特許第6076236号(P6076236)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076236
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】農作業機
(51)【国際特許分類】
   A01M 7/00 20060101AFI20170130BHJP
   A01B 69/00 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   A01M7/00 D
   A01B69/00 303M
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-242320(P2013-242320)
(22)【出願日】2013年11月22日
(65)【公開番号】特開2015-100296(P2015-100296A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2015年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141174
【氏名又は名称】株式会社丸山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】近藤 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大悟
【審査官】 本村 眞也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−350545(JP,A)
【文献】 特開2010−158218(JP,A)
【文献】 特開平09−154355(JP,A)
【文献】 特開2001−037398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 7/00
A01B 69/00
A01C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両本体(2)と、
前記車両本体(2)に取り付けられたGPSアンテナ(20)と、
前記車両本体(2)に取り付けられて、前記車両本体(2)の前後方向に延びる中心線(L)に関して非対称な作業領域(A)を有する作業部(10)と、
前記車両本体(2)が前進しているか後進しているかを示す前記車両本体(2)の進行方向を検出する進行方向検出部(23)と、
前記GPSアンテナ(20)により得られる前記車両本体(2)の位置と、前記作業領域(A)と、前記進行方向検出部(23)により得られる前記車両本体(2)の進行方向とに基づいて、前記作業部(10)によって作業が行われた範囲を示す作業履歴(H)を算出する算出部(32)と、を備えることを特徴とする農作業機。
【請求項2】
記作業部(10)は、前記作業領域(A)を変更可能に構成されており、
前記作業領域(A)を検出する作業領域検出部(26)を更に備える請求項1に記載の農作業機。
【請求項3】
前記作業部(10)は、前記車両本体(2)に対して左右方向のいずれか一方に延出すると共に左右方向に反転可能なブームノズル装置(10)であり、
前記作業領域検出部(26)は、前記車両本体(2)に対する前記ブームノズル装置(10)の左右いずれかの位置を検出する位置検出部(21)を有する請求項2に記載の農作業機。
【請求項4】
前記進行方向検出部(23)は、前記車両本体(2)における車輪(2a)の回転方向を検出することにより、前記車両本体(2)の進行方向を検出する請求項1〜3のいずれか一項に記載の農作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されるように、圃場に薬剤を散布する農作業機が知られている。この農作業機は、薬剤を散布するための複数のノズルと、複数のノズルを支持する複数のブームを備えている。具体的には、農作業機の進行方向の左側に1本のブームが配置され、進行方向の右側に1本のブームが配置されている。ブームにより支持されたノズルから、薬剤が散布される。
【0003】
