特許第6076365号(P6076365)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱製紙株式会社の特許一覧

特許6076365産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076365
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/52 20060101AFI20170130BHJP
   D21H 19/38 20060101ALI20170130BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   B41M5/52 110
   D21H19/38
   D21H27/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-538550(P2014-538550)
(86)(22)【出願日】2014年8月7日
(86)【国際出願番号】JP2014070808
(87)【国際公開番号】WO2015049922
(87)【国際公開日】20150409
【審査請求日】2016年1月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-207213(P2013-207213)
(32)【優先日】2013年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】名越 応昇
(72)【発明者】
【氏名】兼子 了
(72)【発明者】
【氏名】中村 淳
【審査官】 野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−236153(JP,A)
【文献】 特開2011−148194(JP,A)
【文献】 特開2006−89852(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/066662(WO,A1)
【文献】 特開2012−214012(JP,A)
【文献】 特開2015−89662(JP,A)
【文献】 特開2015−150839(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/108753(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/027614(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00 − 5/52
D21H 19/00 − 19/84
D21H 27/00 − 27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙と、原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーを主成分とする塗工層とを有する産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙であり、
原紙が、平均短径0.3μm以上0.4μm以下であり且つ平均長径/平均短径が2.0以上7.0以下である紡錘状軽質炭酸カルシウムの凝集物である平均二次粒子径3.0μm以上5.5μm以下の軽質炭酸カルシウムと、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩からなる群から選ばれる少なくとも1種とを含有し、
塗工層が、平均粒子径0.1μm以上0.28μm以下である重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料100質量部に対して60質量部以上含有する産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙。
【請求項2】
原紙に含まれる平均二次粒子径3.0μm以上5.5μm以下の軽質炭酸カルシウムが、紡錘状軽質炭酸カルシウムの長径方向の一方の端部で放射状に凝集してなる凝集物である請求項1に記載の産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙。
【請求項3】
原紙が、平均二次粒子径3.0μm以上5.5μm以下の軽質炭酸カルシウムを原紙中の総填料100質量部に対して80質量部以上で含有する請求項1又は2に記載の産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙。
【請求項4】
カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の原紙中の乾燥固形分換算総含有量が、0.2g/m以上8.0g/m以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙。
【請求項5】
カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種がサイズプレスを用いて原紙に付与される請求項1〜4のいずれか1項に記載の産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商業印刷分野に用いられる産業用インクジェット印刷機に使用する産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式の技術が急速に進歩し、多数枚の商業印刷物を製造するための産業用または商業用の印刷機に、インクジェット記録方式を使用する産業用インクジェット印刷機が公知である(例えば、特開2011−251231号公報、特開2005−088525号公報、徳増路子著「B2判印刷本紙対応インクジェット印刷機」(「印刷雑誌」、印刷学会出版部発行、2010年8月号(Vol.93)、21頁〜24頁)および宮城安利著「オフセット品質のインクジェット印刷機」(「印刷雑誌」、印刷学会出版部発行、2010年8月号(Vol.93)、25頁〜29頁)参照)。産業用インクジェット印刷機は、例えば、大日本スクリーン製造社のTruepressJet、ミヤコシ社のMJPシリーズ、コダック社のProsperおよびVERSAMARK、富士フィルム社のJetPressなどの名称で販売されている。
【0003】
このような産業用インクジェット印刷機は、印刷諸条件に依存するものの一般家庭向けおよびSOHO向けインクジェットプリンター、並びに大判インクジェットプリンター(以下、両者を併せて単に「インクジェットプリンター」ともいう)に比べてカラー印刷速度が10倍〜数十倍と速く、印刷速度が15m/分以上、より高速では60m/分を超える。このため、産業用インクジェット印刷機は、一般家庭向けおよびSOHO向けインクジェットプリンターおよび大判インクジェットプリンターと区別される。
【0004】
産業用インクジェット印刷機に用いられるインクには、インクジェットプリンターと同様に水性染料インクと水性顔料インクとが含まれる。
【0005】
産業用インクジェット印刷機は、可変情報を取り扱うことができるためにオンデマンド印刷に適応することができる。印刷業者は、例えば、固定情報をグラビア印刷機、オフセット印刷機、活版印刷機、フレキソ印刷機、熱転写印刷機またはトナー印刷機など従来からの印刷機で印刷し、可変情報を産業用インクジェット印刷機で印刷する形態を採用する場合が多い。従来からの印刷機としては、特に、印刷画質や製造コストの点からオフセット印刷機の使用される場合が多い。
【0006】
従って、産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙は、オフセット印刷機など従来の印刷機による印刷および産業用インクジェット印刷機による印刷の両方に印刷適性を有する必要がある。これらの印刷適性を有さなければ、これら印刷機による印刷によって商品として十分な画質が得られない。
【0007】
また、商業印刷の高精細化、高画質化の要望に応えるために、汎用のCWFマットコート紙やCWFグロスコート紙など印刷用塗工紙と同様の質感で、産業用インクジェット印刷機に使用できる印刷用塗工紙が要望されている。
【0008】
水性染料インクおよび水性顔料インクのいずれのインクジェットプリンターにて印字した場合においても、印字濃度、インク吸収性が高くおよび裏抜けがないインクジェット記録用紙が公知である(例えば、特開2006−256001号公報参照)。この記録用紙は、パルプと、平均粒子径が1.6μm以上かつ吸油量が90ml/100g〜200ml/100gであるロゼッタ型軽質炭酸カルシウムを主に含む填料とを主成分とした基紙の少なくとも片面に、顔料と結着剤とを含有するインク受容層を一層以上設け、さらに基紙のJIS−P8251に規定される灰分が15〜40%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−251231号公報
【特許文献2】特開2005−088525号公報
【特許文献3】特開2006−256001号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】徳増路子著「B2判印刷本紙対応インクジェット印刷機」(「印刷雑誌」、印刷学会出版部発行、2010年8月号(Vol.93)、21頁〜24頁)
【非特許文献2】宮城安利著「オフセット品質のインクジェット印刷機」(「印刷雑誌」、印刷学会出版部発行、2010年8月号(Vol.93)、25頁〜29頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
