【実施例】
【0099】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0100】
[第1の実施例]
先ず、第1の実施例として、表1に示す実施例1〜8の磁気記録媒体及び比較例1,2の磁気記録媒体について説明する。
【0101】
【表1】
【0102】
(実施例1)
実施例1では、先ず、洗浄済みのガラス基板(コニカミノルタ社製、外形2.5インチ)を、DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容し
た。続いて、到達真空度1×10
−5Paとなるまで成膜チャンバ内を減圧排気した後、チャンバ内を0.8PaになるようにArガスを導入し、このガラス基板の上に、50Cr−50Ti{Cr含有量50原子%、Ti含有量50原子%}ターゲットを用いて、層厚20nmの密着層を成膜した。ここで使用したガラス基板は、外径が65mm、内径が20mm、平均表面粗さ(Ra)が0.2nmであった。
【0103】
次に、DCスパッタリング法を用いて、軟磁性層とし
て厚さ30nmの57Fe−30Co−13B{Fe含有量57原子%、Co含有量30原子%、B含有量13原子%}膜
、厚さ0.6nmのRu膜
、厚さ30nmの57Fe−30Co−13B{Fe含有量57原子%、Co含有量30原子%、B含有量13原子%}膜をこの順で積層した。その後、中間層とし
て厚さ5nmの95Ni−5W{Ni含有量95原子%、W含有量5原子%}膜
、厚さ10nmのRu膜、さらにチャンバ内の圧力を8.0Paとし
て厚さ10nmのRu膜の順で積層した。その後、チャンバ内の圧力を0.8PaになるようにArガスを調整し、第1の磁性層とし
て厚さ10nmの(80Co−20Pt)95−(SiO
2)5{Co含有量80原子%、Pt含有量20原子%からなる合金95モル%、SiO
2からなる酸化物5モル%}膜を積層した。この段階で保磁力を測定したところ、保磁力5200Oe、残留磁化0.15memu/cm
2であった。
【0104】
次に、DCスパッタリング法を用いて、チャンバ内
が0.8PaになるようにArガス
の量や圧力等を調整し、非磁性層として
、厚さ2nmのSiO
2膜と、ヒートシンク層としての層厚3nmのAu膜を積層した後、RFスパッタリング法により第2の磁性層の
配向を制御する配向制御層とし
て厚さ5nmのMgO膜をこの順で積層した。
【0105】
次に、ランプヒーターを用いて、550℃になるまで基板を加熱した後、速やかにDCスパッタリング法により、第2の磁性層として膜厚5nmの45Fe−45Pt−10C{Fe含有量45原子%、Pt含有量45原子%、C含有量10原子%}膜を積層した。この段階で保磁力を測定したところ、途中に段のあるヒステリシスループが得られた。このループから第1の磁性層のループを差し引いたところ、第2の磁性層の保磁力として17500Oe、残留磁化0.042memu/cm
2が得られた。
【0106】
次に、この上にマスク層としてのC膜を20nm、Si膜を5nmの順で、DCスパッタリング法により形成した。この状態でX線測定をしたところ、Ru(001)、CoPt(001)、MgO(200)の各ピークが観測された。さらに、FePt(001)とFePt(200)のピークが観測された。前者はL1
0由来のピークであり、後者はFCC由来のピークである。後者に対する前者のピーク強度比は1.8であり、第2の磁性層である50Fe−50Pt層がL1
0構造を取っていることが確認できた。
【0107】
次に、この上に、レジストをスピンコート法により塗布し、層厚40nmのレジスト層を形成した。なお、レジストには、エポキシ系紫外線硬化樹脂を用いた。そして、
所望の磁気記録パターン
に対応したポジパターンを有するガラス製のスタンプを用いて、このスタンプを1MPa(約10kgf/cm
2)の圧力でレジスト層に押し付けた状態で、波長365nmの紫外線を、紫外線の透過率が95%以上であるガラス製のスタンプの上部から10秒間照射し、レジスト層を硬化させた。その後、スタンプをレジスト層から分離し、レジスト層に磁気記録パターンに対応した凹凸パターンを転写した。
