特許第6076787号(P6076787)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076787
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】自動車のワイパ装置取付け構造
(51)【国際特許分類】
   B60S 1/08 20060101AFI20170130BHJP
   B60S 1/34 20060101ALI20170130BHJP
   B62D 25/08 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   B60S1/08 A
   B60S1/34 B
   B62D25/08 H
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-60769(P2013-60769)
(22)【出願日】2013年3月22日
(65)【公開番号】特開2014-184839(P2014-184839A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2016年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087619
【弁理士】
【氏名又は名称】下市 努
(72)【発明者】
【氏名】本橋 淳
【審査官】 三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−234421(JP,A)
【文献】 特開2006−273200(JP,A)
【文献】 特表2009−505881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60S 1/04 − 1/34
B62D 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部にワイパアームが固定されるピボットシャフトを回動自在に軸支する複数のピボットホルダと、該各ピボットホルダを互いに連結するフレームと、該フレームに固定されたモータと、該モータの駆動力を前記ピボットシャフトに伝達するリンク機構とを備えたワイパ装置をカウルルーバーの下方に配設し、
前記ピボットホルダのピボットシャフト近傍部分をカウル後壁部に固定し、前記モータから前方に突出する支持ピンをカウル前壁部に取付けられた取付けブラケットのモータ取付け面の支持孔に挿入固定する自動車のワイパ装置取付け構造において、
前記カウル前壁部の、前記ピボットホルダのカウル後壁部への固定点同士を結ぶ後部固定直線方向に見たとき、該カウル後壁部への固定点と前記支持ピンのモータ取付け面への固定点とを通る前後方向直線上に位置する部分に、衝撃荷重入力時に前記カウル前壁部を車両前方に屈曲させる屈曲部を形成し、
前記カウル前壁部に、前記取付けブラケットの取付け面を前記屈曲部に連なるように形成し、
前記取付け面に前記取付けブラケットを取り付け、
前記取付けブラケットに前記モータ取付け面を前記後部固定直線方向に見たとき、前記前後方向直線と直交するように形成し、
該モータ取付け面に前記支持孔を形成するとともに該支持孔を下方に開口させる切欠き部を形成した
ことを特徴とする自動車のワイパ装置取付け構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のワイパ装置取付け構造に関し、車両衝突時に何らかの被衝突物がカウルルーバー上に落下した際の衝撃力を緩和できるようにした構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両衝突により何らかの被衝突物がカウルルーバー上に落下した場合、該カウルルーバーの下方に配設されているワイパ装置が突っ張り、衝撃荷重の緩和に支障が生じるという問題がある。この問題を回避するための構造として、従来例えば特許文献1に開示されたものがある。この従来構造では、車幅方向に延びるカウルアッパパネルの前端部から下方に折り曲げ形成された前側縦壁に略水平な棚部を形成し、該棚部にワイパ装置のピボット軸を固定するとともに、該棚部の下方にV字状の溝部を車幅方向に延びるように形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−249997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来構造では、車両衝突時に何らかの被衝突物がカウルルーバー上に落下した場合には、前記V字状の溝部が座屈して衝撃荷重を吸収するとされている。しかしこのV字状の溝部が通常のワイパ作動時にも撓みがちであり、しかも衝撃荷重の作用に対してワイパ装置はV字状溝の座屈分しか変位できないため、変位量が十分でないという問題がある。
