(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における電力変換装置の主回路構成を示す回路図である。ここでは、交流入力端子R、S、Tを、3相系統電源101に接続し、交流出力端子U、V、Wを、3相電動機401に接続している。
なお、
図1では、3相交流電力の間で電力変換を行うものを示すが、この発明に係る電力変換装置が扱い得る交流電力は、後述する正相成分、逆相成分を制御の対象とする観点から、3以上の任意の相数の交流電力の間で電力変換する場合に適用することが出来る。
【0011】
交流入力端子R、S、Tには、変圧器201の1次巻線が接続され、変圧器201の2次巻線には、単相変換器であるセル変換器30U、30V、30Wの交流入力側が接続され、セル変換器30U、30V、30Wの交流出力側が、3相電動機401に接続されている。
制御手段601は、セル変換器30U、30V、30Wに内在するスイッチング素子のオンオフを制御する。
【0012】
図2は、変圧器201の巻線構造を示す回路図である。1次巻線(入力側)はスター(Y)結線となっているが、これは一例であり、デルタ(Δ)結線を用いてもよい。2次巻線(出力側)は、3相巻線が単相に分離されたオープン巻線となっている。
図2の例では、スター結線の中性点をNとすると、R−N間、S−N間、T−N間に印加された電圧が、それぞれ巻数比倍されて、Rs−Na間、Ss−Nb間、Ts−Nc間に現れる。
なお、変圧器201には、漏れインダクタンスを含むインピーダンスが存在するが、このインピーダンスについては、後段で触れる。
【0013】
図3は、セル変換器30X(X:U、V、W)の内部構成を示す回路図である。
図3(a)に示すように、入力端子をIN1、IN2、出力端子をOUT1、OUT2とする。
図3(b)と(c)には、各々、セル変換器30Xがいわゆる2レベル変換器の場合、およびいわゆる3レベル変換器の場合について示しており、どちらを採用してもよい。
図3(b)は、交流側電位が2段階に変化する2レベル変換器を用いている。セル変換器30Xは、入力側と出力側に、各々単相変換器を有しており、それらの直流部はお互いに背中合せに接続されている。直流部には、コンデンサC1のようなエネルギー蓄積要素を接続する。
【0014】
図3(c)は、交流側電位が3段階に変化する、ダイオードクランプ形の3レベル変換器を用いており、直流部には、コンデンサCP、CNを有する。なお、3レベル変換器の2つのコンデンサCP、CNの電圧をバランスさせることは公知であり、また、本願の対象外であるので、ここでは特に説明はしない。単にコンデンサ電圧と呼ぶ場合は、コンデンサCP、CNの合計電圧を意味する。
【0015】
図3のスイッチング素子には、IGBT(Insulated−Gate Bipolar Transistor)を採用しているが、他のスイッチング素子でもよい。他のスイッチング素子の例として、MOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)や、GTO(Gate Turn−Off)サイリスタ、GCT(Gate Commutated Turn−off)サイリスタなどがある。また、スイッチング素子にボディダイオードが内在しない場合、逆並列にFWD(Free−Wheeling Diode)を用いてもよい。
【0016】
力行時の電力の流れ(パワーフロー)を、入力側(R、S、T側)から出力側(U、V、W側)とすると、入力側の単相変換器は、順変換(交流から直流への変換)、出力側の単相変換器は、逆変換(直流から交流への変換)を行う。よって、入力側の単相変換器をコンバータ(Converter)、出力側の単相変換器をインバータ(Inverter)と呼ぶことにする。
【0017】
