(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆品質の改善のための添加剤を有するセパレータ、このようなセパレータの製造方法並びにこのようなセパレータを有する電気化学セルに関する。
【0002】
従来では、セパレータは、高いイオン伝導性、良好な機械強度及び系中で、例えば電気化学セルの電解質中で使用される化学薬品及び溶剤に対して貯蔵安定性を有する、薄い多孔質の電気絶縁性の材料である。このセパレータは、電気化学セル中でカソードをアノードから電気的に完全に絶縁するべきである。更に、このセパレータは、弾性が持続しかつ充電及び放電時に系中で、例えば電極パッケージ中で動きに追従しなければならない。
【0003】
このセパレータは、特に電気化学セルの寿命を決定する。従って、再充電可能な電気化学セル又は電池の開発は、適切なセパレータ材料の開発により影響を受ける。電気的セパレータ及び電池に関する一般的な情報は、例えばJ.O. Besenhard著, Handbook of Battery Materials (VCH出版, Weinheim 1999)で調べることができる。
【0004】
不織布、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)不織布にセラミック被覆を製造することは、ロール・ツー・ロール法で行われる。この製造のために、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素及びシランを水中に分散して含んでいるセラミックスラリーを不織布に連続的に被覆する。多様な理由から、この被覆は、被覆された点において明るい斑点として表れ、ビデオコントロールによって検出できる欠陥箇所を有することがある。この被覆中の欠陥箇所は、一方では、セラミックの分散時に全ての粒子が2μm未満のサイズに粉砕されていない点にある。このような大きすぎる粒子は、最終製品において当業者に公知の斑点として確認される。更に、分散の間にも、相応する被覆ローラでの被覆プロセスの間にも、時には空気の混入により、不所望な斑点が生じることがある。セラミックスラリーと相容性でない不純物、例えばシリコーン、脂肪又は油も、斑点を引き起こすことがある。被覆中のこのような欠陥は、当業者にはいわゆる「濡れ不良」として認識される。
【0005】
被覆中の欠陥又は濡れ不良は、高性能電池系中でのセパレータ材料の適用を困難にする、それというのもこれらの欠陥は、セパレータの多孔性の制御を困難にし、この多孔性により、また、内部抵抗が左右されるためである。更に、これらの欠陥はセパレータの電解質による濡れ性を妨害するので、濡れないデッドゾーンが生じる。
【0006】
従って、本発明の課題は、先行技術のセパレータよりも被覆中の欠陥が少ないセパレータを提供することであった。
【0007】
意外にも、非導電性材料からなる繊維を有する基材上及び前記基材の空間内に、無機接着剤によって相互に及び基材と接着された酸化物粒子からなる多孔性の非導電性被覆を有し、前記酸化物粒子は、Al
2O
3、SiO
2から選択される少なくとも1種の酸化物を有し、前記セラミック被覆中には少なくとも1種の糖が存在しているセパレータが、被覆中に明らかに少ない欠陥を有することが見出された。
【0008】
従って、本発明の主題は、非導電性材料からなる繊維を有する基材上に及び前記基材の空間内に、無機接着剤によって相互に及び前記基材と接着された酸化物粒子からなる多孔性の非導電性被覆を有し、前記酸化物粒子はAl
2O
3、SiO
2から選択される少なくとも1種の酸化物を有するセパレータにおいて、前記セラミック被覆中に少なくとも1種の糖が存在していることを特徴とするセパレータである。
【0009】
同様に、本発明の主題は、非導電性材料からなる繊維と、前記繊維間の空間とを有する基材にセラミック被覆を備えさせ、このために前記基材上及び基材内へ懸濁液を塗布し、前記懸濁液を少なくとも1回加熱することにより前記基材上及び前記基材内で固化し、前記懸濁液は、元素Al及び/又はSiの酸化物から選択される、ゾル中に分散された酸化物粒子、少なくとも1種のシラン、少なくとも1種の分散剤及び少なくとも1種の糖を有するゾルを有することを特徴とする、本発明によるセパレータの製造方法である。
【0010】
更に、本発明の主題は、電池中でのセパレータとしての本発明によるセパレータの使用並びに本発明によるセパレータを有するリチウムイオン電池、及びこのような電池を有するトラクションシステムである。
【0011】
糖とは、本発明の範囲内で、分子中に
ヘミアセタール/ヘミケタール結合する1つのカルボニル基及び複数のヒドロキシ基を有する有機化合物(ポリヒドロキシアルデヒド(
アルドース)、ポリヒドロキシケトン(
