(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記サブ波長構造領域として、前記サブ波長構造の前記凸条部と前記凹条部の凹凸繰返し方向が互いに異なっている複数のサブ波長構造領域が含まれている請求項1に記載の偏光解消素子。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の偏光解消素子は、特性の異なるサブ波長構造(SWS)が基板表面にいくつも設けられることで、基板を光が通過する際に各周期構造に応じた偏光を持たせることで偏光を解消する。
【0028】
サブ波長構造とは使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された凸条部と凹条部をもつ周期構造のことである。使用する光の波長よりも微小な周期の周期構造を有する格子構造は構造性複屈折作用をもつ。
【0029】
図2は、サブ波長構造を説明するための概略断面図である。サブ波長構造の複屈折作用について、
図2を参照して説明する。
図2に示された構造は一般的なサブ波長構造を示したものである。
【0030】
サブ波長構造は、使用する光の波長よりも短い凹凸周期(ピッチ)Pで繰り返して配列された凸条部5と凹条部7を備えている。例えば、サブ波長構造の媒質として空気と屈折率nの媒質を想定する。屈折率nの凸条部5の幅がL、空気層からなる凹条部7の幅がSであり、P=L+Sである。また、L/Pはフィリングファクター(f)と呼ばれる。dは溝の深さである。
【0031】
周期Pの目安としては、使用する最も短い入射光の波長より短い周期で、より望ましくは使用波長の半分以下の周期とする。周期Pが入射光の波長よりも短い周期構造は入射光を回折することはないため入射光はそのまま透過し、入射光に対して複屈折特性を示す。すなわち、入射光の偏光方向に応じて異なる屈折率を示す。その結果、構造に関するパラメータを調整することにより位相差を任意に設定することができるため各種波長板を実現できる。
【0032】
構造性複屈折とは、屈折率の異なる2種類の媒質を光の波長よりも短い周期でストライプ状に配置したとき、ストライプに平行な偏光成分(TE波)とストライプに垂直な偏光成分(TM波)とで屈折率(有効屈折率と呼ぶ)が異なり、複屈折作用が生じることをいう。
【0033】
例えば非特許文献1に記載されるように、有効屈折率n
TE,n
TMは次の式(1),(2)で示される。さらに、入射光の波長λに対する位相差(リタデーション)δは次の式(3)で示される。
【0034】
n
TE={n
12×f + n
22×(1−f)}
1/2 ・・・(1)
n
TM={n
1-2×f + n
2-2×(1−f)}
-1/2 ・・・(2)
δ=(n
TE−n
TM)×d ・・・(3)
【0035】
式(1),(2)において、n
1は凹条部7の屈折率(例えば空気)、n
2は凸条部5の材質の屈折率、fはフィリングファクターである。式(3)において、dは凹条部7の深さである。
【0036】
サブ波長構造領域に直線偏光の光が入射すると、この位相差によってその透過光は楕円偏光に変わる。サブ波長構造の凸条部と凹条部の凹凸繰返し方向(以下、光学軸ともいう)が互いに異なる複数のサブ波長構造領域が配置された偏光解消素子を直線偏光の光が透過すると、サブ波長構造領域間で楕円率が異なる。
【0037】
一般的にサブ波長構造を議論するときには、凸条部及び凹条部のパターンが十分に広い範囲で続いていることを前提として議論が行われる。しかしながら、実際には凸条部及び凹条部のパターンは無限ではなく、必ず境界が存在している。サブ波長構造の位相差を発現させる機能は、その境界部は理論値通りの機能が発現していない状態になる。つまり、サブ波長構造が形成されているサブ波長構造領域が狭い範囲である場合は、任意のサブ波長構造領域内における機能発現量の平均値は境界部と非境界部(内部と表現できる)の割合によって変化すると言える。
【0038】
図3は、サブ波長構造領域における凸条部及び凹条部の繰返し周期数と位相差発現機能の関係を説明するための図である。
【0039】
図3Aは、サブ波長構造領域10における凸条部5及び凹条部7の繰返し数が例えば1000サイクル(凸条部5が1000本)の場合を示している。
図3Bは、サブ波長構造領域10における凸条部5及び凹条部7の繰返し数が例えば10サイクル(凸条部5が10本)の場合を示している。
図3Cは、サブ波長構造領域10における凸条部5及び凹条部7の繰返し数が例えば5サイクル(凸条部5が5本)の場合を示している。
【0040】
凸条部5及び凹条部7のピッチがは例えば200nm(ナノメートル)であるとする。
図3Aのサブ波長構造領域10の幅寸法は200μm(マイクロメートル)である。
図3Bのサブ波長構造領域10の幅寸法は2μmである。
図3Cのサブ波長構造領域10の幅寸法は1μmである。
【0041】
図3A、
図3B、
図3Cにおいて、サブ波長構造領域10におけるサブ波長構造のフィリングファクターは例えば0.5である。
【0042】
図3Aにおいて、凸条部5と凹条部7の凹凸繰返し方向でのサブ波長構造領域10の境界部(両端)に位置する凸条部5は、サブ波長構造の機能を半分しか発現しない。したがって、サブ波長構造は、凸条部5及び凹条部7の繰返し数が実質999サイクルになる。サブ波長構造領域10の平均位相差は、真値に対して0.1%程度だけ境界部から外乱の影響を受ける。
【0043】
図3Bにおいて、
図3Aの場合と同様にサブ波長構造領域10の境界部に位置する凸条部5はサブ波長構造の機能を半分しか発現しないので、サブ波長構造は、凸条部5及び凹条部7の繰返し数が実質9サイクルになる。サブ波長構造領域10の平均位相差は、真値に対して10%程度だけ境界部から外乱の影響を受ける。
【0044】
図3Cにおいて、
図3A及び
図3Bの場合と同様にサブ波長構造領域10の境界部に位置する凸条部5はサブ波長構造の機能を半分しか発現しないので、サブ波長構造は、凸条部5及び凹条部7の繰返し数が実質4サイクルになる。サブ波長構造領域10の平均位相差は、真値に対して20%程度だけ境界部から外乱の影響を受ける。
【0045】
つまり、凸条部5と凹条部7の繰返し数が少ないほど、サブ波長構造領域10全体に対して境界部の凸条部5が占める割合が大きくなるので、サブ波長構造領域10の位相差は真値からずれる。
【0046】
図4は、サブ波長構造領域における凸条部及び凹条部の繰返し周期数と有効屈折率の関係の一例を説明するための図である。
図4において、横軸は凸条部及び凹条部の繰返し周期数(回)を示し、縦軸はサブ波長構造の凸条部及び凹条部に平行な有効屈折率n
TEを示す。
【0047】
屈折率n=1.48の光学ガラス材料に、凸条部及び凹条部のピッチが200nmのサブ波長構造を形成した。サブ波長構造のフィリングファクターは0.5である。
サブ波長構造領域が十分に大きい場合(例えば領域サイズ100μm、繰返し周期数500回)における有効屈折率n
TEは1.311となる。
これに対し、サブ波長構造領域を狭くした場合には以下の通りになる。
領域サイズ3μm、繰返し周期数15回:有効屈折率n
TE=1.320
領域サイズ2μm、繰返し周期数10回:有効屈折率n
TE=1.337
【0048】
このモデルでは、光学ガラス材料に対してサブ波長構造領域が形成された構造であるため、凸条部及び凹条部の繰返し周期数が少なくなるにつれ、周辺の光学ガラス材料の影響を受け、徐々に光学ガラス材料の屈折率に近づいていく。
【0049】
特に、繰返し周期数が5回〜25回の範囲内で有効屈折率n
TE、ひいては位相差が大きく変化する。
本発明の偏光解消素子は、このようなサブ波長構造の特性を利用する。
【0050】
図1は、偏光解消素子の一実施例を説明するための平面図及び断面図である。
図1において、断面図は平面図のA−A’位置に対応している。なお、本発明の偏光解消素子はこれに限定されるものではない。
【0051】
偏光解消素子1は、基材3の表層部に構造性複屈折をもつ複数のサブ波長構造領域10を備えている。サブ波長構造領域10は、使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された凸条部5と凹条部7からなるサブ波長構造を備えている。
【0052】
サブ波長構造は、例えば、誘電体の薄膜材料、合成石英もしくは光学ガラス材料からなる構造材料、光学結晶材料又はプラスチック材料からなる光透過性材料で構成することができる。そのような誘電体材料としては、例えば、TiO
2、Nb
2O
5、In
2O
5、SnO
2、Al
2O
3、CrO
2、ZrO
2、MgF
2、MgO
2、CeO
2、Ta2O
5、SiO
2、ITO、ハイコム(メルク社の商品名:ZrO
2+TiO
2)、OM−10(メルク社の商品名:Ta
2O
5+TiOn(nは酸素数であり、この化合物はTiが欠損状態にあるものを表わす。))、OM−4(メルク社の商品名)、H−4(メルク社の商品名)、M−4(メルク社の商品名)などを用いることができる。また、赤外光やテラヘルツ光に対して用いるのであれば、サブ波長構造の材料として例えばシリコン、ポリエチレン、Tsurupica(パックス社の商品名)などを用いることができる。
【0053】
複数のサブ波長構造領域10において、サブ波長構造のフィリングファクターは同一であり、例えば0.5である。凸条部5及び凹条部7のピッチP(
図2も参照。)は例えば200nmである。凸条部5の幅寸法及び凹条部7の幅寸法はそれぞれ100nmである。
【0054】
サブ波長構造領域10として、サブ波長構造の繰返し周期数が互いに異なっていることによって光学軸(凸条部5と凹条部7の凹凸繰返し方向)の領域サイズが互いに異なっている複数のサブ波長構造領域10が配置されている。サブ波長構造領域10において、サブ波長構造の繰返し周期数は例えば5〜25回である。
【0055】
例えば、サブ波長構造の繰返し周期数について、サブ波長構造領域10aは5回、サブ波長構造領域10bは10回、サブ波長構造領域10cは15回、サブ波長構造領域10dは20回、サブ波長構造領域10eは25回である。
図4に示されたようにサブ波長構造の繰返し周期数が5回〜25回の範囲内で有効屈折率n
TE、ひいては位相差が大きく変化するので、サブ波長構造領域10a,10b,10c,10d,10eは互いに位相差が異なる。
【0056】
