(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の第1実施形態に係るクライオポンプ10の主要部を模式的に示す側断面図である。クライオポンプ10は、例えばイオン注入装置やスパッタリング装置等の真空チャンバに取り付けられて、真空チャンバ内部の真空度を所望のプロセスに要求されるレベルまで高めるために使用される。クライオポンプ10は、気体を受け入れるための吸気口12を有する。クライオポンプ10が取り付けられた真空チャンバから吸気口12を通じて、排気されるべき気体がクライオポンプ10の内部空間14に進入する。
図1は、クライオポンプ10の内部空間14の中心軸Aを含む断面を示している。
【0010】
なお以下では、クライオポンプ10の構成要素の位置関係をわかりやすく表すために、「軸方向」、「放射方向」との用語を使用することがある。軸方向は吸気口12を通る方向(
図1において一点鎖線Aに沿う方向)を表し、放射方向は吸気口12に沿う方向(一点鎖線Aに垂直な方向)を表す。便宜上、軸方向に関して吸気口12に相対的に近いことを「上」、相対的に遠いことを「下」と呼ぶことがある。つまり、クライオポンプ10の底部から相対的に遠いことを「上」、相対的に近いことを「下」と呼ぶことがある。放射方向に関しては、吸気口12の中心(
図1において中心軸A)に近いことを「内」、吸気口12の周縁に近いことを「外」と呼ぶことがある。放射方向は径方向とも言える。なお、こうした表現はクライオポンプ10が真空チャンバに取り付けられたときの配置とは関係しない。例えば、クライオポンプ10は鉛直方向に吸気口12を下向きにして真空チャンバに取り付けられてもよい。
【0011】
また、軸方向を囲む方向を「周方向」と呼ぶことがある。周方向は、吸気口12に沿う第2の方向であり、径方向に直交する接線方向である。
【0012】
クライオポンプ10は、冷凍機16を備える。冷凍機16は、例えばギフォード・マクマホン式冷凍機(いわゆるGM冷凍機)などの極低温冷凍機である。冷凍機16は、第1ステージ22及び第2ステージ24を備える二段式の冷凍機である。冷凍機16は、第1ステージ22を第1温度レベルに冷却し、第2ステージ24を第2温度レベルに冷却するよう構成されている。第2温度レベルは第1温度レベルよりも低温である。例えば、第1ステージ22は65K〜120K程度、好ましくは80K〜100Kに冷却され、第2ステージ24は10K〜20K程度に冷却される。
【0013】
また、冷凍機16は、第1シリンダ23及び第2シリンダ25を備える。第1シリンダ23は、冷凍機16の室温部を第1ステージ22に接続する。第2シリンダ25は、第1ステージ22を第2ステージ24に接続する接続部分である。
【0014】
図示されるクライオポンプ10は、いわゆる横型のクライオポンプである。横型のクライオポンプとは一般に、冷凍機16がクライオポンプ10の内部空間14の中心軸Aに交差する(通常は直交する)よう配設されているクライオポンプである。
【0015】
クライオポンプ10は、第1クライオパネル18と、第1クライオパネル18より低温に冷却される第2クライオパネル20と、を備える。詳細は後述するが、第1クライオパネル18は、放射シールド30とプレート部材32とを備え、第2クライオパネル20を包囲する。プレート部材32と第2クライオパネル20との間に凝縮層の主収容空間21が形成される。
【0016】
まず第2クライオパネル20を説明する。第2クライオパネル20は、クライオポンプ10の内部空間14の中心部に設けられている。第2クライオパネル20は、第2ステージ24を囲むようにして第2ステージ24に取り付けられている。よって、第2クライオパネル20は、第2ステージ24に熱的に接続されており、第2クライオパネル20は第2温度レベルに冷却される。
【0017】
第2クライオパネル20は、トップパネル60を備える。トップパネル60は冷凍機16の第2ステージ24の上面に直に取り付けられており、第2ステージ24はクライオポンプ10の内部空間14の中心部に位置する。こうして、凝縮層の主収容空間21が内部空間14の上半分を占めている。
【0018】
トップパネル60は、ガスをその表面に凝縮するために設けられている。トップパネル60は、第2クライオパネル20のうちプレート部材32に最も近接する部分であり、プレート部材32に対向するトップパネル前面61を備える。トップパネル前面61は、中心領域62と、中心領域62を囲む外側領域63と、を備える。
【0019】
トップパネル60は、軸方向に垂直に配置された概ね平板のクライオパネルである。トップパネル60は、中心領域62において第2ステージ24に固定されている。中心領域62は凹部を有し、この凹部においてトップパネル60は適切な固定部材64(例えばボルト)を用いて第2ステージ24に固定される(