左側のブームと右側のブームとは同じ長さとされている。よって、農作業機の幅方向の中心から左右のそれぞれの端部に位置するノズルまでの距離は等しくなる。この距離を2倍した値が散布幅となる。散布幅の設定値は、圃場の形状及び面積等によって設定され、制御装置に入力される。一方、農作業機にはGPS受信部が設けられており、このGPS受信部により農作業機の位置情報が得られる。制御装置は、位置情報と散布幅とに基づいて、農作業機が旋回した後の農作業機の進入位置を求め、表示部に表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−120481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した農作業機では、左右両側にブームが配置されることが前提となっている。よって、農作業機の車両本体を中心として左右方向に均等に、散布幅が設定される。そして、GPS受信部により得られた農作業機の位置情報と散布幅とに基づくことにより、既に散布した範囲を求めることができる。
【0006】
しかしながら、車両本体の前後方向に延びる中心線に関して非対称なブームである場合、位置情報が得られたとしても、散布した範囲を正確に求めることはできない。すなわち、車両本体が同じ移動速度と移動経路で移動したとしても、散布領域の非対称性から、車両本体が前進しているか後退しているかによって散布した範囲は変わってしまう。よって、散布等の作業を行う作業部の作業領域が、車両本体の前後方向に延びる中心線に関して非対称である場合には、作業履歴を正確に求めることは難しかった。
【0007】
本発明は、作業部の作業領域が車両本体の前後方向に延びる中心線に関して非対称である場合であっても、作業履歴を正確に求めることができる農作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の農作業機(1)は、車両本体(2)と、車両本体(2)に取り付けられたGPSアンテナ(20)と、車両本体(2)に取り付けられて、車両本体(2)の前後方向に延びる中心線(L)に関して非対称な作業領域(A)を有する作業部(10)と、車両本体(2)が前進しているか後進しているかを示す車両本体(2)の進行方向を検出する進行方向検出部(23)と、GPSアンテナ(20)により得られる車両本体(2)の位置と、作業領域(A)と、進行方向検出部(23)により得られる車両本体(2)の進行方向とに基づいて、作業部(10)によって作業が行われた範囲を示す作業履歴(H)を算出する算出部(32)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この農作業機(1)では、車両本体(2)に取り付けられた作業部(10)は、車両本体(2)の前後方向に延びる中心線(L)に関して非対称な作業領域(A)を有する。作業部(10)によって行われる農作業としては、たとえば、農地の耕耘、薬剤等の散布若しくは噴霧、播種又は移植等といった種々の作業が挙げられる。作業部(10)は非対称な作業領域(A)を有するため、中心線(L)の一方側と他方側とで、作業領域(A)は異なっている。そのため、車両本体(2)の位置が変化した場合でも、車両本体(2)が前進しているか後進しているかによって散布した範囲が変わることになる。上記の農作業機は、車両本体(2)の進行方向を検出する進行方向検出部(23)を備えている。算出部(32)によって、車両本体(2)の位置と作業部(10)の作業領域(A)に加え、車両本体(2)の進行方向が加味されることで、位置の変化に伴いどの範囲で作業が行われたかが正確に算出される。よって、この農作業機(1)によれば、作業部(10)の作業領域(A)が車両本体(2)の前後方向に延びる中心線(L)に関して非対称である場合であっても、作業履歴(H)を正確に求めることができる。
【0010】
業部(10)は、作業領域(A)を変更可能に構成されており、作業領域(A)を検出する作業領域検出部(26)を更に備えてもよい。
【0011】
この農作業機(1)では、車両本体(2)に取り付けられた作業部(10)は、車両本体(2)の前後方向に延びる中心線(L)に関して非対称な作業領域(A)を有する。作業部(10)は非対称な作業領域(A)を有するため、中心線(L)の一方側と他方側とで、作業領域(A)は異なっている。算出部(32)によって、車両本体(2)の位置と作業部(10)の作業領域(A)とに基づいて、位置の変化に伴いどの範囲で作業が行われたかが正確に算出される。作業部(10)は、作業領域(A)を変更可能に構成されているが、作業領域検出部(26)によって、作業部(10)による作業領域(A)が検出される。これにより、車両本体(2)を基準として作業領域(A)がどの位置・方向に形成されており、どの範囲まで延びているかが検出される。よって、この農作業機(1)によれば、作業部(10)の作業領域(A)が車両本体(2)の前後方向に延びる中心線(L)に関して非対称であり、また作業部(10)による作業領域(A)が変更可能な構成であっても、作業履歴(H)を正確に求めることができる。
