特許第6076351号(P6076351)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076351
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】バルーン表面コーティング
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/08 20060101AFI20170130BHJP
【FI】
   A61L29/08 100
【請求項の数】14
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2014-532286(P2014-532286)
(86)(22)【出願日】2012年7月4日
(65)【公表番号】特表2014-527884(P2014-527884A)
(43)【公表日】2014年10月23日
(86)【国際出願番号】EP2012062995
(87)【国際公開番号】WO2013045126
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2015年7月2日
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2011/004863
(32)【優先日】2011年9月29日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513195411
【氏名又は名称】カーディオノブーム エスぺー. ゼット. オー. オー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】オーロウスキ ミカエル
【審査官】 石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−360700(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0255510(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00−33/00
A61M 25/10−25/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの活性薬剤と、
ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートと
を含むコーティングを有するカテーテルバルーン。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体は、75%ポリビニルアルコール単位と25%ポリエチレングリコール単位とからなることを特徴とする、請求項1に記載のカテーテルバルーン。
【請求項3】
前記コーティングは、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤、少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤、またはポリエチレングリコールをさらに含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のカテーテルバルーン。
【請求項4】
前記少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤は、
ポリエトキシル化アルコール、ポリエトキシル化油、ポリエトキシル化ヒマシ油、ポリエトキシル化グリセロール、ポリエトキシル化脂肪酸エステル、ポリエトキシル化フェノール、ポリエトキシル化アミン、およびポリエトキシル化脂肪族アルコール
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項3に記載のカテーテルバルーン。
【請求項5】
前記少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤は、ポリエトキシル化ヒマシ油であることを特徴とする、請求項3または4に記載のカテーテルバルーン。
【請求項6】
前記少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤は、ヒマシ油とエチレンオキシドを1:35のモル比で反応させることにより調製されることを特徴とする、請求項3〜5のいずれか1項に記載のカテーテルバルーン。
【請求項7】
前記少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤は、カリウムイオンと遊離脂肪酸を除去するためにさらに精製されることを特徴とする、請求項5または6に記載のカテーテルバルーン。
【請求項8】
前記少なくとも1つの活性薬剤は、増殖抑制剤、免疫抑制剤、血管新生抑制剤、抗炎症剤、抗再狭窄剤、および/または抗血栓剤であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のカテーテルバルーン。
【請求項9】
前記少なくとも1つの増殖抑制剤、免疫抑制剤、血管新生抑制剤、抗炎症剤、抗再狭窄剤、および/または抗血栓剤は、
アブシキシマブ、アセメタシン、アセチルビスミオンB、アクラルビシン、アデメチオニン、アドリアマイシン、アエスシン、アフロモソン(afromoson)、アカゲリン、アルデスロイキン、アミドロン(amidorone)、アミノグルテチミド、アムサクリン、アナキンラ、アナストロゾール、アネモニン、アノプテリン、抗真菌剤、抗血栓薬、アポシマリン(apocymarin)、アルガトロバン、アリストラクタム−AII、アリストロキア酸、アスコマイシン、アスパラギナーゼ、アスピリン、アトルバスタチン、オーラノフィン、アザチオプリン、アジスロマイシン、バッカチン、バフィロマイシン、バシリキシマブ、ベンダムスチン、ベンゾカイン、ベルベリン、ベツリン、ベツリン酸、ビロボール、ビスパルセノリジン(bisparthenolidine)、ブレオマイシン、コンブレタスタチン、ボズウェリア酸、ブルセアノールA、BおよびC、ブリオフィリンA、ブスルファン、アンチトロンビン、ビバリルジン、カドヘリン、カンプトテシン、カペシタビン、o−カルバモイル−フェノキシ酢酸、カルボプラチン、カルムスチン、セレコキシブ、セファランチン、セリバスタチン、CETP阻害剤、クロラムブシル、リン酸クロロキン、シクトキシン、シプロフロキサシン、シスプラチン、クラドリビン、クラリスロマイシン、コルヒチン、コンカナマイシン、クマジン、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)、クドライソフラボン(cudraisoflavone)A、クルクミン、シクロホスファミド、シクロスポリンA、シタラビン、ダカルバジン、ダクリズマブ、ダクチノマイシン、ダプソン、ダウノルビシン、ジクロフェナク、1,11−ジメトキシカンチン−6−オン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダウノマイシン、エピルビシン、エリスロマイシン、エストラムスチン、エトポシド、フィルグラスチム、フルロブラスチン(fluroblastin)、フルバスタチン、フルダラビン、フルダラビン−5’−ジヒドロゲンホスフェート、フルオロウラシル、ホリマイシン(folimycin)、ホスフェストロール、ゲムシタビン、グハラキノシド(ghalakinoside)、ギンゴール、ギンゴール酸、グリコシド1a、4−ヒドロキシオキシシクロホスファミド、イダルビシン、イホスファミド、ジョサマイシン、ラパコール、ロムスチン、ロバスタチン、メルファラン、ミデカマイシン、ミトキサントロン、ニムスチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、プロカルバジン、マイトマイシン、メトトレキサート、メルカプトプリン、チオグアニン、オキサリプラチン、イリノテカン、トポテカン、ヒドロキシカルバミド、ミルテホシン、ペントスタチン、ペガスパルガーゼ、エキセメスタン、レトロゾール、ホルメスタン、ミコフェノール酸モフェチル、β−ラパコン、ポドフィロトキシン、ポドフィリン酸−2−エチルヒドラジド、モルグラモスチム(rhuGM−CSF)、ペグインターフェロンα−2b、レノグラスチム(r−HuG−CSF)、マクロゴール、セレクチン(サイトカイン拮抗薬)、サイトカイニン阻害剤、COX−2阻害剤、アンジオペプチン、筋肉細胞増殖を阻害するモノクローナル抗体、bFGF拮抗薬、プロブコール、プロスタグランジン、1−ヒドロキシ−11−メトキシカンチン−6−オン、スコポレチン、NO供与体、四硝酸ペンタエリスリトールおよびシドノイミン(sydnoimines)、タモキシフェン、スタウロスポリン、β−エストラジオール、α−エストラジオール、エストリオール、エストロン、エチニルエストラジオール、メドロキシプロゲステロン、エストラジオールシピオネート、安息香酸エストラジオール、トラニラスト、カメバカウリンおよびその他の癌治療に使用されるテルペノイド、ベラパミル、チロシンキナーゼ阻害剤(チルホスチン)、パクリタキセル、6−α−ヒドロキシ−パクリタキセル、タキソテール、モフェブタゾン、ロナゾラク、リドカイン、ケトプロフェン、メフェナム酸、ピロキシカム、メロキシカム、ペニシラミン、ヒドロキシクロロキン、金チオリンゴ酸ナトリウム、オキサセプロール、β−シトステロール、ミルテカイン、ポリドカノール、ノニバミド、レボメントール、エリプチシン、D−24851(Calbiochem社)、コルセミド、サイトカラシンA−E、インダノシン、ノコダゾール、バシトラシン、ビトロネクチン受容体拮抗薬、アゼラスチン、グアニジルシクラーゼ刺激剤、金属プロテイナーゼ−1および−2の組織阻害剤、遊離核酸、ウイルス伝達物質中に組み込まれる核酸、DNAおよびRNAフラグメント、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤1、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤2、アンチセンスオリゴヌクレオチド、VEGF阻害剤、IGF−1、抗生物質群由来の活性薬剤、セファドロキシル、セファゾリン、セファクロル、セフォキシチン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、ペニシリン、ジクロキサシリン、オキサシリン、スルホンアミド、メトロニダゾール、エノキサパリン、ヘパリン、ヒルジン、PPACK、プロタミン、プロウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、ワルファリン、ウロキナーゼ、血管拡張薬、ジピラミドール、トラピジル、ニトロプルシド、PDGF拮抗薬、トリアゾロピリミジン、セラミン、ACE阻害剤、カプトプリル、シラザプリル、リシノプリル、エナラプリル、ロサルタン、チオプロテアーゼ阻害剤、プロスタサイクリン、バピプロスト、インターフェロンα、βおよびγ、ヒスタミン拮抗薬、セロトニン遮断剤、アポトーシス阻害剤、アポトーシス調節剤、ハロフジノン、ニフェジピン、トコフェロール、トラニラスト、モルシドミン、茶ポリフェノール、没食子酸エピカテキン、没食子酸エピガロカテキン、レフルノミド、エタネルセプト、スルファサラジン、テトラサイクリン、トリアムシノロン、ムタマイシン、プロカインイミド、レチノイン酸、キニジン、ジソピリミド(disopyrimide)、フレカイニド、プロパフェノン、ソタロール、ブリオフィリンAのような天然および合成ステロイド、イノトジオール、マキロシド(maquiroside)A、グハラキノシド(ghalakinoside)、マンソニン(mansonine)、ストレブロシド(strebloside)、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、非ステロイド性物質(NSAIDS)、フェノプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン、フェニルブタゾン、抗ウイルス薬、アシクロビル、ガンシクロビル、ジドブジン、クロトリマゾール、フルシトシン、グリセオフルビン、ケトコナゾール、ミコナゾール、ナイスタチン、テルビナフィン、抗原虫剤、クロロキン、メフロキン、キニーネ、天然テルペノイド、ヒッポカエスクリン(hippocaesculin)、バリントゲノール−C21−アンゲレート(barringtogenol−C21−angelate)、14−デヒロドアグロスチスタチン(14−dehydroagrostistachin)、アグロスケリン(agroskerin)、アガロスチスタチン(agrostistachin)、17−ヒドロキシアグロスチスタチン(17−hydroxyagrostistachin)、オバトジオリド(ovatodiolids)、4,7−オキシシクロアニソメリン酸(4,7−oxycycloanisomelic acid)、バッカリノイド(baccharinoids)B1、B2、B3およびB7、ツベイモシド、ブルセアンチノシド(bruceantinoside)C、ヤダンジオシド(yadanziosides)NおよびP、イソデオキシエレファントピン(isodeoxyelephantopin)、トメンファントピン(tomenphantopin)AおよびB、コロナリン(coronarin)A、B、CおよびD、ウルソール酸、ヒプタチン酸A、イソイリドゲルマナール、マイテンフォリオール(maytenfoliol)、エフサンチン(effusantin)A、エキシサニン(excisanin)AおよびB、ロンギカウリン(longikaurin)B、スクルポネアチン(sculponeatin)C、カメバウニン(kamebaunin)、ロイカメニン(leukamenin)AおよびB、13,18−デヒドロ−6−α−セネシオイルオキシカパリン(13,18−dehydro−6−alpha−senecioyloxychaparrin)、タクサマイリン(taxamairin)AおよびB、レジェニロール(regenilol)、トリプトライド、シマリン、ヒドロキシアノプテリン(hydroxyanopterine)、プロトアネモニン、塩化ケリブリン(cheliburin chloride)、シノコクリン(sinococuline)AおよびB、ジヒドロニチジン、塩化ニチジン、12−β−ヒドロキシプレグナジエン−3,20−ジオン、ヘレナリン、インジシン、インジシン−N−オキシド、ラシオカルピン、イノトジオール、ポドフィロトキシン、ジャスチシジンAおよびB、ラレアチン(larreatin)、マロテリン(malloterin)、マロトクロマノール(mallotochromanol)、イソブチリルマロトクロマノール(isobutyrylmallotochromanol)、マルカンチン(marchantin)A、メイタンシン、リコリジシン(lycoridicin)、マルゲチン(margetine)、パンクラチスタチン(pancratistatin)、リリオデニン、オクソウシンスニン(oxoushinsunine)、ペリプロコシド(periplocoside)A、デオキシソロスペルミン(deoxypsorospermin)、サイコルビン(psychorubin)、リシンA、サンギナリン、マヌー小麦酸(manwu wheat acid)、メチルソルビフォリン(methylsorbifolin)、スパセリア(spathelia)のクロモン、スチゾフィリン(stizophyllin)、ジヒドロウサムバラエンシン(dihydrousambaraensine)、ヒドロキシウサムバリン(hydroxyusambarine)、ストリクノペンタミン(strychnopentamine)、ストリクノフィリン、ウサムバリン(usambarine)、ウサムバレンシン(usambarensine)、リリオデニン、ダフノレチン、ラリシレシノール、メトキシラリシレシノール、シリンガレシノール、シロリムス(ラパマイシン)、バイオリムスA9、ピメクロリムス、エベロリムス、ミオリムス、ノボリムス、リダホロリムス、テムシロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、ファスジル、エポチロン、ソマトスタチン、ロキシスロマイシン、トロレアンドマイシン、シムバスタチン、ロスバスタチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、テニポシド、ビノレルビン、トロホスファミド、トレオスルファン、テモゾロミド、チオテパ、トレチノイン、スピラマイシン、ウンベリフェロン、デスアセチルビスミオン(desacetylvismione)A、ビスミオン(vismione)AおよびB、ゼオリン
