特許第6076719号(P6076719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076719
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】CGRP応答性促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/258 20060101AFI20170130BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20170130BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170130BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20170130BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20170130BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20170130BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20170130BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20170130BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20170130BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20170130BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20170130BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20170130BHJP
   A61P 9/06 20060101ALI20170130BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20170130BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   A61K36/258
   A61P9/00
   A61P43/00 111
   A61P17/02
   A61P9/12
   A61P9/04
   A61P9/10
   A61P1/16
   A61P13/12
   A61P1/04
   A61P31/04
   A61P19/10
   A61P9/06
   A61P7/04
   A61P15/00
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-267170(P2012-267170)
(22)【出願日】2012年12月6日
(65)【公開番号】特開2014-114220(P2014-114220A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】杉山 充
(72)【発明者】
【氏名】野村 知子
【審査官】 前田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特表2000−502994(JP,A)
【文献】 特表2009−500432(JP,A)
【文献】 特表2008−533132(JP,A)
【文献】 特公昭43−012723(JP,B1)
【文献】 特開2012−116763(JP,A)
【文献】 特開昭57−128632(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1895313(CN,A)
【文献】 有機合成化学協会誌,1975年,33(11),903-908
【文献】 和漢医薬学雑誌,(1994),11(4),p.273-6
【文献】 Gen.Pharmacol.,(1994),25(6),p.1071-7
【文献】 Zongcaoyao,2012年,43(5),910-914
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/258
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理するCGRP応答促進剤の製造方法。
【請求項2】
ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理する血流促進剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CGRP(calcitonin gene-related peptide)応答性促進剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚には、皮膚表面に平行な3層の血管床からなる血管網が形成されている。皮膚循環の第1の機能は体温調節であり、寒冷刺激や温熱刺激が与えられたとき皮膚血管は収縮又は拡張・弛緩して皮膚循環の血流を変化させ、体熱放散を抑制又は促進することで体温を維持する。皮膚循環はまた、全身の血流配分の調節という面においても重要な役割をもっており、中枢や末梢の温熱受容器からの情報以外に、圧、容量又は化学受容器からの情報や運動によって引き起こされた血管運動反射によっても影響を受ける。
