(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
合成樹脂エマルション,充填材,顔料,増粘剤,腐敗防止剤,成膜助剤を含む塗料組成物であり,増粘剤は水溶性セルロースエーテルと,カルボキシメチル置換度が0.2〜0.3の水不溶性で且つ水膨潤性のカルボキシメチルセルロースと,疎水性フュームドシリカとから成り且つ膨潤性粘土鉱物を含まず,水溶性セルロースエーテルは,本水性塗料組成物全体に対して0.05〜0.15重量%が含まれることを特徴とする水性塗料組成物。
【背景技術】
【0002】
従来,既存の凹凸感のある意匠性仕上げ塗材の上に塗布することにより,独特の砂壁状の質感が損なわれることがない砂壁状塗料組成物が提案されている(特許文献1)。
【0003】
該砂壁状塗料組成物は,合成樹脂エマルション,充填材,顔料,成膜助剤を含む塗料組成物であり,前記充填材のうち平均粒子径1.0〜40μmの充填材の重量配合部数で,平均粒子径70〜500μmの充填材の重量配合部数を除した値が0.1〜5.0であることを特徴とする砂壁状塗料組成物であるが,該砂壁状塗料組成物は,塗装後乾燥状態が不十分な場合に降雨があるとか塗膜表面に結露によって水滴等が付着すると,その後水滴が乾燥消失したときに白い筋状の跡が現れることがあった。
【0004】
これに対して本出願人は,鋭意な研究を行ない,その結果に基づいて白い筋状の跡を生じない塗材組成物を提案している(特許文献2)。該塗材組成物は,合成樹脂エマルションが結合剤であり,充填剤,増粘剤,顔料を含む塗材組成物であって,増粘剤がカルボキシメチル置換度が0.2〜0.3である水不溶であり,水膨潤性のカルボキシメチルセルロースを含む塗材組成物である。
【0005】
しかしながら,特許文献2の塗材組成物は,上記白い筋状の跡が生じることがなくても,部分的に塗装膜厚が厚い部分においてはひび割れが発生することがあり,また増粘剤に膨潤性粘土鉱物を含む場合は,一定期間該塗材組成物を貯蔵しておくと,腐敗することがあるという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は,塗装後乾燥状態が不十分な場合に降雨があるとか塗膜表面に結露によって水滴が付着し,その後該水滴が乾燥消失しても,塗膜表面に白い筋状の跡が現れることがなく,また塗装膜厚が厚い部分であってもひび割れが発生することがなく,且つ一定期間貯蔵しても,腐敗することがない水系塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は,合成樹脂エマルション,充填材,顔料,増粘剤,腐敗防止剤,成膜助剤を含む塗料組成物であり,増粘剤は水溶性セルロースエーテルと,カルボキシメチル置換度が0.2〜0.3の水不溶性で且つ水膨潤性のカルボキシメチルセルロースと,疎水性フュームドシリカとから成り且つ膨潤性粘土鉱物を含ま
ず,水溶性セルロースエーテルは,本水性塗料組成物全体に対して0.05〜0.15重量%が含まれることを特徴とする水性塗料組成物を提供する。
【0009】
請求項2記載の発明は,請求項1記載の水性塗料組成物
を既存仕上げ塗材の上に塗布することを特徴とする改修施工方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水性塗料組成物及びこれを使用する改修施工方法は,塗装後乾燥状態が不十分な場合に降雨があるとか塗膜表面に結露によって水滴が付着し,その後該水滴が乾燥消失しても,塗膜表面に白い筋状の跡が現れることがなく,また塗装膜厚が厚い部分であってもひび割れが発生することがなく,且つ一定期間貯蔵しても,腐敗することがないという効果がある。
【0012】
また,既存の塗り壁下地が左官鏝等により凹凸状となっていても,該凹凸に沿って付着するとともに,施工時の気温によって水によって本発明の水性塗材組成物を希釈しても,同様に凹凸に沿って付着してダレが生じないという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明の水性塗料組成物は,合成樹脂エマルション,充填材,顔料,増粘剤,腐敗防止剤,成膜助剤を含む塗料組成物であり,増粘剤は水溶性セルロースエーテルと,カルボキシメチル置換度が0.2〜0.3の水不溶性で且つ水膨潤性のカルボキシメチルセルロースと,疎水性フュームドシリカとから成り且つ膨潤性粘土鉱物を含まない水性塗料組成物であり,必要に応じ分散剤,消泡剤が配合される。
