【文献】
Masuhiro Kogoma et.al,Improvement of Adhesive strength of Polytetrafluoroethylene by Defluorination Treatment with Combination of Atmospheric Pressure Glow Plasma Treatment and Chemical Transport Method,J. Photopolym. Sci. Technol.,2011年,Vol.24,Num.4,441-445
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第2の電極間に生成ガスを導入した後に前記第2の電極間に電圧を印加して前記生成ガスのプラズマを発生させることにより前記珪素含有ガスおよび前記ホウ素含有ガスの少なくとも一方を生成する工程をさらに含む、請求項1から3のいずれか1項に記載のフッ素含有樹脂の表面処理方法。
前記珪素含有ガスおよび前記ホウ素含有ガスの少なくとも一方を生成する工程の後に、前記珪素含有ガスおよび前記ホウ素含有ガスの少なくとも一方を含むガスを他のガスと混合することによって前記処理ガスを生成する工程をさらに含む、請求項4または5に記載のフッ素含有樹脂の表面処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一例である実施の形態について説明する。なお、本明細書の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0016】
<実施の形態1>
(フッ素含有樹脂の表面処理装置)
図1に、実施の形態1のフッ素含有樹脂の表面処理装置の模式的な断面図を示す。実施の形態1のフッ素含有樹脂の表面処理装置10は、絶縁体管31と、互いに対向するように絶縁体管31の外周面31a上に配置されている一対の第1の電極11a,11bと、第1の電極11a,11bとは間隔d1を空けて、互いに対向するように絶縁体管31の外周面31a上に配置されている一対の第2の電極21a,21bとを含んでいる。間隔d1は、特に限定されないが、たとえば5mm以上300mm以下とすることができる。実施の形態1のフッ素含有樹脂の表面処理装置10においては、上流側から下流側にかけて、第2の電極21a,21bおよび第1の電極11a,11bがこの順に配置されている。すなわち、第2の電極21a,21bが、第1の電極11a,11bの上流側に配置されている。
【0017】
絶縁体管31は、外周面31aと内周面31bとを有する筒状となっており、内周面31bの内側は空洞となっている。
【0018】
絶縁体管31は、絶縁性の材料であれば特に限定されず、たとえば石英のほかアルミナなどのセラミックを用いることができる。
【0019】
絶縁体管31の厚さ(外周面31aと内周面31bとの間の距離)は、0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。絶縁体管31の厚さが0.5mm以上である場合には、絶縁体管31が良好な絶縁性を有する。絶縁体管31の厚さが5mm以下である場合には、絶縁体管31の熱伝導性が良好となり、放電により発生した熱を絶縁体管31が蓄積して発熱するのを抑制することができる。
【0020】
第1の電極11a,11bは互いに絶縁されており、電極11aは電圧印加装置61に接続され、電極11bは接地されている。これにより、電圧印加装置61から電極11aに電圧が印加されることにより、第1の電極11a,11b間に電圧が印加されることになる。また、第1の電極11a,11b間の距離は、絶縁体管31の厚さ、印加電圧の大きさ、プラズマを利用する目的などを考慮して適宜決定することができるが、0.5mm以上30mm以下であることが好ましい。第1の電極11a,11b間の距離が0.5mm以上30mm以下である場合には、第1の電極11a,11b間に容易にフッ素含有樹脂を含有する被処理体51を設置することができるとともに、より均一な放電プラズマを発生させることができる。
【0021】
第2の電極21a,21bは互いに絶縁されており、電極21aは電圧印加装置62に接続され、電極21bは接地されている。これにより、電圧印加装置62から電極21aに電圧が印加されることにより、第2の電極21a,21b間に電圧が印加されることになる。
【0022】
第1の電極11a,11bおよび第2の電極21a,21bは、導電性の材料であれば特に限定されず、たとえば、銅、ステンレス、アルミニウム、タングステン、モリブデンまたはチタンなどの金属を用いることができる。
【0023】
また、電圧印加装置61,62としては、たとえば従来から公知の高周波電源などを用いることができる。
【0024】
また、
図2の模式的構成図に示すように、絶縁体管31の下流側の出口に、絶縁体管31に導入されたガス41を用いてフッ素含有樹脂の表面処理を行なった後に排出される排ガス43を処理して無害化ガス45とする排ガス用スクラバー30を具備することが好ましい。
【0025】
(フッ素含有樹脂の表面処理方法)
[事前準備工程]
以下、実施の形態1のフッ素含有樹脂の表面処理方法について説明する。まず、
図1に示すフッ素含有樹脂の表面処理装置10を用意し、第1の電極11a,11b間の絶縁体管31の内周面31bの領域上にフッ素含有樹脂を含有する被処理体51を設置するとともに、第2の電極21a,21b間の絶縁体管31の内周面31bの領域上に珪素(Si)含有ガスおよびホウ素(B)含有ガスの少なくとも一方を生成するための前駆体固体52を設置する。
【0026】
ここで、フッ素含有樹脂としては、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)および三フッ化塩化エチレン(PCTFE)からなる群から選択された少なくとも1つを用いることができる。