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項8に記載のカテーテルバルーン。
【請求項10】
前記少なくとも1つの活性薬剤は、
パクリタキセル、タキサン、ドセタキセル、シロリムス、バイオリムスA9、ピメクロリムス、エベロリムス、ミオリムス、ノボリムス、リダホロリムス、テムシロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、ファスジルおよびエポチロン
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項9に記載のカテーテルバルーン。
【請求項11】
前記コーティングは、セラックをさらに含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のカテーテルバルーン。
【請求項12】
前記コーティングは、前記カテーテルバルーン上に、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体および/またはセラックからなるベースコートをさらに含むことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載のカテーテルバルーン。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のカテーテルバルーンを含む、バルーンカテーテル。
【請求項14】
再狭窄を防止または低減するために好適な、請求項13に記載のバルーンカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(説明)
本発明は、少なくとも1つの増殖抑制剤、免疫抑制剤、血管新生抑制剤、抗炎症剤、抗再狭窄剤および/または抗血栓剤を含有する少なくとも1つの層と、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされたカテーテルバルーン、および前記カテーテルバルーンを備えたバルーンカテーテル、ならびに再狭窄を防止するための前記バルーンカテーテルの使用に関する。
【0002】
ステント等の血管移植片の移植は、狭窄の治療法として確立した外科的介入となった。このような状況下、いわゆる再狭窄(狭窄の再発)、即ち血管の再閉塞は、頻繁に生じる合併症である。文献には、再狭窄という用語の正確な定義は見当たらない。最も広く使用されている再狭窄の形態的定義は、再狭窄を、PTA(経皮的血管形成)を無事に行った後に血管径が正常値の50%未満まで縮小することと定義している。前記定義は経験的に決定された数値を記述するものであり、その血流力学的意義や臨床的症状との関係は科学的背景を欠いている。実際には、多くの場合、患者の臨床上の悪化が、過去に治療した血管部分に再狭窄が生じる徴候と考えられている。
【0003】
PCTAでは、閉塞した部分は、カテーテル先端の膨張可能なバルーンにより1〜3分という短時間で拡張され、必要に応じて複数回繰り返される。この場合、閉塞が除去されるように、血管を過度に延伸させる必要がある。この手順により、血管壁における微小な損傷が外膜まで到達する。カテーテルの除去後、損傷した血管部分は放置される。そのため、血管が過度に延伸された時間、繰り返しの回数および受けた損傷の程度に依存して、治癒過程にはかなり高い性能が求められる。このことが、PCTA後の高い再閉塞率に反映されている。
【0004】
例えば、狭窄や解離等の場合に、損傷した血管内に移植される、血管を開いた状態に支持または維持する内部人工器官またはステントは、長い間、最小侵襲介入医術として知られてきた。ステントは通常、ステンレス鋼またはニチノール等の金属から作製される。多数のこのような金属ステントが知られており、実用的に確立されている。このような金属ステントは、その金属構造および保有能力により、移植後は血管を開いた状態に維持し、且つ血管を流れる血液が永久的に保証されることを確実にすると考えられる。
【0005】
バルーンカテーテルは、ステント移植において、輸送および移植の補助手段として用いられる。ステントを正確な位置に一貫して固定したら、バルーンを再び圧縮し除去することができる。また、この場合、膨張中に血管壁の過度の延伸が生じる。
【0006】
しかし、とりわけ、治療後に生物体中に異物が存在するためにさらなるストレスが生じたり、または再狭窄や後期ステント内血栓症等の血栓症のような後作用の開始点となったりすることがないため、PTCAのみの使用はステントに比べて明らかな利点を示す。従って、80年代後半に、活性物質放出バルーンカテーテルに関するが連携した研究が行われた。
【0007】
パクリタキセル溶出性ステントのような薬剤溶出性ステントを原因とする後期血栓症の問題は、患者の死をもたらし得る深刻な問題として記述されてきた。一定の期間をかけて薬剤を放出する薬剤溶出性ステントと比べ、カテーテルバルーンの膨張は、患者への損傷を防止するため、60秒以内に抑える必要があり、且つ2〜3回繰り返される場合がある。従って、薬剤コーティングカテーテルバルーンは、直ちに薬剤を放出する必要がある。しかし、合計膨張時間を3分または4分または5分にするために膨張を繰り返したとしても、数日、数週間または数ヶ月にわたって薬剤を放出するステントと比較すると、薬剤の放出時間は依然として短い。
【0008】
このような問題を回避するため、ステントを有さないコーティングされたカテーテルバルーンのみを使って、いわゆる「生物学的ステンティング」を行ってもよい。即ち、血管の収縮箇所を、コーティングされたカテーテルバルーンの膨張により膨張させる。この場合、短時間でカテーテルバルーンを膨張させる間に、十分な量の薬理作用のある物質が血管壁に移送される。この血管の膨張および活性薬剤の送達により、血管の再収縮または再閉塞が防止される。さらに、我々ならびに他の研究グループは、これまで測定されてきた、賦形剤を含まない(純粋な薬剤コーティングの)パクリタキセルでコーティングされたカテーテルバルーンを用いた治療後のブタ冠状動脈中パクリタキセル濃度は、再狭窄の防止に治療効果を発揮するには有効ではないことを見出している。「サーキュレーション(Circulation)」、2004年、第110巻、810−814の刊行物の著者らは、純粋なパクリタキセルでコーティングされたカテーテルバルーンは治療効果を示さないことを実証している。治療効果は、パクリタキセルを造影剤溶液ULTRAVIST(登録商標)と混合した場合にのみ得られた。ULTRAVIST(登録商標)は、造影剤イオプロミド溶液である。同様の観察が、Cremersらの「Clin.Res.Cardiol.」、2008年、97−付録1によってなされている。
【0009】
現在では、活性薬剤は、テルペノイドシェロール酸等の物質を含む様々なマトリックス物質とともに、バルーンカテーテルに塗布できることが知られている。活性薬剤は、バルーン膨張中に狭窄箇所で放出され、動脈壁部分に浸透し、その増殖抑制および抗炎症効果を平滑筋細胞で発揮し、さらに血管内腔での増殖を抑制する。
【0010】
国際特許出願WO 2004/028582 A1は、特に折り畳み部内に薬理作用のある物質と造影媒体との組成物がコーティングされた、多重折り畳みバルーンを開示している。カテーテルバルーンのスプレーコーティング方法は、WO 2004/006976 A1に記載されている。
【0011】
本発明の目的は、血管壁に効果的に移送され得るが膨張中にはバルーンから容易に分離されるコーティングを創出し、再狭窄低減の治療効果を最適に達成できるように、少なくとも1つの活性薬剤をカテーテルバルーン上に塗布することである。
【0012】
前記目的は、独立クレームの技術的教示により解決される。本発明のさらに有利な実施形態は、従属クレーム、説明、図および実施例から得られる。
驚くべきことに、活性薬剤と、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートとのコーティングからなるカテーテルバルーンは、前記目的を解決するために好適であることが見出された。好ましくは、前記トップコートは活性薬剤を含まない。
【0013】
従って、本発明は、少なくとも1つの活性薬剤と、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとからなるコーティングを有するカテーテルバルーンに関する。または、換言すると、本発明は、少なくとも1つの活性薬剤と、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとのコーティングを有するカテーテルバルーンに関する。さらに換言すれば、本発明は、少なくとも1つの活性薬剤と、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされたカテーテルバルーンに関し、または代替的に、少なくとも1つの活性薬剤と、前記活性薬剤コート上のポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされたカテーテルバルーンに関する。
【0014】
トップコートは、好ましくは、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなり、従って好ましくは、活性物質またはその他のコーティング材料の構成成分を含有しない。活性薬剤層(または活性薬剤コートとも呼ばれる)は、純粋な活性薬剤、好ましくはパクリタキセルからなり、またはさらにセラック、ポリエチレングリコールもしくはポリエトキシル化界面活性剤もしくはポリエトキシル化乳化剤、またはセラックおよびポリエトキシル化界面活性剤、またはセラックおよびポリエトキシル化乳化剤、またはセラックおよびポリエチレングリコール、またはポリエチレングリコール等のさらなる構成成分を含んでもよい。活性薬剤からなるまたは活性薬剤を含む層は、トップコートの下に位置し、且つバルーン表面上に直接位置する。または、前記層は、活性薬剤層の下に位置するさらなるベース層上に塗布することができ、前記ベース層は好ましくはバルーン表面上に直接コーティングされる。
【0015】
さらに、活性薬剤のコーティング、トップコートを含み、且つさらにポリエトキシル化界面活性剤またはポリエトキシル化乳化剤を含むカテーテルバルーンは、上述の目的を解決するために特に好適であることが見出された。
【0016】
本発明はさらに、少なくとも1つの活性薬剤と所望によりセラックまたは所望によりポリエトキシル化界面活性剤と、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとを含むコーティングを有するカテーテルバルーンに関する。活性薬剤を有するコーティングは、ポリエチレングリコール、ポリエトキシル化界面活性剤またはポリエトキシル化乳化剤をさらに含むことが好ましい。トップコートは、活性薬剤のコーティングを早期溶解および機械的損傷から保護するために塗布される。従って、トップコートは、コーティングを「洗い流し」効果から保護し、且つ活性薬剤が作用位置で直ちに放出されるのを阻止するため、有利である。
【0017】
75%ポリビニルアルコール単位と25%ポリエチレングリコール単位とからなるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートを有するカテーテルバルーンが特に好ましい。ポリエチレングリコール鎖は、その上にポリビニルアルコールの側鎖がグラフトされるベースを形成する。従って、前記グラフト重合体は、エチレングリコール単量体単位と、アルコール結合単量体単位を25:75の割合で含む。
【0018】
ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体は、平均分子量が40,000ダルトン〜50,000ダルトン、融点が190℃〜210℃、より好ましくは195℃〜205℃、最も好ましくは融点は約200℃であり、且つ前記グラフト共重合体の特徴的な部分を示す以下の式で表されることがさらに好ましい。
【0019】
【化1】
【0020】
トップコートの前記グラフト共重合体は、流動性を向上させるため、0.1%〜0.5%、好ましくは0.3%のコロイド状シリカをさらに含んでもよい。好ましいポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体は、酸性、中性、アルカリ性の水性媒体中で容易に溶解する。この場合、得られる溶液の粘度は比較的低い。グラフト共重合体の分子量は、30,000ダルトン〜60,000ダルトン、より好ましくは40,000ダルトン〜50,000ダルトン、さらにより好ましくは42,000〜48,000ダルトン、最も好ましくは約44,000〜46,000ダルトンである。グラフト共重合体の水溶液を平滑表面に塗布した場合、水の蒸発後に無色透明の柔軟性のある膜が残る。その他の好ましいトップコート構成成分の変形例として、ポビドン(2.7%)とラウリル硫酸ナトリウム(0.3%)で安定化させたポリ酢酸ビニル分散液(27%)またはメチルメタクリレートとジエチルアミノエチルメタクリレートの共重合体分散液が挙げられる。この場合、固形物濃度は約30%である。
【0021】
本発明の特に好ましい実施形態は、パクリタキセルと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとを含むコーティングを有するカテーテルバルーンである。本発明の一実施形態では、トップコートの材料は、活性薬剤と混合されて活性薬剤層にも存在する。
【0022】
また、担体、賦形剤または第2のマトリックス物質等の1つ以上のさらなる添加剤を、本発明のカテーテルバルーンの表面に塗布することもできる。例えば、糖、アルブミンのようなタンパク質、または、特にダンマル、マスチック、ロジンまたはセラック等の樹脂のような、コーティング特性を向上させ且つ活性薬剤および特にパクリタキセルの血管中への取り込みを増加させる生物学的相溶性のある有機物質が挙げられる。前記少なくとも1つの添加剤は、セラックであることが特に好ましい。それでも、本発明のカテーテルバルーンは造影剤を含まないことが好ましく、少なくとも活性薬剤を含有する層は好ましくは造影剤を含有しない。その上、本発明のカテーテルバルーンのコーティングは、アセチルクエン酸トリブチルまたはアセチルクエン酸トリエチル等の可塑剤を含有せず、またいかなるクエン酸エステル類も含有しない。また、ソルビトール、ソルビン酸、ソルビン酸塩、ソルビン酸エステル、および任意のポリソルビン酸塩等の成分は、本発明から除外される。これらの物質は、本発明では使用されない。
