(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したようなイオン検出装置については、検出精度の向上に加え、構造の単純化が求められている。特に、シンチレータ(蛍光体)による二次電子変換過程において生じる残光(アフターグロー)が検出精度の向上にとって大きな課題となっている。
【0005】
そこで、本発明は、検出精度の向上及び構造の単純化を図ることができるイオン検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のイオン検出装置は、正イオンを検出するイオン検出装置であって、正イオンを進入させるイオン進入口が設けられた筐体と、筐体内に配置され、負電位が印加されるコンバージョンダイノードと、筐体内に配置され、コンバージョンダイノードと対向しかつコンバージョンダイノードから放出された二次電子が入射する電子入射面を有する半導体電子検出素子と、を備え、電子入射面は、接地された筐体において半導体電子検出素子を支持する部分に対してコンバージョンダイノード側に位置している。
【0007】
このイオン検出装置では、シンチレータ(蛍光体)を使用しないため残光が生じることがない。そして、このイオン検出装置では、イオン進入口を介して筐体内に正イオンが進入すると、当該正イオンは、負電位が印加されたコンバージョンダイノードに向かって進行し、コンバージョンダイノードに衝突する。この正イオンの衝突によりコンバージョンダイノードから二次電子が放出されると、当該二次電子は、半導体電子検出素子の電子入射面に入射し、半導体電子検出素子で検出される。ここで、電子入射面は、半導体電子検出素子を支持する部分に対してコンバージョンダイノード側に位置しているので、コンバージョンダイノードと電子入射面との間の距離がより短くされている。従って、コンバージョンダイノードから放出された二次電子の収束性を高めることができる。更に、二次電子の収束性が高まるので、二次電子を受け入れるための電子入射面の面積を縮小することが可能となり、半導体電子検出素子を小型化することができる。半導体電子検出素子の小型化により、半導体電子検出素子の応答特性を高めることができると共に、低ノイズ化を図ることができる。よって、このイオン検出装置によれば、検出精度の向上を図ることが可能となる。
【0008】
また、本発明のイオン検出装置は、筐体内に配置され、コンバージョンダイノードから半導体電子検出素子に進行する二次電子が通過する電子通過口を有するカバー電極を更に備え、半導体電子検出素子は、アバランシェフォトダイオードであってもよい。
【0009】
このイオン検出装置では、イオン進入口を介して筐体内に正イオンが進入すると、当該正イオンは、負電位が印加されたコンバージョンダイノードに向かって進行し、コンバージョンダイノードに衝突する。この正イオンの衝突によりコンバージョンダイノードから二次電子が放出されると、当該二次電子は、カバー電極の電子通過口を介してアバランシェフォトダイオードの電子入射面に入射し、アバランシェフォトダイオードで検出される。このように、アバランシェフォトダイオードを用いることにより、二次電子を光に変換するシンチレータや、当該光を例えば光電子増倍管に導光するライトガイド等が不要となるため、構造の単純化を図ることができる。しかも、アバランシェフォトダイオードは、例えば光電子増倍管に比べ、増倍揺らぎが少なく、検出可能なイオンの数が多いため、信号対雑音比(以下、「SN比」という)の向上及びダイナミックレンジ(以下、「Dレンジ」という)の拡大を図ることができる。よって、このイオン検出装置によれば、検出精度の向上及び構造の単純化を図ることが可能となる。
【0010】
ここで、電子入射面は、コンバージョンダイノードと電子入射面とが対向する方向から見た場合に、電子通過口を含んでいてもよい。この構成によれば、半導体電子検出素子のうちの電子入射面以外の部分に二次電子が衝突して半導体電子検出素子が劣化するのを抑制することができる。
【0011】
なお、カバー電極を更に備え、半導体電子検出素子がアバランシェフォトダイオードである場合には、アバランシェフォトダイオードのうちの電子入射面以外の部分に二次電子が衝突してアバランシェフォトダイオードが劣化するのを抑制することができる。
【0012】
また、カバー電極は、半導体電子検出素子を収容するパッケージの一部であってもよい。この構成によれば、パッケージの一部をカバー電極として有効利用して、更なる構造の単純化を図ることができる。
【0013】
また、カバー電極は、接地される筐体と電気的に接続されていてもよい。この構成によれば、筐体及びカバー電極の電気的安定化を図ることができる。
【0014】
また、イオン進入口には、負電位が印加される第1のメッシュが張られていてもよい。この構成によれば、イオン進入口内への正の電界の形成を抑制して、コンバージョンダイノードにおける正イオンの入射効率を向上させることができる。
【0015】
このとき、イオン進入口には、第1のメッシュに対して外側に位置するように第2のメッシュが張られており、第2のメッシュには、第1のメッシュに印加される電位よりも絶対値が小さくなるように正電位が印加されてもよい。この構成によれば、エネルギーの比較的低い正イオンが追い返されて、エネルギーの比較的高い正イオンのみがイオン進入口を通過することになる。このとき、負イオンは、負電位が印加された第1のメッシュによって追い返される。ノイズとなる正イオンのエネルギーは、検出すべき正イオンのエネルギーに比べて低いことが多いため、エネルギーの比較的低い正イオンの筐体内への進入を防止することで、イオン検出装置のSN比を向上させることができる。
【0016】
また、筐体内には、コンバージョンダイノード及び電子入射面に対してイオン進入口側に位置するように、かつ、イオン進入口側から見た場合に、コンバージョンダイノードと電子入射面とが対向する方向に略直交する方向においてイオン進入口を挟むように、筐体と同電位とされる一対の電極部材が配置されていてもよい。この構成によれば、例えば一対の電極部材が対向する方向を長手方向とする断面形状を有するようにイオン進入口が形成されていても、コンバージョンダイノードへの正イオンの軌道を収束し、コンバージョンダイノードにおける正イオンの入射効率を向上させることができる。
【0017】
また、本発明のイオン検出装置は、正イオン及び負イオンを検出するイオン検出装置であって、正イオン及び負イオンを進入させるイオン進入口が設けられた筐体と、筐体内に配置され、負電位が印加されるコンバージョンダイノードと、筐体内に配置され、コンバージョンダイノードと対向しかつコンバージョンダイノードから放出された二次電子が入射する電子入射面を有する半導体電子検出素子と、筐体内に配置され、コンバージョンダイノードから半導体電子検出素子に進行する二次電子が通過する電子通過口を有するカバー電極と、を備え、少なくともカバー電極には、正電位が印加され、電子入射面は、接地された筐体において半導体電子検出素子を支持する部分に対してコンバージョンダイノード側に位置している。
【0018】
このイオン検出装置では、シンチレータ(蛍光体)を使用しないため残光が生じることがない。そして、このイオン検出装置では、イオン進入口を介して筐体内に正イオンが進入すると、当該正イオンは、負電位が印加されたコンバージョンダイノードに向かって進行し、コンバージョンダイノードに衝突する。この正イオンの衝突によりコンバージョンダイノードから二次電子が放出されると、当該二次電子は、半導体電子検出素子の電子入射面に入射し、半導体電子検出素子で検出される。一方、イオン進入口を介して筐体内に負イオンが進入すると、当該負イオンは、正電位が印加されたカバー電極に向かって進行し、カバー電極に衝突する。この負イオンの衝突によりカバー電極から正イオンが放出され、当該正イオンは、負電位が印加されたコンバージョンダイノードに向かって進行し、コンバージョンダイノードに衝突する。この正イオンの衝突によりコンバージョンダイノードから二次電子が放出されると、当該二次電子は、半導体電子検出素子の電子入射面に入射し、半導体電子検出素子で検出される。ここで、電子入射面は、半導体電子検出素子を支持する部分に対してコンバージョンダイノード側に位置しているので、コンバージョンダイノードと電子入射面との間の距離がより短くされている。従って、コンバージョンダイノードから放出された二次電子の収束性を高めることができる。更に、二次電子の収束性が高まるので、二次電子を受け入れるための電子入射面の面積を縮小することが可能となり、半導体電子検出素子を小型化することができる。半導体電子検出素子の小型化により、半導体電子検出素子の応答特性を高めることができると共に、低ノイズ化を図ることができる。よって、このイオン検出装置によれば、検出精度の向上を図ることが可能となる。
【0019】
また、カバー電極及び前記電子入射面には、正電位が印加され、半導体電子検出素子は、アバランシェフォトダイオードであってもよい。
【0020】