この実施例では、サブ波長構造領域10の光学軸の領域サイズは凸条部5と凹条部7の繰返し周期数で5回、10回、15回、20回又は25回の寸法に相当しているが、サブ波長構造領域10の凹凸繰返し方向領域サイズはこれらに限定されない。サブ波長構造領域10の凹凸繰返し方向領域サイズは、凸条部5と凹条部7の繰返し周期数で5〜25回相当の範囲内であればよく、例えば凸条部5と凹条部7の繰返し周期数の整数倍でなくてもよい。
【0057】
例えば、凸条部5と凹条部7の凹凸繰返し方向においてサブ波長構造領域10の両端にそれぞれ凸条部5が配置されている場合、凹条部7の数は凸条部5の数よりも1つ小さくなる。この場合、サブ波長構造領域10の凹凸繰返し方向領域サイズは、凸条部5と凹条部7の繰返し周期数で5.5回、6.5回、7.5回、・・・、23.5回、24.5回のうちのいずれかであればよい。また、凸条部5と凹条部7の凹凸繰返し方向においてサブ波長構造領域10の端部に配置される凸条部5又は凹条部7は、必ずしも凸条部5及び凹条部7の繰返し周期に沿った幅寸法でなくてもよい。
【0058】
サブ波長構造領域10として、サブ波長構造の光学軸(凸条部5と凹条部7の凹凸繰返し方向)が互いに異なっている複数のサブ波長構造領域10が配置されている。サブ波長構造の光学軸が紙面縦方向のサブ波長構造領域10と、サブ波長構造の光学軸が紙面横方向のサブ波長構造領域10が配置されている。
【0059】
また、サブ波長構造領域10として、凸条部5及び凹条部7が延伸する方向の寸法が互いに異なっている複数のサブ波長構造領域10が配置されている。
このように、偏光解消素子1には、サブ波長構造領域10として、サブ波長構造の繰返し周期数が互いに異なっているもの、サブ波長構造の光学軸が互いに異なっているものが混載されている。
【0060】
偏光解消素子1は、複数のサブ波長構造領域10として光学軸が互いに異なっているものを含んでいるので、スペックルを解消できる。さらに、偏光解消素子1は、同一の繰返し周期及びフィリングファクターを有するが、サブ波長構造の繰返し周期数が互いに異なっていることにより互いに位相差が異なっているサブ波長構造領域10を含んでいる。したがって、偏光解消素子1は、スペックルをより解消できる。
【0061】
図1では、10μm×10μmの領域に、1μm×1μmを分割単位として1つの分割単位領域又は複数の分割単位領域からなる約50個のサブ波長構造領域10が配置された状態が示されている。
図1に示されたサブ波長構造領域10の配置領域は、偏光解消素子1においてサブ波長構造領域10が配置される領域の一部分を示している。
【0062】
偏光解消素子1のサブ波長構造領域10の配置領域の大きさは、特に限定されないが、例えば5mm×5mmの正方形である。偏光解消素子1において、
図1には図示されていない領域においても、サブ波長構造領域が配置されている。
【0063】
図1には図示されていない領域に配置されているサブ波長構造領域は、
図1に示されたサブ波長構造領域10のいずれかと同じ大きさのものであってもよいし、それよりも大きいものであってもよい。例えば、
図1には図示されていない領域に配置されているサブ波長構造領域は、10μm×10μmよりも大きいものであってもよい。後述する他の実施例でも同様である。
【0064】
上記実施例では、サブ波長構造の光学軸が紙面縦方向のサブ波長構造領域10と、サブ波長構造の光学軸が紙面横方向のサブ波長構造領域10が配置されているが、サブ波長構造の光学軸はこれらに限定されない。例えば、偏光解消素子1は、サブ波長構造領域10として、サブ波長構造の光学軸が紙面斜め方向のものや、凸条部5及び凹条部7が曲線を含んでいて光学軸が変化しているものを含んでいてもよい。
【0065】
また、上記実施例では、サブ波長構造領域10は正方形又は長方形であるが、本発明の偏光解消素子においてサブ波長構造領域の形状はこれらに限定されない。
【0066】
なお、本発明の偏光解消素子に関し、サブ波長構造の形成方法は特に限定されない。
例えば、サブ波長構造の形成方法は、基材上にレジスト層を形成した後、電子ビーム描画やフォトリソグラフィによりサブ波長構造の凹凸に応じたレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクにして基材をエッチングして基材と同一材料からなるサブ波長構造を形成する方法である。
【0067】
サブ波長構造の形成方法の他の例は、基材上にスパッタリング法やCVD(化学気相成長)法などの成膜法によって使用する光の波長に対して光透過性をもつ誘電体層を堆積し、その誘電体層上にレジスト層を形成した後、電子ビーム描画やフォトリソグラフィによりサブ波長構造の凹凸に応じたレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクにして誘電体層をエッチングして基材とは異なる材料からなるサブ波長構造層を形成する方法である。
【0068】
サブ波長構造の形成方法のさらに他の例は、使用する光の波長に対して光透過性をもつ基材上に樹脂層を塗布し、微細凹凸構造の金型を押し当てるインプリント工法によってその樹脂層にサブ波長構造の凹凸に応じた樹脂凹凸パターンを形成し、ドライエッチング法などによって樹脂凹凸パターンの形状を基材に転写し、サブ波長構造を得る方法である。
サブ波長構造の形成方法の例について説明したが、サブ波長構造の形成方法はこれらに限定されない。
【0069】
図5は、偏光解消素子の他の実施例を説明するための概略的な平面図及び断面図である。
図5において、断面図は平面図のB−B’位置に対応している。
図5の平面図において、連結部の図示は省略されている。
図6は、
図5のサブ波長構造部分を拡大して示す断面図である。なお、本発明の偏光解消素子はこれに限定されるものではない。
【0070】
この実施例のサブ波長構造領域10の配置は
図1に示された実施例と同様であるので、サブ波長構造領域10の配置についての説明は省略する。
【0071】
偏光解消素子1において、各サブ波長構造領域10は、基材3の表層部に設けられたサブ波長のピッチを有する凹条部7と凸条部5の周期構造からなるサブ波長構造を備えている。サブ波長構造は、隣り合う凸条部5の先端部5a同士を連結する連結部9も備えている。
【0072】
連結部9は、同一のサブ波長構造領域10内で隣り合う凸条部5の先端部5a同士を連結しているだけでなく、隣接するサブ波長構造領域10間で隣り合う凸条部5の先端部5a同士も連結している。
【0073】
基材3、凸条部5及び連結部9は二酸化ケイ素で形成されている。連結部9は凹条部7の底部7aとは間隔をもって配置されている。凹条部7の上部は連結部9によって閉じられている。
【0074】
ところで、光学素子においてサブ波長構造は非常に有効な技術であるが、微細な構造であるために物理的強度が弱いという問題があった。したがって、サブ波長構造を備えた光学素子は、汚れを拭き取れなかったり、超音波で洗浄すると微細構造であるために共振して破損したりするなど、取扱性に問題があった。
【0075】
この実施例では、サブ波長構造を構成する凹条部7の上部は、隣り合う凸条部5の先端部5a同士を連結する連結部9によって閉じられている。これにより、サブ波長構造の強度が向上し、サブ波長構造の表面の拭き取りが可能になり、凹条部7の内部への異物の入り込みがなくなる。したがって、偏光解消素子1は取扱性に優れている。
【0076】
例えば、偏光解消素子1において、凹凸構造の周期Pは例えば200nmである。凸条部5の幅寸法Lは約136.2nmである。周期Pに占める凸条部5の幅寸法の割合を示すフィリングファクターf(f=L/P)は約0.68である。凹条部7の幅寸法Sは約63.8nmである。凹条部7の深さdは約2.7μmである。連結部9の厚みTは約0.3μmである。
【0077】
図7は、
図5及び
図6に示された偏光解消素子の実施例を形成するための製造方法の一例を説明するための概略的な断面図である。
図7に示された断面は
図6に対応している。
図7を参照してこの製造方法の例を説明する。
図7におけるカッコ数字(1)〜(3)は以下に説明される工程(1)〜(3)に対応している。なお、上記連結部を有する本発明の偏光解消素子を形成するための製造方法はこの製造方法例に限定されるものではない。
【0078】
(1)例えば、シリコン層11の上に、インプリント法を用いて、ピッチ200nm、フィリングファクター0.45(ライン幅90nm)のマスクパターン13を形成する。マスクパターン13は、
図5及び
図6に示された偏光解消素子1の凹条部7と凸条部5の周期構造に応じた凹凸周期構造をもつように形成される。シリコン層11は、例えば結晶面(100)のノンドープシリコンウェハである。シリコン層11の厚みは例えば300μmである。マスクパターン13の凸条部の高さ(凹条部の深さ)は例えば100nmである。マスクパターン13の材料は、インプリント法において一般的に用いられるものであればよく、特に限定されない。
【0079】
(2)ドライエッチング技術によってマスクパターン13をマスクにしてシリコン層11をパターニングして凹凸周期構造をもつシリコンパターンを形成する。シリコン層11を深さ方向に3μmエッチングしてシリコン凸条部15を形成する。その際にドライエッチング条件をサイドエッチングが起きやすいように設定した。
【0080】
例えば、SF
6ベースのガス種でエッチングする等である。シリコン凸条部15の加工仕上がりの寸法として、マスクパターン13の近傍の先端部はフィリングファクター0.45(幅90nm)程度であり、中間部及び基端部はフィリングファクターが0.3(幅60nm)程度である形状を得た。
【0081】
シリコン凸条部15の寸法は、シリコンパターンにおいて隣り合うシリコン凸条部15の先端部同士が後の工程(3)のシリコン酸化処理によって連結され、隣り合うシリコン凸条部15の基端部が工程(3)のシリコン酸化処理において連結されないように形成される。したがって、シリコン凸条部15の先端部の幅寸法は基端部の幅寸法よりも大きい寸法をもつ。このように、意図的にボーイング形状(柱の中間が細った形状)をもつシリコン凸条部15を形成する。
【0082】
ドライエッチングの手法としては、一般的なICP(inductively coupled plasma)エッチャーを用いた。プラズマ源としてはECRプラズマ(electron cyclotron resonance plasma)や平行平板型CCP(capacitively coupled plasma)など、特に制限はない。また、微妙なサイドエッチング量の制御が必要な場合は、必要に応じてボッシュ法や、中性粒子ビーム法などを用いてもよい。