【0014】
合成樹脂エマルションには,アクリル樹脂エマルションやアクリルウレタン樹脂エマルション,酢酸ビニルエマルション,酢酸ビニル−アクリル樹脂エマルション,エチレン−酢酸ビニルエマルション,シリコンアクリルエマルション等を使用することが出来る。合成樹脂エマルションの重量配合部数としては水性塗材組成物全体に対して合成樹脂エマルションの樹脂固形分換算で5〜25重量%,好ましくは8〜18重量%であり,5重量%未満では塗膜強度が不足し,25重量%では保存安定性が不良となると共に乾燥時間が長時間となる。8重量%未満では塗膜強度が低下する傾向にあり,18重量%超では乾燥時間が遅延する傾向にある。
【0015】
充填材は,重質炭酸カルシウムに代表される炭酸カルシウムや硅砂が使用できるが,このほかにクレー,カオリン,タルク,沈降性硫酸バリウム,炭酸バリウム等が使用できる。これらの充填材のうち平均粒子径1.0〜40μmの充填材の重量配合部数で,平均粒子径70〜500μmの充填材の重量配合部数を除した値が0.1〜5.0であり,より好ましくは1.0〜3.0である。0.1未満では凹凸感の無い仕上がりとなり5.0超では隠蔽性が不足する。1.0未満では凹凸感が低下する傾向にあり,3.0超では隠蔽性が低下する傾向にある。充填材の塗料組成物全体に対する配合割合は,20〜70重量%,好ましくは40〜60重量%であり,20重量%未満では砂壁状の風合いが無くなり,蒸気透過性が低下する。70重量%超では塗膜強度が不足する。40重量%未満では蒸気透過性が低下する傾向にあり,60重量%超では塗膜強度が低下する傾向にある。
【0016】
顔料には,酸化チタン,酸化亜鉛,カーボンブラック,酸化第二鉄(弁柄),クロム酸鉛,黄鉛,黄色酸化鉄等の無機系顔料等が使用できるが,中でも酸化チタンは下地の隠蔽性に優れ,白色であるため主たる顔料として使用することが出来る。本水性塗料組成物全体に対する顔料の重量配合部数としては,0.5〜20重量%,好ましくは2〜10重量%であり,0.5重量%未満では隠蔽性が不足し,20重量%超では保存安定性が不良となる。2重量%未満では隠蔽性が低下する傾向にあり,20重量%超では保存安定性が低下する傾向にある。
【0017】
成膜助剤には,エマルジョンのポリマー粒子の融着を促進し,ポリマーによる均一な皮膜を形成させることを目的で配合し,エチレングリコールジエチルエーテル,ベンジルアルコール,ブチルセロソルブ,エステルアルコール,テキサノールが使用される。成膜助剤の合成樹脂エマルションの樹脂固形分100重量部に対する重量配合部数としては,0.2〜10.0重量%,好ましくは1.0〜6.0重量%であり,0.2重量%未満では硬化時間が長時間となり,10.0重量%超では可使時間が短く塗布作業性に支障を生じる。1.0重量%未満では硬化時間が遅延する傾向にあり,6.0重量%超では可使時間が短くなる傾向にある。
【0018】
増粘剤は,水溶性セルロースエーテルと,カルボキシメチル置換度が0.2〜0.3の水不溶性で且つ水膨潤性のカルボキシメチルセルロースと,疎水性フュームドシリカとが使用され,且つ膨潤性粘土鉱物は使用されない。
【0019】
水溶性セルロースエーテルは,セルロースを原料とし苛性ソーダで処理後,塩化メチル,酸化プロピレンあるいは酸化エチレン等のエーテル化剤と反応させて得られ,塗膜のひび割れを防止するために配合する。特にグルコース環単位当たり,メトキシル基で置換された水酸基の平均個数が1.4で,セルロースのグルコース環単位当たりに付加したヒドロキシプロポキシル基の平均モル数が0.20のヒドロキシプロピルメチルセルロースが好適に使用される。市販の該ヒドロキシプロピルメチルセルロースには,hiメトローズ90SH(商品名,信越化学工業(株)社製)がある。
【0020】