このイオン検出装置では、イオン進入口を介して筐体内に正イオンが進入すると、当該正イオンは、負電位が印加されたコンバージョンダイノードに向かって進行し、コンバージョンダイノードに衝突する。この正イオンの衝突によりコンバージョンダイノードから二次電子が放出されると、当該二次電子は、カバー電極の電子通過口を介してアバランシェフォトダイオードの電子入射面に入射し、アバランシェフォトダイオードで検出される。一方、イオン進入口を介して筐体内に負イオンが進入すると、当該負イオンは、正電位が印加されたカバー電極及びアバランシェフォトダイオードの電子入射面に向かって進行し、カバー電極及び電子入射面に衝突する。この負イオンの衝突によりカバー電極及び電子入射面から正イオンが放出され、当該正イオンは、負電位が印加されたコンバージョンダイノードに向かって進行し、コンバージョンダイノードに衝突する。この正イオンの衝突によりコンバージョンダイノードから二次電子が放出されると、当該二次電子は、カバー電極の電子通過口を介してアバランシェフォトダイオードの電子入射面に入射し、アバランシェフォトダイオードで検出される。このように、アバランシェフォトダイオードを用いることにより、二次電子を光に変換するシンチレータや、当該光を例えば光電子増倍管に導光するライトガイド等が不要となるため、構造の単純化を図ることができる。しかも、アバランシェフォトダイオードは、例えば光電子増倍管に比べ、増倍揺らぎが少なく、検出可能なイオン数が多いため、信号対雑音比(以下、「SN比」という)の向上及びダイナミックレンジ(以下、「Dレンジ」という)の拡大を図ることができる。よって、このイオン検出装置によれば、検出精度の向上及び構造の単純化を図ることが可能となる。
【0021】
ここで、コンバージョンダイノードと電子入射面とを結ぶ基準線に略直交する所定の面がイオン進入口の中心線を含むように、イオン進入口に対してコンバージョンダイノード及び電子入射面が位置しており、コンバージョンダイノードによって形成される負の等電位面と少なくともカバー電極によって形成される正の等電位面とが所定の面に関して略対称となるように、コンバージョンダイノードに負電位が印加されると共に少なくともカバー電極に正電位が印加されてもよい。この構成によれば、コンバージョンダイノードへの正イオンの軌道、カバー電極への負イオンの軌道、並びに半導体電子検出素子の電子入射面への二次電子の軌道を収束し、コンバージョンダイノードにおける正イオンの入射効率、カバー電極における負イオンの入射効率、並びに半導体電子検出素子の電子入射面における二次電子の入射効率を向上させることができる。
【0022】
なお、カバー電極及び前記電子入射面には、正電位が印加され、半導体電子検出素子は、アバランシェフォトダイオードである場合には、コンバージョンダイノードへの正イオンの軌道、カバー電極及びアバランシェフォトダイオードの電子入射面への負イオンの軌道、並びにアバランシェフォトダイオードの電子入射面への二次電子の軌道を収束し、コンバージョンダイノードにおける正イオンの入射効率、カバー電極及びアバランシェフォトダイオードの電子入射面における負イオンの入射効率、並びにアバランシェフォトダイオードの電子入射面における二次電子の入射効率を向上させることができる。
【0023】
また、電子入射面は、コンバージョンダイノードと電子入射面とが対向する方向から見た場合に、電子通過口を含んでいてもよい。この構成によれば、半導体電子検出素子のうちの電子入射面以外の部分に二次電子が衝突して半導体電子検出素子が劣化するのを抑制することができる。
【0024】
なお、カバー電極及び前記電子入射面には、正電位が印加され、半導体電子検出素子は、アバランシェフォトダイオードである場合には、アバランシェフォトダイオードのうちの電子入射面以外の部分に二次電子が衝突してアバランシェフォトダイオードが劣化するのを抑制することができる。
【0025】
また、カバー電極は、半導体電子検出素子を収容するパッケージの一部であってもよい。この構成によれば、パッケージの一部をカバー電極として有効利用して、更なる構造の単純化を図ることができる。
【0026】
また、カバー電極は、接地される筐体と電気的に絶縁されていてもよい。この構成によれば、筐体の電気的安定化を図ることができる。
【0027】
また、イオン進入口には、正電位及び負電位が選択的に印加される第1のメッシュが張られていてもよい。この構成によれば、筐体内に正イオンを進入させて当該正イオンを検出する場合には、第1のメッシュに負電位を印加することで、イオン進入口内への正の電界の形成を抑制して、コンバージョンダイノードにおける正イオンの入射効率を向上させることができる。一方、筐体内に負イオンを進入させて当該負イオンを検出する場合には、第1のメッシュに正電位を印加することで、イオン進入口内への負の電界の形成を抑制して、カバー電極おける負イオンの入射効率を向上させることができる。
【0028】
なお、カバー電極及び前記電子入射面には、正電位が印加され、半導体電子検出素子は、アバランシェフォトダイオードである場合には、筐体内に正イオンを進入させて当該正イオンを検出する場合には、第1のメッシュに負電位を印加することで、イオン進入口内への正の電界の形成を抑制して、コンバージョンダイノードにおける正イオンの入射効率を向上させることができる。一方、筐体内に負イオンを進入させて当該負イオンを検出する場合には、第1のメッシュに正電位を印加することで、イオン進入口内への負の電界の形成を抑制して、カバー電極及びアバランシェフォトダイオードの電子入射面における負イオンの入射効率を向上させることができる。
【0029】
このとき、イオン進入口には、第1のメッシュに対して外側に位置するように第2のメッシュが張られており、第2のメッシュには、第1のメッシュに印加される電位よりも絶対値が小さくなるように、かつ第1のメッシュに印加される電位と極性が逆となるように、正電位及び負電位が選択的に印加されてもよい。この構成によれば、筐体内に正イオンを進入させて当該正イオンを検出する場合には、第2のメッシュに正電位を印加することで、エネルギーの比較的低い正イオンを追い返して、エネルギーの比較的高い正イオンのみを通過させることができる。このとき、負イオンは、負電位が印加された第1のメッシュによって追い返される。一方、筐体内に負イオンを進入させて当該負イオンを検出する場合には、第2のメッシュに負電位を印加することで、エネルギーの比較的低い負イオンを追い返して、エネルギーの比較的高い負イオンのみを通過させることができる。このとき、正イオンは、正電位が印加された第1のメッシュによって追い返される。ノイズとなるイオンのエネルギーは、検出すべきイオンのエネルギーに比べて低いことが多いため、エネルギーの比較的低いイオンの筐体内への進入を防止することで、イオン検出装置のSN比を向上させることが可能となる。
【0030】
また、筐体内には、コンバージョンダイノード及び電子入射面に対してイオン進入口側に位置するように、かつ、イオン進入口側から見た場合に、コンバージョンダイノードと電子入射面とが対向する方向に略直交する方向においてイオン進入口を挟むように、筐体と同電位とされる一対の電極部材が配置されていてもよい。この構成によれば、例えば一対の電極部材が対向する方向を長手方向とする断面形状を有するようにイオン進入口が形成されていても、コンバージョンダイノードへの正イオンの軌道、並びにカバー電極への負イオンの軌道を収束し、コンバージョンダイノードにおける正イオンの入射効率、並びにカバー電極における負イオンの入射効率を向上させることができる。
【0031】
なお、カバー電極及び前記電子入射面には、正電位が印加され、半導体電子検出素子は、アバランシェフォトダイオードである場合には、例えば一対の電極部材が対向する方向を長手方向とする断面形状を有するようにイオン進入口が形成されていても、コンバージョンダイノードへの正イオンの軌道、並びにカバー電極及びアバランシェフォトダイオードの電子入射面への負イオンの軌道を収束し、コンバージョンダイノードにおける正イオンの入射効率、並びにカバー電極及びアバランシェフォトダイオードの電子入射面における負イオンの入射効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、検出精度の向上及び構造の単純化を図ることができるイオン検出装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0035】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態のイオン検出装置の縦断面図である。
図2は、第1実施形態のイオン検出装置のアバランシェフォトダイオードに対する電気的な接続状態を示す拡大図である。
【0036】
図1に示されるように、イオン検出装置1Aは、SUS304(ステンレス鋼)からなる直方体箱状のチャンバ(筐体)2を備えている。チャンバ2の側壁2aには、正イオンを進入させる断面円形状(例えば直径10mm程度)のイオン進入口3が設けられている。側壁2aと対向するチャンバ2の側壁2bには、側壁2aと側壁2bとが対向する方向から見た場合にイオン進入口3を含む開口5が設けられており、開口5には、側壁2bの内表面に沿うように、SUSからなるメッシュ6が張られている。チャンバ2の天壁2cの外表面には、PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン)樹脂からなる絶縁部材7が配置されており、チャンバ2の底壁2dの外表面には、PEEK樹脂からなる絶縁部材8が配置されている。絶縁部材8の外表面には、ガラスエポキシ樹脂からなるブリーダー基板17が配置されている。ブリーダー基板17は、絶縁部材8の外表面の略全面を覆うように配置されている。
【0037】
イオン検出装置1Aは、支持台(不図示)上に支持されている。支持台は、PEEK樹脂からなる台座と、イオン検出装置1Aと台座との間に配置された脚部18とを備えている。脚部18の一端は、ブリーダー基板17の外表面に取り付けられている。脚部18の他端は、支持台に取り付けられている。
【0038】
チャンバ2内には、SUS304といった高イオン―電子変換材料からなる円柱状(例えば直径12mm程度)のコンバージョンダイノード9(以下、「CD9」という)が配置されている。CD9は、チャンバ2の天壁2cに設けられた開口11を介して、PEEK樹脂からなるスペーサを挟んで、絶縁部材7にねじ19等により固定されている。ねじ19は、SUS304からなり、CD9へ電圧を供給する端子としても用いられる。
【0039】