図4は、制御手段601の内部構成を示すブロック図で、制御手段601は、コンバータを制御するコンバータ制御手段611と、インバータを制御するインバータ制御手段621とを有する。
【0018】
図1に示すような主回路構成の場合、電力変換装置におけるエネルギー蓄積要素(コンデンサ)が各相に存在するため、全体的な電力の流れのみを制御していると、各相の電力がアンバランスとなり、ある特定の相のセル変換器30Xのコンデンサ電圧が上昇をし続ける可能性がある。その結果、セル変換器30Xのスイッチング素子の耐圧を超過してしまい、素子破損に至る可能性があり信頼性が低下する。
【0019】
本発明の実施の形態1における電力変換装置は、そのような事態に陥らないために、
図4に示すように、、コンバータ制御手段611に、各相の電力バランスを制御して各相コンデンサの電圧を均一化するための電力バランス制御手段612を設けている。
なお、後段の実施の形態2では、インバータ制御手段621にも、
図4では、破線で示す電力バランス制御手段622を設けている。
【0020】
先ず、インバータ制御手段621について説明する。
図5は、インバータ制御手段621の制御構成を示すブロック図である。
図5に示すように、出力電圧指令値生成手段623は、ベースとなるインバータ各相の交流出力電圧指令値Viu*、Viv*、Viw*を生成する。この生成方法としては、公知であるベクトル制御やダイレクトトルク制御、V/F(電圧/周波数)一定制御などを用いることができる。
【0021】
これらによって生成された交流出力電圧指令値Viu*、Viv*、Viw*は、三相平衡、すなわち正相成分のみを含んでおり、各相の総和Viu*+Viv*+Viw*は零となる。よって、PWM(Pulse−Width Modulation)によって、この交流出力電圧指令値Viu*、Viv*、Viw*が、スイッチング制御周期の平均値に一致するように、セル変換器30U、30V、30Wのスイッチング素子を制御する。
【0022】
従って、3相電動機401が3相平衡なインピーダンスを有していれば、積極的に各相電力をバランスさせる手段は有していないが、各相の出力電流がバランスするので、各相から出力される平均電力はバランスする。よって、インバータの動作によって生じる各相の電力アンバランスを最小にすることができる。
【0023】
なお、電力バランスを制御するものではないが、インバータ制御手段621には、
図5に示しているように、3n次調波重畳手段624を設けてもよい。ここで、nは、1以上の整数である。これは、各相で共通の(零相の)3n次の電圧成分を加えることで、線間電圧を変化させることなく、出力相電圧の最大値を低減できる。例えば、3n次調波指令V3nz*として、交流出力電圧指令値Viu*と同一の初期位相で、周波数が3倍、振幅が1/6の値に設定すると、相電圧の波高値を√3/2倍に低減することができる。
【0024】
このような3n次調波重畳手段624によって得られた、交流出力電圧指令値Viu**、Viv**、Viw**は、正相電圧のみならず零相電圧も含んでいるため、不平衡となる。しかしながら、零相電圧が3n次であるので、零相電圧3n次成分と出力電流(主に基本波成分のみ)とで生じる出力電力は、出力電圧の1周期平均で零となる。よって、3n次調波重畳手段624を設けても、出力電力が各相でアンバランスすることはない。
【0025】
以上のように、
図5に示すインバータ制御手段621において、出力電圧指令値生成手段623は、正相成分のみの交流出力電圧指令値Viu*、Viv*、Viw*を出力し、3n次調波重畳手段624は、電圧指令値に相電圧波高値を低減する目的の零相電圧のみを生成するものであるので、出力電力は各相で略バランスするとともに、インバータの定格直流電圧の低減が実現する。よって、過電圧による素子破壊から免れるという信頼性向上の他に、耐圧の低い、安価・小型で低損失のスイッチング素子を使用できるという利点がある。
【0026】
