付ける組付け工程が行われる。
【0018】
上述した板ばねWを製造するには、まず、ばね鋼(例えば、SUP6,SUP9,SUP9A,SUP11A等)を所定寸法の板材に加工し、その板材に機械加工(例えば、穿孔加工、圧延加工等)を行って半製品形状とする(
図2に示す状態)。次いで、半製品形状とした板材を加熱して湾曲状に形成し、しかる後、焼入れを行う。次に、焼入れ後の板材に対して焼戻しを行った後、ショットピーニング等の表面処理を行う。その後、表面温度が所定の塗装温度となるまで加熱し、その加熱された表面に塗料を吹付けて塗装する。これにより、板ばねWが製造される。なお、本実施例では、半製品形状とした板材を湾曲状に形成する前に行う加熱処理に、本発明に係る加熱処理を用いる。なお、この加熱処理以外の部分については、従来公知の方法と同様に行うことができるため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0019】
まず、半製品形状の板ばねW(以下、最終製品の板ばねWと区別するために、半製品形状の板ばねWを単に板材Wということとする。)を加熱処理する加熱装置について説明する。
図1に示すように、加熱装置10は、板材Wを搬送する搬送装置(12,・,12)と、搬送装置(12,・,12)により搬送される板材Wを加熱する加熱コイル14a〜14dと、加熱コイル14a〜14dに接続された交流電源16a〜16dと、搬送装置(12,・,12)及び交流電源16a〜16dを制御する制御装置20を備えている。
【0020】
搬送装置(12,・,12)は、板材Wをその長手方向と平行な方向に搬送する。搬送装置(12,・,12)は、複数のローラ対12を備えている(
図1では5つのローラ対12を備えている)。複数のローラ対12は、板材Wの搬送方向(水平方向)に均等な間隔を空けて配置されている。各ローラ対12は、板材Wの上方に配置されたローラと、板材Wの下方に配置されたローラによって構成されている。各ローラは、図示しないモータによって回転駆動されるようになっている。板材Wは、ローラ対12の間に挟まれた状態で各ローラが回転することで搬送される。なお、各ローラの回転方向及び回転速度は制御装置20によって制御される。制御装置20は、ローラの回転方向を制御することで板材Wの搬送方向を変化させ(搬送方向を
図1の右方向又は左方向に切換え)、ローラの回転速度を制御することで板材Wの搬送速度を変化させる。
【0021】
加熱コイル14a〜14dは、搬送装置(12,・,12)により搬送される板材Wの搬送経路上に配置される。加熱コイル14a〜14dは、板材Wの搬送方向(
図1の水平方向)に均等な間隔を空けて配置され、隣接するローラ対12の間に位置している。加熱コイル14a〜14dは、巻線を螺旋状に巻回した円筒状のコイルであり、その内部(内側)を板材Wが通過可能な大きさに形成されている。搬送装置(12,・,12)により搬送される板材Wは、加熱コイル14a〜14dの内部を搬送される。なお、本実施例に係る板ばねWでは、中央部W1の板厚と端部W2の板厚との差が小さい。このため、加熱コイル14a〜14dの内部に板ばねWが配置されたときに、中央部W1と加熱コイル14a〜14dの間に形成される隙間は、端部W2と加熱コイル14a〜14dの間の隙間より小さくなるが、加熱効率の観点からは両者の隙間は略同一とみなすことができる。
【0022】
交流電源16a〜16dのそれぞれは、加熱コイル14a〜14dのそれぞれに接続されている。交流電源16a〜16dのそれぞれは、対応する加熱コイル14a〜14dに交流電流を供給する。交流電源16a〜16dのそれぞれは、対応する加熱コイル14a〜14dに供給する交流電流の電力及び周波数が制御可能となっている。なお、交流電源16a〜16dから供給される交流電流の電力及び周波数は、制御装置20によって制御される。
【0023】