【0023】
従って、本発明は、少なくとも1つの活性薬剤のコーティングと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされ、前記コーティングはセラックをさらに含む、カテーテルバルーンに関する。活性薬剤および特にパクリタキセルのマトリックスとしては、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤またはポリエトキシル化乳化剤とセラックとの組み合わせが特に好ましい。従って、本発明は、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤またはポリエトキシル化乳化剤とセラックとの層中に少なくとも1つの活性薬剤を含むコーティングと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされたカテーテルバルーンに関する。活性薬剤および特にパクリタキセルのマトリックスとしては、ポリエチレングリコールとセラックとの組み合わせがさらに好ましい。従って、本発明は、ポリエチレングリコールとセラックの層中に少なくとも1つの活性薬剤を含むコーティングと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされたカテーテルバルーンに関する。また、活性薬剤および特にパクリタキセルのマトリックスとしては、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤またはポリエトキシル化乳化剤とポリエチレングリコールとの組み合わせも好ましい。従って、本発明は、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤またはポリエトキシル化乳化剤とポリエチレングリコールの層中に少なくとも1つの活性薬剤を含むコーティングと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされたカテーテルバルーンに関する。これにより、カテーテルバルーンから容易且つ迅速に分離され、且つ血管壁に効果的に移送され得るコーティングが製造される。
【0024】
本発明のカテーテルバルーンは、所望により、ベースコートをさらに含み得る。驚くべきことに、このようなベースコートは、血管を開いた状態に維持し、後期内腔損失を低減し、且つ再狭窄を低減するために、治療的に高度に有用であることが見出された。ベースコートは、活性薬剤のカテーテルバルーンから血管壁への移送を容易にすることにより、明らかに有用である。ベースコートは、活性薬剤のみからなる活性薬剤層、または活性薬剤と少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤またはポリエトキシル化乳化剤とを含む活性薬剤層のコーティングに使用してもよい。最終的には、セラックまたはポリエチレングリコールも、この活性薬剤含有層の一構成成分であってもよい。
【0025】
本発明の好ましい実施形態は、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体またはセラックからなるベースコートを含む。従って、本発明の一実施形態は、少なくとも1つの活性薬剤と、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされたカテーテルバルーンであって、前記コーティングは、前記カテーテルバルーン上に、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体および/またはセラックからなるベースコートをさらに含むカテーテルバルーンに関する。別の好ましい実施形態は、少なくとも1つの活性薬剤および少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤またはポリエトキシル化乳化剤のカテーテルバルーンの薬剤コーティング用マトリックスと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされたカテーテルバルーンであって、前記コーティングは、セラックもしくはポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体またはこれら2つの化合物の混合物のベースコートをさらに含むカテーテルバルーンである。別の好ましい実施形態は、少なくとも1つの活性薬剤ならびにポリエチレングリコールおよび所望によりセラックのカテーテルバルーンの薬剤コーティング用マトリックスと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされたカテーテルバルーンであって、前記コーティングは、セラックもしくはポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体またはこれら2つの化合物の混合物のベースコートをさらに含む。本発明の特に好ましい実施形態では、トップコートで完全にコーティングされるが、活性薬剤は部分的にのみ、即ちカテーテルバルーンの特定の部分にのみコーティングされるカテーテルバルーンは、外表面全体にベースコートを有する。
【0026】
本発明の特に好ましい実施形態は、パクリタキセルを含むコーティングと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートと、前記カテーテルバルーン上のポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体および/またはセラックからなるベースコートとを有するカテーテルバルーンである。
【0027】
さらに好ましい実施形態は、パクリタキセルと、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤またはポリエトキシル化乳化剤のカテーテルバルーンの活性薬剤コーティング用マトリックスと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされたカテーテルバルーンであって、前記コーティングは、セラックもしくはポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体またはこれら2つの化合物の混合物のベースコートをさらに含むカテーテルバルーンである。別の好ましい実施形態は、パクリタキセルおよびポリエトキシル化ヒマシ油のカテーテルバルーンの活性薬剤コーティング用マトリックスと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされたカテーテルバルーンであって、前記コーティングは、セラックもしくはポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体またはこれら2つの化合物の混合物のベースコートをさらに含むカテーテルバルーンである。1つのさらなる実施形態は、パクリタキセルならびにポリエチレングリコールおよび所望によりセラックのカテーテルバルーンの薬剤コーティング用マトリックスと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされたカテーテルバルーンであって、前記コーティングは、セラックもしくはポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体またはこれら2つの化合物の混合物のベースコートをさらに含むカテーテルバルーンである。
【0028】
従って、本発明の全実施形態は、好ましくはパクリタキセルである活性薬剤からなる層または前記活性薬剤を含む層の上部に位置するトップコートを含む。このトップコートは、好ましくは、活性薬剤の下層または活性薬剤を含有する下層を完全に覆う。トップコートは、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなり、好ましくは、活性薬剤、ポリエトキシル化界面活性剤またはポリエトキシル化乳化剤、およびセラックを含有しない。この特殊な種類のトップコートは、カテーテルバルーン上にコーティングを固定し、狭窄血管領域への挿入中の活性薬剤、特にはパクリタキセルの洗い流しと放出を防止する一方で、膨張中の活性薬剤の血管中への移送を確実にし、且つ支援するために重要であると考えられる。従って、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートは、本発明の必須部分と考えられる。
【0029】
さらに、トップコートの下には、純粋な活性薬剤のコートもしくは層、または活性薬剤をセラックとともに、もしくは好ましくはポリエトキシル化ヒマシ油であるポリエトキシル化界面活性剤とともに、もしくはポリエチレングリコールとともに、もしくはセラックおよびポリエトキシル化界面活性剤とともに、もしくはポリエチレングリコールおよびセラックとともに、もしくはポリエチレングリコールおよびポリエトキシル化界面活性剤とともに含むコートまたは層が存在し得る。
【0030】
さらに、この活性薬剤からなるコートもしくは層、または活性剤とセラック、もしくはポリエチレングリコール、もしくはポリエトキシル化界面活性剤、もしくはセラックおよびポリエトキシル化界面活性剤とからなるコートもしくは層の下に、第3のコートもしくは層が所望により存在し得る。この第3のコートまたは層は、ベース層とも呼ばれ、ポリエトキシル化界面活性剤、またはセラック、またはポリエトキシル化界面活性剤およびセラックからなる。ポリエトキシル化界面活性剤がベースコート中でまたはベースコートとして使用され、さらに活性薬剤層中で活性薬剤とともに使用される場合、好ましくは同じポリエトキシル化界面活性剤が使用され、ポリエトキシル化界面活性剤は好ましくはポリエトキシル化ヒマシ油である。
【0031】
従って、本発明によれば、以下のコーティングが提供される:
I)パクリタキセルと、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
II)パクリタキセルおよびセラックと、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
III)パクリタキセルおよびポリエトキシル化ヒマシ油と、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
IV)パクリタキセルおよびポリエチレングリコールと、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
V)パクリタキセルおよびセラックならびにポリエトキシル化ヒマシ油と、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
VI)パクリタキセルおよびセラックならびにポリエチレングリコールと、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
VII)ベースコートであるセラックでコーティングされ、次に中間コートであるパクリタキセルと、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
VIII)ベースコートであるセラックでコーティングされ、次に中間コートであるパクリタキセルおよびセラックと、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
IX)ベースコートであるセラックでコーティングされ、次に中間コートであるパクリタキセルおよびポリエトキシル化ヒマシ油と、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
X)ベースコートであるセラックでコーティングされ、次に中間コートであるパクリタキセルおよびポリエチレングリコールと、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
XI)ベースコートであるセラックでコーティングされ、次に中間コートであるパクリタキセルおよびセラックならびにポリエトキシル化ヒマシ油と、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
XII)ベースコートであるセラックでコーティングされ、次に中間コートであるパクリタキセルおよびセラックならびにポリエチレングリコールと、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
XIII)ベースコートであるポリエトキシル化ヒマシ油でコーティングされ、次に中間コートであるパクリタキセルと、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
XIV)ベースコートであるポリエトキシル化ヒマシ油でコーティングされ、次に中間コートであるパクリタキセルおよびセラックと、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
XV)ベースコートであるポリエトキシル化ヒマシ油でコーティングされ、次に中間コートであるパクリタキセルおよびポリエトキシル化ヒマシ油と、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
XVI)ベースコートであるポリエトキシル化ヒマシ油でコーティングされ、次に中間コートであるパクリタキセルおよびセラックならびにポリエトキシル化ヒマシ油と、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
XVII)ベースコートであるセラックおよびポリエトキシル化ヒマシ油でコーティングされ、次に中間コートであるパクリタキセルと、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
XVIII)ベースコートであるセラックおよびポリエトキシル化ヒマシ油でコーティングされ、次に中間コートであるパクリタキセルおよびセラックと、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
XIX)ベースコートであるセラックおよびポリエトキシル化ヒマシ油でコーティングされ、次に中間コートであるパクリタキセルおよびポリエトキシル化ヒマシ油と、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
XX)ベースコートであるセラックおよびポリエトキシル化ヒマシ油でコーティングされ、次に中間コートであるパクリタキセルおよびセラックならびにポリエトキシル化ヒマシ油と、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
XXI)ベースコートであるセラックおよびポリエトキシル化ヒマシ油でコーティングされ、次に中間コートであるパクリタキセルおよびセラックならびにポリエチレングリコール油と、トップコートであるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体とでコーティングされたバルーン表面。
