特許第6076885号(P6076885)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076885
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】蒸発燃料処理装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/08 20060101AFI20170130BHJP
   F02M 37/00 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   F02M25/08 301H
   F02M25/08 G
   F02M25/08 301L
   F02M37/00 301H
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-242841(P2013-242841)
(22)【出願日】2013年11月25日
(65)【公開番号】特開2015-102009(P2015-102009A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木本 順也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 譲
(72)【発明者】
【氏名】田川 直行
【審査官】 北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−256778(JP,A)
【文献】 特開2011−185227(JP,A)
【文献】 特開平5−321733(JP,A)
【文献】 特開平7−27009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 25/08
F02M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸着する吸着材を備えるキャニスタと、前記キャニスタと前記燃料タンクとをつなぐベーパ通路に設けられている封鎖弁とを備える蒸発燃料処理装置であって、
前記封鎖弁は、弁座に対する弁可動部の軸方向距離であるストローク量が零から所定範囲内にあるときが閉弁状態で前記燃料タンクを密閉状態に保持可能であり、前記ストローク量を開弁方向に変化させて前記燃料タンクの内圧が所定値以上低下したときの前記ストローク量に基づいて開弁開始位置を学習できるように構成されており、
前記封鎖弁の開弁開始位置の学習では、前記弁可動部のストローク量を零から閉弁限界位置まで第1速度で開弁方向に変化させ、閉弁限界位置を超えた後は、第1速度よりも遅い第2速度で弁可動部のストローク量を開弁方向に変化させることを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【請求項2】
燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸着する吸着材を備えるキャニスタと、前記キャニスタと前記燃料タンクとをつなぐベーパ通路に設けられている封鎖弁とを備える蒸発燃料処理装置であって、
前記封鎖弁は、弁座に対する弁可動部の軸方向距離であるストローク量が零から所定範囲内にあるときが閉弁状態で前記燃料タンクを密閉状態に保持可能であり、前記ストローク量を開弁方向に変化させて前記燃料タンクの内圧が所定値以上低下したときの前記ストローク量に基づいて開弁開始位置を学習できるように構成されており、
前記封鎖弁の開弁開始位置の学習では、前記弁可動部のストローク量を零から第1速度で開弁方向に変化させて、前記燃料タンクの内圧が所定値以上低下した後、前記ストローク量を閉弁方向に予め決められた量だけ変化させ、その後、第1速度よりも遅い第2速度で弁可動部のストローク量を開弁方向に変化させることを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載された蒸発燃料処理装置であって、
前記封鎖弁の開弁開始位置の学習において、第2速度で弁可動部のストローク量を開弁方向に変化させる際には、第1所定ストロークだけ開弁方向に変化させ、第1所定ストロークよりも小さい第2所定ストロークだけ閉弁方向に変化させる工程を繰り返し、前記燃料タンクの内圧が所定値以上低下したときの工程、あるいはその前工程において前記弁可動部が第2所定ストロークだけ閉弁方向に変化したときのストローク量に基づいて開弁開始位置が決められることを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載された蒸発燃料処理装置であって、