【0027】
また、前駆体固体52としては、Siおよび/またはBを含む固体を用いることができ、たとえば、Siおよび/またはBの粉末(たとえば粒径100μm以下)をバインダーを用いて板状に成形したものなどを用いることができる。バインダーとしては、たとえば、エポキシ樹脂若しくはポリエチレン樹脂などの有機物、またはアルミナ含有無機接着剤などの無機物を用いることができる。
【0028】
[処理ガスの生成工程]
次に、絶縁体管31の内周面31bの内側にガス41を導入し、電圧印加装置62から第2の電極21aに電圧を印加することによって、第2の電極21a,21b間に電圧を印加する。これにより、第2の電極21a,21b間にガス41のプラズマが発生し、ガス41のプラズマと前駆体固体52とが反応することによってSi含有ガスおよびB含有ガスの少なくとも一方が生成し、Si含有ガスおよびB含有ガスの少なくとも一方を含む処理ガス42が生成する。
【0029】
絶縁体管31に導入されるガス41としては、たとえば、第2の電極21a,21b間にプラズマを発生させることによって、Si含有ガスおよびB含有ガスの少なくとも一方を生成するための生成ガスを用いることができる。生成ガスとしては、たとえば、水素(H
2)を含有するガスを用いることができ、特に、Si含有ガスとしてのシラン(SiH
4)の生成および/またはB含有ガスとしてのジボラン(B
2H
6)の生成の観点からは、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)および窒素(N
2)からなる群から選択された少なくとも1つの不活性ガスに、0.1体積%〜4体積%のH
2を混合した混合ガスを用いることが好ましい。
【0030】
第2の電極21a,21b間で発生するガス41のプラズマとしては、たとえば、大気圧近傍の圧力下で発生させられる大気圧プラズマとすることができる。なお、本明細書において、「大気圧近傍の圧力」は、絶縁体管31の内周面31bの内側の圧力が6×10
4Pa以上2.1×10
5Pa以下の範囲内の圧力であることを意味しており、特に9.3×10
4Pa以上1.07×10
5Pa以下の範囲内の圧力であることが好ましい。
【0031】
また、第2の電極21a,21b間に印加される電圧は、装置の構成やサイズに依存し、適宜調節可能であるが、第2の電極21a,21b間で発生するガス41のプラズマを、たとえば、大気圧近傍の圧力下で発生させられる大気圧プラズマとする場合には、たとえば出力が数10W〜数10kW程度となるように調節されることが好ましい。
【0032】
また、第2の電極21a,21b間に高周波電圧を印加する場合には、高周波電圧の周波数は、たとえば1kHz以上100MHz以下とすることができる。電圧の波形は、正弦波であってもよく、パルス波であってもよい。
【0033】
実施の形態1のフッ素含有樹脂の表面処理方法においては、処理ガス42におけるSi含有ガスとB含有ガスとの合計濃度(処理ガス42全体の体積に対するSi含有ガスの体積比とB含有ガスの体積比との和)は、0.05ppm以上200ppm以下とされる。これは、本発明者が鋭意検討した結果、処理ガス42におけるSi含有ガスとB含有ガスとの合計濃度を、0.05ppm以上200ppm以下とした場合には、後述する第1の電極11a,11b間で発生させた処理ガス42のプラズマによるフッ素含有樹脂を含有する被処理体51の表面処理により、被処理体51の当該処理後の表面と他の材料との接着力を向上させることができるとともに、装置の腐食を抑制できることを見い出したことによるものである。
【0034】
なお、前駆体固体52から発生するSi含有ガスおよびB含有ガスの濃度は、それぞれ、たとえば以下のように測定することができる。B含有ガスは、たとえば、絶縁体管31の出口等から処理ガス42を水に捕集し、水に捕集された処理ガス42中のB濃度をICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置で測定し、その測定値をB
2H
6濃度に換算した値をB含有ガス濃度とされる。また、Si含有ガスは、たとえば、処理ガス42をガス捕集バッグに捕集し、ガス捕集バッグに捕集された処理ガス42中のSi濃度をガスクロマトグラフにより測定した値をSi含有ガス濃度とされる。
【0035】
処理ガス42におけるSi含有ガスとB含有ガスとの合計濃度は、たとえば第2の電極21a,21bの温度を調節することにより、0.05ppm以上200ppm以下とすることができる。なかでも、第2の電極21a,21bの温度を80℃以上250℃以下としてガス41のプラズマを発生させることが好ましい。第2の電極21a,21bの温度が80℃以上である場合には、処理ガス42におけるSi含有ガスとB含有ガスとの合計濃度を0.05ppm以上とすることができる傾向が大きくなる。また、第2の電極21a,21bの温度が250℃以下である場合には、処理ガス42におけるSi含有ガスとB含有ガスとの合計濃度を200ppm以下とすることができるとともに、前駆体固体52を構成するバインダー成分の飛散によってガス41のプラズマと前駆体固体52との反応に対する悪影響を抑えることができる傾向が大きくなる。なお、第2の電極21a,21bの温度は、たとえば、第2の電極21a,21bに設けられた冷却機構および/または加熱機構によって調節することが可能である。このような冷却機構および/または加熱機構を設けることによって、第2の電極21a,21bの温度を所定範囲内の温度に制御することができ、処理ガス42中におけるSi含有ガスとB含有ガスとの合計濃度を安定して0.05ppm以上200ppm以下の範囲内に制御することができる。ただし、他の材料との接着力をさらに向上させる観点からは、処理ガス42中におけるSi含有ガスとB含有ガスとの合計濃度は1ppm以上100ppm以下であることがより好ましい。
【0036】