【0003】
皮膚循環は加齢による変化を受ける。加齢に伴い、皮膚血管網の構造や、血流量が変化すること、及び寒冷刺激や温熱刺激に対する血流変化の幅が低減することが知られている。結果として、加齢とともに皮膚の血行が悪化し、それによって更に皮膚の代謝が低下するという問題が起こり得る。
【0004】
このような皮膚循環は、交感神経系を介した全身性メカニズムと、局所的調節因子による局所性メカニズムとの二元的調節を受けている。局所性メカニズムの1つは軸索反射である。これは、刺激により皮膚の感覚神経内で発生したインパルスが、中枢に向けて伝導される途中で他の分枝に逆行性に伝わり、その神経終末から神経ペプチドを放出させ、皮膚血管を拡張させる現象である。このとき放出される神経ペプチドは、substance P(SP)やcalcitonin gene-related peptide(CGRP)である。
【0005】
CGRPは37個のアミノ酸からなる神経ペプチドであり、カルシトニン遺伝子の組織特異的な選択的スプライシングにより生合成される。CGRPは、中枢神経系及び末梢感覚神経系に広く分布し、特異的な受容体を介してその作用を発揮する。CGRPと血流との関係はよく知られており、ラットにおいてCGRPの投与で皮膚血流が増加すること(非特許文献1)、CGRPノックアウトマウスの血圧が高くなること(非特許文献2)、CGRP中和抗体を投与したラットは皮膚血流が減少すること(非特許文献3)、末梢血管の過剰収縮に起因すると考えられているレイノー病の患者では、手指のCGRP含有神経が欠如していること(非特許文献4)、レイノー病患者にCGRPを静注することにより腕の皮膚血流量が上昇すること(非特許文献5)等が知られている。
【0006】
CGRPの生理作用は、血管拡張作用の他に、炎症におけるサブスタンスPの調節、血管透過性亢進、神経筋接合部のニコチン様受容体の調節、糖新生の抑制と糖分解の促進、膵臓酵素の分泌促進、胃酸分泌抑制、心拍促進、神経活動の調節、カルシウム代謝調節、骨形成促進、インスリン分泌、体温上昇、摂食量低下など多岐にわたる。また、プロスタグランジンの合成を介した抗炎症作用、虚血再環流障害に対するプレコンディショニング、ならびに子宮筋層や子宮、胎盤に受容体が発現していることから妊娠・分娩への関与が知られている。
【0007】
上記の生理作用から、CGRPの治療用途としては、血流促進、血行促進、創傷治癒の促進、及び高血圧、心不全、虚血再環流による肝障害、腎不全、消化管潰瘍、敗血症、骨粗鬆症、不整脈、くも膜下出血、肺性高血圧、遅延型過敏症、妊娠中毒症、早期分娩等が挙げられている。また、CGRP受容体アンタゴニストの用途として、偏頭痛、知覚過敏等の治療が挙げられる。実際、多くのCGRP受容体アンタゴニスト化合物が抗偏頭痛薬として開発されている。
【0008】
また、CGRPと歯周病との関連性も知られている。非特許文献6には、炎症時にCGRPを発現している感覚神経が多数進入すること、CGRPはマクロファージにおけるH22産生抑制や抗原提示抑制、リンパ球の分裂抑制を介して抗炎症を示すことが報告されている。また、ヒト歯髄細胞の増殖促進活性があること、BMP−2の発現促進を介した象牙質形成が期待されることから、歯髄形成に関与していることが報告されている(非特許文献7、8)。更に、骨吸収抑制作用があること(非特許文献9)から、CGRPあるいはCGRP応答性促進剤の治療用途として、歯周病も挙げられる。
【0009】
CGRPに対する皮膚循環の応答性を促進又は抑制することができる物質は、上記加齢による皮膚循環の変化の改善や、上記疾患や症状の予防又は治療のために有用である。これまで、CGRP応答性を抑制することができる物質としては、CGRP受容体拮抗剤、抗CGRP抗体、アヤメ属水抽出物(特許文献1)が知られている。しかし、CGRP応答性を促進又は抑制することができ、皮膚循環の調節又は各種疾患の改善に有用なさらなる物質の開発が望まれる。
【0010】
一方、ニンジン(オタネニンジン、Panax ginseng)は古くから知られる薬用植物である。薬効成分としてはジンセノシドが知られており、これまでに50種以上のジンセノシドがニンジンから単離されている。ニンジン又はジンセノシドの効果としては、よく知られている強壮作用に加え、近年では、抗腫瘍作用、抗動脈硬化/抗高血圧作用、抗ストレス作用、免疫調節作用、抗炎症/抗アレルギー作用、抗糖尿病作用、中枢神経への作用、記憶や学習向上、神経保護、神経伝達物質放出若しくは取り込み作用等の多岐にわたる効果が見出されている(非特許文献10、11)。更に最近、ニンジンの抽出物にCGRPの応答性を促進する作用があることが見出されている(特許文献2)。
【0011】
また、ニンジンに含まれるジンセノシドは、主としてジンセノシドRb1やRb2であり、ジンセノシドRg3やRg5はほとんど含まれていない。ジンセノシドRg3やRg5はニンジンを蒸して乾燥した紅参において、わずかに含まれることが知られている。最近、ジンセノシドRg3やRg5に、癌予防及び癌転移抑制作用、血圧降下作用、抗酸化作用があることが認められ、ニンジンに酢を加えた後加熱抽出して、ニンジン中のジンセノシドRg3の含有量を向上させることが試みられている(特許文献2)。
しかしながら、ジンセノシドRg3やRg5にCGRP応答促進作用があること、ニンジンエキスを特定のイオン交換樹脂を用いて加熱処理した処理物については、全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3093154号公報
