(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための一例を示すものであり、本発明をこの実施形態に特定することを意図するものではない。本発明は、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも適応し得るものである。
【0020】
[実施形態1]
実施形態に係るスクライブ装置10の概略図を
図1に示す。スクライブ装置10は、移動台11を備えている。そして、この移動台11は、ボールネジ13と螺合されており、モータ14の駆動によりこのボールネジ13が回転することで、一対の案内レール12a、12bに沿ってy軸方向に移動できるようになっている。
【0021】
移動台11の上面には、モータ15が設置されている。このモータ15は、上部に位置するテーブル16をxy平面で回転させて所定角度に位置決めするためのものである。脆性材料基板17は、このテーブル16上に載置され、図示しない真空吸引手段などによって保持される。なお、スクライブの対象となる脆性材料基板17は、低温焼成セラミックスや高温焼成セラミックスからなるセラミック基板、シリコン基板、サファイア基板等であり、液晶パネルの基板等に一般的に用いられる非晶質のガラス基板よりも硬い脆性材料基板である。
【0022】
スクライブ装置10は、脆性材料基板17の上方に、脆性材料基板17の表面に形成されたアライメントマークを撮像する2台のCCDカメラ18を備えている。そして、スクライブ装置10には、移動台11とその上部のテーブル16を跨ぐように、x軸方向に沿ってブリッジ19が、支柱20a、20bによって架設されている。
【0023】
このブリッジ19には、ガイド22が取り付けられており、スクライブヘッド21がガイド22に沿ってx軸方向に沿って移動可能に設置されている。そして、スクライブヘッド21には、ホルダージョイント23を介して、ホルダーユニット30が取り付けられている。
【0024】
図2はホルダーユニット30が取り付けられたホルダージョイント23の正面図である。また、
図3はホルダーユニット30の斜視図である。また、
図4は
図3のA方向から観察したホルダーユニット30の側面の一部を拡大した図である。
【0025】
ホルダージョイント23は略円柱状をしており、回転軸部23aと、ジョイント部23bを備えている。スクライブヘッド21にホルダージョイント23が装着された状態で、この回転軸部23aには、ホルダージョイント23を回動自在に保持するための二つのベアリング24a、24bが、円筒形のスペーサ24cを介して取り付けられている。なお、
図2には、ホルダージョイント23の正面図が示されるとともに、回転軸部23aに取り付けられたベアリング24a、24bとスペーサ24cの断面図が併せて示されている。
【0026】
円柱形のジョイント部23bには、下端側に円形の開口25を備えた内部空間26が設けられている。この内部空間26の上部にマグネット27が埋設されている。そして、マグネット27によって着脱自在なホルダーユニット30が、この内部空間26に挿入されて取り付けられている。
【0027】
ホルダーユニット30は、ホルダー30aとスクライビングホイール40とピン50とが一体となったものである。このホルダー30aは、
図3に示すように略円柱形をしており、磁性体金属で形成されている。そして、ホルダー30aの上部には、位置決め用の取付部31が設けられている。この取付部31は、ホルダー30aの上部を切り欠いて形成されており、傾斜部31aと平坦部31bを備えている。
【0028】
そして、ホルダー30aの取付部31側を、開口25を介して内部空間26へ挿入する。その際、ホルダーa30の上端側がマグネット27によって引き寄せられ、取付部31の傾斜部31aが内部空間26を通る平行ピン28と接触することで、ホルダージョイント23に対するホルダーユニット30の位置決めと固定が行われる。また、ホルダージョイント23からホルダーユニット30を取り外す際には、ホルダー30aを下方へ引くことで、容易に外すことができる。
【0029】
