(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属軸部材を当該金属軸部材の中心軸回りに回転させながら、前記金属軸部材に、前記中心軸方向の圧縮応力と前記中心軸の径方向の曲げ応力とを作用させて、前記金属軸部材の前記曲げ応力の作用部周りを前記中心軸の径方向に肥大化させて、前記金属軸部材よりも大径の肥大部を形成する軸肥大成形装置であって、
前記中心軸回りの位相角毎の前記肥大部の外径を測定する外径測定手段と、
前記回転速度と、前記圧縮応力と、前記曲げ応力とを制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、所定の位相角での外径が他の位相角での外径よりも大きい場合は、前記所定の位相角での径方向の肥大量を他の位相角での径方向の肥大量よりも小さくなるように、前記回転速度と、前記圧縮応力と、前記曲げ応力とのうちの少なくとも1つを調整することを特徴とする軸肥大成形装置。
金属軸部材を当該金属軸部材の中心軸回りに回転させながら、前記金属軸部材に、前記中心軸方向に圧縮応力と前記中心軸の径方向の曲げ応力とを作用させて、前記金属軸部材の前記曲げ応力の作用部周りを前記中心軸の径方向に肥大化させて、前記金属軸部材よりも大径の肥大部を形成する軸肥大形成方法であって、
前記中心軸回りの位相角毎の前記肥大部の外径を測定する外径測定ステップと、
前記回転速度と、前記圧縮応力と、前記曲げ応力とを制御する制御ステップと、を備え、
前記制御ステップは、所定の位相角での外径が他の位相角での外径よりも大きい場合は、前記所定の位相角での径方向の肥大量を他の位相角での径方向の肥大量よりも小さくなるように、前記回転速度と、前記圧縮応力と、前記曲げ応力とのうちの少なくとも1つを調整することを特徴とする軸肥大成形方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態にかかる軸肥大成形装置1について説明する。
図1は、軸肥大成形方法を実施する軸肥大成形装置1の主要部の構成を説明する図であり、(a)は、ワークWをホルダ10に保持させた状態を示し、(b)は、ワークWに中心軸X1回りの回転と、中心軸X1の軸方向の圧縮応力σaと、中心軸X1の径方向の曲げ応力σbとを作用させた状態を示す図である。
なお、
図1では、説明の便宜上、ホルダ10のみ断面で示している。
【0012】
図1の(b)に示すように、軸肥大成形装置1は、金属製のワークW(金属軸部材)をワークWの中心軸X1回りに回転速度Nで回転させながら、ワークWに、中心軸X1の軸方向の圧縮応力σaと中心軸X1の径方向の曲げ応力σbとを作用させて、ワークWにおける曲げ応力の作用部K周り(
図1の(a)のワークWのハッチング参照)を中心軸X1の径方向に肥大化させて、ワークWの外径D0よりも大径の肥大部Waを形成するものである。
【0013】
軸肥大成形加工前のワークWを保持するホルダ10は、ワークWの一側側を保持する回転ホルダ11と、ワークWの他側側を保持する曲げホルダ12とから構成されている。
【0014】
回転ホルダ11と曲げホルダ12は、ワークWの中心軸X1上で対向して配置されており、これら回転ホルダ11と曲げホルダ12には、ワークWの保持穴11a、12aが、中心軸X1の軸方向に貫通して設けられている。
保持穴11a、12aの内径の内周面と、ワークWの外径Daの外周面とは、締り嵌め状態で嵌合するように設定されている。
そのため、保持穴11a、12aに、ワークWの両側側を各々挿入すると、ワークWの外径Daの外周面と保持穴11a、12aの内周面とが嵌合し、ワークWの両側側が、回転ホルダ11と曲げホルダ12によって保持される。
よって、ワークWと、回転ホルダ11および曲げホルダ12との相対回転が防止される。
【0015】
回転ホルダ11と曲げホルダ12とは、ワークWの中心軸X1の軸方向の任意の位置に所定の隙間S0を空けて対向して配置されており、各々スライド機構(図示せず)により、中心軸X1の軸方向に沿って、相互に近づく方向または離れる方向に移動できるようになっている。