【特許文献2】特開2012−116763号公報
【特許文献3】特許第4777776号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Nature, 1988, 335:164-167
【非特許文献2】Hypertension, 2000, 35:470-475
【非特許文献3】Br J Pharmacol, 2008, 155:1093-1103
【非特許文献4】Lancet, 1990, 336:1530-1533
【非特許文献5】Lancet, 1989, 2(8676):1354-1357
【非特許文献6】Journal of Endodontics, 2008, 34(7):773-788
【非特許文献7】J Dent Res, 1995, 74:1066-1071
【非特許文献8】J Endod, 1997, 23:485-489
【非特許文献9】Calcif Tissue Int, 1987, 40:149-154
【非特許文献10】Advances in Food and Nutrition Research, 2009, 55:1-99
【非特許文献11】Phytochemical Analysis, 2008, 19:2-16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、優れたCGRP応答性促進作用を有し、且つ安全性が高い医薬品、医薬部外品、食品、飼料及びそれらに配合可能な素材及びその製造法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、CGRP応答性を促進することができる素材について検討した結果、ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂を用いて加熱処理して得られるニンジンエキス処理物にCGRP応答性促進作用があること及びその製造方法を見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は、下記1)〜5)に係るものである。
1)ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理して得られるニンジンエキス処理物を有効成分とするCGRP応答促進剤。
2)ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理するCGRP応答促進剤の製造方法。
3)ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理して得られるニンジンエキス処理物。
4)ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理して得られるニンジンエキス処理物を有効成分とする血流促進剤。
5)ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理する血流促進剤の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、CGRP応答性を促進することができるニンジンエキス処理物を得ることができる。当該ニンジンエキス処理物は、加齢等による皮膚循環の変化の改善や、歯周病等のCGRPに関連する各種疾患や症状の予防又は治療のために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1-1】各エキスをHPLCで測定した結果を示す図である。
図1-2】各エキスに含まれる含有物の構造式を示す図である。
図2】HCASMCのCGRP応答性促進を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において、「CGRP応答性促進」とは、CGRPにより惹起される細胞の活動を促進することをいう。CGRPが細胞のCGRP受容体に結合すると、Gタンパク質を介してアデニレートシクラーゼの活性化を経て細胞内cAMPの増加が生じる。それにより、例えば血管平滑筋細胞では、プロテインキナーゼA活性化を介してK+チャネルが開口する。あるいは血管内皮細胞においては、プロテインキナーゼA活性化を介してeNOSが活性化され、NOの産生が促進される。更に、産生されたNOは血管平滑筋細胞に作用し、NOを介した細胞内cGMP活性化を経て、K+チャネルが開口する。CGRP応答性促進剤は、CGRPにより惹起される細胞におけるこれらの一連のプロセスを促進し得る。例えば、CGRP応答性促進剤の作用としては、CGRPとその受容体との結合の促進、Gタンパク質活性の増強、アデニレートシクラーゼ活性の増強、細胞内cAMPの増加、プロテインキナーゼA活性の増強、NO産生又はcGMP活性の増強、及びK+チャネル開口促進等が挙げられる。好ましくは、「CGRP応答性」は、CGRPにより引き起こされる細胞内cAMPの増加の程度を指標として決定され得る。従って、CGRP応答性促進剤は、好ましくはCGRPにより惹起される細胞内cAMPの増加を促進する。
【0020】
ここで、CGRP応答性を促進する「細胞」は、CGRP受容体を発現する細胞又はCGRP受容体を有する細胞であれば特に限定されない。好ましくは、細胞としては、血管平滑筋細胞,血管内皮細胞,繊維芽細胞,骨芽細胞,エナメル芽細胞,象牙質芽細胞が挙げられ、より好ましくは血管平滑筋細胞及び血管内皮細胞が挙げられる。あるいは、当該「細胞」は、上記で挙げた細胞の細胞片又は細胞分画物であってもよく、上記で挙げた細胞を含む組織又は上記で挙げた細胞に由来する培養物であってもよい。