次に、コンバータ制御手段611およびこのコンバータ制御手段611に設けられた電力バランス制御手段612について説明する。先のインバータ制御手段621は、いわば、すべてが3相平衡であるという理想状態を前提として各相の出力電力のバランスを図っている。言い換えると、3相平衡の電圧指令値に基づきフィードフォワード的に、各相の出力電力をバランスさせている。故に、交流出力側に接続される負荷(3相電動機401)にある若干の不平衡成分や、部品の特性バラツキなどにより、各相で生じる電力損失が異なる場合、出力電力が各相で若干ながらアンバランスとなる。そこで、コンバータ側の制御手段では、この電力のバランスを積極的に補償する制御を行う。
【0027】
図6は、コンバータ制御手段611の制御構成を示すブロック図である。先ず、電圧センサ(図示省略)にて、交流入力端子R、S、Tに印加される、3相R、S、T相の系統電圧Vr、Vs、Vtを検出する。なお、3相3線式系統の場合は、3相の電圧総和が零となるので、2相の電圧のみを検出して、残りを計算で求めてもよい。また、それらを用いて、R相の基準位相θを導出する。位相θは、例えば、PLL(Phase−Locked Loop)を用いて導出することが可能であり、その具体的な要領は公知であるのでここでは省略する。
【0028】
その基準位相θを用いて、dq変換(dq trans.)を行い、d軸電圧Vd、q軸電圧Vq、z軸(零相軸)電圧Vzを算出する。それに変圧器201の巻数比TRを乗じて、2次側換算した交流入力電圧検出値Vd2、Vq2、Vz2を導出する。
また、電流センサ(図示省略)を用いて、各相のコンバータに流入する交流入力電流Ir、Is、Itを検出する。検出した電流にdq変換(dq trans.)を施し、d軸電流Id、q軸電流Iq、z軸電流Izを導出する。
【0029】
なお、系統電圧が3相平衡の場合、d軸は、R相の基準位相θと90度(π/2)ずれた方向で、従って、d軸電流は無効電流に相当する。また、q軸は、R相の基準位相θと同軸の方向で、従って、q軸電流は有効電流に相当する。z軸成分は、3相の総和が零のならない成分である。
また、以上で示す、R、S、T3相電圧からd、q、z軸電圧への変換式の一例を下式に示す。
【0031】
変換後の各軸の交流入力電流検出値Id、Iq、Izと、後段の
図7で詳述する、各軸の電流指令値Id*、Iq*、Iz*との偏差を計算し、PI制御を施すことによって、電流制御として必要な操作量を算出する。
電流制御手段としてのPI制御器は、各軸の交流入力電流検出値Id、Iq、Izが各軸の電流指令値Id*、Iq*、Iz*に追従するよう交流入力端子の交流入力電圧(Vd、Vq、Vz)とコンバータの交流入力電圧との差に相当する、変圧器201のインピーダンスに印加すべき差電圧指令値を出力する。
【0032】
コンバータの電流は、コンバータに流入する方向を正としているので、コンバータの交流入力電圧指令値の各軸成分は、減算手段により、交流入力電圧検出値Vd2、Vq2、Vz2からPI制御器の出力である各軸の差電圧指令値を減算することにより求められる。この減算手段の出力を逆dq変換(inverse dq trans.)することで、コンバータの交流入力電圧指令値Vcr*、Vcs*、Vct*を算出する。
【0033】
なお、上記変圧器201のインピーダンスは、ほぼその漏れインダクタンスで決定されるが、PI制御器等による制御特性上、必要であれば、変圧器201のインピーダンスとして漏れインダクタンスに更にインダクタンスを追加するようにしてもよい。
【0034】
これら導出したコンバータの交流入力電圧指令値Vcr*、Vcs*、Vct*は、PWMによってスイッチング素子の駆動信号に変換され、コンバータを構成するスイッチング素子のオンオフを制御する。