【0108】
なお、レジスト層に転写した凹凸パターンは、1平方インチあたり2テラビット(Tbpsi)の磁気記録パターンに対応しており、データ領域の凸部が直径10nmの円筒(ドット)状、円周方向に隣り合う凸
部同士の間隔は17.96nm、円周に沿った等間隔配置によりトラックを形成していた。また、途中トラックを横切るように、256本のサーボ領域を設けてあった。レジスト層の層厚は凸部分で35nm、凹部分で約5nmであった。
【0109】
次に、レジスト層の凹部の箇所とその下のシリコン膜をドライエッチングにより除去した。ドライエッチングの条件は、CF
4ガスを40sccm、圧力を0.3Pa、高周波プラズマ電力を300W、RFバイアスを10W、エッチング時間を15秒とした。その後、シリコン膜に空いた開口部を通して、カーボン膜をドライエッチングにより除去した。ドライエッチングの条件は、O
2ガスを40sccm、圧力を0.5Pa、高周波プラズマ電力を200W、RFバイアスを50W、エッチング時間を40秒とした。
【0110】
次に、記録磁性層でマスク層に覆われていない箇所をイオンビームで加工した。イオンビームの条件は、Arガスを5sccm、圧力を0.05Pa、高周波プラズマ電力を200W、加速電圧を1000V、引出し電圧を−500V、加工時間を80秒とした。
【0111】
次に、マスク層のエッチング加工を行った。加工条件は
、ガス化したメタノールを40sccm、圧力を0.5Pa、高周波プラズマ電力を600W、直流バイアスを150V、エッチング時間を30秒とした
。その結果、凸部の磁性層表面が表出し、炭素膜とシリコン膜およびレジスト膜は、除去されていた。凹凸の高さをAFMにより測定したところ、27nm
であった。これにより、第2の磁性層から第1の磁性層までを加工し、さらに中間層のRu層の一部までをエッチングしたこと
が確認
できた。
【0112】
次に、加工後の表面に非磁性層として50Cr−50Ti{Cr含有量50原子%、Ti含有量50原子%}膜を50nm成膜し、その後、イオンビームを用いた平坦化加工により、凸部の記録磁性層を表出させた。イオンビームは、Arガスを30sccm、圧力を2.0Pa、高周波プラズマ電力を300W、加速電圧を300V、引出し電圧を−300Vとした。SIMSによりCoのピークをモニターすることで終点検出を行い、凸部記録磁性層が表出したところで停止した。時間は120秒を要した。このときの平均表面粗さ(Ra)は、別途原子力顕微鏡(AFM)を用いて測定したところ、0.4nm(1μm角視野)であった。
【0113】
次に、CVD法にてDLC膜を厚さ4nm形成し、潤滑剤を2nm塗布することによって、実施例1の磁気記録媒体を作製した。
【0114】
以上の方法で作製された実施例1の磁気記録媒体について電磁変換特性の評価試験を行った。具体的に、電磁変換特性の評価試験は、スピンスタンドを用いて実施した。評価用ヘッドは、主磁極、補助磁極、磁界を発生させるためのコイル、レーザーダイオード、近接場
光発生素子、レーザーダイオードから近接場
光発生素子まで光を導く導波路から構成された記録素子部、及びシールドで挟まれた再生素子から構成される再生素子部からなる。
【0115】
第1の磁性層の記
録は、主磁極から第1の磁性層のダイナミック保磁力よりも高く、第2の磁性層のダイナミック保磁力よりも低い磁界を発生させることで行った。一方、第2の磁性層の記
録は、近接場
光発生素子から発生した近接場光により第2の磁性層を加熱し、第2の磁性層のダイナミック保磁力を第1の磁性層よりも低下させ、第1の磁性層のダイナミック保磁力よりも低い磁界を発生させることで行った。再
生は、再生素子部(TuMR薄膜)を用いて行った。
【0116】
磁気記録媒体には、事前に基板の上下に磁石を有した専用のイレーズ装置を用いて、基板の垂直方向に磁場を印加し、DCイレーズを行った。この磁気記録媒体を毎分7200回転で回転させ、評価用ヘッドを用いて位置決めが正しくできることを確認した。
