【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2012年8月1日、公益社団法人土木学会発行の、第67回年次学術講演会講演概要集にて発表、 該当ページ 661〜662ページ 2012年9月6日に開催の、平成24年度土木学会全国大会 第67回年次学術講演会にて発表
【文献】
高炉スラグ高含有コンクリートの自己収縮ひずみ,コンクリート工学年次論文報告集,1997年,Vol.19,No.1,P.253-258
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記混合セメントは、70質量%〜90質量%の前記高炉スラグ微粉末と、10質量%〜30質量%の普通ポルトランドセメントとから構成され、前記骨材の最大粒径は20mm〜25mmとされ、前記細骨材率を45体積%〜50体積%とし、前記水セメント比を45質量%〜50質量%とし、前記単位水量を160kg/m3〜175kg/m3とし、前記一定量の増粘剤を含有した前記AE減水剤を前記混合セメントに対して0.5質量%〜2質量%含有するように配合される、請求項2に記載のコンクリート材料。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように高炉スラグ微粉末等の混和材料を使用し、セメントに対するその混和材料の置換率を高くしていくことで、二酸化炭素の排出量を大きく低減させることができる。しかしながら、高い置換率で混和材料に置換したコンクリート材料は、スランプが過大になり易いため、単位水量や混和剤の使用量を大きく減少させる必要がある。
【0006】
ここで、スランプとは、凝固前のコンクリートの流動性を示す値で、単位水量とは、表面に付着した水はないが、内部の空隙が水で満たされている表乾状態の骨材を用いてコンクリート1m
3を作る際に使用する水の重量である。混和剤は、コンクリートに特別な性質を与えるために添加されるセメント、水、骨材以外の材料で、例えば、AE(Air Entraining)剤、AE減水剤、流動化剤、急結剤、防錆剤等である。
【0007】
その一方で、単位水量や混和剤の減少は、セメントや混和材料の分散性を低下させ、練り上がりからの経過時間によるスランプの低下が大きくなってしまい、施工上の問題が生じる。
【0008】
そこで、セメントのみを使用する場合とほぼ同等の単位水量および混和剤の使用量を確保しつつ、練り上がりからの経過時間によるスランプの低下を小さくすることができるコンクリート材料の提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、少なくとも70質量%の混和材料を含有する混合セメントと骨材と水と混和剤とを混合することにより製造されるコンクリート材料であって、コンクリート材料の配合を、セメントのみを使用してコンクリート材料を製造する場合に必要とされる所定の水セメント比、単位水量、細骨材率および混和剤の添加量とし、混和剤として、一定量の増粘剤を含有した混和剤を使用することを特徴とする、コンクリート材料が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコンクリート材料を提供することにより、混和材料の含有量が70質量%以上のように多い場合であっても、セメントのみを使用する場合とほぼ同等の単位水量および混和剤の使用量を確保しつつ、練り上がりからの経過時間によるスランプの低下の程度を小さくし、その低下の程度を、セメントのみを使用する場合と同等またはそれより小さくすることができる。その結果、セメントのみのコンクリート材料を用いる場合と同等またはそれ以上の施工性を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のコンクリート材料は、少なくとも70質量%の混和材料を含有する混合セメントと骨材と水と混和剤とを混合することにより製造される。混合セメントは、混和材料と一般的なセメントであるポルトランドセメントとを含む。
【0013】
ポルトランドセメントは、主成分として、ケイ酸三カルシウム(エーライト、3CaO・SiO
2)、ケイ酸ニカルシウム(ビーライト、2CaO・SiO
2)、カルシウムアルミネート(アルミネート、3CaO・Al
2O
