特許第6076486号(P6076486)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076486
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】半導体用複合基板のハンドル基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20170130BHJP
   H01L 27/12 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   H01L21/02 B
   H01L27/12 B
   H01L27/12 H
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-536335(P2015-536335)
(86)(22)【出願日】2015年1月13日
(86)【国際出願番号】JP2015050577
(87)【国際公開番号】WO2015129302
(87)【国際公開日】20150903
【審査請求日】2015年7月22日
(31)【優先権主張番号】特願2014-35594(P2014-35594)
(32)【優先日】2014年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 杉夫
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 康範
(72)【発明者】
【氏名】高垣 達朗
(72)【発明者】
【氏名】井出 晃啓
(72)【発明者】
【氏名】中西 宏和
【審査官】 鈴木 和樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/013980(WO,A1)
【文献】 特表2008−533270(JP,A)
【文献】 特開2008−195581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
C04B 35/111
C04B 35/115
C04B 37/02
H01L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体用複合基板のハンドル基板であって、
前記ハンドル基板が多結晶アルミナからなり、前記多結晶アルミナの気孔率が0.01%以上、0.1%以下であり、前記ハンドル基板の接合面側の表面領域に含まれる大きさ0.5μm以上の気孔数が前記表面領域に含まれる大きさ0.1μm以上、0.3μm以下の気孔数の0.05倍以上、0.倍以下であり、前記ハンドル基板の接合面側の前記表面領域に含まれる大きさ0.5μm以上の気孔の平均密度が500個/mm以下であり、前記ハンドル基板の前記接合面の表面粗度Raが3.0nm以下であり、前記多結晶アルミナの平均粒径が1〜35μmであることを特徴とする、ハンドル基板。
【請求項2】
前記多結晶アルミナの焼結助剤が、ZrOを200〜800ppm、MgOを150〜300ppmおよびYを10〜30ppm含むことを特徴とする、請求項1記載のハンドル基板。
【請求項3】
前記多結晶アルミナのアルミナ純度が99.9%以上であることを特徴とする、請求項1または2記載のハンドル基板。
【請求項4】
前記多結晶アルミナが透光性多結晶アルミナであることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一つの請求項に記載のハンドル基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載のハンドル基板、および前記ハンドル基板の前記接合面に対して直接または接合領域を介して接合されているドナー基板を有することを特徴とする、半導体用複合基板。
【請求項6】
前記ドナー基板が単結晶シリコンからなることを特徴とする、請求項記載の複合基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体用複合基板のハンドル基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、Silicon on Quartz(SOQ)、Silicon on Glass(SOG)、Silicon on Sapphire (SOS)と呼ばれる、ハンドル基板を透明・絶縁基板で構成したSOIや、GaN、ZnO、ダイアモンド、AlN等の透明ワイドギャップ半導体をシリコン等のドナー基板に接合して得られた貼り合わせウェーハが知られている。SOQ、SOG、SOSなどは、ハンドル基板の絶縁性・透明性などからプロジェクター、高周波デバイスなどへの応用が期待されている。またワイドギャップ半導体の薄膜をハンドル基板に複合化した貼り合わせウェーハは、高性能レーザーやパワーデバイスなどへの応用が期待される。