【0117】
その後、データ領域の信号を読み出し、オシロスコープを用いてフーリエ変換したところ、半径20mmにおいて839.2MHzにピークが得られた。これは、ドット間隔17.96nmに相当する周波数であり、パターンが正しく2Tbpsiの記録密度に相当することがわかった。
【0118】
この周波数に合せて、周波数の異なる2種類の記録/再生テストを行い、それぞれの信号を記録したときのビットエラーレートを測定した。最初は、DCイレーズ状態の磁気記録媒体上に、主磁極のみを使い主磁極からの磁界が媒体表面で6500Oeになるように839.2MHzで高周波信号の書き込みを行った。次に、近接場光を併用し
、主磁極
で発生した磁界が媒体表面で2500Oeになるように
、139.9MHzで低周波信号の書き込みを行った。
【0119】
読み出した合成波信号をフーリエ変換したところ、839.2MHzと139.9MHzの2つのピークが得られた。これにより、第1の磁性層と第2の磁性層とのそれぞれに独立したデータが記録されていることがわかった。この合成波信号について周波数の分離処理を行い、それぞれのビットエラーレートを算出したところ、839.2MHzで10
−6.9、139.9MHzで10
−7.0であった。
【0120】
次に、同じ磁気記録媒体にDCイレーズを施し、今度は近接場光を併用し主磁極からの磁界が媒体表面で2500Oeになるように839.2MHzの高周波信号
の書き込みを行った。次に、主磁極のみを使い主磁極からの磁界が媒体表面で6500Oeになるように139.9MHzの低周波信号の書き込みを行った。
【0121】
読み出した合成波信号をフーリエ変換したところ、839.2MHzと139.9MHzの2つのピークが得られた。これにより、第1の磁性層と第2の磁性層とのそれぞれに独立したデータが記録されていることがわかった。この合成波信号を周波数の分離処理を行い、それぞれのビットエラーレートを算出したところ、839.2MHzで10
−6.9、139.9MHzで10
−7.1であった。
【0122】
以上のように、実施例1の磁気記録媒体では、第1の磁性層と第2の磁性層に別々のデータを記録することで、単位面積当たり倍の密度でデータを記録することが可能である。
【0123】
(実施例2〜実施例8)
実施例2〜実施例8では、第1の磁性層及び第2の磁性層の材料を表1中に示す材料及び膜厚とし、それに合わせてイオンビームの加工時間を調整した以外は、実施例1と同様に磁気記録媒体を作製した。
【0124】
そして、これら実施例2〜実施例8の磁気記録媒体について、実施例1と同様に電磁変換特性の評価試験を行った。これら実施例2〜実施例8の磁気記録媒体における評価結果を表1にまとめて示す。
【0125】
(比較例1)
比較例1では、先ず、洗浄済みのガラス基板(コニカミノルタ社製、外形2.5インチ)を、DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10
−5Paとなるまで成膜チャンバ内を減圧排気した後、チャンバ内を0.8PaになるようにArガスを導入し、このガラス基板の上に、50Cr−50Ti{Cr含有量50原子%、Ti含有量50原子%}ターゲットを用いて、層厚10nmの密着層を成膜した。ここで使用したガラス基板は、外径が65mm、内径が20mm、平均表面粗さ(Ra)が0.2nmであった。
【0126】
次に、DCスパッタリング法を用いて、軟磁性層とし
て厚さ30nmの57Fe−30Co−13B{Fe含有量57原子%、Co含有量30原子%、B含有量13原子%}膜
、厚さ0.4nmのRu膜
、厚さ30nmの57Fe−30Co−13B{Fe含有量57原子%、Co含有量30原子%、B含有量13原子%}膜をこの順で積層した。その後、中間層とし
て厚さ5nmの95Ni−5W{Ni含有量95原子%、W含有量5原子%}膜
、厚さ10nmのRu膜、さらにチャンバ内の圧力を8.0Paとし
て厚さ10nmのRu膜の順で積層した。その後、チャンバ内の圧力を0.8PaになるようにArガスを調整し、第1の磁性層とし