水性染料インクと水性顔料インクとはそれぞれ異なる欠点を有する。水性染料インクは、色材がインク溶媒と共に浸透し易い。その結果、印刷濃度が低下する場合がある。このために、印刷濃度が向上する印刷用塗工紙が望まれている。水性顔料インクは、印刷速度が速くなるにつれ印刷用塗工紙のインク吸収性にバラツキが発生し易い。その結果、印刷部分の色濃度が不均一になる場合がある。このために、色濃度が不均一になることを抑制できる印刷用塗工紙が望まれている。微細なノズルからインク滴を吐出するという原理的な制約から、産業用インクジェット印刷機のインクはオフセット印刷機など従来の印刷機のインクに比べてインクの色材含有濃度が低い。このために、印刷濃度が低下する現象や色濃度が不均一になる現象が発生し易い。
【0012】
また、インクの色材含有濃度が低くてインク溶媒が多く含まれることから、インクの裏抜け現象が発生し易い。「インクの裏抜け」とは、インクが、印刷側の面に止まらず原紙の深部まで到達し、反対面側から印刷画像が視認される現象である。商業印刷では両面印刷する場合が多く、インクの裏抜けは、商品として十分な画質を損なう。
【0013】
特開2006−256001号公報に記載されるが如くのインクジェット記録用紙は、A4サイズのインクジェットプリンターで評価しているのみであり、産業用インクジェット印刷機に対して十分に検討がなされていない。また、同インクジェット記録用紙は、インクジェットプリンターにおいてインクの裏抜けを抑制できるものの、水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対する印刷部分の色濃度が不均一になる現象の抑制性やオフセット印刷機に対する印刷適性については必ずしも十分とはいえない。ここで、オフセット印刷機に対する印刷適性とは、ブランケットパイリングなどの印刷不良が抑制されることを指す。
【0014】
本発明の目的は、下記の性能の少なくとも1つを有する産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙を提供することである。
1.オフセット印刷機に対する印刷適性を有すること(オフセット印刷適性)。
2.水性染料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対して印刷濃度の低下が無く良好であること(発色性)。
3.水性染料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対してインクの裏抜けが十分に抑制されていること(インクの裏抜け抑制性)。
4.水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対して印刷部分の色濃度が不均一になる現象を抑制すること(耐不均一性)。
5.水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対してインクの裏抜けが十分に抑制されていること(インクの裏抜け抑制性)。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上記に鑑み鋭意研究した結果、本発明の目的は、原紙と、原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーを主成分とする塗工層とを有する産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙であり、原紙が、平均短径0.3μm以上0.4μm以下であり且つ平均長径/平均短径が2.0以上7.0以下である紡錘状軽質炭酸カルシウムの凝集物である平均二次粒子径3.0μm以上5.5μm以下の軽質炭酸カルシウムと、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、塗工層が、平均粒子径0.1μm以上0.28μm以下である重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料100質量部に対して60質量部以上含有する産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙によって達成される。
【0016】
本発明により、オフセット印刷機に対する印刷適性が良好であり、水性染料インクを用いる産業用インクジェット印刷機に対する発色性およびインクの裏抜け抑制性、並びに水性顔料インクを用いる産業用インクジェット印刷機に対する耐不均一性およびインクの裏抜け抑制性を有する産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙を提供することができる。
【0017】
本発明の別の態様として、印刷物製造方法であって、上記の産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙を準備する工程と、該産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙に水性染料インクまたは水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機を用いて印刷速度60m/分以上で印刷画像を形成する工程と、を有する印刷物製造方法を提供する。
【0018】
この印刷物製造方法によって、水性染料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対して印刷濃度の低下が無く、水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対して印刷部分の色濃度が不均一になる現象が抑制され、水性染料インクまたは水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対してインクの裏抜けが十分に抑制された印刷物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙(以下、単に「印刷用塗工紙」とも記載する。)について詳細に説明する。本明細書中で使用される場合、「インクジェット印刷」とは、産業用インクジェット印刷機を用いて印刷することをいう。また、本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0020】
産業用インクジェット印刷機には、用紙搬送方式の違いによって連続紙タイプとカット紙タイプがある。また搭載するインク種には、色材が染料である水性染料インクと色材が顔料である水性顔料インクがある。本発明において、産業用インクジェット印刷機の用紙搬送方式またはインク種についてはいずれでも構わない。
【0021】
印刷する画像に可変情報と固定情報が存在する場合は、固定情報の一部または全部をグラビア印刷機、オフセット印刷機、活版印刷機、フレキソ印刷機、熱転写印刷機またはトナー印刷機など従来からの印刷機を用いて印刷することが好ましい。特に、印刷画質や製造コストの点からオフセット印刷機が好ましい。従来からの印刷機の印刷は、産業用インクジェット印刷機を用いて印刷する前であっても後であっても構わない。
【0022】
従来からの印刷機は、例えば、グラビア印刷機、オフセット印刷機、活版印刷機、フレキソ印刷機、熱転写印刷機またはトナー印刷機である。グラビア印刷機は、画像が彫り込まれたロール状の版胴を介してインクを被印刷体に転写する方式の印刷機である。オフセット印刷機は、インクを一度ブランケットに移してから被印刷体に再び転移する間接印刷方式の印刷機である。活版印刷機は、凸版に付与されたインクを被印刷体に押しつけるように圧をかけて印刷する凸版印刷方式の印刷機である。フレキソ印刷機は、柔軟な弾性のある樹脂版を使用する凸版印刷方式の印刷機である。熱転写印刷機は、各色のインクリボンを用いる印刷機であって、熱によってインクリボンから色材を被印刷体に転写する方式の印刷機である。トナー印刷機は、帯電ドラムに付着したトナーを、静電気を利用して被印刷体にトナーを転写させる電子写真方式の印刷機である。
【0023】
原紙は、LBKP(Leaf Bleached Kraft Pulp)、NBKP(Needle Bleached Kraft Pulp)などの化学パルプ、GP(Groundwood Pulp)、PGW(Pressure GroundWood pulp)、RMP(Refiner Mechanical Pulp)、TMP(ThermoMechanical Pulp)、CTMP(ChemiThermoMechanical Pulp)、CMP(ChemiMechanical Pulp)、CGP(ChemiGroundwood Pulp)などの機械パルプ、DIP(DeInked Pulp)などの古紙パルプから選択されるセルロースパルプ(これらは、単独でも2種以上を組み合わせてもよい)と、填料と、さらに必要に応じてサイズ剤、定着剤、歩留まり剤、カチオン化剤などの各種添加剤とを含有する紙料から、酸性、中性、アルカリ性の従来公知の方法で抄造された紙である。
【0024】
原紙は、填料として、平均短径0.3μm以上0.4μm以下であり且つ平均長径/平均短径が2.0以上7.0以下である紡錘状軽質炭酸カルシウムの凝集物である平均二次粒子径3.0μm以上5.5μm以下の軽質炭酸カルシウム(以下、「毬栗状軽質炭酸カルシウム」ともいう)を含有する。
【0025】