前記封鎖弁の開弁開始位置の学習は、エンジンのイグニッションスイッチがオンする毎に実施されることを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸着する吸着材を備えるキャニスタと、前記キャニスタと前記燃料タンクとをつなぐベーパ通路に設けられている封鎖弁とを備える蒸発燃料処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これに関連する従来の蒸発燃料処理装置が特許文献1に記載されている。
特許文献1の蒸発燃料処理装置は、キャニスタと燃料タンクとをつなぐベーパ通路に封鎖弁(制御バルブ)を備えている。前記封鎖弁は、蒸発燃料を遮断する不感帯領域(閉弁領域)と、蒸発燃料を通過させる導通領域(開弁領域)とを備えており、閉弁状態で燃料タンクを密閉状態に保持し、開弁状態で燃料タンクの蒸発燃料をキャニスタ側に逃がし、燃料タンクの内圧を低下させられるように構成されている。
特許文献1の蒸発燃料処理装置は、封鎖弁の開度を閉弁位置から所定速度で開方向に変化させて、燃料タンクの内圧が低下し始めたときに、封鎖弁の開度を開弁開始位置として記憶する学習制御を行なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−256778号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
封鎖弁の開弁開始位置を高精度で学習するためには、封鎖弁の開度をゆっくり開方向に変化させる必要がある。しかし、上記した蒸発燃料処理装置では、封鎖弁の開度を所定速度で閉弁位置から開方向に変化させる方法のため、封鎖弁の開弁開始位置を高精度で学習しようとすると、学習制御に時間が掛かる。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、 封鎖弁の開弁開始位置を学習する学習制御を短時間で高精度に行なえるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題は、各請求項の発明によって解決される。
請求項1の発明は、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸着する吸着材を備えるキャニスタと、前記キャニスタと前記燃料タンクとをつなぐベーパ通路に設けられている封鎖弁とを備える蒸発燃料処理装置であって、前記封鎖弁は、弁座に対する弁可動部の軸方向距離であるストローク量が零から所定範囲内にあるときが閉弁状態で前記燃料タンクを密閉状態に保持可能であり、前記ストローク量を開弁方向に変化させて前記燃料タンクの内圧が所定値以上低下したときの前記ストローク量に基づいて開弁開始位置を学習できるように構成されており、前記封鎖弁の開弁開始位置の学習では、前記弁可動部のストローク量を零から閉弁限界位置まで第1速度で開弁方向に変化させ、閉弁限界位置を超えた後は、第1速度よりも遅い第2速度で弁可動部のストローク量を開弁方向に変化させることを特徴とする。
【0007】
本発明によると、封鎖弁の開弁開始位置の学習では、弁可動部のストローク量を零から閉弁限界位置まで第1速度で変化させ、閉弁限界位置を超えた後は、第1速度よりも遅い第2速度で弁可動部のストローク量を変化させる。
即ち、弁可動部のストローク量を零から閉弁限界位置(開弁開始位置の近傍)までは第1速度(高速)で弁可動部のストローク量を変化させ、その後、弁可動部のストローク量を第2速度(低速)で変化させるため、短時間で高精度の学習を行なえるようになる。
【0008】
請求項2の発明は、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸着する吸着材を備えるキャニスタと、前記キャニスタと前記燃料タンクとをつなぐベーパ通路に設けられている封鎖弁とを備える蒸発燃料処理装置であって、前記封鎖弁は、弁座に対する弁可動部の軸方向距離であるストローク量が零から所定範囲内にあるときが閉弁状態で前記燃料タンクを密閉状態に保持可能であり、前記ストローク量を開弁方向に変化させて前記燃料タンクの内圧が所定値以上低下したときの前記ストローク量に基づいて開弁開始位置を学習できるように構成されており、前記封鎖弁の開弁開始位置の学習では、前記弁可動部のストローク量を零から第1速度で開弁方向に変化させて、前記燃料タンクの内圧が所定値以上低下した後、前記ストローク量を閉弁方向に予め決められた量だけ変化させ、その後、第1速度よりも遅い第2速度で弁可動部のストローク量を開弁方向に変化させることを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明によると、封鎖弁の開弁開始位置の学習では、弁可動部のストローク量を零から第1速度で開弁方向に変化させて、燃料タンクの内圧が所定値以上低下した後、前記ストローク量を閉弁方向に所定量だけ変化させ、その後、第1速度よりも遅い第2速度で弁可動部のストローク量を開弁方向に変化させる。