ホルダー30aの下部には、ホルダー30aを切り欠いて形成された保持溝32が設けられている。そして、保持溝32を設けるために切り欠いたホルダー30aの下部に、保持溝32を挟んで支持部33a、33bが位置している。この保持溝32には、スクライビングホイール40が回転自在に配置されている。また、支持部33a、33bには、スクライビングホイール40を回転時自在に保持するためのピン50を支持しておく支持孔34a、34bがそれぞれ形成されている。
【0030】
そして、
図4に示すように、スクライビングホイール40のピン孔42にピン50を貫通させるとともに、支持孔34a、34bにピン50の両端を設置することにより、スクライビングホイール40はホルダー30aに対して回転自在に取り付けられることになる。なお、支持孔34aは、内部に段部を有しており、保持溝32側の開口の孔径が、他方側の開口の孔径よりも大きくなっている。
【0031】
次に、スクライビングホイール40の詳細について説明を行う。
図5はホルダー30aの先端に取り付けられているスクライビングホイール40の側面図である。
【0032】
このスクライビングホイール40は基材41で形成されている。そして、基材41には、基材41の略中心に、ピン50を貫通させるためのピン孔42が形成されており、また、基材41の円周部の両端を削って形成されている刃部43が形成されている。
【0033】
基材41は、後述するように、導電性を有する多結晶のCVDダイヤモンドからなる円板状の部材である。また、ピン孔42は、基材41の略中心を円形に削って形成されている。
【0034】
刃部43は、円板状の基材41の円周部の両端を削って形成された稜線44と、稜線44の両側の傾斜面45を備えている。
【0035】
このスクライビングホイール40の寸法について説明する。スクライビングホイール40の外径は、1.0〜10.0mm、好ましくは1.0〜5.0mm、さらに好ましくは1.0〜3.0mmの範囲である。スクライビングホイール40の外径が1.0mmより小さい場合には、スクライビングホイール40の取り扱い性が低下する。一方、スクライビングホイール40の外径が10.0mmより大きい場合には、スクライブ時の垂直クラックが脆性材料基板17に対して深く形成されないことがある。そして、本実施形態においては、外径が2.0mmのスクライビングホイール40を用いている。
【0036】
スクライビングホイール40の厚さは、0.4〜1.2mm、好ましくは0.4〜1.1mmの範囲である。スクライビングホイール40の厚さが0.4mmより小さい場合には、加工性及び取り扱い性が低下することがある。一方、スクライビングホイール40の厚さが1.2mmより大きい場合には、スクライビングホイール40の材料及び製造のためのコストが高くなる。そして、本実施形態においては、厚さが0.5mmのスクライビングホイール40を用いている。なお、スクライビングホイール40の厚さに対して、ホルダー30aの保持溝32の幅(支持部33aと支持部33bとの距離)は、わずかに大きくなっている。
【0037】
スクライビングホイール40のピン孔42の孔径は、本実施形態において、0.8mmとなっている。
【0038】
刃部43の刃先角は、通常鈍角であり、90〜160°、好ましくは90〜140°の範囲である。本実施形態においては、120°のスクライビングホイール40を用いている。
【0039】
このスクライビングホイール40の製造方法を説明する。まず、基材41は、円板状の母基板表面に化学気相蒸着法(CVD法)によって多結晶のダイヤモンド膜を成長させ、所定の膜厚となった円形状のダイヤモンドを、母基板から剥離することにより製造される。
【0040】
より具体的には、母基板の表面に対してダイヤモンドの核を形成し易くするため、前処理を行う。この前処理としては、傷つけ処理、バイアス処理、種付け処理等がある。そして、前処理を行った後、母基板をチャンバー内に配置するとともに、母基材の表面温度を800℃〜1000℃へ高め、チャンバー内へ混合ガスを送り込み化学反応を生じさせ、母基板の表面に対してダイヤモンド膜の成膜を行っていく。この時、混合ガスとしては、メタンガスと水素ガスを混合したもの等を用いることができる。
【0041】