水溶性セルロースエーテルの本水性塗料組成物全体に対する配合量は,0.05〜0.15重量%が好ましく,より好ましくは0.08〜0.13重量%である。0.05重量%未満では塗膜にひび割れが生じ,0.15重量%超では,塗膜の乾燥が不十分なときに水滴が接触してその後乾燥すると,白い筋状の跡が発生する。0.08重量%未満では塗膜にひび割れが生じる傾向があり,0.13重量%超では塗膜の乾燥が不十分なときに水滴が接触してその後乾燥すると,白い筋状の跡が発生する傾向がある。
【0021】
カルボキシメチル置換度が0.2〜0.3の水不溶性で且つ水膨潤性のカルボキシメチルセルロースは,水には不溶であるが膨潤する増粘剤であり,冷水,温水に膨潤し,溶解はしない。調整方法は特開2010−57393号公報に記載され,市販品としては,サンローズSLDシリーズ(商品名,日本製紙ケミカル(株)社製)がある。
【0022】
該カルボキシメチルセルロースの本水性塗料組成物全体に対する配合量は,0.1〜1.0重量%が好ましく,より好ましくは0.3〜0.5重量%である。0.1重量%未満では十分な粘性が得られず,1.0重量%超では粘性が強すぎて塗布作業性が不良となる。0.3重量%未満では十分な粘性が得られない傾向があり,0.5重量%超では塗布作業性が不良となる傾向がある。
【0023】
疎水性フュームドシリカは,親水性フュームドシリカをシランまたはシロキサンで化学的に処理したものであり,BET法による比表面積は100〜500m
2/gのものが好適に使用される。市販の疎水性フュームドシリカに,レオロシールPM−20L(商品名,BET比表面積100±20m
2/g,(株)トクヤマ社製),AEROSIL R972(商品名,BET比表面積110±20m
2/g,Evonik社製)、AEROSIL R202(商品名,BET比表面積100±20m
2/g,Evonik社製)、がある。
【0024】
疎水性フュームドシリカの本水性塗料組成物全体に対する配合量は,0.1〜1.0重量%が好ましく,より好ましくは0.3〜0.5重量%である。0.1重量%未満では十分な粘性が得られず,1.0重量%超では粘性が強すぎて塗布作業性が不良となる。0.3重量%未満では十分な粘性が得られない傾向があり,0.5重量%超では塗布作業性が不良となる傾向がある。
【0025】
腐敗防止剤には,有機窒素硫黄系化合物やイソチアゾリン系化合物が使用され,市販の腐敗防止剤にはACTICIDE EPW(商品名,イソチアゾリン系化合物,化学名:3−(3,4−dichlorophenyl)−1,1−dimethylurea(DCMU,Diuron)、Methyl−N−benzimidazol−2−ylcarbamate (Carbendazim)、2−n−octyl−4−isothiazolin−3−one(OIT)混合物,THOR SPECIALITIES社製)、スラオフ72N(商品名,有機窒素硫黄系化合物,日本エンバイロケミカルズ(株)社製)がある。
【0026】
腐敗防止剤の本水性塗料組成物全体に対する配合量は,0.1〜1.5重量%が好ましく,より好ましくは0.5〜1.0重量%である。0.1重量%未満では,腐敗防止効果が不十分であり,1.5重量%超では塗膜の変色が生じる場合がある。0.5重量%未満では腐敗防止効果が不十分となる傾向があり,1.0重量%超では塗膜の変色が生じる傾向がある場合がある。
【0027】
本発明で使用することができない膨潤性粘土鉱物は,モンモリナイトが主成分であるベントナイト,スメクタイト,カオリン,セピオライト,合成スメクタイトの層状ケイ酸塩をいい,これらの膨潤性粘土鉱物を配合すると,上記腐敗防止剤の腐敗防止効果が不十分となって,塗布前の水性塗料組成物が貯蔵中に腐敗する。
【0028】
上記の配合成分の他に,塗材中の巻き込み等による泡を消失させるために消泡剤や,充填材や顔料等を均一に分散させるための分散剤が配合されることがある。
【0029】
本発明の水性塗料組成物は,市販のローラー刷毛によって既存の塗材の上に塗布されるが,既存塗材の凹凸感及び風合いを損なわないように,0.5kg/m
2〜1.0kg/m
