【実施例】
【0053】
[材料および方法]
ピロフェオホルビド-脂質の合成
ピロフェオホルビド(ピロ)は、以前記述されたように(Zheng et al., Bioconjugate Chemistry, 13-392, 2002)、Spirulina pacifica藻類(シアノテック社)から得た。標準的な反応において、107 mgのピロ(200 umol)を、98.7 mgの16:0リゾホスファチジルコリン(1-パルミトイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、アヴァンティ・ポーラー・リピッド社 # 855675)、76.3 mgのEDC(シグマ社)、および48.7 mgのDMAP(シグマ社)と、5 mLのアミレン安定化クロロホルム(シグマ社)中で混合した。反応混合物を、室温にてアルゴン下で24時間撹拌した。得られたピロ-脂質位置異性体産物は、2695 HPLC/MSマイクロマスZQ 2000システム(ウォーターズ社)を用いて、質量分析を伴う逆相HPLCにより分析した。4.6 mm×75 mmの3.5μmサンファイアーC8 HPLCカラム(ウォーターズ社)を、60℃におけるカラム加熱、0.1%TFA中15%アセトニトリルから0.1%TFA中95%アセトニトリルまでの勾配を用いて、流速0.5 mL/分で15分間にわたって使用した。ピロ-脂質位置異性体をさらなる分析に付し、あるいは、40℃の加熱を伴う回転式蒸発器を用いて減圧下でクロロホルムを除去してさらなる酵素的位置異性体選択を実施した。
【0054】
酵素的位置異性体選択およびそれに続くピロ-脂質精製
酵素スクリーニングのために、シグマ社から入手した以下の酵素を使用した:Arachis hypogaea(ピーナッツ)由来のホスホリパーゼD-II型(P0515);Burkholderia由来のリポタンパク質リパーゼ(L9656);Candida rugosa由来のリパーゼ、VII型(L1754);Clostridium perfringens由来のホスホリパーゼC、I型(P7633);ブタ肝臓由来のエステラーゼ(E3019);ブタ膵臓由来のホスホリパーゼA2(P6534);ブタ膵臓由来のリパーゼ(L3126);Thermomyces lanuginosus由来のホスホリパーゼA1(L3295);Bacillus stearothermophilusの組換えエステラーゼ(69509);Pseudomonas cepacia由来のリパーゼ(62309);Rhizomucor miehei由来のリパーゼ(L4277);Thermomyces lanuginosus由来のリパーゼ(L0777);ミツバチ毒由来のホスホリパーゼA2(P9279)。酵素スクリーニングのためには、酵素を反応あたり2 nmolのピロ-脂質とともに加え、10 ugの乾燥酵素(ホスホリパーゼD、ホスホリパーゼC、リポタンパク質リパーゼ、Candida rugosa由来リパーゼ、ブタ肝臓由来エステラーゼ、ホスホリパーゼA2、ブタ肝臓リパーゼ)、あるいは液体もしくは懸濁形態で得られた酵素(上記以外の全ての酵素)については1 uLを用いて、50 uLの0.025% Triton(登録商標)X100および5 mM Tris pH 8中で37℃で3時間インキュベートした。インキュベーション後、サンプルを50 uLのDMSOと組み合せ、遠心分離して沈殿タンパク質を除去し、上記のようにHPLC/MSに付した。ミツバチ毒由来のホスホリパーゼA2およびThermomyces lanuginosus由来のリパーゼをそれぞれsn-1およびsn-2コンジュゲート化ピロ-脂質異性体を切断するための最良の酵素として同定した後、反応あたり3 nmolのピロ-脂質を使用して、表示された時間点にてインキュベートして、これらの2つの酵素を再評価した。sn-2位にピロが結合したピロ-脂質の標準的な精製のためには、乾燥した混合ピロ-脂質を、1 mM CaCl