以上の動作により、変圧器201のインピーダンスに、PI制御器の出力である差電圧指令値に相当する電圧が印加される、従って、コンバータの交流入力電流が電流指令値Id*、Iq*、Iz*に相当する電流値に一致する制御がなされる訳である。
なお、上記で示した電流制御手法は、一般的な方法であり、例えば、PI制御(比例・積分制御)をP制御(比例制御)に変更しても差し支えない。
【0035】
本発明の最も特徴とするところは、
図6で示した電流指令値Id*、Iq*、Iz*を生成する手段にある。
次に、
図7を参照して、各軸の電流指令値Id*、Iq*、Iz*の生成要領について説明する。
【0036】
先ず、d軸電流指令値Id*は、同図(a)に示すように、正相成分Idp*と逆相成分Idn*との和で構成する。既述したとおり、d軸電流は、R相の基準位相θと90度ずれており、かつ、その正相成分Idp*は、R→S→Tの正の相順であるので、一般的な無効電流に相当する。
本願の電力変換装置におけるコンバータは、もっぱら、コンデンサに電力(有効電力)を供給しその電圧を維持することをその責務としており、従って、無効電流は流さず、正相成分Idp*には零を設定する(同図(b))。
【0037】
d軸の逆相成分Idn*は、R相の基準位相θと90度ずれており、かつ、R→T
→Sの逆の相順であるので、相によって、電圧と電流の位相差が異なるため、有効成分、無効成分が変化し、後述するように、本願では、その値を調整することで、各相コンデンサの電圧を均一化する電力バランス制御に利用する。
【0038】
q軸電流指令値Iq*は、同図(c)に示すように、正相成分Iqp*と逆相成分Iqn*との和で構成する。既述したとおり、q軸電流は、R相の基準位相θと同位相であり、かつ、その正相成分Iqp*は、R→S→Tの正の相順であるので、一般的な有効電流に相当する。
コンデンサの平均電圧は、有効電力によって決まるため、このq軸電流指令値の正相成分Iqp*は、同図(d)に示す要領で設定する。即ち、各相コンデンサの電圧VdcU、VdcV、VdcWの平均値(average)を求め、このコンデンサ電圧平均値がコンデンサ電圧指令値Vdc*に追従するように、PI制御器がIqp*を生成する。なお、PI制御器は、P制御器でもよい。これにより、セル変換器30Xのコンデンサ電圧の平均値を指令値と略等しく制御することができる。
【0039】
q軸の逆相成分Iqn*は、R相の基準位相θと同位相で、かつ、R→T→Sの逆の相順であるので、相によって、電圧と電流の位相差が異なるため、有効成分、無効成分が変化し、先のd軸の逆相成分Idn*と同様、後述するように、本願では、その値を調整することで、各相コンデンサの電圧を均一化する電力バランス制御に利用する。
【0040】
z軸電流指令値Iz*は零に設定する(同図(e))。即ち、ここでは、零相電流は流さないように制御する。
【0041】
図8は、3相交流で見た場合の各相電圧と電流を表したベクトル図、
図9は、このベクトル図に基づいて電力バランス制御の効果を説明する図である。
ここでは、時計回りを正の相順としており、実線で示す正相3相電圧と破線で示す逆相3相電流がある場合、R相では、電圧電流が同位相で力率=1の入力方向の電力(+100)となる。S相では、電圧と電流とが120度の位相差を有し、力率=0.5の出力方向の電力(−50)となる。T相では、電圧と電流とが120度の位相差を有し、力率=0.5の出力方向の電力(−50)となる。
図9の下段は、上述した逆相成分の電流により、S相とT相のコンデンサ電力の一部が、R相のコンデンサに移動し、3相のコンデンサの電力がバランスする様子を示している。
【0042】
図10は、コンバータ制御手段611に設ける電力バランス制御手段612での逆相成分電流指令演算手段613の制御構成を示すブロック図で、
図9で説明した動作原理に基づき、各相コンデンサの電圧を均一にして電力をバランスさせるためのd軸電流指令値逆相成分Idn*およびq軸電流指令値逆相成分Iqn*を生成する具体的な制御回路である。