制御装置20は、搬送装置(12,・,12)と交流電源16a〜16dに接続され、搬送装置(12,・,12)と交流電源16a〜16dを制御する。制御装置20は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータにより構成されている。制御装置20は、ROMに格納されたプログラムを実行することで、搬送装置(12,・,12)のローラの回転速度と回転方向を制御し、また、交流電源16a〜16dから加熱コイル14a〜14dに供給される交流電流の電力及び周波数を制御する。
【0024】
なお、加熱装置10は、加熱処理する板材Wの温度を測定するセンサ18a,18bをさらに備えている。センサ18aは、加熱装置10の搬入口に設置され、加熱装置10へ搬入される板材Wの温度を測定する。センサ18bは、加熱装置10の搬出口に設置され、加熱装置10から搬出される板材Wの温度を測定する。センサ18a,18bは、制御装置20に接続されている。センサ18a,18bで検出される板材Wの温度は制御装置20に入力される。後述するように制御装置20は、センサ18a,18bで検出される板材Wの温度に基づいて、搬送装置(12,・,12)と交流電源16a〜16dを制御することができる。なお、センサ18a,18bには、例えば、サーモグラフィセンサを用いることができる。
【0025】
上述した加熱装置10により板材Wを加熱するときの加熱装置10の動作を説明する。板材Wが搬入口から加熱装置10に投入されると、まず、センサ18aは、搬入口に投入された板材Wの温度を測定する。すなわち、センサ18aは、板材Wの各部位の温度を測定し、その測定された板材Wの温度を制御装置20に入力する。
【0026】
次に、制御装置20は、搬送装置(12,・,12)を制御して板材Wを加熱コイル14a〜14dに向かって搬送すると共に、交流電源16a〜16dをオンして加熱コイル14a〜14dへの交流電流の供給を開始する。加熱コイル14a〜14dに交流電流が供給された状態で加熱コイル14a〜14dの内部を板材Wが通過すると、板材Wの内部には渦電流が発生する。板材Wは、その内部に発生した渦電流によって加熱される。加熱された板材Wは、搬出口まで搬送され、センサ18bによってその温度が測定される。センサ18bによって温度が測定された板材Wは、搬出口より加熱装置10から搬出される。なお、制御装置20は、センサ18bで測定された板材Wの温度から、板材Wの各部位が所望の温度に加熱されたか否かを判断する。板材Wの各部位が所望の温度に加熱されている場合は、次の工程に進む。板材Wの各部位が所望の温度に加熱されていない場合は、再度、加熱処理を行う。
【0027】
ここで、板材Wを加熱コイル14a〜14dで加熱する際は、制御装置20は、板材Wの部位に応じて板材Wの搬送速度V(すなわち、搬送装置(12,・,12)のローラの回転速度)と、加熱コイル14a〜14dに供給する交流電流の電力P及び周波数fを変化させる。すなわち、板材Wは、板厚の大きい中央部W1と、中央部W1の板厚より小さく、板厚が漸減する端部W2を有している。また、上述したように本実施例の板ばねWは、中央部W1の板厚と端部W2の板厚との差が小さく、加熱効率の観点からは、中央部W1と加熱コイル14a〜14dの間の隙間は、端部W2と加熱コイル14a〜14dの間の隙間と略同一であるとみなすことができる。このため、板材Wの搬送速度Vを一定とし、かつ、加熱コイル14a〜14dに供給される交流電流の電力P及び周波数fを一定とすると、加熱後の板材Wは中央部W1より端部W2において温度が高くなる。したがって、板材Wの各部位を所望の温度Tに加熱しようとすると、板材Wの各部位の断面積を考慮して、当該部位が加熱コイル14a〜14dを通過する際の搬送速度Va〜Vdと、加熱コイル14a〜14dに供給される交流電流の電力Pa〜Pd及び周波数fa〜fdを変化させなければならない。搬送速度V、電力P及び周波数fは、例えば、次の方法で決定することができる。
【0028】
すなわち、