【0032】
または、換言すると:
I)パクリタキセルの第一層と、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
II)パクリタキセルおよびセラックの第一層と、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
III)パクリタキセルおよびポリエトキシル化ヒマシ油の第一層と、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
IV)パクリタキセルおよびポリエチレングリコールの第一層と、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
V)パクリタキセルおよびセラックならびにポリエトキシル化ヒマシ油の第一層と、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
VI)パクリタキセルおよびセラックならびにポリエチレングリコールの第一層と、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
VII)セラックのベースコートと、パクリタキセルの中間コートと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
VIII)セラックのベースコートと、パクリタキセルおよびセラックの中間コートと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
IX)セラックのベースコートと、パクリタキセルおよびポリエトキシル化ヒマシ油の中間コートと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
X)セラックのベースコートと、パクリタキセルおよびポリエチレングリコールの中間コートと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
XI)セラックのベースコートと、パクリタキセルおよびセラックならびにポリエトキシル化ヒマシ油の中間コートと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
XII)ポリエトキシル化ヒマシ油のベースコートと、パクリタキセルの中間コートと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
XIII)ポリエトキシル化ヒマシ油のベースコートと、パクリタキセルおよびセラックの中間コートと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
XIV)ポリエトキシル化ヒマシ油のベースコートと、パクリタキセルおよびポリエチレングリコールの中間コートと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
XV)ポリエトキシル化ヒマシ油のベースコートと、パクリタキセルおよびポリエトキシル化ヒマシ油の中間コートと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
XVI)ポリエトキシル化ヒマシ油のベースコートと、パクリタキセルおよびセラックならびにポリエトキシル化ヒマシ油の中間コートと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
XVII)セラックおよびポリエトキシル化ヒマシ油のベースコートと、パクリタキセルの中間コートと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
XVIII)セラックおよびポリエトキシル化ヒマシ油のベースコートと、パクリタキセルおよびセラックの中間コートと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
XIX)セラックおよびポリエトキシル化ヒマシ油のベースコートと、パクリタキセルおよびポリエチレングリコールの中間コートと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
XX)セラックおよびポリエトキシル化ヒマシ油のベースコートと、パクリタキセルおよびポリエトキシル化ヒマシ油の中間コートと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
XXI)セラックおよびポリエトキシル化ヒマシ油のベースコートと、パクリタキセルおよびセラックならびにポリエトキシル化ヒマシ油の中間コートと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
XXII)セラックおよびポリエトキシル化ヒマシ油のベースコートと、パクリタキセルおよびセラックならびにポリエチレングリコールの中間コートと、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコート。
【0033】
セラックは、多数の種のラック生成昆虫の腺分泌物から作製される天然樹脂である。ラック昆虫は、Metatachardia、Laccifer、およびTachordiellaなど、カメムシ(Hemiptera)目カイガラムシ(Coccoidea)上科に属するが、LacciferidaeおよびTachardinidaeの2つの科に属する昆虫がラック分泌においてより重要である。商業用に養殖されている昆虫は、Kerria laccaである。Kerria laccaは、Laccifer lacca Ker、Tachardia lacca、およびCarteria laccaのような同義語でも知られている。Kerria laccaはインド産のカイガラムシであり、ハナモツヤクノキ(Butea frondos Rosch)、アラビアゴムモドキ(Acacia arabica Willd)およびインドボダイジュ(Ficus religiosa Linn)などの東インド諸島の数多くの樹木の枝に寄生する。セラックは、商業的に使用されている唯一の動物由来の天然樹脂であり、他の全ての天然樹脂とはかなり異なる。近年では、環境や化学的原材料の毒性についての新たな認識が至る所で顕著となっているため、セラックまたはセラックで修飾した樹脂はその興味深い独特な特性により重要視されている。折った枝が棒状のラックとして販売されており、粉砕して水で洗浄し、木材と赤い色素(ラック染料)を排除した後、種ラックが得られる。種ラックを精製することにより、セラックとして知られるさらに均質な製品が得られる。欧州でのセラックの使用は16世紀の終わりごろに始まり、木製の物体、楽器および金めっきのワニス(多くの場合「フランスワニス」として知られている)や、ビニール盤および壁画の保護、初期の無線機等の電気機器の絶縁材料、ならびに陶器の修復用接着剤として主に使用された。
【0034】
原材料セラックは、樹脂70〜80%、染料4〜8%、硬質および高光沢仕上げワックス6〜7%、水3%、植物性および動物性不純物9%以下ならびに芳香物質からなる。セラック樹脂は、脂肪族(60%)とセスキテルペノイド酸(sesquiterpenoid acids)(32%)の複雑な混合物およびそのエステルである。セスキテルペノイド酸は、ジャラール酸およびラクシジャラール酸(構造IおよびII)であり、脂肪族酸はアロイリチン酸(III)およびブトール酸である。
【0035】
樹脂分子の考えられる化学的記述としては、それぞれ4分子のジャラール酸またはラクシジャラール酸とアロイリチン酸がエステル結合で交互に接続された構造モデルがある。
【0036】
【化2】
【0037】
【化3】
【0038】
樹脂分子の化学組成は、昆虫が生育する木の性質によっていくつかの構成成分の量は変化するものの、ほとんど一定である。アルカリ性加水分解によるカニッツァーロ型不均化により、これらの酸からシェロール酸(IV)および変容した化合物が合成されるであろう。精製セラックは、2つの主要構成成分からなる。これらの構成成分は、9,10,16−トリヒドロキシパルミチン酸(アロイリチン酸)CAS[53−387−9]と、シェロール酸(IV)である。
【0039】
【化4】
【0040】
【化5】
【0041】
セラック、修飾されたセラック樹脂およびセラック共重合体を尿素、メラミン、ホルムアルデヒド、イソシアニドと架橋させるために、その他の天然樹脂または合成樹脂での修飾、または様々な単量体との共重合が可能である。重合、水酸化、遊離化等のその他の化学過程も可能である。
【0042】
以下はセラックの商業用グレードである:
−シードラック(Seedlac)
−手製のセラック(Hand Made Shellac)
−機械で作製したセラック(Machine Made Shellac)
−ワックスを除いたセラック(Dewaxed Shellac)
−ワックスを除き脱色したセラック(Dewaxed Bleached Shellac)
−アロイリチン酸
セラックの主要な特徴は、以下のとおりである:
−セラックは硬質の天然樹脂である
−セラックは高い耐溶媒性を有する
−セラックは炭化水素系である
−セラックは毒性を示さない
−セラックは熱可塑性である
−セラックは生理学的に無害である
−セラックは食品業界の様々な用途で承認されている
−セラックは耐UV性ではない
−セラックは低級アルコールに可溶性である
−セラックは優れた誘電特性、高い絶縁耐力、低い誘電率、良好な耐トラッキング性等を有する。
−セラックは低い融点(65〜85℃)を有する。
−セラックは水−アルカリ性溶液に水溶性である
−コーティングはUV照射下ではその電気特性を変えない。
−セラックは優れた成膜特性を有する。
−セラックは低い熱伝導性を有し、低い膨張係数が平滑で高光沢の膜および表面を形成する。
【0043】
セラックコーティングは多くのコーティングに対して優れた接着性を有し、研磨することができる。
樹脂分子の考えられる化学的記述としては、それぞれ4分子のジャラール酸またはラクシジャラール酸とアロイリチン酸がエステル結合で交互に接続された構造モデルがある。
【0044】
本発明で使用される「ベースコート」という用語は、カテーテルバルーンの表面のすぐ上に位置するカテーテルバルーンのコーティングの層を意味する。この層は、下塗りコートとしてカテーテルバルーン材料を直接覆う第一層であり、主として活性薬剤含有層の粘着性を高める。本明細書で使用される「トップ層」または「トップコート」という用語は、活性薬剤含有層を覆う、活性薬剤を含まないバルーンコーティングの層を意味する。
【0045】
本明細書で使用される「非コーティング」という用語は、活性薬剤コーティングを有さない、平滑面または構造化面または粗面を有するカテーテルバルーンを意味する。即ち、このバルーン表面は、薬学的活性薬剤、および特に増殖抑制剤、免疫抑制剤、血管新生抑制剤、抗炎症剤、抗再狭窄剤、または抗血栓剤、ならびに増殖抑制剤、免疫抑制剤、血管新生抑制剤、抗炎症剤、抗再狭窄剤、および/または抗血栓剤を含有するコーティングを含まない。
【0046】
本発明は、少なくとも1つの活性薬剤と、前記活性薬剤コート上のポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされたカテーテルバルーンを意味する。カテーテルのバルーンに使用する材料は、一般に使用されるような材料であり、ポリアミド、ポリアミドのブロック共重合体、ポリエーテルおよびポリエステル、ポリウレタン、ポリエステルおよびポリオレフィン等の重合体が特に好ましい。
【0047】
本発明のカテーテルバルーンは、膨張可能または拡張可能であり、最も好ましくは、血管形成カテーテルバルーンである。本発明は、膨張可能および拡張可能なカテーテルバルーンに関し、特にカテーテル用多重折り畳みバルーンに関する。このような本発明によるコーティングを有するカテーテルまたはカテーテルバルーンは、好ましくは、特に血管、冠状動血管および末梢血管の収縮した血管部分を治療するため、および狭窄、再狭窄、動脈硬化および線維化血管収縮の治療および予防のために使用される。
【0048】
任意の市販の膨張可能カテーテルバルーンをカテーテルバルーンとして使用してもよい。このようなバルーンは一般的に折り畳み部または翼部を備える。この折り畳み部または翼部は、バルーンが圧縮された状態のときは基本的に閉じた空洞を形成するが、膨張中は外側に屈曲し、折り畳み部内に含まれていた物質を放出するか、または前記物質を血管壁に押し付けることができる。
【0049】
このようなバルーンでは、折り畳み部に閉じ込められていた物質または折り畳み部に閉じ込められていたパクリタキセルがカテーテル挿入中に余りにも早期に脱離することから保護されるため、有利である。カテーテルバルーンの表面は、非平坦、平滑、粗面、もしくはざらざらしていてもよく、またバルーンの外側に開口した空洞もしくは溝を備えてもよい。カテーテルバルーンの非平坦表面が望ましい場合、カテーテルバルーンの表面は、機械的、化学的、電子的および/または照射によって非平坦化し、パクリタキセルの接着性の向上を可能にし、且つパクリタキセルの沈殿または結晶化を支援することができる。バルーン表面の非平坦化中のカテーテルバルーンの全ての損傷を防止し、且つカテーテルバルーンの膨張能力に不利な影響が及ばないことを確実にすることが重要である。従って、バルーン表面の微小非平坦化方法によって、バルーン材料に孔、微細孔または裂傷が形成されてはならない。理想的には、最大深さ1μmまでのバルーン外表面のみが非平坦化される。
【0050】
本発明のカテーテルバルーンは、圧着ステントの有無を問わず使用できるが、圧着ステントが無い方が好ましい。ステントとしては、自己膨張可能ステント、自己膨張不能ステント、金属ステント、重合体ステント、生分解性ステント、分岐ステント、非コーティング(裸の)ステント、ポリマーコーティングステント、薬物放出コーティングステント、純粋な活性薬剤コーティング等を有するステントなど、あらゆる種類の一般的なステントを使用することができる。
【0051】
その上、本発明のコーティング手順を実行する前にステントをカテーテルバルーンに圧着することができるため、カテーテルバルーンとステントは一緒に、本発明による活性薬剤コーティングでコーティングされる。しかし、本発明のコーティングされたカテーテルバルーンは、ステントを用いずに使用することが好ましい。
【0052】
本発明の一実施形態は、少なくとも1つの活性薬剤と、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされたカテーテルバルーンである。本発明の好ましい実施形態は、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤を含むコーティングを有する。少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤は、活性薬剤を塗布する前にカテーテルバルーンに塗布してもよいし、または少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤は、活性薬剤と一緒に塗布してもよい。この場合、1つのコーティング溶液は、活性薬剤と、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤とを含むことを意味する。従って、本発明の一実施形態は、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤を含むマトリックス中の少なくとも1つの活性薬剤でコーティングされたカテーテルバルーンである。本出願において、マトリックスという用語は、活性薬剤が埋め込まれるまたは組み込まれる化合物に使用される。
