(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、照明装置として、白熱電球、蛍光ランプなどの光源に替わり、発光ダイオード(LED)を光源とするLED照明装置が普及している。LED照明装置としては、例えば、青色LED素子の発光による青色光、赤色LED素子の発光による赤色光、緑色LED素子の発光による緑色光等の異なる色の光を混色させることにより、照明に適した昼光色、昼白色、白色、温白色、または電球色のような白色光に発光させるような照明装置が知られている。
【0003】
また、このような白色光を安価に得るために、一つの青色LED素子の発光により黄色蛍光体を励起して黄色光を発光させ、青色LED素子の青色光と黄色蛍光体の黄色光とを混色することにより、疑似白色光を発光する白色LED照明装置も広く用いられている。黄色蛍光体としてはYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)系蛍光体が広く用いられている。また、演色性を改良した青色LED素子とYAG系蛍光体を用いた白色LED照明装置として、赤色蛍光体や緑色蛍光体をさらに添加した白色LED照明装置も知られている。
【0004】
LED素子からの発光を蛍光体により色変換する方法としては、LED照明装置のLED素子を封止する封止体に蛍光体を分散させる方法が広く用いられている。具体的には、例えば、
図5のLED照明装置100のように、外部へ延出されている一対のリード5a,5bが配置された上面が開口した凹部を有する発光体収容部材5とLED素子1とを備え、LED素子1の一方の電極はリード5aに接続され、LED素子1の他方の電極が金線6によりワイヤーボンディングされてリード5bに接続されており、LED素子1を収容する凹部に、透明樹脂2bに蛍光体2aを分散させた樹脂封止体4を充填してLED素子1を封止したような形態のLED照明装置が挙げられる。
【0005】
このようなLED照明装置100においては、透明樹脂2bに蛍光体2aを分散させた液状樹脂組成物をディスペンサーを用いて少量ずつ凹部にポッティング塗布することによりLED素子1を封止している。このようなLED照明装置100の製造においては、液状樹脂組成物中に均一に分散された蛍光体が、それらの比重差や大きさに基づく移動性の違いに応じて経時的な沈降性に差が出るために、分散性が不均一になることにより封止体内で蛍光体の分散の密度にばらつきが生じやすいという問題があった。その結果、発光領域内で発光色の色むらを生じさせやすいという問題があった。また、工業的な生産においては、複数のLED照明装置の個体間の発光色のばらつきが大きくなりやすく、歩留まりを低下させる原因になるという問題もあった。
【0006】
このような問題を解決するための技術として、予め成形した蛍光体含有シートを、LED素子の表面やLED素子を封止する樹脂封止体の内部や表面、あるいはLED照明装置の封止体と隔てた位置に、配置する方法も知られていた。
図6は、蛍光体2aを透明樹脂2bに分散させてシート状に成形した蛍光体含有シート12を、LED素子1を封止する樹脂封止体3中に配置したLED照明装置110の模式断面図である。LED照明装置110においては、蛍光体含有シート12中の蛍光体2aをLED素子1の発光により励起させて蛍光を発光させて色変換させている。
【0007】
蛍光体含有シートは、通常、蛍光体を分散させた1枚の蛍光体含有シートを作成し、蛍光体含有シートをLED照明装置に装着するのに適した大きさに切断することにより製造される。このような方法により蛍光体含有シートを製造する場合には、予め製造した大きな蛍光体含有シートを切断することにより製造するために、塗布するために準備された塗液中で蛍光体が経時的に沈降して分散性が変化することを抑制できる。このような蛍光体含有シートは、従来、キャスト法、ロールコーティング法、押出ラミネート法、プレス成形、スピンコーティング法等により製造されている。また、下記特許文献1は、常温で粘度500Pa・sec以上の液状または常温で固体状または半固体状の蛍光体含有樹脂組成物を用いて蛍光体含有シートを作成することにより蛍光体の分散安定性をさらに向上させる技術を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