なお、処理ガス42におけるSi含有ガスとB含有ガスとの合計濃度は、具体的には、以下の(a)〜(c)のうちのいずれか1つとなる。
【0037】
(a)処理ガス42にSi含有ガスおよびB含有ガスの双方が含まれている場合には、処理ガス42全体の体積に対するSi含有ガスの体積比とB含有ガスの体積比との和。
【0038】
(b)処理ガス42にSi含有ガスが含まれているが、B含有ガスが含まれていない場合には、処理ガス42全体の体積に対するSi含有ガスの体積比。
【0039】
(c)処理ガス42にB含有ガスが含まれているが、Si含有ガスが含まれていない場合には、処理ガス42全体の体積に対するB含有ガスの体積比。
【0040】
なお、処理ガス42に含まれるSi含有ガスは、SiH
4、ジシラン(Si
2H
6)および酸素原子を含まない有機シラン化合物からなる群から選択された少なくとも1つであることが好ましく、SiH
4であることがより好ましい。この場合には、第1の電極11a,11b間で発生させた処理ガス42のプラズマによるフッ素含有樹脂を含有する被処理体51の表面処理をより効果的に行なうことができるため、被処理体51の当該処理後の表面と他の材料との接着力をより向上させることができる。なお、酸素原子を含まない有機シラン化合物としては、たとえば、テトラメチルシランまたはテトラエチルシランなどを挙げることができる。酸素原子を含まない有機シラン化合物は、たとえば、He、Ar、N
2およびH
2からなる群から選択された少なくとも1つのキャリアガスを導入して気化させた状態で、フッ素含有樹脂を含有する被処理体51の表面処理工程に導入することができる。
【0041】
処理ガス42に含まれるB含有ガスは、B
2H
6および酸素原子を含まない有機ボロン化合物からなる群から選択された少なくとも1つであることが好ましく、B
2H
6であることがより好ましい。この場合には、第1の電極11a,11b間で発生させた処理ガス42のプラズマによるフッ素含有樹脂を含有する被処理体51の表面処理をより効果的に行なうことができるため、被処理体51の当該処理後の表面と他の材料との接着力をより向上させることができる。なお、酸素原子を含まない有機ボロン化合物としては、たとえば、トリメチルボロンまたはトリエチルボロンなどを挙げることができる。酸素原子を含まない有機ボロン化合物は、たとえば、He、Ar、N
2およびH
2からなる群から選択された少なくとも1つのキャリアガスを導入して気化させた状態で、フッ素含有樹脂を含有する被処理体51の表面処理工程に導入することができる。
【0042】
処理ガス42には、Si含有ガスおよびB含有ガス以外にも、たとえば、He、Ar、N
2およびH
2からなる群から選択された少なくとも1つが含まれていてもよい。
【0043】
Si含有ガスおよびB含有ガスの少なくとも一方を含む処理ガス42は、酸素原子を含まないガスであることが好ましい。処理ガス42中に酸素原子が含まれる場合には後述する第1の電極11a,11b間で発生させた処理ガス42のプラズマによるフッ素含有樹脂を含有する被処理体51の表面処理において、気相中のプラズマとの反応によってSiおよび/またはBの酸化反応が生じるため、Siおよび/またはBによって被処理体51の表面のFを十分に除去することができないおそれがある。また、被処理体51の表面のアッシング(灰化)も進行し、被処理体51の表面のFが除去されたとしても被処理体51の内部のFが露出する。したがって、処理ガス42に含まれるSi含有ガスとしては有機シラン化合物も有効であり、B含有ガスとしては有機ボロン化合物も有効であるが、処理ガス42に含まれる有機シラン化合物および/または有機ボロン化合物としては、Siおよび/またはBのアルコキシドのような酸素原子を含むものではなく、酸素原子を含まない有機シラン化合物および/または酸素原子を含まない有機ボロン化合物であることが好ましい。
【0044】
また、上記と同様の理由により、処理ガス42のSi含有ガスおよびB含有ガス以外のガス成分にもなるべく酸素原子が含まれていないことが好ましく、処理ガス42における酸素濃度(処理ガス42全体の体積に対する酸素の体積比)は、100ppm以下とされることが好ましい。
【0045】
なお、上記においては、第2の電極21a,21b間で発生させたガス41のプラズマと前駆体固体52との反応によってSi含有ガスおよびB素含有ガスの少なくとも一方を含む処理ガス42を生成したが、第2の電極21a,21b間でSi含有ガスおよびB素含有ガスの少なくとも一方を含む処理ガス42を生成することなく、第1の電極11a,11b間にSi含有ガスおよびB素含有ガスの少なくとも一方を含む処理ガス42を直接導入してもよい。この場合にも、処理ガス42中におけるSi含有ガスとB含有ガスとの合計濃度は0.05ppm以上200ppm以下であり、好ましくは1ppm以上100ppm以下である。ただし、SiH
4および/またはB
2H
6のような危険なガスを含む処理ガス42を第1の電極11a,11b間に直接導入する場合には、フッ素含有樹脂の表面処理装置10においては、たとえば、処理ガス42の供給装置がガスシールしたボックス内に収納され、ガス濃度計および/または異常を感知したときの緊急遮断設備が具備されていることが好ましい。また、安全性の観点からは、第2の電極21a,21b間で発生させたガス41のプラズマと前駆体固体52との反応によって、Si含有ガスおよびB素含有ガスの少なくとも一方を含む処理ガス42を生成して、第1の電極11a,11b間に導入する方法がより好ましいことは言うまでもない。
【0046】
また、処理ガス42に空気が混入した場合には、処理ガス42が燃焼する可能性があるため、フッ素含有樹脂の表面処理装置10には、処理ガス42に空気が混入しない機構を設けることが好ましい。
【0047】
[被処理体の表面処理工程]