【0012】
作業部(10)は、車両本体(2)に対して左右方向のいずれか一方に延出すると共に左右方向に反転可能なブームノズル装置(10)であり、作業領域検出部(26)は、車両本体(2)に対するブームノズル装置(10)の左右いずれかの位置を検出する位置検出部(21)を有してもよい。この場合、左右方向に反転可能なブームノズル装置(10)を備えた農作業機(1)においても、位置検出部(21)によって、車両本体(2)の左側及び右側のどちら側にブームノズル装置(10)が位置しているかが検出される。よって、ブームノズル装置(10)による作業履歴(H)を正確に求めることができる。
進行方向検出部(23)は、車両本体(2)における車輪(2a)の回転方向を検出す
ることにより、車両本体(2)の進行方向を検出してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、作業部の作業領域が車両本体の前後方向に延びる中心線に関して非対称である場合であっても、作業履歴を正確に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る農作業機を示す斜視図である。
図2】ブームスプレーヤ装置の反転機構を示す平面図である。
図3】車両本体に対する作業領域を模式的に示す平面図である。
図4】車両本体に搭載される作業履歴算出装置の構成を示すブロック図である。
図5図4のブーム位置検出部の概略構成を示す平面図である。
図6】(a)は、図4の進行方向検出部の概略構成を示す側面図、(b)及び(c)は、進行方向検出部における進行方向の検出例を示す図である。
図7図4中の制御装置によって行われる処理手順を示すフロー図である。
図8】(a)〜(d)は、ブームスプレーヤ装置の位置と車両本体の進行方向とに応じた作業の範囲を示す平面図である。
図9図4の作業履歴算出装置において表示される作業履歴の一例を示す図である。
図10】従来の装置において表示される作業履歴の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、「上」、「下」、「左」、「右」、「前」、「後」等の方向を示す語は、特に断らない限り、水平面上の車両本体にブームスプレーヤ装置を設置した状態において、当該車両本体の通常の前進方向を前方と定めた状態を基準としている。
【0016】
図1及び図2に、水田や畑における散布面に薬剤等を散布する農作業機1を示す。農作業機1は、トラクタ等の車両本体2と、車両本体2の後部に装着されたマウント型のブームスプレーヤBSとを備える。ブームスプレーヤBSは、装置フレーム3を介して車両本体2に固定されている。ブームスプレーヤBSの基本的な構成は従来のものと同様であり、薬剤タンク4と、薬剤タンク4内の液状の薬剤を吸引して圧送するポンプ装置6と、ポンプ装置6から送られてくる薬剤を散布するブームノズル装置(作業部)10とを備えている。
【0017】
ブームノズル装置10は、装置フレーム3の下部に水平方向に揺動可能に取り付けられたターンブーム11と、ターンブーム11の先端部に上下方向及び水平方向に揺動可能に取り付けられたサイドブーム12とを有している。サイドブーム12は、たとえば3本のサブブームからなり、3段式で伸縮可能となっている。サイドブーム12の各サブブームには、ノズルパイプ13が取り付けられている。サイドブーム12の基端側には、伸縮自在な2個のコイルホース16が取り付けられている。ポンプ装置6から圧送された薬剤が、コイルホース16とノズルパイプ13とを介してノズル14から噴射されるようになっている。なお、装置フレーム3の下部には、車両本体2の下部にも薬剤を散布することができるよう、複数のノズルが設けられている。
【0018】
上記したように、ブームノズル装置10は、左右方向のいずれか一方にのみサイドブーム12を有するタイプの散布装置である。農作業機1による作業時には、ターンブーム11とサイドブーム12とはほぼ一直線上に配置され、右方向又は左方向にサイドブーム12を延出させる。たとえば右方向に延出させる場合、サイドブーム12は、車両本体2の前後方向Dに延びる中心線L(図3参照)に対して約90度の方向をなして、車両本体2の右方に延びる。