キャスト法、ロールコーティング法、プレス成形、押出ラミネート法等の手段を用いて蛍光体含有シートを製造する場合には、例えば厚み100μm以下のような薄い膜厚のシートを高い厚み精度に制御することが困難であった。また、スピンコーティング法を用いて100μm以下の薄いシートを製造する場合にも、光学的に一定の品質の蛍光体含有シートを安定的に量産することは困難であった。
【0010】
本発明者らは、種々のコーティング法で検討した結果、高い厚み精度に制御された薄厚の蛍光体含有シートを製造するために、いわゆるスクリーン印刷法を用いて蛍光体含有樹脂組成物からなるインクを支持基材上に塗布し、塗布されたインクをレベリングさせることにより塗膜を形成する方法を採用し、このような塗膜を硬化させることにより蛍光体含有シートを作成した。
【0011】
スクリーン印刷法を用いた蛍光体含有シートの製造方法の各工程について、
図7を参照して説明する。
図7(a)〜
図7(e)は製造方法の各工程を示す模式断面図である。
図7中、10はメッシュ部10a,開口10b及び枠10cを備えたスクリーンメッシュであり、11が支持基材、13aはスクレイパー、13bはスキージー、24は液状透明樹脂に蛍光体粒子を分散させて調製されたインク、25はインク24をレベリングさせて形成された塗膜である。
【0012】
本製造方法においては、はじめに、
図7(a)に示すように、支持基材11の上方にスクリーンメッシュ10を配置し、スクリーンメッシュ10上にインク24を載せる。そして、
図7(b)に示すようにインク24をスクレイパー13aで矢印方向に塗り広げることにより開口10bにインク24を充填する。そして、開口10bの全てにインク24を充填した後、
図7(c)に示すようにスキージー13bをスクリーンメッシュ10及び支持基材11に強く押し当てながら矢印方向に動かすことにより、
図7(d)に示すようにインク24を支持基材11に転写して印刷する。そして、所定の時間放置することによりインク間の空隙を埋めるようにインクをレベリングさせる。このようにして、
図7(e)に示すように、支持基材11上にインク24の塗膜25が形成される。そして、塗膜25を硬化させることにより蛍光体含有シートが形成される。
【0013】
そして、このような製造方法により得られた蛍光体含有シートをLED照明装置に装着する大きさに切断し、このようにして得られた蛍光体含有シート片を用いて
図6に示すようなLED照明装置を製造することができる。
【0014】
しかしこのようにして得られたLED照明装置においても、発光領域内で発光色の色むらを生じさせやすいという問題があった。また、工業的な生産においては、複数のLED照明装置の個体間の発光色のばらつきも充分に減らすことができず、歩留まりが向上しない傾向もあった。本発明は、スクリーン印刷法を経て蛍光体含有シートを製造し、このような蛍光体含有シートを用いてLED照明装置を製造する場合において発光色の色むらを生じさせる問題を抑制することができる蛍光体含有シートの製造方法、その製造方法により得られた蛍光体含有シート及びその製造に用いられるスクリーン印刷用蛍光体含有インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上述した問題を解決すべく、スクリーン印刷法を経て得られた蛍光体含有シートを詳細に分析した結果、次のような知見が得られた。
【0016】
図8(a)にスクリーン印刷法を経て得られた薄厚の蛍光体含有シートから切り出した、3×3mm程度の蛍光体含有シート12と、その2箇所の部分を拡大して観察したときの模式図を示す。蛍光体含有シート12は透明樹脂2bに蛍光体2aを分散させて形成されている。本発明者らは、
図8(a)に示すように、蛍光体含有シート12を拡大して観察したときに点線で示す領域Lに蛍光体2aの存在割合の低い透明な領域が存在することに気付いた。そして、このような蛍光体2aの存在割合の低い領域が、次のようなメカニズムにより、一つのLED照明装置の発光領域内で発光色の色むらを生じさせる原因になっていると考えた。
【0017】