2、50 mM Tris pH 8、0.5% Triton(登録商標)X-100、および10% MeOH中に、5 mg/mLのピロ-脂質となるように直接再懸濁した。それからミツバチ毒由来のPLA2を0.1 mg/mLの濃度にて加え、この溶液を37℃にて24時間インキュベートした。sn-1位にピロが結合したピロ-脂質の調製のためには、sn-1およびsn-2ピロ-脂質の位置異性体混合物をまず精製し、それから0.5% Triton(登録商標)X-100および1 mM CaCl
2中で2.5 mg/mLのピロ-脂質にてインキュベートし、10 mLのピロ-脂質溶液あたり200 uLのThermomyces lanuginosus由来調製リパーゼ溶液を加えることによって消化を行なった。反応状態はHPLC/MSを用いて調査し、数日間にわたって実行され、1日毎にさらに100 uLのリパーゼを追加した。反応後、HPLC/MSを使用して、望まない位置異性体が消失したことを確認することにより、完了を確証した。さらなる2体積のクロロホルムおよび1.25体積のメタノールを加え、ピロ-脂質を有機相から抽出し、40℃、減圧にて回転式蒸発器を用いて溶媒を除去した。それからピロ-脂質をDCM中に再懸濁し、ジオールシリカ(ソーブテック社、#52570)で充填したフラッシュクロマトグラフィーカラムに適用した(100 mgのピロ-脂質あたり約10 gの乾燥シリカ粉末)。ピロ-脂質に対してソレラ・フラッシュクロマトグラフィー・システム(バイオテージ社)を使用し、DCM中0〜10%のメタノール勾配を用いた。溶出画分をまとめ、減圧にて回転式蒸発器を用いて溶媒を除去した。最後に、ピロ-脂質を10 mLの20%水および80% t-ブタノール中に溶解し、液体窒素中で凍結し、2〜3日間にわたって凍結乾燥した。sn-1ピロ-脂質については、NMR解析結果は以下の通りであった:
【0055】
1H NMR (CDCl
3, 400 MHz): δ 9.22 (s, 1 H), 9.06 (s, 1 H), 8.49 (s, 1 H), 7.89 (dd, J =18.0, 11.6 Hz, 1 H), 6.21 (dd, J = 18.0, 1.2 Hz, 1 H), 6.11 (dd, J = 11.6, 1.2 Hz, 1 H), 5.21(m, 1 H), 5.19 (d, J = 19.6 Hz, 1 H), 4.99 (d, J = 19.6 Hz, 1 H), 4.45 (d, J = 17.2 Hz, 1 H), 4.39 (q, J = 7.2 Hz, 1 H), 4.29 (m, 2 H), 4.19-4.11 (m, 2 H), 3.94 (m, 2 H), 3.73 (m, 2 H), 3.45 (q, J = 9.6, 2 H), 3.35 (s, 3 H), 3.30 (s, 3 H), 3.26 (s, 9 H), 3.12 (s, 3 H), 2.66-2.55 (m, 3 H), 2.35-2.27 (m, 1 H) 2.14 (t, J = 7.6 Hz, 3 H), 1.77 (d, J = 7.6 Hz, 3 H), 1.55 (t, J = 7.6, 3 H), 1.33 (m, 2 H), 1.33-0.93 (m, 31 H), 0.85 (t, J = 6.8 Hz, 3 H), 0.23 (br, 1 H), -1.84 (br, 1 H);
【0056】
13C NMR (CDCl
3, 100 MHz): δ 196.1, 173.1, 172.9, 171.3, 160.2, 155.1, 150.6, 148.8, 144.8, 141.4, 137.5, 136.1, 135.9, 135.7, 131.5, 130.1, 129.1, 127.8, 122.4, 105.8, 103.7, 97.0, 93.0, 70.4, 70.3, 68.3, 66.5, 63.5, 63.3, 59.2, 54.5, 51.6, 49.9, 48.0, 34.2, 32.9, 30.9, 29.7, 29.6, 29.6, 29.6, 29.6, 29.5, 29.4, 29.3, 29.1, 28.9, 24.7, 23.1, 22.6, 19.2, 19.0, 17.3, 14.1, 12.0;
