(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076346
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】MTJ三軸磁場センサおよびそのパッケージ方法
(51)【国際特許分類】
G01R 33/09 20060101AFI20170130BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20170130BHJP
H01L 43/02 20060101ALI20170130BHJP
H01L 43/08 20060101ALI20170130BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
G01R33/06 R
G01R33/02 U
G01R33/02 L
H01L43/02 Z
H01L43/08 Z
H01L23/12 B
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-527480(P2014-527480)
(86)(22)【出願日】2012年8月27日
(65)【公表番号】特表2014-531571(P2014-531571A)
(43)【公表日】2014年11月27日
(86)【国際出願番号】CN2012080607
(87)【国際公開番号】WO2013029512
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2015年8月19日
(31)【優先権主張番号】201110251904.8
(32)【優先日】2011年8月30日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514116947
【氏名又は名称】江▲蘇▼多▲維▼科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】MULTIDIMENSION TECHNOLOGY CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】レイ、シャオフォン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、シャオジュン
(72)【発明者】
【氏名】リ、ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】シュエ、ソンシュン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ジェングオ
【審査官】
續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−216181(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0147867(US,A1)
【文献】
特表2011−501153(JP,A)
【文献】
特開2009−122049(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/084433(WO,A1)
【文献】
特表2009−543086(JP,A)
【文献】
特開2003−060256(JP,A)
【文献】
特開平11−230782(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/092406(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/09
G01R 33/02
H01L 23/12
H01L 43/02
H01L 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X軸に沿って感知方向を有するX軸ブリッジセンサと、Y軸に沿って感知方向を有するY軸ブリッジセンサと、Z軸に沿って感知方向を有するZ軸センサと、ASICチップとを備える三軸MTJセンサであって、