図2に示すように、板材Wを加熱コイル14a〜14dの長さ(加熱コイルの一端から他端までの長さ)で複数の部位Ri(i=1〜N)に分割し、各部位Riについて搬送速度Viと交流電流の電力Pi及び周波数fiを決める。例えば、まず、板材Wの一番左端となる部位R1が所望の温度T1となるように、搬送速度V1a〜V1dを決定すると共に、部位R1が通過する際の加熱コイル14a〜14dの電力P1a〜P1d及び周波数f1a〜f1dを決定する。ここで、搬送速度V1aは部位R1が加熱コイル14aを通過する際の搬送速度であり、以下、搬送速度V1b,V1c,V1dのそれぞれは、部位R1が加熱コイル14b,14c,14dのそれぞれを通過する際の搬送速度である。また、電力P1a〜P1dは、部位R1が加熱コイル14a〜14dを通過する際の各加熱コイル14a〜14dの電力であり、周波数f1a〜f1dは、部位R1が加熱コイル14a〜14dを通過する際の各加熱コイル14a〜14dの周波数である。上記の事項を決定すると、板材Wの右端から2番目の部位R2の搬送速度V2a〜V2cが確定する(すなわち、3つの加熱コイル14a〜14cを通過する際の搬送速度が確定する。)。したがって、部位R2については、部位R2が所望の温度T2となるように、4つ目の加熱コイル14dを通過する際の搬送速度V2dと、部位R2が各加熱コイル14a〜14dを通過する際の電力P2a〜P2d及び周波数f2a〜f2dを決定する。以下同様に、板材Wの分割した各部位Riについて、当該部位Riが所望の温度Tiとなるように、各加熱コイル14a〜14dを通過する際の搬送速度Via〜Vidと、電力Pia〜Pidと、周波数fia〜fidを決定する。これによって、板材Wの各部位Riを所望の温度Tiに加熱することができる。すなわち、板材Wを、部位Ri毎に所望の温度Tiに加熱することができる。
【0029】
例えば、板材Wの全体を均一に加熱する場合、板材Wの中央部W1を加熱する際に加熱コイル14a〜14dに供給される電力Pa〜Pdを、板材Wの端部W2を加熱する際に加熱コイル14a〜14dに供給される電力Pa〜Pdより大きくしてもよい。このような構成によると、板材Wの厚み(断面積)に応じて加熱コイル14a〜14dに供給される電力が調整されるため、板材Wの全体を略均一に加熱することができる。
【0030】
あるいは、板材Wの中央部W1を加熱する際の搬送速度Va〜Vdは、端部W2を加熱する際の搬送速度Va〜Vdより小さくしてもよい。このような構成によっても、板材Wの厚み(断面積)に応じて各部位の加熱時間が調整され、板材Wの全体を略均一の温度に加熱することができる。
【0031】
さらには、板材Wの中央部W1を加熱する際に加熱コイル14a〜14dに流れる交流電流の周波数fa〜fdを、板材Wの端部W2を加熱する際に加熱コイル14a〜14dに流れる交流電流の周波数fa〜fdより低くしてもよい。加熱コイル14a〜14dを流れる交流電流の周波数が高いと板材Wの表面にのみ渦電流が発生し、加熱コイル14a〜14dを流れる交流電流の周波数が低いと板材Wの表面より深い位置まで渦電流が発生する。このため、板材Wの厚み(断面積)に応じて加熱コイル14a〜14dに流れる交流電流の周波数fa〜fdを変化させることで、板材Wの各部位をその厚みに応じて適切に加熱することができる。
【0032】
上述したように、本実施例の板ばねWの製造方法では、誘導加熱を利用した加熱装置10によって板材Wを加熱する。このため、板材Wを短時間で加熱することができ、加熱処理に要する時間を短縮することができる。また、板材Wの部位毎に、板材Wの搬送速度と、加熱コイル14a〜14dに供給される電力と周波数を制御するため、板材Wの各部位を部位毎に所望の温度に制御することができる。これによって、板材Wに所望の温度勾配を付与したり、板材Wの全体を均一に加熱したりすることができる。
【0033】
例えば、板材Wのうち加熱処理が先に終わる部分(
図1において左側の部分)と、加熱処理が後に終わる部分(
図1において右側の部分)との温度を変えておき、加熱処理終了時の板材Wの温度を全体で均一とすることもできる。すなわち、加熱処理終了時の板材Wの温度が全体で均一となるように、加熱処理が先に終わる部分の温度を高めに設定する一方、加熱処理が後に終わる部分の温度を低めに設定する。これによって、次に行われる工程において、板材Wに温度むらが生じることを抑制することができる。
【0034】