【0057】
sn-2ピロ-脂質については、NMR解析結果は以下の通りであった:
【0058】
1H NMR (CDCl
3, 400 MHz): δ 9.08 (s, 1 H), 8.89 (s, 1 H), 8.45 (s, 1 H), 7.78 (dd, J = 18.0, 11.6 Hz, 1 H), 6.14 (d, J = 18.0 Hz, 1 H), 6.04 (dd, J = 11.6 Hz, 1 H), 5.31(m, 1 H), 5.13 (d, J = 19.6 Hz, 1 H), 4.97 (d, J = 19.6 Hz, 1 H), 4.41 (m, 3 H), 4.24 (m, 2 H), 4.18 (m, 2 H), 4.00 (t, J = 6.4 Hz, 2 H), 3.66 (m, 2 H), 3.34 (q, J = 7.5 Hz, 2 H), 3.29 (s, 3 H), 3.21 (s, 12 H), 3.03 (s, 3 H), 2.81 (s, 1 H), 2.64 (q, J = 6.8 Hz, 2 H), 2.41 (m, 1 H), 2.16 (t, J = 7.1 Hz, 2 H), 2.05 (m, 1 H), 1.75 (d, J = 7.2 Hz, 3 H), 1.49 (t, J = 7.6 Hz, 3 H), 1.41 (p, J = 6.9 Hz, 2 H), 1.29 - 0.89 (m, 31 H), 0.85 (t, J = 6.8 Hz, 3 H), -0.07 (br, 1 H), -1.97 (br, 1 H);
【0059】
13C NMR (CDCl
3, 100 MHz): δ 196.4, 173.5, 172.6, 171.4, 160.3, 154.9, 150.4, 148.7, 141.4, 137.4, 136.0, 135.8, 135.6, 131.4, 122.3, 105.7, 103.6, 96.9, 93.0, 72.9, 41.2, 41.2, 66.3, 66.2, 63.9, 63.6, 63.5, 62.8, 59.3, 51.5, 49.9, 48.0, 43.0, 39.1, 31.9, 31.1, 29.8, 29.6, 29.6, 29.6, 29.5, 29.4, 29.3, 29.3, 29.1, 29.0, 24.7, 23.1, 22.6, 19.2, 17.3;
【0060】
異性体のアイデンティティを確認するために、0.5 % Triton(登録商標)-X100および1 mM CaCl
2中で、sn-1ピロ-脂質はミツバチ毒由来ホスホリパーゼA2により消化し、sn-2ピロ-脂質はThermomyces lanuginosus由来リパーゼを使用して消化した。37℃にて一晩インキュベートした後、2体積のクロロホルムおよび1.25体積のメタノールを使用して、切断産物を抽出した。ロトヴァップにより有機溶媒を除去し、切断断片をDCM中の1% MeOHに再懸濁して小さなジオールシリカカラム上で精製し、ここで、切断断片はピロ-脂質よりも高いMeOH濃度において溶出した(8%付近)。溶媒を乾燥させ、d-DMSO 400 MHz NMRに供した。NMRスペクトルは補足
図2に示す。
【0061】
ポルフィソームの形成および解析