即ち、弁可動部のストローク量を零から第1速度(高速)で変化させて、開弁開始位置の目安をつけた後、開弁開始位置近傍で弁可動部のストローク量を第2速度(低速)で変化させるため、短時間で高精度の学習を行なえる。
【0010】
請求項3の発明によると、封鎖弁の開弁開始位置の学習において、第2速度で弁可動部のストローク量を開弁方向に変化させる際には、第1所定ストロークだけ開弁方向に変化させ、第1所定ストロークよりも小さい第2所定ストロークだけ閉弁方向に変化させる工程を繰り返し、前記燃料タンクの内圧が所定値以上低下したときの工程、あるいはその前工程において前記弁可動部が第2所定ストロークだけ閉弁方向に変化したときのストローク量に基づいて開弁開始位置が決められることを特徴とする。
このように、弁可動部を開弁方向、閉弁方向に交互に動かしながら弁可動部のストローク量を開弁方向に変化させる方法のため、封鎖弁の開弁開始位置では、流路が多めに開かれた状態から閉方向に戻されるようになる。このため、燃料タンク内の内圧変化の応答性が良くなり、実際の開弁開始時と開弁開始判定時(燃料タンクの内圧低下検出タイミング)との時間ずれが小さくなり、学習精度を向上させることができる。
【0011】
請求項4の発明によると、封鎖弁の開弁開始位置の学習は、エンジンのイグニッションスイッチがオンする毎に実施されることを特徴とする。
このため、前回の学習値が誤学習であったとしてもその悪影響を最小限にできる。また、部品交換による学習値のずれの影響もなくなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、封鎖弁の開弁開始位置を学習する学習制御が短時間で高精度に行なえるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態1に係る蒸発燃料処理装置の全体構成図である。
図2】前記蒸発燃料処理装置で使用される封鎖弁のイニシャライズ状態を表す縦断面図である。
図3】前記封鎖弁の閉弁状態を表す縦断面図である。
図4】前記封鎖弁の開弁状態を表す縦断面図である。
図5】前記封鎖弁の開弁開始位置を学習する学習制御を表すグラフである。
図6図5のVI矢視部分の学習制御を表すグラフIである。
図7図5のVI矢視部分の学習制御を表すグラフIIである。
図8】変更例に係る学習制御を表すグラフである。
図9】変更例に係る学習制御を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施形態1]
以下、図1から図9に基づいて本発明の実施形態1に係る蒸発燃料処理装置20の説明を行なう。本実施形態の蒸発燃料処理装置20は、図1に示すように、車両のエンジンシステム10に備えられており、車両の燃料タンク15で発生した蒸発燃料が外部に漏れ出ないようにするための装置である。
【0015】
<蒸発燃料処理装置20の構造概要について>
蒸発燃料処理装置20は、図1に示すように、キャニスタ22と、そのキャニスタ22に接続されたベーパ通路24、パージ通路26、及び大気通路28とを備えている。
キャニスタ22内には、吸着材としての活性炭(図示省略)が装填されており、燃料タンク15内の蒸発燃料を前記吸着材により吸着できるように構成されている。
ベーパ通路24の一端部(上流側端部)は、燃料タンク15内の気層部と連通されており、ベーパ通路24の他端部(下流側端部)がキャニスタ22内と連通されている。そして、ベーパ通路24の途中にはベーパ通路24を連通・遮断する封鎖弁40(後記する)が介装されている。
また、パージ通路26の一端部(上流側端部)は、キャニスタ22内と連通されており、パージ通路26の他端部(下流側端部)がエンジン14の吸気通路16におけるスロットルバルブ17よりも下流側通路部と連通されている。そして、パージ通路26の途中にはパージ通路26を連通・遮断するパージ弁26vが介装されている。
さらに、キャニスタ22は故障検出に使用されるOBD用部品28vを介して大気通路28が連通されている。大気通路28の途中にはエアフィルタ28aが介装されており、大気通路28の他端部は大気に開放されている。
前記封鎖弁40、パージ弁26v及びOBD用部品28vは、ECU19からの信号に基づいて制御される。