図2及び
図3参照)。凹部の周囲には上方に向かう段部65が形成されている。段部65の高さは固定部材64を凹部に収容するように定められている。段部65から径方向外向きに外側領域63が延びている。外側領域63の径方向末端は下方に屈曲されており、トップパネル60の外周端部66が形成されている。トップパネル60は、
図2に示されるように、概ね円板状のパネルである。
【0020】
なおトップパネル60は、固定部材64を収容する中心領域62の凹部を有していなくてもよい。この場合、トップパネル前面61は、段部65を有しない平坦面であってもよい。また、本実施形態ではトップパネル60は吸着剤を備えていないが、例えばその裏面に吸着剤が設けられていてもよい。
【0021】
図2は、本発明の第1実施形態に係るトップパネル60を模式的に示す上面図である。第2クライオパネル20は、側方隙間43の幅W1と隙間部44の幅W2とを合わせるように形状が調整されている。つまり側方隙間43の幅W1と隙間部44の幅W2とは実質的に等しい。そのために、トップパネル60は、側方隙間43を拡幅する切り欠き部74を有する。この切り欠き部74は、弓形の形状を有する。なお下方の通常パネル67(
図1参照)についても同様に切り欠き部を有してもよい。
【0022】
また、第2クライオパネル20は、1つ又は複数の通常パネル67を含む。通常パネル67は、ガスをその表面に凝縮または吸着するために設けられている。通常パネル67は、トップパネル60の下方に配列されている。通常パネル67はトップパネル60と形状が異なる。通常パネル67は例えば、それぞれが円すい台の側面の形状、いわば傘状の形状を有する。各通常パネル67には活性炭等の吸着剤68が設けられている。吸着剤は例えば通常パネル67の裏面に接着されている。通常パネル67の前面は凝縮面、裏面は吸着面として機能することが意図されている。
【0023】
第1クライオパネル18は、クライオポンプ10の外部またはクライオポンプ容器38からの輻射熱から第2クライオパネル20を保護するために設けられているクライオパネルである。第1クライオパネル18は第1ステージ22に熱的に接続されている。よって第1クライオパネル18は第1温度レベルに冷却される。第1クライオパネル18は第2クライオパネル20との間に隙間を有しており、第1クライオパネル18は第2クライオパネル20と接触していない。
【0024】
放射シールド30は、クライオポンプ容器38の輻射熱から第2クライオパネル20を保護するために設けられている。放射シールド30は、クライオポンプ容器38と第2クライオパネル20との間にあり、第2クライオパネル20を囲む。放射シールド30は、主開口であるシールド開口26を画定するシールド前端28と、シールド開口26に対向するシールド底部34と、シールド前端28からシールド底部34へと延在するシールド側部36と、を備える。シールド開口26は吸気口12に位置する。放射シールド30は、シールド底部34が閉塞された筒形(例えば円筒)の形状を有し、カップ状に形成されている。
【0025】
放射シールド30は、冷凍機16の取付座37を備える。取付座37は、放射シールド30の外から見て窪んでおり、冷凍機16を放射シールド30に取り付けるための平坦部分をシールド側部36に形成する。取付座37は、第2クライオパネル20の側方に位置する。上述のように冷凍機16の第2ステージ24の上面にトップパネル60が直に取り付けられ、そのためトップパネル60は第2ステージ24と同じ高さにあるので、取付座37はトップパネル60の側方に位置する。
【0026】
シールド側部36は、全体として閉じた環状部分を形成する。シールド側部36は、取付座37と開環状部分41とを備える(
図2参照)。開環状部分41は、周方向に延びるC字状のシールド部分であり、取付座37に周方向に隣接する。開環状部分41は、取付座37とともに第2クライオパネル20を囲み、閉じた環状部分を形成する。第2クライオパネル20と取付座37との間には側方隙間43が形成され、第2クライオパネル20と開環状部分41との間にはC字状の隙間部44が形成されている。隙間部44は、側方隙間43に連続して、閉じた環状隙間を形成する。隙間部44は、周方向に一定の幅を有する。
【0027】