【0083】
(3)残存しているマスクパターン13を除去する。シリコン凸条部15を備えたシリコンパターンに対して、ウェット法による熱酸化処理(シリコン酸化処理)を実施した。熱酸化処理条件は、シリコン凸条部15が完全に酸化される条件であればよい。この製造方法例では、後工程との兼ね合いで、形成される熱酸化膜の厚みが3μmとした。具体的な条件としては酸化温度1100℃で18時間熱酸化した。
【0084】
シリコン凸条部15が酸化されて、二酸化ケイ素からなる凸条部5及び連結部9が形成される。
図7(3)において、シリコン凸条部15は仮想線(二点鎖線)で示されている。凸条部5の形成に応じて形成される凹条部7が形成される。シリコン凸条部15に応じた凹条部の底部のシリコン層11が酸化されて、二酸化ケイ素からなる基材3が形成される。基材3の厚みは約3μmである。
【0085】
単結晶シリコンは熱酸化によって2.27倍に膨張する特性を有している。これにより、シリコン凸条部15が熱酸化されて形成された二酸化ケイ素からなる凸条部5の先端部5aは90nm×2.27=204.3nmとなる。先端部5aにおいて、凸条部5の幅方向に膨張して形成される二酸化ケイ素の寸法は凹凸周期構造の周期(200nm)を超えるので、隣り合う先端部5a同士が連結され、連結部9が形成される。凸条部5の形成に応じて形成される凹条部7の上部は連結部9によって完全に閉じられた形となった。
【0086】
また、シリコン凸条部15の先端部以外は、上記工程(2)でサイドエッチングによりフィリングファクター0.3(幅60nm)となっていたので、凸条部5の基端部及び中間部は、60nm×2.27=136.2nm(フィリングファクター0.68)になる。
【0087】
このように、凸条部5の先端から0.3μmの先端部5aの範囲は連結部9によって閉じられており、内部は、ピッチが200nm、フィリングファクターが0.68、深さが2.7μmのラインアンドスペースとなっている、サブ波長のピッチを有する凹条部7と凸条部5の周期構造をもつ偏光解消素子1が得られた。
【0088】
(4)
図7(3)では図示されていないが、偏光解消素子1の基材3の下方にはシリコン層11が存在している。偏光解消素子1の形成位置の下方のシリコン層11部分をシリコン層11の裏面側からエッチングして除去した。このエッチングには例えばボッシュ法が用いられる。二酸化ケイ素からなる基材3をエッチングストップ層として機能させ、シリコンのみを除去することができた。
【0089】
次に、
図8を参照して
図5及び
図6に示された偏光解消素子を形成するための製造方法の他の例を説明する。
図8は、
図5及び
図6に示された偏光解消素子の実施例を形成するための製造方法の他の例を説明するための概略的な断面図である。
図8におけるカッコ数字(1)〜(3)は以下に説明される工程(1)〜(3)に対応している。なお、上記連結部を有する本発明の偏光解消素子を形成するための製造方法はこの製造方法例に限定されるものではない。
【0090】
(1)例えば、合成石英ガラスからなる基材17上に、膜厚が4.5μmのシリコン層11を成膜する。シリコン層11上にインプリント法を用いて、ピッチ250nm、フィリングファクター0.5(ライン幅125nm)のマスクパターン13を形成する。マスクパターン13の凸条部の高さ(凹条部の深さ)は例えば100nmである。マスクパターン13の材料は、インプリント法において一般的に用いられるものであればよく、特に限定されない。
【0091】
シリコン層11の成膜方法は、例えばスパッタ法や蒸着法などのPVD(物理気相成長)法や、CVD法など、特に限定されない。ただし、膜密度が低い場合は後の工程で影響が出る可能性があり、その場合は成膜後にアニール処理をすることが好ましい。
【0092】
(2)ドライエッチング技術によってマスクパターン13をマスクにしてシリコン層11をパターニングして凹凸周期構造をもつシリコンパターンを形成する。シリコン層11を深さ方向に4.2μmエッチングしてシリコン凸条部15を形成する。その際にドライエッチング条件をサイドエッチングが起きやすいように設定した。
【0093】
シリコン凸条部15の加工仕上がりの寸法として、マスクパターン13の近傍の先端部はフィリングファクター0.5(幅125nm)程度であり、中間部及び基端部はフィリングファクターが0.32(幅80nm)程度である形状を得た。
【0094】
ここでも、上記の製造方法例と同様に、シリコン凸条部15の寸法は、シリコンパターンにおいて隣り合うシリコン凸条部15の先端部同士が後の工程(3)のシリコン酸化処理によって連結され、隣り合うシリコン凸条部15の基端部が工程(3)のシリコン酸化処理において連結されないように形成される。
【0095】
(3)残存しているマスクパターン13を除去する。シリコン凸条部15を備えたシリコンパターンに対して、ウェット法による熱酸化処理(シリコン酸化処理)を実施した。熱酸化処理条件は、シリコン凸条部15が完全に酸化される条件であればよい。この製造方法例では、酸化温度1100℃で2時間熱酸化した。これにより、基材17上に成膜されたシリコン層11は完全に酸化された。ただし、基材17上に成膜されたシリコン層11は完全には酸化されなくてもよい。
【0096】
シリコン凸条部15が酸化されて、二酸化ケイ素からなる基材3、凸条部5及び連結部9、ならびに凸条部5に応じた凹条部7が形成される。基材3の厚みは約0.63μmである。
【0097】
基材17上に成膜によって形成されたシリコン層11は、単結晶シリコンに比べて密度が低い関係で、熱酸化による膨張率が若干下がる。シリコン層11の成膜条件によるが、熱酸化による膨張率は1.8〜2.2倍程度になるのが一般的である。今回使用した膜においては約2.1倍に膨張した。
【0098】
これにより、シリコン凸条部15が熱酸化されて形成された二酸化ケイ素からなる凸条部5の先端部5aは125nm×2.1=262.5nmとなる。先端部5aにおいて、凸条部5の幅方向に膨張して形成される二酸化ケイ素の寸法は凹凸周期構造の周期(250nm)を超えるので、隣り合う先端部5a同士が連結され、連結部9が形成される。凸条部5の形成に応じて形成される凹条部7の上部は連結部9によって完全に閉じられた形となった。
【0099】
また、シリコン凸条部15の先端部以外は、上記工程(2)でサイドエッチングによりフィリングファクター0.32(幅80nm)となっていたので、凸条部5の基端部及び中間部は、80nm×2.1=168nm(フィリングファクター約0.67)になる。
【0100】
このように、凸条部5の先端から0.6μmの先端部5aの範囲は連結部9によって閉じられており、内部は、ピッチが250nm、フィリングファクターが0.67、深さが3.6μmのラインアンドスペースとなっている、サブ波長のピッチを有する凹条部7と凸条部5の周期構造をもつ偏光解消素子1が得られた。
【0101】
以上のように、シリコン凸条部15の形成において、シリコン層11の材質を考慮して、シリコン凸条部15の先端部におけるフィリングファクターを0.44〜0.5に設定する。また、シリコン凸条部15の基端部及び中間部のフィリングファクターを後工程のシリコン酸化処理で隣り合う基端部及び中間部が連結されない値に設定する。これにより、後工程のシリコン酸化処理によって、隣り合う凸条部5の先端部5aを連結する連結部9によって凹条部7の上部が閉じられている構造をもつ偏光解消素子1が形成される。
【0102】
また、この製造方法例は基材17上に成膜されたシリコン層11を加工することによって偏光解消素子1を形成する。基材17は石英ガラスなので、基材17を加工することにより、又は他の光学素子として予め加工された石英ガラスを用いることにより、他の光学素子に偏光解消素子1を貼り付ける工程を設けることなく、複合光学素子を形成できる。これにより、他の光学素子に偏光解消素子1を貼り付ける際の機械的な組み立てズレを無くすことができる。さらに、接着剤を用いることなく、偏光解消素子1を他の光学素子の表面に密着性よく配置することができる。
【0103】
この製造方法では、基材17として石英ガラスが用いられているが、シリコン層が成膜される基材は光学機能膜であってもよい。この場合でも、シリコン層が成膜される基材として石英ガラスが用いられる場合と同様の作用及び効果が得られる。
【0104】
ここで、光学機能膜は、例えば反射防止膜やフィルターなど、どのような光学機能を有するものであってもよい。また、光学機能膜は、1層の膜で形成されているものであってもよいし、複数層の膜で形成されているものであってもよい。
【0105】
なお、光学機能膜を構成する層の材質は、光学機能膜上に成膜されるシリコン層が後工程で熱酸化される観点から、その熱酸化プロセスに耐え得るものであることが好ましい。その材質は、例えば、スパッタ法やイオンプレーティング法などで高密度に成膜された、二酸化ケイ素や、Ta
2O
5やTiO
2などの金属酸化物などである。ただし、光学機能膜を構成する層の材質はこれらに限定されない。
【0106】
また、
図7を参照して説明した上記の製造方法例において、シリコン層11として汎用的な面方位(100)のノンドープのシリコンウェハを用いたが、後工程で加工できればシリコンウェハの結晶方位に制限はない。また、ノンドープのシリコンウェハを用いたが、後工程において熱酸化した時に損失が発生するレベルでなければ、N型やP型のシリコンウェハを用いても構わない。
【0107】
また、
図7又は
図8を参照して説明した上記の製造方法例において、マスクパターン13の形成方法としてナノインプリント法を用いたが、マスクパターンの形成方法は、例えば精密成型や露光法、電子線による描画など、公知の他の方法であってもよい。
【0108】
また、
図7又は
図8を参照して説明した上記の製造方法例において、シリコン凸条部15及びシリコン層11の熱酸化法としてウェット酸化を用いたが、この熱酸化処理はドライ酸化で行なわれてもよい。
【0109】