て厚さ10nmの(80Co−20Pt)95−(SiO
2)5{Co含有量80原子%、Pt含有量20原子%からなる合金95モル%、SiO
2からなる酸化物5モル%}膜を積層した。この段階で保磁力を測定したところ、保磁力5200Oe、残留磁化0.15memu/cm
2であった。
【0127】
次に、DCスパッタリング法を用いて、チャンバ内を0.8PaになるようにArガス
の量や圧力等を調整し、非磁性層として
、厚さ2nmのSiO
2膜と、ヒートシンク層として
の厚さ3nmのAu膜を積層し、次にRFスパッタリング法により第2の磁性層の配向制御層とし
て厚さ5nmのMgO膜をこの順で積層した。
【0128】
次に、ランプヒーターを用いて、550℃になるまで基板を加熱した後、速やかにDCスパッタリング法により、第2の磁性層として膜厚5nmの(50原子%Fe−50原子%Pt)90モル%−10モル%Cを積層した。この段階で保磁力を測定したところ、途中に段のあるヒステリシスループが得られた。このループから第1の磁性層のループを差し引いたところ、第2の磁性層の保磁力として17500Oe、残留磁化0.042memu/cm
2が得られた。
【0129】
次に、CVD法にてDLC膜を厚さ4nm形成し、潤滑剤を2nm塗布することによって、比較例1の磁気記録媒体を作製した。
【0130】
以上の方法で作製された比較例1の磁気記録媒体について電磁変換特性の評価試験を行った。具体的に、電磁変換特性の評価試験は、スピンスタンドを用いて実施した。評価用ヘッドは、主磁極、補助磁極、磁界を発生させるためのコイル、レーザーダイオード、近接場
光発生素子、レーザーダイオードから近接場
光発生素子まで光を導く導波路から構成された記録素子部、及びシールドで挟まれた再生素子から構成される再生素子部からなる。
【0131】
第1の磁性層の記
録は、主磁極から第1の磁性層のダイナミック保磁力よりも高く、第2の磁性層のダイナミック保磁力よりも低い磁界を発生させることで行った。一方、第2の磁性層の記
録は、近接場
光発生素子から発生した近接場光により第2の磁性層を加熱し、第2の磁性層のダイナミック保磁力を第1の磁性層よりも低下させ、第1の磁性層のダイナミック保磁力よりも低い磁界を発生させることで行った。再
生は、再生素子部(TuMR薄膜)を用いて行った。
【0132】
磁気記録媒体には、事前に基板の上下に磁石を有した専用のイレーズ装置を用いて、基板の垂直方向に磁場を印加し、DCイレーズを行った。この磁気記録媒体を毎分7200回転で回転させ、評価用ヘッドを用いて位置決めが正しくできることを確認した。
【0133】
その後、データ領域の信号を読み出し、オシロスコープを用いてフーリエ変換したところ、信号は得られなかった。このため、実施例1の磁気記録媒体と同様の手順と周波数で記録/再生テストを行い、それぞれの信号を記録したときのビットエラーレートを測定した。最初は、DCイレーズ状態の磁気記録媒体上に、主磁極のみを使い主磁極からの磁界が媒体表面で6500Oeになるように839.2MHzで高周波信号の書き込みを行った。次に、近接場光を併用し主磁極からの磁界が媒体表面で2500Oeになるように139.9MHzで低周波信号の書き込みを行った。
【0134】
読み出した合成波信号をフーリエ変換したところ、839.2MHzと139.9MHzの2つのピークが得られたが、それぞれの周波数の周辺に、具体的には、830.0MHz〜850MHzの間と、135.0MHz〜145.0MHzの間で、小さいピークが多数見られた。これにより、第1の磁性層と第の2磁性層とのそれぞれに独立したデータが記録されていることがわかったが、個々のデータビットで書き込み位置にズレが生じていることがわかった。この合成波信号について周波数の分離処理を行い、それぞれのビットエラーレートを算出したところ、839.2MHzで10
−2.4、139.9MHzで10
−2.9であった。
【0135】
次に、同じ磁気記録媒体にDCイレーズを施し、今度は近接場光を併用し主磁極
で発生する磁界が媒体表面で2500Oeになるように