【0016】
そのため、
図1の(b)に示すように、ワークWを回転ホルダ11と曲げホルダ12とで保持したのち、回転ホルダ11と曲げホルダ12とを、中心軸X1の軸方向に沿って相互に近づける方向に移動させると、ワークWに、ワークWの中心軸X1の軸方向の圧縮応力σaが作用して、回転ホルダ11と曲げホルダ12との間のワークWの肉は、中心軸X1の軸方向に圧縮されると共に、中心軸X1の径方向外側に膨出して肥大部Waが形成される(
図1(b)の破線参照)。
【0017】
回転ホルダ11は、モータ(図示せず)に接続されており、モータの回転によって所定の回転速度Nで回転するようになっている。
【0018】
曲げホルダ12は、ワークWの中心軸X1の径方向に傾斜可能に設けられる傾斜機構(図示せず)に支持されおり、傾斜機構をワークWの中心軸X1の径方向に所定の角度で傾斜させると、曲げホルダ12に保持されるワークWには、ワークWの中心軸X1の径方向に曲げ応力σbが作用する(
図1の(b)参照)。
【0019】
図1の(b)に示すように、ワークWの両側側は、回転ホルダ11と曲げホルダ12とにより保持されているので、曲げ応力σbは、ワークWのホルダに保持されている部分には作用せず、ホルダに保持されていないワークWの中央部(ワークWにおける、回転ホルダ11と曲げホルダ12との間の隙間S0の部分)に作用する。
以下、このワークWにおける曲げ応力σbの作用する部分を、曲げ応力σbの作用部Kという。
【0020】
図1の(a)に示すように、軸肥大成形装置1には、回転ホルダ11と曲げホルダ12との間の隙間S0における任意の測定箇所Pに、ワークWに形成される肥大部Waの外径Daを測定するための外径測定装置30が設けられている。
【0021】
外径測定装置30は、回転ホルダ11に設けられるエンコーダ(図示せず)と、非接触式のレーザ変位計(図示せず)とから構成されており、外径測定装置30は、ワークWの1回転毎の位相角をエンコーダで検出すると共に、検出した位相角毎に、ワークWに形成される肥大部Waの外径Daをレーザ変位計で測定できるようになっている。
【0022】
軸肥大成形装置1は、モータと、傾斜機構と、スライド機構とのうち、少なくとも1つを制御する制御装置20とを、さらに備えており、制御装置20は、ケーブル21を介して、モータと、傾斜機構と、スライド機構とそれぞれ電気的に接続されている。
【0023】
また、制御装置20と外径測定装置30とは、ケーブル21を介して電気的に接続されており、制御装置20は、外径測定装置30によるワークWの1回転毎の外径Daの測定値に基づいて、モータと、スライド機構と、傾斜機構とのうち、少なくとも1つを制御することで、ワークWの回転速度N、ワークWに作用する圧縮応力σaおよび曲げ応力σbのうち、少なくとも1つを調整する。
【0024】
次に、軸肥大成形方法の流れについて説明する。
図2は、軸肥大成形方法の流れを説明するフローチャートである。
図3は、軸肥大成形方法によるワークWの加工工程を説明する図であり、(a)は、軸肥大成形加工前のワークWをホルダ10にセットした状態であり、(b)は、ワークWを回転させた状態であり、(c)は、ワークWに圧縮応力σaを作用させた状態であり、(d)は、ワークWに曲げ応力σbを作用させた状態であり、(e)は、ワークWの曲げ応力σbを除去した(曲げ戻し)状態であり、(f)は、軸肥大成形加工後のワークWの要部を示す図である。
【0025】
まず始めに、
図3の(a)に示すように、軸肥大成形加工前のワークWを、回転ホルダ11と曲げホルダ12とにセットする(
図2のステップ101)。
【0026】
次に、制御装置20は、肥大部Wa1をワークWに形成するため、ワークWの回転速度N0と、ワークWに作用させる圧縮応力σa0と、曲げ応力σb0とを設定する(ステップ102)。
【0027】
軸肥大成形装置1は、上記で設定した設定値(N0、σa0、σb0)に基づいて、軸肥大成形加工を実施する。具体的には、ワークWを、ワークWの中心軸X1回りに回転させながら(
図3の(b))、ワークWに作用させる圧縮応力σa0と曲げ応力σb0とを制御して(
