特許第6076328号(P6076328)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6076328シート成形用ポリプロピレン系樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076328
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】シート成形用ポリプロピレン系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/16 20060101AFI20170130BHJP
   C08F 210/16 20060101ALI20170130BHJP
   C08F 4/654 20060101ALI20170130BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20170130BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   C08L23/16
   C08F210/16
   C08F4/654
   C08K5/00
   C08J5/18CES
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-500707(P2014-500707)
(86)(22)【出願日】2013年2月19日
(86)【国際出願番号】JP2013053927
(87)【国際公開番号】WO2013125504
(87)【国際公開日】20130829
【審査請求日】2016年2月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-34138(P2012-34138)
(32)【優先日】2012年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】597021842
【氏名又は名称】サンアロマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100094008
【弁理士】
【氏名又は名称】沖本 一暁
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100108899
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 謙
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】中島 武
(72)【発明者】
【氏名】坂井 和彦
(72)【発明者】
【氏名】栗山 稔
(72)【発明者】
【氏名】丸山 真範
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−534761(JP,A)
【文献】 特開2002−284942(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/071237(WO,A1)
【文献】 特開2006−199738(JP,A)
【文献】 特表2002−542347(JP,A)
【文献】 特表2009−504822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00−23/36
C08F 4/00−4/82
210/00−210/18
C08J 5/18
C08K 5/00−5/59
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)マグネシウム、チタン、ハロゲンおよびスクシネートからなる電子供与体化合物を必須成分として含有する固体触媒;
(B)有機アルミニウム化合物;および
(C)ケイ素化合物から選択される外部電子供与体化合物
を含む触媒を用いて、プロピレンとエチレンとを共重合させて得たポリプロピレン共重合体99.95〜99.5重量%と:
結晶核剤0.05〜0.5重量%と:
を含む、シート用ポリプロピレン樹脂組成物であって、以下の特性:
ポリプロピレン共重合体の多分散指数が4.5〜10であり;
ポリプロピレン共重合体中のエチレン含量が、ポリプロピレン共重合体の重量を基準として0.3〜2.0重量%であり;
組成物の、230℃におけるメルトフローレートが、1〜8g/10分である、
前記シート用ポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項2】
結晶核剤が、ノニトール系核剤、ソルビトール系核剤、リン酸エステル系核剤、トリアミノベンゼン誘導体核剤、カルボン酸金属塩核剤、およびキシリトール系核剤から選択される、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリプロピレン樹脂組成物から製造したシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート成形用のポリプロピレン系樹脂組成物に関する。詳しくは、加工性に優れ、かつ透明で、高い剛性や十分な衝撃強度を有するシートに加工することができる、ポリプロピレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
安価で剛性、耐湿性、および耐熱性に優れているポリプロピレンは、各種産業分野において広く使用されている。特にポリプロピレン系樹脂組成物は、外観、機械的性質、包装適性等が優れているため、成形品、特に食品包装や繊維包装などの包装用途におけるシート状成形品を製造することに用いられている。包装用途においては、特に内容物を確認することができるように透明性が要求される。
【0003】
ポリプロピレン系樹脂組成物の透明性を改善する方法として、ポリプロピレン系樹脂に結晶核剤を添加する方法が知られている。特許文献1(特開2005−120237号)には、透明性について十分な添加効果を奏する結晶核剤組成物を含有してなる結晶性高分子組成物として、ポリオレフィン系高分子に特定の構造を有する環状リン酸エステルのリチウム塩、脂肪族有機酸金属塩および有機酸アミドの構造を有する特定の化合物を含有してなる結晶性高分子組成物が開示されている。また特許文献2(特開2009−299039号)には、ポリプロピレン系樹脂と、特定のソルビトール系の構造を有する化合物とを含む、熱成形シート用ポリプロピレン系樹脂組成物が開示されている。
【0004】
これらの特許文献には、樹脂の透明性を改善することについては言及されているが、シート成形性や2次加工性、加熱(2次加工)後の成形品の透明性などについては言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−120237号
【特許文献2】特開2009−299039号
【特許文献3】国際公開第2009/069483号
【特許文献4】国際公開第2009/057747号
