特許第6076889号(P6076889)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6076889あと施工アンカーの健全性評価方法及び評価装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6076889
(24)【登録日】2017年1月20日
(45)【発行日】2017年2月8日
(54)【発明の名称】あと施工アンカーの健全性評価方法及び評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20170130BHJP
   G01N 29/09 20060101ALI20170130BHJP
   G01N 29/12 20060101ALI20170130BHJP
   G01N 29/30 20060101ALI20170130BHJP
   G01N 29/46 20060101ALI20170130BHJP
   G01N 29/48 20060101ALI20170130BHJP
【FI】
   G01N29/04
   G01N29/09
   G01N29/12
   G01N29/30
   G01N29/46
   G01N29/48
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-254086(P2013-254086)
(22)【出願日】2013年12月9日
(65)【公開番号】特開2015-114119(P2015-114119A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2015年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000172813
【氏名又は名称】佐藤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073210
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100173668
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 吉之助
(72)【発明者】
【氏名】歌川 紀之
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 清
(72)【発明者】
【氏名】京免 継彦
(72)【発明者】
【氏名】北川 真也
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−131293(JP,A)
【文献】 実開昭59−062549(JP,U)
【文献】 特開2010−008151(JP,A)
【文献】 特開平04−040361(JP,A)
【文献】 特開2000−074889(JP,A)
【文献】 特開2015−099060(JP,A)
【文献】 内田昌勝,第3回 ひび割れ・剥離・空洞(その1),プレストレストコンクリート,2005年 5月31日,第47巻第3号,P.102−106
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象であるあと施工アンカーに衝撃を加え、この加えた衝撃の応答のエネルギー比から前記あと施工アンカーの健全性を評価する方法であって、
予め、施工条件の異なるあと施工アンカー試験体を複数作成し、各あと施工アンカー試験体に任意の衝撃を加え、この衝撃を加えた部分である加振点と応答を測定する部分である応答点との位置間の伝達インピーダンスを求め、得られた各伝達インピーダンスと前記各施工条件との関係式を作成しておき、
実施工したあと施工アンカーに、前記あと施工アンカー試験体と同条件で衝撃を加えて加振点と応答点との位置間の伝達インピーダンスを求め、得られた伝達インピーダンスを前記関係式に当て嵌めて前記複数の施工条件の中から同様の施工条件を推定することによって、この実施工したあと施工アンカーの健全性を評価する構成であり
あと施工アンカーに加える衝撃が、インパルスハンマーによる打撃であり、
前記応答が、打撃により発生する音圧であり、
あと施工アンカーのボルト先端をインパクトハンマーによりボルト垂直方向に打撃し、打撃時の前記インパルスハンマーの加力値Nと、前記打撃の応答である音圧Pの空中を応答点とする音圧Paとコンクリート面を応答点とする音圧Pcとを測定し、この測定値をFFT分析し、各周波数(〜10kHz)において、振幅値比(音圧Pを加力値Nで除する)を計算し、周波数領域で平均して得られた値を平均振幅値比Aとして算出し、
A=ave(P(0〜10kHz)/N(0〜10kHz))