【0053】
本発明で使用される「乳化剤」という用語は、その動力学的安定性を上昇させることによってエマルションを安定させる物質である。エマルションは、通常は不混和性の複数の液体の混合物である。言い換えると、乳化剤は、混合しない2つの液体を混合していわゆるエマルションの形態とし、エマルションを安定させる役割を果たす賦形剤または添加剤である。いわゆる「界面活性剤」は乳化剤と同様である。本発明で使用されるこの用語は、液体の表面張力、2つの液体間の界面張力、または液体と固体間の界面張力を下げる化合物を意味する。界面活性剤は、洗剤、湿潤剤、乳化剤、発泡剤、および分散剤としての役割を果たし得る。乳化剤および界面活性剤はそれぞれ、通常は両親媒性の有機化合物である。このことは、乳化剤および界面活性剤が疎水性基と親水性基の両方を含有することを意味する。従って、両親媒性分子は、水不溶性成分と水溶性成分の両方を含有する。本明細書で使用される乳化剤および界面活性剤は、その親水性部分の組成によって分類される。本発明に好適な乳化剤および界面活性剤はそれぞれ、芳香族炭化水素、アルカン、アルケン、シクロアルカン、アルキン系炭化水素、フルオロ界面活性剤(パーフルオロオクタンスルホン酸、パーフルオロオクタン酸、パーフルオロノナン酸等)、およびポリエトキシル化されたシロキサンである。エトキシル化は、エチレンオキシドをアルコールおよびフェノールに添加して界面活性剤および乳化剤を作製する化学過程である。従って、ポリエトキシル化は、アルコールまたはフェノールそれぞれの1基以上をエトキシル化する化学過程である。本発明において、ポリエトキシル化された化合物は、それぞれ好ましい乳化剤および界面活性剤である。ポリエトキシル化アルコール、ポリエトキシル化油、ポリエトキシル化ヒマシ油、ポリエトキシル化グリセロール、ポリエトキシル化脂肪酸エステル、ポリエトキシル化フェノール、ポリエトキシル化アミン、およびポリエトキシル化脂肪族アルコールからなる群またはこれらを含む群から選択されるポリエトキシル化界面活性剤またはポリエトキシル化乳化剤がより好ましい。これらの界面活性剤または乳化剤のうち、ポリエトキシル化ヒマシ油がより好ましい。高級飽和脂肪族アルコールをエチレンオキシドと反応させることにより作製される化合物がさらに好ましく、ヒマシ油をエチレンオキシドと1:35の割合で反応させることにより得られる化合物、即ちヒマシ油1モル当たり35モルのエチレンオキシドを反応させることにより調製される化合物が特に好ましい。これにより、ヒマシ油トリグリセリドのヒドロキシル基はエチレンオキシドでエトキシル化され、ポリエチレングリコールエーテルが形成される。引き続き、水分量、カリウムイオンおよび遊離脂肪酸、特にリシノール酸、オレイン酸およびパルミチン酸に関して、精製過程が行われる。得られる化合物は、白色から黄色がかったペーストまたは濁った液体である。加熱すると、最終的な固体成分は26℃で融解し、弱いが特徴的な臭いを有する透明の油性液体が得られる。HLB(親水性−親油性バランス)値は12〜14である。臨界ミセル濃度(CMC)は約0.02%である。前記好ましいポリエトキシル化ヒマシ油は、リシノール酸マクロゴルグリセロール(macrogolglycerol ricinoleate)(Ph.Eur.)、ポリオキシル−35−ヒマシ油(Polyoxyl−35−castor oil)(USP/NF)とも呼ばれ、Cremophor(登録商標)ELPの商品名でBASFより販売されている。
【0054】
後半の2つの成分の乳化特性を向上させるさらなる成分は、リシノール酸のポリエチレングリコールエステル、ならびにグリセロールのポリエチレングリコールおよびポリエチレングリコールエステルであり得る。
【0055】
ポリエトキシル化脂肪族アルコールおよびポリエトキシル化ヒマシ油は、水およびアルコールに溶解してコロイドまたは透明溶液のいずれかを形成する。これらの化合物は、植物油、鉱油および脂肪に可溶性である。温かい乳化剤は、鉱油、植物油、合成脂肪および合成油、ならびに脂肪族アルコール、脂肪酸、モノ−およびジ−ステアレート、およびポリエチレングリコールと混合することができる。水溶液中では、これらの化合物はほとんどの場合、酸、塩基および塩に耐性を有する。これらの電解質の存在は、乳化剤としての生成物の効率に悪影響を与えない。特に好ましいポリエトキシル化ヒマシ油は、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、酢酸エチル、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、トルエンおよびキシレン等の様々なさらなる有機溶媒中に溶解する。
【0056】
本発明の一実施形態は、少なくとも1つの活性薬剤と、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされたカテーテルバルーンである。本発明の好ましい実施形態は、ポリエチレングリコールをさらに含むコーティングを有する。本発明によれば、ポリエチレングリコールは、少なくとも1つの活性薬剤のマトリックス物質としてバルーン表面に塗布してもよい。ポリエチレングリコールは、単独で使用してもよいし、またはセラックもしくは少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤とともに使用してもよい。
【0057】
増殖抑制剤、免疫抑制剤、血管新生抑制剤、抗炎症剤、抗再狭窄剤および/または抗血栓剤は、活性薬剤として使用される。活性薬剤は、個別に使用してもよいし、または同一もしくは異なる濃度で組み合わせてもよい。これらの活性薬剤はカテーテルバルーンの表面に塗布され、少なくとも本発明のトップコートで覆われるマトリックスを有さない純粋な活性薬剤層を形成することができる。また、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤またはポリエトキシル化乳化剤および/またはセラックおよび/またはポリエチレングリコール中に溶解、乳化、懸濁または分散された活性薬剤を塗布することも可能である。このように活性薬剤を含むことにより、バルーンが膨張して血管が拡張している間に、活性薬剤がマトリックスから短期に且つ制御されて放出されることを確実にする。さらに、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤またはポリエトキシル化乳化剤および/またはセラックおよび/またはポリエチレングリコールでカテーテルバルーンをコーティングした後に、表面に活性薬剤または複数の活性薬剤の組み合わせを塗布し、カテーテルバルーン表面上のこの層中に浸漬させる可能性もある。
【0058】
活性薬剤が増殖抑制剤、免疫抑制剤、血管新生抑制剤、抗炎症剤、抗再狭窄剤および/または抗血栓剤である、コーティングされたカテーテルバルーンが好ましい。活性薬剤が、以下からなる群、または以下を含む群から選択されると、さらに好ましい:
アブシキシマブ、アセメタシン、アセチルビスミオンB、アクラルビシン、アデメチオニン、アドリアマイシン、アエスシン、アフロモソン(afromoson)、アカゲリン、アルデスロイキン、アミドロン(amidorone)、アミノグルテチミド、アムサクリン、アナキンラ、アナストロゾール、アネモニン、アノプテリン、抗真菌剤、抗血栓薬、アポシマリン(apocymarin)、アルガトロバン、アリストラクタム−AII、アリストロキア酸、アスコマイシン、アスパラギナーゼ、アスピリン、アトルバスタチン、オーラノフィン、アザチオプリン、アジスロマイシン、バッカチン、バフィロマイシン、バシリキシマブ、ベンダムスチン、ベンゾカイン、ベルベリン、ベツリン、ベツリン酸、ビロボール、ビスパルセノリジン(bisparthenolidine)、ブレオマイシン、コンブレタスタチン、ボズウェリア酸およびその誘導体、ブルセアノールA、BおよびC、ブリオフィリンA、ブスルファン、アンチトロンビン、ビバリルジン、カドヘリン、カンプトテシン、カペシタビン、o−カルバモイル−フェノキシ酢酸、カルボプラチン、カルムスチン、セレコキシブ、セファランチン、セリバスタチン、CETP阻害剤、クロラムブシル、リン酸クロロキン、シクトキシン、シプロフロキサシン、シスプラチン、クラドリビン、クラリスロマイシン、コルヒチン、コンカナマイシン、クマジン、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)、クドライソフラボン(cudraisoflavone)A、クルクミン、シクロホスファミド、シクロスポリンA、シタラビン、ダカルバジン、ダクリズマブ、ダクチノマイシン、ダプソン、ダウノルビシン、ジクロフェナク、1,11−ジメトキシカンチン−6−オン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダウノマイシン、エピルビシン、エリスロマイシン、エストラムスチン、エトポシド、フィルグラスチム、フルロブラスチン(fluroblastin)、フルバスタチン、フルダラビン、フルダラビン−5’−ジヒドロゲンホスフェート、フルオロウラシル、ホリマイシン(folimycin)、ホスフェストロール、ゲムシタビン、グハラキノシド(ghalakinoside)、ギンゴール、ギンゴール酸、グリコシド1a、4−ヒドロキシオキシシクロホスファミド、イダルビシン、イホスファミド、ジョサマイシン、ラパコール、ロムスチン、ロバスタチン、メルファラン、ミデカマイシン、ミトキサントロン、ニムスチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、プロカルバジン、マイトマイシン、メトトレキサート、メルカプトプリン、チオグアニン、オキサリプラチン、イリノテカン、トポテカン、ヒドロキシカルバミド、ミルテホシン、ペントスタチン、ペガスパルガーゼ、エキセメスタン、レトロゾール、ホルメスタン、ミコフェノール酸モフェチル、β−ラパコン、ポドフィロトキシン、ポドフィリン酸−2−エチルヒドラジド、モルグラモスチム(rhuGM−CSF)、ペグインターフェロンα−2b、レノグラスチム(r−HuG−CSF)、マクロゴール、セレクチン(サイトカイン拮抗薬)、サイトカイニン阻害剤、COX−2阻害剤、アンジオペプチン、筋肉細胞増殖を阻害するモノクローナル抗体、bFGF拮抗薬、プロブコール、プロスタグランジン、1−ヒドロキシ−11−メトキシカンチン−6−オン、スコポレチン、NO供与体、四硝酸ペンタエリスリトールおよびシドノイミン(sydnoimines)、S−ニトロソ誘導体、タモキシフェン、スタウロスポリン、β−エストラジオール、α−エストラジオール、エストリオール、エストロン、エチニルエストラジオール、メドロキシプロゲステロン、エストラジオールシピオネート、安息香酸エストラジオール、トラニラスト、カメバカウリンおよびその他の癌治療に使用されるテルペノイド、ベラパミル、チロシンキナーゼ阻害剤(チルホスチン)、パクリタキセルおよびその誘導体、6−α−ヒドロキシ−パクリタキセル、タキソテール、モフェブタゾン、ロナゾラク、リドカイン、ケトプロフェン、メフェナム酸、ピロキシカム、メロキシカム、ペニシラミン、ヒドロキシクロロキン、金チオリンゴ酸ナトリウム、オキサセプロール、β−シトステロール、ミルテカイン、ポリドカノール、ノニバミド、レボメントール、エリプチシン、D−24851(Calbiochem社)、コルセミド、サイトカラシンA−E、インダノシン、ノコダゾール、バシトラシン、ビトロネクチン受容体拮抗薬、アゼラスチン、グアニジルシクラーゼ刺激剤、金属プロテイナーゼ−1および−2の組織阻害剤、遊離核酸、ウイルス伝達物質中に組み込まれる核酸、DNAおよびRNAフラグメント、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤1、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤2、アンチセンスオリゴヌクレオチド、VEGF阻害剤、IGF−1、抗生物質群由来の活性薬剤、セファドロキシル、セファゾリン、セファクロル、セフォキシチン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、ペニシリン、ジクロキサシリン、オキサシリン、スルホンアミド、メトロニダゾール、エノキサパリン、ヘパリン、ヒルジン、PPACK、プロタミン、プロウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、ワルファリン、ウロキナーゼ、血管拡張薬、ジピラミドール、トラピジル、ニトロプルシド、PDGF拮抗薬、トリアゾロピリミジン、セラミン、ACE阻害剤、カプトプリル、シラザプリル、リシノプリル、エナラプリル、ロサルタン、チオプロテアーゼ阻害剤、プロスタサイクリン、バピプロスト、インターフェロンα、βおよびγ、ヒスタミン拮抗薬、セロトニン遮断剤、アポトーシス阻害剤、アポトーシス調節剤、ハロフジノン、ニフェジピン、トコフェロール、トラニラスト、モルシドミン、茶ポリフェノール、没食子酸エピカテキン、没食子酸エピガロカテキン、レフルノミド、エタネルセプト、スルファサラジン、テトラサイクリン、トリアムシノロン、ムタマイシン、プロカインイミド、レチノイン酸、キニジン、ジソピリミド(disopyrimide)、フレカイニド、プロパフェノン、ソタロール、ブリオフィリンAのような天然および合成ステロイド、イノトジオール、マキロシド(maquiroside)A、グハラキノシド(ghalakinoside)、マンソニン(mansonine)、ストレブロシド(strebloside)、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、非ステロイド性物質(NSAIDS)、フェノプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン、フェニルブタゾン、抗ウイルス薬、アシクロビル、ガンシクロビル、ジドブジン、クロトリマゾール、フルシトシン、グリセオフルビン、ケトコナゾール、ミコナゾール、ナイスタチン、テルビナフィン、抗原虫剤、クロロキン、メフロキン、キニーネ、天然テルペノイド、ヒッポカエスクリン(hippocaesculin)、バリントゲノール−C21−アンゲレート(barringtogenol−C21−angelate)、14−デヒロドアグロスチスタチン(14−dehydroagrostistachin)、アグロスケリン(agroskerin)、アガロスチスタチン(agrostistachin)、17−ヒドロキシアグロスチスタチン(17−hydroxyagrostistachin)、オバトジオリド(ovatodiolids)、4,7−オキシシクロアニソメリン酸(4,7−oxycycloanisomelic