【特許文献5】特開2005−306910号
【特許文献6】特開2004−131537号
【特許文献7】特表2002−542347号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、スクシネート系の電子供与体化合物を含む、Mg、Ti、およびハロゲンを含む固体触媒成分と、アルキルアルミニウム共触媒、およびケイ素化合物を含む触媒系の存在下で重合させて得たポリプロピレンを含む、特定のメルトフローレート値およびエチレン含量と、優れたシート成形性および2次加工性を有するプロピレン系樹脂組成物を提供する。特定の触媒を用いて製造したポリプロピレンに、特定の結晶核剤を正確に添加することにより、包装用途に好適なシート状成形品の製造に適したポリプロピレン系樹脂組成物を提供することができる。
【0007】
本発明の態様は、以下の通りである:
1.(A)マグネシウム、チタン、ハロゲンおよびスクシネートから選択される電子供与体化合物を必須成分として含有する固体触媒;
(B)有機アルミニウム化合物;および
(C)ケイ素化合物から選択される外部電子供与体化合物
を含む触媒を用いて、プロピレンとエチレンとを共重合させて得たポリプロピレン共重合体99.95〜99.5重量%と:
結晶核剤0.05〜0.5重量%と:
を含む、シート用ポリプロピレン樹脂組成物であって、以下の特性:
ポリプロピレン共重合体の多分散指数が4.5〜10であり;
ポリプロピレン共重合体中のエチレン含量が、ポリプロピレン共重合体の重量を基準として0.3〜2.0重量%であり;
組成物の、230℃におけるメルトフローレートが、1〜8g/10分である、
前記シート用ポリプロピレン樹脂組成物。
2.結晶核剤が、ノニトール系核剤、ソルビトール系核剤、リン酸エステル系核剤、トリアミノベンゼン誘導体核剤、カルボン酸金属塩核剤、およびキシリトール系核剤から選択される、上記1に記載の樹脂組成物。
3.上記1または2に記載のポリプロピレン樹脂組成物から製造したシート。
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
まず、本発明のポリプロピレン樹脂組成物を説明する。本発明は、(A)マグネシウム、チタン、ハロゲンおよびスクシネートから選択される電子供与体化合物を必須成分として含有する固体触媒;
(B)有機アルミニウム化合物;および
(C)ケイ素化合物から選択される外部電子供与体化合物
を含む触媒を用いて、プロピレンとエチレンとを共重合させて得たポリプロピレン共重合体99.95〜99.5重量%と:
結晶核剤0.05〜0.5重量%と:
を含む、シート用ポリプロピレン樹脂組成物であって、以下の特性:
ポリプロピレン共重合体の多分散指数が4.5〜10であり;
ポリプロピレン共重合体中のエチレン含量が、ポリプロピレン共重合体の重量を基準として0.3〜2.0重量%であり;
組成物の、230℃におけるメルトフローレートが、1〜8g/10分である、
前記シート用ポリプロピレン樹脂組成物に関する。
【0010】
本発明の第1成分であるポリプロピレンは、(A)マグネシウム、チタン、ハロゲンおよびスクシネートから選択される電子供与体化合物を必須成分として含有する固体触媒;(B)有機アルミニウム化合物;および(C)ケイ素化合物から選択される外部電子供与体化合物を含む触媒を用いて製造したものである。
【0011】
本発明の第1成分の製造で用いる(A)成分である固体触媒成分は、マグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与体化合物を必須成分として含有する。この固体触媒成分については、多くの先行技術文献が、その製造方法を提示している。具体的には、この固体触媒成分は、マグネシウム化合物とチタン化合物ならびに電子供与体化合物を相互接触させることにより得られる。例えば、(1)マグネシウム化合物あるいはマグネシウム化合物と電子供与体化合物の錯化合物を、電子供与体化合物、粉砕助剤等の存在下または不存在下、粉砕し、または粉砕することなく、電子供与体化合物および/または有機アルミニウム化合物やハロゲン含有ケイ素化合物のような反応助剤で予備処理し、又は予備処理せずに得た固体と反応条件下に液相をなすチタン化合物と反応させる方法;(2)マグネシウム化合物の液状物と、液状のチタン化合物を電子供与体化合物の存在下または不存在下で反応させて固体状のチタン複合体を析出させる方法;(3)固体状のマグネシウム化合物と液状のチタン化合物および電子供与体化合物と反応させる方法;(4)上記(2)や(3)で得られるものに、さらにチタン化合物を反応させる方法;(5)上記(1)や(2)や(3)で得られるものにさらに電子供与体化合物およびチタン化合物を反応させる方法;(6)マグネシウム化合物あるいはマグネシウム化合物と電子供与体化合物の錯化合物を、電子供与体化合物、粉砕助剤等の存在下または不存在下、およびチタン化合物の存在下に粉砕し、電子供与体化合物および/または有機アルミニウム化合物やハロゲン含有ケイ素化合物のような反応助剤で予備処理し、又は予備処理せずに得た固体をハロゲン又はハロゲン化合物または芳香族炭化水素で処理する方法;および(7)前記(1)〜(5)で得られる化合物をハロゲン又はハロゲン化合物又は芳香族炭化水素で処理する方法など、様々な方法にて、本発明で用いる(A)成分である固体触媒成分を得ることができる。
【0012】
本発明の第1成分の製造で使用する固体触媒成分(A)の調製に用いられるチタン化合物として、一般式:
【0013】
【化1】
(Rは炭化水素基、Xはハロゲン、0≦g≦4)で表される4価のチタン化合物が好適である。より具体的には、TiCl4、TiBr4、TiI4などのテトラハロゲン化チタン;Ti(OCH3)Cl3、Ti(OC25)Cl3、Ti(On−C49)Cl3、Ti(OC25)Br3、Ti(OisoC49)Br3などのトリハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH3)2Cl2、Ti(OC25)2Cl2、Ti(On−C49)2Cl2、Ti(OC25)2Br2などのジハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH3)3Cl、Ti(OC25)3Cl、Ti(On−C49)3Cl、Ti(OC25)3Brなどのモノハロゲン化トリアルコキシチタン;Ti(OCH3)4、Ti(OC25)4、Ti(On−C49)4などのテトラアルコキシチタンなどが挙げられ、これらの中で好ましいものはハロゲン含有チタン化合物、とくにテトラハロゲン化チタンであり、とくに好ましいものは、四塩化チタンである。
【0014】