更に、チャンバ2内には、ステム21上に配置された状態でアバランシェフォトダイオード30(以下、「APD30」という)が配置されている。APD30は、裏面照射型の半導体電子検出素子である。APD30は、CD9と対向しかつCD9から放出された二次電子が入射する電子入射面30aを有している。
【0040】
チャンバ2の底壁2d及び絶縁部材8のそれぞれには、連続するように開口12及び開口13が設けられており、開口12及び開口13は、チャンバ2の内側からステム21によって塞がれている。また、開口12及び開口13は、絶縁部材8の外表面からブリーダー基板17によって塞がれている。
【0041】
チャンバ2内には、コバールからなる円板状のステム21が配置されている。チャンバ2の底壁2dの内表面には、当該内表面から突出するように環状の位置決め部14が一体的に設けられており、ステム21の外縁部は、位置決め部14の内側に嵌められた状態で底壁2dに気密に接合されている。位置決め部14は、チャンバ2と一体的に設けられているため、電気的にチャンバ2と同電位である。
【0042】
位置決め部14は、ステム21の裏面21aと接触する支持面14aを有している。支持面14aは、チャンバ2の底壁2dよりもCD9側に位置している。このような位置決め部14に配置されたステム21は、チャンバ2の底壁2dよりもCD9側に位置している。従って、ステム21に配置されたAPD30の電子入射面30aは、接地されたチャンバ2において、ステム21を介してAPD30を支持する部分である位置決め部14に対してCD9側に位置している。ここで、接地されたチャンバ2においてAPD30を支持する部分は、チャンバ2の位置決め部14である。位置決め部14は、ステム21を介して間接的にAPD30を支持している。この位置決め部14は、チャンバ2の底壁2dと一体化されている。また、位置決め部14は、接地されたチャンバ2と同電位である。チャンバ2に一体化又は固定され、チャンバ2と電気的に同電位である部分は、チャンバ2の一部であるとする。
【0043】
ここで、CD9とステム21との配置について詳細に説明する。チャンバ2の底壁2dと対面するCD9の主面9aは、チャンバ2の天壁2cから、基準線RLに沿った方向に5mm〜15mmだけ離間している。例えば、CD9の主面9aは、チャンバ2の天壁2cから12mmだけ離間している。一方、CD9の主面9aと対面するステム21の主面21bは、チャンバ2の底壁2dから、基準線RLに沿った方向に5mm〜15mmだけ離間している。例えば、ステム21の主面21bは、チャンバ2の底壁2dから12mmだけ離間している。後述するように、チャンバ2は、接地電位に接続されるため、チャンバ2の電位は0Vに維持される。従って、本実施形態では、CD9の主面9aからステム21の主面21bまでの距離は、10mm〜25mmに設定され、例えば17.8mmである。
【0044】
また、CD9の中心点とAPD30の電子入射面30aの中心点とを結ぶ基準線RLは、イオン進入口3の中心線CLと略直交している。換言すれば、基準線RLに略直交しかつ中心線CLを含む所定の面を基準面RPとすると、基準線RLに略直交する基準面RPが中心線CLを含むように、イオン進入口3に対してCD9及びAPD30の電子入射面30aが位置している。なお、CD9において電子入射面30aと対向する凹曲面の曲率半径は例えば8.5mm程度である。
【0045】
図2に示されるように、APD30は、矩形板状の低濃度p型シリコン基板31を有している。シリコン基板31の電子入射側の表面層には、高濃度p層32が形成されている。シリコン基板31の電子入射側と反対側の表面層には、p層33及び高濃度n層34が電子入射側からこの順序で形成されており、pn接合が実現されている。高濃度p層32の電子入射側の表面には、高濃度p層32と電気的に接続されたp電極35が環状に形成されている。APD30においては、p電極35の内側領域から電子入射側に露出する高濃度p層32の表面が電子入射面30aとなっている。高濃度n層34の電子入射側と反対側の表面には、高濃度n層34と電気的に接続されたn電極36が環状に形成されている。なお、高濃度n層34の電子入射側と反対側の表面には、n電極36の外側領域を覆うようにシリコン酸化膜37が形成されている。
【0046】
APD30は、ステム21上に配置されたインターポーザ基板38の配線39に対し、環状に配置された複数のバンプ41を介して電気的に接続されると共に固定されている。ステム21には、ガラス等からなる絶縁部材42を介して複数のリードピン43,44が貫通している。リードピン43は、逆バイアス電圧印加用のピンであり、ワイヤ45を介してAPD30のp電極35と電気的に接続されている。リードピン44は、信号出力用のピンであり、ワイヤ45を介してインターポーザ基板38の配線39と電気的に接続されている。なお、リードピン43の外側の端部は、チャンバ2の底壁2dの開口12及び絶縁部材8の開口13を介してブリーダー基板17の逆バイアス電圧印可用の端子に接続されている。リードピン44の外側の端部は、開口12及び開口13を介してブリーダー基板17の信号出力用の端子に接続されている。
【0047】
また、ステム21には、リードピン46が貫通している。リードピン46は、絶縁部材42を介することなく、ステム21に直接に固定されている。すなわち、リードピン46は、ステム21と電気的に接続されている。一方、リードピン43,44は、絶縁部材42を介してステム21に固定されているため、リードピン43,44とステム21とは電気的に絶縁されている。リードピン46は、ステム21を接地電位接続用のピンである。リードピン46の外側の端部は、チャンバ2の底壁2dの開口12及び絶縁部材8の開口を介してブリーダー基板17の接地電位端子に接続されている。なお、本実施形態のイオン検出装置1Aでは、ステム21がチャンバ2に直接固定されているので、ステム21は接地電位に接続されている。このため、リードピン46は必要に応じてステム21に配置すればよい。リードピン46が配置された構成によれば、ステム21をより確実に接地電位へ接続することができる。一方、リードピン46を配置しない構成によれば、イオン検出装置1Aの構造を単純化することができる。
【0048】
以上のように構成されたイオン検出装置1Aは、例えば真空引きされる装置内(質量分析装置内等)の所定の位置に取り付けられて、正イオンを検出する。その際、イオン検出装置1Aでは、チャンバ2が接地されて0Vに維持される。このとき、ステム21がチャンバ2の底壁2dに接合され、且つステム21には接地用のリードピン46が設けられているので、ステム21も0Vに維持される。また、0Vのチャンバ2及びステム21に対して、CD9には負電位(例えば−10kV)が印加される。更に、APD30では、リードピン44を介してn電極36が0Vとされるのに対し、リードピン43を介してp電極35に負電位(例えば−400V)が逆バイアス電圧として印加される。
【0049】
この状態で、イオン進入口3を介して、チャンバ2内に正イオンが進入すると、当該正イオンは、負電位(例えば−10kV)が印加されたCD9に向かって進行し、CD9に衝突する。この正イオンの衝突によりCD9から二次電子が放出されると、当該二次電子は、APD30の電子入射面30aに入射し、APD30で検出される。より詳細には、CD9から放出された二次電子は、メッシュ等の部材を貫通することなく、直接にAPD30の電子入射面30aに入射する。例えば、CD9とステム21との電位差(加速電圧)が10kVであれば、APD30に入射する電子のエネルギーは10keVとなる。このとき、APD30では、シリコン基板31において入射した1個の電子から2000個程度の電子−正孔対が生成され(ゲイン2000倍程度)、更に、アバランシェ層であるp層33及び高濃度n層34において50倍程度のゲインが得られる(トータルゲイン10万倍程度)。
【0050】
このイオン検出装置1Aでは、電子入射面30aが、電子入射面30aを有するAPD30を支持する位置決め部14に対してCD9側に位置しているので、CD9と電子入射面30aとの間の距離がより短くされている。従って、CD9から放出された二次電子の収束性を高めることができる。更に、二次電子の収束性が高まるので、二次電子を受け入れるための電子入射面30aの面積を縮小することが可能となり、APD30を小型化することができる。APD30の小型化により、APD30の応答特性を高めることができると共に、低ノイズ化を図ることができる。よって、このイオン検出装置1Aによれば、検出精度の向上を図ることが可能となる。
【0051】
また、ステム21が、接地されるチャンバ2と電気的に接続されている。これにより、チャンバ2及びステム21の電気的安定化を図ることができる。
【0052】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係るイオン検出装置について説明する。
図3は、本発明の第2実施形態及び第3実施形態のイオン検出装置の縦断面図である。
図4は、第2実施形態のイオン検出装置のアバランシェフォトダイオードに対する電気的な接続状態を示す拡大図である。
【0053】
第2実施形態に係るイオン検出装置1Bは、ステム21がチャンバ2に対して直接に接触せず、チャンバ2と電気的に絶縁されている点でイオン検出装置1Aと相違する(
図3参照)。また、イオン検出装置1Bは、リードピン44がステム21と電気的に接続されている点でイオン検出装置1Aと相違する(
図4参照)。
【0054】
