【実施例】
【0035】
実施例1
材料と方法:
検体処理およびカーディオスフェアの増殖
機関のガイドラインに従い、ならびに患者の同意を持って、臨床的に指示された経皮的心内膜心筋生検を受け、かつ変更を伴う記載されているように(6)処置されたヒト生検検体を患者から得た。検体は、生検鉗子の「ひとかじり(bite)」の全体または一部から成り、高カリウム心停止液中に氷上で保管し、かつ2時間以内に処理した(
図1A、段階1)。試料を断片に切り分け、そこから全結合組織を取り除いた。断片は次に洗浄し、酵素により部分消化し、かつ単一細胞は廃棄した。残りの組織片は「外植片」としてファイブロネクチンでコーティングしたディッシュ上で培養した(
図1A、段階2)。数日後、間質様細胞の層が粘着外植片から現れてきて、その上には小さく、丸く、明位相差像の細胞が遊走していた。ひとたびコンフルエントになったら、外植片を取り囲んでいる緩く粘着した細胞は、穏やかな酵素消化によって回収した(
図1A、段階3)。これらの細胞は、カーディオスフェアの最適な増殖のために設計した培地中で、ポリ-D-リジンでコーティングしたディッシュ上に、2〜3×10
4細胞/mlで播種した(
図1A、段階4)。剥離したカーディオスフェアは、次にファイブロネクチンでコーティングしたフラスコ上に蒔き、粘着単層として増幅させたが(
図1A、段階5)、それは引き続きトリプシン処理によって継代することができた。単一細胞は、各々の検体につき、カーディオスフェア形成細胞として、ならびにCDC継代の間に細胞増殖を追跡するために、血球計算板を用いて位相差顕微鏡下でカウントした。カーディオスフェア形成細胞の単離は、同じ検体からさらに3回まで繰り返した。
【0036】
亜集団の選択およびフローサイトメトリー解析:
カーディオスフェアを形成する細胞の抗原特性を特徴づけるため、最初の回収(
図1A、3)の間に得た細胞を、APCを結合したc-Kitに対するモノクローナル抗体を用いた磁化活性化細胞分別法(magnetic-activated cell separation)によって亜選択し、引き続きマイクロビーズを結合した抗APCで標識し、引き続きオクトマックスを用いて分離した。CD105
+集団は、次にマイクロビーズに直接結合した二次抗体を用いて亜選択した。
【0037】
CDCは、粘着単層として2回継代し、次いでフローサイトメトリー実験のために用いた。c-Kit-APC、CDl05-PE、および同様に結合したアイソタイプの一致した対照モノクローナル抗体を利用した。ゲートは、7-AAD蛍光および前方散乱によって確立した。データは、ファックスキャリバー・サイトフルオロメーターを用いて、CellQuestソフトウエアで採取した。
【0038】
アデノウイルス作製および細胞形質導入:
大腸菌(E.coli) βガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子は、アデノウイルスのシャトルベクターpAd-Loxにクローニングして、記載されているような(9)Cre-4 293 HEK細胞におけるCre-Lox 組換えによって、pAd-Lox-LacZを生成した。CDCは、粘着単層として2回継代し、ウイルスによって形質導入をした。MOI 20、12時間で90%の形質導入効率が達成された。
【0039】
心筋梗塞および細胞注入:
アデノウイルスで形質導入したCDCは、10〜16週齢の成体オスSCIDベージュマウスに注入した。心筋梗塞(MI)は、記載されているように(10)、左冠動脈前下行枝中央の結紮によって作製し、細胞または媒体は、梗塞周囲の2つの部位に直接観察下で注入した。CDC(10
5個)は、10μlのPBS(各々の部位に5μl)の用量において、10
5個の初代ヒト皮膚線維芽細胞線維芽細胞または10μlのPBSを対照として用いて、注入した。全てのマウスは外科手術に先立ち(ベースライン)、および外科手術後20日に再び、心エコー検査を受けた。駆出率(EF)は、V1.3.8ソフトウェアを用いて梗塞性領域を通して撮った2D長軸像から計算した。マウスは次に0日、8日、または20日で安楽死させ、摘出した心臓は組織学用に調製した。
【0040】
免疫染色、免疫組織化学、および顕微鏡検査:
カーディオスフェアは、それらがサイズにおいて100〜1000細胞に達した場合に、免疫染色のために採取した。c-Kit、CD105、心筋ミオシン重鎖(cMHC)および心筋トロポニンI(cTnI)に対する一次抗体を、免疫染色のために用いた。Alexa蛍光色素と結合した二次抗体を利用した。免疫染色は、これまでに記載されているように(6)行った。共焦点蛍光画像処理は、クリプトン/アルゴン・レーザーを装備しているエクリプスTE2000-Uで、UltraVIEWソフトウェアを用いて行った。
【0041】
マウス心臓を摘出し、OCTコンパウンド中に包埋し、凍結し、かつ5μm薄片の切片にした。組織切片はヘマトキシリン・エオシンおよびbガラクトシダーゼ試薬またはマッソン・トリクロームで染色した(11)。梗塞帯域内の組織生存能は、マッソン・トリクローム染色切片から、梗塞境界を手作業で追跡することによって計算し(12、13)、次に、
図S1に示されているように、ImageJソフトウェアを使用して全体の梗塞領域の中で生存能力のある心筋の百分率を計算した。
【0042】
統計:
全ての結果は、平均値±SEMで与えられる。任意の2つの群間の差異の有意性は、スチューデントt検定によって求めた。複数の群は、GB-Statソフトウェアを用い一元配置の分散分析を用いて比較し、群対は、有意なF値が得られた場合、ボンフェローニ・ダン法によって比較した。p<0.05である値を有意とみなした。
【0043】
高い細胞収率と独立して関係するパラメータを特定するために、一般化推定方程式(GEE)アプローチを使用した(14)。複数の検体を供与した患者からのデータは、反復測定として処理した。一変量モデルにおいて有意(p≦0.1)であったそれらのパラメータは、最後の多変量モデルに含めた。解析はSASソフトウェアの使用によって行った。p<0.05である最後の値を有意とみなした。報告されている全てのp値は両側である。
【0044】
(表1)製品および製造メーカー
【0045】
実施例2
検体処理およびカーディオスフェア形成亜集団:
図1Bは、外植片が得られた日、ならびに3日目(
図1C)および最初の回収の直前である13日目(
図1D)における、微塵切りおよび部分酵素消化の後の典型的な外植片を示す。カーディオスフェア形成細胞の回収(
図1A、段階3)は、最初は検体を得て8日またはそれより多くの日数後に、それ以降は4〜12日間隔で行った。パネルEは、3つの異なる患者検体から回収した細胞を用いて行った、亜集団選択実験の結果を要約する。カーディオスフェアを生成する細胞の大多数はCD105
+であり、それはc-Kit
+でありおよびc-Kit
-である。典型的なカーディオスフェアは、
図1Fに、回収後12日が示されている。浮遊カーディオスフェアは、段階3の後4〜28日に増幅のために蒔き(
図1A、段階5)、それ以降2〜7日間隔で継代した。
図1Gは、2継代目の増幅の間における、ファイブロネクチン上に蒔いたCDCを示し、それらの細胞はその際注入のために回収された。
【0046】
実施例3
患者検体およびカーディオスフェアの増殖:
解析のために、83個の患者検体(21.0±1.9 mg)を得た。検体のうち72個は、心臓移植を受けた患者から、11個は移植を待っている患者から得られた。9人の移植患者は、複数の検体を供与した。83個の検体のうち78個が処理を受け、1度も回収されなかったそれらの検体のうちの4個は反復した患者からのものであり、70人の患者のうち69人からの増殖データを得た。各々の検体についての累積的増殖曲線が、
図1、パネルHおよびIに図示されている。移植を待っている患者からの増殖曲線(
図1H)は、移植された患者からのそれら(
図1I)と同様であり、検体間での増殖潜在性が広範囲なことを示す。患者のパラメータは、非移植および移植群について、表2に要約されている。表に載っている全ての患者のパラメータを含んだGEE解析によって、非移植群の中では、高い細胞収率を独立して予測するものがないことが明らかになった。移植群の中では、より高いEFを持っている患者からの検体がより多くの細胞を生じる傾向があったが、その効果は弱かった(R
2=??、最終推定値=0.04、p<0.05)。
【0047】
(表2)患者集団の要約
【0048】
実施例4
カーディオスフェアおよびカーディオスフェアに由来する細胞の表現型:
CDCを使用することについての理論的根拠は、カーディオスフェアおよびそれらの細胞子孫の独特な生物学に存する。自己構築するカーディオスフェアは、幹細胞抗原(例えば、c-KitおよびCD105、
図3A)の発現に好都合なニッチ環境を作製し、しばしば成熟した心臓に特異的な抗原(cMHCおよびcTnI、