原紙は、毬栗状軽質炭酸カルシウム以外の従来公知の填料を本発明の効果を損なわない程度に含有することができる。毬栗状軽質炭酸カルシウム以外の填料は、例えば、針状や立方体状などの軽質炭酸カルシウムやそれらが凝集した軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリンなどを挙げることができる。軽質炭酸カルシウムは、化学的に製造される炭酸カルシウムである。
【0026】
軽質炭酸カルシウムの製造方法の例としては、炭酸ガス化合法または可溶性塩反応法などを挙げることができる。炭酸ガス化合法とは、石灰石を焼成して得られる生石灰を水に溶かして石灰乳とし、石灰乳に炭酸ガスを反応させて軽質炭酸カルシウムを生成する方法である。可溶性塩反応法とは、石灰乳に塩化カルシウム溶液と炭酸ソーダとを反応させ軽質炭酸カルシウムを生成する方法である。反応条件等によって、軽質炭酸カルシウムの結晶系・大きさ・形状を調整することができる。軽質炭酸カルシウムの結晶系としては、カルサイト系結晶またはアラゴナイト系結晶などがある。カルサイト系結晶の形状は一般的に、紡錘状、それらが凝集結合したような毬栗状、または立方体状(キュービック状または団子状)である。アラゴナイト系結晶の形状は一般的に、棒状あるいは針状である。本発明の印刷用塗工紙は、原紙が、特定の粒子径からなる毬栗状軽質炭酸カルシウムを含有することにより、産業用インクジェット印刷機に対するインクの裏抜け抑制性を得ることができる。この理由は定かではないが、特定の粒子径からなる毬栗状軽質炭酸カルシウムの特殊な形状が、原紙の内部の光散乱を効果的に増大させ、結果として原紙の不透明性が向上するために係る効果が得られるものと考えられる。
【0027】
原紙中の毬栗状軽質炭酸カルシウムの含有量は、原紙中の総填料100質量部に対して80質量部以上が好ましく、85質量部以上がより好ましく、90質量部以上が更に好ましい。この理由は、産業用インクジェット印刷機に対するインクの裏抜け抑制性の効果が顕著となるからである。
【0028】
毬栗状軽質炭酸カルシウムは、平均短径0.3μm以上0.4μm以下であり且つ平均長径/平均短径が2.0以上7.0以下である紡錘状軽質炭酸カルシウムが凝集して成る平均二次粒子径3.0μm以上5.5μm以下の凝集粒子である。好ましくは、毬栗状軽質炭酸カルシウムの平均短径が0.32μm以上0.36μm以下であり且つ平均長径/平均短径が3.0以上4.0以下である紡錘状軽質炭酸カルシウムが凝集して成る平均二次粒子径3.5μm以上4.0μm以下の凝集粒子である。紡錘状とは、円柱状粒子から両端に行くに従って次第に細くなり中央部分が太くなっている形状である。紡錘状は、例えば、ラグビーボールのような形をなしている。ここで、長径は、次第に細くなっている両端間の長さである。短径は、最も太くなっている部分の外周を円周としたときの円の直径である。毬栗状軽質炭酸カルシウムは、紡錘状の一次粒子である軽質炭酸カルシウムが長径方向の一方の端部で放射状に凝集して毬栗状の凝集粒子を形成したものであることが好ましく、Rosette型軽質炭酸カルシウムとも呼ばれる。毬栗状軽質炭酸カルシウムは市販されており、本発明に用いることができる。例えば、奥多摩工業社製のタマパール121SA、タマパール221BM等を挙げることができる。紡錘状軽質炭酸カルシウムの平均短径や平均二次粒子径が上記範囲外である場合または平均長径/平均短径の比が上記範囲外である場合は、産業用インクジェット印刷機に対するインクの裏抜け抑制性が充分に得られない場合がある。
【0029】
軽質炭酸カルシウムの一次粒子の形状、平均短径および平均長径、また、二次粒子の形状および平均二次粒子径は、走査型電子顕微鏡写真から画像解析することで求めることができる。一次粒子の平均短径および平均長径は、走査型電子顕微鏡を用いて電子顕微鏡写真を撮影し、撮影された画像から紡錘状の形状が確認できる任意の100個の一次粒子を観察および実測して算出することができる。平均二次粒子径は、走査型電子顕微鏡を用いて電子顕微鏡写真を撮影し、撮影された画像から任意の100個の二次粒子に対して面積が近似する球形と見なして粒子径を計算して平均二次粒子径を算出することができる。
【0030】
原紙の灰分量は15質量%以上30質量%以下が好ましく、18質量%以上28質量%以下がより好ましい。この理由は、灰分量が上記範囲であると、産業用インクジェット印刷機に対するインクの裏抜け抑制性と原紙の強度との関係が良好に両立できるからである。原紙の灰分量が15質量%以上の場合、インクの裏抜け抑制性がより向上する傾向がある。原紙の灰分量が30質量%以下の場合、オフセット印刷機による印刷の際に、紙ムケ、粉落ち等のトラブルの発生がより抑制される傾向がある。
【0031】
ここでいう灰分量とは、原紙を500℃で1時間燃焼処理を行った後の不燃物の質量と、燃焼処理前の原紙の絶乾質量に対する比率(質量%)である。灰分量は、原紙中の填料等の含有量によって調整することができる。
【0032】
紙料は、その他の添加剤として、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤などを本発明の所望の効果を損なわない範囲で、適宜含有することができる。
【0033】
原紙のサイズ度は、本発明の所望の効果を損なわない限りいずれのサイズ度でもよく、内添サイズ剤の含有量、原紙に塗工する表面サイズ剤の塗工量によって調整することができる。内添サイズ剤は、例えば、酸性紙であればロジン系サイズ剤、中性紙であればアルケニル無水コハク酸、アルキルケテンダイマー、中性ロジン系サイズ剤またはカチオン性スチレン−アクリル系サイズ剤などである。また表面サイズ剤は、例えば、澱粉類、スチレン−アクリル系サイズ剤、オレフィン系サイズ剤、スチレン−マレイン系サイズ剤などである。
【0034】
原紙は、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種を含有する。
【0035】
原紙に、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種を含有させる方法は、(1)紙料中に添加して抄造する方法、(2)サイズプレス液に添加してサイズプレスを用いて付与する方法、(3)表面処理液に添加してサイズプレス以外のカーテンコーターやエアーナイフコーター等の塗工手段を用いて付与する方法、などがある。本発明において、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種を原紙に含有させる方法は上記(2)の方法が好ましい。この理由は、(2)の方法が、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種を、原紙の表面近傍に且つ均一に最も含有させることができるからである。
【0036】
カチオン性樹脂は、カチオン性ポリマーまたはカチオン性オリゴマーであり、従来公知のものを使用することができる。好ましいカチオン性樹脂は、プロトンが配位し易く、水に溶解したとき離解してカチオン性を呈する1級〜3級アミンまたは4級アンモニウム塩を含有するポリマーまたはオリゴマーである。カチオン性樹脂の例としては、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン、ポリアミンスルホン、ポリジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリジアルキルアミノエチルアクリレート、ポリジアルキルアミノエチルメタクリルアミド、ポリジアルキルアミノエチルアクリルアミド、ポリエポキシアミン、ポリアミドアミン、ジシアンジアミド−ホルマリン縮合物、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等の化合物およびこれらの塩酸塩、さらにポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドおよびジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミド等のモノマーとの共重合物、ポリジアリルメチルアミン塩酸塩、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物やジエチレントリアミン−エピクロルヒドリン重縮合物等の脂肪族モノアミンまたは脂肪族ポリアミンとエピハロヒドリン化合物との重縮合物などを挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。なお、カチオン性樹脂はこれらに限定されない。商業的入手容易性の点から、カチオン性樹脂はジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物、ポリエチレンイミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物が更に好ましい。本発明において、カチオン性樹脂の平均分子量は特に限定されないが、500以上20,000以下の範囲が好ましい。
【0037】