図3に示されるように、イオン検出装置1Bのチャンバ2内には、ステム21が配置されている。ステム21は、チャンバ2の底壁2dに設けられた開口12の穴径及び絶縁部材8に設けられた開口13の穴径よりも小さい外形を有している。ステム21は、ステム21の裏面21aがチャンバ2の底壁2dよりも内側に位置するようにチャンバ2内に配置されている。ステム21は、リードピン43,44により支持されている。ここで、接地されたチャンバ2においてAPD30を支持する部分は、チャンバ2の底壁2dである。チャンバ2の底壁2dは、絶縁部材8、ブリーダー基板17、リードピン43,44及びステム21を介して間接的にAPD30を支持している。
【0055】
図4に示されるように、リードピン44は、ステム21に直接に固定されることにより、ステム21と電気的に接続されている。リードピン44は、n電極36に電気的に接続されたピンである。従って、リードピン44と電気的に接続されたステム21は、n電極と同電位になる。
【0056】
このイオン検出装置1Bは、リードピン44とステム21とを電気的に接続している。この構成によれば、ステム21を接地するためのリードピン46を必要としないので、ステム21に設けられるリードピンの数を少なくすることができる。従って、イオン検出装置1Bの構造を単純化することができる。
【0057】
また、ステム21の電位が、チャンバ2の接地電位に対して電気的に絶縁しているのでチャンバ2から混入するおそれのあるノイズの影響を低減することができる。
【0058】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係るイオン検出装置について説明する。
図5は、第3実施形態のイオン検出装置のアバランシェフォトダイオードに対する電気的な接続状態を示す拡大図である。
【0059】
第3実施形態に係るイオン検出装置1Cは、ステム21がチャンバ2と電気的に絶縁されている点でイオン検出装置1Aと相違する(
図3参照)。また、イオン検出装置1Cは、リードピン43がステム21と電気的に接続されている点でイオン検出装置1Bと相違する(
図5参照)。
【0060】
リードピン43は、ステム21に直接に固定されることにより、ステム21と電気的に接続されている。リードピン43は、p電極35に接続されたピンである。従って、リードピン43と電気的に接続されたステム21は、p電極と同電位になる。
【0061】
このイオン検出装置1Cによれば、第2実施形態に係るイオン検出装置1Bと同様に、ステム21の電位がチャンバ2の接地電位に対して電気的に絶縁しているのでチャンバ2から混入するおそれのあるノイズの影響を低減することができる。
【0062】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係るイオン検出装置について説明する。
図6は、本発明の第4実施形態のイオン検出装置の縦断面図である。
図7は、第4実施形態のイオン検出装置のアバランシェフォトダイオードに対する電気的な接続状態を示す拡大図である。
【0063】
第4実施形態に係るイオン検出装置1Dは、ステム21がチャンバ2と電気的に絶縁されている点でイオン検出装置1Aと相違する。また、イオン検出装置1Dは、ステム21上にキャップ22が設けられている点でイオン検出装置1と相違する(
図6参照)。また、イオン検出装置1Dは、リードピン44がステム21と電気的に接続されている点でイオン検出装置1Aと相違する。また、イオン検出装置1Dは、裏面入射型のAPD30に代えて表面入射型のAPD30Dである点で、イオン検出装置1Aと相違する(
図7参照)。
【0064】
図6に示されるように、イオン検出装置1Dのチャンバ2内には、パッケージ20が配置されている。パッケージ20は、チャンバ2内にリードピン43,44により支持されている。より詳細には、ステム21の裏面21aがチャンバ2の底壁2dよりもCD9側に位置するようにチャンバ2内に配置されている。ここで、接地されたチャンバ2においてAPD30Dを支持する部分は、チャンバ2の底壁2dである。チャンバ2の底壁2dは、絶縁部材8、ブリーダー基板17、リードピン43,44及びステム21を介して間接的にAPD30Dを支持している。
【0065】
パッケージ20は、ステム21、及びSUSからなる円筒状のキャップ22を有している。キャップ22のステム21側の端部は外向きフランジ22aとなっており、キャップ22のステム21と反対側の端部は内向きフランジ22bとなっている。キャップ22の外形は、ステム21の外形と略同じ形状を有している。パッケージ20は、ステム21の裏面20aがチャンバ2の底壁2dよりも内側に位置するようにチャンバ2内に配置されている。パッケージ20のキャップ22は、キャップ22の内向きフランジ22bの内側領域は、CD9からAPD30Dに進行する二次電子が通過する断面円形状(例えば直径3mm程度)の電子通過口16として機能する。電子入射面30aは、CD9と電子入射面30aとが対向する方向から見た場合に、電子通過口16を含んでいる(
図7の二点鎖線参照)。なお、キャップ22は、APD30Dと同様に、ステム21を介して絶縁部材8、ブリーダー基板17及びリードピン43,44により支持された部材である。従って、キャップ22は、APD30Dを支持する部分には該当しない。
【0066】
図7に示されるように、APD30Dは、表面入射型の半導体電子検出素子である。APD30Dは、矩形板状の高濃度n型シリコン基板51を有している。シリコン基板51の電子入射側の表面層には、n層52及びp層53がこの順に形成されており、pn接合が実現されている。すなわち、APD30Dでは、pn接合部が電子入射側に位置している。さらに、p層53の上には高濃度p型シリコン層54が形成されている。また、p層53及び高濃度p型シリコン層54の上には、酸化シリコン膜55が環状に形成されている。そして、高濃度p型シリコン層54及び酸化シリコン膜55の上には、高濃度p型シリコン層54と電気的に接続されたp電極56が環状に形成されている。APD30Dにおいては、p電極56の内側領域から電子入射側に露出する高濃度p型シリコン層54の表面が電子入射面30aとなっている。シリコン基板51の電子入射側と反対側の表面層には、n電極57が形成されている。n電極57は、インターポーザ基板38の配線39と電気的に接続されている。また、APD30Dには、酸化シリコン膜55を囲む溝58が形成されている。溝58は、p層53及びn層52を経て高濃度n型シリコン基板51に至る深さを有している。この溝58によれば、pn接合部における耐圧を上昇させることができる。このAPD30Dでは、電子入射面30aに電子が入射すると、高濃度p型シリコン層54及びp層53において電子―正孔対が生成される。生成された電子は、pn接合部の界面(アバランシェ層)において増倍されて出力される。
【0067】
リードピン43は、ワイヤ45を介してAPD30Dのp電極56と電気的に接続されている。リードピン44は、ワイヤ45を介してインターポーザ基板38の配線39と電気的に接続されている。リードピン44は、ステム21に直接に固定されることにより、ステム21と電気的に接続されている。リードピン44は、n電極57に接続されたピンである。従って、リードピン44と電気的に接続されたステム21は、n電極57と同電位になる。更に、ステム21に固定されたキャップ22は、ステム21と同電位、すなわち、n電極36と同電位になる。n電極36には、リードピン44を介して0Vが印加される。従って、ステム21及びキャップ22の電位は、0Vになる。
【0068】
このイオン検出装置1Dは、キャップ22を備えているので、APD30Dのうちの電子入射面30a以外の部分に二次電子が衝突してAPD30Dが劣化するのを抑制することができる。
【0069】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態に係るイオン検出装置について説明する。
図8は、本発明の第5実施形態のイオン検出装置の縦断面図である。
図9は、第5実施形態のイオン検出装置のアバランシェフォトダイオードに対する電気的な接続状態を示す拡大図である。
【0070】
図8に示されるように、第5実施形態に係るイオン検出装置1は、SUS(ステンレス鋼)からなる直方体箱状のチャンバ(筐体)2を備えている。チャンバ2の側壁2aには、正イオンを進入させる断面円形状(例えば直径10mm程度)のイオン進入口3が設けられており、イオン進入口3には、側壁2aの内表面に沿うように、SUSからなるメッシュ(第1のメッシュ)4が張られている。側壁2aと対向するチャンバ2の側壁2bには、側壁2aと側壁2bとが対向する方向から見た場合にイオン進入口3を含む開口5が設けられており、開口5には、側壁2bの内表面に沿うように、SUSからなるメッシュ6が張られている。チャンバ2の天壁2cの外表面には、PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン)樹脂からなる絶縁部材7が配置されており、チャンバ2の底壁2dの外表面には、PEEK樹脂からなる絶縁部材8が配置されている。
【0071】
チャンバ2内には、SUSからなる円柱状(例えば直径12mm程度)のコンバージョンダイノード9(以下、「CD9」という)が配置されている。CD9は、チャンバ2の天壁2cに設けられた開口11を介して、絶縁部材7にねじ等により固定されている。更に、チャンバ2内には、パッケージ20に収容された状態でアバランシェフォトダイオード30(以下、「APD30」という)が配置されている。チャンバ2の底壁2d及び絶縁部材8のそれぞれには、連続するように開口12及び開口13が設けられており、開口12及び開口13は、チャンバ2の内側からパッケージ20によって塞がれている。
【0072】