図1に示されるように、取付座37には冷凍機16の取付孔42があり、その取付孔42から冷凍機16の第2ステージ24及び第2シリンダ25が放射シールド30の中に挿入されている。冷凍機16の第1ステージ22は放射シールド30の外に配置されている。放射シールド30は、伝熱部材45を介して第1ステージ22に接続されている。伝熱部材45は、その一端のフランジにより取付孔42の外周部に固定され、他端のフランジにより第1ステージ22に固定されている。伝熱部材45は、例えば中空の短筒であり、冷凍機16の中心軸に沿って放射シールド30と第1ステージ22との間に延びている。こうして放射シールド30は第1ステージ22に熱的に接続されている。なお放射シールド30は第1ステージ22に直接取り付けられてもよい。
【0028】
第2シリンダ25と取付孔42との間には、シールド開口26に近い側に上方隙間46が形成され、シールド開口26から遠い側に下方隙間48が形成されている。冷凍機16は取付孔42の中心に挿入されているので、上方隙間46の幅は下方隙間48の幅と等しい。
【0029】
本実施形態においては、放射シールド30は図示されるような一体の筒状に構成されている。これに代えて、放射シールド30は、複数のパーツにより全体として筒状の形状をなすように構成されていてもよい。これら複数のパーツは互いに間隙を有して配設されていてもよい。例えば、放射シールド30は軸方向に2つの部分に分割されていてもよい。この場合、放射シールド30の上部は、両端が開放された筒であり、シールド前端28とシールド側部36の第1部分とを備える。放射シールド30の下部は、上端が開放され下端が閉じられており、シールド側部36の第2部分とシールド底部34とを備える。シールド側部36の第1部分と第2部分との間には周方向に延びる間隙が形成されている。冷凍機16の取付孔42はその上半分がシールド側部36の第1部分に形成され、下半分がシールド側部36の第
2部分に形成される。
【0030】
クライオポンプ10には、冷凍機16の第2シリンダ25を包囲する冷凍機カバー70が設けられている。冷凍機カバー70は第2シリンダ25よりも若干大径の円筒形状に形成されており、一端が第2ステージ24に取り付けられ、放射シールド30の取付孔42を通って第1ステージ22に向けて延びている。冷凍機カバー70と放射シールド30との間には間隙が設けられており、冷凍機カバー70と放射シールド30とは接触していない。冷凍機カバー70は第2ステージ24に熱的に接続されており、第2ステージ24と同じ温度に冷却される。よって、冷凍機カバー70は第2クライオパネル20の一部であるともみなされる。
【0031】
プレート部材32は、クライオポンプ10の外部の熱源からの輻射熱から第2クライオパネル20を保護するために、吸気口12(またはシールド開口26、以下同様)に設けられている入口クライオパネルである。クライオポンプ10の外部の熱源は、例えば、クライオポンプ10が取り付けられる真空チャンバ内の熱源である。輻射熱だけではなく気体分子の進入も制限される。プレート部材32は、吸気口12を通じた内部空間14への気体流入を所望量に制限するように吸気口12の開口面積の一部を占有する。プレート部材32は、吸気口12の大半を覆っている。また、プレート部材32の冷却温度で凝縮する気体(例えば水分)がその表面に捕捉される。
【0032】
シールド前端28とプレート部材32との間には軸方向にわずかな間隙がある。この間隙を覆って気体流れを規制するために、プレート部材32はスカート部33を備える。スカート部33はプレート部材32を取り巻く短筒である。スカート部33はプレート部材32とともに、プレート部材32を底面とする円形トレイ状の一体構造をなす。この円形トレイ構造は放射シールド30に被さるように配置されている。よって、スカート部33は、プレート部材32から軸方向下方に突き出して、シールド前端28に径方向に隣接して延びている。スカート部33とシールド前端28との径方向距離は例えば、放射シールド30の寸法公差程度である。
【0033】
シールド前端28とプレート部材32との間隙は製造上の誤差により変動し得る。そうした誤差は精密な部材の加工及び組付によって低減されうるが、それによる製造コストの上昇を考慮すると必ずしも現実的ではないかもしれない。誤差はクライオポンプ10の個体差につながる。仮にスカート部33がない場合には、間隙の大きさに応じて、放射シールド30の内側への気体の流入量が変わる。気体の流入量はクライオポンプ10の排気速度に直接関連する。間隙が大きすぎても、あるいは小さすぎても、実際の排気速度が設計上の性能から外れてしまう。シールド前端28とプレート部材32との間隙をスカート部33が覆うことによって、間隙を通じた気体流れが規制され、個体差が低減される。その結果、設計性能に対するクライオポンプ排気速度の個体差も小さくすることができる。
【0034】