水溶性多価陽イオン塩は、金属の多価陽イオンを含む水溶性塩である。好ましい多価陽イオン塩は、金属の多価陽イオンを含み、20℃の水に1質量%以上溶解することができる塩である。金属の多価陽イオンの例としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ニッケル、亜鉛、銅、鉄、コバルト、スズ、マンガンなどの二価陽イオン;アルミニウム、鉄、クロムなどの三価陽イオン;またはチタン、ジルコニウムなどの四価陽イオン;並びにそれらの錯イオンを挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、二価陽イオンからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種が更に好ましい。金属の多価陽イオンと塩を形成する陰イオンとしては、無機酸および有機酸のいずれに由来するものでもよく、特に限定されない。無機酸の例としては、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸などを挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。有機酸の例としては、ギ酸、酢酸、乳酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、有機スルホン酸などを挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。但し、サイズ剤の定着剤として用いられる硫酸アルミニウムは除く。
【0038】
水溶性多価陽イオン塩は、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、硝酸カルシウムおよび酢酸カルシウムなどのカルシウム塩、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、ギ酸マグネシウムおよび酢酸マグネシウムなどのマグネシウム塩からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、硝酸カルシウムおよび酢酸カルシウムなどのカルシウム塩からなる群から選択される少なくとも1種が更に好ましい。この理由は、オフセット印刷適性を有しつつ、産業用インクジェット印刷機に対する耐不均一性がより良好になるからである。薬品コストの点から、塩化カルシウムまたは硝酸カルシウムが好ましい。
【0039】
カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種を原紙に含有させる方法として「(2)サイズプレス液に添加してサイズプレスを用いて付与する方法」の場合は、サイズプレス液に、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種以外に従来公知の表面サイズ剤を添加することができる。
【0040】
サイズプレスは、従来公知の方式である。サイズプレスの例としては、インクラインドサイズプレス、ホリゾンタルサイズプレス、フィルムトランスファー方式としてロッドメタリングサイズプレス、ロールメタリングサイズプレス、ブレードメタリングサイズプレスを、ロッドメタリングサイズプレスではシムサイザー、オプティサイザー、スピードサイザー、フィルムプレスを、ロールメタリングサイズプレスではゲートロールコーターを挙げることができる。その他にも、ビルブレードコーター、ツインブレードコーター、ベルバパコーター、タブサイズプレス、カレンダーサイズプレス等を挙げることができる。好ましくは、インクラインドサイズプレス、ホリゾンタルサイズプレス、ゲートロールコーター、シムサイザー、フィルムプレスである。
【0041】
カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種の原紙中の乾燥固形分換算総含有量は0.2g/m以上8.0g/m以下が好ましく、0.5g/m以上7.0g/m以下がより好ましい。この理由は、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種の原紙中の乾燥固形分換算総含有量が、上記範囲であると、印刷用塗工紙の発色性、耐不均一性あるいはインクの裏抜け抑制性がより良好になるからである。
【0042】
「(2)サイズプレス液に添加してサイズプレスを用いて付与する方法」または「(3)表面処理液に添加してサイズプレス以外のカーテンコーターやエアーナイフコーター等の塗工手段を用いて付与する方法」の場合は、乾燥固形分換算総含有量は片面あたり0.1g/m以上4.0g/m以下が好ましい。総含有量とは、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる全ての化合物を合計した原紙中の乾燥固形分換算含有量を意味する。上記(2)または上記(3)の場合、乾燥固形分換算総含有量は乾燥固形分換算塗工量から求めることができる。
【0043】
本発明の好ましい態様としては、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種がサイズプレスを用いて原紙に付与されることによって、原紙が、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種を含有し、さらに、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種の原紙中の乾燥固形分換算総含有量が0.2g/m以上8.0g/m以下である。
【0044】
好ましい態様によって、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種を原紙の表面近傍に且つ均一に最も含有させることができる。その結果、印刷用塗工紙の発色性、耐不均一性あるいはインクの裏抜け抑制性がより良好になる。
【0045】
原紙は、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩から選ばれる少なくとも1種に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、アニオン性樹脂を更に含んでいてもよい。原紙に含まれるアニオン性樹脂の含有量は2.0g/m以下が好ましく、1.0g/m以下がより好ましく、実質的に含まれないことが更に好ましい。
【0046】
原紙は、カレンダー処理してから使用することができる。
【0047】
印刷用塗工紙は、原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーを主成分とする塗工層を有する。ここで主成分とは、塗工層を形成する乾燥固形分量において顔料とバインダーとの合計量が最も高い割合を占める場合をいう。
【0048】
塗工層は、顔料として平均粒子径0.1μm以上0.28μm以下の範囲の重質炭酸カルシウムを含有する。重質炭酸カルシウムの平均粒子径は0.12μm以上0.28μm以下が好ましく、0.12μm以上0.23μm以下がより好ましい。
【0049】
重質炭酸カルシウムは、粒子径1.5μm超の粒子を含有しないことが好ましい。この理由は、インクジェット印刷における耐不均一性がより良好になるからである。
【0050】
重質炭酸カルシウムの平均粒子径は、レーザー回折・散乱法あるいは動的光散乱法を用いた体積を基準とした粒度分布測定に基づく平均粒子径である。単粒子の場合は単粒子の平均粒子径であり、二次粒子など凝集粒子を形成する場合は凝集粒子の平均粒子径である。平均粒子径は、例えば、日機装社製レーザー回折・散乱式粒度分布測定器Microtrac MT3300EXIIを用いて測定することができる。印刷用塗工紙から重質炭酸カルシウムの粒度分布および平均粒子径を算出する場合は、例えば、走査型電子顕微鏡を用いて印刷用塗工紙表面の電子顕微鏡写真を撮影し、撮影された粒子を面積が近似する球形と見なして粒子径を計算し、撮影画像内に存在する100個から粒子を測定することによって算出することができる。
【0051】
印刷用塗工紙の塗工層は、重質炭酸カルシウム以外に従来公知の顔料を含有することができる。従来公知の顔料の例としては、各種カオリン、クレー、タルク、軽質炭酸カルシウム、サチンホワイト、リトポン、酸化チタン、酸化亜鉛、合成シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、プラスチック顔料や有機顔料などを挙げることができる。
【0052】
平均粒子径0.1μm以上0.28μm以下である重質炭酸カルシウムの塗工層中の含有量は、塗工層中の総顔料100質量部に対して60質量部以上であり、70質量部以上が好ましく、80質量部以上がより好ましい。この理由は、産業用インクジェット印刷機に対して、より良好な発色性や耐不均一性を得ることができるからである。
【0053】
特定の平均粒子径を有する重質炭酸カルシウムは、例えば、次に示す方法で製造することができる。先ず、天然石灰石を乾式粉砕し得られた粉体を、水または分散剤を添加した水溶液に分散させた重質炭酸カルシウムの予備分散スラリーを調製する。このようにして調製した予備分散スラリーを、さらに、ビーズミル等を用い湿式粉砕する。ここで、天然石灰石を直ちに湿式粉砕することもできる。しかし、生産性の点から、湿式粉砕に先立って予め乾式粉砕することが好ましい。乾式粉砕では、石灰石の粒子径を40mm以下、好ましくは平均粒子径を2μm以上2mm以下の程度に粉砕しておくことがよい。湿式粉砕では、途中段階で整粒を行い、粒子径を整えることが好ましい。整粒は、市販の整粒機によって実施することができる。
【0054】