【0003】
高絶縁性、低誘電損失、高熱伝導といった特徴を持つサファイアをベース基板とし、その表面に半導体デバイスを構成するためのシリコン薄膜を形成した貼り合せ基板が高周波スイッチIC等に用いられている。以前はベース基板上にシリコン領域をエピタキシャル成長により形成する方法が主流であったが、近年直接接合により形成する方法が開発され、半導体デバイスの性能改善に寄与している(特許文献1、2、3)。
【0004】
しかし、サファイアは高価であることから、コストダウンのためには、サファイア以外の材料の基板をハンドル基板として用いることが望まれる。上述した接合技術の進歩に伴い、石英、ガラス、アルミナといったサファイア以外の材質からなるハンドル基板も各種提案されている。
【0005】
中でも高輝度放電灯用の発光管や半導体製造装置のダミーウエハとして使われてきた多結晶透光性アルミナは、高純度の原料を用い、高温の還元雰囲気で緻密に焼成することにより、サファイアと同等の高絶縁性、低誘電損失、高熱伝導といった優れた特性を持ちながら、高コストな結晶育成工程が不要といった利点がある(特許文献4、5、6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開H08-512432
【特許文献2】特開2003-224042
【特許文献3】特開2010-278341
【特許文献4】WO2010/128666
【特許文献5】特開平05-160240
【特許文献6】特開平11-026339
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ハンドル基板とシリコン層を直接接合する場合、その接合面は原子レベルで密着させる必要があるため、面粗度Raが小さいことが必要となる。典型的には接合面の面粗度Raが3nm以下であることが要求される。これはCMP加工等の精密研磨により達成できるが、しかしハンドル基板の材料として透光性多結晶アルミナを用いる場合、結晶粒子の間に気孔が含まれるため、研磨後の表面に気孔が露出し、ピットとなる。この気孔は多結晶材料を用いたベース基板では一定量(実用的には0.01%以上)以上含まれるのは不可避であり、面粗度の悪化による接合強度不足の原因となることがわかった。
【0008】
本発明の課題は、半導体用複合基板のハンドル基板を多結晶アルミナによって作製した場合に、接合面の精密研磨加工後に表面に露出するピットによる接合強度低下を抑制し、ドナー基板との接合強度を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、半導体用複合基板のハンドル基板であって、
前記ハンドル基板が多結晶アルミナからなり、前記多結晶アルミナの気孔率が0.01%以上、0.1%以下であり、前記ハンドル基板の接合面側の表面領域に含まれる大きさ0.5μm以上の気孔数が前記表面領域に含まれる大きさ0.1μm以上、0.3μm以下の気孔数の0.05倍以上、0.倍以下であり、前記ハンドル基板の接合面側の前記表面領域に含まれる大きさ0.5μm以上の気孔の平均密度が500個/mm以下であり、前記ハンドル基板の前記接合面の表面粗度Raが3.0nm以下であり、前記多結晶アルミナの平均粒径が1〜35μmであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、前記ハンドル基板、および前記ハンドル基板の接合面に対して直接または接合領域を介して接合されているドナー基板を有することを特徴とする、半導体用複合基板に係るものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明者は、ハンドル基板を多結晶アルミナによって形成することを検討し、試作していた。多結晶アルミナは、多数の微細粒子が結着された微構造を有する。ここで、ハンドル基板を精密研磨加工した後の表面に気孔が露出し、ピットとなり、ドナー基板との剥離の原因となっていることを見いだした。むろん、多結晶アルミナ中の気孔を完全に消滅させることができれば、ピットは生じないのであるが、しかしこうした焼結体の気孔を完全に消滅させることは事実上不可能であり、あるいは実用的とは言えない。多結晶アルミナの気孔率は実用的には0.01%以上となる。