次に、上述した処理ガス42を第1の電極11a,11b間に導入した後には、電圧印加装置61から第1の電極11aに電圧を印加することによって、第1の電極11a,11b間に電圧を印加する。これにより、第1の電極11a,11b間に処理ガス42のプラズマが発生し、処理ガス42のプラズマとフッ素含有樹脂を含有する被処理体51の表面とが反応し、被処理体51の表面が改質されて、被処理体51の表面処理が行なわれる。
【0048】
第1の電極11a,11b間で発生させられる処理ガス42のプラズマも、たとえば、大気圧近傍の圧力下で発生させられる大気圧プラズマとすることができる。
【0049】
また、第1の電極11a,11b間に印加される電圧は、装置の構成やサイズに依存し、適宜調節可能であるが、第1の電極11a,11b間で発生する処理ガス42のプラズマを、たとえば、大気圧近傍の圧力下で発生させられる大気圧プラズマとする場合には、たとえば出力が数10W〜数10kWとなるように調節されることが好ましい。
【0050】
また、第1の電極11a,11b間に高周波電圧を印加する場合には、高周波電圧の周波数は、たとえば1kHz以上100MHz以下とすることができる。電圧の波形は、正弦波であってもよく、パルス波であってもよい。
【0051】
[作用効果]
一般に、フッ素含有樹脂の表面にはF(フッ素)原子が存在するため、界面エネルギーが低くなり、フッ素含有樹脂と他の材料とが接着しにくくなる。そこで、本発明者は、まず、プラズマによってフッ素含有樹脂の表面のC−F結合を切断し、当該切断によって生じたC(炭素)のダングリングボンドに別原子を付加することによって、フッ素含有樹脂と他の材料との間の接着力を向上できるのではないかと考えた。
【0052】
しかしながら、フッ素含有樹脂の表面のC−F結合を切断したとしても、FとCとは容易に再結合する。そのため、酸素(O
2)やN
2などの通常のガスによるプラズマによってフッ素含有樹脂の表面を処理したとしても、フッ素含有樹脂と他の材料との高い親和性を得ることはできなかった。そのため、本発明者は、フッ素含有樹脂と他の材料との接着力を向上するためには、フッ素含有樹脂の表面に存在するC−F結合が切断されて脱離したFをガス状化合物にして、フッ素含有樹脂の表面から完全に除去する必要があると考えた。
【0053】
たとえば、特許文献1の段落[0049]に記載されているように、PTFEの表面を10体積%のO
2/90体積%のArからなる混合ガスの大気圧プラズマを用いて処理した場合には、PTFEの表面の酸化によってFを一旦除去することはできるが、除去されたFは、PTFEの表面のCと容易に再結合するために、PTFEの表面からFを完全に除去することは難しかった。そのため、特許文献1に記載の方法で表面処理されたPTFEにおいても、PTFEの表面にFが残存する限り、PTFEの表面の界面エネルギーは低くなるため、他の材料との接着力は向上させることができなかった。
【0054】
そこで、本発明者が、フッ素含有樹脂の表面からFを完全に除去する方法を鋭意検討した結果、Si含有ガスおよびB含有ガスの少なくとも一方を含む処理ガス42のプラズマによる処理が、フッ素含有樹脂の表面からFを除去するのに極めて有効であることを見い出した。その理由は定かではないが、以下のことが推察される。
【0055】
すなわち、Siおよび/またはBのフッ化物は高い蒸気圧を有し、さらに結合エネルギーが高い。そのため、フッ素含有樹脂の表面に存在するFが、処理ガス42のプラズマ中のSiおよび/またはBと反応により結合した場合には、Siおよび/またはBのフッ化物はガス状物質として得られ、当該フッ化物中のFはフッ素含有樹脂の表面に残存するCと再結合することなく、排ガス43としてフッ素含有樹脂の表面からより確実に除去される。したがって、実施の形態1のフッ素含有樹脂の表面処理方法によって処理されたフッ素含有樹脂の表面には、従来の方法により処理されたフッ素含有樹脂の表面と比べて、少数のFしか存在していないため、処理後の表面の界面エネルギーが高くなり、他の材料との接着力を向上させることができると考えられる。
【0056】
<実施の形態2>
(フッ素含有樹脂の表面処理装置)
図3に、実施の形態2のフッ素含有樹脂の表面処理装置の模式的な断面図を示す。実施の形態2のフッ素含有樹脂の表面処理装置20は、絶縁体管が、第1の絶縁体管32と、第1の絶縁体管32の一部に連結された第2の絶縁体管33とから構成されている点に特徴がある。
【0057】
第1の絶縁体管32の外周面32a上には、互いに対向するように一対の第1の電極11a,11bが配置されている。また、第2の絶縁体管33の外周面33a上には、互いに対向するように一対の第2の電極21a,21bが配置されている。実施の形態2のフッ素含有樹脂の表面処理装置20においては、上流側から下流側にかけて、第2の電極21a,21b、第1の絶縁体管32と第2の絶縁体管33との連結部71、および第1の電極11a,11bがこの順に配置されている。第1の電極11a,11bと第2の電極21a,21bとの間の間隔d2(第1の電極11a,11bと第2の電極21a,21bとの間の第2の絶縁体管33の外周面33aを
図3の矢印の方向に沿った距離)は、特に限定されないが、たとえば5mm以上300mm以下とすることができる。
【0058】
第1の絶縁体管32は、外周面32aと内周面32bとを有する筒状となっており、内周面32bの内側は空洞となっている。第2の絶縁体管33は、外周面33aと内周面33bとを有する筒状となっており、内周面32bの内側は空洞となっている。また、第1の絶縁体管32および第2の絶縁体管33もまた、絶縁性の材料であれば特に限定されず、たとえば石英のほかアルミナなどのセラミックを用いることができる。
【0059】