以上のように、上記連結部をもつサブ波長構造を有する本発明の偏光解消素子を製造するための方法は、シリコン層の上に、上記凹条部と上記凸条部の周期構造に応じた凹凸周期構造をもつマスクパターンを形成する工程と、ドライエッチング技術によって上記マスクパターンをマスクにして上記シリコン層をパターニングして凹凸周期構造をもつシリコンパターンを形成する工程であって、上記シリコンパターンにおいて隣り合うシリコン凸条部の先端部同士が後工程のシリコン酸化処理によって連結され、隣り合う上記シリコン凸条部の基端部が上記シリコン酸化処理において連結されないように、上記シリコン凸条部の先端部の幅寸法を基端部の幅寸法よりも大きい寸法で形成する工程と、上記シリコン酸化処理を施して上記シリコン凸条部を完全に酸化させて二酸化ケイ素からなる上記凸条部及び上記連結部を形成する工程と、を含んでいる。
【0110】
図7又は
図8を参照して説明した上記の製造方法例は、シリコン凸条部を酸化させて、凸条部と、隣り合う凸条部の先端部同士を連結する連結部とを二酸化ケイ素で形成する。ただし、シリコン凸条部を酸化させて二酸化ケイ素からなる凸条部を形成する製造方法は、上記連結部を備えていない偏光解消素子の製造方法にも適用できる。
【0111】
図9は、
図1に示された偏光解消素子の実施例を形成するための製造方法の他の例を説明するための概略的な断面図である。
図9におけるカッコ数字(1)〜(3)は以下に説明される工程(1)〜(3)に対応している。なお、この製造方法例は、
図1に示された偏光解消素子の作成だけでなく、上記連結部を有していない本発明の偏光解消素子の作成に適用できる。また、本発明の偏光解消素子を形成するための製造方法はこの製造方法例に限定されるものではない。
図9において
図8と同じ機能を果たす部分には同じ符号が付され、それらの部分の詳細な説明は省略される。
【0112】
(1)例えば、合成石英ガラスからなる基材17上に、膜厚が4.5μmのシリコン層11を成膜する。シリコン層11上にインプリント法を用いて、ピッチ250nm、フィリングファクター0.32(ライン幅80nm)のマスクパターン13を形成する。マスクパターン13の凸条部の高さ(凹条部の深さ)は例えば100nmである。
【0113】
(2)ドライエッチング技術によってマスクパターン13をマスクにしてシリコン層11をパターニングして凹凸周期構造をもつシリコンパターンを形成する。シリコン層11を深さ方向に4.2μmエッチングしてシリコン凸条部16を形成する。その際にドライエッチング条件をサイドエッチングが起きにくいように設定した。
【0114】
シリコン凸条部16の加工仕上がりの寸法として、フィリングファクターが0.32(幅80nm)程度である形状を得た。
【0115】
ドライエッチングの手法としては、一般的なICPエッチャーを用いた。プラズマ源としてはECRプラズマや平行平板型CCPなど、特に制限はない。また、微妙なサイドエッチ量の制御が必要な場合は、必要に応じてボッシュ法や、中性粒子ビーム法などを用いてもよい。
【0116】
シリコン凸条部16の寸法は、
図7又は
図8を参照して説明された上記の製造方法例とは異なり、シリコンパターンにおいて隣り合うシリコン凸条部16同士が後の工程(3)のシリコン酸化処理によって連結されないように形成される。
【0117】
(3)残存しているマスクパターン13を除去する。シリコン凸条部16を備えたシリコンパターンに対して、ウェット法による熱酸化処理(シリコン酸化処理)を実施した。熱酸化処理条件は、シリコン凸条部16が完全に酸化される条件であればよい。この製造方法例では、酸化温度1100℃で2時間熱酸化した。これにより、基材17上に成膜されたシリコン層11は完全に酸化された。ただし、基材17上に成膜されたシリコン層11は完全には酸化されなくてもよい。
【0118】
シリコン凸条部16が酸化されて、二酸化ケイ素からなる基材3、凸条部5、及び凸条部5に応じた凹条部7が形成される。基材3の厚みは約0.63μmである。
【0119】
基材17上に成膜によって形成されたシリコン層11は、単結晶シリコンに比べて密度が低い関係で、熱酸化による膨張率が若干下がる。シリコン層11の成膜条件によるが、熱酸化による膨張率は1.8〜2.2倍程度になるのが一般的である。今回使用した膜においては約2.1倍に膨張した。
【0120】
これにより、シリコン凸条部16が熱酸化されて形成された二酸化ケイ素からなる凸条部5は、上記工程(2)でフィリングファクター0.32(幅80nm)となっていたので、凸条部5の基端部及び中間部は、80nm×2.1=168nm(フィリングファクター約0.67)になる。
【0121】
このように、ピッチが250nm、フィリングファクターが0.67、深さが3.6μmのラインアンドスペースとなっている、サブ波長のピッチを有する凸条部5と凹条部7の周期構造をもつ偏光解消素子1が得られた。
【0122】
以上のように、シリコン凸条部16の形成において、シリコン層11の材質を考慮して、シリコン凸条部16のフィリングファクターを、後工程のシリコン酸化処理で隣り合うシリコン凸条部16が連結されない値、例えば0.44以下に設定する。これにより、後工程のシリコン酸化処理によって、二酸化ケイ素からなる凸条部5をもつ偏光解消素子1が形成される。
【0123】
なお、単結晶シリコンウェハの熱酸化による膨張理論値が例えば2.27倍であるとすると、シリコン凸条部16のフィリングファクターが約0.4405(=1/2.27)以上であれば、後工程のシリコン酸化処理で隣り合うシリコン凸条部16が連結される。したがって、シリコン凸条部16のフィリングファクターが0.44以下であれば、後工程のシリコン酸化処理で隣り合うシリコン凸条部16は連結されない。また、シリコン層11の膜密度が低下すれば膨張率は下がるので、この値を上限にすれば連結は起こらない。
【0124】
この製造方法例は基材17上に成膜されたシリコン層11を加工することによって偏光解消素子1を形成する。したがって、この製造方法例は、
図8を参照して説明された上記製造方法例と同様に、光学機能を有する基材(例えば石英ガラスや光学機能膜)の上に偏光解消素子を形成したときの上記作用及び上記効果が得られる。
【0125】
また、マスクパターン13の形成方法は、例えば精密成型や露光法、電子線による描画など、公知の他の方法であってもよい。
また、シリコン凸条部16及びシリコン層11の熱酸化処理はドライ酸化で行なわれてもよい。
【0126】
また、この製造方法例では、基材17上に成膜されたシリコン層11を加工することによってシリコン凸条部16を形成しているが、シリコン凸条部16は、
図7を参照して説明された製造方法例と同様に、シリコンウェハに形成されてもよい。
【0127】
以上のように、サブ波長構造を有する本発明の偏光解消素子を製造するための方法の一例は、シリコン層の上に、上記凹条部と上記凸条部の周期構造に応じた凹凸周期構造をもつマスクパターンを形成する工程と、ドライエッチング技術によって上記マスクパターンをマスクにして上記シリコン層をパターニングして凹凸周期構造をもつシリコンパターンを形成する工程であって、上記シリコンパターンにおいて隣り合うシリコン凸条部同士が後工程のシリコン酸化処理によって連結されない程度の寸法で上記シリコン凸条部を形成する工程と、上記シリコン酸化処理を施して上記シリコン凸条部を完全に酸化させて二酸化ケイ素からなる上記凸条部を形成する工程と、を含んでいる。
【0128】
上記の実施例の偏光解消素子は主に紫外〜可視光を対象としているが、本発明は「サブ波長構造を有する偏光解消素子」に関するものであり、使用する波長域については特に制限がない。例えば、赤外光やテラヘルツ波などの光に対しても本発明は適用可能である。以下に具体的な例を示す。
【0129】
テラヘルツ波を対象とした本発明の偏光解消素子の実施例を説明する。この実施例の偏光解消素子の平面図及び断面図は
図1及び
図2と同様である。
図1及び
図2を参照してこの実施例を説明する。
【0130】
テラヘルツ波を対象としたこの実施例の偏光解消素子1は複数のサブ波長構造領域10を備えている。サブ波長構造領域10において、サブ波長構造のフィリングファクターは同一であり、例えば0.55である。凸条部5及び凹条部7のピッチPは例えば200μmである。凸条部5の幅寸法(ライン幅)は例えば110μmである。凹条部7の幅寸法は例えば90μmである。この形状は波長500μmの光に対してλ/2の位相差をもつ。
【0131】
サブ波長構造領域10において、サブ波長構造の繰返し周期数は例えば5〜25回である。
偏光解消素子1には、サブ波長構造領域10として、サブ波長構造の繰返し周期数が互いに異なっているもの、サブ波長構造の光学軸が互いに異なっているものが混載されている。
【0132】
偏光解消素子1は、複数のサブ波長構造領域10として光学軸が互いに異なっているものを含んでいるので、テラヘルツ波のスペックルを解消できる。さらに、偏光解消素子1は、同一の繰返し周期及びフィリングファクターを有するが、サブ波長構造の繰返し周期数が互いに異なっていることにより互いに位相差が異なっているサブ波長構造領域10を含んでいる。したがって、偏光解消素子1は、テラヘルツ波のスペックルをより解消できる。
【0133】
この実施例が適用された
図1では、10mm×10mmの領域に、1mm×1mmの分割単位として1つの分割単位領域又は複数の分割単位領域からなる約50個のサブ波長構造領域10が配置された状態が示されている。
図1に示されたサブ波長構造領域10の配置領域は、偏光解消素子1においてサブ波長構造領域10が配置される領域の一部分を示している。なお、偏光解消素子1のサブ波長構造領域10の配置領域の大きさが特に限定されないことは、テラヘルツ波を対象としたこの実施例にも適用される。また、サブ波長構造領域10の形状や配置は
図1に示されたものに限定されず、他の形状や配置であってもよい。
【0134】
テラヘルツ波を対象とした偏光解消素子を形成するための製造方法の一例について説明する。
【0135】
例えば、厚みが例えば300μmのシリコン層の上に、フォトリソグラフィ法を用いて、ピッチ200μm、フィリングファクター0.55(ライン幅110μm)のマスクパターンを形成する。シリコン層は、例えば結晶面(100)のノンドープ単結晶シリコンウェハである。マスクパターンにおける凸条部の高さ(凹条部の深さ)は例えば40μmである。
【0136】
なお、シリコン層は、結晶面(100)のノンドープシリコンウェハに限定されず、他の結晶面をもつ単結晶シリコンウェハであってもよいし、P型又はN型の不純物が導入されたドープド単結晶シリコンウェハであってもよい。
【0137】