得られた平均振幅値Aのうち、(1)空中を応答点とする結果から算出された平均振幅値比をAa、(2)コンクリート面を応答点とする結果から算出された平均振幅値比をAc、とし、
予め、複数の施工条件のあと施工アンカー試験体から得られた複数の測定データから(1)平均振幅値Aa及び(2)平均振幅値Acを算出し、この算出した(1)平均振幅値Aaと前記施工条件との関係式と(2)平均振幅値Acと前記施工条件の関係式と、を作成しておき、
実施工したあと施工アンカーを、前記あと施工アンカー試験体と同条件の打音法によって測定して算出した(1)平均振幅値Aaと(2)平均振幅値Acとを前記関係式に当て嵌めることによって同様の施工条件を推定し、この推定した施工条件から実施工したあと施工アンカーの健全性を評価する構成であること、
を特徴とするあと施工アンカーの健全性評価方法。
【請求項2】
あと施工アンカーが、定着部に接着剤を充填する方式の接着系あと施工アンカーであり、この接着剤の充填率の高低によって健全性を評価する構成であることを特徴とする請求項1に記載のあと施工アンカーの健全性評価方法。
【請求項3】
前記施工条件として、接着剤充填率が異なる複数のあと施工アンカー試験体を作成し、実施工したあと施工アンカーの接着剤充填率を前記あと施工アンカー試験体の接着剤充填率に当て嵌めて施工条件を推定し、この推定した接着剤充填率の高低によって健全性を評価する構成であることを特徴とする請求項に記載のあと施工アンカーの健全性評価方法。
【請求項4】
前記あと施工アンカー試験体と実施工したあと施工アンカーの各々が、箱型鋼やCT鋼の如き被取付物がナットによって取付固定された構成であり、このナットの締め付けトルクの大小によって健全性を評価する構成であることを特徴とする請求項1に記載のあと施工アンカーの健全性評価方法。
【請求項5】
前記施工条件として、ナットの締め付けトルクが異なる複数のあと施工アンカー試験体を作成し、実施工したあと施工アンカーのナットの締め付けトルクを前記あと施工アンカー試験体のナットの締め付けトルクに当て嵌めて施工条件を推定し、この推定したナットの締め付けトルクの大小によって健全性を評価する構成であることを特徴とする請求項に記載のあと施工アンカーの健全性評価方法。
【請求項6】
推定した接着剤の充填率から、実施工したあと施工アンカーの引抜き抵抗力を算出又は推定する構成であることを特徴とする請求項2又は3に記載のあと施工アンカーの健全性評価方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のあと施工アンカーの健全性評価方法に用いる評価装置であって、
一部が露出した状態で打設コンクリートに定着固定されたあと施工アンカーに打撃を加えるインパクトハンマーの如き衝撃付加手段と、
前記あと施工アンカーに対して前記衝撃付加手段により加えた衝撃の応答である音圧を測定する測定手段と、
前記衝撃付加手段による打撃の加力値と、前記測定手段により測定された音圧と、を用いて、加振点と応答点との位置間の伝達インピーダンスを求め、求められた値と前記あと施工アンカーの施工条件とから前記あと施工アンカーの健全性を推定するための関係式を導き出す算出手段と、
を有して構成され、
前記応答点が空中とコンクリート面の2系統であり、2つの伝達インピーダンスを求める構成であることを特徴とするあと施工アンカーの健全性評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はあと施工アンカーの健全性評価方法及び評価装置に関し、詳しくは施工したあと施工アンカーの定着状態を外部からの非破壊検査で評価する方法及びその評価方法に用いられる評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
あと施工アンカーは、道路、鉄道、港湾、建築耐震工事等の各施工現場において幅広い用途で用いられている。
【0003】
2012年12月2日に発生した中央自動車道の笹子トンネルでの天井板落下事故では、天井板を覆工コンクリートから吊るために用いられていたあと施工アンカーが脱落することによって天井板が崩落してしまった。あと施工アンカーの脱落の推定される主たる原因としては、定着部に用いられている接着剤の経年劣化以外にも、接着剤の充填量が施工時点で不足していたことも指摘されており、これらの要因によって、設計要求荷重である4ton/1本を満たしていないものがあるどころか、天井板と吊り金具の支持荷重の1.2ton/1本さえも満たしていないものもあった。
【0004】
尚、国土交通省の発表によれば、あと施工アンカーに用いられるボルト自体に強度不足や腐食は見られなかったとのことから、定着部に充填された接着剤に主たる原因があったものとの推定は揺るがないものと思料される。