【0019】
図2に示されるように、ブームノズル装置10は、ターンブーム11を180度揺動させることにより、サイドブーム12を左右方向に反転させる反転機構17を有している。装置フレーム3の一部を構成するベース部材3aの中央には、後方に突出する旋回支持部3bが設けられている。反転機構17は、旋回支持部3bにおいて中心線L上に配置された支点17gを中心にして、ターンブーム11を旋回させる。反転機構17の構成をより詳細に説明すると、旋回支持部3bには支軸17dを介してアーム17cが結合されて後方に延びており、その先端には、支軸17eを介してリンク17bが結合されている。リンク17bの一端は、ベース部材3aの端部に取り付けられたシリンダ17aの先端に対して回転可能に結合されている。リンク17bの他端は、支軸17fを介してターンブーム11に結合されている。
【0020】
上記の構成を有する反転機構17では、シリンダ17aの伸張に伴って、支軸17eと支軸17fとが異なる形状の軌跡を描いて移動することにより、ターンブーム11は支点17gを中心にして左側に搖動する。シリンダ17aの縮退に伴って、上記とは逆の動作がなされ、ターンブーム11は支点17gを中心にして右側に搖動する。そして、ターンブーム11に対し、サイドブーム12は90度旋回可能である。以上の構成により、ブームノズル装置10では、反転機構17によってサイドブーム12を右方向又は左方向に延出させることが可能となっている。サイドブーム12は、上記の中心線L(図3参照)に対して約90度の方向をなして、車両本体2の右方又は左方に延びる。なお、散布面の形態に合わせて、サイドブーム12を上下方向に揺動させることも可能となっている。
【0021】
ここで、車両本体2の中心線Lは、たとえば、一対の車輪2a,2aと車軸との交点同士を結ぶ線分の垂直二等分線とすることができる。中心線Lは、車両本体2の重心を通りかつ前後方向Dに平行な直線とすることもできる。また、中心線Lは、車両本体2の外形によって定められてもよい。
【0022】
上記の構成を有するブームノズル装置10は、反転機構17によって反転可能であることにより、中心線Lに関して右側寄り又は左側寄りの非対称な散布領域(作業領域)Aを形成する(図3参照)。言い換えれば、ブームノズル装置10は、中心線Lを基準として、車両本体2の右側又は左側にのみ散布領域Aを有する。この散布領域Aは、装置フレーム3及びサイドブーム12に取り付けられたノズル14の配置と、サイドブーム12の伸縮状態(すなわち長さ)とによって決まる。
【0023】
農作業機1の車両本体2には、ブームノズル装置10による散布面への散布履歴を算出する散布履歴算出装置Mが搭載されている。図4に示されるように、散布履歴算出装置Mは、車両本体2の屋根面に設置されたGPS(Global Positioning System)アンテナ20(図1及び図3も参照)と、ブーム位置検出部(位置検出部)21と、ブーム長さ検出部22と、進行方向検出部23とを備えている。これらは、散布履歴算出装置Mにおけるセンサ類を構成しており、情報端末Maに電気的に接続されている。情報端末Maは、制御装置30と表示部40とを有する。情報端末Maは、上記のセンサ類から出力された情報を入力し、所定の処理を実行することにより表示部40に散布履歴を表示する。以下、散布履歴算出装置Mについて詳細に説明する。
【0024】
GPSアンテナ20は、GPS衛星からの電波を受信する受信機であり、車両本体2の位置を検出する機能を有している。GPSアンテナ20による位置の検出は、所定時間ごとに行われる。GPSアンテナ20は、検出した車両本体2の位置を含む情報を情報端末Maの制御装置30へ出力する。
【0025】
ブーム位置検出部21は、中心線Lを基準として、サイドブーム12が車両本体2の右側に位置するか左側に位置するかを検出する。より詳細には、図3及び図5に示されるように、ブーム位置検出部21は、それぞれ近接センサから成る右側のブーム検知センサ21Aと、左側のブーム検知センサ21Bとを有している。ブーム検知センサ21A及びブーム検知センサ21Bは、装置フレーム3の一部を構成するベース部材3aにおいてターンブーム11の旋回中心を挟んだ左右両側へそれぞれ固定されている。ブーム検知センサ21A,21Bは、ベース部材3aに対向する位置に到来するサイドブーム12を検出する。ブーム位置検出部21は、ブーム検知センサ21A,21Bのいずれか一方からの検出信号により、車両本体2に対するサイドブーム12の位置を検出する。ブーム位置検出部21は、反転機構17の揺動角度を利用してサイドブーム12の位置を検出するものであってもよい。ベース部材3aの左右の両端部には、サイドブーム12を制止するためのストッパ51が設けられている。