また、マスクパターンの材料はフォトリソグラフィ法において一般的に用いられるものであればよく、特に限定されない。また、マスクパターンの形成方法はフォトリソグラフィ法に限定されず、他の方法、例えば電子ビーム描画法やインプリント法であってもよい。
【0138】
ドライエッチング技術によってマスクパターンをマスクにしてシリコン層をパターニングして凹凸周期構造をもつシリコンパターンからなるサブ波長構造を形成する。シリコン層を深さ方向に例えば200μmエッチングしてシリコンからなる凸条部を形成する。その際にドライエッチング条件をサイドエッチングが起きにくいように設定した。隣り合う凸条部の間に凹条部が形成される。
【0139】
シリコンからなる凸条部の加工仕上がりの寸法として、フィリングファクター0.55(ライン幅110μm)程度である形状を得た。この形状は波長500μmの光に対してλ/2の位相差をもつ。これにより、シリコンからなるテラヘルツ波に使用可能な偏向解消素子を形成することができる。
【0140】
ここでは、シリコン層を加工してシリコンパターンからなるサブ波長構造をもつ、テラヘルツ波を対象とした偏光解消素子及びその製造方法例について説明した。サブ波長構造の材料としてテラヘルツ波を透過する他の材料、例えばポリエチレンやTsurupica(パックス社の商品名)などを用いれば、シリコンを用いた場合と同様に、テラヘルツ波のスペックル解消に使用可能な偏向解消素子を形成することができる。また、サブ波長構造の材料として赤外光を透過する材料を用いれば、赤外光のスペックル解消に使用可能な偏向解消素子を形成することができる。
【0141】
(偏光解消素子の適用例)
(レーザプリンタへの適用)
図10はレーザプリンタの光学系を示したものである。レーザダイオード・ユニット51内部には、光源としてのレーザダイオードと、レーザダイオードから射出されるレーザビームは平行光線にするコリメートレンズが設けられている。レーザダイオード・ユニット51から平行光線となって射出されるレーザビームは、ポリゴンミラー(回転多面鏡)52によって偏向走査され、F−θレンズ53等から構成される結像レンズ系によってドラム状の感光体ドラム55の帯電した表面に画像を結像する。
【0142】
この実施例では、レーザダイオード・ユニット51から射出されるレーザビームをランダムな偏光状態をもったレーザビームとするために、レーザダイオード・ユニット51とポリゴンミラー52の間の光路上に偏光解消素子1が配置されている。
【0143】
図11は、偏光解消素子1の機能を高めるために、偏光解消素子1をレーザビームの光軸方向に平行な軸を回転中心として回転させ、又は偏光解消素子1をレーザビームの光軸に平行に若しくは垂直に振動させる機能を備えた駆動機構57を設けた例である。このような駆動機構57を設けることにより、偏光解消素子1の偏光解消機能に時間分解能を追加することができる。すなわち、時間軸に対しても偏光解消機能を付加することができる。
【0144】
偏光解消素子1を回転させる場合には、偏光解消素子1を中心に回転中心を有するように形成する。そして、偏光解消素子1の回転中心にモータによって駆動される回転機構を装着して偏光解消素子1を回転させるようにしてもよいし、偏光解消素子1の中心を回転可能に保持しておいて偏光解消素子1の外周部に偏光解消素子1を回転させる機構を設けるようにしてもよい。偏光解消素子1の回転速度は、使用する光源や使用する表示デバイスの振動数によって異なるが、10rpm以上の回転速度があれば偏光解消機能を向上させる効果が十分に得られる。
【0145】
偏光解消素子1を振動させる場合には、偏光解消素子1の外周を保持するセルを設け、そのセルをピエゾ素子によってレーザビームの光線方向に対して平行に又は垂直に振動させるようにする。偏光解消素子1の振動速度は、使用する光源や使用する表示デバイスの周波数によって異なるが、使用するデバイスの表示振動周波数(例えば、10msec)の10分の1以上の振動数があれば偏光解消機能を向上させる効果が十分に得られる。
【0146】
(露光装置への適用)
図12は露光装置の光学系を概略的に示したものである。KrFエキシマレーザ又はArFエキシマレーザからなる光源60からの紫外線のレーザ光は、光束整形光学系61により所定の光束形状に変換され、照明光学系63,64により原版であるマスク66に照射される。マスク66のパターンはマスク66を透過した紫外線が投影光学系67によりウェハ68に照射されることにより投影露光される。ウェハ68はウエハステージ69に保持され、ウエハステージ69によってウェハ68が投影光学系67の光軸と直交する平面に沿って2次元的に移動することにより投影露光が繰り返されていく。
【0147】
光源60がレーザであることから、発生するレーザ光は直線偏光である。そこで、この実施例では、光源60から射出されるレーザ光をランダムな偏光状態をもったレーザ光とするために、光束整形光学系61と照明光学系63の間の光路上に偏光解消素子1が配置されている。
【0148】
なお、この露光装置の例においても、偏光解消素子1を回転させたり振動させたりするための駆動機構を設けて、偏光解消素子1の偏光解消機能を高めるようにしてもよい。そのような駆動機構は上記のレーザプリンタの例と同じであり、ここでの説明は省略する。
【0149】
(光ファイバ増幅器への適用)
図13は偏光解消素子を光ファイバ増幅器に適用した例を示したものである。
ファイバ増幅器は、希土類元素添加光ファイバ74に光源70からの励起光71を入射して光ファイバ74中の希土類元素を活性化しておき、そこに入射光72を入射させることにより、その入射光72を増幅して出射させるものである。励起光71と入射光72をともに光ファイバ74に入射させるために、励起光71と入射光72とを結合する光カプラ73が設けられている。
【0150】
光ファイバ74に添加される希土類元素は増幅すべき入射光の波長に応じて選択される。例えば、入射光の波長が1550nm波長帯域である場合にはエルビウム(Er)を初めとするランタノイド希土類元素、入射光の波長が1060nm波長帯域又は1300nm波長帯域の場合はネオジム(Nd)、入射光の波長が1300nm波長帯域の場合はプラセオジウム(Pr)、入射光の波長が1450nm波長帯域の場合はツリウム(Tm)などが用いられる。
【0151】
希土類元素添加光ファイバ74は、増幅特性について偏光依存性をもっているので、この実施例では光ファイバ74に入射する光を無偏光状態にするために、光カプラ73と光ファイバ74の間の光路上に本発明の偏光解消素子1が配置されている。
【0152】
なお、この光ファイバ増幅器の例においても、偏光解消素子1を回転させたり振動させたりするための駆動機構を設けて、偏光解消素子1の偏光解消機能を高めるようにしてもよい。そのような駆動機構は上記のレーザプリンタの例と同じであり、ここでの説明は省略する。
【0153】
本発明の偏光解消素子は、上記に例示したレーザプリンタ、露光装置及び光ファイバ増幅器のほかにも、偏光に起因してスペックルが生じる光学系に適用することができる。そのような光学系として、レーザ光源を用いる分光器、レーザ計測装置、光ピックアップ装置、プロジェクタ、特許文献3に記載されているような偏光解析装置、偏波モード分散補償(PMDC)システム、CCD及びCMOSセンサー、特許文献4に記載されているような位相差測定装置、並びに特許文献5に記載されているようなレーザ加工装置等を挙げることができる。
【0154】
偏光解消素子を用いた効果及びその偏光解消素子を回転駆動及び振動駆動することによる効果の検証をレーザープロジェクタにおいて行なった。この検証では、表示画面の一部を拡大させてその拡大部分の面積当たりのスペックルの数をカウントし、そのカウント数を表示画面全体の面積におけるカウント数に換算して評価した。偏光解消素子を導入しなかった場合は、大小・濃淡を含めてスペックルのカウント数は約3万箇所にとなった。これに対し、偏光解消素子を導入した場合にはそのカウント数が1000個程度に激減した。
【0155】
その状態から偏光解消素子を50rpmの速度で回転させた場合はスペックルがまったく観測されなかった。また、ピエゾ素子を使用して偏光解消素子をレーザビームの光線方向に対して垂直に約50μmの振幅で振動させた場合にもスペックルがまったく観測されなかった。これらのことから、偏光解消素子を導入することによってスペックルの数を大幅に減少させる効果があることがわかり、さらに偏光解消素子を回転させたり振動させたりすることによってその効果を向上させることができることがわかる。
【0156】
図14は、偏光解消素子のさらに他の実施例を説明するための概略的な平面図である。この偏光解消素子の実施例の断面図は
図1又は
図5の断面図と同様である。
【0157】
この実施例の偏光解消素子1は、サブ波長構造の光学軸が紙面縦方向及び横方向に対して右上がり(もしくは左下がり)又は左上がり(もしくは右下がり)に45度傾斜している複数のサブ波長構造領域10が配置されている。また、
図1及び
図5と同様に、サブ波長構造の光学軸が紙面縦方向又は横方向のサブ波長構造領域10も配置されている。
【0158】
各サブ波長構造領域10において、サブ波長構造の繰返し周期(ピッチ)及びフィリングファクターは同一である。
サブ波長構造の光学軸が45度傾斜している複数のサブ波長構造領域10は、サブ波長構造の繰返し周期数が互いに異なっているサブ波長構造領域10を含んでいる。
【0159】
サブ波長構造の光学軸が45度傾斜している各サブ波長構造領域10において、サブ波長構造の繰返し周期数の最大回数は例えば5〜25回である。サブ波長構造の繰返し周期数の最大回数とは、サブ波長構造領域10内において凸条部5及び凹条部7の凹凸繰返し方向で繰返し周期数が最も大きくなる位置での繰返し周期数である。
【0160】
本発明において、サブ波長構造領域内で凸条部と凹条部の繰返し周期数が変化している場合、サブ波長構造の繰返し周期数が最大回数になる部分の凸条部と凹条部の凹凸繰返し方向の領域サイズをサブ波長構造領域の凹凸繰返し方向領域サイズとする。
【0161】
この実施例の偏光解消素子1は、同一の繰返し周期及びフィリングファクターを有するが、サブ波長構造の繰返し周期数が互いに異なっていることにより互いに位相差が異なっているサブ波長構造領域10を含んでいる。したがって、
図1又は
図5に示された実施例と同様に、スペックルをより解消できる。
【0162】
図15は、偏光解消素子のさらに他の実施例を説明するための概略的な平面図である。この偏光解消素子の実施例の断面図は
図1又は