図3の(c)および(d))、軸肥大成形加工前のワークWの外径D0よりも大径の肥大部Waを形成する(ステップ103)。
【0028】
このステップ103によりワークWに肥大部Waが形成されると、制御装置20は、所定の加工完了条件が成立しているか否かの判定を行う(ステップ104)。
【0029】
ここで、加工完了条件の成立は、位相角毎に測定したワークWの肥大部Waの外径Daが、最終的に得られる肥大部Wa1の外径Da1になったか否か、またはワークWの回転回数が、最終的に得られる肥大部Wa1をワークWに形成するのに必要な回転回数(例えば、40回転)に達したか否か、または回転ホルダ11と曲げホルダ12との間の隙間が所定の隙間S1になったか否かなどにより判定するようになっている。
【0030】
加工完了条件が成立したと判定されると(ステップ104:Yes)、軸肥大成形装置1は、ワークWに作用させた曲げ応力σbの除去(曲げ戻し)(
図3の(e)、
図2のステップ105)と、ワークWに作用させた圧縮応力σaの除去(ステップ106)とを行ったのち、ワークWの中心軸X1回りの回転を停止(ステップ107)して、ワークWに肥大部Wa1を形成するための加工処理を終了する。
【0031】
これにより、ワークWに、軸肥大成形加工前のワークWの外径D0よりも大径(外径Da1)の肥大部Wa1が形成される(
図3の(f)参照)。
【0032】
加工完了条件が成立しないと判定されると(ステップ104:No)、ステップ103に戻って、軸肥大成形加工が実施される。よって、加工完了条件が成立するまでの間、ステップ103の軸肥大成形加工が繰り返し行われることになる。
【0033】
次に、ステップ103の軸肥大成形加工を、n回転目(例えば、3回転目)の位相角毎に測定した肥大部Waの外径Daの肥大量に基づいて、n+1回転目(例えば、4回転目)の肥大部Waの外径Daの肥大量を調整する場合に、ワークWに作用させる圧縮応力σaを調整して、肥大部Waの外径を整える場合を例に挙げて説明をする。
【0034】
図4は、肥大部Waの外径Daの肥大量の調整方法の流れを示すフローチャートである。
図5は、肥大部Waの外径Daの肥大量の調整方法を説明する図であり、(a)は、ワークWの回転回数が3回転目である時に測定したワークWの外径を説明する図であり、(b)は、ワークWの回転回数が3回転目である時にワークWに作用させる圧縮応力を位相角毎に示すと共に、ワークWの回転回数が3回転目である時のワークの目標とする外径Da1と実際に測定したワークWの外径Daとの差(外径差Δd)を位相角毎に示した図である。
(c)は、ワークWの回転回数が4回転目である時に測定したワークWの外径を説明する図であり、(d)は、ワークWの回転回数が4回転目である時にワークWに作用させる圧縮応力を位相角毎に示すと共に、ワークWの回転回数が4回転目である時のワークの目標とする外径Da1と実際に測定したワークWの外径Daとの差(外径差Δd)を位相角毎に示した図である。
なお、
図5の(a)、(c)では、ワークWの目標とする外径Da1を破線で示すと共に、実際に測定したワークWの外径Daを実線で示している。
【0035】
ステップ103の軸肥大成形加工の工程では、ワークWを回転させながら、圧縮応力σaおよび曲げ応力σbをワークWに作用させて、これら応力の作用部K周りに肥大部Waを形成する。
この工程では、圧縮応力σaおよび曲げ応力σbを作用させながら回転させているワークWのn回目の回転の際に、形成途中の肥大部Waの外径Daを測定し、測定した肥大部Waの外径Daのバラツキに応じて、n+1回転目のワークWに作用させる圧縮応力σaを調整して、肥大部Waの外径Daのバラツキを抑えるようになっている。
そして、n+2回転目以降は、直前の回転の際に測定した肥大部Waの外径Daのバラツキに応じて、ワークWに作用させる圧縮応力σaを調整して、最終的に得られる肥大部Waの外径Daが、目標の外径Da1となるようにしている。
【0036】
そのため、
図4のステップ201では、外径測定装置30が、肥大部Waを形成している途中のワークWがn回転目である時の、形成途中の肥大部Waの外径Daを、所定の位相角毎に測定する。
