(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076711
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】かご形誘導電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 17/16 20060101AFI20170130BHJP
【FI】
H02K17/16 A
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-258721(P2012-258721)
(22)【出願日】2012年11月27日
(65)【公開番号】特開2014-107940(P2014-107940A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】水谷 清信
(72)【発明者】
【氏名】竹島 豊
(72)【発明者】
【氏名】藤野 泰充
(72)【発明者】
【氏名】三成 貴浩
【審査官】
上野 力
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−088855(JP,A)
【文献】
特開平07−163107(JP,A)
【文献】
特開平08−009606(JP,A)
【文献】
特開昭61−196509(JP,A)
【文献】
特開2010−279119(JP,A)
【文献】
実開昭57−047875(JP,U)
【文献】
特開2011−188703(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0316380(US,A1)
【文献】
特開昭55−136855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 17/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層鋼板で構成され複数のスロットが形成されたロータを有するかご形誘導電動機であって、
前記スロット内に積層方向に延びるように配置された銅線と、スロット内の空隙を埋める導体と、を有し、
前記スロットの内径側に寄せて銅線が配置され、
隣接するスロット内に配置された銅線のうち、前記ロータの端面から突出している部分を結束することにより、前記スロットの内径側に銅線が保持されることを特徴とするかご形誘導電動機。
【請求項2】
前記銅線のスロット内にある部分が絶縁被膜を有することを特徴とする請求項1に記載のかご形誘導電動機。
【請求項3】
前記銅線の前記ロータの端面から突出する部分は、前記絶縁被膜を有しないことを特徴とする請求項2に記載のかご形誘導電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かご形誘導電動機の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
かご形誘導電動機は、スロット内に導体が鋳込まれたロータを備えている。スロット内にアルミニウムを埋め込むアルミダイキャストでロータを製造するものが主流であるが(例えば特許文献1)、近年では、電動機の効率向上のため、アルミニウムよりも導電率の高い銅のダイキャストでロータを製造したかご形誘導電動機も実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−9483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、銅はアルミニウムよりも融点が高くダイキャストが困難である上、既存のアルミダイキャストマシンが使用できなくなるという問題がある。また、銅を使用することでロータの製造コストも上昇する。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、スロット内の導体として銅を使用しつつも製造コストの上昇を抑制できるかご形誘導電動機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、積層鋼板で構成され複数のスロットが形成されたロータを有するかご形誘導電動機であって、スロット内に積層方向に延びる銅線が配置されるとともに、スロット内の空隙を埋める導体が鋳込まれている。
【0007】
この態様によると、安価で入手が容易な銅線を利用することで、銅ダイキャストによりロータを製造する場合よりも、ロータの製造コストが低下する。また、スロット内に銅線を配置した後、スロット内の空隙にアルミニウム等の導体を鋳込むようにすることで、電動機の効率を高めつつ、既存のダイキャストマシンを引き続き使用してロータを製造することも可能となるため、この場合には製造コストの更なる低減も可能となる。但し、本発明においては、既存のダイキャストマシンを使用することに限定されず、本発明のかご形誘導電動機の製造用に新規に設計されたダイキャストマシンによってロータを製造してもよい。この場合にも、銅ダイキャストよりは製造コストを抑制できる。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スロット内の導体として銅を使用しつつも製造コストの上昇を抑制して、かご形誘導電動機のロータを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、かご形誘導電動機10を、中心軸を含む鉛直面で切断したときの断面図である。
【0012】