シールド前端28及びプレート部材32は、クライオポンプ容器38の吸気口フランジ40を越えて軸方向上方に配置されている。このように、放射シールド30は、クライオポンプ10が取り付けられる真空チャンバに向けて延出している。放射シールド30を上方に延ばすことにより、凝縮層の主収容空間21を軸方向に広くすることができる。ただし、この延出部分の軸方向長さは、真空チャンバ(または真空チャンバとクライオポンプ10との間のゲートバルブ)に干渉しないように定められている。
【0035】
クライオポンプ容器38は、第1クライオパネル18、第2クライオパネル20、及び冷凍機16を収容するクライオポンプ10の筐体であり、内部空間14の真空気密を保持するよう構成されている真空容器である。クライオポンプ容器38の前端39によって、吸気口12が画定されている。クライオポンプ容器38は、前端39から径方向外側に向けて延びている吸気口フランジ40を備える。吸気口フランジ40は、クライオポンプ容器38の全周にわたって設けられている。吸気口フランジ40を用いてクライオポンプ10が真空チャンバに取り付けられる。
【0036】
図3は、本発明の第1実施形態に係るプレート部材32を模式的に示す上面図である。
図3においてはプレート部材32の下方にある代表的な構成要素を破線で示す。
【0037】
プレート部材32は、シールド開口26を横断する一枚の平板(例えば円板)を備える。プレート部材32の寸法(例えば直径)は、シールド開口26の寸法に一致する。プレート部材32は、プレート本体部50とプレート外縁部52とに区分けされる。プレート外縁部52は、プレート本体部50を放射シールド30に取り付けるためのリム部である。
【0038】
プレート部材32は、シールド前端28のプレート取付部29に取り付けられている。プレート取付部29は、シールド前端28から径方向内側に突き出す凸部であり、周方向に等間隔(例えば90°おき)に形成されている。プレート部材32は適切な手法でプレート取付部29に固定される。例えば、プレート取付部29及びプレート外縁部52はボルト孔(図示せず)を有し、プレート外縁部52がプレート取付部29にボルト留めされる。
【0039】
プレート部材32には気体流れを許容する多数の小孔54が形成されている。小孔54はプレート本体部50及びプレート外縁部52に形成された貫通孔である。よって、第2クライオパネル20(主としてトップパネル60)に凝縮されるべきガスを、小孔54を通じてプレート部材32と第2クライオパネル20との間の主収容空間21に受け入れることができる。なお小孔54は、プレート外縁部52のうちプレート取付部29の近傍には形成されていない。
【0040】
小孔54は規則的に配列されている。本実施形態においては、小孔54は、直交する二つの直線方向それぞれにおいて等間隔に設けられ、小孔54の格子を形成する。代案として、小孔54は、径方向及び周方向それぞれにおいて等間隔に設けられていてもよい。
【0041】
小孔54の形状は例えば円形であるが、これに限られず、小孔54は、矩形その他の形状を有する開口、直線状または曲線状に延びるスリット、または、プレート部材32の外周に形成された切り欠きであってもよい。小孔54の大きさは明らかにシールド開口26より小さい。
【0042】
プレート本体部50は、多数の小孔54を有するガス通過領域56と、プレート本体部50においてガス通過領域56と異なる場所に形成されているガス遮蔽領域58と、を備える。したがってプレート本体部50は、ガス通過領域56とガス遮蔽領域58とに区分けされる。ガス通過領域56とガス遮蔽領域58とは互いに隣接する。よって、プレート部材32はその表面の一部分に多数の小孔54を有し、それによりガス通過領域56が形成されている。また、プレート部材32にはガス遮蔽領域58が局所的に形成されている。
【0043】
図3においては、ガス通過領域56とガス遮蔽領域58との境界を一点鎖線で示す。本実施形態においては、ガス通過領域56とガス遮蔽領域58との境界は、トップパネル60の外側領域63と中心領域62との境界(すなわち段部65)の内側にある。このようにして、ガス通過領域56はトップパネル60の外側領域63に対向し、ガス遮蔽領域58はトップパネル60の中心領域62に対向する。
【0044】
ガス通過領域56とガス遮蔽領域58との境界は、後述するように、トップパネル前面61に成長する凝縮層72(
図4参照)の形状制御のために設定される。したがって、凝縮層72を所望の形状に成長させるために、ガス通過領域56とガス遮蔽領域58との境界は図示と異なっていてもよい。この境界は、トップパネル60の外側領域63と中心領域62との境界に一致していてもよいし、その外側にあってもよいし、あるいは交差していてもよい。また、ガス通過領域56とガス遮蔽領域58との境界の形状は円形に限られず、その他の任意の形状であってもよい。