【0037】
ここで、実施の形態では、
図5の(a)に示すように、ワークWの中心軸X1の軸方向から見て、ワークWの中心軸X1を通る鉛直方向の上側を基準点(位相角0°)として、中心軸X1の右回り(ワークWの回転方向は左回り)の所定の位相角毎に、ワークWの肥大部Waの外径Daを測定するようになっている。
【0038】
制御装置20は、ワークWがn回転目である時に測定した肥大部Waの外径Daと、ワークWがn回転目である時の肥大部Wa1の目標の外径Da1との外径差Δd((Da1−Da)/2)を位相角毎に求めて、求めた外径差Δdが、予め設定された所定の閾値d(例えば、2mm)を越える位相角が存在するか否かを確認する(
図4、ステップ202)。
肥大部Waの形成に用いるワークWには、中心軸回りの周方向で剛性強度にバラツキがあるため、形成途中の肥大部Waの外径にバラツキが生じるからである。
なお、以下の説明では、便宜上、求めた外径差Δdが所定の閾値dを越える位相角を、「調整が必要な外径の位相角」と表記し、求めた外径差Δdが所定の閾値dを越えない位相角を、「調整が必要ない外径の位相角」と表記する。
【0039】
ここで、形成途中の肥大部Waの外径Daのバラツキについて説明をする。
実施の形態で用いるワークWは、断面が円形を成す軸形状部材である。このワークWは、断面が角形を成す金属製の軸形状部材(原料素材)に対して、複数のローラを用いた圧延加工を繰り返し施して外形を整えることで、断面が円形を成す軸形状部材としている。
【0040】
断面が角形を成す軸形状部材(原料素材)を、ローラで圧延して断面が円形を成す軸形状部材を形成すると、断面が角形を成す原料素材の角部に位置していた肉が、原料素材の内部に押し込まれる。
そのため、最終的に得られる断面が円形を成す軸形状部材では、原料素材の角部に位置していた肉が押し込まれた部分の剛性が、他の部分の剛性よりも高くなる傾向がある。これは、肉が押し込まれた部分の金属密度が高くなるからである。
【0041】
そのため、断面が円形を成す軸形状部材に加工されたワークWでは、当該ワークWの中心軸周りの周方向で、剛性強度にバラツキが生じている。
このようなワークWに対して、一定の加工条件(回転速度N、圧縮応力σa、曲げ応力σb)で軸肥大成形加工を行うと、ワークWでは、剛性強度の高い部分が、剛性強度の低い部分よりも肥大化し難いので、ワークWに形成される肥大部Waの外径Daにバラツキが生じてしまう(
図5の(a)参照)。
【0042】
なお、実施の形態では、肥大部Waを形成するために応力を作用させているワークWのn回転目(例えば3回転目)の時に、前記したステップ201において肥大部Waの外径Daを測定して、測定した外径Daが調整の必要な外径であるか否かを位相角毎に確認している。
【0043】
図4のフローチャートの説明に戻って、外径差Δdが閾値dよりも大きい位相角(調整が必要な外径の位相角)が存在する場合(ステップ202、Yes)、ステップ203において制御装置20は、次のn+1回転目にワークWに作用させる圧縮応力σaであって、位相角毎に作用させる圧縮応力σaを算出する。
【0044】
具体的には、調整が必要な外径の位相角で作用させる圧縮応力σaを、調整が必要ない外径の位相角で作用させる圧縮応力σaよりも小さくして、次のn+1回転目の肥大部Waの形成時に、当該回転の間、肥大部Waの調整が必要な外径の位相角での外径Daの肥大量を抑える方向に調整する。
なお、調整が必要ない外径の位相角で作用させる圧縮応力σaを、調整が必要な外径の位相角で作用させる圧縮応力σaよりも大きくして、次のn+1回転目の肥大部Waの形成時に、当該回転の間、肥大部Waの調整が必要ない外径の位相角での外径の肥大量を大きくする方向に調整しても良い。
【0045】
これにより、ワークWがn+1回転目である時に作用する圧縮応力であって、位相角毎に作用する圧縮応力が、ステップ203で算出された圧縮応力に変更されることになる(ステップ204)。