acid)、バッカリノイド(baccharinoids)B1、B2、B3およびB7、ツベイモシド、ブルセアンチノシド(bruceantinoside)C、ヤダンジオシド(yadanziosides)NおよびP、イソデオキシエレファントピン(isodeoxyelephantopin)、トメンファントピン(tomenphantopin)AおよびB、コロナリン(coronarin)A、B、CおよびD、ウルソール酸、ヒプタチン酸A、イソイリドゲルマナール、マイテンフォリオール(maytenfoliol)、エフサンチン(effusantin)A、エキシサニン(excisanin)AおよびB、ロンギカウリン(longikaurin)B、スクルポネアチン(sculponeatin)C、カメバウニン(kamebaunin)、ロイカメニン(leukamenin)AおよびB、13,18−デヒドロ−6−α−セネシオイルオキシカパリン(13,18−dehydro−6−alpha−senecioyloxychaparrin)、タクサマイリン(taxamairin)AおよびB、レジェニロール(regenilol)、トリプトライド、シマリン、ヒドロキシアノプテリン(hydroxyanopterine)、プロトアネモニン、塩化ケリブリン(cheliburin chloride)、シノコクリン(sinococuline)AおよびB、ジヒドロニチジン、塩化ニチジン、12−β−ヒドロキシプレグナジエン−3,20−ジオン、ヘレナリン、インジシン、インジシン−N−オキシド、ラシオカルピン、イノトジオール、ポドフィロトキシン、ジャスチシジンAおよびB、ラレアチン(larreatin)、マロテリン(malloterin)、マロトクロマノール(mallotochromanol)、イソブチリルマロトクロマノール(isobutyrylmallotochromanol)、マルカンチン(marchantin)A、メイタンシン、リコリジシン(lycoridicin)、マルゲチン(margetine)、パンクラチスタチン(pancratistatin)、リリオデニン、オクソウシンスニン(oxoushinsunine)、ペリプロコシド(periplocoside)A、デオキシソロスペルミン(deoxypsorospermin)、サイコルビン(psychorubin)、リシンA、サンギナリン、マヌー小麦酸(manwu wheat acid)、メチルソルビフォリン(methylsorbifolin)、スパセリア(spathelia)のクロモン、スチゾフィリン(stizophyllin)、ジヒドロウサムバラエンシン(dihydrousambaraensine)、ヒドロキシウサムバリン(hydroxyusambarine)、ストリクノペンタミン(strychnopentamine)、ストリクノフィリン、ウサムバリン(usambarine)、ウサムバレンシン(usambarensine)、リリオデニン、ダフノレチン、ラリシレシノール、メトキシラリシレシノール、シリンガレシノール、シロリムス(ラパマイシン)、ラパマイシン誘導体、バイオリムスA9、ピメクロリムス、エベロリムス、ミオリムス、ノボリムス、リダホロリムス、テムシロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、ファスジル、エポチロン、ソマトスタチン、ロキシスロマイシン、トロレアンドマイシン、シムバスタチン、ロスバスタチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、テニポシド、ビノレルビン、トロホスファミド、トレオスルファン、テモゾロミド、チオテパ、トレチノイン、スピラマイシン、ウンベリフェロン、デスアセチルビスミオン(desacetylvismione)A、ビスミオン(vismione)AおよびB、ゼオリン。
【0059】
本発明の好ましい実施形態では、第2活性薬剤を活性薬剤含有層に添加してもよい。この場合、第2活性薬剤は、前の段落で列挙した化合物群と同一の群から選択される。
活性薬剤の好ましい溶媒は、アセトン、酢酸エチル、エタノール、メタノール、DMSO(ジメチルスルホキシド)、THF(テトラヒドロフラン)、クロロホルム、塩化メチレン等の、容易に除去可能な揮発性溶媒である。
【0060】
より好ましくは、本発明の活性薬剤は、以下を含む群、または以下からなる群から選択される:パクリタキセルおよびパクリタキセル誘導体、タキサン、ドセタキセル、ラパマイシンおよびラパマイシン誘導体、シロリムス(ラパマイシン)、ラパマイシン誘導体、バイオリムスA9、ピメクロリムス、エベロリムス、ミオリムス、ノボリムス、リダホロリムス、テムシロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、ファスジルおよびエポチロン。
【0061】
本発明において特に好ましい活性薬剤はパクリタキセルである。
パクリタキセルはいくつかの供給元から市販されている。パクリタキセルは、タキソール(Taxol)(登録商標)という商品名で知られており、以下のような様々な同義名でも表記される:BMS 181339−01、BMS−181339、BMS−181339−01、カプキソール、DRG−0190、DTS−301、エベタキセル、ゲナキソール、ゲネキソール、ゲネキソール−PM、HSDB6839、インタキセル、KBio2_002509、KBio2_005077、KBio2_007645、KBio3_002987、KBioGR_002509、KBioSS_002517、LipoPac、MBT 0206、MPI−5018、ナノタキセル(Nanotaxel)、NCI60_000601、Nova−12005、NSC 125973、NSC−125973、NSC125973、オンキソール(Onxol)、パクリゲル(Pacligel)、パキスセエド(Paxceed)、パキセン(Paxene)、パキソラール(Paxoral)、プラキシセル、QW 8184、SDP−013、TA1、タックス−11−エン−9−オン、タックスアルビン、タキソールA、キソラン(Xorane)またはイエウタキサン(Yewtaxan)。
【0062】
その化学構造は以下の通りである:
【0063】
【化6】
【0064】
IUPAC名:[2aR−[2a,4,4a,6,9(R,S),11,12,12a,12b]]−(ベンゾイルアミノ)−ヒドロキシベンゼンプロピオン酸6,12b−ビス−(アセチルオキシ)−12−(ベンゾイルオキシ)−2a−3,4,4a,5,6,9,10,11,12,12a,12b−ドデカヒドロ−4,11−ジヒドロキシ−4a,8,13,13−テトラメチル−5−オキソ−7,11−メタノ−1H−シクロデカ[3,4]ベンゾ[1,2−b]オキセト−9−イルエステル)。
【0065】
パクリタキセルは、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびメタノール、ならびに無水エタノールに高度に可溶性であるが、比較的低水溶性である。パクリタキセルは、pH3〜5で特に安定して長期間保存可能であるが、アルカリ性pHでは比較的不安定である。
【0066】
ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、酢酸エチル、エタノールおよびメタノールが、パクリタキセルの溶媒として使用される。
従って、1つの特に好ましい実施形態は、少なくとも1つのポリエトキシル化ヒマシ油、パクリタキセルおよびセラックを含む1つの層でコーティングされたバルーンカテーテルのカテーテルバルーンである。さらに、前記カテーテルバルーンのコーティングは、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートまたは第2層を含む。
【0067】
好ましくは、パキスリタキセル(paxlitaxel)とポリエトキシル化ヒマシ油は、1.0当量:0.10〜1.2当量で使用される。
再狭窄予防ラパマイシン(同義語:シロリムス)と同じ目的の非常に好都合な活性薬剤として、親水性マクロライド抗生物質が挙げられる。この活性薬剤は、特に免疫抑制剤として移植医学で使用される。この場合、他の免疫抑制活性薬剤とは反対に、ラパマイシンは腫瘍形成も阻害する。移植後、患者の腫瘍形成のリスクは高まり、シクロスポリンA等の他の免疫抑制剤は周知のように腫瘍形成を促進するため、ラパマイシンの投与は有利である。
【0068】
その化学構造は以下の通りである:
【0069】
【化7】
【0070】
IUPAC名:
[3S−[3R[E(1S,3S,4S)],4S,5R,8S,9E、12R,14R,15S,16R,18S,19S,26aR]]−5,6,8,11,12,13,14,15,16,17,18,19,24,25,26,26a−ヘキサデカヒドロ−5,19−ジヒドロキシ−3−[2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシシクロヘキシル)−1−メチルエテニル]−14,16−ジメトキシ−4,10,12,18−テトラメチル−8−(2−プロペニル)−15,19−エポキシ−3H−ピリド[2,1−c][1,4]−オキサアザシクロトリコシン−1,7,20,21(4H,23H)−テトロン一水和物。
【0071】
ラパマイシンの作用メカニズムは詳細にはまだ知られていないが、特にタンパク質mTOR(哺乳類ラパマイシン標的)282kDのホスファチジルイノシトール−3キナーゼとの複合体形成に起因する。mTORは、とりわけ一連のサイトカイン媒介のシグナル伝達経路に関与し、さらに免疫抑制効果に加えて細胞分裂に必要なシグナル経路にも関与しているため、ラパマイシンまたはシロリムスは、消炎特性、増殖抑制特性、および抗真菌特性さえも有する。
【0072】
増殖は、リボソームタンパク質合成を停止することにより、G1期後期で中断される。他の増殖抑制活性薬剤と比べて、ラパマイシンの作用メカニズムは、強い疎水性であること以外は、パクリタキセルと同様に特別であると指摘することができる。その上、上述の免疫抑制効果および消炎効果は非常に有利である。なぜなら、ステント移植後の早期制御としての炎症反応および全ての免疫反応の程度が、さらなる成功のために決定的であるからである。
【0073】
従って、ラパマイシンは、狭窄および再狭窄に対して使用するために必要な条件を全て有している。活性薬剤はステント移植後の最初の決定的な数週間に効果的である必要があるため、移植物上または移植物内のラパマイシンの限られた貯蔵寿命はパクリタキセルと比較してさらなる有利な点となることに言及すべきである。従って、順調な治癒過程を完了するために重要である内皮細胞層は、ステント一面に成長し、ステントを血管壁内に組み込む。
【0074】
周知のラパマイシン誘導体(バイオリムス、エベロリムス、ゾタロリムス)は、その修飾がmTORの結合領域とは無関係である分子の官能基に位置するため、同一の作用メカニズムが見出される。別の臨床研究(RAVEL、SIRIUS、SIROCCO)では、ラパマイシンは、デキサメタゾン、タクロリムス、バチマスタット等の他の活性薬剤とは反対に、強い疎水性のパクリタキセルと比較して、物理的特性が異なるにもかかわらず、再狭窄に対抗するために非常に好適であることがわかった。
【0075】
さらに特に好ましい実施形態は、ラパマイシンとポリエトキシル化脂肪族アルコールとの混合物で、さらにより好ましくはラパマイシンとポリエトキシル化ヒマシ油との混合物でコーティングし(活性薬剤含有層)、その後ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体でコーティングした(トップコート層または第2層)、カテーテルバルーンである。好ましくは、ラパマイシンおよびポリエトキシル化ヒマシ油は、1.0当量:0.10〜1.2当量で使用される。あるいは、活性薬剤含有層は、さらなる添加剤、特にセラックを含んでもよい。
【0076】
カテーテルバルーンのコーティング方法は、国際特許出願WO 2008/086794 A2に開示されている。ポリエトキシル化化合物およびセラックのような添加剤を有するまたは有さない活性薬剤溶液、トップコート、およびベースコートをそれぞれバルーン表面に塗布するために、任意の種類の一般的なコーティング過程を使用することができる。このようなコーティング過程の例として、スプレーコーティング、ブラシコーティング、ディップコーティング、蒸着、ピペット法、ドロップまたはスレッドドラッギング(drop or thread dragging)、ロール法、電子スピン法、プラズマ堆積法、スパッタリングまたは噴出法が挙げられる。ディップ法またはプラズマ堆積法は、好ましくは、カテーテルバルーン表面全体をコーティングする際に使用される。スパッタリング、ブラシ法、およびスプレー法は、好ましくは、バルーン表面の一部のみをコーティングする際に使用される。従って、ディップコーティング以外については、ノズル、複数のノズル、糸(スレッド)、糸のメッシュ、糸の一片、革の細片、スポンジ、ボール、シリンジ、針、カニューレまたは毛細管を含む、特定の放出装置を使用しなければならない。
【0077】
活性薬剤含有溶液中の活性薬剤の含有量は、溶液1ml当たり活性薬剤1μg〜1mg、好ましくは溶液1ml当たり活性薬剤10μg〜500μg、より好ましくは溶液1ml当たり活性薬剤30μg〜300μg、最も好ましくは溶液1ml当たり活性薬剤50μg〜100μgである。
【0078】
また、カテーテルバルーン1個当たりの活性薬剤合計量は、好ましくは10μg〜1000μg、最も好ましくはカテーテルバルーン1個当たり20μg〜400μgである。
一般的に、コーティングするカテーテルバルーンの表面1mm当たり0.1μg〜150μgの量の活性薬剤(好ましくは、パクリタキセルまたはラパマイシン)をカテーテルバルーンの表面に塗布することができるが、0.5μg/mm〜6μg/mmの量の活性薬剤(好ましくは、パクリタキセルまたはラパマイシン)が好ましく、所望の再狭窄予防効果を達成するには十分である。バルーン表面1mm当たりの活性薬剤(好ましくは、パクリタキセルまたはラパマイシン)の量は、好ましくは1.0μg/mm〜15.0μg/mm、より好ましくは1.5μg/mm〜10.0μg/mm、さらにより好ましくは2.0μg/mm〜6.0μg/mm、最も好ましくは2.5μg/mm〜4μg/mmである。
【0079】
コーティングするカテーテルバルーンの表面1mm当たり0.1μg〜150μgの量の少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤または界面活性剤をカテーテルバルーンの表面に塗布することができるが、少なくとも1つの活性薬剤を血管壁組織に効率的に移送するという所望の効果を達成するには、15μg/mm以下の量の少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤または界面活性剤で十分である。バルーン表面1mm当たりの少なくとも1つの乳化剤または界面活性剤の量は、好ましくは1.0μg/mm〜15.0μg/mm、より好ましくは1.5μg/mm〜10.0μg/mm、さらにより好ましくは2.0μg/mm〜5.0μg/mm、最も好ましくは2.5μg/mm〜3.5μg/mmである。
【0080】
コーティングするカテーテルバルーンの表面1mm当たり0.1μg〜150μgの量のポリエチレングリコールをカテーテルバルーンの表面に塗布することができるが、少なくとも1つの活性薬剤を血管壁組織に効率的に移送するという所望の効果を達成するには、15μg/mm以下の量のポリエチレングリコールで十分である。バルーン表面1mm当たりのポリエチレングリコールの量は、好ましくは1.0μg/mm〜15.0μg/mm、より好ましくは1.5μg/mm〜10.0μg/mm、さらにより好ましくは2.0μg/mm〜5.0μg/mm、最も好ましくは2.5μg/mm〜3.5μg/mmである。