【0045】
ガス遮蔽領域58は、小孔54の規則的配列から少なくとも1つの小孔を欠落させることによって形成される。
図3に示されるように、ガス遮蔽領域58は、ガス通過領域56における小孔54の規則的配列に仮に従ったとしたら形成されたであろう4つの小孔(プレート本体部50の中心部に二重破線で示す)を含む領域である。ガス遮蔽領域58には小孔が設けられていないので、ガス遮蔽領域58はガスを通さない。
【0046】
ガス遮蔽領域58に少なくとも1つの小孔が設けられていてもよい。例えば、破線で図示する仮想的小孔の場所の全数には小孔を形成しないことによって(つまり、ガス通過領域56における規則的配列に比べて小孔54の数を減らすことによって)、ガス遮蔽領域58が形成されていてもよい。あるいは、仮想的小孔の場所に、ガス通過領域56の小孔54より小さい穴が形成されてもよい。こうした微小開口は、仮想的小孔の場所と同数またはそれより少数設けられていてもよい。このようにしても、ガス遮蔽領域58におけるガス流れを、ガス通過領域56に比べて制限することができる。
【0047】
したがって、ガス通過領域56においては第1の分布で小孔が形成され、ガス遮蔽領域58においては小孔が形成されていないか又は第1の分布と異なる第2の分布で小孔が形成されていてもよい。第2の分布は例えば、ガス遮蔽領域58における単位面積あたりの開口面積がガス通過領域56における単位面積あたりの開口面積より小さいように定められる。ここで開口面積とは小孔の面積の合計である。また、第1の分布は規則性を有しなくてもよい。よって、ガス通過領域56の小孔54は不規則に並んでいてもよい。
【0048】
なお、プレート部材32が有する開口面積の合計は、例えば排気速度などの要求性能に従って設計上決定される。したがって、ガス遮蔽領域58を設定するために小孔を欠落または縮小するに当たっては、それによる開口面積の減少を補うことが好ましい。そのために、ガス通過領域56に新たな小孔54が追加されてもよいし、既存の小孔54が拡大されてもよい。既存の小孔54の場所が変更されてもよい。
【0049】
上記の構成のクライオポンプ10による動作を以下に説明する。クライオポンプ10の作動に際しては、まずその作動前に他の適当な粗引きポンプで真空チャンバ内部を例えば1Pa程度にまで粗引きする。その後クライオポンプ10を作動させる。冷凍機16の駆動により第1ステージ22及び第2ステージ24が冷却され、これらに熱的に接続されている第1クライオパネル18、第2クライオパネル20も冷却される。第1クライオパネル18及び第2クライオパネル20はそれぞれ、第1温度及びそれより低い第2温度に冷却される。
【0050】
プレート部材32は、真空チャンバからクライオポンプ10内部へ向かって飛来する気体分子を冷却し、その冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体(例えば水分など)を表面に凝縮させて排気する。プレート部材32の冷却温度では蒸気圧が充分に低くならない気体は、多数の小孔54を通過して主収容空間21へと進入する。あるいは、気体の一部は、プレート部材32のガス遮蔽領域58で反射され、主収容空間21に進入しない。
【0051】
進入した気体分子のうち第2クライオパネル20の冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体(例えばアルゴンなど)は、第2クライオパネル20の表面(主に、トップパネル前面61)に凝縮されて排気される。その冷却温度でも蒸気圧が充分に低くならない気体(例えば水素など)は、第2クライオパネル20の表面に接着され冷却されている吸着剤68により吸着されて排気される。このようにしてクライオポンプ10は真空チャンバの真空度を所望のレベルに到達させることができる。
【0052】
図4は、排気運転中のクライオポンプ10を模式的に示す図である。
図4に示されるように、クライオポンプ10のトップパネル60には凝縮した気体からなる氷または霜が堆積している。この凝縮層72の主成分は例えばアルゴンである。この氷層は排気運転時間とともに成長して厚みが増していく。なお
図4においては、簡明化のため、通常パネル67及び冷凍機カバー70に堆積する凝縮層は図示を省略している。
【0053】
プレート部材32がガス遮蔽領域58を有しない場合(つまり、プレート部材32が
図3に示す二重破線の小孔を有する場合)には、