、839.2MHzの高周波信号
の書き込みを行った。次に、主磁極のみを使い主磁極からの磁界が媒体表面で6500Oeになるように139.9MHzの低周波信号の書き込みを行った。
【0136】
読み出した合成波信号をフーリエ変換したところ、839.2MHzと139.9MHzの2つのピークが得られたが、それぞれの周波数の周辺に、具体的には830.0MHz〜850MHzの間と、135.0MHz〜145.0MHzとの間で、小さいピークが多数見られた。これにより、第1の磁性層と第2の磁性層とのそれぞれに独立したデータが記録されていることが分かったが、個々のデータビットで書き込み位置にズレが生じていることがわかった。この合成波信号について周波数の分離処理を行い、それぞれのビットエラーレートを算出したところ、839.2MHzで10
−2.9、139.9MHzで10
−2.5であった。
【0137】
(比較例2)
比較例2では、先ず、洗浄済みのガラス基板(コニカミノルタ社製、外形2.5インチ)を、DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10−5Paとなるまで成膜チャンバ内を減圧排気した後、チャンバ内を0.8PaになるようにArガスを導入し、このガラス基板の上に、50Cr−50Ti{Cr含有量50原子%、Ti含有量50原子%}
からなるターゲットを用いて、層厚10nmの密着層を成膜した。ここで使用したガラス基板は、外径が65mm、内径が20mm、平均表面粗さ(Ra)が0.2nmであった。
【0138】
次に、DCスパッタリング法を用いて、軟磁性層とし
て厚さ30nmの57Fe−30Co−13B{Fe含有量57原子%、Cr含有量30原子%、B含有量13原子%}膜
、厚さ0.6nmのRu膜
、厚さ30nmの57Fe−30Co−13B{Fe含有量57原子%、Cr含有量30原子%、B含有量13原子%}膜をこの順で積層した。
【0139】
次に、DCスパッタリング法を用いて、チャンバ内を0.8PaになるようにArガスを調整し、中間層として
、厚さ2nmのSiO
2膜と、ヒートシンク層として
の厚さ3nmのAu膜を積層した後、RFスパッタリング法により第2の磁性層の配向制御層とし
て厚さ5nmのMgO膜をこの順で積層した。
【0140】
次に、ランプヒーターを用いて、550℃になるまで基板を加熱した後、速やかにDCスパッタリング法により、第1の磁性層として膜厚5nmの(50Fe−50Pt)90−C10{Fe含有量50原子%、Pt含有量50原子%からなる合金90モル%、C10モル%}を積層した。この段階で保磁力を測定したところ、保磁力17500Oe、残留磁化0.042memu/cm
2であった。
【0141】
その後、基板温度を100℃まで冷却したあと、チャンバ内の圧力を0.8Paに調整し、非磁性層とし
て厚さ5nmの95Ni−5W{Ni含有量95原子%、W含有量5原子%}膜
、厚さ10nmのRu膜、さらにチャンバ内の圧力を8.0Paとし
て厚さ10nmのRu膜の順で積層した。その後、チャンバ内の圧力を0.8PaになるようにArガス
の量や圧力等を調整し、第2の磁性層とし
て厚さ10nmの(80Co−20Pt)95−(SiO
2)5{Co含有量80原子%、Pt含油量の20原子%からなる合金95モル%、SiO
2からなる酸化物5モル%}膜を積層した。
【0142】
この段階で保磁力を測定したところ、途中に段のあるヒステリシスループが得られた。このループから第1の磁性層のループを差し引いたところ、第2の磁性層の保磁力として5200Oe、残留磁化0.15memu/cm
2が得られた。
【0143】
次に、この上にマスク層としてのC膜を20nm、Si膜を5nmの順で、DCスパッタリング法により形成した。この状態でX線測定をしたところ、Ru(001)、CoPt(001)、MgO(200)の各ピークが観測された。さらに、FePt(001)とFePt(200)のピークが観測された。前者はL1