【0081】
活性薬剤と少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤または界面活性剤との割合が、活性薬剤90重量%:少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤または界面活性剤10重量%〜活性薬剤10重量%:少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤または界面活性剤90重量%である、活性薬剤含有層を有するカテーテルバルーンが好ましい。活性薬剤と少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤または界面活性剤との割合が、活性薬剤65重量%:少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤または界面活性剤35重量%〜活性薬剤35重量%:少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤または界面活性剤65重量%である、活性薬剤含有層を有するカテーテルバルーンが特に好ましい。活性薬剤と少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤または界面活性剤との割合が、活性薬剤55重量%:少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤または界面活性剤45重量%〜活性薬剤45重量%:少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤または界面活性剤55重量%である、活性薬剤含有層を有するカテーテルバルーンがさらにより好ましい。
【0082】
添加してもよいセラックおよびポリエチレングリコールのようなさらなる賦形剤または担体物質の重量比は、使用される少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤または界面活性剤に対して50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、および特に好ましくは使用されるポリエトキシル化乳化剤または界面活性剤に対して10重量%以下である。
【0083】
また、少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤または界面活性剤および可能なさらなる添加剤(セラックおよびポリエチレングリコール等)に対する活性薬剤のモル比が、活性薬剤90%:マトリックス物質(ポリエトキシル化乳化剤または界面活性剤およびセラック)10%〜活性薬剤10%:マトリックス物質90%であるコーティングを有するカテーテルバルーンも好ましい。1:5〜5:1、およびさらにより好ましくは1:2〜2:1の混合物がさらに好ましい。
【0084】
上記の%値は、ポリエトキシル化乳化剤または界面活性剤としてのポリエトキシル化ヒマシ油において特に好ましい。
コーティングするカテーテルバルーンの表面1mm当たり0.1μg〜250μgの量のトップコートをカテーテルバルーンの活性薬剤コーティング上に塗布することができるが、少なくとも1つの活性薬剤を血管壁組織に効率的に移送するという所望の効果を達成するには、トップコート形成化合物の量は20μg/mm以下で十分である。バルーン表面1mm当たりのトップコート形成化合物の量は、好ましくは1.0μg/mm〜15.0μg/mm、より好ましくは1.5μg/mm〜10.0μg/mm、さらにより好ましくは2.0μg/mm〜5.0μg/mm、最も好ましくは2.5μg/mm〜3.5μg/mmである。
【0085】
コーティングするカテーテルバルーンの表面1mm当たり0.1μg〜50μgの量のさらなる添加剤をカテーテルバルーンの表面上に塗布することができる。バルーン表面1mm当たりのセラックのような少なくとも1つのさらなる添加剤の量は、好ましくは0.2μg/mm〜10.0μg/mm、より好ましくは0.5μg/mm〜8.0μg/mm、さらにより好ましくは1.0μg/mm〜5.0μg/mm、最も好ましくは1.5μg/mm〜3.5μg/mmである。
【0086】
所望によりカテーテルバルーン上に圧着されるステントは、本発明に従ってコーティングすることもできる。活性薬剤の濃度は、カテーテルバルーンの場合と同じ濃度が好ましい。
【0087】
さらに、カテーテルバルーンは、膨張(拡張)された状態または圧縮された状態でコーティングすることができる。本発明によれば、カテーテルバルーンは、完全にコーティングする必要はない。カテーテルバルーンを部分的にコーティングするか、またはカテーテルバルーンの表面上にある種の非平坦な要素を部分的に設けるかすれば十分であり得る。微細針または微細孔または微細チャンバーを含む特殊なカテーテルバルーンが、米国のシメッドライフシステムズインコーポレイテッド(Scimed Life Systems,Inc.)に付与された国際特許出願第WO 02/043796 A2号に開示されている。この場合、膨張可能で非平坦な領域がバルーン表面上に存在する。前記実施形態では、所望の治療上の成功を達成するには、バルーン表面のある部分に設けるかまたは膨張させれば十分であろう。この場合、表面全体をコーティングしてもよいことは明らかである。
【0088】
要約すると、コーティング装置を使用した1つの好適なコーティング方法は、以下の工程を含む:
A)非コーティングカテーテルバルーンを提供する工程;
B)前記バルーンを水平位置に配置するか、または好適な角度まで傾ける工程;
C)活性薬剤の溶液を提供する工程;
D)トップコート用溶液を提供する工程;
E)コーティング装置を所定の位置に設定し、活性薬剤溶液用溶液およびトップコート用溶液をカテーテルバルーンの表面上に移送する工程
F)各溶液を塗布する工程
G)コーティングされたカテーテルバルーンを乾燥させる工程。
【0089】
本発明によれば、上記のコーティング方法で使用される活性薬剤の溶液は、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤およびセラックのようなさらなる添加剤をさらに含有し得る。あるいは、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤または少なくとも1つのポリエトキシル化および所望によりセラックを含む別の溶液が提供され得る。前記溶液は、活性薬剤を含有する溶液を塗布する前にバルーンに塗布すべきである。
【0090】
従って、本発明によれば、本コーティング方法は所望により、さらなる工程を含むことができる:
C1)少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤および所望によりセラックまたはポリエチレングリコールの溶液を提供する工程、
および
E1)少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤の溶液をカテーテルバルーンに塗布する工程。
【0091】
工程C1)は工程C)の後に、および工程E1)は工程E)の後に実施される。ディップ法によるコーティングの場合、カテーテルバルーンは、ベースコート用溶液、活性薬剤溶液またはトップコート用溶液を含有する容器内に浸漬される。
【0092】
所望により、各溶液を塗布した後にそれぞれ乾燥工程を行うことができる。
コーティング装置を使用した別のコーティング方法は、以下の工程を含む:
A’)非コーティングバルーンを提供する工程;
B’)前記バルーンを水平位置に配置するか、または好適な角度まで傾ける工程;
C’)ベースコート用溶液を提供する工程;
D’)活性薬剤の溶液を提供する工程;
E’)トップコート用溶液を提供する工程;
F’)コーティング装置を所定の位置に設定し、ベースコート用溶液、活性薬剤溶液、およびトップコート用溶液をカテーテルバルーンの表面上に移送する工程
G’)各溶液を塗布する工程
H’)コーティングされたカテーテルバルーンを乾燥させる工程。
【0093】
本発明によれば、本コーティング方法は所望により、さらなる工程を含むことができる:
C’1)少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤および所望によりセラックまたはポリエチレングリコールの溶液を提供する工程、
および
F’1)少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤の溶液をカテーテルバルーンに塗布する工程。
【0094】
工程C’1)は工程C’)の後に、および工程F’1)は工程F)の後に行われる。これにより、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤は、ベース層上のカテーテルバルーンのコーティング中に取り込まれる。あるいは、少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤を活性薬剤溶液と混合してもよい。トップコートは常に、活性薬剤および少なくとも1つのポリエトキシル化界面活性剤または少なくとも1つのポリエトキシル化乳化剤を含まない。このことは、活性薬剤を含む溶液と、トップコートまたはトップ層用の活性薬剤を含まない溶液との、少なくとも2種の異なるコーティング溶液を調製しなければならないことを意味する。
【0095】
ディップ法によるコーティングの場合、カテーテルバルーンは、ベースコート用溶液、活性薬剤溶液またはトップコート用溶液を含有する容器内に浸漬される。
所望により、各溶液を塗布した後にそれぞれ乾燥工程を行うことができる。
【0096】
工程F’は、活性薬剤の溶液がベースコート中に浸透するように行われることが好ましい。
乾燥工程G)およびH’)は、室温または50℃までの高温、および大気圧または減圧〜高真空下で行うことができる。前述のように、乾燥工程G)およびH’)は各層の塗布後に行ってもよく、このことは、乾燥工程は活性薬剤の溶液を塗布した後に引き続き行うこともできることを意味する。従って、最初の乾燥工程は、好ましくは室温および大気圧で行い、本方法の最後のコーティング工程後の乾燥工程は、好ましくはより集中的に、即ち長時間または真空または高温で行われる。
【0097】
本発明によれば、本コーティング方法は所望により、工程HまたはI’)をそれぞれさらに含むことができる:
H)またはI’)コーティングされたカテーテルバルーンの滅菌工程。
【0098】
前記滅菌工程は、好ましくはエチレンオキシドで行われる。
本発明によりコーティングされるカテーテルバルーンは、好ましくは、移植済みのステント内での血管の再収縮であるステント内再狭窄の治療および予防に適している。このようなステント内再狭窄では、既存のステント内部に別のステントを配置することは、特に問題となる。なぜなら、血管は一般的に、第2ステントによって余り広げることができないからである。本明細書において、バルーン拡張による活性薬剤の塗布は理想的な治療方法を提供する。なぜなら、この治療法は必要に応じて数回繰り返すことができ、また治療上の観点から、別のステント移植よりも同じかまたは顕著に優れた結果が得られる可能性があるからである。さらに、本発明によりコーティングされたカテーテルバルーンは、小さい血管、好ましくは血管径が2.5mm未満、より好ましくは2.4mm未満、より好ましくは2.3mm未満、より好ましくは2.25mm未満、およびさらにより好ましくは2.2mm未満の血管の治療に特に適している。
【0099】
本発明によりコーティングされたカテーテルバルーンは、好ましくは、バルーンカテーテルの一構成要素である。従って、1つの好ましい実施形態は、少なくとも1つの活性薬剤と、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとを含むコーティングを有するカテーテルバルーンを含むバルーンカテーテルである。従って、本発明はさらに、本発明によりコーティングされたカテーテルバルーンを有するバルーンカテーテルに関する。本発明のバルーンカテーテルは、再狭窄を防止または低減するために好適である。
【0100】
ステント内再狭窄とは別に、本発明によりコーティングされたカテーテルバルーンは、好ましくは、狭窄、アテローム性動脈硬化症、および他のあらゆる形態の血管閉塞の防止、治療または低減のために使用することもできる。
【0101】
本発明によりコーティングされたカテーテルバルーンは、好ましくは心臓血管領域で使用されるが、本発明によりコーティングされたカテーテルバルーンは、末梢血管、胆道、食道、尿路、膵臓、腎臓管、肺管、気管、小腸および大腸の血管収縮の治療にも適している。
【0102】
以下の図および実施例は、可能な本発明の実施形態を示すが、本発明の範囲は前記詳細な実施例に制限されない。
発明者らは、原理実証研究において、試験を行った装置のなかで、パクリタキセル、セラック、Cremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)、およびPVA−PEGのトップコートを含む本発明のバルーン(グループ3)は、少なくとも5日間の動脈壁内の治療活性薬剤濃度の蓄積が可能であり、ピーク組織蓄積は配置後48時間であることを示すことができた。パクリタキセル、セラック、Cremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)、およびPVA−PEGのトップコートを含む本発明のバルーンを使用した血管拡張の1時間後には、動脈組織中のパクリタキセルの平均量は、組織1mg当たり活性薬剤約300ngであった。パクリタキセルおよびCremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)とPVA−PEGのトップコートのバルーンコーティングを試験するグループ2は、同様の結果を示す。パクリタキセルおよびCremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)とPEGのトップコートのバルーンコーティングを含むグループ4は、1時間後の動脈組織中のパクリタキセルの平均量がかなり少なかった。パクリタキセルおよびCremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)とPVAのトップコートのカテーテルバルーンコーティングを使用するグループ5の結果はさらに悪かった。トップコートを有さないカテーテルバルーンを使用する研究グループ1および6は、最悪の結果(組織1mg当たり活性薬剤約5および10ng)を示した。要約すると、パクリタキセル溶出性カテーテルバルーンを使用した血管拡張の後、トップコートは、動脈組織に移送され取り込まれるパクリタキセルの量を増加させることを原理実証研究は示している。さらに、ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートは、ポリビニルアルコールまたはポリエチレングリコールのトップコートよりも効率的であることを示すことができた。従って、本発明は、少なくとも1つの活性薬剤と、前記活性薬剤上のポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなるトップコートとでコーティングされたカテーテルバルーンに関する。ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体は、パクリタキセルでコーティングされるカテーテルバルーンの最適なトップコート材料と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