ケトース)と同義)、並びに単糖類及び多糖類(線状又は環状)であると解釈される。
【0012】
本発明によるセパレータは、市販のセラミックセパレータと比較して面積当たりの欠陥の数が少ないという利点を有する。欠陥とは、被覆中の欠陥であると解釈される。本発明によるセパレータの場合の欠陥の平均的頻度は一般に、先行技術によるセパレータのほぼ半分であるにすぎない。更に、本発明によるセパレータの表面は特に平滑である。
【0013】
電気化学セルの場合に、本発明によるセパレータは明らかに改善されたサイクル特性を示す。これは、本発明の更なる利点である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】0〜100cmの幅の範囲でそれぞれ10cmの間隔のビデオカメラの位置に依存する欠陥の数を示した図。
【
図2】セルの放電容量をサイクル数の関数として測定した図。
【0015】
次に、本発明によるセパレータ及び本発明による方法を例示的に記載する。
【0016】
本発明によるセパレータは、セラミック被覆中に少なくとも1種の糖が存在することを特徴とする。
【0017】
糖として、好ましくは、6〜8個のグルコース単位を有する環状の糖、好ましくはシクロデキストリンが、本発明によるセパレータ中に存在していてもよい。
【0018】
本発明によるセパレータは、少なくとも片側で、最大で4.5
m-2の欠陥数を有する。
【0019】
本発明によるセパレータは、好ましくは酸化物粒子を有し、この酸化物粒子は、セパレータの厚さの0.5倍未満、好ましくは0.2倍未満、特に0.1倍未満の平均粒径を有する。
【0020】
この酸化物粒子の平均粒径は、セパレータの製造時にレーザー小角散乱により決定することができる。製造されたセパレータについてポリマー粒子及び酸化物粒子の粒径は、走査電子顕微鏡を用いて決定することができる。
【0021】
好ましくは、本発明によるセパレータは、フレキシブルでかつ好ましくは50μm未満の厚さを有する基材を有する。この基材の柔軟性によって、本発明によるセパレータはフレキシブルであることができることが保証される。このようなフレキシブルなセパレータは、次いで特にいわゆる巻き型セルの製造のために使用可能である。これらの基材は空間を有する。特に、これらの基材は、細孔である空間、つまり、直接的又は間接的な線路で、基材の一方の側から他方の側への材料の貫通を可能にする空間を有する。
【0022】
この基材の厚さは、一方で柔軟性も、電解質で含浸されたセパレータの面積抵抗も基材の厚さに依存するため、セパレータの特性に大きな影響を及ぼす。従って、好ましくは、本発明によるセパレータは、30μm未満の、特に好ましくは20μm未満の厚さを有する基材を有する。特にリチウムイオン電池の場合に電池の十分高い性能を達成するために、本発明によるセパレータが、好ましくは40%より大きい、好ましくは50〜97%、特に好ましくは60〜90%、更に特に好ましくは70〜90%の多孔性を有する基材を有する場合に特に有利であることが判明した。この多孔性は、この場合、基材(100%)の体積−基材の繊維の体積として定義され、つまり材料によって満たされていない基材の体積に関する部分である。基材の体積は、この場合、基材の寸法から計算することができる。繊維の体積は、観察された不織布の測定された質量と繊維の密度とから明らかになる。本発明によるセパレータの特に好ましい実施態様の場合に、この基材は、5〜500μm、好ましくは10〜200μmの平均孔径を有する不織布である。
【0023】
この基材は、ポリマーの非導電性繊維として製織された又は製織されていない繊維、天然繊維、炭素繊維、ガラス繊維又はセラミック繊維を有する。この基材は、好ましくは製織された又は製織されていないポリマー繊維を有する。特に好ましくは、この基材は、ポリマー織物又は不織布を有するかもしくはこのような織物又は不織布である。ポリマー繊維として、この基材は好ましくは、ポリマーの非導電性繊維を有し、このポリマーは好ましくは、ポリアクリルニトリル(PAN)、ポリアミド(PA)、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)及び/又はポリオレフィン(PO)、例えばポリプロピレン(PP)又はポリエチレン(PE)又はこれらのポリオレフィンの混合物から選択される。しかしながら、この貫通した基材がポリマー繊維を有する場合には、このポリマー繊維がセパレータの製造のために必要な温度安定性を有しかつ電気化学セル、好ましくはリチウムイオン電池中での運転条件下でも安定である限りにおいて、上記のポリマー繊維とは異なる繊維を使用することもできる。好ましい実施態様の場合に、本発明によるセパレータは、100℃より高い軟化温度及び110℃より高い溶融温度を有するポリマー繊維を有する。
