特許第6076278号(P6076278)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6076278リチウムイオン二次電池用セパレータ及びそれを用いてなるリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076278
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用セパレータ及びそれを用いてなるリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20170130BHJP
   D21H 13/08 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   H01M2/16 N
   H01M2/16 P
   D21H13/08
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-35175(P2014-35175)
(22)【出願日】2014年2月26日
(65)【公開番号】特開2015-162281(P2015-162281A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2015年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】重松 俊広
(72)【発明者】
【氏名】鍛治 裕夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 加寿美
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 建二
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/008559(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/046066(WO,A1)
【文献】 特開2013−246926(JP,A)
【文献】 特開2006−236808(JP,A)
【文献】 特開2011−253709(JP,A)
【文献】 特開2005−183161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/14− 2/18
D21H 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維と合成繊維とフィブリル化天然セルロースを含んでなるリチウムイオン二次電池用セパレータにおいて、
フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維の幹部分の最大繊維径が8.8μm以下になるまで叩解を進めたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を50〜90質量%含有し、
フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維の長さ加重平均繊維長が0.2〜3.0mmであり、
平均繊維径が0.1〜3.5μmであり、繊維長が0.1〜10mmである合成繊維を5〜40質量%含有し、
フィブリル化天然セルロースを10質量%以下含有し、
坪量が5.0〜15.0g/mであり、引張強度が250〜500N/mであることを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項2】
坪量が5.0〜8.0g/mである請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項3】
厚さが7.0〜10.0μmである請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項4】
引張強度が300400N/mである請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用セパレータを用いてなるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用セパレータ及びそれを用いてなるリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯電子機器の普及及びその高性能化に伴い、高エネルギー密度を有する二次電池が望まれている。この種の電池として、有機電解液(非水電解液)を使用するリチウムイオン二次電池が注目されてきた。このリチウムイオン二次電池の平均電圧は、アルカリ二次電池の約3倍の3.7Vであり、高エネルギー密度であるが、アルカリ二次電池のように水系の電解液を用いることができないため、十分な耐酸化還元性を有する非水電解液を用いている。
【0003】
リチウムイオン二次電池用セパレータ(以下、「セパレータ」と略記する場合がある)としては、ポリオレフィンからなるフィルム状の多孔質フィルムが多く使用されているが(例えば、特許文献1参照)、電解液の保液性が低いため、イオン伝導性が低く、内部抵抗が高くなる問題があった。
【0004】
また、リチウムイオン二次電池用セパレータとして、再生セルロース繊維の叩解物を主体とする紙製セパレータが提案されている(例えば、特許文献2参照)。リチウムイオン二次電池においては、水分がわずかでも混入すると電池特性に悪影響を及ぼす。そのため、セパレータに含水分率の高い紙製セパレータを用いる場合、リチウムイオン二次電池製造の際に長時間の乾燥処理が必要となる。また、例えば、20.0μm未満の厚みにした場合、内部抵抗が高くなり、機械強度も極端に弱くなるため、セパレータを低厚みにできない問題があった。
【0005】