【0012】
このため、本発明者は、気孔の大きさと、精密研磨加工後に接合面に残留する微細なピットとの関係を更に調査してみた。この結果として、多結晶アルミナの気孔率を0.1%以下にまで低減することを前提とした上で、その気孔率が0.01%以上残っていても、大きさ0.5μm以上の気孔の比率を低減することができれば、ピットによる接合強度の低下を抑制できることを見いだし、本発明に到達した。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)は、本発明の実施形態に係るハンドル基板1を示す模式図であり、(b)は、ハンドル基板1上にドナー基板5を接合領域4を介して接合して得られた複合基板6を示す模式図であり、(c)は、ハンドル基板1上にドナー基板5を直接接合して得られた複合基板6Aを示す模式図である。
図2】平均粒径の算出方式例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明を更に説明する。
(ハンドル基板)
本発明のハンドル基板は、多結晶アルミナからなる。多結晶アルミナは、非常に緻密な焼結体が得られる為に、ハンドル基板の割れやクラックが発生しにくい。
【0015】
好適な実施形態においては、多結晶アルミナのアルミナ純度が99.9%以上である。
多結晶アルミナのアルミナ純度は、アルミナ粉末を硫酸で加圧酸分解により溶解し、その溶解液をICP発光分光分析法にて分析することで決定する。
【0016】
本発明においては、ハンドル基板を構成する多結晶アルミナの気孔率を0.01%以上、0.1%以下とする。この気孔率を0.01%未満とすることは通常法では難しく、0.01%以上とすることが実用的である。また、多結晶アルミナの気孔率が0.1%を超えると、大きさ0.5μm以上の気孔数の比率を低く維持しても、ハンドル基板の接合面のピットによって剥離が生じやすくなる。この観点から、多結晶アルミナの気孔率を0.1%以下とするが、0.05%以下とすることが一層好ましく、0.01%とすることが特に好ましい。
【0017】
ハンドル基板を構成する多結晶アルミナの気孔率は、基板表面をCMP加工により研磨した後、1200倍のレーザー顕微鏡で観察を行い研磨面における気孔の数、面積を測定する。その後、[気孔の面積の総和/観察した面積]により算出する。観察視野は、0.2mm×0.2mmとし、同一基板を9視野観察する。
【0018】
本発明においては、ハンドル基板の接合面側の表面領域に含まれる大きさ0.5μm以上の気孔数を、この表面領域に含まれる大きさ0.1μm以上、0.3μm以下の気孔数の0.倍以下とすることによって、精密研磨加工後のピットに起因するドナー基板の剥離を抑制できる。この観点からは、ハンドル基板の接合面側の表面領域に含まれる大きさ0.5μm以上の気孔数を、この表面領域に含まれる大きさ0.1μm以上、0.3μm以下の気孔数の0.1倍以下とすることが更に好ましい。
【0019】
また、ハンドル基板の接合面側の表面領域に含まれる大きさ0.5μm以上の気孔数/表面領域に含まれる大きさ0.1μm以上、0.3μm以下の気孔数の比率の下限は0.05倍以上とする
【0020】
ハンドル基板の接合面側の表面領域に含まれる気孔の大きさ、気孔数は、基板表面をCMP加工により研磨した後、1200倍のレーザー顕微鏡で観察を行い測定するものとする。観察視野は0.2mm×0.2mmとし、同一基板を9視野観察する。
そして、観察視野における大きさ0.5μm以上の気孔の数と、大きさ0.1〜0.3μmの気孔の数を数える。そして、これらの気孔数の比率を算出する。
【0021】
ここで、大きさ0.1μm未満の気孔の計数を除外するのは、視野に比べて細か過ぎるために計数が難しく、また表面状態への影響を無視できるからである。
【0022】
上述のようにハンドル基板の断面を鏡面研磨する際、脱粒等が発生し気孔との区別がつきにくい場合、断面加工にFIB(Focused Ion Beam)加工を用いることでこれらの影響を排除することができる。
【0023】
また、気孔の大きさは、以下のようにして決定する。すなわち、ハンドル基板の前記レーザー顕微鏡による前記観察像において、直線を引き、気孔を横断させる。このとき複数の直線を引くことができるが、気孔上を通過する直線の長さが最大となるように直線を引いて、その最大長さを気孔の大きさとする。
【0024】