【0005】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、上方からの衝撃荷重の入力時にワイパ装置のモータの車両取付け部を車体構成部材から外してワイパモータを脱落させることにより前記衝撃荷重を緩和させることができる自動車のワイパ装置取付け構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、先端部にワイパアームが固定されるピボットシャフトを回動自在に軸支する複数のピボットホルダと、該各ピボットホルダを互いに連結するフレームと、該フレームに固定されたモータと、該モータの駆動力を前記ピボットシャフトに伝達するリンク機構とを備えたワイパ装置をカウルルーバーの下方に配設し、
前記ピボットホルダのピボットシャフト近傍部分をカウル後壁部に固定し、前記モータから前方に突出する支持ピンをカウル前壁部に取付けられた取付けブラケットのモータ取付け面の支持孔に挿入固定する自動車のワイパ装置取付け構造において、
前記カウル前壁部の、前記ピボットホルダのカウル後壁部への固定点同士を結ぶ後部固定直線方向に見たとき、該カウル後壁部への固定点と前記支持ピンのモータ取付け面への固定点とを通る前後方向直線上に位置する部分に、衝撃荷重入力時に前記カウル前壁部を車両前方に屈曲させる屈曲部を形成し、
前記カウル前壁部に、前記取付けブラケットの取付け面を前記屈曲部に連なるように形成し、
前記取付け面に前記取付けブラケットを取り付け、
前記取付けブラケットに前記モータ取付け面を前記後部固定直線方向に見たとき、前記前後方向直線と直交するように形成し、
該モータ取付け面に前記支持孔を形成するとともに該支持孔を下方に開口させる切欠き部を形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車両正面衝突時に何らかの被衝突物、例えば歩行者がカウルルーバー上に落下する等により上方から衝撃荷重がカウルルーバーに作用した場合、前記カウル前壁部は、カウルルーバーに押されて前記屈曲部を回動中心として前方に倒れ込むように変形し、この変形に連動して前記取付けブラケットは前記屈曲部を中心にして上方に回動するため、前記モータ取付け面の支持孔の切欠き部が前記支持ピンに対して相対的に上方に移動することとなり、支持ピンが支持孔から外れる。
【0008】
一方、前記モータは、前記衝撃荷重によりカウルルーバー越しに直接下方に押され、前記後部固定直線を回動中心として車両下方に回動しようとするので、前記支持ピンは前記支持孔の切欠き部を通って下方に外れる。
【0009】
このように前記取付けブラケットの支持孔部分が、前記屈曲部を中心として回動する回動円弧の接線と、前記前記モータの支持ピンが、前記後部固定直線を中心として回動する回動円弧の接線とが同一直線をなすように前記取付けブラケット及びモータが回動するので、前記支持ピンが取付けブラケットの支持孔から前記衝撃力の入力時に迅速に、かつ容易確実に外れ、モータを下方に回動脱落させることができ、前記衝撃荷重を確実に緩和させることかでき、歩行者保護性能を向上できる。
【0010】
前記作用効果を、ワイパ装置のカウル後壁部への固定点、取付けブラケットのモータ取付け面の角度、モータ支持ピンの固定点、カウル前壁部の屈曲部の位置を工夫するだけで実現できるので、別途複雑な座屈構造を採用する必要がなく、また通常のワイパ作動に支障が生じることもなく、コスト,重量増加や生産性悪化の問題が生じることもない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例1によるワイパ装置取付け構造の斜視図である。
図2】前記取付け構造の側面図(図1のII矢視図)である。
図3】前記取付け構造の取付けブラケット,ゴムブッシュ,モータの固定手順を示す分解斜視図である。
図4】前記取付けブラケットの正面図,側面図である。