さらに、リチウムイオン二次電池用セパレータとして、合成繊維からなる不織布セパレータも提案されているが(例えば、特許文献3〜5参照)、これらのセパレータは電解液の保液性が低く、内部抵抗が高くなる問題や、セパレータの緻密性が不十分であるため、内部短絡不良率が高くなり、高レート特性や放電特性及びそのバラツキに劣るといった問題があった。
【0006】
また、リチウムイオン二次電池用セパレータとして、フィブリル化耐熱性繊維、フィブリル化セルロース、非フィブリル化繊維からなるセパレータが提案されているが(例えば、特許文献6参照)、このセパレータでは、低坪量とした場合の機械強度にまだ改善の余地があった。
【0007】
また、リチウムイオンイオン二次電池用セパレータとして、変法濾水度が0〜250mlの溶剤紡糸セルロースと合成繊維を含有する多孔性シートからなるセパレータが提案されている(例えば、特許文献7参照)。しかし、このセパレータでは、低抵抗で高容量化のために、低坪量で、低厚みとした場合、スリット作業や電池製造のハンドリングに必要な引張強度に改善の余地があった。また、特許文献7では、溶剤紡糸セルロース繊維のフィブリル化状態が濾水度、平均繊維長、繊維長分布等の物性で把握されている。これらの物性でフィブリル化状態を管理しながら、溶剤紡糸セルロースの配合量を増やした場合、セパレータを10.0μm未満の低厚みに調整しにくい問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−105235号公報
【特許文献2】特許3661104号公報
【特許文献3】特開2003−123728号公報
【特許文献4】特開2007−317675号公報
【特許文献5】特開2006−19191号公報
【特許文献6】再公表WO2005/101432号公報
【特許文献7】再公表WO2012/008559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記実情を鑑みたものであって、低坪量・低厚みで、機械強度が強く、内部抵抗及び内部短絡不良率が低く、サイクル特性にも優れたリチウムイオン二次電池用セパレータと、それを用いてなるリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために鋭意研究した結果、
(1)フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維と合成繊維とフィブリル化天然セルロースを含んでなるリチウムイオン二次電池用セパレータにおいて、
フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維の幹部分の最大繊維径が8.8μm以下になるまで叩解を進めたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を50〜90質量%含有し、
フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維の長さ加重平均繊維長が0.2〜3.0mmであり、
平均繊維径が0.1〜3.5μmであり、繊維長が0.1〜10mmである合成繊維を5〜40質量%含有し、
フィブリル化天然セルロースを10質量%以下含有し、
坪量が5.0〜15.0g/mであり、引張強度が250〜500N/mであることを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータ、
(2)坪量が5.0〜8.0g/mである(1)に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ、
(3)厚さが7.0〜10.0μmである(1)又は(2)に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ、
(4)引張強度が300400N/mである(1)〜(3)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ、
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用セパレータを用いてなるリチウムイオン二次電池、
を見出した。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池用セパレータは、フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維の幹部分の最大繊維径が9.0μm未満になるまで叩解を進めたものを50質量%以上含有する。従来、リチウムイオン二次電池用セパレータの分野において、フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維のフィブリル化状態は、濾水度、繊維長、繊維長分布等の物性で規定されていた。本発明者らの検討の結果、これらの物性によって、フィブリル化の状態を管理していても、低厚みで、機械強度が強いセパレータが得られない場合があることがわかった。本発明では、幹部分の最大繊維径を9.0μm未満になるまで叩解が進められたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を用いることで、該溶剤紡糸セルロース繊維の配合量を50質量%以上に増やしても、セパレータの厚さを9.0μm未満に調整できるようになる。また、該溶剤紡糸セルロース繊維と合成繊維が絡み合い、低坪量・低厚みでありながら、引張強度等の機械強度を高めることができる。その結果、セパレータとしてのハンドリング性や内部短絡不良抑制効果を飛躍的に向上させることができる。さらに、リチウムイオン二次電池用セパレータをより緻密で、薄くすることができるため、内部抵抗を低く抑えることができ、放電特性やサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における溶剤紡糸セルロース繊維とは、従来のビスコースレーヨンや銅アンモニアレーヨンのように、セルロースを一旦セルロース誘導体に化学的に変換させたのち再度セルロースに戻す、いわゆる再生セルロース繊維と異なり、セルロースを化学的に変化させることなく、アミンオキサイドに溶解させた紡糸原液を水中に乾湿式紡糸してセルロースを析出させた繊維を指す。