前記X軸、前記Y軸および前記Z軸は、互いに直交し、前記X軸ブリッジセンサ、前記Y軸ブリッジセンサおよび前記Z軸センサは、前記ASICチップの接続表面に接続し、
前記Z軸センサは、電気的に相互接続された複数の磁気センサチップを有し、前記磁気センサチップのそれぞれは、隣接表面を有する基板と前記隣接表面に対して鋭角または鈍角をなす取付け縁部とを有し、その基板上にはMTJ素子が配置され、各磁気センサチップの前記取付け縁部は、前記ASICチップの前記接続表面に接続されている、三軸MTJセンサ。
【請求項2】
前記Z軸磁気センサチップのそれぞれは、1対の平行な取付け縁部を有する、請求項1に記載の三軸MTJセンサ。
【請求項3】
前記Z軸磁気センサチップのそれぞれは、前記隣接表面に対して対称配置された1対の取付け縁部を有する、請求項1に記載の三軸MTJセンサ。
【請求項4】
前記Z軸センサは、2個または4個のMTJ磁気センサチップを含み、前記MTJセンサチップは、前記ASICチップ上に対称配置される、請求項1に記載の三軸MTJセンサ。
【請求項5】
前記X軸ブリッジセンサは、MTJセンサである、請求項1に記載の三軸MTJセンサ。
【請求項6】
前記Y軸ブリッジセンサは、MTJセンサである、請求項1に記載の三軸MTJセンサ。
【請求項7】
前記X軸ブリッジセンサおよび前記Y軸ブリッジセンサは、金ワイヤボンドを用いて、前記ASICチップと接続される、請求項1に記載の三軸MTJセンサ。
【請求項8】
前記X軸ブリッジセンサおよび前記Y軸ブリッジセンサは、半田バンプを用いて、前記ASICチップと接続される、請求項1に記載の三軸MTJセンサ。
【請求項9】
前記X軸ブリッジセンサおよび前記Y軸ブリッジセンサは、同じチップに集積される、請求項1に記載の三軸MTJセンサ。
【請求項10】
前記X軸ブリッジセンサは、並列に電気接続された2つの枝路を有し、各前記枝路は第1のMTJ素子対(R1およびR3)および第2のMTJ素子対(R2およびR4)を有し、前記第2のMTJ素子対(R2およびR4)の各素子は前記第1のMTJ素子対(R1およびR3)の前記MTJ素子間に個別に電気接続されており、
前記第2のMTJ素子対(R2およびR4)の前記MTJ素子の磁気抵抗感度は、前記第1のMTJ素子対(R1およびR3)の前記MTJ素子よりも低く、
前記Y軸ブリッジセンサは、並列に電気接続された2つの枝路を有し、各前記枝路は第3のMTJ素子対(R1およびR3)および第4のMTJ素子対(R2およびR4)を有し、前記第3のMTJ素子対(R1およびR3)の各素子は前記第4のMTJ素子対(R2およびR4)の前記MTJ素子間に電気的に個別に接続されており、
前記Y軸ブリッジセンサの各MTJ素子は、共通のピン層磁化方向(8)を有するピン層(2)およびそれぞれの自由層磁化方向(7)を有する自由層(6)を備え、
前記三軸MTJセンサ外部の磁場の不在下で、
前記第3のMTJ素子対の各MTJ素子の前記自由層磁化方向(7)は、前記ピン層磁化方向(8)から角度(θ)に傾いており、
前記第4のMTJ素子対の各MTJ素子の前記自由層磁化方向(7)は、前記ピン層磁化方向(8)から反対方向に、前記第3のMTJ素子対の前記MTJ素子と等しい大きさ(θ)の角度に傾いている、請求項7に記載の三軸MTJセンサ。
【請求項11】
前記磁気センサチップのそれぞれは、半田バンプを用いて、前記ASICチップに接続される、請求項1に記載の三軸MTJセンサ。
【請求項12】
三軸MTJセンサパッケージング方法であって、
A)X軸に沿って感知方向を有するX軸ブリッジセンサを製造し、前記X軸センサとASICチップとを電気接続する工程と、
B)Y軸に沿って感知方向を有するY軸ブリッジセンサを製造し、前記Y軸センサとASICチップとを電気接続する工程と、
C)ウェハの隣接表面上にMTJ磁気抵抗素子を製造し、前記ウェハを斜めに切断して前記隣接表面に対して鋭角または鈍角をなす取付け縁部を有するMTJ磁気センサチップを形成し、各MTJ磁気センサチップの前記取付け縁部を前記ASICチップ上に設け、前記MTJ磁気センサチップのそれぞれを、半田バンプを用いて、前記ASICチップと物理的に接続し、前記MTJセンサチップを電気接続してZ軸磁気センサを形成する工程と、を含む方法。
【請求項13】
