(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の被覆繊維状銅微粒子は、繊維状銅微粒子の表面の少なくとも一部が銅以外の金属で被覆された被覆繊維状銅微粒子であって、該繊維状銅微粒子の長さが1μm以上であり、かつアスペクト比が10以上であるものである。
【0013】
本発明の被覆繊維状銅微粒子は、上述のように、繊維状銅微粒子の表面が銅以外の金属にて被覆されてなるものであり、
図1に示すように、金属による被覆後も、繊維形状が維持されている。銅以外の金属にて被覆された繊維状銅微粒子は、未被覆の繊維状銅微粒子と比較すると、溶媒中や大気中での安定性に優れるものである。繊維状銅微粒子を被覆するための銅以外の金属としては、貴金属元素(金・白金・銀・パラジウム・ロジウム・イリジウム・ルテニウム・オスミウム等)や卑金属元素(鉄・コバルト・錫等)などが挙げられる。これらは、1種で用いられてもよいし、複数種が組み合わせられて用いられてもよい。なかでも、導電性及び安定性の観点から、少なくとも銀を用いることが好ましい。
【0014】
未被覆の繊維状銅微粒子に対して、銀などの銅以外の金属を被覆する方法としては、特に限定されるものではないが、無電解メッキ法が好ましく用いられる。無電解メッキ法を採用して、繊維状銅微粒子の表面に対して銅以外の金属を被覆するためには、例えば銀を被覆させる場合には、硝酸銀、炭酸アンモニウム塩あるいはエチレンジアミン四酢酸塩の銀錯塩溶液を用い、繊維状銅微粒子の表面に銀を置換析出させる方法;あるいは、キレート化剤溶液に繊維状銅微粒子を分散し、該分散液に硝酸銀溶液を加え、次いで還元剤を添加して、該繊維状銅粒子の表面に対して、銀被膜を析出させる方法等を用いることができる。
【0015】
また、未被覆の繊維状銅微粒子に対し、銅以外の金属としての金を被覆するためには、例えば金源として、塩化金酸やシアン化金カリウム等を用い、該繊維状銅微粒子の表面に対して、金被膜を析出させるという手法を採用してもよい。未被覆の繊維状銅微粒子に対してニッケルを被覆するためには、例えばニッケル源として、塩化ニッケルや酢酸ニッケル等を用い、該繊維状銅微粒子の表面に対して、ニッケル被膜を析出させるという手法を採用してもよい。
【0016】
金属が被覆されていない状態の(つまり、未被覆の)繊維状銅微粒子について述べる。
繊維状銅微粒子の長さは1μm以上であることが必要であり、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。繊維状銅微粒子の長さが1μm未満であると、本発明の被覆繊維状銅微粒子を含む透明導電材料においては、良好な導電性と透明性とを両立させることが困難になる。一方、本発明の被覆繊維状銅微粒子を含む導電性皮膜や導電性フィルムを形成する際のコーティング剤のハンドリングの観点からは、繊維状微粒子の長さが500μmを超えないことが好ましい場合がある。
【0017】
繊維状銅微粒子の短径は1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.2μm以下であることがさらに好ましく、0.1μm以下であることが特に好ましい。繊維状銅微粒子の短径が1μmを超えると、本発明の被覆繊維状銅微粒子を含有する透明導電材料においては、透明性に劣る場合がある。
【0018】
繊維状銅微粒子のアスペクト比(繊維状体の長さ/繊維状体の短径)は、10以上であることが必要であり、100以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましい。繊維状銅微粒子のアスペクト比が10未満であると(つまり、球状に近いものであると)、本発明の被覆繊維状銅微粒子を含む透明導電材料においては、透明性と導電性とを両立させることが困難になる。
【0019】