【0021】
本明細書において、「改善」とは、疾患又は症状の好転、疾患又は症状の悪化の防止又は遅延、あるいは疾患又は症状の進行の逆転、防止又は遅延をいう。「予防」とは、個体における疾患若しくは症状の発症の防止又は遅延、あるいは個体の疾患若しくは症状の発症の危険性を低下させることをいう。
【0022】
本明細書において、「非治療的」とは、医療行為を含まない、すなわちヒトを手術、治療又は診断する方法を含まない概念である。
【0023】
本明細書において、ニンジンは、ウコギ科トチバニンジン属のオタネニンジン(Panax ginseng)をいう。
またニンジンは、新鮮根をそのまま乾燥した生干ニンジン、周皮や細根を除いて乾燥した白参、蒸したのちに乾燥した紅参などの種類がある。特に紅参は、蒸す工程でマロニル化ジンセノシドの脱マロニル化が進行するとともに、ジンセノシドRg2の20位の糖が脱離したジンセノシドRg3を含むため好ましい。
【0024】
本発明のニンジンエキス処理物を得るために用いられるニンジンは、いずれの任意の部位、例えば全草、葉、茎、芽、花、蕾、根、根茎、仮球茎、球茎、塊茎、種子等、又はそれらの組み合わせを使用することができるが、根茎を用いるのが好ましい。
上記部位は、ニンジンエキスの調製に際し、そのまま抽出工程に付されてもよく、又は粉砕、切断若しくは乾燥された後に抽出工程に付されて抽出物を得てもよい。該抽出物は天然成分由来であり安全性も高い。
【0025】
ニンジンエキスとしては、市販されているものを利用してもよく、又は常法により得られる各種溶剤抽出物、又はその希釈液、その濃縮液、その乾燥末、ペースト若しくはその活性炭処理したものであってもよい。一例として、上記ニンジンを室温(例えば、4〜50℃)若しくは加温(室温〜溶媒沸点)下にて抽出するか、又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得ることができる。
【0026】
上記ニンジンエキスを得るための抽出手段は、具体的には、固液抽出、液液抽出、浸漬、煎出、浸出、還流抽出、超音波抽出、マイクロ波抽出、攪拌等の手段を用いることができる。抽出時間を短縮する場合には、攪拌を伴う固液抽出が望ましい。この固液抽出の好適な条件の一例としては、10〜100℃下、100〜400rpm/minで1〜30分間の攪拌が挙げられる。浸漬の好適な一例として、10〜50℃で、1時間〜14日間の浸漬が挙げられる。また、抽出時間を短縮する場合には、攪拌を伴う固液抽出が望ましい。
上記ニンジンエキスの酸化を防止するため、煮沸脱気や窒素ガス等の不活性ガスを通気して溶存酸素を除去しつつ、いわゆる非酸化的雰囲気下で抽出する手段を併用してもよい。
【0027】
抽出のための溶剤には、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができる。溶剤の具体例としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ならびにこれらの混合物が挙げられる。好適には、水、アルコール類、アルコール−水混合液が挙げられ、水、アルコール−水混合液がより好ましい。アルコール類としては炭素数1〜5のアルコール類が好ましく、エタノールがより好ましい。
【0028】
抽出のための溶剤としてアルコール−水混合液を使用する場合には、アルコール類と水との配合割合(容量比)としては、0.001〜100:99.999〜0が好ましく、5〜95:95〜5がより好ましく、20〜80:80〜20が更に好ましい。アルコール水溶液の場合、アルコール濃度は60容量%以下が好ましい。
【0029】
溶剤の使用量としては、上記ニンジンエキス(乾燥質量換算)1gに対して好ましくは1mL以上、より好ましくは5mL以上、好ましくは100mL以下、より好ましくは50mL以下である。また、好ましくは1〜100mL、より好ましくは8〜50mLである。抽出時間としては、好ましくは1分間以上、より好ましくは10分間以上、好ましくは30日間以下、より好ましく10日間以下である。また好ましくは1分間〜30日間、より好ましくは10分間〜10日間である。このときの抽出温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上、好ましくは溶媒沸点以下、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは90℃以下である。また、好ましくは0℃〜溶媒沸点、より好ましくは10〜100℃、更に好ましくは20〜90℃である。
【0030】
斯くして得られるニンジンエキスを、そのまま又は適宜な溶媒で希釈した希釈液とすること、或いは濃縮や乾燥粉末としたり、ペースト状に調製することにより上記ニンジンエキスを得ることができる。また、凍結乾燥し、用時に、通常抽出に用いられる溶剤、例えば水、エタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、水・エタノール混液、水・プロピレングリコール混液、水・ブチレングリコール混液等の溶剤で希釈して用いることもできる。また、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。
【0031】