【0043】
先ず、V、W相のコンデンサ電圧VdcVとVdcWの平均値を導出し、U相のコンデンサ電圧VdcUとの偏差を計算する。その偏差をPI制御器(P制御器でもよい)に与える。それをR相基準の逆相電流Ibr、Ibt、Ibsに乗じる。ここで、R相基準の逆相電流とは、R相が系統電圧と位相が等しい逆相電流(S相がR相よりも120度進み、T相がR相よりも240度進み)のことである(
図8参照)。このような逆相電流は、先の
図9で説明したように、S相、T相から出力された電力はR相に流入する。よって、R相に接続されているセル変換器30Uのコンデンサ電圧VdcUが他のS、T相のコンデンサ電圧VdcVとVdcWの平均値よりも小さくなると、即ち、PI制御器に入力される偏差がプラスになると、他のS、T相からR相に電力が流入し、バランスを確保することができる。
【0044】
同様に、U、W相のコンデンサ電圧VdcUとVdcWの平均値を導出し、V相のコンデンサ電圧VdcVとの偏差を計算する。その偏差をPI制御器(P制御器でもよい)に与える。それをS相基準の逆相電流Ibt、Ibs、Ibrに乗じる。このように制御を行うことで、S相とR、T相の間で移動する電力を制御することができる。
同様に、U、V相のコンデンサ電圧VdcUとVdcVの平均値を算出し、W相のコンデンサ電圧VdcWとの偏差を計算する。その偏差をPI制御器(P制御器でもよい)に与える。それをT相基準の逆相電流Ibs、Ibr、ibtに乗じる。このように制御を行うことで、T相とR、S相の間で移動する電力を制御することができる。
【0045】
以上のように導出した逆相電流を各相毎に合計し、dq変換を施すことで、d軸電流指令値逆相成分Idn*およびq軸電流指令値逆相成分Iqn*を導出することができる。
このd、q軸電流指令値逆相成分Idn*、Iqn*は、PI制御器および逆dq変換を介して、コンバータの交流入力電圧指令値Vcr*、Vcs*、Vct*に変換されるため(
図6)、このコンバータの交流入力電圧にも逆相成分電圧が含まれることを意味する。
【0046】
以上のように、本発明の実施の形態1で示す電力変換装置は、コンバータ制御手段611に設ける電力バランス制御手段612での逆相成分電流指令演算手段613により、d、q軸電流指令値逆相成分Idn*、Iqn*を演算し、電流指令値に重畳するようにしたので、各相の電力バランスを確保することができ、最終的には、各相のセル変換器30Xのコンデンサ電圧を均一に制御することができる。その結果、インバータに耐圧が低いスイッチング素子を使用することができるので、損失が低減でき、また装置の小型化が可能となる。
【0047】
なお、以上では、交流入力電圧および電流を一旦d、q、z軸変換し、それに伴い、電流指令値は、重畳する電流指令値逆相成分も含めd、q軸成分で演算設定し、これらから求めた電圧指令値をd、q逆変換して制御するようにしたが、この発明の適用上、必ずしも、d、q、z軸への変換を経る必要はない。
【0048】
また、以上の説明では、PWMの手法について特に限定はしていないが、インバータの出力電力をさらにバランスさせるためには、そのスイッチング周波数をインバータの出力周波数の3m倍(mは1以上の整数)とするのが望ましい。このようにすることで、各相が完全に同一のスイッチングパターンで位相のみが異なる電圧を出力することになり、出力電圧がさらにバランスする。これにより、コンバータ制御手段611で電流指令値に重畳すべき逆相成分電流を低減することができ、系統への影響を軽減させることが出来る。
【0049】
また、以上の説明では、交流入力端子R、S、Tと各セル変換器30Xとの間に変圧器201を設けたが、3相系統電源101が、相間が互いに絶縁された3相の交流電源で構成されているような場合には、必ずしも変圧器を設ける必要はなく、単なるインピーダンス要素とすることが出来る。