3)、鉄アルミン酸四カルシウム(フェライト、4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3)、硫酸カルシウム(石膏、CaSO
4・2H
2O)を含む。
【0014】
ポルトランドセメントには、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメントがある。
【0015】
普通ポルトランドセメントは、最も汎用性が高いセメントで、一般的な工事や構造物の構築に使用される。早強ポルトランドセメントや超早強ポルトランドセメントは、エーライトの含有率を高め、短時間で強い強度を発現するセメントで、緊急の補修工事等で使用される。中庸熱ポルトランドセメントや低熱ポルトランドセメントは、ビーライトの含有率を高め、長期強度に優れたセメントで、体積の大きい構造物、例えばダムや橋脚等の工事で使用される。耐硫酸塩ポルトランドセメントは、アルミネート相を少なくし、化学的耐久性に優れたセメントで、海水と接触する護岸工事や温泉地における工事等で使用される。本発明では、工事の内容に応じて、適切なポルトランドセメントを使用することができる。
【0016】
このポルトランドセメントに混合する混和材料としては、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム等を挙げることができる。高炉スラグ微粉末は、ガラス状態の鉱物で、二酸化ケイ素(SiO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化カルシウム(CaO)を主成分とし、酸化マグネシウム(MgO)、酸化鉄(Fe
2O
3)、酸化チタン(TiO
2)等を少量含有する。
【0017】
フライアッシュは、SiO
2、Al
2O
3を主成分とし、Fe
2O
3、CaO、酸化ナトリウム(Na
2O)、酸化カリウム(K
2O)等を少量含有する。シリカフュームは、SiO
2を主成分とし、Al
2O
3、Fe
2O
3、CaO、TiO
2等を少量含有し、高いポゾラン反応性を有する。ポゾラン反応は、混和材料に主成分として含有されるSiO
2が、水和反応により生成された水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)と反応し、緻密で耐久性に優れたケイ酸カルシウム水和物(nCaO・SiO
2・mH
2O、nおよびmは任意の自然数)を生成する反応である。
【0018】
混和材料は、これらに限定されるものではなく、セメントの代替材料として使用することができるものであれば、もみがら灰等、いかなる材料でも使用することができる。また、混和材料は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフュームのうちの2つ、あるいは全部を任意の割合で混合したものを用いることも可能である。
【0019】
骨材は、砂、砂利、砕砂、砕石等で、粒径に応じて粗骨材と細骨材とに分類される。粗骨材は、粒径が5mm以上のものを85質量%以上含有する骨材であり、細骨材は、10mmふるいを全て通過し、5mmふるいを85質量%以上通過する骨材である。
【0020】
混和剤には、AE剤、減水剤、AE減水剤、流動化剤、急結剤、防錆剤等がある。AE剤は、微小な気泡をコンクリート中に一様に分布させるための材料で、空気連行剤とも呼ばれる。例えば、オレイン酸石けん、アルキルアリルスルホン酸塩、アルキロールアミド、ポリエチレングリコール硫酸エステル塩等を用いることができる。
【0021】
減水剤は、必要な単位水量を減少させるための材料である。例えば、ポリオール複合体、リグニンスルホン酸塩、オキシカルボン酸塩等を主成分とする材料を用いることができる。AE減水剤は、AE剤と減水剤の機能を併せ持つ材料である。流動化剤は、コンクリートの流動性を増大させるための材料で、例えば、ナフタレンスルホン酸塩およびメラミンスルホン酸塩を基剤とする材料を用いることができる。
【0022】
急結剤は、セメントの凝結を速めるための材料で、例えば、塩化カルシウムやケイ酸ナトリウム等を用いることができる。防錆剤は、コンクリートに埋設される鉄筋が錆びるのを防ぐための材料で、金属表面に被膜を形成するケイ酸塩、リン酸塩、アミン、酸化剤等を用いることができる。
【0023】