本発明の被覆繊維状銅微粒子においては、その全ての表面が銅以外の金属で被覆されていることが好ましいが、金属による被覆がなされておらず銅が表面に露出している部分があってもよい。被覆繊維状銅微粒子における、銅以外の被覆金属の含有量としては、被覆繊維状銅微粒子全体の質量に対して、1〜50質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましく、15〜30質量%がさらに好ましい。1質量%未満であると、金属を被覆させることにより奏される効果である導電性の向上が不十分な場合がある。一方、50質量%を超えると、銅以外の金属の被覆による材料費が増加したり被覆繊維状銅微粒子の短径が増大したりする可能性がある。なお、金属の被覆量は、例えば、本発明の被覆繊維状銅微粒子を強酸に溶解させて測定溶液を得、この溶液に対してICP(高周波誘導結合プラズマ)による測定をおこなうことにより求めることが出来る。
【0020】
繊維状銅微粒子、及び後述の銅粒状体の、短径及び長さ(長径)を求める方法、および繊維状銅微粒子1本あたりの銅粒状体の個数を算出する方法は、以下のようなものである。
つまり、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)などを用い、繊維状銅微粒子の集合体を観察する。繊維状銅微粒子の観察には、例えば、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、「VHX−1000、VHX−D500/510」)などを用いることができる。
【0021】
そして、該集合体から100本の繊維状銅微粒子を選択する。これらの繊維状銅微粒子、及び繊維状銅微粒子に付着あるいは接触している銅粒状体の、短径及び長さをそれぞれ測定し、これらの平均値をもって、短径及び長さとすることができる。また、上記のようにして求めた長さを短径で除することにより、繊維状銅微粒子及び銅粒状体のアスペクト比を算出することができる。さらに、存在する銅粒状体の個数をカウントし、銅粒状体の個数を繊維状銅微粒子の本数(100本)で除することにより、繊維状銅微粒子1本あたりの銅粒状体の個数を算出することができる。
【0022】
ここで、本発明の繊維状銅微粒子を観察するに際し、繊維状銅微粒子が重なり合って密集している場合は、繊維状銅微粒子および銅粒状体の形状を正確に評価することができない場合がある。そのため、このような場合は、超音波分散装置などを用い、隣り合う繊維状銅微粒子同士が密着しない程度になるまで密集している繊維状銅微粒子を解すことができる。
【0023】
未被覆の繊維状銅微粒子においては、短径が0.3μm以上かつアスペクト比が1.5以下である銅粒状体の存在割合が繊維状銅微粒子1本あたり0.1個以下であることが好ましく、0.08個以下であることがより好ましく、0.05個以下であることがさらに好ましく、全く存在しないことが最も好ましい。上記の銅粒状体が繊維状銅微粒子1本あたり0.1個を超えて存在する場合は、本発明の被覆繊維状銅微粒子を含む透明導電材料において、透明性に劣る場合がある。
【0024】
なお、透明性に影響を与える銅粒状体の短径は0.3μm以上であり、同アスペクト比(銅粒状体の長さ/銅粒状体の短径)は1.5以下のものである。
【0025】
上記のような未被覆の繊維状銅微粒子を製造するには、例えば、以下のような方法が用いられる。すなわち、銅イオン、アルカリ性化合物、銅イオンと安定な錯体を形成しうる含窒素化合物及び還元性化合物を含有する水溶液から繊維状銅微粒子を析出させるという方法が用いられる。このとき、還元性化合物として、アルカリ水溶液中の溶存酸素と反応しないものを使用することが好ましい。
【0026】
還元性化合物として、アルカリ水溶液中の溶存酸素と反応するものを用いると、得られる繊維状銅微粒子においては、銅粒状体の存在割合が、繊維状銅微粒子1本あたり0.1個を超えてしまい、つまり、銅粒状体が多数存在する繊維状銅微粒子しか得られない場合がある。