本発明の第1成分の製造で使用する固体触媒成分(A)の調製に用いられるマグネシウム化合物として、マグネシウム・炭素結合やマグネシウム・水素結合を有するマグネシウム化合物、例えばジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ジプロピルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ジアミルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、ジデシルマグネシウム、エチル塩化マグネシウム、プロピル塩化マグネシウム、ブチル塩化マグネシウム、ヘキシル塩化マグネシウム、アミル塩化マグネシウム、ブチルエトキシマグネシウム、エチルブチルマグネシウム、ブチルマグネシウムハイドライドなどが挙げられる。これらのマグネシウム化合物は、例えば有機アルミニウム等との錯化合物の形で用いる事もでき、また、液状状態であっても固体状態であってもよい。さらに好適なマグネシウム化合物として、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、沃化マグネシウム、弗化マグネシウムのようなハロゲン化マグネシウム;メトキシ塩化マグネシウム、エトキシ塩化マグネシウム、イソプロポキシ塩化マグネシウム、ブトキシ塩化マグネシウム、オクトキシ塩化マグネシウムのようなアルコキシマグネシウムハライド;フエノキシ塩化マグネシウム、メチルフエノキシ塩化マグネシウムのようなアリロキシマグネシウムハライド;エトキシマグネシウム、イソプロポキシマグネシウム、ブトキシマグネシウム、n−オクトキシマグネシウム、2−エチルヘキソキシマグネシウムのようなアルコキシマグネシウム;フエノキシマグネシウム、ジメチルフエノキシマグネシウムのようなアリロキシマグネシウム;ラウリン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなマグネシウムのカルボン酸塩などを挙げることができる。
【0015】
本発明の第1成分の製造で使用する固体触媒成分(A)の調製に用いられる電子供与体化合物は、一般には「内部電子供与体」と称される。このような電子供与体化合物として、アルコール、フェノール類、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、有機酸又は無機酸のエステル、エーテル、酸アミド、酸無水物のような含酸素電子供与体、アンモニア、アミン、ニトリル、イソシアネートの如き含窒素電子供与体などを知られているが、本発明ではスクシネート系の電子供与体化合物を使用する。
【0016】
好適なスクシネート系化合物は、式I:
【0017】
【化2】
(式中、基R及びRは、互いに同一か又は異なり、場合によってはヘテロ原子を含む、C〜C20の線状又は分岐のアルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、又はアルキルアリール基であり;基R〜Rは、互いに同一か又は異なり、水素、或いは場合によってはヘテロ原子を含む、C〜C20の線状又は分岐のアルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、又はアルキルアリール基であり、同じ炭素原子または異なる炭素原子に結合している基R〜Rは一緒に結合して環を形成してもよい)
のコハク酸エステル(スクシネート)構造を有する化合物から選択される。
【0018】
及びRは、好ましくは、C〜Cのアルキル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、及びアルキルアリール基である。R及びRが第1級アルキル、特に分岐第1級アルキルから選択される化合物が特に好ましい。好適なR及びR基の例は、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、イソブチル、ネオペンチル、2−エチルヘキシルである。エチル、イソブチル、及びネオペンチルが特に好ましい。
【0019】
式(I)によって示される化合物の好ましい群の1つは、R〜Rが水素であり、Rが、3〜10個の炭素原子を有する、分岐アルキル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、及びアルキルアリール基であるものである。好適な単置換スクシネート化合物の具体例は、ジエチル−sec−ブチルスクシネート、ジエチルテキシルスクシネート、ジエチルシクロプロピルスクシネート、ジエチルノルボニルスクシネート、ジエチルペリヒドロスクシネート、ジエチルトリメチルシリルスクシネート、ジエチルメトキシスクシネート、ジエチル−p−メトキシフェニルスクシネート、ジエチル−p−クロロフェニルスクシネート、ジエチルフェニルスクシネート、ジエチルシクロヘキシルスクシネート、ジエチルベンジルスクシネート、ジエチルシクロヘキシルメチルスクシネート、ジエチル−t−ブチルスクシネート、ジエチルイソブチルスクシネート、ジエチルイソプロピルスクシネート、ジエチルネオペンチルスクシネート、ジエチルイソペンチルスクシネート、ジエチル(1−トリフルオロメチルエチル)スクシネート、ジエチルフルオレニルスクシネート、1−(エトキシカルボジイソブチルフェニルスクシネート、ジイソブチル−sec−ブチルスクシネート、ジイソブチルテキシルスクシネート、ジイソブチルシクロプロピルスクシネート、ジイソブチルノルボニルスクシネート、ジイソブチルペリヒドロスクシネート、ジイソブチルトリメチルシリルスクシネート、ジイソブチルメトキシスクシネート、ジイソブチル−p−メトキシフェニルスクシネート、ジイソブチル−p−クロロフェニルスクシネート、ジイソブチルシクロヘキシルスクシネート、ジイソブチルベンジルスクシネート、ジイソブチルシクロヘキシルメチルスクシネート、ジイソブチル−t−ブチルスクシネート、ジイソブチルイソブチルスクシネート、ジイソブチルイソプロピルスクシネート、ジイソブチルネオペンチルスクシネート、ジイソブチルイソペンチルスクシネート、ジイソブチル(1−トリフルオロメチルエチル)スクシネート、ジイソブチルフルオレニルスクシネート、ジネオペンチル−sec−ブチルスクシネート、ジネオペンチルテキシルスクシネート、ジネオペンチルシクロプロピルスクシネート、ジネオペンチルノルボニルスクシネート、ジネオペンチルペリヒドロスクシネート、ジネオペンチルトリメチルシリルスクシネート、ジネオペンチルメトキシスクシネート、ジネオペンチル−p−メトキシフェニルスクシネート、ジネオペンチル−p−クロロフェニルスクシネート、ジネオペンチルフェニルスクシネート、ジネオペンチルシクロヘキシルスクシネート、ジネオペンチルベンジルスクシネート、ジネオペンチルシクロヘキシルメチルスクシネート、ジネオペンチル−t−ブチルスクシネート、ジネオペンチルイソブチルスクシネート、ジネオペンチルイソプロピルスクシネート、ジネオペンチルネオペンチルスクシネート、ジネオペンチルイソペンチルスクシネート、ジネオペンチル(1−トリフルオロメチルエチル)スクシネート、ジネオペンチルフルオレニルスクシネートである。
【0020】