本発明のニンジンエキス処理物は、上記ニンジンエキスを、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱することにより製造することができる。
【0032】
ここで、H型陽イオン交換樹脂は、酸触媒として機能するものであればよく、例えば、スルホン酸基、カルボキシ基、リン酸基等を有する合成樹脂が挙げられる。なかでもスルホン酸基を有する陽イオン交換樹脂は強いイオン交換能を有するため好ましい。具体的には、三菱化学株式会社製のダイヤイオンSK1B、SK1BH、SK102等のSKシリーズ、ダイヤイオンPK208、PK212等のPKシリーズ、ダイヤイオンCR10等のキレート樹脂、米国ローム・アンド・ハース社製のアンバーライト200CT、IR120B、IR124、IR118、アンバーリスト35WET等の100番シリーズ、ダウケミカル社製のダウエックス50W・X1等のWシリーズ等が挙げられる。
【0033】
H型陽イオン交換樹脂とニンジンエキスの接触処理は、バッチ式又は半バッチ式で行うことができ、例えば、陽イオン交換樹脂粒子を上記ニンジンエキスを含む溶液(例えば、ニンジンエキス1質量部に対して、水4質量部を加えて希釈したニンジンエキス溶液)に投入して撹拌する方法等が挙げられる。当該方法はpH調整の操作性、プロセスの簡便性の観点、及び塩等の副生成物が少なく、保存安定性を向上させることができる点で好ましい。
【0034】
加熱温度は、処理向上の観点から、60℃以上、好ましくは70℃以上、90℃以下、好ましくは80℃以下である。また60〜90℃、より好ましくは70〜80℃の範囲である。
また、上記加熱時間は、処理向上の観点から、0.5時間以上、好ましくは1時間以上、24時間以下、好ましくは5時間以下である。また0.5〜24時間、好ましくは1〜5時間の範囲である。
【0035】
上記ニンジンエキス処理物は、食品上・医薬品上許容し得る規格に適合し本発明の効果を発揮するものであれば粗精製物であってもよく、更に得られた粗精製物を既知の分離精製方法を適宜組み合わせてこれらの純度を高めてもよい。精製手段としては、有機溶剤沈殿、遠心分離、限界濾過膜、高速液体クロマトグラフやカラムクロマトグラフ等が挙げられる。
【0036】
上述のような方法によれば、乾燥した時に残る残量である固形分量において、下記式で示されるRg3は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。また好ましくは3〜20質量%、より好ましくは5〜10質量%である。Rg5は、好ましくは1.2質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。また好ましくは1.2〜20質量%、より好ましくは1.5〜10質量%である。
【0037】
【化1】
【0038】
【化2】
【0039】
すなわち、このようにして得られるニンジンエキス処理物には、上記式で示されるRg3及びRg5の比率が高い。好適にはジンセノシドRg3及びRg5が、ジンセノシドRb1、Rb2、Rc、Rd、Rg3及びRg5の合計に対し、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、好ましくは100%以下である。また好ましくは95〜100%、より好ましくは98〜100%である。Rg3及びRg5は、上記範囲にあるため、特に皮膚循環を改善、例えば皮膚の血行を促進させることができる。
【0040】
後記実施例に示すように、上記ニンジンエキス処理物は、CGRP応答性を有意に促進する作用を有する。従って、上記ニンジンエキス処理物は、CGRP応答性促進剤として有用であり、当該CGRP応答性促進作用を介して、皮膚循環の改善、歯髄形成の促進等の効果を発揮することができ、結果として、皮膚代謝改善、血流促進、血行促進、創傷治癒の促進、あるいは高血圧、心不全、虚血再環流による肝障害、腎不全、消化管潰瘍、敗血症、骨粗鬆症、不整脈、くも膜下出血、肺性高血圧、遅延型過敏症、歯周病、妊娠中毒症、早期分娩等の疾患の予防及び/又は改善のために有用である。
【0041】
従って、上記ニンジンエキス処理物は、CGRP応答性促進剤、加齢等による皮膚循環の改善又は皮膚代謝改善剤、血流促進剤、血行促進剤、創傷治癒の促進剤、あるいは高血圧、心不全、虚血再環流による肝障害、腎不全、消化管潰瘍、敗血症、骨粗鬆症、不整脈、くも膜下出血、肺性高血圧、遅延型過敏症、歯周病、妊娠中毒症、早期分娩等の疾患の予防及び/又は改善剤(以下、「CGRP応答性促進剤等」とする)として、使用することができ、更にこれらの剤を製造するために使用することができる。好ましくは、上記ニンジンエキス処理物を有効成分として含有する歯周病の予防及び/又は改善剤である。また当該使用は、治療的使用であっても、あるいは健康促進又は美容目的での皮膚循環の改善、皮膚代謝改善、血流促進又は血行促進等を企図した非治療的使用であってもよい。
【0042】
当該CGRP応答性促進剤等は、それ自体、ヒトを含む動物に摂取又は投与した場合にCGRP応答性促進、加齢等による皮膚循環の改善又は皮膚代謝改善、血流促進、血行促進、創傷治癒の促進、あるいは高血圧、心不全、虚血再環流による肝障害、腎不全、消化管潰瘍、敗血症、骨粗鬆症、不整脈、くも膜下出血、肺性高血圧、遅延型過敏症、歯周病、妊娠中毒症、早期分娩等の疾患の予防及び/又は改善の各効果を発揮する、ヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、食品、飼料又は化粧料であってもよく、或いは当該医薬品、医薬部外品、食品、飼料又は化粧料に配合して使用される素材又は製剤であってもよい。