【0026】
ブーム長さ検出部22は、サイドブーム12の伸縮状態すなわち長さを検出する。ブーム長さ検出部22は、たとえば複数のサブブームを伸縮させるための電動機の回転を検出することにより、サイドブーム12の長さを検出することができる。ブーム長さ検出部22として、たとえばフォトインタラプタを用いた位置センサを適用してもよい。ブーム長さ検出部22としては、サイドブーム12の長さを検出できるものであればよい。
【0027】
ブーム位置検出部21及びブーム長さ検出部22は、ブームノズル装置10による散布領域を検出する散布領域検出部26を構成する。散布領域検出部26は、ブーム位置検出部21によって検出されたサイドブーム12の位置と、ブーム長さ検出部22によって検出されたサイドブーム12の長さとに基づいて、ブームノズル装置10による散布領域を検出する。散布領域検出部26は、検出したブームノズル装置10の散布領域を含む情報を情報端末Maの制御装置30へ出力する。
【0028】
進行方向検出部23は、車両本体2の進行方向を検出する。すなわち、進行方向検出部23は、車両本体2が前進しているか後進しているかを検出する。より詳細には、図6
a)に示されるように、進行方向検出部23は、車輪2aに固定された歯付プレート53と、歯付プレート53に対向する2種類の第1近接センサ56及び第2近接センサ57とを有する。歯付プレート53には、所定のピッチで山部53aと谷部53bとが形成されている。第1近接センサ56及び第2近接センサ57は、歯付プレート53の山部53aが近接したことを検出する。第1近接センサ56と第2近接センサ57との間隔は、歯付プレート53,53のピッチの整数倍に対し4分の1ピッチずらされている。
【0029】
図6(b)に示されるように、車両本体2が前進しているときには、第1近接センサ56の出力が1から零(ゼロ)に変わったとき、第2近接センサ57の出力は1である。図6(c)に示されるように、車両本体2が後進しているときには、第1近接センサ56の出力が1から零に変わったとき、第2近接センサ57の出力は零である。このようにして、進行方向検出部23は、車両本体2が前進しているか後進しているかを検出する。進行方向検出部23は、検出結果を含む情報を情報端末Maの制御装置30へ出力する。
【0030】
情報端末Maの制御装置30は、情報取得部31と、散布履歴算出部32と、散布履歴記憶部33とを有している。情報取得部31は、GPSアンテナ20、散布領域検出部26及び進行方向検出部23から出力された信号を取得する。散布履歴算出部32は、情報取得部31によって取得された信号に基づいて、ブームノズル装置10による散布履歴(作業履歴)を算出する。散布履歴算出部32による散布履歴の算出については、後述する。散布履歴記憶部33は、散布履歴算出部32によって算出された散布履歴を記憶する。散布履歴記憶部33は、所定時間過去から現在までに記憶した散布履歴を蓄積し、表示部40に表示させる。
【0031】
制御装置30は、CPU(Central Processing Unit)、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等を含むコンピュータを主体として構成されており、これらの構成要素が動作することにより、上述した情報端末Maの各機能が発揮される。
【0032】
次に、図7を参照して、制御装置30により行われる処理について説明する。
【0033】
まず、情報取得部31は、GPSアンテナ20から出力された農作業機1(すなわち車両本体2)の位置情報を取得する(ステップS1)。次に、散布領域検出部26は、ブーム位置検出部21によって検出されたサイドブーム12の位置と、ブーム長さ検出部22によって検出されたサイドブーム12の長さとに基づいて、ブームノズル装置10による散布領域を検出する。散布領域検出部26は、検出したブームノズル装置10の散布領域を含む情報を情報端末Maの制御装置30へ出力する。
【0034】
情報取得部31は、散布領域検出部26から出力された散布領域情報を取得する(ステップS2)。次に、情報取得部31は、進行方向検出部23から出力された農作業機1(すなわち車両本体2)の進行方向情報を取得する(ステップS3)。