図8(b)に、蛍光体含有シート12をLED照明装置に装着したときの光路を模式的に説明した図を示す。
図8(b)に示すように、このようなLED照明装置においては、蛍光体2aの少ない領域Lにおいては、蛍光体粒子2aが少ないために波長変換効率が低く、LED素子の発光色そのままで出射させやすくする。また、この領域を通過する光は蛍光体と衝突しにくいために拡散されにくい。その結果、一つのLED照明装置の中で得られる発光色に色むらが生じやすくなる。
【0018】
本発明者らは、このような蛍光体粒子の存在割合の低い領域が生じる原因を検討したところ、この領域はスクリーンメッシュのメッシュ部分に沿って形成されていることに気付いた。すなわち、薄厚のシートを作成する場合において、スクリーンメッシュのメッシュが存在していた領域にはレベリングの際に粒子径が大きく比重も高い蛍光体粒子は移動しにくく、移動しやすい樹脂成分のみが流動して蛍光体含有率の低い領域が形成されやすくなっていることに気付いた。そして、
図8(a)に示すように、領域Lの位置は蛍光体粒子が少ないために色変換効率や拡散性がその周囲の領域よりも低くなることにより色むらを生じさせていることに気付いた。特に蛍光体含有シートがLED素子に近づけば近づくほど色むらは顕著になり、また、凸レンズを載置したLED照明装置の場合にはレンズにより色むらが拡大されて照射面に顕著に現れる傾向があった。
【0019】
また、複数のLED照明装置の個体間では領域Lの位置や面積が異なるために、複数のLED照明装置の個体間では発光色のばらつきを生じさせていることに気付いた。本発明者らはこのような知見に基づき鋭意検討し、本発明に想到するに至った。
【0020】
すなわち、本発明の製造方法は、スクリーン印刷法により蛍光体含有シートを製造する方法であって、平均粒子径5〜60μmの蛍光体粒子5〜90質量%と、蛍光体粒子以外の微細粒子と、液状樹脂成分と、を含有する蛍光体含有インクを調製する工程と、スクリーンメッシュを介して蛍光体含有インクを支持基材上に塗布し、塗布された蛍光体含有インクをレベリングさせることにより塗膜を形成する工程と、塗膜を硬化させて硬化膜を形成させる工程と、を備え、微細粒子が平均粒子径0.005〜2μmの無機粒子及び平均粒子径0.5〜20μmの樹脂粒子の少なくとも一方を含有する蛍光体含有シートの製造方法である。
【0021】
図1に本発明に係る製造方法により得られる蛍光体含有シート2を拡大して観察したときの模式図を示す。
図1(a)に示すように、本発明に係る製造方法によれば、レベリングの際に、スクリーンメッシュのメッシュ跡のように形成される領域Lに平均粒子径0.005〜2μmの無機粒子及び平均粒子径0.5〜20μmの樹脂粒子の少なくとも一方を含有する微細粒子を存在させることができる。平均粒子径5〜60μmのような大粒径の比重の大きい蛍光体粒子2aはレベリングの際にスクリーンメッシュのメッシュがあった領域に流れにくいが、上述したような微細粒子2cは、透明樹脂2bの流動に追従して移動することができる。
【0022】
すなわち、
図1(c)に示すように、例えば、液状樹脂成分に、蛍光体粒子として比較的粒径が大きい2a(Y),蛍光体粒子として比較的粒径が小さい2a(R),及び蛍光体粒子に比べて比重が小さい樹脂粒子や、粒子径が小さい無機粒子等の流れやすい微細粒子2cが含有されたインクを用いた場合には、レベリングの際に微細粒子2cが最も液状樹脂に追従しやすくなり、次に比較的粒径が小さい蛍光体粒子2a(R)が液状樹脂に追従しやすくなる。そのために、領域Lに最も流れやすい微細粒子2cを多く存在させることができると考えている。
【0023】
このような場合、
図1(b)に示すように領域Lに入射した光は微細粒子2cにより反射されて拡散される。その結果、領域Lに入射した光は蛍光体含有シート2内で広い範囲に拡散され、均質に色が混合される。すなわち、微細粒子を配合した場合には蛍光体の存在割合は低く透明であった領域Lが不透明または半透明の拡散性を有する領域になる。その結果、領域Lの位置や面積割合に関わらず発光領域の色むらが抑制される。
【0024】
このような微細粒子としては、平均粒子径0.005〜2μmの無機粒子を含有することが蛍光体含有シートの光透過性を低下させにくい点から好ましい。