第1の絶縁体管32の厚さ(外周面32aと内周面32bとの間の距離)は、0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。第1の絶縁体管32の厚さが0.5mm以上である場合には、第1の絶縁体管32が良好な絶縁性を有する。第1の絶縁体管32の厚さが5mm以下である場合には、第1の絶縁体管32の熱伝導性が良好となり、放電により発生した熱を第1の絶縁体管32が蓄積して発熱するのを抑制することができる。
【0060】
第2の絶縁体管33の厚さ(外周面33aと内周面33bとの間の距離)は、0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。第2の絶縁体管33の厚さが0.5mm以上である場合には、第2の絶縁体管33が良好な絶縁性を有する。第2の絶縁体管33の厚さが5mm以下である場合には、第2の絶縁体管33の熱伝導性が良好となり、放電により発生した熱を第2の絶縁体管33が蓄積して発熱するのを抑制することができる。
【0061】
なお、実施の形態2のフッ素含有樹脂の表面処理装置20においても、実施の形態1のフッ素含有樹脂の表面処理装置10と同様に、第1の絶縁体管32の下流側の出口に排ガス用スクラバーを具備することが好ましいことは言うまでもない。
【0062】
(フッ素含有樹脂の表面処理方法)
[事前準備工程]
以下、実施の形態2のフッ素含有樹脂の表面処理方法について説明する。まず、
図3に示すフッ素含有樹脂の表面処理装置20を用意し、第1の電極11a,11b間の第1の絶縁体管32の内周面32bの領域上にフッ素含有樹脂を含有する被処理体51を設置するとともに、第2の電極21a,21b間の第2の絶縁体管33の内周面33bの領域上にSi含有ガスおよびB含有ガスの少なくとも一方を生成するための前駆体固体52を設置する。
【0063】
[処理ガスの生成工程]
次に、第2の絶縁体管33の内周面33bの内側にガス41bを導入し、電圧印加装置62から第2の電極21aに電圧を印加することによって、第2の電極21a,21b間に電圧を印加する。これにより、第2の電極21a,21b間にガス41bのプラズマが発生し、ガス41bのプラズマと前駆体固体52とが反応することによってSi含有ガスおよびB含有ガスの少なくとも一方が生成し、Si含有ガスおよびB含有ガスの少なくとも一方を含むガス41cが生成する。なお、第2の絶縁体管33に導入されるガス41bとしては、たとえば、実施の形態1と同様のSi含有ガスおよびB含有ガスの少なくとも一方を生成するための生成ガスを用いることができる。また、ガス41bのプラズマの発生条件も、実施の形態1と同様の条件とすることができる。
【0064】
このとき、第1の絶縁体管32の内周面32bの内側にガス41aを導入することもできる。これにより、第1の絶縁体管32を流れるガス41aと、第2の絶縁体管33を流れるガス41cとが連結部71で合流して処理ガス42となり、第1の電極11a,11b間に導入される。
【0065】
実施の形態2においても、処理ガス42におけるSi含有ガスとB含有ガスとの合計濃度は、0.05ppm以上200ppm以下(好ましくは1ppm以上100ppm以下)とされるが、処理ガス42におけるSi含有ガスとB含有ガスとの合計濃度は第1の絶縁体管32に導入されるガス41aの導入量によって調節することができる。そのため、実施の形態2においては、実施の形態1と比べて、処理ガス42におけるSi含有ガスとB含有ガスとの合計濃度をより容易に調節することができる。なお、第1の絶縁体管32に導入されるガス41aとしては、たとえば、He、ArおよびN
2からなる群から選択された少なくとも1つを用いることができる。
【0066】
また、上述のように、第2の電極21a,21bの温度調整を行なうことによって、処理ガス42におけるSi含有ガスとB含有ガスとの合計濃度をより容易に調節することができる。
【0067】
なお、上記においては、第2の電極21a,21b間で発生させたガス41bのプラズマと前駆体固体52との反応によってSi含有ガスおよびB素含有ガスの少なくとも一方を含むガス41cを生成し、第1の絶縁体管32を流れるガス41aと合流させることによって処理ガス42を生成したが、第2の電極21a,21b間でSi含有ガスおよびB素含有ガスの少なくとも一方を含むガス41cを生成することなく、第1の絶縁体管32および/または第2の絶縁体管33から、直接、第1の電極11a,11b間にSi含有ガスおよびB素含有ガスの少なくとも一方を含む処理ガス42を導入してもよい。
【0068】
[被処理体の表面処理工程]
次に、上述した処理ガス42を第1の電極11a,11b間に導入した後には、実施の形態1と同様に、第1の電極11a,11b間に電圧を印加することにより、第1の電極11a,11b間に処理ガス42のプラズマを発生させ、処理ガス42のプラズマとフッ素含有樹脂を含有する被処理体51の表面とが反応し、被処理体51の表面が変質して、被処理体51の表面処理が行なわれる。これにより、実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、フッ素含有樹脂と他の材料との接着力を向上させることができるフッ素含有樹脂の表面処理方法およびフッ素含有樹脂の表面処理装置を提供することができる。
【0069】
実施の形態2における上記以外の説明は、実施の形態1と同様であるため、ここではその説明については繰り返さない。
【実施例】
【0070】
<実験例1>
(表面処理)
図1に示されるように、石英製の直方体形状の絶縁体管31(内周面31bの上下方向の間隔:2mm、奥行:40mm、長さ:300mm)の外周面31aの上流側および下流側の領域上に、それぞれ、互いに対向する一対の第2の電極21a,21bおよび一対の第1の電極11a,11bを設ける。第1の電極11a,11bおよび第2の電極21a,21bは、それぞれ、アルミニウム製であって、幅30mm×長さ50mm×高さ8mmの直方体形状を有している。第2の電極21a,21bには、冷媒(フロリナート)流通機構(図示せず)および加熱ヒータ(図示せず)が内蔵されており、第2の電極21a,21bの温度を一定に制御できるようにされている。また、第2の電極21a,21bの温度は、電極側面の温度を非接触式赤外温度計で測定した値とする。また、第1の電極11a,11bと第2の電極21a,21bとの距離d1は5mmとする。