【0013】
溶剤紡糸セルロース繊維は、繊維長軸方向に分子が高度に配列しているため、湿潤状態で摩擦等の機械的な力が加えられると、繊維の表面から徐々にフィブリル化が進み、細くて長い微細繊維が、幹から枝分かれしたように生成する。フィブリル化とは、フィルム状ではなく、主に繊維軸と平行な方向に非常に細かく分割された部分を有する繊維状で、少なくとも一部が繊維径1μm以下になっている繊維を指す。本発明では、溶剤紡糸セルロース繊維の幹部分の最大繊維径が9.0μm未満になるまで叩解を進めたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を用いることが好ましい。溶剤紡糸セルロース繊維の幹部分の最大繊維径は、8.0μm未満がより好ましく、7.0μm未満がさらに好ましい。幹部分の最大繊維径が9.0μm以上の場合、フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維の配合量を50質量%以上とした場合では、坪量を低減調整しても、或いは、カレンダーの線圧を最大限調整しても、セパレータの厚みを9.0μm未満にすることが困難となる。一方、幹部分の最大繊維径が2.0μm未満の場合、繊維長が短くなりやすく、繊維同士の絡みが低下するため、セパレータの機械強度が低下する場合があるので、幹部分の最大繊維径は2.0μm以上であることが好ましい。最大繊維径は、セパレータ断面の走査型電子顕微鏡観察により、セパレータを形成するフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維の幹部分の一番長い直径の繊維径を計測し、無作為に選んだ100本の平均値である。
【0014】
フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を作製する方法としては、リファイナー、ビーター、ミル、摩砕装置、高速の回転刃により剪断力を与える回転刃式ホモジナイザー、高速で回転する円筒形の内刃と固定された外刃との間で剪断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕器、繊維懸濁液に少なくとも20MPaの圧力差を与えて小径のオリフィスを通過させて高速度とし、これを衝突させて急減速することにより繊維に剪断力、切断力を加える高圧ホモジナイザー等が挙げられる。この中でも特にリファイナーが好ましい。
【0015】
溶剤紡糸セルロース繊維のフィブリル化前の繊維径は、1.4dtex(約11.0μm)以下が好ましく、1.25dtex(約9.5μm)以下がより好ましい。1.4dtexを超えた、例えば、1.7dtex(11.5μm)の繊維を叩解した場合、フィブリル化し枝分かれした繊維径が1.0μm以下の繊維と、叩解処理の過程で、大幹成分から割繊して分かれた中幹成分である繊維径が2.0〜4.0μmの繊維の他に、幹部分の最大繊維径が9.0μm超えの繊維(例えば、最大繊維径が9.5μmの繊維)が残ってしまい、フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維の配合量を増やした場合、セパレータの厚さを9.0μm以下に潰すことが難しくなる。一方、例えば、1.25dtexの繊維を叩解した場合、フィブリル化し枝分かれした繊維径が1.0μm以下の繊維と、叩解処理の過程で、大幹成分から割繊して分かれた中幹成分の繊維径が1.0〜3.0μmの繊維が得られ、最大でも8.0μm未満にまで幹部分の最大繊維径を細くすることが可能である。そのため、配合量を増やした場合でも、セパレータの厚さを8.0μm以下にまで潰すことが可能である。
【0016】
天然セルロース繊維は、微細化の程度が進むほど、繊維の幹から細かいフィブリルが多数裂けた状態になるため、フィブリルを介して繊維同士が絡みやすく、繊維ネットワークを形成しやすいのに対し、溶剤紡糸セルロース繊維は微細化処理によって繊維の長軸に平行に細かく分割されやすく、分割後の繊維1本1本における繊維径の均一性が高いため、平均繊維長が短くなるほど、繊維同士が絡みにくくなり、繊維ネットワークを形成しにくいと考えられる。
【0017】
フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維の長さ加重平均繊維長は、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.52「紙及びパルプの繊維長 試験方法(光学的自動計測法)」に準じて、繊維長測定装置(例えば、Fiber Lab、Metso Automation K.K製)で測定することができる。フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維の長さ加重平均繊維長は、0.2〜3.0mmが好ましく、0.5〜2.0mmがより好ましく、0.7〜1.1mmがさらに好ましい。繊維長が0.2mmより短いと、セパレータから脱落する場合やセパレータの機械強度が低下する場合があり、3.0mmより長いと、繊維のフィブリル化が不十分となり、内部短絡不良率が高くなる場合や繊維がもつれてだまになることがあり、厚みむらが生じる場合がある。
【0018】