次に、上記粉砕した石灰石の表面に有機分散剤を施すのがよい。これは種々の方法で行うことができるが、乾式粉砕した石灰石を有機分散剤の存在下で湿式粉砕することにより行う方法が好ましい。具体的には、石灰石/水性媒体(好ましくは水)との質量比が30/70以上85/15以下、好ましくは60/40以上80/20以下の範囲となるように石灰石に水性媒体を加え、ここに有機分散剤を加える。有機分散剤の例としては、官能基としてカルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩またはリン酸エステル塩を有する低分子または高分子の水溶性アニオン系界面活性剤、若しくはポリエチレングリコール型または多価アルコール型非イオン界面活性剤を挙げることができる。有機分散剤の水溶性アニオン系界面活性剤で、ポリアクリル酸を有するポリアクリル酸系有機分散剤が特に好ましい。これら有機分散剤は、サンノプコ社、東亞合成社、花王社等から市販されており、本発明に用いることができる。使用する有機分散剤の量は特に限定されないが、重質炭酸カルシウム100質量部当たり固形分として0.3質量部以上3.5質量部以下の範囲で使用することが好ましく、0.5質量部以上3質量部以下の範囲がより好ましい。得られる予備分散スラリーを従来公知の方法により湿式粉砕する。または、上記範囲の量となる有機分散剤を予め溶解してなる水性媒体を石灰石と混合し従来公知の方法により湿式粉砕する。湿式粉砕は、バッチ式でも連続式でもよく、サンドミル、アトライター、ボールミルなどの粉砕媒体を使用したミルなどの装置によって実施することができる。このように湿式粉砕し、平均粒子径が0.1μm以上0.28μm以下である重質炭酸カルシウムを得ることができる。なお、特定の平均粒子径を有する重質炭酸カルシウムを得る方法は上記方法に限定されない。
【0055】
印刷用塗工紙の塗工層に用いられる従来公知のバインダーとしては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド等のポリアクリル酸系、ポリ酢酸ビニル系、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル等の各種共重合体ラテックス、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ユリアまたはメラミン等のホルマリン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミドポリアミン、エピクロルヒドリン等の水溶性合成物が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。さらには、天然植物から精製した澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉、酵素変性澱粉やそれらをフラッシュドライして得られる冷水可溶性澱粉、デキストリン、マンナン、キトサン、アラビノガラクタン、グリコーゲン、イヌリン、ペクチン、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の天然多糖類またはそのオリゴマー、さらにはその変性体が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。また、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、コラーゲン等の天然タンパク質またはその変性体、ポリ乳酸、ペプチド等の合成高分子やオリゴマーが挙げられる。これらは単独または組み合わせて使用することができる。またバインダーは、カチオン変性を施して使用することができる。中でもバインダーは、水溶性合成物および天然多糖類からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。顔料に対して過剰にバインダーを配合するとインクジェット印刷において画像の汚れを発生する場合があるため、塗工層中のバインダーの含有量は、塗工層中の総顔料の乾燥固形分換算含有量100質量部に対して3質量部以上30質量部以下が好ましく、5質量部以上25質量部以下がより好ましい。
【0056】
印刷用塗工紙の塗工層は、重質炭酸カルシウムおよびバインダー以外に必要に応じて、その他の顔料、顔料分散剤、増粘剤、消泡剤、抑泡剤、発泡剤、離型剤、浸透剤、湿潤剤、熱ゲル化剤、滑剤、染料、蛍光増白剤または耐水化剤等の通常使用されている従来公知の各種助剤を含有することができる。
【0057】
印刷用塗工紙の塗工層は、塗工層形成用の塗工組成物を原紙上に塗工・乾燥して得ることができる。塗工組成物を原紙上に塗工する方法としては、通常使用される塗工装置を用いることができ、特に限定されない。塗工装置の例としては、ロールコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、ロッドブレードコーター等の各種ブレードコーター、ショートドウェルコーター、カーテンコーター等を挙げることができる。乾燥方法としては、通常使用される乾燥装置を用いることができ、特に限定されない。乾燥装置の例としては、直線トンネル乾燥機、アーチドライヤー、エアーループドライヤー、サインカーブエアーフロートドライヤー等の熱風乾燥機、赤外線、加熱ドライヤー、マイクロ波等を利用した乾燥機等を挙げることができる。
【0058】
塗工層の塗工量は、片面あたり6.0g/m以上20.0g/m以下が好ましく、8.0g/m以上18.0g/m以下がより好ましい。この範囲にすることによって、オフセット印刷機とインクジェット印刷機との両方で印刷することが可能である。本発明において、塗工層の塗工量は乾燥固形分換算量を指す。
【0059】
印刷用塗工紙は、塗工組成物を塗工・乾燥した状態で使用することができるが、必要に応じてマシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、多段カレンダー、マルチニップカレンダー等により表面を平滑化してから使用することができる。
【0060】
但し、平滑化のため過度のカレンダー処理を行うと、印刷用塗工紙の空隙を潰すこととなり、結果として、インクジェット印刷でのインクの裏抜けを悪化させるため、適度のカレンダー処理が好ましい。
【0061】
塗工層塗工面のJIS Z8741で規定する75度光沢度は、30%以上であると好ましく、35%以上がより好ましい。75度光沢度がこの範囲であると、印刷用塗工紙は、CWFマットコート紙やCWFグロスコート紙などの印刷用塗工紙と同様の質感を得ることができる。
【0062】
塗工層の光沢度は、塗工層に含まれる重質炭酸カルシウムの平均粒子径によって制御することができる。また塗工層の光沢度は、塗工層に従来公知のマット剤を含有させることにより抑制することができる。また塗工層の光沢度は、塗工層に有機顔料を添加する方法、または、マシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、多段カレンダー、マルチニップカレンダーなどを用いてカレンダー処理する方法によって高めることができる。
【0063】
塗工層は処理原紙の両面に設けることができる。両面に設けることで、印刷機によっては両面に印刷できるために好ましい。
【0064】
印刷用塗工紙の坪量は130g/m以下が好ましい。この理由は、坪量は130g/m以下であると本発明にかかるインクの裏抜け抑制性が顕著に現れるからである。また、請求書や取引明細書の他、折り込み広告やダイレクトメール、あるいはそれらが融合した所謂トランスプロモなど商業印刷分野の用途から、印刷用塗工紙の坪量は90g/m以上130g/m以下がより好ましく、100g/m以上128g/m以下が更に好ましい。
【0065】
本発明の印刷用塗工紙は、オフセット印刷および/またはインクジェット印刷に用いることができ、優れた画像品質および耐久性を有する印刷画像を得ることができる。本発明の印刷用塗工紙は、印刷速度が60m/分以上、さらに高速では120m/分を超える輪転方式の産業用インクジェット印刷機に好ましく使用することができ、優れた画像品質および耐久性を有する印刷画像を得ることができる。また本発明の印刷用塗工紙は、オフセット印刷のみならずグラビア印刷、湿式および乾式電子写真や他の印刷方式に用いることも可能であり、何ら制限しない。さらには、インクジェット印刷機の他、市販のSOHO向けインクジェットプリンターなどに用いることも可能である。
【0066】
本発明の別の態様は、印刷物製造方法であって、上記の産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙を準備する工程と、該産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙に水性染料インクまたは水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機を用いて印刷速度60m/分以上で印刷画像を形成する工程と、を有する印刷物製造方法を提供する。この印刷物製造方法によって、水性染料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対して印刷濃度の低下が無く、水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対して印刷部分の色濃度が不均一になる現象が抑制され、水性染料インクまたは水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対してインクの裏抜けが十分に抑制された印刷物を製造することができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」および「%」は、特に明示がない限り、乾燥固形分換算あるいは実質成分の質量部および質量%を示す。また、塗工量は乾燥固形分換算量を示す。
