【実施例1】
【0014】
図1ないし
図7は、本発明の実施例1に係る自動車の前部車体構造を説明するための図であり、本実施例において、前,後、左,右とは、車室内から前方を見た状態での前,後、左,右を意味する。
【0015】
図において、1は自動車の前部車体であり、該前部車体1は、エンジンルーム2の左,右側壁を構成するカウルサイド部材3,3と、該カウルサイド部材3,3上に固定されたフェンダブラケット4,4に取り付けられた左,右のフェンダ11,11と、前記左,右のカウルサイド部材3上に固定されたフードヒンジ12,12に取り付けられ、前記エンジンルーム2の上部開口を開閉するフード13とを有する。
【0016】
前記各カウルサイド部材3は、エンジンルーム側壁の大部分を構成するカウルサイド8と、該カウルサイド8上に固定され、前記フードヒンジ6の高さ位置を車種に応じた高さに設定するための嵩上げ部材9と、該嵩上げ部材9上に固定され、前記フードヒンジ6が固定されるヒンジリインホース10とを有する。
【0017】
前記カウルサイド8はカウルサイドアウタ8aとカウルサイドインナ8bとをフランジ8c,8d同士をスポット溶接で結合してなる閉断面構造を有する。
【0018】
前記嵩上げ部材9は、横断面ハット形状をなし、フランジ部9aが前記カウルサイドアウタ8aの上壁にスポット溶接により結合されており、前記カウルサイドアウタ8aとで閉断面構造を形成している。
【0019】
前記ヒンジリインホース10は、前記嵩上げ部材9に溶接固定されたヒンジ取付け部10aと、ここから前方に延びるフェンダブラケット取付け部10bとを有する。前記ヒンジ取付け部10aは横断面コ字形状をなし、縦辺部10dが前記嵩上げ部材9の側壁部9cに溶接固定され、上壁部9bとで閉断面構造を形成している。このヒンジ取付け部10aに前記フードヒンジ12がボルト12aにより締め固定されている。
【0020】
前記フェンダブラケット取付け部10bの前端部には縦壁部10cが前端コーナ部10b′をなすように下方に折り曲げ形成されており、該縦壁部10c及びフェンダブラケット取付け部10bは何れも浅い横断面コ字形状をなしている。
【0021】
前記フェンダブラケット4は、頂辺部5aと前,後縦辺部5b,5cとからなるブラケット本体5と、前記後縦辺部5cの下端部から車両後方に折り曲げ形成された後フランジ6と、前記前辺部5bの下端部からそのまま下方に延びる前フランジ7とを有する。
【0022】
前記頂辺部5aと前,後縦辺部5b,5cとのコーナ部は前,後上屈曲部5d,5eとなっており、また前,後縦辺部5b,5cの中途部には前,後中途屈曲部5f,5gが形成されている。
【0023】
さらにまた前記後縦辺部5cと後フランジ6とのコーナ部は後下屈曲部6aとなっており、一方、前記前縦辺部5bと前フランジ7との境界部7aは直線状をなし、屈曲部は形成されていない。また前記境界部7aは、前記ヒンジリインホース10の前端コーナ部10b′に当接している。
【0024】
そして前記後フランジ6はヒンジリインホース10のフェンダブラケット取付け部10bにスポット溶接により固定され、前記前フランジ7は前記ヒンジリインホース10の縦壁部10cにスポット溶接により固定されている。
【0025】
本実施例における衝撃荷重吸収過程を
図6及び
図7に基づいて説明する。なお、
図6は本実施例におけるフェンダブラケット4の座屈過程を概念的に示すものであって、各部位の実際の寸法関係を表すものではない。
【0026】
前述のように、歩行者との衝突時には、通常、歩行者は車両真上からではなく車両前方斜め上方よりフェンダに突入する傾向があり、この衝撃荷重によりフェンダブラケットは車両後方に向けて座屈しようとする。そのため、フェンダブラケットの前縦辺部の下端に前フランジを前方に折り曲げ形成し、該前フランジをカウルサイド部材の上面に溶接固定した従来構造では、前記前縦辺部が容易に座屈し、衝突初期の荷重(反力)G1′を高めることが困難で、結局衝突後期の荷重が必要以上に高くなる問題があった。
【0027】
これに対して本実施例では、
図6(a)に示すように、フェンダブラケット4の車両前方側に位置する前縦辺部5bについては、これの頂部と中途部に屈曲部5d,5fを設け、該前縦辺部5bの下端部からそのまま下方に延びる前フランジ7を形成した構成としている。そのため被衝突物Wによる衝撃荷重Fが作用した場合、前記前縦片部5bが直ちに座屈することはなく(
図6(b)参照)、
図7に実線で示すように、衝突初期の荷重(反力)G1を上げる方向でコントロールし易い。
【0028】
一方、前フランジ7をカウルサイド部材3の一部を構成するヒンジリインホース10の縦壁部10cに固定しているので、衝突中期においては、前フランジ7の前縦辺部5bとの境界部7aが前記ヒンジリインホース10の前端コーナ部10b′に強く圧接されることにより前フランジ7に稜線7a′が発生し、該稜線7a′から安定して座屈を開始することとなり(
図6(c)参照)、衝突後期においては、前記フェンダブラケット4は完全に座屈することとなる(同図(d)参照)。これにより、衝突後期の荷重G2は従来の荷重G2′より低くなる。
【0029】
このように本実施例では、衝突初期の荷重を上げる方向でコントロールし易く、また衝突中期における座屈開始タイミングもブラケットの板厚等でコントロールし易いので、
図7に実線で示すように、衝突初期の荷重G1を高くし、衝突後期の荷重G2を低くでき、その結果、歩行者保護性能を向上できる。
【0030】
また、フェンダブラケット4の前フランジ7を前縦辺部5bからそのまま延ばすようにするだけで歩行者保護性能を向上できるので、構造が複雑化したり、重量やコストが増加したりする問題も生じない。
【0031】
さらにまた、フェンダブラケット4の車両前方側に位置する前縦辺部5bについては、頂部と中途部のみに屈曲部5d,5fを有し、前フランジ部分には屈曲部を有しないので、前フランジ部分にも屈曲部を有する従来構造に比較して通常使用時の手押し剛性を向上できる。
【0032】
なお、前記実施例では、ヒンジリインホース10の縦壁部10cがフェンダブラケット取付け部10bから略鉛直下方に折り曲げ形成され、フェンダブラケット4の前フランジ7も略鉛直下方に延びる場合を説明したが、本発明は、前記縦壁部10cがフェンダブラケット取付け部10bに対して鋭角あるいは鈍角をなしている場合にも適用でき、要は、前フランジ7をフェンダブラケット4の前縦辺部5aの下端部から前記縦壁部に沿うようにそのまま延長するように形成すれば良い。