図3B)によって特色づけられる表面表現型を、内部の「幹細胞であること(stemness)」の保持とともに、明白に示す。実際のところ、c-KitおよびCD105は、試験をした全てのカーディオスフェア(10人の患者の各々から10個またはそれより多く)において存在し、c-Kitは中心に局在化するかまたはスフェア全体に発現しており、CD105は概して周辺に局在化するかまたは全体に発現していた。2回継代後のCDCは、高いレベルのc-KitおよびCD105の抗原の発現を保持している(
図3C、それぞれ3人および2人の異なる患者からのCDCの発現プロファイルの代表)。
【0049】
実施例5
カーディオスフェアに由来する細胞の生着、再生、および機能的向上:
4人の異なる患者からのCDCをインビボ実験のために利用した。生着および細胞の遊走を評価するため、マウスにLac-Zを発現するCDCを注入し、3つの時点(注入後0日、8日、20日)のそれぞれにおいて屠殺した。0日目において、CDCは境界帯域中の注入部位に位置していたが、8日目および20日目において、注入した細胞は主として心筋梗塞領域中に分布し、βガラクトシダーゼ陽性組織の島または連続的なバンドを形成していた(
図5)。
【0050】
8匹のマウスに、CDCを注入し、20日間追跡し;11匹のマウスは対照としての機能を果たした(4匹が線維芽細胞線維芽細胞、7匹がPBS)。
図4Aは、インビボにおける20日後の注入したヒト細胞の分布を示す、典型的なβガラクトシダーゼ染色パターンを示す。線維芽細胞線維芽細胞を注入したマウス(
図4B)またはPBSを注入したマウスにおいてははっきりわからない、梗塞帯域に浸潤している青い細胞のバンドに注目のこと。マッソン・トリクローム染色した切片は、補遺で説明されているように、再生を定量化するために用いた(
図4、CおよびD)。パネルCは、CDCを注入した心臓からのものだが、青い梗塞帯域中に多数のはっきりした赤い部位を示し;線維芽細胞線維芽細胞を注入した心臓においては、より少数のそのような部位が明らかである(
図4D)。CDCを注入したマウスは、線維芽細胞線維芽細胞を注入したマウス(17.7±1.8%、p<0.01)またはPBSを注入したマウス(13.7±0.7%、p<0.01)、と比較して、より高い割合の生存能力のあるフクシン陽性組織を心筋梗塞帯域中に有していた(24.9±1.1%)が、総合的な全梗塞領域は2つの対照群におけるそれと同様であった(60.6±6.4 CDC、76.9±7.0 線維芽細胞線維芽細胞、75.7±2.7 PBS、単位は10
4ピクセル;p=NS)。CDC群と対照群の各々との間の、心筋梗塞帯域中における生存能力のある心筋の百分率における差異は、7.2%および11.2%であり、CDCに帰因し得る心筋再生の程度を表す。
【0051】
心エコー図は、20日に全ての群について行った。
図5は、拡張末期および収縮末期における、CDCおよび線維芽細胞で処理した群からの例を示す。左心室EFおよび(LVEF、
図5E)および左心室分画(fractional)領域(LVFA、
図5F)についてのプールしたデータによって、線維芽細胞で処理した群(24.5±1.8%、p<0.01)またはPBSで処理した群(26.4±3.0%、p<0.01)のどちらかと比較して、CDCで処理した群(38.8±1.7%)におけるより高いLVEFが明らかにであるが、2つの対照群は区別できなかった。ベースラインにおいてLVEF間で差異はなかった。
【0052】
実施例6
心臓生検検体からの心臓幹細胞の単離のためのプロセス
多能性幹細胞は、多段階のプロセスを用い(概略図について
図1aを参照のこと)、心臓生検検体またはその他の心臓組織から単離されることができる。最初に、心臓組織は経皮的心内膜心筋生検を介して、または心臓の無菌切開を介して得られる。ひとたび得られたら、組織検体は、それらが処理されるまで(12時間後まで)、高カリウム心停止液(5% ブドウ糖、68.6 mmol/L マンニトール、12.5ミリ当量の塩化カリウム、および12.5ミリ当量の炭酸水素ナトリウムを含み、10単位/mLのヘパリンの添加を加える)中に氷上で保管される。処理のために、検体は無菌鉗子および鋏を用いて1〜2mm
3の小片に切り分けられ;いかなる全結合組織も除かれる。断片は次にCa
++-Mg
++フリーのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、典型的には、0.05% トリプシン-EDTAによって室温で5分間、消化される。または、組織片は、37℃で30分間、IV型コラゲナーゼ(1 mg/mL)中で消化されることができる。予備的な実験により、コラゲナーゼを使用すると、外植片組織 mg ごとの細胞収率が大きいことが示されている。
【0053】
ひとたび消化が完了したら、残りの組織片はイスコフ改変ダルベッコ培地中、20% 熱失活ウシ胎児血清、100単位/mL ペニシリンG、100μg/mL ストレプトマイシン、2mmol/L L-グルタミン、およびO.1mmol/L 2-メルカプトエタノールを含む「完全外植片培地」(CEM)で洗浄して、消化プロセスを反応停止する。組織片は無菌鉗子および鋏で再び微塵切りにして、次にファイブロネクチンでコーティングした(25μg/mLで≧1時間)組織培養プレートに移し、そこでそれらはプレートの表面に渡って配置され、均等にスペースが置かれる。プレートにCEMの最小量を加え、その後それを37℃および5% CO
2で30分間インキュベートして、ここで「外植片」と呼ばれる組織片をプレートに付着させる(
図1b)。ひとたび外植片が付着したら、十分なCEMをプレートに加えて外植片を覆い、プレートをインキュベータに戻す。
【0054】
8日またはそれより多くの期間の後、粘着外植片から間質様細胞の層が生じ始め、外植片を囲みながらプレートの表面を覆う。この層の上方に、小さく、丸く、明位相差像の細胞の集団が見られる(
図1c、d)。ひとたび間質細胞層がコンフルエントになり、明位相差像の大きな集団が存在したら、外植片を囲む緩く粘着した細胞を回収する。これは、プレートを最初にCa
++-Mg
++-フリーのPBSで、次に0.48mmol/L EDTAで(1〜2分間)、かつ最後に0.05%のトリプシンEDTAで(2〜3分間)洗浄することによって行う。全ての洗浄は室温で目視管理下で行い、ゆるく粘着した細胞がいつ剥離し始めたかを決定する。各々の段階の後、洗浄液を採取し、その他の段階からのそれとともにプールする。最後の洗浄の後、外植片をCEMで再び覆い、インキュベータに戻す。外植片の各々のプレートは、5〜10日の間隔で4回まで、このように回収することが可能である。プールした洗浄液は次に1000回転で6〜8分間遠心分離し、細胞のペレットを形成する。遠心分離が完了したら、上清を除き、ペレットを懸濁し、血球計を用いて細胞をカウントする。細胞は次にポリ-D-リジンでコーティングした24穴の組織培養プレートに3〜5×10
4細胞/ウェル(種による)の範囲の濃さで蒔き、インキュベータに戻す。細胞は、65%のハムF-12補充による1:1ダルベッコ改変イーグル培地、35%の2% B27を含むCEM、25ng/mL 上皮成長因子、80ng/mL 塩基性線維芽細胞増殖因子、4ng/mL カーディオトロフィン-1および1単位/mL トロンビンから成る「カーディオスフェア成長培地」(CGM)中、またはCEM単独中のどちらかで増殖させることができる。
【0055】
どちらの培地においても、4〜28日間の後、多細胞集団(「カーディオスフェア」)が形成され、組織培養表面から剥離し、懸濁状態で増殖し始める(
図1e、f)。サイズおよび数において十分になると、これらの自由浮動性のカーディオスフェアは、次にそれらの培地の吸引によって回収され、結果として生じる懸濁液はファイブロネクチンでコーティングした組織培養フラスコのCEM中に移される(ポリ-D-リジンでコーティングしたディッシュに粘着したままの細胞がさらに増幅することはない)。ファイブロネクチンの存在下では、カーディオスフェアは付着して「カーディオスフェア由来細胞」(CDC)の粘着単層を形成する(
図1g)。これらの細胞はコンフルエントにまで増殖し、次にCDCとして繰り返し継代および増幅されるか、またはポリ-D-リジンでコーティングしたプレートに戻され、そこでそれらが再びカーディオスフェアを形成すると考えられる。CDCとして増殖した場合、組織の起源がヒト(
図1i)であろうと、ブタであろうと、またはげっ歯類(データ示さず)であろうと、何百万もの細胞が、心臓組織が得られてから4〜6週間のうちに増殖することができる。コラゲナーゼが使用される場合、外植片組織の塊ごとに回収された細胞の最初の増大は、たくさんのCDCの迅速な産出をもたらす。
【0056】
参照
引用された各々の参照の開示は、本明細書に明示的に組み入れられる。
【0057】
参照