さらに、ECU19には、燃料タンク15内の圧力を検出するタンク内圧センサ15p等の信号が入力される。
【0016】
<蒸発燃料処理装置20の動作概要について>
次に、蒸発燃料処理装置20の基本的動作について説明する。
車両の駐車中は、封鎖弁40が閉弁状態に維持される。このため、燃料タンク15の蒸発燃料がキャニスタ22内に流入することはない。そして、駐車中に車両のイグニッションスイッチがオンされると、封鎖弁40の開弁開始位置を学習する学習制御が行われる(後記する)。
また、車両の駐車中は、パージ弁26vは閉弁状態に維持されてパージ通路26は遮断状態となり、大気通路28は連通状態に維持される。
車両の走行中は、所定のパージ条件が成立する場合に、ECU19がキャニスタ22に吸着されている蒸発燃料をパージさせる制御を実行する。この制御では、キャニスタ22を大気通路28により大気に連通させたまま、パージ弁26vが開閉制御される。パージ弁26vが開弁されると、エンジン14の吸気負圧がパージ通路26を介してキャニスタ22内に作用する。これにより、キャニスタ22内に大気通路28から空気が流入するようになる。さらに、パージ弁26vが開弁されると、封鎖弁40が開弁方向に動作して燃料タンク15の圧抜き制御が行なわれる。これにより、キャニスタ22内にベーパ通路24から燃料タンク15内の気体が流入するようになる。この結果、キャニスタ22内の吸着材がキャニスタ22に流入する空気等によりパージされ、前記吸着材から離脱した蒸発燃料が空気と共にエンジン14の吸気通路16に導かれて、エンジン14内で燃焼される。
【0017】
<封鎖弁40の基本構造について>
封鎖弁40は、閉弁状態でベーパ通路24を封鎖し、開弁状態でベーパ通路24を流れる気体の流量を制御する流量制御弁であり、図2に示すように、バルブケーシング42とステッピングモータ50とバルブガイド60とバルブ体70とを備えている。
バルブケーシング42には、弁室44、流入路45及び流出路46により、一連状をなす逆L字状の流体通路47が構成されている。また、弁室44の下面すなわち流入路45の上端開口部の口縁部には、弁座48が同心状に形成されている。
前記ステッピングモータ50は、前記バルブケーシング42の上部に設置されている。前記ステッピングモータ50は、モータ本体52と、そのモータ本体52の下面から突出し、正逆回転可能に構成された出力軸54を有している。出力軸54は、バルブケーシング42の弁室44内に同心状に配置されており、その出力軸54の外周面に雄ネジ部54nが形成されている。
【0018】
バルブガイド60は、円筒状の筒壁部62と筒壁部62の上端開口部を閉鎖する上壁部64とから有天円筒状に形成されている。上壁部64の中央部には筒軸部66が同心状に形成されており、その筒軸部66の内周面に雌ネジ部66wが形成されている。前記バルブガイド60は、前記バルブケーシング42に対して、回り止め手段(図示省略)により軸回り方向に回り止めされた状態で軸方向(上下方向)に移動可能に配置されている。
バルブガイド60の筒軸部66の雌ネジ部66wには、前記ステッピングモータ50の出力軸54の雄ネジ部54nが螺合されており、ステッピングモータ50の出力軸54の正逆回転に基いて、バルブガイド60が上下方向(軸方向)に昇降移動可能に構成されている。
前記バルブガイド60の周囲には、そのバルブガイド60を上方へ付勢する補助スプリング68が介装されている。
【0019】
前記バルブ体70は、円筒状の筒壁部72と筒壁部72の下端開口部を閉鎖する下壁部74とから有底円筒状に形成されている。下壁部74の下面には、例えば、円板状のゴム状弾性材からなるシール部材76が装着されている。
前記バルブ体70は、前記バルブガイド60内に同心状に配置されており、そのバルブ体70のシール部材76がバルブケーシング42の弁座48の上面に対して当接可能に配置されている。バルブ体70の筒壁部72の上端外周面には、円周方向に複数個の連結凸部72tが形成されている。そして、バルブ体70の連結凸部72tがバルブガイド60の筒壁部62の内周面に形成された縦溝状の連結凹部62mと一定寸法だけ上下方向に相対移動可能な状態で嵌合している。そして、バルブガイド60の連結凹部62mの底壁部62bがバルブ体70の連結凸部72tに対して下方から当接した状態で、バルブガイド60とバルブ体70とが一体で上方(開弁方向)に移動可能となる。
また、前記バルブガイド60の上壁部64と前記バルブ体70の下壁部74との間には、バルブガイド60に対してバルブ体70を常に下方、即ち、閉弁方向へ付勢するバルブスプリング77が同心状に介装されている。
【0020】
<封鎖弁40の基本動作について>
次に、封鎖弁40の基本動作について説明する。