【0043】
また、当該食品には、CGRP応答性促進、加齢等による皮膚循環の改善又は皮膚代謝改善、血流促進、血行促進、創傷治癒の促進、あるいは高血圧、心不全、虚血再環流による肝障害、腎不全、消化管潰瘍、敗血症、骨粗鬆症、不整脈、くも膜下出血、肺性高血圧、遅延型過敏症、歯周病、妊娠中毒症、早期分娩等の疾患の予防及び/又は改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品が包含することができる。これら食品は機能表示が許可された食品であり、一般の食品と区別することができる。
【0044】
ニンジンエキス処理物を含有する上記医薬品(医薬部外品も含む)の剤型は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、静脈内注射剤、筋肉注射剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤、湿布剤、バップ剤、軟膏、ローション、クリーム、口腔用製剤(歯磨剤、液状歯磨剤、洗口液、マウススプレー、口腔洗浄剤、歯肉マッサージクリーム、口腔用軟膏、うがい用錠剤、トローチ、のど飴等)等のいずれかでもよいが、歯磨剤、マウスウォッシュ、マウススプレー、口腔洗浄剤、口腔用軟膏、クリームや塗布剤等の口腔用製剤が好ましい。投与形態も経口投与(内用)、非経口投与(外用、注射)のいずれであってもよい。
【0045】
また、このような種々の剤型の医薬製剤を調製するには、上記ニンジンエキス処理物を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤、嬌味剤、安定化剤、本発明以外の薬効成分等を適宜組み合わせて調製することができる。
【0046】
経口投与用製剤中の、上記ニンジンエキス処理物の含有量は、一般的に好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、好ましくは100質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。また、好ましくは0.001〜100質量%、より好ましくは0.01〜50質量%である。
【0047】
上記ニンジンエキス処理物を含有する食品の形態としては、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、スープ類、食用油、調味料、果汁飲料、炭酸飲料、茶系飲料、ニアウオーター、スポーツ飲料、乳飲料、アルコール飲料、清涼飲料等の各種食品の他、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ等)等が挙げられる。好ましくは、上記食品は、歯周病予防及び/又は改善をコンセプトとしたガム、飴、タブレット、飲料等である。
【0048】
種々の形態の食品は、上記ニンジンエキス処理物を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、本発明以外の有効成分等を適宜組み合わせて調製することができる。
【0049】
当該食品中の、上記ニンジンエキス処理物の含有量は、一般的に好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上、好ましくは100質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。また、好ましくは0.00001〜100質量%、より好ましくは0.0001〜10質量%である。
【0050】
また、飼料としては、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、犬、猫、小鳥、リス等に用いるペットフード等の飼料等が挙げられ、上記食品と同様の形態に調製できる。
【0051】
上記化粧料は、上記ニンジンエキス処理物を単独で含有していてもよく、又は化粧料として許容される担体と組み合わせて含有していてもよい。斯かる担体としては、例えば、賦形剤、被膜剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、分散剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、増粘剤、活性増強剤、抗炎症剤、殺菌剤、香料、矯味剤、矯臭剤等が挙げられる。また、当該化粧料は、上記ニンジンエキス処理物のCGRP応答性促進作用が失われない限り、他の有効成分や化粧成分、例えば、保湿剤、美白剤、紫外線保護剤、細胞賦活剤、洗浄剤、角質溶解剤、メークアップ成分(例えば、化粧下地、ファンデーション、おしろい、パウダー、チーク、口紅、アイメーク、アイブロウ、マスカラ、その他)等を含有していてもよい。化粧料とする場合の形態としては、クリーム、乳液、ローション、懸濁液、ジェル、パウダー、パック、シート、パッチ、スティック、ケーキ等、化粧料に使用され得る任意の形態が挙げられる。
【0052】
上記化粧料は、上記ニンジンエキス処理物、あるいは必要に応じて上記担体及び/又は他の有効成分や化粧成分を組みあわせて、常法により製造することができる。当該化粧料における上記ニンジンエキス処理物の含有量は、一般的に好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上、好ましくは100質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。また、好ましくは0.00001〜100質量%、より好ましくは0.0001〜10質量%である。