化学反応は、熱やプラズマ等を利用して行われる。そして、本実施形態ではダイヤモンド膜の膜厚が、大体0.5〜1.5mmになるまで成膜を行う。また、この時のダイヤモンド粒子の粒子径が60〜80μmとなるように成膜を行う。この粒子径は、一般的なPCD製スクライビングホールにおけるダイヤモンド粒子の粒子径(0.5〜2.0μm)に比べ、非常に大きな粒子径になっている。
【0042】
また、本実施形態では成膜の際に、ホウ素やリンをドープすることによって基材41に導電性を付与している。このように基材41に導電性を付与しておくことで、後述する刃部43の形成時に放電加工を行うことができる。なお、基材41の導電率はドープ量に依存するが、導電率を大きくすることにより、放電加工時の放電が安定しやすくなり、放電加工条件値を低くしたり、放電加工の効率を高くしたりすることができる。また、基材41全体が導電性を有する多結晶のCVDダイヤモンドからなるため、電気抵抗率のばらつきがほぼなくなることから、より均一で精密な加工を行うことができる。
【0043】
次に、母基板から基材41を剥離し、剥離した円板状の基材41に対して放電加工を行い、基材41の円周部に傾斜面45を形成する。この放電加工の具体例としては、ワイヤカット放電加工や形彫り放電加工がある。なお、放電加工は、何れも誘電導体としての水や油等の液体に、基材41を浸して行われる。
【0044】
そして、最後に傾斜面45の表面を砥石で研磨することで刃部43を形成し、スクライビングホイール40ができあがる。なお、この研磨の工程では、粒子の大きさの異なる砥石を用いて、粗研磨や仕上げ研磨のように複数の研磨工程で行うことが好ましい。特に、本実施形態ではダイヤモンド粒子の粒子径が大きいため、研磨の際にダイヤモンド粒子が欠けてしまうと、稜線44や傾斜面45の仕上がりが粗くなってしまう。しかしながら、複数の研磨工程によりダイヤモンド粒子の欠けを抑えることができ、稜線44や傾斜面45の仕上がりをよくすることができる。
【0045】
なお、ピン孔42については、まずレーザーによって孔を形成し、ワイヤカット放電加工により仕上げの加工を行って形成する。また、本実施形態においては、円板状の母基板を用いて、円板状の基材41を作成してスクライビングホイール40の製造を行ったが、例えば、矩形状の母基板を用いて矩形状の基材41を作成し、矩形状の基材41を円板状にカットしてスクライビングホイール40を製造しても構わない。
【0046】
このように製造されたスクライビングホイール40は、従来から知られているPCD製のスクライビングホイールのように、ダイヤモンド粒子間にコバルト等の結合材を含んでいない。したがって、脆性材料基板17のスクライブを行った場合に、PCD製スクライビングホイールのように結合材が脱落することがないため、スクライビングホイール40は、刃部43の耐摩耗性が高く長寿命なものになる。
【0047】
この点について、本実施形態のスクライビングホイール40とPCD製スクライビングホイールを実際に比較して具体的に説明する。
【0048】
なお、比較のために用いたPCD製のスクライビングホイールは、微細なダイヤモンド粒子(粒子径は0.5〜2.0μm)、添加剤(タングステン、チタン、ニオブ、タンタル等の超微粒子炭化物)、結合材(コバルト、ニッケル、鉄等の鉄族元素)を混合し、ダイヤモンドが熱力学的に安定となる高温及び超高圧下において、混合物を焼結させてPCDを製造し、この製造したPCDから所望の半径となる円板を切り取り、この円板の周縁部を削り作成した。このPCD製スクライビングホイールの寸法は、外径は2.0mm、厚さは0.65mm、ピン孔の孔径は0.8mm、刃部の刃先角は120°である。
【0049】
まず、スクライビングホイール40と、PCD製スクライビングホイールをそれぞれ同じスクライブ装置に取り付けて、非晶質のガラス基板よりも硬い脆性材料基板の分断を行った。
【0050】
なお、用いたスクライブ装置は、三星ダイヤモンド工業株式会社製のスクライブ装置(モデル名:MS500)である。
【0051】
分断条件は、次のとおりである。
評価用の脆性材料基板:アルミナ基板…京セラ株式会社製(材料コード:A476T)
脆性材料基板の厚さ:0.635mm