異性体として純粋なピロ-脂質、コレステロール(アヴァンティ・ポーラー・リピッド社)、およびジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-メトキシ(ポリエチレングリコール)(PEG-2000-PE、アヴァンティ・ポーラー・リピッド社)をクロロホルム中に溶解した。解析研究のために、ホウケイ酸試験管中における分散、窒素流下における乾燥、それに続く真空下における残余クロロホルム除去によって、95%ピロ-脂質(表示された位置異性体組成のもの)および5% PEG-2000-PEの0.5 mgの薄膜を形成した。脂質薄膜をリン酸緩衝食塩水(150 mM NaCl、10 mMリン酸pH 7.4)で再水和させ、液体窒素を用いて凍結させた後に65℃温水槽にて解凍することにより、5回の凍結-解凍サイクルに付した。その後、ミニ押出し機(アヴァンティ・ポーラー・リピッド社)を用いて、100 nmポリカーボネート膜を通して15回、ポルフィソームを押し出した。サイズ測定はナノサイザー(マルバーン社)にて実施した。蛍光自己消光はフルオロマックス蛍光光度計(ホリバジョバンイボン社)を使用して記録した。ポルフィソーム溶液をPBS中で2.5 ug/mLに希釈し、2 nmスリット幅を用いて420 nmにて励起した。発光は1 nmスリット幅を用いて600から800 nmまで測定し積分した。バックグラウンドの減算は、等濃度の100 nm卵ホスファチジルコリン:コレステロール(3:2モル比)リポソームを用いて行なった。透過型電子顕微鏡観察は、H-7000透過型電子顕微鏡(日立製作所)を使用して、1%酢酸ウランでネガティブ染色したポルフィソームを用いて実施した。インビボ光熱研究のためには、65モル%のポルフィリン-脂質を、クロロホルム中に溶解した30モル%コレステロールおよび5モル% PEG-2000-PEと組み合せることにより、5 mgの脂質薄膜を調製し、これを窒素ガスの気流下で穏やかに乾燥させ、真空下で1時間さらに乾燥させた。それからこの脂質薄膜を1 mLのPBS中で再水和させ、5回の凍結-解凍サイクルに付してポルフィソーム懸濁液を得た。この懸濁液を、10 mLのLIPEX(登録商標)サーモバレル押出し機(カタログ番号T.005、ノザンリピッズ社、カリフォルニア州)を使用して、700 psi(4826 kPa)の窒素ガス下で、孔径100 nmのポリカーボネート膜(アヴァンティ・ポーラー・リピッド社)を通して10回押し出した。温度は、循環温水槽を用いて70℃に正確に制御した。
【0062】
光熱治療
光熱治療のためには、2x10
6の細胞をマウスの右側腹部に注射することにより、KB腫瘍をメスのヌードマウス中で増殖させた。腫瘍の直径が4〜5mmに達したとき、30モル%コレステロールおよび5モル% PEG-2000 DSPEを含有する42 mg kg
-1のポルフィソームを尾静脈から注射した。注射24時間後に、2% (v/v)イソフルオレンを用いてマウスを麻酔し、671 nmにおける出力700 mW、直径8 mmのスポットサイズを有するレーザー(671 nm 2W DPSSレーザー、レーザーグロー・テクノロジーズ社)で腫瘍を照射し、赤外線カメラ(ミクロスペック社)を用いて腫瘍温度を記録した。腫瘍体積を1日毎に測定し、腫瘍の直径が10 mmに達したらマウスを安楽死させた。
【0063】
[結果と考察]
1:1:2:2のピロ:脂質:DMAP:EDCモル比を使用したアシル化反応において、ピロフェオホルビド-a(ピロ)をリゾリン脂質1-パルミトイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリンにコンジュゲート化した。この反応は一晩で完了状態まで進行したが、2つの位置異性体、すなわち1つはピロをsn-2位に有し、1つはピロをsn-1位に有し、それぞれsn-2ピロ-脂質およびsn-1ピロ-脂質と呼ばれるものを産生した(
図1A)。これら異性体の存在は、60℃におけるカラム加熱を用いたHPLC-MSを使用して、近接して一緒に溶出する2つのピークとして明らかにされた(
図1B)。これらのピークはどちらも、ピロ-コンジュゲート化脂質の同じ予測分子量吸収スペクトルを示した(