【0005】
また、この事故を契機に同型の構造を有する他のトンネルについての点検が行われたが、その際、国道197号 夜昼トンネルや阪神高速31号線 神戸山手線 神戸永田トンネルにおいて、あと施工アンカーの緩みや脱落が発見された。
【0006】
上記したあと施工アンカーの緩みや脱落等の不具合、かかる不具合を起因とする事故を未然に防ぐには、日々の定期的な点検が極めて重要であるが、点検の行い難い構造等による点検の省略やずさんな方法による点検等によって不具合や問題点が看過される場合がある。
【0007】
国土交通省 事故調査・検討委員会による前記した笹子トンネルでの事故の最終報告書
によれば、その再発防止策の中で「点検にあたっては、全ての常時引張り力を受ける接着系ボルトに対して近接点検(近接目視、打音及び触診)を行うとともに、少なくともいくつかのサンプルで適切な荷重レベルでの引張載荷試験を実施すべき」、新技術の開発の中で「引張り試験等の載荷試験によることなく強度を推定できる非破壊検査手法の技術開発が望まれる」と書かれている。
【0008】
そこで本発明者は、既に提案した技術(例えば、特許文献1及び2等)である打音を用いた非破壊検査技術を基に研究を進めることにより前記のような要望のある非破壊検査方法であって、しかも簡易な構成によってあと施工アンカーの健全性を容易に評価することできる技術の開発が可能であるとする知見を得た。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許4456723号公報
【特許文献2】特許3770668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明の課題は、簡易な構成によりあと施工アンカーの健全性を容易に評価を行うことができるあと施工アンカーの健全性評価方法及び評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は、下記構成を有する。
【0012】
1.被測定対象であるあと施工アンカーに衝撃を加え、この加えた衝撃の応答のエネルギー比から前記あと施工アンカーの健全性を評価する方法であって、
予め、施工条件の異なるあと施工アンカー試験体を複数作成し、各あと施工アンカー試験体に任意の衝撃を加え、この衝撃を加えた部分である加振点と応答を測定する部分である応答点との位置間の伝達インピーダンスを求め、得られた各伝達インピーダンスと前記各施工条件との関係式を作成しておき、
実施工したあと施工アンカーに、前記あと施工アンカー試験体と同条件で衝撃を加えて加振点と応答点との位置間の伝達インピーダンスを求め、得られた伝達インピーダンスを前記関係式に当て嵌めて前記複数の施工条件の中から同様の施工条件を推定することによって、この実施工したあと施工アンカーの健全性を評価する構成であり
あと施工アンカーに加える衝撃が、インパルスハンマーによる打撃であり、
前記応答が、打撃により発生する音圧であり、
あと施工アンカーのボルト先端をインパクトハンマーによりボルト垂直方向に打撃し、打撃時の前記インパルスハンマーの加力値Nと、前記打撃の応答である音圧Pの空中を応答点とする音圧Paとコンクリート面を応答点とする音圧Pcとを測定し、この測定値をFFT分析し、各周波数(〜10kHz)において、振幅値比(音圧Pを加力値Nで除する)を計算し、周波数領域で平均して得られた値を平均振幅値比Aとして算出し、
A=ave(P(0〜10kHz)/N(0〜10kHz))
得られた平均振幅値Aのうち、(1)空中を応答点とする結果から算出された平均振幅値比をAa、(2)コンクリート面を応答点とする結果から算出された平均振幅値比をAc、とし、
予め、複数の施工条件のあと施工アンカー試験体から得られた複数の測定データから(1)平均振幅値Aa及び(2)平均振幅値Acを算出し、この算出した(1)平均振幅値Aaと前記施工条件との関係式と(2)平均振幅値Acと前記施工条件の関係式と、を作成しておき、
実施工したあと施工アンカーを、前記あと施工アンカー試験体と同条件の打音法によって測定して算出した(1)平均振幅値Aaと(2)平均振幅値Acとを前記関係式に当て嵌めることによって同様の施工条件を推定し、この推定した施工条件から実施工したあと施工アンカーの健全性を評価する構成であること、
を特徴とするあと施工アンカーの健全性評価方法。
【0015】
.あと施工アンカーが、定着部に接着剤を充填する方式の接着系あと施工アンカーであり、この接着剤の充填率の高低によって健全性を評価する構成であることを特徴とする上記1に記載のあと施工アンカーの健全性評価方法。
【0016】