式(I)の範囲内の化合物の他の好ましい群は、R〜Rからの少なくとも2つの基が、水素とは異なり、場合によってはヘテロ原子を含む、C〜C20の線状又は分岐のアルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、又はアルキルアリール基から選択されるものである。水素とは異なる2つの基が同じ炭素原子に結合している化合物が特に好ましい。更に、水素とは異なる少なくとも2つの基、則ちR及びR、又はR及びRが異なる炭素原子に結合している化合物も特に好ましい。好適な二置換スクシネートの具体例は、ジエチル−2,2−ジメチルスクシネート、ジエチル−2−エチル−2−メチルスクシネート、ジエチル−2−ベンジル−2−イソプロピルスクシネート、ジエチル−2−シクロヘキシルメチル−2−イソブチルスクシネート、ジエチル−2−シクロペンチル−2−n−ブチルスクシネート、ジエチル−2,2−ジイソブチルスクシネート、ジエチル−2−シクロヘキシル−2−エチルスクシネート、ジエチル−2−イソプロピル−2−メチルスクシネート、ジエチル−2−テトラデシル−2−エチルスクシネート、ジエチル−2−イソブチル−2−エチルスクシネート、ジエチル−2−(1−トリフルオロメチルエチル)−2−メチルスクシネート、ジエチル−2−イソペンチル−2−イソブチルスクシネート、ジエチル−2−フェニル−2−n−ブチルスクシネート、ジイソブチル−2,2−ジメチルスクシネート、ジイソブチル−2−エチル−2−メチルスクシネート、ジイソブチル−2−ベンジル−2−イソプロピルスクシネート、ジイソブチル−2−シクロヘキシルメチル−2−イソブチルスクシネート、ジイソブチル−2−シクロペンチル−2−n−ブチルスクシネート、ジイソブチル−2,2−ジイソブチルスクシネート、ジイソブチル−2−シクロヘキシル−2−エチルスクシネート、ジイソブチル−2−イソプロピル−2−メチルスクシネート、ジイソブチル−2−テトラデシル−2−エチルスクシネート、ジイソブチル−2−イソブチル−2−エチルスクシネート、ジイソブチル−2−(1−トリフルオロメチルエチル)−2−メチルスクシネート、ジイソブチル−2−イソペンチル−2−イソブチルスクシネート、ジイソブチル−2−フェニル−2−n−ブチルスクシネート、ジネオペンチル−2,2−ジメチルスクシネート、ジネオペンチル−2−エチル−2−メチルスクシネート、ジネオペンチル−2−ベンジル−2−イソプロピルスクシネート、ジネオペンチル−2−シクロヘキシルメチル−2−イソブチルスクシネート、ジネオペンチル−2−シクロペンチル−2−n−ブチルスクシネート、ジネオペンチル−2,2−ジイソブチルスクシネート、ジネオペンチル−2−シクロヘキシル−2−エチルスクシネート、ジネオペンチル−2−イソプロピル−2−メチルスクシネート、ジネオペンチル−2−テトラデシル−2−エチルスクシネート、ジネオペンチル−2−イソブチル−2−エチルスクシネート、ジネオペンチル−2−(1−トリフルオロメチルエチル)−2−メチルスクシネート、ジネオペンチル−2−イソペンチル−2−イソブチルスクシネート、ジネオペンチル−2−フェニル−2−n−ブチルスクシネートである。
【0021】
更に、水素とは異なる少なくとも2つの基、則ちR及びR、又はR及びRが異なる炭素原子に結合している化合物も特に好ましい。好適な化合物の具体例は、ジエチル−2,3−ビス(トリメチルシリル)スクシネート、ジエチル−2,2−sec−ブチル−3−メチルスクシネート、ジエチル−2−(3,3,3−トリフルオロプロピル)−3−メチルスクシネート、ジエチル−2,3−ビス(2−エチルブチル)スクシネート、ジエチル−2,3−ジエチル−2−イソプロピルスクシネート、ジエチル−2,3−ジイソプロピル−2−メチルスクシネート、ジエチル−2,3−ジシクロヘキシル−2−メチルジエチル−2,3−ジベンジルスクシネート、ジエチル−2,3−ジイソプロピルスクシネート、ジエチル−2,3−ビス(シクロヘキシルメチル)スクシネート、ジエチル−2,3−ジ−t−ブチルスクシネート、ジエチル−2,3−ジイソブチルスクシネート、ジエチル−2,3−ジネオペンチルスクシネート、ジエチル−2,3−ジイソペンチルスクシネート、ジエチル−2,3−(1−トリフルオロメチルエチル)スクシネート、ジエチル−2,3−テトラデシルスクシネート、ジエチル−2,3−フルオレニルスクシネート、ジエチル−2−イソプロピル−3−イソブチルスクシネート、ジエチル−2−tert−ブチル−3−イソプロピルスクシネート、ジエチル−2−イソプロピル−3−シクロヘキシルスクシネート、ジエチル−2−イソペンチル−3−シクロヘキシルスクシネート、ジエチル−2−テトラデシル−3−シクロヘキシルメチルスクシネート、ジエチル−2−シクロヘキシル−3−シクロペンチルスクシネート、ジイソブチル−2,3−ジエチル−2−イソプロピルスクシネート、ジイソブチル−2,3−ジイソプロピル−2−メチルスクシネート、ジイソブチル−2,3−ジシクロヘキシル−2−メチル、ジイソブチル−2,3−ジベンジルスクシネート、ジイソブチル−2,3−ジイソプロピルスクシネート、ジイソブチル−2,3−ビス(シクロヘキシルメチル)スクシネート、ジイソブチル−2,3−ジ−t−ブチルスクシネート、ジイソブチル−2,3−ジイソブチルスクシネート、ジイソブチル−2,3−ジネオペンチルスクシネート、ジイソブチル−2,3−ジイソペンチルスクシネート、ジイソブチル−2,3−(1−トリフルオロメチルエチル)スクシネート、ジイソブチル−2,3−テトラデシルスクシネート、ジイソブチル−2,3−フルオレニルスクシネート、ジイソブチル−2−イソプロピル−3−イソブチルスクシネート、ジイソブチル−2−tert−ブチル−3−イソプロピルスクシネート、ジイソブチル−2−イソプロピル−3−シクロヘキシルスクシネート、ジイソブチル−2−イソペンチル−3−シクロヘキシルスクシネート、ジイソブチル−2−テトラデシル−3−シクロヘキシルメチルスクシネート、ジイソブチル−2−シクロヘキシル−3−シクロペンチルスクシネート、ジネオペンチル−2,3−ビス(トリメチルシリル)スクシネート、ジネオペンチル−2,2−sec−ブチル−3−メチルスクシネート、ジネオペンチル−2−(3,3,3−トリフルオロプロピル)−3−メチルスクシネート、ジネオペンチル−2,3−ビス(2−エチルブチル)スクシネート、ジネオペンチル−2,3−ジエチル−2−イソプロピルスクシネート、ジネオペンチル−2,3−ジイソプロピル−2−メチルスクシネート、ジネオペンチル−2,3−ジシクロヘキシル−2−メチル、ジネオペンチル−2,3−ジベンジルスクシネート、ジネオペンチル−2,3−ジイソプロピルスクシネート、ジネオペンチル−2,3−ビス(シクロヘキシルメチル)スクシネート、ジネオペンチル−2,3−ジ−t−ブチルスクシネート、ジネオペンチル−2,3−ジイソブチルスクシネート、ジネオペンチル−2,3−ジネオペンチルスクシネート、ジネオペンチル−2,3−ジイソペンチルスクシネート、ジネオペンチル−2,3−(1−トリフルオロメチルエチル)スクシネート、ジネオペンチル−2,3−テトラデシルスクシネート、ジネオペンチル−2,3−フルオレニルスクシネート、ジネオペンチル−2−イソプロピル−3−イソブチルスクシネート、ジネオペンチル−2−tert−ブチル−3−イソプロピルスクシネート、ジネオペンチル−2−イソプロピル−3−シクロヘキシルスクシネート、ジネオペンチル−2−イソペンチル−3−シクロヘキシルスクシネート、ジネオペンチル−2−テトラデシル−3−シクロヘキシルメチルスクシネート、ジネオペンチル−2−シクロヘキシル−3―シクロペンチルスクシネートである。