あるいは、板材Wを加熱した後に機械加工(例えば、目玉加工等)を行う場合は、板材Wの端部W2に温度勾配を生じさせ、板材Wの端部の加工抵抗を調整するようにしてもよい。板材Wの端部に目玉を形成する場合は、板材Wの端部のみを大きく変形させなければならない。このため、板材Wの端部に向けて温度が高くなるように加熱し、その後に板材Wの端部に目玉を形成すれば、過大な加工力が不要となり、目玉を成形するための成形型をコンパクトなものとすることができる。
【0035】
なお、上述した実施例では、板材Wを加熱コイル14a〜14dの右側から左側に搬送し、その搬送の過程において板材Wを加熱したが、本明細書に記載の技術は、このような例に限られない。例えば、板材Wを加熱コイル14a〜14dに対して往復動させて、その往復動の過程で加熱してもよい。すなわち、板材Wを加熱コイル14a〜14dの右側から左側の位置まで移動させ、その後に、板材Wを加熱コイル14a〜14dの左側から右側に移動させ、次いで、板材Wを加熱コイル14a〜14dの右側から左側に移動させてもよい。このような構成によると、板材Wの加熱時間の調整代が大きくなるため、板材Wの温度をきめ細かく制御することができる。なお、板材Wを往復動させる回数は、1回に限らず、2回以上に設定してもよい。また、板材Wを往復動する際の搬送速度も種々に変更してもよく、例えば、一方に送るときの搬送速度と、他方に送るときの搬送速度を変えてもよいし、一方に送るときの搬送速度と、他方に送るときの搬送速度とを同一の速度としてもよい。
【0036】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0037】
例えば、上述した実施例の加熱装置10では、板材Wを搬送する間(すなわち、板材Wが停止していない状態)に板材Wを加熱したが、本明細書に開示の技術は、このような例に限られない。例えば、
図3に示す加熱装置30のように、複数の加熱コイル32a〜32iと、これら加熱コイル32a〜32iのそれぞれに接続された交流電源34a〜34iとを設け、加熱コイル32a〜32iに対して板材Wが停止した状態で加熱処理を行ってもよい。この場合、板材Wの各部位の搬送速度は0となって同一であるため、各加熱コイル32a〜32iに供給される電力及び周波数を、板材Wの部位毎に制御する。このような構成によっても、板材Wを部位毎に所望の温度に制御することができる。
【0038】
また、上述した実施例では、板材Wをその長手方向と平行な方向に搬送したが、
図4,5に示す加熱装置30のように、板材Wをその長手方向と直交する方向に搬送するようにしてもよい。この場合、加熱コイル42a〜42cは、その内部(内側)に板材Wの全体が収容される。このような構成によると、加熱装置40を搬送方向にコンパクト化することができる。
【0039】
また、上述した実施例では、中央部W1の板厚と端部W2の板厚との差が小さく、加熱効率の観点からは、板ばねWと加熱コイル14a〜14dとの間に形成される隙間は、中央部W1と端部W2において略同一とみなすことができた。しかしながら、本明細書に開示の技術はこのような例に限られない。例えば、中央部W1の板厚と端部W2の板厚との差が大きい場合は、加熱コイル14a〜14dと板ばねWの間に形成される隙間は、板厚によって有意な差となる。このため、加熱コイル14a〜14dと板ばねWとの間の隙間を考慮して、加熱コイル14a〜14dに供給される電力Pa〜Pdと、搬送速度Va〜Vdを調整してもよい。例えば、加熱コイル14a〜14dと加熱部位との隙間が大きいときは、加熱コイル14a〜14dに供給する電力を大きくし、一方、加熱コイル14a〜14dと加熱部位との隙間が小さいときは、加熱コイル14a〜14dに供給する電力を小さくしてもよい。あるいは、加熱コイル14a〜14dと加熱部位との隙間が大きいときは搬送速度Vを小さくし、一方、加熱コイル14a〜14dと加熱部位との隙間が小さいときは搬送速度Vを大きくしてもよい。
【0040】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。