.前記施工条件として、接着剤充填率が異なる複数のあと施工アンカー試験体を作成し、実施工したあと施工アンカーの接着剤充填率を前記あと施工アンカー試験体の接着剤充填率に当て嵌めて施工条件を推定し、この推定した接着剤充填率の高低によって健全性を評価する構成であることを特徴とする上記に記載のあと施工アンカーの健全性評価方法。
【0017】
.前記あと施工アンカー試験体と実施工したあと施工アンカーの各々が、箱型鋼やCT鋼の如き被取付物がナットによって取付固定された構成であり、このナットの締め付けトルクの大小によって健全性を評価する構成であることを特徴とする上記1に記載のあと施工アンカーの健全性評価方法。
【0018】
.前記施工条件として、ナットの締め付けトルクが異なる複数のあと施工アンカー試験体を作成し、実施工したあと施工アンカーのナットの締め付けトルクを前記あと施工アンカー試験体のナットの締め付けトルクに当て嵌めて施工条件を推定し、この推定したナットの締め付けトルクの大小によって健全性を評価する構成であることを特徴とする上記に記載のあと施工アンカーの健全性評価方法。
【0019】
.推定した接着剤の充填率から、実施工したあと施工アンカーの引抜き抵抗力を算出又は推定する構成であることを特徴とする上記2又は3に記載のあと施工アンカーの健全性評価方法。
【0020】
.上記1〜6のいずれかに記載のあと施工アンカーの健全性評価方法に用いる評価装置であって、
一部が露出した状態で打設コンクリートに定着固定されたあと施工アンカーに打撃を加えるインパクトハンマーの如き衝撃付加手段と、
前記あと施工アンカーに対して前記衝撃付加手段により加えた衝撃の応答である音圧を測定する測定手段と、
前記衝撃付加手段による打撃の加力値と、前記測定手段により測定された音圧と、を用いて、加振点と応答点との位置間の伝達インピーダンスを求め、求められた値と前記あと施工アンカーの施工条件とから前記あと施工アンカーの健全性を推定するための関係式を導き出す算出手段と、
を有して構成され、
前記応答点が空中とコンクリート面の2系統であり、2つの伝達インピーダンスを求める構成であることを特徴とするあと施工アンカーの健全性評価装置。
【発明の効果】
【0022】
請求項1又は9に示す発明によれば、簡易な構成によりあと施工アンカーの健全性を容易に評価を行うことができるあと施工アンカーの健全性評価方法又は評価装置を提供することができる。
【0023】
特に、あと施工アンカーに衝撃を加え、その衝撃の加振力と測定された音圧とから加振点と応答点との位置間の伝達インピーダンスを求め、予め試験体を用いて得られている関係式に当て嵌めることによってあと施工アンカーの健全性を評価することができる。
【0024】
請求項2に示す発明によれば、公知公用の打音検査方法に用いられるインパクトハンマーによって定量的な打撃を容易に加えることができる。
【0025】
請求項3又は10に示す発明によれば、応答点が(1)空中と(2)コンクリート面、の2系統であり、2つの伝達インピーダンスを求める構成であり、この2つの伝達インピーダンスから得られる試験体の関係式に、実施工したあと施工アンカーの2つの伝達インピーダンスを当て嵌めることによって健全性を評価することになるので、評価精度が向上することになる。
【0026】
請求項4に示す発明によれば、接着系あと施工アンカーの接着剤の充填率や充填不良等から健全性を評価することができる。
【0027】
請求項5に示す発明によれば、(1)空中を応答点とする伝達インピーダンスが小である場合、あと施工アンカーのがたつきによる振動が大きい(密着度が低いために音圧Paが大である)ことが判り、この振動が大(音圧Paが大)である場合には接着剤の充填量が少ない(接着強度が低い)と推定することができ、また、(2)コンクリート面を応答点とする伝達インピーダンスが大である場合、あと施工アンカーからコンクリートへの振動が伝わっていない(密着度が低いために音圧Pcが小)ことが判り、この結果から接着剤の充填量が少ない(接着強度が低い)と推定することができる。
【0028】
請求項6に示す発明によれば、あと施工アンカーに箱型鋼やCT鋼の如き被取付物をナットによって取付固定した場合、螺合したナットの締め付けトルクの大小を評価することができる。
【0029】
請求項7に示す発明によれば、(1)空中を応答点とする伝達インピーダンスが小である場合、取付固定した被取付物のがたつきが大きい(密着度が低いために音圧Paが大である)ことが判り、このがたつきが大きい場合にはナットの締め付けトルクが小さい(強度が低い)と推定することができ、また、(2)コンクリート面と応答点とする伝達インピーダンスが小である場合、取付固定した被取付物からコンクリートへ振動が伝わっている(音圧Pcが大)ことが判り、この結果からナットの締め付けトルクが大きい(強度が高い)と推定することができる。