【0068】
<填料の一次粒子の形状、平均短径、平均長径、二次粒子の形状や平均粒子径の測定>
下記の填料の一次粒子の形状、平均短径および平均長径、二次粒子の形状や平均粒子径は走査型電子顕微鏡の撮影画像から求めた。
【0069】
(原紙の作製)
<原紙1>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−121SA(一次粒子:平均短径0.36μmおよび平均長径/平均短径が4.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径3.5μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社製)22部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス36N、里田化工社製)を1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙1を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0070】
<原紙2>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−221BM(一次粒子:平均短径0.32μmおよび平均長径/平均短径が3.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径4.0μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社製)22部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス36N、里田化工社製)を1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙2を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0071】
<原紙3>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−121SA(一次粒子:平均短径0.36μmおよび平均長径/平均短径が4.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径3.5μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社製)22部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、塩化カルシウムを1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙3を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0072】
<原紙4>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−121SA(一次粒子:平均短径0.36μmおよび平均長径/平均短径が4.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径3.5μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社製)22部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、硝酸カルシウムを1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙4を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0073】
<原紙5>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−121SA(一次粒子:平均短径0.36μmおよび平均長径/平均短径が4.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径3.5μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社製)22部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス36N、里田化工社製)を0.75g/m、硝酸カルシウムを0.75g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙5を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0074】
<原紙6>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−121SA(一次粒子:平均短径0.36μmおよび平均長径/平均短径が4.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径3.5μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社製)22部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス36N、里田化工社製)を0.08g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙6を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0075】
<原紙7>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−121SA(一次粒子:平均短径0.36μmおよび平均長径/平均短径が4.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径3.5μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社製)22部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス36N、里田化工社製)を0.12g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙7を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0076】
<原紙8>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−121SA(一次粒子:平均短径0.36μmおよび平均長径/平均短径が4.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径3.5μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社製)22部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス36N、里田化工社製)を3.8g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙8を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0077】
<原紙9>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−121SA(一次粒子:平均短径0.36μmおよび平均長径/平均短径が4.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径3.5μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社製)22部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス36N、里田化工社製)を4.2g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙9を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0078】
<原紙10>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−NPF(一次粒子:平均短径0.12μmおよび平均長径/平均短径が4.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径3.9μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社製)22部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス36N、里田化工社製)を1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙10を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0079】