【0053】
上記CGRP応答性促進剤等の摂取量は、対象の種、体重、性別、年齢、状態又はその他の要因に従って変動し得る。投与の用量、経路、間隔、及び摂取の量や間隔は、当業者によって適宜決定され得るが、成人に対して1日あたり、上記ニンジンエキス処理物として、一般的に好ましくは成人1人当たり、好ましくは1μg/日以上、より好ましくは100μg/日以上、好ましくは5000mg/日以下、より好ましくは3000mg/日である。また、好ましくは1μg〜5000mg/日、より好ましくは100μg〜3000mg/日である。
【0054】
投与又は摂取の対象としては、皮膚循環の改善若しくは皮膚代謝改善を必要とする動物、好ましくは加齢等による皮膚代謝の低下を改善する必要のある動物が挙げられる。あるいは、投与又は摂取の対象としては、血流促進、血行促進又は創傷治癒の促進を必要とする動物、ならびに高血圧、心不全、虚血再環流による肝障害、腎不全、消化管潰瘍、敗血症、骨粗鬆症、不整脈、くも膜下出血、肺性高血圧、遅延型過敏症、歯周病、妊娠中毒症、早期分娩等の疾患に罹患している動物、その疑いのある動物、又はその危険性の高い動物が挙げられる。好ましくは、歯周病に罹患している動物、その疑いのある動物、又はその危険性の高い動物、あるいは歯髄形成促進を必要とする動物が、投与又は摂取の対象として挙げられる。動物は、好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
【0055】
あるいは、投与対象は、動物由来の組織、器官、細胞、又はそれらの培養物若しくは分画物であり得る。当該組織、器官、細胞、又はそれらの分画物は、CGRP受容体を発現するか又はCGRP受容体を有する、天然由来又は生物学的若しくは生物工学的に改変された組織、器官、細胞、又はそれらの分画物である。従って本発明はまた、当該組織、器官、細胞、又はそれらの培養物若しくは分画物においてCGRP応答性を促進する方法を提供する。本方法は、例えば、CGRP受容体を有し且つCGRP応答性を促進させたい細胞を上記ニンジンエキス処理物の存在下で培養する工程を含む。細胞が細胞培養物の場合、添加される上記ニンジンエキス処理物の濃度は、0.001〜1000μMであり、好ましくは0.002〜500μMであり、より好ましくは0.01〜200μMである。添加するタイミングは、CGRP刺激以前及び/又はCGRP刺激時であればよい。
【0056】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下の態様が開示されるが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
<1>ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理して得られるニンジンエキス処理物を有効成分とするCGRP応答促進剤。
<2>ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理して得られるニンジンエキス処理物を有効成分とする血流促進剤。
<3>CGRP応答促進剤を製造するための、ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理して得られるニンジンエキス処理物の使用。
<4>血流促進剤を製造するための、ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理して得られるニンジンエキス処理物の使用。
<5>CGRP応答促進に使用するための、ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理して得られるニンジンエキス処理物。
<6>血流促進に使用するための、ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理して得られるニンジンエキス処理物。
<7>CGRP応答促進のための、ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理して得られるニンジンエキス処理物の非治療的使用。
<8>血流促進のための、ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理して得られるニンジンエキス処理物の非治療的使用。
<9>ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理して得られるニンジンエキス処理物を、ヒト若しくは動物に有効量を投与又は摂取するCGRP応答促進方法。
<10>ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理して得られるニンジンエキス処理物を、ヒト若しくは動物に有効量を投与又は摂取する血流促進方法。
<11>非治療的方法である、<9>又は<10>に記載の方法。
<12>細胞のCGRP応答性を促進する方法であって、CGRP受容体を有し且つCGRP応答性を促進させたい細胞を、<1>に記載のCGRP応答性促進剤の存在下で培養する工程を含む方法。
<13><1>〜<12>に記載のH型陽イオン交換樹脂は、好適にはスルホン酸基を有する合成樹脂である。
<14><1>〜<13>に記載のニンジンは、好適には紅参である。
<15><1>、<3>、<5>、<7>、<9>、<11>〜<14>に記載のCGRP応答促進は、好適には血管平滑筋細胞のCGRP応答促進である。