パッケージ20は、コバールからなる円板状のステム21、及びSUSからなる円筒状のキャップ22を有している。キャップ22のステム21側の端部は外向きフランジ22aとなっており、キャップ22のステム21と反対側の端部は内向きフランジ22bとなっている。チャンバ2の底壁2dの内表面には、当該内表面から突出するように環状の位置決め部14が一体的に設けられており、ステム21の外縁部とキャップ22の外向きフランジ22aとの接合部は、位置決め部14の内側に嵌められた状態で底壁2dに気密に接合されている。
【0073】
APD30は、CD9と対向しかつCD9から放出された二次電子が入射する電子入射面30aを有している。これに対し、パッケージ20のキャップ22は、カバー電極15として機能し、キャップ22の内向きフランジ22bの内側領域は、CD9からAPD30に進行する二次電子が通過する断面円形状(例えば直径3mm程度)の電子通過口16として機能する。つまり、APD30を収容するパッケージ20の一部が、チャンバ2内に配置されたカバー電極15となっている。電子入射面30aは、CD9と電子入射面30aとが対向する方向から見た場合に、電子通過口16を含んでいる(
図9の二点鎖線参照)。
【0074】
ここで、CD9の中心点とAPD30の電子入射面30aの中心点とを結ぶ基準線RLは、イオン進入口3の中心線CLと略直交している。換言すれば、基準線RLに略直交しかつ中心線CLを含む所定の面を基準面RPとすると、基準線RLに略直交する基準面RPが中心線CLを含むように、イオン進入口3に対してCD9及びAPD30の電子入射面30aが位置している。なお、CD9において電子入射面30aと対向する凹曲面の曲率半径は例えば8.5mm程度であり、当該凹曲面の底部とカバー電極15の電子通過口16との距離(基準線RLに沿った距離)は例えば20mm程度である。
【0075】
図9に示されるように、APD30は、矩形板状の低濃度p型シリコン基板31を有している。シリコン基板31の電子入射側の表面層には、高濃度p層32が形成されている。シリコン基板31の電子入射側と反対側の表面層には、p層33及び高濃度n層34が電子入射側からこの順序で形成されており、pn接合が実現されている。高濃度p層32の電子入射側の表面には、高濃度p層32と電気的に接続されたp電極35が環状に形成されている。APD30においては、p電極35の内側領域から電子入射側に露出する高濃度p層32の表面が電子入射面30aとなっている。高濃度n層34の電子入射側と反対側の表面には、高濃度n層34と電気的に接続されたn電極36が環状に形成されている。なお、高濃度n層34の電子入射側と反対側の表面には、n電極36の外側領域を覆うようにシリコン酸化膜37が形成されている。
【0076】
APD30は、ステム21上に配置されたインターポーザ基板38の配線39に対し、環状に配置された複数のバンプ41を介して電気的に接続されると共に固定されている。ステム21には、ガラス等からなる絶縁部材42を介して複数のリードピン43,44が貫通している。リードピン43は、逆バイアス電圧印加用のピンであり、ワイヤ45を介してAPD30のp電極35と電気的に接続されている。リードピン44は、信号出力用のピンであり、ワイヤ45を介してインターポーザ基板38の配線39と電気的に接続されている。なお、各リードピン43,44の外側の端部は、チャンバ2の底壁2dの開口12及び絶縁部材8の開口13を介してチャンバ2の外側に延在している(
図8参照)。
【0077】
以上のように構成されたイオン検出装置1は、例えば真空引きされる装置内(質量分析装置内等)の所定の位置に取り付けられて、正イオンを検出する。その際、イオン検出装置1では、チャンバ2が接地されて0Vに維持される。このとき、パッケージ20がチャンバ2の底壁2dに接合されているので、チャンバ2と電気的に接続されたカバー電極15も0Vに維持される。0Vのチャンバ2及びカバー電極15に対して、メッシュ4には負電位(例えば−200V)が印加される。また、0Vのチャンバ2及びカバー電極15に対して、CD9には負電位(例えば−10kV)が印加される。更に、APD30では、リードピン44を介してn電極36が0Vとされるのに対し、リードピン43を介してp電極35に負電位(例えば−400V)が逆バイアス電圧として印加される。
【0078】
この状態で、イオン進入口3、及び負電位(例えば−200V)が印加されたメッシュ4を介して、チャンバ2内に正イオンが進入すると、当該正イオンは、負電位(例えば−10kV)が印加されたCD9に向かって進行し、CD9に衝突する。この正イオンの衝突によりCD9から二次電子が放出されると、当該二次電子は、0Vのカバー電極15の電子通過口16を介してAPD30の電子入射面30aに入射し、APD30で検出される。例えば、CD9とカバー電極15との電位差(加速電圧)が10kVであれば、APD30に入射する電子のエネルギーは10keVとなる。このとき、APD30では、シリコン基板31において入射した1個の電子から2000個程度の電子−正孔対が生成され(ゲイン2000倍程度)、更に、アバランシェ層であるp層33及び高濃度n層34において50倍程度のゲインが得られる(トータルゲイン10万倍程度)。
【0079】
以上説明したように、イオン検出装置1では、APD30を用いることにより、二次電子を光に変換するシンチレータや、当該光を例えば光電子増倍管に導光するライトガイド等が不要となるため、構造の単純化を図ることができる。しかも、APD30は、例えば光電子増倍管に比べ、増倍揺らぎが少なく、検出可能なイオンの数が多いため、SN比の向上及びDレンジの拡大を図ることができる。よって、イオン検出装置1によれば、検出精度の向上及び構造の単純化を図ることが可能となる。
【0080】
なお、上述したSN比の向上に関し、APD30は、例えば光電子増倍管に比べ、増倍揺らぎが少ないため、出力信号の波高値からCD9で変換された電子数を判別することも可能となる。これにより、質量の大きいイオン(CD9での生成電子数が少ないイオン)が衝突したか、質量の小さいイオンが衝突したかを見分けることができる。これは、質量分析装置においてノイズを低減する効果に繋がる。質量分析装置内等において質量の小さいイオンをスキャンした場合には、波高の低いパルスがノイズとなり、波高の高いパルスが信号となる。一方、質量分析装置内等において質量の大きいイオンをスキャンした場合には、波高の低いパルスが信号となり、波高の高いパルスがノイズとなる。
【0081】
また、上述したDレンジの拡大に関し、イオン進入口3を介してチャンバ2内に進入したイオンの数が多い場合には、APD30は、例えば光電子増倍管に比べ、より多くの電流を出力することが可能となる。一方、イオン進入口3を介してチャンバ2内に進入したイオンの数が少ない場合にも、例えば光電子増倍管と同様に、イオンの数を計数することが可能である。
【0082】
また、イオン検出装置1では、APD30の電子入射面30aが、CD9と電子入射面30aとが対向する方向(すなわち、基準線RLに平行な方向)から見た場合に、カバー電極15の電子通過口16を含んでいる。これにより、APD30のうちの電子入射面30a以外の部分に二次電子が衝突してAPD30が劣化するのを抑制することができる。
【0083】
また、APD30を収容するパッケージ20の一部(より詳細には、キャップ22の内向きフランジ22b)がカバー電極15となっている。このように、パッケージ20の一部がカバー電極15として有効利用されているので、この点も、イオン検出装置1の構造の単純化に寄与している。
【0084】
また、カバー電極15が、接地されるチャンバ2と電気的に接続されている。これにより、チャンバ2及びカバー電極15の電気的安定化を図ることができる。
【0085】
また、イオン進入口3に、負電位が印加されるメッシュ4が張られている。これにより、イオン進入口3内への正の電界の形成を抑制して、CD9における正イオンの入射効率を向上させることができる。
【0086】
なお、イオン検出装置1では、良好な時間特性を得る観点から、APD30の小型化が図られている。そこで、二次電子をできる限り小さく収束できるよう、CD9の凹曲面の曲率半径が小さくされてレンズとしてのパワーが上げられ、更に、CD9とAPD30との距離が縮められている。
【0087】
また、イオン検出装置1では、イオン進入口3と対向する位置に開口5が設けられており、開口5の内側に張られたメッシュ6が0Vに維持される。これにより、CD9及びAPD30の電子入射面30aに収束する静電レンズが形成されるので、ニュートラル等に起因したノイズの発生が防止される。
【0088】
次に、CD9における正イオンの入射効率、APD30の電子入射面30aにおける二次電子の入射効率、及びイオン検出装置1における正イオンの検出効率の解析結果について説明する。上述したイオン検出装置1については、
図10に示されるような解析結果が得られた。
図10において、チャンバ2内に広がる破線は負の等電位面であり、イオン進入口3からCD9に至る実線は正イオンの軌道であり、CD9からAPD30の電子入射面30aに至る実線は二次電子の軌道である。このとき、0Vのチャンバ2及びカバー電極15に対して、メッシュ4には−200Vを印加し、CD9には−10kVを印加した。更に、APD30では、0Vのn電極36に対して、p電極35に−400Vを印加した。
【0089】
その結果、CD9における正イオンの入射効率は99.2%となり、APD30の電子入射面30aにおける二次電子の入射効率は99.0%となり、イオン検出装置1における正イオンの検出効率は99.2%となった。このように、イオン検出装置1では、いずれの入射効率及び検出効率も99%を超えるという、極めて良好な解析結果が得られた。なお、CD9における正イオンの入射効率とは、「イオン進入口3を介してチャンバ2内に進入した正イオン」に対する「CD9に到達した正イオン」の割合である。APD30の電子入射面30aにおける二次電子の入射効率とは、「CD9から放出された二次電子」に対する「電子入射面30aに到達した二次電子」の割合である。イオン検出装置1における正イオンの検出効率とは、「イオン進入口3を介してチャンバ2内に進入した正イオン」に対する「電子入射面30aに到達した二次電子」の割合である。