【0027】
ここで、「溶存酸素と反応しない還元性化合物」とは、以下の指標により定義される。
まず、純水500gに10%水酸化ナトリウム水溶液を数滴添加し、pHを10.4に調整したアルカリ水溶液(水温25℃)を調製する。このアルカリ水溶液の溶存酸素濃度を「溶存酸素濃度1」とする。具体的には、溶存酸素濃度1は、8.3mg/Lである。なお、溶存酸素濃度の測定には、例えば、溶存酸素計「DO−5509」(Lutron社製)を用いる。
【0028】
その後、直径が7.0cmの開放円筒型容器に、このアルカリ水溶液を100mL入れ、次いで、上記のアルカリ水溶液に対して、0.50mol/Lの濃度になるように還元性化合物を添加し、該水溶液が渦巻かない程度にマグネチックスターラーを用いて撹拌し、溶解させる。溶解後も引き続き撹拌を継続しながら、還元性化合物の添加後から、0.5分、5分、10分、15分及び30分後に、水溶液中の溶存酸素濃度を測定する。そして、還元性化合物の添加後から10分後の溶存酸素濃度を「溶存酸素濃度2」とする。
【0029】
そして、以下の式(1)により、数値Aを求める。
A=(溶存酸素濃度2)/(溶存酸素濃度1) (1)
本発明においては、(1)式にて得られた数値Aが0.5以上である還元性化合物を「溶存酸素と反応しない還元性化合物」と定義する。そして、数値Aが0.5未満である還元性化合物を「溶存酸素と反応する還元性化合物」と定義する。
【0030】
溶存酸素と反応しない還元性化合物としては、アスコルビン酸、エリソルビン酸、グルコース又はヒドロキシルアンモニウム塩などが挙げられる。これらの溶存酸素と反応しない還元性化合物の数値Aは、いずれも0.5以上である。なかでも、アスコルビン酸、エリソルビン酸及びグルコースから選ばれる1種以上を用いることが好ましく、アスコルビン酸を用いることが最も好ましい。
【0031】
従来技術においては、繊維状の銅微粒子を製造するに際し、一般に、反応溶液中に含有される還元性化合物としてヒドラジンを用いることで、該銅微粒子を析出させていた。しかしながら、ヒドラジンなどの「溶存酸素と反応する還元性化合物」を用いた場合は、銅粒状体の存在割合が増加した繊維状銅微粒子しか得られない場合がある。あるいは、繊維状銅微粒子自体を析出させることができない場合もある。
【0032】
なお、従来用いられてきた還元性化合物であるヒドラジンにおいて、上記式(1)にて得られた数値Aは0.05程度である。
【0033】
本発明においては、繊維状銅微粒子を析出させるための水溶液中の溶存酸素濃度を高い範囲に維持することが好ましい。より具体的には、該水溶液に含有される水として、溶存酸素濃度が1mg/L以上であるものを使用することが好ましく、3mg/L以上であるものを使用することがより好ましい。溶存酸素濃度が1mg/L未満である水を用いると、繊維状銅微粒子1本あたりの銅粒状体の割合が0.1個を超えるものとなり、ひいては、透明導電材料などに含有された場合に、透明性に劣る繊維状銅微粒子しか得られない場合がある。
【0034】
上記のような還元性化合物は、水溶液中の銅イオンに対し0.5〜5.0モル当量の割合で用いられることが好ましく、0.75〜3.0モル当量の割合で用いられることがより好ましい。0.5モル当量未満の割合で用いられると、繊維状銅微粒子の形成効率が低下する場合がある。一方、5.0モル当量を超えて使用しても、繊維状銅微粒子の形成効果が飽和してしまい、コストなどの観点から好ましくない。
【0035】
銅イオンは、水溶性の銅塩を水に溶解させることにより生成することができる。水溶性の銅塩としては、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅又は酢酸銅などが挙げられる。なかでも、本発明の繊維状銅微粒子の形成しやすさの点では、硫酸銅又は硝酸銅を好ましく用いることができる。