【0030】
請求項8に示す発明によれば、あと施工アンカーの設計要求荷重を満たしているか否かを引張り試験等の載荷試験によることなく引抜き抵抗力を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明のあと施工アンカーの健全性評価装置の第1実施例を示す概略構成図
図2】供試体に施工される各あと施工アンカーの施工状態を説明する概略構成図
図3】あと施工アンカー試験体を複数用いて行った(1)空中を応答点とする場合の施工条件(複数の接着剤充填率)と平均振幅値比の関係式を表すグラフ
図4】あと施工アンカー試験体を複数用いて行った(2)コンクリート面を応答点とする場合の施工条件(複数の接着剤充填率)と平均振幅値比の関係式を表すグラフ
図5図3に示す(1)空中を応答点とする場合の平均振幅値比の関係式と、図4に示す(2)コンクリート面を応答点とする場合の平均振幅値比の関係式と、を面的に表すグラフ
図6】本発明のあと施工アンカーの健全性評価装置の第2実施例の供試体に施工される各あと施工アンカーの施工状態を説明する概略構成図
図7】あと施工アンカー試験体を複数用いて行った(1)空中を応答点とする場合の施工条件(複数のナット締め付けトルク)と平均振幅値比の関係式を表すグラフ
図8】あと施工アンカー試験体を複数用いて行った(2)コンクリート面を応答点とする場合の施工条件(複数のナット締め付けトルク)と平均振幅値比の関係式を表すグラフ
図9図7に示す(1)空中を応答点とする場合の平均振幅値比の関係式と、図8に示す(2)コンクリート面を応答点とする場合の平均振幅値比の関係式と、を面的に表すグラフ
図10】引抜き抵抗力試験の結果を表すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係るあと施工アンカーの健全性評価方法及び評価装置について説明する。
【0033】
本発明に係るあと施工アンカーの健全性評価方法(単に評価方法ということもある。)及びあと施工アンカーの健全性評価装置(単に評価装置ということもある。)は、道路、鉄道、港湾、建築耐震工事等の各施工現場において幅広く用いられているあと施工アンカーの健全性を評価するものである。
【0034】
あと施工アンカーは、コンクリートに穿設した定着用孔部内にアンカーボルトを一部が露出した状態で埋設し、定着用孔部との定着部に接着剤を充填し、この接着剤の固化により前記アンカーボルトを定着固定する構成であり、該あと施工アンカーに取付固定されるCT鋼や種々吊り具等の被取付物の重量や外的応力等の総量に応じた設計要求荷重を施工時のみならず供用期間においても満たすことが求められている。
【0035】
そこで施工時に設計要求荷重を満たしているか否か、供用期間における経時経年後についても設計要求荷重を満たしているか否かを、引き抜き試験等の載荷試験を行うことなく非破壊検査によって評価する方法であり、被測定対象であるあと施工アンカーに衝撃を加え、この加えた衝撃の応答のエネルギー比から前記あと施工アンカーの健全性を評価するものである。
【0036】
評価方法の具体的構成としては、
予め、施工条件の異なるあと施工アンカー試験体を複数作成し、各あと施工アンカー試験体に衝撃を加え、この衝撃を加えた部分である加振点と応答を測定する部分である応答点との位置間の伝達インピーダンスを求め、得られた各伝達インピーダンスと前記各施工条件との関係式を作成しておき、
実施工したあと施工アンカーに、前記あと施工アンカー試験体と同条件で衝撃を加えて加振点と応答点との位置間の伝達インピーダンスを求め、得られた伝達インピーダンスを前記関係式に当て嵌めて前記複数の施工条件の中から同様の施工条件を推定することによって、この実施工したあと施工アンカーの健全性を評価する構成である。
【0037】
即ち、予め複数種類の条件毎の試験体を作成して、この複数の試験体の各々についてデータを得ておき、この得られた複数のデータから関係式を算出しておくことによって、健全性を評価する際に用いる規準データを求めておく。そして、実際の実施工のあと施工アンカーを施工した際や、施工後から経時経年した際に、前記試験体と同様の方法及び装置によって測定し、この測定から得られたデータを前記の試験体から得られた規準データに当て嵌め、複数種類の条件のいずれの条件に当て嵌まるかを求めることによって、実施工したあと施工アンカーがどのような状態にあるかを判別することができる。この判別によって、あと施工アンカーの健全性の評価が可能となる。
【0038】
以下、本発明について図1図10に基づき詳説する。
【0039】
あと施工アンカーに加える衝撃としては、図1に示すようにインパルスハンマー4による打撃であることが好ましく、測定する応答としては打撃により発生する音圧であることが好ましく、