図4に破線で示すように、ドーム型またはマッシュルーム型の凝縮層がトップパネル60に成長する。多数の小孔54をプレート部材32上に一様に分布させた場合には、ガスが主収容空間21の中心部に流入しやすい。そのため、図示されるように中心部への凝縮の集中が起こりやすい。また、プレート部材32の取付のためにプレート外縁部52の小孔54の数が少ないことも中心部への凝縮集中の一因でありうる。
【0054】
ドーム型の凝縮層がさらに径方向に成長すると、凝縮層の外周部がシールド側部36に接触しうる。仮に、取付座37とトップパネル60との間の隙間が狭ければ、凝縮層はまず取付座37に接触する。接触部位でガスは再び気化され、主収容空間21及びクライオポンプ10の外部に放出されてしまう。よって、それ以降クライオポンプ10は設計上の排気性能を提供することができない。したがって、このときのガスの吸蔵量がクライオポンプ10の最大吸蔵量を与える。凝縮層の局所部分(この場合、取付座37付近の凝縮層)がクライオポンプ10のガス吸蔵限界を決定している。
【0055】
クライオポンプは一般に軸対称に設計されている。しかし横型のクライオポンプ10は冷凍機16が横向きに配置されるので、必然的に非対称部分(例えば取付座37)をもつ。本実施形態においては、そうした非対称部分にトップパネル60の形状を合わせ、トップパネル60と放射シールド30との隙間の幅を周方向にそろえている。トップパネル60上において径方向に成長する凝縮層の特定部位(この場合、取付座37付近の凝縮層)のみが先行して放射シールド30に接触することを回避することができる。その結果、本実施形態によると、クライオポンプ10のガス吸蔵量を向上することができる。
【0056】
また、ドーム型の凝縮層がさらに軸方向に成長すると、中心軸A付近の凝縮層頂上部がプレート部材32の下面に接触しうる。このときのガスの吸蔵量がクライオポンプ10の最大吸蔵量を与える。凝縮層の局所部分(この場合、中心軸A付近の凝縮層頂上部)がクライオポンプ10のガス吸蔵限界を決定している。
【0057】
プレート部材32がガス遮蔽領域58を有する場合(つまり、プレート部材32が
図2に示す二重破線の小孔を有しない場合)には、
図4に実線で示すように、円柱型の凝縮層72がトップパネル60に成長する。ガス遮蔽領域58によって主収容空間21の中心部へのガス流入が制限されているので、中心部への凝縮の集中が緩和される。その結果、円柱型の凝縮層72は、矢印Dで図示するように、中心軸A付近の凝縮層の高さがドーム型の凝縮層に比べて小さくなる。一方、矢印Eで図示するように、外周部の凝縮層高さはドーム型の凝縮層に比べて大きくなる。
【0058】
このようにして、本実施形態によると、トップパネル前面61に成長する凝縮層上面の高さ分布を均一化することができる。凝縮層72の形状を主収容空間21に合わせることにより、主収容空間21における凝縮層72の収容効率が高くなる。こうして、クライオポンプ10のガス吸蔵量を向上することができる。
【0059】
図5は、本発明の第2実施形態に係るクライオポンプ10の主要部を模式的に示す側断面図である。第2実施形態に係るクライオポンプ10は、第2クライオパネル20に関して第1実施形態と異なる配置を有する。その余については、第2実施形態は第1実施形態と同様である。以下の説明では同様の箇所については冗長を避けるため説明を適宜省略する。
【0060】
図5に示されるように、第2クライオパネル20は、側方隙間43の幅と隙間部44の幅とを合わせるように配置が調整されている。矢印Fで図示するように、第2クライオパネル20は、取付座37から第2クライオパネル20を離すように、中心軸Aから第2クライオパネル20の中心を外して配置されている。第2クライオパネル20は、冷凍機16の高温側から離れるように中心線Aから偏心している。こうして、側方隙間43は広げられ、中心軸Aを挟んで反対側では隙間部44が狭くされている。第2実施形態においては、トップパネル60は切り欠き部74を有しない。このようにしても、第1実施形態と同様に、トップパネル60に成長する凝縮層側面を囲む隙間の幅を均一化することができる。なお、ある実施形態においては、トップパネル60が切り欠き部74を有するとともに、第2クライオパネル20が偏心して配置されていてもよい。
【0061】
図6は、本発明の第3実施形態に係るクライオポンプ10の主要部を模式的に示す側断面図である。第3実施形態に係るクライオポンプ10は、冷凍機16に関して既述の実施形態と異なる配置を有する。その余については、第3実施形態は既述の実施形態と同様である。以下の説明では同様の箇所については冗長を避けるため説明を適宜省略する。
【0062】