本発明のリチウムイオン二次電池用セパレータは、幹部分の最大繊維径が9.0μm未満になるまで叩解を進めたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を50質量%以上含有する。フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維の含有量は、50〜90質量%がより好ましく、60〜80質量%がさらに好ましい。フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維の含有率が50質量%未満の場合、低坪量としたときに、電解液の保液性が不十分で内部抵抗が高くなる。また、セパレータの緻密性が不十分で、内部短絡不良率が高くなる。フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維の含有率が90質量%を超える場合、合成繊維の含有量が減少するため、セパレータの機械強度が低下する場合がある。また、熱カレンダーによる厚さ調整において、フィブリル化した溶剤紡糸セルロースが空隙を埋めてしまい、保液性が低下して、内部抵抗が高くなる場合がある。
【0019】
本発明のリチウムイオン二次電池用セパレータに使用される合成繊維としては、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルアミド、ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエーテル、全芳香族ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−ビニルアルコール共重合体などの樹脂からなる単繊維や複合繊維を挙げることができる。これらの合成繊維は、単独で使用しても良いし、2種類以上の組み合わせで使用しても良い。また、各種の分割型複合繊維を分割させたものを使用しても良い。この中でも、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルアミド、ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミドが好ましく、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィンがさらに好ましい。ポリエステル、アクリル、ポリオレフィンを使用すると、他の合成繊維よりも各繊維とフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維とが均一に絡み合ってネットワーク構造を形成しやすいため、表面の平滑性がより高く、緻密性や機械強度に優れたリチウム二次電池用セパレータを得ることができる。
【0020】
合成繊維の平均繊維径は0.1〜3.5μmが好ましく、0.1〜2.5μmがより好ましく、0.1〜1.5μmがさらに好ましい。平均繊維径が0.1μm未満では、繊維が細すぎて、セパレータから脱落する場合があり、平均繊維径が3.5μmより太いと、セパレータの厚みを薄くすることが困難になる場合や緻密性が不十分となり、繊維本数が減るため、セパレータの機械強度が低下する。また、セパレータの厚さを薄くすると、最大細孔径が拡大し、内部短絡不良率が高くなる。平均繊維径は、セパレータ断面の走査型電子顕微鏡観察により、セパレータを形成する繊維の面積を計測し、真円に換算した繊維径を計測し、無作為に選んだ100本の平均値である。
【0021】
合成繊維の繊維長は0.1〜10mmが好ましく、0.5〜5mmがより好ましく、1〜3mmがさらに好ましい。繊維長が0.1mmより短いと、セパレータから脱落することがあり、10mmより長いと、繊維がもつれてダマになることがあり、厚みむらが生じる場合がある。
【0022】
本発明のリチウムイオン二次電池用セパレータは、合成繊維を5〜40質量%含有することが好ましい。合成繊維の含有量は10〜30質量%がより好ましく、15〜25質量%がさらに好ましい。合成繊維の含有量が5質量%未満の場合、セパレータの機械強度が弱くなり、また、低厚さとした際、抵抗を示すインピーダンスの上昇が大きくなる。合成繊維の含有率が40質量%を超えた場合、低坪量とした場合、電解液の保液性が不十分で、内部抵抗が高くなる場合や、セパレータの緻密性が不十分で、内部短絡不良率や放電特性のバラツキが高くなる場合がある。
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池用セパレータは、変法濾水度0〜400mlのフィブリル化天然セルロース繊維を10質量%以下含有していることが好ましい。フィブリル化天然セルロース繊維の含有量は、7質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。フィブリル化天然セルロース繊維は、溶剤紡糸セルロース繊維に比べ、繊維1本の太さの均一性が劣る傾向にあるが、繊維間の物理的な絡みと水素結合力が強いという特徴を有する。フィブリル化天然セルロース繊維の含有率が10質量%を超えると、セパレータ表面にフィルムを形成し、イオン伝導性が阻害されることで、内部抵抗が高くなることや、放電特性が低くなることがある。
【0024】
フィブリル化とは、フィルム状ではなく、主に繊維軸と平行な方向に非常に細かく分割された部分を有する繊維状で、少なくとも一部が繊維径1μm以下になっている繊維を指す。長さと巾のアスペクト比が約20〜約100000の範囲にあることが好ましい。さらに、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.52「紙及びパルプの繊維長 試験方法(光学的自動計測法)」に準じて、繊維長測定装置(例えば、Fiber Lab、Metso Automation K.K製)で測定した長さ加重平均繊維長が0.1〜2.0mmの範囲にあるものが好ましく、0.1〜1.5mmのものがより好ましく、0.1〜1.0mmのものがさらに好ましい。
【0025】
本発明のリチウムイオン二次電池用セパレータに使用されるフィブリル化天然セルロース繊維は、リファイナー、ビーター、ミル、摩砕装置、高速の回転刃により剪断力を与える回転刃式ホモジナイザー、高速で回転する円筒形の内刃と固定された外刃との間で剪断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕器、繊維懸濁液に少なくとも20MPaの圧力差を与えて小径のオリフィスを通過させて高速度とし、これを衝突させて急減速することにより繊維に剪断力、切断力を加える高圧ホモジナイザー等で処理されたもので、この中でも、特に高圧ホモジナイザーで処理されたものが好ましい。