【0036】
アルカリ性化合物としては、特に限定されるものではなく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることができる。
【0037】
水溶液中における、アルカリ性化合物の濃度は15〜50質量%とすることが好ましく、30〜50質量%とすることがより好ましく、35〜45質量%とすることがさらに好ましい。アルカリ性化合物の濃度が15質量%未満であると、本発明の繊維状銅微粒子が形成されにくくなる場合がある。一方、該濃度が50質量%を超えると、水溶液のハンドリングが困難となる場合がある。
【0038】
水溶液中における銅イオンの濃度は、上記アルカリ性化合物の水酸化物イオンと銅イオンとのモル比によって規定される。すなわち、(アルカリ性化合物の水酸化物イオン)/(銅イオン)が、モル比で、3000/1〜6000/1の範囲となるように設定されることが好ましく、3000/1〜5000/1の範囲に設定されることがより好ましい。該モル比が3000/1未満であると、銅粒状体の形成を抑制することができず、ひいては、銅粒状体の存在割合が繊維状銅微粒子1本あたり0.1個を超えてしまう。あるいは、銅微粒子の形状が繊維状とならず、球状となってしまう場合がある。一方、モル比が6000/1を超えると、繊維状銅微粒子の形成効率が悪くなってしまう場合がある。
【0039】
水溶液中で2価銅イオンと安定な錯体を形成する含窒素化合物としては、アンモニア、エチレンジアミン、又はトリエチレンテトラミンなどが挙げられる。なかでも、繊維状銅微粒子の形成しやすさの点では、エチレンジアミンを好ましく用いることができる。
【0040】
なお、上記の含窒素化合物は、繊維状銅微粒子の形成効率の観点から、銅イオン1モルに対して、1モル以上の割合で用いられることが好ましい。
【0041】
次いで、上述のような成分を含有する水溶液を、適宜な熱源で加熱し、次いで、上記水溶液の加熱を継続させる、あるいは、水溶液の液温を降下させることにより、所望の繊維状銅微粒子の析出を生じさせることができる。特に、後者の方法、すなわち、加熱後に液温を降下させる方法がより好ましい。
【0042】
水溶液の加熱温度は特に限定されるものではないが、析出効率とコストとのバランスの観点から、50〜100℃が好ましい。
【0043】
析出した繊維状銅微粒子は、ろ過、遠心分離、加圧浮上法などの方法により固液分離して回収することができる。さらに必要に応じて、回収された繊維状銅微粒子に対して洗浄や乾燥などをおこなってもよい。なお、繊維状銅微粒子を取り出す際は、その表面が酸化されやすいため、不活性ガス雰囲気(例えば、窒素ガス雰囲気)下で作業をおこなうことが好ましい。
【0044】
また取り出された繊維状銅微粒子の保管に際しては、不活性ガス雰囲気、例えば窒素ガス雰囲気下で保管するか、微量の還元性化合物を溶解させた溶液、あるいは、銅の酸化防止機能を有する有機物を微量で溶解させた溶液などに再分散させて保管することが好ましい。
【0045】
また、上記のような方法で析出させた繊維状銅微粒子を、固液分離して回収した後、水や、アスコルビン酸などの微量の還元性化合物を溶解させた溶液で洗浄し、繊維状銅微粒子の状態での保管をおこなうことなく、洗浄後、直ちに銅以外の金属で被覆する工程に付することにより、本発明の被覆繊維状銅微粒子を得てもよい。繊維状銅微粒子の表面酸化を抑制する観点からは、この方法がより好ましい。
【0046】
上述のような、特定の形状を有する繊維状銅微粒子が銅以外の金属で被覆されてなる本発明の被覆繊維状銅微粒子を、バインダ成分及び溶媒などに配合し分散させることによって、本発明の導電性コーティング剤を作製することができる。
【0047】