【0022】
式Iの化合物のうち、基R〜Rのうちのいくつかが一緒に結合して環を形成している化合物も好ましく用いることができる。このような化合物として特許文献7に挙げられている化合物、例えば、1−(エトキシカルボニル)−1−(エトキシアセチル)−2,6一ジメチルシクロヘキサン、1−(エトキシカルボニル)−1−(エトキシアセチル)−2,5一ジメチルシクロペンタン、1−(エトキシカルボニル)−1−(エトキシアセチルメチル)−2一メチルシクロへキサン、1−(エトキシカルボニル)−1−(エトキシ(シクロヘキシル)アセチル)シクロヘキサンを挙げることができる。他には、例えば特許文献3に開示されているような環状スクシネート化合物も好適に用いることができる。
【0023】
他の環状スクシネート化合物の例としては、特許文献4に開示されている化合物も好ましい。
【0024】
式1の化合物のうち、基R〜Rがヘテロ原子を含む場合、ヘテロ原子は窒素およびリン原子を含む第15族原子あるいは酸素およびイオウ原子を含む第16族原子であることが好ましい。基R〜Rが第15族原子を含む化合物としては、特許文献5に開示される化合物が挙げられる。一方、基R〜Rが第16族原子を含む化合物としては、特許文献6に開示される化合物が挙げられる。
【0025】
本発明の第1成分の製造に使用する固体触媒成分を構成するハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素またはこれらの混合物をあげることができ、とくに塩素が好ましい。
【0026】
本発明の第1成分の製造に使用する(B)成分である有機アルミニウム化合物は、例えば、トリエチルアルミニウム、トリブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、トリイソプレニルアルミニウムのようなトリアルケニルアルミニウム、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジブチルアルミニウムブトキシドなどのジアルキルアルミニウムアルコキシド、エチルアルミニウムセスキエトキシド、ブチルアルミニウムセスキブトキシドなどのアルキルアルミニウムセスキアルコキシドのほかに、R12.5Al(OR2)0.5などで表わされる平均組成を有する部分的にアルコキシ化されたアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、ジブチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミドのようなジアルキルアルミニウムハロゲニド、エチルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキブロミドのようなアルキルアルミニウムセスキハロゲニド、エチルアルミニウムジクロリド、プロピルアルミニウムジクロリド、ブチルアルミニウムジブロミドなどのようなアルキルアルミニウムジハロゲニドなどの部分的にハロゲン化されたアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムヒドリド、ジブチルアルミニウムヒドリドなどのジアルキルアルミニウムヒドリド、エチルアルミニウムジヒドリド、プロピルアルミニウムジヒドリドなどのアルキルアルミニウムジヒドリドなどの部分的に水素化されたアルキルアルミニウム、エチルアルミニウムエトキシクロリド、ブチルアルミニウムブトキシクロリド、エチルアルミニウムエトキシブロミドなどの部分的にアルコキシ化およびハロゲン化されたアルキルアルミニウム等から選択することができる。
【0027】
本発明の第1成分の製造に使用する(C)成分である電子供与体化合物は、一般に「外部電子供与体」と称される。このような電子供与体化合物として、有機ケイ素化合物を用いるのが好ましい。好ましい有機ケイ素化合物として、例えば、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、t−ブチルメチルジメトキシシラン、t−ブチルメチルジエトキシシラン、t−アミルメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビスo−トリルジメトキシシラン、ビスm−トリルジメトキシシラン、ビスp−トリルジメトキシシラン、ビスp−トリルジエトキシシラン、ビスエチルフェニルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、γ−クロルプロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン、テキシルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、iso−ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、クロルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、2−ノルボルナントリメトキシシラン、2−ノルボルナントリエトキシシラン、2−ノルボルナンメチルジメトキシシラン、ケイ酸エチル、ケイ酸ブチル、トリメチルフエノキシシラン、メチルトリアリルオキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシシラン)、ビニルトリアセトキシシラン、ジメチルテトラエトキシジシロキサンなどが挙げられ、とりわけエチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン、テキシルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ビスp−トリルジメトキシシラン、p−トリルメチルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、2−ノネボルナントリエトキシシラン、2−ノルボルナンメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ケイ酸エチルなどが好ましい。
【0028】
本発明の第1成分であるポリプロピレンは、多分散性指数(PI)4.5〜10、好ましくは5.0〜8.0という幅広い分子量分布を有する。PIが4.5未満ではドローダウン時間が短くドローダウンし易い。PIが10を超えると透明性が悪化する。
【0029】