【0026】
本発明のリチウムイオン二次電池用セパレータは、円網、長網、短網、傾斜型短網等の抄紙方式の中から1種の抄紙方式を有する抄紙機、同種又は異種の2種以上の抄紙方式を組み合わせてなるコンビネーション抄紙機などを用いて抄紙する方法によって製造することができる。原料スラリーには、繊維原料の他に、必要に応じて、分散剤、増粘剤、無機填料、有機填料、消泡剤などを適宜添加することができ、5〜0.001質量%程度の固形分濃度に原料スラリーを調製する。この原料スラリーをさらに所定濃度に希釈して抄紙し、乾燥する。抄紙して得られたリチウムイオン二次電池用セパレータは、必要に応じて、カレンダー処理、熱カレンダー処理、熱処理などが施される。
【0027】
リチウムイオン二次電池用セパレータの坪量は、5.0〜15.0g/mが好ましく、5.0〜10.0g/mがより好ましく、5.0〜8.0g/mがさらに好ましい。5.0g/m未満では、十分な機械強度が得られない場合があり、正極と負極との間の絶縁性が不十分で、内部短絡不良率やサイクル特性が低下する場合がある。15.0g/mを超えると、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が高くなる場合や、放電特性が低くなる場合がある。本発明のセパレータの坪量は、JIS P8124に準拠して測定した値である。本発明では、幹部分の最大繊維径を9.0μm未満になるまで叩解が進められたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を用いることで、該溶剤紡糸セルロース繊維の配合量を50質量%以上に増やしても、セパレータの厚さを9.0μm未満に調整できるようになる。また、該溶剤紡糸セルロース繊維と合成繊維が絡み合い、低坪量・低厚みでありながら、引張強度等の機械強度を高めることができる。その結果、セパレータとしてのハンドリング性や内部短絡不良抑制効果を飛躍的に向上させることができる。さらに、リチウムイオン二次電池用セパレータをより緻密で、薄くすることができるため、内部抵抗を低く抑えることができ、放電特性やサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0028】
リチウムイオン二次電池用セパレータの厚さは、6.0〜20.0μmが好ましく、7.0〜15.0μmがより好ましく、7.0〜10.0μmがさらに好ましい。6.0μm未満では、十分な機械強度が得られなかったり、正極と負極との間の絶縁性が不十分で、内部短絡不良率、サイクル特性が悪くなったりする場合がある。20.0μmより厚いと、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が高くなり、放電特性が低くなる場合がある。なお、本発明のセパレータの厚さはJIS B7502に規定された方法により測定した値、つまり、5N荷重時の外側マイクロメーターにより測定された値を意味する。
【0029】
リチウムイオン二時電池用セパレータの引張強度は、250〜500N/mであることが好ましく、300〜400N/m以上であることがより好ましい。引張強度が250N/m未満では、捲回作業時において内部短絡不良が発生しやくなる。坪量が5.0〜8.0g/mでは、フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維と合成繊維とフィブリル化天然セルロールとが均一に絡み合ってネットワーク構造を形成しても、引張強度が500N/m超える可能性は少ない。
【0030】
リチウムイオン二次電池用セパレータのインピーダンスは、電池を組んだ際の内部抵抗と相関があり、0.50Ω以下であることが好ましく、0.45Ω以下であることがより好ましく、0.40Ω以下であることがさらに好ましい。0.40Ω以下であれば、放電特性やサイクル特性に優れる。0.50Ωを超えた場合、内部抵抗が高くなり、放電特性やサイクル特性が低下する場合がある。
【0031】
リチウムイオン二次電池の負極活物質としては、黒鉛やコークスなどの炭素材料、金属リチウム、アルミニウム、シリカ、スズ、ニッケル、鉛から選ばれる1種以上の金属とリチウムとの合金、SiO、SnO、Fe、WO、Nb、Li4/3Ti5/3等の金属酸化物、Li0.4CoNなどの窒化物が用いられる。充放電を繰り返したときに負極表面に金属リチウムが析出する「リチウムデンドライト」という現象が発生し、このリチウムデンドライトは徐々に成長し、セパレータを貫通して正極に達し、内部短絡の原因になることがある。本発明のリチウムイオン二次電池用セパレータは、このリチウムデンドライトが発生し難いチタン酸リチウムを負極活物質として用いたリチウムイオン二次電池に好適に使用される。
【0032】
正極活物質としては、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、チタン酸リチウム、リチウムニッケルマンガン酸化物、リン酸鉄リチウムが用いられる。リン酸鉄リチウムは、さらに、マンガン、クロム、コバルト、銅、ニッケル、バナジウム、モリブデン、チタン、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、マグネシウム、ホウ素、ニオブから選ばれる1種以上の金属との複合物でも良い。
【0033】
リチウムイオン二次電池の電解液には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジメトキシメタン、これらの混合溶媒などの有機溶媒にリチウム塩を溶解させたものが用いられる。リチウム塩としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)や四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)等が挙げられる。固体電解質としては、ポリエチレングリコールやその誘導体、ポリメタクリル酸誘導体、ポリシロキサンやその誘導体、ポリフッ化ビニリデンなどのゲル状ポリマーにリチウム塩を溶解させたものが用いられる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1