バインダ成分としては、特に限定はないが、例えば、アクリル系樹脂(アクリルシリコン変性樹脂、フッ素変性アクリル樹脂、ウレタン変性アクリル樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂等)、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、酢酸ビニル系樹脂や、天然高分子のデンプン、ゼラチン、寒天等、半合成高分子のカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、合成高分子のポリビニルアルコール、ポリアクリル酸系高分子、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子等を用いることができる。
【0048】
上記溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、ケトン類、エステル類、エーテル類、アミド類、炭化水素類などの有機溶媒が挙げられる。これらは、単独であるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、水やアルコール類を主成分とする溶媒を用いることが好ましい。
【0049】
本発明の導電性コーティング剤における、被覆繊維状銅微粒子とバインダとの配合比率は、被覆繊維状銅微粒子の体積(A)とバインダの体積(B)との体積比(A/B)で、1/100〜5/1であることが好ましく、1/20〜1/1であることがより好ましい。被覆繊維状銅微粒子とバインダとの体積比が1/100未満であるほどに被覆繊維状銅微粒子が少ないと、得られる導電性コーティング剤、あるいは該コーティング剤から得られる導電性皮膜などにおいて、導電性が低くなる場合がある。一方、体積比が5/1を超えるほどにバインダが少ないと、導電性皮膜などとされた場合の表面平滑性や透明性に劣るものとなったりする場合や、導電性コーティング剤を基材に塗布する際の、基材との密着性が低下したりする場合がある。
【0050】
本発明の導電性コーティング剤における固形分(本発明の被覆繊維状銅微粒子、バインダ、及び必要に応じてその他添加剤の固形分の合計)濃度は、導電性や取扱性などのバランスに優れる観点から、1〜99質量%が好ましく、1〜50質量%がより好ましい。
【0051】
また、本発明の導電性コーティング剤の20℃における粘度は、取扱性や基材への塗布容易性などに優れる観点から、0.5〜100mPa・sであることが好ましく、1〜50mPa・sであることがより好ましい。
【0052】
本発明の導電性コーティング剤には、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、アルデヒド系、エポキシ系、メラミン系、イソシアネート系などの架橋剤が用いられてもよい。
【0053】
本発明の導電性コーティング剤を製膜することにより、本発明の導電性皮膜を得ることができる。さらに、該導電性皮膜を基材上に形成することにより、本発明の導電性フィルムを得ることができる。本発明の導電性皮膜及び導電性フィルムは、透明性及び導電性のいずれにも優れるものである。
【0054】
導電性皮膜の形成方法としては、本発明の導電性コーティング剤を、プラスチックフィルムなどの基材表面上に塗布して、次いで乾燥した後、必要に応じ硬化させることにより膜形成するという、いわゆる液相成膜法が挙げられる。塗布方法としては、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法などの方法を用いることができる。
【0055】
導電性皮膜の膜厚みは、実用性などの観点から、例えば、0.1〜10μm程度であってもよい。
【0056】
また、本発明の被覆繊維状銅微粒子を含有する導電性皮膜あるいは導電性フィルムを形成するためには、本発明の被覆繊維状銅微粒子のみをプラスチックフィルムなどの基材表面上に塗布し、必要に応じ、該塗布された被覆繊維状銅微粒子を保護するための被覆層を形成する方法を用いることもできる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0058】