本発明の第2成分である結晶核剤は、ノニトール系核剤、ソルビトール系核剤、リン酸エステル系核剤、トリアミノベンゼン誘導体核剤、カルボン酸金属塩核剤、およびキシリトール系核剤から選択されることが好ましい。ノニトール系の構造を有する結晶核剤として、例えば、1,2,3―トリデオキシ−4,6:5,7−ビス−[(4−プロピルフェニル)メチレン]−ノニトール、キシリトール系の構造を有する結晶核剤として、例えば、ビス−1,3:2,4−(5’,6’,7’,8’−テトラヒドロ−2−ナフトアルデヒドベンジリデン)1−アリルキシリトール、ビス−1,3:2,4−(3’,4’−ジメチルベンジリデン)1−プロピルキシリトール、ソルビトール系の構造を有する結晶核剤として、例えば、ビス−1,3:2,4−(4’−エチルベンジリデン)1−アリルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(3'-メチル-4'-フルオロ-ベンジリデン)1-プロピルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(3',4'-ジメチルベンジリデン)1'-メチル-2'-プロペニルソルビトール、ビス-1,3,2,4-ジベンジリデン2',3'-ジブロモプロピルソルビトール、ビス-1,3,2,4-ジベンジリデン2'-ブロモ-3'-ヒドロキシプロピルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(3'-ブロモ-4'-エチルベンジリデン)-1-アリルソルビトール、モノ2,4-(3'-ブロモ-4'-エチルベンジリデン)-1-アリルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(4'-エチルベンジリデン)1-アリルソルビトール、ビス-1,3:2,4-(3',4'-ジメチルベンジリデン)1-メチルソルビトール、ビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ビス−o−(4−メチルベンジリデン)−D−ソルビトール等が挙げられる。本発明の組成物に用いられるノニトール系の市販の結晶核剤として、例えばMillad NX8000(ミリケンジャパン)、ソルビトール系の市販の結晶核剤として、RiKAFAST R-1(新日本理化)、Millad 3988(ミリケンジャパン)、ゲルオールE-200(新日本理化)、ゲルオールMD(新日本理化)等が挙げられる。リン酸エステル系結晶核剤として、アルミニウム−ビス(4,4’,6,6’−テトラ−tert−ブチル−2,2’−メチレンジフェニル−ホスファート)−ヒドロキシド等が挙げられる。本発明の組成物に用いられる市販のリン酸エステル系結晶核剤として、例えばアスカスタブNA−21(旭電化)、アスカスタブNA−71(旭電化)などが挙げられる。トリアミノベンゼン誘導体結晶核剤として、例えば、1,3,5−トリス(2,2−ジメチルプロパンアミド)ベンゼン等が挙げられる。本発明の組成物に用いられる市販のトリアミノベンゼン誘導体結晶核剤として、例えばIRGACLEAR XT386(BASFジャパン)などが挙げられる。カルボン酸金属塩核剤として、1,2−シクロヘキサンジカルボキシル酸カルシウム塩等が挙げられる。本発明の組成物に用いられる市販のカルボン酸金属塩核剤として、例えばHyperform HPN−20E(ミリケンジャパン)などが挙げられる。特に2次加工(加熱)後の透明性を維持するためには、ノニトール系核剤またはソルビトール系核剤の使用が好ましい。
【0030】
これらの結晶核剤は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物のエチレン含量は、ポリプロピレン共重合体の重量を基準として0.3〜2.0重量%であり、好ましくは0.4〜1.6重量%である。ポリプロピレン共重合体中のエチレン含量が、0.3未満では特に加熱後の透明性が悪化し、2.0重量%を超えると剛性が低下する。
【0032】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物の、230℃におけるメルトフローレートは、1〜8g/10分、好ましくは2〜6g/10分である。メルトフローレートが1未満では成形性が悪く、ロールへの転写性が悪くなる結果、透明性が低下する。メルトフローレートが8を超えるとドローダウン性が悪化するとともに衝撃性が低下する。
【0033】
さらに本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、油展及び他の有機及び無機顔料などのオレフィン重合体に通常用いられる慣用の添加剤及び顔料を添加してもよい。
【0034】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、シート状成形品用途に特に好適に用いることができる。シート状成形品への使用に好適な理由として、好適なシート成形性(押出特性)と2次加工性(ドローダウン性)と、成形品の良好な剛性ならびに十分な衝撃強度を有することが挙げられる。従来シート状成形品用途に用いられてきた透明なポリプロピレン系樹脂組成物は、成形加工特性、特にシートの2次加工性が充分でなかった。シート成形性を向上させるためにメルトフローレートを増加させると、2次加工性が低下し、2次加工性を向上させる為にメルトフローレートを低下させるとシート成形性が低下するという相関関係があった。本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、透明性と好適なシート成形性を維持しつつ、2次加工性を向上させることができた。
【発明の効果】
【0035】
本発明の方法により、透明性及び機械特性に優れ、シート成形性及び2次加工性にも優れるシート用ポリオレフィン組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に本発明のポリプロピレン樹脂組成物の製造方法を具体的に説明する。
【0037】
本発明の組成物に使用されるポリプロピレン共重合体は、既存のスラリープロセス(液体モノマー中の重合)や気相重合等で得られる。また、各後続の重合が直前の重合反応中に形成された重合性物質の存在下で行われる少なくとも2の逐次重合ステージを具備する逐次重合方法を用いても良い。ポリプロピレン共重合体は、プロピレンモノマー、エチレンモノマー、水素、触媒を供給し、プロピレンモノマーとエチレンモノマーとを共重合させて得られる。
【0038】
また、ポリプロピレン共重合体を得る方法として、モノマー濃度や重合条件の勾配を有する重合器を用いて行う方法が挙げられる。このような重合器では、例えば、少なくとも2つの重合領域が接続されたものを使用し、気相重合でモノマーを重合することができる。具体的には、触媒の存在下、上昇管からなる重合領域にてモノマーを供給して重合し、上昇管に接続された下降管にてモノマーを供給して重合し、上昇管と下降管とを循環しながら、ポリマー生成物を回収する。この方法では、上昇管中に存在する気体混合物が下降管に入るのを全面的または部分的に防止する手段を備える。また、上昇管中に存在する気体混合物とは異なる組成を有する気体および/または液体混合物を下降管中に導入する。