【0050】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、インバータ制御手段は、フィードフォワード的に各相の電力がバランスするように正相成分と3n次調波の零相成分のみを出力し、コンバータ制御手段は、フィードバック的に各相の電力がバランスするように逆相成分を出力した。
これに対し、この実施の形態2では、インバータ制御手段もフィードバック的に各相の電力がバランスするように制御を行うことで信頼性の向上を図っている。
【0051】
図11は、本発明の実施の形態2におけるインバータ制御手段621Aの制御構成を示すブロック図である。3n次調波重畳手段624により、各相の交流出力電圧指令値Viu**、Viv**、Viw**を導出するところまでは、先の実施の形態1の
図5と同一であるが、その後段に、さらに零相成分電圧指令値Vzb*を重畳する電力バランス制御手段622を追設して、各相の交流出力電圧指令値Viu***、Viv***、Viw***を導出する箇所が異なる。
零相成分電圧指令値Vzb*は、3n次成分以外も含んでおり、インバータ制御手段621Aにおいて、フィードバック的に各相の電力をバランスさせる効果がある。
【0052】
図12は、この零相成分電圧指令値Vzb*を演算する零相成分電圧指令演算手段625の制御構成を示すブロック図である。零相成分電圧指令値Vzb*は、各相のセル変換器30U、30V、30Wのコンデンサ電圧VdcU、VdcV、VdcWが互いにバランスする(等しくなる)ように決定される。
【0053】
先ず、各相コンデンサ電圧VdcU、VdcV、VdcWの平均(average)を計算する。その平均値とU相のコンデンサ電圧VdcUとの偏差を計算し、LPF(Low−Pass Filter)に与える。LPFは、偏差に存在する振動成分を除去する役割を果たしており、移動平均などを用いてもよい。
更に、P(比例)制御器を経た出力に、インバータのベースとなる交流出力電圧指令値Viu*を乗じる。これにより、VdcUと各相の平均値とがバランスするようになる。
【0054】
V相のコンデンサ電圧VdcVについても同様に、各相平均値との偏差を計算した後、LPFおよびP制御器を経た出力に、交流出力電圧指令値Viv*を乗じる。W相のコンデンサ電圧VdcWについても同様に、各相平均値との偏差を計算した後、LPFおよびP制御器を経た出力に、交流出力電圧指令値Viw*を乗じる。3つの相の各々の計算結果を合計して、零相成分電圧指令値Vzb*を導出する。
なお、上記は3相電動機401が力行動作の場合であり、回生動作を行っている場合は、偏差の符号を逆向きにする。
【0055】
例えば、U相のコンデンサ電圧VdcUが他のV、W相に比べて小さい場合、零相成分電圧指令値Vzb*は、Viu*と逆位相の成分を含むことになる。従って、力行の場合は、U相の出力電圧が小さくなり、V相、W相はU相が出力すべきであった電圧を補うことで線間電圧を維持することになる。よって、U相の出力電力が小さくなり、V相、W相の出力電力は大きくなる。言い換えると、V、W相から出力された電力がU相に流入し、バランスを確保することができる。
【0056】
以上のように、本発明の実施の形態2で示す電力変換装置は、コンバータ制御手段611に電力バランス制御手段612を設けることに加えて、インバータ制御手段621Aにも電力バランス制御手段622を設け、その零相成分電圧指令演算手段625により、零相成分電圧指令値Vzb*を演算し、交流出力電圧指令値に重畳するようにしたので、各相のセル変換器30Xのコンデンサ電圧をより均一に制御することが出来、信頼性がさらに向上する。
【0057】
なお、コンデンサの定格やその電圧均一化の要請度合い等によっては、電力バランス制御手段をインバータ制御手段にのみ設けるようにしてもよい。
【0058】
実施の形態3.