<原紙11>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−121MS(一次粒子:平均短径0.47μmおよび平均長径/平均短径が3.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径2.3μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社製)23部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス36N、里田化工社製)を1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙11を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0080】
<原紙12>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−121S(一次粒子:平均短径0.63μmおよび平均長径/平均短径が4.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径4.3μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社製)22部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス36N、里田化工社製)を1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙12を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0081】
<原紙13>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−221GS(一次粒子:平均短径0.29μmおよび平均長径/平均短径が1.8の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径0.81μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社製)23部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス36N、里田化工社製)を1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙13を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0082】
<原紙14>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−123FS(一次粒子:平均短径0.22μmおよび平均長径/平均短径が7.2の針状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径3.8μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社製)23部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス36N、里田化工社製)を1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙14を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0083】
<原紙15>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−221F(平均短径0.26μm、平均長径/平均短径が2.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子を非形成、奥多摩工業社製)23部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス36N、里田化工社製)を1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙15を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0084】
<原紙16>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−121SA(一次粒子:平均短径0.36μmおよび平均長径/平均短径が4.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径3.5μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社製)22部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙16を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0085】
<原紙17>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−121SA(一次粒子:平均短径0.36μmおよび平均長径/平均短径が4.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径3.5μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社製)21部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、塩化ナトリウムを1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙17を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0086】
<原紙18>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−121SA(一次粒子:平均短径0.36μmおよび平均長径/平均短径が4.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径3.5μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム)23部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、アニオン性アクリル樹脂(ボンコートAN−680、DIC社製)を1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙18を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0087】
<原紙19>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−121SA(一次粒子:平均短径0.36μmおよび平均長径/平均短径が4.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径3.5μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム)17.6部、填料としてカオリン(ニュークレイ、平均粒子径3.9μm、エンゲルハード社製)4.4部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス36N、里田化工社製)を1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙19を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0088】
<原紙20>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−121SA(一次粒子:平均短径0.36μmおよび平均長径/平均短径が4.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径3.5μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム)22部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス36N、里田化工社製)を5部添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙20を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0089】
<原紙21>
上記の原紙16上にジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス36N、里田化工社製)を片面あたり塗工量1.5g/mとなるようにエアーナイフコーターを用いて両面塗工し、熱風型乾燥機を用いて乾燥した。乾燥後、ソフトカレンダーを用いてカレンダー処理をして原紙21を作製した。
【0090】