図7)。異性体のアイデンティティは、酵素切断されたコンジュゲートにおけるグリセロール骨格の中央炭素上の水素の1H化学シフトを調べることによって確認し、この水素はエステルまたは第一級アルコールのどちらかに連結していた(酵素切断は下記において説明し、切断産物および未消化位置異性体のNMRスペクトルは
図8に示している)。ピロ対リン脂質の出発比の調節は、得られる位置異性体産物の比の変化をもたらした。1:1の比を使用した場合には、産物の80%超がsn-2ピロ-脂質異性体(すなわち、sn-2ヒドロキシルにピロがコンジュゲート化したもの)であった。1:7に比を上昇させた場合には、sn-2ピロ異性体産物は35%に減少し、sn-1ピロ異性体は65%に増加した。この観察の1つの説明は、リゾリン脂質のわずかな一部が、ピロと反応する前にアシル基転位を受けたということである。アシル基転位リゾリン脂質はより反応性が高い第一級アルコールを含んでいたため、反応において迅速に消費され、従ってリゾリン脂質のより大きな出発比はより多くのsn-1ピロ-脂質の生成をもたらしたのである。従って、反応条件を変化させることによりある程度の位置異性体選択を達成することができたが、より改善された異性体純度を達成するためには他のアプローチが必要であった。
【0064】
リン脂質を調製し、またはリン脂質のアイデンティティを確認するために、酵素が使われてきた。例えばホスホリパーゼA2は、リゾリン脂質の調製または切断産物および側鎖特性の解析のためにsn-2位にてリン脂質の置換基を切断するために使用し得る。しかしながら、本発明者らの知る限り、望まない位置異性体を除去するために酵素を合成的に使用することはなされていない。本発明者らは、ピロの疎水性で平面的な性質が、リン脂質コンジュゲートの酵素認識を異性体特異的な様式で妨害するのではないかという仮説を立てた。この仮説を試験するために、15個の市販されているリパーゼおよびエステラーゼの群を用意して、ほぼ等モル濃度であるsn-1およびsn-2ピロ-脂質の溶液とともにインキュベートした。これら様々な酵素による異性体切断を
図2Aに示しており、ここで、sn-1ピロ-脂質の特異的増加は赤で示し、sn-2ピロ-脂質の特異的増加は青で示している。このアッセイ条件下では、ほとんどの酵素はピロ-脂質位置異性体を効率よく切断できなかった。ピロによって導入された嵩高い立体障害を考えればこれは驚くことではなかった。しかしながら、いくつかの酵素は、このスクリーニング条件においてもピロ-脂質に作用することが見出された。Bacillus stearothermophilus由来のエステラーゼは、両方のピロ-脂質位置異性体を、質量電荷比848の産物に効率よく切断し、この質量電荷比はホスホコリン頭部基が切断されたピロ-脂質に相当する。しかしながら、どちらかの位置異性体の優先的切断は検出されなかった。いくつかの酵素は、sn-1またはsn-2ピロ-脂質異性体を選択的に切断した。Rhizomucor mieheiおよびPseudomonas cepacia由来のリパーゼはsn-2ピロ-脂質異性体を優先的に切断したものの、これらの酵素は両方の異性体をかなりの量において切断した。Thermomyces lanuginosus由来リパーゼ(LTL)はsn-2ピロ-脂質位置異性体を選択的に切断し、sn-1異性体の改変は最小限であった。逆に、ミツバチ毒由来ホスホリパーゼA2(PLA2HBV)はsn-1位置異性体を選択的に切断した。これら2つの酵素の再試験により、それぞれ別々のピロ-脂質位置異性体を除去するこれらの特異性が確認された(
図2B)。すなわち、このスクリーニング手法により、各位置異性体を選択的に切断できる2つの酵素が同定された。
【0065】
その後、PLA2HBVおよびLTLを使用して、ポルフィソームへと会合させるための位置異性体的に純粋なポルフィリン-脂質を調製した。sn-1およびsn-2位置異性体はどちらもHPLCに基づいて97%を超える位置異性体純度を有していた。各々の純化ピロ-脂質位置異性体およびこれら2つの組合せを、5モルパーセントのPEG-2000-ホスファチジルエタノールアミンとともに薄膜に調製し、リン酸緩衝食塩水中で再水和させ、100 nmポリカーボネート膜を用いて押出しを行なってポルフィソームを形成した。動的光散乱法によりこの調製物のサイズは120 nm付近の単分散であることが示された(
