特許第6076798号(P6076798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6076798-自動車の前部車体構造 図000002
  • 特許6076798-自動車の前部車体構造 図000003
  • 特許6076798-自動車の前部車体構造 図000004
  • 特許6076798-自動車の前部車体構造 図000005
  • 特許6076798-自動車の前部車体構造 図000006
  • 特許6076798-自動車の前部車体構造 図000007
  • 特許6076798-自動車の前部車体構造 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076798
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】自動車の前部車体構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/16 20060101AFI20170130BHJP
   B62D 25/08 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   B62D25/16 B
   B62D25/08 E
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-69647(P2013-69647)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2014-189261(P2014-189261A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087619
【弁理士】
【氏名又は名称】下市 努
(72)【発明者】
【氏名】上辻 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】生信 愛
【審査官】 田合 弘幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−205806(JP,A)
【文献】 特開2008−222170(JP,A)
【文献】 特開2009−161141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/16
B62D 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームの側壁を構成するカウルサイド部材上にフェンダブラケットを固定し、該フェンダブラケットにフェンダを取り付けた自動車の前部車体構造において、
前記フェンダブラケットを、頂辺部及び前,後縦辺部を有し、該頂辺部と前,後縦辺部との前,後コーナ部及び前,後縦辺部の中途部に屈曲部を有するブラケット本体と、前記後縦辺部の下端部から車両後方に折り曲げ形成された後フランジと、前記前縦辺部の下端部からそのまま下方に延びる前フランジとを有し、車両側面視で、前記カウルサイド部材とで略六角形状をなすものとし、
前記後フランジを前記カウルサイド部材の上壁面に固定するとともに、前記前フランジを前記カウルサイド部材の前壁面に固定した
ことを特徴とする自動車の前記部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンルームの側壁を構成するカウルサイド部材上にフェンダブラケットを固定し、該ブラケットにフェンダを取り付けるようにした自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の自動車の前部車体構造として、従来例えば特許文献1に開示されたものがある。この従来構造では、エンジンルームの側壁を構成するカウルサイド部材上に、前後一対の取付けフランジを有し、車両側方視で、前記カウルサイド部材とで略六角形をなすフェンダブラケットを配置し、前記取付けフランジをカウルサイド部材の上壁に溶接固定し、該フェンダブラケットにフェンダを取り付けるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−205806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来構造では、車両衝突時に何らかの被衝突物、例えば歩行者の突入による衝撃荷重が作用すると前記フェンダブラケットが座屈することにより該衝撃荷重を吸収するとされている。しかし前記従来の略六角形状のフェンダブラケットの場合、衝撃荷重吸収特性を示す図7において、破線で示すように、衝突初期に座屈し易いため衝突初期の荷重(反力)G1′を高める方向でのコントロールが難しいことから、衝突後期にブラケットが車体部材に底付きしてしまい荷重G2′が不必要に高くなってしまうことがある。この問題の対策としてブラケットの板厚を上げたり、単純なハット形状にしたりすると座屈し難くなり、荷重が高くなり過ぎる問題が生じる。また逆にブラケットの座屈性能を上げると通常使用時に人が手でフェンダを押した場合の変位に対する剛性(手押し剛性)が悪化し、フェンダが変位し易くなるという問題が生じる。