【0090】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、イオン検出装置1の構成部品の形状及び材料としては、上述したものに限定されず、様々な形状及び材料を適用することができる。また、電子通過口16を有するカバー電極15は、パッケージ20の一部ではなく、パッケージ20とは別体で設けられてもよい。
【0091】
また、イオン進入口3に、メッシュ4に対して外側に位置するように別のメッシュ(第2のメッシュ)が張られており、当該別のメッシュに、メッシュ4に印加される電位よりも絶対値が小さくなるように正電位(例えば+20V)が印加されてもよい。この構成によれば、エネルギーの比較的低い正イオンが追い返されて、エネルギーの比較的高い正イオンのみがイオン進入口3を通過することになる。このとき、負イオンは、負電位が印加されたメッシュ4によって追い返される。ノイズとなる正イオンのエネルギーは、検出すべき正イオンのエネルギーに比べて低いことが多いため、エネルギーの比較的低い正イオンのチャンバ2内への進入を防止することで、イオン検出装置1のSN比を向上させることができる。ただし、イオン進入口3に何らメッシュが張られていなくても、従来に比べれば、APD30においてSN比の向上及びDレンジの拡大を図ることができる。
【0092】
また、チャンバ2内には、CD9及びAPD30の電子入射面30aに対してイオン進入口3側に位置するように、かつ、イオン進入口3側(すなわち、中心線CLに平行な方向)から見た場合に、CD9と電子入射面30aとが対向する方向に略直交する方向においてイオン進入口3を挟むように、チャンバ2と同電位とされる一対の電極部材が配置されていてもよい。この構成によれば、例えば一対の電極部材が対向する方向を長手方向とする断面形状を有するようにイオン進入口3が形成されていても、CD9への正イオンの軌道を収束し、CD9における正イオンの入射効率を向上させることができる。
【0093】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態に係るイオン検出装置について説明する。
図11は、本発明の第6実施形態及び第7実施形態のイオン検出装置の縦断面図である。
図12は、第6実施形態のイオン検出装置のアバランシェフォトダイオードに対する電気的な接続状態を示す拡大図である。
【0094】
イオン検出装置1Eは、正イオンの検出に加え、更に負イオンを検出する点で第1実施形態に係るイオン検出装置1Aと相違する。イオン検出装置1Eは、ステム21がチャンバ2と電気的に絶縁されている点でイオン検出装置1Aと相違する(
図11参照)。また、イオン検出装置1Eは、リードピン44がステム21と電気的に接続されている点でイオン検出装置1Aと相違する(
図12参照)。
【0095】
図11に示されるように、イオン検出装置1Eのイオン進入口3には、側壁2aの内表面に沿うように、SUSからなるメッシュ(第1のメッシュ)4が張られている。チャンバ2の開口12及び絶縁部材8の開口13は、チャンバ2の外側から回路基板10によって塞がれている。回路基板10は、絶縁部材8の開口13内に気密に固定されている。また、イオン検出装置1Eでは、回路基板10に対し、PEEK樹脂からなるスペーサを介して回路基板10Bが設けられている。
【0096】
パッケージ20は、チャンバ2内に配置されており、チャンバ2と電気的に絶縁された状態で回路基板10上に支持されている。より詳細には、イオン検出装置1Eは、PEEK樹脂からなる絶縁部材19を備えている。絶縁部材19は、絶縁部材8の外表面上に配置された基部19aと、開口12及び開口13の内壁に沿って配置された起立部19bとを有している。基部19aから立設した起立部19bの一端部は、チャンバ2の内部まで延びている。チャンバ2の内部側の一端部には、パッケージ20を支持するための位置決め部14Eが設けられており、ステム21の外縁部は、位置決め部14Eの内側に嵌められた状態で底壁2dに気密に接合されている。
【0097】
位置決め部14Eは、ステム21の裏面21aと接触する支持面14Eaを有している。支持面14Eaは、チャンバ2の底壁2dよりもCD9側に位置している。このような位置決め部14Eに配置されたステム21は、チャンバ2の底壁2dよりもCD9側に位置している。従って、ステム21に配置されたAPD30の電子入射面30aは、接地されたチャンバ2において、ステム21を介してAPD30を支持する部分に対してCD9側に位置している。ここで、接地されたチャンバ2においてAPD30を支持する部分は、チャンバ2の底壁2dである。チャンバ2の底壁2dは、絶縁部材8,19及びステム21を介して間接的にAPD30を支持している。なお、絶縁部材19は、チャンバ2に間接的に固定されているが、チャンバ2と同電位ではない。従って、絶縁部材19は、接地されたチャンバ2においてAPD30を支持する部分には該当しない。また、キャップ22は、APD30と同様に、ステム21を介して支持された部材である。従って、キャップ22は、APD30を支持する部分には該当しない。
【0098】
ここで、CD9とパッケージ20との配置について詳細に説明する。チャンバ2の底壁2dと対面するCD9の主面9aは、チャンバ2の天壁2cから、基準線RLに沿った方向に5mm〜15mmだけ離間している。例えば、CD9の主面9aは、チャンバ2の天壁2cから12mmだけ離間している。一方、CD9の主面9aと対面するキャップ22のフランジ22bは、チャンバ2の底壁2dから、基準線RLに沿った方向に5mm〜15mmだけ離間している。例えば、キャップ22のフランジ22bは、チャンバ2の底壁2dから12mmだけ離間している。従って、本実施形態では、CD9の主面9aからキャップ22のフランジ22bまでの距離は、10mm〜25mmに設定され、例えば19.5mmである。
【0099】
図12に示されるように、リードピン44は、ステム21に直接に固定されることにより、ステム21と電気的に接続されている。リードピン44は、n電極36に電気的に接続されたピンである。従って、リードピン44と電気的に接続されたステム21は、n電極と同電位になる。
【0100】
以上のように構成されたイオン検出装置1Eは、例えば真空引きされる装置内(質量分析装置内等)の所定の位置に取り付けられて、正イオン及び負イオンを検出する。その際、イオン検出装置1Eでは、チャンバ2が接地されて0Vに維持される。0Vのチャンバ2に対して、メッシュ4には正電位(例えば+200V)及び負電位(例えば−200V)が選択的に印加される。また、0Vのチャンバ2に対して、CD9には負電位(例えば−10kV)が印加される。更に、APD30では、リードピン44を介してn電極36に正電位(例えば+10kV)が印加される。このとき、0Vのチャンバ2と電気的に絶縁されたパッケージ20(すなわち、ステム21及びキャップ22(カバー電極15))には、リードピン44を介して正電位(+10kV)が印加される。また、リードピン43を介してp電極35に正電位(例えば+9.6kV)が逆バイアス電圧として印加される。
【0101】
これにより、CD9によって形成される負の等電位面とカバー電極15及びAPD30の電子入射面30aによって形成される正の等電位面とが基準面RPの面に関して略対称とされる。つまり、少なくとも基準面RPと基準線RLとの交点近傍(すなわち、イオン進入口3の中心線CLと基準線RLとの交点近傍)は、略0Vとされる。
【0102】
イオン検出装置1Eにおいて正イオンを検出する場合には、メッシュ4に負電位(例えば−200V)が印加される。そして、イオン進入口3、及び負電位(例えば−200V)が印加されたメッシュ4を介して、チャンバ2内に正イオンが進入すると、当該正イオンは、負電位(例えば−10kV)が印加されたCD9に向かって進行し、CD9に衝突する。この正イオンの衝突によりCD9から二次電子が放出されると、当該二次電子は、正電位(例えば+10kV)が印加されたカバー電極15の電子通過口16を介して、正電位(例えば+9.6kV)が印加されたAPD30の電子入射面30aに入射し、APD30で検出される。例えば、CD9とカバー電極15との電位差(加速電圧)が20kVであれば、APD30に入射する電子のエネルギーは20keVとなる。このとき、APD30では、シリコン基板31において入射した1個の電子から4000個程度の電子−正孔対が生成され(ゲイン4000倍程度)、更に、アバランシェ層であるp層33及び高濃度n層34において50倍程度のゲインが得られる(トータルゲイン20万倍程度)。
【0103】
一方、イオン検出装置1Eにおいて負イオンを検出する場合には、メッシュ4に正電位(例えば+200V)が印加される。そして、イオン進入口3、及び正電位(例えば+200V)が印加されたメッシュ4を介して、チャンバ2内に負イオンが進入すると、当該負イオンは、正電位(例えば+10kV)が印加されたカバー電極15、及び正電位(例えば+9.6kV)が印加されたAPD30の電子入射面30aに向かって進行し、カバー電極15及び電子入射面30aに衝突する。この負イオンの衝突によりカバー電極15及び電子入射面30aから正イオンが放出され、当該正イオンは、負電位(例えば−10kV)が印加されたCD9に向かって進行し、CD9に衝突する。この正イオンの衝突によりCD9から二次電子が放出されると、当該二次電子は、正電位(例えば+10kV)が印加されたカバー電極15の電子通過口16を介して、正電位(例えば+9.6kV)が印加されたAPD30の電子入射面30aに入射し、APD30で検出される。
【0104】