実施例にて得られた被覆繊維状銅微粒子、並びに、比較例にて用いられた未被覆の繊維状銅微粒子又は繊維状銀微粒子に関する評価方法あるいは測定方法は以下の通りである。
1.溶存酸素と反応しない還元性化合物の評価
上記式(1)[つまり、A=(溶存酸素濃度2)/(溶存酸素濃度1)]による還元性化合物と溶存酸素の反応についての判断基準に基づき、実施例及び比較例にて用いられた還元性化合物の溶存酸素との反応性について評価した。
なお、溶存酸素濃度1は、上記のようにして測定された、アルカリ水溶液中の溶存酸素濃度である。溶存酸素濃度2は、上記のようにして測定された、還元性化合物の添加後から10分後の水溶液中の溶存酸素濃度である。
【0059】
2.アルカリ水溶液中の溶存酸素濃度
溶存酸素計「DO−5509」(Lutron社製)を用いて測定した。
【0060】
3.繊維状銅微粒子及び銅粒状体の、短径及び長さ
繊維状銅微粒子の集合体を準備し、該繊維状銅微粒子同士が密着しすぎないようにするため、超音波分散装置を用いて軽く解した。その後、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、「VHX−1000、VHX−D500/510」)を用いて観察した。集合体の中から100本の繊維状銅微粒子を選択し、それぞれの繊維状銅微粒子及び銅粒状体の、短径及び長さを測定し、それらの平均値を短径及び長さとした。
【0061】
4.繊維状銅微粒子及び銅粒状体のアスペクト比
上記3.にて求めた長さを短径で除することにより、繊維状銅微粒子及び銅粒状体のアスペクト比を算出した。
【0062】
5.繊維状銅微粒子1本あたりの銅粒状体の個数
繊維状銅微粒子の集合体を準備し、該繊維状銅微粒子同士が密着しすぎないようにするため、超音波分散装置を用いて軽く解した。その後、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、「VHX−1000、VHX−D500/510」)を用いて観察した。集合体の中から100本の繊維状銅微粒子を選択し、該繊維状銅微粒子における銅粒状体の個数をカウントし、銅粒状体の個数を繊維状銅微粒子の本数(100本)で除することにより、繊維状銅微粒子1本あたりの銅粒状体の個数を算出した。
【0063】
6.繊維状銅微粒子に対する金属の被覆量
実施例にて得られた被覆繊維状銅微粒子をガラスビーカーに採取し、硝酸で溶解、希釈したものを測定溶液とした。この測定溶液に対して、ICP(日本ジャーレルアッシュ社製)による定量評価を実施した。そして、定量された各金属(つまり、銅及び銅以外の金属)の含有量比から、繊維状銅微粒子に対する金属の被覆量を算出した。なお、本明細書の実施例においては、銅以外の金属として銀を用いているため、金属の被覆量とは銀の被覆量をいうものである。
【0064】
7.被覆繊維状銅微粒子、及び未被覆の繊維状銅微粒子の安定性
実施例にて得られた被覆繊維状銅微粒子、および比較例にて用いられた未被覆の繊維状銅微粒子を7日間水に浸漬し、室温にて静置した。その後、リガク社製の「RINT−TTR III」を用いたX線回折法により、被覆繊維状銅微粒子あるいは未被覆の繊維状銅微粒子の表面における、銅、及び銀以外の物質(例えば、酸化銅など)のピークの有無を確認することにより、該物質の検出をおこなった。以下の基準で、安定性の評価をおこなった。
○:銅、及び銀以外の物質が検出されなかった。
×:銅、及び銀以外の物質が検出された。
【0065】
8.被覆繊維状銅微粒子の体積固有抵抗、及び抵抗値変化(単位:Ω・cm)