先の実施の形態2では、コンバータ制御手段とインバータ制御手段との両者に電力バランス制御手段を設けるが、これらの制御においては、逆相成分の電流や零相成分の電圧を本来の電流や電圧に重畳させることになる。
この場合、これら重畳成分の大きさによっては系統に悪影響を及ぼす可能性がある、また、電力変換の状態によっては、電力バランスの効果が十分得られずスイッチング素子等に無用な負担を強いる可能性がある。
【0059】
そこで、この実施の形態3は、以上の弊害を未然に防止するべく、コンバータ制御手段あるいはインバータ制御手段の各相の電力バランス制御を、特定の条件下で一方のみに切り替える、もしくは一方からの重畳成分量を低減する、あるいは両方の重畳成分量を低減するようにしたものである。
【0060】
コンバータ制御手段611による各相の電力バランス制御は、系統側に逆相成分の電流を流す。その場合、系統側の特性(インピーダンスなど)によっては、系統電圧に不平衡が発生し、周辺機器に悪影響を及ぼす可能性がある。そこで、逆相成分の電流の指令値を許容できる範囲までにリミット(制限)する。これにより、逆相成分の流出による系統への悪影響を未然に防止することが出来る。
【0061】
また、インバータ制御手段621Aによる各相の電力バランス制御が有効な場合は、コンバータ制御手段611による各相の電力バランス制御を抑制または無効化(オフ)することも可能である。これにより、系統に悪影響を及ぼし得る逆相成分の流出を低減または無くすことが出来る。
【0062】
一方、インバータ制御手段621Aによる各相の電力バランス制御は、出力する零相電圧を操作する。その場合、出力電流が小さいと、各相間を移動する電力が小さくなるため、効果が弱まる。出力電流が零の場合は、全くの効果がない。即ち、先の
図11において、各相の交流出力電圧指令値Viu**、Viv**、Viw**には差が発生しているが、各相のコンデンサの電圧偏差は改善されずにそのままの状態を維持するといった現象が生じ得ることになる。
【0063】
効果がない場合、PI制御のように積分要素が制御系に存在すると、零相電圧の指令値が増加し続け、インバータが出力可能な電圧範囲を超過する可能性がある。そこで、インバータの出力可能な電圧範囲を超過しないように、零相電圧の指令値にリミッタを設ける。あるいは、コンバータ制御手段による各相の電力バランス制御が有効な場合は、インバータ制御手段による各相の電力バランス制御を無効化(オフ)することも可能である。
【0064】
図13は、本発明の実施の形態3の制御構成を示すブロック図である。図において、逆相成分電流リミッタ614は、先の
図10に示す逆相成分電流指令演算手段613からの電流指令値逆相成分Idn*、Iqn*を入力し、判定回路615からの信号に基づいて調整した電流指令値逆相成分Idn**、Iqn**を、先の
図6に示すコンバータ制御手段611に出力する。
零相成分電圧リミッタ626は、先の
図12に示す零相成分電圧指令演算手段625からの零相成分電圧指令値Vzb*を入力し、判定回路627からの信号に基づいて調整した零相成分電圧指令値Vzb**を、先の
図11に示すインバータ制御手段621Aに出力する。
【0065】
次に動作について説明する。判定回路615は、逆相成分電流指令演算手段613からの電流指令値逆相成分Idn*、Iqn*を監視し、これらによる逆相成分が、系統に悪影響を及ぼさないよう定められた規制値に相当する所定の逆相成分電流設定値を越えたときは、実線矢印に示すように、信号を逆相成分電流リミッタ614に送り、逆相成分電流リミッタ614は、所定の逆相成分電流設定値に制限した電流指令値逆相成分Idn**、Iqn**を出力する。
これによって、コンバータ制御手段611に設けた電力バランス制御手段612の動作で系統に流出する逆相成分が系統に悪影響を与える可能性をなくすことが出来る。
【0066】
また、判定回路615は、電流指令値逆相成分Idn*、Iqn*が、所定の逆相成分電流設定値以下のときは、破線矢印に示すように、信号を零相成分電圧リミッタ626に送り、零相成分電圧リミッタ626は、入力した零相成分電圧指令値Vzb*を所定量低減、または零とした零相成分電圧指令値Vzb**を出力する。