【0025】
また、蛍光体含有インク中における微細粒子の含有割合は0.5〜50質量%であることが、光透過性を大幅に低下させずに光拡散性を付与することにより色むらの発生を抑制することができる点から好ましい。
【0026】
また、塗膜の厚みは、蛍光体粒子の平均粒子径の1〜5倍であることが好ましく、また、10〜100μmであることが好ましい。本発明によれば、このような蛍光体粒子の粒子径に近いような薄厚の蛍光体含有シートを製造した場合であっても、発光の色むらの少ないLED照明装置を得ることができる。
【0027】
また、硬化膜を、LED照明装置に収容する寸法、具体的には、例えば、10×10mm以下、さらには0.3×0.3mmのような寸法に切断する工程をさらに含む。このように小さく細断された蛍光体含有シートを用いることにより、複数のLED照明装置の個体間で発光色のばらつきの少ないLED照明装置を得ることができる。
【0028】
液状樹脂成分としては、例えば、硬化性の液状シリコーンゴムまたは硬化性の液状シリコーンレジンを含むことが耐熱性、耐光性、及び光透過性に優れる点から好ましい。
【0029】
また本発明の蛍光体含有シートは、平均粒子径5〜60μmの蛍光体粒子5〜90質量%と、平均粒子径0.005〜2μmの無機粒子及び平均粒子径0.5〜20μmの樹脂粒子の少なくとも一方を含有する蛍光体粒子以外の微細粒子0.5〜50質量%と、シリコーンゴムまたはシリコーンレジンとを含有し、厚みが10〜100μmである蛍光体含有シートである。
【0030】
また、蛍光体含有シートの厚みは、蛍光体粒子の平均粒子径の1〜5倍であることが好ましい。本発明によれば、このような蛍光体粒子の粒子径に近いような薄厚の蛍光体含有シートを製造した場合であっても、発光の色むらの少ないLED照明装置を得ることができる。
【0031】
また本発明のスクリーン印刷用蛍光体含有インクは、平均粒子径5〜60μmの蛍光体粒子5〜90質量%と、蛍光体粒子以外の微細粒子と、液状樹脂成分と、を含有し、微細粒子が平均粒子径0.005〜2μmの無機粒子及び平均粒子径0.5〜20μmの樹脂粒子の少なくとも一方を含有するスクリーン印刷用蛍光体含有インクである。液状樹脂成分としては、硬化性の液状シリコーンゴムまたは硬化性の液状シリコーンレジンが好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、スクリーン印刷の工程を経て蛍光体粒子と液状樹脂成分とを含有する蛍光体含有インクを用いて膜厚の薄い蛍光体含有シートを製造する場合において、得られた蛍光体含有シートを用いてLED装置を製造した場合に、一つのLED照明装置における発光の色むらや、複数のLED照明装置間の色ばらつきの少ないLED照明装置を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本実施形態の蛍光体含有シートの製造方法について、
図2を参照しながら説明する。
図2(a)〜
図2(e)は蛍光体含有シートの製造方法の各工程を示す模式断面図である。
図2中、10はメッシュ部10a,開口10b及び枠10cを備えたスクリーン印刷で用いられるようなスクリーンメッシュであり、11が支持基材、13aはスクレイパー、13bはスキージー、14は蛍光体含有インク(インク)、15はインク14をレベリングさせて形成された塗膜である。
【0035】
本製造方法においては、はじめに、塗膜形成に用いられる蛍光体と蛍光体粒子以外の微細粒子とを含有するスクリーン印刷用のインクを調製する。
【0036】
液状樹脂成分としては、加熱や光照射等の硬化処理によりまたは常温で硬化して透明性の硬化膜を形成する硬化性液状樹脂成分が用いられる。その具体例としては、例えば、シリコーンゴムやシリコーンレジン等のシリコーン系樹脂、フッ素樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系エラストマー等が挙げられる。これらの中では、シリコーン系樹脂が、耐熱性、耐光性、及び光透過性に優れているために長時間の使用による変色等の劣化が少なく、また、蛍光体を均一に分散させやすい点から好ましい。