切断速度:100mm/sec
切断方法:内−内切断(基板の一つの辺の内側より他の辺の内側までのスクライブによる切断)
スクライブ荷重:100μmの垂直クラックを維持できるように設定(ただし、今回の最大荷重は0.40MPaとした)
【0052】
なお、100μmの垂直クラックを維持できるようにスクライブ荷重を設定したのは、クラックが100μm以下になると、基板をブレイクすることが困難になるためである。また、100μmの垂直クラックを維持できるようスクライブ荷重を設定した場合、通常このスクライブ荷重は徐々に変化していくことになる。これは、スクライブを続けていくと、スクライビングホイールの刃先が摩耗していくので、スクライブ荷重が一定のままだとだんだんとクラックの量が浅くなってしまうからである。したがって、クラックの量を維持するためには、スクライビングホイールの刃先の摩耗度合いに応じて、スクライブ荷重を徐々に増やしていくことになる。
【0053】
以上のような条件で、本実施形態のスクライビングホイール40とPCD製スクライビングホイールとを用いて脆性材料基板の分断を行った結果を
図6、
図7に示す。
図6は、スクライビングホイール40の走行距離と荷重の推移を示したグラフである。また、
図7は、PCD製スクライビングホイールの走行距離と荷重の推移を示したグラフである。
【0054】
なお、
図6、
図7の横軸は走行距離(m)を示し、縦軸はスクライブ荷重(MPa)を示し、グラフ中の数値は(垂直クラックの量が100μmになるように設定している場合における)垂直クラックの実際の計測値(μm)を示している。また、
図6は後述するように走行距離が0m〜100mまでの値を示している。
図7は走行距離0m〜100mまでは5m間隔でスクライブ荷重とクラックの量を示しており、100m〜は10m間隔でスクライブ荷重とクラックの量を示している。また、100μmのスクライブを行う場合のスクライブ荷重の初期値(走行距離0m)は、本実施形態のスクライビングホイール40で0.12MPa、PCD製スクライビングホイールで0.14MPaである。
【0055】
図7に示すように、PCD製スクライビングホイールの場合、走行距離が100m時点でスクライブ荷重が0.30MPaを超え、走行距離が150mになったところでスクライブ荷重が最大荷重0.40MPaに達した(なお、この時の垂直クラックの実際の計測値は99.5μmであった)。
【0056】
一方、
図6に示すように、本実施形態のスクライビングホール40の場合、走行距離100mまでしか計測していないが、走行距離100mの時点でスクライブ荷重が0.12MPaであり、走行距離0mの時から変化がみられなかった(なお、この時の垂直クラックの実際の計測値は119.9μmであった)。したがって、本実施形態のスクライビングホイール40では、100mを超えてもさらにスクライブを行うことができると考えられる。
【0057】
このように、脆性材料基板に対するスクライブにおいて、PCD製スクライビングホイールよりも、多結晶CVDダイヤモンドからなるスクライビングホイール40の方が、非常に耐摩耗性が高くなっている。
【0058】
そこで、次にスクライビングホイール40の刃部43について観察を行い、またPCD製スクライビングホイールの刃部との比較を行った。なお、
図8は、本実施形態のスクライビングホイール40の走行距離0m、50m、100mにおける稜線44の正面写真と側面写真である。
【0059】
図8に示すように、スクライビングホイール40は、走行距離0mにおいて、稜線44に多少小さな欠けがみられた。しかしながら、この欠けは、PCD製スクライビングホイールと比較してみたところ、PCD製スクライビングホイールの稜線にみられた欠けと同程度であった。また、スクライビングホイール40の傾斜面45には多少段差や隙間がみられた。傾斜面についてもPCD製スクライビングホイールと比較してみたところ、PCD製スクライビングホイールの傾斜面に比べ、スクライビングホイール40の傾斜面45の方が多少粗くなっていた。これは、スクライビングホイール44を構成する多結晶CVDダイヤモンドの粒子径が60〜80μmであり、PCD製スクライビングホイールの粒子径(0.5〜2.0μm)に比べかなり大きいためである。