これにより、コンバータ側での逆相成分の重畳に基づく電力バランス制御の効果が十分発揮されていると判断される場合は、インバータ側での電力バランス制御の負担を軽減または零とすることが出来る。
【0067】
判定回路627は、零相成分電圧指令演算手段625からの零相成分電圧指令値Vzb*を監視し、これが、インバータが出力可能な電圧範囲を超過する可能性がある所定の零相成分電圧設定値を越えたときは、実線矢印に示すように、信号を零相成分電圧リミッタ626に送り、零相成分電圧リミッタ626は、所定の零相成分電圧設定値に制限した零相成分電圧指令値Vzb**を出力する。
これによって、インバータ制御手段621Aに設けた電力バランス制御手段622の動作でインバータが出力可能な電圧範囲を超過する可能性をなくすことが出来る。
【0068】
また、判定回路627は、インバータの交流出力電流を監視し、これが、所定の交流出力電流設定値以上のときは、破線矢印に示すように、信号を逆相成分電流リミッタ614に送り、逆相成分電流リミッタ614は、入力した電流指令値逆相成分Idn*、Iqn*を所定量低減、または零とした電流指令値逆相成分Idn**、Iqn**を出力する。
これにより、インバータの交流出力電流が、例えば、定格電流の10%以上で、インバータ側での零相成分の重畳に基づく電力バランス制御の効果が十分発揮されていると判断される場合は、コンバータ側での電力バランス制御の負担を軽減または零とすることで系統への逆相成分の流出を極力低減またはなくすことが出来る。
【0069】
また、判定回路627は、インバータの交流出力電流が、例えば、定格電流の10%未満のときは、インバータ側での零相成分の重畳に基づく電力バランス制御の効果が期待されないと判断して、零とした零相成分電圧指令値Vzb**を出力してインバータ側での無用な電力バランス制御を停止するようにしてもよい。
【0070】
以上のように、本発明の実施の形態3で示す電力変換装置は、コンバータ制御手段あるいはインバータ制御手段の各相の電力バランス制御において、特定の条件下で、逆相成分または零相成分の重畳量を制限または零とする逆相成分電流リミッタ614および零相成分電圧リミッタ626を設けたので、逆相電流による系統への悪影響を防止し、かつ、インバータの出力可能な電圧範囲を広げることなく、安価・小型で信頼性の高い電力変換装置を実現することが出来る。
【0071】
実施の形態4.
図14は、本発明の実施の形態4における電力変換装置の主回路構成を示す回路図である。先の実施の形態1から3では、セル変換器30Xは、各相に1台備える場合を例に説明をした。この実施の形態4では、セル変換器30Xが各相に2台以上(
図14の例では3台)を備える。セル変換器30Xは、コンバータ側では変圧器211を介して並列に接続されており、インバータ側では直列に接続されている。
【0072】
図14において、変圧器211は、
図15に示すように、2次側に複数のオープン巻線を有しており、各々がセル変換器30Xに接続されている。なお、変圧器は3台で構成してもよい。
ここで、コンバータ制御手段は、各相1台、合計3台を1セットとして制御を行う。例えば、セル変換器30U1、30V1、30W1を1セットとして、実施の形態1から3のいずれかの制御を実施する。2セット目のセル変換器30U2、30V2、30W2についても同様である。3セット目のセル変換器30U3、30V3、30W3についても同様である。
【0073】
一方、インバータ制御手段は、各相のインバータの出力電圧指令値を1/3(3セル/相の場合)倍して、それぞれのセル変換器のインバータを制御する。例えば、
図5のViu**は1/3倍して、セル変換器30U1、30U2、30V3のインバータの電圧指令値とする。他相も同様である。
【0074】
このように、本発明の実施の形態4では、各相に2台以上のセル変換器を備えて、適切に制御を行うことで、容易に高電圧の出力電圧が得られると同時に、信頼性が高く、安価・小型の電力変換装置を実現できる。
【0075】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。