【0024】
この基材は、0.1〜150μm、好ましくは1〜20μmの直径を有する繊維及び/又はフィラメント、及び/又は1.5〜15μm、好ましくは2.5〜7.5μmの直径を有する糸を有することができる。この基材がポリマー繊維を有する場合、このポリマー繊維は好ましくは0.1〜10μm、特に好ましくは1〜5μmの直径を有する。特に好ましくは不織布、特にポリマー不織布は、20g/m
2未満の、好ましくは5〜15g/m
2の面積質量を有する。このように、基材の特に薄い厚さ及び高い柔軟性が保証される。
【0025】
特に好ましくは、本発明によるセパレータは基材としてポリマー不織布を有し、この不織布は30μm未満の厚さ、好ましくは10〜20μmの厚さを有する。本発明によるセパレータ中で使用するために特に重要であるのは、不織布中でのできる限り均質な細孔分布である。不織布中でのできる限り均質な細孔分布は、最適に調整された所定のサイズの酸化物粒子との関連で本発明によるセパレータの最適な多孔性を生じさせる。
【0026】
本発明によるセパレータ中の無機接着剤は、好ましくは、元素Al、Si及び/又はZrの酸化物から選択される。この無機接着剤は、この場合、20nm未満の平均粒径を有する粒子を有し、かつ粒子状のゾルを介して製造されているか又はポリマーのゾルを介して製造された酸化物の無機網目構造を有する。
【0027】
本発明によるセパレータが更に無機の、ケイ素を有する網目構造を有し、この網目構造のケイ素は、無機被覆の酸化物と酸素原子を介して及びポリマー繊維を有する基材と有機基を介して結合している場合が好ましい。このような網目構造は、例えば、セパレータの製造の際に、例えばシランベースのカップリング剤を使用し、かつこのカップリング剤は製造の際に通常の熱処理にかけられる場合に得ることができる。
【0028】
特に好ましくは、基材上に及び基材内に存在する多孔性の電気絶縁性の被覆は、50nm〜5μmの、好ましくは100〜1000nmの範囲内の平均孔径を有する。
【0029】
熱的影響に対するセパレータの耐久性、ひいてはセパレータの安全性は、決定的に、被覆の酸化物粒子により及び被覆中の欠陥の僅かな数によって決まる。更に、この細孔サイズは、主にこの被覆により又はこの被覆中に存在する粒子の粒径によって決まり、従って比較的微細に調節することができる。
【0030】
この本発明によるセパレータは、損傷することなしに、100mまでの全ての半径に、好ましくは100m〜50mmまでの半径に、特に好ましくは50mmから0.5mmまでの半径に曲げることができる。本発明によるセパレータは、更に、好ましくは少なくとも1N/cm、特に少なくとも3N/cm、更に特に好ましくは5N/cmより大きな引裂強さを有することにより優れている。本発明によるセパレータのこの高い引裂強さ及び良好な曲げ性は、電池の充電及び放電の際に生じる電極の形状の変化を、セパレータが損傷することなしにセパレータにより引き受けられるという利点を有する。この曲げ性は、更に、このセパレータを用いて市販の標準的な巻き型セルを製造できるという利点を有する。このセルの場合に、電極/セパレータ層を標準的なサイズで相互にスパイラル状に巻き付けかつ接続させる。
【0031】
好ましくは、本発明によるセパレータは、30〜80%の多孔性を有する。この多孔性は、この場合、連絡可能な細孔、つまり連続細孔に関連する。この多孔性は、この場合、水銀ポロシメトリー(DIN66133に準拠)の公知の方法を用いて決定することができるか、又は連続細孔だけが存在すると仮定した場合には、使用された使用材料の体積及び密度から計算することができる。
【0032】
本発明によるセパレータは、好ましくは50μm未満、特に40μm未満の厚さ、特に好ましくは5〜30μmの厚さ、更に特に好ましくは10〜20μmの厚さを有する。このセパレータの厚さは、一方で柔軟性も、他方で電解質で含浸されたセパレータの面積抵抗もセパレータの厚さに依存するため、セパレータの特性に大きな影響を有する。この種の厚さにより、電解質の適用時にセパレータの特に低い電気抵抗が達成される。このセパレータ自体は、もちろん極めて高い電気抵抗を有する、それというのもこのセパレータ自体は絶縁性の特性を有しなければならないためである。更に、薄いセパレータは、電池スタック中で高められた充填密度を可能にするため、同じ容積でより大きなエネルギー量を蓄えることができる。
【0033】