0由来のピークであり、後者はFCC由来のピークである。後者に対する前者のピーク強度比は1.8であり、第2の磁性層である50Fe−50Pt層がL1
0構造を取っていることが確認できた。
【0144】
次に、この上に、レジストをスピンコート法により塗布し、層厚40nmのレジスト層を形成した。なお、レジストには、エポキシ系紫外線硬化樹脂を用いた。そして、磁気記録パターン
に対応したポジパターンを有するガラス製のスタンプを用いて、このスタンプを1MPa(約10kgf/cm
2)の圧力でレジスト層に押し付けた状態で、波長365nmの紫外線を、紫外線の透過率が95%以上であるガラス製のスタンプの上部から10秒間照射し、レジスト層を硬化させた。その後、スタンプをレジスト層から分離し、レジスト層に磁気記録パターンに対応した凹凸パターンを転写した。
【0145】
なお、レジスト層に転写した凹凸パターンは、1平方インチあたり2テラビット(Tbpsi)の磁気記録パターンに対応しており、データ領域の凸部が直径10nmの円筒(ドット)状、円周方向に隣り合う凸
部同士の間隔は17.96nm、円周に沿った等間隔配置によりトラックを形成していた。また、途中トラックを横切るように、256本のサーボ領域を設けてあった。レジスト層の層厚は凸部分で35nm、凹部分で約5nmであった。
【0146】
次に、レジスト層の凹部の箇所とその下のシリコン膜をドライエッチングにより除去した。ドライエッチングの条件は、CF
4ガスを40sccm、圧力を0.3Pa、高周波プラズマ電力を300W、RFバイアスを10W、エッチング時間を15秒とした。その後、シリコン膜に空いた開口部を通して、カーボン膜をドライエッチングにより除去した。ドライエッチングの条件は、O
2ガスを40sccm、圧力を0.5Pa、高周波プラズマ電力を200W、RFバイアスを50W、エッチング時間を40秒とした。
【0147】
次に、記録磁性層でマスク層に覆われていない箇所をイオンビームで加工した。イオンビームの条件は、Arガスを5sccm、圧力を0.05Pa、高周波プラズマ電力を200W、加速電圧を1000V、引出し電圧を−500V、加工時間を80秒とした。
【0148】
次に、マスク層のエッチング加工を行った。加工条件は
、ガス化したメタノールを40sccm、圧力を0.5Pa、高周波プラズマ電力を600W、直流バイアスを150V、エッチング時間を30秒とした
。その結果、凸部の磁性層表面が表出し、炭素膜とシリコン膜およびレジスト膜は、除去されていた。凹凸の高さをAFMにより測定したところ、27nm
であった。これにより、第2の磁性層から第1の磁性層までを加工し、さらに中間層のRu層の一部までをエッチングしたこと
が確認
できた。
【0149】
次に、加工後の表面に非磁性層として50Cr−50Ti{Cr含有量50原子%、Ti含有量50原子%}膜を50nm成膜し、その後、イオンビームを用いた平坦化加工により、凸部の記録磁性層を表出させた。イオンビームは、Arガスを30sccm、圧力を2.0Pa、高周波プラズマ電力を300W、加速電圧を300V、引出し電圧を−300Vとした。SIMSによりCoのピークをモニターすることで終点検出を行い、凸部記録磁性層が表出したところで停止した。時間は120秒を要した。このときの平均表面粗さ(Ra)は、別途原子力顕微鏡(AFM)を用いて測定したところ、0.4nm(1μm角視野)であった。
【0150】
次に、CVD法にてDLC膜を厚さ4nm形成し、潤滑剤を2nm塗布することによって、比較例2の磁気記録媒体を作製した。
【0151】
以上の方法で作製された比較例2の磁気記録媒体について電磁変換特性の評価試験を行った。具体的に、電磁変換特性の評価試験は、スピンスタンドを用いて実施した。評価用ヘッドは、主磁極、補助磁極、磁界を発生させるためのコイル、レーザーダイオード、近接場
光発生素子、レーザーダイオードから近接場
光発生素子まで光を導く導波路から構成された記録素子部、及びシールドで挟まれた再生素子から構成される再生素子部からなる。
【0152】
第1の磁性層の記