実施例にて得られた被覆繊維状銅微粒子、あるいは比較例にて用いられた未被覆の繊維状銅微粒子をアスコルビン酸水溶液(10質量%)中に分散させた後、窒素による加圧ろ過(フィルター:孔径が1μmであるPTFEメンブレンフィルター、アドバンテック社製)によって回収し、フィルター上に微粒子がシート状に積層されたサンプルを作製した。得られたサンプルを60℃に設定した乾燥機で30分間常圧乾燥したのち、1時間の減圧乾燥処理をおこなった。抵抗率計(ダイアインスツルメンツ社製、ロレスタAP、MCP−T400)を用いて、シート状に積層された各微粒子の体積固有抵抗を測定した。
【0066】
次にサンプルを乾燥機内、空気雰囲気下において180℃、1時間の加熱処理をおこなった後、上記と同様に、シート状に積層された各微粒子の体積固有抵抗を測定し、加熱処理による抵抗値の変化を評価した。
【0067】
(未被覆の繊維状銅微粒子の製造例1)
300mLの三口フラスコ内にて、アルカリ性化合物としての108.0gの水酸化ナトリウム(ナカライ社製)を、純水(27℃における溶存酸素濃度:8.7mg/L)180.0gに溶解した。次いで、銅イオンを生成させるための銅塩としての0.15gの硝酸銅三水和物(ナカライ社製)を6.2gの純水で溶解させた水溶液、及び含窒素化合物としての0.81gのエチレンジアミン(ナカライ社製)を添加し、200rpmで撹拌をおこない、均一な青色の水溶液を調製した。ここで、該水溶液中における水酸化物イオンと銅イオンのモル比は4500/1とした。
【0068】
この水溶液に、還元性化合物としてのアスコルビン酸(ナカライ社製、上記の数値A:0.88)の水溶液(4.4質量%)1.2gを加え、200rpmで撹拌を継続したまま、三口フラスコを80℃の湯浴に浸漬した。液の色は青色から徐々に薄くなり、30分後にはほぼ無色透明にまで変化した。
【0069】
さらに30分経過後、還元性化合物としてのアスコルビン酸水溶液(4.4質量%)4.8gを添加し、約1分間撹拌を継続した。その後、撹拌を停止し、三口フラスコを湯浴から引き上げたところ、冷却過程において繊維状銅微粒子が析出したことを目視で確認した。なお、反応中、三口フラスコ内は空気が充満された状態であった。
【0070】
析出した繊維状銅微粒子を、窒素による加圧ろ過(孔径が1μmであるPTFEメンブレンフィルター、アドバンテック社製)によって回収し、アルコルビン酸水溶液(10質量%)で1回、純水で3回洗浄後、50℃に設定した乾燥機内で乾燥した。これを「未被覆繊維状銅粒子1」とした。この未被覆繊維状銅微粒子1に対して、上記の3.、4.および5.の評価をおこなった。評価結果を表1に示す。該評価結果は実施例1〜4および比較例1における、繊維状銅微粒子の形状の項目にて示されている。
【0071】
【表1】
【0074】
(実施例1)
スターラーチップを入れたプラスチック容器中に、「未被覆繊維状銅粒子1」0.01gと、アスコルビン酸水溶液(10質量%)18gとを添加し懸濁液を作製した。該懸濁液を、室温にて700rpmで撹拌しながら、置換型無電解銀メッキ用プレディップ液(四国化成工業社製、「SSP−700P」)2gを添加し、添加後5分間撹拌を継続した。さらに、700rpmでの撹拌を継続したまま、置換型無電解銀メッキ液(四国化成工業社製、「SSP−700M」)0.5gとイオン交換水19.5gを混合した溶液を5分間かけて滴下添加したところ、この懸濁液の色調が赤褐色から薄茶色に変化した。
【0075】
この懸濁液に対して、窒素による加圧ろ過処理(フィルター:孔径が1μmであるPTFEメンブレンフィルター、アドバンテック社製)をおこない、イオン交換水を通して洗浄することにより、フィルター上において、微粒子がシート状に積層されたサンプルを作製した。このサンプルを60℃に設定した乾燥機内で乾燥することにより、銀で被覆された繊維状銅微粒子が、フィルター上に堆積した状態で得られた。得られた被覆繊維状銅微粒子に対して、上記の6.、7.および8.の評価をおこなった。評価結果を表1に示す。
【0076】
(実施例2)