リファイナーを用いて、1.40dtex(平均繊維径11.0μm)、繊維長4mmの溶剤紡糸セルロース繊維を処理し、幹部分の最大繊維径が8.8μmになるまで叩解を進めたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を70質量%、平均繊維径2.4μm、繊維長3mmの配向結晶化ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を25質量%、高圧ホモジナイザーを用いてリンターを処理したフィブリル化天然セルロース5質量%を一緒に混合し、パルパーの水中で離解させ、アジテーターによる撹拌のもと、均一な原料スラリー(0.3質量%濃度)を調製した。この原料スラリーから、傾斜型短網抄紙機を用いて、湿潤シートを得て、ヤンキードライヤー温度130℃で乾燥した後、金属ロールと弾性ロールによるカレンダー処理を施して、坪量6.3g/m、厚さ9.2μmのリチウムイオン二次電池用セパレータを得た。
【0036】
実施例2
リファイナーを用いて、1.25dtex(平均繊維径9.5μm)、繊維長4mmの溶剤紡糸セルロース繊維を処理し、幹部分の最大繊維径が7.8μmになるまで叩解を進めたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を使用した以外は、実施例1と同様な方法で、坪量6.1g/m、厚さ8.2μmのリチウムイオン二次電池用セパレータを得た。
【0037】
実施例3
リファイナーを用いて、1.25dtex(平均繊維径9.5μm)、繊維長4mmの溶剤紡糸セルロース繊維を処理し、幹部分の最大繊維径が6.8μmになるまで叩解を進めたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を使用した以外は、実施例1と同様な方法で、坪量5.0g/m、厚さ7.2μmのリチウムイオン二次電池用セパレータを得た。
【0038】
実施例4
フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を50質量%、平均繊維径2.4μm、繊維長3mmの配向結晶化ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を40質量%、リンターを高圧ホモジナイザーで処理したフィブリル化天然セルロース10質量%とした以外は、実施例2と同様な方法で、坪量6.2g/m、厚さ8.4μmのリチウムイオン二次電池用セパレータを得た。
【0039】
実施例5
フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を90質量%、平均繊維径2.4μm、繊維長3mmの配向結晶化ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を5質量%、リンターを高圧ホモジナイザーで処理したフィブリル化天然セルロース5質量%とした以外は、実施例2と同様な方法で、坪量6.3g/m、厚さ8.1μmのリチウムイオン二次電池用セパレータを得た。
【0040】
実施例6(参考例)
実施例3と同様な方法で、坪量4.8g/m、厚さ6.8μmのリチウムイオン二次電池用セパレータを得た。
【0041】
実施例7
実施例2と同様な方法で、坪量7.8g/m、厚さ10.0μmのリチウムイオン二次電池用セパレータを得た。
【0042】
実施例8
実施例2と同様な方法で、坪量8.2g/m、厚さ10.5μmのリチウムイオン二次電池用セパレータを得た。
【0043】
実施例9
フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を70質量%、平均繊維径1.5μm、繊維長1.5mmのポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を25質量%、リンターを高圧ホモジナイザーで処理したフィブリル化天然セルロース5質量%とした以外は、実施例2と同様な方法で、坪量6.7g/m、厚さ8.9μmのリチウムイオン二次電池用セパレータを得た。
【0044】
比較例1
リファイナーを用いて、1.70dtex(平均繊維径11.5μm)、繊維長4mmの溶剤紡糸セルロース繊維を処理し、幹部分の最大繊維径が9.5μmになるまで叩解を進めたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を使用した以外は、実施例1と同様な方法で、坪量6.1g/m、厚さ10.1μmのリチウムイオン二次電池用セパレータを得た。
【0045】
比較例2
リファイナーを用いて、1.70dtex(平均繊維径11.5μm)、繊維長4mmの溶剤紡糸セルロース繊維を処理し、幹部分の最大繊維径が9.1μmになるまで叩解を進めたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を使用した以外は、実施例4と同様な方法で、坪量6.2g/m、厚さ9.5μmのリチウムイオン二次電池用セパレータを得た。
【0046】
比較例3
繊維配合を、比較例2で用いたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を30質量%、平均繊維径2.4μm、繊維長3mmの配向結晶化ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を50質量%、リンターを高圧ホモジナイザーで処理したフィブリル化天然セルロース20質量%とした以外は、実施例1と同様な方法で、坪量5.3g/m、厚さ6.4μmのリチウムイオン二次電池用セパレータを得た。