また、ハンドル基板の接合面側の前記表面領域に含まれる大きさ0.5μm以上の気孔の平均密度は、500個/mm以下とするが、240個/mm以下であることが更に好ましい。
【0025】
この密度を測定するには、基板表面をCMP加工により研磨した後、1200倍のレーザー顕微鏡で観察を行い、研磨面における気孔の数、大きさを測定し、個/mm単位に換算する。
【0026】
好適な実施形態においては、接合面の微視的な表面粗度Raが3.0nm以下であり、これによってドナー基板への接合力を更に高めることができる。この観点からは、接合面の微視的な中心線平均表面粗さRaが1.0nm以下であることが更に好ましい。
【0027】
なお、Raは、表面に表れる各結晶粒子の露出面についてAFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)によって撮像し、JIS B0601に従い算出する数値のことである。
【0028】
本発明においては、ハンドル基板を構成する多結晶アルミナの平均粒径が1〜35μmである。この平均粒径が小さいとグラインダー等による厚み加工時の加工速度が遅くなるとともに、その後の研磨時に脱粒が置き易く、面粗さが悪くなる。またこの平均粒径が大きいと焼結の際のマイクロクラックが発生し、面粗さが悪くなる。平均粒径を上記の範囲に設定することによって、表面粗度Raを小さくして、分子間力によるドナー基板の接合強度を良好にし易い。
【0029】
なお、結晶粒子の平均粒径は以下のようにして測定するものである。
(1) ハンドル基板の断面を鏡面研磨、サーマルエッチングして粒界を際立たせた後、顕微鏡写真(100〜400倍)を撮影し、単位長さの直線が横切る粒子の数を数える。これを異なる3箇所について実施する。なお、単位長さは500μm〜1000μmの範囲とする。
(2) 実施した3箇所の粒子の個数の平均をとる。
(3) 下記の式により、平均粒径を算出する。
[算出式]
D=(4/π)×(L/n)
[D:平均粒径、L:直線の単位長さ、n:3箇所の粒子の個数の平均]
平均粒径の算出例を図2に示す。異なる3箇所の位置において、それぞれ単位長さ(例えば500μm)の直線が横切る粒子の個数が22、23、19としたとき、平均粒径Dは、上記算出式により、
D=(4/π)×[500/{(22+23+19)/3}]=29.9μm
となる。
【0030】
また、ハンドル基板の大きさ、厚さは、特に限定されないが、通常のSEMI/JEITA規格近傍のものがハンドリングの関係から扱いやすい。また、ハンドル基板の厚さは、0.3mm以上が好ましく、1.5mm以下が好ましい。
【0031】
(ハンドル基板の製造)
多結晶アルミナからなるブランク基板を製造する際には、純度99.9%以上(好ましくは99.95%以上)の高純度アルミナ粉末に対して、所定の焼結助剤を添加し、焼結時およびアニール処理時に焼結助剤を排出させる。このような高純度アルミナ粉末としては、大明化学工業株式会社製の高純度アルミナ粉体を例示できる。
【0032】
好適な実施形態においては、ハンドル基板を構成する多結晶アルミナが透光性多結晶アルミナである。ここで、透光性多結晶アルミナとは、可視光域の光の前方全光線透過率が15%以上のものを言う。
【0033】
原料粉末の平均粒径(一次粒子径)は特に限定されないが、低温焼結での緻密化という観点からは、0.6μm以下が好ましく、0.4μm以下が更に好ましい。一領域好ましくは、原料粉末の平均粒子径は0.3μm以下である。この平均粒径の下限は特に限定されない。原料粉末の平均粒子径は、SEM(走査型電子顕微鏡)による原料粉末の直接観察によって決定できる。
【0034】
なお、ここでいう原料粉末の平均粒径とは、SEM写真(倍率:X30000。任意の2視野)上における2次凝集粒子を除く1次粒子の(最長軸長+最短軸長)/2の値のn=500平均値のことである。
【0035】
好適な実施形態においては、多結晶アルミナの焼結助剤が、ZrOを200〜800ppm、MgOを150〜300ppmおよびYを10〜30ppm含む。MgOを上記範囲で添加することにより、焼結初期に気孔が取り込まれるのを防止できるため、気孔率を下げるのに効果的である。また、ZrOおよびYを上記範囲で添加すると、焼結後、粒界のいわゆる3重点の部分の気孔がZrOにより埋められるため、0.5μmを超える気孔数の低減に効果がある。この効果はホットプレス焼成する際、顕著となる。
【0036】
ハンドル基板の成形方法は特に限定されず、ドクターブレード法、押し出し法、ゲルキャスト法など任意の方法であってよい。特に好ましくは、基板を、以下のようなドクターブレード法を用いて製造する。