図9)。透過型電子顕微鏡により、それぞれの位置異性体の会合について、水性の内部を被包する球状のポルフィリン二重層を含むナノベシクル構造が確認された(
図3、左列)。ポルフィソームのもう一つの特性は、ポルフィリン二重層内のピロ-脂質サブユニットの相互作用から生じ、これは構造により促進される自己消光を起こさせる。全てのポルフィソームは高度の消光を示し、完全なポルフィソームにおいて、ピロポルフィリンの通常の蛍光発光の99%超が消光されていた(
図3、右列)。これらの結果は、両方のピロ-脂質位置異性体およびそれら2つの組合せが、高度に消光したポルフィリン二重層のナノベシクルを形成することにおいて同様の挙動をすることを実証した。
【0066】
ピロ-脂質位置異性体は、互いに取り替えても生成されるポルフィソームの物理的性質への影響はごく小さいが、ほとんどの応用においては位置異性体として純粋な材料が大いに望まれる。複数の異性体の組合せでは、バッチごとに比が変動するとすれば再現性についての疑問が生じるし、異なる異性体がインビボの状況下で異なる代謝分解産物を示すことが予測される。sn-2ピロ-脂質合成経路はより効率的であったが、これは、その経路がアシル基転位を回避した(すなわち、コンジュゲーションが予測通りにリゾリン脂質のsn-2アルコールにおいて起こった)からだけでなく、その最適化反応が過剰のリゾリン脂質を必要としなかったからでもあり(これはsn-1ピロ-脂質とは異なる。
図1Cを参照のこと。)、このことにより下流におけるリゾリン脂質混入の危険性も最小限となった。sn-2ピロ-脂質の合成は容易に100 mg規模まで拡大することができ(
図4)、ピロを脂質にコンジュゲート化すること、酵素で消化すること、およびジオールシリカカラム上で精製することという、3つの工程からなるものであった。この単純なプロトコールは効率的であり、異性体として純粋なピロ-脂質を優れた純度にて生成した。それからsn-2ピロ-脂質をポルフィソームに形成し、腫瘍の光熱焼灼術のために使用した。これらは蛍光が消光されているため、吸収された光エネルギーが熱に変換され、ポルフィソームは光熱治療のための効果的な造影剤になることが示されている(非特許文献1)。KB腫瘍を有するヌードマウスにポルフィソームを静脈注射し、24時間後、671 nmレーザーで処置した。レーザー処置の間、腫瘍温度は急速に60℃に達したが、レーザー単独の群では40℃未満にとどまった(
図10)。ポルフィソームおよびレーザー処置を受けた腫瘍は表面焼痂を形成し、これは2週間後に消えた。
図5に示すように、レーザー処置のみまたはポルフィソーム処置のみを受けたマウスは、腫瘍が成長し続けたため犠牲にしなければならなかった。対照的に、ポルフィソームおよびレーザーの群では、全てのマウスが150日間より長く生存し、全ての腫瘍が恒久的に破壊された。
【0067】
結論として、異性体として純粋なsn-1およびsn-2ポルフィリン-脂質コンジュゲートを生成するために使用される酵素がスクリーニングにおいて同定された(PLA2HBVおよびLTL)。どちらの位置異性体もポルフィソームへと会合することができた。sn-2ピロ-脂質は効果的に合成され、ポルフィソーム光熱治療を用いて腫瘍を焼灼することに使用することができた。この酵素スクリーニングのアプローチ、そしておそらくは上記同定された2つの酵素は、異性体的に純粋な他の種類のリン脂質コンジュゲートを生成するためにも有用であり得る。
【0068】
本発明の好ましい実施態様を本明細書において説明してきたが、発明の趣旨または添付した特許請求の範囲から逸脱することなく実施態様に変形を施し得ることは、当業者によって理解されるであろう。上記一覧に記載したものを含め、本明細書において開示される全ての参考文献は参照により組み入れられる。