【0039】
上記の重合方法は、例えば、特表2002−520426号公報に記載された方法を適用することができる。
【0040】
結晶核剤の添加は、例えば、重合により得られた重合体と結晶核剤を酸化防止剤とともにヘンシェルミキサー、ブラベンダー等で撹拌した後、押出機を用いて180℃から280℃で溶融ブレンドする事によりポリプロピレン樹脂組成物を得る事ができる。結晶核剤や酸化防止剤の添加は、重合、残留モノマー除去、乾燥工程を経た後、連結された押出機を用いて行ってもよい。
【0041】
重合ステージは、立体特異的チーグラーナッタ(Ziegler−Natta)触媒の存在下で行われる。好ましい実施形態によれば、全重合ステージは、(A)マグネシウム、チタン、ハロゲンおよびスクシネートから選択される電子供与体化合物を必須成分として含有する固体触媒;(B)有機アルミニウム化合物;および(C)ケイ素化合物から選択される外部電子供与体化合物を含む触媒成分の存在下で行われる。上記特徴を有する触媒は、特許文献により周知である。重合ステージは、液相中、気相中又は液−気相中で生じてもよい。ポリプロピレン共重合体の調製用の重合ステージにおける反応温度は同一でも異なっていてもよく、好ましくは40〜100℃;より好ましくは50〜90℃の範囲であり、さらに好ましくは70〜90℃の範囲である。ポリプロピレン共重合体を調製するための重合ステージの圧力は、液体モノマー中で行われる場合には、用いられる運転温度での液体プロピレンの蒸気圧と競合する圧力であり、触媒混合物を供給するために用いられる少量の不活性希釈剤の蒸気圧によって、任意のモノマーの過圧によって及び分子量調節剤として用いられる水素によって調節されてもよい。
【0042】
重合圧力は、液相中で行われる場合には好ましくは33〜43barの範囲であり、気相中で行われる場合には5〜30barの範囲である。連鎖移動剤(たとえば、水素又はZnEt2)などの当該分野で公知の慣用の分子量調節剤を用いてもよい。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を掲げ本発明についてさらに説明する。なお、実施例における各分析は以下の方法で行った。
【0044】
[MFR]
JIS K 7210に準じ、温度230℃、荷重21.18Nの条件下で測定した。
【0045】
[マトリックスPPのエチレン濃度]
1、2、4−トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼンの混合溶媒に溶解した試料について、日本電子社製JNM LA−400(13C共鳴周波数100MHz)を用い、13C−NMR法で測定を行った。
【0046】
[多分散性指数]
190℃の温度において、PaarPhysica社製UDS200を用い、0.1rad/秒から100rad/秒に増加する振動数で運転することによって測定した。多分散性指数の値は、等式:
PI=10/Gc
(式中、Gcは、G’=G”(ここで、G’は貯蔵弾性率であり、G”は損失弾性率である)における値(Paとして表す)として定義されるクロスオーバー弾性率である)
を用いてクロスオーバー弾性率から誘導した。
【0047】
[剛性(スティフネス)]
田辺40mmφ単層シート成形機を用い、成形温度220℃、冷却ロール温度90℃で0.3mm厚のシートを成形し、このシートのスティフネスをJIS K7106にしたがって引き取り方向(MD)とその垂直方向(TD)で測定し、その平均値を求めた。スティフネスが大きいほど、剛性が優れていることを示す。
【0048】
[面衝撃強度]
剛性の評価で使用したシートを用い、JIS K7124−1にしたがって、23℃におけるダート衝撃強度を測定した。
【0049】
[透明性]
JIS K 7136にしたがい、ヘイズ測定を行った。
【0050】
加熱後のシートの透明性の測定は、以下のように行った:
金枠に固定した150mm×270mm、厚み約0.3mmのシートを、210℃に設定したシートドローダウンテスト用オーブンに入れ、30秒間加熱した後、素早く取り出して室温にて放冷し、しばらく放置した。この試料についてJIS K 7136に従い、ヘイズ測定を行った。
【0051】
[ドローダウン性]
金枠に固定した150mm×270mm、厚み約0.3mmのシートを、210℃(ポリプロピレンの平衡融点である約186℃を超え、真空成形における予熱温度付近である温度)のオーブンに入れ、融解後、シートが張り戻った時刻tから自重によりシート中央部が2cm垂れ下がるまでの時刻tまでの時間(t−t)によりドローダウン性を評価した。ドローダウンは製品肉厚の不均一を招く原因になる。ドローダウン時間(t−t)が長いほどドローダウンし難いので、2次加工性に優れる。
【0052】
[成形性(押出機トルク)]
スティフネスを測定するシートを成形する際に、押出機モーターの使用電力(モーターの電力を回転数で割った値)にて成形性を評価した。モーターの使用電力が低いほど成形性が良い。
【0053】
[実施例1]
(1)固体触媒成分の調製
特開2011−500907号の実施例に記載の調製法に従い、固体触媒成分を調製した。具体的には以下の通りである:
窒素でパージした500mLの4つ口丸底フラスコ中に、250mLのTiClを0℃において導入した。撹拌しながら、10.0gの微細球状MgCl・1.8COH(USP−4,399,054の実施例2に記載の方法にしたがって、しかしながら10000rpmに代えて3000rpmで運転して製造した)、及び9.1ミリモルのジエチル−2,3−(ジイソプロピル)スクシネートを加えた。温度を100℃に上昇させ、120分間保持した。次に、撹拌を停止し、固体生成物を沈降させ、上澄み液を吸い出した。次に、以下の操作を2回繰り返した:250mLの新しいTiClを加え、混合物を120℃において60分間反応させ、上澄み液を吸い出した。固体を、60℃において無水ヘキサン(6×100mL)で6回洗浄した。
(2)重合および組成物の製造
[実施例1]
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、以下の方法で製造した:
上記固体触媒と、トリエチルアルミニウム(TEAL)及びジイソプロピルジメトキシシラン(DIPMS)を、固体触媒に対するTEALの質量比が11であり、TEAL/DIPMSの質量比が3となるような量で、12℃において24分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予備重合を行った。
【0054】
得られた予備重合物を、重合反応器に導入してポリプロピレン共重合体(プロピレン・エチレン共重合体)を重合させた。その際、重合反応器中のエチレン濃度および水素濃度(エチレン含量、MFR調整の目的で使用)を表1に示す値にするとともに、重合温度、重合圧力を調整することによって、ポリプロピレン共重合体を得た。
【0055】