図5の断面図と同様である。
【0163】
この実施例の偏光解消素子1は、複数のサブ波長構造領域10は、
図1又は
図5に示された実施例と比較して、凸条部5及び凹条部7が曲線を含んでいて光学軸が変化しているサブ波長構造領域10をさらに含んでいる。各サブ波長構造領域10において、サブ波長構造の繰返し周期(ピッチ)及びフィリングファクターは同一である。
【0164】
凸条部5及び凹条部7が曲線を含んでいる複数のサブ波長構造領域10は、サブ波長構造の繰返し周期数が互いに異なっているサブ波長構造領域10を含んでいる。凸条部5及び凹条部7が曲線を含んでいる各サブ波長構造領域10において、サブ波長構造の繰返し周期数は例えば5〜25回である。
【0165】
この実施例の偏光解消素子1も、
図1又は
図5に示された実施例と同様に、偏光解消素子1は、スペックルをより解消できる。
【0166】
図16は、偏光解消素子のさらに他の実施例を説明するための概略的な平面図である。この偏光解消素子の実施例の断面図は
図1又は
図5の断面図と同様である。
【0167】
この実施例の偏光解消素子1は、複数のサブ波長構造領域10は、
図15に示された実施例と比較して、サブ波長構造の光学軸が紙面縦方向及び横方向に対して右上がり又は左上がりに45度傾斜している複数のサブ波長構造領域10をさらに含んでいる。各サブ波長構造領域10において、サブ波長構造の繰返し周期(ピッチ)及びフィリングファクターは同一である。
【0168】
サブ波長構造の光学軸が45度傾斜している各サブ波長構造領域10において、サブ波長構造の繰返し周期数の最大回数は例えば5〜25回である。
この実施例の偏光解消素子1も、上記実施例と同様に、スペックルをより解消できる。
【0169】
図17は、偏光解消素子のさらに他の実施例を説明するための概略的な平面図である。この偏光解消素子の実施例の断面図は
図1又は
図5の断面図と同様である。
【0170】
この実施例の偏光解消素子1では、複数のサブ波長構造領域10は、正三角形を領域単位としている。各単位領域に、光学軸が紙面縦方向、紙面横方向、右上がりに斜め45度方向又は左上がりに斜め45度のサブ波長構造が配置されてサブ波長構造領域10が形成されている。サブ波長構造が同一の光学軸をもつ隣接する単位領域は1つのサブ波長構造領域10とする。
【0171】
各サブ波長構造領域10において、サブ波長構造の繰返し周期数の最大回数は例えば5〜25回である。
この実施例の偏光解消素子1も、上記実施例と同様に、スペックルをより解消できる。
【0172】
図18は、偏光解消素子のさらに他の実施例を説明するための概略的な平面図である。この偏光解消素子の実施例の断面図は
図1又は
図5の断面図と同様である。
【0173】
この実施例の偏光解消素子1では、複数のサブ波長構造領域10は、正六角形を領域単位としている。各単位領域に、光学軸が紙面縦方向、紙面横方向、右上がりに斜め45度方向又は左上がりに斜め45度のサブ波長構造が配置されてサブ波長構造領域10が形成されている。サブ波長構造が同一の光学軸をもつ隣接する単位領域は1つのサブ波長構造領域10とする。
【0174】
各サブ波長構造領域10において、サブ波長構造の繰返し周期数の最大回数は例えば5〜25回である。
この実施例の偏光解消素子1も、上記実施例と同様に、スペックルをより解消できる。
【0175】
図19は、偏光解消素子のさらに他の実施例を説明するための概略的な平面図である。この偏光解消素子の実施例の断面図は
図1又は
図5の断面図と同様である。
【0176】
この実施例の偏光解消素子1において、複数のサブ波長構造領域10は、
図18に示された実施例と比較して、正六角形の領域単位に加えて円形の領域単位をさらに備えている。円形の単位領域に、光学軸が紙面縦方向、紙面横方向、右上がりに斜め45度方向又は左上がりに斜め45度のサブ波長構造が配置されてサブ波長構造領域10が形成されている。サブ波長構造が同一の光学軸をもつ隣接する又は重なっている単位領域は1つのサブ波長構造領域10とする。
【0177】
各サブ波長構造領域10において、サブ波長構造の繰返し周期数の最大回数は例えば5〜25回である。
この実施例の偏光解消素子1も、上記実施例と同様に、スペックルをより解消できる。
【0178】
図20は、偏光解消素子のさらに他の実施例を説明するための概略的な平面図及び断面図である。
図20において、断面図は平面図のC−C’位置に対応している。なお、本発明の偏光解消素子はこれに限定されるものではない。
図20において
図1と同じ部分には同じ符号が付されている。
【0179】
この実施例の偏光解消素子1は、サブ波長構造領域10の配置領域においてサブ波長構造領域10が配置されていない領域を含んでいる。サブ波長構造領域10として、サブ波長構造の凸条部5と凹条部7の凹凸繰返し方向が同一の複数のサブ波長構造領域10のみが配置されている。各サブ波長構造領域10において、サブ波長構造の繰返し周期数の最大回数は例えば5〜25回である。
【0180】
サブ波長構造領域10が配置されていない領域は、発生位相差がゼロである領域とみなすことができる。したがって、サブ波長構造領域10が配置されている領域と配置されていない領域は、互いに位相差が異なる領域である。
この実施例の偏光解消素子1も、上記実施例と同様に、スペックルを解消できる。
【0181】
図14から
図20を参照して、偏光解消素子1におけるサブ波長構造領域10の形状やサイズ、サブ波長構造の配置方向の変形例について説明したが、本発明の偏光解消素子はこれらの変形例に限定されない。本発明の偏光解消素子において、サブ波長構造領域の形状はどのような形状であってもよい。また、サブ波長構造領域におけるサブ波長構造の配置方向(光学軸の方向)は任意である。また、サブ波長構造の光学軸が互いに異なっている複数のサブ波長構造領域において、サブ波長構造の光学軸がなす角度は任意であり、サブ波長構造の光学軸の方向の数も任意である。
【0182】
次に、本発明の偏光解消装置について説明する。本発明の偏光解消装置は、並進振動される光偏光器の光透過領域に本発明の偏光解消素子が配置されたものである。
【0183】
図21は、偏光解消装置の一実施例を説明するための概略的な斜視図である。
図22は、
図21のD−D’位置での概念的な断面図である。
【0184】
この実施例を作成するにあたって、0.525mm(ミリメートル)のシリコンウエハ(シリコン基板)を貫通加工することによって
図21及び
図22に示されるようなバネ構造を形成した。
【0185】
偏光解消装置101は、光偏光器103と、弾性体105と、支持体107と、振動子109と、台座111とを備えている。光偏光器103、弾性体105及び支持体107は、例えば、後述するシリコンプロセス法(フォトリソグラフィ加工、ナノインプリント加工、ウエットエッチング加工、ドライエッチング加工するなど)により、1つのシリコン基板113が半導体熱酸化プロセスを含んで加工されて形成されたものである。
【0186】
光偏光器103は光透過領域103aを有する。光透過領域103aはシリコン基板113の一部分が熱酸化されて形成された二酸化ケイ素115で形成されている。光偏光器103の光透過領域103aよりも厚みが厚い部分は、表面が二酸化ケイ素115で形成されており、内部がシリコン基板113で形成されている。
【0187】
光透過領域103aの一表面に偏光解消素子1が形成されている。偏光解消素子1は、例えば上記実施例で説明したものであり、使用する光の波長よりも短い周期で繰り返して配列された凸条部5と凹条部7からなるサブ波長構造を備えている。偏光解消素子1は二酸化ケイ素115で形成されている。
【0188】
弾性体105は、光偏光器103を並進振動させるために光偏光器103に連結されている。この実施例では、一対の弾性体105が設けられている。
支持体107は、弾性体105を介して光偏光器103を支持している。弾性体105及び支持体107は、表面が二酸化ケイ素115で形成されており、内部がシリコン基板113で形成されている。
【0189】
振動子109は、光偏光器103を並進振動させるためのものである。この実施例では、振動子109は弾性体105を介して光偏光器103を並進振動させる。振動子109は例えば圧電振動子である。ただし、振動子109は圧電振動子に限定されない。振動子109は光偏光器103を所定の周波数で並進振動させることができるものであればどのような構造のものであってもよい。
【0190】
台座111は支持体107と振動子109とを位置固定するためのものである。台座111は、例えば金属製であり、矩形形状を有する。ただし、台座111の材料及び形状はこれらに限定されない。
【0191】
光偏光器103に対して、その一方の向かい合う両辺(
図21では、長辺)に、1対の弾性体105(左右)の基端部がそれぞれ連結されている。一方の弾性体105の先端には振動子109の先端部が連結されている。他方の弾性体105の先端は支持体107に連結されている。光偏光器103の他方の向かい合う両辺(
図21では、短辺)はフリーの状態である。
【0192】
支持体107及び振動子109は、支持体107及び振動子109を包囲する形状に形成された枠状の台座111に固定されている。この実施例では、支持体107と振動子109は互いに間隔をもって配置されている。ただし、支持体107と振動子109は接触していてもよい。
【0193】
台座111は、光偏光器103、弾性体105及び支持体107とは別の加工により作製される。ここではこの製作方法は述べない。
【0194】
台座111と支持体107との固定、及び台座111と振動子109との接合には、接着樹脂、AuSn共晶接合、Au−Au固相拡散接合、ハンダ接合、バンプ接合等、産業上可能なあらゆる接合方式を用いることができる。
【0195】
図23は、光偏光器103を拡大して示した概略的な断面図である。
例えば、サブ波長構造をもつ偏光解消素子1において、凹凸周期(ピッチ)Pは150〜250nmである。凸条部5のランドの幅Lは75〜125nmである。例えば空気層からなる凹条部7の溝の幅Sは75〜125nmである。凹凸周期PはP=L+Sである。溝の深さdは2〜5μmである。また、光偏光器103の厚みtは7〜15μmである。
【0196】
偏光解消装素子1は、上記実施例で説明されたように、複数のサブ波長構造領域10を備えている(例えば
図1、
図5、
図14〜