三軸MTJセンサパッケージング方法であって、
A)X軸に沿って感知方向を有するX軸磁場センサブリッジを製造し、前記X軸磁場センサとASICチップとを電気接続する工程と、
B)Y軸に沿って感知方向を有するY軸磁場センサブリッジを製造し、前記Y軸磁場センサとASICチップとを電気接続する工程と、
C)ウェハの隣接表面上にMTJ磁気抵抗素子を製造し、前記ウェハの反対側をエッチングして斜面を形成し、前記ウェハを切断して前記隣接表面に対して鋭角または鈍角をなす前記取付け縁部を有するMTJ磁気センサチップを形成し、各MTJ磁気センサチップの前記取付け縁部を前記ASICチップ上に設け、前記MTJ磁気センサチップのそれぞれを、半田バンプを用いて、前記ASICチップと物理的に接続し、前記MTJ磁気センサチップを電気接続してZ軸磁気センサを形成する工程と、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場センサ、特に、三軸磁場センサの設計に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気トンネル接合(MTJ,Magnetic Tunnel Junction)は、磁気多層材料のトンネル磁気抵抗(TMR,Tunnel Magnetoresistance)効果を用いた新しいタイプの磁気抵抗センサとして産業上応用され始めている。この効果によると、多層膜に印加される磁場の大きさおよび方向は、多層膜の抵抗に応じて変化する。TMR効果は、異方性磁気抵抗(AMR)効果よりも大きく、またホール効果よりも温度安定性が良好であることも知られている。この結果、TMR磁場センサは、感度がより高く、消費電力がより低く、線形性がより良好で、ダイナミックレンジがより広く、温度特性がより良好で、AMR、GMRまたはホールデバイスよりもノイズが少ないという利点を有する。さらに、MTJは、非常に小さな集積磁場センサの製造を容易にする既存のチップ製造技術で容易に製造され得る。
【0003】
多軸磁場センサは、一般に、パッケージ内に集積された1つよリ多くのセンサチップを有し、良好な直交性を有するベクトル測定能力を提供する。磁場はベクトル場であるため、多軸磁場センサは、地磁場測定用の二軸または三軸センサを用いる、特に、電子コンパス用の非常に広範囲な用途に供される。このように一般に応用されるため、高集積化単一チップ多軸磁場センサの簡略化された製造手段が強く求められる。
【0004】
同一のウェハに配置される(deposited)と、異なるセンサ軸に用いられるGMRおよびMTJ材料は、同じ磁気モーメントを有し、アニーリング後、同じピン層方向を有するため、単一チップ三軸センサの製造が困難になる。従って、GMR三軸センサを製造するための最も一般的なアプローチとして、3つの異なる基板上に配置されたX軸センサ、Y軸センサ、およびZ軸センサをパッケージングすることが挙げられるが、このようなGMR三軸センサは、過剰なサイズ、高いパッケージングコスト等の制限を受け、MTJセンサよりも感度が低く、消費電力が高くなる。
【0005】
上記から理解できるように、現在のAMR、ホールおよびGMR三軸センサは、サイズが過剰であり、パッケージングコストが高く、感度がより低く、消費電力がより高く、製造方法が実用的ではないという欠点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明は、感度がより高く、消費電力がより低い小型の三軸センサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
X軸に沿って感知方向を有するX軸ブリッジセンサと、Y軸に沿って感知方向を有するY軸ブリッジセンサと、Z軸に沿って感知方向を有するZ軸センサとを備える三軸MTJセンサであって、前記X軸、前記Y軸および前記Z軸は、互いに直交し、ASICチップは、前記X軸、前記Y軸および前記Z軸ブリッジセンサと接続かつ整合し、前記Z軸センサは、いくつかの相互接続された磁気センサチップを有し、前記相互接続された磁気センサチップのそれぞれは、基板を有し、その基板上にはMTJ素子が配置され、前記相互接続された磁気センサチップのそれぞれは、取付け縁部に沿って前記ASICチップ上に設けられ、前記取付け縁部は、MTJ素子の縁部に隣接し、前記MTJ素子の縁部に対して角度を有して配向され、前記角度は、鋭角または鈍角である、三軸MTJセンサ。