【0035】
次に、散布履歴算出部32は、農作業機1の進行方向が前であるか後ろであるかを判断する(ステップS4)。ステップS4において農作業機1の進行方向が前であると判断すると、散布履歴算出部32は、サイドブーム12の位置が右方であるか左方であるかを判断する(ステップS5)。ステップS5においてサイドブーム12の位置が右方であると判断すると、散布履歴算出部32は、散布範囲が移動方向右側であることを検出する(ステップS7)。一方、ステップS5においてサイドブーム12の位置が左方であると判断すると、散布履歴算出部32は、散布範囲が移動方向左側であることを検出する(ステップS8)。
【0036】
図8(a)に示されるように、サイドブーム12の位置が右方であり農作業機1が前進している場合、散布範囲Aaは、移動方向右側となる。また、図8(b)に示されるように、サイドブーム12の位置が左方であり農作業機1が前進している場合、散布範囲Abは、移動方向左側となる。
【0037】
ステップS4において農作業機1の進行方向が後ろであると判断すると、散布履歴算出部32は、サイドブーム12の位置が右方であるか左方であるかを判断する(ステップS6)。ステップS6においてサイドブーム12の位置が右方であると判断すると、散布履歴算出部32は、散布範囲が移動方向左側であることを検出する(ステップS9)。一方、ステップS6においてサイドブーム12の位置が左方であると判断すると、散布履歴算出部32は、散布範囲が移動方向右側であることを検出する(ステップS10)。
【0038】
図8(c)に示されるように、サイドブーム12の位置が右方であり農作業機1が後進している場合、散布範囲Acは、移動方向左側となる。また、図8(d)に示されるように、サイドブーム12の位置が左方であり農作業機1が後進している場合、散布範囲Adは、移動方向右側となる。
【0039】
ステップS7,S8,S9,S10でいう「移動方向右側」、「移動方向左側」とは、車両本体2の現実の進行方向を前方と定めた状態を基準としている。すなわち、現実の進行方向が後ろ向き(後進状態)である場合には、「移動方向」は前輪から後輪へ向かう向きである。言い換えれば、「移動方向」とは、GPSアンテナ20によって1個前に取得した位置情報からその次に取得した位置情報へと向かう向きである(図9参照)。
【0040】
移動方向と散布領域との関係が検出されたら、図9に示されるように、散布履歴算出部32は、GPSアンテナ20から取得した古い位置情報(すなわち現在のデータより1個前の位置情報)100と、現在のデータに対応する位置情報101と、その間に検出された「移動方向右側」又は「移動方向左側」の情報とに基づいて、四角形の散布履歴Hを算出する(ステップS11)。散布履歴算出部32は、算出した散布履歴Hを散布履歴記憶部33に記憶させる。散布履歴記憶部33は、所定時間過去から現在までに記憶した散布履歴H(たとえばその日の散布作業が始まってから現在までの散布履歴H)を蓄積し、蓄積したデータを散布面上に落とし込み、表示部40に表示させる(ステップS12)。
【0041】
以上一連の処理により、散布履歴算出装置Mによる散布履歴の算出及び表示が行われる。
【0042】
以上説明した農作業機1では、車両本体2に取り付けられたブームノズル装置10は、車両本体2の前後方向に延びる中心線Lに関して非対称な作業領域Aを有する。ブームノズル装置10は非対称な作業領域Aを有するため、中心線Lの一方側と他方側とで、作業領域Aは異なっている。そのため、車両本体2の位置が変化した場合(すなわち農作業機1が移動した場合)でも、車両本体2が前進しているか後進しているかによって散布した範囲が変わることになる。農作業機1は、車両本体2の進行方向を検出する進行方向検出部23を備えている。散布履歴算出部32によって、車両本体2の位置とブームノズル装置10の作業領域Aに加え、車両本体2の進行方向が加味されることで、位置の変化に伴いどの範囲で作業が行われたかが正確に算出される。よって、農作業機1によれば、ブームノズル装置10の作業領域Aが車両本体2の中心線Lに関して非対称である場合であっても、散布履歴Hを正確に求めることができる。
【0043】