よって、調整が必要な外径の位相角で作用する圧縮応力σaが、調整が必要ない外径の位相角で作用させる圧縮応力よりも小さくなるので、次のn+1回転目の肥大部Waの形成時に、当該回転の間、肥大部Waの調整が必要な外径の位相角での外径Daの肥大量が抑えられることになる。
【0046】
以下、肥大部Waの外径Daの最初の測定(ステップ201)が、ワークWが3回転目であるときに実施される場合であって、このワークWが3回転目の時の肥大部Waの外径Daが、
図5の(a)に示す形状である場合を例に挙げて、説明を続ける。
【0047】
この
図5の(a)に示す形成途中の肥大部Waの場合には、ワークWの中心軸X1の軸方向から見て、所定の位相角(例えば、位相角90°と270°)の外径Daが、他の位相角(例えば、位相角0°と180°)の外径よりも大きくなっている。
なお、この
図5の(a)の場合には、位相角0°と180°におけるワークWの外径Daは、3回転目であるときの肥大部Waの目標の外径Da1(図中の破線参照)と概ね一致しており、位相角0°と180°が、調整が必要ない外径の位相角となっている。
なお、同図の破線で示すように、n回転目において目標とする肥大部Wa1の外径Da1の断面形状は真円となる。
そして、
図5の(b)に示すように、ワークWが3回転目の時の所定の位相角(例えば、位相角90°と270°)における外径差Δdは所定の閾値d(例えば、2mm)を越えており、当該所定の位相角は調整が必要な外径の位相角である。そして、他の位相角(例えば、位相角0°と180°)における外径差Δdは所定の閾値d(例えば、2mm)を越えていないので、当該他の位相角は調整が必要ない外径の位相角である。
【0048】
この場合、前記したステップ203とステップ204の処理により、
図5の(d)に示すように、ワークWが、次の4回転目である時にワークWに作用する圧縮応力σaが、調整が必要な外径の位相角(例えば、位相角90°と270°)において、調整が必要ない外径の位相角(例えば、位相角0°と180°)よりも小さくなるように調整される。
【0049】
実施の形態では、
図5の(d)に示すように、調整の必要な外径の位相角(例えば、位相角90°と270°)において作用させる圧縮応力σaが最も小さくなるように各位相角で作用する圧縮応力σaを連続的に変化させることで、外径を測定した回転の次の1回転の間、肥大部Waの周方向の全周に亘って調整の必要な外径の肥大量が、調整の必要のない外径の肥大量より小さくなるように、ワークWに作用させる圧縮応力σaを調整している。
【0050】
よって、4回転目の肥大部Waの形成時に、3回転目の時の肥大部Waにおいて調整が必要であると判断された外径の位相角の部分での肥大量を、調整が必要ないと判断された外径の位相角よりも小さくなるように調整することができるので、4回転目が終了した時点での肥大部Waの外径Daを、4回目の目標の外径Da1(図中の破線参照)に近づけることができる。
【0051】
このように、直前の回転の際に測定した肥大部Waの外径のバラツキに応じて、ワークWに作用させる圧縮応力σaを調整することで、肥大部Waの外径Daのバラツキを、ワークWの周方向の全周に亘って抑えることができ、肥大部Waの断面視における外径Daの真円度を高くすることができる。
【0052】
なお、前記した実施の形態では、肥大部Waの外径Daの肥大量を調整して肥大部Waの外径を整える場合に、ワークWに作用させる圧縮応力σaを調整する場合を例示したが、圧縮応力σaの代わりに曲げ応力σbや、ワークWの回転速度Nを調整して、肥大部Waの外径を整えるようにしても良く、圧縮応力σaと、曲げ応力σbと、ワークWの回転速度Nとのうちの少なくとも1つを調整すれば良い。
【0053】
また、圧縮応力σaと、曲げ応力σbと、ワークWの回転速度Nとをそれぞれ組み合わせて調整するようにしても良く、特に、圧縮応力σaと曲げ応力σbとは、肥大部Waの肥大量に直接的に影響を及ぼす要素であるため、圧縮応力σaおよび曲げ応力σbを調整することで、肥大部Waの肥大量を効率よく調整することができる。
【0054】