【0008】
好ましくは、前記X軸ブリッジセンサは、MTJセンサである。
【0009】
好ましくは、前記Y軸ブリッジセンサは、MTJセンサである。
【0010】
好ましくは、前記X軸ブリッジセンサおよび前記Y軸ブリッジセンサは、金ワイヤボンドを用いて、前記ASICチップと接続される。
【0011】
好ましくは、前記X軸ブリッジセンサおよび前記Y軸ブリッジセンサは、半田バンプを用いて、前記ASICチップと接続される。
【0012】
好ましくは、前記X軸ブリッジセンサおよび前記Y軸ブリッジセンサは、同じチップに集積される。
【0013】
好ましくは、前記X軸ブリッジセンサは、参照ブリッジセンサであり、前記Y軸ブリッジセンサは、プッシュ−プルブリッジセンサである。
【0014】
好ましくは、前記センサチップのそれぞれは、半田バンプを用いて、前記ASICチップに接続される。
【0015】
好ましくは、前記Z軸センサは、2個または4個のMTJ磁気センサチップを有し、前記MTJセンサチップは、前記ASICチップ上に対称配列される。
【0016】
三軸MTJセンサパッケージング方法であって、
A)X軸に沿って感知方向を有するX軸ブリッジセンサを製造し、前記X軸センサとASICチップとを電気接続する工程と、
B)Y軸に沿って感知方向を有するY軸ブリッジセンサを製造し、前記Y軸センサとASICチップとを電気接続する工程と、
C)ウェハ上にMTJ磁気抵抗素子を製造し、前記MTJウェハを斜めに切断してMTJ磁気センサチップを形成し、前記MTJ磁気センサチップの取付け縁部を前記ASICチップ上に設け、各前記取付け縁部は、前記ウェハの隣接面に対して角度を有し、前記角度は、鋭角または鈍角であり、前記MTJ磁気センサチップのそれぞれを、半田バンプを用いて、前記ASICチップと物理的に接続し、前記MTJ磁気センサチップを電気接続してZ軸磁気センサを形成する工程と、を含む方法。
【0017】
三軸MTJセンサパッケージング方法であって、
A)X軸に沿って感知方向を有するX軸磁場センサブリッジを製造し、前記X軸センサとASICチップとを電気接続する工程と、
B)X軸に沿って感知方向を有するY軸磁場センサブリッジを製造し、前記X軸センサとASICチップとを電気接続する工程と、
C)ウェハ上にMTJ磁気抵抗素子を製造し、前記ウェハの後部側をエッチングして斜面を形成し、前記MTJウェハを切断してMTJ磁気センサチップを形成し、前記MTJ磁気センサチップの取付け縁部を前記ASICチップ上に設け、各前記取付け縁部は、前記ウェハの隣接面に対して角度を有し、前記角度は、鋭角または鈍角であり、前記MTJ磁気センサチップのそれぞれを、半田バンプを用いて、前記ASICチップと物理的に接続し、前記MTJ磁気センサチップを電気接続してZ軸磁気センサを形成する工程と、を含む方法。
【発明の効果】
【0018】
上記の技術的課題を解決するため、本発明で採用されている技術的解決法は、上記の構造を用いて、高集積度、高感度、低消費電力、良好な線形性、広いダイナミックレンジ、良好な温度性能および低ノイズ性能を達成する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、磁気トンネル接合素子の磁気抵抗の概略図である。
【
図2】
図2は、MTJ素子の理想的な出力のグラフである。
【
図3】
図3は、直列に電気接続されたMTJ素子の概略図である。
【
図4】
図4は、MTJプッシュ−プルブリッジセンサの概略図である。
【
図5】
図5は、MTJプッシュ−プルブリッジセンサのアナログ出力のプロットである。
【
図6】
図6は、MTJ参照ブリッジセンサの概略図である。
【
図7】
図7は、MTJ参照ブリッジセンサの出力のシミュレーションプロットである。
【
図8】
図8は、単一チップ二軸磁場センサのタイプの概略図である。
【
図9】
図9は、Z軸磁場センサチップ調製方法の第1工程の断面図である。
【
図10】