【0047】
比較例4
繊維配合を、比較例2で用いたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を100質量%とした以外は、実施例1と同様な方法で、坪量6.3g/m、厚さ9.4μmのリチウムイオン二次電池用セパレータを得た。
【0048】
比較例5
繊維配合を、実施例1で用いたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を45質量%、平均繊維径2.4μm、繊維長3mmの配向結晶化ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を50質量%、リンターを高圧ホモジナイザーで処理したフィブリル化天然セルロースを5質量%とした以外は、実施例1と同様な方法で、坪量6.2g/m、厚さ9.0μmのリチウムイオン二次電池用セパレータを得た。
【0049】
比較例6
繊維配合を、実施例1で用いたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を70質量%、平均繊維径2.4μm、繊維長3mmの配向結晶化ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維を30質量%とした以外は、実施例1と同様な方法で、坪量6.1g/m、厚さ9.0μmのリチウムイオン二次電池用セパレータを得た。
【0050】
比較例7
繊維配合を、実施例1で用いたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を90質量%、リンターを高圧ホモジナイザーで処理したフィブリル化天然セルロースを10質量%とした以外は、実施例1と同様な方法で、坪量6.2g/m、厚さ8.8μmのリチウムイオン二次電池用セパレータを得た。
【0051】
<リチウムイオン二次電池>
[負極の作製]
負極活物質として、平均粒子径0.7μm、Li吸蔵電位が1.55Vであるスピネル構造のLiTi12で表されるチタン酸リチウムを95質量%、導電材としてアセチレンブラック2.5質量%と、ポリフッ化ビニリデン2.5質量%を混合し、これをN−メチル−2−ピロリドンに分散させたスラリーを調製し、厚さ15μm、平均結晶粒子径30μmのアルミニウム箔の両面に塗布して圧延した後、150℃で2時間真空乾燥して、厚さ100μmのリチウムイオン二次電池用負極を作製し、これを負極とした。
【0052】
[正極の作製]
正極活物質として、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)粉末を90質量%、アセチレンブラック3質量%、グラファイト3質量%及びポリフッ化ビニリデン4質量%を混合し、これをN−メチル−2−ピロリドンに分散させたスラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μm、平均結晶粒子径30μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、圧延した後、150℃で2時間真空乾燥して、厚さ100μmのリチウムイオン二次電池用正極を作製し、これを正極とした。
【0053】
[リチウムイオン二次電池の作製]
正極及び負極の集電体に端子をそれぞれ接続し、正極、セパレータ、負極、セパレータの順番に積層した後、この積層物を正極、負極の端子がセパレータの長手方向に対して直角になるように捲回した。続いて、この捲回物を90℃で加熱プレスすることにより、70×100mm、厚さ3.0mmの寸法を持つ扁平状電極群を作成した。続いて、両面にポリエチレンフィルムが積層された厚さ40μmのアルミニウム箔から構成された厚さ0.1mmのラミネートフィルムからなるパック(袋状外装材)を用意し、この袋状外装内に得られた電極群をその正極、負極の端子が外装材の開口部から外部に延出するように収納し、80℃で24時間真空乾燥を施した。次いで、前記の電極群を収納し、袋状外装材内に、電解液として、エチレンカーボネートとγ−ブチロラクトンの混合溶媒(体積比率25:75)に電解質として、1.5mol/Lの四フッ化ホウ酸リチウムを溶解したものを注入した後、袋状外装材の開口部をヒートシールにより完全密封し、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0054】
実施例及び比較例のセパレータ及びリチウムイオン二次電池について、下記評価を行い、結果を表1に示した。
【0055】
[坪量]
JIS P8124に準拠して坪量を測定した。
【0056】
[厚さ]
JIS B7502に規定された方法、つまり、5N荷重時の外側マイクロメーターにより、厚さを測定した。
【0057】
[引張強度]
作製したセパレータについて、卓上型材料試験機(株式会社オリエンテック製、商品名STA−1150)を用いて、JIS P8113に準じて縦方向の引張強さを測定した。試験片のサイズは、縦方向250mm、幅50mmとし、2個のつかみ具の間隔を100mm、引張速度を300mm/minとした。
【0058】
[インピーダンス]
作製したセパレータについて、電解液(1M−LiPF/エチレンカーボネート(EC)+ジエチルカーボネート(DEC)+ジメチルカーボネート(DMC)(1:1:1、vol比))に浸した後、2つの略円筒形銅電極に挟み、LCRメーター(Instec社製、装置名:LCR−821)を使用して、200kHzにおける交流インピーダンスの抵抗成分を測定した。
【0059】
[内部短絡不良率]
作製したセパレータをアルミニウム箔からなる電極間に介在して捲回することにより電極群を作製した後、電解液に含浸せずにテスターで電極間の導通を調べることによりショートの有無を確認した。短絡不良率は100個の電極群を検査して全電極群数に対するショート個数から算出した。
【0060】
[サイクル特性]