本発明のセパレータは、このセパレータの本発明の実施態様に基づいて、高容量及び高エネルギー密度を有する電気化学セル用に特に適している。特に、本発明によるセパレータは、アルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンの伝達に基づく電気化学セル、例えばリチウム金属電池及びリチウムイオン電池のために適している。従って、このセパレータがこの適用のために特別な保護手段、例えば中断特性及び高い短絡温度を有する短絡特性を示す場合が好ましい。中断特性又は遮断(シャットダウン)とは、セパレータに、所定の運転温度で容易に溶融する、選び出された材料、例えば熱可塑性プラスチックを組み込むことができるという対策であると解釈される。障害、例えば過充電、外部短絡又は内部短絡により運転温度が上昇する場合、このような容易に溶融する材料が溶融し、セパレータの細孔を塞ぐことができる。従って、セパレータを通過するイオンの流れが部分的に又は完全に遮断され、温度の更なる上昇が抑制される。短絡特性又は崩壊(メルトダウン)は、セパレータが短絡温度で完全に溶融することを意味する。次いで、これは、電気化学セルの電極の大面積の間で接触を生じさせかつ短絡を生じさせることになる。高容量及び高エネルギー密度の電気化学セルのより安全な運転のために、できる限り高い短絡温度が望ましい。この場合、本発明によるセパレータは優れた利点を有する。それというのも、本発明のセパレータにおいて貫通する基材に付着するセラミック材料は、電気化学セルのための安全性に重要な温度範囲を遙かに上回る溶融温度を有するためである。従って、本発明のセパレータは優れた安全性を有する。
【0034】
ポリマーセパレータは、例えば、時間に対してリチウム電池のために要求される安全性を、このポリマーセパレータが所定の温度(約120℃であるシャットダウン温度)から、電解質を通過する如何なる電流輸送も妨げることによりもたらす。これは、この温度でセパレータの細孔組織が集まり、全ての細孔が閉鎖されることにより生じる。イオンをもはや輸送することができないことにより、爆発を引き起こしかねない危険な反応は停止する。このセルが外部事情に基づき更に加熱される場合には、約150〜180℃でメルトダウン温度を上廻る。この温度からセパレータは溶融を起こし、この際にセパレータは収縮する。電池セル中での多くの箇所で、2つの電極間での直接接触が起こり、従って大面積で内部短絡が生じる。これにより、制御できない反応が生じ、この制御できない反応は頻繁にセルの爆発により終わるか、又は生じる圧力は安全弁(破裂板)を通して頻繁に火災現象を伴って逃がされる。
【0035】
本発明の範囲内で、セパレータの貫通するフレキシブルな基材はポリマー繊維を有することができる。主に無機被覆と、ポリマーの基材材料とを有するこのハイブリッドセパレータでは、高温によって基材材料のポリマー組織が溶融して、無機被覆の細孔中へ侵入し、これによりこの細孔を閉鎖する場合に、シャットダウン(遮断)を生じる。それに対して、本発明によるセパレータではいわゆるメルトダウン(崩壊)は生じない。本発明によるセパレータは、異なる電池製造元から要求される、電池セル中でのシャットダウンによるセーフティカットオフについての要求をも満たす。無機粒子は、決してメルトダウンを引き起こすことがないために提供される。従って、大面積で短絡が生じる運転状態は存在しないことが保証される。
【0036】
例えば事故によって引き起こされた内部短絡の場合であっても、本発明によるセパレータは極めて安全である。例えば釘が電池を突き通すような場合に、セパレータによっては次のようなことが起こる:ポリマーセパレータは貫通箇所で溶融し(短絡電流が釘を通して流れ、このセパレータを加熱し)、収縮してしまう。それにより、この短絡箇所は次第に大きくなり、この反応は制御できなくなる。本発明によるハイブリッドセパレータによる実施態様の場合には、場合によってはポリマーの基材材料は溶融するが、被覆の無機材料は溶融しない。従って、このような事故の後に電池セルの内部中でこの反応は極めて減速して進行する。従って、このような電池はポリマーセパレータを有する電池よりも明らかに安全である。これは、特にモバイル領域に効力を発揮する。
【0037】
本発明によるセパレータは、例えば次に記載された本発明による方法によって得ることができる。この方法は、WO99/15262に原理的に記載されたようなセパレータ又は膜の製造方法を基礎としている。この文献は明確に参照される。
【0038】
請求されたセパレータの本発明による製造方法は、非導電性材料からなる繊維と、前記繊維間の空間とを有する基材にセラミック被覆を備えさせ、このために前記基材上及び基材内へ懸濁液を塗布し、前記懸濁液を少なくとも1回加熱することにより前記基材上及び前記基材内に固化し、前記懸濁液は、元素Al及び/又はSiの酸化物から選択される、ゾル中に分散された酸化物粒子、少なくとも1種のシラン、少なくとも1種の分散剤及び少なくとも1種の糖を有するゾルを有することを特徴とする。
【0039】