あと施工アンカーのボルト1の先端をインパクトハンマー4によりボルト垂直方向に打撃し、打撃時の前記インパルスハンマー4の加力値と、前記打撃の応答である音圧Pの空中を応答点とする音圧Paとコンクリート2面を応答点とする音圧Pcとを測定し、この測定値をFFT分析し、各周波数(〜10kHz)において、振幅値比(音圧Pを加力値Nで除する)を計算し、周波数領域で平均して得られた値を平均振幅値比Aとして算出し、
A=ave(P(0〜10kHz)/N(0〜10kHz))
得られた平均振幅値Aのうち、(1)空中を応答点とする結果から算出された平均振幅値比をAa、(2)コンクリート2面を応答点とする結果から算出された平均振幅値比をAc、とし、
予め、複数の施工条件のあと施工アンカー試験体から得られた複数の測定データから(1)平均振幅値Aa及び(2)平均振幅値Acを算出し、この算出した(1)平均振幅値Aaと前記施工条件との関係式と(2)平均振幅値Acと前記施工条件の関係式と、を作成しておき、
実施工したあと施工アンカーを、前記あと施工アンカー試験体と同条件の打音法によって測定して算出した(1)平均振幅値Aaと(2)平均振幅値Acとを前記関係式に当て嵌めることによって同様の施工条件を推定し、この推定した施工条件から実施工したあと施工アンカーの健全性を評価する構成であることが好ましい。
【0040】
図1は、本発明の評価方法に用いられる評価装置の構成例の一例を示す概略構成図であり、符号1はあと施工アンカーのボルト、符号2は前記ボルト1が定着固定されるコンクリート、符号3はコンクリート2に穿設されて前記ボルト1が一部露出状態で埋設されると共に定着用の接着剤が充填される接着剤定着部、符号4は前述したように打撃手段の好ましい一例であるインパルスハンマー、符号5は前記インパルスハンマー4による打撃時の加振力を検出する力検出器・アンプである。更に、符号6aと6cはマイク61とフード62とを有して構成されることにより音圧Pを測定する受音手段であって、6aは空中の音圧Paを測定し、6cはコンクリート2面の音圧Pcを測定するものである。更にまた、符号7aと7cは音圧検出器・アンプであって、7aは受音手段6aが受音した空中の音圧Paを検出し、7cは受音手段6cが検出したコンクリート2面の音圧pcを検出するものである。更に、8は変換器、9はインパルスハンマー4による打撃情報や受音手段6a・6cによる受音情報・測定結果を記録すると共に得られた測定値から平均振幅値比Aa・Acを算出したり、算出された平均振幅値Aa・Acと施工条件の関係式を導き出すパソコンである。
【0041】
本発明において図1に示す概略構成図は、実施工したあと施工アンカーの場合と、あと施工アンカー試験体の場合の両方について示すものである。
【0042】
本発明の評価方法及び評価装置によって健全性を評価する場合の対象とする評価基準となる施工条件は、先ず、あと施工アンカーの定着部に充填される接着剤の充填率である。
【0043】
施工条件として、接着剤充填率が異なる複数のあと施工アンカー試験体を作成し、この複数の試験体の各々についてインパルスハンマーによる打撃を行って音圧Pを(1)空中と(2)コンクリート面で測定し、この測定結果と複数種類の接着剤充填率とから関係式を算出しておいて評価判断の規準データを得ておく。
次に、実際の実施工したあと施工アンカーについて前記試験体の場合と同様にインパルスハンマーによる打撃を行った音圧Pを(1)空中と(2)コンクリート面で測定し、この測定結果を前記した試験体による関係式に当て嵌めることによって実施工したあと施工アンカーの接着剤充填率を推定することができる。
【0044】
上記(1)の空中を応答点とする音圧Paの測定は、あと施工アンカーの先端部分から数cm〜数十cm離れた位置を応答点として測定することが好ましく、より好ましくは10〜30cm、とりわけ好ましくは20cm程度離れた位置を応答点とすることである。
また上記(2)のコンクリート面を応答点とする音圧Pcの測定は、あと施工アンカーの中心から数cm〜数十cm離れた位置を応答点として測定することが好ましく、より好ましくは5〜20cm、とりわけ好ましくは10cm程度離れた位置を応答点とすることである。
【0045】
そして、この推定した接着剤充填率の高低によって健全性の評価を行うことができる。
例えば、(1−1)空中を応答点とする伝達インピーダンスが小である場合、あと施工アンカーの振動が大きい(密着度が低いために音圧Paが大である)ことが判り、この振動が大(音圧Paが大)である場合には接着剤の充填量が少ない(接着強度が低い)と推定することができ、反対に、(1−2)空中を応答点とする伝達インピーダンスが大である場合、あと施工アンカーの振動が小さい(密着度が高いために音圧Paが小)ことが判り、この振動が小(音圧Paが小)である場合には接着剤の充填量が多い(接着強度が高い)と推定することができる。