ステータ34は、同一形状に型抜きされた多数の薄板状(例えば、厚さ0.5mm)の電磁鋼板を積層して形成される。ステータ34は、フレーム30の内周に、例えば焼き嵌めによって嵌合される。ステータ34に形成された複数のスロットには銅線のコイル38が巻回されている。
【0013】
ロータ36も、同一の円形状に型抜きされた多数の薄板状の電磁鋼板を積層して形成される。ロータ36には、中央に回転軸12を挿通するための円形穴が形成されるとともに、その外周側には、径方向に延びる複数の同一形状のスロット36aが等間隔に形成されている(
図3を参照)。ロータ36の円形穴は、回転軸12に締まり嵌めによって固定される。
【0014】
フレーム30は、例えばアルミダイキャスト製、鋳鉄製または鋼板製であり、ロータおよびステータの重量を支持するとともに、ロータおよびステータ等で発生する熱を電動機外部に放熱する役割を有する。放熱性能を高めるために、回転軸と平行な方向に延びる多数の放熱フィン40がフレーム30の外周に設置される。
【0015】
回転軸12は、フレーム30から内径側に延び出す両側のフランジ14、15にそれぞれ軸受16、17を介して回転自在に支持されている。フランジ14、15は、フレーム30と一体形成されてもよいし、別々に形成された後でフレーム30に固定されてもよい。
【0016】
回転軸12の後端側には、ファン18が配置される。ファン18のさらに外側にはファンカバー32が配置される。
【0017】
従来の誘導電動機では、ロータ36に形成されたスロット36a内に、アルミニウムまたは銅などの導体がダイキャスト鋳造により鋳込まれている。ロータ36の両端面には、スロット内の導体と一体構造となる短絡環37が形成される。
【0018】
これに対し、本発明の一実施形態では、スロット内の導体の一部として市販の銅線を利用するようにした。これによって、既存のダイキャストマシンを更新することなくロータを製造可能であり、かつアルミダイキャストでロータを製造する場合よりも誘導電動機の効率を高めることができる。
【0019】
図2は、
図1に示すロータ36および回転軸12の断面図である。ロータ36のスロット36a内には、電磁鋼板の積層方向に延びる銅線50が配置されるとともに、スロット内の空隙を埋めるように、アルミニウム等の導体が鋳込まれている。
【0020】
スロット内に配置される銅線は、ロータの軸方向長さよりもやや長く予め切断しておき、各スロット内に好ましくは同数本ずつ挿入される。スロット内への溶融アルミニウムの導入は、銅線の挿入後に従来のアルミダイキャストマシンを使用して行うことができる。
【0021】
銅線は、スロットへの挿入後にロータの積層鋼板内にある部分については、エナメル等の絶縁被覆が施された状態のまま使用することが好ましい。これにより、銅線間が絶縁された状態を保つので、ロータに発生する磁界と平行な成分を有する迷走電流が流れにくくなるため、損失を抑制できる。
なお、銅線のうちスロットへの挿入後にロータの端面から突出する部分については、銅線の延びる方向に依らず電流が流れるように、予め絶縁被覆を除去しておくことが好ましい。
【0022】
図3は、ロータ36の平面図である。
図3を参照して、スロット36a内に収められる銅線の配置について説明する。なお、
図3では一部のスロットA−Dのみに銅線が収められているが、全てのスロットに同様に銅線を配置することが好ましい。
【0023】
スロットAに示すように、スロット内に銅線を挿入した後、スロット内の隙間に溶融アルミニウムがダイキャストマシンによって鋳込まれる。こうすることで、スロット内での銅線の移動が防止される。
【0024】
スロットBに示すように、スロット内に線径の異なる銅線を混在して配置してもよい。こうすることで、スロット内の銅の充填率を高めることができる。
【0025】
スロットCに示すように、スロットの内径側に銅線を寄せて配置してもよい。電動機の始動時には、導体の表面近傍で電流密度が高くなる表皮効果が発生するため、ロータ表面の発熱が大きくなる。アルミニウムよりも導電率の高い銅線をスロットの内径側に配置することで、電動機の始動時に銅線の方に電流が集中して流れるため、発熱が抑制されるとともに始動特性が改善される。
【0026】
隣接するスロット内に配置された銅線のうち、ロータ36の端面から突出している部分を結束することにより、ダイキャスト鋳造時に、スロットの内径側に銅線を保持しておくようにしてもよい。
【0027】
スロットDに示すように、スロットを横切るようにスロット内に延び出す突起36bを、電磁鋼板の打ち抜き時にスロット内に形成しておいてもよい。こうすることで、ダイキャスト鋳造時に、内径側に配置された銅線の移動を規制することができる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態によれば、スロット内の導体として銅を使用しつつ、従来のダイキャストマシンを使用して、かご形誘導電動機のロータを製造することができる。導体の一部に市販の銅線を使用することの利点としては、安価に入手可能である、ステータコイルとしても使われているので別に手配する必要がない、線径が豊富である、比較的柔らかくスロット内に挿通しやすい、などがある。そのため、銅ダイキャストに比べて製造コストを抑制できる。
【0029】
以上、本発明の実施の形態について説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0030】
10 誘導電動機、 34 ステータ、 36 ロータ、 36a スロット、 36b 突起、 50 銅線。