図10は、Z軸磁場センサチップ調製方法の第2工程の図である。
【
図11】
図11は、Z軸磁場センサチップ調製方法の第3工程の図である。
【
図12】
図12は、Z軸磁場センサチップ調製方法の第4工程の図である。
【
図13】
図13は、Z軸磁場センサチップ第2調製方法の第1工程の断面図である。
【
図14】
図14は、Z軸磁場センサチップ第2調製方法の第2工程の図である。
【
図15】
図15は、Z軸磁場センサチップ第2調製方法の第3工程の図である。
【
図16】
図16は、Z軸磁場センサチップ第2調製方法の第4工程の図である。
【
図17】
図17は、第1調製方法を用いて調製された三軸磁場センサの構造の概略図である。
【
図18】
図18は、第2調製方法を用いて調製された三軸磁場センサの構造の概略図である。
【0020】
図面において、1はMTJ素子であり、2は磁気ピン層であり、3は反強磁性層であり、4は強磁性層であり、5はトンネルバリア層であり、6は強磁性自由層であり、7は強磁性自由層磁化方向であり、8は強磁性ピン層磁化方向であり、9は印加磁場であり、10は感知方向であり、11はシード層であり、12は上部電極であり、13はMTJ素子の抵抗であり、14はMTJ素子の低抵抗値であり、15はMTJ素子の高抵抗値であり、16は電流であり、17は永久磁石であり、18は基板であり、19はASICチップであり、20は半田バンプであり、21は取付け縁部であり、22はチップ表面であり、23は取付け角度であり、24はMTJ磁気センサチップであり、25はX軸ブリッジセンサであり、26はY軸ブリッジセンサであり、27はZ軸ブリッジセンサであり、41は自由層R1の磁化方向であり、42は自由層R2の磁化方向であり、43は自由層R3の磁化方向であり、44は自由層R4の磁化方向である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、当業者が本発明の利点および特徴をより容易に理解し、本発明の保護範囲が明確に定義されるように、添付の
図1から
図18を参照しながら本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0022】
トンネル接合磁気抵抗の概要:
図1は、標準MTJ素子の概略図である。標準MTJ素子1は、強磁性自由層6、強磁性ピン層2、および強磁性層の間のトンネルバリア層5を含む。強磁性自由層6は、強磁性材料で構成され、強磁性自由層の磁化方向は、外部からの磁場に応答して変化し得る。強磁性ピン層2は、一方向に固定された(pinned)磁化方向を有し、一般的な動作条件では変化しない。強磁性層4は、反強磁性層3の頂部または底部のいずれかに存在し得る。MTJ構造は、通常、導電シード層11の頂部に配置されるのに対して、上部電極12は、通常、MTJ構造の頂部に配置される。MTJ素子の抵抗は、シード層11と上部電極12との間で測定され、その値13は、強磁性自由層6と強磁性ピン層2の磁化の相対的な配向を示している。
【0023】
図2は、MTJ素子の理想的な出力応答曲線であり、低抵抗状態R
L14および高抵抗状態R
H15は、飽和MTJの低抵抗状態14および高抵抗状態15を示す。磁気自由層磁化方向7と、磁気ピン層磁化方向8とが平行である場合、MTJの測定された抵抗値13は、低抵抗状態であり、強磁性自由層磁化方向7と、強磁性ピン層磁化方向8とが平行でない場合、MTJ素子13の抵抗値は、高抵抗値15である。公知の技術では、MTJ素子1の抵抗は、高抵抗状態と低抵抗状態との間の磁場範囲において印加される磁場の関数において線形にされ、飽和磁場−H
sおよびH
sは、MTJ素子の線形範囲を規定する。
【0024】
図3は、直列接続され、磁気抵抗素子を形成するいくつかのMTJの概略図である。接続された一連のMTJ1は、ノイズを低減させ、センサの安定性を改善し得る。MTJ磁気抵抗素子24において、各MTJ1のバイアス電圧は、一連のMTJ1内のMTJの数に比例して減少する。これにより、大きな電圧出力を生成するのに必要な電流が低減され、ショットノイズが減少し、またセンサのESD許容差も改善される。出力信号を改善し、ESD許容差を増加させることに加えて、MTJ数を増加させると、ノイズ性能が改善される。なぜなら、各MTJ素子の相互関連しないランダムな挙動は平均化されるからである。