【0037】
液状樹脂成分の粘度は特に限定されないが、常温で、10〜800Pa・sec、さらには20〜600Pa・sec、更に好ましくは100〜300Pa・secであることが好ましい。なお、粘度は常温(25℃)において、JIS K7117に準じて「単一円筒回転粘度計を用いる方法」により測定される値である。
【0038】
また、蛍光体粒子の種類や組成は特に限定されず、目的とする発光色に応じて適宜調整される。蛍光体粒子の種類の具体例としては、例えば、Y
3-xGd
xAl
5O
12:Ce(0≦x≦3)で表されるアルミン酸イットリウム系蛍光物質(YAG),Ca−α−SiAlON:Eu等の黄色系蛍光体;CaS:Eu,CaAlSiN
3:Eu等の赤色系蛍光体;一般式AEu
(1-x)Ln
xB
2O
8(AはLi,K,Na,及びAgよりなる群から選ばれる1種、LnはY,La,及びGdよりなる群から選ばれる1種、BはW又はMoである。)で表される赤色系蛍光体、一般式がa(Sr
1-xEu
x(1-y)Yb
xy)O・SiO
2(ただし、2.9≦a≦3.1、0.005≦x≦0.10、0.001≦y≦0.1)で表されるアルカリ土類金属ケイ酸塩系蛍光体等の橙色系蛍光体、β−SiAlON:Euで表される緑色系蛍光体等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
蛍光体粒子の平均粒子径は5〜60μmであり、好ましくは10〜40μmである。なお、平均粒子径が5〜60μmの蛍光体粒子においては、二次粒子や単一粒子として粒子径100μm以上の粒子も含まれることがあるが、このような大きな粒子はスクリーンメッシュに引っ掛かってスクリーンメッシュを通過しにくくスキーズした残液中に残る傾向があるために、塗膜中には残りにくくなる傾向がある。従って、スクリーン印刷の手段を用いて塗膜を形成した場合には、他のコーティング法に比べて粗大な蛍光体粒子が塗膜に残りにくいというメリットもある。なお、平均粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置により測定されたメジアン値(D
50)である。
【0040】
インク中の蛍光体粒子の含有割合は5〜90質量%であり、好ましくは30〜70質量%である。蛍光体粒子の含有割合が5質量%未満の場合には蛍光体含有シートによる色合わせが困難になり、蛍光体粒子の含有割合が90質量%を超える場合にはスクリーン印刷の作業性が低下して塗膜の成膜が困難になる。
【0041】
インクには蛍光体粒子以外の微細粒子が配合される。微細粒子は、平均粒子径0.005〜2μmの無機粒子及び平均粒子径0.5〜20μmの樹脂粒子から選ばれる少なくとも一方を含む。なお、無機粒子は蛍光体粒子より粒径が小さい粒子であるためにレベリングの際に液状樹脂成分に追従して移動しやすい。一方、樹脂粒子は比重が小さいために適度に大きい粒子の方がレベリングの際に液状樹脂成分に追従して移動しやすい。無機粒子及び樹脂粒子はそれぞれ単独でも、無機粒子と樹脂粒子とを組み合わせて用いてもよい。
【0042】
無機粒子の平均粒子径は0.005〜2μm、さらには0.01〜1μmであることが好ましい。無機粒子の種類は特に限定されず、その具体例としては、例えば、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、タルク、ガラスパウダー等が挙げられる。これらの中では、ナノシリカとも称される微粒子シリカが特に好ましい。また、無機粒子の形態は特に限定されないが、レベリングの際に液状樹脂成分の流れに追従しやすい点から球状粒子がとくに好ましい。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
また、樹脂粒子の平均粒子径は0.5〜20μmであることが好ましい。樹脂粒子の種類は特に限定されず、その具体例としては、例えば、シリコーンレジンパウダー(平均粒子径0.5〜10μm),シリコーンゴムパウダー(平均粒子径1〜20μm)またはそれらの複合パウダー(平均粒子径0.5〜20μm)等のシリコーン樹脂粒子やフッ素樹脂パウダー(平均粒子径4〜8μm)等が挙げられる。なお、樹脂粒子は、通常、比重が小さく形状が球状に近いために平均粒子径が無機粒子に比べて大きくてもレベリングの際に液状樹脂成分の流れに追従しやすい。