(1) セラミック粉体とともに、結合剤となるポリビニルブチラール樹脂(PVB樹脂)、または、アクリル樹脂を、可塑剤、分散剤と共に分散媒中に分散してスラリーを調製し、ドクターブレード法にて、テープ状に成形した後、分散媒を乾燥させてスラリーを固化させる。
(2) 得られたテープを複数枚積み重ね、プレス積層またはCIP積層することで所望の厚みの基板形状の成形体を得る。更に1000〜1300℃の温度で大気中で仮焼することで仮焼体を得る。
【0037】
本発明のハンドル基板を得るには、焼結温度は、焼結体の緻密化という観点から、1700〜1900℃が好ましく、1750〜1850℃が更に好ましい。
【0038】
また、焼成時に十分に緻密な焼結体を生成させた後に、更に追加でアニール処理を実施することが好ましい。このアニール温度は、本発明のように表面領域の気孔を選択的に減らすために、焼成時の最高温度+50℃〜最高温度−50℃とすることが好ましく、焼成時の最高温度〜最高温度+50℃とすることが更に好ましい。また、アニール時間は、1〜6時間であることが好ましい。
【0039】
また、上記焼成の際は、モリブデン等の高融点金属からなる平坦な板の上に基板を置くが、その際、基板の上側には5〜10mmの隙間を空けることが焼結助剤の排出を促し、粒成長を置き易くするとの観点より好ましい。これによって、粒成長に伴う粒界移動で気孔の排出を進めることができ、結果的に表面領域における大きさ0.5μm以上の気孔数を低減できるからである。
【0040】
また、仮焼体をホットプレス焼結させることによって、特にハンドル基板の表面領域における気孔を小さくし、大きさ0.5μm以上の気孔数を効果的に低減することができる。
こうしたホットプレス時の焼結温度は、1300〜1800℃が好ましく、1450〜1650℃が更に好ましい。圧力は10〜30MPaが好ましい。焼成時の雰囲気はArガス、N2ガス、真空(≦20Pa)のいずれかが好ましい。また、ホットプレス時の焼結温度での保持時間は、2〜8時間とすることが好ましい。
【0041】
ブランク基板を精密研磨加工することによって、表面粗度Raを小さくする。こうした研磨加工としては、CMP(Chemical Mechanical Polishing)加工が一般的であり。これに使われる研磨スラリーとして、アルカリまたは中性の溶液に30nm〜200nmの粒径を持つ砥粒を分散させたものが使われる。砥粒材質としては、シリカ、アルミナ、ダイヤ、ジルコニア、セリアを例示でき、これらを単独または組み合わせて使用する。また、研磨パッドには、硬質ウレタンパッド、不織布パッド、スエードパッドを例示できる。
【0042】
また、最終的な精密研磨加工を実施する前にGCラップ、グラインダー、ダイヤラップ等の粗研磨加工を実施するのが一般的であり、更に、粗研磨加工の後にアニール処理を行うことが望ましい。アニール処理の雰囲気ガスは大気、水素、窒素、アルゴン、真空を例示できる。アニール温度は1200〜1600℃、アニール時間は2〜12時間であることが好ましい。これにより、表面の平滑を損ねることなく、表面領域の加工変質層を除去することができる。特にホットプレス焼成したものについてはアニール温度が、焼成温度と近いと焼結時の内部応力が開放され、気孔の大径化の原因となる。このため焼成温度より100〜200℃低い温度でアニールすることが好ましい。
【0043】
(半導体用複合基板)
本発明の複合基板は、プロジェクター用発光素子、高周波デバイス、高性能レーザー、パワーデバイス、ロジックICなどに利用できる。
【0044】
複合基板は、本発明のハンドル基板と、ドナー基板とを含む。
ドナー基板の材質は、特に限定されないが、好ましくは、シリコン、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、酸化亜鉛及びダイアモンドからなる群から選択される。ドナー基板の厚さは、特に限定されないが、通常のSEMI/JEITA規格近傍のものがハンドリングの関係から扱いやすい。
【0045】
ドナー基板は、上述の材質を有し、表面に酸化膜を有していてもよい。酸化膜を通してイオン注入を行えば、注入イオンのチャネリングを抑制する効果が得られるからである。酸化膜は、好ましくは50〜500nmの厚さを有する。酸化膜を有するドナー基板もドナー基板に含まれ、特に区別しない限り、ドナー基板と称する。
【0046】