【0060】
走行距離が50mになると、本実施形態のスクライビングホイール40は、稜線44に初期状態に比べると大きな欠けがみられ、また、多少摩耗が生じていた。しかしながら、初期状態と大きな変化はなく、この程度の欠けや摩耗は脆性材料基板に対するスクライブに大きな影響を与える程ではなかった。
【0061】
一方で、PCD製スクライビングホイールを確認したところ、PCD製スクライビングホイールの稜線は著しく摩耗が進んでおり、稜線となる刃部の先端が平坦面となっていた。したがって、PCD製スクライビングホイールは、脆性材料基板への食い込みが著しく悪くなっていた。これは、先にも述べたように、PCD製スクライビングホイールは、ダイヤモンド粒子間の結合材が脱落してしまい、ダイヤモンド粒子同士も欠けやすくなってしまい、摩耗が進んだためである。
【0062】
走行距離が100mになっても、本実施形態のスクライビングホイール40に関しては、大きな変化がみられなかった。また、稜線44に欠けがみられるが、稜線44に欠けが生じたことによって稜線44に凹凸が生じ、この凹凸が硬い脆性材料基板に対して深く食い込むことになり、クラックが効率よく形成されていた。
【0063】
一方、PCD製スクライビングホイールを確認したところ、PCD製スクライビングホイールの稜線はより一層摩耗が進んでしまい、平坦面の幅が広がったために、脆性材料基板への食い込みがより悪化してしまった。したがって、PCD製スクライビングホイールによって、所定のクラックを形成するためには、スクライブ荷重を上げなければならなくなったため、
図7に示すような結果となっている。
【0064】
このように、本実施形態のスクライビングホイール40は、多結晶CVDダイヤモンドで形成されているため、ダイヤモンド粒子間に結合材が存在していない。したがって、脆性材料基板を分断する場合、特にガラス基板よりも硬いセラミックのような脆性材料基板を分断する場合、PCD製スクライビングホイールのような結合材の脱落による急激な摩耗が生じることがないため、スクライビングホイール40は刃部43の耐摩耗性が高く、長寿命なものとなる。
【0065】
また、スクライビングホイール40は、CVD多結晶ダイヤモンドの粒子径が60〜80μmという大きな粒子であるため、摩耗が進んでも稜線44に大きな凹凸が生じるため、脆性材料基板に対して深く食い込むことができる。したがって、結果的にスクライビングホイール40を使用できる期間が長くなる。また、本実施形態のスクライビングホイール40は導電性を有しているため、刃部43の形成において放電加工を用いることができ、高硬度の多結晶CVDダイヤモンドの加工を容易に行うことができる。
【0066】
なお、本実施形態のスクライビングホイール40やピン50は消耗品であるため定期的な交換が必要となる。本実施形態においては、ホルダージョイント23を介してホルダーユニット30がスクライブヘッド21に装着されている構成となっている。したがって、ホルダーユニット30の着脱が容易であるため、消耗品の交換の際に、消耗品をホルダー30aからわざわざ取り外したりしないで、消耗品とホルダー30aを一体のホルダーユニット30として扱い、ホルダーユニット30そのものを交換してしまうこともできるので、交換作業が非常に容易となる。また、ホルダージョイント23を介さずに、ホルダーがスクライブヘッドに直接固定された構成のスクライブ装置においても本実施形態のスクライビングホイール40を用いることもできる。この場合、ホルダーから消耗品である本実施形態のスクライビングホイール40を取り外して交換することになる。
【0067】
[実施形態2]
図9(a)は、実施形態1のスクライビングホイール40とは異なるスクライビングホイール40Aの側面図である。
図9(b)は、
図9(a)のスクライビングホイール40AのB領域を拡大した図である。なお、スクライビングホイール40と同一の構成部分には同一の参照符号を付与して、その詳細な説明は省略する。
【0068】