【0071】
第2の電極21a,21b間の絶縁体管31の内周面31bの領域上には、ホウ素粉末(平均粒径:約10μm)にバインダーとして無機系バインダー(東亜合成株式会社製のアロンセラミックD)を1:1の重量割合で混合し、ニーダで十分に混合した後、板状にプレスすることにより作製した直方体形状の前駆体固体52(サイズ:幅20mm×長さ30mm×高さ0.1mm)を設置する。
【0072】
第1の電極11a,11b間の絶縁体管31の内周面31bの領域上には、直方体形状のPTFEシートからなる被処理体51(サイズ:幅20mm×長さ50mm×高さ0.2mm)を設置する。
【0073】
次に、絶縁体管31の上流側から第2の電極21a,21b間に、He/H
2=2SLM/10SCCMの流量比率でHeとH
2とが混合されてなるガス41を導入する。そして、電圧印加装置62から第2の電極21aに、周波数27.1MHz、出力500Wの高周波電圧を印加するとともに、第2の電極21bは接地して、大気圧近傍の圧力下で、ガス41の放電プラズマを発生させ、前駆体固体52と反応させることにより、B
2H
6を含む処理ガス42を生成する。このとき、第2の電極21a,21bの温度として、第2の電極21a,21bの側面の温度を非接触式赤外温度計で測定することによりモニターして、冷媒流通機構および加熱ヒータにより、第2の電極21a,21bの温度を一定に制御する。
【0074】
そして、第2の電極21a,21bの温度が180℃で一定になった時点で、電圧印加装置61から第1の電極11aに、周波数300kHz、出力100Wの高周波電圧を印加するとともに、第1の電極11bは接地して、大気圧近傍の圧力下で、処理ガス42の放電プラズマを発生させ、被処理体51の表面と3分間接触させることにより、被処理体51の表面処理を行なう。その後、被処理体51の表面処理後の排ガス43は、
図2に示すように、絶縁体管31の下流側の出口に具備された、水を主成分とする湿式の排ガス用スクラバー30を通して、無害化ガス45として排出される。
【0075】
なお、第1の電極11a,11b間では放電を行なわずに、第2の電極21a,21bの温度を180℃に保った状態で、第2の電極21a,21b間でのみ放電を行ない、絶縁体管31の下流側の出口から処理ガス42を水に捕集する。そして、水に捕集された処理ガス42のホウ素濃度をICP発光分光分析装置で測定し、B
2H
6濃度に換算したホウ素含有ガス濃度は50ppmとなる。また、酸素濃度計で測定した処理ガス42の酸素濃度は80ppmとなる。
【0076】
また、第2の電極21a,21bの温度を、それぞれ、60℃、80℃、250℃および300℃に変更したこと以外は上記と同様にして被処理体51の表面処理を行なう。また、第2の電極21a,21bの温度を60℃、80℃、250℃および300℃に保って生成した処理ガス42におけるホウ素含有ガス濃度をそれぞれ上記と同様にB
2H
6濃度に換算して測定したところ、0.005ppm(60℃)、0.05ppm(100℃)、1ppm(150℃)、100ppm(250℃)、200ppm(280℃)および300ppm(300℃)となる。また、これらのいずれの場合においても、酸素濃度計で測定した処理ガス42の酸素濃度は80ppmとなる。
【0077】
(剥離強度)
上記のようにして表面処理を行なった被処理体51について角処理を施した後、アセトンで脱脂した直方体形状のアルミニウム板(サイズ:幅30mm×長さ100mm×高さ2mm)の表面上に塗布したエポキシ接着剤(チバ・ガイギー社製のアラルダイト)を介して、被処理体51の処理後の表面をプレス接着し、その後、50℃で12時間キュアリングを行ない、測定試料を作製する。そして、各測定試料について、90度のピーリングを200mm/分の速度で行ない、同一条件で作製された5枚の測定試料の平均値を剥離強度(N/m)とする。その結果を表1に示す。
【0078】
(F/C)
また、上記のようにして作製した測定試料のそれぞれについて、XPS(X線光電子分光分析)により、各測定試料の表面のC
1sスペクトルを測定し、F/C(F原子数/C原子数)を算出する。その結果を表2に示す。
【0079】
(その他のガス)
実験例1の第2の電極21a,21b間の絶縁体管31の内周面31bの領域上には、ホウ素粉末の代わりに、ケイ素粉末(平均粒径:約10μm)にバインダーとして無機系バインダー(東亜合成株式会社製のアロンセラミックD)を1:1の重量割合で混合し、ニーダで十分に混合した後、板状にプレスすることにより作製した直方体形状の前駆体固体52(サイズ:幅20mm×長さ30mm×高さ0.1mm)を設置する。発生する珪素含有ガスをガス捕集バッグに捕集し、ガスクロマトグラフにより測定した珪素含有ガスの濃度が、それぞれ、0.005ppm、0.05ppm、1ppm、50ppm、100ppm、200ppmおよび300ppmとなるように、第2の電極21a,21b間に高周波電圧を印加することにより発生させたガス41のプラズマと材料を変更した前駆体固体52との反応により処理ガス42を生成したこと以外は上記と同様にして、被処理体51の表面処理を行なう。そして、これらの表面処理を行なった被処理体51を用いて、上記と同様にして測定試料を作製し、それぞれの測定試料について上記と同一の条件および同一の方法で剥離強度を測定し、F/Cを算出する。これらの測定試料についての剥離強度(N/m)を表1に示し、F/Cを表2に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