【0005】
本発明は、前記従来の実情に鑑みてなされたもので、衝撃吸収特性をコントロールし易い自動車の前部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エンジンルームの側壁を構成するカウルサイド部材上にフェンダブラケットを固定し、該フェンダブラケットにフェンダを取り付けた自動車の前部車体構造において、
前記フェンダブラケットを、頂辺部と前,後縦辺部との前,後コーナ部及び前,後縦辺部の中途部に屈曲部を有するブラケット本体と、前記後縦辺部の下端部から車両後方に折り曲げ形成された後フランジと、前記前縦辺部の下端部からそのまま下方に延びる前フランジとを有し、車両側面視で、前記カウルサイド部材とで略六角形状をなすものとし、前記後フランジを前記カウルサイド部材の上壁面に固定するとともに、前記前フランジを前記カウルサイド部材の前壁面に固定したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
車両の歩行者との衝突時には、通常、歩行者は車両真上からではなく車両前方斜め上方よりフェンダに突入してくるが、このような場合にはフェンダブラケットは車両後方に向けて座屈しようとする。本発明に係る自動車の前部車体構造によれば、フェンダブラケットの車両前側部分については、頂部と中途部に屈曲部を有する前縦辺部の下端部からそのまま下方に延びるように前フランジを形成した構成としており、前フランジを車両前方に折り曲げ形成した従来構造に比較して、衝突初期の荷重を上げる方向でコントロールし易い。
【0008】
一方、前フランジをカウルサイド部材の前壁面に固定しているので、衝突中期においては、前フランジがカウルサイド部材の前端コーナ部に強く圧接されることにより前フランジに稜線が発生し、前縦辺部の座屈を前記稜線から安定して開始させることができる。
【0009】
このように本発明では、衝突初期の荷重を上げる方向でコントロールし易く、また衝突中期における座屈開始タイミングもブラケットの板厚等でコントロールし易いので、衝突初期から終期の間の座屈荷重の波形をコントロールし易く、その結果、歩行者保護性能を向上できる。
【0010】
また、フェンダブラケットの形状を工夫するだけで歩行者保護性能を向上できるので、フェンダブラケットの構造が複雑化したり、重量やコストが増加したりする問題も生じない。
【0011】
さらにまた、フェンダブラケットの車両前方側については、頂部と中途部のみに屈曲部を有し、前フランジ部分には屈曲部を有しないので、前フランジ部分にも屈曲部を有する従来構造に比較して通常使用時の手押し剛性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例1に係る前部車体構造が採用された自動車の正面斜視図である。
図2】前記前部車体構造の断面正面図(図1のII-II線断面図)である。
図3】前記前部車体構造の正面斜視図である。
図4】前記前部車体構造の側面図である。
図5】前記前部車体構造の断面正面図(図4のV-V線断面図)である。
図6】前記前部車体構造の衝撃吸収過程の説明図である。
図7】前記前部車体構造の衝撃吸収特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1ないし図7は、本発明の実施例1に係る自動車の前部車体構造を説明するための図であり、本実施例において、前,後、左,右とは、車室内から前方を見た状態での前,後、左,右を意味する。
【0015】
図において、1は自動車の前部車体であり、該前部車体1は、エンジンルーム2の左,右側壁を構成するカウルサイド部材3,3と、該カウルサイド部材3,3上に固定されたフェンダブラケット4,4に取り付けられた左,右のフェンダ11,11と、前記左,右のカウルサイド部材3上に固定されたフードヒンジ12,12に取り付けられ、前記エンジンルーム2の上部開口を開閉するフード13とを有する。
【0016】
前記各カウルサイド部材3は、エンジンルーム側壁の大部分を構成するカウルサイド8と、該カウルサイド8上に固定され、前記フードヒンジ6の高さ位置を車種に応じた高さに設定するための嵩上げ部材9と、該嵩上げ部材9上に固定され、前記フードヒンジ6が固定されるヒンジリインホース10とを有する。
【0017】
前記カウルサイド8はカウルサイドアウタ8aとカウルサイドインナ8bとをフランジ8c,8d同士をスポット溶接で結合してなる閉断面構造を有する。
【0018】
前記嵩上げ部材9は、横断面ハット形状をなし、フランジ部9aが前記カウルサイドアウタ8aの上壁にスポット溶接により結合されており、前記カウルサイドアウタ8aとで閉断面構造を形成している。
【0019】
前記ヒンジリインホース10は、前記嵩上げ部材9に溶接固定されたヒンジ取付け部10aと、ここから前方に延びるフェンダブラケット取付け部10bとを有する。前記ヒンジ取付け部10aは横断面コ字形状をなし、縦辺部10dが前記嵩上げ部材9の側壁部9cに溶接固定され、上壁部9bとで閉断面構造を形成している。このヒンジ取付け部10aに前記フードヒンジ12がボルト12aにより締め固定されている。