図6に示されるように、冷凍機16は、上方隙間46の幅G1は下方隙間48の幅G2より広くなるように配置されている。これにより、冷凍機カバー70と放射シールド30との間の空間を広くすることができる。主収容空間21に近接する上方隙間46を広げることにより、より多くの凝縮層を収容することができる。また、第2クライオパネル20が全体的に下方に移動されているので、既述の実施形態に比べて主収容空間21を軸方向に広げることもできる。こうして、クライオポンプ10のガス吸蔵量を向上することができる。
【0063】
以上説明したように、本発明の実施形態によると、放射シールド30とトップパネル60との間の隙間を実質的に均一にするようにトップパネル60の形状または配置が定められている。これにより、トップパネル60に堆積する凝縮層において特定部分への凝縮集中を抑制することができる。それにより、主収容空間21における凝縮層の収容効率を改善し、クライオポンプ10のガス吸蔵量を向上することができる。
【0064】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0065】
例えば、第1実施形態ないし第3実施形態のいずれかに関連して説明した構成と、第1実施形態ないし第3実施形態の他のいずれかに関連して説明した構成と組み合わせて、クライオポンプ10を構成することも可能である。
【0066】
また、クライオポンプ10は、プレート部材32に代えて、シールド開口26に配設されている入口クライオパネルを備えてもよい。入口クライオパネルは、例えば、1枚又は複数枚の平板(例えば円板)のプレートを備えてもよいし、同心円状または格子状に形成されたルーバーまたはシェブロンを備えてもよい。ルーバーまたはシェブロンの羽板の形状、配置、または間隔を調整することによって、ガス通過領域56及びガス遮蔽領域58がシールド開口26に形成されてもよい。
【0067】
上述の実施形態においては、プレート部材32は二種類の領域、つまりガス通過領域56及びガス遮蔽領域58に区分されている。プレート部材32は三種以上の領域を有してもよい。プレート部材32には第3の領域として、ガス通過領域56よりもガスを通しやすい領域が形成されていてもよいし、ガス遮蔽領域58よりもガスを通しにくい領域が形成されていてもよい。
【0068】
本発明の実施形態は以下のように表現することもできる。
【0069】
1.第1ステージと、前記第1ステージより低温に冷却される第2ステージと、を備える冷凍機と、
主開口を有する放射シールドと、前記主開口を横断するプレート部材と、を備え、前記第1ステージに熱的に接続されている第1クライオパネルと、
前記第1クライオパネルに囲まれており、前記第2ステージに熱的に接続されている第2クライオパネルと、を備え、
前記プレート部材は、プレート本体部と、前記プレート本体部を前記放射シールドに取り付けるための外縁部と、を備え、
前記プレート本体部は、前記第2クライオパネルに凝縮されるガスを通すための多数の小孔を有するガス通過領域と、前記本体部において前記ガス通過領域と異なる場所に形成されているガス遮蔽領域と、を備えることを特徴とするクライオポンプ。
【0070】
2.前記第2クライオパネルは、前記プレート本体部に対向する前面を備え、前記前面は、中心領域と、前記中心領域を囲む外側領域と、を備え、
前記ガス通過領域は、前記外側領域に対向し、前記ガス遮蔽領域は、前記中心領域に対向することを特徴とする実施形態1に記載のクライオポンプ。
【0071】
3.前記放射シールドは、前記第2クライオパネルを囲む側部を備え、前記側部と前記第2クライオパネルとの間には、狭窄部を有する隙間が形成されており、
前記ガス遮蔽領域は、前記狭窄部に対応する場所に形成されていることを特徴とする実施形態1または2に記載のクライオポンプ。
【0072】
4.前記放射シールドは、前記第2クライオパネルの側方に位置し前記冷凍機を前記放射シールドに取り付けるための取付座と、前記取付座に隣接して前記第2クライオパネルを囲む環状部分と、を備え、
前記第2クライオパネルと前記取付座との間には側方隙間が形成され、前記第2クライオパネルと前記環状部分との間には前記側方隙間に連続する環状隙間が形成されており、
前記側方隙間の幅と前記環状隙間の幅とを合わせるように前記第2クライオパネルの形状または配置が調整されていることを特徴とする実施形態1から3のいずれかに記載のクライオポンプ。
【0073】
5.前記第2クライオパネルは、前記側方隙間を拡幅する切り欠き部を有することを特徴とする実施形態4に記載のクライオポンプ。
【0074】
6.前記第2クライオパネルは、前記取付座から前記第2クライオパネルを離すように、前記主開口を通る軸線から前記第2クライオパネルの中心を外して配置されていることを特徴とする実施形態4または5に記載のクライオポンプ。
【0075】