録は、近接場光発生素子から発生した近接場光により表面を加熱し、第1の磁性層の保磁力を低下させ、第2の磁性層のダイナミック保磁力よりも低い磁界を発生させることで行った。一方、第2の磁性層の記
録は、主磁極から第2の磁性層のダイナミック保磁力よりも高く、第1の磁性層のダイナミック保磁力よりも低い磁界を発生させることで行った再
生は、再生素子部(TuMR薄膜)を用いて行った。
【0153】
磁気記録媒体には、事前に基板の上下に磁石を有した専用のイレーズ装置を用いて、基板の垂直方向に磁場を印加し、DCイレーズを行った。この磁気記録媒体を毎分7200回転で回転させ、評価用ヘッドを用いて位置決めが正しくできることを確認した。
【0154】
その後、データ領域の信号を読み出し、オシロスコープを用いてフーリエ変換したところ、信号は得られなかった。このため、実施例1の磁気記録媒体と同様の手順と周波数で記録/再生テストを行い、それぞれの信号を記録したときのビットエラーレートを測定した。最初は、DCイレーズ状態の磁気記録媒体上に、主磁極のみを使い
、主磁極
で発生した磁界が媒体表面で6500Oeになるように
、839.2MHzで高周波信号の書き込みを行った。次に、近接場光を併用し主磁極からの磁界が媒体表面で2500Oeになるように139.9MHzで低周波信号の書き込みを行った。
【0155】
読み出した合成波信号をフーリエ変換したところ、839.2MHzのピークのみ得られ、139.9MHzのピークは得られなかった。また、信号の強度から、第1の磁性層の他、第2の磁性層にも839.2MHzの信号が記録されていることが分った。この合成波信号について周波数の分離処理を行い、ビットエラーレートを算出したところ、839.2MHzで10
−4.8であった。
【0156】
次に、同じ磁気記録媒体にDCイレーズを施し、今度は近接場光を併用し
、主磁極
で発生した磁界が媒体表面で2500Oeになるように
、839.2MHzの高周波信号の書き込みを行った。次に、主磁極のみを使い主磁極からの磁界が媒体表面で6500Oeになるように139.9MHzの低周波信号の書き込みを行った。
【0157】
読み出した合成波信号をフーリエ変換したところ、839.2MHzと139.9MHzの2つのピークが得られた。これにより、第1の磁性層と第2の磁性層とのそれぞれに独立したデータが記録されていることが分かった。ノイズこの合成波信号について周波数の分離処理を行い、それぞれのビットエラーレートを算出したところ、839.2MHzで10
−4.1、139.9MHzで10
−5.6であった。
【0158】
表1に示すように、実施例1と比較例1との比較から、比較例1の磁気記録媒体は、実施例1の磁気記録媒体のように記録磁性層をドット形状に加工していないため、第1の磁性層と第2の磁性層とのそれぞれに書き込まれたデータに位置ずれが生じ、その結果、データの間隔が乱れてしまい、エラーレートが悪化していることがわかる。
【0159】
また、実施例2,3と実施例13,15との比較から、第1の磁性層の保磁力は3000〜6000Oeの範囲にあることが好ましいことがわかる。すなわち、3000Oe未満の場合は、第2の磁性層に対するデータの書き込み時に、第1の磁性層に対するデータの書き換えが生じてしまい、エラーレートが悪化する。一方、第1の磁性層の保磁力が6000Oeを超える場合は、第2の磁性層の保磁力が低い組み合わせにおいて、第1の磁性層に対する書き込み時に、第2の磁性層に対するデータの書き換えが生じてしまい、エラーレートが悪化する。
【0160】
また、実施例5,6と実施例9,10との比較から、第1の磁性層の残留磁化は、0.1〜0.2meumu/cm
2の範囲であることが好ましいことがわかる。すなわち、第1の磁性層の残留磁化が0.1memu/cm
2未満の場合は、再生出力が小さくなり過ぎて、ノイズ信号との区別がつき難くなるため、エラーレートが悪化する。一方、第1の磁性層の残留磁化が0.2memu/cm
2を超える場合は、第1の磁性層の再生出力が大きくなり過ぎて、第2の磁性層の信号が判別し難くなるため、エラーレートが悪化する。
【0161】