図10に示されるように、従来の散布履歴算出装置200では、操作/表示器201の表示部202上に、走行軌跡203と、走行軌跡203を中心として左右に等しい幅を有する既散布面204とが表示されるに過ぎなかった。この場合、自機205を案内するための走行ガイド線206は、自機205の左右に薬剤が均等に散布されることを前提として、隙間若しくは重なりが無くなる軌道を走行ガイド線206として表示していた。そのため、本実施形態の農作業機1のように、左右方向のいずれか一方のみに延出したブームノズル装置10を備える場合には、GPS機能のみから正確な既散布面を描き出すことは難しかった。
【0044】
本実施形態の農作業機1と散布履歴算出装置Mによれば、農作業機1が前進/後進を無作為に行った場合でも、農作業機1の進行方向を検出して加味しながら、GPS機能とブームノズル装置10による散布領域Aとに基づいて散布履歴Hが算出されるため、表示部40上への既散布面の表示精度が高められる。その結果として、既に散布した箇所とこれから散布する箇所の間に隙間若しくは重なりを無くせるようなGPSガイドが実現され、効率の良い薬剤散布を行うことができる。
【0045】
また、散布領域検出部26によって、ブームノズル装置10による作業領域Aが検出されるため、車両本体2を基準として作業領域Aがどの位置・方向に形成されており、どの範囲まで延びているかが検出される。よって、ブームノズル装置10による作業領域Aが変更可能な構成であっても、散布履歴Hを正確に求めることができる。
【0046】
また、左右方向に反転可能なブームノズル装置10を備えた農作業機1においても、ブーム位置検出部21によって、車両本体2の左側及び右側のどちら側にブームノズル装置10が位置しているかが検出される。よって、ブームノズル装置10による散布履歴Hを正確に求めることができる。
【0047】
また、散布履歴Hを記憶及び蓄積する散布履歴記憶部33によれば、たとえば長時間の作業に及ぶ場合や、複数日にわたって作業が行われる場合、さらには広範囲の散布面に対して作業が行われる場合でも、支障なく散布履歴の表示が行われる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではない。たとえば、上記実施形態では、サイドブーム12が伸縮可能である場合について説明したが、サイドブーム12の長さを一定として散布を行う場合には、ブーム長さ検出部22を省略し、ブーム位置検出部21がサイドブーム12の位置のみを制御装置30に出力するようにしてもよい。
【0049】
また、農作業機1が一定の方向に進行する場合には、進行方向検出部23を省略することもできる。作業部10の作業領域Aが変更可能に構成されている場合であっても、作業領域検出部26によって、作業部10による作業領域Aが検出され、車両本体1を基準として作業領域Aがどの位置・方向に形成されており、どの範囲まで延びているかが検出される。よって、進行方向検出部23が省略された農作業機1によっても、作業部10の作業領域Aが車両本体2の前後方向に延びる中心線Lに関して非対称であり、また作業部10による作業領域Aが変更可能な場合であっても、作業履歴Hを正確に求めることができる。
【0050】
また、上記実施形態ではブームノズル装置10が左右方向に反転可能な場合について説明したが、ブームノズル装置10が左右方向のいずれか一方に固定されたブームスプレーヤBSを採用してもよい。この場合には、予め制御装置30に散布領域(作業領域)Aを記憶させておくことで、散布履歴Hを正確に算出することができる。その場合にはさらに、ブーム位置検出部21、ブーム長さ検出部22等を省略することもできる。
【0051】
農作業機の作業部は、車両本体から延出する場合に限られない。液体又は紛体が、車両本体2の側部に設けられた噴出口から噴出されるような態様であってもよい。
【0052】
作業部によって行われる農作業としては、薬剤の散布に限られず、たとえば、散水、農地の耕耘、播種又は移植等といった種々の作業が挙げられる。作業部を有する農作業機であれば、本発明は適用可能である。本発明は、特に、作業履歴を視認し難い種類の農作業に適している。
【符号の説明】
【0053】
1…農作業機、2…車両本体、10…ブームノズル装置(作業部)、20…GPSアンテナ、21…ブーム位置検出部(位置検出部)、23…進行方向検出部、26…散布領域検出部(作業領域検出部)、32…散布履歴算出部(算出部)、A…散布領域(作業領域)、H…散布履歴(作業履歴)、L…中心線。
図1
図2
図3
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図7
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図9
図10