また、(2−1)コンクリート面を応答点とする伝達インピーダンスが大である場合、あと施工アンカーからコンクリートへの振動が伝わっていない(音圧Pcが小である)ことが判り、この結果から接着剤の充填量が少ない(接着強度が低い)と推定することができ、反対に、(2−2)コンクリート面を応答点とする伝達インピーダンスが小である場合、あと施工アンカーからコンクリートへの振動が伝わっている(音圧Pcが大である)ことが判り、この結果から接着剤の充填量が多い(接着強度が高い)と推定することができる。
従って、接着剤の充填量が規定値よりも少ない場合には不良と評価することができ、接着剤の充填量が規定値よりも多い場合には合格と評価することができる。
即ち、接着剤の充填量が大きいということは接着強度が大きいことを実質的に意味し、接着剤の充填量が小さいということは接着強度が低いことを実質的に意味することになる。
【0046】
本発明の評価方法及び評価装置によって健全性を評価する場合の対象とする評価基準となる施工条件は接着剤充填率だけでなく、図6に示すあと施工アンカー1に箱型鋼やCT鋼の如き被取付物11(本実施例では箱型鋼を示す。)をナット10によって取付固定した場合に螺合したナット10の締め付けトルクの大小からも評価することができる。
【0047】
施工条件として、ナットの締め付けトルクが異なる複数のあと施工アンカー試験体を作成し、この複数の試験体の各々についてインパルスハンマーによる打撃を行って音圧Pを(1)空中と(2)コンクリート面で測定し、この測定結果と複数種類のナット締め付けトルクとから関係式を算出しておいて評価判断の規準データを得ておく。

次に、実際の実施工したあと施工アンカーについて前記試験体の場合と同様にインパルスハンマーによる打撃を行った音圧P(Pa・Pc)を(1)空中と(2)コンクリート面で測定し、この測定結果を前記した試験体による関係式に当て嵌めることによって実施工したあと施工アンカーのナット締め付けトルクを推定することができる。
【0048】
上記(1)の空中を応答点とする音圧Paの測定は、あと施工アンカーの先端部分から数cm〜数十cm離れた位置を応答点として測定することが好ましく、より好ましくは10〜30cm、とりわけ好ましくは20cm程度離れた位置を応答点とすることである。
また上記(2)のコンクリート面を応答点とする音圧Pcの測定は、あと施工アンカーの中心から数cm〜数十cm離れた位置を応答点として測定することが好ましく、より好ましくは5〜20cm、とりわけ好ましくは10cm程度離れた位置を応答点とすることである。
【0049】
そして、この推定したナット締め付けトルクの大小によって健全性の評価を行うことができる。
例えば、(1)空中を応答点とする伝達インピーダンスが小である場合、取付固定した被取付物のがたつきが大きい(密着度が低いために音圧Paが大)ことが判り、このがたつきが大きい(音圧Paが大)場合にはナットの締め付けトルクが小さい(強度が低い)と推定することができ、反対に、(1)空中を応答点とする伝達インピーダンスが大である場合、取付固定した被取付物のがたつきが小さい乃至は無い(密着度が高いために音圧Paが小)ことが判り、このがたつきが小さい乃至は無い(音圧Paが小)場合にはナットの締め付けトルクが大きい乃至は充分である(強度が高い)と推定することができる。
また、(2)コンクリート面を応答点とする伝達インピーダンスが小である場合、取付固定した被取付物からコンクリートへ振動が伝わっている(密着度が高いために音圧Pcが大である)ことが判り、この結果からナットの締め付けトルクが大きい(強度が高い)と推定することができ、反対に、(2)コンクリート面を応答点とする伝達インピーダンスが大である場合、取付固定した被取付物からコンクリートへ振動が伝わっていない(密着度が低いために音圧Pcが小である)ことが判り、この結果からナットの締め付けトルクが小さい(強度が低い)と推定することができる。
従って、ナット締め付けトルクが規定値よりも小さい場合には不良と評価することができ、ナット締め付けトルクが規定値よりも大きい場合には合格と評価することができる。
【0050】
更に、上記のようにして推定した実施工したあと施工アンカーの接着剤充填率から、引抜き抵抗力を算出又は推定することができる。
【0051】
引抜き抵抗力の算出又は推定構成としては、図10に示すように、接着系あと施工アンカーの定着長(接着剤付着推定長)の異なる引抜き抵抗力試験の結果から判るように、定着長が長くなるにしたがい、引抜き抵抗力が大きくなることが判る。即ち、引抜き抵抗力試験の結果から、あと施工アンカーが埋設する孔部との間隙に介在する接着剤の充填率に相当する充填量が大であるほど、引抜き抵抗力が向上することを推定できることが判る。