封鎖弁40は、ECU19からの出力信号に基づいてステッピングモータ50を開弁方向、あるいは閉弁方向に予め決められたステップ数だけ回転させる。そして、ステッピングモータ50が予め決められたステップ数だけ回転することで、ステッピングモータ50の出力軸54の雄ネジ部54nとバルブガイド60の筒軸部66の雌ネジ部66wとの螺合作用により、バルブガイド60が上下方向に予め決められたストローク量だけ移動するようになる。
前記封鎖弁40では、例えば、全開位置においてステップ数が約200Step、ストローク量が約5mmとなるように設定されている。
封鎖弁40のイニシャライズ状態(初期状態)では、図2に示すように、バルブガイド60が下限位置に保持されて、そのバルブガイド60の筒壁部62の下端面がバルブケーシング42の弁座48の上面に対して当接している。また、この状態で、バルブ体70の連結凸部72tは、バルブガイド60の連結凹部62mの底壁部62bに対して上方に位置しており、バルブ体70のシール部材76はバルブスプリング77のバネ力により、バルブケーシング42の弁座48の上面に押付けられている。即ち、封鎖弁40は全閉状態に保持されている。そして、このときのステッピングモータ50のステップ数が0Stepであり、バルブガイド60の軸方向(上方向)の移動量、即ち、開弁方向のストローク量が0mmとなる。
また、車両の駐車中等では、封鎖弁40のステッピングモータ50がイニシャライズ状態から開弁方向に、例えば、4Step回転する。これにより、ステッピングモータ50の出力軸54の雄ネジ部54nとバルブガイド60の筒軸部66の雌ネジ部66wとの螺合作用でバルブガイド60が約0.1mm上方に移動し、バルブケーシング42の弁座48から浮いた状態に保持される。これにより、気温等の環境変化で封鎖弁40のバルブガイド60とバルブケーシング42の弁座48間に無理な力が加わり難くなる。
なお、この状態で、バルブ体70のシール部材76はバルブスプリング77のバネ力により、バルブケーシング42の弁座48の上面に押付けられている。
【0021】
ステッピングモータ50が4Step回転した位置からさらに開弁方向に回転すると、前記雄ネジ部54nと雌ネジ部66wとの螺合作用でバルブガイド60が上方に移動し、図3に示すように、バルブガイド60の連結凹部62mの底壁部62bがバルブ体70の連結凸部72tに下方から当接する。そして、バルブガイド60がさらに上方に移動することで、図4に示すように、バルブ体70がバルブガイド60と共に上方に移動し、バルブ体70のシール部材76がバルブケーシング42の弁座48から離れるようになる。これにより、封鎖弁40が開弁される。
ここで、封鎖弁40の開弁開始位置は、バルブ体70に形成された連結凸部72tの位置公差、バルブガイド60の連結凹部62mに形成された底壁部62bの位置公差等により、封鎖弁40毎に異なるため、正確に開弁開始位置を学習する必要がある。この学習を行なうのが学習制御であり、封鎖弁40のステッピングモータ50を開弁方向に回転(ステップ数を増加)させながら燃料タンク15の内圧が所定値以上低下したタイミングに基づいて開弁開始位置のステップ数を検出する。
このように、封鎖弁40が閉弁状態のときはバルブガイド60が本発明の弁可動部に相当し、封鎖弁40が開弁状態のときはバルブガイド60とバルブ体70とが本発明の弁可動部に相当する。
【0022】
<封鎖弁40の学習制御について>
次に、図5から図6に基づいて、封鎖弁40の開弁開始位置の学習制御について説明する。
学習制御は、車両の駐車中にエンジンのイグニッションスイッチがオンしたタイミングで行われる。
ここで、図5の上図は、時間を基準(横軸)としてステッピングモータ50のステップ数の変化、即ち、バルブガイド60、及びバルブ体70のストローク量(軸方向の移動量)を表している。このため、以後、ステップ数とストローク量とは同意語として使用する。
また、図5の下図は、時間を基準(横軸)として燃料タンク15の内圧(タンク内圧)の変化を表している。ここで、タンク内圧は、一定周期毎に検出される。
前述のように、車両の駐車中では、ステッピングモータ50が開弁方向に、例えば、4Step回転してバルブガイド60がバルブケーシング42の弁座48から約0.1mm浮いた状態に保持されている。この状態で、エンジンのイグニッションスイッチがオンすると、ステッピングモータ50が閉弁方向に4Step(−4Step)回転し、前記封鎖弁40はイニシャライズ状態(0Step)に戻される。次に、図5の上図に示すように、ステッピングモータ50が封鎖弁40の設計上の閉弁限界位置S0Stepまで開弁方向に高速回転する。これにより、バルブガイド60が比較的速く閉弁限界位置まで上方に移動するようになり、学習時間の短縮を図れるようになる。なお、このときには、バルブ体70のシール部材76は、バルブスプリング77のバネ力でバルブケーシング42の弁座48の上面に当接しており、封鎖弁40は閉弁状態である。