図5】前記取付け構造の各固定点の位置関係を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1ないし図5は本発明の実施例1に係る自動車のワイパ装置取付け構造を説明するための図であり、本実施例において、前,後,左,右とは、車室内から車両前方を見た状態での前,後,左,右を意味している。
【0014】
図において、1は自動車でのワイパ装置である。このワイパ装置1は、ピボットシャフト2を軸支する左,右一対のピボットホルダ3,3をフレーム4で連結し、該フレーム4にモータ5を固定すると共に、該モータ5の出力をリンク機構6を介して前記ピボットシャフト2,2に伝達するように構成されている。
【0015】
前記ピボットホルダ3は、大略三角形状をなす厚板製のものであり、その底辺部寄りに筒部3aが上下に貫通するように配置固定され、該筒部3a内に前記ピボットシャフト2が回動可能に挿入配置されている。また前記ピボットホルダ3の頂角寄り部分には取付け孔3bが上下に貫通するように形成されている。
【0016】
前記フレーム4は棒状のものであり、その両端部4a,4aが前記ピボットホルダ3,3に溶接固定されており、その中央部にモータ取付け座4bが形成されている。
【0017】
前記モータ5は、モータ本体5aとこれに結合された減速機構5bとからなり、該減速機構5bに設けられた取付け片5c,5cが前記モータ取付け座4bにボルト5dで締め付け固定されている。
【0018】
前記リンク機構6は、前記減速機構5bの出力軸5eに固定された揺動アーム5fに連結されたリンクロッド6a,6aと、該各リンクロッド6aに連結された駆動アーム6bとを有し、該駆動アーム6bは前記ピボットシャフト2の下端に固定されている。
【0019】
そして前記減速機構5bの前壁部には、支持ピン5gが前方に突出するように形成されており、該支持ピン5gにはゴムブッシュ12が嵌合装着されている。このゴムブッシュ12は、支持ピン5gが嵌合する嵌合孔12aを有する円筒体に環状のスリット溝12bを形成してなるものである。
【0020】
前記ワイパ装置1は、図2に示すように、ウインドシールド7の下端部7aの前側にて車幅方向に延びるように配設された樹脂製のカウルルーバー8の下方に配設されている。該カウルルーバー8の前縁部8aはエンジンルームを開閉するフード9の後端部下方に位置し、カウルインナ10の前縁部10aに支持されている。このカウルインナ10は板金製で、前壁部10b,底壁部10c及び後壁部10dを有する横断面凹状をなし、車幅方向に延びている。
【0021】
前記カウルインナ10の後壁部10dにはワイパ装置1の後部を取り付けるための棚部10d′が形成されている。該棚部10d′に前記ピボットホルダ3が載置され、前記取付け孔3bにボルト13aを挿通し、該棚部10d′の裏面に固定されたナット13a′に締め付けることにより前記ワイパ装置1の後部が固定されている。前記ピボットシャフト2は前記カウルルーバー8のウインドシールド7近傍部分にて上方に突出し、該突出端部にワイパアーム(図示せず)が固定される。
【0022】
また前記カウルインナ10の前壁部10bの高さ方向中途部には、該前壁部10bを屈曲部bから前方に屈曲させることによりブラケット取付け面10eが形成されている。このブラケット取付け面10eに前記取付けブラケット11が取付けられており、該取付けブラケット11の支持孔11dに前記ゴムブッシュ12を介在させて前記支持ピン5gが支持されている。
【0023】
前記取付けブラケット11は、モータ取付け面11aと、該モータ取付け面11aの左,右縁部から車両前方に折り曲げ形成された左,右の脚部11b,11bを有し、さらに前記脚部11bの前端縁から車幅方向外側に折り曲げ形成されたフランジ部11c,11cを有する。
【0024】
前記取付けブラケット11のモータ取付け面11aは後述の前後方向直線Bに直交するように形成されている。そしてこのモータ取付け面11aには、前記ゴムブッシュ12の環状のスリット溝12bが嵌合される前記支持孔11dが形成されており、さらに該支持孔11dを下方に開放させる切欠き部11eが形成されている。前記ゴムブッシュ12の組付け作業では、前記スリット溝12bを前記切欠き部11e内を通して上方に押し込み、前記支持孔11dに圧入嵌合させることとなる。
【0025】