図20等を参照。)。偏光解消素子1において、サブ波長構造の凸条部5と凹条部7の凹凸繰返し方向の領域サイズが凸条部5と凹条部7の繰返し周期数で5〜25回相当の範囲内であるサブ波長構造領域10が含まれている。
【0197】
光偏光器103において、光透過領域103aはその厚みが10μm程度の薄肉となっている。そこで、光偏光器103において、光透過領域103aの外周に0.525mm厚の枠を残し、強度を確保した。
【0198】
光偏光器103、弾性体105及び支持体107板は、例えば525μm程度のシリコン基板を加工して作製されている。すなわち、薄いシリコン基板を両面から順次加工するプロセスであり、このプロセスで製作された構造そのものが弾性梁の機能を有している。そのため、光偏光器103と連結する弾性体材を別途設けることなく、機械的な共振現象を利用しなくても、スペックルパターンの平均化に必要な100μm程度の並進変位を得ることが可能となっている。
【0199】
次に振動設計について説明する。振動設計はCAD(Computer Aided Design)及び構造解析ソフトを用いて共振周波数を求めた。弾性体105の太さ(幅)を変化させながら、共振周波数が例えば18kHz(キロヘルツ)になるように調整した。本件設計結果では弾性体105の幅0.13mmが得られた。
【0200】
図24は、この実施例の偏光解消装置における弾性体105の幅と共振周波数の関係を示す図である。
図24において、縦軸は共振周波数(kHz)、横軸は弾性体幅(mm)を示す。
【0201】
偏光解消装置101において、光偏光器103における光透過領域103aとは異なる部分(周囲部分)の厚みは支持体107の厚みと同じ寸法でなくてもよい。また、弾性体105の厚みは支持体107の厚みと同じ寸法でなくてもよい。これらの部分の厚みは、支持体107の厚みよりも小さい寸法であってもよい。その一例を
図25及び
図26に示す。
【0202】
図25は、偏光解消装置の他の実施例を説明するための概念的な断面図である。
図26は、偏光解消装置のさらに他の実施例を説明するための概念的な断面図である。
図25及び
図26において、
図21及び
図22と同じ機能を果たす部分には同じ符号が付されている。
【0203】
図25及び
図26に示されるように、光偏光器103における光透過領域103aとは異なる部分の厚みは、光透過領域103aの厚みと同じであってもよい。なお、光偏光器103における光透過領域103aとは異なる部分の厚みは、光透過領域103aの厚み及び支持体107の厚みとは異なっていてもよい。このように、光偏光器103における光透過領域103aとは異なる部分の厚みは任意の厚み寸法に形成可能である。
【0204】
また、
図25に示されるように、弾性体105の厚みは、光透過領域103aの厚み及び支持体107の厚みとは異なっていてもよい。なお、支持体107の厚みは均一でなくてもよい。また、
図26に示されるように、弾性体105の厚みは、光透過領域103aの厚みと同じであってもよい。このように、弾性体105の厚みは任意の厚み寸法に形成可能である。
【0205】
次に、偏光解消装置101の作製手順を説明する。まず、
図27及び
図28を参照して、1つのシリコン基板から加工される光偏光器103、弾性体105及び支持体107の作成手順について説明する。
【0206】
図27及び
図28は、光偏光器103、弾性体105及び支持体107の作成手順の一例を説明するための概略的な工程断面図である。この製造工程では、
図26に示された光偏光器103、弾性体105及び支持体107の断面形状の作成手順を説明する。なお、
図21又は
図25に示された断面形状は、以下に説明する作成手順と同様にして作成できる。
【0207】
光偏光器103、弾性体105及び支持体107の製造基本のプロセスは、
図27(a)から
図28(j)に示すように、シリコン基板113の表面及び裏面を熱酸化炉(拡散炉)によって酸化し、二酸化ケイ素115(熱酸化シリコン膜)を形成する(熱酸化膜形成ステップ)。二酸化ケイ素115の厚みは、例えば50μmとする。
【0208】
まず、
図27に沿って基本製作プロセスを示す。
図27(a)に示すように、両面研磨加工されたシリコン基板113(通常の525μm厚さ)を準備し、光偏光器機能を発現させる面(
図27及び
図28では上面)の表面に、メタル膜117を膜厚0.1から1μm程度、スパッタリング法で成膜する。メタル膜117は、後工程で述べるアルカリウエットエッチング時に上面を保護するための保護膜である。メタル膜117は、例えばクロムやニッケル等である。ただし、メタル膜117は、アルカリウエットエッチングに耐久性があり、かつ後述する工程でパターニング可能な材料であれば、金属以外の材料であってもよい。
【0209】
図27(b)に示すように、シリコン基板113の裏面(光偏光器機能を発現させない面(図では下面))の表面に、通常のフォトリソグラフィ法(レジスト塗布、プリベーク、ステッパー露光、現像、リンス、形状評価)によって弾性体105の一部分及び支持体107(
図1及び
図26を参照。)を構成する部分を覆うレジスト材料119を形成する。
【0210】
図27(c)に示すように、シリコン基板113の裏面側からアルカリ(KOH)ウエットエッチング液でシリコン基板113をエッチングする。なお、シリコン基板113の結晶構造によって、ウエットエッチング後に現れる結晶面が異なる。ここでは、大まかなプロセスを述べているので、結晶面は述べない。シリコン基板113のエッチングされる部分が所定の厚さ(例えば残り厚さ:25〜45μm程度)になるまでウエットエッチングを時間管理して実施する。エッチング後に、シリコン基板113を洗浄する。
【0211】
図27(d)に示すように、光偏光器機能を発現させる面(図では上面)の表面に予め光学設計(シミュレーション)で解を得ているサブ波長構造体のピッチとライン/スペースの構造を製作するNIP(ナノインプリント)金型を準備する。この金型の製作方法は、例えば、石英基板上にシリコン膜を形成し、その上に電子線レジストを塗布し、このレジストに専用のEB描画装置でパターンを形成する。形成するパターンは、Δ=λ/4狙いの場合でも、Δ=λ/2狙いの場合でも、ピッチ(P)=250nm、ランドの幅(L):85nm、溝の幅(S):165nmである。このパターンをマスクにして形状をドライエッチング法で石英基板に刻印する方法で製作する。
【0212】
メタル膜117上にNIP転写用樹脂を適量塗布する。この樹脂に上記で準備していた石英金型を押し当てて、メタル膜117/樹脂材料層121/金型(図示は省略)の構成とする。石英金型の上方から紫外線を照射して、樹脂を硬化させる。金型を剥離すると、金型の凹凸と反転した形状がメタル膜117上の樹脂材料層121に転写される。この具体的な工程は特許文献2に開示されている。なお、所定のパターンを有する樹脂材料層121(マスクパターン)を形成する方法は、NIP法に限定されず、どのような方法であってもよい。
【0213】
図27(e)に示すように、樹脂材料層121をマスクとして(BCl
3、Cl
2、O
2ガスを導入して)ドライエッチング法でメタル膜117をエッチングする。これにより、メタル膜117をパターニングする。
【0214】
図28(f)に示すように、樹脂材料層121及びメタル膜117をマスクとしてボッシュプロセスでシリコン基板113を深彫りする。ここでエッチングする深さは、
(1)Δ=λ/4の場合:深さ(d)=2.5μm、
(2)Δ=λ/2の場合:深さ(d)=5.0μmである。
【0215】
レジストをマスクとしてアスペクト比:≧20を実現するボッシュプロセスの具体的な加工条件の一例を示すと、次のとおりである。
【0216】
(a)エッチングされたシリコン基板113の壁に保護膜を成膜する条件
ガス:C
4F
8
ガス流量:100〜200sccm
圧力:20〜30mToor
加工時間:3〜4秒
バイアス:〜20W
上部電力:1.8〜2.2KW
【0217】
(b)シリコンをエッチングするプロセス条件
ガス:SF
6
ガス流量:200〜300sccm
圧力:25〜70mToor
加工時間:4.5〜8.5秒
バイアス:50〜70W
上部電力:1.7〜2.0KW
エッチングレート:2〜7μm/分
【0218】
図28(g)に示すように、シリコン基板113の裏面(光偏光器機能を発現させない面(図では下面))の表面に、通常のフォトリソグラフィ法(レジスト塗布、プリベーク、ステッパー露光、現像、リンス、形状評価)によって、光偏光器103及び弾性体105を構成する部分を保護するレジスト材料123を形成する。
【0219】
図28(h)に示すように、レジスト材料123をマスクにして、シリコン基板113をウエットエッチングでエッチングして、光偏光器103、弾性体105及び支持体107を形成する。
【0220】
図28(i)に示すように、基板表裏面のレジスト材料119,123、樹脂材料層121、メタル膜117を剥離する。これにより、パターニングされたシリコン基板113が完成する。
【0221】
図28(j)に示すように、パターニングされたシリコン基板113を熱酸化炉で熱酸化して、シリコン基板113の表面に二酸化ケイ素115を形成する。シリコン基板113表面から5〜10μmの厚さまで、シリコンが熱酸化されて二酸化ケイ素115に組成変化する。組成変化した後のパターン形状は、初期の設計の値と同じであった。これにより、二酸化ケイ素115からなる光透過領域103a及び偏光解消素子1が形成される。
【0222】
次に、台座111の製造工程について説明する。
台座111の製造工程は、上記シリコンプロセスとは全く異なる。金属製の形状加工ステップである。
【0223】
台座111の製造工程では、例えば、プレスで打ち抜いた金属板(厚さ:1.0mm)を使用するか、機械加工した金属板(厚さ:1.0〜2.0mm)を使用する。これにより、支持体107及び振動子109を固定するための台座111が形成される。
【0224】
台座111と支持体107との固定を接着樹脂で行なう場合には、シリコン基板113上のすべて金属材料、レジスト材料を除去し、表面熱酸化された後に、表面熱酸化されたシリコン基板113を所定の外形にダイサーで切断する。なお、ダイサーによって切断された切断面には二酸化ケイ素115(自然酸化膜を除く)は形成されていない。この状態で、共振構造を有する光学偏光器チップ(偏光解消装置101)が完成する。
【0225】