以上の通り、実施の形態では、ワークW(金属軸部材)をワークWの中心軸X1回りに回転させながら、ワークWに、中心軸X1方向に圧縮応力σaと中心軸X1の径方向の曲げ応力σbとを作用させて、ワークWの曲げ応力σbの作用部周りを中心軸X1の径方向に肥大化させて、ワークWよりも大径の肥大部Waを形成する軸肥大成形装置1であって、中心軸X1回りの位相角毎の肥大部Waの外径Daを測定する外径測定装置30(外径測定手段)と、回転速度Nと、圧縮応力σaと、曲げ応力σbとを制御する制御装置20(制御手段)と、を備え、
制御装置20は、ワークWがn回転目である時に測定した肥大部Waの外径Daにおける所定の位相角(例えば、位相角90°と270°)での外径が、ワークWがn回転目である時に測定した肥大部Waの外径Daにおける他の位相角(例えば、位相角0°と180°)での外径よりも大きい場合は、所定の位相角での径方向の肥大量を、他の位相角での径方向の肥大量よりも小さくなるように、次のn+1回転目にワークWに作用させる圧縮応力σaと、曲げ応力σbと。ワークWの回転数と、のうちの少なくとも1つを調整する構成とした。
【0055】
このように構成すると、径方向に肥大させている途中の肥大部Waでは、当該肥大部Waの外径が大きい所定の位相角(調整が必要な外径の位相角)での肥大量が、他の位相角(調整が必要ない外径の位相角)での肥大量よりも小さくなるので、肥大部Waの外径Daのバラツキを抑えて、最終的に得られる肥大部Waの外径Daを周方向の全周で整えることができる。よって、ワークWに形成される肥大部Waを真円に近づけることができる。
【0056】
このため、ワークWの肥大部Waを、最終的な製品(例えば、歯車)に仕上げる際に、軸肥大成形加工後のワークWの肥大部Waの真円度を高めることができ、仕上加工における切削による削り代が少なくて済む。
特に、ワークWの肥大部Waの真円度が悪い場合には、肥大部Waが大径となるほど削り代が多くなるので、切削に要する加工時間が長くなると共に、切削により多くの材料が無駄に捨てられてしまう。
上記ように構成すると、ワークWの肥大部Waが大径になっても、軸肥大成形加工後の肥大部Waの真円度を高めることができるので、その後の切削に要する加工時間を短くすることができると共に、切削により無駄に捨てる材料を少なくすることができる。
【0057】
また、制御装置20は、ワークWの1回転毎に、その時点での目標の外径Da1との外径差Δdが所定の閾値d(例えば、2mm)以上である調整の必要な外径の有無を確認し、調整の必要な外径がある場合には、ワークWの次の1回転の間、調整の必要な外径の位相角(例えば、位相角90°と270°)での肥大部Waの肥大量が、他の位相角(例えば、位相角0°と180°)での肥大部の肥大量よりも小さくなるように、次のn+1回転目にワークWに作用させる圧縮応力σaと、曲げ応力σbと、ワークWの回転数と、のうちの少なくとも1つを調整する構成とした。
【0058】
肥大部Waの外径Daのバラツキを抑えて、最終的に得られる肥大部Waの外径Daを周方向の全周で整えることができる。よって、ワークWに形成される肥大部Waを真円に近づけることができる。
【0059】
制御装置20は、圧縮応力σaを調整する場合には、他の位相角(調整が必要ない外径の位相角)での外径よりも外径Daが大きい所定の位相角(調整が必要な外径の位相角)での圧縮応力σaを、他の位相角での圧縮応力σaよりも小さくすることで、調整が必要な位相角での肥大量を抑える構成とした。
【0060】
ワークWに作用する圧縮応力σaが大きいほど、ワークWに形成される肥大部Waの肥大量は多くなり、短時間で所定の外径Da1の肥大部Wa1が成形される。
このように構成すると、調整が必要な外径の位相角でのみ、ワークWに作用させる圧縮応力σaを一時的に小さくし、調整が必要ない外径の位相角では、圧縮応力σaは小さくしないので、短時間で所定の外径の肥大部が形成される。
【0061】
制御装置20は、圧縮応力σaを調整する場合には、他の位相角(調整が必要ない外径の位相角)での外径よりも外径Daが大きい所定の位相角(調整が必要な外径の位相角)での曲げ応力σbを、調整が必要ない外径の位相角での曲げ応力σbよりも小さくすることで、調整が必要な位相角での肥大部Waの肥大量を抑える構成とした。