【0044】
インク中における微細粒子の含有割合は、0.5〜50質量%、さらには1〜10質量%であることが好ましい。インク中における微細粒子の含有割合が高すぎる場合には光透過性が低下する傾向があり、微細粒子の含有割合が低すぎる場合には光を拡散させる効果が充分に発揮されない傾向がある。
【0045】
インクの調製方法は特に限定されない。具体的には、例えば、所定の配合比率になるように配合された蛍光体粒子と微細粒子と液状樹脂成分とを、ロールミル等の公知のインクの分散手段を用いて充分に分散させるような方法等が挙げられる。また、インクの粘度を調整するために必要に応じて、希釈剤として有機溶剤を配合してもよい。有機溶剤の具体帝としては、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン等が挙げられる。
【0046】
このようにして調製されるインクの粘度は特に限定されないが、常温で、200〜1000Pa・sec、さらには300〜700Pa・sec、とくには400〜700Pa・secであることが好ましい。インクの粘度が高すぎる場合には、塗工性が低下するとともにレベリングに時間が掛かる傾向があり、インクの粘度が低すぎる場合には、液だれが激しくなって塗膜を形成することが困難になる傾向がある。
【0047】
本製造方法においては、上述したようなインクを用いて、スクリーン印刷の手法を用いて塗膜を形成する。具体的には、はじめに、
図2(a)に示すように、スクリーンメッシュ10上に予め調製されたインク14を適量載せる。
【0048】
スクリーンメッシュの形態は目的とする厚みの塗膜を形成できる限り特に限定されない。その具体例としては、例えば、線径は20〜70μm、さらには25〜60μm程度であり、目開きが30〜250μm、さらには60〜180μm程度であり、スクリーンの厚さは、30〜200μm、好ましくは40〜100μmであるような網目を有するようなスクリーンメッシュが挙げられる。
【0049】
そして、
図2(b)に示すようにインク14をスクレイパー13aで矢印方向に塗り広げることにより開口10bにインク14を充填する。そして、開口10bの全てにインク14を充填した後、
図2(c)に示すようにスキージー13bをスクリーンメッシュ10及び支持基材11に強く押し当てながら矢印方向に動かすことにより、
図2(d)に示すようにインク14を支持基材11に転写して印刷する。
【0050】
支持基材の種類は特に限定されない。その具体例としては、例えば、厚み10〜3000μm程度のフッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン,ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂等、を主体とする樹脂シートやガラス板、金属板等が挙げられる。支持基材はその塗膜形成面に離型性を付与する処理が施されている離型性樹脂シートであることがとくに好ましい。また、塗膜を熱硬化させる場合は、100℃以上の耐熱性がある基材が好ましい。
【0051】
そして、
図2(e)に示すように、塗布されたインク14を所定の時間放置することによりインク14を広げさせてレベリングさせる。このようにして、支持基材11上にインク14からなる塗膜15が形成される。
【0052】
レベリングにより形成される塗膜の厚みとしては、10〜100μm、さらには20〜80μm、とくには30〜60μmであることが好ましい。このように薄い膜厚の塗膜を形成することにより、小型パッケージのLED照明装置にも収容できる蛍光体含有シートが得られる。
【0053】
そして、このような塗膜15を硬化させることにより支持基材11上に蛍光体含有シートが形成される。硬化条件は、樹脂の種類に応じて、加熱による熱硬化処理、光照射による光硬化処理、または常温硬化処理等が適宜選択される。蛍光体含有シートの厚みも10〜100μm、さらには20〜80μm、とくには30〜60μmであることが好ましい。
【0054】
このようにして得られた蛍光体含有シートは、例えば、