7.前記放射シールドには、前記冷凍機のための取付孔が形成されており、
前記冷凍機は、前記第1ステージと前記第2ステージとを接続する接続部分を備え、前記接続部分は、前記取付孔に挿入されており、
前記接続部分と前記取付孔との間には、前記主開口に近い側に上方隙間が形成され、前記主開口から遠い側に下方隙間が形成され、前記上方隙間の幅は前記下方隙間の幅より広いことを特徴とする実施形態1から6のいずれかに記載のクライオポンプ。
【0076】
8.クライオポンプを用いる真空排気方法であって、
前記クライオポンプは、主開口を横断するプレート部材と、前記プレート部材に対向する第2クライオパネルと、を備え、
前記方法は、
前記プレート部材及び前記第2クライオパネルをそれぞれ、第1温度及びそれより低い第2温度に冷却することと、
前記プレート部材の表面の一部に形成されている多数の小孔を通じて、前記プレート部材と前記第2クライオパネルとの間にガスを受け入れることと、
前記ガスを前記第2クライオパネルに凝縮することと、を備えることを特徴とする方法。
【0077】
9.主開口を有する放射シールドと、前記主開口を横断するプレート部材と、を備える第1クライオパネルと、
前記プレート部材に対向する前面を備え、前記第1クライオパネルより低温に冷却される第2クライオパネルと、を備え、
前記前面は、中心領域と、前記中心領域を囲む外側領域と、を備え、
前記プレート部材は、前記第2クライオパネルに凝縮されるガスを通すための多数の小孔を有し前記外側領域に対向するガス通過領域と、前記中心領域に対向するガス遮蔽領域と、を備えることを特徴とするクライオポンプ。
【0078】
10.主開口を有する放射シールドと、前記主開口に配設されている入口クライオパネルと、を備える第1クライオパネルと、
前記第1クライオパネルに囲まれており、前記第1クライオパネルより低温に冷却される第2クライオパネルと、を備え、
前記放射シールドは、前記第2クライオパネルを囲む側部を備え、前記側部と前記第2クライオパネルとの間には、狭窄部を有する隙間が形成されており、
前記入口クライオパネルは、前記狭窄部に対応する場所にガス遮蔽領域を備えることを特徴とするクライオポンプ。
【0079】
11.第1ステージと、前記第1ステージより低温に冷却される第2ステージと、を備える冷凍機と、
主開口を有する放射シールドと、前記主開口に配設されている入口クライオパネルと、を備え、前記第1ステージに熱的に接続されている第1クライオパネルと、
前記第1クライオパネルに囲まれており、前記第2ステージに熱的に接続されている第2クライオパネルと、を備え、
前記放射シールドは、前記第2クライオパネルの側方に位置し前記冷凍機を前記放射シールドに取り付けるための取付座と、前記取付座に隣接して前記第2クライオパネルを囲むシールド部分と、を備え、
前記第2クライオパネルと前記取付座との間には側方隙間が形成され、前記第2クライオパネルと前記シールド部分との間には前記側方隙間に連続する隙間部が形成されており、
前記側方隙間の幅と前記隙間部の幅とを合わせるように前記第2クライオパネルの形状または配置が調整されていることを特徴とするクライオポンプ。
【0080】
12.前記第2クライオパネルは、前記側方隙間を拡幅する切り欠き部を有することを特徴とする実施形態11に記載のクライオポンプ。
【0081】
13.前記第2クライオパネルは、前記取付座から前記第2クライオパネルを離すように、前記主開口を通る軸線から前記第2クライオパネルの中心を外して配置されていることを特徴とする実施形態11または12に記載のクライオポンプ。
【0082】
14.前記第2クライオパネルは、前記入口クライオパネルに対向する前面を備え、前記前面は、中心領域と、前記中心領域を囲む外側領域と、を備え、
前記入口クライオパネルは、前記第2クライオパネルに凝縮されるガスを通すためのガス通過領域と、ガス遮蔽領域と、を備え、前記ガス通過領域は、前記外側領域に対向し、前記ガス遮蔽領域は、前記中心領域に対向することを特徴とする実施形態11から13のいずれかに記載のクライオポンプ。
【0083】
15.前記ガス通過領域は、多数の小孔を有するプレート部分を備えることを特徴とする実施形態14に記載のクライオポンプ。
【0084】
16.前記放射シールドには、前記冷凍機のための取付孔が形成されており、
前記冷凍機は、前記第1ステージと前記第2ステージとを接続する接続部分を備え、前記接続部分は、前記取付孔に挿入されており、
前記接続部分と前記取付孔との間には、前記主開口に近い側に上方隙間が形成され、前記主開口から遠い側に下方隙間が形成され、前記上方隙間の幅は前記下方隙間の幅より広いことを特徴とする実施形態11から15のいずれかに記載のクライオポンプ。