【0062】
ワークWに作用する曲げ応力σbが大きいほど、ワークWに形成される肥大部Waの径方向外側への肥大量は多くなり、短時間で所定の外径の肥大部を成形できる。
このように構成すると、調整が必要な位相角でのみ、ワークWに作用させる曲げ応力σbを一時的に小さくし、他の位相角では、曲げ応力σbは小さくしないので、短時間で所定の外径の肥大部が形成される。
【0063】
制御装置20は、ワークWの回転速度Nを調整する場合には、他の位相角(調整が必要ない外径の位相角)での外径よりも外径Daが大きい所定の位相角(調整が必要な外径の位相角)でのワークWの回転速度Nを、調整が必要ない外径の位相角でのワークWの回転速度Nよりも速くすることで、調整が必要な位相角での肥大部Waの肥大量を抑える構成とした。
【0064】
ワークWの中心軸X1回りの回転速度Nが遅いほど、所定の位相角における圧縮応力σaおよび曲げ応力σbのワークWへの作用時間が長くなるので、ワークWに形成される肥大部Waの肥大量は多くなり、短時間で所定の外径Da1の肥大部Wa1を成形できる。
このように構成すると、調整が必要な位相角でのみ、回転速度Nを一時的に早くして肥大部Waの肥大量を抑えると共に、調整が必要ない位相角では、回転速度Nは遅くし肥大部Waの肥大量を多くなるので、短時間で所定の外径Da1の肥大部Wa1を形成することができる。
【0065】
また、上記の実施の形態では、ワークWがn回転目(例えば、3回転目)の時に測定した肥大部Waの外径Daと、n回転目の目標の肥大部Wa1の外径Da1との外径差Δdに基づいて、次のn+1回転目(例えば、4回転目)における圧縮応力σaと、曲げ応力σbと、回転速度Nとのうち、少なくとも1つを調整する場合を例示したが、ワークWの過去数回転(例えば、過去のn−2回転目と、n−1回転目と、n回転目の3回転分)で位相角毎に測定した肥大部Waの外径Daの平均値と、過去数回転の目標の外径Da1の平均値との外径差Δdに基づいて、次のn+1回転目(例えば、4回転目)における圧縮応力σaと、曲げ応力σbと、回転速度Nとのうち、少なくとも1つを調整するようにしてもよく、さらに、その次のn+2回転目以降(例えば、5回転目)も同様に、過去数回転で位相角毎に測定した肥大部Waの外径Daの平均値と、過去数回転の目標の外径Da1の平均値との外径差Δdに基づいて、圧縮応力σaと、曲げ応力σbと、回転速度Nとのうち、少なくとも1つを調整するようにしてもよい。
このように構成しても、上記と同様の作用効果を奏し得る。
【0066】
また、上記の実施の形態では、ワークWがn回転目(例えば、3回転目)の時に測定した位相角毎の肥大部Waの外径Daと、n回転目の目標の肥大部Wa1の外径Da1との外径差Δdが、所定の閾値d(例えば、2mm)を越える場合に、ワークWが、次のn+1回転目(例えば、4回転目)の時の圧縮応力σaと、曲げ応力σbと、回転速度Nとのうち、少なくとも1つを調整する場合を例示したが、ワークWがn回転目の時の位相角毎の外径差Δdが0よりも大きい場合(Δd>0)に、ワークWが、次のn+1回転目の時の圧縮応力σaと、曲げ応力σbと、回転速度Nとのうち、少なくとも1つを調整するようにしてもよい。
このように構成しても、上記と同様の作用効果を奏し得ると共に、外径差Δdが僅かであっても、全ての位相角毎で肥大部Waの肥大量を調整するので、最終的に得られるワークWの肥大部Waの真円度をより高めることができる。
【0067】
また、ワークWの肥大部Waの肥大量は、ワークWを構成する金属材料の性質や、ワークWに作用させる応力や、回転速度などによって予め計算することができる。
よって、制御装置20に、ワークWの回転回数と肥大部Waの肥大量とを関連付けて記憶した加工条件テーブルに、その回転回数の時の回転速度N、圧縮応力σa、曲げ応力σbとをさらに関連付けて記憶しておき、ワークWの所定の回転回数(例えば、n+1回転目)の時に加工条件テーブルから対応する回転速度Nと、圧縮応力σaと、曲げ応力σbとのうち、少なくとも1つを取得して、加工条件を変更することでワークWaの肥大量を調整するようにしてもよい。また、回転回数Nと、圧縮応力σaと、曲げ応力σbは、回転回数によらない一定の値であってもよく、回転回数ごとに異なる値であってもよい。