このイオン検出装置1Eによれば、電子入射面30aは、APD30を支持する部分に対してコンバージョンダイノード9側に位置しているので、コンバージョンダイノード9と電子入射面30aとの間の距離がより短くされている。従って、第1実施形態に係るイオン検出装置1Aと同様の効果を得ることができる。
【0105】
また、このイオン検出装置1Eによれば、ステム21及びキャップ22に対してリードピン44が電気的に接続されている。これにより、ステム21に所定の正電位を印加するためのだけのリードピンを設けることなく、n電極36と同じ電位を印加することができる。従って、イオン検出装置1Eの構造を単純化することができる。更に、回路基板10にスペーサを介して回路基板10Bが設けられることで回路基板が二段構造となり、耐圧が向上する。
【0106】
(第7実施形態)
次に、第7実施形態に係るイオン検出装置について説明する。
図14は、第7実施形態のイオン検出装置のアバランシェフォトダイオードに対する電気的な接続状態を示す拡大図である。
【0107】
イオン検出装置1Fは、正イオンの検出に加え、更に、負イオンを検出する点で第1実施形態に係るイオン検出装置1Aと相違する。イオン検出装置1Fは、ステム21がチャンバ2と電気的に絶縁されている点でイオン検出装置1Aと相違する(
図11参照)。また、イオン検出装置1Fは、リードピン43がステム21と電気的に接続されている点でイオン検出装置1Aと相違する(
図13参照)。
【0108】
図13に示されるように、イオン検出装置1Fのリードピン43は、ステム21に直接に固定されることにより、ステム21と電気的に接続されている。リードピン43は、p電極35に接続されたピンである。従って、リードピン43と電気的に接続されたステム21は、p電極と同電位になる。このイオン検出装置1Fによれば、第6実施形態に係るイオン検出装置1Eと同様に、ステム21の電位がチャンバ2の接地電位に対して電気的に絶縁しているのでチャンバ2から混入するおそれのあるノイズの影響を低減することができる。
【0109】
(第8実施形態)
次に、第8実施形態に係るイオン検出装置について説明する。
図14は、本発明の第8実施形態のイオン検出装置の縦断面図である。
図15は、第8実施形態のイオン検出装置のアバランシェフォトダイオードに対する電気的な接続状態を示す拡大図である。
【0110】
図14に示されるように、イオン検出装置1Gは、SUS(ステンレス鋼)からなる直方体箱状のチャンバ(筐体)2を備えている。チャンバ2の側壁2aには、正イオン及び負イオンを進入させる断面円形状(例えば直径10mm程度)のイオン進入口3が設けられており、イオン進入口3には、側壁2aの内表面に沿うように、SUSからなるメッシュ(第1のメッシュ)4が張られている。側壁2aと対向するチャンバ2の側壁2bには、側壁2aと側壁2bとが対向する方向から見た場合にイオン進入口3を含む開口5が設けられており、開口5には、側壁2bの内表面に沿うように、SUSからなるメッシュ6が張られている。チャンバ2の天壁2cの外表面には、PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン)樹脂からなる絶縁部材7が配置されており、チャンバ2の底壁2dの外表面には、PEEK樹脂からなる絶縁部材8が配置されている。
【0111】
チャンバ2内には、SUSからなる円柱状(例えば直径12mm程度)のコンバージョンダイノード9(以下、「CD9」という)が配置されている。CD9は、チャンバ2の天壁2cに設けられた開口11を介して、絶縁部材7にねじ等により固定されている。更に、チャンバ2内には、パッケージ20に収容された状態でアバランシェフォトダイオード30(以下、「APD30」という)が配置されている。チャンバ2の底壁2d及び絶縁部材8のそれぞれには、開口12及び開口13が設けられており、開口12及び開口13は、チャンバ2の外側から回路基板10によって塞がれている。回路基板10は、絶縁部材8の外表面に気密に固定されている。
【0112】
パッケージ20は、コバールからなる円板状のステム21、及びSUSからなる円筒状のキャップ22を有している。キャップ22のステム21側の端部は外向きフランジ22aとなっており、キャップ22のステム21と反対側の端部は内向きフランジ22bとなっている。パッケージ20は、チャンバ2内に配置されており、チャンバ2と電気的に絶縁された状態で回路基板10上に支持されている。
【0113】
APD30は、CD9と対向しかつCD9から放出された二次電子が入射する電子入射面30aを有している。これに対し、パッケージ20のキャップ22は、カバー電極15として機能し、キャップ22の内向きフランジ22bの内側領域は、CD9からAPD30に進行する二次電子が通過する断面円形状(例えば直径3mm程度)の電子通過口16として機能する。つまり、APD30を収容するパッケージ20の一部が、チャンバ2内に配置されたカバー電極15となっている。電子入射面30aは、CD9と電子入射面30aとが対向する方向から見た場合に、電子通過口16を含んでいる(
図15の二点鎖線参照)。
【0114】
ここで、CD9の中心点とAPD30の電子入射面30aの中心点とを結ぶ基準線RLは、イオン進入口3の中心線CLと略直交している。換言すれば、基準線RLに略直交しかつ中心線CLを含む所定の面を基準面RPとすると、基準線RLに略直交する基準面RPが中心線CLを含むように、イオン進入口3に対してCD9及びAPD30の電子入射面30aが位置している。なお、CD9において電子入射面30aと対向する凹曲面の曲率半径は例えば8.5mm程度であり、当該凹曲面の底部とカバー電極15の電子通過口16との距離(基準線RLに沿った距離)は例えば20mm程度である。
【0115】
図15に示されるように、APD30は、矩形板状の低濃度p型シリコン基板31を有している。シリコン基板31の電子入射側の表面層には、高濃度p層32が形成されている。シリコン基板31の電子入射側と反対側の表面層には、p層33及び高濃度n層34が電子入射側からこの順序で形成されており、pn接合が実現されている。高濃度p層32の電子入射側の表面には、高濃度p層32と電気的に接続されたp電極35が環状に形成されている。APD30においては、p電極35の内側領域から電子入射側に露出する高濃度p層32の表面が電子入射面30aとなっている。高濃度n層34の電子入射側と反対側の表面には、高濃度n層34と電気的に接続されたn電極36が環状に形成されている。なお、高濃度n層34の電子入射側と反対側の表面には、n電極36の外側領域を覆うようにシリコン酸化膜37が形成されている。
【0116】
APD30は、ステム21上に配置されたインターポーザ基板38の配線39に対し、環状に配置された複数のバンプ41を介して電気的に接続されると共に固定されている。ステム21には、ガラス等からなる絶縁部材42を介して複数のリードピン43,44が貫通している。リードピン43は、逆バイアス電圧印加用のピンであり、ワイヤ45を介してAPD30のp電極35と電気的に接続されている。リードピン44は、信号出力用のピンであり、ワイヤ45を介してインターポーザ基板38の配線39と電気的に接続されている。また、ステム21には、パッケージ20(すなわち、ステム21及びキャップ22)に所定の電位を印加するためのリードピン46が固定されている。なお、各リードピン43,44,46の外側の端部は、回路基板10と電気的に接続されており、パッケージ20は、これらのリードピン43,44,46によって回路基板10上に支持されている(
図14参照)。
【0117】
以上のように構成されたイオン検出装置1Gは、例えば真空引きされる装置内(質量分析装置内等)の所定の位置に取り付けられて、正イオン及び負イオンを検出する。その際、イオン検出装置1Gでは、チャンバ2が接地されて0Vに維持される。このとき、0Vのチャンバ2と電気的に絶縁されたパッケージ20(すなわち、ステム21及びキャップ22(カバー電極15))には、リードピン46を介して正電位(+10kV)が印加される。0Vのチャンバ2に対して、メッシュ4には正電位(例えば+200V)及び負電位(例えば−200V)が選択的に印加される。また、0Vのチャンバ2に対して、CD9には負電位(例えば−10kV)が印加される。更に、APD30では、リードピン44を介してn電極36に正電位(例えば+10kV)が印加され、リードピン43を介してp電極35に正電位(例えば+9.6kV)が逆バイアス電圧として印加される。
【0118】
これにより、CD9によって形成される負の等電位面とカバー電極15及びAPD30の電子入射面30aによって形成される正の等電位面とが基準面RPの面に関して略対称とされる。つまり、少なくとも基準面RPと基準線RLとの交点近傍(すなわち、イオン進入口3の中心線CLと基準線RLとの交点近傍)は、略0Vとされる。
【0119】
イオン検出装置1Gにおいて正イオンを検出する場合には、メッシュ4に負電位(例えば−200V)が印加される。そして、イオン進入口3、及び負電位(例えば−200V)が印加されたメッシュ4を介して、チャンバ2内に正イオンが進入すると、当該正イオンは、負電位(例えば−10kV)が印加されたCD9に向かって進行し、CD9に衝突する。この正イオンの衝突によりCD9から二次電子が放出されると、当該二次電子は、正電位(例えば+10kV)が印加されたカバー電極15の電子通過口16を介して、正電位(例えば+9.6kV)が印加されたAPD30の電子入射面30aに入射し、APD30で検出される。例えば、CD9とカバー電極15との電位差(加速電圧)が20kVであれば、APD30に入射する電子のエネルギーは20keVとなる。このとき、APD30では、シリコン基板31において入射した1個の電子から4000個程度の電子−正孔対が生成され(ゲイン4000倍程度)、更に、アバランシェ層であるp層33及び高濃度n層34において50倍程度のゲインが得られる(トータルゲイン20万倍程度)。
【0120】
一方、イオン検出装置1Gにおいて負イオンを検出する場合には、メッシュ4に正電位(例えば+200V)が印加される。そして、イオン進入口3、及び正電位(例えば+200V)が印加されたメッシュ4を介して、チャンバ2内に負イオンが進入すると、当該負イオンは、正電位(例えば+10kV)が印加されたカバー電極15、及び正電位(例えば+9.6kV)が印加されたAPD30の電子入射面30aに向かって進行し、カバー電極15及び電子入射面30aに衝突する。この負イオンの衝突によりカバー電極15及び電子入射面30aから正イオンが放出され、当該正イオンは、負電位(例えば−10kV)が印加されたCD9に向かって進行し、CD9に衝突する。この正イオンの衝突によりCD9から二次電子が放出されると、当該二次電子は、正電位(例えば+10kV)が印加されたカバー電極15の電子通過口16を介して、正電位(例えば+9.6kV)が印加されたAPD30の電子入射面30aに入射し、APD30で検出される。
【0121】
以上説明したように、イオン検出装置1Gでは、APD30を用いることにより、二次電子を光に変換するシンチレータや、当該光を例えば光電子増倍管に導光するライトガイド等が不要となるため、構造の単純化を図ることができる。しかも、APD30は、例えば光電子増倍管に比べ、増倍揺らぎが少なく、検出可能なイオンの数が多いため、SN比の向上及びDレンジの拡大を図ることができる。よって、イオン検出装置1Gによれば、検出精度の向上及び構造の単純化を図ることが可能となる。
【0122】
なお、上述したSN比の向上に関し、APD30は、例えば光電子増倍管に比べ、増倍揺らぎが少ないため、出力信号の波高値からCD9で変換された電子数を判別することも可能となる。これにより、質量の大きいイオン(CD9での生成電子数が少ないイオン)が衝突したか、質量の小さいイオンが衝突したかを見分けることができる。これは、質量分析装置においてノイズを低減する効果に繋がる。質量分析装置内等において質量の小さいイオンをスキャンした場合には、波高の低いパルスがノイズとなり、波高の高いパルスが信号となる。一方、質量分析装置内等において質量の大きいイオンをスキャンした場合には、波高の低いパルスが信号となり、波高の高いパルスがノイズとなる。
【0123】
また、上述したDレンジの拡大に関し、イオン進入口3を介してチャンバ2内に進入したイオンの数が多い場合には、APD30は、例えば光電子増倍管に比べ、より多くの電流を出力することが可能となる。一方、イオン進入口3を介してチャンバ2内に進入したイオンの数が少ない場合にも、例えば光電子増倍管と同様に、イオンの数を計数することが可能である。
【0124】
また、イオン検出装置1Gでは、CD9によって形成される負の等電位面とカバー電極15及びAPD30の電子入射面30aによって形成される正の等電位面とが基準面RPの面に関して略対称とされる。これにより、CD9への正イオンの軌道、カバー電極15及び電子入射面30aへの負イオンの軌道、並びに電子入射面30aへの二次電子の軌道を収束し、CD9における正イオンの入射効率、カバー電極15及び電子入射面30aにおける負イオンの入射効率、並びに電子入射面30aにおける二次電子の入射効率を向上させることができる。
【0125】
また、APD30の電子入射面30aが、CD9と電子入射面30aとが対向する方向(すなわち、基準線RLに平行な方向)から見た場合に、カバー電極15の電子通過口16を含んでいる。これにより、APD30のうちの電子入射面30a以外の部分に二次電子が衝突してAPD30が劣化するのを抑制することができる。
【0126】
また、APD30を収容するパッケージ20の一部(より詳細には、キャップ22の内向きフランジ22b)がカバー電極15となっている。このように、パッケージ20の一部がカバー電極15として有効利用されているので、この点も、イオン検出装置1Gの構造の単純化に寄与している。
【0127】
また、カバー電極15が、接地されるチャンバ2と電気的に絶縁されている。これにより、チャンバ2の電気的安定化を図ることができる。
【0128】
また、イオン進入口3に、正電位及び負電位が選択的に印加されるメッシュ4が張られている。これにより、チャンバ2内に正イオンを進入させて当該正イオンを検出する場合には、メッシュ4に負電位を印加することで、イオン進入口3内への正の電界の形成を抑制して、CD9における正イオンの入射効率を向上させることができる。一方、チャンバ2内に負イオンを進入させて当該負イオンを検出する場合には、メッシュ4に正電位を印加することで、イオン進入口3内への負の電界の形成を抑制して、カバー電極15及びAPD30の電子入射面30aにおける負イオンの入射効率を向上させることができる。
【0129】
なお、イオン検出装置1Gでは、良好な時間特性を得る観点から、APD30の小型化が図られている。そこで、二次電子をできる限り小さく収束できるよう、CD9の凹曲面の曲率半径が小さくされてレンズとしてのパワーが上げられ、更に、CD9とAPD30との距離が縮められている。
【0130】
また、イオン検出装置1Gでは、イオン進入口3と対向する位置に開口5が設けられており、開口5の内側に張られたメッシュ6が0Vに維持される。これにより、CD9及びAPD30の電子入射面30aに収束する静電レンズが形成されるので、ニュートラル等に起因したノイズの発生が防止される。
【0131】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、イオン検出装置1Gの構成部品の形状及び材料としては、上述したものに限定されず、様々な形状及び材料を適用することができる。また、電子通過口16を有するカバー電極15は、パッケージ20の一部ではなく、パッケージ20とは別体で設けられてもよい。ただし、いずれの場合にも、カバー電極15の材料として負イオンから正イオンへの変換効率の高い材料を使用することが可能である。
【0132】
また、イオン進入口3に、メッシュ4に対して外側に位置するように別のメッシュ(第2のメッシュ)が張られており、当該別のメッシュに、メッシュ4に印加される電位よりも絶対値が小さくなるように、かつメッシュ4に印加される電位と極性が逆となるように、正電位(例えば+20V)及び負電位(例えば−20V)が選択的に印加されてもよい。この構成によれば、チャンバ2内に正イオンを進入させて当該正イオンを検出する場合には、当該別のメッシュに正電位(例えば+20V)を印加することで、エネルギーの比較的低い正イオンを追い返して、エネルギーの比較的高い正イオンのみを通過させることができる。このとき、負イオンは、負電位(例えば−200V)が印加されたメッシュ4によって追い返される。一方、チャンバ2内に負イオンを進入させて当該負イオンを検出する場合には、当該別のメッシュに負電位(例えば−20V)を印加することで、エネルギーの比較的低い負イオンを追い返して、エネルギーの比較的高い負イオンのみを通過させることができる。このとき、正イオンは、正電位(例えば+200V)が印加されたメッシュ4によって追い返される。ノイズとなる正イオンのエネルギーは、検出すべき正イオンのエネルギーに比べて低いことが多いため、エネルギーの比較的低い正イオンのチャンバ2内への進入を防止することで、イオン検出装置1GのSN比を向上させることができる。ただし、イオン進入口3に何らメッシュが張られていなくても、従来に比べれば、APD30においてSN比の向上及びDレンジの拡大を図ることができる。
【0133】
また、チャンバ2内には、CD9及びAPD30の電子入射面30aに対してイオン進入口3側に位置するように、かつ、イオン進入口3側(すなわち、中心線CLに平行な方向)から見た場合に、CD9と電子入射面30aとが対向する方向に略直交する方向においてイオン進入口3を挟むように、チャンバ2と同電位とされる一対の電極部材が配置されていてもよい。この構成によれば、例えば一対の電極部材が対向する方向を長手方向とする断面形状を有するようにイオン進入口3が形成されていても、CD9への正イオンの軌道、並びにカバー電極15及び電子入射面30aへの負イオンの軌道を収束し、CD9における正イオンの入射効率、並びにカバー電極15及び電子入射面30aにおける負イオンの入射効率を向上させることができる。
【0134】
また、半導体電子検出素子は、アバランシェフォトダイオード30に限定されることはない。半導体電子検出素子には、増倍機能を有していない一般的なフォトダイオード(以下「PD」という)であってもよい。PDを備えたイオン検出装置1,1A〜1Gは、電子の入射による電流を得る、いわゆるアナログ式の検出方式とすることができる。また、PDは、APDに対して温度変化に伴うゲインの変動が安定している。従って、APDが有する高いゲインを要求されない場合やイオンのシングルカウンティングが不要である場合(例えばフィールド用途)には、半導体電子検出素子としてPDを用いてもよい。このようなPDには、例えば、浜松ホトニクス株式会社製の電子線検出用Siフォトダイオード(S11141,S11142)等を用いることができる。また、半導体電子検出素子には、APDやPDと同等の構造を有する半導体素子も含まれる。
【0135】
また、上記第4〜第8実施形態において、半導体電子検出素子(APDやPD)は、表面入射型、裏面入射型のいずれであってもよい。
【0136】
また、上記第1〜第8実施形態において、APD30を支持する部分は、ステム21を介して間接的にAPD30を支持していたが、この構成に限定されない。APD30を支持する部分は、ステム21を介することなく直接的にAPD30を支持してもよい。