2で塗布することが好ましく,また水性塗料組成物の適正粘度としては,30〜150Pa・sが好ましく,このような粘度とするには,適当量の水を加えることで調製することが出来る。
【実施例】
【0030】
以下に実施例及び比較例を示すが,本発明はこの実施例に限定されることはない。
【0031】
実施例及び比較例
合成樹脂エマルジョンに,ウルトラゾールD−22(アクリル樹脂エマルション,固形分55%,粘度500〜2500mPa・s/25℃,ガンツ化成社製,商品名)を,成膜助剤にテキサノールCS−12(商品名,チッソ株式会社製)を,充填材Aに平均粒子径D50が20μmの重質炭酸カルシウムSFT−2000(商品名,三共製粉社製),充填材Bに平均粒子径D50が200μmの重質炭酸カルシウムK−250(商品名,旭鉱末(株)製)を,充填材Cに平均粒子径D50が10μmの重質炭酸カルシウムBF−200(商品名,備北粉化工業(株)社製製)を,顔料に酸化チタンR−820(商品名,平均粒子径D50;0.26μm,石原産業(株)社製)を,増粘剤Aにhiメトローズ90SH−15000(商品名,信越化学工業(株)社製)を,増粘剤BにサンローズSLD―F1(商品名,カルボキシメチル置換度0.2〜0.3,平均粒子径D50;50〜60μm,日本製紙ケミカル(株)社製)を,増粘剤CにレオロシールPM−20L(商品名,(株)トクヤマ社製)を,膨潤性粘土鉱物にミラクレーLFC-25(商品名,近江鉱業(株)社製,セピオライト,比表面積122m
2/g)を,腐敗防止剤にACTICIDE EPW、スラオフ72Nを,その他添加剤にSNデフォーマー393(商品名,サンノプコ(株)社製),SNディスパーサント5468(商品名,サンノプコ(株)社製)をそれぞれ使用して表1の配合で均一に混合し,実施例1及び比較例1乃至比較例8の水性塗料組成物とした。
【0032】
【表1】
【0033】
評価項目及び評価方法
【0034】
水筋外観
下地としてJISA 5430に規定するフレキシブルボード(70mm×70mm厚さ8mm)を使用し,シーラーとして溶剤型塩化ゴム系下塗り材JS−410(商品名,アイカ工業株式会社製)を0.2kg/m
2塗布して,4時間以上乾燥させた後,実施例1及び比較例1乃至比較例8の各水性塗料組成物を塗布量0.3kg/m
2で市販中毛ローラを使用して塗布し,23℃50%RHで12時間養生する。その後同一水性塗料組成物を塗布量0.3g/m
2で同様に中毛ローラを使用して塗布し,23℃50%RHで6時間養生して試験体とした。該試験体を水平に静置しイオン交換水を滴下した後,水滴の広がりに沿って白い筋が発生したものを×,白い筋の発生がないものを○と評価した。
【0035】
ひび割れ性
下地としてJISA 5430に規定するフレキシブルボード(70mm×70mm厚さ8mm)を使用し,シーラーとして溶剤型塩化ゴム系下塗り材JS−410(商品名,アイカ工業株式会社製)を0.2kg/m
2塗布して,4時間以上乾燥させた後,実施例1及び比較例1乃至比較例8の各水性塗料組成物を塗布量0.4g/m
2で市販中毛ローラを使用して塗布し,23℃50%RHで12時間養生する。その後同一水性塗料組成物を塗布量0.4g/m
2で同様に中毛ローラを使用して塗布し,23℃50%RHで6時間養生して試験体とした。塗膜乾燥後にひび割れを生じたものを×,ひび割れが生じなかったものを○と評価した。
【0036】
貯蔵安定性
実施例1及び比較例1乃至比較例8の水性塗料組成物各500gを500ccポリ容器に密閉して3ヶ月保存し,腐敗が生じたものを×,腐敗が生じなかったものを○と評価した。
【0037】
粘稠性
実施例1及び比較例1乃至比較例8の水性塗料組成物を23℃に調整し,BH型粘度計6号ロータ2rpm及び20rpmの粘度を測定し,JISA6024に規定のチキソトロピックインデックスを算出し,該チキソトロピックインデックスが3.0〜6.0の範囲であり,なおかつ水道水で3重量%希釈した際にもチキソトロピックインデックスが3.0〜6.0であって,同一の粘性を保持しているものを○とし,これ以外を×と評価した。
【0038】
評価結果を表2に示す。
【0039】
【表2】