<原紙22>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてTunex−E(一次粒子:平均短径0.1μmおよび平均長径/平均短径が3.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径5.6μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、白石カルシウム社製)21部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス36N、里田化工社製)を1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙22を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0091】
<原紙23>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−121SA(一次粒子:平均短径0.36μmおよび平均長径/平均短径が4.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径3.5μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社製)22部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、ポリエチレンイミン(エポミン、日本触媒社製)を1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙23を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0092】
<原紙24>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料としてタマパールTP−121SA(一次粒子:平均短径0.36μmおよび平均長径/平均短径が4.0の紡錘状軽質炭酸カルシウム、二次粒子:平均粒子径3.5μmの毬栗状軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業社製)22部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.5部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で片面あたりリン酸エステル化澱粉を1.5g/m、硫酸マグネシウム(和光純薬工業社製)を1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙24を作製した。このとき、灰分は20%であった。
【0093】
<重質炭酸カルシウムの平均粒子径の測定>
走査型電子顕微鏡の撮影画像から求めた平均粒子径を表1に記載する。
【0094】
<重質炭酸カルシウムの調製>
重質炭酸カルシウムは、天然の石灰石をジョークラッシャー、ハンマークラッシャー、ローラーミルによって平均粒子径30μm程度までに粗粉砕して、整粒し、これに水と市販のポリアクリル酸系分散剤を加えて攪拌し、固形分約75質量%の予備分散スラリーとした。この予備分散スラリーをアシザワ・ファインテック社製湿式粉砕機(横型、円柱型粉砕室の寸法:直径約0.5m、長さ約1.3m)を用いて処理した。ビーズは直径約0.2mmのジルコニア製を用いた。ビーズの充填率は80体積%〜85体積%の範囲で変化させた。流量は約15リットル/分としパス回数を変化させた。以上の操作から、各種平均粒子径を調製した。
【0095】
<塗工組成物の調製>
塗工組成物は、下記の内容により調製した。
顔料 種類および配合部数は表1に記載
スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(JSR−2605G、JSR社製) 10部
リン酸エステル化澱粉(MS#4600、日本食品化工社製) 10部
上記の内容で配合し、水で混合・分散して、濃度48%に調整した。
【0096】
【表1】
【0097】
表1に示したその他の顔料は、以下の通りである。
軽質炭酸カルシウム(TP123、平均粒子径0.63μm、奥多摩工業社製)
カオリン(HG90、平均粒子径0.19μm、ヒューバー社製)
合成シリカA(コロイダルシリカMP−2040、平均粒子径0.2μm、日産化学工業社製)
合成シリカB(ファインシールX−37、平均粒子径2.7μm、トクヤマ社製)
【0098】
実施例および比較例の印刷用塗工紙を以下の手順にて作製した。
【0099】
<印刷用塗工紙の作製>
原紙上に、塗工組成物をブレードコーターにて両面塗工し、乾燥させた後、カレンダー処理をして印刷用塗工紙を作製した。塗工量は片面あたり12g/mとした。
【0100】
上記の手順によって得られる各実施例および各比較例の印刷用塗工紙について、下記の方法で各項目の評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
<不透明度の測定>
JIS P8149(ISO2471)に規定された不透明度測定方法を用いて、印刷用塗工紙の不透明度を測定した。
【0102】
<オフセット印刷機に対する印刷適性>
ミヤコシ社製オフセットフォーム輪転機で、印刷速度:150m/分、使用インク:T&K TOKA UVベストキュア墨および金赤、UV照射量:8kW2基の条件で6000mの印刷を行い、印刷後ブランケットパイリングの発生状況および印刷サンプルの状態について目視評価によって判定した。本発明において、オフセット印刷機に対する印刷適性が良好である印刷用塗工紙は、3〜5の評価である。
5:極めて良好。
4:良好。
3:実用上問題ない範囲。
2:不良。
1:極めて不良。
【0103】
<産業用インクジェット印刷機に対する発色性(水性染料インク)>
ミヤコシ社製産業用インクジェット印刷機MJP20Cを用い、水性染料インクにて評価画像を150m/分で、6000m印刷する。ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各単色およびブラックを除く他の3色インクでの2重色(レッド、グリーン、ブルー)の計7色のベタパターンを、2cm×2cm四方で横一列に隙間なく並べて記録するという方法で印刷を行った。各色ベタ印刷画像部分の発色性を色濃度および色鮮やかの観点から目視評価によって判定した。本発明において、発色性に優れる印刷用塗工紙は、3〜5の評価である。
5:色濃度および色鮮やかさが共に良好である。
4:色濃度または色鮮やかさのいずれかが「5」より劣るが、良好である。
3:色濃度および色鮮やかさが実用的に問題ないレベルである。
2:色濃度または色鮮やかさのいずれかが「3」より劣り、実用上問題である。
1:色濃度および色鮮やかさが共に劣り、実用上問題である。
【0104】
<産業用インクジェット印刷機に対する耐不均一性(水性顔料インク)>
コダック社製産業用インクジェット印刷機Prosper 5000XL Pressを用い、水性顔料インクにて評価画像を75m/分で、6000m印刷する。ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各単色およびブラックを除く他の3色インクでの2重色(レッド、グリーン、ブルー)の計7色のベタパターンを、3cm×3cm四方で横一列に隙間なく並べて記録するという方法で印刷を行った。印刷部分の各色ベタ部の色濃度の均一性について目視評価によって判定した。本発明において、耐不均一性に優れる印刷用塗工紙は、3〜5の評価である。
5:色濃度が均一である。
4:色によっては極僅かに濃度が不均一である。
3:色濃度が僅かに不均一である。
2:色濃度が部分的に不均一である。
1:印刷部分の全体に、色濃度が不均一である。
【0105】
<産業用インクジェット印刷機に対するインクの裏抜け抑制性>
水性染料インクについては、ミヤコシ社製産業用インクジェット印刷機MJP20Cを用い、評価画像を150m/分で6000m印刷し、水性顔料インクについては、コダック社製産業用インクジェット印刷機Prosper 5000XL Pressを用い、評価画像を75m/分で6000m印刷する。ブラックのベタ印刷パターンを10cm×10cm四方で記録するという方法で印刷を行った。ブラックベタ印刷部の反対面側からJIS P8148に規定された白色度測定方法を用いて白色度の測定を行い、「印刷のない白色部の白色度(光学%)」−「ブラックベタ印刷部の白色度(光学%)」で、印刷用塗工紙のインクの裏抜けを評価した。白色度の測定は、日本電色社製PF−10を用いて、標準板の上にサンプルを一枚乗せ、UVカットの条件で行った。本発明において、良好なインクの裏抜け抑制性を有する印刷用塗工紙は、3〜5の評価である。
5:10光学%未満。
4:10光学%以上、13光学%未満。
3:13光学%以上、16光学%未満。
2:16光学%以上、19光学%未満。
1:19光学%以上。
【0106】
表1より、本発明に相当する各実施例の印刷用塗工紙は、オフセット印刷適性が良好であり、水性染料インクを用いる産業用インクジェット印刷機に対する発色性およびインクの裏抜け抑制性、並びに水性顔料インクを用いる産業用インクジェット印刷機に対する耐不均一性およびインクの裏抜け抑制性に優れることがわかる。
【0107】
一方、表1より、本発明の条件を満足しない各比較例では本発明の効果は得られない。
【0108】
日本国特許出願2013−207213号(出願日:2013年10月2日)の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。