【0025】
プッシュプルブリッジセンサ設計:
図4は、MTJプッシュプルフルブリッジセンサの概略図である。4つのMTJ素子R1、R2、R3およびR4は、フルブリッジとして相互接続され、各MTJ素子は、1つのMTJまたは直列接続された複数のMTJから構成される(
図2)。磁気抵抗素子のそれぞれについて、ピン層の磁化方向は同じであり、このピン層の磁化方向に対する自由層の磁化方向は、角度θ(30°と90°との間)であり、この角度θは同じ大きさである。磁気抵抗素子対(R1およびR3、R2およびR4)は、同じ自由層磁化方向(41および43、42および44)を有するのに対して、互いに隣接して設けられた磁気抵抗素子(R1およびR2、R3およびR4)は、異なる方向に設けられた自由層磁化(41および42、43および44)を有する。この特定のフルブリッジ構成では、感知方向10は、強磁性ピン層磁化方向8と直交する。各磁気抵抗素子の磁気ピン層磁化方向8は同じであるため、このプッシュプルフルブリッジセンサ設計は、マルチチップパッケージングプロセスを用いることなく、また、ローカルレーザ加熱を実施する必要なしに、単一チップ上で具現化されてプッシュプルフルブリッジセンサを形成する。
【0026】
磁場が感知方向10に沿って印加されると、磁場は、ピン層磁化に対する自由層磁化の相対的な配向を変更する。従って、磁気抵抗素子R1およびR3は、抵抗の増加を示すのに対して、他の2つの磁気抵抗素子R2およびR4は、抵抗の減少を示す。磁場が反対の方向に印加されると、R1およびR3の抵抗は減少するのに対して、R2およびR4の抵抗は増加する。ブリッジ回路の応答を効果的に2倍にする、印加された磁場に対して反対の応答をする2対の磁気抵抗素子の組合せ、即ち、抵抗の増加を示す1対のMTJ素子と抵抗の減少を示す1対のMTJ素子との組合せを用いることによって、いわゆる「プッシュ−プル」ブリッジが生成される。理想的には、抵抗器の抵抗値がR1=(R1+ΔR)、R3=(R1+ΔR)、R2=(R2−ΔR)およびR4=(R2−ΔR)である場合、ブリッジ出力は、以下のようになる。
【0028】
理想的には、R1=R2>ΔRのとき、等式は以下のように簡略化され得る。
【0030】
図5は、このプッシュプルブリッジ回路のシミュレートされた応答を示す。
【0031】
強磁性自由層と強磁性ピン層との間の必要な磁化角度は、以下の方法で成し遂げられ得る
(1)形状異方性:MTJ素子の形状異方性を用いて磁化容易軸を形成し、磁気自由層磁化方向にバイアスをかける。MTJ素子の形状異方性は、MTJ素子の幅に対する長さを変更し、また、素子を回転させることによって調整され得る
(2)永久磁石バイアス:MTJ素子の周囲に永久磁石をセットして磁場を形成し、自由層磁化方向にバイアスをかける
(3)コイルバイアス:MTJ素子の上下の層に磁場を生成するための電流を流すために用いられる金属ワイヤを配置し、磁気自由層の方向に磁場を生成する
(4)ネールカップリング:強磁性ピン層と強磁性自由層との間のネールカップリング磁場を用いて、強磁性自由層磁化にバイアスをかける
(5)交換バイアス:この技術では、自由層上の隣接した強磁性層への弱い交換カップリングを用いて効果的なバイアス場を生成する。強磁性層と自由層との間にCuまたはTa層を配置することによって強度を調整し、それによって交換バイアスの強度を低減させる。
【0032】
参照フルブリッジ磁気センサ設計:
図6は、参照フルブリッジMTJセンサ(referenced full bridge MTJ sensor)の概略図である。ここで、4つのMTJ磁気抵抗素子R1、R2、R3およびR4は、相互接続されブリッジを形成し、各磁気抵抗素子は、1つのMTJまたは直列接続された1つより多くのMTJで構成される(