図1】実施例6の研究設計および実験手順を示す図。
図2】配置後1時間の3つの試験DEB(実施例6)の平均組織パクリタキセル濃度を示す図。平均活性薬剤濃度は、4個の血管から評価した。
図3】グループ3(実施例6)の時間依存平均組織活性薬剤濃度を示す図。データは、4個の治療血管(1、24および48時間)および3個の治療血管(120時間)から得ている。
【発明を実施するための形態】
【0104】
(実施例)
実施例1
活性薬剤の最終濃度がバルーン表面1mm当たり4.0μgおよび乳化剤の最終濃度がバルーン表面1mm当たり3.0μg/mmとなるように、ポリエトキシル化ヒマシ油およびパクリタキセルのクロロホルム溶液をドロップドラッグ(drop drag)法にてコーティングした折り畳みカテーテルバルーンを提供する。このカテーテルバルーンを室温で1時間放置して乾燥させる。次に、75%ポリビニルアルコール単位および25%ポリエチレングリコール単位からなるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートの溶液をパクリタキセルの層上に塗布する。トップコーティングを低真空にて温度50℃で乾燥させる。
実施例2
折り畳みカテーテルバルーンをピペット法でコーティングする。第一に、エタノール中に溶解されたポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のベースコート層を塗布し、続いてすぐに、パクリタキセルの濃度がバルーン表面1mm当たり4.0μgおよびポリエトキシル化脂肪族アルコールとポリエトキシル化ヒマシ油の濃度が3.0μg/mmとなるように、パクリタキセルのエタノール溶液と、ポリエトキシル化脂肪族アルコールおよびポリエトキシル化ヒマシ油をコーティングする。このカテーテルバルーンを室温で1時間放置して乾燥させる。次に、75%ポリビニルアルコール単位および25%ポリエチレングリコール単位からなるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートの溶液をパクリタキセルの層上に塗布する。トップコーティングを低真空にて温度50℃で乾燥させる。
実施例3
毛細管法によるパクリタキセルならびにポリエトキシル化脂肪族アルコールおよびポリエトキシル化ヒマシ油と、パクリタキセルの層上に塗布されるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートとでコーティングされた、折り畳みカテーテルバルーンを提供する。パクリタキセルの量は2μg/mm、ポリエトキシル化脂肪族アルコールおよびポリエトキシル化ヒマシ油の量は3.0μg/mmである。前記トップコートは、75%ポリビニルアルコール単位および25%ポリエチレングリコールからなるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体からなる。前記カテーテルバルーンは折り畳まれ、好ましくは細胞分裂阻害用量の活性薬剤であるパクリタキセルを含有する重合体担体系であるポリビニルアルコールでコーティングされたチタン製ステントが圧着される。チタン製ステントは予めパクリタキセルの溶液でコーティングされた。チタン製ステント上には、ステント表面1mm当たり2.5μgのパクリタキセルが存在する。
実施例4
カテーテルバルーンは好ましくは、第一工程において、ポリビニルアルコールでコーティングされ、引き続いて好ましくは噴出法により、ポリエチレン、ポリエトキシル化脂肪族アルコールおよびポリエトキシル化ヒマシ油およびラパマイシンの粘性混合物でコーティングされる。次に、75%ポリビニルアルコール単位および25%ポリエチレングリコール単位からなるポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフト共重合体のトップコートの溶液がコーティングされる。このコーティングは、低真空にて温度50℃で乾燥される。
実施例5:健康なウサギモデルにおける6つの異なるパクリタキセル溶出性バルーン(DEBと称される)の効率的な活性薬剤の移送に関する原理実証研究
この研究は、ミュンヘン工科大学のクリニックである「ドイツ心臓センターミュンヘン(Deutsches Herzzentrum Muenchen)」で行われた。地域の生命倫理委員会(Bioethical Committee)の適切な承認を得た。HPLC−MSに基づいた組織中の活性薬剤の分析は、米国コロラド大学(University of Colorado)ic42研究所(ic42 Laboratory)で行われた。
【0105】
以下のコーティングおよび担体マトリックスを有する6つの異なるカテーテルバルーンを評価した:
装置1:パクリタキセル溶出性バルーン「グループ1」、3.0×20mm、パクリタキセル3.0μg/mm2、セラック0.5μg/mm2、Cremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)2.5μg/mm2を含む一層
装置2:パクリタキセル溶出性バルーン「グループ2」、3.0×20mm、パクリタキセル3.0μg/mm2、Cremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)3.0μg/mm2を含む一層、およびトップ−コートとしてのPVA−PEG3.0μg/mm2
装置3:パクリタキセル溶出性バルーン「グループ3(DEB RESTORE)と称される」、3.0×20mm、パクリタキセル3.0μg/mm2、セラック0.5μg/mm2、Cremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)2.5μg/mm2、およびトップ−コートとしてのPVA−PEG3.0μg/mm2
装置4:パクリタキセル溶出性バルーン「グループ4」、3.0×20mm、パクリタキセル3.0μg/mm2、Cremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)3.0μg/mm2、およびトップ−コートとしてのPEG(PEGの平均分子量は11,000〜12,000ダルトン)3.0μg/mm2
装置5:パクリタキセル溶出性バルーン「グループ5」、3.0×20mm、パクリタキセル3.0μg/mm2、およびトップ−コートとしてのPVA(PVAの平均分子量は30,000ダルトン〜35,000ダルトン)3.0μg/mm2
装置6:パクリタキセル溶出性バルーン「グループ6」、3.0×20mm、パクリタキセル3.0μg/mm2およびCremophor(登録商標)ELP(ポリエトキシル化ヒマシ油)3μg/mm2
動脈組織の分析時間点は、1時間、24時間、48時間および120時間に予定された。
研究設計:
合計47個のDEBを24匹の健康なニュージーランドホワイトウサギに配置した(表3参照)。本目的のため、プロポフォールで動物に麻酔をかけ、フェンタニルを繰り返しボーラス投与することにより術中の鎮痛を確実にした。動物に挿管し、人工呼吸を施し、バイタルサイン(パルスオキシメトリーおよびカプノグラフィー)を常時管理した。静脈内にヘパリン500IUとアスピリン40mgを投与することにより、抗凝血を達成した。総頸動脈を切開することにより、動脈へのアクセスを行った。スワンガンツカテーテルは、蛍光透視による誘導下で大動脈弓上を通過し、腹部大動脈の総腸骨動脈の分岐直前まで進み、最初の血管造影が行われた。次に、ガイドワイヤを外腸骨動脈内に置いた。外腸骨動脈の中間部分内で1回のバルーン膨張[3.0×10mmサイズのバルーン(Elect(登録商標)、バイオトロニック社(Biotronik SE&Co.KG)製)、公称圧力(7atm)で30秒間保持]によりワイヤ誘導バルーン損傷(POBA)を行い、動脈損傷を生じさせ、健康な動脈の血管壁内への活性薬剤の取り込みを促した。その後、DEB(3.0×20mm)を配置して、生じさせた損傷の全長を覆った。公称圧力(6atm)で60秒間DEBを膨張させた。一時間点および一グループ当たり4個のDEBを、上述の技術を使って2匹のウサギの腸骨動脈内に左右対称に配置した。この手順の5分後に、最後の血管造影を行った。効果的な動脈組織への活性薬剤送達能力を有するDEBを特定するため、全てのDEBグループについて、配置後1時間で評価を行った。次に、最も期待できる組織活性薬剤含有量を示すDEB(グループ3、DEB−RESTORE)について、DEB膨張後24時間、48時間および120時間にさらに分析を行った。研究生存期(時間点48および120時間)を有する動物は、研究終了まで、術後一日一回、アスピリン40mgで経口抗凝血を受けた。
表1:移植の計画
【0106】
【表1】
【0107】
24匹の動物を本研究に割り当てた。最初の18匹の動物は、全ての試験用DEBの配置後1時間で動脈組織活性薬剤含有量を分析した。残りの6匹の動物は、グループ3に割り当てられ、24、48および120時間後に分析を行った。DEB配置前に、外腸骨動脈の中間部分内で血管形成術用バルーンカテーテル(Elect(著作権)、バイオトロニック社(Biotronik SE&Co.KG)製、3.0×10mm、膨張圧力7atm)を30秒間膨張させることにより、外腸骨動脈を損傷させた。
【0108】
研究を終了させるため、各時間点で動物に麻酔にかけ、その後すぐに静脈内にペントバルビタールを過剰投与して安楽死させた。1時間グループの動物は、研究が終了し組織を採取するまで麻酔下の状態を維持した。安楽死させた後、腹部を切開し、腹部大動脈と後大静脈を露出させ、動脈シースでアクセスした。血液が浄化されるまで、動脈シースを介して500mlのヘパリン化リンゲル液を血管に連続して流した。次に、処理した腸骨動脈を注意深く解離し、外植し、液体窒素中で瞬間凍結した。全ての示された治療グループ(1グループ当たりn=4動脈)を含む18匹の動物を、DEB配置後1時間で安楽死させた。一方、残りの6匹のグループ3の動物は、バルーン膨張後24時間、48時間および5日で安楽死させた(24および48時間の時間点はn=4動脈;120時間の時間点はn=3動脈)。処理された腸骨動脈は、ドライアイス上で分析実験室に運搬されるまで、−70℃で保管された。外植された処理済み血管を計量し、ホモジナイズした。この非希釈ホモジネートのパクリタキセル含有量を測定した。全ての時間点で、バッチサンプル(第1バッチ=試験用DEBの1時間サンプル;第2バッチ=グループ3、DEB−RESTOREの24、48および120時間サンプル)を明確に同定し、同じ日に同じ抽出方法で処理した。検出範囲を超えるパクリタキセル含有量を示すサンプルは、1:100および1:500で希釈し、繰り返し測定した。
結果:
全ての動物は毒性の徴候を示すことなく本手順の中で生き延びた。DEB配置後に目立った悪影響はなく、DEB膨張後の血管造影では、血管は開存しており、血管壁が解離している兆候がないことが示しされた。巨視的に、血管外植時に、血管の外傷または解離の兆候もなかった。留意すべきことは、動物8_12A(グループ3、24時間)ならびに動物9_12および10_12(両方の動物ともグループ3、48時間)の血管は、動脈の腹側部位に位置する長さ1〜2mmの白色の付着物を示したことである。この現象は、1時間グループと120時間グループでは観察されなかった。研究の生存期を有する動物(グループ3、24、48および120時間)は、大腿動脈パルスを毎日触診し且つつま先をチェックして低酸素状態の徴候を診ることにより臨床的に評価したところ、治療された脚の血流に変化はなかった。
【0109】
HPLCに基づいた組織活性薬剤濃度の分析により、DEBグループ1の活性薬剤濃度は、DEB配置後1時間の動脈壁において、組織1mg当たり活性薬剤5.19±3.95ng(n=4動脈)であることが明らかになった。組織濃度は1〜10ng/mgであった。
【0110】
DEB配置後1時間の動脈壁においてグループ6について分析した平均組織活性薬剤濃度は、組織1mg当たり活性薬剤10.72±11.24ng(n=4動脈)であった。組織濃度は4〜27ng/mgの範囲であった。
【0111】
バルーン膨張後1時間のグループ3は、平均パクリタキセル濃度が組織1mg当たり活性薬剤303.29±326.98ng(n=4動脈)であることから表されるように、動脈組織内の活性薬剤の量は非常に多いことを示した。特に、動脈壁の活性薬剤取り込み量は組織1mg当たり2〜700ng超であり、バラツキが大きかった。後期の時間点における動脈活性薬剤濃度の分析により、120時間まで活性薬剤の濃度は依然として高い(最後に分析した時間点と類似)ことが明らかになった。
【0112】
グループ3の配置後24時間では、パクリタキセルの平均組織濃度は、組織1mg当たり活性薬剤302.65±391.71ng(n=4動脈)であった。48時間では、4つの分析した血管内で、組織活性薬剤濃度の平均値が組織1mg当たり活性薬剤961.94±226.54ngまで上昇していることが表された。最後の分析時間点である120時間では、平均活性薬剤濃度が僅かに減少した(組織1mg当たり活性薬剤674.26±1158.78ng)。それでも、治療した血管の組織活性薬剤濃度は4〜2000ng/mg超であり(n=3動脈)、バラツキは大きかった。
表2:平均活性薬剤組織濃度(組織1mg当たりの活性薬剤(ng))
【0113】
【表2】
【0114】
健康な血管中への活性薬剤の取り込み量は主としてDEB配置前の組織損傷の程度に依存するため、健康な動物モデルを使う場合、活性薬剤の取り込み量に開きが観察されたことは想定の範囲内であった。1つのケース(グループ3、バルーンNo.5、24時間時間点)では、低い活性薬剤取り込み量が示されているが、これは保護シースの抽出中にパクリタキセルコーティングが失われたためであると説明づけることができる。
【0115】
試験装置の中で、グループ3は、現代の薬剤溶出性バルーン装置の間で新生内膜成長を低減するために有効であるとこれまでに示された(ウンフェルドルベン(Unverdorben)ら、「Circ」、2009年;ジョナー(Joner)ら、「Thromb Haemost」、2011年)顕著なパクリタキセル濃度を達成した。
【0116】
そのため、グループ3は、配置後120時間(5日間)まで、その薬物動態学プロフィールをさらに分析した。5日間追跡した結果血管壁の解離または動脈瘤の証拠は得られず、且つ動物は治療した脚のかん流不良の兆候も示さず、このことは塞栓形成の不在を示唆するため、この装置の適用は安全であると考えられる。本研究の結果によると、最初の24時間以内にパクリタキセルの動脈組織への急速な活性薬剤取り込みが存在した。留意すべきことは、DEB−RESTORE配置後24および48時間以内に組織濃度がさらに上昇したことである。このことは、グループ3を健康な動脈に配置すると、その活性薬剤取り込み能力が遅延する証拠となる。このことは、現代の薬剤溶出性バルーンの好ましい効果として理解される。なぜなら、血管壁内の生物学的利用能力が長引くということは、増殖抑制能力の拡張の証しであるからである。
結論:
この原理実証研究は、試験した装置の中で、トップコートを含む本発明のバルーン(グループ3)は、動脈壁中の治療用活性薬剤濃度の蓄積を少なくとも5日間許容する。ピーク組織蓄積は、配置してから48時間後である。
図1
図2
図3