図3に示すような蛍光体含有シート2をLED素子1の発光面を覆うように載置し封止して得られるような形態のLED照明装置10の製造に用いられる。
図3は、蛍光体2a及び無機フィラー2cを透明樹脂2bに分散させた蛍光体含有シート2をLED素子1を封止する樹脂封止体3中に配置したLED照明装置10の模式断面図である。LED照明装置10においては、LED素子1の発光を蛍光体含有シート2中の蛍光体2aを励起させて蛍光を発光させることにより波長変換している。なお、LED素子1に近接するように蛍光体含有シート2が配置されたような場合には色むらが拡大されやすいために、とくにLED素子1に蛍光体含有シート2を近接するように配置した場合に本発明の高い効果が奏される。更に、凸レンズを載置したLED照明装置の場合には、光源からの光が拡大され照射されても照射面に色むらが生じず本発明の効果が顕著に奏せられる。
【0055】
また、別の形態としてこのようにして得られた蛍光体含有シート2は、例えば、
図4に示すような蛍光体含有シート2をLED素子1を封止する樹脂封止体3の発光面を覆うように配置して得られるような形態のLED照明装置20の製造に用いられてもよい。
図4は、蛍光体含有シート2をLED素子1を封止する樹脂封止体3を覆うように配置したLED照明装置20の模式断面図である。LED照明装置20においては、LED素子1の発光を蛍光体含有シート2中の蛍光体2aを励起させて蛍光を発光させることにより波長変換している。
【0056】
なお、得られた蛍光体含有シートは、例えば、レーザーカッター、裁断機、ダイシングソー等を用いて、用途に応じた形状に切断される。具体的には、例えば、
図3に示したようなLED照明装置10や、
図4に示したようなLED照明装置20に用いる場合には、0.3×0.3mm〜1.2×1.2mmのような寸法に切断されることが好ましい。また、基板上に一つのLED素子を実装するような形態のいわゆるチップオンボード(COB)のLED照明装置に用いる場合には、0.3×0.3mm程度の寸法に切断することが好ましい。なお、COBのLED照明装置の場合でも複数のLED素子の上に一枚のシートを載置するような場合は10×10mmのような寸法に切断することが好ましい。また、パワーLED照明装置に用いる場合は、一辺の長さが1×1〜3×3mmのような寸法であってもよい。
【0057】
LED素子としては、従来から知られた紫外光、近紫外光、青色から赤色の領域の波長を示す可視光、近赤外光、赤外光等の波長領域の光を発するLED装置が特に限定なく用いられる。例えば、青色LEDとしては、GaN系,SiC系;ZnS系,ZnSe系等が挙げられる。また、緑色LEDとしては、GaP系;N系;GaP系等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0058】
[実施例1]
平均粒子径30μmの黄色蛍光体(YAG)130質量部、平均粒子径0.01μmのシリカ5質量部、熱硬化性液状シリコーンゴム100質量部を混合し、インクロールに3回パスして混練することによりインクを得た。
【0059】
そして得られたインクを用いて、フッ素樹脂製の離形シート上に、スクリーン厚90μmのステンレススクリーンメッシュを用い、レベリング後の厚みが50μmになるように塗膜を形成した。そして、離形シート上の塗膜をレベリングさせた後、100℃で加熱処理することにより熱硬化させることにより厚み50μmで100×100mmの蛍光体含有シートを得た。
【0060】
得られた蛍光体含有シートを1.2×1.2mmのサイズに切断して10枚の切断片を得た。得られた切断片を顕微鏡で観察したところ、透明性の高い領域は観察されなかった。そして
図4に示すような形態のLED照明装置の製造において、得られた蛍光体含有シートの切断片を青色LED素子の上に載置して白色光を発するLED照明装置を10個作成した。なお、青色LED素子としてはInGaN系であって発光ピーク波長(λp)470nmの青色LED素子を用いた。そして、10個のLED照明装置を発光させて、白板に向けて発光を照射して照射面の色むらを観察した。その結果、照射面には色むらは発生していなかった。また、異なるロットで得られた蛍光体含有シート間でも発光色のばらつきが小さかった。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