実施例1において、置換型無電解銀メッキ液(四国化成工業社製、「SSP−700M」)0.5gとイオン交換水19.5gを混合した溶液を、それぞれの混合量を1gと19gとに変更した以外は、実施例1と同様の方法により、銀で被覆された被覆繊維状銅微粒子を得た。得られた被覆繊維状銅微粒子に対して、実施例1と同様の評価をおこなった。評価結果を表1に示す。
【0077】
(実施例3)
実施例1において、置換型無電解銀メッキ液(四国化成工業社製、「SSP−700M」)0.5gとイオン交換水19.5gを混合した溶液を、それぞれの混合量を0.2gと19.8gに変更した以外は、実施例1と同様の方法により、銀で被覆された被覆繊維状銅微粒子を得た。得られた被覆繊維状銅微粒子に対して、実施例1と同様の評価をおこなった。評価結果を表1に示す。
【0078】
(実施例4)
実施例1において、置換型無電解銀メッキ液(四国化成工業社製、「SSP−700M」)0.5gとイオン交換水19.5gを混合した溶液を、それぞれの混合量を0.1gと19.9gに変更した以外は、実施例1と同様の方法により、銀で被覆された繊維状銅微粒子を得た。得られた被覆繊維状銅微粒子に対して、実施例1と同様の評価をおこなった。評価結果を表1に示す。
【0080】
(比較例1)
「未被覆繊維状銅粒子1」に対して、金属による被覆処理をおこなわずに、実施例1と同様の評価をおこなった。評価結果を表1に示す。
【0082】
(比較例3)
繊維状銀微粒子としての短径が0.1μmかつ長さが30μmであるシルバーナノワイヤー分散液6g(Aldrich社製、品番739448、シルバーナノワイヤーが0.5質量%の割合でイソプロパノール中に分散している分散液)に対して、窒素による加圧ろ過処理(フィルター:孔径が1μmであるPTFEメンブレンフィルター、アドバンテック社製)をおこない、フィルター上において繊維状銀微粒子がシート状に積層されたサンプルを作製した。このサンプルを60℃に設定した乾燥機で30分間常圧乾燥したのち、1時間の減圧乾燥処理をおこなった。
【0083】
減圧乾燥処理後のサンプルに対して、抵抗率計(ダイアインスツルメンツ社製、ロレスタAP、MCP−T400)を用いて、体積固有抵抗を測定した。初期の体積固有抵抗値は5.7×10
−5(Ω・cm)であった。その後、180℃、1時間の加熱処理をおこなった後の体積固有抵抗値は5.0×10
−5(Ω・cm)であった。
【0084】
実施例1〜
4にて得られた被覆繊維状銅微粒子は、長さが1μm以上、アスペクト比が10以上である繊維状銅微粒子から簡便に得られたものであり、安定性に優れたものであった。
【0085】
特に、実施例1〜4にて得られた被覆繊維状銅微粒子は、短径が1μm以下であってアスペクト比が非常に大きく、短径が0.3μm以上かつアスペクト比が1.5以下の銅粒状体の存在割合が少ない繊維状銅微粒子を、銀にて被覆して得られたものであった。そのため、未被覆の繊維状銅微粒子(比較例1)と比べると、体積固有抵抗が低い値となり、すなわち良好な導電性を示すものであった。その導電性は、繊維状銀微粒子(比較例3)とほぼ同等のものであり、銀のみからなる繊維状微粒子と比較しても遜色のないものであった。
【0086】
一方、比較例
1においては、表面を銅以外の金属で被覆していない繊維状銅微粒子を用いて評価をおこなった。この繊維状銅微粒子は、安定性において良好な特性を有するものではなかった。
【0087】
また、実施例1〜4は、長さが1μm以上、アスペクト比が10以上である繊維状銅微粒子への銀被覆量を制御できることを、初めて示すものである。実施例1〜4における銀被覆繊維状銅微粒子の加熱処理による体積固有抵抗値の変化は、比較例3で示した繊維状銀微粒子と同様にほとんど見られず、良好な特性であった。一方、比較例1は、表面を銅以外の金属で被覆していない繊維状銅微粒子であったため、加熱処理後の体積固有抵抗が著しく増大し、導電性が悪化した。