各リチウムイオン二次電池を45℃環境下において、1Cレートで充放電サイクル試験を行い、1000サイクル目の放電容量を測定し、初期サイクル時のそれに対する放電容量維持率として算出した。
【0061】
[変法濾水度]
変法濾水度とは、ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した値のことである。
【0062】
[長さ加重平均繊維長]
フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維の長さ加重平均繊維長は、繊維長測定装置(品名:Fiber Lab、Metso Automation K.K製)で測定した。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示した通り、実施例1〜9のリチウムイオン二次電池用セパレータは、幹部分の最大繊維径が9μm未満になるまで叩解を進めたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を50質量%以上含有しているため、低坪量で、しかも低厚みでありながらも、機械強度が強く、内部短絡不良が少ない。また、抵抗成分を表すインピーダンスが低く、サイクル特性に優れている。さらに、リチウムイオン二次電池用セパレータの厚みは、フィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維の幹部分の最大繊維径に近い厚さにまで容易に潰すことが可能となり、リチウムイオン二次電池の高容量化が可能となる。
【0065】
実施例6のリチウムイオン二次電池用セパレータは、坪量が5.0g/m未満で、厚みが7.0μm未満の低坪量、低厚みのセパレータである。実施例1〜5、7〜9と比較して、引張強度が低下し、内部短絡不良率が若干高くなった。
【0066】
実施例8のリチウムイオン二次電池用セパレータは、坪量が8.0g/mを超え、厚みが10.0μmを超えたセパレータである。実施例1〜7及び9と比較して、抵抗成分を表すインピーダンスが高くなる傾向が見られ、サイクル特性が少し低下した。
【0067】
実施例9のリチウムイオン二次電池用セパレータは、ポリエステル繊維の平均繊維径が1.5μmのものを使用した場合である。引張強度が高く、インピーダンスも低く抑えられ、サイクル特性に優れていた。
【0068】
一方、比較例1のリチウムイオン二次電池用セパレータは、同坪量である実施例2のセパレータと比較して、幹部分の最大繊維径が9.0μmを超えたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を使用した場合であるが、加工速度5m/分、線圧を200kN/m、ヒートロール(金属ロール)温度100℃の条件でカレンダー処理しても、セパレータの厚さが10.0μmを下回ることができなかった。また、引張強度も低く、内部短絡不良率も悪化した。
【0069】
比較例2のリチウムイオン二次電池用セパレータは、同坪量である実施例4のセパレータと比較して、幹部分の最大繊維径が9.0μmを超えたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を使用した場合であるが、引張強度も低く、内部短絡不良率が悪化し、セパレータも厚くなった。
【0070】
比較例3のリチウムイオン二次電池用セパレータは、幹部分の最大繊維径が9.0μmを超えたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維の配合量を30質量%に抑えた場合である。セパレータを薄くすることができているが、引張強度の低下が著しく、内部短絡不良率が悪化し、抵抗成分のインピーダンスが上昇したため、サイクル特性が悪化した。
【0071】
比較例4のリチウムイオン二次電池用セパレータは、幹部分の最大繊維径が9.0μmを超えたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維のみで構成した場合であるが、引張強度が低下し、内部短絡不良率が上昇し、インピーダンスの上昇に伴い、サイクル特性が悪化した。
【0072】
比較例5のリチウムイオン二次電池用セパレータは、幹部分の最大繊維径が9.0μm未満のフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維の含有量が50質量%未満の場合であるが、引張強度が低下し、内部短絡不良率が悪化し、電解液の保液性が低下するため、インピーダンスが上昇し、サイクル特性が悪化した。
【0073】
比較例6のリチウムイオン二次電池用セパレータは、フィブリル化天然セルロースを含まず、幹部分の最大繊維径が9.0μm未満のフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維と合成繊維で構成した場合であるが、引張強度が低下し、内部短絡不良率が悪化した。
【0074】
比較例7のリチウムイオン二次電池用セパレータは、幹部分の最大繊維径が9.0μm未満のフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維とフィブリル化天然セルロースで構成した場合であるが、厚みを薄くした場合、インピーダンスの上昇に伴い、サイクル特性が悪化した。
【0075】
実施例4と比較例1〜6を比較すると、引張強度が250N/m以上である実施例4では、内部短絡を抑制することができた。
【0076】
実施例と比較例で用いたフィブリル化溶剤紡糸セルロース繊維を比較すると、変法濾水度や加重平均繊維長がほぼ同じでも、幹部分の最大繊維径が異なるフィブリル化状態が得られ、調整できる厚みは幹部分の最大繊維径に依存することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の活用例としては、リチウムイオン二次電池用セパレータ、リチウムイオンポリマー二次電池用セパレータが好適である。