また、台座111と支持体107及び振動子109(市販の振動子)の固定は、市販の接着剤でよい。なお、当該固定をAuSn共晶接合、Au−Au固相拡散接合、ハンダ接合などの金属を介する接合で行なう場合には、振動子109の上部に、Ti、Ni、Auの順にスパッタ成膜を実施する。また、台座111上に支持体107を接合するために必要な金属パッドを形成する。
【0226】
なお、光偏光器103、弾性体105、支持体107及び台座111の製造方法は、上記で説明した製造工程に限定されず、他の製造方法であってもよい。
【0227】
また、
図5及び
図6に示された偏光解消素子1のように、サブ波長構造が隣り合う凸条部5の先端部5a同士を連結する連結部9を備えている偏光解消素子1を光偏光器103に形成することもできる。
【0228】
このようにして作成した偏光解消装置101の駆動特性の試験について説明する。
本実施例では、シリコン基板113(二酸化ケイ素115の厚みを含む)の厚みは、525μm、光透過部103aを構成する二酸化ケイ素115の厚みは10μmとした。
【0229】
また、本実施例では、光偏向器3の共振周波数が18kHzとなるように設計した。振動子109に振幅電圧Vpp=20V、周波数18kHzの交流電圧を駆動信号として印加し、交流電圧を駆動信号として印加した。振動子109は水平軸走査用で共振駆動とし、振幅50μmを得た。
【0230】
光偏向器3が並進振動されることにより、偏光解消装置101が形成された光透過部103aを透過する光は、偏光解消装置101のサブ波長構造体に従って位相差の異なる光がサブ波長構造領域毎に出射されるとともに、サブ波長構造領域毎に位相差の異なる光が時間分割されて出射される。この光を用いることによって、スペックル成分の内で、「オブジェクティブスペックルを解消する」ことができる。
【0231】
なお、スペックルには、「Objective Speckle」と「Subjective Speckle」の次の2つの成分がある。
「Objective Speckle」は、液晶やDMD(Digital Mirror Device)などのマイクロデバイス上に発生するスペックルである。
「Subjective Speckle」は、人間の眼を通して見た時に、眼のレンズ系と瞳の関係で発生するスペックル、つまり人間の眼球内で干渉縞が発生する現象である。
【0232】
このようにして、スクリーンに画像を表示する際に、偏光解消装置101を動作させる前後、すなわち、振動子109に電圧成分を駆動信号として印加する前後で、スクリーン上の画像のスペックルノイズを計測した。スクリーン上の画像をCCDカメラで捉え、CCD画素毎の輝度を分析処理することよりスペックルコントラストCを求めた。
C=σ/I (σ:輝度ばらつきの標準偏差、I:輝度平均)
その結果、振動子109の駆動前後でスペックルコントラストCは30%低減された。
【0233】
また、偏光解消装置101の振動子109を動作させる前後で、フリッカーノイズの違いは認識されなかった。これは、偏光解消装置101の振動子109が、周波数18kHzという人間の目では追随できない速度で振動しているためにフリッカーノイズの違いが認識されなかったものと推測される。
【0234】
このように、偏光解消装置101は安価に省スペースでスペックル解消の機能発現が可能となる。
また、偏光解消装置101において、弾性体105を構成する材料はシリコン材料である。一方、振動子109は市販の振動子を使用している。したがって、目的の特性に合致した市販の振動子を購入して使用することができる。換言すれば、狙いとする振動数、振幅に応じた振動子を用いることで、偏光解消装置101の目的特性を変更することができる。
【0235】
図29は、偏光解消装置の他の実施例を説明するための概略的な斜視図である。この実施例の偏光解消装置201は、偏光解消装置101と光量均一化装置125を備えている。
図30は、
図29の光量均一化装置のE−E’位置での概念的な断面図である。
【0236】
この実施例において、偏光解消装置101の構成は
図21及び
図22と同じである。
光量均一化装置125は、偏光解消装置101の偏光解消素子1に替えて光量を均一化するための光量均一化用光学素子127bが形成されたものである。光量均一化装置125は、光量均一化用光学器127を備えている。光量均一化装置125において、光量均一化用光学器127以外の構成は偏光解消装置101と同じである。
【0237】
光量均一化用光学器127は光透過領域127aを有する。光透過領域127aはシリコン基板113の一部分が熱酸化されて形成された二酸化ケイ素115で形成されている。光量均一化用光学器127の光透過領域127aよりも厚みが厚い部分は、表面が二酸化ケイ素115で形成されており、内部がシリコン基板113で形成されている。この部分の構成は偏光解消装置101の光偏光器103と同様である。
【0238】
光透過領域127aの一表面に、二酸化ケイ素115で形成され、光量を均一化するための光量均一化用光学素子127bが形成されている。光量均一化用光学素子127bは、例えばマイクロレンズアレイ、インテグレータ又はフライアイレンズアレイである。
【0239】
偏光解消装置201において、光量均一化装置125の光透過領域127aは偏光解消装置101の光透過領域103aを透過する光の光路上に配置されている。この実施例では、光量均一化装置125は偏光解消装置101に対して入射光側に配置されている。なお、光量均一化装置125は偏光解消装置101に対して出射光側に配置されていてもよい。
【0240】
光量均一化装置125においても、偏光解消装置101の光偏光器103と同様に、振動子109によって光量均一化用光学器127は並進振動される。
これにより、空間コヒーレンス性の高い入射光は、光量均一化装置125及び偏光解消装置101を通過すると、空間コヒーレンス性の極めて低い光(出射光)になる。
【0241】
偏光解消装置101と光量均一化装置125を一体化又は同一光路上に配置した偏光解消装置201は、例えばレーザ露光装置やレーザ加工装置などの光学系に適用される。偏光解消装置201は、偏光解消装置201の透過光の偏光状態をランダムにするとともに、光量を均一化することができる。
【0242】
本発明の応用例としては、レーザ光源から発生するレーザ光を対象物に照射する光学系を備えた光学機器も対象としている。そのような光学機器としてはレーザプリンタ、露光装置、レーザ光源を用いる分光器、及びレーザ計測装置などを挙げることができる。そのような光学機器において、本発明の光学機器は、それらの光学機器の光源からのレーザ光の偏光状態をランダムな偏光状態にするために本発明の偏光解消素子又は本発明の偏光解消装置をそれらの光学機器の光学系の光路上に配置したものである。
【0243】
光量均一化装置125の製造方法の一例を説明すると、上記で説明された光偏光器103、弾性体105、支持体107及び台座111の製造工程において、偏光解消素子1に替えて光量均一化用光学素子127bを形成する。これにより、光量均一化装置125を作製できる。光量均一化用光学素子127bは例えばマイクロレンズアレイ、インテグレータ又はフライアイレンズアレイである。これらのレンズは、例えば、いわゆるリフロー法やイオン交換法、機械加工法、転写法(例えば特許文献6等を参照。)などによって作製できる。ただし、光量均一化装置125の製造方法はこれに限定されるものではない。
【0244】
(偏光解消装置の適用例)
本発明の偏光解消装置は、例えば、
図10に示されたレーザプリンタや、
図12に示された露光装置、
図13に示された光ファイバ増幅器に適用することができる。
図10に示されたレーザプリンタの光学系、
図12に示された露光装置の光学系、
図13に示された光ファイバ増幅器の光学系において、偏光解消素子1に替えて本発明の偏光解消装置を配置すればよい。
【0245】
本発明の偏光解消装置は、上記に例示したレーザプリンタ、露光装置及び光ファイバ増幅器のほかにも、偏光に起因してスペックルが生じる光学系に適用することができる。そのような光学系は、例えば、本発明の偏光解消素子が適用される装置として前述で挙げられたものである。
【0246】
以上、本発明の偏光解消装置の実施例が説明されたが本発明の偏光解消装置はこれらに限定されるものではない。
【0247】
例えば、上記実施例で説明した偏光解消装置101において、弾性体105の形状は上記実施例に示されたものに限定されない。本発明の偏光解消装置において、弾性体105の形状、個数及び光偏光器に連結される位置は、振動子の駆動によって光偏光器を並進振動させることができる形状、個数、連結位置であれば、どのような構成であってもよい。光量均一化装置を備えた本発明の態様における光量均一化装置についても同様である。
【0248】
また、上記実施例で説明した偏光解消装置101において、振動子109は弾性体105を介して光偏光器103を並進振動させているが、本発明の偏光解消装置はこれに限定されない。本発明の偏光解消装置において、振動子は光偏光器を直接並進振動させる構成であってもよい。光量均一化装置を備えた本発明の偏光解消装置の態様における光量均一化装置についても同様である。
【0249】
また、本発明の偏光解消装置において、光偏光器及び光透過領域の平面形状は、矩形に限定されず、任意である。光量均一化装置を備えた本発明の偏光解消装置の態様における光量均一化装置についても同様である。
【0250】
また、本発明の偏光解消装置において、支持体及び台座の形状も任意である。光量均一化装置を備えた本発明の偏光解消装置の態様における光量均一化装置についても同様である。
【0251】
また、上記実施例で説明した偏光解消装置101において、弾性体105の一部分はシリコン基板113によって形成されているが、本発明の偏光解消装置はこれに限定されない。本発明の偏光解消装置において、弾性体はシリコン基板が熱酸化されて形成された二酸化ケイ素のみで形成されていてもよい。また、シリコン基板を熱酸化する際に、弾性体及び支持体について、上面及び下面を熱酸化防止膜によって覆っておけば、上面及び下面に二酸化ケイ素を備えていない弾性体及び支持体を形成することも可能である。これらの構成は、光量均一化装置を備えた本発明の偏光解消装置の態様における光量均一化装置についても同様である。
【0252】
以上、本発明の実施例が説明されたが本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変更が可能である。