<実験例2>
(表面処理)
実験例1で使用した第2の電極21a,21間には高周波電圧を印加せず、He/H
2=2SLM/10SCCMの流量比率でHeとH
2とが混合されてなる混合ガスにB
2H
6がそれぞれ0.005ppm、0.05ppm、1ppm、60ppm、100ppm、200ppmおよび300ppmの濃度で混合されてなる処理ガス42を第1の電極11a,11b間に直接導入したこと以外は実験例1と同様にして、被処理体51の表面処理を行なう。そして、表面処理を行なった被処理体51を用いて、実験例1と同様にして測定試料を作製し、それぞれの測定試料について実験例1と同一の条件および同一の方法で剥離強度を測定し、F/Cを算出する。これらの測定試料についての剥離強度(N/m)を表3に示し、F/Cを表4に示す。
【0083】
(その他のガス)
また、B
2H
6に代えて、処理ガス42におけるSiH
4、Si
2H
6、有機シラン化合物(テトラメチルシラン)および有機ボロン化合物(トリメチルボロン)の濃度がそれぞれ0.005ppm、0.05ppm、1ppm、60ppm、100ppm、200ppmおよび300ppmである処理ガス42を第1の電極11a,11b間に直接導入したこと以外は上記と同様にして、被処理体51の表面処理を行なう。そして、これらの表面処理を行なった被処理体51を用いて、上記と同様にして測定試料を作製し、それぞれの測定試料について上記と同一の条件および同一の方法で剥離強度を測定し、F/Cを算出する。これらの測定試料についての剥離強度(N/m)を表3に示し、F/Cを表4に示す。
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
<実験例3>
(表面処理)
図3に示されるように、石英製の直方体形状の第1の絶縁体管32(内周面32bの上下方向の間隔:2mm、奥行:40mm、長さ:300mm)と、第1の絶縁体管32の一部に連結された第2の絶縁体管33(内周面33bの上下方向の間隔:2mm、奥行:40mm、長さ:300mm)とからなる絶縁体管を準備する。そして、
図3に示されるように、第1の絶縁体管32の外周面32aの下流側の領域上に、互いに対向する一対の第1の電極11a,11bを設けるとともに、第2の絶縁体管33の外周面33aの上流側の領域上に、互いに対向する一対の第2の電極21a,21bを設ける。第1の電極11a,11bおよび第2の電極21a,21bは、それぞれ、アルミニウム製であって、幅30mm×長さ50mm×高さ8mmの直方体形状を有している。第2の電極21a,21bには、冷媒(フロリナート)流通機構(図示せず)および加熱ヒータ(図示せず)が内蔵されており、第2の電極21a,21bの温度を一定に制御できるようにされている。また、第2の電極21a,21bの温度は、電極側面の温度を非接触式赤外温度計で測定した値とする。また、第1の電極11a,11bと第2の電極21a,21bとの間の距離d2は30mmとする。
【0087】
第2の電極21a,21b間の第2の絶縁体管33の内周面33bの領域上には、ホウ素粉末(平均粒径:約10μm)にバインダーとして無機系バインダー(東亜合成株式会社製のアロンセラミックD)を1:1の重量割合で混合し、ニーダで十分に混合した後、板状にプレスすることにより作製した直方体形状の前駆体固体52(サイズ:幅20mm×長さ30mm×高さ0.1mm)を設置する。
【0088】
第1の電極11a,11b間の第1の絶縁体管32の内周面32bの領域上には、直方体形状のPTFEシートからなる被処理体51(サイズ:幅20mm×長さ50mm×高さ0.2mm)を設置する。
【0089】
次に、第1の絶縁体管32の上流側から第1の絶縁体管32の内周面32bの内側の領域にガス41aとして流量2LMのArを導入するとともに、第2の絶縁体管33の内周面33bの内側の領域に上流側からガス41bとしてHe/H
2=2SLM/10SCCMの流量比率でHeとH
2とが混合されてなるガス41を導入する。
【0090】
そして、電圧印加装置62から第2の電極21aに、周波数27.1MHz、出力1kWの高周波電圧を印加するとともに、第2の電極21bは接地して、大気圧近傍の圧力下で、ガス41bの放電プラズマを発生させ、前駆体固体52と反応させることにより、B
2H
6を含むガス41cを生成する。第2の絶縁体管33を流れるガス41cは、第1の絶縁体管32を流れるガス41aと、第1の絶縁体管32と第2の絶縁体管33との連結部71で合流して処理ガス42となり、第1の電極11a,11b間に導入される。
【0091】
そして、第2の電極21a,21bの温度が180℃で一定になった時点で、電圧印加装置61から第1の電極11aに、周波数300kHz、出力100Wの高周波電圧を印加するとともに、第1の電極11bは接地して、大気圧近傍の圧力下で、処理ガス42の放電プラズマを発生させ、被処理体51の表面と3分間接触させることにより、被処理体51の表面処理を行なう。その後、被処理体51の表面処理後の排ガス43は、第1の絶縁体管32の下流側の出口に具備された、水を主成分とする湿式の排ガス用スクラバーを通して、無害化ガスとして排出される。
【0092】
なお、第1の電極11a,11b間では放電を行なわずに、第2の電極21a,21bの温度を180℃に保った状態で、第2の電極21a,21b間でのみ放電を行ない、絶縁体管31の下流側の出口から処理ガス42を水に捕集する。そして、水に捕集された処理ガス42のホウ素濃度をICP発光分光分析装置で測定し、B
2H
6濃度に換算したところ、処理ガス42におけるホウ素含有ガス濃度は50ppmとなる。また、酸素濃度計で測定した処理ガス42の酸素濃度は80ppmとなる。
【0093】
また、条件を変更することによって、処理ガス42におけるホウ素含有ガス濃度を上記と同様にB
2H