<16>ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理するCGRP応答促進剤の製造方法。
<17>ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理する血流促進剤の製造方法。
<18>ニンジンエキスを含む溶液を、H型陽イオン交換樹脂の存在下、60〜90℃で0.5〜24時間加熱処理して得られるニンジンエキス処理物。
<19>ジンセノシドRg3の固形分量が、好ましくは3〜20質量%、より好ましくは5〜10質量%である<18>に記載のニンジンエキス処理物。
<20>ジンセノシドRg3及びRg5が、ジンセノシドRb1、Rb2、Rc、Rd、Rg3及びRg5の合計に対し、好ましくは95〜100%、より好ましくは98〜100%である<18>又は<19>に記載のニンジンエキス処理物。
【実施例】
【0057】
実施例1
エキスの調製
紅参(新和物産より入手)80gを粉砕し、イオン交換水800mLを加え、漢方煎じ器(EK−SA10型)で2回熱水抽出した後、濾過し、溶媒を除き、軟エキス136gを得た。
【0058】
ニンジンエキス処理物
上記軟エキス5gを水10mLで希釈し、アンバーリスト35WET(イオン交換樹脂)2.5gを加え、80度、20時間加熱,攪拌した。室温に冷却後、エタノール35mLを加え、ろ過し、ニンジンエキス処理物を得た(固形分3.2%)。
【0059】
比較エキス1
上記軟エキス5gを水45mLで希釈し、比較例エキス1を得た(固形分5.4%)。
【0060】
比較エキス2
上記軟エキス3.26gを10倍量の食酢((株)ミツカン社製:ミツカン 穀物酢)29.3g(pH2.90)を加えて100℃で3時間1回抽出した。濾液を減圧下で濃縮し、凍結乾燥して、褐色の抽出物を得た。水45mLで希釈し、比較例エキス2を得た(固形分7.0%)。
【0061】
得られた各エキスを、下記表1の条件のもと、HPLCで定量し、その結果を図1及び表2に示す。なお、表2中の「溶液中のRg3」は、試薬として販売されている20R-Ginsenoside Rg3及び20S-Ginsenoside Rg3(LKT Laboratories, Inc社製)により定量した合計値を示す。「固形分量」は、溶液を105℃、5時間乾燥した時に残る残量を示す。「固形分中のRg3」は、溶液中のRg3を固形分量で割った値を示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
図1及び表2の結果より、ニンジンエキス処理物は、比較エキス1、2と比較して、固形分中のRg3が高純度であった。比較エキス2は、不揮発性の醸造酢成分が入っているため、低い値になったと考えられる。また、ニンジンエキス処理物は、ジンセノシドRg3とRg5の合計は、ジンセノシドRb1、Rb2、Rc、Rd、Rg3及びRg5の合計に対し100%であった。
【0065】
実施例2
次に本発明のニンジンエキス処理物及び比較エキス1による細胞のCGRP応答性促進効果を調べた。
1.方法
(1)細胞培養
正常ヒト冠状動脈平滑筋細胞(HCASMC;クラボウ社、細胞lot# 01272)を増殖用培地(基礎培地HuMedia-SB2 500mLにFBS 25mL、hEGF 0.5mL、hFGF−B 0.5mL、インスリン0.5mL、抗菌剤0.5mLを添加したもの;クラボウ社)で培養した。継代には0.025%トリプシン/0.01%EDTAを用いた。
【0066】
(2)細胞の調製
正常ヒト冠状動脈平滑筋細胞(HCASMC)を4000個/cm2の密度で増殖用培地を用いて48ウェルプレートに播種し、翌日分化用培地(基礎培地HuMedia-SB2 500mLにFBS 5mL、ヘパリン0.5mL、抗菌剤0.5mLを添加したもの;クラボウ社)に交換した。培地を1日おきに交換して7日間培養し、CGRP応答性の測定に供した。
【0067】
(3)CGRP応答性の測定
細胞を、ホスホジエステラーゼ阻害剤(PDI)IBMX(3-Isobutyl-1-methylxanthine、500μM;シグマ社)及びRo-20-1724(100μM;和光純薬工業株式会社)を含む基礎培地(Humedia-SB2;クラボウ社)で2回洗浄し、更に同培地を200μL添加して37℃にて60分間培養し、細胞内に阻害剤を浸透させた。培地を除去して、実施例1で調製したニンジンエキス処理物又は比較エキス1をそれぞれ0.025%、及び0.5nM CGRP、ホスホジエステラーゼ阻害剤を含む基礎培地を添加し、15分間37℃にて培養した。反応の停止は、cAMP測定EIAキット(cAMP EIA (non-acetylation);GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)に付属の細胞溶解液を添加することにより行い、取扱説明書に記載の方法に従って細胞内cAMP濃度([cAMP]i)を測定し、その結果を図2に示す。なお、CGRP応答性促進能は、0.5nM CGRPのみで刺激したときの[cAMP]iを基準とし、これに対する百分率をImprove Indexとして表した。
【0068】
図2の結果より、ニンジンエキス処理物は、比較エキス1に対して、細胞のCGRP応答性を有意に促進した(Dunnett検定、N=3)。なおImprove Index 100%は、1113.5fmol/wellの[cAMP]iに相当する。
図1-1】
図1-2】
図2