【実施例】
【0052】
次に、本発明について実験例に基づき説明する。
【0053】
[第1実施例]
図1に示す構成の評価方法及び評価装置により、あと施工アンカーの接着剤充填率をボルト1に対するインパルスハンマー4による打撃によって発生する音圧から健全性を評価する実施例について説明する。
【0054】
評価に際しては供試体を作成した。供試体に施工した各あと施工アンカーの施工構成は図2に示す通りである。
【0055】
供試体に施工される各あと施工アンカーは、下記の通りの条件で施工されている。本発明の実験例に用いた供試体は、サイズが1500mm×1800mm×450mmのコンクリート塊である。
本発明の実験例に用いたあと施工アンカー1のボルトは径22mm、長さ370mmであり、コンクリート2に穿孔深さは280mm、穿孔径は28mmであり、接着剤の充填率は100%、80%、51%、0%(接着剤に代えて粘土を充填した。)とし、各あと施工アンカー1の接着剤充填率は下記の通りである。
L1〜L4:接着剤充填率 51%
M1〜M3:接着剤充填率 80%
H1〜H3:接着剤充填率100%
LS :接着剤充填率 0%(粘土充填)
尚、L4は接着剤が孔部の先端まで充填されずに先端部分が接着剤未充填の先端不良状態の条件とするために先端部分に粘土を充填した条件とした。
尚また、H3は孔内を清掃不良の条件とした。
【0056】
前記(1)の空中を応答点とする音圧Paの測定は、あと施工アンカー1の先端部分から20cm離れた位置を応答点として測定を行い、また前記(2)のコンクリート面を応答点とする音圧Pcの測定は、あと施工アンカーの中心から10cm離れた位置を応答点として測定を行った。
【0057】
測定結果を、図3図5のグラフに示す。
充填率が高い(接着強度が高い)場合は、図3のグラフに示されるように、あと施工アンカーが振動し難くなるため平均振幅値Aaが小さくなり、図4のグラフに示されるように、コンクリート2に振動が伝わり易くなるため平均振幅値Acが大きくなる。従って平均振幅値Aaと平均振幅値Acの夫々から接着剤充填率を推定することができることが判る。
また、図5のグラフに示されるように、平均振幅値Aaと平均振幅値Acの両方を用いることにより、接着剤充填率を推定する際の精度が向上することが判る。
【0058】
[第2実施例]
次に、図6に示すように、あと施工アンカーのボルト1に鋼製プレートから成る被取付物11を前記あと施工アンカーのボルト1にナット10を螺合することにより取り付けた際の、該ナット10の締め付けトルクから健全性を評価する実施例について説明する。
【0059】
本第2実施例では、あと施工アンカーのボルト1に被取付物11をナット10を螺合して取り付けた以外は前述の実施例1と同様の構成の評価方法及び評価装置(図1参照)を用い、実施例1と同様の構成の供試体を用いて、ボルト1に対するインパルスハンマー4による打撃によって発生する音圧から健全性を評価した。
【0060】
被取付物11としては、図6に示すように、サイズが[100mm×100mm×10mmの鋼製プレートを用いた。また、ナット10の締め付けトルクは、9Nmと111Nmと165Nmの3種類とした。
【0061】
前記(1)の空中を応答点とする伝達インピーダンスの測定は、あと施工アンカー1の先端部分から20cm離れた位置を応答点として測定を行い、また前記(2)のコンクリート面を応答点とする音圧の測定は、あと施工アンカーの中心から10cm離れた位置を応答点として測定を行った。
【0062】
測定結果を、図7図9のグラフに示す。
締め付けトルクが大きい場合は、図7のグラフに示されるように、あと施工アンカーが振動し難くなるため平均振幅値Aaが小さくなり、図8に示されるように、コンクリート2に振動が伝わり易くなるため平均振幅値Acが大きくなり、従って平均振幅値Aaと平均振幅値Acの夫々から締め付けトルクを推定することができることが判る。
また、図9のグラフに示されるように、平均振幅値Aaと平均振幅値Acの両方を用いることにより、締め付けトルクを推定する際の精度が向上することが判る。
【符号の説明】
【0063】
1 あと施工アンカーのボルト
2 コンクリート
3 接着剤定着部
4 インパルスハンマー
5 力検出器・アンプ
6a 受音手段
6c 受音手段
61 マイク
62 フード
7a 音圧検出器・アンプ
7c 音圧検出器・アンプ
8 変換器
9 パソコン
10 ナット
11 被取付物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10