混和剤は、コンクリート材料の用途や目的に応じて、必要とされるものを選択して使用することができる。したがって、例えば、単位水量を減少させるだけであれば、AE減水剤のみを用いることができる。
【0024】
本発明のコンクリート材料は、その配合を、セメント(ポルトランドセメント)のみを使用してコンクリート材料を製造する場合に必要とされる所定の水セメント比、単位水量、細骨材率および混和剤の添加量とし、その混和剤として、一定量の増粘剤を含有した混和剤を使用する。
【0025】
ここで、水セメント比は、練り混ぜた直後のコンクリート中に含まれるセメントと水との比で、分母をセメントの質量、分子を水の質量とし、それに100を乗じて得られる値である。セメントに代えて、混合セメントを用いる場合は混合セメントと水との比となる。この水セメント比は、コンクリート強度や耐久性を考慮して決定され、小さくするほど、強度、耐久性および水密性が向上する。通常、必要とされるコンクリート強度、耐久性および水密性が決定され、その決定された強度等になるように水セメント比が求められる。
【0026】
単位水量は、打設可能な範囲で最小のスランプになるように決定される。この単位水量は、減水剤あるいはAE減水剤を使用して調整することができる。細骨材率は、骨材の形状や粒度、粗骨材の最大寸法、混和材料の有無等を考慮して決定される。粗骨材の最大寸法は、コンクリートの品質改善を図るために大きいほうが望ましいが、一般に、20〜25mmとされる。混和剤の添加量は、用途および目的に応じて所要の効果を得ることができるように、試験練り等を行って決定される。
【0027】
そのほか、コンクリート材料に必要とされるパラメータとして、空気量、スランプ、単位セメント量、骨材量、混和材料の種類やその使用量等がある。空気量は、コンクリートのワーカビリティおよび耐凍結融解性を考慮して決定することができる。空気量は、増加すると強度低下につながることから、所定の耐凍結融解性が得られる範囲で、出来るだけ小さい値を選択することが望ましい。空気量は、例えば、コンクリート材料に対して4〜6体積%とすることができる。
【0028】
スランプは、施工上の諸条件を考慮し、施工可能な範囲の最小の値を選定することができる。一般に、スランプは、単位水量に影響され、小さい値のほうが、単位水量が少なく、品質が向上する。単位セメント量は、水セメント比と単位水量とから決定される。骨材量は、単位セメント量、単位水量、空気量が決定された後、残りの量として決定される。混和材料の種類やその使用量は、コンクリート材料の用途や目的に応じ、所要の効果を得ることができるように、試験練りを行うことにより決定される。
【0029】
混和剤に含有される増粘剤は、フレッシュコンクリートの粘性を高め、材料分離抵抗性を増大させる作用を有する材料である。例えば、セルロース誘導体、ポリアクリルアミド類、ポリビニルアルコール、多糖類、β−1,3−グルカン等を用いることができる。セルロース誘導体としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等を挙げることができる。材料分離抵抗性は、構成材料間でその質量差等により生じる相対移動に抵抗する性状である。増粘剤の含有量は、混合セメントにおける混和材料の種類や置換率によって変わることから、これらに応じて決定することができる。
【0030】
増粘剤の含有量は、混和剤としてAE減水剤を用いる場合、単位セメント量に対して0.05質量%〜0.2質量%程度(AE減水剤に対しては、0.025質量%〜0.4質量%)とすることができる。これより小さいと、セメントのみの場合より経過時間によるスランプの低下が大きくなり、これより大きいと、粘性が高すぎて成形等が難しくなり、施工性が悪化するからである。
【0031】
本発明では、このようにして決定された一定量の増粘剤を含有する混和剤を添加することにより、混合セメント中の混和材料を70質量%以上含有していても、セメントのみを使用する場合とほぼ同等の単位水量、水セメント比、細骨材率、混和剤の添加量として、セメントのみを使用する場合と同等またはそれ以上の経過時間によるスランプの低下の程度とすることができ、また、セメントのみを使用して製造したコンクリート材料と同等またはそれ以上の施工性を実現することができる。
【0032】