【0023】
ステッピングモータ50が封鎖弁40の閉弁限界位置S0Stepまで開弁方向に回転すると、ステッピングモータ50停止して一定時間T1だけこの状態が維持される(図5の上図参照)。次に、ステッピングモータ50がBStep(例えば、2Step)だけ閉弁方向に回転し、一定時間T2だけこの状態が維持される。そして、ステッピングモータ50が一定時間T2維持されている間の所定タイミング、例えば、図6の上図に示すように、ステッピングモータ50の停止から所定時間T22後にタンク内圧が検出される。そして、検出されたタンク内圧が前回の検出値に対して所定値(ΔP1)以上低下していなければ、閉弁限界位置S0StepからBStep(B=2)減算した値、即ち、(S0−2)Stepがストローク量として記憶される。
次に、図5図6の上図に示すように、ステッピングモータ50がAStep(例えば、4Step)だけ開弁方向に回転して一定時間T1維持された後、ステッピングモータ50がBStep(2Step)だけ閉弁方向に回転して一定時間T2維持される。そして、ステッピングモータ50が一定時間T2維持されている間の所定タイミング(所定時間T22後)にタンク内圧が検出される。このとき、タンク内圧が前回の検出値に対して所定値(ΔP1)以上低下していなければ、前回のストローク量(S0−2)Stepに今回の開弁方向のストローク量Aと閉弁方向のストローク量Bとの差(A−B=2)Stepを加算した値が新たなストローク量として記憶される。即ち、ストローク量が(S0−2)StepからS0Stepに更新される。
【0024】
そして、このような工程が繰り返し実行されて、図6のタンク内圧のグラフに示すように、今回検出されたタンク内圧が前回(タイミングTx1 参照)の検出値に対して所定値(ΔP1)以上低下していると(タイミングTx2 参照)、封鎖弁40の開弁が開始されたと判定される。これにより、図6の下図に示すように、タイミングTx2で学習フラグがオンする。この結果、図6の学習値のグラフに示すように、一つ前の工程(タイミングTx1 参照)で更新したストローク量S2に(A−B−1=1)Stepが加算された値が開弁開始位置の学習値Sxとして記憶され、学習制御が終了する。
ここで、封鎖弁40の開弁開始位置の判定に使用されるタンク内圧の変化量である所定値(ΔP1)は、タンク内圧センサ15pの特性のばらつきや、車両走行等による燃料タンク15の液面揺れを考慮して、例えば、0.3kPa程度の値に設定されている。
また、学習フラグがオンしたときに、一つ前の工程(タイミングTx1 参照)で更新したストローク量S2に(A−B−1=1)Stepを加算して学習値Sxとする例を示したが、学習フラグがオンした工程(タイミングTx2 参照)でストローク量をS2StepからS3Stepに更新し、更新したストローク量S3から(A−B−1=1)Stepを減算した値を学習値Sxとして記憶することも可能である。
上記したように、ステッピングモータ50をAStep(例えば、4Step)だけ開弁方向に回転させる状態が、本発明の弁可動部を第1所定ストロークだけ開弁方向に変化させる状態に相当し、ステッピングモータ50をBStep(例えば、2Step)だけ閉弁方向に回転させる状態が、本発明の弁可動部を第2所定ストロークだけ閉弁方向に変化させる状態に相当する。
【0025】
<本実施形態に係る蒸発燃料処理装置20の長所>
本実施形態に係る蒸発燃料処理装置20によると、封鎖弁40の開弁開始位置を学習する際には、閉弁位置(0Step)から閉弁限界位置(S0Step)まで高速(第1速度)でバルブガイド60(弁可動部)のストローク量を開弁方向に変化させ、閉弁限界位置(S0Step)を超えた後は、ゆっくりと(第1速度よりも遅い第2速度)でバルブガイド60(弁可動部)のストローク量を変化させる。このため、短時間で高精度の学習を行なえるようになる。
また、閉弁限界位置(S0Step)を超えた後は、第1所定ストローク(4Step)だけ開弁方向に変化させ、第2所定ストローク(−2Step)だけ閉弁方向に変化させる工程を繰り返しながらバルブガイド60(弁可動部)を開弁方向に変化させる方法であるため、封鎖弁40の開弁開始位置では、流路が多めに開かれた状態から閉方向に戻されるようになる。このため、燃料タンク15内の内圧変化の応答性が良くなり、実際の開弁開始時と開弁開始判定時(燃料タンク15の内圧低下検出タイミング)との時間ずれが小さくなり、学習精度を向上させることができる。