[実施例2]
平均粒子径0.01μmのシリカを、平均粒子径0.8μmのフッ素樹脂に替えた以外は実施例1と同様にしてインクを調製し、蛍光体含有シートを作成し、評価した。その結果、得られた切断片を顕微鏡で観察したところ、透明性の高い領域は観察されなかった。また、照射面には色むらは発生していなかった。また、異なるロットで得られた蛍光体含有シート間でも発光色のばらつきが小さかった。結果を表1に示す。
【0063】
[実施例3]
平均粒子径30μmの黄色蛍光体(YAG)120質量部、平均粒子径10μmの赤色蛍光体10質量部、平均粒子径0.01μmのシリカ5質量部、熱硬化性液状シリコーンゴム100質量部を混合し、インクロールに3回パスして混錬することによりインクを得た。実施例1において、実施例1のインクに代えて上述のように調製したインクを用いた以外は実施例1と同様にして蛍光体含有シートを作成し、評価した。その結果、得られた切断片を顕微鏡で観察したところ、透明性の高い領域は観察されなかった。また、照射面には色むらは発生していなかった。また、異なるロットで得られた蛍光体含有シート間でも発光色のばらつきが小さかった。結果を表1に示す。
【0064】
[比較例1]
シリカを配合せず、シリコーンゴムを105質量部配合した以外は実施例1と同様にしてインクを調製し、蛍光体含有シートを作成し、評価した。その結果、得られた切断片を顕微鏡で観察したところ、透明性の高い領域が多数観察された。また、10個のLED照明装置のうち、照射面には、それぞれが異なった照射面の位置に青色のスポット色むらが発生した。結果を表1に示す。
【0065】
[比較例2]
シリカを配合する代わりに、平均粒子径30μmのガラスビーズを配合した以外は実施例1と同様にしてインクを調製し、蛍光体含有シートを作成し、評価した。その結果、得られた切断片を顕微鏡で観察したところ、透明性の高い領域が多数観察された。また、照射面には、それぞれが異なった照射面の位置に青色のスポット色むらが発生した。結果を表1に示す。
【0066】
[比較例3]
実施例3で得られたインクを用いてスピンコート法により、蛍光体含有シートを製造した。具体的には、実施例3で調製したインクを直径150mmの平坦な円板の中心に適量置き、円板の半径の1/2の径の円周上の厚みが50μmになるように1000r.p.m.の速度で2〜3分間回転することによりインクに遠心力を付与して塗膜を形成した。このとき、塗膜の形成時にYAG蛍光体と赤色蛍光体とが遠心力によりリング状に分離した。このようにして得られた塗膜を硬化させて蛍光体含有シートを作成した。この蛍光体含有シートを細断して用いた場合には、LED照明装置間で発光色のばらつきが大きかった。また、異なるスピンコートで得られた蛍光体含有シート間でも発光色のばらつきが大きかった。結果を表1に示す。
【0067】
[比較例4]
ダイ幅200mm、ダイランド5mm、クリアランス50μmのスリットダイを有する1軸押し出しコーターを用いて、実施例1の組成のインクを厚さ50μmになるように、フッ素樹脂処理したPETフイルムにコーティングした。しかし、ダイランドに蛍光体の粗大粒子がひっかかり、塗膜にストリークを生じ、また、流れ方向の厚みが不均一になった。押し出しコート法によれば、精度の高い100μm以下の薄い蛍光体含有シートの製造は困難であった。
【0068】
[比較例5]
実施例1で調製したインクを用いてプレス成形により、蛍光体含有シートを製造した。具体的には、200×200mmの金型を用いて実施例1で得られたインクを厚さ50μmになるように、プレス成形した。しかし、蛍光体の粗大粒子が支持柱のような作用をして均質な厚みの精度の高い蛍光体含有シートが得られなかった。また、異なるロットで得られた蛍光体含有シート間でも発光色のばらつきが大きかった。
【0069】
上記結果のように、本発明に係る実施例1〜3で得られた蛍光体含有シートを用いたLED照明装置はいずれも透明領域が観察されず、また、LED照明装置の発光色のばらつきが少なかった。