また、実施例4と実施例14との比較から、第2の磁性層の保磁力は、12000Oe以上必要であることがわかる。すなわち、第2の磁性層の保磁力が12000Oe未満であると、第1の磁性層に対するデータの書き込み時に、第2の磁性層に対するデータの書き換えが生じてしまい、エラーレートが悪化する。
【0162】
また、実施例7,8と実施例11,12との比較から、第2の磁性層の残留磁化は、0.03〜0.06memu/cm
2の範囲が好ましいことがわかる。すなわち、第2の磁性層の残留磁化が0.03memu/cm
2未満であると、磁性ドットの体積が小さくなり過ぎて、熱的な揺らぎによりデータの消失が生じ、また再生信号が小さくノイズと区別がつき難くなる。一方、0.06memu/cm
2よりも大きい場合は、近接場光による保磁力低減効果が十分でなく、データを書き込み難くなるため、エラーレートが悪化する。
【0163】
また、実施例12のように、第1の磁性層と第2の磁性層との残留磁化の大きさが近接するため、それぞれに記録した信号の組み合わせによっては、合成波信号の出力が極端に小さくなり、第1の磁性層からの再生信号と第2の磁性層からの再生信号とを分離した際に、信号(データ)の欠落が生じてしまうことで、エラーレートを悪化させる。例えば、第の1磁性層に+1の信号を、第2の磁性層に−1に対応をする信号を記録した場合、再生信号は残留磁化0.03memu/cm
2に相当する信号出力しか得られない。
【0164】
実施例1と比較例2との比較から、第1の磁性層の保磁力が第2の磁性層よりも高い場合には、第1の磁性層にデータを記録する際、第2の磁性層のデータを書き換えてしまい、多層記録に適さないことがわかる。
【0165】
[第2の実施例]
次に、第2の実施例として、表2に示す実施例1,
16〜
27の磁気記録媒体及び比較例
3〜
6の磁気記録媒体について説明する。
【0166】
【表2】
【0167】
(実施例16〜実施例27)
実施例16〜実施例27では、第1の磁性層及び第2の磁性層の材料を表2中に示す材料及び膜厚とし、それに合せてイオンビームエッチングの加工時間を調整した以外は、実施例1と同様に磁気記録媒体を作製した。
【0168】
そして、これら実施例
16〜実施例
27の磁気記録媒体について、実施例1と同様に電磁変換特性の評価試験を行った。これら実施例
16〜実施例
27の磁気記録媒体における評価結果を表2にまとめて示す。また、信号の記録再生評価の結果は、各磁性層でエラーレートが10
−4.0以
下の場合を独立して記録再生できると判断して“○”を記載し、10
−4.0を超える場合を独立しての記録再生に耐えないと判断して“×”を記載した。
【0169】
(比較例3〜比較例6)
比較例3〜比較例6では、第1の磁性層及び第2の磁性層の材料を表2中に示す材料及び膜厚とし、それに合せてイオンビームエッチングの加工時間を調整した以外は、実施例1と同様に磁気記録媒体を作製した。
【0170】
そして、これら比較例3〜比較例6の磁気記録媒体について、実施例1と同様に電磁変換特性の評価試験を行った。これら比較例3〜比較例6の磁気記録媒体における評価結果を表2にまとめて示す。また、信号の記録再生評価の結果は、各磁性層でエラーレートが10
−4.0以
下の場合を独立して記録再生できると判断して“○”を記載し、10の
−4.0を超える場合を独立しての記録再生に耐えないと判断して“×”を記載した。
【0171】
表2に示すように、第1の磁性層には、Coを主成分とし、Cr、Pt、Si、Cr、O、Bのうち何れか1つ又は複数を含む磁性材料が適していることがわかる。また、第2の磁性層には、Fe及びPt、Co及びPt、Co及びPdのうち何れかを含む磁性材料が適していることがわかる。
【0172】
また、実施例1
、16〜27から、第1の磁性層及び第2の磁性層と共に、磁性粒子間に析出し易い添加物(Si、O、N等の添加元素や、Si酸化物、Ti酸化物、Ta酸化物、Zr酸化物、Al酸化物、Cr酸化物、Mg酸化物、W酸化物、Ru酸化物、Co酸化物等の酸化物材料)を含む材料を使うことができることがわかる。