6濃度に換算した値を、それぞれ、0.005ppm、0.05ppm、1ppm、100ppm、200ppmおよび300ppmとしたこと以外は、上記と同様にして、被処理体51の表面処理を行なう。また、これらのいずれの場合においても、酸素濃度計で測定した処理ガス42の酸素濃度は80ppmとなる。
【0094】
(剥離強度)
上記のようにして表面処理を行なった被処理体51について角処理を施した後、アセトンで脱脂した直方体形状のアルミニウム板(サイズ:幅30mm×長さ100mm×高さ2mm)の表面上に塗布したエポキシ接着剤(チバ・ガイギー社製のアラルダイト)を介して、被処理体51の処理後の表面をプレス接着し、その後、50℃で12時間キュアリングを行ない、測定試料を作製する。そして、各測定試料について、90度のピーリングを200mm/分の速度で行ない、同一条件で作製された5枚の測定試料の平均値を剥離強度(N/m)とする。その結果を表5に示す。
【0095】
(F/C)
また、上記のようにして作製した測定試料のそれぞれについて、XPS(X線光電子分光分析)により、各測定試料の表面のC
1sスペクトルを測定し、F/C(F原子数/C原子数)を算出する。その結果を表6に示す。
【0096】
(その他のガス)
また、B
2H
6に代えて、処理ガス42におけるSiH
4、Si
2H
6、有機シラン化合物(テトラメチルシラン)および有機ボロン化合物(トリメチルボロン)の濃度がそれぞれ0.005ppm、0.05ppm、1ppm、50ppm、100ppm、200ppmおよび300ppmとなるように、第2の電極21a,21b間に高周波電圧を印加することにより発生させたガス41のプラズマと材料を変更した前駆体固体52との反応により処理ガス42を生成したこと以外は上記と同様にして、被処理体51の表面処理を行なう。そして、これらの表面処理を行なった被処理体51を用いて、上記と同様にして測定試料を作製し、それぞれの測定試料について上記と同一の条件および同一の方法で剥離強度を測定し、F/Cを算出する。これらの測定試料についての剥離強度(N/m)を表5に示し、F/Cを表6に示す。
【0097】
【表5】
【0098】
【表6】
【0099】
<実験例4>
実験例1で使用した第2の電極21a,21間には高周波電圧を印加せず、He/O
2=2SLM/10SCCMの流量比率でHeとO
2とが混合されてなる混合ガスを第1の電極11a,11b間に直接導入したこと以外は、実験例1と同様にして、被処理体51の表面処理を行なう。そして、表面処理を行なった被処理体51を用いて、実験例1と同様にして測定試料を作製し、それぞれの測定試料について実験例1と同一の条件および同一の方法で剥離強度を測定し、F/Cを算出する。その結果、実験例4においては、測定試料の剥離強度は150(N/m)であり、F/Cは1.1である。
【0100】
<実験例5>
実施例1で使用したPTFEシートと同様のPTFEシートを、株式会社潤工社製のテトラエッチA試薬に10秒間浸して表面処理を行ない、次いで、エタノール水でリンスする。そして、表面処理後のPTFEシートを60℃で24時間乾燥する。そして、実験例1と同様にして測定試料を作製し、実験例1と同一の条件および同一の方法で剥離強度を測定し、F/Cを算出する。その結果、実験例5においては、測定試料の剥離強度は470(N/m)であり、F/Cは0.2である。
【0101】
<実験例6>
実験例1で使用したPTFEシートと同様のPTFEシートを準備し、このPTFEシートを用いて、実験例1と同様にして測定試料を作製し、実験例1と同一の条件および同一の方法で剥離強度を測定し、F/Cを算出する。その結果、実験例6においては、測定試料の剥離強度は50(N/m)であり、F/Cは1.8であることが確認されている。
【0102】
<評価>
上記の実験例1〜実験例3の結果から、処理ガス42におけるSi含有ガスとB含有ガスとの合計濃度が0.05ppm以上200ppm以下の範囲内にある処理ガス42を用いて第1の電極11a,11b間に発生させたプラズマにより表面処理を行なったPTFEシートを用いて作製された測定試料は、上記の濃度がその範囲外にある場合と比べて、剥離強度が高く、F/Cが低くなっている。特に、実験例3は、実験例1および実験例2よりも剥離強度が高く、F/Cが低くなっている。
【0103】
また、処理ガス42におけるSi含有ガスとB含有ガスとの合計濃度が0.05ppm以上200ppm以下の範囲内にある処理ガス42を用いて第1の電極11a,11b間に発生させたプラズマにより表面処理を行なったPTFEシートを用いて作製された測定試料は、実験例4〜6で作製された測定試料と比べても、剥離強度が高く、F/Cが低くなっている。
【0104】
また、上記の実験例1〜実験例3のように、処理ガス42に、B
2H
6、SiH
4、Si
2H
6、有機シラン化合物(テトラメチルシラン)および有機ボロン化合物(トリメチルボロン)からなる群から選択された2つ以上のガスが含まれる場合についても同様の検討を行なったところ、実験例1〜実験例3と同様の結果が得られている。
【0105】
なお、上記においては、本発明の一例として、大気圧近傍の圧力下で発生させられる大気圧プラズマを用いたフッ素含有樹脂の表面処理方法および表面処理装置について説明したが、本発明は、これに限定されず、たとえば、大気圧近傍の圧力よりも低い圧力(減圧)下での減圧プラズマを用いたフッ素含有樹脂の表面処理方法および表面処理装置も含まれる。
【0106】
以上のように本発明の実施の形態および実験例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および各実験例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0107】
今回開示された実施の形態および実験例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。