例えば図1(b)の複合基板6においては、ハンドル基板1を得た後、ハンドル基板1の接合面1a上に接合領域4を介してドナー基板5が接合されている。図1(c)の複合基板6Aにおいては、ハンドル基板1の接合面1a上にドナー基板5が直接接合されている。
【0047】
(接合形態)
接合に用いられる技術としては、特に限定される訳ではないが、例えば表面活性化による直接接合や、接着領域を用いた基板接合技術が用いられる。
【0048】
直接接合には界面活性化による低温接合技術が好適に用いられる。10−6Pa程度の真空状態にてArガスによる表面活性化を実施後、常温にてSi等の単結晶材料がSiO等の接着領域を介して多結晶材料と接合されることができる。
【0049】
接着領域の例としては、樹脂による接着の他に、SiO、Al2O、SiNが用いられる。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
本発明の効果を確認するために、透光性アルミナ焼結体を用いたハンドル基板1を試作した。
まず、透光性アルミナ焼結体製のブランク基板を作成した。具体的には、以下の成分を混合したスラリーを調製した。
【0051】
・比表面積3.5〜4.5m/g、平均一次粒子径0.35〜0.45μmのα−アルミナ粉末 100重量部
・MgO(マグネシア) 200重量部
・ZrO(ジルコニア) 400重量部
・Y(イットリア) 15重量部
(分散媒)
・グルタル酸ジメチル 27重量部
・エチレングリコール 0.3重量部
(ゲル化剤)
・MDI樹脂 4重量部
(分散剤)
・高分子界面活性剤 3重量部
(触媒)
・N,N-ジメチルアミノヘキサノール 0.1重量部
【0052】
このスラリーを、アルミニウム合金製の型に室温で注型の後、室温で1時間放置した。次いで40℃で30分放置し、固化を進めてから、離型した。さらに、室温、次いで90℃の各々にて2時間放置して、板状の粉末成形体を得た。
【0053】
得られた粉末成形体を、大気中1100℃で仮焼(予備焼成)の後、窒素雰囲気中、温度1650℃、圧力20MPaの条件で5時間ホットプレス焼成を行った。
【0054】
作成したブランク基板に高精度研磨加工を実施した。まずグリーンカーボンによる両面ラップ加工により形状を整えた後、ダイヤモンドスラリーによって表面に片面ラップ加工を実施した。次いで、最終的な面粗さを得るべく、コロイダルシリカを用いたCMP研磨加工を実施した。この際、全体の加工量が深さ方向で100μm、アニール後の加工量は1μmとなるよう調整した。更に、加工後の基板を、過酸化アンモニア、過酸化塩酸、硫酸、フッ酸、王水、と純水にそれぞれ交互に浸漬して洗浄し、ハンドル基板1を作製した。
【0055】
得られたハンドル基板について、気孔率、表面領域における大きさ0.5μm以上の気孔数/大きさ0.1〜0.3μmの気孔数の値、大きさ0.5μm以上の気孔の密度、結晶の平均粒径、接合面のRaを調べたところ、表1の結果を得た。
【0056】
また、表1、表2の実施例2〜8、比較例1〜4に示すように、各気孔数および気孔率を、ホットプレス時の温度、圧力、粗研磨加工後のアニール温度を変えることにより調整した。
なお、実施例1〜8、比較例1〜4の各例のハンドル基板を構成する透光性多結晶アルミナにおけるアルミナ純度はいずれも99.9%以上であった。
【0057】
(接合試験)
実施例1〜8で得られた各ハンドル基板の表面に、シリコン薄板(ドナー基板)との接着領域として、SiO領域を形成した。成膜方法はプラズマCVDを用い、成膜後にCMP研磨(化学機械研磨)を実施することで、最終的なSiO領域の膜厚を100nmとした。その後、プラズマ活性化法によりシリコン薄板とSiO領域を直接接合し、Si―SiO―ハンドル基板からなる複合基板を試作した。この結果、良好な接合状態が得られ、クラック、剥離、割れはみられなかった。また、得られた複合基板を300℃で30分間の間熱処理し、剥離面積について評価を行ったところ、表1のような結果となった。
【0058】
ただし、剥離面積の割合は以下のようにして算出した。
1.接合面全体をIR顕微鏡で撮影する
2.撮影画像に縦横各10列の格子を設定する
3.各格子毎に剥がれ状態を観察し、以下の式により算出する
(完全に剥がれている格子数)÷(全体の格子数)
【0059】
一方、比較例1〜4の各ハンドル基板の表面に、上述のようにしてシリコン薄板を接合した。得られた各複合基板を300℃で30分間の間熱処理し剥離面積の評価を同様に行ったところ、表2のような結果となった。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】
図1
図2