【0020】
前記フェンダブラケット取付け部10bの前端部には縦壁部10cが前端コーナ部10b′をなすように下方に折り曲げ形成されており、該縦壁部10c及びフェンダブラケット取付け部10bは何れも浅い横断面コ字形状をなしている。
【0021】
前記フェンダブラケット4は、頂辺部5aと前,後縦辺部5b,5cとからなるブラケット本体5と、前記後縦辺部5cの下端部から車両後方に折り曲げ形成された後フランジ6と、前記前辺部5bの下端部からそのまま下方に延びる前フランジ7とを有する。
【0022】
前記頂辺部5aと前,後縦辺部5b,5cとのコーナ部は前,後上屈曲部5d,5eとなっており、また前,後縦辺部5b,5cの中途部には前,後中途屈曲部5f,5gが形成されている。
【0023】
さらにまた前記後縦辺部5cと後フランジ6とのコーナ部は後下屈曲部6aとなっており、一方、前記前縦辺部5bと前フランジ7との境界部7aは直線状をなし、屈曲部は形成されていない。また前記境界部7aは、前記ヒンジリインホース10の前端コーナ部10b′に当接している。
【0024】
そして前記後フランジ6はヒンジリインホース10のフェンダブラケット取付け部10bにスポット溶接により固定され、前記前フランジ7は前記ヒンジリインホース10の縦壁部10cにスポット溶接により固定されている。
【0025】
本実施例における衝撃荷重吸収過程を図6及び図7に基づいて説明する。なお、図6は本実施例におけるフェンダブラケット4の座屈過程を概念的に示すものであって、各部位の実際の寸法関係を表すものではない。
【0026】
前述のように、歩行者との衝突時には、通常、歩行者は車両真上からではなく車両前方斜め上方よりフェンダに突入する傾向があり、この衝撃荷重によりフェンダブラケットは車両後方に向けて座屈しようとする。そのため、フェンダブラケットの前縦辺部の下端に前フランジを前方に折り曲げ形成し、該前フランジをカウルサイド部材の上面に溶接固定した従来構造では、前記前縦辺部が容易に座屈し、衝突初期の荷重(反力)G1′を高めることが困難で、結局衝突後期の荷重が必要以上に高くなる問題があった。
【0027】
これに対して本実施例では、図6(a)に示すように、フェンダブラケット4の車両前方側に位置する前縦辺部5bについては、これの頂部と中途部に屈曲部5d,5fを設け、該前縦辺部5bの下端部からそのまま下方に延びる前フランジ7を形成した構成としている。そのため被衝突物Wによる衝撃荷重Fが作用した場合、前記前縦片部5bが直ちに座屈することはなく(図6(b)参照)、図7に実線で示すように、衝突初期の荷重(反力)G1を上げる方向でコントロールし易い。
【0028】
一方、前フランジ7をカウルサイド部材3の一部を構成するヒンジリインホース10の縦壁部10cに固定しているので、衝突中期においては、前フランジ7の前縦辺部5bとの境界部7aが前記ヒンジリインホース10の前端コーナ部10b′に強く圧接されることにより前フランジ7に稜線7a′が発生し、該稜線7a′から安定して座屈を開始することとなり(図6(c)参照)、衝突後期においては、前記フェンダブラケット4は完全に座屈することとなる(同図(d)参照)。これにより、衝突後期の荷重G2は従来の荷重G2′より低くなる。
【0029】
このように本実施例では、衝突初期の荷重を上げる方向でコントロールし易く、また衝突中期における座屈開始タイミングもブラケットの板厚等でコントロールし易いので、図7に実線で示すように、衝突初期の荷重G1を高くし、衝突後期の荷重G2を低くでき、その結果、歩行者保護性能を向上できる。
【0030】
また、フェンダブラケット4の前フランジ7を前縦辺部5bからそのまま延ばすようにするだけで歩行者保護性能を向上できるので、構造が複雑化したり、重量やコストが増加したりする問題も生じない。
【0031】
さらにまた、フェンダブラケット4の車両前方側に位置する前縦辺部5bについては、頂部と中途部のみに屈曲部5d,5fを有し、前フランジ部分には屈曲部を有しないので、前フランジ部分にも屈曲部を有する従来構造に比較して通常使用時の手押し剛性を向上できる。
【0032】
なお、前記実施例では、ヒンジリインホース10の縦壁部10cがフェンダブラケット取付け部10bから略鉛直下方に折り曲げ形成され、フェンダブラケット4の前フランジ7も略鉛直下方に延びる場合を説明したが、本発明は、前記縦壁部10cがフェンダブラケット取付け部10bに対して鋭角あるいは鈍角をなしている場合にも適用でき、要は、前フランジ7をフェンダブラケット4の前縦辺部5aの下端部から前記縦壁部に沿うようにそのまま延長するように形成すれば良い。
【符号の説明】
【0033】
1 前部車体
2 エンジンルーム
3 カウルサイド部材
4 フェンダブラケット
5a 頂辺部
5b,5c 前,後縦辺部
5d,5e 前,後コーナ部の屈曲部
5f,5g 中途部の屈曲部
5 ブラケット本体
6 後フランジ
7 前フランジ
10b フェンダブラケット取付け部(カウルサイド部材の上壁面)
10c 縦壁部(前壁面)
11 フェンダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7