得られたポリプロピレン共重合体に、結晶核剤として、ノニトール系核剤(ミリケンジャパン社製Millad NX8000)を0.4重量%、酸化防止剤(BASF社製B225)を0.24重量%および中和剤(カルシウムステアレート)を0.05重量%とともに配合し、押出機を用いて230℃で溶融混練して同じく表1に示すポリプロピレン樹脂組成物を得た。
【0056】
[実施例2〜9]
重合反応器の水素濃度を表1に示す値に変えることにより、ポリプロピレン共重合体のMFRを調整した(実施例2、3、5、6、8、9)。なお、水素濃度を決めるにあたり、重合反応器のエチレン濃度を考慮した。また、実施例4〜9は、重合反応器のエチレン濃度を表1に示す値に変えることにより、ポリプロピレン共重合体のエチレン含量を調整した。それ以外は実施例1と同様に、溶融混練を行い、樹脂組成物を得た。
【0057】
[実施例10〜14]
実施例1〜9と異なる種類の結晶核剤を添加してポリプロピレン樹脂組成物を得た。使用した結晶核剤は、実施例10:RiKAFAST R−1(ソルビトールアセタール系結晶核剤、新日本理化);実施例11:Millad 3988(ソルビトールアセタール系結晶核剤、ミリケンジャパン);実施例12:アスカタブNA−21(リン酸エステル系結晶核剤、旭電化);実施例13:アスカタブNA−71(リン酸エステル系結晶核剤、旭電化);および実施例14:IRGACLEAR XT386(トリアミノベンゼン誘導体結晶核剤、BASFジャパン)である。実施例10〜14のポリプロピレン樹脂組成物は、実施例1に従い製造したポリプロピレン共重合体に各結晶核剤を添加して得た。
【0058】
[比較例1]
本発明の範囲に入らないポリマー組成物を製造した。比較例1は、ポリプロピレン樹脂組成物のMFRの値が本発明の範囲を満たさないものである。比較例1のポリプロピレン樹脂組成物で使用したポリプロピレンは、以下の方法で製造した:重合反応器の水素濃度を表2に示した値に低下させた以外は、実施例1と同様に製造した。
【0059】
[比較例2]
本発明の範囲に入らないポリマー組成物を製造した。比較例2は、ポリプロピレン樹脂組成物のMFRの値が本発明の範囲を満たさないものである。比較例2の具体的な製造方法は以下の通りである:重合反応器の水素濃度を表2に示した値に増加させた以外は、実施例1と同様に製造した。
【0060】
[比較例3]
本発明の範囲に入らないポリマー組成物を製造した。比較例3は、ポリプロピレン共重合体中のエチレン含量が本発明の範囲を満たさないものである。比較例3の具体的な製造方法は以下の通りである:重合反応器のエチレン濃度を表2に示した値に低下させ、それに伴い水素濃度も減少させた以外は、実施例1と同様に製造した。
【0061】
[比較例4]
本発明の範囲に入らないポリマー組成物を製造した。比較例4は、ポリプロピレン共重合体中のエチレン含量が本発明の範囲を満たさないものである。比較例4の具体的な製造方法は以下の通りである:重合反応器のエチレン濃度を表2に示した値に増加させ、それに伴い水素濃度も増加させた以外は、実施例1と同様に製造した。
【0062】
[比較例5]
本発明の範囲に入らないポリマー組成物を製造した。比較例5は、ポリプロピレン共重合体の製造に用いた触媒がスクシネート系のものではなく、メタロセン系のものであった。使用したメタロセン触媒は、特表2003−517010号に記載された方法により得られるものである。比較例5の具体的な製造方法は以下の通りである:
重合に用いるメタロセン触媒は、上記特許公報の実施例1に記載されたメタロセン錯体とMAOを含有し、上記特許公報の実施例49に記載された方法で担持させたものである。
【0063】
ポリプロピレン系共重合体(プロピレン・エチレン共重合体)の重合は、上記の特許公報の実施例55〜57に記載された方法により行った。TIBAを含むヘキサン溶液とプロピレンを20Lのオートクレーブに充填したのち、上記担持型メタロセン触媒を注入した。重合温度と圧力が所定の値に達した後、エチレンを供給して重合させた。その際、オートクレーブに注入するエチレン量、重合温度、重合圧力を調整することによって、表2に示したエチレン含量とMFRのポリプロピレン共重合体を得た。得られたポリプロピレン共重合体から、実施例1と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を得た。
【0064】
[比較例6]
本発明の範囲に入らないポリマー組成物を製造した。比較例6の具体的な製造方法は以下の通りである:重合反応器のエチレン濃度を表2に示した値に低下させ、それに伴い水素濃度も減少させてポリプロピレン共重合体を重合し、結晶核剤添加しなかった以外は、実施例1と同様に製造した。
【0065】
[比較例7]
本発明の範囲に入らないポリマー組成物を製造した。比較例7は、ポリプロピレンの製造に用いた触媒がフタレート系のものであった。使用した固体触媒は、欧州特許第674991号に記載された方法により得られるものである。比較例7の具体的な製造方法は以下の通りである:
重合に用いる固体触媒を、欧州特許第674991号公報の実施例1に記載された方法により調製した。該固体触媒は、MgCl上にTiと内部ドナーとしてのジイソブチルフタレートを上記の特許公報に記載された方法で担持させたものである。
【0066】
上記固体触媒と、TEAL及びDCPMSを、固体触媒に対するTEALの質量比が11であり、TEAL/DCPMSの質量比が3となるような量で、−5℃において5分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予備重合を行った。得られた予備重合物を、実施例1と同様の重合反応器を導入してポリプロピレン系共重合体(プロピレン・エチレン共重合体)を重合させた。その際、重合反応器中のエチレン濃度および水素濃度(エチレン含量、MFR調整の目的で使用)を表1に示す値にするとともに、重合温度、重合圧力を調整することによって、目的のポリプロピレン共重合体を得た。得られたポリプロピレン共重合体から、実施例1と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を得た。
【0067】
[比較例8]
比較例8は、ポリプロピレン共重合体の多分散指数が本発明の範囲を満たさない市販品Higran RS1684(ライオンデルバゼル)を使用したものである。
【0068】
各実施例および比較例の結果を、以下の表1および表2にまとめる。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、押出成形性と低いドローダウンを兼ね備えた優れた加工性を示す。本発明のポリプロピレン樹脂組成物を成形加工して得たシート状成形品は、透明で、高い剛性ならびに十分な衝撃強さを併せ持つ。本発明のポリプロピレン樹脂組成物を用いて成形したシートは、加熱(2次加工)した後の透明性にも優れる。したがって本発明のポリプロピレン樹脂組成物を用いて、効率良く優れた性能を有する透明なシート状成形品を製造することができる。