ここに、コンクリート材料の好ましい配合例を示しておく。例えば、混合セメントを、70〜90質量%の高炉スラグ微粉末と、10〜30質量%の普通ポルトランドセメントとし、粗骨材の最大粒径を20〜25mmとし、骨材の細骨材率を45〜50体積%とし、水セメント比を45〜50質量%とし、単位水量を160〜175
kg/m3とし、一定量の増粘剤を含むAE減水剤を混合セメントに対して0.5〜2質量%含有するように配合することができる。これはあくまで一例であり、混和材料の種類、骨材の形状や粒度等が異なればこれらの数値は変わり得るものである。
【0033】
以下に、実際に特定の材料を使用し、特定の配合にてスランプ試験を行った結果を示す。まず、使用した材料を
図1に示す。使用した材料は、セメント(OPC)として普通ポルトランドセメントを用い、混和材料として高炉スラグ微粉末(BFS)を用いた。セメントは、密度3.16g/cm
3のものを使用し、高炉スラグ微粉末は、密度2.89g/cm
3、比表面積4180cm
2/gのものを使用した。
【0034】
細骨材(S)は、静岡県掛川産山砂、密度2.59g/cm
3のものを使用し、粗骨材(G)は、東京都青梅産硬質砂岩砕石、密度2.65g/cm
3のものを使用した。混和剤は、従来の場合と比較するために、2種類用意し、1つは、従来から使用されている市販のAE減水剤標準形(I種)を、もう1つは、本発明で使用する一定量の増粘剤を含有するAE減水剤を使用した。
【0035】
図2に配合表を示す。配合表には、4つのケースが示されている。Case1は、従来のOPCのみを使用するケースである。Case2およびCase3は、従来の市販のAE減水剤を使用し、30質量%のOPCと70質量%のBFSとを含有する混合セメントを使用するケースである。なお、Case2は、単位水量が他より少なくなっていて、Case3は、AE減水剤の添加量が少なくなっている。Case4は、本発明で使用する改良されたAE減水剤を使用したケースである。この配合は、練り上がり直後のスランプが、10.0cm±2.5cm、空気量が4.5±1.5%になるように配合およびAE減水剤の添加量を調整したものである。
【0036】
従来の3つのケース(Case1〜Case3)と本発明のケース(Case4)につき、スランプ試験を行った結果を
図3に示す。スランプ試験は、試験用の入れ物であるスランプコーンに、
図2に示した配合により製造したコンクリート材料を入れ、突棒で撹拌した後、鉛直方向に持ち上げてスランプコーンを抜き取り、コンクリート材料の頂部の高さがどの程度下がったかを測定することにより行った。
【0037】
図3に示すようにCase1では、スランプは、30分後に−3.5cm、60分後に−5.5cmとなった。これに対し、Case2では、30分後に−4.7cm、60分後に−8.1cmと大幅に低下した。Case3では、30分後に−5.7cm、60分後に−9cmとさらに低下した。このように、従来のAE減水剤では、混和材料の置換率を高くすると、単位水量を減少させても、AE減水剤の添加量を減少させても、経過時間によるスランプの低下の程度が大きくなった。
【0038】
Case4では、30分後でも−1.6cmで、60分後でも−4.1cmであり、Case1より経過時間によるスランプの低下の程度が小さくなった。このため、単位水量やAE減水剤の添加量を減少させなくても、その低下の程度を、セメントのみを使用する場合と同等またはそれ以下とすることができることが見出された。これにより、セメントのみのコンクリート材料を用いる場合と同等またはそれ以上の施工性を実現することができることがわかる。
【0039】
図4は、
図3の結果をグラフに示したもので、経過時間とスランプとの関係を示した図である。
図4を参照すると、本発明のコンクリート材料の一例を示すCase4が、経過時間によるスランプの低下が最も緩やかで、施工面で重要なフレッシュ性状の経時保持性が改善していることがわかる。
【0040】
なお、高炉スラグ微粉末を70質量%とし、セメントを30質量%まで低下させることで、温暖化ガスであるCO
2の排出量を約66%削減することができるものと試算される。このため、本発明のコンクリート材料を用いることで、経時保持性の改善に加えて、CO
2排出量も大幅に削減することができる。
【0041】
これまで本発明のコンクリート材料について図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。