また、封鎖弁40の開弁開始位置の学習は、エンジンのイグニッションスイッチがオンする毎に実施されるため、前回の学習値が誤学習であったとしてもその悪影響を防止できる。また、部品交換による学習値のずれの影響もなくなる。
【0026】
<変更例1>
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本実施形態では、燃料タンク15の内圧(タンク内圧)が前回の検出値に対して所定値(ΔP1)以上低下して始めて、封鎖弁40の開弁が開始されたと判定された。しかし、タンク内圧が低い場合、封鎖弁40の開弁が開始されても、タンク内圧が所定値(ΔP1)以上低下しない場合が考えられる。このような場合でも、正確に学習制御が行なわれるようにするため、図7に示すように、タンク内圧が前回の検出値に対して一定値(ΔP2<ΔP1)より低下した場合に、封鎖弁40の開弁開始の可能性があると判定して仮学習フラグをオンする。
即ち、図7に示す方法では、ステッピングモータ50がBStep(例えば、−2Step)だけ閉弁方向に回転した後、検出されたタンク内圧が、タンク内圧のグラフに示すように、前回の検出値(タイミングTx0 参照)に対して一定値(ΔP2)より低下していることが検出されると(タイミングTx1 参照)、このタイミングTx1で仮学習フラグがオンする。
このとき、ステッピングモータ50のステップ数は、図7の上図に示すように、S2Stepであるが、仮学習フラグがオンすることでストローク量の更新が禁止される。即ち、前回の工程で更新されたストローク量(S1Step)が保留される。そして、次の工程(タイミングx2)で検出されたタンク内圧が前回の検出値(タイミングTx1 参照)に対して所定値(ΔP1)以上低下していると、このタイミングTx2で学習フラグがオンする。これにより、保留されたストローク量(S1Step)に(A−B−1=1)Stepが加算された値が開弁開始位置の学習値Sxとして記憶され、学習制御が終了する。即ち、タンク内圧が低い場合でも、正確に学習制御が行なえるようになる。
【0027】
<変更例2>
本実施形態では、ステッピングモータ50が封鎖弁40の閉弁限界位置S0Stepまで開弁方向に回転した後、図6の上図に示すように、ステッピングモータ50を、AStep(例えば、4Step)だけ開弁方向に回転させ、BStep(例えば、2Step)だけ閉弁方向に回転させて、タンク内圧を監視する工程を繰り返し、開弁開始位置の学習を行なう例を示した。
しかし、図8に示すように、ステッピングモータ50が封鎖弁40の閉弁限界位置S0Stepまで開弁方向に回転した後、例えば、ステッピングモータ50をBStep(例えば、2Step)だけ開弁方向に回転させて、タンク内圧を検出する工程を繰り返し、開弁開始位置の学習を行なうことも可能である。
【0028】
<変更例3>
また、本実施形態では、封鎖弁40の設計上の閉弁限界位置S0Stepまでステッピングモータ50を高速で回転させる例を示した。しかし、図9に示すように、タンク内圧が所定値(ΔP1)以上低下するまでステッピングモータ50を高速で回転させ、タンク内圧が所定値(ΔP1)以上低下したときのステップ数(SxStep)から−YStep戻した戻し位置S0=(Sx−Y)Stepから上記した学習制御を行なうことも可能である。
即ち、戻し位置S0=(Sx−Y)Stepからステッピングモータ50をAStep(例えば、4Step)だけ開弁方向に回転させ、BStep(例えば、2Step)だけ閉弁方向に回転させて、タンク内圧を検出する工程を繰り返し、封鎖弁40の開弁開始位置の学習を行なうことが可能である。さらに、戻し位置S0=(Sx−Y)Stepからステッピングモータ50をBStep(例えば、2Step)だけ開弁方向に回転させて、タンク内圧を監視する工程を繰り返し、封鎖弁40の開弁開始位置の学習を行なうことも可能である。
<その他の変更例>
また、本実施形態では、封鎖弁40のモータにステッピングモータ50を使用する例を示したが、ステッピングモータ50の代わりにDCモータ等を使用することも可能である。
【符号の説明】
【0029】
15p・・・・タンク内圧センサ
15・・・・・燃料タンク
16・・・・・吸気通路
22・・・・・キャニスタ
24・・・・・ベーパ通路
40・・・・・封鎖弁
48・・・・・弁座
50・・・・・ステッピングモータ
60・・・・・バルブガイド(弁可動部)
70・・・・・バルブ体(弁可動部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9