ここで前記カウルインナ10の前壁部10bの屈曲部bは、下記位置に配置されている。即ち、図2図5に示すように、前記屈曲部bは、前記各ピボットホルダ3,3の前記棚部10d′への後部固定点a,aを結ぶ後部固定直線Aに直交し、前記支持ピン5gの前記取付けブラケット11への前部固定点cを通る前後方向直線B上に位置している。また、前記前壁部10bの前記ブラケット取付け面10eは前記前後方向直線Bと直交するように形成されている。そして、前記取付けブラケット11は、前記脚部11bの下端11b′ひいてはフランジ部11cの下端が前記屈曲部bに一致するように位置合わせされ、該フランジ部11cが前記ブラケット取付け面10eに複数のスポット打点wにおいてスポット溶接により固定されている。
【0026】
本実施例によれば、車両正面衝突時に何らかの被衝突物、例えば歩行者がカウルルーバー8上に落下する等により上方から衝撃荷重Fが該カウルルーバー8に作用した場合、前記カウルインナ10の前壁部10bは、これの前縁部10aがカウルルーバー8の前縁部8aに押されることで前記屈曲部bを回動中心として前方に倒れ込むように変形する。この変形に連動して前記取付けブラケット11は、前記モータ取付け面11aと前記支持ピン5gとの前部固定点cが前記屈曲部bを中心にして半径R1の円弧を描くように上方に回動するため、前記支持孔11dの切欠き部11eが前記支持ピン5gひいてはゴムブッシュ12のスリット溝12bに対して相対的に上方に移動することとなり、該支持ピン5gと共にゴムブッシュ12が支持孔11dから外れる。
【0027】
一方、前記モータ5は、前記衝撃荷重Fによりカウルルーバー8越しに直接下方に押され、前記前部固定点bが前記後部固定直線Aを回動中心として半径R2の円弧を描くように車両下方に回動しようとするので、前記支持ピン5gはゴムブッシュ12と共に前記支持孔11dの切欠き部11eを通って下方に外れる。
【0028】
このように前記取付けブラケット11の支持孔11d部分が、前記屈曲部bを中心とする半径R1で回動する回動円弧R1′の接線C1と、前記モータ5の支持ピン5gが、前記後部固定直線Aを中心とする半径R2で回動する回動円弧R2′の接線C2とが同一直線をなすように前記取付けブラケット11及びモータ5が回動するので、前記支持ピン5gがゴムブッシュ12と共に取付けブラケット11の支持孔11dから前記衝撃力Fの入力時に迅速に、かつ容易確実に外れ、モータ5を下方に回動脱落させることができ、前記衝撃荷重Fを確実に緩和させることかでき、歩行者保護性能を向上できる。
【0029】
前記作用効果を、ワイパ装置1の、前記後壁部10dの棚部10d′への後部固定点a、取付けブラケット11のモータ取付け面11aの角度、モータ5の支持ピン5gのモータ取付け面11aへの前部固定点c、カウルインナ10の前壁部10bの屈曲部bの位置、及び取付けブラケット11の取付け位置を工夫するだけで実現できるので、別途複雑な座屈構造を採用する必要がなく、また通常のワイパ作動に支障が生じることもなく、コスト,重量増加や生産性悪化の問題が生じることもない。
【0030】
なお、前記実施例では、ブラケット取付け面10eが前後方向直線Bに直交している場合を説明したが、このブラケット取付け面10eは必ずしも前後方向直線Bと直交しなくても良く、直交状態からさらに前方に屈曲していても良い。
【0031】
また、前記実施例では、取付けブラケット11のモータ取付け面11aが前記後部固定直線Aに直交する前後方向直線Bに直交している場合、つまり図2に示す側面視及び図5に示す平面視の両方においてモータ取付け面11aが前後方向直線Bに直交している場合を説明したが、本発明のモータ取付け面11aは、前記後部固定直線A方向に見たとき、前記前後方向直線Bに直交していれば良い。例えば、前記モータ取付け面11aは、平面視では、図5に二点鎖線で示すように車両前後方向に少し傾斜していても良い。
【0032】
また前記実施例では、取付けブラケット11の下端部11b′を前記屈曲部bに一致させたが、本発明の取付けブラケットは、これの下端部を、前記屈曲部bから下方にオーバーハングさせても良いし、逆に上方に位置させても良い。
【符号の説明】
【0033】
1 ワイパ装置
2 ピボットシャフト
3 ピボットホルダ
4 フレーム
5 モータ
5g 支持ピン
6 リンク機構
8 カウルルーバー
10b カウル前壁部
10d カウル後壁部
10e ブラケット取付け面
11 取付けブラケット
11a モータ取付け面
11d 支持孔
11e 切欠き部
a 後部固定点
A 後部固定直線
b 屈曲部
B 前後方向直線
c 支持ピンの取付けブラケットへの固定点
図1
図2
図3
図4
図5