分散剤として、例えば文献WO99/15262及びWO2007/028662に開示されているような材料を使用することができる。これらの分散剤は糖の添加によって影響を受けない。
【0040】
本発明による方法の場合に、好ましくは6〜8個のグルコース単位を有する環状及び/又は非環状の糖、特に好ましくはシクロデキストリン、又はこれらの糖の混合物を使用することができる。シクロデキストリンは、アルキル化又はアシル化により疎水化することができる。それにより、この糖は懸濁液の疎水性成分とより良好に混合することができる。
【0041】
少なくとも1つの酸化物粒子フラクションを使用し、前記粒子は0.1〜10μm、好ましくは0.5〜5μm、特に好ましくは1〜3μmの平均粒度を有する場合が好ましい。この懸濁液の製造のために酸化物粒子として、好ましくは0.5〜10μm、特に1〜4μmの平均粒度を有する酸化アルミニウム粒子を使用するのが特に好ましい。好ましい粒度の範囲の酸化アルミニウム粒子は、例えば、Martinswerke社によりMZS 3及びMZS 1の商品名で、及びAlCoA社によりCT3000SG、CL3000SG、CT1200SG、CT800SG及びHVA SGの商品名で提供されている。
【0042】
本発明による方法の場合に、懸濁液の基材への塗布及び基材の空間中への導入は、例えば印刷、圧着、圧入、ローラ塗布、ナイフ塗布、刷毛塗り、浸漬塗布、吹付塗布又は流延塗布によって行われる。
【0043】
この使用された基材は、好ましくは、30μm未満、好ましくは20μm未満の厚さ、特に好ましくは10〜20μmの厚さを有する。特に好ましくは、基材として、本発明によるセパレータの被覆の際に記載された基材が使用される。この使用された多孔性の基材は、特に好ましくは製織された又は製織されていないポリマー繊維を有する。特に好ましくは、ポリマー織物もしくはポリマー不織布を有する基材又はポリマー織物もしくはポリマー不織布である基材が使用される。好ましくは、この使用された基材は、100℃を越える軟化温度及び110℃を越える溶融温度を有するポリマー繊維を有する。このポリマー繊維は、0.1〜10μm、好ましくは1〜5μmの直径を有するのが好ましい。特に、本発明による方法において、ポリアクリルにトリル、ポリエステル、ポリアミド及び/又はポリオレフィンから選択される繊維を有する基材を使用するのが好ましい。
【0044】
この被覆の製造のために使用される懸濁液は、少なくともAl
2O
3、ZrO
2及び/又はSiO
2の粒子、少なくともポリマー粒子のフラクション及び少なくとも1種のゾル、好ましくは元素Al、Zr及び/又はSiのゾルを有し、かつ少なくとも1種のこのゾル中でのこれらの粒子の懸濁により製造される。この懸濁は、これらの成分の強力な混合によって行われる。
【0045】
市販の酸化物粒子の使用は場合によっては不十分な結果を生じることが判明した、それというのもこれらは頻繁に極めて広い粒度分布を有するためである。従って、好ましくは、慣用の方法、例えば空気分級及び水力分級によって分級された金属酸化物粒子を使用する。好ましくは、酸化物粒子として、全体量の10%までを構成する粗大粒割合を湿式篩い分けにより分離したフラクションが使用される。懸濁液の製造時に一般的な方法、例えば粉砕(ボールミル、アトライターミル、乳鉢)、分散(Ultra-Turrax、超音波)、磨砕又はチョッピングによっても粉砕できないか又は粉砕するのが困難な、障害となる粗大粒割合は、例えば、アグリゲイト、硬質のアグロメレイト、粉砕球破片からなることができる。上述の措置によって、非導電性の被覆は極めて均質な孔径分布を有することが達成される。
【0046】
次の表1は、様々な酸化アルミニウムの選択が、それぞれの多孔性の無機被覆の多孔性及び生じる細孔サイズにどのように影響するのかの概略を示す。このデータの算出のために、相応するスラリー(懸濁液又は分散液)を製造し、単なる成形体として200℃で乾燥し、固化した。
【0047】
表1:使用した粉末タイプに依存するセラミックの典型的なデータ
【表1】
【0048】
平均孔径及び多孔性とは、例えばCarlo Erba Instrumentsのポロシメータ4000(Porosimeter 4000)を使用する水銀ポロシメトリーの公知の方法により測定することができる平均孔径及び多孔性であると解釈される。この水銀ポロシメトリーはウォッシュバーン(Washburn)式を基礎としている(E. W. Washburn, "Note on a Method of Determining the Distribution of Pore Sizes in a Porous Material", Proc. Natl. Acad. Sei., 7, 1 15 - 16 (1921))。
【0049】
この使用された懸濁液中で、懸濁された成分(つまり粒子)の質量割合は、好ましくは10〜80%であり、特に好ましくは30〜70%である。
【0050】
このゾルは、元素Zr、Al及び/又はSiの少なくとも1種の(前駆体)化合物の加水分解により得ることができる。好ましくは、これらの加水分解されるべき化合物は、加水分解の前にアルコール又は酸又はこれらの液体の組合せ中へ添加することができる。加水分解されるべき化合物として、好ましくは、元素Zr、Al及び/又はSiの少なくとも1種の硝酸塩、塩化物、炭酸塩又はアルコラート化合物が加水分解される。この加水分解は、好ましくは水、水蒸気、氷、アルコール又は酸又はこれらの化合物の組合せの存在で行われる。好ましくは、このゾルは、元素Al、Zr又はSiの化合物を水又は水で希釈された酸を用いた加水分解により得られ、その際この化合物は、好ましくは非水性の、場合により水不含の溶剤中に溶かされて存在し、0.1〜100倍のモル比の水で加水分解される。
【0051】
本発明によるセパレータの製造方法の実施態様において、加水分解されるべき化合物の加水分解により粒子状のゾルが製造される。この粒子状のゾルは、ゾル中で加水分解により生じた化合物が粒子状で存在することにより特徴付けられる。この粒子状のゾルは、上記のように、例えばWO 99/15262又はWO 2007/028662に記載されたように製造することができる。このゾルは、通常では極めて高い含水量を有し、この含水量は好ましくは50質量%より多い。好ましくは、これらの加水分解されるべき化合物は、加水分解の前にアルコール又は酸又はこれらの液体の組合せ中へ添加することができる。
【0052】
好ましくは、本発明による方法の場合に、ゾル又は懸濁液の濡れ挙動の適合が行われる。この適合は、好ましくはポリマーのゾルの製造又はポリマーのゾルから懸濁液の製造により行われ、その際、このゾルは1種又は複数種のアルコール、例えばメタノール、エタノール又はプロパノール又はこれらの混合物を有する。しかしながら、ゾル又は懸濁液を架橋挙動の点で使用された不織布に適合させるために、このゾル又は懸濁液に添加することができる他の溶剤混合物も考慮できる。
【0053】
このゾル系及びこのゾル系から生じる懸濁液の基本的な変更により、ポリマーの不織布材料上の又はポリマーの不織布材料中でのこのセラミック成分の付着特性の明らかな改善を生じることが確認された。更に、好ましくは、ポリマー繊維を有する不織布は、前段階でポリマーゾルを用いた処理によりカップリング剤が備えられた懸濁液で被覆される。
【0054】
本発明により使用可能なセパレータのための製造方法の他の実施態様の場合には、加水分解されるべき化合物の加水分解によりポリマーのゾルが製造される。このポリマーのゾルは、ゾル中で加水分解により生じた化合物がポリマーの形で存在する(つまり大きな空間を介して鎖の形で架橋している)ことにより特徴付けられる。このポリマーのゾルは、通常では50質量%を下回る、好ましくは20質量%を大幅に下回る水及び/又は水性の酸を有する。水及び/又は水性の酸の好ましい割合を見つけ出すために、この加水分解を好ましくは、加水分解されるべき化合物が、加水分解可能な化合物の加水分解可能な基に対して、0.5〜10倍のモル比の、好ましくは半分のモル比の水、水蒸気又は氷で加水分解されるように実施される。10倍量までの水は、極めて緩慢に加水分解される化合物、例えばテトラエトキシシランの場合に用いることができる。極めて急速に加水分解される化合物、例えばジルコニウムテトラエチレートは、この条件下で既に十分に既に粒子状のゾルを形成するので、そのためこのような化合物の加水分解のために、好ましくは0.5倍量の水が使用される。好ましい量よりも少ない量の水、水蒸気又は氷を用いた加水分解は、同様に良好な結果を生じさせる。半分のモル比の好ましい量を50%より大きく下回ることは可能であるが好ましくはない、それというのもこの値を下回る場合に、加水分解はもはや完全ではなく、このようなゾルに基づく被覆はあまり安定ではないためである。
【0055】
ゾル中で所望の極めて低い割合の水及び/又は酸を有するこのようなゾルの製造のために、加水分解されるべき化合物を有機溶剤、特にエタノール、イソプロパノール、ブタノール、アミルアルコール、ヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル又はこれらの化合物の混合物中に溶かし、その後で本来の加水分解を行う場合が好ましい。このように製造されたゾルは、本発明による懸濁液の製造のために又は前処理工程でのカップリング剤として使用することができる。特に好ましくは、懸濁液はケイ素の化合物のポリマーのゾルを有する本発明によるセパレータを製造するために使用される。
【0056】
粒子状のゾルも、ポリマーのゾルも、懸濁液を製造するために本発明による方法においてゾルとして使用することができる。ここに記載されたように得られるゾルの他に、原則として市販のゾル、例えば硝酸ジルコニウムゾル又はシリカゾルも使用することができる。
【0057】
基材としてのポリマー繊維又はポリマー不織布に無機成分の付着を改善するため、更には場合により後に適用される遮断層の付着を改善するために、使用された懸濁液にカップリング剤、例えば有機官能性シラン、例えばEvonikシランのGLYMO、GLYEO、MEMO、AMEO,VTEO又はSilfinを添加することが好ましい。この場合、このカップリング剤の添加はポリマーのゾルを基礎とする懸濁液の場合に好ましい。カップリング剤として、特に、オクチルシラン、ビニルシラン、アミン官能化されたシラン及び/又はグリシジル官能化されたシラン、例えばEvonik社のDynasylaneから選択される化合物が使用可能である。ポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)用の特に好ましいカップリング剤は、ビニルシラン、メチルシラン及びオクチルシランであり、この場合にメチルシランだけを使用することは最適ではない。このカップリング剤は、この場合に、基材として使用されたポリマーの融点又は軟化点を下回りかつこの分解温度を下回る固化温度を有するように選択しなければならない。カップリング剤として、特に表2中に記載されたシランを使用することができる。好ましくは、本発明による懸濁液は、カップリング剤として機能することができる化合物を25質量%よりもかなり低く、好ましくは10質量%よりも低く有する。
【0058】
表2
【表2】
【0059】
備考:
AMEO=3−アミノプロピルトリエトキシシラン
DAMO=2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン
GLYMO=3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン
GLYEO=3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン
MEMO=3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン
Silfin=ビニルシラン+開始剤+触媒
VTEO=ビニルトリエトキシシラン
VTMO=ビニルトリメトキシシラン
VTMOEO=ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン
【0060】
基材上に適用及び基材の空間に導入することにより存在する懸濁液は、例えば50〜350℃に加熱することにより固化させることができる。ポリマーの基材材料を使用する場合、最大温度はこの基材材料によって定められるため、これは、基材材料が溶融又は軟化しないように相応して適合させなければならない。この方法の実施態様に応じて、基材上又は基材中に存在する懸濁液は、好ましくは100〜350℃に加熱することにより、特に好ましくは200〜280℃に加熱することにより固化する。ポリエステルからなる繊維を有するポリマー不織布上でのこの懸濁液の加熱は、好ましくは0.2〜10分間、200〜220℃の温度で行われる。ポリアミドからなる繊維を有するポリマー不織布上でのこの懸濁液の加熱は、好ましくは0.5〜10分間、170〜200℃の温度で行われる。この複合材料の加熱は、加熱された空気、熱風、赤外線照射又は先行技術による他の加熱法により行うことができる。
【0061】
本発明による方法において使用可能なセパレータの製造方法は、例えば、基材をロールから、1m/h〜2m/sの速度で、好ましくは0.5m/min〜20m/minの速度で、懸濁液をこの基材上に又は基剤中に適用する少なくとも1つの装置、例えばローラを通過させるように繰り出し、かつこの懸濁液を加熱によりこの基材上で又は基材中で固化することができる少なくとも1つの他の装置、例えば電気的に加熱された炉を通過させ、こうして製造されたセパレータを、第2のロールで巻き取るように実施することができる。このように、セパレータは連続法によって製造することも可能である。前処理工程も、この連続法において、挙げられたパラメータを維持しながら実施することもできる。
【0062】
本発明によるセパレータ又は本発明により製造されたセパレータは、電池中のセパレータとして、特にリチウムイオン電池、好ましくはリチウム高出力電池及びリチウム高エネルギー電池中のセパレータとして使用することができる。このようなリチウム電池は、電解質として大きなアニオンを有するリチウム塩を溶剤としての炭酸塩中に有することができる。適切なリチウム塩は、例えばLiClO
4、LiBF
4、LiAsF
6又はLiPF
6であり、この場合、特にLiPF
6が適している。溶剤として適した有機炭酸塩は、例えば炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル又は炭酸ジエチル又はこれらの混合物である。
【0063】
本発明によるセパレータを有するリチウムイオン電池は、特に電気駆動又はハイブリッド駆動技術を有する車両、例えば電気自動車又はハイブリッド自動車中で使用することができる。
【0064】
比較例:先行技術によるセパレータ
水130g及びエタノール15gに、まず5質量%のHNO
3水溶液30g、テトラエトキシシラン10g、Dynasilan AMEO 10g及びDynasilan GLYMO 10g(全てのシラン:Evonik Degussa GmbH)を添加した。まず数時間撹拌したこのゾル中に、次いで酸化アルミニウムのMartoxid MZS-1及びMartoxid MZS-3(両方の酸化物はMartinswerkから)それぞれ125gを懸濁させた。このスラリーを、少なくとも更に24時間磁気撹拌機で均質化し、この場合、この撹拌容器は、溶剤損失を引き起こさないように遮蔽しなければならなかった。
【0065】
約20μmの厚さ及び約10g/m
2の面積質量を有する20cm幅のPET不織布(Freudenberg Vliesstoffe KG)を、次いで連続的なローラ塗布法(約30m/hのベルト速度、T=200℃)で上述のスラリーで被覆した。最後に、240nmの平均孔径を有するセパレータが得られた。
【0066】
引き続き、ISRA社のビデオコントロールシステムを用いて、このセパレータの面積1平方メートル当たりの被覆中の欠陥の数を算出した。
図1は、灰色の棒グラフで、セパレータウェブの幅において測定して、0〜100cmの幅の範囲でそれぞれ10cmの間隔のビデオカメラの位置に依存する欠陥の数を示す。ビデオコントロールの位置によって算出された欠陥の平均数は、約5m
-2セパレータ表面積であった。
【0067】
記載されたように製造されたセラミック複合材料の適用性の試験は、リチウムイオン−フラット電池(Flachbatterie)の形状の電気化学セルの組み立てにより行った。この電池は、正極材料(LiCoO
2)、負極材料(黒鉛)及び炭酸エチレン/炭酸ジメチル(質量比1:1)中のLiPF
6 1mol/Lからなる電解質からなっていた。これらの電極の製造のために、正極材料(カーボンブラック(Timcal社、Super P)3%、PVdF(Arkema社、Kynar 761)3%、N−メチルピロリドン50%)及び負極材料(カーボンブラック(Timcal社、Super P)1%、PVdF(Arkema社、Kynar 761)4%、メチルピロリドン50%)を、100μmの層厚で、アルミニウム箔(Tokai社、20μm)及び銅箔(Microhard社、15μm)にブレード塗布し、一定重量になるまで110℃で乾燥させた。先行技術によるセラミック複合材料又は下記実施例によるセラミック複合材料を、電池の電極の間のセパレータとして使用した。この電池は、それぞれ550サイクルを越える安定性を提供した。
【0068】
引き続き、このセルの放電容量をサイクル数の関数として測定した。この推移を
図2に点線で示した。
【0069】
実施例:添加物を有するセパレータ
懸濁液を、比較例と同様に作成した。しかしながら、この比較例とは異なり、得られたスラリー中に、添加物としてベータ−シクロデキストリン2質量%を混入した。このスラリーを、少なくとも更に24時間磁気撹拌機で均質化し、この場合、この撹拌容器は、溶剤損失を引き起こさないように遮蔽しなければならなかった。
【0070】
約20μmの厚さ及び約10g/m
2の面積質量を有する20cm幅のPET不織布(Freudenberg Vliesstoffe KG)を、次いで連続的なローラ塗布法(約30m/hのベルト速度、T=200℃)で上述のスラリーで被覆した。最後に、240nmの平均孔径を有するセパレータが得られた。
【0071】
ビデオコントロールシステムを用いて算出された、セパレータの面積1平方メートル当たりの被覆中の欠陥の数を
図1に、黒色の棒グラフで示した。この添加物によって、本発明によるセパレータにおける被覆中の欠陥の数は、ビデオコントロールの全ての位置で明らかに低減され、セパレータ面積1m
2当たりの算出された欠陥の平均数は、先行技術によるセパレータの場合の値よりも、ほぼ半分に低減された。
【0072】
本発明によるセパレータは電気化学セル中に組み立てられ、その構造はセパレータを除いて比較例と同様であった。mAhで示す放電容量のサイクル数の関数としての推移を、
図2は実線で示す。