図2)。この設計では、磁気抵抗素子R1およびR3の出力曲線は、印加磁場9に強く依存し、これらの素子を感知アームと呼ぶ。他方、素子R2およびR4の磁気抵抗応答は、印加磁場9にわずかに依存するだけであり、これらの素子を参照アーム(reference arms)と呼ぶ。この参照フルブリッジ構造の感知方向10は、ピン方向8と平行である。この特定の参照ブリッジ設計は、すべてのブリッジアームに対して同じ強磁性ピン層方向を用いるため、マルチチップパッケージングプロセスまたはローカルレーザ加熱を用いることなく、プッシュプルフルブリッジセンサと同じチップ上に構築され得る。
【0033】
磁場が、参照プッシュプルフルブリッジセンサに印加されると、感知方向に沿った磁場成分は、感知アームR1およびR3の抵抗を増減させるのに対して、参照アームR2およびR4はそれほど変化しない。実際には、参照MTJフルブリッジセンサの出力は、広い磁場範囲にわたって線形である。
図7は、シミュレーション出力応答曲線を示す。
【0034】
実用的な参照ブリッジセンサを構築するためには、感知アームおよび参照アームに対して異なる感度を設定することが重要である。磁気抵抗素子の感度は、印加磁場の関数において抵抗変化として定義される。
【0036】
参照アームの磁気抵抗を感知アームに対して低減させることは実用的ではないため、参照アームと感知アームとの間の感度の相対的な変化は、Hを変更することによって最良に成し遂げられる。これは、以下の方法のいずれか、または、これらの組合せによって成し遂げられ得る
(1)磁気遮蔽:高透磁率強磁性層を参照アーム上に配置し、印加磁場を減衰させる
(2)形状異方性:参照素子および感知素子を異なる大きさにパターン化し、異なる形状異方性エネルギーおよび異なる感度を成し遂げる。参照素子の反磁場が、感知素子の反磁場よりもはるかに大きくなるように感知素子の長さ対幅の比を変更することは最も一般的に行われていることである
(3)交換バイアス:この技術は、反強磁性層に対する弱い交換カップリングを用いることによって、MTJ素子の感知方向に対して直交するバイアス場をMTJ素子の自由層上に形成するために用いられる。CuまたはTaバリア層を自由層と交換バイアス層との間に設け、交換バイアスの強度を低減させてもよい
(4)インスタック・バイアス:この技術では、Fe、Co、CrまたはPtの永久磁石合金が磁気トンネル接合の感知素子の表面に配置され、得られた漂遊磁場がMTJ素子1にバイアスをかける。次いで、異なる角度にセンサを初期化するために大きな磁場が用いられ得る。非常に重要な利点は、バイアス場がMTJ素子における磁気ドメインを排除し、MTJ素子の安定性および線形性を改善させ、磁化方向が応答の調整に大きな柔軟性をもたらすように調整され得ることである。
【0037】
単一チップ二軸磁気センサ設計:
センサは、同じウェハ上に同時に配置された磁気抵抗膜で構成されるため、異なるセンサ軸を形成するために用いられるピン層磁化方向は同じである。残念なことに、二軸磁場センサは、互いに90度の角度で回転しなければならない2つのブリッジセンサからなる。以下の説明では、単一のチップ二軸磁場センサの実現について説明する。単一MTJ軸磁場センサ設計は、以下の方法またはいくつかの方法の組合せによって成し遂げられ得る
方法1:ローカルレーザ加熱:配置された後、異なるセンサブリッジのピン層は、互いに平行に配列される。ローカルレーザパルスは、磁場の存在下で印加され、特定の領域におけるピン層を再配列させ得る
方法2:複数配置:異なる磁気抵抗膜がチップの異なる領域に配置され、各センサに対する正しいピン層配向を成し遂げ得る。
【0038】
方法3:参照/プッシュプル:単一チップMTJ二軸磁場センサは、
図8に示されるように成し遂げられ得る。ピン層方向に平行なまたは直交する磁場に敏感なフルブリッジセンサおよび参照ブリッジセンサを形成することが可能である。これらのフルブリッジセンサは、同じ工程および同じ強磁性ピン層設定方向8を用いて、同じ基板上に構築され得る。
【0039】
三軸磁場センサ設計:
三軸磁気センサは、X軸に沿って感知方向を有するX軸ブリッジセンサ25と、Y軸に沿って感知方向を有するY軸ブリッジセンサ26と、Z軸に沿って感知方向を有するZ軸センサ27とを有し、前記X軸、前記Y軸および前記Z軸は、互いに直交し、ASICチップ19は前記X軸25、前記Y軸26および前記Z軸ブリッジセンサ27と接続かつ整合し、前記Z軸センサ27は、いくつかの相互接続された磁気センサチップ24を有し、前記相互接続された磁気センサチップ24のそれぞれは、基板18を有し、その基板18上にはMTJ素子1が配置され、前記相互接続された磁気センサチップ24のそれぞれは、取付け縁部21に沿って前記ASICチップ19上に配置され、前記取付け縁部21は、表面縁部22に隣接し、前記MTJ素子の縁部に対して角度23を有して配向され、前記角度23は、鋭角または鈍角である。ASICチップ19は、信号調整に用いられる。
【0040】
X軸ブリッジセンサ25およびY軸ブリッジセンサ26は、同じチップに集積されている。前記X軸ブリッジセンサ25は、MTJセンサである。前記Y軸ブリッジセンサ26は、MTJセンサである。前記X軸ブリッジセンサ25は、参照ブリッジセンサであり、前記Y軸ブリッジセンサ26は、プッシュプルブリッジセンサである。
【0041】
半田ボール20およびASICチップ19を通して前記磁気センサチップ24は電気的に相互接続される。
【0042】
Z軸センサ27は、2つまたは4つのMTJ磁気センサチップ24を有し、前記MTJセンサチップ24は、ASICチップ19上に対称配置されている。
【0043】
図17に示されるように三軸ブリッジセンサを形成するためには、第1のMTJパッケージング方法は、以下の工程を含む:A)X軸に沿って感知方向を有するX軸ブリッジセンサ25を製造し、X軸センサとASICチップとを電気接続する工程;B)Y軸に沿って感知方向を有するY軸ブリッジセンサ26を製造し、Y軸センサとASICチップとを電気接続する工程;ならびにC)
図9に示されるように、基板18上にMTJ磁気抵抗素子1を製造し、
図10に示されるように、前記MTJウェハを斜めに切断してMTJ磁気センサチップ24を形成し;
図11に示されるように、MTJ磁気センサチップ24の取付け縁部21をASICチップ19上に配置し、各前記取付け縁部21は、基板の隣接表面22に対して角度をなし、角度23は、鋭角または鈍角であり;
図12に示されるように、半田ボール20を用いてMTJ磁気センサチップ24のそれぞれをASICチップ19に物理的に接続し;およびMTJ磁気感知素子24を電気接続してZ軸磁気センサ27を形成する工程。
【0044】
MTJ磁気センサチップ24は、ブリッジタイプ磁場センサチップであり、
図4および
図6に示されるように1つの工程で製造されるが、磁気センサブリッジを形成するために相互接続される
図3に示されるような磁気抵抗素子チップも含み得る。
【0045】
図18は、三軸MTJ磁場センサを構築するための第2調製方法を示し、この方法は、A)X軸に沿って感知方向を有するX軸磁場ブリッジセンサ25を製造し、前記X軸センサとASICチップ19とを電気接続する工程;B)X軸に沿って感知方向を有するY軸磁場センサブリッジ26を製造し、X軸センサとASICチップ19とを電気接続する工程;ならびにC)
図13に示されるように、基板18上にMTJ磁気抵抗素子24を製造し;前記ウェハの後部側をエッチングして斜面を形成することによって、ASICチップ19に接続するためのウェハの後部を調製し;
図14および
図15に示されるように、MTJウェハを切断してMTJ磁気センサチップ24を形成し;MTJ磁気センサチップ24の取付け縁部21をASICチップ19上に配置し;各前記取付け縁部21は、基板22の隣接表面に対して角度23をなし、前記角度23は、鋭角または鈍角であり;
図16に示されるように、半田バンプ20を用いて、MTJ磁気センサチップ24のそれぞれをASICチップ19に物理的に接続し;およびMTJ磁気感知素子24を電気接続してZ軸磁気センサ27を形成する工程を含む。
【0046】
MTJ磁気センサチップ24は、
図4および
図6に示されるように、ブリッジタイプ磁場センサチップであり得るが、磁気センサブリッジを形成するために相互接続される
図3に示されるような磁気抵抗素子を含んでいてもよい。
【0047】
上記の実施形態は、本発明の特定の具現例を示し、言うまでもなく、本発明の範囲または趣旨を越えない他の具現例も存在する。本発明には、本発明の範囲または趣旨から逸脱せずに、様々な改変がなされ得ることは当業者に明白である。