スクライビングホイール40Aは、基材41aで形成されている。そして、基材41aには、基材41aの略中心に、ピン50を貫通させるためのピン孔42が形成されており、また、基材41aの円周部の両端を削って形成されている刃部43aが形成されている。
【0069】
基材41aは、スクライビングホイール40と同様に、導電性を有する多結晶のCVDダイヤモンドからなる円板状の部材である。
【0070】
刃部43aは、円板状の基材41aの円周部の両端を削って形成された稜線44aと、稜線44aの両側の傾斜面45aを備えている。
【0071】
そして、スクライビングホイール40Aがスクライビングホイール40と異なる点は、刃部43aの先端に複数の溝46が等ピッチで設けられていることである。刃部43aの先端に溝46が設けられているスクライビングホイール40は、突起状の稜線44a部分と溝46部分とが基板上に交互に接近することにより、稜線44a部分が間欠的に基板に当たるようになる。その結果、基板に打点衝撃を与えつつスクライブラインが形成されるので、スクライブラインに沿って伸展する垂直クラックの深さが溝のないスクライビングホイールに比べてはるかに深くなる。
【0072】
また、稜線44a部分に集中的に圧接の荷重が加わるようになり、これによっても垂直クラックの深さがより深くなる。このような理由によって、溝46付きのスクライビングホイール40Aは溝のないスクライビングホイールよりも高い浸透性を備えている。
【0073】
そして、溝46付きのスクライビングホイール40Aも、多結晶CVDダイヤモンドで形成されているため、ダイヤモンド粒子間に結合材が存在していない。したがって、ガラス基板よりも硬いセラミックのような脆性材料基板を分断する場合、PCD製スクライビングホイールのような結合材の脱落による急激な摩耗が生じることがないため、スクライビングホイール40は刃部の耐摩耗性が高く、長寿命なものとなる。特に稜線44a部分の耐摩耗性が上がるため、スクライビングホイール40Aは高い浸透性をより長く維持することができる。
【0074】
なお、スクライビングホイール40Aの溝46は、稜線44aに対し、直交するようにして円板状の砥石を当接させることで形成されている。この時、一つの溝46を形成するごとに、砥石は退避させる。そして、スクライビングホイール40Aを所定のピッチに相当する回転角だけ回転させた後、また砥石を当接させることで、次の溝46が形成される。このようにしてスクライビングホイール40Aの先端には、稜線44a部分と溝46とが交互に等ピッチで設けられる。また、溝46は、
図9に示すような湾曲形状の溝以外に、三角形状のような溝でも構わない。さらに、スクライビングホイール40Aからレーザによって加工されても構わない。
【0075】
[変形例]
実施形態1や実施形態2のスクライビングホイールは、円板状の基材の円周部に刃部が形成されており、この刃部は、基材の円周部の両端を削って、稜線とこの稜線両側の傾斜面を備えている。このような刃部の他に、円周部の一端側だけを削って、稜線と一つの傾斜面を備える刃部が形成されたスクライビングホイール(スクライビングホイールの断面形状が台形になる)であってもよい。また、稜線両側の傾斜面の角度がそれぞれ異なっているような刃部が形成されたスクライビングホイールであってもよい。
【0076】
以上のように、液晶パネルの基板等で用いられる非晶質のガラスでできた基板よりも硬い、セラミック基板、サファイア基板、シリコン基板等の脆性材料基板を分断する場合には、多結晶CVDダイヤモンドで形成されているスクライビングホイールを用いることで、PCD製スクライビングホイールに比べ刃部の耐摩耗性が高く、長寿命なものとなる。
【0077】
なお、本実施形態においては、スクライブ装置10として、脆性材料基板17のアライメントマークを撮像する2台のCCDカメラ18が設けられていたり、脆性材料基板17が載置されるテーブルを回転させる移動台11が備わっていたりするものを示した。しかしながら、本発明は、このようなスクライブ装置10に限定されるものではなく、柄の先端にスクライビングホイールを回転自在に保持するホルダーが取り付けられ、ユーザがこの柄を持って移動させることで脆性材料基板17の分断を行うような、いわゆる手動式のスクライブ装置であっても適用可能である。