【0068】
このように構成すると、上記と同様の作用効果を奏し得ると共に、外径測定装置30によるワークWの肥大部Waの外径Daの測定が不要になると共に、制御装置20による外径差Δdの比較やワークWに作用させる応力の演算が不要になり、軸肥大成形装置1の構成を簡略化することができる。
【0069】
また、上記の実施の形態では、回転ホルダ11と曲げホルダ12とを、ワークWの中心軸X1の軸方向に相互に近づくように移動させて、ワークWの軸方向に圧縮応力σaを作用させる構成を例示したが、回転ホルダ11と曲げホルダ12とのうち、何れか一方のホルダをワークWの中心軸X1の軸方向に対して固定し、他方のホルダを中心軸X1の軸方向で、一方のホルダに近づけるように移動させることで、ワークWの中心軸Xの軸方向に圧縮応力σaを作用させる構成としてもよい。
【0070】
このように構成すると、スライド機構(図示せず)は、少なくとも何れか一方のホルダに備えられていればよく、軸肥大成形装置1の構成を簡略化することができる。
【0071】
また、上記の実施の形態では、軸肥大成形加工の形成途中の所定の回転において、ワークWの肥大部Waの断面が楕円(
図4参照)になる場合を例示したが、例えば、肥大部Waの周方向の1箇所の位相角での肥大量が大きい場合(または小さい場合)や、周方向の複数個所の位相角での肥大量が大きい場合(または小さい場合)であっても適用できる。
このように構成しても、記と同様の作用効果を奏し得る。
【0072】
また、上記の実施の形態では、所定の回転(例えば、n回転目)の所定の位相角におけるワークWの肥大部Waの肥大量が大きく、当該位相角での外径差Δdが所定の閾値dを越える場合に、次回の回転(例えば、n+1回転目)での当該位相角における回転速度Nと、圧縮応力σaと、曲げ応力σbとのうち、少なくとも1つを調整し、ワークWの肥大部Waの肥大量を抑える場合を例示したが、所定の位相角におけるワークWの肥大部Waの肥大量が小さく、当該位相角での外径差Δdが所定の閾値dよりも小さい場合に、次回の回転での当該位相角における回転速度Nと、圧縮応力σaと、曲げ応力σbとのうち、少なくとも1つを調整し、ワークWの肥大部Waの肥大量を大きくするようにしてもよい。
このように構成しても、記と同様の作用効果を奏し得る。
【0073】
また、上記の実施形態では、ワークWがn回転目(例えば、3回転目)の時に測定した肥大部Waの外径Daと、当該n回転目の目標の肥大部Wa1の外径Da1との外径差Δdに基づいて、次のn+1回転目(例えば、4回転目)における圧縮応力σaと、曲げ応力σbと、回転速度Nとのうち、少なくとも1つを調整する場合を例示したが、軸肥大成形によって楕円形状になると推定できる場合には、ワークWがn回転目における1°〜180°の位相のときに測定した肥大部Waの外径Daと、当該n回転目における1°〜180°の位相のときの各々の目標の肥大部Wa1の外径Da1との外径差Δdに基づいて、ワークWがn回転目の181°〜360°の位相のときにおける圧縮応力σaと、曲げ応力σbと、回転速度Nとのうち少なくとも1つを調整し、ワークWがn回転目における181°〜360°の位相のときに測定した肥大部Waの外径Daと、当該n回転目における181°〜360°の位相のときの各々の目標の肥大部Wa1の外径Da1との外径差Δdに基づいて、ワークWが、次のn+1回転目の1°〜180°の位相のときにおける圧縮応力σaと、曲げ応力σbと、回転速度Nとのうち、少なくとも1つを調整するようにしてもよい。
このように構成すると、半回転毎に肥大量を調整することができるため、最終的に得られるワークWの肥大部Waの真円度をより高めることができる。
【0074】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれる。